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特許7152421回折格子構造を有する人工水晶体及び人工水晶体を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】回折格子構造を有する人工水晶体及び人工水晶体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019563095
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018062920
(87)【国際公開番号】W WO2018219669
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】102017112086.6
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506085066
【氏名又は名称】カール・ツアイス・メディテック・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】カシュケ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ディック,マンフレート
(72)【発明者】
【氏名】ゲルラッハ,マリオ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0007456(US,A1)
【文献】国際公開第2012/114714(WO,A1)
【文献】特表2007-507758(JP,A)
【文献】特表2008-517731(JP,A)
【文献】特表2012-529671(JP,A)
【文献】特開2003-084243(JP,A)
【文献】特表2016-518927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工水晶体(1)であって、前記人工水晶体(1)の主光軸(A)の方向に見て第1の光学面(4)及び反対側の第2の光学面(5)を有する光学部(2)を有し、前記光学部(2)は、前記光学部(2)の光学結像特性に寄与する回折格子構造を有する、人工水晶体(1)において、
前記回折格子構造は、前記光学部(2)にレーザ構造として形成され、前記第1の光学面(4)および前記第2の光学面(5)に露出しないように前記光学部(2)に少なくとも部分的に気泡として形成され領域を有する振幅格子(6)であることを特徴とする人工水晶体(1)。
【請求項2】
前記振幅格子(6)は、前記光学部(2)に少なくとも部分的に微穿孔(7)として形成された領域をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の人工水晶体(1)。
【請求項3】
前記振幅格子(6)は、前記微穿孔(7)の穿孔ゾーンの第1の穿孔密度及び/又は前記微穿孔(7)の穿孔ゾーンの第1の寸法で構成された第1の格子領域(8、9、10)と、前記穿孔ゾーンの第1の穿孔密度と異なる前記微穿孔(7)の穿孔ゾーンの第2の穿孔密度及び/又は前記微穿孔(7)の前記穿孔ゾーンの第1の寸法と異なる前記微穿孔(7)の穿孔ゾーンの第2の寸法で構成される第2の格子領域(8、9、10)とを有することを特徴とする、請求項2に記載の人工水晶体(1)。
【請求項4】
前記微穿孔(7)の少なくとも1つの穿孔ゾーンは、少なくとも部分的に染料を充填されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の人工水晶体(1)。
【請求項5】
前記染料は、重合されることを特徴とする、請求項4に記載の人工水晶体(1)。
【請求項6】
前記振幅格子(6)の不透明な格子領域(8、9、10)の位置及び/又は数は、前記染料の種類及び/若しくは前記染料の量並びに/又は少なくとも部分的に染料が充填される前記穿孔ゾーンの数に応じて、且つ/又は少なくとも部分的に染料が充填される前記穿孔ゾーンの位置に応じて決定されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の人工水晶体(1)。
【請求項7】
前記振幅格子(6)は、格子領域(8、9、10)として、前記光学部(2)の主光軸(A)の周囲に少なくとも部分的に延びる格子リングを有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の人工水晶体(1)。
【請求項8】
前記振幅格子(6)は、前記光学部(2)の内側に位置するように構成されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の人工水晶体(1)。
【請求項9】
前記振幅格子(6)とは別個の少なくとも1つの光学格子構造(11、16)は、少なくとも1つの光学面(4、5)上に形成されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の人工水晶体(1)。
【請求項10】
前記別個の光学格子構造(11、16)は、位相格子(11)であることを特徴とする、請求項9に記載の人工水晶体(1)。
【請求項11】
前記位相格子(11)は、少なくとも2つの波長について色消しされることを特徴とする、請求項10に記載の人工水晶体(1)。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の人工水晶体(1)を製造する方法であって、前記振幅格子(6)は、レーザ装置(17)で製造され、及び100fs~20psのパルス長、320nm~1100nmの波長、1kHz~10MHzのパルス繰り返し率、5μm未満の焦点直径及び106W/cm2より大きいパワー密度を有するパルスレーザビーム(22)は、生成され、且つ前記光学部(2)に作用する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工水晶体であって、人工水晶体の主光軸の方向に見て第1の光学面及び反対側の第2の光学面を有する光学部を有し、光学部は、光学部の光学結像特性に寄与する回折格子構造を有する、人工水晶体に関する。本発明は、レーザを使用してこの種の人工水晶体を製造する方法にもさらに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から様々な多焦点人工水晶体が知られている。特に、この点において、眼内の天然の水晶体と置換され、それに関して移植される眼内レンズが知られている。
【0003】
米国特許出願公開第2010/0082017 A1号明細書は、支持部及びまた光学部にスリットを作ることにより、機械的特性と、またレンズの構造的特徴とを変化させる眼内レンズを開示している。前記長いスリットは、特にレーザを使用して眼内レンズの内側に形成される。
【0004】
さらに、米国特許出願公開第2004/0032566 A1号明細書は、レーザを使用して眼内レンズにマーキングする方法を開示している。レーザは、レンズの光学部の微穿孔を行うために使用される。
【0005】
さらに、米国特許出願公開第2014/0135920 A1号明細書は、超短パルスレーザのレーザビームを使用して、人工水晶体がそれから製造されたポリマー材料の親水性挙動を変化させる、眼内レンズの製造方法を開示している。このようなポリマー材料の親水性挙動の変化により、このポリマー材料の光学屈折率の低下が生じる。
【0006】
ここで述べられる他の既知の製造方法は、例えば、超精密機械加工である。この場合、微結晶ダイヤモンドツールが使用され、なぜなら、このツールは、水晶体がそれから製造されるプラスチック材料に機械的にも直接作用するからである。この技術は、旋盤又はフライス加工等の従来の切削方法に対応する、幾何学的に画定された単結晶ダイヤモンドツールで行われる。しかしながら、これらの製造方法には、きわめて安定な機械及び一貫した環境条件が必要である。典型的に、ここで、製造環境は、空気調整及び防振がなされたものである。したがって、製造は、非常に複雑である。
【0007】
超精密機械加工を使用すると、上述のようなプラスチック光学ユニットの直接的な機械加工の他に、射出成型工程においてそれを用いて水晶体を成形できる成形型を提供することが可能となり、これは、より安価でもある。
【0008】
しかしながら、ここで、光学部の表面上に非常に複雑なプロファイルを製造することは、非常に限定され、光学部の内部への光学的に有効な構造の製造は不可能である。レーザを用いて製造される構造は、これまでのものより有利である。
【0009】
既知の人工水晶体、特に眼内レンズにおいて、その光学的機能を限定する望ましくない程度の回折が生じる。これらの好ましくない程度の回折はまた、既知の製造方法に関係なく、多かれ少なかれ生じる。特に、ここで、邪魔になる欠陥として特にハロ及びグレアを挙げることができる。ハロという用語は、光の回折及び反射の結果として、例えばランプ、ヘッドライト及び他の光源の周囲のハレーションを生成する光の効果を意味する。これらは、光の環の形態でも生じる。これらは、とりわけ、薄暮時又は夜間において特に望ましくない効果であり、誤認識につながり得る。ハロは、とりわけ、薄暮時及び夜間における比較的急激な明所から暗所への移行において生じ、その結果、眼にとって眩しいだけでなく、一般的に水晶体の使用者にとって比較的煩わしい。眩目効果は、グレアと呼ばれる。これらは、特に、例えば薄暮時又は暗いとき、明るい光源が光を観察者の方向に放射した場合に明るい光が直接入射するときに発生する。直接入射したか又は反射した太陽の光もこのような眩目効果を生じさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、その中で又はそれを用いて、ハロ及びグレア等の邪魔になる光の効果の発生が少なくとも低減される、人工水晶体及び人工水晶体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、人工水晶体であって、水晶体の光学結像特性が特徴付けられる光学部を有する人工水晶体に関する。前記光学部は、前記水晶体の主光軸の方向に見て第1の光学面及び反対側の第2の面を有する。人工水晶体は、ハプティック手段をさらに有する。ハプティック手段は、人工水晶体を眼内の所定の位置に保持するために使用される。人工水晶体は、ハプティック手段に加えて又はその代替として周囲部を有し、これは、光学部を少なくとも部分的に取り囲み、ハプティック手段と異なる。したがって、この周囲部は、光学部の構成部分でも、ハプティック手段が存在する場合にはハプティック手段のアームの構成部分でもない。
【0012】
人工水晶体は、光学部の光学結像特性に寄与する回折格子構造を有する。回折格子構造は、人工水晶体の光学部に形成される。前記回折格子構造は、振幅格子であり、これは、人工水晶体の光学部にレーザ構造としてさらに形成され、これは、特に1つの部品として形成される。振幅格子は、吸収型格子である。振幅格子は、それが入射光波の振幅を変調するように構成される。振幅格子は、入射光を部分的に吸収する光学光子である。
【0013】
振幅格子は、透過型格子又は反射型格子の形態で実施することもできる。このような特定の光学光子をレーザ構造として構成することにより、第1に、それを高い精度で製造でき、第2に、光学部の異なる位置においてそれを高い分解能で局所的に作ることができる。このような振幅格子の特定の構成により、人工水晶体の望ましくない次数の回折を抑制できる。特に、光学系のコントラスト強調もそれによって可能となる。特に、レーザ構造として形成される振幅格子の形態の回折格子構造のこのような実施形態により、特に有利な方法でハロ及びグレアを少なくとも認識可能に低減させることも可能となる。特定の光学的に邪魔になる効果の結果として生じる望ましくない眩目及び反射効果は、それによって大きく低減され得る。
【0014】
1つの有利な実施形態において、振幅格子は、光学部に微穿孔として構成される。これは、そのような特定の光学光子がレーザ構造として製造される場合に特に有利な実施形態である。振幅格子が微穿孔として製造されると、これにより、この振幅格子の個別の構造領域の高精密な構成が可能となる。それにより、振幅格子の光学的効果が特に有利な方法で実現される。他方では、このような構成は、振幅格子の輪郭領域の非常に高い精細度を実現し、その結果、特に振幅格子の周辺領域において、光学部のうち、振幅格子に属さなくなった領域が不利に影響を受けず、その光学結像特性が不利に損なわれない。また、特に微穿孔としての構成により、振幅格子の構造領域内で非常に細かく計測される差を生じさせることも可能であり、その結果、ここで、振幅格子のそれらの領域内で個別性の高い光学結像特性を生じさせることもできる。
【0015】
微穿孔としての振幅格子の構成により、特に有利な方法において、光学部の内部にある振幅格子の構成を作ることも可能である。この点で有利な実施形態において、振幅格子は、したがって、すべて光学部の内部にあり、したがって表面構造として生じ得ない。この構成により、振幅格子自体も光学部の材料によって完全に取り囲まれ、光学部の材料の穿孔及びレーザ放射の作用によってのみ形成される。内部にあり、したがって埋め込まれている振幅格子のこの構成により、上述の利点が特定の程度まで可能となり、さらに、振幅格子が不利な機械的影響に対して保護される状況がもたらされる。したがって、特に人工水晶体の製造時及びその後、さらに人工水晶体を移植するまで保管されている間、この振幅格子への直接的な機械的影響が生じ得ず、したがってこの振幅格子に対する損傷も起こり得ない。
【0016】
さらに有利な実施形態において、振幅格子は、微穿孔の穿孔ゾーンの第1の穿孔密度及び/又は微穿孔の穿孔ゾーンの第1の寸法で構成された第1の格子領域を有する。振幅格子は、特に、第1の穿孔ゾーンの穿孔密度と異なる微穿孔の穿孔ゾーンの第2の穿孔密度及び/又は微穿孔の穿孔ゾーンの第1の寸法と異なる微穿孔の穿孔ゾーンの第2の寸法で構成された第2の格子領域を有する。このようにして、高精密であり、したがって光学的に高機能の振幅格子が作られ、これは、比較的小型及び/又は特に個別化された形態で構成することもできる。このようにして、振幅格子は、異なる減衰程度又はグレイレベル及びその結果、入射光に対して完全に個別化された吸収値で構成することもできる。それにより、前述の望ましくない光学回折及び反射効果をさらに低減することができる。
【0017】
特に、振幅格子の不透明な格子領域の位置及び/又は数を前記パラメータ、特に微穿孔の穿孔ゾーンの穿孔密度及び/又は微穿孔の穿孔ゾーンの寸法に応じて構成することが可能である。穿孔ゾーンの寸法は、内側寸法又は深さであり得る。したがって、このような穿孔ゾーンの形状により、振幅格子の個別の構成を実現することが可能である。
【0018】
1つの有利な実施形態において、微穿孔の少なくとも1つの穿孔ゾーンに少なくとも部分的に染料が充填されるようになされ得る。このような追加の材料により、振幅格子は、さらに改良され得、且つ異なるより細かく等級付けされた減衰度又はグレイレベルで実現され得る。さらに、格子構造の多様性及び柔軟性が増す。特に、マイクロメートル範囲の格子構造の特に高い精度で書き込むことが可能である。振幅格子の光学機能は、ここで、特定の吸収性染料により完全に個別に影響を受け得る。振幅個別の穿孔ゾーンは、したがって、少なくとも部分的にこの染料及び/又は異なる染料を少なくとも部分的に充填することができ、これは、異なる吸収を示す。振幅格子の主な機能、特に異なる領域での個別の吸収挙動は、ここで、可変性が高く、極めて柔軟な方法で個別に設計できる。これは、特にまたレーザ構造としての振幅格子の実施形態により可能となり、なぜなら、異なる穿孔ゾーン密度及び穿孔ゾーンの異なる大きさも、ここで、高い正確さで、したがって位置及び形態の点で精密に構成できるからである。その後、個別化され得る、それぞれの吸収挙動を有する1つ又は複数の染料の充填により、特に振幅格子の異なる細かく計測される吸収挙動を得ることができる。
【0019】
1つの有利な実施形態において、染料は、少なくとも1つの穿孔ゾーン内で重合される。したがって、染料の長期的な安定性が改善される。重合は、例えば、UV(紫外)光又はレーザ光との多光子重合により行うことができる。
【0020】
特に、振幅格子の不透明な格子領域の位置及び/又は数は、染料の種類に応じて、且つ/又は染料の量に応じて、且つ/又は少なくとも部分的に染料が充填される穿孔ゾーンの数に応じて、且つ/又は少なくとも部分的に染料が充填される穿孔ゾーンの位置に応じて決定される。したがって、上述の高い可変性と、製造可能な振幅格子の個別化の程度とが大幅に増大される。これは、特にレーザ構造としての振幅格子の実施形態により可能となり、なぜなら、すでに上で広く説明したこのような振幅格子の製造原理及び位置の正確さと高い光学特性に関する利点とがレーザのみで可能になるからである。
【0021】
1つの有利な実施形態において、振幅格子は、格子領域として、光学部の主光軸の周囲に少なくとも部分的に延びる格子リングを有する。振幅格子のこのような構造により、吸収効果を有するリングゾーンを作ることが特に可能となり、これは、したがって、好ましくは幾何学的に見て主光軸の周囲で対称の構成も有し、この方位方向における光学特性に関して均一な効果を有する。
【0022】
特に、振幅格子は、全体が光学部の内部にあるように構成される。これは、それが光学部の材料によって完全に取り囲まれ、したがって外側になく、したがって光学部の光学面上に露出しないように構成されることを意味する。それによって実現される利点は、すでに上述した。
【0023】
上述の実施形態では、それによって眼の被写界深度が増大される個別の開口絞りを形成できる。
【0024】
1つの有利な実施形態において、振幅格子とは別個の光学格子構造が光学部の少なくとも一方の面に形成される。光学結像特性は、2つの別個の光学格子構造により改善でき、特に邪魔になる光学的効果をはるかにより有効に抑制できる。特に、したがって、邪魔になる別の光学的効果もよりよく抑制することが可能となる。
【0025】
特に、別個の他の光学格子構造は、位相格子である。位相格子は、入射する光波の位相に影響を与える光学回折格子である。吸収型光学格子である振幅格子と異なり、位相格子は、波形調整格子であり、これは、入射光源の波面の形状を調整する。位相格子は、透過型格子又は反射型格子の形態でも実施できる。特に振幅格子との組み合わせにより、光学結像特性を改善し、特に振幅格子により少なくとも認識可能に実質的に低減できる前述のハロ及びグレアにも関する、上述の邪魔になる回折又は反射効果、邪魔になる別の回折効果及び反射効果をより有効に低減できる。
【0026】
さらなる非常に有利な実施形態において、この位相格子は、少なくとも2つの波長について色消しされるようになされる。このようにして、特定の回折次数に関する回折効率が最大化される。そのために、強度は、できるだけ多く特定の望ましい回折次数に集中され、逆に例えばゼロ次回折を含む残りの回折次数において最小化される。有利な実施形態により、この位相格子の特定の格子領域で特定の屈折率変調が行われて、前記少なくとも2つの波長についての色消しが構成されることが確実とされる。この屈折率変調は、レーザ、特に超短パルスレーザを使用して行われる。色消しにより、波長に応じて干渉する光波の位相差が生じる。これは、少なくとも2つの異なる波長に関する上述の有利な実施形態において行われる。
【0027】
上述の位相格子は、例えば、ブレーズド格子であり得る。
【0028】
すでに述べたような光学部の少なくとも1つの光学面は、球面又は非球面に構成されるようになされ得る。したがって、前記光学面の少なくとも一方において、トーリック構成、したがってトーリック表面プロファイルを構成することが可能となる。光学部のそのような光学面に他の光学表面プロファイルを構成することもできる。例えば、リング状のゾーンを形成でき、これは、さらなる回折要素の構成部分でもあり得る。しかしながら、これらのリング状のゾーンは、したがって、前記光学面上に形成され、その結果、外部に配置され、したがって露出する光学構造要素となる。
【0029】
人工水晶体の光学部は、その後、特にレーザ装置の超短パルスレーザを使用して、振幅格子及び場合により少なくとも1つのさらなる光学格子が作られるように加工される。特に、レーザ装置のパラメータは、人工水晶体の光学部の透明なプラスチックにおけるレーサ破壊が閾値の直上のレーザビームの焦点において発生するように設定される。レーザビーム強度の増加を設定すると、このプラスチックにより大きいダメージ部分が生成される。典型的には、プラスチック内の気泡形成の形態で起こるレーザ破壊は、例えば、マイクロジュールの範囲の十分なエネルギーでの単一のショットにおいて、又はナノジュール範囲の低エネルギー密度でのキロヘルツ~メガヘルツ範囲の高い繰り返し率により生成できる。
【0030】
1つの有利な実施形態において、人工水晶体は、ホログラフィック格子として構成されるさらなる光学格子構造を有するようになされ得る。1つの有利な実施形態では、この格子構造は、第1のホログラフィック格子と第2のホログラフィック格子とを有するようになされ得る。特に、これらの2つのホログラフィック格子により、モアレ構造を作ることができる。好ましくは、主光軸の方向に測定した2つのホログラフィック格子間の距離は、主光軸の方向に測定した第1の光学面と第2の光学面との間の距離より小さくなるように構成される。特に、人工水晶体の光学部における少なくとも1つのホログラフィック格子は、全体が光学部の光学面間の内側にあるように構成される。
【0031】
光学部の第1の光学面又は第2の光学面に少なくとも1つのコーティングが施されるように、また少なくとも1つのホログラフィック格子が前記コーティング内に形成されるようになされ得る。光学部は、少なくとも1つの積層領域を有することができ、少なくとも1つホログラフィック格子が前記積層領域内に形成される。
【0032】
特に、前記ホログラフィック格子は、光学部にレーザ構造として形成される。
【0033】
格子構造のこのような特定の構成により、特に特殊な方法で重ねられた少なくとも2つの異なる別個のホログラフィック格子により、水晶体に個別の屈折力を生じさせることが可能となる。光のコヒーレンス長さ内で前記光学活性な格子構造、特にモアレ構造を作ることができるようにするために、ホログラフィック格子の形態の少なくとも2つのこのような回折構造は、特に水晶体の光学部の対応する隣接層内にレーザを使用してレーザ構造として作られる。ここで、プラスチック内に屈折率のプラス及びマイナスの変化を生じさせることが可能である。
【0034】
人工水晶体は、特に多焦点、特に少なくとも3焦点人工水晶体である。人工水晶体は、特に眼内レンズである。特に、人工水晶体の光学部は、1つの部品として形成される。光学部の直径は、好ましくは、2mmより大きく、特に3mm以上である。光学部の振幅格子は、主光軸から1mm以上の半径方向距離に形成される。
【0035】
本発明は、上述の態様による多焦点人工水晶体を製造する方法であって、光学的に有効な構造は、レーザ装置で製造され、及び100fs~20psのパルス長、320nm~1100nmの波長、1kHz~10MHzのパルス繰り返し率、5μm未満、特に2μm未満の焦点直径及び106W/cm2のパワー密度を有するパルスレーザビームは、生成され、且つ人工水晶体の材料に作用する、方法にもさらに関する。パルス長は、好ましくは、300fsであり、波長は、好ましくは、1060nm、又は532nm、又は355nmである。破壊的機械工により、好ましくは256nm、好ましくは213nmの波長を特にアブレーション機械加工のために提供することが可能である。
【0036】
本発明の他の特徴は、特許請求の範囲、図面及び図面の説明から明らかである。上記の説明で述べられた特徴及び特徴の組み合わせ並びに以下の図面の説明で述べられ、且つ/又は図面のみに示されている特徴及び特徴の組み合わせは、それぞれ明示された組み合わせにおいてだけでなく、他の組み合わせにおいても、本発明の範囲から逸脱せずに使用され得る。したがって、図中に明確に示され且つ説明されていないが、説明された実施形態から、別個の特徴の組み合わせによって生じる生成可能な本発明の実施形態も含まれ、開示されると考えるべきである。したがって、もともとの文言の特許請求の範囲の独立項のすべての特徴を有すると限らない実施形態及び特徴の組み合わせも開示されると考えるべきである。さらに、特に上で説明した実施形態による、特許請求の範囲の従属請求項に記載されている特徴の組み合わせを超えるか又はそれから逸脱する実施形態と特徴との組み合わせも開示されると考えるべきである。
【0037】
本明細書に示されているパラメータの具体的な値及び水晶体の例示的な実施形態を定義するためのパラメータの比又はパラメータの値に関する表示は、例えば、測定誤差、システム故障、DIN公差等を考慮した偏差に関しても、本発明の範囲により付随的に包含されると考えるべきであり、これは、実質的に対応する値及び表示に関する説明もそれによって理解されるべきであることを意味する。
【0038】
本発明の例示的な実施形態を、概略的図面を参照しながら以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1a】本発明による人工水晶体の第1の例示的実施形態の概略的な簡略斜視図を示す。
図1b】本発明による人工水晶体のさらなる例示的実施形態の概略的な簡略斜視図を示す。
図2】特定の第1の振幅格子を有する人工水晶体の光学部の例示的実施形態の平面図を示す。
図3】特定の第2の振幅格子を有する人工水晶体の光学部の例示的実施形態の平面図を示す。
図4】光学部内に位相格子を有する人工水晶体の例示的実施形態の概略断面図を示す。
図5】人工水晶体を製造するためのレーザ装置の簡略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図中では、同じ又は機能的に均等な要素に同じ参照符号が付与されている。
【0041】
図1aは、この場合には眼内レンズである人工水晶体1の第1の例示的実施形態の斜視図を示す。以下で水晶体1と呼ぶ人工水晶体1は、光学部2と、それに隣接するハプティック手段3とを含む。水晶体1は、多焦点、特に3焦点である。水晶体1は、折り畳むことができ、小さい切開創から眼内に導入され得る。光学部は、水晶体1の光学結像特性にとって重要であり、主光軸Aを含む。さらに、前記主光軸Aの方向に見て、光学部2は、前面であり得る第1の光学表面又は光学面4と、後面であり得る反対側の第2の光学表面又は光学面5を有する。水晶体1の眼内に移植された状態で、前面は、角膜と対向するのに対し、後面は、この角膜の反対側に面する。
【0042】
図1bは、眼内レンズとして形成される人工水晶体1のさらなる例示的実施形態の斜視図を示す。前記レンズは、異なるハプティック手段3において図1aの実施形態から異なる。水晶体1は、ハプティック手段3により眼内に保持される。
【0043】
この実施形態において、光学面4及び5は、非平坦、特に凸状に湾曲する。少なくとも一方の光学面4、5において、回折プロファイルがこの凸状の基本形状に形成される。
【0044】
原理上、異なる形状及び構成のハプティック手段3が提供されるようにすることも可能である。
【0045】
図2は、光学面4の視点での光学部2の簡略図を示す。水晶体1は、追加的又は代替的に、光学面5の視点により構成することもできる。例示的実施形態において、振幅格子6である回折格子又は回折格子構造は、好ましくは、光学部2の内部に形成され、好ましくはディスク形状を有する。振幅格子6は、レーザ構造として形成される。振幅格子6は、特に完全に光学部2に配置され、レーザで生成される。したがって、振幅格子6は、光学部2の残りの材料により完全に取り囲まれ、したがって前記材料により完全に包囲される。
【0046】
光学部2は、1つの部品として形成され、したがって単一の部分を形成する。
【0047】
特に、振幅格子6は、光学部2内の微穿孔7としても構成できる。
【0048】
振幅格子6は、微穿孔7の穿孔ゾーンの第1の穿孔密度及び/又は前記微穿孔7の穿孔ゾーンの第1の寸法で構成される第1の格子領域8を有する。振幅格子6は、好ましくは、それから分離され、微穿孔7の穿孔ゾーンの第1の穿孔密度と異なる微穿孔7の穿孔ゾーンの第2の穿孔密度及び/又は微穿孔7の穿孔ゾーンの第1の寸法と異なる微穿孔7の穿孔ゾーンの第2の寸法で構成される第2の格子領域9を有する。特に、振幅格子6は、微穿孔7の穿孔ゾーンの第1及び第2の穿孔密度と異なる穿孔ゾーンの第3の穿孔密度、並びに/又は微穿孔7の穿孔ゾーンの第1及び第2の寸法と異なる微穿孔7の穿孔ゾーンの第3の穿孔密度及び/又は穿孔ゾーンの寸法で構成された少なくとも第3の格子領域10も有するようになされる。
【0049】
少なくとも1つの格子領域8、9、10は、図の平面に垂直な主光軸Aに関して半径方向に繰り返されるようになされ得る。少なくとも2つの格子領域8、9、10の主光軸Aに関するこの半径方向の代替的な配置も提供できる。
【0050】
図2により示される実施形態において、微穿孔7の個別の穿孔ゾーンは、リングゾーンとして形成され、これは、特に完全に主光軸Aの周囲に延びるように構成される。また、少なくとも1つの格子領域8、9、10が主光軸Aの周囲に部分的にのみ延びるように構成される構成が提供されることも可能である。
【0051】
図からわかるように、格子領域8、9、10の半径方向の厚さも、それが異なるように構成される。
【0052】
特に、少なくとも1つの染料は、少なくとも1つの格子領域8、9、10の少なくとも1つの穿孔ゾーン、好ましくは複数の穿孔ゾーン内に含められるようになされる。このようにして、振幅格子6の吸収挙動を異なるように設定できる。
【0053】
少なくとも1つの穿孔ゾーン内の少なくとも1つの吸収染料は、重合されるようになされ得る。
【0054】
1つの有利な実施形態において、さらなる光学格子構造は、光学面4上及び/又は光学面5上で振幅格子6から分離され、したがって外側に位置付けられるように形成されるようになされ得る。前記さらなる格子構造は、別個の光学格子として構成され、特に位相格子11として構成される。明瞭にするために、この位相格子11は、図2では明確に構造的に示されておらず、単に参照符号のみで示されている。
【0055】
位相格子11の考えられる実施形態について、図4のごく簡略化された概略図を参照する。ここで、光学部2の詳細が示され、光学部2のごく簡略化された断面図が示されており、主光軸Aは、前記断面内にある。
【0056】
位相格子11は、ここで、例としてブレーズド格子として示されている。特に、光学面4と光学面5とは、それぞれ非平坦に構成され、特に湾曲して構成されており、ここで、球面又は非球面が形成され得る。図4の大きく拡大された断面図において、光学面4は、湾曲しておらず、平坦な状態で簡略化して示されている。
【0057】
図4は、位相格子11が光学面4上に形成されている例を示す。この位相格子11はまた、レーザ構造として形成され、後述のレーザ装置で製造される。位相格子11は、複数の格子領域12、13、14及び15を有する。格子領域12~15は、単なる例であり、概略的であり、数及びまたそれらの個別の形態の点で排他的でないと理解すべきである。格子領域12~15は、相互に関して漸進的なゾーンとして形成されている。好ましくは、位相格子11は、少なくとも2つの波長について色消しされるようになされる。
【0058】
特に、格子領域12は、第1の部分的領域12aと第2の部分的領域12bとを有するようになされる。2つの部分的領域12a及び12bは、異なる屈折率を有する。これは、光学部2の材料へのレーザビームの作用により実現される。原理上、位相格子11は、有利には、光学部2と同じ材料から形成される。レーザビームの作用を受けて、特により外側にある部分的領域12bは、屈折率が変化する方法で影響を受け、材料構成の変化は、ここで、前記レーザビームにより生成され、その結果、屈折率が変化する。それに対し、部分的領域12aは、特に光学部2の材料に従って変化しない屈折率を有する。同様に非限定的と理解される図4の実施形態において明らかであるように、レーザビームの作用により、その屈折率の点で変化している外側の部分的領域12bは、この断面図では三角形の形状に形成されている。ゾーンの先端12cから見ると、それは、隣接する第2の格子領域13の方向に広くなり、その後、特に隣接する格子領域13における好ましく形成された接合位置においてその最大の広がりを有する。
【0059】
特に、対応する構成は、図4に同様に示されているように、少なくとも1つのさらなる格子領域13~15でも形成される。
【0060】
図3は、人工水晶体1のさらなる例示的実施形態の光学部2の同様に簡略化された図を示す。図2による図と異なり、ここで、複屈折構造2aに追加される振幅格子6の構成は、格子領域8、9、10として包囲リングで構成されるのではなく、離間され、好ましくは主光軸Aの周囲の円周方向に相互に関して等距離にあるように構成された複数の個別の局所的領域により作られるようになされる。個別の局所的領域は、ここで、それぞれ特に1つ又は複数の染料で少なくとも部分的に同様に充填可能な複数の穿孔ゾーンにより形成される。ここで、わかるように、格子領域8は、例えば、より内側にある格子領域10の局所的領域と異なる個別の構成で形成される複数の局所的領域を有する。特に、格子領域、この場合には格子領域9は、図2の構成に従って実現されるようになされ得る。さらなる代替形態も、同様に、例えば格子領域8が図2に従って構成され、格子領域10のみが図3の図に従って構成されるように構成できる。同様に、格子領域10が図2の構成に従って実現され、格子領域8のみが図3の構成に従って実現されるようになされ得る。同様に、格子領域9は、格子領域8及び10に関して図3の実施形態で提供されるように、個別の局所的領域を中断するように構成されるようになされ得る。
【0061】
振幅格子6に加えて且つ場合によりこの位相格子11に加えて又はその代わりに、さらなる光学的に有効な格子構造16(図2及び図3)を光学部2上又はその中に形成することもできる。このさらなる別個の光学格子構造16は、少なくとも1つのホログラフィック格子を有する。このさらなる光学格子構造16は、好ましくは、レーザ構造として形成され、特に図5に関して下で説明するようにレーザ装置を使用して生成される。
【0062】
この光学構造16は、好ましくは、2つの別個のホログラフィック格子、すなわち第1のホログラフィック格子と第2のホログラフィック格子とを有する。好ましくは、主光軸Aの方向に測定された2つのホログラフィック格子間の距離は、主光軸Aの方向に測定された第1の光学面4と第2の光学面5との間の距離より小さくなるように構成される。1つの有利な実施形態において、少なくとも2つのホログラフィック格子は、重ねられ、特にモアレ構造が形成されるように構成される。特に、この光学構造16は、光学部2の主光軸Aの周囲の中央円形ゾーンとして構成される。
【0063】
図5は、多焦点人工水晶体1を製造するために構成されたレーザ装置17の概略図を示す。特に、このレーザ装置17は、振幅格子6、及び/又は位相格子11、及び/又は少なくとも1つのさらなる光学格子構造16を作るために使用できる。レーザ装置17は、少なくとも1つのレーザ18を有し、これは、超短パルスレーザである。前記レーザ装置17は、特に3次元で設定可能なスキャナ19を有し、それを用いてレーザ18のパルスレーザビームを設定することができる。レーザ装置17は、ビーム経路内でスキャナ19の下流に配置された集光光学ユニット20をさらに有する。レーザ装置17は、受容部21をさらに有し、その上に人工水晶体1が載せられ、その後、集光光学ユニット20により集光されるレーザビーム22で所望の構造を形成できる。そのレーザパルスを有するパルスレーザビーム22は、特に100fs~20psのパルス長、特に200nm~1100nmの波長、特に1kHz~10MHzのパルス繰り返し率、特に5μm未満の焦点直径及び特に108W/cm2より大きいパワー密度で生成される。特に、ここで、多光子吸収が可能とされる。集光光学ユニット20の開口数は、0.1より大きく、好ましくは0.3より大きく、特に0.5より大きくすることができる。5μm未満、特に2μm未満の焦点直径を生成することもレーザ装置17で可能である。この場合、1010W/cm2より大きい集光レーザビームのパワー密度は、例えば、ポリマー材料の非線形吸収がこの効果を支援しない場合、人工水晶体のポリマー材料の光学的破壊(光破壊)を実現するのに適当である。人工水晶体1のポリマー材料中に非線形相互作用のみを実現するために、1010W/cm2未満のパワー密度も提供され、これは、光破壊を起こさないが、光学的及び/若しくは機械的又は関係する吸湿性材料の特性を変化させることができる。人工水晶体の高い機械加工効率を確保するために、1kHz~10MHzの範囲のレーザビーム22の超短レーザパルスの繰り返し率が有利である。サブμJのパルスエネルギーがここで使用される。特に、ここで、累積的な相互作用効果により、1MHzより大きい繰り返し率で1μ未満のパルスエネルギーも提供される。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5