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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】荷役作業車両
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20221004BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20221004BHJP
   F16H 61/423 20100101ALI20221004BHJP
   F16H 61/433 20100101ALI20221004BHJP
【FI】
E02F9/22 H
E02F9/22 R
E02F3/43 F
F16H61/423
F16H61/433
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020547791
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036236
(87)【国際公開番号】W WO2020065914
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 幸次
(72)【発明者】
【氏名】吉川 正規
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲二
(72)【発明者】
【氏名】抜井 祐樹
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5092071(JP,B1)
【文献】特開昭57-180511(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
E02F 3/43
F16H 61/40
B66F 9/24
B65G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪と、
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される可変容量型の走行用油圧ポンプと、
前記走行用油圧ポンプと閉回路状に接続されて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達する可変容量型の走行用油圧モータと、
車体の前部に設けられて上下方向に回動可能な荷役作業機と、
を備えた荷役作業車両において、
前記荷役作業車両の走行状態を検出する走行状態検出器と、
前記荷役作業機の動作を検出する動作検出器と、
前記荷役作業車両の最大けん引力を制限する制限モードと、前記荷役作業車両の最大けん引力を制限しない通常モードと、を切り替えるモード切替装置と、
前記走行用油圧ポンプ及び前記走行用油圧モータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記モード切替装置からのモード切替信号に基づいて、前記制限モードが選択されているか否かを判定し、
前記制限モードが選択されていると判定された場合に、前記走行状態検出器で検出された走行状態及び前記動作検出器で検出された前記荷役作業機の動作に基づいて、前記荷役作業車両の動作状態を特定し、
前記荷役作業機の上げ動作が行われていない状態で前記車体が走行していると特定された場合に、路面と前記車輪との間の静摩擦係数及び前記車体の重量に基づいて設定された第1設定値に前記荷役作業車両の最大けん引力を制限し、
前記荷役作業機による掘削対象物の掘削の開始が特定された場合に、前記荷役作業機の上げ動作に応じて、前記荷役作業車両の最大けん引力を前記第1設定値から当該第1設定値よりも大きい第2設定値まで上昇させ
前記荷役作業機による前記掘削対象物の掘削の開始が特定され、かつ、前記荷役作業機が水平姿勢をとった場合に、前記荷役作業車両の最大けん引力を前記第2設定値で一定とする
ことを特徴とする荷役作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の荷役作業車両において、
前記第2設定値は、路面と前記車輪との間の静止摩擦係数、前記車体の重量、及び前記荷役作業機の掘り起こし力に基づいて設定される
ことを特徴とする荷役作業車両。
【請求項3】
請求項1に記載の荷役作業車両において、
前記コントローラは、
前記走行用油圧モータの最大押しのけ容積を調整することにより前記荷役作業車両の最大けん引力を制御する
ことを特徴とする荷役作業車両。
【請求項4】
請求項1に記載の荷役作業車両において、
前記エンジンにより駆動されて前記荷役作業機に作動油を供給する荷役用油圧ポンプと、
前記荷役作業機を操作するための操作装置と、
を備え、
前記動作検出器は、
前記荷役用油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出器、及び前記操作装置の操作量を検出する操作量検出器のうちの少なくともいずれかである
ことを特徴とする荷役作業車両。
【請求項5】
請求項1に記載の荷役作業車両において、
前記荷役作業機は、
先端部にアタッチメントが回動可能に取り付けられたリフトアームを有し、
前記コントローラは、
前記リフトアームの上げ操作が開始されたことを判定することにより前記荷役作業機による前記掘削対象物の掘削の開始を特定する
ことを特徴とする荷役作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂や鉱物等を掘削してダンプトラック等へ積み込む荷役作業を行う荷役作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダに代表されるように、走行用の油圧回路と、掘削等を行う荷役作業機用の油圧回路と、を備えた荷役作業車両では、けん引力(走行駆動力)と荷役作業機の掘り起し力とのバランスが重要になる。荷役作業機の掘り起し力に対してけん引力が大き過ぎる場合、バケットを掘削対象物に突っ込んだ後、リフトアームを動作させてバケットを上方向に持ち上げる際に、車輪がスリップしてしまい、かえってけん引力が小さくなって土砂等の荷がバケットに入りづらくなってしまう。また、この場合、掘削対象物にバケットを突っ込んだ際に、リフトアームに作用する反力が大きくなり、当該反力が抵抗となってバケットやリフトアームが上方向に持ち上がらないことがある。
【0003】
例えば特許文献1には、走行用の油圧回路として、エンジンによって駆動される可変容量形の走行用油圧ポンプと、油圧ポンプからの圧油により駆動する可変容量形の走行用油圧モータと、を有し、走行用油圧ポンプと走行用油圧モータとを一対の主管路によって閉回路接続したHST回路を用いたホイールローダが開示されている。このホイールローダでは、掘削対象物である地山に向けて突進してバケット内に荷を取り込む際には、HSTモータの最大傾転を上限値に設定することにより、最大けん引力をその上限まで発揮させてバケット内に十分な荷を取り込むことを可能としている。また、リフトアームを上げ操作してバケットを上方向に持ち上げる際には、HSTモータの最大傾転を上限値の50~70%程度に制限することにより、けん引力が大きくなり過ぎることを抑制してリフトアームの上げ操作力(荷役作業機の掘り起し力)とけん引力とのバランスを良好に維持し、荷が入ったバケットの持ち上げ動作を容易にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5129493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業現場において、車輪が滑りやすい路面、すなわち車輪と路面との間の静摩擦係数が小さい場所では、ホイールローダは、設定された最大けん引力よりも低いけん引力で車輪がスリップしてしまう。したがって、特許文献1に記載のホイールローダが滑りやすい路面を走行しながら地山に突入する場合、車輪がスリップを起こしやすくなる。車輪がスリップすると、けん引力が一気に低下すると共に、路面が掘られて凹んだ状態になり、ホイールローダの作業効率が低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、滑りやすい路面での作業であっても作業効率を向上させることが可能な荷役作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、複数の車輪と、エンジンと、前記エンジンにより駆動される可変容量型の走行用油圧ポンプと、前記走行用油圧ポンプと閉回路状に接続されて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達する可変容量型の走行用油圧モータと、車体の前部に設けられて上下方向に回動可能な荷役作業機と、を備えた荷役作業車両において、前記荷役作業車両の走行状態を検出する走行状態検出器と、前記荷役作業機の動作を検出する動作検出器と、前記荷役作業車両の最大けん引力を制限する制限モードと、前記荷役作業車両の最大けん引力を制限しない通常モードと、を切り替えるモード切替装置と、前記走行用油圧ポンプ及び前記走行用油圧モータを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記モード切替装置からのモード切替信号に基づいて、前記制限モードが選択されているか否かを判定し、前記制限モードが選択されていると判定された場合に、前記走行状態検出器で検出された走行状態及び前記動作検出器で検出された前記荷役作業機の動作に基づいて、前記荷役作業車両の動作状態を特定し、前記荷役作業機の上げ動作が行われていない状態で前記車体が走行していると特定された場合に、路面と前記車輪との間の静摩擦係数及び前記車体の重量に基づいて設定された第1設定値に前記荷役作業車両の最大けん引力を制限し、前記荷役作業機による掘削対象物の掘削の開始が特定された場合に、前記荷役作業機の上げ動作に応じて、前記荷役作業車両の最大けん引力を前記第1設定値から当該第1設定値よりも大きい第2設定値まで上昇させ、前記荷役作業機による前記掘削対象物の掘削の開始が特定され、かつ、前記荷役作業機が水平姿勢をとった場合に、前記荷役作業車両の最大けん引力を前記第2設定値で一定とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、滑りやすい路面での作業であっても作業効率を向上させることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るホイールローダの外観を示す側面図である。
図2】ホイールローダの掘削作業について説明する説明図である。
図3】ホイールローダの走行駆動に係る油圧回路及び電気回路を示す図である。
図4】アクセルペダル踏込量と目標エンジン回転速度との関係を示すグラフである。
図5】(a)はエンジン回転速度とHSTポンプの押しのけ容積との関係を示すグラフ、(b)はエンジン回転速度とHSTポンプの入力トルクとの関係を示すグラフ、(c)はエンジン回転速度とHSTポンプの吐出流量との関係を示すグラフである。
図6】荷役作業機の駆動に係る油圧回路を示す図である。
図7】荷役用油圧ポンプの吐出圧とスプールの開口面積との関係を示すグラフである。
図8】コントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図9】コントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図10】荷役用油圧ポンプの吐出圧とHSTモータの最大押しのけ容積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る荷役作業車両の一態様として、ホイールローダについて説明する。
【0011】
(ホイールローダ1の全体構成)
まず、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の全体構成について、図1及び図2を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の外観を示す側面図である。図2は、ホイールローダ1の掘削作業について説明する説明図である。
【0013】
ホイールローダ1は、前フレーム1A及び後フレーム1Bで構成される車体と、車体の前部に設けられた荷役作業機2と、を備えている。ホイールローダ1は、車体が中心付近で中折れすることにより操舵するアーティキュレート式の作業車両である。前フレーム1Aと後フレーム1Bとは、センタジョイント10によって左右方向に回動自在に連結されており、前フレーム1Aが後フレーム1Bに対して左右方向に屈曲する。
【0014】
前フレーム1Aには左右一対の前輪11Aが、後フレーム1Bには左右一対の後輪11Bが、それぞれ設けられている。なお、図1では、左右一対の前輪11A及び後輪11Bのうち、左側の前輪11A及び後輪11Bのみを示している。以下の説明において、「前輪11A及び後輪11B」を単に「車輪11A,11B」とする場合がある。
【0015】
また、後フレーム1Bには、オペレータが搭乗する運転室12と、エンジンやコントローラ、油圧ポンプ等の各機器を内部に収容する機械室13と、車体が傾倒しないように荷役作業機2とのバランスを保つためのカウンタウェイト14と、が設けられている。後フレーム1Bにおいて、運転室12は前部に、カウンタウェイト14は後部に、機械室13は運転室12とカウンタウェイト14との間に、それぞれ配置されている。
【0016】
荷役作業機2は、前フレーム1Aに取り付けられたリフトアーム21と、伸縮することによりリフトアーム21を前フレーム1Aに対して上下方向に回動させる一対のリフトアームシリンダ22と、リフトアーム21の先端部に取り付けられたバケット23と、伸縮することによりバケット23をリフトアーム21に対して上下方向に回動させるバケットシリンダ24と、リフトアーム21に回動可能に連結されてバケット23とバケットシリンダ24とのリンク機構を構成するベルクランク25と、一対のリフトアームシリンダ22やバケットシリンダ24へ圧油を導く複数の配管(不図示)と、を有している。なお、図1では、一対のリフトアームシリンダ22のうち、左側に配置されたリフトアームシリンダ22のみを破線で示している。
【0017】
リフトアーム21は、各リフトアームシリンダ22のロッド220が伸びることにより上方向に回動し、各ロッド220が縮むことにより下方向に回動する。バケット23は、バケットシリンダ24のロッド240が伸びることによりチルト(リフトアーム21に対して上方向に回動)し、ロッド240が縮むことによりダンプ(リフトアーム21に対して下方向に回動)する。
【0018】
このホイールローダ1は、例えば露天掘り鉱山等において、土砂や鉱物等を掘削してダンプトラック等へ積み込む荷役作業を行うための荷役作業車両である。なお、ホイールローダ1では、バケット23をブレード等の各種アタッチメントに交換可能であり、荷役作業の他に押土作業や除雪作業等の各種作業を行うことができる。
【0019】
次に、ホイールローダ1の掘削作業について、図2(a)~(c)を参照して説明する。
【0020】
まず、ホイールローダ1は、掘削対象物である地山100に向かってフルアクセルの状態で前進し、バケット23を地山100に突入させる(図2(a)に示す状態)。次に、オペレータがバケット23をチルトさせながらリフトアーム21を上げ操作することにより、又はバケット23をチルトさせた後にリフトアーム21を上げ操作することにより、ホイールローダ1は土砂や鉱物等の荷を掬い上げる(図2(b)に示す状態)。そして、オペレータによるリフトアーム21の上げ操作により、荷が積まれた状態のバケット23はさらに上方に持ち上がる(図2(c)に示す状態)。
【0021】
図2(a)~(c)に示すこの一連の作業を「掘削作業」とし、このうち図2(a)に示すホイールローダ1の動作を「突入」とし、図2(b)及び図2(c)に示すホイールローダ1の動作において、オペレータの操作によってリフトアーム21の上げ動作が行われている間を「掘削」とする。したがって、荷を掬い上げる際、バケット23をチルトさせた後にリフトアーム21の上げ操作を行う場合は、リフトアーム21の上げ操作を開始した時点からを「掘削」とする。
【0022】
(走行駆動システムについて)
次に、ホイールローダ1の走行駆動システムについて、図3~5を参照して説明する。
【0023】
図3は、ホイールローダ1の油圧回路及び電気回路を示す図である。図4は、アクセルペダル踏込量と目標エンジン回転速度との関係を示すグラフである。図5(a)はエンジン回転速度とHSTポンプ41の押しのけ容積との関係を示すグラフ、図5(b)はエンジン回転速度とHSTポンプ41の入力トルクとの関係を示すグラフ、図5(c)はエンジン回転速度とHSTポンプ41の吐出流量との関係を示すグラフである。
【0024】
本実施形態に係るホイールローダ1は、閉回路の油圧回路を有したHST式走行駆動装置を備え、このHST式走行駆動装置は、図3に示すように、エンジン3と、作動油を貯蔵する作動油タンク40と、エンジン3により駆動される走行用油圧ポンプとしてのHSTポンプ41と、HSTポンプ41を制御するための圧油を補給するHSTチャージポンプ41Aと、一対の管路400L,400Rを介してHSTポンプ41と閉回路状に接続された走行用油圧モータとしてのHSTモータ42と、車体の前後進を切り換える前後進切換弁43と、HSTポンプ41やHSTモータ42等の各機器を制御するコントローラ5と、を有して構成されている。
【0025】
HSTポンプ41は、傾転角に応じて押しのけ容積が制御される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。傾転角は、HSTチャージポンプ41Aから吐出された圧油が作用することで駆動される傾転シリンダ44により調整される。
【0026】
HSTモータ42は、傾転角に応じて押しのけ容積が制御される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧モータであり、エンジン3の駆動力を車輪11A,11Bに伝達する。傾転角は、コントローラ5から出力された指令信号にしたがってレギュレータ420により調整される。
【0027】
HST式走行駆動装置では、まず、運転室12内に設けられたアクセルペダル61をオペレータが踏み込むとエンジン3が回転し、エンジン3の駆動力によりHSTポンプ41が駆動する。また、エンジン3の駆動力によりHSTチャージポンプ41Aも駆動されて、HSTチャージポンプ41Aから吐出された圧油が前後進切換弁43を介して傾転シリンダ44に導かれる。
【0028】
前後進切換弁43は、チャージポンプ41Aと傾転シリンダ44との間に設けられている。前後進切換弁43は、一対の主管路800A,800BによりHSTチャージポンプ41Aの吐出側に接続された吐出管路800と接続されている。さらに、前後進切換弁43は、一対のパイロット管路800L,800Rにより傾転シリンダ44の左右の油室44L,44Rと接続されている。
【0029】
前後進切換弁43は、車体を前進させる前進位置43Aと、車体を後進させる後進位置43Bと、車体を停止させる中立位置43Nと、を有し、運転室12内に設けられた前後進切換レバー62により操作される。
【0030】
図3に示すように、前後進切換弁43が中立位置43Nのとき、HSTチャージポンプ41Aから吐出された圧油は、一方の主管路800B上に設けられた絞り401を介して傾転シリンダ44の左右の油室44L,44Rにそれぞれ等しく作用する。これにより、傾転シリンダ44のロッドは中立に位置するため、HSTポンプ41の押しのけ容積は0となり、HSTポンプ41の吐出量は0となる。したがって、車体は停止状態となる。
【0031】
一方、前後進切換弁43が前進位置43Aに切り換わると、傾転シリンダ44の左側の油室44Lには絞り401の上流側圧力が作用し、右側の油室44Rには絞り401の下流側圧力が作用する。そして、左右の油室44L,44Rの間に生じた圧力差により、傾転シリンダ44のロッドが図3における右方向に作動する。これにより、HSTポンプ41の傾転角が大きくなり、HSTポンプ41からの作動油が管路400Lを通ってHSTモータ42に導かれ、HSTモータ42が正転して車体が前進する。
【0032】
他方、前後進切換弁43が後進位置43Bに切り換わると、傾転シリンダ44の左側の油室44Lには絞り401の下流側圧力が作用し、右側の油室44Rには絞り401の上流側圧力が作用する。そして、左右の油室44L,44Rの間に生じた圧力差により、傾転シリンダ44のロッドが図3における左方向に作動する。これにより、HSTポンプ41の傾転角が大きくなり、HSTポンプ41からの作動油が管路400Rを通ってHSTモータ42に導かれ、HSTモータ42が反転して車体が後進する。
【0033】
このように、HSTポンプ41から導かれた作動油でHSTモータ42が回転することにより、HSTモータ42からの出力トルクがアクスル15を介して前輪11A及び後輪11Bに伝達されてホイールローダ1が走行する。したがって、HSTモータ42の出力トルクは、ホイールローダ1の走行駆動力、すなわち車体のけん引力となる。
【0034】
HSTモータ42の出力トルクは、HSTモータ42の押しのけ容積(傾転角)と走行負荷圧力(=管路400Lの圧力-管路400Rの圧力)との積で表されることから、HSTモータ42の押しのけ容積を制御することで車体のけん引力を制御することができる。
【0035】
エンジン3の回転数はアクセルペダル61の踏込量により調整され、エンジン3に接続されたHSTチャージポンプ41Aの吐出量はエンジン3の回転数に比例する。したがって、絞り401の前後差圧はエンジン3の回転数に比例し、HSTポンプ41の傾転角もエンジン3の回転数に比例する。
【0036】
アクセルペダル61の踏込量は、アクセルペダル61に取り付けられた踏込量センサ610で検出される。エンジン3は、踏込量センサ610で検出された踏込量に応じた目標エンジン回転速度にしたがって、回転数が制御される。
【0037】
図4に示すように、アクセルペダル61の踏込量と目標エンジン回転速度とは比例関係にあり、アクセルペダル61の踏込量が大きくなると目標エンジン回転速度は速くなる。そして、アクセルペダル61の踏込量がS2になった時に目標エンジン回転速度が最高回転速度Nmax1となる。
【0038】
図4において、アクセルペダル61の踏込量0~S1の範囲(例えば0%~20あるいは30%の範囲)は、アクセルペダル61の踏込量にかかわらず目標エンジン回転速度が所定の最低回転速度Nminで一定となる不感帯として設定されている。また、アクセルペダル61の踏込量S2~100の範囲(例えば70あるいは80%~100%の範囲)は、目標エンジン回転速度がアクセルペダル61の踏込量にかかわらず最高目標エンジン回転速度Nmaxに維持されるように設定されている。なお、これらの範囲は、任意に設定変更可能である。
【0039】
次に、エンジン3とHSTポンプ41との関係は、図5(a)~(c)に示す通りである。
【0040】
図5(a)に示すように、エンジン回転速度がN1からN2までの間では、エンジン3の回転速度NとHSTポンプ41の押し退け容積qとは比例関係にあり、エンジン3の回転速度がN1からN2になるまで速くなるにつれて(N1<N2)、押しのけ容積は0から所定の値qcまで大きくなる。エンジン回転速度がN2以上では、HSTポンプ41の押しのけ容積は、エンジン回転速度にかかわらず所定の値qcで一定となる。
【0041】
HSTポンプ41の入力トルクは、押しのけ容積に吐出圧力を積算したもの(入力トルク=押しのけ容積×吐出圧力)である。図5(b)に示すように、エンジン回転速度がN1からN2までの間では、エンジン3の回転速度NとHSTポンプ41の入力トルクTとは比例関係にあり、エンジン3の回転速度がN1からN2になるまで速くなるにつれて、入力トルクは0から所定の値Tcまで大きくなる。エンジン回転速度がN2以上では、HSTポンプ41の入力トルクは、エンジン回転速度にかかわらず所定の値Tcで一定となる。
【0042】
図5(c)に示すように、エンジン回転速度がN1からN2までの間では、HSTポンプ41の吐出流量Qとエンジン3の回転速度Nとは二次の比例関係にあり、エンジン3の回転速度がN1からN2になるまで速くなるにつれて、HSTポンプ41の吐出流量は0からQ1まで増加する。エンジン回転速度がN2以上では、エンジン3の回転速度NとHSTポンプ41の吐出流量Qとは一次の比例関係にある。
【0043】
したがって、エンジン3の回転速度Nが速くなるとHSTポンプ41の吐出流量Qが増え、HSTポンプ41からHSTモータ42に流入する圧油の流量が増えるため、HSTモータ42の回転数が増大し、車速が速くなる。なお、車速は、HSTモータ42の回転速度としてモータ回転速度センサ72で検出する(図3参照)。
【0044】
このように、HST式走行駆動装置では、HSTポンプ41の吐出流量を連続的に増減させることにより車速を制御(変速)するため、ホイールローダ1は滑らかな発進、及び衝撃の少ない停止が可能となる。
【0045】
なお、図3に示すように、HSTチャージポンプ41Aから吐出された圧油は、絞り401及びチェック弁402A,402Bを通って管路400L,400Rにも導かれる。絞り401の下流側圧力は、前後進切換弁43と作動油タンク40とを接続する管路上に設けられたチャージリリーフ弁403により制限され、管路400L,400Rの最高圧力はリリーフ弁404により制限される。
【0046】
本実施形態におけるHST式走行駆動装置には、HSTポンプ41からの作動油をHSTモータ42に導く管路400L,400Rの管路圧力のうち高い方の圧力を選択する高圧選択弁405が備えられており、高圧選択弁405で選択された圧力がコントローラ5に入力される。
【0047】
また、ホイールローダ1は、ホイールローダ1の最大けん引力(走行駆動力)を制限する制限モードと、ホイールローダ1の最大けん引力を制限しない通常モードと、を切り替えるモード切替装置60を運転室12内に備えており、モード切替装置60からの切替信号がコントローラ5に入力される。
【0048】
(荷役作業機2の駆動システムについて)
次に、荷役作業機2の駆動システムについて、図3図6、及び図7を参照して説明する。
【0049】
図6は、荷役作業機2の駆動に係る油圧回路を示す図である。図7は、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧とスプールの開口面積との関係を示すグラフである。
【0050】
図3及び図6に示すように、ホイールローダ1は、エンジン3により駆動されて荷役作業機2に作動油を供給する荷役用油圧ポンプ45と、リフトアームシリンダ22及びバケットシリンダ24のそれぞれと荷役用油圧ポンプ45との間に設けられて荷役用油圧ポンプ45からリフトアームシリンダ22及びバケットシリンダ24にそれぞれ供給される圧油の流れを制御するコントロールバルブ46と、リフトアーム21を操作するためのリフトアーム操作レバー210と、バケット23を操作するためのバケット操作レバー230と、を備える。
【0051】
荷役用油圧ポンプ45は、本実施形態では、固定式の油圧ポンプが用いられ、図6に示すように、第1管路801によりコントロールバルブ46に接続されている。荷役用油圧ポンプ45からの吐出圧は第1管路801上に設けられた吐出圧センサ75で検出され、検出された吐出圧に係る信号がコントローラ5に入力される。吐出圧センサ75は、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧を検出する吐出圧検出器の一態様である。
【0052】
リフトアーム操作レバー210及びバケット操作レバー230はいずれも、荷役作業機2を操作するための操作装置の一態様であり、運転室12(図1参照)内に設けられている。例えば、オペレータがリフトアーム操作レバー210を操作すると、その操作量に比例したパイロット圧が操作信号として生成される。
【0053】
図6に示すように、生成されたパイロット圧は、コントロールバルブ46の一対の受圧室に接続された一対のパイロット管路64L,64Rに導かれて、コントロールバルブ46に作用する。これにより、コントロールバルブ46内のスプールが当該パイロット圧に応じてストロークし、作動油が流れる方向及び流量が決まる。コントロールバルブ46は、第2管路802によりリフトアームシリンダ22のボトム室に接続され、第3管路803によりリフトアームシリンダ22のロッド室に接続されている。
【0054】
荷役用油圧ポンプ45から吐出された作動油は、第1管路801に導かれ、コントロールバルブ46を介して第2管路802又は第3管路803に導かれる。作動油が第2管路802に導かれると、リフトアームシリンダ22のボトム室に流入し、これによりリフトアームシリンダ22のロッド220が伸長してリフトアーム21が上昇する。一方、作動油が第3管路803に導かれると、リフトアームシリンダ22のロッド室に流入し、リフトアームシリンダ22のロッド220が縮んでリフトアーム21が下降する。
【0055】
図6に示すように、リフトアーム操作レバー210の上げ操作量はリフトアーム操作レバー210に取り付けられた操作量センサ76で検出される。この操作量センサ76は、操作装置であるリフトアーム操作レバー210の操作量を検出する操作量検出器の一態様である。
【0056】
本実施形態では、リフトアーム操作レバー210及びバケット操作レバー230はそれぞれ油圧式レバーであるが、電気式レバーを用いてもよく、この場合には、操作量に応じた電流値が操作信号として生成される。
【0057】
図7に示すように、リフトアーム操作レバー210の上げ操作量とコントロールバルブ46のスプールの開口面積とは比例関係にあり、リフトアーム操作レバー210の上げ操作量が増えるとスプールの開口面積も大きくなる。したがって、リフトアーム21を上げる方向にリフトアーム操作レバー210を大きく操作すると、リフトアームシリンダ22のボトム室へ流入する作動油量が多くなり、ロッド220が速く伸長する。すなわち、リフトアーム操作レバー210の操作量が増大するにつれて、リフトアーム21の動作速度が速くなる。
【0058】
図7において、リフトアーム操作レバー210の上げ操作量0~10%の範囲は、リフトアーム操作レバー210を操作してもスプールは開口せず開口面積が0%となる不感帯として設定されている。また、リフトアーム操作レバー210の上げ操作量85~100%の範囲では、スプールの開口面積は100%で一定となっており、フルレバー操作状態が維持されている。なお、これらの設定範囲は、任意に変更可能である。
【0059】
ここで、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧及びリフトアーム操作レバー210の操作量はそれぞれリフトアーム21の動作を示す指標であり、吐出圧センサ75及び操作量センサ76はいずれも、リフトアーム操作レバー210によるリフトアーム21の動作を検出する動作検出器の一態様である。
【0060】
リフトアーム21の動作を精度よく検出するためには、吐出圧センサ75及び操作量センサ76のそれぞれで検出された値の両方を用いることが望ましいが、動作検出器としては、吐出圧センサ75及び操作量センサ76のうちの少なくともいずれかを用いればよい。
【0061】
バケット23の操作についても、リフトアーム21の操作と同様に、バケット操作レバー230の操作量に応じて生成されたパイロット圧がコントロールバルブ46に作用することによってコントロールバルブ46のスプールの開口面積が制御され、バケットシリンダ24へ流出入する作動油量が調整される。なお、図6では図示を省略しているが、バケット23の動作を検出するためのセンサ等についても、油圧回路の各管路上に設けられている。
【0062】
(コントローラ5の構成)
次に、コントローラ5の構成について、図8を参照して説明する。
【0063】
図8は、コントローラ5が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0064】
コントローラ5は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、及び出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、モード切替装置60や前後進切換レバー62等の各種の操作装置、及び吐出圧センサ75等の各種のセンサが入力I/Fに接続され、HSTモータ42のレギュレータ420等が出力I/Fに接続されている。
【0065】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスク等の記録媒体に格納された演算プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された演算プログラムを実行することにより、演算プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ5の機能を実現する。
【0066】
なお、本実施形態では、コントローラ5の構成をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより説明しているが、これに限らず、ホイールローダ1の側で実行される演算プログラムの機能を実現する集積回路を用いて構成してもよい。
【0067】
図8に示すように、コントローラ5は、データ取得部51と、モード判定部52と、動作状態特定部53と、モータ容量算出部54と、記憶部55と、けん引力制御部56と、を含む。
【0068】
データ取得部51は、モード切替装置60から出力されたモード切替信号、前後進切換レバー62の操作方向、及び吐出圧センサ75で検出された荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paに関するデータをそれぞれ取得する。
【0069】
モード判定部52は、データ取得部51で取得されたモード切替信号に基づいて、制限モードが選択されているか否かを判定する。
【0070】
動作状態特定部53は、モード判定部52にて制限モードが選択されていると判定された場合に、データ取得部51で取得された前後進切換レバー62の操作方向及び荷役用油圧ポンプ45の吐出圧に基づいて、ホイールローダ1の動作状態を特定する。具体的には、前後進切換レバー62の操作方向に基づいてホイールローダ1の走行状態を特定し、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧に基づいて荷役作業機2の動作状態を特定することにより、ホイールローダ1全体としての動作状態を特定する。
【0071】
本実施形態では、前後進切換レバー62の操作方向に基づいてホイールローダ1の走行状態を検出しているが、例えば、前後進切換レバー62から出力される操作方向に対応した前後進切換信号を検出したり、プロペラシャフトの回転方向から車体の進行方向が前進又は後進のいずれであるかを検出したりすることで、前後進切換レバー62の操作方向を検出することができる。なお、これらの前後進切換レバー62の操作方向を検出するセンサ等はホイールローダ1の走行状態を検出する走行状態検出器の一態様であって、これに限らず、車体に搭載された他の走行状態検出器で検出されたデータ(例えば踏込量センサ610で検出されたアクセルペダル61の踏込量等)を用いてホイールローダ1の走行状態を特定してもよい。
【0072】
モータ容量算出部54は、動作状態特定部53にて荷役作業機2の上げ動作が行われていない状態で車体が走行していると特定された場合に、ホイールローダ1の最大けん引力が第1設定値となるHSTモータ42の最大押しのけ容積q1(以下、「第1最大押しのけ容積q1」とする)を算出する。また、モータ容量算出部54は、動作状態特定部53にて荷役作業機2による地山100の掘削の開始が特定された場合に、ホイールローダ1の最大けん引力が第2設定値となるHSTモータ42の最大押しのけ容積q2(以下、「第2最大押しのけ容積q2」とする)を算出する。
【0073】
ここで、「荷役作業機2の上げ動作が行われていない状態で車体が走行していると特定された場合」とは、具体的には、バケット23を地山100へ突入させている場合や、荷役作業機2(バケット23)を使って路面を押しながら均すドージング作業(押土作業)を行っている場合に相当する。
【0074】
なお、「荷役作業機2の上げ動作が行われていない状態」とは、本実施形態では、リフトアーム21の上げ動作が行われていない状態を示しており、バケット23の動作の有無を含まないこととする。例えば、実際のドージング作業では、オペレータはバケット操作レバー230を操作してバケット23の角度を少し変えているが、本バケット23の動作は、動作状態特定部53では「荷役作業機2の上げ動作が行われていない状態」として特定される。
【0075】
「第1設定値」とは、路面と車輪11A,11Bとの間の静摩擦係数μ及び車体の重量(以下、「車重」とする)に基づいて設定された値である。また、「第2設定値」とは、路面と車輪11A,11Bとの間の静摩擦係数μ、車重、及び荷役作業機2(リフトアーム21)の掘り起し力に基づいて設定された値であって、第1設定値よりも大きい値である(第2設定値>第1設定値)。
【0076】
例えば、路面と車輪11A,11Bとの間の静摩擦係数μが0.4~0.5(μ=0.4~0.5)の滑りやすい路面でホイールローダ1が作業を行う場合において、地山100へのバケット23の突入時やドージング作業時は、ホイールローダ1の最大けん引力は第1設定値として車重の40~50%の大きさに設定される。
【0077】
一方、掘削作業時は、荷役作業機2の掘り起し力を車重の70%としたとき、ホイールローダ1の最大けん引力は第2設定値として車重の50~70%の大きさに設定される。すなわち、掘削作業時におけるホイールローダ1の最大けん引力は、地山100へのバケット23の突入時やドージング作業時におけるホイールローダ1の最大けん引力と比べて大きく設定される。これは、掘削時にリフトアーム21の上げ操作をすることで、自重(車重)に加えてリフトアーム21の掘り起こし力が車輪11A,11Bに対して作用するため、最大けん引力を地山100へのバケット23の突入時やドージング作業時よりも上昇させても車輪11A,11Bがスリップしづらく、掘削効率を低下させることなく作業が可能となるからである。
【0078】
記憶部55は、リフトアーム21の上げ動作に必要な操作量(荷役用油圧ポンプ45の吐出圧)に関する第1閾値P1及び第2閾値P2をそれぞれ記憶している。第1閾値P1は、ホイールローダ1が荷役作業機2により掘削を開始する時の荷役用油圧ポンプ45の吐出圧である。第2閾値P2は、掘削においてリフトアーム21が水平姿勢をとった時の荷役用油圧ポンプ45の吐出圧である。また、記憶部55は、前述の第1設定値及び第2設定値をそれぞれ記憶している。
【0079】
けん引力制御部56は、動作状態特定部53にて荷役作業機2の上げ動作が行われていない状態で車体が走行していると特定された場合には、モータ容量算出部54で算出された第1最大押しのけ容積q1に基づく指令信号をHSTモータ42のレギュレータ420に出力し、HSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第1最大押しのけ容積q1に制限する。
【0080】
一方、けん引力制御部56は、動作状態特定部53にて荷役作業機2による地山100の掘削の開始が特定された場合には、モータ容量算出部54で算出された第2最大押しのけ容積q2に基づく指令信号をHSTモータ42のレギュレータ420に出力し、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paの増加につれてHSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第2最大押しのけ容積q2まで上昇させる。
【0081】
なお、動作状態特定部53にて荷役作業機2による地山100の掘削中が特定されている場合であって、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paが第2閾値P2以上であるときには、けん引力制御部56は、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paの増加にかかわらず、HSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第2最大押しのけ容積q2に維持する(一定値とする)。
【0082】
(コントローラ5内での処理及びホイールローダ1の動作)
次に、コントローラ5内で実行される具体的な処理の流れ、及びコントローラ5の制御に伴うホイールローダ1の動作について、図9及び図10を参照して説明する。
【0083】
図9は、コントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。図10は、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧PaとHSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxとの関係を示すグラフである。
【0084】
まず、データ取得部51は、モード切替装置60から出力されたモード切替信号を取得する(ステップS501)。次に、モード判定部52は、ステップS501で取得されたモード切替信号に基づいて、制限モードが選択されているか否かを判定する(ステップS502)。
【0085】
ステップS502において制限モードが選択されていると判定された場合(ステップS502/YES)、データ取得部51は、前後進切換レバー62の操作方向、及び吐出圧センサ75から出力された荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paをそれぞれ取得する(ステップS503)。
【0086】
次に、動作状態特定部53は、ステップS503で取得された前後進切換レバー62の操作方向に基づいて車体が走行状態にあるか否かを判定すると共に、ステップS503で取得された吐出圧Paに基づいて吐出圧Paが第1閾値P1よりも小さいか否かを判定する(ステップS504)。
【0087】
ステップS504において、車体が走行状態であり、かつ吐出圧Paが第1閾値P1よりも小さい(Pa<P1)と判定された場合(ステップS504/YES)、すなわち、荷役作業機2の上げ動作が行われていない状態で車体が走行していると特定された場合、モータ容量算出部54は、ホイールローダ1の最大けん引力が第1設定値となる第1最大押しのけ容積q1を算出する(ステップS505)。
【0088】
そして、けん引力制御部56は、ステップS505において算出された第1最大押しのけ容積q1に基づく指令信号をHSTモータ42のレギュレータ420に出力し、HSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第1最大押しのけ容積q1に制限する(ステップS506)。これにより、ホイールローダ1の最大けん引力は第1設定値に制限される。
【0089】
ステップS504において、車体が走行中であり、かつ吐出圧Paが第1閾値P1よりも小さいと判定されなかった場合(ステップS504/NO)、動作状態特定部53は、ステップS503において取得された吐出圧Paが第1閾値P1以上であり第2閾値P2よりも小さいか否かを判定する(ステップS507)。
【0090】
ステップS507において、吐出圧Paが第1閾値P1以上であり第2閾値P2よりも小さい(P1≦Pa<P2)と判定された場合(ステップS507/YES)、すなわち、荷役作業機2による地山100の掘削の開始が特定された場合、モータ容量算出部54は、ホイールローダ1の最大けん引力が第2設定値となる第2最大押しのけ容積q2を算出する(ステップS508)。
【0091】
そして、けん引力制御部56は、ステップS508において算出された第2最大押しのけ容積q2に基づく指令信号をHSTモータ42のレギュレータ420に出力し、吐出圧Paの増加につれてHSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第2最大押しのけ容積q2まで上昇させる(ステップS509)。これにより、ホイールローダ1の最大けん引力は、第1設定値から第2設定値に向かって上昇する。
【0092】
ステップS507において、吐出圧Paが第1閾値P1以上であり第2閾値P2よりも小さいと判定されなかった場合(ステップS507/NO)、動作状態特定部53は、ステップS503において取得された吐出圧Paが第2閾値P2以上であるか否かを判定する(ステップS510)。
【0093】
ステップS510において、吐出圧Paが第2閾値P2以上である(Pa≧P2)と判定された場合(ステップS510/YES)、モータ容量算出部54は、ステップS508と同様に、ホイールローダ1の最大けん引力が第2設定値となる第2最大押しのけ容積q2を算出する(ステップS511)。
【0094】
そして、けん引力制御部56は、ステップS508において算出された第2最大押しのけ容積q2に基づく指令信号をHSTモータ42のレギュレータ420に出力し、吐出圧Paの増加に関係なくHSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第2最大押しのけ容積q2に上昇させる(ステップS512)。これにより、ホイールローダ1の最大けん引力は第2設定値で一定値として維持される。
【0095】
ステップS506、ステップS509、及びステップS512のそれぞれの処理が実行されると、コントローラ5はステップS503に戻る。また、ステップS502において制限モードが選択されていない、すなわち通常モードが選択されていると判定された場合(ステップS502/NO)、ならびにステップS510において吐出圧Paが第2閾値P2以上であると判定されなかった場合、すなわち車体及び荷役作業機2がいずれも停止状態である場合(ステップS510/NO)は共に、コントローラ5における処理が終了する。
【0096】
このようにモード切替装置60により制限モードが選択された場合、図10に示すように、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paが0以上P1未満(0≦Pa<P1)となるホイールローダ1の動作である地山100へのバケット23の突入やドージング作業では、HSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第1最大押しのけ容積q1に、すなわち最大けん引力を第1設定値に制限させることから、滑りやすい路面であっても車輪11A,11Bはスリップしにくくなり、作業効率が向上する。
【0097】
また、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧PaがP1以上(Pa≦P1)となるホイールローダ1の動作である地山100の掘削では、HSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを第1最大押しのけ容積q1から第2最大押しのけ容積q2に、すなわち最大けん引力を第1設定値から第2設定値に上昇させることから、滑りやすい路面であっても車輪11A,11Bのスリップを抑制しながらけん引力を維持させることができるため、掘削がしやすくなる。
【0098】
ホイールローダ1では、滑りやすい路面における作業であっても、路面と車輪11A,11Bとの間の静摩擦係数μ及び動作内容に基づいた最大けん引力の制御が可能であるため、オペレータは車輪11A,11Bのスリップを気にすることなく突入、掘削、あるいはドージング作業を行うことができ、オペレータの乗り心地も良好となり、オペレータの疲労低減にもつながる。
【0099】
なお、図10に示すように、滑りやすい路面では、荷役用油圧ポンプ45の吐出圧Paがリリーフ圧Prとなった場合であっても、HSTモータ42の最大押しのけ容積を通常モードにおける最大押しのけ容積の定格値(100%)とすると車輪11A,11Bがスリップしてしまうため、第2最大押しのけ容積q2以下にしておくことが望ましい。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態や変形例に限定されるものではなく、様々な他の変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態及び変形例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0101】
例えば、上記実施形態では、荷役用油圧ポンプ45は固定容量型の油圧ポンプを用いたが、これに限らず、可変容量型の油圧ポンプを用いても良い。
【0102】
また、上記実施形態では、HSTモータ42の最大押しのけ容積qmaxを調整することによりホイールローダ1の最大けん引力を制御していたが、これに限らず、例えばHSTポンプ41の押しのけ容積を調整することによりホイールローダ1の最大けん引力を制御してもよい。
【符号の説明】
【0103】
1:ホイールローダ(荷役作業車両)
2:荷役作業機
3:エンジン
5:コントローラ
11A:前輪(車輪)
11B:後輪(車輪)
21:リフトアーム
23:バケット(アタッチメント)
41:HSTポンプ(走行用油圧ポンプ)
42:HSTモータ(走行用油圧モータ)
45:荷役用油圧ポンプ
60:モード切替装置
62:前後進切換レバー(走行状態検出器)
75:吐出圧センサ(吐出圧検出器、動作検出器)
76:操作量センサ(操作量検出器、動作検出器)
100:地山(掘削対象物)
210:リフトアーム操作レバー(操作装置)
230:バケット操作レバー(操作装置)
610:踏込量センサ(走行状態検出器)
μ:静摩擦係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10