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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】画像処理装置および画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
A61B6/03 360D
A61B6/03 360G
A61B6/03 360J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017251838
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019115545
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直輝
(72)【発明者】
【氏名】友江 剛
(72)【発明者】
【氏名】内田 祐也
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513945(JP,A)
【文献】特表2005-520661(JP,A)
【文献】特開2006-314580(JP,A)
【文献】特開2004-305610(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106228549(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンビームを用いた歯科用CTによる撮影に基づいて得られた3次元CTデータから口腔内の少なくとも1つの組織の立体形状を抽出する画像処理装置であって、
前記3次元CTデータから得られたCTの断層画像において、操作者の操作により前記口腔内の組織から所定の組織が選択されることで、前記所定の組織が選択された位置に対応した画素が有する値であって、CT値とは異なる値である第1の画素値を取得して前記選択された所定の組織に割り当てる組織割当手段と、
前記選択された位置に対応した画素を含み、なおかつ、前記取得した第1の画素値と同等の画素値を有して連続する画素群を前記3次元CTデータから探索し、前記探索された画素群からなる領域を前記所定の組織の立体形状として決定する組織領域決定手段と、
前記3次元CTデータに基づいて、前記CTの断層画像あるいは前記CTの3D画像の少なくともいずれか一方を構築して、表示手段に表示させる表示制御手段と、を備え
前記表示制御手段は、
前記探索された画素群からなる領域が前記所定の組織の立体形状として決定された場合に、前記決定された領域を抽出して前記所定の組織の立体形状の画像として前記表示手段に表示させ、
更に、前記表示制御手段は、
前記CTの断層画像が前記表示手段に表示されている場合に、前記表示されているCTの断層画像において、前記操作者の操作により局所的に選択された関心領域を構成する複数の画素が有する値であって、CT値とは異なる値である複数の画素値についての最大値と最小値との差が大きくなるように、当該複数の画素値の各々を第2の画素値に変換する画素値変換手段と、
前記関心領域の画像を前記第2の画素値で前記表示手段に表示させる選択エリア表示制御手段と、を備え、
前記組織割当手段は、前記第2の画素値で前記表示手段に表示された前記関心領域内のCTの断層画像において、前記操作者の操作により前記所定の組織が選択された場合に、前記選択された位置に対応した前記第1の画素値を取得し、
前記組織割当手段は、歯科用CTによる撮影毎に、前記口腔内の所定の組織から初めて選択された位置に対応した第1の画素値を取得したとき、取得した第1の画素値と、当該所定の組織との対応関係を撮影毎に割当情報として記憶手段に記憶させ、
前記組織割当手段は、前記口腔内の所定組織についての割当情報が記憶手段に既に記憶されている場合、操作者の操作により当該所定の組織が選択されることで、当該所定の組織から選択された位置に対応して取得した第1の画素値および割当情報から、選択された位置に対応した所定組織を判別する画像処理装置。
【請求項2】
前記表示制御手段は、
画像からノイズを除去するフィルタ手段を備え、
前記組織割当手段は、前記フィルタ手段によってノイズが除去されたCTの断層画像において、前記第1の画素値を取得する
請求項に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記組織領域決定手段は、前記画素群を探索する過程において、事前に取得された口腔内の組織のサイズを含む生体データを参照し、前記画素群からなる領域を、前記生体データにおける該当する組織のサイズに合わせて決定する
請求項1または請求項に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記組織割当手段は、
前記表示手段に前記CTの断層画像が少なくとも1つ以上表示されている場合に、当該表示されている断層画像を用いて指定された1歯についての前記CTの断層画像において、前記第1の画素値を取得する
請求項から請求項のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の画像処理装置として機能させるための画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置および画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科において、歯内療法(根管治療)やインプラント治療等のために、口腔内の組織や歯列の撮影画像が診断に用いられる場合がある。口腔内には、エナメル質、象牙質、セメント質等が硬組織として含まれ、歯肉(歯茎)、歯髄、歯根膜等が軟組織として含まれている。また、歯牙には、歯冠、歯根、根管といった部位の分類がある。
【0003】
例えば特許文献1には、根管であると予測される断面を撮影した写真を用意して、写真から立体形状を予測するソフトウェアを用いて、根管の立体形状を模擬した根管模型を製造する技術が開示されている。この従来技術では、レントゲン写真を用いた濃淡情報をもとに根管部分を識別する濃淡識別回路を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-305610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、濃淡情報を1枚のレントゲン写真から抽出するので、予測による誤差が大きいため、最終的に得られる根管の立体的形状の精度は高くなかった。この従来の手法において立体的形状の予測精度を高めるには、複数枚のレントゲン写真を必要とする。しかし、多数のレントゲン写真を用いると、被曝量が大きく、患者への負担が大きくなってしまう。つまり、従来技術では、口腔内の組織の立体形状を高精度に抽出することができなかった。
【0006】
そこで本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、口腔内の組織の立体形状を高精度に抽出することができる画像処理装置および画像処理プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る画像処理装置は、コーンビームを用いた歯科用CTによる撮影に基づいて得られた3次元CTデータから口腔内の少なくとも1つの組織の立体形状を抽出する画像処理装置であって、前記3次元CTデータから得られたCTの断層画像において、操作者の操作により前記口腔内の組織から所定の組織が選択されることで、前記所定の組織が選択された位置に対応した画素が有する値であって、CT値とは異なる値である第1の画素値を取得して前記選択された所定の組織に割り当てる組織割当手段と、前記選択された位置に対応した画素を含み、なおかつ、前記取得した第1の画素値と同等の画素値を有して連続する画素群を前記3次元CTデータから探索し、前記探索された画素群からなる領域を前記所定の組織の立体形状として決定する組織領域決定手段と、前記3次元CTデータに基づいて、前記CTの断層画像あるいは前記CTの3D画像の少なくともいずれか一方を構築して、表示手段に表示させる表示制御手段と、を備え、前記表示制御手段は、前記探索された画素群からなる領域が前記所定の組織の立体形状として決定された場合に、前記決定された領域を抽出して前記所定の組織の立体形状の画像として前記表示手段に表示させ、更に、前記表示制御手段は、前記CTの断層画像が前記表示手段に表示されている場合に、前記表示されているCTの断層画像において、前記操作者の操作により局所的に選択された関心領域を構成する複数の画素が有する値であって、CT値とは異なる値である複数の画素値についての最大値と最小値との差が大きくなるように、当該複数の画素値の各々を第2の画素値に変換する画素値変換手段と、前記関心領域の画像を前記第2の画素値で前記表示手段に表示させる選択エリア表示制御手段と、を備え、前記組織割当手段は、前記第2の画素値で前記表示手段に表示された前記関心領域内のCTの断層画像において、前記操作者の操作により前記所定の組織が選択された場合に、前記選択された位置に対応した前記第1の画素値を取得し、前記組織割当手段は、歯科用CTによる撮影毎に、前記口腔内の所定の組織から初めて選択された位置に対応した第1の画素値を取得したとき、取得した第1の画素値と、当該所定の組織との対応関係を撮影毎に割当情報として記憶手段に記憶させ、前記組織割当手段は、前記口腔内の所定組織についての割当情報が記憶手段に既に記憶されている場合、操作者の操作により当該所定の組織が選択されることで、当該所定の組織から選択された位置に対応して取得した第1の画素値および割当情報から、選択された位置に対応した所定組織を判別し、前記画素値変換手段は、前記割当情報が記憶手段に既に記憶されている場合に、前記関心領域を構成する複数の画素値の各々を前記第2の画素値に変換する
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る画像処理装置および画像処理プログラムによれば、口腔内の組織の立体形状を高精度に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る画像処理装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る画像処理装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】CT画像の画面表示例である。
図4】関心領域の断層画像の一例を示す説明図である。
図5】関心領域において選択された複数の位置を模式的に示す説明図である。
図6】関心領域から抽出された組織を模式的に示す画面表示例である。
図7】関心領域から抽出された他の組織を模式的に示す画面表示例である。
図8】関心領域の断層画像の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る画像処理装置について詳細に説明する。
まず、画像処理装置の構成について図1を参照して説明する。
画像処理装置1は、歯科用の3次元CTデータ21から口腔内の少なくとも1つの組織を抽出するものである。画像処理装置1は、例えば、一般的なコンピュータで実現することができ、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、HDD(Hard Disk Drive)と、入力/出力インタフェースとを含んで構成されている。このコンピュータには、3次元CTデータ21から各断層画像や3D画像を表示する画像表示プログラムや、CT画像から所定の画像処理により口腔内の組織を抽出する動作プログラムがインストールされている。
【0011】
画像処理装置1には、例えば入力手段2および表示手段3が接続されている。
入力手段2は、画像処理装置1で行う処理や、表示手段3に表示する断層の設定など制御のために必要な情報を入力するものであり、例えばキーボードやマウス等のデバイスである。表示手段3は、断層画像等を表示するものであり、例えば、液晶ディスプレイ等である。画像処理装置1に接続された表示手段3の画面上には、GUI(Graphical User Interface)により、ウィンドウ、アイコン、ボタン等が表示され、操作者(歯科医師)はそれらをマウス等の入力手段2で選択する操作を行うことができる。
【0012】
画像処理装置1は、処理手段10と、記憶手段20と、を備えている。
記憶手段20は、3次元CTデータ21や各種データを記憶するものであり、例えば磁気ディスク、光ディスク、一般的な画像メモリ等から構成される。
【0013】
3次元CTデータ21は、コーンビームを用いる歯科用CT(CBCT:Cone-Beam Computed Tomography)による撮影により得られた3次元データ(ボリュームデータ)をもとにしている。このボリュームデータは、例えば512×512×512個のボクセルに分けられ、各ボクセルの画素値を計算し、画像を再構成したものを3次元CTデータ21としている。一般的な医科用CTは、X線を扇状に照射するファンビームを用いるが、CBCTではX線を円錐状に照射するコーンビームを用いて撮影する。CBCTは、一般的な医科用CTで用いるCT値を正確に算出することはできないことが知られている。3次元CTデータ21は、上記CT値ではなく、各組織の濃淡値を画素値としている。各組織の濃淡値は、撮影毎に値が変わるものであり、患者毎にも値が変わるものである。この3次元CTデータ21としては、例えば、各ボクセルの画素値が予め計算されているデータを事前に入力しておく。なお、画像処理装置1が、CBCTのX線撮像手段により取得された測定データをもとに画像再構成処理を行って3次元CTデータ21を生成する処理を行うこととしてもよい。
【0014】
処理手段10は、組織割当手段11と、組織領域決定手段12と、表示制御手段13と、を備えている。なお、処理手段10は、例えば、記憶手段20に格納されたプログラムをCPUがRAMに展開し実行することにより実現される。
【0015】
組織割当手段11、組織領域決定手段12、および表示制御手段13には次の関係がある。組織割当手段11および組織領域決定手段12は、操作者によって入力されたコマンドにより表示制御手段13によって生成されて表示手段3に表示されたCTの断層画像に基づいて処理を行う。また、表示制御手段13は、表示されたCTの断層画像において、組織割当手段11および組織領域決定手段12の処理によって特定された口腔内の組織について立体形状を抽出して表示手段3に表示させる。
以下、各手段について詳細に説明する。
【0016】
組織割当手段11は、3次元CTデータ21から得られたCTの断層画像において、口腔内の組織から選択された位置に対応した画素の画素値を取得し、取得した画素値を、その組織に割り当てるものである。
口腔内の組織についての位置の選択は、操作者によって行われる。選択された位置に対応した画素値(ボクセル値)は、3次元CTデータ21から取得される。3次元CTデータ21のボクセルと、表示された断層画像において選択された位置を表す座標とは対応付けられている。
【0017】
組織割当手段11により取得された画素値と、割り当てられた組織との対応関係は、割当情報22として記憶手段20に記憶される。割当情報22において、取得した画素値割り当てられた組織は、取得した画素値を含む所定範囲の画素値と対応付けられる。ここで、所定範囲の画素値とは、例えば、画素値を8ビット(0~255)で表すとき、取得した画素値±1としたり、取得した画素値±3%としたりするなど、予め固定的に決めておくことができる。この割当情報22は、操作者によって例えば歯髄が選択されたときに取得された濃淡値(画素値)を歯髄に割り当てた情報を有している。なお、濃淡値は、前記したように撮影毎に異なるので、割当情報22も撮影毎に異なる。
【0018】
操作者が口腔内の組織を初めて選択する際には、例えばプルダウンメニューから組織名を選択できるようにしておいてもよい。そして、組織割当手段11は、口腔内の組織から初めて選択された位置に対応した画素値を取得したとき、取得した画素値を、その組織に割り当てる。これにより、組織割当手段11により取得された画素値と、割り当てられた組織との対応関係は、割当情報22として記憶手段20に記憶される。
【0019】
口腔内の所定組織の割当情報22が既に記憶されている場合、操作者がこの組織の所定位置を選択すると、組織割当手段11は、この組織から選択された位置に対応して取得した画素値および割当情報22から、選択された位置に対応した所定組織を判別する。
【0020】
組織領域決定手段12は、CTの断層画像において口腔内の組織から選択された位置に対応した画素を含み組織割当手段11により取得した画素値と同等の画素値を有して連続する画素群を探索する。組織領域決定手段12は、この探索により得られた画素群からなる領域を当該組織の立体形状として決定する。ここで、連続する画素群とは、幅方向・高さ方向・奥行方向にそれぞれ連続する画素(ボクセル)をいう。すなわち、組織領域決定手段12は、断層の面内方向(例えば幅方向・高さ方向)だけでなく、断層の積層方向(例えば奥行方向)も加えた全方向という意味でCT断層画像全体において、取得画素値と同等の画素値を有して連続する画素群を探索する。このような全方向に探索する範囲は、ボリュームデータ全体(例えば512×512×512個のボクセル)であってもよいし、一部でも構わない。また、同等とは、取得した画素値と同じ画素値、または、取得した画素値を含む前記所定範囲内の画素値のことをいう。
【0021】
表示制御手段13は、3次元CTデータを読み込み、CTの断層画像や3D画像を構築し、得られたCTの断層画像や3D画像を表示手段3に表示させるものである。
【0022】
表示制御手段13は、CTの断層画像において、組織領域決定手段12により決定した領域を抽出して口腔内の組織の画像として表示手段3に表示させる。ここで、表示手段3に表示させる画像とは、CTの断層画像や3D画像を意味する。3D画像であれば立体形状を直感的に把握できる。CTの断層画像であっても、立体形状の把握に有用である。例えば、異なる複数の方向の断層画像や、同じ方向の複数の断層画像を用いることで、立体形状を把握することができる。
【0023】
本実施形態では、表示制御手段13は、画素値変換手段14と、選択エリア表示制御手段15と、を備えている。
画素値変換手段14は、表示されたCTの断層画像において局所的に選択された関心領域に含まれる画素値についての最大値と最小値との差が大きくなるように、関心領域に含まれる画素値を変換するものである。画素値変換手段14は、関心領域内の画素値をスケーリングして、より大きな範囲の画素値に分け直す。本実施形態では、一例として、関心領域に含まれる画素値について、画素値の幅を255に拡大する。すなわち、関心領域に含まれる画素値についての最大値を255に置き換え、最小値を0に置き換えるように比例配分する。処理前に例えば関心領域内の画素値が50~100の範囲にあれば、画素値の幅は50であり、画素値の中央値は75である。この場合、処理後に、画素値の幅が255になったのなら、関心領域内のコントラストが大きくなる。したがって、操作者は、画面に表示された画像から組織の区別がし易くなる。
選択エリア表示制御手段15は、画素値変換手段14によって変換された後の画素値で関心領域の画像を表示手段3に表示させるものである。
【0024】
以下、関心領域をROI(Region of Interest)ともいう。なお、ROIを指定するための情報は、入力手段2によって、表示された断層画像に対して入力される。例えば操作者がマウス等の入力手段2を操作して断層画像上に重畳するように矩形を描くと、処理手段10が矩形の4隅の座標値を検出することで、この矩形をROIとして設定することができる。このようにROIを設定することで、組織領域決定手段12は、取得画素値と同等の画素値を有して連続する画素群を探索する処理において計算すべき範囲を、ボリュームデータのうちROIに相当する一部の範囲だけに抑えることができる。その結果、高速な画像処理を実行することができる。
【0025】
上記画素値変換手段14および選択エリア表示制御手段15の処理により、関心領域の画像は、組織毎の濃淡の区別が大きくなる。したがって、操作者は、関心領域の画像において、口腔内の組織の区別がし易くなるので、組織を選択し易くなる。
そして、組織割当手段11は、画素値変換手段14によって変換された画素値で表示手段3に表示されたCTの断層画像(ROIの画像)において、口腔内の組織から選択された位置に対応した画素値を取得する。
【0026】
また、本実施形態では、表示制御手段13は、画像からノイズを除去するフィルタ手段16を備えている。
フィルタ手段16は、各断層画像や関心領域の画像からノイズを除去することができる。ここでは、フィルタ手段16は、例えば選択エリア表示制御手段15により生成される画像(ROIの画像)に対する平滑化フィルタとして機能する。平滑化フィルタとしては、例えば、バイラテラルフィルタ(Bilateral Filter)、移動平均処理(Moving Average)、ガウシアンフィルタ(Gausian Filter)、メディアンフィルタ(Median Filter)等を挙げることができる。このうち、画像からノイズを除去する際に輪郭までぼけでしまうことを防ぐ観点からは、エッジ保存の非線形フィルタであるバイラテラルフィルタを用いることが好ましい。
【0027】
例えばアキシャル画像が表示されているときに操作者が1歯を選択した後、続いて、その選択した1歯について表示された別の断層画像において関心領域を選択すると、フィルタ手段16によってノイズが除去された関心領域の画像の画面が表示手段3に表示されることになる。つまり、本実施形態では、組織割当手段11は、フィルタ手段16によってノイズが除去されたCTの断層画像(ROIの画像)において、口腔内の組織から選択された位置に対応した画素値を取得する。これにより、操作者は、口腔内の組織を判別し易く、組織の所望の位置を選択し易くなる。
【0028】
次に、画像処理装置1による処理の流れについて図2を参照(適宜、図1参照)して説明する。まず、画像処理装置1は、操作者の操作にしたがって、表示制御手段13によって、3次元CTデータ21を読み込む(ステップS1)。なお、ここでは、3次元CTデータ21を画像処理装置1の内部の記憶手段20から表示制御手段13によって読み込むこととしたが、3次元CTデータ21を外部のCT装置から読み込むこととしてもよい。
次に、例えば、操作者が、入力手段2によって、所定の断層を指定することで、画像処理装置1は、表示制御手段13によって、表示手段3に断面を表示させる(ステップS2)。なお、初期画面として、図3に示すような3D画像表示画面および断層画像表示画面を表示させるようにしてもよい。
【0029】
ここで、画面表示の一例について図3を参照して説明する。
図3において、左上の画像は、下顎のアキシャル(軸位断、横断)画像である。アキシャル方向はFH(Foot-Head)方向である。
右上の画像は、3D画像である。なお、CTBTでは、被爆量を最小限にしてX線の照射範囲を絞ったコーンビームを用いており、3D画像は、上顎および下顎およびその周辺近傍のみの立体形状となる。なお、A、L、Hは、前方、左方、頭部方向を示す。
右下の画像は、サジタル(矢状断)画像である。サジタル方向はLR(Left-Right)方向である。
左下の画像は、コロナル(冠状断、前額断)画像である。コロナル方向は、AP(Anterior-Posterior)方向である。
ここでは図示を省略したが、CT画像のビューワでは、一般的に、CT画像(アキシャル画像、サジタル画像、コロナル画像)には、直交する2つの直線が表示される。そして、これらの直線の位置や角度を変更することにより、目的とする断層の抽出を簡単に行うことができる。
また、画像処理装置1は、一般的なCT画像表示ソフトウェアのように、各断層画像において、関心領域を指定し、指定した関心領域の画像だけを別の表示画面に拡大表示することもできる。よって、関心領域において、口腔内の組織の位置を選択することが好ましい。
【0030】
治療対象の歯(治療歯)を指定するには、CTの断層画像のいずれか(アキシャル画像、サジタル画像、コロナル画像)を用いて指定することができる。また、これらのどの断層画像からでも治療歯における関心領域を選択することが可能である。
ここでは、一例として、操作者は、表示手段3に表示されたアキシャル画像を用いて、治療歯として1歯を指定することとする。アキシャル画像によれば、上顎の全歯や下顎の全歯を一覧することが可能なので、アキシャル画像は初めに治療歯を発見するのに好都合である。
【0031】
また、以下では、一例として、操作者は、例えば、アキシャル画像上で、入力手段2によって、指定した1歯についての所望の断層位置を指定することで、指定された断層位置に対応したサジタル画像を表示させ、そのサジタル画像において関心領域を指定するものとして説明する。なお、選択された位置を表す座標については、アキシャル画像-サジタル画像間のように各断層画像間で各々の座標をマッチングさせることができる。
次に、画像処理装置1は、表示制御手段13によって、ROI(関心領域)の選択を受け付ける(ステップS3)。
続いて、好ましくは、画像処理装置1は、画素値変換手段14によって、関心領域として選択されたエリア(選択エリア)の画素値を変換し(ステップS4)、フィルタ手段16によって、ノイズ除去フィルタリング(ステップS5)を行った上で、選択エリア表示制御手段15によって、関心領域の断面を表示する(ステップS6)。
【0032】
図4は、関心領域の断層画像の一例を示す説明図である。図4に示す関心領域は、図3の右下のサジタル画像において、下顎の図3において中央の歯を矩形状に取り囲むように設定されたものである。
操作者は、表示手段3に表示された関心領域の画像において、指定した1歯における組織について、その所望の位置を選択する。これにより、画像処理装置1は、表示制御手段13によって、口腔内の組織の選択を受け付ける(ステップS7)。
【0033】
これにより、画像処理装置1の組織割当手段11は、アキシャル画像を用いて指定された1歯について、サジタル画像において、口腔内の組織から選択された位置に対応した画素値を取得する(ステップS8)。ここでは、操作者が例えば歯髄の所定位置を選択するものとする。操作者は、画像上で選択したい位置を、例えばマウスでクリックしてもよい。あるいは、図4に示すように、水平方向の第1の直線L1と、垂直方向の第2の直線L2とを移動させる操作を行うことによって、直線L1,L2の交点によって位置を指定してもよい。
【0034】
図5は、関心領域において選択された複数の位置を模式的に示す説明図である。図5に示す関心領域は、図4に示した関心領域と同じものである。ここでは、直線L1,L2の交点によって指定した歯髄の位置を円で模式的に示している。また、この関心領域において、操作者が、同様な手法で選択した象牙質の位置を三角形で模式的に示している。さらに、この関心領域において、操作者が、同様な手法で選択したエナメル質の位置を四角形で模式的に示している。
【0035】
次に、画像処理装置1は、組織領域決定手段12によって、口腔内の組織の領域を決定する(ステップS9)。すなわち、組織領域決定手段12は、関心領域の画像において、ステップS8で取得した画素値と同等の画素値を有して連続する画素群からなる領域を決定する。そして、表示制御手段13は、決定した領域を抽出して口腔内の組織の画像として表示手段3に表示させる(ステップS10)。
【0036】
図6は、関心領域から抽出された組織を模式的に示す画面表示例である。ここでは、関心領域中の1歯から第1の組織として抽出されたエナメル質101と、同じ1歯から第2の組織として抽出された象牙質102とを同時に表示させることで、歯牙100の立体画像を表示した例を模式的に示している。
【0037】
図7は、関心領域から抽出された他の組織を模式的に示す画面表示例である。ここでは、関心領域中の1歯から第3の組織として抽出された歯髄200の立体画像を表示した例を模式的に示している。また、同じ1歯から第1の組織および第2の組織としてそれぞれ抽出されたエナメル質101および象牙質102を透過させて歯髄200と共に表示させることで、歯髄200の立体形状や配置を認識し易くすることができる。
【0038】
歯髄200は、象牙質102の内部に含まれている神経組織や毛細血管である。象牙質の内部のうち、髄室の部分にある歯髄は冠部歯髄、根管の部分にある歯髄は根部歯髄と呼ばれている。例えば、根管治療では、リーマーやファイルなどを用いた根管の機械的な清掃を行うことで根管が拡大され、感染した神経や血管を取り除いて薬剤を詰める作業が行われる。根管は、曲がったり分岐したり、複雑な形状を有しており、個人差も大きい。歯科医師の思いもよらない複雑な形状をしていることもあり、リーマーやファイルなどのドリルに偶発的なトラブルが起こる虞もある。しかしながら、本実施形態によれば、診断対象の患者をX線CT撮影して画像処理により得られた関心領域における歯髄の立体形状、すなわち、根管の立体形状を抽出することができる。歯科医師は、この根管の立体形状を治療開始前に予め把握しておくことで、治療中に、例えば根管形状や歯根形状を直感的に読み取ることができる。これにより、読み取りミスおよび読み取り負担を低減させ、診療の効率および治療の成功率を向上させるなど、難しい治療を手助けすることができる。
【0039】
本実施形態によれば、歯科医師である操作者が、CTの断層画像を観察して、当該画像において所望の口腔組織の位置を自ら選択する操作を行うので、画像処理装置1は、CT画像の濃淡値から口腔組織を正確に判別することができる。また、画像処理装置1によれば、CTの断層画像から、治療歯について、例えばエナメル質、象牙質、歯髄等の口腔組織の立体形状を高精度に抽出することができる。
【0040】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。また、以下のように変形してもよい。例えば、一般的なコンピュータを、画像処理装置として機能させる画像処理プログラムにより動作させることで実現することも可能である。このプログラムは、通信回線を介して提供することも可能であるし、CD-ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0041】
また、例えば、図1に示すように、記憶手段20は、オプションとして、生体データ23を記憶することとしてもよい。
生体データ23は、この画像処理装置1のオプション機能として、診断対象の患者の生体特異性に対応しようとする場合に利用される統計的な生体データである。
生体データ23は、過去の臨床により多数の患者から事前に取得された生体組織の寸法のデータであって、例えば歯牙のサイズ等を含んでいる。この生体データ23は、年齢や性別毎に、あるいは人種毎に構築された統計データである。
診断対象の患者によっては、先天的または事故等の後天的な理由によって顎等の硬組織が欠損していたり、以前の治療によって神経等の軟組織が除去されていたりする場合がある。このような組織欠損部位では、同じ画素値が連続することから誤検出の虞が考えられる。
【0042】
そこで、画像処理装置1のオプション機能を利用しているとき、組織領域決定手段12は、組織割当手段11により取得した画素値と同等の画素値を有して連続する画素群を探索する過程において、生体データ23を参照し、連続する画素群の終端の位置を、生体データ23における該当する組織のサイズに合わせて領域を決定する。
例えば、関心領域をアキシャル画像で選択している場合、組織領域決定手段12は、生体データ23における歯や歯の組織の高さ方向の統計的な寸法から大きく外れていないかマッチングを行う。これにより、高さ方向に欠損があったとしても組織領域の誤検出を防止すると共に、診断対象の患者の生体特異性をカバーして診断に堪え得る組織形状を抽出することができる。
【0043】
また、前記実施形態では、治療歯の1歯を指定することとして説明したが、これに限らず、オプションとして例えば全歯を指定して全歯に共通する組織を抽出する動作モード(全歯モード)を備えることとしてもよい。このような全歯モードの一例としては、エナメル質モードを挙げることができる。エナメル質モードでは、例えば、上顎の全歯のエナメル質だけを同じ色で表示したり、下顎の全歯のエナメル質だけを同じ色で表示したりする。
【0044】
また、治療済の歯をあらためて治療する際に、治療歯に詰め物や被せ物がある場合、詰め物等を抜いた後に、CT撮影を行って3次元CTデータ21を取得してもよい。あるいは、この場合に、詰め物等を抜かずにCT撮影を行って3次元CTデータ21を取得してもよい。詰め物等を抜かない場合、詰め物等が存在している状態のままで組織の形状を抽出する動作モード(詰め物モード)を備えることとしてもよい。
【0045】
また、ROIの選択を受け付ける前記ステップS3の変形例として、例えば、初めに治療歯を指定したアキシャル画像上でそのまま関心領域も指定することも可能である。図8に示す関心領域は、図3の左上のアキシャル画像において、下顎第一大臼歯(患者にとっての右側)を矩形状に取り囲むように設定されたものである。操作者は、この関心領域の画像上で選択したい位置を、例えばマウスでクリックしてもよい。あるいは、図示するように、水平方向の第1の直線L1と、垂直方向の第2の直線L2とを移動させる操作を行うことによって、直線L1,L2の交点によって位置を指定してもよい。なお、図8のアキシャル画像にはエナメル質が表示されていない。アキシャル画像においてエナメル質を選択したい場合には、エナメル質を含むように断層の位置をFH方向においてずらして表示させればよい。
【0046】
また、操作者が選択した位置を、組織毎に異なる色で表示してもよい。また、「歯髄を選択した後に、確定ボタンを押して下さい」というような文字ガイダンスを表示してもよいし、同じ内容の音声ガイダンスを出力するようにしてもよい。さらに、複数の組織を続けて選択するようにナビゲーションをしてもよい。
【0047】
また、組織領域決定手段12の処理において、組織割当手段11によって取得した画素値と同等の画素値を含む所定範囲については、予め固定的に決めておくものとして説明したが、取得した画素値に応じて、所定範囲を変動させてもよい。変動させる場合、例えば、取得した画素値が100以上であれば、取得した画素値±10としたり、取得した画素値が50以下であれば、取得した画素値±1としたりしてもよい。このようにすることで、濃淡画像において白っぽく表示される硬組織や黒っぽく表示される軟組織の境界の位置精度を高めた画像とすることができる。
【0048】
また、表示制御手段13は、ウィンドウ幅(WW:Window Width)やウィンドウレベル(WL:Window Level)の設定ができるように構成してもよい。この場合、操作者は、CTの断層画像を表示させる際に、必要に応じて、自らが読影し易いように微調整して画像を表示させる。口腔内の硬組織と軟組織は濃度値が大きく異なるので、例えば歯髄を見易く表示させるときに設定すべきWWやWLの値と、エナメル質を見易く表示させるときに設定すべきWWやWLの値と、は大きく異なる。注目する組織に応じて当該組織がくっきり見えるようにWWやWLを微調整することにより、関心領域の画像において、組織割当手段11によって取得する画素値と同等な画素値を有する領域の精度を高めることができる。その結果、抽出される組織の立体的な形状の精度をいっそう向上させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 画像処理装置
2 入力手段
3 表示手段
10 処理手段
11 組織割当手段
12 組織領域決定手段
13 表示制御手段
14 画素値変換手段
15 選択エリア表示制御手段
16 フィルタ手段
20 記憶手段
21 3次元CTデータ
22 割当情報
23 生体データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8