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特許7152716可撓性導波管、可撓性導波管を有する画像伝送装置、可撓性導波管を有する内視鏡および内視鏡システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】可撓性導波管、可撓性導波管を有する画像伝送装置、可撓性導波管を有する内視鏡および内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/005 20060101AFI20221005BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20221005BHJP
   G02B 23/24 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A61B1/005 511
A61B1/00 681
G02B23/24 A
G02B23/24 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018191253
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020058524
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正
(72)【発明者】
【氏名】末定 新治
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099310(JP,A)
【文献】特開2012-080178(JP,A)
【文献】特開2015-185858(JP,A)
【文献】特開2007-221713(JP,A)
【文献】特公昭48-025157(JP,B1)
【文献】特開平01-249032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
G02B 23/24
H01P 3/00-3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に誘電率が均一、かつ、長手方向に垂直な断面が同一形状を呈する線状の誘電体と、
前記線状の誘電体の外周に配設され、内側表面に金属層を備えた可撓性を有する外部導体と、
前記外部導体の外側に配設され、長手方向に垂直な断面が同一の形状を呈する押圧部材と、
を有する可撓性導波管であって、
前記線状の誘電体は、長手方向に垂直な断面が長径および短径を有するとともに前記長径をなす一対の長辺の少なくとも一辺が内側に凹んだ凹部を形成し、
前記押圧部材は、前記誘電体における前記凹部に沿って長手方向に延出して配設され
ことを特徴とする可撓性導波管。
【請求項2】
前記外部導体は、延伸方向に垂直な断面が長方形断面を呈する、金属物質を包含する複数の帯状部を有し、
前記複数の帯状部は、いずれの帯状部についても、当該帯状部の側縁部が当該可撓性導波管長手方向に対して所定角度を成した状態において当該帯状部の平坦部が前記誘電体の外周面に巻きつけられるように延在すると共に、互いの帯状部が組紐状形態を形成するように編成される
ことを特徴とする請求項1に記載の可撓性導波管。
【請求項3】
前記可撓性導波管は、60GHz近傍以上のミリ波またはサブミリ波を伝送する
ことを特徴とする請求項に記載の可撓性導波管。
【請求項4】
前記外部導体および前記押圧部材の外側に配設された弾性を備えた筒状部材を有する
ことを特徴とする請求項に記載の可撓性導波管。
【請求項5】
前記筒状部材は、延伸方向に垂直な断面が長方形断面を呈する複数の帯部を有し、
前記複数の帯部は、いずれの帯部についても、当該帯部の側縁部が当該可撓性導波管長手方向に対して所定角度を成した状態において当該帯部の平坦部が前記外部導体および前記押圧部材の外周面に巻きつけられるように延在すると共に、互いの帯部が組紐状形態を形成するように編成される
ことを特徴とする請求項に記載の可撓性導波管。
【請求項6】
前記筒状部材は、前記外部導体および前記押圧部材の外周面に巻きつけられるように延在したテープ部材である
ことを特徴とする請求項に記載の可撓性導波管。
【請求項7】
前記筒状部材は、前記外部導体および前記押圧部材の外周面に配設された熱収縮性を備えたゴムチューブである
ことを特徴とする請求項に記載の可撓性導波管。
【請求項8】
前記押圧部材は、中空もしくは中実部材、光ファイバーまたは電線のいずれかである
ことを特徴とする請求項1-7のいずれか1項に記載の可撓性導波管。
【請求項9】
請求項1-8のいずれか1項に記載の可撓性導波管を有する画像伝送装置であって、
前記可撓性導波管は所定の画像信号を伝送することを特徴とする画像伝送装置。
【請求項10】
請求項1-8のいずれか1項に記載の可撓性導波管を有する内視鏡であって、
前記可撓性導波管は所定の画像信号を伝送することを特徴とする内視鏡。
【請求項11】
請求項10に記載の内視鏡と、
前記可撓性導波管により伝送された所定の画像信号に対して所定の画像処理を施す画像処理部と、
を具備することを特徴とする内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波の電波信号伝送に利用する導波管、より詳しくはミリ波またはサブミリ波帯以上の電波伝送に適した可撓性導波管、可撓性導波管を有する画像伝送装置、可撓性導波管を有する内視鏡および内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるFTTH(Fiber To The Home)等の技術により、1Gbpsを超える通信速度を有する通信環境が一般の家庭にも浸透してきている。また、スマートフォン等の高い処理能力を有する端末が広く普及し、利用可能な通信技術、および、情報処理の速度、すなわち「ハード性能」が著しく向上してきている。
【0003】
また、いわゆるFHD(Full High Definition)を超える4K/8K画像に代表される高精細/大容量映像の利用、インターネットを介した情報アクセスの拡大等により、個人、または企業において利用可能な情報の質と量、すなわち「ソフト利用」についても飛躍的に拡大している。
【0004】
これらは、近年とくに注目をあびているビックデータ解析、ディープラーニング(深層学習)によるAI(artificial intelligence;人工知能)の発展など、新しい手法・付加価値の誕生にも大きく貢献している。
【0005】
このように、「ハード性能」の向上と「ソフト利用」の拡大とが両輪となって近年の技術は著しく発展し、新しい付加価値が誕生している。その結果として、現時点の情報通信技術に求められる性能は、以前とは比べものにならないほど高いものになっている。そして、情報通信に必要な技術要素の中でも信号伝送線路に着目すると、この分野でも求められる性能は著しく高くなっていることが判る。
【0006】
ここで、現在においては、“伝送距離が短く伝送速度の遅い領域においては電気インターコネクション(金属線による接続)が主に用いられる”、一方、“伝送距離が長く伝送速度の速い領域では光インターコネクション(光通信、すなわち光ファイバーによる接続)が主に用いられる”といえる。
【0007】
すなわち、例えば、数メートル程度での電気インターコネクションは、その利用できる限界が2.5Gbps程度の伝送速度であり、これを超えると光インターコネクション(光通信)が有力な手段となるといえる。
【0008】
このように、伝送距離が長く伝送速度の速い領域では光通信が有力な手段とされるが、光通信には信号伝送の信頼性に関わる問題点が有ることが知られている。すなわち、一般に通信用光ファイバーは石英ガラスを主成分とする1本の線で構成されることから、意図しない衝撃等の影響で信号伝送路である光ファイバーが予期せず切断されることが起きる虞がある。
【0009】
また同様に、光通信には接続性に関わる問題点があることも知られている。すなわち、通常利用される通信用光ファイバーは光信号を伝送するコアと呼ばれる芯線の径がわずか50μm程度以下しかないことから、この接続にはμmオーダーという極めて高い位置決め精度が必要となるうえ、塵埃の影響で接続ができない虞さえある。
【0010】
因みに、電気インターコネクション(金属線による接続)は、線路は一般に複数の細線を束ねて構成しており、切断される場合にも徐々に細線が切れていくため、通信性能は徐々に劣化し、通信性能の劣化を知ることで事前に修理などの対応をとることができる。また線路の接続も通常0.1mmオーダーの精度があればよく、塵埃の影響も排除しやすいなど特に困難を伴わない。
【0011】
すなわち、上記の問題点の存在により、特に通信に高い信頼性が求められる用途、または使用において線路同士の接続が求められる用途においては、光通信は電気インターコネクションの代替にならないと考えられる。
【0012】
上述した事情を鑑みて本出願人は、数センチメートル~5メートル程度以下の長さで5Gbps以上の通信速度を実現しうる方法として、また、リードワイヤによる信号伝送方式の課題である伝送速度の限界を克服しつつ、光ファイバーによる信号伝送方式の課題をも克服する新しい信号伝送方式として電波と導波路を利用する技術を国際公開WO2017/002585号公報(特許文献1)において提案した。
【0013】
すなわち、特許文献1に示した可撓性導波管によれば、上述した課題(信頼性の問題、接続に関わる問題)を克服しながら、電気インターコネクションでは実現が困難な数十Gbpsオーダーの高速通信が可能な通信線路を実現することができる。
【0014】
さらに特許文献1においては、上述の通信線路を用いたビデオ内視鏡システムに関する記載がなされおり、ここではビデオ内視鏡システムにおいて上述した高速通信の必要性が高いことも論じられている。
【0015】
因みに、内視鏡は十分な可撓性を有する細長形状をなす挿入部を有するが、この挿入部は「できるだけ細い」ことが要求される。これは挿入部の太さ/細さが内視鏡の挿入性に大きく関係し、結果として内視鏡の利用価値に大きい影響を与えるからである。また内視鏡は医療機器であることから、高い信頼性は必須要件である。さらにメンテナンスの必要性から高い接続性も要求される。
【0016】
このように、ビデオ内視鏡システムにおいては、「細さ」と「可撓性」とを両立し、高い信頼性と接続性とを有することができる高速伝送線路が求められており、その高速伝送線路として導波管は有力な手段のひとつであることが分かる。
【0017】
なお、ここでいう可撓性は、繰返しの曲げが可能なことを指し、単に「曲がる」というだけでは十分とは言えない。
【0018】
ところでミリ波(サブミリ波を含む)以上の周波数を有する電波を伝送する導波管において、十分な可撓性を実現することは一般には困難とされる。しかしその一方で、斯様な可撓性を有する導波管を実現する技術も知られている。
【0019】
たとえば特許第4724849号明細書(特許文献2)に記載される方法では、内部誘電体に絶縁性の糸を用いることで導波管の可撓性を高めるとともに、その内部誘電体の糸の種類を変えることで誘電率に分布を発生し伝送特性を安定させることを意図するものである。
【0020】
また、特開2015-185858号公報(特許文献3)には、誘電体の周囲に扁平な断面形状を有する所要数の平箔糸を、いわゆる組紐状に組み付けて導電層を構成することで伝送損失の少ない可撓性を備えた導波管を形成する技術が記載されている。
【0021】
さらに、特許第5129046号明細書(特許文献4)には、導波管の導電層断面が所謂「リッジ形状」とし、インピーダンス範囲を広くすることで伝送周波数帯域の広帯域化を実現する技術が記載されている。因みにこのリッジ形状の採用による広帯域化は、後述するように導波管の細径化にも効果が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】国際公開WO2017/002585号公報
【文献】特許第4724849号明細書
【文献】特開2015-185858号公報
【文献】特許第5129046号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、上述した特許第4724849号明細書(特許文献2)、特開2015-185858号公報(特許文献3)に記載の技術では、十分な可撓性を得ることはできても、そのままでは細径化することができない。
【0024】
また、特許第5129046号明細書(特許文献4)では、可撓性を備えたリッジ導波管について示されているが、前記明細書中に記載の断面形状では、前記明細書中で定義されている「陥没空間」の影響によって電界集中が生じ、伝送特性が低下する虞がある。
【0025】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、上述した従来の問題点を根本的に解決し、所望のミリ波(サブミリ波を含む)以上の周波数の電波を伝送する導波管において十分な可撓性と細さを備えた可撓性導波管、可撓性導波管を有する画像伝送装置、可撓性導波管を有する内視鏡および内視鏡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一態様の可撓性導波管は、長手方向に誘電率が均一、かつ、長手方向に垂直な断面が同一形状を呈する線状の誘電体と、前記線状の誘電体の外周に配設され、内側表面に金属層を備えた可撓性を有する外部導体と、前記外部導体の外側に配設され、長手方向に垂直な断面が同一の形状を呈する押圧部材と、を有する可撓性導波管であって、前記線状の誘電体は、長手方向に垂直な断面が長径および短径を有するとともに前記長径をなす一対の長辺の少なくとも一辺が内側に凹んだ凹部を形成し、前記押圧部材は、前記誘電体における前記凹部に沿って長手方向に延出して配設される。
【0027】
本発明の一態様の画像伝送装置は、前記可撓性導波管を有する画像伝送装置であって、前記導波管は、所定の画像信号を伝送する。
【0028】
本発明の一態様の内視鏡は、前記可撓性導波管を有する内視鏡であって、前記可撓性導波管は、所定の画像信号を伝送する。
【0029】
本発明の一態様の内視鏡システムは、前記内視鏡と、前記可撓性導波管により伝送された所定の画像信号に対して所定の画像処理を施す画像処理部と、を具備する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、上述した従来の問題点を根本的に解決し、所望のミリ波(サブミリ波を含む)以上の周波数の電波を伝送する導波管において適切な可撓性と優れた伝送特性とを両立する導波管、導波管を有する画像伝送装置、導波管を有する内視鏡および内視鏡システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の第1の実施形態の可撓性導波管を有する内視鏡システムの概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態にかかる内視鏡システムの要部の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、第1の実施形態の可撓性導波管および撮像ユニットの構造を示した要部拡大斜視図である。
図4図4は、第1の実施形態の可撓性導波管および撮像ユニットの構造を一部断面にて示した要部拡大斜視図である。
図5図5は、第1の実施形態の可撓性導波管の如き導波管において採用し得るリッジ形状を呈する内部誘電体の一構成例を概略的に示した要部拡大断面である。
図6図6は、第1の実施形態の可撓性導波管の如き導波管において採用し得るリッジ形状を呈する内部誘電体の他の構成例を概略的に示した要部拡大断面である。
図7図7は、第1の実施形態の可撓性導波管の如き導波管において採用し得るリッジ形状を呈する内部誘電体の他の構成例を概略的に示した要部拡大断面である。
図8図8は、第1の実施形態の可撓性導波管における要部の概略構成を示した要部拡大斜視図であって、外部導体の外側に配設される押圧部材を離間して示したものである。
図9図9は、第1の実施形態の可撓性導波管における要部の概略構成を示した要部拡大斜視図である。
図10図10は、第1の実施形態の可撓性導波管における組紐形状を呈する外部導体および内部誘電体を示した要部断面図である。
図11図11は、第1の実施形態の可撓性導波管における組紐形状を呈する外部導体の外観を示した外観図である。
図12図12は、第1の実施形態の可撓性導波管における外部導体の構成を示した要部拡大断面図である。
図13図13は、第1の実施形態の可撓性導波管の構造を示した要部拡大斜視図である。
図14図14は、第1の実施形態の可撓性導波管の構造を示した要部拡大断面図である。
図15図15は、第1の実施形態の可撓性導波管における外部導体および内部誘電体を示した要部拡大斜視図である。
図16図16は、第1の実施形態の可撓性導波管における外部導体および内部誘電体を示した要部拡大断面図である。
図17図17は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルを作成する際の内部誘電体の定義づけを説明する図である。
図18図18は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルを作成する際の内部誘電体の寸法と導波管の伝搬領域の関係を示した図である。
図19図19は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいて内部誘電体の外皮を完全導体としたシミュレーションモデルを示した図である。
図20図20は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルの伝送特性を示した図である。
図21図21は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいて伝搬領域境界を説明する図である。
図22図22は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいてリッジが無い断面形状の内部誘電体を有する場合のシミュレーションモデルAを示した斜視図である。
図23図23は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいてリッジが無い断面形状の内部誘電体を有する場合のシミュレーションモデルAを示した要部拡大断面図である。
図24図24は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいてリッジが有る断面形状の内部誘電体を有する場合のシミュレーションモデルBを示した斜視図である。
図25図25は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいてリッジが有る断面形状の内部誘電体を有する場合のシミュレーションモデルBを示した要部断面図である。
図26図26は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいて図15に示す例と同じ断面形状の内部誘電体を有する場合のシミュレーションモデルCを示した斜視図である。
図27図27は、第1の実施形態の可撓性導波管に係るシミュレーションモデルにおいて図15に示す例と同じ断面形状の内部誘電体を有する場合のシミュレーションモデルCを示した要部断面図である。
図28図28は、図22図23に示したシミュレーションモデルAおよび図24図25に示したシミュレーションモデルBの伝送特性を示した図である。
図29図29は、図24図25に示したシミュレーションモデルBおよび図26図27に示したシミュレーションモデルCの伝送特性を示した図である。
図30図30は、本発明の第2の実施形態の可撓性導波管の構造を示した要部拡大斜視図である。
図31図31は、第2の実施形態の可撓性導波管の構造を示した要部拡大断面図である。
図32図32は、第2の実施形態の可撓性導波管において内部誘電体と外部導体とを、押圧部材の中空部に挿入する際の様子を示した要部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
まず、本実施形態の可撓性導波管を説明するに先立って、本実施形態の可撓性導波管に採用するリッジ形状を呈する内部誘電体の技術的な概念について簡単に説明する。
【0033】
<リッジ形状を呈する内部誘電体の技術的な概念>
一般に、細さを備えた可撓性導波管の実現には、上述した特許第5129046号明細書(特許文献4)に記載されるように内部誘電体をリッジ形状で形成することは有効な手段となる。本願発明は、斯様なリッジ形状を呈する内部誘電体を実現するため、長手方向に垂直な断面に長径と短径を有するとともに前記長径をなす一対の長辺の少なくとも一辺が内側に凹んだ凹部形状、いわゆる「リッジ形状」を有する誘電体を内部に配する。
【0034】
図5図7は、それぞれ第1の実施形態の可撓性導波管の如き導波管において採用し得る、リッジ形状を呈する内部誘電体の構成例を概略的に示した要部拡大断面である。
【0035】
ここで、図5は、いわゆるダブルリッジ形状を呈する内部誘電体51Aを示し、図6は、いわゆるシングルリッジ形状を呈する内部誘電体51Bを示し、また、図7は、リッジ部の両辺に膨らんだ曲面部を形成した、いわゆる繭型形状を呈する内部誘電体51Cを示す。
【0036】
なお、図5に示すダブルリッジ形状を呈する内部誘電体51A,図6に示すシングルリッジ形状を呈する内部誘電体51Bにおいては、角が丸い形状(いわゆる「角R」形状)を含むものとする。
【0037】
<リッジ形状を呈する内部誘電体を採用する本願発明の概略構成>
ところで、上述した如きリッジ形状断面を有する内部誘電体を備える可撓性導波管において、当該内部誘電体に係合する外部導体を実現するには、上記リッジ形状を備えた内部誘電体の表面と、内側表面に金属層を備えた外部導体との内側表面とを密着させればよい。
【0038】
本発明者はこれを実現する手段として、「外部導体の外側に、長手方向に垂直な断面が同一形状を呈する押圧部材を、内部誘電体のリッジ部に沿わせて配置する」構造を発案し、さらにその実現可能な構造を明確にした。
【0039】
図8は、第1の実施形態の可撓性導波管における要部の概略構成を示した要部拡大斜視図であって、外部導体の外側に配設される押圧部材を離間して示したものである。また、図9は、第1の実施形態の可撓性導波管における要部の概略構成を示した要部拡大斜視図である。
【0040】
図8図9に示すように、本実施形態の可撓性導波管50は、内部誘電体51、外部導体53および2つの押圧部材56a,56bを備える。
【0041】
内部誘電体51は、長手方向に誘電率が均一、かつ、長手方向に垂直な断面が同一形状を呈する線状の誘電体であって、長手方向に垂直な断面が長径および短径を有するとともに前記長径をなす一対の長辺の少なくとも一辺が内側に凹んだ凹部を形成する。実施形態においては、長手方向に垂直な断面形状としてリッジ形状凹部51a,51bを形成した、いわゆるダブルリッジ形状を形成する。
【0042】
また、内部誘電体51のリッジ形状凹部51a,51bの両端部の外周面は、後述する略筒状形状を呈する外部導体53の内面の曲面に接するように曲面部を形成する。
【0043】
外部導体53は、線状の内部誘電体51の外周に配設され、内側表面に金属層55a(図12参照)を備えた可撓性を有する外部導体である。また、図8に示すように本実施形態において外部導体53は略筒状を形成し、少なくとも、内部誘電体51の両端部の外周面に接して配設される。
【0044】
押圧部材56a,56bは、本実施形態においては略棒状の線状部材であり、図8に示すように前記外部導体53の外方において、前記内部誘電体51におけるリッジ形状凹部51a,51bにそれぞれ対向する位置に配設される。すなわち、内部誘電体51におけるリッジ形状凹部51aに対向する位置には、外部導体53を挟んで押圧部材56aが配設され、内部誘電体51におけるリッジ形状凹部51bに対向する位置には、外部導体53を挟んで押圧部材56bが配設される。
【0045】
本実施形態においては、それぞれ外部導体53の外方に配設される押圧部材56aと押圧部材56bとを、それぞれリッジ形状凹部51aまたはリッジ形状凹部51bに対して前記外部導体53を介して挟んで当接するように当該外部導体53を押圧する。
【0046】
図9は、この押圧部材56a,56bを外部導体53に対して押圧した後の状態を示したものである。図9に示すように、外部導体53は、押圧部材56a,56bに押圧されて変形し内部誘電体51に密着される。
【0047】
具体的には、押圧部材56aに押圧された外部導体53は、リッジ形状凹部51aに接する部分において変形して外部導体凹面53aを形成し、当該リッジ形状凹部51aに密着させられる。同様に、押圧部材56bに押圧された外部導体53は、リッジ形状凹部51bに接する部分において変形して外部導体凹面53bを形成し、当該リッジ形状凹部51bに密着させられる。
【0048】
これにより押圧部材56a,56bは、前記内部誘電体51におけるリッジ形状凹部51a,51bに沿って長手方向に延出して配設される。
【0049】
また、本実施形態においては、押圧部材56a,56bを用いて、外部導体53を変形させて内部誘電体51の表面と外部導体53の内側表面とを密着保持する。
【0050】
なお、外部導体53を変形させて内部誘電体51の表面と外部導体53の内側表面とを密着保持する構造を実現するためには、当該外部導体53に可撓性を持たせる必要がある。
【0051】
外部導体に可撓性を持たせる方法としては、例えば、金属層を含む糸(平箔糸)を組紐状に組み付けて外部導体を形成する(組紐構造)、金属テープを巻きつけて外部導体を形成する(包帯巻き構造)、導波管の伝搬方向に対して垂直な方向に凹凸をつけて外部導体を形成する(ジャバラ構造)等が挙げられるが、上記構造を実現する構造としては、組紐構造による外部導体形成が最も好ましい。
【0052】
<外部導体の構成例>
次に、上述した組紐構造を採用した本実施形態における外部導体53の構成例について簡単に説明する。
【0053】
図10は、第1の実施形態の可撓性導波管における組紐形状を呈する外部導体および内部誘電体を示した要部断面図であり、図11は、第1の実施形態の可撓性導波管における組紐形状を呈する外部導体の外観を示した外観図である。また、図12は、第1の実施形態の可撓性導波管における外部導体の構成を示した要部拡大断面図である。
【0054】
本実施形態において外部導体53は、前記内部誘電体の外周を覆う位置に配設され、可撓性を有する筒状を呈する金属層部を有して構成される。具体的に外部導体53は、帯状の複数の平箔糸により構成される。
【0055】
この帯状の平箔糸は、図12に示すように、延伸方向に垂直な断面が長方形断面を呈し、樹脂などの非金属物質を包含する下地層55bと、金属物質を包含する金属箔55aを有して構成される。より具体的に当該平箔糸は、下地層55bとして厚さ25μmの樹脂フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET))を採用し、また、金属箔55aとしては厚さ9μmの銅箔を採用し、幅0.3mmの帯状を呈して形成される。
【0056】
また、外部導体53は、複数(例えば、32本)の平箔糸を、図10に示すように円筒組紐状に組んで形成される。具体的には、前記内部誘電体51の外周面において前記金属箔55aを配置して巻きつけられるように延在すると共に、互いの平箔糸が組紐状形態を形成するように編成されるようになっている。
【0057】
なお、当該外部導体53は、上述したように所定の金属層部(金属箔55a)を含み、当該金属箔55aの導電率は純銅相当の59×10S/mに設定される。なお、ここでは導電率を一意に定めたが、本発明において金属層部の導電率は、これに限定されず、実施形態においては、導電率の良い金属層を用いることが好ましい。
【0058】
なお、上述したように本実施形態において外部導体53である前記平箔糸は、誘電体51に接する側に金属箔55aを配し外側に樹脂フィルムを有するように構成したが、これに限ることなく、金属層のみにより構成されてもよい。
【0059】
図11は、第1の実施形態の可撓性導波管における平箔糸を組紐形状に組んでなる外部導体の外観を示した外観図である。上述したように外部導体53である複数の平箔糸を、内部誘電体51の外周に対して、例えば角度45度にて巻き付けて組紐状に組み付けると、糸と糸の間に、いわゆる「製紐孔」と称される孔が生じる。なお、図11においては、この製紐孔を符号54で示すものとする。
【0060】
この製紐孔54は、“孔”の部分においては下方側の内部誘電体51の表面が露出することになる。このように、本実施形態の可撓性導波管50は、導波管の長手方向(伝搬方向)に向かって金属部分の割合が周期的に変化するように外部導体53が形成される。換言すれば、本実施形態の可撓性導波管50は、外部導体53について長手方向に周期的な形状変化が生じていると共に、外部導体の抵抗(インピーダンス)分布が伝搬方向に対して所定の周期性をもって変化することとなる。
【0061】
上述したように本実施形態の可撓性導波管50は、上記の通り細径化に有利なリッジ構造が得られるだけでなく、特許第5129046号明細書(特許文献4)に記載されるような陥没空間も発生せず、伝送特性が劣化する虞もない。すなわち、本実施形態によれば細径化と伝送特性を両立しつつ優れた可撓性を有する導波管を実現することができる。
【0062】
<第1の実施形態の詳細>
以下、第1の実施形態の可撓性導波管について、さらに詳しく説明する。
【0063】
なお、以下に示す各実施形態は、各実施形態の可撓性導波管を有する内視鏡システムを例に説明するものとする。
【0064】
また、この実施の形態により、この発明が限定されるものではない。さらにまた、図面は、模式的なものであり、各部材の厚みと幅との関係、各部材の比率等は、現実と異なることに留意する必要がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法や比率が異なる部分が含まれている。
【0065】
図1は、本発明の第1の実施形態の可撓性導波管を有する内視鏡システムの概略構成を示す斜視図であり、図2は、第1の実施の形態にかかる内視鏡システムの要部の機能構成を示すブロック図である。
【0066】
図1に示すように、内視鏡システム1は、いわゆる上部消化管用の内視鏡システムであって、被検体Pの体腔内に先端部を挿入することによって被写体Pの体内画像を撮像し当該被写体像の画像信号を出力する撮像部を備える内視鏡2と、内視鏡2における前記撮像部から出力される画像信号に対して所定の画像処理を施す画像処理部を備えるとともに内視鏡システム1全体の動作を統括的に制御するビデオプロセッサ3と、内視鏡2の先端から出射するための照明光を発生する光源装置4と、ビデオプロセッサ3において画像処理が施された画像を表示する表示装置5と、を主に備える。
【0067】
内視鏡2は、先端部に前記撮像部を備えると共に主として可撓性を有する細長形状部により構成される挿入部6と、挿入部6の基端側に接続され各種の操作信号の入力を受け付ける操作部7と、操作部7から基端側に向けて延出されビデオプロセッサ3および光源装置4と接続するユニバーサルコード8と、を備える。
【0068】
ここで内視鏡2は、挿入部6の先端部に配設した撮像部とビデオプロセッサ3における画像処理部との間において、挿入部6における前記撮像部から当該挿入部6、前記操作部7および前記ユニバーサルコード8のそれぞれ内部を経由してビデオプロセッサ3の画像処理部に至るまで延設され、撮像部からの画像信号等の伝送するための信号伝送路を備える。
【0069】
そして、本実施形態に係る内視鏡システムにおいては、前記信号伝送路をミリ波またはサブミリ波(以下、場合により代表してミリ波と記載する)を通す導波路により構成されることを特徴とする(当該「導波路」については、後に詳述する)。
【0070】
挿入部6は、最先端部に配設された、前記撮像部を構成する撮像素子22等を内蔵した先端硬性部10と、当該先端硬性部10の基端側に配設され、複数の湾曲駒によって構成された湾曲自在な湾曲部9と、当該湾曲部9の基端側に接続され、可撓性を有する長尺状の可撓管部と、を有する。
【0071】
また、図2に示すように、本実施形態において挿入部6の最先端に配設された先端硬性部10には、被検体像を入光する撮像光学系21と、撮像光学系21の後方に配設され、被検体像を撮像して光電変換により所定の画像信号を出力する撮像素子22等を含む撮像ユニット20と、が配設されている。
【0072】
前記撮像ユニット20は、前記撮像光学系21の結像位置に設けられ、撮像光学系21が集光した光を受光して電気信号に光電変換する前記撮像素子22と、撮像素子22の近傍基端側に配設され、当該撮像素子22を駆動すると共に撮像素子22から出力された撮像信号に所定の処理を施すドライバIC23と、ドライバIC23の基端側に設けられ、導波路(可撓性導波管)150(詳しくは後述する)を介して信号の送受信をするための送受信アンテナ27(詳しくは後述する)と、を有する。
【0073】
前記撮像素子22は、本実施形態においては、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサであって、かつ、いわゆるフルハイビジョン相当以上の画素数である200万画素以上の画素数を有するイメージセンサを採用する。
【0074】
前記ドライバIC23は、撮像素子22が出力した電気信号に対してノイズ除去およびA/D変換を行うアナログフロントエンド(AFE)24と、撮像素子22の駆動タイミングおよびAFE24等における各種信号処理のパルスを発生するタイミングジェネレータ(TG)25と、前記送受信アンテナ27を接続し、前記可撓性導波管150を介してAFE24が出力したデジタル信号をビデオプロセッサ3における画像処理部との間で送受信するための送受信回路26と、撮像素子22の動作を制御する図示しない制御部と、を有する。
【0075】
前記送受信回路26は、いわゆるMMIC(monolithic microwave integrated circuit;モノシリックマイクロ波集積回路)により形成される、ミリ波・サブミリ波通信回路である。
【0076】
また前記ドライバIC23は、本実施形態においては、前記アナログフロントエンドAFE24、タイミングジェネレータTG25、送受信回路26等の各回路が全てシリコンCMOSプロセスにより作成され、十分に小型化されている。
【0077】
また、撮像素子22とドライバIC23とは、セラミック基板28を介して接続され、また、当該セラミック基板28(図3等参照)にはコンデンサ29等の複数の受動部品が搭載されている。
【0078】
一方、ビデオプロセッサ3は、内視鏡2における前記撮像ユニット20から出力される画像信号に対して所定の画像処理を施す前記画像処理部としての画像信号処理回路31と、内視鏡2における撮像素子22等に対して供給するための電源を生成する電源供給回路32と、前記可撓性導波管150を介して内視鏡2における撮像ユニット20と所定の信号の送受信を行うための送受信回路33と、送受信回路33に接続された送受信アンテナ34と、を備える。
【0079】
なお、前記画像信号処理回路31は、撮像素子22およびドライバIC23を制御するための制御信号(例えば、クロック信号、同期信号等)を生成し、前記撮像素子22およびドライバIC23に向けて送出する。
【0080】
なお、ビデオプロセッサ3における前記送受信回路33も、前記送受信回路26と同様に、いわゆるMMIC(monolithic microwave integrated circuit;モノシリックマイクロ波集積回路)により形成される。
【0081】
また、図2に示すように、内視鏡2における前記挿入部6、操作部7およびユニバーサルコード8内には、上述したように信号伝送路としての前記可撓性導波管150が内設されるが、これらユニバーサルコード8等の内部には前記可撓性導波管150と並行して、各種信号線が配設される。
【0082】
すなわち、ユニバーサルコード8内には、図2に示すように、ビデオプロセッサ3における画像信号処理回路31から供給される各種制御信号を伝送する制御信号線41、電源供給回路32から供給される電源を伝送する電源線42およびグランド線(GND線)43が、それぞれ配設される。
【0083】
そして、内視鏡2における撮像素子22およびドライバIC23における前記各回路には、前記制御信号線41を介して所定の制御信号(例えば、クロック信号、同期信号等)が供給されるようになっている。
【0084】
同様に、内視鏡2における前記撮像素子22およびドライバIC23における前記各回路には、前記電源線42およびグランド線(GND線)43を介して、ビデオプロセッサ3の電源供給回路32から電源が供給されるようになっている。
【0085】
<可撓性導波管および送受信回路並びに撮像ユニットについて>
次に、本実施形態にかかる内視鏡システムにおける導波路(可撓性導波管)および送受信回路、並びにこれらの周辺回路(撮像ユニット等)について説明する。
【0086】
本発明は、誘電率の高さ、誘電正接の小ささ、適切な可撓性の3条件を適切に満たす誘電体混合材料を含むミリ波領域(サブミリ波を含む)で用いる可撓性導波管、当該可撓性導波管を有する画像伝送装置、当該可撓性導波管を有する内視鏡、および、内視鏡システムを提供する。
【0087】
また、本発明は、当該内視鏡における撮像部とビデオプロセッサにおける画像処理部とを結ぶ信号伝送方式として従来用いられてきた、リードワイヤによる信号伝送方式および光ファイバーによる信号伝送方式に代わり、ミリ波またはサブミリ波(おおよそ30~600GHzの周波数を有する電波)を通す導波路(可撓性導波管)による信号伝送方式を新たに提案するものでもある。
【0088】
なお、本実施形態においてミリ波、サブミリ波は、ミリからサブミリオーダ(0.5~10mm程度)の波長をもつ電波を指すものとする。
【0089】
図2に示すように、撮像ユニット20は、挿入部6の最先端に配設された先端硬性部10において、被検体像を入光する撮像光学系21の後方に配設される。また、撮像ユニット20は、上述したように、被検体像を撮像して光電変換により所定の画像信号を出力する撮像素子22等を含むとともに、当該撮像ユニット20からは挿入部基端側に向けて導波路(可撓性導波管)150が延設されるようになっている。
【0090】
また撮像ユニット20は、上述したように、撮像光学系21が集光した光を受光して電気信号に光電変換する前記撮像素子22と、撮像素子22の近傍基端側に配設され、当該撮像素子22を駆動すると共に撮像素子22から出力された撮像信号に所定の処理を施すドライバIC23と、ドライバIC23の基端側に設けられ、可撓性導波管150を介して信号の送受信をするための送受信アンテナ27と、を有する。
【0091】
ドライバIC23は、上述したように、アナログフロントエンド(AFE)24、タイミングジェネレータ(TG)25、送受信回路26および図示しない制御部等を有するが、撮像素子22とはセラミック基板28を介して接続されるようになっている。
【0092】
<可撓性導波管の構成>
図3は、第1の実施の形態の可撓性導波管および撮像ユニットの構造を示した要部拡大斜視図であり、図4は、第1の実施の形態の可撓性導波管および撮像ユニットの構造を一部断面にて示した要部拡大斜視図である。また、図13は、第1の実施の形態の可撓性導波管に係る外部導体および内部誘電体の構成を示した拡大斜視図、図14は長手方向に垂直な方向の断面を示した拡大断面図である。
【0093】
なお、図3図4図13図14において、可撓性導波管150の外部導体153は所定の厚みを持って表現されているが、図面は模式的なものであり、当該外部導体153の形状、各部材の厚みと幅との関係、各部材の比率等は現実とは異なる。
【0094】
前記ドライバIC23の基端側には、図3図4に示すように、前記ドライバIC23のパッケージに一体化された前記送受信アンテナ27を挟んで、ミリ波またはサブミリ波を通す前記可撓性導波管150の先端部が接続されている。
【0095】
この可撓性導波管150(以下、導波管150とも記す)は、可撓性を有し、先端硬性部10に配設された前記ドライバIC23にその先端側が接続された後、挿入部6の基端側に向けて延出されるようになっている。
【0096】
より詳しくは、可撓性導波管150は、挿入部6においてドライバIC23よりさらなる基端側、すなわち、先端硬性部10における前記ドライバIC23の配設箇所より基端側部をはじめ、より基端側の前記湾曲部9および可撓管部を含めた挿入部6の内部を挿通した後、操作部7内部およびユニバーサルコード8の内部を挿通し、ビデオプロセッサ3に至る位置に配設されるようになっている。
【0097】
なお、前記可撓性導波管150の基端側は、ユニバーサルコード8の一端に設けたコネクタにおける変換を経てビデオプロセッサ3に接続されるものであってもよい。
【0098】
前記可撓性導波管150は、撮像ユニット20とビデオプロセッサ3における前記画像処理部(画像処理回路31)とを結ぶ信号伝送路であって、少なくとも一部がミリ波またはサブミリ波を伝搬する導波路である。
【0099】
また前記可撓性導波管150は、図13図14にあるように、長手方向に誘電率が均一、かつ長手方向に断面が同一形状を呈する断面がリッジ形状を呈する内部誘電体151と、内部誘電体151の外周を覆う位置に配設された外部導体153を有する。外部導体153は可撓性を有しており、外部導体153の外部導体凹面153a,153bに、内部誘電体151のリッジ形状部151a,151b(凹部)と並行して配置する押圧部材156a,156bが配設され、当該押圧部材156a,156bによって、外部導体153の内側表面と前記内部誘電体表面とが密着している。
【0100】
また、押圧部材156a,156bによって、外部導体153の内側表面を内部誘電体151のリッジ形状部151a,151b(凹部)と並行に、かつ内部誘電体151の中心に向かって押し付けて変形させて密着維持した状態を保持するために、押圧部材156a,156bの外側から、弾性を備えた筒状部材155を配置する。
【0101】
<可撓性導波管における内部誘電体および外部導体>
図15は、第1の実施形態の可撓性導波管に係る外部導体および内部誘電体の構成を示した要部拡大斜視図、図16は、長手方向に垂直な方向の断面を示した要部拡大断面図である。
【0102】
本実施形態において、可撓性導波管150は、長手方向に誘電率が均一、かつ長手方向に断面が同一形状を呈する線状の内部誘電体151と、前記内部誘電体153の外周を覆う位置に配設され、可撓性を有する筒状により形成された金属層を含む外部導体153を有する。
【0103】
内部誘電体151は、長径と短径の比率が長手方向において一定となる断面形状を有し、かつ、長径方向の少なくとも一辺にはリッジ形状部151a,151b(凹部)を備える。具体的には、図16に示すように、長辺と短辺を有する形状を呈し、かつ長辺の中点を中心にして、所定の幅と深さを備えた凹部を呈し、
長辺 a=2.53mm、短辺=1.265mm、
凹部の最大幅s=0.9325mm、凹部の深さd=0.3mm
に設定される。また、本実施形態において内部誘電体の比誘電率εr=1.3に設定される。
【0104】
因みに、本実施形態において、「誘電率が均一」とは、導波管内部を伝搬する電波(ミリ波またはサブミリ波)の波長オーダーの寸法でみたときに均一であることを意味するものである。すなわち、波長オーダーよりも1~2桁以上寸法の異なる構造による誘電率分布は、導波管内部を伝搬する電波には影響を与えないため、本実施形態においては、これを含めて誘電率が均一と表現している。
【0105】
なお、本実施形態において、内部誘電体151は、例えば、発泡PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)や発泡ポリエチレンのような可撓性を備えた誘電体材料の利用を想定する。あるいは、母材である樹脂材料(例えばPTFEやポリエチレン等の無極性樹脂)と結晶材料(例えばαアルミナ等の誘電損失の小さい結晶材料を粉末化したもの)とを混合した誘電体混合材料を利用してもよい。
【0106】
一方、外部導体153は、内部誘電体151の外周部を覆うように配設された所定の金属層部を含む。ここで、金属には、例えば金、銀、銅、アルミニウムといった導電率の高い金属が設定される。なお、本発明において金属層部には導電率の良い金属層を用いることが好ましい。
【0107】
<断面がリッジ形状を呈した導波管の細径化効果の検討>
ここで、本発明に関し、断面がリッジ形状を呈した導波管の細径化効果について説明する。
【0108】
内部誘電体の断面形状を図17のように定義する。aを導波管の長辺方向寸法(長辺)とし、短辺方向寸法は、長辺方向寸法の1/2、すなわちa/2とする。また、長辺の中点を中心とした凹部を設け、凹部の幅(リッジ幅)をs、深さ(リッジ深さ)をdとする。
【0109】
このとき、あるリッジ深さdのときの導波管長辺aとリッジ幅sに着目して、遮断周波数が同じ値(例えば60GHz)をとるように導波管長辺aとリッジ幅sを変化させたとき、内部誘電体の寸法と導波管の伝搬領域の関係は、図18に示すような曲線グラフとなる。この曲線は、導波管の伝搬領域境界、すなわち遮断周波数(遮断波長)を示しており、ハッチングで示した部分の範囲で導波管内を電波が伝搬できることを示している。
【0110】
この考え方に基づき、内部誘電体の比誘電率εr=1.3、遮断周波数を60GHzとして、内部誘電体の外皮を完全導体としたシミュレーションモデル(SM1;図19)を作製し、電磁界シミュレータを用いた伝送シミュレーションを実施した。ここで記号の意味合いは図18に示した通りである。当該シミュレーションの結果を図20に示す。
【0111】
この結果は、前記シミュレーション結果から得られた、導波管の長辺a、リッジ幅s、リッジ深さdを変えたときの伝搬領域境界を表している。また、図20中の点(A)は、リッジ幅s=0かつリッジ深さd=0、すなわちリッジの無い導波管を表している。この結果から、リッジ幅sとリッジ深さdが大きいほど導波管長辺の長さaを小さくすることができること、すなわち、導波管を「細くする」ことが出来ることが分かる。
【0112】
なお、図20は、内部誘電体の比誘電率εr=1.3、遮断周波数を60GHzとしたときの結果であるが、この結果は、内部誘電体の比誘電率、遮断周波数を変えることで変化する。
【0113】
図21は、遮断周波数を40GHz(Vバンド:50~75GHzの周波数帯を伝搬可能)、内部誘電体の比誘電率を1.3としたときの、導波管の長辺a、リッジ幅s、リッジ深さdを変えたときの伝搬領域境界を算出したものである。
【0114】
この結果を検証するため、図21の(A)と(B)で示した箇所について、それぞれ図22図23図24図25に示すシミュレーションモデル(図22図23:モデルA(SM-A)、図24図25:モデルB(SM-B))を作製し、伝送シミュレーションを実施した。モデルA(SM-A)、モデルB(SM-B)の共通仕様として、内部誘電体151A(SM-A),151B(SM-B)の比誘電率εr=1.3、誘電正接tanδ=0、外部導体153A(SM-A),153B(SM-B)の材質を純銅相当(電気伝導率:59×10^6[S/m])、外部導体153A、153Bの厚さを0.1mm、導波管長=20mmとした。
【0115】
ここで図22図23は、前記共通仕様に基づいた、リッジが無い断面形状のシミュレーションモデルA(SM-A)である。また図24図25は、前記共通仕様に基づいた、リッジが有る断面形状のシミュレーションモデルB(SM-B)であり、リッジ幅s=0.9mm、リッジ深さd=0.3mmとし、前述の図18で示した断面形状と同等のリッジ幅、リッジ深さとしている。
【0116】
図28は、図22図25の導波管モデルにおける伝送シミュレーション結果(周波数ごとの伝送特性)である。横軸は周波数(GHz単位)、縦軸は伝送特性をデシベル(dB)単位で示しており、縦軸の数値が0に近いほど、伝送特性が良いことを示している。
【0117】
図28において、実線はモデルA(SM-A)、点線はモデルB(SM-B)の伝送特性を示している。モデルA(SM-A)、モデルB(SM-B)ともに遮断周波数は ほぼ40GHz付近となっており、60GHzのミリ波周波数において安定した伝送特性が得られることが分かる。また、内部誘電体の最外径寸法、即ち長辺aで比較すると、リッジ形状の無いモデルA(SM-A)は3.3mmに対して、リッジ形状の有るモデルB(SM-B)は、2.53mmであり、導波管の断面寸法が小さくなっている、すなわち「導波管の径を細くできる」ことが分かる。
【0118】
<第1の実施形態の可撓性導波管の具体的な構成>
上記検証を踏まえた具体的な可撓性導波管の構造について説明する。
【0119】
本実施形態で示す可撓性導波管150の形状は、前述した図15と同じであり、図24図25に示した形状と長径、リッジ幅、リッジ深さが一致しており、長辺方向のリッジ部が半円形状となっている点、及び短辺方向が曲線である点が異なっている。図15の形状によって、内部誘電体151の表面と、外部導体153の密着性をより高めることができ、導体層の断面形状を安定させることができる。
【0120】
図15で示す形状についてもシミュレーションモデルC(SM-C)を作製し(図26図27参照)、伝送シミュレーションを実施した。ここで、内部誘電体の比誘電率及び誘電正接、外部導体材質及び厚さ、導波管長は、図24図25で示したシミュレーションモデルと同じ条件とした(これをモデルC(SM-C)と呼ぶことにする)。
【0121】
図29は、図24図25、及び図15図26図27参照)の導波管モデルにおける伝送シミュレーション結果(周波数ごとの伝送特性)である。横軸は周波数(GHz単位)、縦軸は伝送特性をデシベル(dB)単位で示しており、縦軸の数値が0に近いほど、伝送特性が良いことを示している。図29において、実線はモデルB(SM-B)、点線はモデルC(SM-C)の伝送特性を示している。
【0122】
モデルC(SM-C)は、モデルB(SM-B)と比較すると、遮断周波数が高周波側にシフトしているものの、60GHzのミリ波周波数においては、モデルB(SM-B)とほぼ同等の伝送特性が得られていることが分かる。これにより、図15図26図27参照)の形状においても、細径かつ安定した伝送特性を備えた可撓性導波管が実現できる。
【0123】
<変形例>
なお、押圧部材156a,156bは、内部誘電体151のリッジ形状151a,151bに沿った形状であれば良く、材質は、例えばシリコーンゴムや発泡PTFEなどの可撓性を備えた形状が好ましい。さらには、押圧部材156a,156bに、他の機能が付加されていても良く、例えば、光ファイバーを押圧部材として配置してライトガイドとして機能させても良く、あるいは電線を用いて、電源線、あるいは制御線として機能させても良い。さらには、中空形状を備えたチューブでも良い。例えば、内視鏡システムに本形状の可撓性導波管150を備えた場合、前記中空形状の孔から、例えば生検鉗子や高周波スネアのような処置具を挿入する経路を確保することができる。
【0124】
また、前記弾性を備えた筒状部材155は、可撓性を備えていればよく、例えば糸による製紐(組紐構造)、テープを用いた包帯巻き、熱収縮性を備えたゴムチューブを配置することにより実現できる。また、前記筒状部材155は、他の機能を付加してもよく、例えば、前記ゴムチューブを用いることにより、導波管に防水機能を備えることができる。
【0125】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0126】
本第2の実施形態に係る内視鏡システムは、その構成は基本的には第1の実施形態と同様であるので、ここでは第1の実施形態との差異のみの説明にとどめ、その他の詳細の説明は省略する。
【0127】
すなわち、本第2の実施形態に係る内視鏡システムは、第1の実施形態に対して、可撓性導波管については同様であるが、可撓性導波管の外部導体の外側に配置する押圧部材の構成を異にするものであって、その構成は基本的には第1の実施形態と同様である。
【0128】
具体的には、第1の実施形態における押圧部材156a,156bは、内部誘電体151のリッジ形状151a,151b(凹部)の長辺各一辺に1個の押圧部材を配しているのに対して、第2の実施形態では、これら複数の押圧部材を一体化した形状を備えている。また、本実施形態に示す可撓性導波管の材質、形状および伝送損失等の特性は、第1の実施形態で説明した可撓性導波管に準じたものであることを附言する。
【0129】
図30は、本発明の第2の実施形態の可撓性導波管を示した斜視図、図31は断面図である。
【0130】
第1の実施形態と同様、可撓性導波管250は、長手方向に誘電率が均一、かつ長手方向に断面が同一形状を呈する断面がリッジ形状を呈する内部誘電体251と、内部誘電体251の外周を覆う位置に配設された、可撓性を備えた外部導体253を有する。そして、外部導体253の外側に、内部誘電体251のリッジ形状部(凹部)に相対する凸形状を備えた中空構造を備えた押圧部材256によって、外部導体253の内側表面と前記内部誘電体表面とが密着している。
【0131】
より具体的には、図32に示すように、内部誘電体251がリッジ形状となっている可撓性導波管250を、内部誘電体251のリッジ形状部(凹部)に相対する凸形状を備えた中空構造を備えた押圧部材256の中空部(孔)257に挿入することにより、外部導体253が変形し、外部導体253の内側表面と前記内部誘電体251の表面とが密着することにより、図30に示す構成を得る。
【0132】
本実施形態によれば、押圧部材256を固定する筒状部材を配する必要が無く、より単純な構成で、細径かつ安定した伝送特性を備えた可撓性導波管が実現できる。
【0133】
なお、押圧部材256は、内部誘電体251のリッジ形状に沿った形状であれば良く、材質は、例えばシリコーンゴムや発泡PTFEなどの可撓性を備えた形状が好ましい。
【0134】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0135】
上述した第1~第2の実施形態は、上述の如き可撓性導波管を内視鏡に適用したが、本第3の実施形態は、上述の如き可撓性導波管を所定の画像信号を伝送する画像伝送装置に適用するものである。
【0136】
この第3の実施形態に係る画像伝送装置は、第1~第5の実施形態に示されるような内視鏡システムに限らず、いわゆるFHD(Full High Definition)を超える4K/8K画像に代表される高精細/大容量の画像信号を伝送可能とする伝送装置であって、換言すれば、基本周波数が10GHzを超えるような高速信号の伝送線路を有する伝送装置である。
【0137】
さらに、本第3の実施形態に係る当該伝送路は、数センチメートル~5メートル程度以下の長さで5Gbps以上の通信速度を実現しうるミリ波(サブミリ波を含む)領域で用いることを想定するものあって、かつ、可撓性を要するものである。
【0138】
上記の第1の実施形態として説明した誘電体材料を含む可撓性導波管は、斯様な条件を要する第3の実施形態の如き画像伝送装置にあっても適切に適用することができる。
【0139】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0140】
1:内視鏡システム
2:内視鏡
3:ビデオプロセッサ
6:挿入部
7:操作部
8:ユニバーサルコード
10:先端硬性部
20:撮像ユニット
21:撮像光学系
22:撮像素子
23:ドライバIC
26:送受信回路
27:送受信アンテナ
33:送受信回路
34:送受信アンテナ
41:制御信号線
42:電源線
43:GND線
50,150,250:可撓性導波管(導波路)
51,151,251:内部誘電体
51a,51b:リッジ形状凹部
151a,151b:リッジ形状凹部
53,153,253:外部導体
53a,53b:外部導体凹面
153a,153b:外部導体凹面
54:製紐孔
155:筒状部材
56a,56b:押圧部材
156a,156b:押圧部材
256:押圧部材
図1
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