(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法
(51)【国際特許分類】
C10M 103/02 20060101AFI20221004BHJP
C10M 103/06 20060101ALI20221004BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20221004BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221004BHJP
C10N 80/00 20060101ALN20221004BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20221004BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C10M103/02 Z
C10M103/06 C
C23C16/27
C23C14/06 D
C10N80:00
C10N30:06
C10N40:02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021100443
(22)【出願日】2021-06-16
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】202010774368.9
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】592112352
【氏名又は名称】中国科学院蘭州化学物理研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】▲賈▼ 倩
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 斌
(72)【発明者】
【氏名】于 元烈
(72)【発明者】
【氏名】高 ▲凱▼雄
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 振国
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0223208(US,A1)
【文献】特開2007-099947(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111455386(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第02159454(EP,A1)
【文献】中国実用新案第202301032(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
F04C18/356-18/46;19/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有炭素膜と二硫化モリブデン
堆積薄膜でペアシステム
が形成
され、
摩擦時に摩擦剪断力および摩擦熱の作用下で無秩序な二硫化モリブデンは秩序な二次元構造を形成し、界面の調整及び制御により、大気中の炭素膜の巨視的スケールにおける超潤滑を実現するとこを特徴とする水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法。
【請求項2】
前記水素含有炭素膜は、マイクロ波表面波プラズマの化学気相成長法によって調製されることを特徴とする請求項1に記載の水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法。
【請求項3】
前記水素含有炭素膜は、水素含有量が20~26%、厚さが700~900nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法。
【請求項4】
前記二硫化モリブデン
堆積薄膜が高出力バイポーラマイクロインパルス反応マグネトロンスパッタリングによって調製されることを特徴とする請求項1に記載の水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法。
【請求項5】
前記二硫化モリブデン
堆積薄膜は厚さが500~700nmであることを特徴とする請求項1
~4
のいずれか1項に記載の水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法を提供し、膜堆積と表面保護の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
機械的摩耗による経済的損失はGDPの5%~7%と高く、それによる損失は数兆元にのぼる。高性能潤滑材技術を使用すれば、自動車の摩擦損失を18%削減することが期待される。現代の航空宇宙機は、15年ひいては30年の動作寿命が要求されており、可動部品の耐摩耗性に対する要求は高まりつつある。ただし、航空宇宙部品の可動部品の性能は依然として改善する必要があり、これは航空宇宙機全体の長期的かつ安定的な作動にとって非常に重要である。
【0003】
アモルファスカーボンフィルムは、摩耗減少と耐摩耗の特性があり、航空宇宙への用途の可能性があり、ベアリングやその他の航空宇宙機のトランスミッションコンポーネントでの使用が期待されている。しかし、従来のアモルファスカーボンフィルムは、単一の環境(N2と真空)のみで、超潤滑と低摩耗を実現し、高い耐摩耗性を備えているが、空気中では0.04に達し、寿命は短くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、アモルファスカーボンフィルムの空気中における耐摩耗性が低いという問題を解決することであり、大気中の炭素膜の適用問題を解決するために、水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成することにより巨視的スケールにおける超潤滑を実現する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、水素含有炭素膜と二硫化モリブデン膜の特性により、水素含有炭素膜と二硫化モリブデンでペアシステムを形成し、摩擦界面の調整及び制御により、大気中の炭素膜の巨視的スケールにおける超潤滑を実現する。
【0006】
前記水素含有炭素膜は、マイクロ波表面波プラズマの化学気相成長法によって調製されることができ、水素含有炭素膜の水素含有量が20~26%、厚さが700~900nmである。
【0007】
前記二硫化モリブデンは高出力バイポーラマイクロインパルス反応マグネトロンスパッタリングによって調製される。二硫化モリブデン膜の厚さが500~700nmである。
【0008】
二硫化モリブデン膜は、大気中の摩擦係数が比較的に大きく(0.05)、耐摩耗性に劣るほか、従来の二硫化モリブデン膜は、鋼表面への結合力が低く、摩擦時に脱落しやすい。水素含有炭素膜と二硫化モリブデン膜を相互にマッチングペアさせて、摩擦時に、摩擦剪断力の作用下で無秩序な二硫化モリブデンは摩擦方向に沿って秩序的に配置されるようになって、炭素膜基板の表面に、少ない数の層を持つ二硫化モリブデンの秩序的な構造がその場で形成されて、炭素膜の巨視的スケールにおける超潤滑を実現する。
図1は、MoS
2摩擦ペアがスライドした後の膜摩耗痕の断面の高解像度写真である。摩擦中に、摩擦剪断力の作用下で無秩序な二硫化モリブデンは摩擦方向に沿って秩序的に配置されるようになって、少ない数の層を持つ秩序的な構造を形成し、摩擦界面の調整及び制御により、大気中の炭素膜の巨視的スケールにおける超潤滑を実現した。実験では、酸素が豊富な環境での当該システムの摩擦係数と耐摩耗性がより優れていることが示された。
【0009】
摩擦マッチングペアとして、水素含有炭素膜を堆積した鋼ブロックと二硫化モリブデン膜を堆積した金属球を使用し、サンプルをCSM摩擦摩耗試験機に固定した後、実験パラメータを負荷9N、周波数5Hz、振幅5mm、摩擦時間30分間に設定し、室温で摩擦を行う。乾燥された空気を導入して、空気の湿度を徐々に5%以下に下げてから、実験を開始する。得られた摩擦係数は、急速に0.005程度まで減少した。摩擦と摩耗が大幅に減少し、乾燥された大気中の炭素膜の耐用時間が向上された。即ち、酸素が豊富な環境で当該システムの摩擦係数と耐摩耗性は、より優れている。
【発明の効果】
【0010】
利点は、高出力マイクロパルス技術を使用して、二硫化モリブデン膜の構造を秩序的になるように制御することにより、摩擦係数が0.05レベルである2つの摩擦膜材料は、相互カプリングした後に、摩擦係数が0.005に減少することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】MoS
2摩擦ペアがスライドした後の膜摩耗痕の断面の高解像度写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の巨視的スケールにおける超潤滑を実現するための方法は、特定の実施形態を通じて以下にさらに説明される。
【0013】
(1)水素含有炭素膜の調製
a.基板材料(高研磨軸受鋼、金型鋼、歯車鋼など)をアルコールで予め20分間超音波処理し、洗浄し、窒素で乾燥させ、コーティング真空チャンバーに入れてコーティングの準備をした;
b.真空チャンバーを10-4Paに排気した後、プラズマ化学気相成長装置で800Vの電圧と2.5Paの圧力で、アルゴンガスを通過させてシリコンウェーハの表面に20分間衝撃を与え、シリコンウェーハ表面の不純物を除去した;
c.水素含有炭素膜の調製:双極対称パルスを使用してプラズマを励起し、パルス電圧が800V、デューティ比が55%、周波数が20-40KHz、メタン、水素、アルゴンの流量比が1:1:1、圧力が5Paに維持され、プレート間の距離が25mmであり、堆積時間が90分間であり、1.1ミクロンの厚さの水素含有炭素膜が得られた。水素含有炭素膜の摩擦係数は0.018である;
(2)二硫化モリブデン膜の調製
a.直径6mmのGCr15、またはステンレス鋼球を使用して、アルコール中で10分間超音波洗浄した。
b.プラズマ化学気相成長/マグネトロンスパッタリング装置で、プラズマ気相成長法を使用して、事前に処理されたステンレス鋼表面に遷移層を形成し、次に遷移層に高出力マイクロパルスマグネトロンスパッタリングを使用して、二硫化モリブデン層を調製した。具体的には、マイクロパルスは非対称モードを使用し、負のパルス電圧が650V、パルス幅が600マイクロ秒、マイクロパルス列波のデューティ比が30%、パルス列波内周波数が15KHz、デューティ比が4%調整可能である。負のパルス電圧は300Vで、他のパラメータは同じで変化しない。まず、アルゴンとメタンの比率を1:2で30分間堆積し;メタンをオフにして、1時間堆積し、鋼球の表面に厚さ800ミクロンの二硫化モリブデン膜が得られた。二硫化モリブデン膜の摩擦係数は0.05である;
(3)炭素膜を堆積した鋼ブロックと二硫化モリブデン膜を堆積した金属球を摩擦マッチングペアとして使用した。CSM摩擦摩耗試験機に、サンプルを固定した後、実験パラメータが負荷9N、周波数5Hz、振幅5mm、摩擦時間30分間、および室温での摩擦を設定した。乾燥された空気を導入して、空気の湿度を徐々に5%以下に下げてから、実験を開始した。得られた摩擦係数は、急速に約0.005まで減少した。