(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】カンキツ果皮からのナリンギンの製法
(51)【国際特許分類】
C07H 17/07 20060101AFI20221005BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20221005BHJP
【FI】
C07H17/07
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2018054082
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】516028749
【氏名又は名称】株式会社ヘルシーワンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】服部 憲治郎
(72)【発明者】
【氏名】淵崎 文雄
(72)【発明者】
【氏名】北角 暁美
(72)【発明者】
【氏名】鶴本 新一郎
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101704867(CN,A)
【文献】特開平11-178537(JP,A)
【文献】特開2006-327998(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104876987(CN,A)
【文献】特開2010-119344(JP,A)
【文献】P. E. SHAW et al.,Debittering Citrus Juices with β-Cyclodextrin Polymer,JOURNAL OF FOOD SCIENCE,1983年,48,pp.646-647
【文献】P. E. SHAW et al.,Improved Flavor of Navel Orange and Grapefruit Juices by Removal of Bitter Components with β-Cyclodextrin Polymer,J. Agric. Food Chem.,1984年,32,pp.832-836
【文献】C. J. WAGNER JR et al.,Reduction of Grapefruit Bitter Components in a Fluidized β-Cyclodextrin Polymer Bed,JOURNAL OF FOOD SCIENCE,1988年,53,pp.516-518
【文献】安藤 浩毅 他,未利用柑橘資源の高度利用技術の開発,鹿児島県工業技術センター研究報告,日本,2011年,25,pp.15-19
【文献】P. E. SHAW et al.,Selective Removal of Bitter Compounds from Grapefruit Juice and from Aqueous Solution with Cyclodextrin Polymers and with Amberlite XAD-4,J. Agric. Food Chem.,1986年,34,pp.837-840
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 17/07
A23L 33/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンキツ類の
中果皮を粉砕すること、
中果皮とセルラーゼの混合物を30分~3時間作用させることによりセルラーゼ処理すること、
中果皮とシクロデキストリンポリマーの混合物を30分~2時間振盪させることにより中果皮を
同中果皮の重量の3%~40%(w/w)のシクロデキストリンポリマーと接触させること、
及び
シクロデキストリンポリマーにエタノールを接触させることによりシクロデキストリンポリマーから
ナリンギンを溶出させること
、を含む
ナリンギンを製造する方法であって、
前記シクロデキストリンポリマーがγシクロデキストリンポリマーであり、
前記カンキツ類が晩白柚であることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンキツ類の中果皮(アルベド:白い海綿状の部分)から簡便な手段で効率的に健康機能成分ナリンギンを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熊本八代地域の特産物としての晩白柚(バンペイユ)は4,859.7gで世界一の大きさを持つカンキツとしてギネス記録で知られている。その中果皮(白い綿状)にはナリンギンが高濃度に存在する(非特許文献1)。ナリンギンはカンキツ特有の爽やかな苦み成分である一方、健康機能としてダイエット効果、血流改善効果、アレルギー抑制効果、生活習慣病の予防・改善効果が示されている。配位した糖ラムノシルグルコース基を酸、またはアルカリによる加水分解により糖のないアグリコンとしてのナリンゲニンが得られるが、脳の血管性疾患のリスク低下が示されている。農水省国立栄養・健康研究所によれば、カルシュウム拮抗剤の作用に副作用を起こす成分はナリンギンやナリンゲニンでなく、ベルガモン、ジヒドロキシベルガモンと判明している。ナリンギンは晩白柚の他、グレープフルーツ、はっさく、文旦、甘夏ミカン、大橘、河内晩柑に多く含まれる。
【0003】
これまでグレープフルーツなど柑橘類の果汁中の苦み成分であるナリンギンの除去を目的とした数多くの報告がある。たとえば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体(非特許文献2)、アクリル-ジビニルベンゼン共重合体を吸着材としたカラム法による除去が報告されている(非特許文献3)。また、炭化物とカリウムを高温高圧内で接触させたのち炭酸ガスにより分離する方法が報告されている(特許文献1)。また一方で、シクロデキストリンをマスキング剤としてナリンギンの苦みを抑制したことが報告されている(非特許文献4)。ナリンギンの体内での吸収促進のためにシクロデキストリンが用いられた例もある(特許文献2)。
【0004】
ナリンギン単体の調製は、植物原料を100℃湯中で抽出し、濃縮後、吸着性樹脂を用いてクロマトグラフィーにかけて、70%アルコールで溶離抽出し、得られた沈殿を繰り返し再結晶することにより行われている。あるいは、植物体から湯中で抽出しクロマトグラフィーにかけて80%アルコールで溶離回収し沈殿を得た。水中で5回再結晶することにより行われている。あるいは、70℃の湯中で抽出した後、アルコール濃度60%で抽出、沈殿をろ過して除いたのちアルコールを回収してポリアミド樹脂を用いてクロマトグラフィーにかけて、80%アルコールで遊離させて行われている。アルコールを回収し水中で4回再結晶してえられたナリンギンが鎮咳去痰の目的に用いられている(特許文献3)。
【0005】
これまでナリンギンの製造のためにシクロデキストリンを応用した報告は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-156328号公報
【文献】特許第5000884号
【文献】特表2006-515365
【非特許文献】
【0007】
【文献】工藤、荒木、上野、熊本県産業技術センター研究報告、No.46, 36-40,(2008)
【文献】Jonson、R.L., Chandler, .B.V.,(J.Sci.Food Agric., 33,287(1983)
【文献】前田、高橋、三宅、伊福、日食工誌、32、759(1985)
【文献】Misaki,M., Konno,A., Miyawaki,M.,Yasumatsu,K., Proc. Int. Soc. Citriculture, 2, 924(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで、カンキツ類の中果皮(白い綿繊維状)からナリンギンを簡便に抽出分離したという報告はない。疎水性成分吸着剤であるセパビーズSP70(三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社)が、グレープフルーツ・ジュース中のナリンギン除去に適用されているが、これは濁り成分のない水溶液への使用に限られている。また、セパビーズSP70は、ナリンギン分子に対する選択性はなく、おなじく疎水性であるリモネンやその他の疎水性成分が混在して吸着されるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ナリンギンの効率的な抽出方法について様々な検討を行った結果、カンキツ類の中果皮から簡便にナリンギンを回収する方法を見出すことに成功した。具体的には、吸着材としてシクロデキストリンポリマー(以下、「CDP」という)を水中で用いて抽出し、吸着剤からエタノールを用いて溶離することで、ナリンギン標準物質とHPLCでRtが一致する白い沈殿としてナリンギンが得られることを発見した。
【0010】
これまでに知られている合成樹脂型の疎水性吸着剤、例えばセパビーズSP70は、あくまで水溶液中の疎水的分子を吸着するのみで、本出願のように一定の大きさをもつ繊維状の植物体からの取込は不可能である。出願者らが用いたCDPにより初めて、不均一な懸濁液から簡便にナリンギンを抽出することが可能となった。実際、実施例4に示すように同じ量の晩白柚の水懸濁液を用いた比較実験では、セパビーズSP70ではナリンギンが抽出できなかったのに対し、CDPはナリンギンを純度95%で抽出することができた。よって、本発明により初めてカンキツ類の細片化した繊維状固形物を含有する懸濁液のまま使用しても、液中でCDPと接触させることにより目的のナリンギンを抽出することが可能となった。
【0011】
具体的には、本発明は以下の発明に関する:
(1) ナリンギンを製造する方法であって、カンキツ類の中果皮をCDPと接触させること、及びCDPから溶出させることを含む方法。
(2) CDPと接触させる前に、中果皮を酵素処理することを含む、(1)に記載の製造方法。
(3) 酵素がセルラーゼである、(2)に記載の製造方法。
(4) 酵素処理前にカンキツ類の中果皮を粉砕することを含む、(1)~(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5) 前記CDPから溶出が、CDPにアルコールを接触させることにより行われることを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
(6) アルコールがエタノールである、(5)に記載の製造方法。
(7) カンキツ類の中果皮の重量の3%~40%(w/w)のCDPを用いることを特徴とする、(1)~(6)のいずれか1項に記載の製造方法。
(8) カンキツ類の中果皮の10%~40%(w/w)のCDPを用いることを特徴とする、(7)に記載の製造方法。
(9) カンキツ類の中果皮の20%~40%(w/w)のCDPを用いることを特徴とする、(8)に記載の製造方法。
(10) CDPがγCDPであることを特徴とする、(1)~(9)のいずれか1項に記載の製造方法。
(11) 酵素処理が、中果皮と酵素の混合物を60℃で30分~3時間作用させることにより行われる、(1)~(10)のいずれか1項に記載の製造方法。
(12) CDPとの接触が、中果皮とCDPの混合物を振盪させることにより行われることを特徴とする、(1)~(11)のいずれか1項に記載の製造方法。
(13) 前記振盪が30分~2時間行われることを特徴とする、(12)に記載の製造方法。
(14) 前記振盪が1~2時間行われることを特徴とする、(13)に記載の製造方法。
(15) 更に、水溶性白沈部分を回収することを含む、(1)~(14)のいずれか1項に記載の製造方法。
(16) 得られたナリンギンの純度が80%以上である、(1)~(15)のいずれか1項に記載の製造方法。
(17) カンキツ類が晩白柚である、(1)~(16)のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法を用いることにより、カンキツ類の細片化した繊維状固形物を含有する懸濁液をそのまま用いて、液中でCDPを添加することにより目的のナリンギンを吸着させることができることから、簡便で効率的にナリンギンを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】使用したγCDPの量と得られたナリンギンの量との関係を表すグラフである。晩白柚中果皮は50gを使用した。縦軸はナリンギンの収量(g)を表し、横軸は用いたγCDPの量(g)を表す。
【
図2】γCDPと振盪しながら接触させた時間と得られたナリンギンの量との関係を表すグラフである。晩白柚中果皮は50gを使用した。γCDPは10g用いた。縦軸はナリンギンの収量(g)を表し、横軸は振盪時間(時間)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のナリンギンの製造方法は、カンキツ類の中果皮をCDPと接触させること、及びCDPから溶出させることにより行われる。
【0015】
本明細書において「カンキツ類」は、ミカン属(カンキツ属)、キンカン属、カラタチ属、クリメニア属、エレモシトラス属、及びミクロシトラス属に属する植物の果実を意味し、例えば、晩白柚、グレープフルーツ、はっさく、文旦、甘夏ミカン、大橘、及び河内晩柑を挙げることができる。
【0016】
CDPは、シクロデキストリン(CD)を3次元架橋して得られるポリマーであり、水性溶媒及び有機溶媒に不溶性である。CDにはアルファ型、ベータ型、ガンマ型が存在することが知られており、ブドウ糖が6個環状になったものがα(アルファ)-シクロデキストリン、同7個のものがβ(ベータ)-シクロデキストリン、同8個のものがγ(ガンマ)-シクロデキストリンである。これらに対応して、CDPもアルファ型(αシクロデキストリンのポリマー)、ベータ型(βシクロデキストリンのポリマー)、及びガンマ型(γシクロデキストリンのポリマー)が存在し、それぞれ、αCDP、βCDP、及びγCDPと呼ばれる。本発明で用いるCDPの型はα、β、γのいずれであってもよいが、好ましくはγCDPである。CDPは和光純薬株式会社などから市販されているものを使用することができる。また、CDPは、セルロースとの複合材料としても販売されており、例えば、一辺が約1cmのキューブ型の形状を持つCDPが販売されている(株式会社サイディン、日本)。
【0017】
カンキツ類の中果皮はCDPとの接触前に粉砕されていることが好ましい。粉砕は、カンキツ類の中果皮に水を加えてミキサー、又は乳鉢と乳棒などを用いて物理的なせんだん力を与えて行うことができる。加える水の量は採用した手段で粉砕が可能な量であれば特に制限されるものではないが、例えば、中果皮の重量の半分~2倍の間の任意の重量(例えば、等量)の水を用いることができる。粉砕後の中果皮の大きさは特に制限されるものではないが、好ましくは、1mm以下である。
【0018】
また、好ましくは、中果皮は(粉砕後)CDPとの接触前に酵素処理される。処理に使用する酵素は中果皮の細胞壁組織が破壊される酵素であれば特に制限されるものではなく、エンドグルカナーゼ及びエキソグルカナーゼなどのセルラーゼ、プロテアーゼ、及びペクチナーゼなどを用いることができ、好ましくはセルラーゼである。酵素処理は、中果皮と酵素の混合物を各酵素の適温(例えば、セルラーゼの場合60℃)で、30分~3時間作用させることにより行うことができ、その後高温(例えば、80℃以上)とすることにより、酵素を失活させて反応を停止させることができる。
【0019】
CDPとカンキツ類の中果皮との接触は、水性液中で行われる。使用するCDPの量は目的の量のナリンギンを吸着可能な量であれば特に制限されるものではないが、より効率的にナリンギンを抽出するために、カンキツ類の中果皮の重量の3%~40%(w/w)、10~40%(w/w)、20~40%(w/w)またはその間の任意の数値の割合とすることができる。また、CDPとカンキツ類の中果皮との接触は、好ましくは、中果皮とCDPの混合物を振盪させることにより行われる。CDPとカンキツ類の中果皮との接触時間(振盪時間)は、30分~2時間、又は1~2時間とすることができる。
【0020】
CDPは不溶性であることから、ナリンギンを吸着したCDPはろ過又は固体のCDPをピンセットで回収するなどの物理的に液相と固相を分離する手段により回収することができる。
【0021】
回収されたCDPからのナリンギンの抽出は、CDPにアルコールを接触させることにより行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、又はヘキサノールなどを用いることができる。CDPからナリンギンの抽出は、好ましくは、CDPをアルコール中で振盪させることにより行われる。CDPのアルコールとの接触時間(振盪時間)は、30分~2時間、又は1~2時間とすることができる。
【0022】
CDPをアルコール抽出すると、底部に黄色い芳香性のオイル状部分が得られ、容器壁部分に水溶性白沈部分が得られる。このうち、ナリンギンは、アルコールに不溶性の水溶性白沈を回収することにより得ることができる。本発明の方法によれば、ナリンギンはかなり高い純度で回収することができる。例えば、ナリンギンは、80%以上、85%以上、90%以上又は95%以上の純度で得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0024】
(実施例1)
2062gの晩白柚を果皮、パルプ、及び果実に分割した。重量比は、それぞれ13%、29%、及び58%であった。白い綿状繊維部分(白色綿状中果皮)に、等量の水を加えて、家庭用ブレンダー(Vitantonio)にて破砕し細片化した。次に酵素処理としてセルロシンAC40(エイチビーアイ(株)製)を0.2%加えpH5、60℃で1時間作用させたのち、80℃で1時間加熱して反応を停止させた。室温に戻したのち、151g当たり5g~15gのCDP(αCDP、βCDP、又はγCDP)を加えて振盪機で振盪した。水からCDPを取り出し、CDPが浸る程度に最小量のエタノールに加えて1時間振盪し吸着成分を解離した。成分は底部の黄色い芳香性のオイル状部分と容器壁部分の水溶性白沈部分に分離した。その結果を表1に示した。
【0025】
【0026】
白色沈殿部分がナリンギンであることは、HPLC(ODSカラム、アセトニトリル:20mM リン酸水溶液を20:80から50:50まで30分間グラジエントで用いた)でナリンギン標準物質(和光)とRtが完全に一致することを確認した。また、UV検出(280nm)で、標準物質と95%以上同等であった。水からの再結晶でより大きな白色結晶を生成した。純度は98%以上であった。
【0027】
(実施例2)用いた白色綿状中果皮の仕込み量と用いたγ-CDPの関係
白色綿状中果皮は50gを用い、取込み吸着の振盪時間を1時間とし、解離のためのエタノールに浸漬した振盪時間1時間とする他は実施例1と同様に行った。得られた油状物と白沈の合計収量g数と用いたγ-CDPの量gとの関係を
図1に示した。この結果から白色綿状中果皮50g当たりγ-CDP10g~20gが好適であることが判明した。
【0028】
(実施例3)
白い綿状の中果皮50gに対しγ-CDP 10gを用いた水中の吸着について、振盪時間を変化させて生成物の収量を求めた。その結果を
図2に示す。この結果、振盪時間は1時間が最適であった。
【0029】
(実施例4)
グレープフルーツ・ジュース中の苦み成分ナリンギンを除去するために使われる疎水性合成樹脂セパビーズSP70(三菱ケミカルアクア・ソリューションズ)吸着剤とγ-CDP吸着剤を用いたナリンギンの吸着を比較した。晩白柚のナリンギン捕集について比較した結果を表2に示す。
【0030】
【0031】
この結果はγ-CDPがナリンギン捕集に優れることを示す。SP70樹脂はジビニルベンゼン系の芳香族系合成吸着剤で0.25mm程度の粒子で7nm程度の細孔半径を持つ。この吸着剤と植物組織細片との分離を考えると、かなり透明な水溶液でなければ処理できない。処理液を調製するために懸濁不溶物をろ過や遠心で十分に除去する必要があるため、懸濁不溶物からのナリンギンの抽出が出来ず、取込み量が制限される。懸濁物からのナリンギンを取り逃がすことから、水溶液中に溶解したナリンギンだけを抽出することとなる。また、疎水性細孔の大きさの分布から必ずしも選択的に分子を取り込むことはできない。このような観点から、SP70はナリンギン捕集にはCDPに比較して有利ではないと考ええられる。
【0032】
(実施例5)PC計算によるγ-CDとの包接適合性
ナリンギンの分子構造を次に示す。
【0033】
【0034】
これとα-CD、β-CDおよびγ-CDとの包接におけるエネルギー安定性をChem 3Dソフトを用いファンデルワールス力の考慮によるMM2計算から包接前後の立体構造エネルギー差を比較した。結果を表3に示す。
【0035】
【0036】
この結果ナリンギンはγ-CD空洞との包接で最も安定化することが予測された。この結果は実施例1と整合するものであった。