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特許7152511光学素子、それを用いた車両用前照灯ユニット、及び、車両用前照灯装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】光学素子、それを用いた車両用前照灯ユニット、及び、車両用前照灯装置
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/24 20180101AFI20221004BHJP
   F21S 41/143 20180101ALI20221004BHJP
   F21S 41/25 20180101ALI20221004BHJP
   F21S 41/663 20180101ALI20221004BHJP
   F21S 41/153 20180101ALI20221004BHJP
   F21W 102/155 20180101ALN20221004BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20221004BHJP
【FI】
F21S41/24
F21S41/143
F21S41/25
F21S41/663
F21S41/153
F21W102:155
F21Y115:10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020558773
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2018045040
(87)【国際公開番号】W WO2020115887
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】500103199
【氏名又は名称】マクセルフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 光彦
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055907(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122629(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105423209(CN,A)
【文献】特開2016-184578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21W 102/155
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用前照灯装置に用いる光学素子であって、
前記光学素子は、複数の発光素子からの出射光を各々伝搬させる複数のロッドと、該複数のロッドと接続し連結する統合部を備えており、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、他のロッドに比べて指向性が低く、前記統合部の接続箇所から出射光方向の前記統合部の厚さが他のロッドに比べて薄く、前記複数のロッドの前記統合部との接続箇所における水平方向の幅が、照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドにおいて最小であることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子であって、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、他のロッドに比べてテーパが小さいことを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1に記載の光学素子であって、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、投射レンズの光軸に最も近いことを特徴とする光学素子。
【請求項4】
複数の発光素子と、光学素子と投射レンズを備える車両用前照灯ユニットであって、
前記光学素子は、前記複数の発光素子からの出射光を各々伝搬させる複数のロッドと、該複数のロッドと接続し連結する統合部を備えており、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、他のロッドに比べて指向性が低く、前記統合部の接続箇所から出射光方向の前記統合部の厚さが他のロッドに比べて薄く、前記複数のロッドの前記統合部との接続箇所における水平方向の幅が、照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドにおいて最小であることを特徴とする車両用前照灯ユニット
【請求項5】
請求項4に記載の車両用前照灯ユニットであって、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドには、他のロッドに比べてテーパが小さいことを特徴とする車両用前照灯ユニット。
【請求項6】
請求項に記載の車両用前照灯ユニットであって、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、投射レンズの光軸に最も近いことを特徴とする車両用前照灯ユニット。
【請求項7】
車両用前照灯ユニットと、該車両用前照灯ユニットの光軸調整の制御を行う照射制御部とを有する車両用前照灯装置であって、
前記車両用前照灯ユニットは、複数の発光素子と、光学素子と投射レンズを備え、
前記光学素子は、前記複数の発光素子からの出射光を各々伝搬させる複数のロッドと、該複数のロッドと接続し連結する統合部を備えており、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、他のロッドに比べて指向性が低く、前記統合部の接続箇所から出射光方向の前記統合部の厚さが他のロッドに比べて薄く、前記複数のロッドの前記統合部との接続箇所における水平方向の幅が、照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドにおいて最小であることを特徴とする車両用前照灯装置
【請求項8】
請求項7に記載の車両用前照灯装置であって、
前記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドには、他のロッドに比べてテーパが小さいことを特徴とする車両用前照灯装置
【請求項9】
請求項7に記載の車両用前照灯装置であって、
記複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、投射レンズの光軸に最も近いことを特徴とする車両用前照灯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、それを用いた車両用前照灯ユニット、及び、車両用前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間運転中の車両は運転者の視界が悪いため事故の発生率が高い。そのため、安全上の観点から前照灯の点灯が義務付けられている。前照灯には、すれ違い用前照灯(以下、ロービームと記載)と走行用前照灯(以下、ハイビームと記載)とがあり、照射範囲を分担している。ロービームのみの点灯では視界を十分に確保することが難しいが、一方、ロービームに加えてハイビームを点灯すると対向車や先行車の運転者を眩惑させてしまうことがある。
【0003】
近年、この課題を解決するために、前方の対向車や先行車などの物体を認識し、この認識結果に基づいてハイビームの配光を適切に制御する技術が提案されており、普及しつつある。例えば、前方イメージセンサを用いて取得した画像を利用し、対向車や先行車を検出して、それらに対応する領域にはビームが非照射あるいは減光状態となるようにハイビームを制御する技術が提案されている。このような技術はAdaptive Driving Beam(ADB)と呼ばれている。
【0004】
また、配光の一部を遮蔽するシェードを用いずにADB対応ハイビームを実現する技術が開発されている。当該技術においては、前照灯ユニットは複数の発光素子と、光学素子と、投射レンズから構成される。光学素子は各発光素子に対応する複数のロッドと当該ロッドを連結する統合部から構成されており、各ロッドには発光素子からの出射光の入射する入射面、入射面と対向する統合部側には出射面が設けられている。各発光素子からの出射光は光学素子の各ロッドの入射面からに入射し光学素子内を伝播し出射面から出射し、投射レンズに入射する。投射レンズに入射した光は投射レンズにより車両の前方に投射されハイビーム配光となる。ADB実施の際には各発光素子の点消灯が行われ対応する配光の各エリアは照射・非照射となる。また、当該技術においては1つの前照灯ユニットの中に、前述のADB対応ハイビームを実現するための構成部品の他にロービームを実現するための構成部品を配置することが可能である。ロービームを実現するための追加の構成部品はロービーム用の複数の発光素子と、ロービーム用の光学素子である。投射レンズはハイビームを実現する投射レンズと兼用される。ロービーム用の光学素子はハイビーム用の光学素子と同様に、各発光素子に対応する複数のロッドと当該ロッドを連結する統合部から構成されており、各ロッドには発光素子からの出射光の入射する入射面、入射面と対向する統合部側には出射面が設けられている。ロービーム用の各発光素子からの出射光はロービーム用の光学素子の各ロッドの入射面から入射しロービーム用の光学素子内を伝播し出射面から出射し、投射レンズに入射する。投射レンズに入射した光は投射レンズにより車両の前方に投射されロービーム配光となる。以上のようにロービームを実現するための構成および動作はハイビームを実現するための構成および動作と同様であり、大きな差異はADB実施のための各発光素子の点消灯が行われない点のみである。
【0005】
本技術分野における背景技術として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、車両用前照灯装置であって、ハイビーム用の複数の発光素子と、ハイビーム用の光学素子と、ロービーム用の複数の発光素子と、ロービーム用の光学素子と、投射レンズとを備え、ロービーム用光学素子は、複数の発光素子からの光を伝搬させる複数の導光部と、導光部を一体形状とした光混合部とを備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-55907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、発光素子の輝度むら、色むらを低減し、滑らかな配光分布を形成することができる車両用前照灯装置を提供することができるが、配光の水平方向の中心付近に必要な光度のピーク値を確保する点について考慮されておらず、当該発明において配光の水平方向の中心付近に必要な光度のピーク値を確保するためには、例えば、統合部の長さを適当に制限した上で配光の中心付近を形成する発光素子の出力を上げる等が考えられるが、出力には上限があり、また、エネルギー効率が悪いという課題がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みて為されたものであって、エネルギー効率を高くして配光の光度ピークを形成することが可能な光学素子、それを用いた車両用前照灯ユニット、及び、車両用前照灯装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その一例を挙げるならば、車両用前照灯装置に用いる光学素子であって、光学素子は、複数の発光素子からの出射光を各々伝搬させる複数のロッドと、複数のロッドと接続し連結する統合部を備えており、複数のロッドのうち照射光が配光の光度ピーク形成に最も大きく寄与するロッドは、他のロッドに比べて指向性が低く、統合部の接続箇所から出射光方向の統合部の厚さが他のロッドに比べて薄くなるように構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エネルギー効率を高くして配光の光度ピークを形成することが可能な光学素子、それを用いた車両用前照灯ユニット、及び、車両用前照灯装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例における車両用前照灯装置の内部構造を説明する概略断面図である。
図2A】従来の車両用前照灯装置の前照灯ユニットの概略構成を示した側面図である。
図2B】従来の車両用前照灯装置の前照灯ユニットの概略構成を示した平面図である。
図3A】ロービームの理想的な配光パターンを示し、車両前方の角度空間における配光の光度を示す図である。
図3B図3Aの鉛直方向-1度付近において水平方向に沿った光度を示す図である。
図4】従来のロービーム用光学素子と各発光素子の構成例を示す平面図である。
図5A図4の光学素子の出射面における2次元的照度分布を表す画像である。
図5B図4の光学素子の出射面における鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分布を示すグラフである。
図6】従来のロービーム用光学素子と各発光素子の別の構成例を示す平面図である。
図7A図6の光学素子の出射面における2次元的照度分布を表す画像である。
図7B図6の光学素子の出射面における鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分布を示すグラフである。
図8図6における1つだけのロッドの動作を説明するための図である。
図9A図8の光学素子の出射面における2次元的照度分布を表す画像である。
図9B図8の光学素子の出射面における鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分布を示すグラフである。
図10】ロッドの内部での光線の反射状態を表す図である。
図11】ロッドのテーパと指向性の関係のシミュレーション結果を示す図である。
図12】配光中央部を形成するロッドの動作を説明するための図である。
図13A図12の光学素子の出射面における2次元的照度分布を表す画像である。
図13B図12の光学素子の出射面における鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分布を示すグラフである。
図14図12における統合部の厚さを薄くした構成を示す図である。
図15A図14の光学素子の出射面における2次元的照度分布を表す画像である。
図15B図14の光学素子の出射面における鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分布を示すグラフである。
図16】配光中央部を形成するロッドにおいて他のロッドよりも指向性が低く設定されていても投射レンズの光取込率は低下しない原理説明のための図である。
図17】実施例におけるロービーム用光学素子と各発光素子の構成例を示す平面図である。
図18A図17の光学素子の出射面における2次元的照度分布を表す画像である。
図18B図17の光学素子の出射面における鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例
【0013】
図1は、本実施例における車両用前照灯装置の内部構造を説明する概略断面図である。本実施例の車両用前照灯装置は、車両の前方の車幅方向の左右にそれぞれ1つずつ配置されるが、それぞれは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では片側の車両用前照灯装置の構造について説明する。
【0014】
図1において、車両用前照灯装置100は、ランプボディ212と透光カバー214を含む。ランプボディ212は、車両前方方向に開口部を有し、後方側には発光素子の交換時等に取り外す着脱カバー212aを有する。そして、ランプボディ212の前方の開口部には、透光カバー214が接続されて灯室216が形成される。灯室216には、光を車両前方方向に照射する前照灯ユニット9が収納されている。前照灯ユニット9の一部には、前照灯ユニット9の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。したがって、前照灯ユニット9はエイミング調整ネジ220の調整状態で定められた灯室216内の所定位置に傾動可能な状態で支持されることになる。
【0015】
また、前照灯ユニット9の下面には、曲線道路走行時等に進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-Lighting System:AFS)などを構成するためのスイブルアクチュエータ311の回転軸311aが固定されている。スイブルアクチュエータ311は車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、対向車や先行車を含む前方車両と自車との相対位置の関係等に基づいて、前照灯ユニット9を、ピボット機構218aを中心として進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、前照灯ユニット9の照射領域が車両の正面ではなく、曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視認性が向上する。スイブルアクチュエータ311は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
【0016】
また、スイブルアクチュエータ311は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外側に配置されたレベリングアクチュエータ313が接続されている。レベリングアクチュエータ313は、例えばロッド313aを矢印M、N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド313aが矢印M方向に伸張した場合、前照灯ユニット9はピボット機構218aを中心として、後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド313aが矢印N方向に短縮した場合、前照灯ユニット9はピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。前照灯ユニット9が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このようなレベリング調整をすることで、車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯装置100による前方照射光の到達距離を最適な距離に調整することができる。
【0017】
このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は車両姿勢は後傾姿勢となり、減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、車両用前照灯装置100の照射方向も車両の姿勢に対応して上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき前照灯ユニット9のレベリング調整をリアルタイムで実行することで、走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
【0018】
前照灯ユニット9の下方位置の灯室216の内壁面には、前照灯ユニット9の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する照射制御部300(制御部)が配置されている。図1の場合、車両用前照灯装置100を制御するための照射制御部300が配置されている。この照射制御部300は、スイブルアクチュエータ311、レベリングアクチュエータ313等の光軸調整の制御も実行する。なお、車両用前照灯装置100は左右それぞれの車両用前照灯装置100に専用の照射制御部300を有していても良いし、片方の車両用前照灯装置100に設けられた照射制御部300が左右それぞれの車両用前照灯装置100の各アクチュエータの制御や配光パターンの形成制御を一括して制御するようにしても良い。
【0019】
前照灯ユニット9はエイミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ313のロッド313aとユニットブラケット224の接続部分に、エイミング調整時の揺動中心となるエイミングピボット機構(図示せず)を配置する。また、ランプブラケット218には前述したエイミング調整ネジ220が車幅方向に間隔を空けて配置されている。例えば2本のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、前照灯ユニット9はエイミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエイミング調整ネジ220を時計回り方向に回転させれば、前照灯ユニット9はエイミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、前照灯ユニット9はエイミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、前照灯ユニット9はエイミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエイミング調整は、車両出荷時や車検時、車両用前照灯装置100の交換時に行われる。そして、車両用前照灯装置100が設計上定められた姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施例の配光パターンの形成制御が行われる。
【0020】
前照灯ユニット9は、複数の発光素子(LED)4、光学素子3、投射レンズ5、放熱部品6、部品を保持するための構造部品7、発光素子実装基板8を備える。放熱部品6は例えばヒートシンクやファンなどから構成され、構造部品7は前照灯ハウジングなどから構成される。発光素子4から発した光線は光学素子3に入射し、内部を全反射して伝搬する。光学素子3の出射面は投射レンズ5の略焦点距離fの位置に配置され、光学素子3の出射面で形成される配光分布は投射レンズ5を通して車両前方に照射される。
【0021】
次に、本実施例の前提となる、従来の車両用前照灯の構成及び機能について説明する。
【0022】
図2A、2Bは、それぞれ従来の車両用前照灯装置の前照灯ユニットの概略構成の側面図および平面図である。図2A、2Bにおいて、Xが水平方向、Yが鉛直方向、Zが車両の進行方向である。前照灯ユニットはロービーム用光学素子1、ハイビーム用光学素子2、複数の発光素子4および発光素子実装基板8、投射レンズ5から構成されている。ロービーム用光学素子1は図2Bに示すように複数の発光素子4にそれぞれ対応した複数のロッド10a~10eと当該複数のロッドを統合する統合部11から構成されている。なお、当該複数のロッドと統合部は同一材質なので光学的に均質である。各ロッドの端面は各発光素子4に面しており、当該面と対向する面は統合部11と接続している。統合部11は各ロッドと接続部を介して接続しており、接続部と対向する面は投射レンズ5に面している。ここで各ロッドの発光素子4側の面を入射面、統合部11の投射レンズ5側の面を出射面と呼ぶ。また、図には示さないがハイビーム用発光素子2も同様の構成である。
【0023】
ロービーム用光学素子1とハイビーム用発光素子2は積み重なるようにして配置されており、それぞれの出射面付近で接している。複数の発光素子4は面発光素子であり、全てが発光素子実装基板8に実装されており、ロービーム用光学素子1およびハイビーム用光学素子2の各ロッドの入射面に対向するように出射面が配置されている。投射レンズ5の光軸はロービーム用光学素子1とハイビーム用光学素子2の接する部分を通る用に設定されている。また投射レンズ5の焦点はロービーム用光学素子1の出射面上およびハイビーム用光学素子2の出射面上に概略位置している。
【0024】
ロービーム配光形成の際の各構成要素の機能は以下の通りである。ロービーム用光学素子1の各ロッドに対応する複数の発光素子4は発光し、放射された光束はロービーム用光学素子1の各ロッド入射面から各ロッドに入射する。ロービーム用光学素子1は各ロッドに入射した光束を内部で伝播させ統合部11を経て出射面に到達させる。ロービーム用光学素子1の出射面に到達した光はロービーム用光学素子1から出射し投射レンズ5に入射する。投射レンズ5は入射した光束を車両の前方に投射する。ここで投射レンズ5は焦点を含む面の照度を車両前方の空間の光度に変換する機能を有しているので、ロービーム用光学素子1の出射面の照度パターンは車両前方にロービーム配光として形成される。ハイビーム配光形成の際の各構成要素の機能は同様であるが、ハイビームにおいては複数の発光素子4を個別に点消灯することによりADBを実施する。
【0025】
図2Bにおいて、Wはロービーム用光学素子1の出射面の幅であり、所望の配光の水平方向の照射範囲に対応した大きさが必要である。限られた個数の各発光素子4で幅Wの出射面全体に光束を到達させるために各ロッドは発光素子4側から統合部11に向かって広がる形状となっている。また、各ロッドの図中θa~θeで表すテーパはロービーム用光学素子1の出射面からの出射光束の指向性に影響を与える。出射光束の指向性が低い場合には投射レンズ5の光取込率が低下するのでθa~θeは適切に設定する必要がある。ここで述べた設計上の都合はハイビーム用光学素子2についても同様である。
【0026】
図3A、3Bは、ロービームの理想的な配光の一例を示す図である。図3Aは車両前方の角度空間における配光の光度を示す図である。図において横軸は水平方向の角度、縦軸は鉛直方向の角度である。図中には等光度線が示してあり光度は内側ほど高い。水平方向+2度、鉛直方向-1度付近に光度ピークがあり、ピークから離れるに従って光度は低下する。図3B図3Aの鉛直方向-1度付近において水平方向に沿った光度を示す図である。横軸は水平方向の角度、縦軸は光度である。水平方向+2度付近にピークがありピークから離れるに従って光度は低下する。光度低下の傾きは滑らかに変化している。
【0027】
図4は、ロービーム用光学素子1と各発光素子の構成例を示す平面図である。図4においては各発光素子の符号をそれぞれ4a,4b,4c,4d,4eとしてある。図3A、3Bに示したように中央の光度が高い配光の形成を目標として発光素子4a,4b,4c,4d,4eの出力比を1:2:4:2:1としている。また、この構成例ではロービーム用光学素子1の各ロッドは投射レンズ5側で接続しているが接続位置と出射面の位置は一致している。即ち統合部11のZ方向の長さはゼロである。
【0028】
図5A、5Bは、図4に示したロービーム用光学素子1の出射面における照度分布である。図5Aはロービーム用光学素子1の出射面の2次元的照度分布を表す画像であり、画像の輝度が高いほど照度が高い。図5Bはロービーム用光学素子1の出射面の鉛直方向中心付近で水平方向に沿った照度分布を示すグラフであり、横軸が水平位置、縦軸が照度である。図5A、5Bに示すように、図4の構成では照度分布に段差があることが分かる。これはロービーム用光学素子1の各ロッドの境界で照度が急激に変わるためである。この照度分布が投射レンズ5により車両前方の輝度分布に変換されると、配光にも段差が発生し運転者に違和感を与えてしまう。
【0029】
図6は、ロービーム用光学素子1と各発光素子の別の従来の構成例を示す平面図である。図6において各発光素子の設定は図4と同じであるがロービーム用光学素子1の構成は異なる。ロービーム用光学素子1の入射面および出射面の位置は図4のロービーム用光学素子1と同じであるが統合部11のZ方向の長さがゼロでなく図中tで表す長さに設定されている点が図4のロービーム用光学素子1と異なる。
【0030】
図7A、7Bは、図6に示したロービーム用光学素子1の出射面における照度分布である。図の読み方は図5A、5Bと同様である。図7A、7Bに示すように、図6の構成では照度分布の段差が緩和されて照度低下の傾きが滑らかになっているのが分かる。
【0031】
この理由について図8図9A、9Bを用いて説明する。図8は1つだけのロッドの動作を説明するための図である。図8における光学素子は図6において光学素子の複数のロッドのうち1つのロッドだけを残し(例えばロッド10a)、他のロッドを省略した構成になっている。図中破線はロッド10の内壁の延長線である。発光素子4から発してロッド10に進入した光線はロッド10の内壁により進行角を制限され光学素子内を進行し出射面に到達する。そのため統合部11がない場合の光線の到達範囲は図中d0の範囲である。これが元々のロッド10の担当する照射範囲である。しかし、統合部11を設定したことにより一部の光線はd0の外側にも到達できるようになる。このように光線が到達できるようになる範囲を図中d1として示す。
【0032】
図9A、9Bは、図8に示した光学素子の出射面における照度分布である。図の読み方は図5A、5Bと同様である。図9Aに示すように、図8の構成では照射範囲の左右の輪郭はぼけており、図9Bに示すように照度の傾きとしてはなだらかな傾きになっている。このように統合部11には各ロッドの担当する照射範囲の輪郭をぼかし照度分布の段差を緩和させる効果がある。これが、図7A、7Bにおいて照度分布の段差が緩和された理由である。このように統合部11は照度分布の段差を緩和する効果があるが、厚さtが大きすぎると各ロッドの担当する照射範囲が混合してしまい配光分布の強弱がつけられなくなるので厚さtは所望のぼけ量を得られる値に設定される。
【0033】
従来の構成において、配光のピーク光度を高く設定する方法としては、配光中央部を形成する発光素子4の出力を上げる方法と、配光中央部を形成するロッド10の担当する照射範囲を狭くすることにより出射面上で単位面積当たりの光量を上げる方法とがある。しかし、発光素子4の出力を上げる方法は、その分発光素子にエネルギーを注入する必要がある。また、配光中央部を形成するロッド10の担当する照射範囲を狭くする方法では、当該ロッドの担当する照射範囲が狭まる分、他のロッドの担当する照射範囲を広げる必要があり、それでも元々の照度を維持するためには発光素子4の出力を上げる必要があるため結局は余分にエネルギーを注入する必要がある。
【0034】
これらの課題を解決するために、以下、本実施例について説明する。まず、図10から図16を用いて本実施例における前照灯ユニットの構成の原理の説明をする。
【0035】
図10は、本実施例におけるロッド10の内部での光線の反射状態を表す図である。図10において、光線の角度の基準をZ軸として反時計回りを正の角度とする。ロッド10のテーパはθで表す。光線の初期の角度はα0とし、ロッド10の内側壁面で反射するごとにその角度をα1,α2・・・とし、反射回数をnとするとαnは次式で表される。
αn=(-1)n(α0-nθ) ・・・(1)
つまり、反射ごとに角度の絶対値がθだけ小さくなる。
【0036】
ロッド10に入射する光束は、発光素子4から放射された広がり角の広い光束なので、ランダムな角度の光線が多数入射するものと考えられる。多数の光線のうちロッド10の内側壁面で反射されない光線は角度の変換を受けることなく出射するが、反射される光線は(1)式の通り角度の変換を受けて出射する。全ての光線を総合して考えると広がりを持ってロッド10に入射する光束はその広がりを狭められてロッド10を出射することになる。つまり指向性が向上する。θと指向性向上の効果の関係を考えると、θ=0では効果はなく、θ=0から大きくなると暫くは効果が上がり続ける。しかしθがある程度大きくなると光線が反射する確率が減るので効果は減少に転じる。
【0037】
図11にロッドのモデルを用いた指向性のシミュレーション結果を示す。シミュレーション条件として発光素子はランバート発光、発光素子の面サイズ1mm×1mm、発光素子発光面とロッド入射面間の距離0.3mm、ロッド入射面サイズ1.8mm×1.8mm、ロッド長さ40mm、ロッド出射面高さ4mm、ロッド材質の屈折率1.59としている。図11に示すように、ロッド出射面幅を変数としてテーパの変更をした結果、この条件ではおよそθ=10°で指向性が最高となっている。
【0038】
本実施例において配光中央部を形成するロッド10の指向性は他のロッドの指向性より低く設定する。例えば、ロッドの設定が上記シミュレーション条件であった場合、配光中央部を形成するロッド10においてθ=0°、他のロッドにおいてθ=10°とすることにより配光中央部を形成するロッド10の指向性を他のロッドより低くできる。
【0039】
図12は配光中央部を形成するロッドの動作を説明するための図である。すなわち、図12において、配光中央部を形成するロッドの符号を10cとする。また、説明に無関係なロッドは省略してある。また、比較として、配光中央部を形成するロッドでないロッドの動作を説明するために図8を参照する。なお、図12において、発光素子4の出力と統合部11の厚さtは、図8と同一としている。
【0040】
図12においてロッド10cの内壁の延長と光学素子の出射面との交差によりできる領域の幅d01は、図8においてロッド10aの内壁の延長と光学素子の出射面との交差によりできる領域の幅d0より狭く設定されているが、ロッド10aよりもロッド10cの方が指向性が低いため、図12におけるロッド10cから放射される光線の到達範囲d11は、図8におけるロッド10aから放射される光線の到達範囲d1よりも広い。
【0041】
図13A、13Bは、図12で示した光学素子の出射面における照度分布をそれぞれ示す。図の読み方は図5A、5Bと同様である。図8で示した光学素子の出射面における照度分布を示す図9A、9Bと比較すると図13A、13Bでは照射範囲は広がっており、ピークが低下している。ピークの低下はロッド10cからの放射される光線の発散が大きいため、照度ピーク部に寄与するべき光が外側に逃げてしまったためである。
【0042】
図14は、図12における統合部11の厚さをt1(t1<t)として薄くした構成を示す図である。ロッド10cの内壁の延長と出射面との交差によりできる領域の幅d01は図12におけるd01と等しい。また、ロッドからの放射光線の到達範囲d111は図8におけるd1と等しくなるように統合部11の厚さをt1と設定してある。図15A、15Bは図14で示した光学素子の出射面における照度分布を示す。図の読み方は図5A、5Bと同様である。図9A、9Bと比較すると図15A、15Bでは照射範囲は等しいままピークが向上している。照射範囲が等しいのはd111=d1としたためであり、ピークが向上しているのはd01<d0としたために照射範囲の中央に光を集められたためである。また図14において統合部11は図8よりも厚さが薄いが、図15A、15Bに示すように、ロッド10cの担当する照射範囲の輪郭をぼかす効果は同程度に維持されている。
【0043】
ここで、配光中央部を形成するロッドにおいては他のロッドよりも指向性が低く設定されていても投射レンズ5の光取込率は低下しない。図16はこの原理を説明するための図である。図16においてロッド10cは配光中央部を形成するロッドであり、複数のロッドのうち最も投射レンズ5の光軸近くに配置されている。ロッド10aは他のロッドの代表であるが、特に最も光軸から離れた位置に配置されたロッドとしてある。図においてφaはロッド10aからの出射光束の広がり角を表している。ロッド10aは光軸から離れた位置に配置されているのでφaが図中に示す角度より大きいと一部の光線は投射レンズ5に取り込まれなくなってしまう。φcはロッド10cの指向性をロッド10aと同じに設定した場合の出射光束の広がり角を表しており、φa=φcである。ロッド10cは光軸近くに設置されているので、もし、指向性が低く設定されてφcがφc1のように大きな角になったとしても投射レンズ5の光取込率は低下しない。そのため、ユニット全体の光利用率を低下させないという条件であっても、ロッド10cは他のロッドと比較して指向性を低く設定できる。
【0044】
図17は本実施例におけるロービーム用光学素子1と各発光素子の構成例を示す平面図である。本実施例において複数の発光素子が発光素子実装基板8に実装されている点と投射レンズ5の構成及び機能は従来例と同様である。発光素子4a,4b,4c,4d,4eの出力比は1:2:4:2:1としている。各ロッドの符号は10a~10eとしてあり、それぞれ発光素子4a~4eと対応している。発光素子4cおよびロッド10cが配光の中央を形成する発光素子及びロッドである。ロッド10cのパラメータは図14で示したロッド10cと同一であり、ロッド10a、10b、10d、10eのパラメータは図8で示したロッド10aと同一である。このためテーパθcは他のロッドのテーパθa、θb、θd、θeより小さく、ロッド10cの内壁の延長と出射面との交差によりできる領域の幅d01は他のロッドの内壁の延長と出射面との交差によりできる領域の幅d0より小さい。また統合部11の厚さはロッド10cの接続する部分と他のロッドの接続する部分において異なっており、ロッド10cの接続する部分の厚さは図14におけるt1、他のロッドの接続する部分においては図8のtとなっている。
【0045】
図18A、18Bに、図17で示した本実施例の構成例におけるロービーム用光学素子1の出射面における照度分布を示す。図18A、18Bの読み方は図5A、5Bと同様である。
【0046】
また、比較として、図6に示した従来の構成におけるロービーム用光学素子1の出射面における照度分布である図7A、7Bを参照する。なお、図6では、前述したように、図17において、ロッド10cのテーパθcを他のロッドのテーパθa、θb、θd、θeと等しく、ロッド10cの内壁の延長と出射面との交差によりできる領域の幅d01を他のロッドの内壁の延長と出射面との交差によりできる領域の幅d0と等しく、統合部11のロッド10cの接続する部分の厚さt1を他のロッドの接続する部分の厚さtと等しく設定している。
【0047】
図18A、18Bに示すように、図17の構成では、図7A、7Bと比較すると水平方向の照度の傾きは同様に滑らかであり、ピーク値は向上している。
【0048】
このように本実施例によれば従来の構成と比べてエネルギー効率を高くして光度ピークの高い配光が形成できる。
【0049】
なお、以上の実施例の説明で、ロッドの数は5つとして説明したが、ロッドの数は複数であれば良く、5つ、あるいは奇数に限定するものではない。また、説明において各発光素子4の出力、発光面サイズ、各発光素子4の発光面と各ロッド10入射面間の距離、各ロッド10の入射面サイズ、長さ、出射面高さ、屈折率を限定したが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、従来例、実施例とも、ロービーム用光学素子に限定して説明したが、ハイビームにおいてもロービームと同様に配光のピークを形成する要望はあるので、本発明はハイビーム用光学素子に適用して差し支えない。また、従来例、実施例とも、1つの前照灯ユニットでロービームとADB対応ハイビームを実現する技術に限定して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、ロービームとADB非対応ハイビームを実現する前照灯ユニットであっても、あるいは、ロービーム単独、ADB対応ハイビーム単独、ADB非対応ハイビーム単独の前照灯ユニットであっても同様の光学素子を構成要素とする前照灯ユニットであれば適用して差し支えない。
【0050】
また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
1:ロービーム用光学素子、2:ハイビーム用光学素子、3:光学素子、4:発光素子(LED)、5:投射レンズ、8:発光素子実装基板、9:前照灯ユニット、10:ロッド、11:統合部、100:車両用前照灯装置
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18A
図18B