(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221004BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20221004BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20221004BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/5313
C08K7/02
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2021504942
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008807
(87)【国際公開番号】W WO2020184270
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019044932
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 英人
(72)【発明者】
【氏名】小泉 翔平
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-522116(JP,A)
【文献】特開2015-120908(JP,A)
【文献】特表2013-542311(JP,A)
【文献】特表2013-523958(JP,A)
【文献】特開2015-110764(JP,A)
【文献】特開2009-079212(JP,A)
【文献】特表2017-500705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂成分(A)20~80質量%、
分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(B)3~30質量%、および
強化材(C)10~50質量%を含有する難燃性ポリアミド樹脂組成物であり(但し、(A)、(B)および(C)の割合は、難燃性ポリアミド樹脂組成物の総量に対する質量%であ
る)、
前記ポリアミド樹脂成分(A)は、ポリアミド6T/66(A-1)と、
ポリアミド6T/DT(A-2)とを含み、
前記ポリアミド6T/66(A-1)と、前記
ポリアミド6T/DT(A-2)との質量比は、55/45以上85/15以下であり、
前記難燃剤(B)は、ホスフィン酸塩化合物である、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂成分(A)のジカルボン酸成分単位の総量に対する、芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合は、67モル%以上80モル%以下である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃剤(B)は、式(I)のホスフィン酸塩化合物、および/または式(II)のビスホスフィン酸塩化合物、および/またはこれらのポリマーを含む難燃剤である、請求項1
または2のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC
1-C
6アルキルおよび/またはアリールであり、
R
3は直鎖状のまたは枝分かれしたC
1-C
10アルキレン、C
6-C
10アリーレン、C
6-C
10アルキルアリーレンまたはC
6-C
10アリールアルキレンであり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。]
【請求項4】
前記強化材(C)は繊維状物質である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
金属水酸化物および金属酸化物から選ばれる金属化合物成分(D)をさらに0.05~2質量%含み、
前記金属水酸化物および前記金属酸化物は、元素周期律表の第2~12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ平均粒子径は、0.01~20μmである、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属化合物成分(D)は金属酸化物である、請求項
5に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記金属酸化物は、鉄の酸化物、マグネシウムの酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項
6に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
難燃助剤(E)をさらに0.1~5質量%含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記難燃助剤(E)は、ホウ酸亜鉛である、請求項
8に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる電気電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリアミド樹脂組成物、その成形体、および電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子部品を形成する素材として、加熱溶融により所定の形状に成形可能なポリアミド樹脂が使用されている。広汎に使用されるポリアミドとしては、6ナイロン、66ナイロンなどの脂肪族ポリアミドがある。このような脂肪族ポリアミドは良好な成形性を有するが、一方で、リフローはんだ工程のように高温に晒される工程を経て製造される、コネクターのような表面実装部品の原料としての充分な耐熱性を有していない。
【0003】
このような背景から、高い耐熱性を有するポリアミドとして46ナイロンが開発された。しかしながら、46ナイロンは吸水率が高いという問題があり、そのため46ナイロン樹脂組成物を用いて成形された電気電子部品は、吸水により寸法が変化することがある。成形体が吸水していると、リフローはんだ工程での加熱によりブリスター、いわゆる膨れが発生するなどの問題が生じる。特に、近年環境問題の観点から、鉛フリーはんだを使用した表面実装方式に移行しつつある。鉛フリーはんだは、従来の鉛はんだよりも融点が高い。よって、必然的に実装温度も従来より10~20℃上昇してきており、46ナイロンの使用は困難な情況になってきている。
【0004】
これに対して、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸と脂肪族アルキレンジアミンとから誘導される芳香族ポリアミドが開発された。芳香族ポリアミドは、46ナイロンなどの脂肪族ポリアミドと比べて、より一層耐熱性、低吸水性に優れる。
【0005】
一方、上記コネクターのような電気電子部品は、一般にUL94 V-0規格のような高い難燃性を有する必要がある場合が多い。従来のポリアミド樹脂組成物は、上記規格に適合させるために、臭素化ポリフェニレンエーテルや、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレンのようなハロゲン含有難燃剤を使用していた。
【0006】
臭素化ポリフェニレンエーテルや、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレンのようなハロゲン含有難燃剤は、燃焼時にダイオキシン化合物の発生が懸念される。そのため、ハロゲン含有難燃剤から、ハロゲンフリー難燃剤を含む難燃性ポリアミド樹脂組成物の提供が、市場から要求されている。そのなかで、ホスフィン酸塩化合物の利用が注目されている(特許文献1~5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2008/062755号
【文献】国際公開第2008/126381号
【文献】国際公開第2009/037858号
【文献】国際公開第2009/037859号
【文献】国際公開第2010/073595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ホスフィン酸塩化合物を含む従来のポリアミド樹脂組成物は高い難燃性と高い機械物性とを両立するものである。しかし、電気電子部品のさらなる小型化などに伴い、薄肉でコネクター端子間距離が短いファインピッチコネクターなどの電気電子部品や薄肉小型部品などに使用するための、高い難燃性やリフロー耐熱性と共に、さらに高い機械物性を有する樹脂組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、このような状況に鑑みて鋭意研究した結果、ポリアミド樹脂成分として少なくとも2種の異なる半芳香族ポリアミド樹脂を含み、且つホスフィン酸塩化合物を難燃剤として含む難燃性ポリアミド樹脂組成物が、リフロー耐熱性や難燃性の低下を生じることなく、高い曲げ強度や高い靱性といった優れた機械物性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の第一は、以下の難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0010】
[1] ポリアミド樹脂成分(A)20~80質量%、
分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(B)3~30質量%、および
強化材(C)10~50質量%を含有する難燃性ポリアミド樹脂組成物であり(但し、(A)、(B)および(C)の割合は、難燃性ポリアミド樹脂組成物の総量に対する質量%であり)、
前記ポリアミド樹脂成分(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)と、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)とは異なる半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)とを含み、
前記難燃剤(B)は、ホスフィン酸塩化合物である、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[2] 前記ポリアミド樹脂成分(A)のジカルボン酸成分単位の総量に対する、芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合は、67モル%以上80モル%以下である、[1]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および前記半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)は、両方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂である、または一方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂であり、他方が非晶性樹脂である、[2]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[4] 前記半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および前記半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)の少なくとも一方は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分単位を30~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族多官能カルボン酸成分単位0~70モル%、および/または炭素原子数4~20の脂肪族多官能カルボン酸成分単位0~60モル%からなる多官能アミン成分単位(a-1)と、炭素原子数4~25の多官能アミン成分単位(a-2)とを含む、[1]~[3]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[5] 前記難燃剤(B)は、式(I)のホスフィン酸塩化合物、および/または式(II)のビスホスフィン酸塩化合物、および/またはこれらのポリマーを含む難燃剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【化1】
[式中、
R
1およびR
2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC
1-C
6アルキルおよび/またはアリールであり、
R
3は直鎖状のまたは枝分かれしたC
1-C
10アルキレン、C
6-C
10アリーレン、C
6-C
10アルキルアリーレンまたはC
6-C
10アリールアルキレンであり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。]
[6] 前記強化材(C)は繊維状物質である、[1]~[5]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[7] 金属水酸化物および金属酸化物から選ばれる金属化合物成分(D)をさらに0.05~2質量%含み、
前記金属水酸化物および前記金属酸化物は、元素周期律表の第2~12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ平均粒子径は、0.01~20μmである、[1]~[6]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[8] 前記金属化合物成分(D)は金属酸化物である、[7]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[9] 前記金属酸化物は、鉄の酸化物、マグネシウムの酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[8]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[10] 難燃助剤(E)をさらに0.1~5質量%含む、[1]~[9]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
[11] 前記難燃助剤(E)は、ホウ酸亜鉛である、[10]に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【0011】
本発明の第二は、上記難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形した成形体に関する。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【0012】
本発明の第三は、上記難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形した電気電子部品に関する。
[13] [1]~[11]のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる電気電子部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ハロゲンフリーであって、燃焼時にハロゲン化水素を発生させることなく、環境負荷が低減されており、さらには曲げ強度や靭性等の機械物性が高く、リフローはんだ工程における耐熱性や難燃性に優れる。このように、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物の工業的価値は極めて高い。
【0014】
そのため本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物の成形品は、特に、薄肉でコネクター端子間距離が短いファインピッチコネクターなどの電気電子部品として好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願の実施例および比較例にて実施した、リフロー耐熱性試験のリフロー工程の温度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ポリアミド樹脂成分(A)]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)と、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)とは異なる半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)とを含む、ポリアミド樹脂成分(A)を含む。本発明において半芳香族ポリアミド樹脂とは、芳香環を有する構造単位と、脂肪族鎖を有する構造単位とを含むポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂成分(A)としてリフローはんだ工程に耐えうる樹脂である限り特に限定はないが、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の少なくとも一方が、下記の多官能カルボン酸成分単位(a-1)と、多官能アミン成分単位(a-2)とを含む構造であることが好ましく、両方が下記成分単位を含む構造であることがより好ましい。
【0017】
[多官能カルボン酸成分単位(a-1)]
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および/または(A-2)を構成する多官能カルボン酸成分単位(a-1)は、多官能カルボン酸成分単位(a-1)の合計量に対して、テレフタル酸成分単位30~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族多官能カルボン酸成分単位0~70モル%、および/または炭素原子数4~20の脂肪族多官能カルボン酸成分単位0~60モル%を有する。
【0018】
このうちテレフタル酸以外の芳香族多官能カルボン酸成分単位としては、例えばイソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。これらのなかでは、特にイソフタル酸から誘導される単位が好ましい。また、これらは単独でも2種類以上組み合わせても構わない。3官能以上の多官能カルボン酸化合物を含む場合は、樹脂がゲル化しないような添加量、具体的には全カルボン酸成分単位の合計100モル%中10モル%以下にすることが好ましい。
【0019】
また、脂肪族多官能カルボン酸成分単位は、炭素原子数が4~20、好ましくは4~12、さらに好ましくは6~10の脂肪族多官能カルボン酸化合物から誘導される単位である。このような化合物の例としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸などが挙げられる。この中でも、アジピン酸が機械物性向上の観点で特に好ましい。この他にも、必要に応じて適宜3官能以上の多官能カルボン酸化合物を使用することができる。ただし、3官能以上の多官能カルボン酸化合物は樹脂がゲル化しないような量に留めるべきであり、具体的には全カルボン酸成分単位の合計に対して、10モル%以下にすることが好ましい。
【0020】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および/または(A-2)は、多官能カルボン酸成分単位(a-1)の合計量に対して、テレフタル酸成分単位は、30~100モル%、好ましくは50~100モル%、より好ましくは60~100モル%、さらに好ましくは60~70モル%の量で含有され、テレフタル酸以外の芳香族多官能カルボン酸成分単位は0~70モル%、好ましくは0~40モル%の量で含有されることが好ましい。芳香族多官能カルボン酸成分、特にテレフタル酸の含有率が増大すると、吸湿量が低下し、リフロー耐熱性が向上する傾向にある。特に、鉛フリーはんだを使用したリフローはんだ工程において使用されるポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂成分(A)は、テレフタル酸成分単位を55モル%以上、好ましくは60モル%以上含む半芳香族ポリアミド樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
さらに、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および/または(A-2)は、炭素原子数4~20の脂肪族多官能カルボン酸成分単位を0~60モル%、好ましくは0~50モル%、さらに好ましくは30~40モル%の量で含むことが好ましい。
【0022】
[多官能アミン成分単位(a-2)]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物に含まれる半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および/または(A-2)を構成する多官能アミン成分単位(a-2)は、直鎖およびまたは側鎖を有する炭素原子数4~25、好ましくは直鎖およびまたは側鎖を有する炭素原子数4~12、より好ましくは直鎖の炭素原子数が4~10の多官能アミン成分単位が挙げられる。さらに、多官能アミン成分単位(a-2)は、脂環族多官能アミン成分単位を含んでいてもよい。
【0023】
直鎖多官能アミン成分単位の具体的な例としては、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンが挙げられる。この中でも、1,6-ジアミノヘキサンが好ましい。
【0024】
側鎖を有する直鎖脂肪族ジアミン成分単位の具体的な例としては、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン、2-メチル-1,11-ジアミノウンデカン等が挙げられる。この中では、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタンが好ましい。
【0025】
脂環族多官能アミン成分単位としては、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルプロパン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチル-5,5'-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチル-5,5'-ジメチルジシクロヘキシルプロパン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-1,4-シクロヘキサン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-1,3-シクロヘキサン等の脂環族ジアミンから誘導される成分単位を挙げることができる。これらの脂環族ジアミン成分単位のうちでは、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタンが好ましく;特に、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジアミンから誘導される成分単位が好ましい。3官能以上の多官能アミン化合物を使用する場合は、樹脂がゲル化しないような添加量、具体的には全アミン成分単位の合計100モル%中10モル%以下にすることが好ましい。
【0026】
多官能アミン成分単位(a-2)は、これらの中でも、上述した直鎖多官能アミン成分単位のみからなることが特に好ましい。具体的に好ましい直鎖多官能アミン成分は、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンが挙げられる。この中でも、1,6-ジアミノヘキサンが好ましい。これらの直鎖多官能アミン成分を用いると、特にリフロー耐熱性が向上する傾向にあるので好ましい。
【0027】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物に含まれる半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)は、温度25℃、96.5%硫酸中で測定した極限粘度[η]が、好ましくは0.5~1.25dl/gであり、より好ましくは0.6~1.15dl/gであり、更に好ましくは0.6~1.05dl/gである。半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の極限粘度[η]がこの範囲にある場合、流動性、リフロー耐熱性、高靭性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物に含まれる半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)は結晶性でも、非晶性でもよいが、少なくとも一方が結晶性であることが好ましい。結晶性の半芳香族ポリアミド樹脂は融点を有し、本発明においては、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分で昇温したときの融解に基づく吸熱ピークを、半芳香族ポリアミド樹脂の融点(Tm)として測定されうる。そのようにして測定される半芳香族ポリアミド樹脂の融点は、270~340℃が好ましく、290~340℃がより好ましく、更に好ましくは315~330℃である。融点がこのような範囲にある半芳香族ポリアミド樹脂は、特に優れた耐熱性を有する。また、融点が270℃以上、さらに290℃以上、特に315~330℃であると、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物を、鉛フリーリフローはんだ工程、特に高融点を有する鉛フリーはんだを使用したはんだ工程に使用しても、十分な耐熱性が奏される。一方、融点が340℃以下であると、ポリアミドの分解点である350℃より低い融点となるので、成形時に分解ガスの発生、成形品の変色等を生じることがなく、十分な熱安定性を得ることができる。
【0029】
尚、本発明においては、2種類の異なる半芳香族ポリアミド樹脂を併用するが、融点(Tm)が異なる半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)をブレンドし、当該ブレンドの融点(Tm)を、上述のように示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。このようにして測定した半芳香族ポリアミド樹脂ブレンドの融点は、単一のピークとして観測される。これは、樹脂が均一化されていることを意味し、その結果として本発明の樹脂組成物のガラス転移温度は上昇し、熱安定性が向上すると考えられる。
【0030】
[難燃剤(B)]
本発明で用いられる、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(B)は、樹脂の燃焼性を低下させる目的で添加するものである。難燃剤(B)は、好ましくはホスフィン酸塩化合物であり、より好ましくはホスフィン酸金属塩化合物である。
【0031】
難燃剤(B)として具体的には、以下の式(I)および/または式(II)で表される化合物が代表例である。
【化2】
【0032】
式(I)および式(II)において、R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1-C6アルキルおよび/またはアリールであり、
R3は直鎖状のまたは枝分かれしたC1-C10アルキレン、C6-C10アリーレン、C6-C10アルキルアリーレンまたはC6-C10アリールアルキレンであり、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよびプロトン化窒素塩基からなる群より選ばれる1種であり、
mは1~4の整数を示し、nは1~4の整数を示し、xは1~4の整数を示す。
【0033】
ホスフィン酸塩化合物の具体的化合物としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。好ましくはジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛であり;さらに好ましくはジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
【0034】
本発明で使用されるホスフィン酸塩化合物を含む難燃剤(B)の代表例としては、例えばクラリアントジャパン社製のEXOLIT OP1230やOP930などが挙げられる。
【0035】
[強化材(C)]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は強化材(C)を含有してもよく、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状などの形状を有する種々の無機充填材を使用することができ、単独あるいは複数のものと併用して使用することが可能である。さらに詳述すると、シリカ、シリカアルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ワラストナイト、ケイソウ土、クレー、カオリン、球状ガラス、マイカ、セッコウ、ベンガラなどの粉状あるいは板状の無機化合物;チタン酸カリウムなどの針状の無機化合物;ガラス繊維(グラスファイバー)、チタン酸カリウム繊維、金属被覆ガラス繊維、セラミックス繊維、ワラストナイト、炭素繊維、金属炭化物繊維、金属硬化物繊維、アスベスト繊維およびホウ素繊維などの無機繊維;さらにはアラミド繊維、炭素繊維のような有機繊維が、強化材(C)として挙げられる。強化材(C)は、なかでも繊維状物質が好ましく、より好ましくはガラス繊維が挙げられる。
【0036】
強化材(C)が、繊維状物質、特にガラス繊維である場合、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物の成形性が向上するとともに、その成形体の引張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械的特性および熱変形温度などの耐熱特性が向上する。
【0037】
このような効果は、特にガラス繊維で顕著である場合が多い。ガラス繊維の平均長さは、通常は0.1~20mm、好ましくは0.2~6mmの範囲にある。さらに、ガラス繊維のアスペクト比(L(ガラス繊維の平均長さ)/D(ガラス繊維の平均外径))は、通常は10~5000、好ましくは2000~3000の範囲にある。このような範囲内の平均長さおよびアスペクト比を有するガラス繊維が好ましく使用される。
【0038】
さらに、繊維状の強化材(C)を使用する場合、成形品の反りを防止する目的で、繊維断面の異径比(長径と短径の比)が1より大きい、好ましくは異径比が1.5~6.0の繊維状物質を用いることが有効である。
【0039】
また、上記充填材をシランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤などで処理して使用することもできる。たとえばビニルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのシラン系化合物で表面処理されていてもよい。
【0040】
強化材(C)のうち、繊維状充填材は、集束剤が塗布されていてもよい。集束剤としては、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルに代表されるアクリル系化合物、無水マレイン酸などのメタアクリル酸以外の炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、アミン系化合物が挙げられる。またこれらを組み合わせて強化材(C)とすることもできる。好ましい組合せは、アクリル系化合物/カルボン酸化合物、ウレタン系化合物/カルボン酸化合物、ウレタン系化合物/アミン系化合物の組合せが挙げられる。上記表面処理剤を、集束剤と併用してもよく、併用により本発明の組成物中の繊維状充填材と、組成物中の他の成分との結合性が向上し、外観および強度特性が向上する。
【0041】
強化材(C)は、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物中に、10~50質量%、好ましくは10~45質量%の割合で添加することが好ましい。
【0042】
[金属化合物成分(D)]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、金属水酸化物および金属酸化物から選ばれる金属化合物成分(D)を含有していてもよく、好ましくは金属酸化物を含有する。これらを含有することで、ポリアミド樹脂組成物による鋼材の腐食磨耗を、より抑制することができる。金属水酸化物および金属酸化物は、単独または複数の化合物を併用することができる。
【0043】
金属水酸化物および金属酸化物の金属は、元素周期律表の第1~12族金属であることが好ましく、より好ましくは同周期律表の第2~12族金属である。特に、金属酸化物としては、元素周期律表の第2~12族元素の酸化物が好ましく、より好ましくは第4~12族元素、更に好ましくは第7~12族元素の酸化物である。
【0044】
金属水酸化物および金属酸化物、特に金属酸化物は、難燃性ポリアミド樹脂組成物を製造するために使用する押出機、該組成物を用いて成形体を得るために使用する成形機などで用いられる装置のスクリュー、シリンダー、ダイス、ノズルなどの鋼材の腐食磨耗を抑制するのに有効である。特に、加工温度が270℃以上となるような高温下の条件において、高い抑制効果を奏する。
【0045】
金属水酸化物および金属酸化物は、平均粒子径0.01~20μmの粒子であってもよく、好ましくは平均粒子径0.01~10μm、より好ましくは0.01~5μm、さらに好ましくは0.01~3μm、特に好ましくは0.01~1μm、殊に好ましくは0.01~0.3μmの粒子を用いることができる。これはより高い腐食磨耗抑制効果を得るためである。金属水酸化物および金属酸化物の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真をもとに、画像回折装置(ルーゼックスIIIU)を用いて一次粒子の各粒子径区間における粒子量(%)をプロットして分布曲線を求め、得られた分布曲線から累積分布曲線を求め、この累積分布曲線における累積度50%のときの値とすることができる。
【0046】
また、金属酸化物または金属水酸化物のBET比表面積は、1~50m2/gであればよく、好ましくは3~40m2/g、より好ましくは5~40m2/gである。平均粒子径、およびBET比表面積が上記範囲であることで、鋼材の腐食磨耗が抑制され、かつ難燃性、リフロー耐熱性に優れた成形体を得ることが可能となる場合が多い。平均粒子径が20μmを超えるか、BET比表面積が1m2/g未満であると、腐食磨耗抑制効果が十分に得られない場合がある。一方、平均粒子径が0.01μm未満であったり、BET比表面積が50m2/gを超えると、腐食磨耗抑制効果は得られるものの、難燃性、リフロー耐熱性、および成形時の熱安定性が低下する傾向にある。
【0047】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物においては、金属水酸化物および金属酸化物から選ばれる金属化合物成分(D)が、難燃剤(B)の分解物をトラップしていると推察される。難燃剤(B)の分解物のトラップは、主に金属水酸化物および金属酸化物成分の表面で起こっていると考えられるので、粒子径が小さい、即ち比表面積が高い成分であることが有利と考えられる。このため特定の粒子径範囲(例えば、平均粒子径0.01~20μmの粒子)の金属水酸化物および金属酸化物が、本願の課題である腐蝕摩耗の抑制に有利であると考えられる。
【0048】
本発明で用いられる金属水酸化物および金属酸化物の好ましい金属元素としては、鉄、マグネシウム、亜鉛が挙げられ、より好ましくはマグネシウム、亜鉛であり、特に好ましくは亜鉛である。
【0049】
好ましい具体的な金属水酸化物または金属酸化物の例としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛が挙げられる。他の好ましい例としては、金属の複合酸化物、より好ましくは錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛等の亜鉛の複合酸化物が挙げられる。これらの中でも酸化亜鉛、錫酸亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムが好ましい。また、複合酸化物よりも通常の単一金属酸化物が好ましく、特に好ましい具体例は、酸化亜鉛が挙げられる。
【0050】
ただし、複合酸化物の一つである硼酸塩は、本発明における金属酸化物とはみなされない。硼素のようなルイス酸性のポテンシャルのある元素を含む場合、後述する難燃剤の分解物のトラップ効果が減じるため、耐腐食性が発現し難いのではないかと推測される。
【0051】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、難燃助剤(E)を含有していてもよい。難燃助剤(E)としては、少量の難燃剤添加量で高い難燃効果を発揮するために有効である。具体的には、金属酸化物および金属水酸化物が挙げられ、これらの化合物は単独、あるいは複数の化合物と併用して用いることができる。具体的には硼酸亜鉛、ベーマイト、錫酸亜鉛、酸化鉄、酸化錫が好ましく、より好ましくは硼酸亜鉛である。
【0052】
難燃助剤(E)として金属酸化物または金属水酸化物を用いる場合は、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物中に0.1~5質量%、好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。上記範囲内の難燃助剤を添加することで、難燃性ポリアミド樹脂組成物に、安定した難燃性と成形時の熱安定性とを付与することができる。
【0053】
上記の他、難燃助剤(E)として、窒素系難燃助剤としてはメラミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)、メラミンホスフェイト(MP)、メラミンポリホスフェイト(MPP)、メラミンシアヌレート(MC)など窒素系化合物や、環状ホスファゼン化合物および/または直鎖状ホスファゼン化合物などのホスファゼン化合物を併用して用いることができる。
【0054】
[その他の添加剤]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、上記各成分に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、上記以外の難燃助剤、難燃剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、流動性向上剤、可塑剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、顔料、染料、無機あるいは有機充填剤、核剤、繊維補強剤、カーボンブラック、タルク、クレー、マイカ等無機化合物などの、種々公知の配合剤を含有していてもよい。また、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、通常用いられるイオン捕捉剤などの添加剤を含有してもよい。イオン捕捉剤としては、例えばハイドロタルサイト、ゼオライトが知られている。特に本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、上記のうち繊維補強剤を含有していることにより、より一層耐熱性、難燃性、剛性、引張強度、曲げ強度、衝撃強度が向上される。
【0055】
さらに本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で他の重合体を含有していてもよい。このような他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、ポリオレフィンエラストマーなどのポリオレフィン;ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、SEBS、テフロン(登録商標)などが挙げられる。これら以外にも、ポリオレフィンの変性体等が挙げられる。ポリオレフィンの変性体は、例えばカルボキシル基、酸無水物基、アミノ基等で変性されたポリオレフィンである。ポリオレフィンの変性体の例には、変性ポリエチレン、変性SEBSなどの変性芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体またはその水素化物、変性エチレン・プロピレン共重合体などの変性ポリオレフィンエラストマーなどが挙げられる。これらの成分は、UL94V-0規格を満たさないことが好ましい。
【0056】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物に含まれる各成分の合計が100質量%である場合のこれらの重合体の含有率は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0057】
[難燃性ポリアミド樹脂組成物]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)とは異なる半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)とを含む、ポリアミド樹脂成分(A)を含有する。よって、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の合計量が、ポリアミド樹脂成分(A)の量となる。ポリアミド樹脂組成物の総量に対する、(半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の合計である)ポリアミド樹脂成分(A)の割合は、20~80質量%、好ましくは35~60質量%である。難燃性ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂成分(A)の含有量が20質量%以上であると、十分な靭性を得ることができる。また、難燃性ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂成分(A)の含有量が80質量%以下であると、十分な難燃剤を含むことができ、難燃性を得ることができる。
【0058】
上述したように、融点(Tm)が異なる半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)のブレンドにおいては、樹脂が均一化されるため、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した融点(Tm)は単一のピークとして観測され、ガラス転移温度が上昇し、熱安定性が向上する。よって、本発明においては、2種類の異なる半芳香族ポリアミド樹脂を併用することによって、1種のポリアミド樹脂のみを含む組成物と比べて、高い熱安定性を達成することができる。また、2種類の異なる半芳香族ポリアミド樹脂を併用に結晶化度も下げるため、難燃性ポリアミド樹脂組成物が固化した際に堅く、脆くならず、靱性が向上する。尚、ポリアミド樹脂成分(A)は、本発明の目的が損なわれない範囲で、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)以外の、他の半芳香族ポリアミド樹脂を含んでもよい。他の半芳香族ポリアミド樹脂が含まれる場合には、半芳香族ポリアミド樹脂の合計量をポリアミド樹脂成分(A)の量とする。
【0059】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の組み合わせに特に限定はなく、難燃性ポリアミド樹脂組成物に必要な物性に応じて選択することができる。例えば、難燃性ポリアミド樹脂組成物をコネクターのような微細な電気電子部品に使用する場合には、流動性が低くなり過ぎるのを防止するために、流動性の低い半芳香族ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド6T/6Iやポリアミド6T/DT)は、流動性の高い半芳香族ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド6T/66)と組合わせることが好ましい。
【0060】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)は、ポリアミド樹脂成分(A)(即ち、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の合計)のジカルボン酸成分単位の総量に対する、芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合が、67モル%以上80モル%以下となるように、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の種類および配合量を選択することが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合が、67モル%以上であると、芳香族成分が十分に存在するため、強度が向上する。一方、80モル%以下であると、難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形した際に、堅くなり過ぎないことから、適度な靱性が保たれる。また、融点も高すぎないため、樹脂組成物の調製が容易である。ジカルボン酸成分単位の総量に対する、芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合は、67モル%以上75モル%以下であることがより好ましい。
【0061】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の少なくとも一方が、270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂であることが好ましい。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の両方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂である、または一方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂であり、他方が非晶性樹脂であることがより好ましい。
【0062】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の両方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂であると、リフロー耐熱温度を特に高くすることが可能になり得る。例えば、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物を、鉛フリーリフローはんだ工程、特に高融点を有する鉛フリーはんだを使用したはんだ工程に使用しても、十分な耐熱性が奏されるため好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂の組み合わせとしては、ポリアミド6T/66(融点:320℃)とポリアミド6T/6I(融点:330℃)との組み合わせ、およびポリアミド6T/66(融点:320℃)とポリアミド6T/DT(融点:300℃)との組み合わせなどが挙げられる。
【0063】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の一方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂であり、他方が非晶性樹脂であると、難燃性ポリアミド樹脂組成物の結晶化度が特に低くなるため、難燃性ポリアミド樹脂組成物の靱性を高める観点から好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂の組み合わせとしては、ポリアミド6T/66(融点:320℃)とポリアミド6I/6T(非晶性)との組み合わせなどが挙げられる。PA6T/66と他の半芳香族ポリアミド樹脂とを組み合わせて使用すると、難燃性ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性、リフローはんだ工程における耐熱性、強度や靭性等の機械物性に優れるため好ましい。
【0064】
上述したように、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の配合比に特に限定はなく、所望の物性や、芳香族ジカルボン酸成分単位の割合に基づき、決定することができる。例えば、ジカルボン酸成分単位として芳香族ジカルボン酸成分単位と脂肪族ジカルボン酸成分単位とを含む半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)と、ジカルボン酸成分単位として芳香族ジカルボン酸成分単位のみを含む半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)とを併用する場合には、(A-1)/(A-2)の質量比は、5/95~95/5とすることができるが、これに限定されるものではない。(A-1)/(A-2)の質量比は好ましくは50/50~95/5、より好ましくは50/50~90/10、更に好ましくは55/45~85/15である。半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)割合が5以上であると、機械物性の向上に十分な効果が得られ、一方、95以下であると、リフロー耐熱性や流動性に十分な効果が得られる。
【0065】
本発明においては、このように2種以上の半芳香族ポリアミド樹脂を併用することによって、難燃性やリフロー耐熱性を維持しつつ、機械物性を向上することができる。
【0066】
難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物の総量に対して、難燃剤(B)を3~30質量%、好ましくは7~20質量%含むことが好ましい。難燃性ポリアミド樹脂組成物中の難燃剤(B)の含有量が、3質量%以上であると、十分な難燃性を得ることができ、30質量%以下であると射出成形時の流動性が低下することがなく好ましい。
【0067】
難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物の総量に対して、強化材(C)を10~50質量%、好ましくは10~45質量%の割合で含むことが好ましい。この割合が50質量%以下であると、射出成形時における流動性が低下せずに好ましい。
【0068】
難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物の総量に対して、金属水酸化物および金属酸化物から選ばれる金属化合物成分(D)、好ましくは金属酸化物を、0.05~2質量%、好ましくは0.1~1質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の割合で含む。難燃性ポリアミド樹脂組成物中の金属水酸化物および金属酸化物から選ばれる金属化合物成分(D)の含有量が0.05質量%以上であると、鋼材の腐食磨耗抑制に十分な効果が得られ、10質量%以下であると、難燃性、リフロー耐熱性、および成形時の熱安定性が低下することがなく好ましい。
【0069】
難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物の総量に対して、難燃助剤(E)を、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。難燃性ポリアミド樹脂組成物中の難燃助剤(E)の含有量が0.1質量%以上であると、鋼材の腐食磨耗抑制に十分な効果が得られ、5質量%以下であると、難燃性、リフロー耐熱性、および成形時の熱安定性が低下することがなく好ましい。
【0070】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、UL94規格に準じた燃焼性評価がV-0である。より具体的に言えば、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、0.8mm以下の厚みにおける、UL94規格に準じた燃焼性評価がV-0であることが好ましい。
【0071】
また、温度40℃、相対湿度95%で96時間吸湿させた後の、リフロー耐熱温度は245~280℃であることが好ましく、より好ましくは250~280℃、さらに好ましくは255~280℃、特に好ましくは255~270℃である。
【0072】
靭性の指標となる破壊エネルギーは、660~800mJであることが好ましく、より好ましくは660~750mJ、さらに好ましくは665~720mJである。バーフロー金型への樹脂の射出成形によって求めた流動長は30~90mmであることが好ましく、より好ましくは40~70mmである。
【0073】
このように、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は極めて優れた特徴を有しており、ハロゲンフリーである(すなわち、塩素、臭素の含有率が低い)ので、ダイオキシン発生のリスクが少なく、高い温度条件下における成形時の熱安定性に優れ、燃焼時に高い難燃性を発現することが可能である。さらに、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、成形後に高い曲げ強度や靱性といった優れた機械特性を発揮することができる。本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、特に電気電子部品用途に好適に使用可能である。
【0074】
[難燃性ポリアミド樹脂組成物の調製方法]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、上述した各成分を公知の樹脂混練方法を用いて製造することができる。例えば、上述した各成分を、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーなどで混合する方法、あるいは、混合後さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練後、造粒または粉砕する方法を採用することができる。
【0075】
[成形体および電子電気部品材料]
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法などの公知の成形法を利用することにより、各種成形体に成形することができる。特に、射出成形法が好適で、窒素、アルゴン、ヘリウムに代表される不活性ガスの雰囲気下、具体的には、例えば、0.1~10ml/分の流量下で成形することで、成形機のシリンダー、スクリュー等の鋼材の腐食磨耗をさらに低減させることが可能となる。
【0076】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、機械特性(特に曲げ強度および靱性)、リフロー耐熱性、難燃性の面に優れている。したがって、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、これらの特性が要求される分野、あるいは精密成形分野の用途に用いることができる。具体的には、自動車用電装部品、電流遮断器、コネクター、スイッチ、ジャック、プラグ、ブレーカー、LED反射材料などの電気電子部品、コイルボビン、ハウジング等の各種成形体が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定して解釈されない。
【0078】
実施例および比較例において、各性状の測定および評価は以下の方法で実施した。
[極限粘度[η]]
JIS K6810-1977に準拠して、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解し、ウベローデ粘度計を使用し、25±0.05℃の条件下で試料溶液の流下秒数を測定した。測定結果から、以下の式に基づいてポリアミド樹脂の極限粘度[η]を算出した。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
ηSP=(t-t0)/t0
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度、C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0079】
[融点(Tm)]
ポリアミド樹脂の試料を、PerkinElemer社製DSC7を用いて加熱し、一旦330℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で23℃まで降温せしめた後、10℃/分で昇温した。このときの融解に基づく吸熱ピークをポリアミド樹脂の融点とした。
【0080】
[曲げ試験]
ポリアミド樹脂組成物を以下の条件で射出成形して、厚さ3.2mmの試験片を作製した。
成型機:住友重機械工業(株)社製、SE75EV-A
成形機シリンダー温度:330℃
金型温度:120℃
作製した試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。
次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で曲げ試験機:NTESCO社製 AB5、スパン51mm、曲げ速度12.7mm/分で曲げ試験を行った。
曲げ強度、歪量および弾性率から、その試験片を破壊するのに要するエネルギー(靭性)を求めた。
【0081】
[流動長試験(流動性)]
実施例および比較例で製造したポリアミド樹脂組成物を、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して、以下の条件で射出し、金型内の樹脂の流動長(mm)を測定した。
射出成形機:(株)ソディック プラステック、ツパールTR40S3A
射出設定圧力:2000kg/cm2
シリンダー設定温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0082】
[リフロー耐熱性試験]
実施例および比較例で製造したポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を調製した。
成形機:(株)ソディック プラステック、ツパールTR40S3A
成形機シリンダー温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:100℃
【0083】
調製した試験片を温度40℃、相対湿度95%で96時間調湿した。
調湿処理を行った試験片を、厚み1mmのガラスエポキシ基板上に載置した。この基板上に温度センサーを設置した。試験片を載置したガラスエポキシ基板を、エアーリフローはんだ装置(エイテックテクトロン(株)製AIS-20-82-C)にセットし、
図1に示す温度プロファイルのリフロー工程を行った。
図1に示されるように、所定の速度で温度230℃まで昇温し;次いで、20秒間で所定の設定温度(aは270℃、bは265℃、cは260℃、dは255℃、eは235℃)まで加熱したのち;230℃まで降温した。このとき、試験片が溶融せず、且つ表面にブリスターが発生しない設定温度の最大値を求め、この設定温度の最大値をリフロー耐熱温度とした。
【0084】
一般的に、吸湿した試験片のリフロー耐熱温度は、絶乾状態のそれと比較して劣る傾向にある。
【0085】
[燃焼性試験]
実施例および比較例で製造したポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、1/32インチ×1/2×5インチの試験片を調製した。調製した試験片を用いて、UL94規格(1991年6月18日付のUL Test No.UL94)に準拠して、垂直燃焼試験を行い、難燃性を評価した。
成形機:(株)ソディック プラステック、ツパールTR40S3A
成形機シリンダー温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0086】
実施例および比較例において用いたポリアミド樹脂成分(A)、難燃剤(B)、強化材(C)、金属水酸化物(D)、その他の成分を示す。
【0087】
[ポリアミド樹脂成分(A)]
(ポリアミド6T/66)
組成:ジカルボン酸成分単位(テレフタル酸:62.5モル%、アジピン酸:37.5モル%)、ジアミン成分単位(1,6-ジアミノヘキサン:100モル%)
極限粘度[η]:0.8dl/g
融点:320℃
【0088】
(ポリアミド6T/6I)
組成:ジカルボン酸成分単位(テレフタル酸:70モル%、イソフタル酸:30モル%)、ジアミン成分単位(1,6-ジアミノヘキサン:100モル%)極限粘度[η]:1.0dl/g融点:330℃
【0089】
(ポリアミド6T/DT)
組成:ジカルボン酸成分単位(テレフタル酸:100モル%)、ジアミン成分単位(2-メチル1,5ペンタンジアミン:50モル%、1,6-ジアミノヘキサン:50モル%)
極限粘度[η]:0.9dl/g
融点:300℃
【0090】
(ポリアミド6I/6T)
組成:ジカルボン酸成分単位(テレフタル酸:33モル%、イソフタル酸:67モル%)、ジアミン成分単位(1,6-ジアミノヘキサン:100モル%)
極限粘度[η]:0.65dl/g
非晶性
【0091】
(ポリアミド12)
ポリアミド12(PA12):宇部興産(株)製、UBESTA 3014B
【0092】
(ポリアミド6T/6I/66)
組成:ジカルボン酸成分単位(テレフタル酸:44モル%、イソフタル酸:36モル%、アジピン酸:20モル%)、ジアミン成分単位(1,6-ジアミノヘキサン:100モル%)
極限粘度[η]:1.2dl/g
融点:260℃
【0093】
[難燃剤(B)]
クラリアントジャパン株式会社製、EXOLIT OP1230(ホスフィン酸塩化合物)
リン含有量:23.8質量%
【0094】
[強化材(C)]
ガラス繊維/日本電気硝子(株)製、ECS03T-262H
【0095】
[金属化合物成分(D)]
酸化亜鉛、平均粒子径0.02μm
【0096】
上記ポリアミド樹脂成分(A)、難燃剤(B)、強化材(C)、金属化合物成分(D)以外に、硼酸亜鉛(難燃助剤、U.S.Borax社製、Firebrake 500)、タルク(松村産業(株)製、商品名:ハイフィラー#100ハクド95)、12ヒドロキシステアリン酸Ba(滑剤、日東化成工業(株)製、BS-6)を用いた。
【0097】
上記のポリアミド樹脂は、以下の方法で製造した。
【0098】
[製造例1]
ポリアミド6T/66(PA6T/66)の製造
1,6-ヘキサンジアミン2905g(25.0モル)、テレフタル酸2475g(14.9モル)、アジピン酸1461g(10.0モル)、安息香酸73.2g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MP(A)まで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低次縮合物を抜き出した。その後、この低縮合物を室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒子径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低次縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.20dl/gであった。
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、半芳香族ポリアミド樹脂であるPA6T/66を得た。
【0099】
[製造例2]
ポリアミド6T/6I(PA6T/6I)の製造
原料を、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、安息香酸36.6g(0.30モル)、および次亜リン酸ナトリウム-水和物5.7gに変えた以外は、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)の調製と同様にして、半芳香族ポリアミド樹脂であるPA6T/6Iを調製した。
【0100】
[製造例3]
ポリアミド6T/DT(PA6T/DT)の製造
1,6-ヘキサンジアミン1312g(11.3モル)、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン1312g(11.3モル)、テレフタル酸3655g(22.0モル)、次亜リン酸ナトリウム5.5g(5.2×10-2モル)、およびイオン交換水640mlを1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cm2の条件で1時間反応させた。1,6-ヘキサンジアミンと2-メチル-1,5-ペンタンジアミンとのモル比は50:50とした。1時間経過後、反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、かつ圧力が約10kg/cm2低く設定された受器に抜き出して、極限粘度[η]が0.15dl/gであるプレポリマーを得た。
次いで、得られたプレポリマーを乾燥させた後、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合させて、半芳香族ポリアミド樹脂であるPA6T/DTを得た。
【0101】
[製造例4]
ポリアミド6I/6T(PA6I/6T)の製造
1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、テレフタル酸1390g(8.4モル)、イソフタル酸2581g(15.5モル)、安息香酸109.5g(0.9モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水545gを、内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.02MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒子径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低次縮合物の水分量は3000ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。
次に、この低次縮合物を、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、半芳香族ポリアミド樹脂であるPA6I/6Tを得た。
【0102】
[製造例5]
ポリアミド6T/6I/66(PA6T/6I/66)の製造
テレフタル酸1741g(10.5モル)、1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、イソフタル酸1437g(9.0モル)、アジピン酸699g(4.8モル)、安息香酸36.5g(0.3モル)、次亜リン酸ナトリウム-水和物5.7g(原料に対して0.08重量%)及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒子径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]は0.15dl/gであった。次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置にいれ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温した。その後、1時間30分反応し、室温まで降温した。得られたポリアミドの極限粘度[η]は0.20dl/gであった。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、半芳香族ポリアミド樹脂であるPA6T/6I/66を得た。
【0103】
[実施例1~8]および[比較例1~3]
上記各成分を、表1に示すような量比で混合し、温度320℃に設定した二軸ベント付押出機に実装し、溶融混練してペレット状の難燃性ポリアミド樹脂組成物を得た。次いで、得られた難燃性ポリアミド樹脂組成物について各性状を評価し、その結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
表1に示されるように、難燃剤(B)と共に、1種の半芳香族ポリアミド樹脂のみをポリアミド樹脂成分(A)として含有する比較例1と比べて、2種類の異なる半芳香族ポリアミド樹脂をポリアミド樹脂成分(A)として含有する実施例1~8では、難燃性、リフロー耐熱温度および流動長を高く維持しながらも、機械物性(特に曲げ強度および靱性)が向上することがわかる。
【0106】
また、芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合が、67モル%以上80モル%以下である実施例2は、芳香族ジカルボン酸成分単位の総量の割合が67モル%未満であること以外は同様の組成である実施例4と5と比較して、曲げ強度および靱性が高かい。これは、く、芳香族成分が十分に存在するためと考えられる。
【0107】
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の両方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂(PA6T/66と、PA6T/6IまたはPA6T/DTとの組み合わせ)である実施例1および2の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、リフロー耐熱温度が255℃と非常に高かった。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)および(A-2)の一方が270℃以上340℃以下の融点を有する結晶性樹脂(PA6T/66)であり、他方が非晶性樹脂(PA6I/6T)である実施例3の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、靱性が700mJを超えて非常に高かった。これは難燃性ポリアミド樹脂組成物の結晶化度が特に低くなるためと考えられる。
【0108】
一方、半芳香族ポリアミド樹脂と、脂肪族ポリアミド樹脂とをポリアミド樹脂成分(A)として含有する比較例2は、曲げ強度、弾性率および靱性が比較例1よりも低下し、さらにリフロー耐熱温度も低下し、難燃性は不合格となった。また、PA6T/66とPA6T/6Iを併用した実施例1と同様のモノマー構成であるPA6T/6I/66を単独で使用した比較例3は、難燃性は良好であったものの、曲げ強度および靱性が非常に低く、さらに流動長とリフロー耐熱温度も低かった。
【0109】
本出願は、2019年3月12日出願の特願2019-044932に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、全て本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤を含有せず、優れた曲げ強度および靭性を有し、さらに優れたリフロー耐熱性および難燃性も有する。特に、鉛フリーはんだのような高融点はんだを使用して表面実装方式で部品を組み立てる電気・電子用途に好適に用いることができる。好ましくは、上記用途の薄肉部品分野に適用できる。あるいは精密成形分野の用途にも良好に用いることができる。