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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】アセナピン含有貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/407 20060101AFI20221004BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221004BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61K31/407
A61P25/24
A61P25/18
A61K9/70 401
A61K47/34
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020550333
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037582
(87)【国際公開番号】W WO2020071205
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018186875
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】行弘 政樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 祐香
(72)【発明者】
【氏名】天野 智史
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/115010(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0193283(US,A1)
【文献】国際公開第2017/131034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体および粘着剤層を備える貼付剤であって、
粘着剤層が、アセナピンおよび/またはその薬学的に許容し得る塩と、シリコーン系粘着基剤とを含み、
シリコーン系粘着基剤が、中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤を含むか、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含み、
粘着剤層の損失正接(tanδ)が、1.0Hzで0.75~1.5である、前記貼付剤。
【請求項2】
粘着剤層の粘度が、90℃で3000~60000Pa・sである、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
粘着剤層の粘度が、90℃で3500~60000Pa・sである、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項4】
シリコーン系粘着基剤が、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤、中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤および低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤からなる群から選択される少なくともつ以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項5】
シリコーン系粘着基剤が、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項6】
高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤との質量比が、90:10~10:90である、請求項5に記載の貼付剤。
【請求項7】
シリコーン系粘着基剤が、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項8】
高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤との質量比が、90:10~30:70である、請求項7に記載の貼付剤。
【請求項9】
粘着剤層が、アセナピンおよびシリコーン系粘着基剤からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項10】
粘着剤層が、抗酸化剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項11】
粘着剤層が、アセナピン、シリコーン系粘着基剤および抗酸化剤からなる、請求項10に記載の貼付剤。
【請求項12】
抗酸化剤が、ジブチルヒドロキシトルエン、メルカプトベンズイミダゾール、エチレンジアミン四酢酸およびクエン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項10または11に記載の貼付剤。
【請求項13】
粘着剤層の質量が、30~200g/mである、請求項1~12のいずれか一項に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤層にアセナピンを含有する貼付剤ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセナピンは、統合失調症などの中枢神経系疾患の治療薬として知られており、舌下錠(シクレスト(登録商標)舌下錠およびサフリス(登録商標)舌下錠)が市販されている。現状では、舌下錠以外の剤形では市販されていない。
アセナピン含有貼付剤は、例えば特許文献1~5に記載されており、いずれもゴム系粘着基剤やアクリル系粘着基剤を用いた貼付剤を中心に検討したものであった。
ポリシロキサン粘着剤とポリアクリレート粘着剤とを組み合わせたアセナピン含有貼付剤は、例えば特許文献6、特に実施例14に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/017593号
【文献】国際公開第2014/017594号
【文献】国際公開第2014/017595号
【文献】国際公開第2017/018321号
【文献】国際公開第2017/018322号
【文献】国際公開第2010/127674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、アセナピンを含有する貼付剤について検討を進める中で、アセナピンとシリコーン系粘着基剤を用いた貼付剤においては、ゴム系粘着基剤を用いた貼付剤よりも皮膚透過性がよくなる傾向がある一方、保存中あるいは貼付中に粘着基剤層にコールドフロー(いわゆる「舌出し」)が生じやすくなり、アセナピンの経時安定性に影響があり、アセナピンの含量低下に伴う皮膚透過性低下が生じるなどの知見を得るに至った。
コールドフローとは、保存中あるいは貼付中などに、接着剤が常温で流動変形する現象をいう。コールドフローが生じた場合は、支持体および粘着剤層が積層された貼付剤の側面から辺縁に支持体に覆われた範囲を超えて外側へ粘着剤層がはみ出ることにより、貼付剤としての形状を保持することができず、例えば、はみ出た粘着剤層が貼付剤の包材の内面に付着し、アセナピンの経時安定性に影響があったり、アセナピンの含量低下に伴う皮膚透過性低下が生じたり、包材より貼付剤が取り出しにくくなるなどの問題が生じる。
したがって、本発明の課題は、シリコーン系粘着基剤を用いて皮膚透過性を高めながら、保存中あるいは貼付中のコールドフローを抑制し、貼付剤における薬物の安定維持と長期間に亘る適切な投与形態の維持によって、持続的に十分な薬効を得られる、取り扱いに優れたアセナピン含有貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、粘着剤層の損失正接(tanδ)を所定の範囲に調整することによって、アセナピンおよびシリコーン系粘着基剤を含む貼付剤のコールドフローを抑制することにより、付着性および取り扱いに優れる貼付剤となるばかりでなく、さらに貼付剤における薬物の安定維持と長期間に亘る適切な投与形態を維持することができ、持続的に十分な薬効を得ることができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関する。
【0006】
[1] 支持体および粘着剤層を備える貼付剤であって、
粘着剤層が、アセナピンおよび/またはその薬学的に許容し得る塩と、シリコーン系粘着基剤とを含み、
粘着剤層の損失正接(tanδ)が、1.0Hzで0.75~1.5である、前記貼付剤。
[2] 粘着剤層の粘度が、90℃で3000~60000Pa・sである、前記[1]に記載の貼付剤。
[3] 粘着剤層の粘度が、90℃で3500~60000Pa・sである、前記[1]に記載の貼付剤。
[4] シリコーン系粘着基剤が、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤、中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤および低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤からなる群から選択される少なくとも1つ以上を含む、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の貼付剤。
[5] シリコーン系粘着基剤が、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含む、前記[4]に記載の貼付剤。
[6] 高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤との質量比が、90:10~10:90である、前記[5]に記載の貼付剤。
[7] シリコーン系粘着基剤が、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含む、前記[4]に記載の貼付剤。
[8] 高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤との質量比が、90:10~30:70である、前記[7]に記載の貼付剤。
[9] 粘着剤層が、アセナピンおよびシリコーン系粘着基剤からなる、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の貼付剤。
[10] 粘着剤層が、抗酸化剤をさらに含む、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の貼付剤。
[11] 粘着剤層が、アセナピン、シリコーン系粘着基剤および抗酸化剤からなる、前記[10]に記載の貼付剤。
[12] 抗酸化剤が、ジブチルヒドロキシトルエン、メルカプトベンズイミダゾール、エチレンジアミン四酢酸およびクエン酸からなる群から選択される1種以上である、前記[10]または[11]に記載の貼付剤。
[13] 粘着剤層の質量が、30~200g/mである、前記[1]~[12]のいずれか一項に記載の貼付剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アセナピンを含有するシリコーン系粘着剤層を含む貼付剤において、コールドフローを抑制し、貼付剤の形態を維持することができるため、保存安定性や取扱性に優れている。さらに本発明の貼付剤は、付着性においても優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の貼付剤は、例えば、支持体と、該支持体上に積層された粘着剤層とを備えるものである。
支持体は、貼付剤、特に粘着剤層の形状を維持し得るものであればよい。支持体の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ナイロン(商品名)などのポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリウレタンなどの合成樹脂が挙げられる。支持体の性状は、例えば、フィルム、シート、シート状多孔質体、シート状発泡体、織布、編布、不織布などの布帛、およびこれらの積層体などである。支持体の厚さは、特に制限されないが、通常、2~3000μm程度であることが好ましい。
【0009】
粘着剤層は、アセナピンおよびシリコーン系粘着基剤を含む。また、本発明の貼付剤は、アセナピンおよびシリコーン系粘着基剤の他、必要に応じて、抗酸化剤、粘着付与樹脂、可塑剤、吸収促進剤、溶解剤、架橋剤、防腐剤、充填剤、保存剤、香料などのその他の添加成分を含んでもよい。
【0010】
本発明のアセナピンは、trans-5-クロロ-2-メチル-2,3,3a,12b-テトラヒドロ-1H-ジベンゾ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5-c]ピロールとも呼ばれる化合物である。アセナピンは、複数の光学異性体を有しており、いずれの光学異性体であっても用いることができ、ラセミ体などの光学異性体の混合物であってもよい。アセナピンに付加される酸としては、薬学的に許容し得る酸であれば、特に制限されない。アセナピンの酸付加塩は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0011】
アセナピンの酸付加塩における酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、サリチル酸、安息香酸などが挙げられる。例えば、アセナピンマレイン酸塩は、舌下錠(シクレスト(登録商標)舌下錠およびサフリス(登録商標)舌下錠)として市販されている。
【0012】
脱塩剤は、アセナピンの酸付加塩との塩交換反応により、アセナピンの酸付加塩をアセナピン遊離塩基に変換できるものであればよい。すなわち、脱塩剤とは、アセナピンの酸付加塩をアセナピン遊離塩基に変換する成分を意味する。脱塩剤としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属塩、低分子アミンなどが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。低分子アミンは、分子量が30~300であるアミンであり、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどが挙げられる。脱塩剤は、アセナピンに付加される酸のpKaを考慮して選択すればよい。脱塩剤が、水酸化ナトリウムまたは酢酸ナトリウムであると、貼付剤の製造時において薬物の分解がより少ない。
【0013】
上記アセナピンの含有量は当業者が適宜設定することが可能であるが、粘着剤層全量を基準として、アセナピンフリー体換算で、0.5~30質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、1.5~12質量%であることがさらに好ましく、2~10質量%であることが特に好ましい。
【0014】
本発明の貼付剤は、粘着剤層の損失正接(tanδ)が1.0Hzで、0.75~1.5であることが好ましく、0.85~1.5であることが好ましく、0.85~1.45であることがより好ましく、0.85~1.3であることがより好ましく、0.9~1.3であることがさらに好ましい。損失正接が小さいと、付着性が悪くなったり、製造が困難になる傾向があり、損失正接が大きいと、コールドフローが起きやすくなる傾向がある。
粘弾性の指標となる損失正接(tanδ)とは、動的粘弾性測定において、アセナピンおよびシリコーン系粘着基剤を含有する組成物を、2つの板で挟み、片方の板に周期的に振動するひずみを与えたときの応力の変化を測定し、下記式により算出される値である。なお、動的粘弾性測定は、例えば、回転式レオメータを用いて、温度32℃、周波数1Hzで行う。
損失正接(tanδ)=損失弾性率(G”)/貯蔵弾性率(G’)
【0015】
本発明の貼付剤は、粘度が90℃で、3000~60000Pa・sであることが好ましく、3500~60000Pa・sであることが好ましく、4500~55000Pa・sであることがより好ましく、5500~28000Pa・sであることがより好ましく、5500~20000Pa・sであることがさらに好ましい。90℃での粘度が小さいと、コールドフローが起きやすくなる傾向にあり、90℃での粘度が大きいと、付着性が悪くなったり、製造が困難になる傾向がある。
本発明における粘度とは、試料(粘着剤層など)の所定の温度での粘度を、フローテスター(SHIMADZU社製、製品名「FLOWTESTER CFT-500」)を用いて測定した値のことであり、本発明にかかる粘着剤層の粘度とは、支持体の表面上に配置する際の粘着剤層を前記方法にて測定した値のことである。
【0016】
本発明の貼付剤は、コールドフロー面積率が40%未満であり、15%未満であることが好ましく、10%未満であることがさらに好ましい。
本発明におけるコールドフロー面積率とは、コールドフローしない面積(すなわち、本来の貼付剤の面積)を100%とした場合のコールドフロー部分(本来の貼付剤から広がった部分)の面積の百分率をいう。
【0017】
シリコーン系粘着基剤は、オルガノポリシロキサン骨格を有する化合物である。
シリコーン系粘着基剤としては、例えば、シリコーンゴムとシリコーンレジンとの混合物、あるいは、これらをアルカリ触媒等の存在下で、脱水縮合させたものなどが挙げられるが、シリコーンゴムとシリコーンレジンとの縮合物が好ましい。
シリコーン系粘着基剤を構成するシリコーンゴムは、例えば、ポリオルガノシロキサンの両末端にヒドロキシ基を有する長鎖重合体である。シリコーンゴムのオルガノシロキサン単位は、ジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンゴムが好ましい。
シリコーン系粘着基剤を構成するシリコーンレジンは、特に限定されないが、三次元構造のシリケートレジンが好ましい。
【0018】
シリコーン系粘着基剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンが挙げられる。具体的なシリコーン系粘着基剤としては、例えば、MD7-4502 Silicone Adhesive、MD7-4602 Silicone AdhesiveなどのMDシリーズ(ダウコーニング社製);BIO-PSA(登録商標) 7-4301 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4302 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4201 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4202 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4101 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4102 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4601 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4602 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4501 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4502 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4401 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4402 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4100 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4200 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4300 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4400 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4500 Silicone Adhesive、BIO-PSA(登録商標) 7-4600 Silicone AdhesiveなどのBIO-PSAシリーズ(ダウコーニング社製)、Dow Corning(登録商標) 7-9800A、Dow Corning(登録商標) 7-9800B、Dow Corning(登録商標) 7-9700A、Dow Corning(登録商標) 7-9700Bが挙げられる。
【0019】
本発明のシリコーン系粘着基剤は、アミン適合性シリコーン系粘着基剤が好ましい。アミン適合性シリコーン系粘着基剤とは、例えば、ポリジメチルシロキサンとシリコーンレジンとを縮合させた後、トリメチルシリル化等により、縮合させた際に残存するシラノール基をトリメチルシリル基等でブロッキングして、残存するシラノール濃度を抑制したシリコーン系粘着基剤である。
また、シリコーン系粘着基剤は、タック性により、高タック、中タック、低タックの3種類に大別できるが、本発明においては、これらを適宜組み合わせて用いることができる。
タックとは、JIS K6800-1985またはISO6354によれば、非常に軽い力で被着材の表面と接触した直後に結合を形成することのできる接着剤の性質をいう。
【0020】
本発明における高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤は、シリコーンレジンとシリコーンゴムの重量比が、概ね52.5:47.5(w/w)~57.5:42.5(w/w)であり、好ましくは、55:45(w/w)であるアミン適合性シリコーン系粘着基剤である。高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤としては、例えば、BIO-PSA(登録商標) 7-4302 Silicone AdhesiveおよびBIO-PSA(登録商標) 7-4301 Silicone Adhesiveが挙げられる。
本発明における中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤は、シリコーンレジンとシリコーンゴムの重量比が、概ね57.5:42.5(w/w)~62.5:37.5(w/w)であり、好ましくは、60:40(w/w)であるアミン適合性シリコーン系粘着基剤である。中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤としては、例えば、BIO-PSA(登録商標) 7-4202 Silicone AdhesiveおよびBIO-PSA(登録商標) 7-4201 Silicone Adhesiveが挙げられる。
本発明における低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤は、シリコーンレジンとシリコーンゴムの重量比が、概ね62.5:37.5(w/w)~67.5:32.5(w/w)であり、好ましくは、65:35(w/w)であるアミン適合性シリコーン系粘着基剤である。低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤としては、例えば、BIO-PSA(登録商標) 7-4102 Silicone AdhesiveおよびBIO-PSA(登録商標) 7-4101 Silicone Adhesiveが挙げられる。
【0021】
本発明は一態様において、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含む。高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と中タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤との質量比は、適宜決定し得るが、90:10~10:90であることが好ましく、87.5:12.5~12.5:87.5であることがより好ましく、75:25~25:75であることがさらに好ましい。
本発明は一態様において、高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤とを含む。高タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤と低タックのアミン適合性シリコーン系粘着基剤との質量比は、適宜決定し得るが、90:10~30:70であることが好ましく、90:10~50:50であることがより好ましく、87.5:12.5~50:50であることがさらに好ましく、75:25~50:50がさらにより好ましい。
【0022】
抗酸化剤としては、例えば、トコフェロールおよびこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ノルジヒトログアヤレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、クエン酸、2-メルカプトベンズイミダゾール、エチレンジアミン四酢酸などが例示される。抗酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
可塑剤は、粘着剤層に柔軟性を付与するものであればよい。可塑剤としては、例えば、鉱物油(例えば、パラフィン油、ナフテン油、芳香族油)、動物油(例えば、スクワラン、スクワレン)、植物油(例えば、オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油)、シリコーン油、二塩基酸エステル(例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート)、液状ゴム(例えば、液状ポリブテン、液状ポリイソプレン)、液状の脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル)、多価アルコール(例えば、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール)、トリアセチン、クエン酸トリエチル、クロタミトンなどが例示される。可塑剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
吸収促進剤は、アセナピンまたはその薬学的に許容し得る塩の皮膚透過性を調整する成分である。吸収促進剤としては、従来皮膚への吸収促進作用が認められている化合物であれば特に限定されず、例えば、イソステアリルアルコールなどの脂肪族アルコール、カプリン酸などの脂肪酸、プロピレングリコールモノラウレート、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ジエタノールアミドなどの脂肪酸誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類などが挙げられる。吸収促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
架橋剤としては、特に限定されないが、好ましい例として、アミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属または金属化合物などの無機系架橋剤などが挙げられる。
【0026】
防腐剤としては、特に限定されないが、好ましい例として、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどが挙げられる。充填剤としては、特に限定されないが、好ましい例として、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなど)、セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)が挙げられる。
【0027】
充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどが挙げられる。
【0028】
保存剤としては、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどが挙げられる。保存剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明は一態様において、粘着剤層が、アスコルビン酸、メルカプトベンズイミダゾールおよびクエン酸からなる群から選択される1種以上をさらに含む。
本発明は一態様において、粘着剤層の質量が、30~200g/mであることが好ましく、30~150g/mであることがより好ましく、30~130g/mであることがさらに好ましい。質量が小さすぎると、付着性が悪くなる、製造が困難になるなどの問題が生じる虞があり、質量が大きすぎると、コールドフローが起きやすくなるなど、物性が悪くなる虞がある。
【0030】
貼付剤は、さらに剥離ライナーを備えていてもよい。剥離ライナーは、粘着剤層に対して、支持体と反対側の面に積層されている。剥離ライナーを備えていると、保管時において、粘着剤層へのゴミなどの付着を低減することができる傾向がある。
剥離ライナーの素材としては、特に限定されず、当業者に一般的に知られているフィルムを用いることができる。剥離ライナーの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのフィルム;上質紙とポリオレフィンとのラミネートフィルム;ナイロン(登録商標)、アルミニウムなどのフィルムなどが挙げられる。剥離ライナーの材質としては、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0031】
次に、本発明の貼付剤の製造方法の一例について説明する。
まず、粘着剤層形成用の混合物を調製する。混合機を用いて、上述したアセナピン、シリコーン系粘着基剤、およびその他の成分を、溶媒に溶解または分散させることにより、粘着剤層形成用の混合物が得られる。
前記溶媒としては、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、酢酸ブチル、エタノール、メタノール、キシレン、イソプロパノールなどが使用できる。これらは、溶解または分散させる成分に応じて適宜選択し、1種を単独でまたは2種以上を混合して組み合わせて用いることができる。
続いて、得られた粘着剤層形成用の混合物を、支持体の上に直接展延して乾燥し、粘着剤層を形成し、続いて、粘着剤層を保護するための剥離ライナーを粘着剤層上に粘着させるか、離型処理された紙もしくはフィルム上に展延して乾燥し、粘着剤層を形成し、その上に支持体を載せて、粘着剤層を支持体上に圧着転写させて、貼付剤を得ることができる。
【実施例
【0032】
例1 貼付剤(高タック+中タック)の調製
表1に記載の組成にしたがって、貼付剤1~7を調製した。なお、粘着剤の質量は、100g/m(設定値)であった。
【表1】
【0033】
例2 動的粘弾性試験
試料として貼付剤1、3~7を用いて、以下の条件により損失弾性率および貯蔵弾性率を測定し、損失正接(tanδ値)を算出した(N=1または2)。
[測定条件]
装置:HAAKE MARS III(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
試料部:直径8mmの平行平板
ギャップ間隔:1mm
試料量:130mg±10mg
温度:32℃
周波数:1Hz
歪:1%
【0034】
動的粘弾性試験により得られた貯蔵弾性率および損失弾性率の値から、損失正接(tanδ値)を算出した結果を表2に記載した。
【表2】
【0035】
例3 粘度測定
貼付剤1、3~7の90℃での粘度を下記の測定条件により、フローテスター(SHIMADZU社製、製品名「FLOWTESTER CFT-500」)を用いて測定した(N=2)。結果を表3に示す。
[測定条件]
昇温温度:5.0℃/min
ダイ穴径:0.5mm
ダイ長さ:1.0mm
試験加重:50.0kg
【0036】
【表3】
【0037】
例4 コールドフロー評価試験
貼付剤3~6(円形2.49cm)の上に1kgの加重をかけた上で(コールドフロー誘導)、32℃、60%RHの環境下の恒温恒湿器に48時間保管し、コールドフロー面積率(コールドフローしない面積(円形2.49cm)を100%とした場合のコールドフロー部分の面積の百分率)を算出した(N=3)。結果を表4に示す。
【表4】
【0038】
貼付剤3~6のコールドフロー面積率は、いずれも15%未満であり、良好な結果が得られた。また、貼付剤3~5のコールドフロー面積率は、いずれも10%未満であり、さらに良好な結果が得られた。
【0039】
例5 経時安定性試験
表5に記載の組成にしたがって、貼付剤8~17を調製した。
【表5】
【0040】
貼付剤8~17をアルミ包装袋に個包装し、製造直後および60℃で2週間保存した後(60℃2W)、下記の測定条件により高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてアセナピンの類縁物を測定した。結果を表6に示す。
[測定条件]
カラム:ODSカラム
移動相液:メタノール / 0.01mol/L ラウリル硫酸ナトリウム in 0.1%リン酸水=3/1
検出波長:230nm
なお、表中の括弧内は、任意の類縁物の相対保持時間RRTを示し、下記のとおり算出される。
[任意の類縁物の相対保持時間(RRT)]=[任意の類縁物のピークの保持時間(RT)]÷[アセナピンのピークの保持時間(RT)]
また、類縁物量(%)は、下記のとおり算出される。
[類縁物量(%)]=[任意の類縁物のピーク面積]÷[アセナピンのピーク面積]×100
【0041】
【表6】
【0042】
貼付剤9(ジブチルヒドロキシトルエン含有)、貼付剤14(メルカプトベンズイミダゾール含有)、貼付剤15(エチレンジアミン四酢酸含有)および貼付剤17(クエン酸含有)は、アセナピン類縁物が貼付剤8と比較して相対的に低く、アセナピンがより安定であったことが示された。
【0043】
例6 貼付剤(高タック+低タック)の調製
表7に記載の組成にしたがって、貼付剤18~25を調製した。なお、粘着剤の質量は、100g/m(設定値)であった。
【表7】
【0044】
表中、損失正接(tanδ)、粘度(Pa・s)およびコールドフロー面積率(%)は、例2~4に記載の方法を用いて測定または算出した。
表中、アセナピンの初期含量に対する含量(対初期含量(%))については、次のとおり算出した。
<対初期含量(%)の算出>
調製した貼付剤をアルミ包装袋に個包装し、製造直後および60℃で2週間保存した後(60℃2W)、下記の測定条件により高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてアセナピンの含量を測定した。
[測定条件]
カラム:ODSカラム
移動相液:メタノール / 0.01mol/L ラウリル硫酸ナトリウム in 0.1%リン酸水=3/1
検出波長:230nm
【0045】
対初期含量は、下記のとおり算出される。
[対初期含量(%)]=[60℃2W保存時のアセナピン含量]÷[製造直後のアセナピン含量]×100
【0046】
表中、プローブタック値(gf)は、次のとおり測定した。<プローブタック値(gf)の測定>
プローブタックテスター(理学工業株式会社製、製品名「デジタルカウンター付プローブタックテスター」)を用いて測定した。プローブタック試験条件は次のとおりである。
[プローブタック試験条件]
プローブ材質:ステンレス
プローブ直径:5mmφ
接触時間:1sec
接触加重:4.9N/cm
剥離速度:10mm/sec
【0047】
表7に示すとおり、貼付剤18~20はコールドフロー面積率は低く、粘着剤層の舌出しは抑制されているものの、付着性は低くなることが確認された。一方、貼付剤25はコールドフロー面積率が大きくなり、粘着剤層の舌出しを抑制できないことが確認された。これらに対して、貼付剤21~24は、粘着剤層の舌出しは抑制され、さらに優れた付着性を有していることが確認された。
【0048】
例7 薬物濃度の検討
表8に記載の組成にしたがって、貼付剤26~28を調製した。なお、粘着剤の質量は、100g/m(設定値)であった。
【表8】
【0049】
表中、損失正接(tanδ)、粘度(Pa・s)およびコールドフロー面積率(%)は、例2~4に記載の方法を用いて測定または算出した。
表8に示すとおり、薬物濃度を変更した場合であっても、損失正接(tanδ)を所定の範囲とすることによって、コールドフロー面積率が低くなることが確認された。
【0050】
例8 粘着剤の質量の検討
表9に記載の組成にしたがって、貼付剤29~32を調製した。
【表9】
【0051】
表中、損失正接(tanδ)およびコールドフロー面積率(%)は、例2および4に記載の方法を用いて測定または算出した。
表9に示すとおり、粘着剤の質量を30~200g/mの範囲内で変更した場合であっても、損失正接(tanδ)を所定の範囲とすることによって、コールドフロー面積率が低くなることが確認された。