(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】水性インク用バインダー成分及び水性インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/107 20140101AFI20221004BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20221004BHJP
【FI】
C09D11/107
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2022101400
(22)【出願日】2022-06-23
【審査請求日】2022-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】大久保 利江
(72)【発明者】
【氏名】西 涼香
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-073013(JP,A)
【文献】特開2012-036251(JP,A)
【文献】特開2004-143440(JP,A)
【文献】特許第6967168(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/107
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(3)を満たすポリマーである水性インク用バインダー成分。
[要件(1)]:
エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が80質量%以上であり、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が40質量%以上であり、
数平均分子量が10,000~23,000であり、
酸価が25~100mgKOH/gであり、
ガラス転移温度が90℃以上である、
ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
前記ポリマー鎖Aが、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を30質量%以上含み、
前記生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、
数平均分子量が5,000~18,000であり、
ガラス転移温度が80℃以上であり、
分子量分布が1.6以下であるポリマーブロックである。
[要件(3)]:
前記ポリマー鎖Bが、
メタクリル酸に由来する構成単位を含み、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上含み、
酸価が50~150mgKOH/gであり、
数平均分子量が3,000~15,000であるポリマーブロックである。
【請求項2】
水、着色剤、水溶性有機溶剤、及び請求項1に記載の水性インク用バインダー成分を含有する水性インク。
【請求項3】
ポリエチレンワックスをさらに含有する請求項2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤が、プロピレングリコールと、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記水溶性有機溶剤の含有量が、3~30質量%である請求項2又は3に記載の水性インク。
【請求項5】
ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材の少なくともいずれかの被印刷基材に印刷するために用いられる請求項2又は3に記載の水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク用バインダー成分、及びそれを用いた水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、カラー写真用と多岐にわたって使用されている。さらに、近年、従来のオフィス用のコンシューマ型のインクジェットプリンタや大判印刷用ワイドフォーマットインクジェットプリンタから、産業用途としてのインクジェット印刷機へとその適用範囲が拡大している。インクジェット印刷は、画像印刷の版が不要であることから、少量多品種産業用印刷物をオンデマンドで得ることができる印刷方法として適している。なお、環境への配慮から、水性インクジェットインクによるインクジェット印刷が盛んに提案されている。
【0003】
産業用途としては、例えば、サインディスプレイ、屋外広告、施設サイン、ディスプレイ、POP広告、交通広告、パッケージング、容器、ラベル等の用途がある。これらの用途に適用される印刷基材(記録媒体)としては、紙、ボール紙、写真紙、インクジェット専用紙等の紙媒体;ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等のプラスチック媒体;綿布、エステル布、ナイロン生地、不織布等の布地;等を挙げることができる。さらに、産業用途の場合、版が不要なオンデマンド印刷が主流であるとともに、高速印刷適性が要求されている。そして、染料を色材として含有する水性インクジェットインクで記録した画像は、耐水性や耐光性等の耐久性に乏しいことから、顔料を色材として含有する水性インクジェットインクが使用されている。
【0004】
そこで、耐久性を向上させた印刷画像を記録すべく、皮膜形成しうるアクリル系又はウレタン系のバインダー成分を添加したインクジェット用のインクが提案されている(特許文献1及び2)。また、水性の顔料インクジェットインクでは、顔料を安定して微分散させる必要があり、界面活性剤や高分子分散剤を用いて顔料を経時的に安定して微分散させた顔料分散液、及びこれを用いたインクジェット用のインクが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4157868号公報
【文献】特表2009-515007号公報
【文献】国際公開第2013/008691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3で提案された顔料分散液を用いたインクジェット用インクであっても、密着性及び耐摩擦性等の耐久性に優れた画像を記録することは困難であった。
【0007】
ところで、昨今の地球温暖化傾向、二酸化炭素排出問題、資源問題、及び海洋プラスチック問題等に鑑み、省エネ対応、リサイクル対応、及び環境にやさしい材料等の環境配慮型の技術の重要性が増している。このような状況の下、従来の水性インクジェットインクや水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための分散剤としては、石油材料に由来するモノマー等の原材料を用いて合成された高分子分散剤が用いられている。すなわち、従来の水性インクジェットインクで記録される画像は、石油材料由来の材料で形成されていることから必ずしも環境配慮型の技術が適用されているとはいえない。ポリ乳酸やポリヒドロキシアルカン酸等の生分解性プラスチックで形成された容器やラベル等の印刷基材がインクジェット印刷に適用される一方で、このような印刷基材に記録される画像には環境配慮型の技術が適用されていないといった課題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ポリプロピレン系基材やポリエチレン系基材等の、密着性の高い皮膜を形成することが一般的に困難な基材に対しても、密着性及び耐摩擦性に優れた画像等の乾燥皮膜を形成しうる、環境に配慮された水性インク用バインダー成分、並びにそれを用いた水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す水性インク用バインダー成分が提供される。
[1]下記要件(1)~(3)を満たすポリマーである水性インク用バインダー成分。
[要件(1)]:
エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が80質量%以上であり、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が40質量%以上であり、
数平均分子量が10,000~23,000であり、
酸価が25~100mgKOH/gであり、
ガラス転移温度が90℃以上である、
ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
前記ポリマー鎖Aが、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を30質量%以上含み、
前記生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、
数平均分子量が5,000~18,000であり、
ガラス転移温度が80℃以上であり、
分子量分布が1.6以下であるポリマーブロックである。
[要件(3)]:
前記ポリマー鎖Bが、
メタクリル酸に由来する構成単位を含み、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上含み、
酸価が50~150mgKOH/gであり、
数平均分子量が3,000~15,000であるポリマーブロックである。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す水性インクが提供される。
[2]水、着色剤、水溶性有機溶剤、及び前記[1]に記載の水性インク用バインダー成分を含有する水性インク。
[3]ポリエチレンワックスをさらに含有する前記[2]に記載の水性インク。
[4]前記水溶性有機溶剤が、プロピレングリコールと、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含み、前記水溶性有機溶剤の含有量が、3~30質量%である前記[2]又は[3]に記載の水性インク。
[5]ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材の少なくともいずれかの被印刷基材に印刷するために用いられる前記[2]~[4]のいずれかに記載の水性インク。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリプロピレン系基材やポリエチレン系基材等の、密着性の高い皮膜を形成することが一般的に困難な基材に対しても、密着性及び耐摩擦性に優れた画像等の乾燥皮膜を形成しうる、環境に配慮された水性インク用バインダー成分、並びにそれを用いた水性インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<水性インク用バインダー成分>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。以下、「水性インク用バインダー成分」のことを単に「バインダー成分」とも記し、「水性インク」のことを単に「インク」とも記す。
【0013】
本発明の水性インク用バインダー成分の一実施形態は、下記要件(1)~(3)を満たすポリマーである。以下、本発明のバインダー成分の詳細について説明する。
[要件(1)]:
エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が80質量%以上であり、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が40質量%以上であり、
数平均分子量が10,000~23,000であり、
酸価が25~100mgKOH/gであり、
ガラス転移温度が90℃以上である、
ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
前記ポリマー鎖Aが、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を30質量%以上含み、
前記生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、
数平均分子量が5,000~18,000であり、
ガラス転移温度が80℃以上であり、
分子量分布が1.6以下であるポリマーブロックである。
[要件(3)]:
前記ポリマー鎖Bが、
メタクリル酸に由来する構成単位を含み、
イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上含み、
酸価が50~150mgKOH/gであり、
数平均分子量が3,000~15,000であるポリマーブロックである。
【0014】
(要件(1))
本実施形態のバインダー成分は、ポリマー鎖A(以下、「A鎖」とも記す)及びポリマー鎖B(以下、「B鎖」とも記す)を含むA-Bブロックコポリマーである。A鎖は、実質的に水不溶性のポリマーブロックである。B鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位を含むポリマーブロックである。B鎖はメタクリル酸に由来するカルボキシ基を有するので、このカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されることで、実質的に水溶性となるポリマーブロックである。
【0015】
A-Bブロックコポリマーは、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を多く含むポリマーであることから、環境に配慮されたバインダー成分である。また、メタクリレートに由来する構成単位を多く含むポリマーであるため、ガラス転移温度(Tg)が比較的高く、耐熱性等の熱的性質が向上した画像を記録することが期待される。さらに、メタクリレートはアクリレートに比して加水分解性されにくいので、水性の液媒体中でも比較的安定であることが期待される。
【0016】
生物材料由来のメタクリレートは、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である。生物材料由来のメタクリレートは、生物材料由来のアルコールを材料として用いて合成されたメタクリレートであり、メタクリロイル基以外のエステル結合の酸素を含むエステル残基が、生物材料由来のアルコール残基である。
【0017】
生物材料由来のエチルメタクリレートは、例えば、デンプンや糖を分解又は発酵して得られるエタノールと、メタクリレートとのエステル化物である。生物材料由来のテトラヒドロフルフリルメタクリレートは、例えば、トウモロコシの芯等から得られるフルフラールを水素化して得たテトラヒドロフルフリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物である。生物材料由来のイソボルニルメタクリレートは、例えば、松脂や松精油から得られるα-ピネンを異性化した後、カンフェン及びメタクリル酸を反応して得られるメタクリレートである。生物材料由来のドデシルメタクリレートやオクタデシルメタクリレートは、例えば、パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得た脂肪酸の分留物である長鎖アルカン酸を水素還元して得た長鎖アルキルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物である。
【0018】
さらに、A-Bブロックコポリマーは、上述の生物材料由来のメタクリレートのうちのイソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が40質量%以上、好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の含有量を上記の範囲とすることで、密着性及び耐摩擦性に優れた皮膜を形成することができる。
【0019】
A-Bブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は10,000~23,000、好ましくは11,000~20,000である。数平均分子量を上記の範囲とすることで、密着性及び耐摩擦性に優れた皮膜を形成することができる。A-Bブロックコポリマーの数平均分子量が10,000未満であると、形成される皮膜の密着性及び耐摩擦性を向上させることができない。一方、A-Bブロックコポリマーの数平均分子量が23,000超であると、このA-Bブロックコポリマーをバインダー成分として用いて調製される水性インクの粘度が過度に高くなる場合がある。本明細書における「数平均分子量」及び「重量平均分子量」は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の値である。
【0020】
A-Bブロックコポリマーの酸価は25~100mgKOH/g、好ましくは28~80mgKOH/gである。酸価が25mgKOH/g未満であると、水に分散及び乳化しにくくなる。一方、酸価が100mgKOH/g超であると、粘度が過度に上昇するとともに、形成される皮膜や画像の耐水性が低下することがある。
【0021】
A-Bブロックコポリマーのガラス転移温度(Tg)は90℃以上、好ましくは100℃以上である。ガラス転移温度(Tg)を90℃以上とすることで、形成される皮膜の耐熱性の向上が期待される。なお、A-Bブロックコポリマーのガラス転移温度(Tg)の上限については特に限定されず、通常、140℃以下であればよい。
【0022】
A-Bブロックコポリマーは、その構造が的確に制御されたポリマーであり、例えば、リビング重合、なかでもリビングラジカル重合によって製造することができる。具体的には、有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるリビングラジカル重合によってA-Bブロックコポリマーを製造することが、環境に配慮した材料を使用可能であるとともに、ポリマー設計の自由度が高いために好ましい。
【0023】
(要件(2))
ポリマー鎖A(A鎖)は、実質的に水不溶性のポリマーブロックである。このA鎖を含むことで、被印刷基材に対する密着性及び耐擦過性等に優れた皮膜を形成することができる。A鎖は、生物材料由来のメタクリレートの一種であるイソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を30質量%以上、好ましくは40質量%以上含む。また、A鎖は、前述の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上、好ましくは90質量%以上含む。A鎖中の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が80質量%未満であると、環境に対する配慮の面でやや不十分となる場合がある。
【0024】
A鎖の数平均分子量(Mn)は5,000~18,000、好ましくは6,000~13,000である。A鎖の数平均分子量(Mn)を上記の範囲とすることで、被印刷基材に対する密着性に優れているとともに、耐擦過性に優れた画像(乾燥皮膜)を形成することができる。A鎖の数平均分子量(Mn)が5,000未満であると、形成される皮膜の非印刷基材に対する密着性が低下する。一方、A鎖の数平均分子量(Mn)が18,000超であると重合率が低下する場合があるとともに、分子量分布が広くなる傾向にある。また、A鎖のガラス転移温度(Tg)は80℃以上、好ましくは90℃以上である。
【0025】
A鎖の分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)))は1.6以下、好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.4以下である。すなわち、A鎖は分子量が比較的そろったポリマーブロックである。A鎖の分子量分布(PDI)が1.6超であると、前述の数平均分子量(Mn)の範囲外のポリマーブロックが過剰に含まれることとなる。
【0026】
A鎖は、前述の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位以外のその他の構成単位をさらに含んでいてもよい。その他の構成単位としては、石油原料由来のメタクリレートに由来する構成単位等を挙げることができる。石油原料由来のメタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、ブトキシエトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0027】
A鎖は、水不溶性のポリマーブロックである限り、メタクリル酸に由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。A鎖中のメタクリル酸に由来する構成単位の含有量は、例えば0.5~5質量%程度である。
【0028】
(要件(3))
ポリマー鎖B(B鎖)は、メタクリル酸に由来する構成単位を含むポリマーブロックであり、このメタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されてイオン化し、実質的に水溶性となるポリマーブロックである。
【0029】
B鎖は、生物材料由来のメタクリレートの一種であるイソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上、好ましくは55質量%以上含む。イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位を上記の範囲で含むことで、A-Bブロックコポリマーのガラス転移温度(Tg)を高めることが可能となり、耐熱性が向上した皮膜を形成することが期待される。
【0030】
B鎖は、前述の生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を50質量%以上、好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは50~85質量%、特に好ましくは60~85質量%含む。生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を上記の範囲で含むB鎖を有するA-Bブロックコポリマーは、環境に配慮されたバインダー成分である。
【0031】
B鎖の酸価は50~150mgKOH/g、好ましくは60~130mgKOH/gである。B鎖の酸価が50mgKOH/g未満であると、B鎖が水に溶解しにくくなり、A-Bブロックコポリマーを水分散体(エマルジョン)とした場合の粒子の安定性が損なわれるとともに、インクの再溶解性が不十分になる場合がある。一方、B鎖の酸価が150mgKOH/g超であると、インクの粘度が過度に上昇するとともに、形成される皮膜や画像の耐水性が低下することがある。
【0032】
B鎖の数平均分子量(Mn)は3,000~15,000、好ましくは4,000~10,000である。数平均分子量を上記の範囲とすることで、A-Bブロックコポリマーを水分散体(エマルジョン)とする際に安定した粒子を形成することができる。さらに、B鎖の分子量が比較的高いため、耐摩擦性等の耐久性が向上した皮膜をA鎖とともに形成することができる。B鎖の数平均分子量5,000未満であると、A-Bブロックコポリマーを水分散体(エマルジョン)とした場合の粒子の安定性が損なわれる。一方、B鎖の数平均分子量が15,000超であると、インクの粘度が過度に上昇するとともに、形成される皮膜や画像の耐水性が低下することがある。
【0033】
メタクリル酸に由来するカルボキシ基を中和するために用いるアルカリとしては、アンモニア;ジメチルアミノエタノールやトリエチルアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;等を挙げることができる。カルボキシ基のすべてがアルカリで中和されてもよいし、B鎖が水に溶解しうる範囲で、カルボキシ基の一部が中和されてもよい。具体的には、pH安定性等の観点から、90mol%以上のカルボキシ基が中和されることが好ましい。
【0034】
<水性インク>
本発明の水性インクの一実施形態は、水、着色剤、水溶性有機溶剤、及び前述の水性インク用バインダー成分を含有する。本実施形態の水性インクは、例えば、水性グラビアインク、水性フレキソインク、水性インクジェットインク、及び水性文具用インク等として有用である。以下、本発明の水性インクの詳細について説明する。
【0035】
(水)
水としては、イオン交換水、蒸留水、及び精製水等を用いることが好ましい。インク中の水の含有量は、インク全量を基準として、30~90質量%であることが好ましい。
【0036】
(着色剤)
着色剤としては、従来公知の染料及び顔料を用いることができる。なかでも、耐水性、発色性、色濃度、及び鮮明性等の観点から、顔料が好ましい。顔料は、例えば、水系の液媒体、高分子分散剤、及び界面活性剤等を含有する分散媒体中に分散させた顔料分散液の状態で使用される。
【0037】
染料を着色剤として用いる場合、インク中の染料の含有量は0.5~30質量%とすることが好ましい。顔料を着色剤として用いる場合、インク中の顔料の含有量は0.1~25質量%とすることが好ましく、0.2~20質量%とすることがさらに好ましい。
【0038】
顔料としては、水性インクに用いられる従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、インダスレン系等の有彩色顔料;ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料;等を挙げることができる。無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピネル顔料等を挙げることができる。
【0039】
印刷物(画像)に隠蔽力が必要とされる場合以外は、有機系の微粒子顔料を用いることが好ましい。高精彩で透明性を示す印刷物が必要とされる場合には、ソルトミリング等の湿式粉砕又は乾式粉砕で微細化した顔料を用いることが好ましい。ノズル詰まりの回避等を考慮すると、1.0μm超の粒子径を有する顔料を除去した、数平均粒子径0.2μm以下の有機顔料や、数平均粒子径0.4μm以下の無機顔料を用いることが好ましい。
【0040】
顔料の具体例をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、97、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、175、180、181、185、191;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73;C.I.ピグメントレッド4、5、9、23、48、49、52、53、57、97、112、122、123、144、146、147、149、150、166、168、170、176、177、180、184、185、192、202、207、214、215、216、217、220、221、223、224、226、227、228、238、240、242、254、255、264、269、272;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等を挙げることができる。
【0041】
なかでも、インクジェット用の水性インクに好適であるとともに、発色性、分散性、及び耐候性等の観点から、C.I.ピグメントイエロー74、83、109、128、139、150、151、154、155、180、181、185等の黄色顔料;C.I.ピグメントレッド122、170、176、177、185、269、C.I.ピグメントバイオレット19、23等の赤色顔料;C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6等の青色顔料;C.I.ピグメントブラック7等の黒色顔料;C.I.ピグメントホワイト6等の白色顔料;が好ましい。
【0042】
顔料は、未処理の顔料;その表面に官能基が導入された自己分散性顔料;カップリング剤や活性剤等の表面処理剤若しくはポリマー等で表面処理された、又はカプセル化等された処理顔料;のいずれであってもよい。自己分散性顔料は、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基等の酸性基が顔料粒子の表面に導入されており、これらの酸性基を中和して水に親和させることで、顔料分散剤を用いなくてもインク中に分散しうる易分散化顔料である。これに対して、未処理の顔料、表面処理された顔料、及びカプセル化された顔料は、顔料分散剤を併用することが好ましい。
【0043】
顔料は、顔料分散液の状態で用いられることが好ましい。顔料分散液に用いられる顔料分散剤としては、例えば、数平均分子量が1,000~20,000であり、酸価が50~250mgKOH/gであるビニル系ポリマーがアルカリ物質で中和された顔料分散剤を用いることが好ましい。顔料分散液中の顔料分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、5~100質量部とすることが好ましく、10~50質量部とすることがさらに好ましい。
【0044】
ビニル系ポリマーは、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基等の酸性基を有することが好ましい。カルボキシ基等の酸性基をアルカリ物質で中和することで水に親和させ、インク中に微分散又は溶解させることができる。酸性基を有するビニル系ポリマーは、酸性基を有するモノマーに由来する構成単位を有する。酸性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、スチレンカルボン酸、水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーに無水カルボン酸、二塩基酸、又はポリカルボン酸を反応させてモノエステル化したモノマー、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロピンスルホン酸、ビニルリン酸、メタクリロイルオキシエチルリン酸等を挙げることができる。
【0045】
ビニル系ポリマーは、通常、酸性基を有するモノマー以外のその他のモノマーに由来する構成単位をさらに有する。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリレート系モノマー;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環ビニルモノマー;等を挙げることができる。
【0046】
ビニル系ポリマーとしては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸エチル-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エトキシエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸2-ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ベンジル-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸ジメチルアミノエチル-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-マレイン酸-マレイン酸のポリエチレングリコールプロピレングリコールモノブチルエーテルモノアミンのアミド化物共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸2-エチルヘキシル-メタクリル酸共重合体等を挙げることができる。
【0047】
ビニル系ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000~20,000であることが好ましく、3,000~15,000であることがさらに好ましく、5,000~13,000であることが特に好ましい。ビニル系ポリマーの数平均分子量が1,000未満であると、顔料に対する吸着性が不足する場合があるとともに、形成される印刷皮膜の強度が低下することがある。一方、ビニル系ポリマーの数平均分子量が20,000超であると、インクの粘度が過度に上昇するとともに、非ニュートニアン性の粘度を示しやすくなり、インクジェット用のインクとした場合に吐出安定性が低下することがある。
【0048】
顔料分散剤として用いるビニル系ポリマーの酸価は、50~250mgKOH/gであることが好ましく、75~150mgKOH/gであることがさらに好ましく、85~130mgKOH/であることが特に好ましい。ビニル系ポリマーの酸価が50mgKOH/g未満であると、アルカリ物質で中和しても水に溶解しにくくなり、顔料分散剤としての機能が不足する場合がある。一方、ビニル系ポリマーの酸価が250mgKOH/g超であると、水溶解性が高くなりすぎる場合がある。このため、インクの粘度が過度に上昇するとともに、カルボキシ基等の親水性の酸性基の量が多くなるので、形成される印刷皮膜の耐水性が低下する場合がある。
【0049】
上記のビニル系ポリマーは、従来公知の方法にしたがって合成することができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤や過酸化ベンゾイル等の過酸化物系開始剤の存在下、モノマー単独の塊状重合、乳化重合、インクジェットインク用の水溶性有機溶剤を用いる溶液重合によって、ビニル系ポリマーを得ることができる。そして、得られたビニル系ポリマーをアルカリ物質で中和すれば、顔料分散剤とすることができる。また、顔料分散剤の溶液を顔料と混合した後、貧溶剤に添加する又は酸で処理することで、顔料分散剤を析出させ、顔料を処理又はカプセル化してポリマー処理顔料を調製してもよい。ビニル系ポリマーを製造する重合法としては、リビングラジカル重合法が好ましい。ビニル系ポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、グラジエントコポリマー、星形ポリマー、デンドリマー等の高次構造を有するポリマーのいずれであってもよい。
【0050】
顔料分散剤として用いるビニル系ポリマーは、C鎖及びD鎖を有する、下記(3-1)~(3-3)の要件を満たすブロックコポリマーであることが好ましい。このようなブロックコポリマーは、バインダー成分として用いるA-Bブロックコポリマーとの相溶性及び親和性が良好であるために好ましい。
(3-1)メタクリレート系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含み、数平均分子量が3,000~20,000である。
(3-2)C鎖は、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリル、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートからなるモノマー群(i)より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(C-i)を有し、C鎖中、構成単位(C-i)の含有量が80質量%以上であり、数平均分子量が2,000~10,000であり、分子量分布が1.6以下である。
(3-3)D鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位(D)と、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリル、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートからなるモノマー群(i)より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(D-i)とを有し、D鎖中、構成単位(D-i)の含有量が80質量%以上であり、酸価が70~250mgKOH/gである。
【0051】
C鎖は水不溶性のポリマー鎖であり、顔料に吸着してカプセル化するポリマーブロックである。D鎖はカルボキシ基を有するポリマー鎖であり、水溶解性のポリマーブロックである。C鎖が顔料に吸着するとともに、D鎖が水に溶解して顔料粒子どうしの接近を防止するので、高度な分散安定性を付与することができる。また、D鎖は水溶解性のポリマーブロックであるので、インクが乾燥しても水系媒体に再度溶解させることができる。
【0052】
ブロックコポリマーの数平均分子量は3,000~20,000であることが好ましく、4,000~15,000であることがさらに好ましい。ブロックコポリマーの数平均分子量が3,000未満であると、分散安定性が不十分になる場合がある。一方、ブロックコポリマーの数平均分子量が20,000超であると、インクの粘度が過度に上昇しやすいとともに、顔料への吸着性が低下しやすくなることがある。
【0053】
C鎖は、前述のモノマー群(i)より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(C-i)を80質量%以上有するので、第1バインダー成分として用いるA-Bブロックコポリマーとの相溶性が高く、インク中で凝集や析出しにくい。C鎖の数平均分子量は2,000~10,000であり、好ましくは2,500~7,500である。C鎖の数平均分子量が2,000未満であると、顔料のカプセル化が不十分になることがあり、分散安定性がやや低下する場合がある。一方、C鎖の数平均分子量が10,000超であると、顔料への吸着性が低下しやすく、カプセル化が困難になる場合がある。C鎖の分子量分布は1.6以下であり、好ましくは1.2~1.5である。すなわち、分子量をある程度揃えることで、顔料に対する吸着性を向上させることができる。
【0054】
D鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位(D)と、前述のモノマー群(i)より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(D-i)とを有する。C鎖と同様、D鎖も前述のモノマー群(i)より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(D-i)を有するので、バインダー成分として用いるA-Bブロックコポリマーとの相溶性が高い。C鎖及びD鎖を有する上記のブロックコポリマーは、リビングラジカル重合法によって合成することが、分子量をある程度揃えることができるために好ましい。
【0055】
顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。例えば、まず、顔料、顔料分散剤、水、及び水溶性有機溶剤等の混合物を調製する。次いで、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル等を使用して顔料を微分散させて顔料分散液を調製する。得られた顔料分散液は、遠心分離機やフィルターを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。必要に応じて、他の添加剤を加えてもよい。顔料分散液中の有機顔料の含有量は、1~30質量%とすることが好ましく、10~25質量%とすることがさらに好ましい。顔料分散液中の無機顔料の含有量は、5~70質量%とすることが好ましく、30~50質量%とすることがさらに好ましい。
【0056】
(バインダー成分)
本実施形態のインクは、前述のバインダー成分を含有する。着色剤が顔料である場合、インク中のバインダー成分(固形分)の含有量は、顔料100質量部に対して、50~505質量部であることが好ましく、100~400質量部であることがさらに好ましい。インク中のバインダー成分の固形分の含有量が、顔料100質量部に対して50質量部未満であると、形成される印刷皮膜のプラスチックフィルムへの密着性や耐摩耗性がやや不足する場合がある。一方、インク中のバインダー成分の固形分の含有量が、顔料100質量部に対して505質量部超であると、顔料濃度が相対的に低下するので、画像の発色性等がやや低下する場合がある。なお、着色剤が染料である場合、インク中のバインダー成分(固形分)の含有量は、染料100質量部に対して、20~505質量部であることが好ましい。
【0057】
(水溶性有機溶剤)
本実施形態のインクは、例えば、浸透性が低いプラスチックフィルム等の被印刷基材に印刷するためのインクとして有用である。このため、保湿剤として機能するとともに、プラスチックフィルム等の浸透性が低い被印刷基材に対する濡れ性が良好な水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。さらに、被印刷基材表面のレベリング剤として機能するとともに、インク中のバインダー成分の造膜性を向上させる造膜助剤としても機能する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0058】
水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレングリコール系溶剤;エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤;グリセリン、ジグリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物等のグリセリン系溶剤;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド系溶剤;テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン等の尿素系溶剤;エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート系溶剤;等を挙げることができる。
【0059】
被印刷基材に付与されたインク中のバインダー成分によって形成される印刷皮膜中に水溶性有機溶媒が多く残存すると、印刷皮膜の耐水性、被印刷基材への密着性、及び耐摩擦性が低下することがある。また、溶液重合等の方法でバインダー成分(A-Bブロックコポリマー)を合成した場合、用いた有機溶剤がそのままインクに配合される場合がある。このため、ある程度揮発性の高い水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。このため、水溶性有機溶剤は、プロピレングリコール(沸点188℃)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132.8℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点189.6℃)からなる群より選択される少なくとも一種と、を含むことが好ましい。
【0060】
インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、インク全量を基準として、3~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であると、インクが乾燥しやすくなるとともに、プラスチックフィルム等の被印刷基材の表面においてレベリング剤としての機能が発揮されにくくなることがある。一方、水溶性有機溶剤の含有量が30質量%超であると、インクの粘度が高くなり、インクの吐出性が低下する場合があるとともに、インクの安定性が低下しやすくなることがある。また、バインダー成分が析出したり、顔料が凝集したりする場合がある。さらに、水溶性有機溶剤の含有量が多すぎると、印刷皮膜中に水溶性有機溶剤が残存しやすくなるので、ブロッキングが生じやすくなるとともに、画像の耐水性や耐摩擦性等の物性が低下することがある。
【0061】
(ワックス成分)
本実施形態のインクには、ワックスをさらに含有させることができる。ワックスは、プラスチックフィルム等の被印刷基に対する親和性が高いため、ワックスを含有するインクを用いることで、密着性がさらに向上した印刷皮膜を形成することができる。また、ワックスはバインダー成分と相分離して表面にブリードすることがあるので、ワックスを含有するインクを用いることで、耐摩擦性がさらに向上した印刷皮膜を形成することができる。
【0062】
ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリオレフィンワックス、及びシリコーンワックス等を挙げることができる。なかでも、ポリエチレンワックスを用いることが好ましい。ポリエチレンワックスは疎水性が高いため、ポリエチレンワックスを含有するインクを用いることで、耐久性に優れた印刷皮膜を形成することができる。ポリエチレンワックスは、例えば、水に分散した分散液(ポリエチレンワックスエマルジョン)の状態で用いることができる。インク中のポリエチレンワックスの含有量は、インク全量を基準として、0.1~2.5質量%であることが好ましく、0.3~1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0063】
(その他の添加剤)
インクには、従来公知の各種の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、防腐剤、前述の水溶性有機溶剤以外の有機溶剤、レベリング剤、表面張力調整剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、フィラー、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、帯電防止剤、金属微粒子、磁性粉等を挙げることができる。
【0064】
界面活性剤をインクに含有させることで、インクの表面張力を制御することができる。インクの表面張力は15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド系界面活性剤、及び炭化水素系界面活性剤等を挙げることができる。なかでも、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤が好ましい。インク中の界面活性剤の含有量は、インク全量を基準として、0~3.5質量%であることが好ましく、0.01~2.0質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ソルビタン酸カリウム、ソルビタン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、チアゾスルファミド、及びピリジンチオールオキシド等を挙げることができる。インク中の防腐剤の含有量は、インク全量を基準として、0.05~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
(水性インクの製造)
前述の各種成分を所定の量となるように配合し、ディスパー等を使用してよく撹拌した後、フィルターを通して粗大粒子やゴミを除去すれば、目的とする本実施形態のインクを得ることができる。
【0067】
(水性インクの物性)
水性インクの物性は、用途や目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、インクジェット用の水性インクとして用いる場合、顔料の種類等に応じて、記録ヘッドのノズルからインクジェット方式によって吐出しうる適度な粘度に調整される。有機顔料を含有するインクの粘度は、2~10mPa・sであることが好ましい。また、無機顔料を含有するインクの粘度は、5~30mPa・sであることが好ましい。
【0068】
インクのpHは7.0~10.0であることが好ましく、7.5~9.5であることがさらに好ましい。インクのpHが7.0未満であると、バインダー成分が析出しやすくなるとともに、顔料が凝集しやすくなることがある。一方、インクのpHが10.0超であると、アルカリ性が強くなるので、取り扱いにくくなる場合がある。
【0069】
インクジェット用の水性インクとして用いる場合、インクジェットプリンタの性能等に応じてインクの表面張力を設定することが好ましい。例えば、インクの表面張力は15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。
【0070】
(印刷基材及び印刷物)
本実施形態のインクを用いることで、一般的な被印刷基材の他、浸透性が低いプラスチックフィルム等の被印刷基材に対しても、密着性及び耐摩擦性に優れた印刷皮膜や画像を形成することができる。プラスチックフィルムを構成するプラスチックとしては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリハロゲン化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等の各種の樹脂を挙げることができる。
【0071】
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィン、ポリエチレン酢酸ビニル、ポリエチレンビニルアルコール、ポリシクロオレフィン等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレチンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等を挙げることができる。ポリハロゲン化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフロロエチレン等を挙げることができる。なかでも、安価で入手が容易であるとともに、密着性や耐摩擦性に優れた印刷皮膜を形成することが一般的に困難な、ポリオレフィン系樹脂製のフィルムに印刷することが好ましい。より具体的には、本実施形態のインクは、ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材の少なくともいずれかの被印刷基材に印刷するために用いることが好ましい。
【0072】
被印刷基材として用いるプラスチックフィルムは、無延伸であってもよいし、一軸延伸や二軸延伸等の延伸されたものであってもよい。プラスチックフィルムの表面(印刷面)は、無処理であってもよいし、プラズマ処理、コロナ処理、放射線処理、シランカップリング処理等の表面処理がなされていてもよい。プラスチックフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよいし、アルミ蒸着や透明蒸着がなされていてもよい。プラスチックフィルムの厚さは、1~500μmであることが好ましく、5~200μmであることがさらに好ましい。プラスチックフィルムは、顔料や染料で着色されていてもよいし、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロースナノフィバー等の補強用フィラーが添加されたものであってもよい。
【0073】
本実施形態のインクを、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、及びマーカーなどの文具に適用し、各種の被印刷基材に付与することで、印刷物(印画物)を得ることができる。インクジェット印刷の場合、サーマルヘッドやピエゾヘッド等の記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタを使用し、インクジェット記録法によって種々の被印刷基材にインクを付与して画像を記録する(印刷)することができる。具体的には、紙、印画紙、写真光沢紙、ポリオレフィンフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチックフィルム、繊維、布地、セラミックス、金属、成形物等の被印刷基材に画像を記録することができる。記録される画像は、高彩度、高発色性、密着性、及び耐摩擦性等の耐久性に優れた、いわゆる乾燥皮膜である。すなわち、本実施形態のインクを用いることで、生物材料由来の成分を含む、環境に優しく、カーボンニュートラルな乾燥皮膜が形成された印刷物を製造することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0075】
<バインダー成分(ポリマーエマルジョン)の製造>
(実施例1)
撹拌装置、温度計、還流管、窒素導入管を装着した反応容器に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)172.4部、ヨウ素1.0部、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フィルム和光純薬製)(V-70)3.7部、N-アイオドコハク酸イミド(NIS)0.2部、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)50部、及びイソボルニルメタクリレート(IBXMA)50部を入れた。THFMAとしては、トウモロコシの芯等から得られるフルフラールを水素化して得たテトラヒドロフルフリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物を用いた。また、IBXMAとしては、松脂や松精油から得られるα-ピネンを異性化した後、カンフェン及びメタクリル酸を反応して得られたメタクリレートを用いた。窒素をバブリングしながら撹拌し、45℃で4時間重合してポリマー(A鎖)を合成し、ポリマーを含有する液体を得た。液体の一部をサンプリングし、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は8,500であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.33であった。また、ポリマーを含有する液体の固形分は37.4%であり、固形分から算出した重合転化率は約100%であった。THFMAのホモポリマーのTg(60℃)、IBXMAのホモポリマーのTg(155℃)、及びこれらの構成配合比から算出したポリマーのガラス転移温度(Tg)は102℃であった。
【0076】
40℃まで冷却したポリマー(A鎖)を含有する液体に、V-70 2.0部、THFMA13部、IBXMA39部、及びメタクリル酸(MAA)13部を添加した。その後、40℃で4時間重合してポリマー(B鎖)を形成し、A-Bブロックコポリマーを含有する液体を得た。固形分の測定及びガスクロマトグラフィー(GC)により測定した残留モノマー量より、重合がほぼ完結していることを確認した。A-Bブロックコポリマーを含有する液体の固形分は約50%であり、重合転化率は約100%であった。A-BブロックコポリマーのMnは15,000、PDIは1.42であった。GPCにおけるA鎖のピークが高分子量側にシフトしており、A-Bブロックコポリマーが形成されたことを確認した。すなわち、B鎖のMnは6,500であった。MAAの使用量から算出したB鎖の酸価は130mgKOH/gであった。A-Bブロックコポリマーを含有する液体の一部をメタノールに添加して生成した析出物をろ過し、メタノールで洗浄した後に乾燥させて試料を得た。得られた試料をエタノール性0.1N水酸化カリウム溶液で滴定し、A-Bブロックコポリマーの酸価を測定した。その結果、A-Bブロックコポリマーの酸価は52mgKOH/gであった。
【0077】
A-Bブロックコポリマーを含有する液体に、室温条件下、28%アンモニア水10.2部及びイオン交換水334.7部の混合液を添加して中和した後、適量の水を添加して、ポリマーの含有量が25%であるポリマーエマルジョン(バインダー成分E-1)を得た。
【0078】
(実施例2~8、比較例1~3)
表1及び2に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、ポリマーの含有量が25%であるポリマーエマルジョン(バインダー成分E-2~8、H-1~3)を得た。得られたバインダー成分E-2~8、H-1~3中のポリマーの物性等を表1及び2に示す。また、表1及び2中の略号の意味を以下に示す。
・EMA:エチルメタクリレート(デンプンや糖を分解して得られるエタノールと、メタクリレートとのエステル化物)
・StMA:ステアリルメタクリレート(パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得られる脂肪酸の分留物であるオレイン酸を水素還元して得たステアリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物)
・LMA:ラウリルメタクリレート(パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得た脂肪酸の分留物であるラウリン酸を水素還元して得たラウリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物)
【0079】
【0080】
【0081】
<顔料分散剤の調製>
(調製例1)
撹拌装置、温度計、還流管、窒素導入管を装着した反応容器にBDG100部を入れ、窒素をバブリングして、80℃に加温した。別容器に、スチレン(St)20部、メチルメタクリレート(MMA)15部、EMA15部、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)20部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)15部、MAA15部、及び2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.5部を入れ、撹拌して均一なモノマー溶液を調製した。調製したモノマー溶液を反応容器内に2時間かけて滴下した。滴下してから1時間後にAIBN1.5部を添加し、80℃でさらに5時間反応させた。冷却後、28%アンモニア水11.6部及びイオン交換水62.7部の混合物を添加して水溶液化し、淡褐色透明のポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を顔料分散剤G-1の水溶液とする。得られた顔料分散剤G-1の水溶液のpHは8.7であり、固形分は36.5%であった。また、顔料分散剤G-1(ポリマー)のMnは13,200、PDIは2.15、酸価は65.2mgKOH/gであった。
【0082】
(調製例2)
撹拌装置、温度計、還流管、窒素導入管を装着した反応容器に、BDG283.1部、THFMA59.6部、IBXMA59.6部、ヨウ素2.0部、V-70 3.6部、及びNIS0.1部を入れた。窒素をバブリングしながら撹拌し、45℃で4時間重合してポリマー(A鎖)を合成し、ポリマーを含有する液体を得た。液体の一部をサンプリングして測定したポリマー(A鎖)のMnは5,100であり、PDIは1.21であり、重合転化率は約100%であった。
【0083】
ポリマー(A鎖)を含有する液体に、THFMA119部及びMAA30.2部の混合物を添加し、45℃で4時間重合してポリマー(B鎖)を形成し、A-Bブロックコポリマーを含有する液体を得た。固形分から算出した重合転化率は約100%であった。A-BブロックコポリマーのMnは10,700、PDIは1.31であり、酸価は73mgKOH/gであった。GPCにおけるA鎖のピークが高分子量側にシフトしており、A-Bブロックコポリマーが形成されたことを確認した。サンプリングしてGPCを測定したとろ、A鎖のピークが高分子量側にシフトして、A鎖からB鎖が伸びたABブロックコポリマーとなっていることを確認し、その分子量はMn10700、PDI1.31であった。また、固形分を測定し、重合率を算出したところ、ほぼすべて重合していることを確認した。すなわち、B鎖のMnは5,600であった。MAAの使用量から算出したB鎖の酸価は132mgKOH/gであった。
【0084】
A-Bブロックコポリマーを含有する液体に、室温条件下、28%アンモニア水23.4部及び水118.5部の混合物を添加して水溶液化し、淡褐色透明のポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を顔料分散剤G-2の水溶液とする。得られた顔料分散剤G-2の水溶液のpHは9.2であり、固形分は41.1%であった。
【0085】
<顔料分散液の製造>
(製造例1)
イオン交換水864部に、顔料分散剤G-1の水溶液411部(ポリマー150部)及びC.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3、大日精化工業社製)600部を添加し、ディゾルバーで十分撹拌混合して、顔料及び顔料分散剤を含む混合物を得た。得られた混合物を横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルマルチラボ」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)に入れ、周速7m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた。遠心分離処理(7,500rpm、20分間)した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除去した。イオン交換水を添加して濃度を調整し、顔料濃度14%である青色で水性の顔料分散液B-1を得た。
【0086】
(製造例2)
イオン交換水517.5部に、顔料分散剤G-2の水溶液182.5部(ポリマー75.0部)及びC.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3、大日精化工業社製)300部を添加し、ディゾルバーで十分撹拌混合して、顔料及び顔料分散剤を含む混合物を得た。得られた混合物を横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルマルチラボ」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)に入れ、周速7m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた。遠心分離処理(7,500rpm、20分間)した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除去した。イオン交換水を添加して濃度を調整し、顔料濃度14%である青色で水性の顔料分散液B-2を得た。
【0087】
<水性インクの製造>
(実施例9)
バインダー成分E-1 16.0部、顔料分散液B-1 28.6部、プロピレングリコール18.0部、界面活性剤(商品名「シルフェイスSAG503A」、日信化学工業社製)0.5部、ポリエチレンワックス0.7部、及び水36.2部を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ5μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用の水性インク(インク1)を得た。
【0088】
(実施例10~17、比較例4~6)
表3に示す種類のバインダー成分及び顔料分散液をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例9と同様にして、インクジェット用の水性インク(インク2~12)を得た。
【0089】
<評価>
プレートヒーター付きのインクジェット印刷機(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)、及び以下に示す被印刷基材を用意した。そして、調製したインクをそれぞれ使用し、インクジェット記録方式により被印刷基材に画像を記録して印刷物を得た。具体的には、プレートヒーターを用いて表面温度が55℃になるように被印刷基材を加熱してから各インクを付与して印刷した後、90℃に温めた恒温槽にて10分間乾燥させ印刷物を得た。
・OPPフィルム(ポリプロピレンフィルム、フタムラ化学社製、50μm)
・PETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、フタムラ化学社製、50μm)
【0090】
(密着性)
画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。フィルムからの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の密着性を評価した。結果を表3に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
〇:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0091】
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、乾燥した白布を500gの加重で画像の表面を100往復する乾摩擦試験、及び水を湿らせた白布を200gの加重で画像の表面を100往復する湿摩擦試験を行った。摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐摩擦性(乾摩擦性及び湿摩擦性)を評価した。結果を表3に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0092】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のバインダー成分を用いれば、ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材に対する密着性及び耐摩擦性に優れた乾燥皮膜を形成しうる、環境に配慮された水性インク提供することができる。そして、この水性インクは、屋外用途ディスプレイ印刷や大量高速インクジェット印刷に好適であるとともに、水性フレキソ印刷インキ、水性塗料、水性筆記具用インキとしても有用である。
【要約】
【課題】ポリプロピレン系基材やポリエチレン系基材等の、密着性の高い皮膜を形成することが一般的に困難な基材に対しても、密着性及び耐摩擦性に優れた画像等の乾燥皮膜を形成しうる、環境に配慮された水性インク用バインダー成分を提供する。
【解決手段】生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が80質量%以上であり、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位の含有量が40質量%以上であり、数平均分子量が10,000~23,000であり、酸価が25~100mgKOH/gであり、ガラス転移温度が90℃以上である、水不溶性のポリマー鎖A及びメタクリル酸に由来する構成単位を有するポリマー鎖Bを含むA-Bブロックコポリマーである水性インク用バインダー成分。
【選択図】なし