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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】正浸透膜及びそれを含む膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/02 20060101AFI20221004BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/54 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/62 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D61/00 500
B01D63/02
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/08
B01D71/02
B01D71/42
B01D71/44
B01D71/54
B01D71/56
B01D71/62
B01D71/68
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020548571
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036647
(87)【国際公開番号】W WO2020059769
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018174215
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019131109
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100222760
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 綾
(72)【発明者】
【氏名】井上 文善
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昇
(72)【発明者】
【氏名】美河 正人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 充
(72)【発明者】
【氏名】木口 昌
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真司
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027869(WO,A1)
【文献】特開平08-010594(JP,A)
【文献】特開2014-079687(JP,A)
【文献】特開2016-029147(JP,A)
【文献】特表2016-530078(JP,A)
【文献】特開2018-012072(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131304(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0175006(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00、63/02、69/02-12、71/02-68
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸状の高分子多孔質基材膜から構成される複合正浸透膜であって、該高分子多孔質基材膜の内表面又は外表面には分離活性層が存在し、該高分子多孔質基材膜の内表面から中央部に向かって、幅0.5μm以上3.0μm以下の内側柱状空隙層が、該高分子多孔質基材膜の膜厚に対して%以上15%以下の厚みで存在し、該高分子多孔質基材膜の外表面から中央部に向かって、外側柱状空隙層が、該膜厚に対して40%以上60%以下の厚みで存在し、かつ、該高分子多孔質基材膜が以下の式(1)および(2)を同時に満たし、かつ、該高分子多孔質基材膜が、ポリスルホン系高分子と、末端がアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はニトロ基のいずれかで修飾されたポリスルホン系高分子との混合物から構成されることを特徴とする、前記複合正浸透膜:
1050≦F1≦5000...式(1)
式(1)において、F1(kg/(m×hr))=L1(kg)/(M(m)×H(hr))であり、ここで、F1は、該高分子多孔質基材膜の透水量を指し、L1は、該高分子多孔質基材膜の内側に100kPaの圧力で水を供給したとき、該高分子多孔質基材膜の外側に透過した水の量であり、Mは、該高分子多孔質基材膜の内表面積であり、そしてHは、測定時間である;
50≦R≦85...式(2)
式(2)において、R(%)={1-(r1(ppm)/r2(ppm))}×100であり、Rは、線速100cm/sec、背圧30kPaで該高分子多孔質基材膜の内側にデキストランT200水溶液を通液したときのデキストランT200の阻止率であり、r1は、該高分子多孔質基材膜の外側に透過したろ過液中のデキストラン濃度であり、r2は、通液前のデキストランT2000.10質量%水溶液中のデキストラン濃度である。
【請求項2】
前記透水量F1が、1800(kg/(m×hr))以上4000(kg/(m×hr))以下である、請求項1に記載の複合正浸透膜。
【請求項3】
前記透水量F1が、2000(kg/(m×hr))以上3200(kg/(m×hr))以下である、請求項2に記載の複合正浸透膜。
【請求項4】
前記阻止率Rが、60%以上75%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合正浸透膜。
【請求項5】
前記外側柱状空隙層と前記内側柱状空隙層との間に、指状ボイド層が、前記高分子多孔質基材膜の膜厚に対して10%以上50%以下の厚みでさらに存在する、請求項1~のいずれか1項に記載の複合正浸透膜。
【請求項6】
前記高分子多孔質基材膜が、ポリエーテルスルホンと、末端がヒドロキシ基で修飾されたポリエーテルスルホンとの混合物から構成され、その混合比が80:20以上~1:99未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合正浸透膜。
【請求項7】
前記分離活性層が、ポリアミド、ポリウレア、及びポリベンズイミダゾールより成る群から選択される1種又は2種以上のポリマーを含む、請求項1~のいずれか項に記載の複合正浸透膜。
【請求項8】
前記分離活性層が、カーボンナノチューブ及びグラフェンオキシドより成る群から選択される1種又は2種の添加剤を更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合正浸透膜。
【請求項9】
前記複合正浸透膜が、中空糸状の複合正浸透膜である、請求項1~のいずれか項に記載の複合正浸透膜。
【請求項10】
前記中空糸状の複合正浸透膜の内径が、500μm以上1,500μm以下である、請求項に記載の複合正浸透膜。
【請求項11】
前記中空糸状の複合正浸透膜の、内径(d)に対する外径(d)の比(d/d)が、1.10以上1.60以下である、請求項又は10に記載の複合正浸透膜。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか項に記載の複合正浸透膜を複数束ねた糸束が、ハウジング内に充填されている、複合正浸透膜モジュール。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか項に記載の複合正浸透膜の製造方法であって、
高分子多孔質基材膜を準備する、高分子多孔質基材膜準備工程、及び
前記高分子多孔質基材膜上に分離活性層を形成する、分離活性層形成工程
を含み、
前記高分子多孔質基材膜準備工程で準備される前記高分子多孔質基材膜が、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンから成る群から選択される1種又は2種以上のポリマーを含み、ただしこのポリマーはヒドロキシ基を有し、
前記分離活性層形成工程が、以下のステップを含む、第1モノマーと第2モノマーとの界面重合によって行われる、
複合正浸透膜の製造方法:
前記高分子多孔質基材膜の片面上に、第1モノマーを含む第1溶液の液膜を形成する、第1溶液液膜形成ステップ、
前記第1溶液の液膜を、第2モノマーを含む第2溶液と接触させる、溶液接触ステップ、及び
前記第1溶液の液膜と、前記第2溶液との接触を維持して界面重合を行うことにより、前記高分子多孔質基材膜上に前記分離活性層を形成する、分離活性層形成ステップ。
【請求項14】
前記分離活性層がポリアミドから成り、
前記第1溶液が、前記第1モノマーとしての多官能性芳香族アミン、及び水系溶媒を含む水系溶液であり、
前記第2溶液が、前記第2モノマーとしての多官能性酸ハライド、及び非水系溶媒を含む非水系溶液である、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記分離活性層がポリウレアから成り、
前記第1溶液が、前記第1モノマーとしての多官能性芳香族アミン、及び水系溶媒を含む水系溶液であり、
前記第2溶液が、前記第2モノマーとしての多官能イソシアネート、及び非水系溶媒を含む非水系溶液である、
請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒含有品から溶媒を分離して濃縮するための正浸透膜、及びそれを含む膜モジュールに関する。より詳しくは、本発明は、塩の逆拡散を低減し、かつ、高い正浸透膜の透水性能を有し、長期的に良好な性能を維持するような、前記正浸透膜、及びこれを含む膜モジュール、ならびに前記正浸透膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正浸透膜は、逆浸透膜では達成できないような高濃度濃縮を、低いエネルギー消費で達成できる膜分離技術であるため、注目を集めている。正浸透膜を介して一方に濃縮処理対象液(被処理液)を流し、もう一方には被処理液より高い浸透圧を有する駆動液を流すことにより、浸透圧差を駆動力として、膜を介して被処理液の溶媒が駆動液側へ移動する。特に、高分子多孔質膜から成る基材膜支持層の表面上に、半透膜の機能を持つ分離活性層を有する複合正浸透膜は、高い透水性能と高い塩阻止率とを有する。
【0003】
正浸透膜における一般的な問題は、逆浸透膜に代表される脱塩技術に比較して、膜面積あたりの透水性能が低いことである。透水性能を改善するためには、運転時の膜近傍の溶質の拡散を最大限に促進し、濃度分極を低減することが重要である。これを達成するために、空隙率の高い基材膜支持層を有する正浸透膜の開発が行われてきた。
以下の先行特許文献1、2では、親水化されたポリスルホンやポリエーテルスルホンを含有するポリマーを原料とした空隙率の高い構造を有する基材膜の表面上に、分離活性層を形成することで、好適な透水性能を有する正浸透膜を得ている。
【0004】
また、複合正浸透膜を形成する際に無欠陥な分離活性層を形成することは困難であるため、塩の逆拡散が大きくなるという問題がある。そこで、以下の特許文献3では、事前に組み立てた中空糸膜モジュールの中空糸膜内表面に、界面重合法によって分離活性層を形成する手法を確立し、塩の逆拡散の低い正浸透膜を得ている。
【0005】
さらに、複合正浸透膜においては、使用中に、基材膜支持層から分離活性層が剥がれないことが重要である。
この点、以下の特許文献4には、分離膜支持体を構成する不織布の親水性を制御することにより、分離膜支持体と分離機能を有する層との間の剥離強度を向上させることが記載されている。
また、以下の特許文献5には、不織布と、不織布上の高分子層と、高分子層上のポリアミド系緻密層とを有する三層型の複合正浸透膜において、不織布の繊維径及び繊維のアスペクト比を調整することにより、高分子層及び緻密層の剥離を抑制することが記載されている。
特許文献6には、多孔性支持膜の表面に分離層を有する複合分離膜において、多孔性支持膜を構成する材料、及び分離層を構成する材料として、互いに親和性の高いものを選択することにより、多孔性支持膜と分離層との剥離を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第2016-0080377号公報
【文献】米国特許出願公開第2013/0313185号明細書
【文献】国際公開第2016/027869号
【文献】特開2013-71106号公報
【文献】特開2014-213262号公報
【文献】国際公開第2015/141653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1又は2に記載された方法では、透水性能は高くなるものの、駆動液又は被処理液中の溶質が正浸透膜を介して被処理液又は駆動液中に移動しやすくなるという問題、すなわち、前者の場合には塩の逆拡散という問題がある。
また、特許文献3に記載された方法では、駆動液から被処理液への溶質の移動(塩の逆拡散)は低減できるものの、特許文献1又は2に記載された方法と比較すると低い透水性能しか達成できない。
かかる技術の現状の下、本発明が解決しようとする課題は、塩の逆拡散を低減し、かつ、高い正浸透膜の透水性能を両立でき、長期的に、基材膜支持層と分離活性層が剥離しないような正浸透膜及びそれを含む膜モジュール、ならびに前記正浸透膜モジュールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、中空糸状の基材膜を特定の膜断面構造として、該基材膜の透水性能とデキストラン阻止率を特定範囲とし、さらに該基材膜の表面に分離活性層を形成することにより、透水性能が高く、かつ、塩の逆拡散を低減した正浸透膜が得られることを予想外に見出した。さらに、特定の官能基を有する高分子を基材膜支持層に用い、基材膜の膜厚と圧縮強度を適切に調節することで、基材膜支持層と分離活性層が剥離しにくい複合正浸透膜を得ることができ、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]中空糸状の高分子多孔質基材膜から構成される正浸透膜であって、該中基材膜の内表面又は外表面には分離活性層が存在し、該基材膜の内表面から中央部に向かって、幅0.1μm以上5.0μm以下の内側柱状空隙層が、該基材膜の膜厚に対して1%以上25%以下の厚みで存在し、該基材膜の外表面から中央部に向かって、外側柱状空隙層が、該膜厚に対して25%以上70%以下の厚みで存在し、かつ、該基材膜が以下の式(1)および(2)を同時に満たすことを特徴とする、前記複合正浸透膜:
1050≦F1≦5000...式(1)
式(1)において、F1(kg/(m×hr))=L1(kg)/(M(m)×H(hr))であり、ここで、F1は、該基材膜の透水量を指し、L1は、該基材膜の内側に100kPaの圧力で水を供給したとき、該基材膜の外側に透過した水の量であり、Mは、該基材膜の内表面積であり、そしてHは、測定時間である;
50≦R≦85...式(2)
式(2)において、R(%)={1-(r1(ppm)/r2(ppm))}×100であり、Rは、線速100cm/sec、背圧30kPaで該基材膜の内側にデキストランT200水溶液を通液したときのデキストランT200の阻止率であり、r1は、該基材膜の外側に透過したろ過液中のデキストラン濃度であり、r2は、通液前の0.10質量%デキストランT200水溶液中のデキストラン濃度である。
[2]前記透水量F1が、1800(kg/(m×hr))以上4000(kg/(m×hr))以下である、前記[1]に記載の複合正浸透膜。
[3]前記透水量F1が、2000(kg/(m×hr))以上3200(kg/(m×hr))以下である、前記[2]に記載の複合正浸透膜。
[4]前記阻止率Rが、60%以上75%以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[5]前記中空糸膜の内表面から中央部に向かって、幅0.5μm以上3.0μm以下の内側柱状空隙層が、該中空糸膜の膜厚に対して3%以上15%以下の厚みで存在し、該中空糸膜の外表面から中央部に向かって、外側柱状空隙層が、該膜厚に対して40%以上60%以下の厚みで存在する、前記[1]~[4]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[6]前記外側柱状空隙層と前記内側柱状空隙層との間に、指状ボイド層が、前記基材膜の膜厚に対して10%以上50%以下の厚みでさらに存在する、前記[1]~[5]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[7]前記基材膜が、ポリスルホン系高分子と、末端がアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はニトロ基のいずれかで修飾されたポリスルホン系高分子との混合物から構成される、前記[1]~[6]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[8]前記ポリスルホン系高分子が、ポリエーテルスルホンである、前記[7]に記載の複合正浸透膜。
[9]基材膜支持層と、基材膜支持層上に積層されている分離活性層と、を有する複合正浸透膜であって、
前記基材膜支持層が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルピロリドンより成る群から選択される1種又は2種以上の高分子を含み、ただしこの高分子はヒドロキシ基を有し、かつ、
前記基材膜支持層の膜厚が、50μm以上250μm以下であり、
前記基材膜支持層の圧縮強度が、0.25MPa以上0.90MPa以下である、
複合正浸透膜。
[10]前記高分子は、ポリエーテルスルホンである、前記[9]に記載の複合正浸透膜。
[11]前記複合正浸透膜の剥離圧が、20kPa以上200kPa以下である、前記[10]又は[10]に記載の複合正浸透膜。
[12]前記基材膜が、ポリエーテルスルホンと、末端がヒドロキシ基で修飾されたポリエーテルスルホンとの混合物から構成され、ポリエーテルスルホンと末端がヒドロキシ基で修飾されたポリエーテルスルホンの混合比が80:20以上~1:99未満である、前記[8]~[11]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[13]前記分離活性層が、ポリアミド、ポリウレア、及びポリベンズイミダゾールより成る群から選択される1種又は2種以上のポリマーを含む、前記[9]~[12]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[14]前記分離活性層が、カーボンナノチューブ及びグラフェンオキシドより成る群から選択される1種又は2種の添加剤を更に含む、前記[13]に記載の複合正浸透膜。
[15]前記複合正浸透膜が、中空糸状の複合正浸透膜である、前記[9]~[14]のいずれかに記載の複合正浸透膜。
[16]前記中空糸状の複合正浸透膜の内径が、500μm以上1,500μm以下である、前記[15]に記載の複合正浸透膜。
[17]前記中空糸状の複合正浸透膜の、内径(d)に対する外径(d)の比(d/d)が、1.10以上1.60以下である、前記[15]又は[16]に記載の複合正浸透膜。
[18]前記[1]~[17]のいずれかに記載の複合正浸透膜を複数束ねた糸束が、ハウジング内に充填されている、複合正浸透膜モジュール。
[19]前記[9]~[17]のいずれかに記載の複合正浸透膜の製造方法であって、
基材膜支持層を準備する、基材膜支持層準備工程、及び
前記基材膜支持層上に分離活性層を形成する、分離活性層形成工程
を含み、
前記基材膜支持層準備工程で準備される前記基材膜支持層が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルピロリドンより成る群から選択される1種又は2種以上の高分子を含み、ただしこの高分子はヒドロキシ基を有し、
前記分離活性層形成工程が、以下のステップを含む、第1モノマーと第2モノマーとの界面重合によって行われる、
複合正浸透膜の製造方法:
前記基材膜支持層の片面上に、第1モノマーを含む第1溶液の液膜を形成する、第1溶液液膜形成ステップ、
前記第1溶液の液膜を、第2モノマーを含む第2溶液と接触させる、溶液接触ステップ、及び
前記第1溶液の液膜と、前記第2溶液との接触を維持して界面重合を行うことにより、前記基材膜支持層上に前記分離活性層を形成する、分離活性層形成ステップ。
[20]前記分離活性層がポリアミドから成り、
前記第1溶液が、前記第1モノマーとしての多官能性芳香族アミン、及び水系溶媒を含む水系溶液であり、
前記第2溶液が、前記第2モノマーとしての多官能性酸ハライド、及び非水系溶媒を含む非水系溶液である、
前記[19]に記載の方法。
[21]前記分離活性層がポリウレアから成り、
前記第1溶液が、前記第1モノマーとしての多官能性芳香族アミン、及び水系溶媒を含む水系溶液であり、
前記第2溶液が、前記第2モノマーとしての多官能イソシアネート、及び非水系溶媒を含む非水系溶液である、
前記[19]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の正浸透膜は、高い透水性能を有し、かつ、塩の逆拡散を低減したものであるため、例えば、食品や薬品溶液の濃縮、脱水や、海水淡水化、汽水淡水化、シェールガス・油田に代表されるガス田、油田から排出される随伴水の処理、肥料溶液の濃縮又は希釈用途等に好適に利用可能である。特に、本発明の正浸透膜を食品や薬品の濃縮に適用すれば、濃縮対象物を加熱することなく高倍率で濃縮することができるうえに、溶質の流出又は流入を抑制できるため、成分の劣化や異物の混入を防いだ非加熱濃縮が可能となる。さらに、装置を大型化して、高い流量で処理液を流した場合でも、複合正浸透膜が破壊されることなく、長期間安定的に運転することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図3】実施例2における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図4】実施例2における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図5】実施例3における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図6】実施例3における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図7】実施例4における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図8】実施例4における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図9】実施例5における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図10】実施例5における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図11】実施例6における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図12】実施例6における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図13】実施例7における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図14】実施例7における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図15】実施例8における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図16】実施例8における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図17】比較例1における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図18】比較例1における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図19】比較例2における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真である。
図20】比較例2における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図21】比較例3における基材膜を凍結割断した断面図を電子顕微鏡写真である。
図22】比較例3における基材膜を凍結割断した断面の電子顕微鏡写真の、内側柱状空隙層、指状ボイド層、外側柱状空隙層をそれぞれ図示したものである。
図23】正浸透膜モジュールの一態様の断面模式図である。
図24】凍結割断して得られた基材膜断面図の電顕写真において、内側及び外側柱状空隙層、その厚みと幅、柱状空隙、指状ボイド層、それらの厚み等を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、非限定的な例として、詳細に説明する。
<<複合正浸透膜>>
本実施形態の複合正浸透膜は、特定の物質のみを透過する(例えば、溶媒である水は透過し、溶質である無機塩はほとんど透過しない)緻密な半透膜で構成された分離活性層と、該分離活性層を膜内表面又は外表面に物理的に支持する高分子多孔質基材膜から構成される複合中空糸膜である。分離活性層が物理的に破損することを防ぐ観点から、分離活性層は中空糸の内側に塗布されていることが好ましい。
【0013】
本実施形態の複合正浸透膜は、基材膜と分離活性層から構成される正浸透膜であって、該基材膜の内表面又は外表面には分離活性層が存在し、該基材膜の内表面から中央部に向かって、幅0.1μm以上5.0μm以下の内側柱状空隙層が、該基材膜の膜厚に対して1%以上25%以下の厚みで存在し、該基材膜の外表面から中央部に向かって、外側柱状空隙層が、該膜厚に対して25%以上70%以下の厚みで存在し、該基材膜が以下の式(1)、(2)を同時にみたす。
1050≦F1≦5000 ...式(1)
50≦R≦85 ...式(2)
式(1)のF1(kg/(m×hr))は、該基材膜の透水性を指し、以下の式(3)で表される。
F1=L1/(M×H)...式(3)
式中、L1(kg)は、該基材膜の内側に100kPaの圧力で水を供給したとき、該基材膜の外側に透過した水の量であり、M(m)は、該基材膜の内表面積であり、そしてH(hr)は、測定時間である。
式(2)のR(%)は該基材膜のデキストランT200の阻止率を指し、以下の式(4)で表される。
R={1-(r1/r2)}×100…式(4)
式中、r1(ppm)は、デキストランT200の0.10質量%水溶液を、線速100cm/sec、背圧30kPaで該基材膜の内側に通液したときの、該基材膜の外側に透過したろ過液中のデキストラン濃度であり、r2(ppm)は、通液前のデキストラン水溶液中のデキストラン濃度である。
ここで、線速は、装置に中空糸基材膜を接続せずにデキストラン溶液を流した時の流速(mL/sec)を、中空糸基材膜の断面積(cm)で除した値を指す。背圧(kPa)は、該基材膜を接続してデキストランT200の0.10質量%水溶液を流した時に、膜後方にとりつけた圧力計が示す値を指す。膜の断面積は、中空糸基材膜断面の内直径に円周率πを乗じた値を用いる。
【0014】
複合正浸透膜の性能は、被処理液に純水を、駆動液に3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ用いた時の透水性F2と、塩の逆拡散RSFで評価される。F2は正浸透現象により被処理液側から駆動液側へ移動する水の移動速度を指し、RSFは駆動液から被処理液へ混入する溶質の移動速度を指す。好適な複合正浸透膜では、水を透過するが分離活性層によって駆動液中の塩化ナトリウムの移動を阻止するため、F2は大きくなり、RSFは小さくなる。
F2は次式(5)で表される:
F2=L2/(M×H) ...式(5)
ここで、F2(kg/(m×hr))は正浸透膜の透水性能を表し、L2(kg)は、透過した水の量であり、M(m)は、膜の内表面積であり、そしてH(hr)は、測定時間である。
本実施形態の複合正浸透膜(分離活性層を得したもの)の透水量F2(透水性能)は高いほど好ましいが、実用的であり、かつ、高効率な物質移動を達成する観点から、11.5(kg/(m×hr))以上であることが好ましい。また、被処理液の過濃縮による膜詰まりを防ぐために、透水量F2は200(kg/(m×hr))以下であることが好ましい。
塩の逆拡散RSFは、次式(6)で表される:
RSF=G/(M×H)...式(6)
ここで、RSF(g/(m×hr))は正浸透膜の塩の逆拡散を表し、G(g)は透過した塩の量であり、M(m)は、膜の内表面積であり、そしてH(hr)は、測定時間である。
本実施形態の複合正浸透膜の塩の逆拡散は小さいほどよいが、塩の逆拡散が大きいと、被処理液へ駆動液中の溶質が混入する、又は駆動液へ被処理液中の溶質が混入する、被処理液濃縮物の純度が下がる、駆動液が汚染される等の問題が生じる。これらの問題を回避する観点から、本実施形態の正浸透膜の塩の逆拡散は、2.0(g/(m×h))以下が好ましく、より好ましくは1.5(g/(m×h))以下である。
上記F1,R,F2,RSFの詳細な測定方法は後述する。
本実施形態の複合正浸透膜の強度は、長期運転性評価によって評価する。特定の運転方法と圧力印加を繰り返し、上記RSFの変動を観察する。長期運転性評価の詳細な評価方法は後述する。
【0015】
尚、透水量F1、及び阻止率Rは、分離活性層が存在しない状態での基材膜の特性であり、これらの物性の測定に用いる基材膜は、分離活性層を塗布する前の基材膜であっても、また、複合中空糸膜となった正浸透膜から分離活性層を分解除去して得たもののいずれでもよい。分離活性層の分解除去方法は後述する。
【0016】
<<基材膜支持層>>
<高分子>
本発明において、高分子とは、数平均分子量が5,000以上の分子を指す。
本実施形態における高分子の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwとして、10,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の複合正浸透膜における基材膜支持層は、ポリスルホン系高分子と、末端がアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はニトロ基のいずれかで修飾されたポリスルホン系高分子との混合物から構成される。または、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルピロリドンより成る群から選択される1種又は2種以上のポリマーを含み、ただしこれらの高分子はヒドロキシ基を有する。本発明における基材膜支持層は、最も好ましくは、分子末端にヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホンから構成される。
【0018】
基材膜支持層を構成する高分子の末端極性官能基は、成膜時の膜構造に影響を与えていると考えられる。末端極性官能基(例えば、ヒドロキシ基)で末端修飾されたポリスルホン系高分子の比率を高めれば、基材膜透水性F1が向上する。親水性が向上するので、凝固液中の水分子との親和性がわずかに高くなるためと推測される。
末端極性官能性基の比率が小さすぎる場合、基材膜支持層形成時に高分子が過剰に密集し、膜表面の孔数(すなわち、表面の開口率)が減少するため、基材膜の透水性F1、ひいては、正浸透膜透水性F2が小さくなると考えられる。
【0019】
高分子中の末端極性官能基とそれ以外の末端官能基の混合比は20:80以上99:1以下であることが好ましい。前述したF1ひいてはF2を向上する観点と、後述する剥離圧と長期運転性の観点から、30:70以上99:1以下がより好ましく、45:55以上95:5以下がさらに好ましく、70:30以上95:5以下が特に好ましい。たとえばポリスルホン系高分子を用いた場合に、末端極性官能基とそれ以外の末端官能基の混合比が20:80以上99:1以下であると、内側柱状空隙層の厚みが薄く制御できる傾向にあり、長時間安定して紡糸できる傾向がある。本実施形態における「混合比」は、末端官能基のモル比率を指す。
本実施形態における高分子の末端極性官能基の構造およびモル比率は、NMRを用いて同定することができる。詳細は後述する。
また、極性官能基の存在により、分離活性層との接着力が大きくなりやすく、長期運転に適したものになると考えられる。
【0020】
本実施形態においては、基材膜支持層に含まれる高分子は、所定の親水性を有することが好ましい。高分子が一定の親水性を有すると、基材膜支持層と、基材膜支持層上の分離活性層との親和性が高くなり、分離活性層が剥離し難くなり、長期的な膜使用が可能となると考えられる。
この観点から、基材膜支持層に含まれる高分子から成る平膜の水接触角は、20°以上120°以下であることが好ましく、20°以上90°以下であることがより好ましく、50°以上70°以下であることがさらに好ましい。
高分子から成る平膜の水接触角は、後述の参考例に記載の方法によって測定される。
【0021】
<基材膜寸法>
本発明における基材膜の形状は、小さい体積中により大きな膜面積を格納する観点から、中空糸状であることが好ましい。ここで、中空糸とは、内径(中空糸膜断面の内表面からなる円の直径)dが0.050mm以上2.0mm以下、外径(中空糸膜断面の外表面からなる円の直径)dが0.080mm以上5.0mm以下であり、かつd<dを満たすものを指す。
中空糸の中空部には、場合によって不溶分を含む被処理液を、支障なく通液可能にする必要がある。この観点からは、中空糸状の複合正浸透膜の内径は大きい方が好ましい。一方で、本発明の複合正浸透膜をモジュール化して使用する場合に、モジュールの単位体積当たりの有効膜面積をなるべく大きく確保する必要がある。この観点からは、中空糸状の複合正浸透膜の内径は小さい方が好ましい。これらを両立する観点から、中空糸状の複合正浸透膜の内径は、500μm以上1,500μm以下が好ましく、より好ましくは600μm以上1,200μm以下である。
【0022】
膜厚は、中空糸基材膜を長手方向に垂直な面で切断して得られる断面の、外直径と内直径の差を2で除した数値を指す。内径、外径および膜厚は、中空糸基材膜断面を光学顕微鏡で観察することで求めることができる。複合正浸透膜の分離活性層を分解して得られたものを観察してもよい。基材膜支持層の膜厚は、50μm以上250μm以下が好ましく、より好ましくは80μm以上200μm以下であり、更に好ましくは100μm以上180μm以下である。膜厚が大きすぎる場合、基材膜の内部濃度分極の影響で、正浸透膜の透水性が小さくなる。
【0023】
基材膜の内外径比は、d/dで表される。内外径比は1.10以上1.60以下が好ましい。より好ましくは1.15以上1.55以下であり、さらに好ましくは1.20以上1.50以下である。
【0024】
<内側柱状空隙層>
本実施形態の正浸透膜では、基材膜の内表面から中央部(中空糸膜を糸の長さ方向に垂直な方向で切断して観察できる中空糸断面の外周円の同心円となるように、半径が0.25d+0.25dとなる円を描いたとき、その円周部を中央部と呼称する)に向かって、幅0.10μm以上5.0μm以下の内側柱状空隙層が、基材膜の膜厚に対して1%以上25%以下の厚みで存在する。
本実施形態において「柱状空隙」とは、中空糸膜を糸の長さ方向に垂直な方向で凍結割断し、断面構造を撮影した電子顕微鏡画像において、膜厚方向に延びた空隙部の外接長方形の(膜厚方向長さ)/(円周(幅)方向長さ)が5以上のものを意味する。
膜断面における内側柱状空隙層の幅が上記の好適な範囲にあるとき、膜内表面孔のサイズが分離活性層を形成するのに適したものとなると推定される。
内側柱状空隙層は、基材膜の膜厚に対して1%以上25%以下の厚みであることが必要であり、3%以上15%以下の厚みであることがより好ましい。内側柱状空隙層の厚みが小さすぎる場合、膜内部に大きなスポンジ層が生じることがあり、正浸透膜透水性F2の低下を招く場合がある。内側柱状空隙層が大きすぎる場合、膜の強度が低下し、膜モジュールの成型時に歩留まりが下がる傾向がある。
【0025】
<外側柱状空隙層>
本実施形態において外側柱状空隙層とは、基材膜の外表面から中央部に向かってのびる柱状空隙層を指す。外側柱状空隙層が、該基材膜の膜厚に対して25%以上70%以下の厚みで存在することが好ましい。厚みがこの範囲にあれば、基材膜中の、駆動液の溶質と溶媒の拡散が促進されるので、正浸透膜の透水性能を十分に発揮することができる。外側柱状空隙層の厚みは、好ましくは40%以上60%以下である。外側柱状空隙層の厚みが小さすぎると、運転中の駆動液の溶質と溶媒の拡散が制限されてしまい、正浸透膜の透水性能が小さくなりやすい。外側柱状空隙層の厚みが大きすぎる場合や、指状ボイド層のような大きな空隙部で膜外側が構成されている場合は、膜の強度が下がるだけでなく、モジュール成型時のポッティング樹脂が膜中空部まで浸透してしまうことがあり、モジュール成型の歩留まりが下がる傾向がある。
【0026】
<指状ボイド層>
本実施形態の複合正浸透膜では、前記外側柱状空隙層と前記内側柱状空隙層との間に、指状ボイド層が、前記基材膜の膜厚に対して10%以上50%以下の厚みでさらに存在することが好ましい。本明細書中、「指状ボイド」とは、膜断面において空隙長さが10μm以上であり、膜厚方向に延びた空隙部の外接長方形の(膜厚方向長さ)/(円周(幅)方向長さ)が5未満のものをいう。中空糸を凍結割断した断面構造を撮影した電子顕微鏡画像において、膜厚方向にある10μm厚を観測し、そのエリアの90%以上が柱状空隙部、又は指状ボイド層であったとき、その部分を、それぞれ、柱状空隙層、又は指状ボイド層(の一部)と定義する。
指状ボイド層がなくても本発明は達成できるが、指状ボイド層があることで、基材膜の溶質拡散性が良好になり、内部濃度分極をより低減しやすくなる。
【0027】
<基材膜の透水量F1>
高い基材膜の透水性と高いデキストラン阻止率が両立される場合、基材膜はより小さく、より多くの細孔を有している(すなわち、表面開口率が高い)と推察される。好適な範囲内の透水性能とデキストラン阻止率ならびに断面構造を有する基材膜の性状は、膜表面が分離活性層を形成するのに適した環境で、かつ、正浸透膜として該基材膜を用いたときに好適に溶質を拡散し、高い正浸透膜性能を与えることが予想される。
透水量F1は、好ましくは1050(kg/m×hr)以上5000(kg/(m×hr))以下である。基材膜の透水量F1は、基材膜の阻止率Rを50%以上85%以下に範囲内に収める観点から、1300(kg/(m×hr))以上4500(kg/(m×hr))以下が好ましく、1800(kg/(m×hr))以上4000(kg/(m×hr))以下がより好ましく、2000(kg/(m×hr))以上3200(kg/(m×hr))以下がさらに好ましい。
本実施形態の基材膜の製造において、例えば、ヒドロキシ基で末端修飾されたポリスルホン系高分子の比率を高めれば、基材膜の透水量F1が高くなる傾向にある。他方、紡糸原液中の高分子濃度を高めると、密な膜となるため、透水量F1は低下することがある。
【0028】
<基材膜の阻止率R>
デキストランT200の阻止率Rは、50%以上85%以下であり、より好ましくは、60%以上75%以下である。
阻止率が大きすぎる場合、正浸透膜の透水性能F2が小さくなる場合がある。阻止率が小さすぎる場合、正浸透膜の塩の逆拡散RSFが大きくなる場合がある。
本実施形態の基材膜の製造において、紡糸原液が、ポリスルホン系高分子と、末端がアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はニトロ基のいずれかで修飾されたポリスルホン系高分子との混合物から構成される場合に、例えば、紡糸原液中のポリマー濃度を高めると、密な膜となるため、阻止率Rは高くなる場合が多い。
【0029】
<基材膜の圧縮強度>
本実施形態の複合正浸透膜における基材膜支持層は、支持層として必要な強度を確保し、かつ、基材膜支持層上の分離活性層を剥離し難くするために、特定の圧縮強度を有する。基材膜支持層の圧縮強度は、0.25MPa以上0.90MPa以下であり、好ましくは0.30MPa以上0.60MPa以下であり、より好ましくは0.35MPa以上0.55MPa以下であり、強度と高いF2の両立の観点から、さらに好ましくは0.40MPa以上0.50MPa以下である。
原理は明らかにできていないが、基材膜支持層が上記範囲内の圧縮強度を有するとき、基材膜支持層の層内が好適な空隙を有することとなり、基材膜支持層上に分離活性層を形成しやすくなり、分離活性層が剥離し難くなると推測される。
【0030】
成膜時の高分子濃度を高くし、さらに膜厚を大きくすると圧縮強度を高くすることができる。一方で圧縮強度が高すぎるときは、膜断面構造が密になっていることが多く、前述した薬液の含浸量、膜表面への拡散速度等が低くなる場合が多い。この結果、正浸透膜の透水性が下がる傾向にある。
圧縮強度の測定方法は後述する。
なお、分離活性層を分解して得た中空糸基材膜を上記測定試験に用いて、P1を求めてもよい。
【0031】
<膜モジュール>
本実施形態の複合正浸透膜は、図23に示すように、複数本の中空糸からなる糸束を有する膜モジュールとして使用することができる。
複合正浸透膜モジュール(1)は、筒状体に複数の中空糸状複合正浸透膜(4)から成る中空糸束を充填し、この中空糸束の両端を接着剤固定部(5、6)で筒に固定した構造を有している。筒状体は、その側面にシェル側導管(2、3)を有し、ヘッダー(7、8)により密閉されている。ここで両端の接着剤固定部(5、6)は、それぞれ、中空糸状複合正浸透膜の空中部の孔を閉塞しないように固化されている。
両端のヘッダー(7、8)は、それぞれ、中空糸状複合正浸透膜(4)の内側(中空部)に連通し、外側には連通しない、2つのコア側導管(9、10)を有する。これらの導管により、中空糸状複合正浸透膜(4)の内側に液を導入し、又は内側からは液を取り出すことができる。
2つのシェル側導管(2、3)は、それぞれ、中空糸状複合正浸透膜(4)の外側に連通し、内側には連通していない。これらの導管により、中空糸状複合正浸透膜(4)の外側に液を導入し、又は外側から液を取り出すことができる。
【0032】
<複合正浸透膜の剥離圧>
複合正浸透膜は基材膜支持層および分離活性層からなるため、基材膜支持層と分離活性層が密着し、剥離しないことが重要である。剥離圧は本明細書中P2と表記する。P2は、20kPa以上が長期運転の観点から好ましい。より好ましくは25kPa以上である。剥離圧が小さすぎるとき、塩の逆拡散が大きくなりやすい。剥離圧が好適な範囲内にあるとき、長期的に正浸透膜を運転しても膜が剥離せず、良好な性能を維持することができる。剥離圧の測定方法は後述する。なお、P2の測定に用いた正浸透膜モジュールは、正浸透膜モジュールとしては欠陥を有する。モジュールを解体し、後述する次亜塩素酸ナトリウム水溶液による分離活性層の分解を経て、基材膜の透水性F1やデキストラン阻止率Rの測定に用いることができる。
【0033】
以下、本実施形態の複合正浸透膜の製造方法について説明する。
<中空糸状基材膜支持層の製造>
基材膜支持層は、所望の複合正浸透膜における基材膜支持層に応じて、適宜に選択される。したがって、本工程で準備される基材膜支持層は、ポリスルホン系高分子、または、末端がヒドロキシ基で修飾されたポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルピロリドンより成る群から選択される1種又は2種以上の高分子を含み、ただしこれらの高分子はヒドロキシ基を有するものである。
【0034】
先ず、基材膜支持層を構成する材料高分子を、適当な有機溶剤に溶解して、紡糸原液を調製する。このとき、例えば24時間以上撹拌した後、減圧脱泡をしてもよい。紡糸原液中の原料ポリマーの質量割合は、連続成膜性を確保する観点から、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは17~25質量%である。
紡糸原液の有機溶剤は、アミド系溶媒が好ましく、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等から選択される1種以上を含む溶剤を用いることができる。さらに、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、あるいはポリエチレングリコールのようなエチレングリコール類を添加剤として加えてよい。添加剤の質量割合0~40%が好ましく、より好ましくは15~35%、さらに好ましくは20~30%である。添加剤量が多すぎると空隙層および指状ボイド層が成長せず、正浸透膜の透水性能F2が低くなる傾向がある。
【0035】
次いで、紡糸原液を、適当な温度(例えば30~70℃)に昇温し、二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機を用いて紡糸する。具体的には、紡糸原液を紡糸機に充填し、室温以上、溶媒の沸点以下の温度で紡糸した糸を、30℃~70℃に調温された凝固液を満たした凝固槽中に押し出し、相分離により中空糸を形成する。このとき、空走距離は200~400mmとし、得られた中空糸は巻き取り機に巻き取り、所定の長さに切断してよい。
紡糸で得られた基材膜支持層が中空糸状になるように、二重紡口の外側に紡糸原液を通液し、内側には内液を通液することができる。
【0036】
紡糸原液の温度はより好ましくは40℃以上60℃以下である。原液の温度が低すぎる場合、液粘度が上昇して好適な膜構造が得られにくくなると推定される。紡糸原液の温度が高すぎるとき、液粘度が下がって、所定の膜厚で紡糸することが難しくなる。
【0037】
内液としては、例えば、水を主成分とし、アルコール、エチレングリコール類、アミド系溶媒から選択される1種以上を含む水溶液を用いることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを挙げることができる。エチレングリコール類としては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン等を挙げることができる。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。添加剤を内液に加えることで固化が遅くなり、内側柱状空隙層の厚みが大きくなりやすい。一方で、添加剤を加えすぎると、内表面の孔径が大きくなるため、分離活性層の塗工が難しくなることがある。
【0038】
凝固浴の温度はより好ましくは40℃以上65℃以下、さらに好ましくは45℃以上60℃以下である。凝固浴の温度を高い場合に、基材膜透水性F1、ひいては正浸透膜の透水性F2が高くなる傾向がある。一方で凝固浴温度が65℃を超えるとき、基材膜透水性F1は大きくなるが、デキストラン阻止率Rが小さくなりやすいので、のちの分離活性層塗工工程で薬液通液時に不備が生じ、塩の逆拡散が大きくなる場合がある。
凝固浴を満たす凝固液は、水を主成分とし、アルコール、エチレングリコール類、アミド系溶媒を含んでいてよい。アルコール、エチレングリコール類、アミド系溶媒の添加量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。添加剤量が過剰である場合、基材膜外側の凝固が遅れ、外側柱状空隙の幅が大きくなりすぎることがある。また、膜形状が不均一となり、成膜できないことがある。
【0039】
本実施形態の基材膜の製造において、紡糸原液が、ポリスルホン系高分子と、末端がアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はニトロ基のいずれかで修飾されたポリスルホン系高分子との混合物から構成される場合に、例えば、ヒドロキシ基で末端修飾されたポリスルホン系高分子の比率を高めれば、親水性が向上し、内側柱状空隙層の幅と厚みはいずれも小さくなりやすい。また、紡糸原液中の高分子濃度を高めれば、内側柱状空隙層の幅は小さくなる場合が多い。他方、紡糸原液中の高分子濃度を高めると、内側柱状空隙層の厚みは大きくなる場合が多い。
【0040】
また、紡糸内液の液組成を変えることで、内側柱状空隙層の厚みを変えることができる。例えば、グリセリンやエチレングリコール類を添加した水溶液を内液として用いることで凝固が遅れ、内側柱状空隙層の厚みが大きくなりやすい。一方で、内液中の添加剤量が過剰であるとき、内側柱状空隙層の代わりに指状ボイド層が発達することがある。内液の添加剤量が過剰であるとき理由は定かではないが、塩の逆拡散RSFが大きくなる場合が多い。
【0041】
本実施形態の基材膜の製造において、紡糸原液が、ポリスルホン系高分子と、末端がアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はニトロ基のいずれかで修飾されたポリスルホン系高分子との混合物から構成される場合に、例えば、ヒドロキシ基で末端修飾されたポリスルホン系高分子の比率を高めれば、外側柱状空隙層の厚みは大きくなりやすい。
エアギャップにおいて濃度揺らぎが生じた紡糸原液は、凝固浴に入ることで本格的に固液相分離をおこし凝固する。空走部での湿度および温度も、外側柱状空隙層の構造に大きく影響を与える。空走部をチムニーで覆い、高温高湿状態を保つことで、好適な範囲の外側柱状空隙を得ることができる。
【0042】
紡糸原液中の添加剤量が高すぎるとボイドフリーな膜になりやすいため、添加剤量は45質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。一方で、添加剤をある程度含んだ方が、外側柱状空隙層の厚みが大きくなる傾向がある。
【0043】
<基材膜モジュールの製造>
約1500本~2000本の中空糸を円筒型、角状筒型のプラスチックハウジングに充填し、両端をエポキシ等の接着樹脂で固めて有効膜内表面積1.5m~1.8m程度の図23に示すような膜モジュールを作製する。なお、正浸透膜モジュールの有効膜内表面積は、基材膜モジュールの有効膜内表面積と同じとみなしてよい。
【0044】
<分離活性層の塗布(塗工)>
中空糸膜の内側に第1モノマー溶液を充填させた膜モジュールの中空糸内側の圧力を内側側圧力>外側側圧力となるように設定する。このとき、中空糸内側の余分な第1モノマー溶液は、圧力差により微細孔に入り(外側表面側にまで浸みだす場合もある)、中空糸内側に均一な厚みの液膜が形成される。次に、第2モノマー溶液を、ポンプにより中空糸内側に送液し、第1モノマー溶液の液膜と接触させる。この接触により、第1モノマーと第2モノマー間で界面重合が起こり、微細孔性中空糸膜の内側に高分子重合体の薄膜から成る分離活性層が形成される。
このように、界面重合を行う際には、事前に設定したコア側とシェル側との圧力差を維持することが好ましい。
このようにして、第1モノマーと第2モノマーとの界面重合によって微細孔性中空膜の内側に高分子重合体薄膜が形成され、本実施形態の複合中空糸膜モジュールが製造される。
界面重合は、第1モノマー溶液と第2モノマー溶液との界面において進行するため、形成される高分子重合体層の表面は微細凹凸の多い形状となる。
【0045】
第1モノマーと第2モノマーの種類、組合せ、及び使用溶媒(後述)の種類は、両モノマーが界面で直ちに重合反応を起こして高分子重合体薄膜を形成するものであればよく、それ以外は特に制限されないが、第1モノマーと第2モノマーのうちの少なくとも一方に3つ以上の反応性基を持つ反応性化合物を含めば、3次元高分子重合体からなる薄膜が形成されることになるため、膜強度と塩の逆拡散の観点から好ましい。
【0046】
高分子重合体薄膜における重合体としては、例えば、多官能アミンから選択される少なくとも1種以上の第1モノマーと、多官能酸ハライド、及び多官能イソシアネートから成る群より選択される少なくとも1種以上の第2モノマーと、の重縮合生成物であることが好ましく、より具体的には、例えば、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合反応により得られるポリアミド、多官能性アミンと多官能性イソシアネートとの界面重合反応により得られるポリウレアなどが挙げられる。分離活性層としてこれらの重合体薄膜を用いる場合の分離性能とは、純水とそれに溶解しているイオンなどの溶質とを分離する性能を指す。
【0047】
前記多官能アミンは、分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族または脂肪族アミノ化合物である。多官能芳香族アミンは、具体的には、例えばm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルアミン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルアミン、3,5′-ジアミノ安息香酸、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレンなどをあげることができ、これらの単独または混合物を用いることができる。本発明においては、特に、m-フェニレンジアミンおよびp-フェニレンジアミンから選ばれる1種以上が好適に用いられる。
【0048】
多官能脂肪族アミンは、具体的には、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4′-ビス(パラアミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビスー(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビスー(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3,5-トリアミノシクロヘキサンなどの、シクロヘキサン環を持つ第1級アミン;
ピペラジン、2-メチルピペラジン、エチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジンなどの、ピペラジン環を持つ第2級アミン;
1,3-ビス(4-ピペリジル)メタン、1,3-ビス(4-ピペリジル)プロパン、4,4′―ビピペリジンなどの、ピペリジン環を持つ第2級アミン;
4-(アミノメチル)ピペリジンなどの、第1級および第2級の両方のアミノ基をもつアミンなどの他;
エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,2-ジアミノ-2-メチルプロパン、2,2-ジメチルー1,3-プロパン、トリス(2-アミノエチル)アミン、N,N′-ジメチルエチレンジアミン、N,N′-ジメチルプロパンジアミンなど
を挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることが可能である。これら多官能脂肪族アミンと、上記した多官能芳香族アミンとの混合物も用いることができる。
【0049】
多官能性酸ハライドは、例えば、多官能性芳香族酸ハライド、多官能性脂肪族酸ハライドなどを挙げることができる。
【0050】
多官能性芳香族酸ハライドとしては、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する芳香族酸ハライド化合物である。例えば、トリメシン酸ハライド、トリメット酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、ピロメリット酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド、ビフェニルジカルボン酸ハライド、ベンゼンジスルホン酸ハライドなどを挙げることができ、これらの単独または混合物が好ましく用いられる。
【0051】
多官能性脂肪族酸ハライドとしては、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する脂肪族酸ハライド化合物である。例えば、シクロブタンジカルボン酸ハライド、シクロペンタンジカルボン酸ハライド、シクロペンタントリカルボン酸ハライド、シクロペンタンテトラ酸ハライド、シクロヘキサンジカルボン酸ハライド、シクロヘキサントリカルボン酸ハライドなどの脂環式多官能性酸ハライドなどの化合物の他;
プロパントリカルボン酸ハライド、ブタントリカルボン酸ハライド、ペンタントリカルボン酸ハライド、こはく酸ハライド、グルタル酸ハライドなどを挙げることができる。これらは、単独または混合物も用いることが可能であり、これら多官能脂肪族酸ハライドと、上記の多官能性芳香族酸ハライドとの混合物を用いることができる。
【0052】
前記多官能性イソシアナートとしては、例えばエチレンジイソシアナート、プロピレンジイソシアナート、ベンゼンジイソシアナート、トルエンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、メチレンビス(4-フェニルイソシアナート)などを挙げることができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例、比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
基材膜の透水量F1、阻止率R、及び断面構造によって、複合正浸透膜の性能がどのように変動するかを確かめた。
【0054】
[実施例1]
[中空糸状基材膜の作製]
ポリエーテルスルホン(BASF社製、商品名Ultrason E2020P)と、末端がヒドロキシ化されたポリエーテルスルホン(BASF社製、商品名Ultrason E2020PSR)を、N-メチル-2-ピロリドン(和光純薬(株)製)に溶解して、中空糸紡糸原液を調製した。このとき、ポリエーテルスルホンと、末端がヒドロキシ化されたポリエーテルスルホンの末端モル比率が50:50となるように調節した。二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記原液を充填し、50℃の水を満たした凝固槽に押し出し、相分離により中空糸を形成した。このときの紡糸内液は50質量%テトラエチレングリコール水溶液を用いた。得られた中空糸は巻き取り機に巻き取った。得られた中空糸の外径は1.0mm、内径は0.70mmであった。
【0055】
[基材膜の透水量F1の測定]
加圧タンクに約2Lの純水を入れた装置の配管の先に、0.70mmの針を接続した。10cmに切断し片端を封止した中空糸基材膜に針を通し、糸中空部に、100kPa加圧で25℃の純水を3分間通液し、濾過液量を測定した。前記式(1)により透水量F1を求めた。F1=1810(kg/(m×hr))であった。
【0056】
[基材膜の阻止率Rの測定]
デキストランT200(SERVA社製、Lot.31083)0.10質量%水溶液を、100cm/secの線速で、背圧30kPaになるように通液した。このとき、液温は25℃に温調した。通液開始1分後から4分後までの3分間の濾過液を計量し、TOC計によって濾過液中のデキストラン濃度r1(ppm)=通液前のデキストラン濃度(ppm)と母液中のデキストラン濃度r2(ppm)を算出し、前記式(2)によって阻止率Rを求めた。2回測定を行い、Rの平均値を用いた。R=71%であった。
【0057】
[断面SEM像の取得と解析]
中空糸基材膜数本を7cm長に切断し、濡れたキムワイプで包んだ。-72℃まで冷却したSUS製の容器内に、上記のキムワイプで包んだ基材膜を投入し、基材膜を凍らせた。凍った基材膜を長手方向に垂直な面が断面になるように割断し、割断した基材膜は室温へ昇温し、風乾させた。Pd-Pt蒸着を施し、電子顕微鏡にて断面構造を観察した。断面SEM像は図1と2に示す通りとなった。
【0058】
[基材膜モジュールの作製]
中空糸基材膜1750本を、5cm径、50cm長の円筒型プラスチックハウジングに充填し、有効膜内表面積1.7mの、図23に示すような膜モジュールを作製した。モジュールの糸端面が、樹脂で閉塞されていないことを確認した。
【0059】
[分離活性層の塗工]
上記膜モジュールの内表面側にm-フェニレンジアミン2.0質量%水溶液を30分通液した。基材膜モジュールシェル部を90kPaG減圧保持した状態でエアーを100L/分の流量で10分間流すことによって、余剰なアミンを除去した。その後、1,3,5-トリメシン酸クロリドのヘキサン溶液を5分間、3L/分の流速で通液することで、中空糸の内表面上に分離活性層を塗工した。最後に窒素ガスを流すことで余剰な酸クロリドを除去し、モジュールを30分以上水洗することで、正浸透膜モジュールを得た。
【0060】
[正浸透膜モジュールの透水性能、及び塩の逆拡散の測定]
以下の各実施例、及び比較例で得た正浸透膜モジュールのコア側導管に、純水30Lを入れた50Lのタンクを配管でつなぎ、ポンプで純水を循環させた。前記タンクに導電率計を装備し、純水への塩の移動を測定した。他方、シェル側導管には、濃度3.5質量%の食塩水20Lを入れた50Lのタンクを配管でつなぎ、ポンプで食塩水を循環させた。コア側とシェル側のタンクを、それぞれ、天秤の上に設置し、水の移動量を測定した。純水の流量を2.2L/分、シェル側の流量を8.8L/分として同時に運転し、水と塩の移動量を、それぞれ、測定し、前記式(4)と(5)により、正浸透膜の透水量F2と塩の逆拡散RSFを、それぞれ、求めた。F2=13.2(kg/(m×hr))、RSF=1.40(g/(m×hr))であった。
【0061】
[実施例2~8、比較例1~3]
実施例2~8、比較例1~3では、以下の表1に示すように製造条件を変えて膜モジュールを作製し、得られた膜モジュールについてF2とRSFを測定した。結果を以下の表1に示す。なお、比較例2では先行特許文献1に記載の製造方法に倣い、スルホン化されたポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの混合物を原料として用いた。
尚、表1における、溶媒又は添加剤欄中の略称は、それぞれ以下の意味である。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
TEG:テトラエチレングリコール
【0062】
【表1】
【0063】
続いて、以下に記述するように、基材膜の圧縮強度P1,複合正浸透膜の剥離圧P2、及び長期運転性の確認を行った。
【0064】
[実施例9]
実施例8と同様の方法で中空糸基材膜と正浸透膜を作製した。
【0065】
[基材膜の圧縮強度の測定]
11cm長に切断した中空糸を40℃の純水で満たした加圧容器内に浸漬した。中空糸の一端を封止し、もう片方の端を容器外へ通じるノズルにシリンジ針を介して接続した。加圧容器を密閉し、水圧を印加した。加圧圧力を0.10MPaに維持して5分間保持したときに、コア側(中空糸の内側)に透過してきた水量W(g)を計測し、前記した式(3)にしたがって、透水量F3(g/min)を算出した。加圧圧力を0.05MPaずつ上げながら、上記の操作を繰り返し、透水量F3が減少に転じた点を記録した。2回上記測定を繰り返し、平均値を圧縮強度P1として採用した。P1=0.40(MPa)であった。
【0066】
[剥離圧の測定]
F2の測定と同じ条件下で、複合正浸透膜モジュールを10分間運転し、透水量及び塩の逆拡散を測定した。次いで、駆動液のモジュール出側の背圧弁を調節して、駆動液のモジュール入り圧を上げてΔPを5kPa増加させ、複合正浸透膜モジュールを10分間運転し、透水量F2及び塩の逆拡散RSFを測定した。この操作を繰り返し、駆動液のモジュール入り圧Pを順次上げてΔPを増加させながら、複合正浸透膜モジュールの透水量F2及び塩の逆拡散RSFを測定した。
そして、透水量F2に対する塩の逆拡散RSFの比RSF/F1がΔP=0kPaのときの1.5倍を超えたときのΔPを、剥離圧P2とした。ここで、
ΔP=(駆動液のモジュール入り圧)―(被処理液のモジュール入り圧)
とした。
上記正浸透膜の剥離圧P2を求めたところ、P2=40(kPa)であった。
【0067】
[長期運転性の確認]
同条件で正浸透膜モジュールを作製し直し、F2とRSFを測定した。
次に、この複合正浸透膜モジュールについて、被処理液として純水を、駆動液として3.5質量%の食塩水をそれぞれ用い、液温25℃にて、被処理水をコア側に、駆動液をシェル側にそれぞれ送液しながら24時間運転し、透水量F1及び塩の逆拡散RSFを測定した。
このとき、駆動液のモジュール入り圧Pと被処理理液のモジュール入り圧Pとの差ΔPを、5kPa以下に調節した。また、駆動液貯蔵タンク中の駆動液の導電率ε(mS/cm)が、50mS/cm以上60mS/cm以下になるように、塩化ナトリウムの飽和水溶液を、適宜、駆動液貯蔵タンクに添加した。
【0068】
24時間の運転後、複合正浸透膜モジュールを装置から取り外し、純水で洗浄した。
その後、装置に複合正浸透膜モジュールを再度接続し、駆動液のモジュール入り圧Pを上げてΔPを10kPaに調節して、再度24時間の運転を行い、透水量F1及び塩の逆拡散RSFを測定した。
その後、上記と同じ方法により、複合正浸透膜モジュールを純水で洗浄した。
【0069】
この、24時間運転及び純水による洗浄の操作を、透水量F1に対する塩の逆拡散RSFの比RSF/F1の値が、初期値に比べて1.5倍を超えるまで繰り返した。
そして、RSF/F1の値が初期値の1.5倍を超えるまでの時間を、性能劣化時間T(h)として記録し、以下の基準で評価した。
評価AA(十分高い耐久性をもつ):T>800のとき、
評価A(良好な耐久性をもつ):800≧T>200のとき、
評価C(耐久性が低い):T≧200のとき。
実施例9で得られた膜モジュールは評価Aであった。
【0070】
[実施例10~13、比較例4]
実施例10~13、比較例4では、以下の表2に示すように製造条件を変えて膜モジュールを作製し、得られた膜モジュールについて基材膜の圧縮強度P1、複合正浸透膜の剥離圧P2、及び長期運転性の確認を行った。結果を以下の表2に示す。
尚、表2における、溶媒又は添加剤欄中の略称は、それぞれ以下の意味である。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N-ジメチルアセトアミド
TEG:テトラエチレングリコール
【0071】
【表2】
【0072】
[参考例1]
[分離活性層の分解]
実施例1に用いた上記正浸透膜を、2.0質量%の次亜塩素酸ナトリウム、2.0質量%水酸化ナトリウム、0.15質量%塩化カルシウムからなる水溶液に、60℃で200時間浸漬した。その後、糸を純水で十分に洗浄した。分離活性層を分解して得た基材膜は、F1=1768(kg/(m×hr))を示した。また、R=73.5%であった。すなわち、基材膜の透水量F1と阻止率Rの測定については、分離活性層を塗工する前の基材膜に対して行っても、また、正浸透膜の分離活性層を分解して得た基材膜にどちらに対して行っても構わないことがわかった。
【0073】
[参考例2]
[末端極性官能基の同定]
ポリエーテルスルホンE2020PSRの末端基がヒドロキシ基で修飾されているかどうかを判断するために、下記要領でNMRを用いた分析を行った。
正浸透膜をN,N-ジメチルホルムアミド-d7(ACROS社製、99.5atom%D、カタログNo320730075)中に溶解し、不溶分を取り除いて1H NMRの測定を行った。さらに、同液にイミダゾール(WAKO社製、和光特級、カタログNo.093-00011)を添加した後にtert-ブチルジメチルシリルクロリド(ALDRICH社製、カタログNo.190500、純度97%)を添加し、高分子中に含まれるヒドロキシ末端をシリル化した。前述試薬添加してから約4時間室温で置いた後、この液について1H、1H-13C HSQC、1H-13C HMBCおよび1H-1H NOESYの測定を行い、高分子中のメトキシ基末端、ヒドロキシ基末端を有するフェニル基のオルト位の水素を同定し、各ピークの積分値から高分子中のメトキシ基末端およびヒドロキシ末端の存在モル比率を算出した。化学シフトはN,N-ジメチルホルムアミドの高磁場側のCH3(2.74ppm)を基準とし、メトキシ基末端のモル比率計算は3.8-4.0ppmにあるCH3由来の水素のシングレットのピークを用いた。ヒドロキシ基末端のモル比率計算は化学修飾前に6.90―7.20ppmに存在し、化学修飾後に7.00-7.15ppmの間にピークシフトするヒドロキシ末端を有するフェニル基のオルト位の水素のダブレットのピークを用いた。どちらのピークについてもピークの谷と谷を結んだ接線で囲まれた部分の面積値により存在モル比率を算出した。1H NMRの測定は日本電子株式会社製400MHzNMRにより行い、それ以外のNMRの測定はBruker社製、600MHzNMRおよびクライオプローブにより行った。
この結果、94%の末端がヒドロキシ基であることがわかった。
【0074】
[中空糸状基材膜支持層構成材料の水接触角の測定]
ポリエーテルスルホン(ベラデル 3600RP)をN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、ポリマー濃度20質量%の溶液を得た。この溶液をガラス板上に塗布し、60℃の50質量%テトラエチレングリコール水溶液中に浸漬して、ガラス板上に膜厚200μmのポリマー平膜を作製した。
得られたポリマー平膜の表面に、2μLの純水を滴下して、高分子平膜表面上に純水の液滴を形成した。そして、高分子平膜表面と液滴とが形成する角度を、投影画像の解析によって数値化した値を、水接触角として採用した。この高分子平膜の水接触角は、76.9°であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の正浸透膜は、高い透水性能を有し、かつ、塩の逆拡散を低減したものであるため、例えば、食品や薬品溶液の濃縮、脱水や、海水淡水化、汽水淡水化、シェールガス・油田に代表されるガス田、油田から排出される随伴水の処理、肥料溶液の濃縮又は希釈用途等に好適に利用可能である。特に、本発明の正浸透膜を食品や薬品の濃縮に適用すれば、濃縮対象物を加熱することなく高倍率で濃縮することができるうえに、溶質の流出又は流入を抑制できるため、成分の劣化や異物の混入を防いだ非加熱濃縮が可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 中空糸膜モジュール
2 シェル側導管
3 シェル側導管
4 中空糸膜
5 接着剤固定部
6 接着剤固定部
7 ヘッダー
8 ヘッダー
9 コア側導管
10 コア側導管
図1
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