(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】灰押出装置
(51)【国際特許分類】
F23J 1/02 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
F23J1/02 B
(21)【出願番号】P 2022126144
(22)【出願日】2022-08-08
【審査請求日】2022-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501370370
【氏名又は名称】三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】常泉 慎也
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-173476(JP,A)
【文献】特開平11-141849(JP,A)
【文献】実開昭53-111679(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰が導入される筒状の壁面からなる導入口及び貯留水で冷却された前記焼却灰を排出する排出口を備えた冷却槽と、
前記冷却槽内に配置され、先端が前記冷却槽の底面の全幅に亘って接するとともに前記焼却灰を前記排出口側へ押し出すスクレーパと、
前記導入口に対し前記排出口と逆側に配置され、前記スクレーパを駆動する駆動装置とを有し、
前記冷却槽の前記底面は、前記導入口の直下から前記排出口に向かって上り傾斜となる第一傾斜面と、前記第一傾斜面と同一幅であって前記導入口の直下から前記第一傾斜面の逆側に向かって上り傾斜となる第二傾斜面とを備え、
前記貯留水は、前記冷却槽内に、前記壁面の下端よりも上方且つ前記排出口よりも下方である所定水位で貯えられ、
前記駆動装置は、前記第二傾斜面の上方に配置された駆動軸を備え、前記駆動軸が回動することで前記駆動軸と前記スクレーパとに接続されたアームによって前記スクレーパを前記底面に沿って前進及び後進の往復動作させる灰押出装置であって、
前記第一傾斜面と、前記壁面に接続した天井面と、前記第一傾斜面及び前記天井面に接続した2つの側面とで、前記壁面から前記排出口まで延存し且つ断面が矩形の筒形状が形成され、
前記天井面における灰接触限界位置の近傍の灰非接触位置に配置された気体供給口と、
前記気体供給口に接続された気体供給管と、
前記気体供給管に空気または不燃性ガスを供給する気体供給装置と
を有し、
前記気体供給口から前記空気または前記不燃性ガスが噴射される灰押出装置。
【請求項2】
前記気体供給口は、前記排出口側から見た前記冷却槽の断面において、前記天井面の中央部を除く前記天井面の左右に少なくとも1つづつ配置される請求項1に記載の灰押出装置。
【請求項3】
前記灰接触限界位置は、前記天井面に沿って前記壁面から前記排出口へ向かう長さが、前記壁面から前記排出口までの前記天井面の長さの3分の1以上かつ3分の2以下となる位置にある請求項2に記載の灰押出装置。
【請求項4】
前記排出口に気密に接続し、前記排出口から排出された前記焼却灰が導入される排出シュートと、
前記気体供給管と前記排出口近傍の前記排出シュートとに接続する分岐管と
をさらに有し、
前記分岐管を介して前記排出シュートに前記空気または前記不燃性ガスが噴射される請求項3に記載の灰押出装置。
【請求項5】
前記気体供給口に供給される空気または不燃性ガスの圧力を測定する圧力計、または、前記空気または前記不燃性ガスの流量を測定する流量計と、
前記圧力計または前記流量計の測定情報に基づき、前記気体供給装置を制御して、前記気体供給口に供給される前記空気または前記不燃性ガスの供給量を所定の供給量に調整する制御装置と
をさらに有する請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の灰押出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰を冷却して排出する灰押出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃棄物処理プラントにおいて、ストーカ式焼却炉などのごみ焼却炉には、焼却灰を冷却して排出する灰押出装置が配置される。灰押出装置では、当該焼却灰を冷却槽の導入口に受け入れたあと、冷却槽内に貯留した冷却水で冷却する。そして、冷却槽内で冷却された焼却灰は、スクレーパの稼働で傾斜面を押し上げられて水が切られ、排出口から排出される。
【0003】
ところで、ごみ焼却炉で焼却されるごみには、金属アルミニウムが含まれうる。また、焼却灰を浸潤した冷却水は、アルカリ性を示す。このため、灰押出装置の冷却槽でアルカリ溶液と金属アルミニウムとが化学反応して水素が発生することがある。灰押出装置の内部で、当該水素に上記導入口から導入された高温の焼却灰が接触すると、灰押出装置の破損が懸念される。
そこで、灰押出装置の冷却槽内の換気を行う構成、例えば、上記傾斜面または上記排出口近傍に空気を供給して換気を行う構成が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-318037号公報
【文献】特開平11-22949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、効果的に上記冷却槽内の換気を実施して上記破損を防止するためには、金属アルミニウムを含む焼却灰がアルカリ溶液と多量に接触する箇所であって、且つ、発生した水素が滞留しやすい箇所、言い換えれば、水素濃度が高い状態で水素が滞留しやすい箇所に、空気を供給する空気供給口を設けるのが望ましい。
しかし、上記導入口直下で水素が発生したとしても、垂直方向に延存する導入口近傍に水素は滞留しにくく、また、ごみ焼却炉は誘引送風機で引圧され負圧に維持されているため、軽い水素は上記導入口からごみ焼却炉に向かって自動的に流れて撹拌・換気される。このため、当該箇所に上記空気供給口を設ける必要性は乏しい。
一方、特許文献1の構成のように、上記導入口直下とは異なる場所の上記傾斜面のうち、金属アルミニウムを含む焼却灰がアルカリ溶液と多く接触している箇所、言い換えれば当該傾斜面の下方付近(上記導入口直下の最下面に接続する根本付近)に空気供給口を設けると、スクレーパにより押し上げられた焼却灰が多量に上方に向かって盛り上がり、当該空気供給口が閉塞する可能性がある。
また、特許文献2の構成のように、灰押出装置の上記排出口近傍に空気供給口を設けると、水素が発生しやすい箇所から離れすぎているため、効果的に冷却槽内を換気することが難しい。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑み案出されたものであり、冷却槽内に発生した水素を効果的に希釈して換気可能な灰押出装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の灰押出装置は、焼却灰が導入される筒状の壁面からなる導入口及び貯留水で冷却された前記焼却灰を排出する排出口を備えた冷却槽と、前記冷却槽内に配置され、先端が前記冷却槽の底面の全幅に亘って接するとともに前記焼却灰を前記排出口側へ押し出すスクレーパと、前記導入口に対し前記排出口と逆側に配置され、前記スクレーパを駆動する駆動装置とを有し、前記冷却槽の前記底面は、前記導入口の直下から前記排出口に向かって上り傾斜となる第一傾斜面と、前記第一傾斜面と同一幅であって前記導入口の直下から前記第一傾斜面の逆側に向かって上り傾斜となる第二傾斜面とを備え、前記貯留水は、前記冷却槽内に、前記壁面の下端よりも上方且つ前記排出口よりも下方である所定水位で貯えられ、前記駆動装置は、前記第二傾斜面の上方に配置された駆動軸を備え、前記駆動軸が回動することで前記駆動軸と前記スクレーパとに接続されたアームによって前記スクレーパを前記底面に沿って前進及び後進の往復動作させる灰押出装置である。
そして、本発明の灰押出装置では、前記第一傾斜面と、前記壁面に接続した天井面と、前記第一傾斜面及び前記天井面に接続した2つの側面とで、前記壁面から前記排出口まで延存し且つ断面が矩形の筒形状が形成される。
また、本発明の灰押出装置は、前記天井面における灰接触限界位置の近傍の灰非接触位置に配置された気体供給口と、前記気体供給口に接続された気体供給管と、前記気体供給管に空気または不燃性ガスを供給する気体供給装置とを有しており、前記気体供給口から前記空気または前記不燃性ガスが噴射される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の灰押出装置によれば、冷却槽の天井面における灰接触限界位置の近傍の灰非接触位置に、気体供給口が配置されるので、気体供給口の閉塞を抑制しつつ、冷却槽内に発生した水素を効果的に希釈して換気できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の灰押出装置の実施例を示す断面図である。
【
図3】
図1の灰押出装置の冷却槽が有する天井面を鉛直上方から透視して視た模式図である。
【
図4】本発明の灰押出装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~
図4を参照して、本発明の灰押出装置の実施例及び変形例について説明する。以下に示す実施例及び変形例は、あくまでも例示に過ぎず、明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、以下の各構成は、本発明に必須の構成を除いて必要に応じて取捨選択でき、あるいは公知の構成と組み合わせ可能である。
【0011】
[1.実施例]
まず、灰押出装置1の全体構成を簡単に説明し、次いで、各構成を詳述する。
なお、鉛直方向のうち重力の作用方向を下方(図中には「D」で示す)とし、下方の反対方向を上方(図中には「U」で示す)とする。また、鉛直方向に垂直な方向であって冷却された焼却灰が押し出される方向を前方(図中には「F」で示す)、その反対方向(図中右側)を後方(図中には「R」で示す)とする。さらに、鉛直方向及び前後方向の双方に垂直な方向を幅方向とする。そして、前方から後方を見て、幅方向における左方(図中には「LH」で示す)及び右方(図中には「RH」で示す)を規定する。
【0012】
では、灰押出装置1の全体構成を説明する。
図1は、灰押出装置1の全体構成を模式的に示す断面図である。
灰押出装置1は、焼却灰が導入される筒状の壁面31Fからなる導入口31及び貯留水で冷却された焼却灰を排出する排出口32を備えた冷却槽3と、冷却槽3内に配置され、先端が冷却槽3の底面の全幅に亘って接するとともに焼却灰を排出口32側へ押し出すスクレーパ4と、導入口31に対し排出口32と逆側に配置され、スクレーパ4を駆動する駆動装置5とを有する。
そして、冷却槽3の底面は、導入口31の直下から排出口32に向かって上り傾斜となる第一傾斜面34と、第一傾斜面34と同一幅であって導入口31の直下から第一傾斜面34の逆側に向かって上り傾斜となる第二傾斜面35とを備える。
貯留水は、冷却槽3内に、壁面31Fの下端よりも上方且つ排出口32よりも下方である所定水位に貯えられている。
駆動装置5は、第二傾斜面35の上方に配置された駆動軸40を備え、駆動軸40が回動することで駆動軸40とスクレーパ4とに接続されたアーム41によってスクレーパ4を上記底面に沿って、
図1の二点鎖線及び実線で示すように、前進及び後進の往復動作をさせる。
なお、スクレーパ4の先端部(前方の端部)には、冷却槽3の底面33に対して所定角度で立設された面状部材(押出プレート)が設けられる。
第一傾斜面34と、壁面31Fに接続した天井面37と、第一傾斜面34及び天井面37に接続した2つの側面38とで、壁面31Fから排出口32まで延存し且つ断面が矩形の筒形状が形成される。
そして、灰押出装置1は、天井面37における灰接触限界位置P3(詳細については後述する)の近傍の灰非接触位置P1(詳細については後述する)に配置された気体供給口20と、気体供給口20に接続された気体供給管21と、気体供給管21に空気または不燃性ガスを供給する気体供給装置11とを有しており、気体供給口20から空気または不燃性ガスが噴射される。
【0013】
では、以下、各構成につき、詳述する。
冷却槽3は、焼却灰が導入される導入口31と、冷却された焼却灰を冷却槽3の外部に排出する排出口32とを有する。冷却槽3の底面33は、下に凸の曲面状をなし、凸の最も下に位置する部分(以下「最下面36」という)と、最下面36から前方の排出口32に向かって上り傾斜となる第一傾斜面34と、最下面36から後方に向かって上り傾斜となる第二傾斜面35とを有する。第一傾斜面34、最下面36及び第二傾斜面35のそれぞれの幅方向の寸法(幅寸法)は同一である。
導入口31は、最下面36の直上に設けられる。導入口31は、灰シュート2の断面形状と実質的に同様の断面形状を持つ筒状の壁面31Fによって形成される。ここでは、鉛直方向に延設された矩形筒状(断面が矩形の筒形状)の灰シュート2及び導入口31を例示する。
壁面31Fは、前後方向に存在する2つの壁面、すなわち、より前方に存在する前面(排出口側壁面)31Faとより後方に存在する後面31Fbとを有する。壁面31Fの上端は、灰シュート2の下端部に接合される。また、壁面31Fの下端は、水封のため、冷却槽3内の貯留水の所定水位(
図1中の破線)よりも下方に配置される。当該所定水位は、排出口32よりも下方に設定される。
冷却槽3の第二傾斜面35には、貯留水を排出する排水管8が貫設される。排水管8は、その上端部の高さが上記所定水位となるよう配置される。これにより、貯留水の水位が自動的に所定水位に維持される。
なお、焼却炉の内部は、図示しない誘引送風機で引圧され、負圧(大気圧よりも低い圧力)を維持するように制御されているため、灰シュート2及び導入口31の内部も負圧となる。
【0014】
冷却槽3は、第一傾斜面34の上方を覆って配置された天井面37を有する。天井面37は、第一傾斜面34と略平行となるように前方に向かって上り傾斜となるように形成され、その後端37eが導入口31の前面31Faに接続され、その前端は排出口32の一部を構成する。
冷却槽3は、第一傾斜面34及び天井面37の左右の端部を繋ぐ2つの側面38(
図2参照)を有する。従って、第一傾斜面34、天井面37、並びに左右の側面38により、
図2に示すように、断面が矩形の筒形状が形成される。
【0015】
排出口32は、第一傾斜面34及び天井面37並びに側面38の前方におけるそれぞれの端部で構成される。すなわち、これら端部は開口端32eを形成し、開口端32eが排出口32である。
排出口32は、導入口31よりも前方且つ所定水位よりも上方の位置において、前方且つ上方に向かって開放される。
【0016】
排出シュート6は、排出口32から排出された焼却灰が導入される管材であり、上下方向に延設された筒状の壁面6Fを有する。排出シュート6の上端は、排出口32に対向する向き、すなわち、後方且つ斜め下方に向かって開放され、排出口32に気密に接続される。排出シュート6の下端は、振動コンベヤやベルトコンベヤ等の搬送装置7に向かって開放される。冷却槽3から押し出された冷却後の焼却灰は、排出シュート6を通って搬送装置7に落下し、搬送装置7によって図示しない後段設備(例えば、灰ピット等)へと搬送される。
【0017】
制御装置10は、駆動装置5を制御するとともに、後述の気体供給装置11から供給される気体(空気または不燃性ガス(窒素など))の量を制御する。
具体的には、制御装置10は、駆動装置5を制御して、継続的または間欠的にスクレーパ4を往復させる。そして、制御装置10は、気体供給装置11を制御して、後述の圧力計12で測定された当該気体の圧力の値、または後述の流量計13で測定された当該気体の流量の値に応じて、すなわち、これら測定情報に基づき、気体供給装置11から送り出される気体の供給量を調整、例えば予め設定した所定の圧力または流量に調整する。
【0018】
気体供給口20は、
図1に示すように、冷却槽3の天井面37の所定位置(後述の「灰接触限界位置P3の近傍の灰非接触位置P1」)に貫設される。気体供給口20には管状の気体供給管21の一端が接続され、気体供給管21の他端は気体供給装置11に接続されるので、気体供給装置11が定常的または間欠的に供給する空気または不燃性ガスは気体供給口20から噴射される。気体供給口20から噴射する気体は、コスト低減の観点、人体への影響や取り扱い容易の観点から、空気が望ましい。
なお、
図1に示すように、気体供給管21の一端(以下、「先端部21e」という)は、冷却槽3内に突出しないように天井面37の形状に沿って、その端面が斜めに形成される。
【0019】
気体供給管21の天井面37への固定には、接続部22が使用されうる。接続部22は、天井面37の気体供給口20に対して気体供給管21を気密に接続させる部分である。本発明者の特許第7022251号公報の
図4およびその該当説明箇所に記載のように、天井面37の外側に溶接されたドーナツ型のフランジと、気体供給管21を挿通して気密に固定したフランジとを、ガスケットを介してボルトで固定してよい。
【0020】
ここで、「灰接触限界位置P3」について説明する。
図2、
図3に示すように、気体供給口20は、天井面37において、焼却灰が接触しない位置(以下、「灰非接触位置P1」という)に設けられる。より具体的には、気体供給口20は、天井面37において、焼却灰が接触する位置(以下、「灰接触位置P2」という)と灰非接触位置P1との境界の近傍の灰非接触位置P1に配置される。
冷却槽3内部の焼却灰は、スクレーパ4で排出口32側に押し上げられると変形し、後端37eから前方の所定範囲の天井面37まで堆積して接触しながら、第一傾斜面34上を進む。
図1に示すように、第一傾斜面34上に堆積した焼却灰を側面38側(すなわち、幅方向)から見ると、天井面37の後端37eから前方のある位置までは、焼却灰が天井面37までびっしり堆積している。しかし、焼却灰は、当該ある位置を境に天井面37と接触しなくなる。この「ある位置」が、天井面37における灰接触位置P2と灰非接触位置P1との「境界」である。
図2、
図3に示すように、焼却灰は、スクレーパ4に押されることで、中央部37cから上方に盛り上がってゆく。言い換えれば、焼却灰は、冷却槽3の幅方向の中央部37c付近に最も堆積し、冷却槽3の側面38に向かうにつれて天井面37から離れるように山なりに堆積してゆく。このため、天井面37の幅方向で見ると、中央部37cに先に接触した後、その中央部37cの両脇に接触することになる。従って、当該「境界」を線で表すと、
図3に示すように、中央部37cに頂点のある放物線(中央部37cを中心として前方に凸となるような放物線)に近似の曲線となる。
ところで、同一の灰押出装置1であっても、
図3に破線で示すように、当該「境界」の位置は、灰押出装置1が設置される環境(気候、室温など)、焼却灰の性状、スクレーパ4の駆動条件により変化する。
そこで、本発明では、当該「境界」がこれら諸条件次第で変化しうる範囲のうち、後端37eから最も前方に離れた位置を「灰接触限界位置P3」と定義する。「灰接触限界位置P3」は、特定の廃棄物処理プラントに納入される灰押出装置1ごとに、事前に試験またはシミュレーションされることで設定される。
【0021】
従って、「灰接触限界位置P3の近傍の灰非接触位置P1」とは、灰非接触位置P1のうち、灰接触限界位置P3から前方へ僅かに離れた位置である。「僅かに離れた位置」は、気体供給口20の後方Rの端部が、灰接触限界位置P3から、天井面37の面に沿った延設方向(ここでは、前方且つ上方)に、0mmより大きく400mm以下、望ましくは0mmより大きく200mm以下、離れた位置である。
【0022】
なお、本発明者によれば、天井面37の後端37eから上述の「灰接触限界位置P3」までの長さは、上記諸条件がいかなるものであっても、また、灰押出装置1のサイズによらず、灰押出装置1の基本形状が
図1に示すものである限り、後端37eから開口端32eまでの天井面37の長さの3分の1未満となることはなく、さらに言えば、後端37eから開口端32eまでの天井面37の長さの3分の1以上且つ3分の2以下となることを見出している。
すなわち、
図1において、後端37eから開口端32eまでの天井面37の長さを三等分した長さを寸法L1とすると、気体供給口20の後方Rの端部は、天井面37の後端37eから天井面37の延設方向に向かって、寸法L1より離れた位置に配置されることになる。
【0023】
上述のように、気体供給口20は「灰接触限界位置P3の近傍の灰非接触位置P1」に配置されるので、灰押出装置1は、焼却灰による気体供給口20の閉塞を確実に抑制することができる。
また、金属アルミニウムを含む焼却灰がアルカリ溶液と多量に接触する箇所である第一傾斜面34に堆積した焼却灰では、発生した水素が焼却灰の隙間に滞留して水素濃度を高め、その濃度が爆発限界に入る可能性があるが、「灰接触限界位置P3の近傍の灰非接触位置P1」の気体供給口20から空気または不燃性ガスが噴射されるので、言い換えれば堆積した焼却灰に極めて近接した位置から空気等を噴射するので、焼却灰の隙間にも十分これら空気等が入り込み、撹拌かつ換気して、水素濃度を希釈することができる。従って、灰押出装置1は、気体供給口20の閉塞を抑制しつつ、冷却槽3内に発生した水素を効果的に希釈して換気できる。
【0024】
ところで、先述のように、「境界」を線で表すと、
図3に示すように、中央部37cに頂点のある放物線に近似の曲線となる。そこで、灰押出装置1では、
図2及び
図3に示すように、排出口32側から見た冷却槽3の断面において、天井面37の幅方向の中央部37cを除く少なくとも天井面37の左右に1つづつ、合計2つの気体供給口20が配置される。中央部37cの左方及び右方のそれぞれに配置された2つの気体供給口20から空気または不燃性ガスを噴射することで、冷却槽3内でこれら空気等による強力な乱流を発生させるので、冷却槽3内で発生した水素の希釈と換気を効果的に行うことができる。ここでは、気体供給口20を、幅方向において左右に各1つ配置したが、換気の効果を高めるため、それぞれ2つ以上、複数配置してもよい。
ここでは、灰押出装置1は、撹拌と換気の効果をより高めるため、複数の気体供給口20を設置した。しかし、1つ、すなわち単数の気体供給口20で当該効果が十分に得られる場合は、費用対交換を鑑みて、灰押出装置1は、1つの気体供給口20のみを備える構成としてもよい。
【0025】
なお、焼却灰が
図2の状態よりも左方又は右方のいずれかに偏って堆積するような場合には、気体供給口20は、焼却灰の堆積の偏り(空間の偏り)にあわせて非対称に配置されてよい。この場合、気体供給口20は、冷却槽3内の空間が大きくなる方の数が多くなるように、中央部37cの左方及び右方のそれぞれで異なる数が配置されていてもよい。
【0026】
[2.変形例]
上記の灰押出装置1は一例であって、その構成は上述したものに限られない。
図4は、変形例である灰押出装置1′の構成を模式的に示す断面図である。先述した灰押出装置1と同様の構成については、同一の符号にダッシュ(′)を付してその構成及び効果の説明を省略する。
先述の灰押出装置1と変形例の灰押出装置1′とを比較すると、灰押出装置1′は、冷却槽3′の天井面37′に貫設された気体供給口20′に加えて、排出シュート6′の壁面6F′に貫設された追加気体供給口23と、追加気体供給口23と気体供給管21′とを接続する分岐管39とを有する点で異なる。
分岐管39は、圧力計12′、流量計13′の上流で気体供給管21′から分岐しており、追加気体供給口23から上記気体を噴射させる管である。分岐管39は当該上流で気体供給管21′から分岐しているので、制御装置10′は、当該分岐管39の影響を受けることなく、気体供給口20′から噴射する空気または不燃性ガスの供給量を所定の供給量に調整することができる。
追加気体供給口23は、排出シュート6′の壁面6F′のうち上部に位置する上壁面6Faに設けられる。図示しないが、追加気体供給口23は、接続部22′と同様のフランジ構造を用いて、上壁面6Faの外部から気密に接続されてよい。
灰押出装置1′によれば、上記の灰押出装置1と同様の効果を得られるだけでなく、冷却槽3′内で発生した水素が上昇して排出シュート6′内の上壁面6Fa付近に滞留した場合でも、追加気体供給口23から供給される上記気体により、発生した水素を効果的に撹拌し希釈できる。
【符号の説明】
【0027】
1、1′ 灰押出装置
2、2′ 灰シュート
3、3′ 冷却槽
4、4′ スクレーパ
5、5′ 駆動装置
6、6′ 排出シュート
6F、6F′ 壁面
6Fa 上壁面
7、7′ 搬送装置
8、8′ 排水管
10、10′ 制御装置
11、11′ 気体供給装置
12、12′ 圧力計
13、13′ 流量計
20、20′ 気体供給口
21、21′ 気体供給管
21e、21e′ 先端部
22、22′ 接続部
23 追加気体供給口
31、31′ 導入口
31F、31F′ 壁面
31Fa、31Fa′ 前面(排出口側壁面)
31Fb、31Fb′ 後面
32、32′ 排出口
32e、32e′ 開口端
33、33′ 底面
34、34′ 第一傾斜面
35、35′ 第二傾斜面
36、36′ 最下面
37、37′ 天井面
37c 中央部
37e、37e′ 後端
38 側面
39 分岐管
40 駆動軸
41 アーム
L1 寸法
P1、P1′ 灰非接触位置
P2、P2′ 灰接触位置
P3、P3′ 灰接触限界位置
【要約】
【課題】冷却槽内に発生した水素を効果的に希釈して換気可能な灰押出装置を提供する。
【解決手段】灰押出装置1は、焼却灰が導入される筒状の壁面31Fからなる導入口31及び貯留水で冷却された焼却灰を排出する排出口32を備えた冷却槽3と、冷却槽3内に配置され、焼却灰を排出口32側へ押し出すスクレーパ4と、導入口31に対し排出口32と逆側に配置され、スクレーパ4を駆動する駆動装置5とを有する。冷却槽3は、導入口31の直下から排出口32に向かって上り傾斜となる第一傾斜面34と、第一傾斜面34の上方に配置される天井面37を備える。天井面37における灰接触限界位置P3の近傍の灰非接触位置P1に、気体供給口20が配置される。
【選択図】
図1