(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】放電方法、電子装置及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20221004BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221004BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20221004BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H02J7/00 302A
H01M4/38 Z
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2021033889
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】202010140276.5
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蒋 晨曦
(72)【発明者】
【氏名】張 亜菲
(72)【発明者】
【氏名】楊 帆
(72)【発明者】
【氏名】余 紅明
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-326026(JP,A)
【文献】特開平11-288715(JP,A)
【文献】特開平05-328624(JP,A)
【文献】特開平11-313447(JP,A)
【文献】特開平11-136871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 4/38
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の放電方法において、
放電過程毎における前記電池の残存容量を監視する監視ステップと、
前記電池の一定の放電回数における積算残存容量と容量減衰率とを算出する計算ステップと、
前記積算残存容量が第1の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しく、または、前記容量減衰率が第2の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しい場合、次回の放電過程において、前記電池を深く放電させ
て、前記電池の放電深さを予め設定された放電閾値に到達させるディープ放電ステップと、を含
み、
前記予め設定された放電閾値の範囲は、95%~100%であり、前記第1の所定閾値は、前記電池の定格容量よりも大きいかまたは前記電池の定格容量に等しく、前記第2の所定閾値は、5%よりも大きいかまたは5%に等しいことを特徴とする電池の放電方法。
【請求項2】
前記一定の放電回数は、Nと定義され、Nは、1よりも大きいかまたは1に等しい整数であり、
N+1回目の放電回数の後に、前記監視ステップから前記ディープ放電ステップまでを繰り返して実行する繰り返しステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の電池の放電方法。
【請求項3】
前記一定の放電回数は、予め設定された放電回数Nであり、Nは、1よりも大きいかまたは1に等しい整数であり、
N+1回ごとの放電回数の後に、前記監視ステップから前記ディープ放電ステップまでを繰り返して実行する繰り返しステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の電池の放電方法。
【請求項4】
前記容量減衰率は、
m回目の放電過程における前記電池の第1の放電容量を監視し、
m+N回目の放電過程における前記電池の第2の放電容量を監視し、
前記容量減衰率kを算出することで得られ、
mは0より大きい整数であり、k=(第1の放電容量-第2の放電容量)/定格容量×100%であることを特徴とする請求項3に記載の電池の放電方法。
【請求項5】
前記電池を深く放電させるステップは、放電過程において、
前記電池の電圧を予め設定された電圧に低下させることを含むことを特徴とする請求項1に記載の電池の放電方法。
【請求項6】
電池と、請求項1から
5の何れか一項に記載の放電方法を実行するためのプロセッサと、を備えることを特徴とする電子装置。
【請求項7】
前記電池の負極材料は、ケイ素、スズ、アンチモン、ゲルマニウム、ビスマスまたはアルミニウムの中の何れか一種の単体又はその化合物を含むことを特徴とする請求項
6に記載の電子装置。
【請求項8】
少なくとも1つのコンピュータ命令が記憶された記憶媒体であって、
前記コンピュータ命令が、プロセッサによりロードされ、且つ請求項1から
5の何れか一項に記載の放電方法を実行するために用いられることを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池技術の分野に関し、特に、電池の放電方法、電子装置及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットPC、ウェアラブル機器の普及に伴い、消費類電子装置の電池の体積及びエネルギー密度に対する要求も高まっている。また、電気自動車市場の普及に伴い、電池の体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度にも強いニーズがある。ケイ素基やスズ基などの材料は、その極めて高い容量、低いリチウム除去電位及びリチウムインターカレーション電位により、次世代の高エネルギー密度のリチウムイオン電池の中で、炭素材料に取って代わる電池の負極活性物質としての理想的な材料となる。
【0003】
リチウム電池を実際に使用する場合には、連続して複数回の浅い放電(完全に放電させずに、2回目の充電が開始される)の状況が普通である。しかしながら、ケイ素基、スズ基等の材料におけるリチウムイオンの固相拡散係数は、炭素材料よりも低く、この種の材料を負極活性物質とする場合、長期間に亘り浅く放電されると、リチウムイオンが活性材料の内部に集まり易く、放電分極が増大し、放電プラットフォームが低下し、サイクル寿命の減衰が加速する現象を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、電池の循環使用寿命を向上させることができる放電方法、電子装置及び記憶媒体の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る電池の放電方法は、放電過程毎における前記電池の残存容量を監視する監視ステップと、前記電池の一定の放電回数における積算残存容量と容量減衰率とを算出する計算ステップと、前記積算残存容量が第1の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しく、または、前記容量減衰率が第2の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しい場合、次回の放電過程において、前記電池を深く放電させるディープ放電ステップと、を含む。
【0006】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記一定の放電回数をN(Nは1よりも大きいか又は1に等しい整数である)と定義し、前記方法は、
N+1回目の放電回数の後に、前記監視ステップから前記ディープ放電ステップまでを繰り返して実行する繰り返しステップをさらに含む。
【0007】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記一定の放電回数は、予め設定された放電回数N(Nは1よりも大きいかまたは1に等しい整数である)であり、前記方法は、N+1回ごとの放電回数の後に、前記監視ステップから前記ディープ放電ステップまでを繰り返して実行する繰り返しステップをさらに含む。
【0008】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記容量減衰率は、以下の方法で得られる。
m回目の放電過程における前記電池の第1の放電容量を監視し、mは0より大きい整数であり、
m+N回目の放電過程における前記電池の第2の放電容量を監視し、
前記容量減衰率kを算出し、k=(第1の放電容量-第2の放電容量)/定格容量×100%である。
【0009】
本開示の幾つかの実施形態によれば、前記第1の所定閾値は、前記電池の定格容量よりも大きいかまたは前記電池の定格容量に等しい。
【0010】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記第2の所定閾値は、5%よりも大きいかまたは5%に等しい。
【0011】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記電池を深く放電させるステップは、放電過程において、前記電池の放電深さを予め設定された放電閾値に到達させたり、前記電池の電圧を予め設定された電圧に低下させたりすることを含む。
【0012】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記予め設定された放電閾値の範囲は95%~100%である。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、上述したような放電方法を実行するためのプロセッサと、電池とを備える電子装置を提供する。
【0014】
本願の幾つかの実施形態によれば、前記電池の負極材料は、ケイ素、スズ、アンチモン、ゲルマニウム、ビスマスまたはアルミニウムの中の何れか一種の単体又はその化合物を含む。
【0015】
さらに、本発明の一実施形態は、少なくとも1つのコンピュータ命令が記憶された記憶媒体を提供し、前記コンピュータ命令が、プロセッサによりロードされ、且つ上述したような電池の放電方法を実行するために用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態は、電池の放電過程における電池の残存容量に応じて電池の放電方式を制御する。即ち、予め設定された放電回数における電池の積算残存容量が第1の所定閾値より大きいか若しくはそれに等しく、または、放電過程における前記電池の容量減衰率が第2の所定閾値より大きいか若しくはそれに等しい場合に、次回の放電過程において当該電池に対して深く放電させる。この方法を採用することにより、リチウムイオン拡散速度が遅く、且つ高エネルギー密度を有するケイ素、スズ、アンチモン、ゲルマニウム、ビスマス、アルミニウムなどの単体、合金、或いは化合物が電池の負極材料として使用される場合に、実用中で長期間に亘る浅い放電による容量減衰が早い現象や容量減衰の偽りの現象を効果的に防止して、電池の循環使用寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の一実施形態に係る電子装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る電池の放電方法のフローチャートである。
【
図3】本開示の一実施形態に係る充電システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に参照しながら、本願の実施形態における技術的な態様を明確にして、完全に説明するが、説明した実施形態は、全ての実施形態ではなく、本願の一部の実施形態にすぎないことは明らかである。
【0019】
本願の実施形態に基づいて、当業者は、創造的労働を前提としないで取得した他のすべての実施形態は、本願の保護範囲内に属される。
【0020】
図1に示すように、放電システム10は、電子装置1において動作する。電子装置1には、少なくとも1つのプロセッサ11及び電池12が含まれるが、これらに限定されるものではない。上記の部品の間は、バスラインで接続されてもよいし、直接接続されてもよい。
【0021】
なお、
図1は、電子装置1を例示するのみである。他の実施の形態では、電子装置1は、より多く又はより少ない部品を含んでもよく、または異なる素子構成を有していてもよい。この電子装置1は、電動オートバイ、電気自転車、電気自動車、携帯電話、タブレットパソコン、デジタルアシスタント、パーソナルコンピュータ、或いは何れの好適な充電式機器であってもよい。
【0022】
一実施例において、電池12は、電子装置1に電力を供給するための充電可能な電池である。例えば、電池12は、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、及びリン酸鉄リチウム電池などであってもよい。電池12は、少なくとも1つの電池セルを含み、循環的に再充電可能に繰り返して充電されることが可能である。
【0023】
なお、図示しないが、電子装置1は、ワイヤレスフィデリティ(Wireless Fidelity,WiFi)ユニット、ブルートゥース(登録商標)ユニット、スピーカなどの他の構成要素を含んでいてもよく、ここでは説明を省略する。
【0024】
図2に示すように、
図2は、本願の一実施形態に係る電池の放電方法のフローチャートである。前記電池の放電方法は、以下のステップを含んでもよい。
【0025】
ステップS21では、放電過程毎における前記電池の残存容量を監視する。
【0026】
放電過程での電池の様態(例えば、浅い放電やディープ放電)を決定するために、毎回の放電過程における電池の残存容量を監視する必要がある。前記電池の放電過程での状態は、電池の放電深さに応じて決定することができる。例えば、電池の放電深さが第1の所定値(例えば20%)より小さいか又はそれに等しい場合に、放電過程における前記電池の様態が浅い放電であると確認される。前記電池の放電深さが第2の所定値(例えば50%)より大きいか又はそれに等しい場合に、放電過程における前記電池の様態が深く放電であると確認される。
【0027】
前記放電深さ(depth of discharge,DOD)は、前記電池の放電状態を示すパラメータであって、実際の放電容量と定格容量との百分率に等しい。前記実際の放電容量は、前記定格容量と前記残存容量との差分に等しい。
【0028】
本実施形態において、前記電池の負極活性材料は、少なくともケイ素、スズ、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、アルミニウムなどから選択される何れかの単体、合金またはそれらの化合物からなる高エネルギー密度の負極材料を含む。
【0029】
ステップS22では、前記電池の一定の放電回数における積算残存容量と容量減衰率とを算出する。前記一定の放電回数をN(Nは1よりも大きいか又は1に等しい整数である)と定義する。一実施例において、前記一定の放電回数は予め設定されたものではなく、容量減衰率または積算残存容量の何れか一方が予め設定した閾値に達するという条件を満たす場合の自然放電回数であり、このとき次の放電時に電池に対する深く放電を起動することができる。他の実施例では、前記一定の放電回数は、予め設定された放電回数であり、即ち、予め設定された放電回数内に、前記電池の容量減衰率と前記電池の一定の放電回数における積算残存容量とを算出する。
【0030】
例えば、前記予め設定された放電回数が4であると、4回の放電における前記電池の積算残存容量が算出される。例えば、電池につき、1回目の放電後の残存容量が20%であり、2回目の放電後の残存容量が40%であり、3回目の放電後の残存容量が10%であり、4回目の放電後の残存容量が40%であるとすると、4回の放電における前記電池の積算残存容量は、110%となる。幾つかの実施例において、Nは5よりも大きいか又は5に等しい整数である。また、他の実施例において、Nは10よりも大きいか又は10に等しい整数である。
【0031】
本実施形態において、前記容量減衰率は、以下の方式で得られることが可能である。第1に、m回目の放電過程における前記電池の第1の放電容量を監視する(mは0より大きい整数)。第2に、m+N回目の放電過程における前記電池の第2の放電容量を監視する。第3に、前記容量減衰率kを算出し、k=(第1の放電容量-第2の放電容量)/定格容量×100%である。
【0032】
ステップS23では、前記積算残存容量が第1の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しく、または、前記電池の容量減衰率が第2の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しい場合、次回の放電過程において、前記電池を深く放電させる。
【0033】
電池の長期浅い放電過程での電池容量減衰の問題を改善するために、前記積算残存容量が第1の所定閾値より大きいか若しくはそれに等しく、または、前記容量減衰率が第2の所定閾値より大きいか若しくはそれに等しい場合に、次回の放電過程では、前記電池に対して深く放電が行われる。深く放電によって、負極活性粒子材料(ケイ素粒子など)の内部に集まったリチウムイオンを全て脱離させることができ、当該負極活性材料(ケイ素粒子など)の内部にリチウムイオンが集まることが避けられ、当該負極活性材料の表面にリチウムイオンを豊かにすることができ、放電プラットフォームを向上させて、深く放電された後の電池の放電容量を最初の放電時の放電容量に戻すことができるとともに、電池の分極を解消し、電池の循環使用寿命を改善することができる。
【0034】
なお、前記放電プラットフォームとは、放電曲線において電圧がほぼ水平に保たれた部分を指す。放電プラットフォームが高く、長く、穏やかになるほど、電池の放電性能が良い。
【0035】
具体的には、前記電池に対して深く放電が行われるステップは、放電過程において、前記電池の放電深さを予め設定された放電閾値に到達させたり、前記電池の電圧を予め設定された電圧に低下させたりする。一実施形態において、前記予め設定された放電閾値の範囲は、95%~100%である。
【0036】
本実施形態では、前記第1の所定閾値は、前記電池の定格容量よりも大きいか又はそれに等しい。前記第2の所定閾値は、5%よりも大きいか又はそれに等しい。
【0037】
好ましくは、本願において、前記放電方法は、以下のステップをさらに含む。前記一定の放電回数Nが容量減衰率または積算残存容量の何れか一方が予め設定した閾値に達するという条件を満たす場合の自然放電回数である場合に、N+1回目の放電回数後、上記のステップS21~ステップS23が引き続き繰り返して実行される。
【0038】
前記一定の放電回数Nが予め設定された放電回数であると、N+1回ごとの放電回数の後に、上記のステップS21~ステップS23が引き続き繰り返して実行される。例えば、m=1とN=10を例とすると、1回目(即ち、m=1)の放電開始から、毎回放電後の残存容量を監視する。10回目の放電後に深く放電条件(即ち、積算残存容量が第1の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しく、または、前記容量減衰率が第2の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しい)を満足し、次に11回目の放電時には電池に対して上記のディープ放電方法を採用し、その後、12回目の放電から22回目までの放電時に、上記の監視ステップ~ディープ放電ステップを採用し、23回目~33回目の放電時に、これによって類推する。
【0039】
本願の発明の目的、技術提案及び技術効果をより明瞭にするため、以下に図面及び実施例を組み合わせて、本願を更に詳細に説明する。
【0040】
<比較例1>
電池製造工程において、負極タブは、ケイ素とグラファイトとを混合した負極活性材料(92%、容量が500mAh/gである)、5%のPAA(ポリプロピレン酸)、2%の電気伝導性炭素、及び1%のCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)を含む。正極タブは、96.5%のコバルト酸リチウム(正極活性材料)、2%のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、及び1.5%の電気伝導性炭素を含む。正極タブとセパレータと負極タブとを順次に積層または捲回して電解液を注入した後、厚さ3.3mm、幅40mm、長さ95mmのソフトパックリチウムイオン二次電池を作製した。この電池は、25℃(環境温度)において、0.5Cの定電流を用いて電池に対して放電を行うことにより、電池電圧の4.4Vから2.75Vまでの間の定格容量が2200mAhであることを試験した。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、電池の残存容量が10%となるまで、0.5Cの定電流で電池を放電し、このときの残存電力が220mAh、オフ電圧が3.2Vである。その後、電池の初期電圧を4.4Vに維持したまま、3.2Vを下限オフ電圧として、上記の放電過程を100サイクル繰り返し、且つ1サイクルあたりの電池の容量減衰率を算出する。
【0041】
<比較例2>
比較例1の製造方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、1回目の放電過程における電池の残存容量は20%であり、そのときの残存電力が440mAh、オフ電圧が3.5Vである。その後、電池の初期電圧を4.4Vに維持したまま、3.5Vを下限オフ電圧として、上記の放電過程を100サイクル繰り返し、且つ1サイクルあたりの電池の容量減衰率を算出する。
【0042】
<比較例3>
比較例1の製造方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、1回目の放電過程における電池の残存容量が50%であり、このときの残存電力が1100mAh、オフ電圧が3.82Vである。その後、電池の初期電圧4.4Vに維持したまま、3.82Vを下限オフ電圧として、上記の放電過程を100サイクル繰り返し、且つ1サイクルあたりの電池の容量減衰率を算出する。
【0043】
<比較例4>
比較例1の製造方法で電池を作製するが、異なるのは、負極タブがケイ素とグラファイトとを混合した負極活性材料(86%、容量が1000mAh/gである)、10%のPAA(ポリプロピレン酸)、3%の電気伝導性炭素及び1%のCMCを含み、得られる電池の定格容量が2500mAhである。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電して、連続的に浅く放電し、1回目の放電過程における電池の残存容量が10%であり、このときの残存電力が250mAhであり、オフ電圧が3.13Vである。その後、電池の初期電圧を4.4Vに維持したまま、3.13Vを下限オフ電圧として、上記の放電過程を100サイクル繰り返し、且つ1サイクルあたりの電池の容量減衰率を算出する。
【0044】
<比較例5>
比較例4の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、1回目の放電過程における電池の残存容量が20%であり、このときの残存電力が500mAh、オフ電圧が3.4Vである。その後、電池の初期電圧を4.4Vに維持したまま、3.4Vを下限オフ電圧として、上記の放電過程を100サイクル繰り返し、且つ1サイクルあたりの電池の容量減衰率を算出する。
【0045】
<比較例6>
比較例4の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、1回目の放電過程における電池の残存容量が50%であり、このときの残存電力が1250mAh、オフ電圧が3.7Vである。その後、電池の初期電圧を4.4Vに維持したまま、3.7Vを下限オフ電圧として、上記の放電過程を100サイクル繰り返し、且つ1サイクルあたりの電池の容量減衰率を算出する。
【0046】
[実施例1]
比較例1の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が10%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3.2Vまで低下する。10サイクル繰り返して放電されると、電池の積算残存容量が100%に達する。11番目の放電サイクル時に電池に対して1回深く放電(即ち、今回の放電過程における電池の放電深さが95%に達するか又は電池の電圧が3Vまで低下する)させる。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0047】
[実施例2]
比較例1の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が20%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3.5Vまで低下する。5サイクル繰り返して放電されると、電池の積算残存容量が100%に達する。6番目の放電サイクル時に電池に対して1回深く放電(即ち、今回の放電過程における電池の放電深さが95%に達するか又は電池の電圧が3Vまで低下する)させる。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0048】
[実施例3]
比較例1の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が50%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3.82Vまで低下する。2サイクル繰り返して放電されると、電池の積算残存容量が100%に達する。3番目の放電サイクル時に電池に対して1回深く放電(即ち、今回の放電過程における電池の放電深さが95%に達するか又は電池の電圧が3Vまで低下する)させる。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0049】
[実施例4]
比較例1の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が5%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3Vまで低下する。その後、上記の放電過程を100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0050】
[実施例5]
比較例4の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が10%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3.13Vまで低下する。10サイクル繰り返して放電されると、電池の積算残存容量が100%に達する。11番目の放電サイクル時に電池に対して1回深く放電(即ち、今回の放電過程における電池の放電深さが95%に達するか又は電池の電圧が3Vまで低下する)させる。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0051】
[実施例6]
比較例4の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が20%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3.4Vまで低下する。5サイクル繰り返して放電されると、電池の積算残存容量が100%に達する。6番目の放電サイクル時に電池に対して1回深く放電(即ち、今回の放電過程における電池の放電深さが95%に達するか又は電池の電圧が3Vまで低下する)させる。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0052】
[実施例7]
比較例4の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が50%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3.7Vまで低下する。2サイクル繰り返して放電されると、電池の積算残存容量が100%に達する。3番目の放電サイクル時に電池に対して1回深く放電(即ち、今回の放電過程における電池の放電深さが95%に達するか又は電池の電圧が3Vまで低下する)させる。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0053】
[実施例8]
比較例4の方法に従って、リチウムイオン二次電池を製造する。
環境温度は、25℃である。
放電過程において、0.5Cの定電流で電池を放電し、連続的に浅く放電し、放電過程毎における電池の残存容量が5%であり、即ち、電池の電圧が4.4Vから3Vまで低下する。その後、以上のステップを100サイクル繰り返して、電池の容量減衰率をテストする。
【0054】
上記の比較例1~比較例6及び実施例1~実施例8の100サイクル繰り返して放電する過程において、10番目のサイクル、50番目のサイクル及び100番目のサイクルのときの電池の容量減衰率を記録して、下記の表1に示す。
【0055】
【0056】
表1から明らかなように、比較例1と実施例1とを比較することにより、比較例1は常に浅い状態であり、50サイクル時の容量減衰率は19.7%に達し、100cls時に24.3%となることが確認された。これに対し、実施例1は、10サイクルごとに1回のディープ放電を行い、50サイクル後の容量減衰率は5.8%のみであり、100clsの後に、7.3%となった。
【0057】
比較例1~3及び実施例1~3から明らかなように、毎回放電サイクル後の残存電力が多いほど、それによる容量の減衰が速くなり、ディープ放電の放電サイクルの際の容量減衰率に対する改善も顕著になる。なお、これらの浅い放電による容量損失は、真の損失ではなく、長期間の浅い放電に起因するリチウムイオンの活性材料の内部での集まりにより、放電分極が大きくなるからである。これらの容量損失は、深く放電された後に回復できる。
【0058】
本願は、電池の放電過程での残存容量に応じて、電池の放電方式を制御することで、電池負極材料としてリチウムイオン拡散速度が遅く、エネルギー密度が高い負極活性材料を用いた場合に、実用中で長期間に亘り浅く放電することによる容量減衰が速くなる現象を改善する。放電過程において電池の残存電力を制御する以外に、放電オフ電圧をより低く制御し、放電倍率をより小さく制御してもよいが、これらは本質的に同様であり、何れも電池の使用過程において発生する分極を解消するためであり、同様の効果を達成できるはずであるので、本発明の保護範囲内に含まれるものである。
【0059】
図3に示すように、本実施形態において、放電システム10は、プロセッサ11に格納される1つまたは複数のモジュールに分割されてもよく、プロセッサ11により本開示の一実施例の放電方法が実行される。前記1つまたは複数のモジュールは、所定の機能を実行可能な一連のコンピュータプログラム命令セグメントであり、当該命令セグメントは、電子装置1における放電システム10の実行過程を説明するためのものである。この放電システム10は、例えば、
図3における監視モジュール101と、計算モジュール102と、ディープ放電モジュール103とに分割されてもよい。
【0060】
監視モジュール101は、前記電池の毎回の放電過程での残存容量を監視するために使用される。計算モジュール102は、前記電池の一定の放電回数における積算残存容量及び容量減衰率を算出するために使用される。ディープ放電モジュール103は、前記積算残存容量が第1の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しく、または、前記容量減衰率が第2の所定閾値よりも大きいか若しくはそれに等しい場合、次回の放電過程において、前記電池を深く放電させる。
【0061】
この放電システム10によれば、電池12の放電過程での残存電力を制御することにより、電池負極材料としてリチウムイオン拡散速度が遅く、エネルギー密度が高い負極活性材料を用いた場合に、実用中で長期間に亘り浅く放電することによる容量減衰が速くなる現象を改善する。具体的には、上述した電池の放電方法の実施例を参照することができ、ここで詳細な説明は省略する。
【0062】
一実施形態において、プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)であってもよいし、他の汎用プロセッサ、デジタル信号プロセッサ(Digital Signal Processor,DSP)、専用集積回路(Application Specific Integrated Circuit,ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field-Programmable Gate Array,FPGA)、または他のプログラマブル論理デバイス、ディスクリートゲートまたはトランジスタ論理デバイス、ディスクリートハードウェアデバイス等であってもよい。汎用プロセッサはマイクロプロセッサであっても良いし、プロセッサ11は他の通常のプロセッサであっても良い。
【0063】
この放電システム10内のモジュールは、ソフトウェア機能部として実現され、且つ独立した製品として販売又は利用される場合に、1つのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されてもよい。このような理解に基づき、本願は上記の実施例の方法における全部又は一部の流れを実現することは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されるコンピュータプログラムによって、関連するハードウェアを指令して完了するようにしてもよい。前記コンピュータプログラムは、プロセッサによって実行される時に、上述した各方法実施例のステップを実現し得る。ここで、前記コンピュータプログラムは、ソースコード形式、オブジェクトコード形式、実行可能なファイル、またはある中間形式などのコンピュータプログラムコードを含む。前記コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、前記コンピュータプログラムコードを携帯可能な任意のエンティティや装置、記録媒体、Uディスク、モバイルハードディスク、磁気ディスク、光ディスク、コンピュータメモリ、リードオンリーメモリ(Read-Only Memory,ROM)、ランダムアクセスメモリ(Random Access Memory,RAM)、電気搬送信号、電気通信信号及びソフトウェア配信媒体などを含み得る。なお、前記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に含まれる内容は、司法管内の立法と特許実践の要求に応じて適切な増減を行うことができ、例えば幾つかの司法管轄区域では、立法と特許実践に基づいて、コンピュータ読み取り可能な記録媒体は電気搬送信号と電気通信信号を含まない。
【0064】
なお、上述したモジュール分割は、論理的な機能分割であり、実際に実現される場合には他の分割方式があり得る。なお、本願の各実施例における各機能モジュールは同一の処理ユニットに統合されてもよいし、各モジュールが単独で物理的に存在してもよいし、2つまたは2つ以上のモジュールが同一のユニットに統合されてもよい。上記統合されたモジュールは、ハードウェアの形態で実現されてもよいし、ハードウェアプラスソフトウェア機能モジュールという形で実現されてもよい。
【0065】
また、別の実施形態では、電子装置1は、メモリ(図示せず)をさらに含み、前記1つ又は複数のモジュールは、メモリに格納され、且つプロセッサ11により実行されてもよい。前記メモリは、電子装置1の内部メモリ、即ち、電子装置1に内蔵されるメモリであってもよい。他の実施例において、前記メモリは、電子装置1の外部メモリ、即ち、電子装置1に外付けされるメモリであってもよい。
【0066】
幾つかの実施例において、上記メモリは、プログラムコードや各種のデータを記憶し、例えば、電子装置1に搭載される放電システム10のプログラムコードを記憶し、且つ電子装置1の動作中に、高速で、自動的にプログラムやデータのアクセスを完了させることができるようにする。
【0067】
前記メモリは、ランダムアクセスメモリ、不揮発性メモリや他の揮発性の固体記憶装置を含んでもよい。例えば、ハードディスク、メモリ、プラグインハードディスク、スマートメモリカード(Smart Media(登録商標) Card,SMC)、セキュアデジタル(Secure Digital,SD)カード、フラッシュメモリカード(Flash Card)、少なくとも1つのディスク記憶装置及びフラッシュメモリ装置が挙げられる。
【0068】
当業者にとって、本願は上記の例示的な実施例の詳細に限られるものではなく、本願の精神または基本的な特徴から逸脱しない場合、他の具体的な形で本願を実現できることは明らかである。従って、いずれの点からも、本願の上記の実施例を例示的であり、且つ非限定的であると見なすべきである。本願の範囲は、上記の説明に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義されるので、請求項の要件に均等する意味及び範囲内のすべての変化を本願に含めることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 電子装置
10 放電システム
11 プロセッサ
12 電池
101 監視モジュール
102 計算モジュール
103 ディープ放電モジュール