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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ワークの加工方法及びワークの加工装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20221004BHJP
   B23C 3/00 20060101ALI20221004BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20221004BHJP
   B23Q 15/16 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G05B19/404 F
B23C3/00
B23C5/10 B
B23Q15/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020001237
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021111037
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】土屋 康二
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221005(WO,A1)
【文献】特開昭63-233403(JP,A)
【文献】米国特許第05255199(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102581705(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103218475(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/00- 5/10
B23Q 15/16-23/00
G05B 19/18-19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを所望の形状に加工する加工方法であって、
下端が半球形状をなし、回転軸を中心として回転して前記ワークを切削加工するエンドミルが、工具保持部に保持されているときの前記エンドミルの輪郭線である実輪郭線と、理想形状の前記エンドミルの輪郭線である理想輪郭線と、の位置ずれを検出する工程と、
前記半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、前記理想輪郭線と前記実輪郭線との位置ずれを補正する補正値を算出する工程と、
前記エンドミルによる加工点が、前記ワークの第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、前記第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、前記エンドミルと、前記第2の加工点との距離に応じて、前記第2の加工点を加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第1の距離効果係数を算出する工程と、
前記エンドミルによる前記一点加工時には、前記補正値に基づいて前記第1の加工点の位置ずれを補正し、前記一点加工から前記二点加工に移行するとき、前記エンドミルと前記第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1の加工点における前記補正値と、前記第1の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正する工程と、を備え
前記第1の距離効果係数は、前記エンドミルが前記第2の加工点に近づくほど、大きくなるように設定されていること
を特徴とするワークの加工方法。
【請求項2】
前記第1の距離効果係数は、前記所定の距離から前記第2の加工点に近づくにつれて、増加率が徐々に増加するように変化すること
を特徴とする請求項1に記載のワークの加工方法。
【請求項3】
前記第1の加工点の位置ずれを補正したときに、前記エンドミルが前記第2の加工面に接する場合に、前記第2の加工面に食い込む量を第1の回避量として演算し、
前記第2の加工点の位置ずれを補正したときに、前記エンドミルが前記第1の加工面に接する場合に、前記第1の加工面に食い込む量を第2の回避量として演算し、
前記エンドミルにより前記第1の加工面、第2の加工面を加工する際には、前記第1の回避量、及び第2の回避量に基づいて、前記第1の加工面を加工する際の前記エンドミルの位置ずれ、及び前記第2の加工面を加工する際の前記エンドミルの位置ずれを補正する工程
を更に備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のワークの加工方法。
【請求項4】
ワークを所望の形状に加工する加工方法であって、
下端が半球形状をなし、回転軸を中心として回転して前記ワークを切削加工するエンドミルが、工具保持部に保持されているときの前記エンドミルの輪郭線である実輪郭線と、理想形状の前記エンドミルの輪郭線である理想輪郭線と、の位置ずれを検出する工程と、
前記半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、前記理想輪郭線と前記実輪郭線との位置ずれを補正する補正値を算出する工程と、
前記エンドミルによる加工点が、前記ワークの第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、前記第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、前記エンドミルと、前記第2の加工点との距離に応じて、前記第2の加工点を加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第1の距離効果係数を算出する工程と、
前記エンドミルによる前記一点加工時には、前記補正値に基づいて前記第1の加工点の位置ずれを補正し、前記一点加工から前記二点加工に移行するとき、前記エンドミルと前記第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1の加工点における前記補正値と、前記第1の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正する工程と、を備え
前記エンドミルによる加工点が、前記第1の加工面における第1の加工点と、前記第2の加工面における第2の加工点との二点加工から、前記第1、第2の加工面とは異なる第3の加工面における第3の加工点を含む三点加工に移行する際には、
前記第1の加工点を補正する補正ベクトルと、第2の加工点を補正する補正ベクトルを含む平面である所定平面を定義し、前記所定平面に直交する方向に、前記第3の加工点にける補正値を算出し、この補正値に基づいて前記位置ずれを補正すること
を特徴とするワークの加工方法。
【請求項5】
ワークを所望の形状に加工する加工方法であって、
下端が半球形状をなし、回転軸を中心として回転して前記ワークを切削加工するエンドミルが、工具保持部に保持されているときの前記エンドミルの輪郭線である実輪郭線と、理想形状の前記エンドミルの輪郭線である理想輪郭線と、の位置ずれを検出する工程と、
前記半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、前記理想輪郭線と前記実輪郭線との位置ずれを補正する補正値を算出する工程と、
前記エンドミルによる加工点が、前記ワークの第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、前記第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、前記エンドミルと、前記第2の加工点との距離に応じて、前記第2の加工点を加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第1の距離効果係数を算出する工程と、
前記エンドミルによる前記一点加工時には、前記補正値に基づいて前記第1の加工点の位置ずれを補正し、前記一点加工から前記二点加工に移行するとき、前記エンドミルと前記第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1の加工点における前記補正値と、前記第1の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正する工程と、を備え
更に、
前記エンドミルによる加工点が、前記第1の加工面における第1の加工点と、前記第2の加工面における第2の加工点との二点加工から、前記第1、第2の加工面とは異なる第3の加工面における第3の加工点を含む三点加工に移行する際には、
前記エンドミルと、前記第3の加工点との距離に応じて、前記二点加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第2の距離効果係数を、距離効果係数算出部が算出する工程と、
前記二点加工から前記三点加工に移行するとき、位置ずれ補正部が、前記エンドミルと前記第3の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1、第2の加工点における前記補正値と、前記第3の加工点における前記補正値及び第2の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正する工程と、
を備えたことを特徴とするワークの加工方法。
【請求項6】
ワークを所望の形状に加工する加工装置であって、
下端が半球形状をなし、回転軸を中心として回転して前記ワークを切削加工するエンドミルと、
前記エンドミルを保持する工具保持部と、
前記エンドミルが前記工具保持部に保持されているときの、前記エンドミルの輪郭線である実輪郭線と、理想形状の前記エンドミルの輪郭線である理想輪郭線との位置ずれを検出する位置ずれ検出部と、
前記半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、前記理想輪郭線と前記実輪郭線との位置ずれを補正する補正値を算出し、更に、算出した補正値に基づいて、前記エンドミルの位置ずれを補正する位置ずれ補正部と、
前記エンドミルによる加工点が、前記ワークの第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、前記第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、前記エンドミルと、前記第2の加工点との距離に応じて、前記第2の加工点を加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第1の距離効果係数を算出する距離効果係数算出部と、
を有し、
前記第1の距離効果係数は、前記エンドミルが前記第2の加工点に近づくほど、大きくなるように設定されており、
前記位置ずれ補正部は、前記エンドミルによる前記一点加工時には、前記補正値に基づいて前記第1の加工点の位置ずれを補正し、前記一点加工から前記二点加工に移行するとき、前記エンドミルと前記第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1の加工点における前記補正値と、前記第1の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正すること
を特徴とするワークの加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工方法及びワークの加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、NCプログラムを用いて、ワーク(加工対象となる材料)に対してボールエンドミル(先端部が半球形状の工具;以下、単に「工具」という)を位置決めし、該工具を回転させてワークに切削加工を施すワークの加工装置が採用されている。
【0003】
このような加工装置においては、工具をスピンドルなどの工具保持部にチャッキングして固定し、ワークに対する位置決めを行い、その後切削加工を実施する。このため、チャッキングの不良などに起因して工具を工具保持部に固定する際に位置ずれが生じることがある。また、工具に初期的な形状誤差が生じていることがある。このような場合には、ワークに対して正確な切削位置に工具を移動させることができなくなり、高精度な切削加工ができなくなるという問題が発生する。
【0004】
また、例えば特許文献1には、工具を用いてワークを加工する際に、摩耗による工具の劣化を考慮してエンドミルの位置を補正することが開示されている。即ち、特許文献1には工具によるワークの加工が進むにつれて変化する工具形状をレーザでスキャンして形状誤差を算出する。算出した形状誤差に基づいて、工具位置の補正量を演算し、工具位置を補正することにより、切削面の誤差を防止することが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術は、工具の摩耗による劣化の補正であり、工具の形状誤差、或いは位置決め誤差を補正するものではない。また、特許文献1では、工具がワークの一点に接触して該ワークを加工する際の誤差を補正することについて言及されているものの、複数点(例えば、2点)に接触して加工する際の誤差を補正することについて言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-233403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来における加工装置では、エンドミルによるワークの加工点が複数点である場合には、エンドミルの誤差を高精度に補正することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ボールエンドミルによるワークの加工点が複数点である場合においても、ワークを高精度に加工することが可能なワークの加工方法、及びワークの加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願発明に係るワークの加工方法は、ワークを所望の形状に加工する加工方法であって、下端が半球形状をなし、回転軸を中心として回転して前記ワークを切削加工するエンドミルが、工具保持部に保持されているときの前記エンドミルの輪郭線である実輪郭線と、理想形状の前記エンドミルの輪郭線である理想輪郭線と、の位置ずれを検出する工程と、前記半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、前記理想輪郭線と前記実輪郭線との位置ずれを補正する補正値を算出する工程と、前記エンドミルによる加工点が、前記ワークの第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、前記第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、前記エンドミルと、前記第2の加工点との距離に応じて、前記第2の加工点を加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第1の距離効果係数を算出する工程と、前記エンドミルによる前記一点加工時には、前記補正値に基づいて前記第1の加工点の位置ずれを補正し、前記一点加工から前記二点加工に移行するとき、前記エンドミルと前記第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1の加工点における前記補正値と、前記第1の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正する工程と、を備え、前記第1の距離効果係数は、前記エンドミルが前記第2の加工点に近づくほど、大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るワークの加工装置は、ワークを所望の形状に加工する加工装置であって、下端が半球形状をなし、回転軸を中心として回転して前記ワークを切削加工するエンドミルと、前記エンドミルを保持する工具保持部と、前記エンドミルが前記工具保持部に保持されているときの、前記エンドミルの輪郭線である実輪郭線と、理想形状の前記エンドミルの輪郭線である理想輪郭線との位置ずれを検出する位置ずれ検出部と、前記半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、前記理想輪郭線と前記実輪郭線との位置ずれを補正する補正値を算出し、更に、算出した補正値に基づいて、前記エンドミルの位置ずれを補正する位置ずれ補正部と、前記エンドミルによる加工点が、前記ワークの第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、前記第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、前記エンドミルと、前記第2の加工点との距離に応じて、前記第2の加工点を加工する際の前記位置ずれの影響の大きさを示す第1の距離効果係数を算出する距離効果係数算出部と、を有し、前記第1の距離効果係数は、前記エンドミルが前記第2の加工点に近づくほど、大きくなるように設定されており、前記位置ずれ補正部は、前記エンドミルによる前記一点加工時には、前記補正値に基づいて前記第1の加工点の位置ずれを補正し、前記一点加工から前記二点加工に移行するとき、前記エンドミルと前記第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、前記第1の加工点における前記補正値と、前記第1の距離効果係数に基づいて前記位置ずれを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ボールエンドミルによるワークの加工点が複数点である場合においても、ワークを高精度に加工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態に係るワークの加工装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図2図2は、工具(ボールエンドミル)によりワークを加工する様子を示す説明図である。
図3図3は、工具の輪郭誤差を示す説明図であり、(a)は理想輪郭線に対する実際の輪郭線とのずれを示し、(b)は実際の工具を回転させたときの実輪郭線と理想輪郭線とのずれを示す。
図4図4は、工具に生じる各角度ごとの輪郭誤差を示す説明図である。
図5図5は、ワークの加工経路に沿って工具が移動する様子を示す説明図である。
図6図6は、工具による加工位置の座標の式を示す図であり、輪郭誤差による補正がされていない加工位置の座標を示す。
図7図7は、工具による加工位置の座標の式を示す図であり、輪郭誤差による補正後の加工位置の座標を示す。
図8図8は、一点加工から二点加工に移行するときの、工具によるワークの加工位置を示す説明図であり、(a)は工具が加工点Tt1に接近する様子を示し、(b)は工具が加工点Tt1に達したときに生じる食い込みの様子を示し、(c)は食い込みを回避するための補正の様子を示し、(d)は具体的な補正の様子を示す。
図9図9は、図8に示した補正を実施する際の、工具の位置座標を示す図である。
図10図10は、工具に輪郭誤差が生じているときの、ワークの加工点を示す説明図である。
図11図11は、工具の実輪郭線が理想輪郭線よりも突起しているときの、工具による加工位置を示す説明図である。
図12図12は、工具の実輪郭線と理想輪郭線が一致しているとき、実輪郭線が理想輪郭線よりも小さいとき、及び実輪郭線が理想輪郭線よりも大きいときの加工の様子を示す説明図である。
図13図13は、工具とワークとの距離の理想値と、実際の数値との関係を示すグラフであり、Saは実輪郭線と理想輪郭線が一致しているとき、Sbは実輪郭線が理想輪郭線よりも小さいとき、Scは実輪郭線が理想輪郭線よりも大きいときを示す。
図14図14は、距離効果係数を用いて、図13に示すSa、Sb、Scの各グラフを補正したグラフである。
図15図15は、加工点からの距離Daと距離効果係数Edとの関係を示すグラフである。
図16図16は、図14図15に示したグラフを対比して示すグラフである。
図17図17は、工具による加工点が第1の加工面M1から第2の加工面M2に移行するときの、工具とワークとの位置関係を示す説明図である。
図18図18は、工具の加工位置を距離効果係数を用いて補正した座標の式を示す図である。
図19図19は、図18に示した式に具体的な距離効果係数の数値を代入した式を示す図である。
図20図20は、本発明の第1実施形態に係るワークの加工装置の、NCプログラムを補正する処理手順を示すフローチャートである。
図21図21は、工具の輪郭誤差を1°よりも小さい単位で設定するときの様子を示す説明図である。
図22図22は、ワークに存在する3つの面の三点加工を実施する加工面を示す説明図である。
図23図23(a)は、図22に示した3つの面のうち、第1の加工面の法線と第2の法線を含む平面Sを示す説明図、(b)は工具を平面S上の移動ベクトルにより補正した様子を示す説明図である。
図24図24は、工具を移動ベクトルにより補正したときの、工具と第3の加工面の乖離を示す説明図である。
図25図25は、図24に示した乖離を補正するベクトルを示す説明図である。
図26図26は、工具の輪郭誤差により、工具が第3の加工面に食い込むときの補正ベクトルVcA3を示す説明図である。
図27図27は、平面Sに垂直な補正ベクトルの算出方法を示す説明図である。
図28図28は、工具が第3の加工面に食い込むときの補正を示す説明図である。
図29図29は、第1の加工面と第2の加工面の補正処理に起因して生じる第3の加工面への食い込みを解消するための補正ベクトルの式を示す図である。
図30図30は、第3の加工面の補正ベクトルの式を示す図である。
図31図31は、(12)式に示す一部の項を展開した式を示す図である。
図32図32は、(13)式に示す一部の項を展開した式を示す図である。
図33図33は、最終的な補正ベクトルのX、Y、Z座標を展開した式を示す図である。
図34図34は、最終的な補正ベクトルをまとめた式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るワークの加工方法、加工装置を図面を参照して説明する。
[第1実施形態の説明]
図1は、本実施形態に係る加工方法が採用されるワークの加工装置1(以下、単に「加工装置1」と略す)の構成を模式的に示す説明図である。図1に示すように、加工装置1は、基台となるベッド19と、該ベッド19の上面に設けられたテーブル21と、ベッド19の側部から該ベッド19を跨ぐように配置された正面視で逆U字形状を成すコラム23と、該コラム23の上部中央付近に配置された主軸支持体25と、を備えている。
【0014】
なお以下では、ベッド19の上面に設定する一方向をX軸方向(前後方向)とし、ベッド19の上面でX軸方向と直交する方向をY軸方向(左右方向)とし、ベッド19の上面に対して直交する方向(即ち、法線方向)をZ軸方向と定義することにする。X軸、Y軸、Z軸は直交座標系である。
【0015】
テーブル21は、ワーク保持部7を備えており、加工装置1による加工対象となるワーク5を固定する。テーブル21は、リニアガイドベアリング(図示省略)を介してベッド19に支持されており、リニアモータなどのアクチュエータ(図示省略)により、ベッド19に対してX軸方向に移動可能とされている。即ち、テーブル21を制御することにより、ワーク5をベッド19上におけるX軸上の所望の位置に位置決めすることができる。
【0016】
コラム23は、ベッド19と一体に形成されている。また、該コラム23の上部中央付近には、筐体形状をなす主軸支持体25が設けられている。更に、主軸支持体25の下面には、主軸筐体27が設けられている。
【0017】
主軸筐体27の下面適所には、下端部が半球形状に形成されたボールエンドミル3(エンドミル;以下「工具」と略す)を固定して回転させるためのスピンドル29が設けられている。
【0018】
スピンドル29には、工具保持部9が設けられており、該工具保持部9により工具3を着脱することが可能とされている。即ち、ワーク5を加工する態様に応じて、所望の工具を取り付けることが可能である。工具3はスピンドル29のZ軸方向(上下方向)の所望の位置に位置決めされる。また、スピンドル29はZ軸方向に移動可能とされている。従って、スピンドル29を制御することにより、工具3のZ軸方向の位置を位置決めすることができる。
【0019】
また、主軸筐体27は、リニアガイドベアリング(図示省略)を介して主軸支持体25に支持されている。従って、工具3はリニアモータなどのアクチュエータ(図示省略)により、Y軸方向に移動が可能とされている。即ち、主軸筐体27を制御することにより、工具3をY軸上の所望の位置に位置決めすることができる。
【0020】
このように、テーブル21、主軸筐体27、及びスピンドル29の移動を制御することにより、ワーク5と工具3との3次元的な相対位置を設定することができる。即ち、工具3をワーク5の所望の加工部位に当接させて、該ワーク5を切削加工することが可能である。
【0021】
図2は、切削加工時において、工具3がワーク5に接している様子を示す説明図である。図2に示すように工具3は、回転させたときの側面視が中心線C1(中心軸)を回転軸として線対称となる形状を有している。
【0022】
また、工具3は、先端部17の外周に切れ刃部(図示せず)が設けられており、該切れ刃部によりワーク5を切削加工することができる。また、エンドミル3の半球形状の中心をC2とする。
【0023】
工具3は、上端部(図中、上側の端部)が工具保持部9にチャッキングして固定される。そして、工具保持部9で保持されている工具3は、Z軸方向(上下方向)の中心線C1を中心として回転することにより、切れ刃部でワーク5を切削加工する。
【0024】
図1に戻って、加工装置1は、テーブル21、主軸筐体27、及びスピンドル29の移動制御を含む加工装置1全体を総括的に制御する制御部13を備えている。制御部13は、位置ずれ検出部131及び、各種のデータを記憶するためのメモリ14(記憶部)を備えている。
【0025】
制御部13は、後述するNCプログラムに基づいてワーク5を固定したテーブル21、及び工具3を固定したスピンドル29の移動を制御する。また、工具3の回転を制御する。また、制御部13は、例えば、中央演算ユニット(CPU)や、RAM、ROM、ハードディスク等の記憶手段からなる一体型のコンピュータとして構成することができる。
【0026】
NCプログラムは、ワーク5のCADデータ37に基づき、CAM39により設定される。NCプログラムには、ワーク5に対して相対的に工具3を移動させる際の加工パス41、及び加工パス41の三次元座標が設定されている。CAM39により設定されたNCプログラムは、パソコン33に送信される。
【0027】
また、図1に示す加工装置1は、工具3の形状を測定するための工具形状測定装置31を備えている。工具形状測定装置31は、例えばレーザ測定器であり、工具3の側面方向からレーザを照射し、照射したレーザを受光することにより工具3の形状を測定する。位置ずれ検出部131は、工具形状測定装置31で測定された工具3の形状に基づいて、工具3の輪郭線(これを「実輪郭線P3」という)を算出する。
【0028】
即ち、位置ずれ検出部131は、工具3が工具保持部9に保持されているときの、工具3の輪郭線である実輪郭線と、理想形状の工具3の輪郭線である理想輪郭線(これを「理想輪郭線P1」という)との位置ずれを検出する。具体的に、工具3の先端部の半球形状の中心を基準とした複数の角度方向における、理想輪郭線P1と実輪郭線P3との位置ずれを補正する輪郭誤差の補正値を算出する。算出した補正値を、メモリ14に記憶する。
【0029】
パソコン33は、演算部33aを有している。演算部33aは、工具3によりワーク5を切削加工する際の、NCプログラムに含まれる加工パス41を補正する処理を実施する。即ち、パソコン33の演算部33aは、CAM39より加工パス41を含むNCプログラムを取得し、更に、後述する処理により演算される補正値により、加工パス41の三次元座標を補正する。パソコン33の演算部33aは、補正値に基づいて、NCプログラムを補正する。そして、補正後の加工パス43により、工具3によるワーク5の切削加工を実施する。 詳細に説明すると、演算部33aは、位置ずれ補正部331、距離効果係数算出部332、及び記憶部333を有している。
【0030】
距離効果係数算出部332は、工具3による加工点が、ワーク5の第1の加工面における第1の加工点の一点加工から、第1の加工点と、第1の加工面とは異なる第2の加工面における第2の加工点との二点加工に移行する際に、工具3と、第2の加工点との距離に応じて、第2の加工点を加工する際の位置ずれの影響の大きさを示す距離効果係数を算出する。算出した距離効果係数を、記憶部333に記憶する。
【0031】
位置ずれ補正部331は、制御部13のメモリ14に記憶されている輪郭誤差の補正値、及び演算部33aの記憶部333に記憶されている距離効果係数に基づいて、上述したNCプログラムを補正する。更に位置ずれ補正部331は、後述するように、工具3による前記一点加工時には、輪郭誤差の補正値に基づいて第1の加工点の位置ずれを補正し、一点加工から二点加工に移行するとき、工具3と第2の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、第1の加工点における輪郭誤差の補正値と、距離効果係数に基づいて位置ずれを補正する。こうして、輪郭誤差の補正値、及び距離係数に応じてNCプログラムが補正される。
【0032】
次に、工具3の理想輪郭線P1と、工具3の実輪郭線P3との位置ずれを補正する処理について説明する。
【0033】
工具3を用いて実際にワーク5を加工する際には、前述したように、工具3をスピンドル29に固定する際の位置ずれが生じ、また、工具3には形状誤差が存在する。従って、理想輪郭線P1と実輪郭線P3との間には、誤差(これを「輪郭誤差」という)が生じる。この輪郭誤差が存在することにより、ワーク5の加工位置に誤差が生じ、加工精度が低下する。本実施形態では、工具3に生じる輪郭誤差を補正する処理を実施する。以下、詳細に説明する。
【0034】
図3は、工具3の外形を示す説明図である。図3(a)において破線で示す曲線(符号P1)は理想的な形状の工具3の外形形状であり、実線で示す曲線(符号P2)は形状誤差のある工具3の外形形状である。理想的な形状の工具3の外形形状を理想輪郭線P1とし、形状誤差のあるエンドミルの外形形状を輪郭線P2とする。図3(a)に示すように、輪郭線P2は、理想輪郭線P1に対して、中心線C1に対してごく僅かに右側に偏って位置している。なお、図3(a)では、2つの輪郭線P1とP2のずれ量を誇張して示している。
【0035】
図3(b)にて破線で示す曲線(符号P1)は、理想的な形状の工具3を中心線C1で回転させたときの輪郭線(図3(a)のP1と一致する)を示し、実線で示す曲線(符号P3)は、形状誤差のある工具3を中心線C1で回転させたときの輪郭線(これを、実輪郭線P3とする)を示している。図3(a)に示した輪郭線P2が理想輪郭線P1に対して偏っていることにより、実輪郭線P3は、理想輪郭線P1よりも半径が大きくなっている。また、図3(b)は一例であり、実輪郭線P3の方が、理想輪郭線P1よりも小さいこともある。
【0036】
本実施形態では、理想輪郭線P1と実輪郭線P3との差分である輪郭誤差を演算し、演算した輪郭誤差のデータを補正値として図1に示したメモリ14に記憶する。この処理は、図1に示した位置ずれ検出部131により実施される。以下、輪郭誤差の算出方法について説明する。
【0037】
[輪郭誤差の算出]
図2に示したように、ワーク5は工具3の先端部17で加工されるので、工具3の輪郭誤差は、図4に示すように、先端部17の1/4の円弧(即ち、角度が90°の範囲)で求めればよいことになる。
【0038】
具体的に、理想輪郭線P1における中心線C1を中心として、理想輪郭線P1の円弧(1/4円の円弧)と、実輪郭線P3の円弧(1/4円の円弧)の差分を輪郭誤差として演算する。そして、この輪郭誤差を図1に示したメモリ14に記憶する。
【0039】
補正値を算出する処理を実施するための初期的な処理として、工具形状測定装置31(図1参照)を用いて工具3の形状を測定する。ここでは、工具形状測定装置31としてレーザ測定器を用いる例について説明する。
【0040】
レーザ測定器は、工具3の側面方向からレーザを照射し、照射したレーザを受光することにより工具3の形状を測定する。その結果、図3(a)に示したように工具3の輪郭線P2が得られ、ひいては図3(b)に示した実輪郭線P3を求めることができる。また、理想輪郭線P1は、制御部13のメモリ14から読み取ることができる。
【0041】
工具3の位置の補正は、該工具3により加工する加工点T1(図2参照;詳細は後述する)における単位法線ベクトルV1と、工具3との輪郭誤差とに基づいて実施される。これにより、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向のうちの少なくとも一つの方向で、工具3の三次元的な位置を補正することができる。X軸、Y軸、Z軸の方向は、単位法線ベクトルV1により決定される。
【0042】
図4は、工具3の円弧の角度(0°~90°)と、輪郭誤差を補正するための補正値との関係を示す説明図である。図4では、工具3の円弧における理想輪郭線P1、及び実輪郭線P3を示している。図4において、鉛直方向を角度0°とし、水平方向を角度90°としている。なお、図4では一例として、円弧の中心線C1を基準とした0°~45°の範囲において、実輪郭線P3が理想輪郭線P1よりも外側に突起しており、45°~90°の範囲において、実輪郭線P3が理想輪郭線P1よりも窪んでいる形状を示している。
【0043】
そして、図4に示すように、円弧の中心線C1から工具3の、90°円弧の外形に向かって延びる10本の直線L00~L90を、角度10°間隔で設定する。角度10°間隔の角度方向に直線を設定する。工具3の中心線C1と直線L00との交差角度は0°である。つまり、直線L00と中心線C1は平行(同一直線)である。
【0044】
また、中心線C1と直線L10と交差角度は10°である。同様に、中心線C1と直線L20~直線L90と交差角度は20°~90°である。即ち、中心線C1に平行な方向が0°であり、中心線C1に直交する方向が90°であり、角度10°の角度方向毎に複数の直線が設定される。
【0045】
ここで、直線L00と理想輪郭線P1との交点を交点Q00aとする。同様に、直線L10、L20、・・、L90と理想輪郭線P1との交点を、それぞれ交点Q10a、Q20a、・・、Q90aとする。一方、各直線L00、L10、L20、・・、L90と、実輪郭線P3との交点をそれぞれ、交点Q00b、Q10b、Q20b、・・、Q90bとする。従って、各直線における2つの交点の間の距離(即ち、差分)が輪郭誤差であるので、この数値を「補正値」として設定する。例えば、直線L10において「Q10b-Q10a」を補正値として設定する。
【0046】
そして、各角度方向の補正値を、参照符号#500、#510、・・、#590として、図1に示すメモリ14に記憶する。具体的に、「#500=Q00b-Q00a」とし、「#510=Q10b-Q10a」とし、以下同様にして、「#590=Q90b-Q90a」とする。
【0047】
また、図4では煩雑さを避けるために、角度10°間隔の直線L00、L10、・・、L90において補正値を算出する例について示しているが、実際にはより細かい間隔の角度(例えば、1°ごと)に補正値を設定する。従って、角度1°間隔毎の補正値が、参照符号#500、#501、#502、・・、#589、#590としてメモリ14に記憶される。
【0048】
即ち、図4に示す理想輪郭線P1の中心線C1から角度1°毎に直線L00~L90を引き、各直線上において補正値を算出する。算出した補正値を、参照符号#500、#501、#502、~、#589、#590としてメモリ14に記憶する。そして、この補正処理で算出した参照符号#500~590を用いてNCプログラムの三次元座標を補正する。
【0049】
次に、上述した補正値を用いて、NCプログラムの三次元座標を補正する処理について説明する。
【0050】
[三次元座標の補正]
初めに、前述の図1に示したCADデータ(完成品としてワーク5の形状を示すデータ)37と、CAM39で作成されたNCプログラム、即ち、理想形状のエンドミル3でワークを加工する際のNCプログラムと、に基づいて、ワーク5の所望の加工点(これを、T1とする)における単位法線ベクトルV1を算出する。
【0051】
図5は、工具3によりワーク5を加工する際の、工具3が加工パスに従って移動する様子を示す説明図である。図5に示すように、工具3によりワーク5を切削加工する場合には、工具3がワーク5に接する点が該ワーク5の加工点T1となる。そして、加工点T1における単位法線ベクトル(これをV1とする)を算出する。
【0052】
この処理は、例えばパソコン33の演算部33a(図1参照)により実行される。加工点T1の三次元座標は、NCプログラムより取得することや、理想的な工具(ボールエンドミル)が装着されているときに、この工具を実際に加工パスに従って移動させることにより、取得することができる。
【0053】
また、工具3を用いてワーク5を切削加工する際には、ワーク5に対して工具3がX軸、Y軸、Z軸方向のうちの少なくとも一つの方向に移動している。つまり、切削加工が進むにつれて加工点T1の3次元位置は変化する。
【0054】
加工点T1を中心とするワーク5の表面は平面、或いは曲面である。しかし、極めて微小な領域に限定すると、この領域は曲面であっても平面と見なすことができる。
【0055】
単位法線ベクトルV1は、上記した微小な領域(平面)に対して直交しているベクトルであり、X軸、Y軸、Z軸の各方向の成分を有している。また、単位法線ベクトルV1のスカラー量は当然であるが「1」である。換言すれば、単位法線ベクトルV1のX軸、Y軸、Z軸方向の成分となる数値をそれぞれ2乗して加算し、その平方根(ルート)を演算すると「1」になる。
【0056】
そして、本実施形態では、前述した参照符号#500、#501、・・、#589、#590として記憶されている補正値(理想輪郭線P1と実輪郭線P3との差分)を、各角度方向のずれ量とする。そして、単位法線ベクトルV1を、X軸、Y軸、Z軸の三次元の方向の成分にベクトル的に分解して、各方向のずれ量を演算する。以下、図6図7に示す数式を参照して具体的に説明する。
【0057】
図6は、工具3による切削加工する位置が、加工点f51→f52→f53→f54→f55、の順に移動したときの三次元座標を示している。この三次元座標は、工具3が理想形状である場合の座標を示している。即ち、NCプログラムに初期的に設定されている加工パスの三次元座標を示している。
【0058】
そして、本実施形態では、単位法線ベクトルV1、及び前述した各参照符号に基づいて、加工パスの三次元座標を補正する。具体的に、図6に示す各加工点f51、f52、f53、f54、f55の座標を、図7に示す各加工点f61、f62、f63、f64、f65の座標に補正する。即ち、図7に示す演算式がメモリ14に記憶されており、この演算式により、加工点T1の座標を補正する。
【0059】
具体的に説明すると、例えば、図6に示す加工点f51における三次元座標はX=-1.60657、Y=-0.42583、Z=-1.09809である。一方、理想輪郭線P1に対して、実輪郭線P3にずれが生じた場合の座標は、図7に示す加工点f61に補正される。
【0060】
加工点f51、f61は、図4に示す工具3による角度が64°の加工点であるものとする。従って、参照符号#564として記憶されている補正値をメモリ14から読み出し、更に、この補正値を上述した単位法線ベクトルに基づいて、X軸、Y軸、Z軸の各方向に分解して、各軸方向の補正値を算出する。そして、この補正値により、補正前の加工点f51の三次元座標を補正し、図7に示す加工点f61の三次元座標を算出する。
【0061】
以下、図7に示す加工点f61の演算式をより詳細に説明する。加工点f61における単位法線ベクトルV1をX軸、Y軸、Z軸の成分に分解することにより、例えば(X、Y、Z)=(-0.89101、-0.11528、-0.4391)が得られる。また、加工点の角度が64°であることから、参照符号#564として記憶されている補正値を採用する。
【0062】
即ち、図7の「f61」に示す式の、X座標の補正値である[-0.89101*#564]は、参照符号#564として設定されている補正値に、単位法線ベクトルV1のX軸方向の成分である「-0.89101」を乗じた数値である。また、Y座標の補正値である[0.11528*#564]は、参照符号#564として設定されている補正値に、単位法線ベクトルV1のY軸方向の成分である「0.11528」を乗じた数値である。Z座標の補正値である[-0.4391*#564]は、参照符号#564として設定されている補正値に、単位法線ベクトルV1のZ軸方向の成分である「-0.4391」を乗じた数値である。
【0063】
従って、図7の加工点f61に示す三次元座標は、輪郭誤差に基づく補正値を反映した座標となっている。この座標に基づいて工具3を駆動して切削加工を実施することにより、理想輪郭線P1と実輪郭線P3との間に輪郭誤差が生じている場合であっても、この輪郭誤差の影響を回避して高精度な切削加工の実施が可能である。即ち、図6に示した加工点f51の三次元座標を、図7に示した加工点f61の三次元座標に補正することにより、ワーク5における加工点に対して、工具3の所望の部位を接触させて該ワーク5を切削加工することが可能となる。
【0064】
[回避量の説明]
上記した輪郭誤差の補正を行うことにより、ワーク5の加工点とは異なる点(接触点)に接触し、この接触点にて工具3が食い込んでワーク5を加工してしまうことがある。この場合には、工具3と接触点との接触を回避する必要がある。以下、図8図9を参照して詳細に説明する。
【0065】
図8(a)に二点鎖線で示す線は、輪郭誤差が無い理想形状の工具3の輪郭線を示している。図8(a)に実線で示す線は、輪郭誤差のある工具3の輪郭線を示している。
【0066】
工具3により、図8(a)に示す加工点Tt1を加工する際に、輪郭誤差が生じていなければ、即ち理想形状であれば、工具3は加工点Tt1に接して切削加工を行う。しかし、図8(a)の実線に示すように輪郭誤差が生じている場合には、工具3による加工位置を前述した補正値により補正することになる。
【0067】
このため、図8(b)に示すように輪郭誤差を有する工具3の下端部が加工点に接するように補正される。その結果、ワーク5の斜面の接触点Tt2にて工具3が接触し、更に、食い込み45が生じてしまう。この状態で切削加工をすると、ワーク5を削り過ぎてしまう。
【0068】
本実施形態では、この干渉による不要な切削加工を回避するために、図8(c)に示すように、工具3の位置を補正する。具体的に、図8(d)に示すように、加工点Tt1と接触点Tt2との法線ベクトルによって規定される平面に存在し、加工点Tt1の法線ベクトルVBに対して直交するベクトルVAを演算し、このベクトルVAを回避ベクトルとする。そして、工具3による加工位置をこの回避ベクトルVAにて補正することにより、接触点Tt2への食い込み45を回避する。
【0069】
即ち、加工点Tt1の法線と直交する方向に回避量VAだけ逃がす補正を行うことにより、食い込み45を回避することができる。回避量VAは、(加工点Tt1の補正量VB×tanθ)で算出することができる。「θ」は、加工点Tt1の法線と、接触点Tt2に接する平面(加工点Tt1を含み接触点Tt2の法線と直交する平面)との交差角度である。
【0070】
更に説明すると、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向における工具3の座標は、図9(a)の(1)、(2)の記載で示すものの和で表される。
【0071】
工具3のX方向における座標値は、図9(b)の座標値(演算式)f111で表される。座標値f111における「0.123」は、補正される前(輪郭誤差の補正の無いとき)の工具3のX軸方向の座標値である。
【0072】
また、座標値f111において、「加工点Tt1補正量」に示す参照符号「#513」は、前述した図4を用いて説明したような、工具3の加工点Tt1における輪郭誤差(スカラー量)の補正値である。座標値f111における「0.216」は、加工点Tt1における法線ベクトルのX方向成分である。
【0073】
座標値f111において、「加工点Tt1回避量」に示す参照符号「#513」は、図4を用いて説明したような、工具3の加工点Tt1における輪郭誤差(スカラー量)の補正値である。座標値f111における「-0.816」は、加工点Tt1における回避ベクトル(単位ベクトル)のX方向成分である。座標値f111における「0.613」は、上述したtanθの値である。また、Y軸方向、Z軸方向の成分についても同様である。
【0074】
上述した座標値f111を一般化して記載すると、次の(1)式となる。
【0075】
X座標=Px+(i1*#50A+i11*#50A*tanθ)
Y座標=Py+(j1*#50A+j11*#50A*tanθ)
Z座標=Pz+(k1*#50A+k11*#50A*tanθ) …(1)
【0076】
[加工点が1点加工から2点加工に移行するときの動作]
工具3(ボールエンドミル)により例えば2つの加工面の接合部近傍を加工する際には、加工点が一点加工から二点加工に移行することがある。
【0077】
図10は、工具3によりワーク5の第1の加工点T1を加工し、その後、第2の加工点T2の加工に移行するときの、工具3の動作を示す説明図である。図10(a)は、工具3が第1の加工点T1を加工している様子を示し、図10(b)は工具3が第1の加工点T1と第2の加工点T2の双方を加工している状態、即ち、二点加工の状態を示している。
【0078】
工具3に輪郭誤差が生じており、例えば、図10(c)に示すように、実輪郭線H1(実線)が理想輪郭線H0(破線)に対して突起している場合には、NCプログラムによる加工を実施すると、第1の加工点T1のみの一点加工を実施しているとき、即ち、二点加工に移行する前の時点で工具3が第2の加工点T2に接してしまい、工具3がワーク5に食い込んでしまう。
【0079】
例えば、図11(a)に示すように、NCプログラムでは工具3の先端と第2の加工点T2との距離が7μmである場合で、工具3の先端の誤差が2μmである場合(2μm突起している場合)には、工具3と第2の加工点T2との間の距離は、5μmとなる。更に、図11(b)に示すように、工具3の先端の誤差が7μmを超えると、工具3の先端がワーク5に接していまい、食い込みが発生してしまう。
【0080】
このため、第1の加工点T1の一点加工から、第1の加工点T1及び第2の加工点T2の二点加工に移行する場合には、工具3が第2の加工点T2に接近していることを考慮して工具3の位置を補正する必要が生じる。
【0081】
本実施形態では、工具3により第1の加工点T1を加工しており、その後、第1の加工点T1と第2の加工点T2の二点加工に移行する際に、工具3と第2の加工点T2との距離(接近距離)に応じて補正値を演算する。具体的には、工具3と、第2の加工点T2との距離に応じて変化する係数(これを「距離効果係数Ed」とする)を設定し、この距離効果係数Ed(第1の距離効果係数)に応じて、工具3の加工位置を補正する。距離効果係数Edは、0~1の数値である。
【0082】
[距離効果係数Edの説明]
次に、距離効果係数Edについて説明する。図12は、工具3の理想輪郭線q1(破線)と実輪郭線q2(実線)によるワーク5の加工を示す説明図である。図12(a1)は、理想輪郭線q1と実輪郭線q2が一致している場合、図12(a2)は、理想輪郭線q1に対して実輪郭線q2が小さい場合(例えば、5μmだけ小さい場合)、図12(a3)は、理想輪郭線q1に対して実輪郭線q2が大きい場合(例えば、5μmだけ大きい場合)をそれぞれ示している。
【0083】
そして、図12(a1)~(a3)に示した形状の実輪郭線q2を有する工具3でワークの加工面M11を加工すると、図12(b1)~(b3)のようになる。具体的に、図12(a1)に示すように、理想輪郭線q1と実輪郭線q2が一致している場合には、図(b1)に示すように、工具3は、加工面M11上の加工点に丁度良く接する。一方、図12(a2)に示すように、理想輪郭線q1に対して実輪郭線q2が小さい場合には、(b2)に示すように、工具3は加工面M11上の加工点に達しない。更に、図12(a3)に示すように、理想輪郭線q1に対して実輪郭線q2が大きい場合には、(b3)に示すように、工具3は加工面M11の加工点から内側に食い込んでしまう。
【0084】
このときの、工具3とワーク5(加工面M11)との距離の関係をグラフに示すと、図13のようになる。図13において横軸は工具3とワーク5との距離の理想値を示し、縦軸は工具3とワーク5との実際の距離(実値)を示している。グラフSaは、図12(a1)に示したように工具3が理想輪郭線である場合を示し、グラフSbは、図12(a2)に示したように工具3の実輪郭線が小さい場合を示し、グラフScは、図12(a3)に示したように工具3の実輪郭線が大きい場合を示している。
【0085】
グラフSb、ScがグラフSaに近づくように補正すれば、加工面M11に対する工具3の輪郭誤差を補正することができる。本実施形態では、図14に示すように、工具3と加工面M11との距離に応じて、徐々に輪郭誤差を小さくして行き、工具3と加工面M11との距離がゼロになった時点で、輪郭誤差をゼロとする距離効果係数Edを設定する。そして、輪郭誤差(補正値)に距離効果係数Edを乗じることにより、図14のグラフSb1、Sc1となるように補正値を変化させる。
【0086】
この際、グラフSb、ScからグラフSb1、Sc1を生成するために、以下に示す(2)式に基づいて、距離効果係数Edを算出する。
【0087】
Ed=1.25exp(-10・Da-300・Da) …(2)
(2)式において、「Da」は理想形状の工具3と加工面M11との距離を示し、「exp」はべき乗を示す。なお、(2)式に示す演算式は一例であって、他の演算式で距離効果係数Edを算出することも可能である。
【0088】
上記(2)式をグラフで示すと、図15に示すグラフF1のようになる。図15において、横軸は理想状態の工具3とワーク5との距離Daを示しており、縦軸は距離効果係数Edを示している。グラフF1から理解されるように、距離効果係数Edは、「0~1」の範囲で変化する係数であり、工具3とワーク5の距離が短くなるほど、変化率(グラフの傾斜)が大きくなっている。
【0089】
距離効果係数Edを考慮することにより、工具3と、ワーク5の加工面M11との間に誤差が生じている場合であっても、接近距離に応じて補正値を徐々に変化させて、工具3と加工面M11とが接するようにするので、一点加工から二点加工に移行する際に工具3の補正値が急激に変化することを回避する。
【0090】
より詳細に説明すると、工具3によりワーク5の加工面M11を加工するときには、予め測定した工具3の輪郭誤差に基づき、例えば工具3の直径が理想値よりも5μmだけ小さい場合には、参照符号#50Aには、「+0.005」が記憶されている。また、工具3の直径が理想値よりも5μmだけ大きい場合には、参照符号#50Aには、「-0.005」が記憶されている。なお、「#50A」とは、前述した#500~#590のうち、加工点T2が加工面M11に接するときの、加工点T1の角度(0°~90°)である。例えば、1°であれば「#501」ということになる。
【0091】
そして、図15に示すグラフF1を参照すると、Da=0の場合、即ち、工具3が加工点T2に接してワーク5を加工している場合には、Ed=1となる。従って、工具3が理想値よりも5μmだけ大きい場合には、補正値は-5μmである。
【0092】
Da=10μmの場合には、Ed=0.4096となり、工具3が理想値よりも5μmだけ大きい場合には、補正値は-2.048μmとなる(図14参照)。
【0093】
Da=3μmの場合には、Ed=0.81314となり、工具3が理想値よりも5μmだけ大きい場合には、補正値は-4.066μmとなる(図14参照)。
【0094】
特に、上記したDa=3μmの場合で、工具3が理想値に対して5μmだけ大きい場合には、補正がなければ「3-5=-2」となり、2μmの食い込みとなってしまう。しかし、距離効果係数Edを乗じることにより、-4.066μmだけ補正されるので、食い込みを回避することができる。
【0095】
距離効果係数Edの設定は、距離がゼロに近づくにつれて、傾きが大きくなるように設定することが望ましい。具体的には、図16に示すように、工具3からワーク5までの距離が遠い領域γ1では傾きが小さく、中間の領域β1では傾きが徐々に大きくなり、更に、加工点までの距離が近い領域α1では傾きの変化が大きくなるように設定する。即ち、距離効果係数Ed(第1の距離効果係数)は、所定の距離から第2の加工点T2に近づくにつれて、増加率が徐々に増加するように変化することになる。こうすることにより、距離効果係数Edによる影響が徐々に大きくすることが可能となる。
【0096】
[一点加工から二点加工に移行するときの座標の演算]
次に、工具3によるワーク5の加工点が一点から二点に移行する場合の、工具3の座標の補正について説明する。図17に示すように、工具3によりワーク5における第1の加工点T1を加工している状態から、工具3が第2の加工点T2に接近する場合の、工具3のX、Y、Z座標の補正について説明する。
【0097】
図17に示す第1の加工面M1上の第1の加工点T1の法線ベクトルを(i1、j1、k1)とし、該第1の加工点T1の補正量を#50Bとする。「#50B」とは、前述した#500~#590のうち、第1の加工点T1に対応する角度(0°~90°)である。即ち、工具3が第1の加工点T1に接したときの工具3の点と、図4に示した中心C2を結ぶ直線の、中心線C1を基準とした角度である。
【0098】
また、第2の加工面M2上の第2の加工点T2の法線ベクトルを(i2、j2、k2)とし、該第2の加工点T2の補正量を#50Aとする。「#50A」についても同様に#500~#590のうち、第2の加工点T2に対応する角度(0°~90°)の数値である。
【0099】
また、第1の加工点T1の回避ベクトルを(i11、j11、k11)とし、該第1の加工点T1の法線と、第2の加工点T2に接する平面との交差角度を「θ」とする(図8参照)。また、第2の加工点T2の回避ベクトルを(i22、j22、k22)とする。
【0100】
すると、補正後のX座標、Y座標、Z座標は、図18の(3)式に示すように算出される。図18において、Px、Py、Pzは、3次元座標の理想値を示している。また、図8において、括弧内の第1項に示すr1は、第1の加工点T1の補正量を示す。第2項に示すr2は、第2の加工点T2の補正量を示す。第3項に示すr3は、第1の加工点T1の回避量(第1の回避量)を示す。第4項に示すr4は、第2の加工点T2の回避量(第2の回避量)を示す。
【0101】
例えば、工具3が第2の加工点T2に接近したときの距離が10μmである場合には、図15に示したように、「距離効果係数Ed=0.4096」となる。従って、図18に示した式(3)式は、図19に示す(4)式のようになる。
【0102】
このように、工具3による加工点が第1の加工点T1の一点加工から、第1の加工点T1と第2の加工点T2の二点加工に移行するとき、工具3が第2の加工点T2に接近する際の距離に応じて図15のグラフF1に示すように、距離効果係数Edを変化させている。従って、一点加工から二点加工に移行する際に、補正による急激な工具3の位置変動が発生することを回避できる。このため、安定して工具3によるワーク5の加工を実施することが可能となる。
【0103】
[NCプログラムの補正処理の説明]
次に、本実施形態に係る加工装置1による加工点の補正処理の処理手順を、図20に示すフローチャートを参照して説明する。図20に示す処理は、図1に示す制御部13及びパソコン33の演算部33aにより実行される。また、以下に示す処理は、コンピュータプログラムとしてパソコン33に記憶されている。
【0104】
初めに、図20に示すステップS11において、図1に示すCAM39により、工具3の加工パスとなるNCプログラムを作成する。このときの加工パスは、工具3が工具保持部9のスピンドル29に対して正確に装着され、且つ工具3に形状誤差が存在しない場合の加工パスである。
【0105】
ステップS12において、制御部13の位置ずれ検出部131は、工具3の理想輪郭線P1を算出する。理想輪郭線P1は、メモリ14に記憶されている理想の工具の寸法から読み取ることができる。
【0106】
ステップS13において、位置ずれ検出部131は、工具3の実輪郭線P3を取得する。具体的に、レーザ測定器(図1に示した工具形状測定装置31)により工具3の側面方向からレーザを照射し、工具3を通過したレーザを検出することにより、輪郭線P2を算出することができるので、この輪郭線P2に基づいて実輪郭線P3を算出する(図3(a)、(b)参照)。
【0107】
ステップS14において、位置ずれ検出部131は、理想輪郭線P1と実輪郭線P3に基づいて、工具3の円弧形状部の、ぞれぞれの角度方向毎の補正値を算出し、更に、算出した補正値を参照符号#500~590に設定する。
【0108】
ステップS15において、演算部33aの位置ずれ補正部331は、ワーク5の第1の加工点T1における単位法線ベクトルV1を算出し、更に、参照符号#500~#590に記憶されている補正値を用いてX軸、Y軸、Z軸の各方向の加工点の座標を補正する。具体的に、工具3が第1の加工点T1に接する位置である加工位置の角度(0°~90°)に基づいて、例えば参照符号#564に設定されている補正値を取得する。更に、単位法線ベクトルV1をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の成分に分解し、上記の補正値を乗じることにより、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加工点の座標を補正する。
【0109】
ステップS16において、演算部33aの距離効果係数算出部332は、工具3から第2の加工点T2までの距離に応じた距離効果係数Edを算出する。具体的に、前述した図15に示したグラフF1に基づいて、第2の加工点T2に接近するにつれて大きくなる距離効果係数Ed(0~1の数値)を算出する。
【0110】
ステップS17において、演算部33aの位置ずれ補正部331は、距離効果係数Edを用いて工具3による加工位置の座標を補正する。具体的に、図18に示した(3)式に基づいて、工具3による加工位置の、X座標、Y座標、Z座標を補正する。その後、本処理を終了する。
【0111】
こうして、一点加工から二点加工に移行する際に、工具3から第2の加工点T2までの距離に応じた補正値を設定することにより、NCプログラムの座標値を適正な数値に補正することができる。そして、補正後のNCプログラムを用いた制御を実施することにより、安定的にワーク5の加工を実施できるのである。
【0112】
[本実施形態の効果の説明]
このように、第1実施形態に係るワークの加工装置1では、工具3(ボールエンドミル)を用いてワーク5を加工しており、工具3による加工点が第1の加工点T1の一点加工から、第1の加工点T1と第2の加工点T2の二点加工に移行する際には、工具3が第2の加工点T2に接近した際の距離に応じて、距離効果係数Edを演算している。そして、距離効果係数Edに応じて第2の加工点T2による補正値を変化させている。
【0113】
従って、工具3が第2の加工点T2に接近すると、第2の加工点T2による補正値が考慮されて工具3による加工位置が補正されるので、一点加工から二点加工に移行する際に、工具3が第2の加工点T2に達しないことや、第2の加工点T2からワーク5に食い込んで加工するなどの問題の発生を回避することができる。
【0114】
更に、一点加工から二点加工に移行する際に、急激に第2の加工点T2に接することを回避することができ、安定的なワーク5の加工が可能となる。
【0115】
また、図18に示したように、補正後の加工パスの演算式がメモリ14に記憶されており、この演算式に参照符号#500~#590を代入して三次元座標を補正するので、加工時における演算負荷を軽減することができ、ワーク5の加工に要する時間を短縮化することが可能となる。
【0116】
なお、上述した実施形態では、工具3の円弧形状部を0~90°の範囲で1°ごとに補正値を算出する例について説明したが、例えば、図21に示すように、角度63.9°の場合には、これに近接する63°の参照符号#563と、64°の参照符号#564を1対9で比例配分して補正値を求めるようにしてもよい。このような手法を採用することにより、より高精度な加工点の補正処理を実施することが可能となる。
【0117】
[第2実施形態の説明]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前述した第1実施形態では、ワーク5に存在する第1の加工面M1上の第1の加工点T1、及び第2の加工面M2上の第2の加工点T2の、二点加工を実施する際の補正について説明した。第2実施形態では三点加工について説明する。
【0118】
図22は、三点加工する際のワークの加工面の構成を示す説明図である。図22(a)に示すように、直方体形状のワーク51に不均等なV字形状の切込部52を形成し、更に、図21(b)に示すように、ワーク51の切込部52に斜めの方向から平板53を差し込んだ形状を想定する。そして、図22(c)に示すように、切込部52、及び平板53で囲まれる3つの面を、図示のようにそれぞれ第1の加工面M1、第2の加工面M2、第3の加工面M3とする。そして、第2実施形態では、第1の加工面M1上の加工点と第2の加工面M2上の加工点の二点加工から、第3の加工面M3上の加工点(第3の加工点)を加えた三点加工に移行する際の、工具3の補正値を設定する。以下詳細に説明する。
【0119】
初めに、第1の加工面M1と第2の加工面M2の二点加工を想定し、前述した第1実施形態の手法を採用して、工具3の加工位置を補正する。次に、第1の加工面M1と第2の加工面M2の加工点または接近点を通り、且つ各加工面M1、M2の法線ベクトルによって規定される平面S(所定平面)を定義する。このとき、図23(a)に示すように、平面Sには第1の加工面M1、第2の加工面M2の法線ベクトルのみならず、加工点または接近点の回避ベクトルも、平面S上に乗ることになる。
【0120】
即ち、第1の加工面M1と第2の加工面M2の補正に用いる全てのベクトルが平面S上に存在することになる。つまり、第1の加工点を補正する補正ベクトルと、第2の加工点を補正する補正ベクトルは、平面S上に存在することになる。従って、図23(b)に示すように、第1の加工面M1と第2の加工面M2での加工位置を補正する処理においては、工具3の輪郭誤差がどのような凹凸を持っていても、全ての補正動作を合成した最終的は加工位置を補正するための移動ベクトル(これを、「移動ベクトルVc12」とする)も上記の平面S上に存在することになる。
【0121】
次に、工具3による第3の加工面M3の加工を考慮に加える。このとき、以下に示す(A)、(B)を補正する必要がある。
(A)従来より行っていた第3の加工面M3の法線方向の補正
(B)第1の加工面M1と第2の加工面M2の補正動作によって生じた第3の加工面M3に対する食い込み、または切込不足の解消
図24(a)は、第1~第3の加工面M1~M3を、工具3の軸方向から見た天頂図である。図24(a)に示すベクトルVc12は、図23(b)に示した「移動ベクトルVc12」を示している。該移動ベクトルVc12は、平面Sに沿っている。
【0122】
図24(a)に示す第3の加工面M3に任意の方向Y1を設定し、この方向Y1を通る鉛直方向の平面の法線方向から見た図を、図24(b)に示す。図24(b)に示すように、工具3を移動ベクトルVc12に沿って移動させたことにより、工具3と第3の加工面M3との間に、第3の加工面M3の法線方向を向く乖離ベクトルVne3が生じている。
【0123】
ここで、第3の加工面M3の単位法線ベクトルをVun3とすると、乖離ベクトルVne3は、移動ベクトルVc12と、上記の単位法線ベクトルVun3との内積で算出することができる。即ち、「Vne3=Vc12・Vun3」で算出することができる。但し「・」はベクトルの内積を示す。また、乖離ベクトルVne3の向きは、単位法線ベクトルVun3の向きと同一である。
【0124】
そして、理想状態(移動ベクトルVc12がゼロである状態)において、工具3が第3の加工面M3に接しているのであれば、上述した乖離ベクトルVne3をそのまま逆の方向に移動させれば、第1の加工面M1と第2の加工面M2との間で実施した補正による影響を解消することができる。即ち、図25に示すように、乖離ベクトルVne3の逆方向となるベクトルVcB3を設定する。
【0125】
次に、上述した(A)に示した補正を行う。具体的には、第1実施形態で示した補正と同様に、第3の加工面M3に工具3が接近、或いは食い込むのであれば、第3の加工面M3の法線方向に向けて工具3を移動させるための補正値を演算する。このベクトルをVcA3とする。例えば、図26(a)に示すように、工具3が第3の加工面M3に食い込む場合には、図26(b)に示すように、工具3をベクトルVcA3だけ移動させれば、食い込みを回避することができる。
【0126】
そして、前述したベクトルVcB3とベクトルVcA3を合成したベクトルVc3を算出する。即ち、(ベクトルVc3)=(ベクトルVcA3)+(ベクトルVcB3)である。合成したベクトルVc3が、第3の加工面M3を加工するために必要な補正ベクトルである。
【0127】
ここで、第1の加工面M1と第2の加工面M2との間では、工具3の輪郭誤差に起因する補正が完了しているので、新たに工具3の加工位置に補正を加えると、上記の補正が崩れるという懸念が生じる。しかし、前述したように、第1の加工面M1と第2の加工面M2との間の最終的な移動ベクトル、即ち、図23(b)に示した移動ベクトルVc12は、平面S上のベクトルであった。従って、平面Sに直交する方向(平面Sの法線方向)への移動であれば、移動ベクトルVc12は影響を受けない。従って、第1の加工面M1と第2の加工面M2との間での補正に影響を与えない。
【0128】
従って、図27(a)、(b)に示すように、上述したベクトルVc3(VcB3とVcA3の合成ベクトル)が平面Sの法線方向のベクトルに変換できれば良いことになる。この法線方向のベクトルを「VcS3」とする。
【0129】
ここで、ベクトルVc3とベクトルVcS3の方向は、共にCADデータから取得することができ、事前に算出することが可能である。従って、ベクトルVcS3の大きさを、ベクトルVc3の大きさ(正負の符号を含む)から求めれば良い。
【0130】
図28(a)~(c)に示すように、ベクトルVc3とベクトルVcS3のなす角度をθ2とすると、以下の(5)式が得られる。
【0131】
|VcS3|×cosθ2=|Vc3|
即ち、|VcS3|=|Vc3|/cosθ2 …(5)
ここまでで、ベクトルVcS3の大きさ(符号を含む)が求められ、且つベクトルVcS3の方向はCADデータから取得できるので、ベクトルVcS3が確定する。
【0132】
従って、第1の加工面M1、第2の加工面M2、第3の加工面M3の全てについての補正を考慮した補正ベクトル、即ち、「ベクトルVc12+ベクトルVcS3」を得ることができた。
【0133】
ベクトルVc12は、前述した第1実施形態で求められているので、以下では、具体的に「ベクトルVcS3」を算出する手順について説明する。
【0134】
工具3が第1の加工面M1と第2の加工面M2の二点接触でワーク5を加工する場合には、前述した図18に示した(3)式により、X、Y、Zの各座標を補正する。そして、上述したベクトルVc12のX軸成分をVc12x、Y軸成分をVc12y、Z軸成分をVc12zとすると、図18に示した(3)式は、次の(6)式となる。
【0135】
X[Px+Vc12x]
Y[Py+Vc12y]
Z[Pz+Vc12z] …(6)
三つの加工面M1、M2、M3の三点接触でワーク5を加工する場合には、上述したベクトルVcS3が加わることになる。ベクトルVcS3のX軸成分をVcS3x、Y軸成分をVcS3y、Z軸成分をVcS3zとすると、X、Y、Z座標は、次の(7)式となる。
【0136】
X[Px+Vc12x+VcS3x]
Y[Py+Vc12y+VcS3y]
Z[Pz+Vc12z+VcS3z] …(7)
従って、(7)式を具体的なNCプログラムにできれば、工具3による三点接触の加工を実施することができる。
【0137】
最初に、工具3の第3の加工面M3との間の距離効果係数Ed3(第2の距離効果係数)を算出する。距離効果係数の算出方法は前述した通りであり、該距離効果係数Ed3は「0~1」の範囲で変化する変数である。また、工具3が第3の加工面M3に接触した場合には、Ed3=1である。
【0138】
距離効果係数Ed3が算出されたら、上述の(A)に示した法線方向の補正を行う。具体的に、工具3の第3の加工面M3に対する補正ベクトルを算出する。この補正ベクトルのX、Y、Z成分をそれぞれ、VcAx、VcAy、VcAzとする。また、第3の加工面M3の加工点における単位法線ベクトルのX、Y、Z成分をそれぞれi3、j3、k3とし、工具3が第3の加工面M3に接触する角度に応じた参照符号を、#50Dとすると、上述した補正ベクトルは、次の(8)式で算出することができる。
【0139】
VcA3x=i3*#50D*Ed3
VcA3y=j3*#50D*Ed3
VcA3z=k3*#50D*Ed3 …(8)
次に、上述の(B)に示した第1の加工面M1と第2の加工面M2の補正動作によって生じた第3の加工面M3に対する食い込み、または切込不足を解消する処理を行う。
【0140】
前述した図23に示したように、第1の加工面M1と第2の加工面M2の最終的な移動ベクトルVc12と、第3の加工面M3の単位法線ベクトルの内積(これを、「IPS3c12」とする)を逆方向にしたものが、食い込みまたは切込不足を解消するための補正ベクトルとなる。このベクトルを「VcB3」とすると、ベクトルVcB3のX、Y、Z成分VcB3x、VcB3y、VcB3zは、図29に示す(9)式で算出することができる。但し、(9)式において、「IPS3c12=i3*Vc12x+j3*Vc12y+k3*Vc12z」である。
【0141】
上述した(8)式、及び(9)式を合成して、第3の加工面M3に対する工具3の補正ベクトルVc3(Vc3x、Vc3y、Vc3z)を算出する。即ち、以下の(10)式を用いて、補正ベクトルVc3を算出する。
【0142】
Vc3x=VcA3x+VcB3x
Vc3y=VcA3y+VcB3y
Vc3z=VcA3z+VcB3z …(10)
次に、補正ベクトルVc3を、平面Sの法線方向のベクトルに変換し、これをベクトルVcS3とする。
【0143】
この際、平面Sの単位法線ベクトル(即ち、ベクトルVcS3の向き)は事前に得られる。しかし、ベクトルVcS3の大きさ|VcS3|は、「|Vc3|/cosθ2」を求める計算をNCプログラムとして記述しなければならない。特に、ベクトルの大きさ(スカラー)の計算は、X、Y、Zの各成分の二乗和の平方根を演算することにより算出することができる。しかし、この演算はNCプログラムの1行に詰め込むには長すぎる。
【0144】
そこで、ベクトルVcS3と、自身の単位ベクトル(i3、j3、k3)との内積を演算すれば、「cos(0°)=1」であるから、スカラーを演算できる。更に、ベクトルVcS3の符号(Sign(VcS3))も失われない。即ち、次の(11)式が得られる。
【0145】
|Vc3|*Sign(VcS3)=Vc3x*i3+Vc3y*j3+Vc3z*k3 …(11)
平面Sの単位法線ベクトルをi4、j4、k4とし、第3の加工面M3と平面Sとのなす角度をθ2として、第3の加工面M3の最終的な補正ベクトルVc3を展開すると、図30に示す(12)式となる。但し、i4、j4、k4の向きは、第3の加工面M3の法線と近い方向、即ち、第3の加工面M3の法線との内積が正となる向きである。
【0146】
図30に示した(12)式から理解されるように、「Vc3x*i3+Vc3y*j3+Vc3z*k3」の項は、X、Y、Z軸に関わらず共通である。この項を展開すると、図31に示す(13)式となる。
【0147】
更に、上記の(13)式に示した「IPS3c12」を展開すると、図32に示す(14)式となる。
【0148】
従って、図30図32に示す(12)~(14)式により、ベクトルVcS3が展開されたことになる。これらの式に含まれる項は、各面の法線ベクトル、回避ベクトル、距離効果係数、三角関数、加工時に決定されている参照符号#50A、#50C、#50Dであり、既知の数値である。従って、工具3の最終的な「移動ベクトルVcS3」を算出することができる。
【0149】
具体的に(7)式を、前述した(3)式、及び(12)式に基づいて展開すると、図33に示す(15)~(18)式が得られる。
【0150】
更に、(15)式、(18)式を参照すると、図34に示す(19)式に集約することができる。(19)式において、Px、α、β、γは全て実数値である。従って、実加工時におけるNCプログラムによる演算負荷が高まることがない。
【0151】
こうして、移動ベクトルVcS3を用いて、工具3の加工位置を補正することにより、工具3がワーク5の三つの面に接して加工する場合において、工具3の輪郭誤差を考慮した安定的な加工を行うことができるのである。
【0152】
[第2実施形態の効果の説明]
このようにして、第2実施形態に係る加工装置では、工具3がワーク5の第1の加工面M1と第2の加工面M2の二点加工から、第3の加工面M3の三点加工に移行する際に、平面Sに対して法線方向となるベクトルを算出して、このベクトルを補正することにより、工具3と第3の加工面M3との干渉を回避している。
【0153】
更に、二点加工から三点加工に移行するとき、工具3(エンドミル)と第3の加工点との距離が所定の距離以内に接近した際に、第1、第2の加工点における補正値と、第3の加工点における補正値及び第2の距離効果係数に基づいて位置ずれを補正する。
【0154】
従って、工具3による第1の加工面M1と第2の加工面M2の二点加工から、第3の加工面M3を含む三点加工に移行する際に、工具3が第3の加工面M3に食い込む、或いは切込不足を解消することが可能となる。その結果、三点加工においても高精度にワーク5を加工することが可能となる。
【0155】
以上、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0156】
1 加工装置
3 工具(エンドミル;ボールエンドミル)
5、51 ワーク
7 ワーク保持部
9 工具保持部
13 制御部
14 メモリ
17 先端部
19 ベッド
21 テーブル
23 コラム
25 主軸支持体
27 主軸筐体
29 スピンドル
31 工具形状測定装置
33 パソコン
33a 演算部
37 CADデータ
41、43 加工パス
52 切込部
53 平板
131 位置ずれ検出部
331 位置ずれ補正部
332 距離効果係数算出部
333 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34