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特許7152786集音装置、指向性制御装置及び指向性制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】集音装置、指向性制御装置及び指向性制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20221005BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20221005BHJP
   G10L 21/0208 20130101ALI20221005BHJP
   G10L 21/0232 20130101ALI20221005BHJP
   G10L 21/0264 20130101ALI20221005BHJP
【FI】
H04R3/00 320
H04R1/40 320A
G10L21/0208 100A
G10L21/0232
G10L21/0264 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019526684
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2018019488
(87)【国際公開番号】W WO2019003716
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017125687
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519002139
【氏名又は名称】シーイヤー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】村山 好孝
(72)【発明者】
【氏名】本多 寧
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-127459(JP,A)
【文献】特開平07-131886(JP,A)
【文献】特開2016-146547(JP,A)
【文献】特開2016-025469(JP,A)
【文献】特開2017-067666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0279714(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 1/40
G10L 21/0208
G10L 21/0232
G10L 21/0264
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元で表現される特定方向に指向性を付ける集音装置であって、
周囲の音を測定して集音信号を出力する、少なくとも5個の無指向性マイクと、
前記無指向性マイクが出力する集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号を生成するビームフォーマと、
前記2種類の指向性信号に基づいてノイズ成分を抑制するノイズ処理部と、
を備え、
前記無指向性マイクは、四面体の各頂点方向を向いた当該無指向性マイクの組み合わせを2種類選択できるように、立体配置され、
前記2種類の四面体は、合同でも相似でもないか、位置が異なるか、向きが異なるか、又はこれらの組み合わせの関係を有し、
前記ビームフォーマは、
前記無指向性マイクの出力から選ばれる4個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、
前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記4個の集音信号とは異なる組み合わせの4個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成し、
前記ノイズ処理部は、
前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、
を特徴とする集音装置。
【請求項2】
前記少なくとも5個の無指向性マイクが出力する集音信号の感度を揃える感度補正部を更に備え、
前記ノイズ処理部は、前記感度補正部による補正を経た前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、
を特徴とする請求項1記載の集音装置。
【請求項3】
前記特定方向の入力を受け付ける入力部を更に備え、
前記ビームフォーマは、前記入力部が受け付けた前記特定方向に指向性を形成すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の集音装置。
【請求項4】
複数のカメラを有し、周囲各方向を撮影するパノラマ撮像部を更に備え、
前記少なくとも5個の無指向性マイクは、前記複数のカメラ間の合間に配分され、又は複数のカメラを支えるユーザ把持用の棒に取り付けられていること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の集音装置。
【請求項5】
前記ノイズ処理部は、
前記第1の指向性信号と前記第2の指向性信号を1サンプル毎に交互に入れ替えることで、一対の交換信号を生成する交換部と、
前記交換信号の片方に係数mを乗じた上で、前記交換信号の誤差信号を生成する誤差信号生成部と、
前記誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算部と、
逐次更新された係数mを前記第1の指向性信号又は前記第2の指向性信号に乗じて出力する積算部と、
を備えること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の集音装置。
【請求項6】
3次元で表現される特定方向に指向性を付ける指向性制御装置であって、
少なくとも5個の無指向性マイクが生成した各集音信号を記憶する記憶部と、
前記記憶部の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号を生成するビームフォーマと、
前記2種類の指向性信号に基づいてノイズ成分を抑制するノイズ処理部と、
を備え、
前記無指向性マイクは、四面体の各頂点方向を向いた当該無指向性マイクの組み合わせを2種類選択できるように、立体配置され、
前記2種類の四面体は、合同でも相似でもないか、位置が異なるか、向きが異なるか、又はこれらの組み合わせの関係を有し、
前記ビームフォーマは、
前記記憶部から選ばれる4個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、
前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記4個の集音信号とは異なる組み合わせの4個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成し、
前記ノイズ処理部は、
前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、
を特徴とする指向性制御装置。
【請求項7】
前記少なくとも5個の集音信号の感度を揃える感度補正部を更に備え、
前記ノイズ処理部は、前記感度補正部による補正を経た前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、
を特徴とする請求項6記載の指向性制御装置。
【請求項8】
前記ノイズ処理部は、
前記第1の指向性信号と前記第2の指向性信号を1サンプル毎に交互に入れ替えることで、一対の交換信号を生成する交換部と、
前記交換信号の片方に係数mを乗じた上で、前記交換信号の誤差信号を生成する誤差信号生成部と、
前記誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算部と、
逐次更新された係数mを前記第1の指向性信号又は前記第2の指向性信号に乗じて出力する積算部と、
を備えること、
を特徴とする請求項6又は7記載の指向性制御装置。
【請求項9】
3次元で表現される特定方向に指向性を付ける指向性制御方法であって、
少なくとも5個の無指向性マイクが生成した各集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号を生成するビームフォーミングステップと、
前記2種類の指向性信号に基づいてノイズ成分を抑制するノイズ処理ステップと、
を含み、
前記無指向性マイクは、四面体の各頂点方向を向いた当該無指向性マイクの組み合わせを2種類選択できるように、立体配置され、
前記2種類の四面体は、合同でも相似でもないか、位置が異なるか、向きが異なるか、又はこれらの組み合わせの関係を有し、
前記ビームフォーミングステップは、
少なくとも5個の前記集音信号のうちの4個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、
前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記4個の集音信号とは異なる組み合わせの4個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成し、
前記ノイズ処理ステップは、
前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、
を特徴とする指向性制御方法。
【請求項10】
前記少なくとも5個の集音信号の感度を揃える感度補正ステップを更に含み、
前記ノイズ処理ステップは、前記感度補正ステップによる補正を経た前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、
を特徴とする請求項9記載の指向性制御方法。
【請求項11】
前記ノイズ処理ステップは、
前記第1の指向性信号と前記第2の指向性信号を1サンプル毎に交互に入れ替えることで、一対の交換信号を生成する交換ステップと、
前記交換信号の片方に係数mを乗じた上で、前記交換信号の誤差信号を生成する誤差信号生成ステップと、
前記誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算ステップと、
逐次更新された係数mを前記第1の指向性信号又は前記第2の指向性信号に乗じて出力する積算ステップと、
を備えること、
を特徴とする請求項9又は10記載の指向性制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の方向に指向性を付ける指向性コントロールに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のマイクで周囲の音を収集し、複数の集音信号から特定方向に指向性を付けた音波信号を生成する技術が各種提案されている。複数のマイクには個体差があり、マイク固有の回路ノイズや風切り音といったマイク間で無相関のノイズが発生する。そこで、これらノイズを抑制する方法が検討されているところである。
【0003】
無相関のノイズを抑制する方法として、非線形性のアルゴリズムを使ったスペクトルサブトラクション法がある(例えば特許文献1参照)。このスペクトルサブトラクション法は、雑音のパワースペクトルの平均値を推定し、雑音を含んだ入力信号のパワースペクトルから差し引くことで雑音を低減させる方法である。
【0004】
また、アンビソニックマイク(Ambisonic Microphones)を用い、再生時に記録済み信号同士を加算或いは減算処理することで、指向性を制御する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。アンビソニックマイクとは、正四面体の各頂点から外側に向く4つのマイクを配置したマイクロフォンユニットである。このマイクロフォンユニットは、指向性マイクを備え、指向性マイクで囲まれる中心に空間部を備える。
【0005】
このアンビソニックマイクを用いた指向性制御方法では、まず4つの単一指向性マイクが出力した集音信号に基づいて、Bフォーマットと呼ばれる信号表現に変換する。Bフォーマットと呼ばれる信号表現には、0次である無指向性の集音信号と、1次と呼ばれる上下、左右及び前後に双方向性の各集音信号が含まれる。そして、0次の集音信号と1次の各周音信号を、指向性を与える特定方向に適した比率で足し合わせる。これにより、アンビソニックマイクを用いて特定方向に指向性が付けられる。
【0006】
ここで、アンビソニックマイクでは、集音信号の位相差が正確に保持されている必要がある。集音信号の位相差が変わってしまうと、本来再生時の演算で信号が強調または減衰される効果が望めなくなってしまうためである。このため、アンビソニックマイクを用いた集音方法では、無相関性のノイズを信号処理で抑制することが困難である。そこで、アンビソニックマイクを用いる場合には、4つの単一指向性マイクの個体差が小さくなるように、4つの単一指向性マイクの選択を念入りに行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】S.F.Boll、「Suppression of Acoustic Noise in Speech Using Spectral Subtraction」、IEEE Trans. ASSP.、1979年4月2日、Vol.27、pp.113-120
【文献】D.G. Malham、「SPATIAL HEARING MECHANISMS and SOUND REPRODUCTION」、[online]、2008年5月6日、University of York、[平成29年6月23日検索]、インターネット〈URL:https://www.york.ac.uk/inst/mustech/3d_audio/ambis2.htm〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非線形性のアルゴリズムを使ったスペクトルサブトラクション法で無相関のノイズを抑制しようとすると、1チャンネル毎に個別の挙動の処理が行われるため、4つのマイクの集音信号間の位相差が集音時から変化してしまうと、位相差が変化した信号同士を加算または減算して指向性を得ようとしても、信号の強調や減衰ができなくなり、指向性に影響を与えてしまう。そのため、アンビソニックマイクのマイク信号毎にノイズを抑制することはできず、SN比を向上させることができない。
【0009】
また、単一指向性マイクは、背面の音響ポートから風が進入する虞があり、乱気流が発生してウインドノイズが大きくなる。従って、風切り音を原因とするノイズは、アンビソニックマイクでは十分に解消できず、SN比が悪くなる。また、4つの単一指向性マイクの個体差が小さくなるように、4つの単一指向性マイクを選択しようとすると、多大なコストが発生してしまい、このコストを抑制しようとすると、4つの単一指向性マイクに固有の回路ノイズ等を起因として、SN比が悪くなってしまう。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために成されたものであり、その目的は、複数のマイクを用いて指向性を付ける際に良好なSN比を達成することができる集音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る集音装置は、N次元で表現される特定方向に指向性を付ける集音装置であって、周囲の音を測定して集音信号を出力する、少なくともN+2個の無指向性マイクと、前記無指向性マイクが出力する集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号を生成するビームフォーマと、前記2種類の指向性信号に基づいてノイズ成分を抑制するノイズ処理部と、を備え、前記ビームフォーマは、前記無指向性マイクの出力から選ばれるN+1個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記N+1個の集音信号とは異なる組み合わせのN+1個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成し、前記ノイズ処理部は、前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、を特徴とする。
【0012】
前記少なくともN+2個の無指向性マイクが出力する集音信号の感度を揃える感度補正部を更に備え、前記ノイズ処理部は、前記感度補正部による補正を経た前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制するようにしてもよい。
【0013】
3次元で表される特定方向に指向性を付け、少なくとも5個以上の前記無指向性マイクを備え、前記ビームフォーマは、前記無指向性マイクの出力から選ばれる4個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記4個の集音信号とは異なる組み合わせの4個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成するようにしてもよい。
【0014】
前記無指向性マイクは、四面体の各頂点方向を向いた当該無指向性マイクの組み合わせを2種類選択できるように、立体配置され、前記2種類の四面体は、合同でも相似でもないか、位置が異なるか、向きが異なるか、又はこれらの組み合わせの関係を有するようにしてもよい。
【0015】
2次元で表される特定方向に指向性を付け、少なくとも4個以上の前記無指向性マイクを備え、前記ビームフォーマは、前記無指向性マイクの出力から選ばれる3個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記3個の集音信号とは異なる組み合わせの3個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成するようにしてもよい。
【0016】
前記特定方向の入力を受け付ける入力部を更に備え、前記ビームフォーマは、前記入力部が受け付けた前記特定方向に指向性を形成するようにしてもよい。
【0017】
複数のカメラを有し、周囲各方向を撮影するパノラマ撮像部を更に備え、前記少なくともN+2個の無指向性マイクは、前記複数のカメラ間の合間に配分され、又は複数のカメラを支えるユーザ把持用の棒に取り付けられているようにしてもよい。
【0018】
前記ノイズ処理部は、前記第1の指向性信号と前記第2の指向性信号を1サンプル毎に交互に入れ替えることで、一対の交換信号を生成する交換部と、前記交換信号の片方に係数mを乗じた上で、前記交換信号の誤差信号を生成する誤差信号生成部と、前記誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算部と、逐次更新された係数mを前記第1の指向性信号又は前記第2の指向性信号に乗じて出力する積算部と、を備えるようにしてもよい。
【0019】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る指向性制御装置は、N次元で表現される特定方向に指向性を付ける指向性制御装置であって、少なくともN+2個の無指向性マイクが生成した各集音信号を記憶する記憶部と、前記記憶部の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号を生成するビームフォーマと、前記2種類の指向性信号に基づいてノイズ成分を抑制するノイズ処理部と、を備え、前記ビームフォーマは、前記記憶部から選ばれるN+1個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記N+1個の集音信号とは異なる組み合わせのN+1個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成し、前記ノイズ処理部は、前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、を特徴とする。
【0020】
前記少なくともN+2個の集音信号の感度を揃える感度補正部を更に備え、前記ノイズ処理部は、前記感度補正部による補正を経た前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制するようにしてもよい。
【0021】
前記ノイズ処理部は、前記第1の指向性信号と前記第2の指向性信号を1サンプル毎に交互に入れ替えることで、一対の交換信号を生成する交換部と、前記交換信号の片方に係数mを乗じた上で、前記交換信号の誤差信号を生成する誤差信号生成部と、前記誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算部と、逐次更新された係数mを前記第1の指向性信号又は前記第2の指向性信号に乗じて出力する積算部と、を備えるようにしてもよい。
【0022】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る指向性制御装置は、N次元で表現される特定方向に指向性を付ける指向性制御方法であって、少なくともN+2個の無指向性マイクが生成した各集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号を生成するビームフォーミングステップと、前記2種類の指向性信号に基づいてノイズ成分を抑制するノイズ処理ステップと、を含み、前記ビームフォーミングステップは、少なくともN+2個の前記集音信号のうちのN+1個の集音信号に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号を生成するとともに、前記第1の指向性信号の生成に用いられた前記N+1個の集音信号とは異なる組み合わせのN+1個の集音信号に基づき、前記第1の指向性信号と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号を生成し、前記ノイズ処理ステップは、前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制すること、を特徴とする。
【0023】
前記少なくともN+2個の集音信号の感度を揃える感度補正ステップを更に含み、前記ノイズ処理ステップは、前記感度補正ステップによる補正を経た前記2種類の指向性信号間で無相関の音成分を抑制するようにしてもよい。
【0024】
前記ノイズ処理ステップは、前記第1の指向性信号と前記第2の指向性信号を1サンプル毎に交互に入れ替えることで、一対の交換信号を生成する交換ステップと、前記交換信号の片方に係数mを乗じた上で、前記交換信号の誤差信号を生成する誤差信号生成ステップと、前記誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算ステップと、逐次更新された係数mを前記第1の指向性信号又は前記第2の指向性信号に乗じて出力する積算ステップと、を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第1の指向性信号と第2の指向性信号に含まれるノイズ成分を無相関とすることができ、無相関成分を抑制する処理によって、良好なSN比を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】集音装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】マイクロフォンユニットを示す模式図である。
図3】マイクロフォンユニットから二種類のマイク群を選択する例を示す模式である。
図4】指向性制御装置の詳細構成を示すブロック図である。
図5】6つの無指向性マイクのオリジナルのポーラーパターンを示す模式図である。
図6】感度補正部の詳細構成を示すブロック図である。
図7】多点制御法に係り、4つの無指向性マイクロフォンの周りに設定される制御点を示す模式図である。
図8】ビームフォーマの構成を示すブロック図である。
図9】ビームフォーマが出力する2つの指向性信号を示すグラフである。
図10】ノイズ処理部の構成例を示すブロック図である。
図11】集音装置の第1の適用例を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は下面図である。
図12】集音装置の第2の適用例を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は下面図である。
図13】集音装置の第3の適用例を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(構成)
図1は、集音装置の全体構成を示すブロック図である。集音装置1は、マイクロフォンユニット2と指向性制御装置3とを備える。この集音装置1は、周囲の音を収録した後で、ユーザが選択した特定方向に事後的に指向性を付ける。マイクロフォンユニット2と指向性制御装置3は、各々が電源を有し、別々に駆動可能となっている。
【0028】
ユーザは、マイクロフォンユニット2を持ち歩いて集音作業を行い、自宅やスタジオでマイクロフォンユニット2を指向性制御装置3に繋ぐ。マイクロフォンユニット2は、指向性制御装置3へ集音結果を転送し、指向性制御装置3は、ユーザからの特定方向の設定を受け付け、集音結果に対して特定方向に指向性を付けるように信号処理する。
【0029】
マイクロフォンユニット2は、複数の無指向性マイク21a,21b・・・及びフラッシュメモリ等の不揮発性メモリ22を備える。このマイクロフォンユニット2は、周囲の音をマルチチャンネルで集音し、各集音信号Sa~Sfをロウデータ(raw data)で各々記録する。集音信号Sa~Sfは、周囲各方向から到来する音成分が合成されて成る。
【0030】
無指向性マイク21a,21b・・・がアナログ出力の場合、マイクロフォンユニット2には、各々の集音信号Sa~Sfを増幅するアンプと集音信号Sa~Sfをアナログ信号からデジタル信号へ変換するコンバータとが付設され、アンプとコンバータを経たデジタルの集音信号が不揮発性メモリ22に記録される。
【0031】
指向性制御装置3は、集音信号Sa~Sfをデジタル処理するマイコン、コンピュータ又はDSPによる専用回路である。この指向性制御装置3は、装置内のハードディスクやSSDや内部ストレージ等のメモリ34に、マイクロフォンユニット2から転送された集音信号Sa~Sfを保存しておく。そして、指向性制御装置3は、各集音信号Sa~Sfを信号処理して、特定方向から到来した音成分を明瞭化し、無指向性マイク21a,21b・・・の回路系ノイズや風雑音を除いた出力信号Soを生成する。出力信号Soは、出力するスピーカ数に合わせてマルチチャンネルであってもよい。
【0032】
即ち、この指向性制御装置3は、特定方向からマイクロフォンユニット2に到来した音成分を、特定方向以外から到来した音成分と比べて相対的に強調する。言い換えれば、指向性制御装置3は、特定方向以外の方向からマイクロフォンユニット2に到来した音成分を、その到来方向と特定方向との差が付けば付くほど大きく抑制する。更に、指向性制御装置3は、各無指向性マイク21a,21b・・・の個体差に起因して生じる回路系ノイズ及び風雑音等のノイズを抑制してSN比を向上させる。
【0033】
(マイクロフォンユニット)
図2及び図3に示すように、マイクロフォンユニット2は円筒の支持部材23を備える。6つの無指向性マイク21a~21fは、隣り合う他の無指向性マイク21a~21fと等しく距離を取りながら、支持部材23の表面に取り付けられている。無指向性マイク21a,21b・・・は、振動板の前方が音場に対して開放されていればよい。
【0034】
そのため、無指向性マイク21a,21b・・・の背後に空間は不要である。従って、支持部材23は中実であっても、支持部材23の内部の、無指向性マイク21a,21b・・・に囲まれた位置に他の部品が配置されていても、支持部材23の内外が連通していなくともよい。また、無指向性マイク21a~21fの向き設定が容易であるため、支持部材23は円筒としているが、支持部材23の形状は何れでも良い。
【0035】
図3の(a)に示すように、支持部材23に内接する正六角柱を考える。このとき、6つの無指向性マイク21a~21fは、正六角柱の角のうちの6箇所に分配配置される。各分配位置は、正六角柱の一辺を挟んで隣り合わないように選択される。即ち、正六角柱の軸周りに、一方の底面から120度間隔で一つ置きに3箇所の角を選択し、他方の底面から120度間隔で一つ置きに3箇所の角を選択し、一方の底面の3箇所と他方の底面の3箇所とは、正六角柱の軸周りに60度ずらされる。
【0036】
このマイク配置は次の規則に従ったものである。即ち、まず、指向性ではなく、無指向性マイク21a,21b・・・が配置される。次に、図3の(b)及び(c)に示すように、マイクロフォンユニット2は、四面体の各頂点方向を向いた4つの無指向性マイク21a,21b・・・の組み合わせを2種類選択できるように、少なくとも5つ以上の無指向性マイクを立体配置して備える。2種類の四面体は、合同でも相似でもないか、位置が異なるか、向きが異なるか、又はこれらの組み合わせの関係を有する。四面体は、正四面体が望ましいが、これに限られない。本実施形態では、無指向性マイク21a,21c,21d,21eが1つの四面体に配置される組み合わせグループAであり、無指向性マイク21a,21b,21d,21fが他の1つの四面体に配置される組み合わせグループBである。
【0037】
2種類の四面体に重複して属する無指向性マイク21a,21b・・・が少ないほどよく、望ましくは、マイクロフォンユニット2は、8つの無指向性マイク21a,21b・・・を有する。例えば、正八角柱の軸周りに、一方の底面から90度間隔で一つ置きに4箇所の角を選択し、他方の底面から90度間隔で一つ置きに4箇所の角を選択し、一方の底面の4箇所と他方の底面の4箇所とは、正八角柱の軸周りに45度ずれている。無指向性マイク21a,21b・・・は、これら選択位置に配置されることにより、無指向性マイク21a,21b・・・が2種類の四面体に重複して属することなく、4つの無指向性マイク21a,21b・・・のグループを2種類作出できる。
【0038】
無指向性マイク21a,21b・・・が5つ以上という規則は、3次元で表される特定方向からの音成分を相対的に強調する場合に適用される。2次元で表される特定方向からの音成分を相対的に強調する場合には、少なくとも4つ以上の無指向性マイク21a,21b・・・を備えていればよい。即ち、N次元で表現される特定方向からの音成分を相対的に強調する場合、少なくともN+2個の無指向性マイク21a,21b・・・を備え、2組に重複して属する無指向性マイク21a,21b・・・をなるべく少なくするように、N+1個の無指向性マイク21a,21b・・・の組を2組作れればよい。
【0039】
(指向性制御装置)
図4は、指向性制御装置3の詳細構成を示すブロック図である。まず、1つの四面体状の配置関係を有する無指向性マイク21a,21c,21d,21eからの集音信号を1つのグループAとし、他の1つの四面体状の配置関係を有する無指向性マイク21a,21b,21d,21fからの集音信号を1つのグループBとする。そして、この指向性制御装置3は、感度補正部31、ビームフォーマ32及びノイズ処理部33を備える。
【0040】
感度補正部31は、6つの無指向性マイク21a~21fの感度を統一する。ビームフォーマ32は、グループAの集音信号Sa、Sc、Sd及びSeに基づいて特定方向に指向性を向けた第1の指向性信号S1を生成し、グループBの集音信号Sa、Sb、Sd及びSfに基づいて特定方向に指向性を向けた第2の指向性信号S2を生成する。
【0041】
ノイズ処理部33は、第1の指向性信号S1と第2の指向性信号S2の相関性成分を強調し、且つ無相関成分を抑圧する係数mを生成し、この係数mを第1の指向性信号S1に乗じることで、出力信号Soを生成する。係数mを乗じるのは、第2の指向性信号S2であってもよい。
【0042】
図5は、6つの無指向性マイク21a~21fのオリジナルのポーラーパターンを示す模式図である。図5に示すように、感度補正部31は、6つの無指向性マイク21a~21fの各集音信号Sa~Sfの一つを選択し、選択した集音信号の音響パワーに他の集音信号Sa~Sfの音響パワーが等しくなるように、他の集音信号にゲインGa~Gfをかける。
【0043】
例えば、無指向性マイク21aが出力した集音信号Saを選択し、この集音信号Saの音響パワーPaを基準にして、音響パワーPb、Pc、Pd、Pe及びPfを有する他の集音信号Sb~Sfの全てを音響パワーPaに変化させる。即ち、音響パワーPbを有する集音信号Sbに、基準となった音響パワーPaに対する音響パワーPbの倍率の逆数をゲインGbとして、このゲインGbを乗算する。
【0044】
また、音響パワーPcを有する集音信号Scに、基準となった音響パワーPaに対する音響パワーPcの倍率の逆数をゲインGcとして乗算する。音響パワーPdを有する集音信号Sdに対しても、音響パワーPeを有する集音信号Seに対しても、音響パワーPfを有する集音信号Sfに対しても同様に逆数を乗算する。
【0045】
図6は、この感度補正部31の詳細構成を示すブロック図である。この感度補正部31は、6つの無指向性マイク21a~21fから入力された集音信号Sa~Sfに対して、バンドパスフィルタ311a~311f及びパワー算出部312a~312fを備える。バンドパスフィルタ311a~311fは、各集音信号Sa~Sfから所定周波数領域を抽出する。所定周波数領域としては可聴域が望ましい。パワー算出部312a~312fは、バンドパスフィルタ311a~311fを経た信号から二乗平均平方根を算出し、各集音信号Sa~Sfのパワー値Pa、Pb、Pc、Pd、Pe及びPfを得る。
【0046】
また、感度補正部31は、係数算出部313と乗算部314a~314fとを備える。係数算出部313は、各集音信号Sa~Sfのパワー値の1つを基準値とし、この基準値に対するパワー値の倍率の逆数で表される各ゲインGa~Gfを得る。乗算部314a~314fは、各集音信号Sa~Sfが基準となった集音信号と音響パワーにおいて同一になるように、係数算出部313で得られたゲインGa~Gfを、対応の集音信号に乗算する。
【0047】
次に、ビームフォーマ32の信号処理を説明する。まず、4つの無指向性マイクロフォンM1~M4が存在する空間を仮定する。図7は、多点制御法に係り、4つの無指向性マイクロフォンM1~M4の周りに設定される制御点D1~Dnを示す模式図である。図中では、説明の都合上、制御点を水平面にのみ配置しているが、マイクロフォンM1~M4の中心から等距離の球面にn個の制御点D1~Dnを等配置しているものとする。
【0048】
そして、制御点D,(i=1~n)から無指向性マイクM,(k=1~m)までの経路において音に変化を与える伝達関数を伝達関数Cik(ω)とし、無指向性マイクMの出力に畳み込む制御フィルタを伝達関数H(ω)とし、各制御点Dに対する所望応答を応答関数A(ω)とする。このとき、各制御点Dから到来した音を無指向性マイクM1~M4で集音した結果を、所望応答伝達関数A(ω)とするには、以下式(1)が満たされるような伝達関数H(ω)が要求される。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、上記式(1)において、特定方向にある制御点Dに対応する所望応答伝達関数A(ω),(i=j)を「1」にし、それ以外の抑圧すべき制御点Dに対応する所望応答伝達関数A(ω),(i≠j)をゼロにすれば、上記式(1)は、制御点Dの存在方向を特定方向として、この特定方向に指向性を向けるための伝達関数H(ω),(k=1~m)を含む式となる。
【0051】
そこで、ビームフォーマ32は、特定方向がユーザにより設定されると、特定方向に合った制御点Dに対応する所望応答伝達関数A(ω)を1にセットし、その他の所望応答伝達関数A(ω)をゼロにセットする。そして、ビームフォーマ32は、一般化逆行列を用いて最小二乗解として伝達関数H(ω),(k=1~m)を求める。そして、無指向性マイクM1~M4に対応する伝達関数H1(ω)~H4(ω)を無指向性マイクM1~M4の集音信号に畳み込む。
【0052】
ビームフォーマ32は、以上のような多点制御法を適用して、無指向性マイク21a~21fに対応する伝達関数H(ω)を生成して適用することにより、グループAの集音信号Sa、Sc、Sd及びSeから特定方向に指向性を有する第1の指向性信号S1を生成し、またグループBの集音信号Sa、Sb、Sd及びSfから特定方向に指向性を有する第2の指向性信号S2を生成する。そして、両指向性信号S1、S2は、同一のポーラーパターンを有することになる。そのポーラーパターンとしては、特定方向に指向性を有する単一指向性のカーディオイド型でもよいし、特定方向と其の反対方向に指向性を有する双方向性であってもよい。
【0053】
尚、伝達関数Cik(ω)は、自由空間における理想が以下式(2)となる。ただし、伝達関数Cik(ω)は、各無指向性マイク21a~21fと各制御点i間の減衰や遅れなどの伝達特性を実測することで、求めることが望ましい。
【0054】
【数2】
但し、rは制御点からマイクまでの距離であり、r/cは伝播時間である。
【0055】
図8は、このビームフォーマ32の構成を示すブロック図である。ビームフォーマ32は、グループAの集音信号Sa、Sc、Sd及びSeが入力される制御フィルタ321a、321c、321d及び321eと、制御フィルタ321a、321c、321d及び321eの出力を合算して第1の指向性信号S1を出力する加算器322aを備える。また、ビームフォーマ32は、グループBの集音信号Sa、Sb、Sd及びSfが入力される制御フィルタ321a、321b、321d及び321fと、制御フィルタ321a、321b、321d及び321fの出力を合算して第2の指向性信号S2を出力する加算器322bを備える。
【0056】
更に、ビームフォーマ32は、伝達関数H(ω)を生成し、制御フィルタ321a~321fにセットする特定方向設定部323を備える。この特定方向設定部323は、特定方向が設定されると、特定方向に応じた所望応答伝達関数A(ω)の行列A(ω)を生成する。また、特定方向設定部323は、伝達関数Cik(ω)の行列C(ω)と伝達関数H(ω)の行列H(ω)の積を取る。
【0057】
そして、特定方向設定部323は、所望応答伝達関数行列A(ω)に対して、伝達関数行列C(ω)と伝達関数行列H(ω)の乗算結果を差分して誤差eと生成する。特定方向設定部323は、最急降下法によって誤差eが最小になる伝達関数行列H(ω)を解き、伝達関数H(ω)を制御フィルタ321a~321fにセットする。
【0058】
ビームフォーマ32は、対応の伝達関数H(ω)がセットされた制御フィルタ321a~321fに対し、グループAの集音信号Sa、Sc、Sd及びSeをフーリエ変換して入力し、グループBの集音信号Sa、Sb、Sd及びSfをフーリエ変換して入力する。そして、ビームフォーマ32は、制御フィルタ321a、321c、321d及び321eから出力されるグループAの集音信号Sa、Sc、Sd及びSeを合算して第1の指向性信号S1を生成し、制御フィルタ321a、321b、321d及び321fから出力されるグループBの集音信号Sa、Sb、Sd及びSfを合算して第2の指向性信号S1を生成する。
【0059】
図9の(a)はグループA由来の第1の指向性信号S1を示し、(b)はグループB由来の第2の指向性信号S2を示し、横軸に周波数、縦軸に音圧を取ったグラフである。図9の(a)及び(b)に示すように、第1及び第2の指向性信号S1、S2は、ビームフォーマによって、特定方向に単一の指向性が強調され、また感度補正部31によって感度が統一されているため、共通の音成分Scを有している。一方、各周波数帯にノイズN1,N2が乗っている。
【0060】
ここで、6つの無指向性マイク21a~21fの特性は揃えられておらず、6つの無指向性マイク21a~21fの個体差は顕著である。そのため、4つのマイクの組み合わせが異なるグループAとグループBを由来とする両指向性信号S1,S2に乗っているノイズN1及びノイズN2は相関性の低い。グループAとグループBに属する4つのマイクに重複が無い場合、グループAとグループBを由来とする両指向性信号S1、S2は、相関性の無いノイズN1,N2を有している。
【0061】
そこで、ノイズ処理部33は、相関性の高い音成分を強調し、音成分の相関性が低ければ低いほど、その音成分を抑圧する信号処理を行う。両指向性信号S1、S2に含まれる、特定方向から到来した音成分は、感度補正部31とビームフォーマ32によって同一音圧に揃えられているので、このノイズ処理部33によって強調され、相関性の小さい又は無いノイズN1,N2は抑圧されることになる。
【0062】
このノイズ処理部33は、第1の指向性信号S1(k)と第2の指向性信号S2(k)を1サンプルおきに交互に入れ替えて出力する。すなわち、交換信号Sx(k)及び交換信号Sy(k)のデータ列は、k=1、2、3、4・・・において、以下のようになる。
Sx(k)={S1(1) S2(2) S1(3) S2(4)・・・}
Sy(k)={S2(1) S1(2) S2(3) S1(4)・・・}
【0063】
ノイズ処理部33は、交換信号Sx(k)と交換信号Sy(k)の誤差を計算し、誤差に応じた係数m(k)を決定する。また、ノイズ処理部33は、過去の係数m(k-1)を参照して逐次的に係数m(k)を更新する。
【0064】
同着の交換信号Sx(k)と交換信号Sy(k)の誤差信号e(k)を以下式(3)のように定義する。
【0065】
ノイズ処理部33は、誤差信号e(k)を係数m(k-1)の関数とし、誤差信号e(k)を含む係数m(k)の隣接二項間漸化式を演算することで、誤差信号e(k)が最小となる係数m(k)を探索する。ノイズ処理部33は、この演算処理により、第1の指向性信号S1(k)と第2の指向性信号S2(k)とに時間差が生じていればいるほど、係数m(k)を減少させる方向で更新し、時間差がなければ係数m(k)を1に近づける。そして、ノイズ処理部33は、第1の指向性信号S1(k)または第2の指向性信号S2(k)とに任意の比率で係数m(k)を乗じて出力信号So(k)を出力する。
【0066】
図10は、このノイズ処理部33の構成例を示すブロック図である。図10に示すように、ノイズ処理部33は、前段に、第1の指向性信号S1(k)と第2の指向性信号S2(k)の信号列を交互に入れ替えて交換信号Sx(k)交換信号Sy(k)を生成する回路である交換部331を備え、中段に、係数m(k)を更新する複数の積算器と加算器を備え、後段に、係数m(k)を第1の指向性信号S1(k)若しくは第2の指向性信号S2(k)に乗じて出力信号So(k)を生成する積算部332を備える。
【0067】
中段は、隣接二項間漸化式を体現した回路であり、過去の係数m(k-1)を参照して係数m(k)を漸次更新するものである。ノイズ処理部33において、長いタップ数を有する適応フィルタは排除されている。
【0068】
このノイズ処理部33において、中段では、交換信号Sy(k)を参照信号として用いて誤差信号e(k)を生成する。すなわち、交換信号Sx(k)は、積算器335に入力される。積算器335は、交換信号Sa(k)に対して1サンプル前の係数m(k-1)の-1倍を掛け合わせる。積算器335の出力側には、加算器336が接続されている。この加算器336には、積算器335から出力された信号と交換信号Sy(k)とが入力され、これら信号を加算することで、瞬時の誤差信号e(k)を得る。
【0069】
誤差信号e(k)は、入力信号をμ倍する積算器337に入力される。係数μは、1未満のステップサイズパラメータである。積算器337の出力側には、積算器338が接続される。積算器338には、交換信号Sx(k)と積算器を経た信号μe(k)とが入力される。この積算器338は、交換信号Sx(k)と信号μe(k)とを乗じ、以下式(4)で表される瞬時二乗誤差の微分信号∂E(m)/∂mを得る。
【0070】
積算器338には加算器339が接続されている。加算器339は、以下式(5)を演算することで係数m(k)を完成させ、積算部332に係数m(k)をセットする。すなわち、以下式(5)のように、加算器339は微分信号∂E(m)/∂mに対して信号β・m(k-1)を加算することで係数m(k)を完成させる。
【0071】
信号β・m(k-1)は、加算器339の出力側に1サンプル分だけ信号を遅延させる遅延器333と定数βを積算する積算器334とが接続されており、1サンプル前の信号処理により更新された係数m(k-1)に対して積算器334で定数βを乗じることにより生成される。
【0072】
これにより、ノイズ処理部33では、以下の漸化式(6)の演算処理が実現し、係数m(k)を生成され、サンプリング毎に漸次更新していく。
【0073】
即ち、ノイズ処理部33は、交換信号Sx,Syの片方に係数mを乗じた上で交換信号Sx,Syの誤差信号eを生成する誤差信号生成部と、誤差信号eを含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する漸化式演算部を備える。誤差信号生成部は、交換信号Sa(k)に対して1サンプル前の係数m(k-1)の-1倍を掛け合わせる積算器335と、積算器335から出力された信号と交換信号Sy(k)とが入力され、これら信号を加算する加算器336である。漸化式演算部は、積算器335と加算器336以外の積算器と加算器である。
【0074】
そして、ノイズ処理部33は、以下の数式(7)を交互に演算し、数式(7)で得られる係数m(k)を指向性信号に乗じる。
【0075】
数式(7)において、信号の二乗の項は、ホワイトノイズ等の無相関成分を時間の経過とともに小さくなるように作用する。一方、その隣接項は、相関係数を逐次的に算出する以下の数式(8)の分子部分と同等であり、相関成分の影響を係数mに反映させていくこととなる。
【0076】
つまり、第1の指向性信号S1に対して第2の指向性信号S2を近似させようとしたときには、第1の指向性信号S1の無相関成分は増幅方向となり、第2の指向性信号S2の無相関成分は抑制方向となる。また、第2の指向性信号S2に対して第1の指向性信号S1を近似させようとしたときには、第1の指向性信号S1の無相関成分は増幅方向となり、第1の指向性信号S1の無相関成分は抑制方向となる。
【0077】
そこで、ノイズ処理部33は、第1の指向性信号S1に対して第2の指向性信号S2を近似させて同期加算しようとする働きと、第2の指向性信号S2に対して第1の指向性信号S1を近似させて同期加算しようとする働きとを交互に繰り返す。そのため、無相関成分を増幅及び抑制しようとする働きは、交互に打ち消し合うことになる。即ち、係数m(k)には相関成分の影響を濃く反映させていくことになり、この係数m(k)が乗じられた指向性信号S1,S2からは、無指向性マイク21a~21fに固有のノイズが抑制される。
【0078】
(効果)
以上のように、集音装置1は、N次元で表現される特定方向に指向性を付けるものであり、少なくともN+2個の無指向性マイク21a,21b,・・・とビームフォーマ32とノイズ処理部33を備えるようにした。ビームフォーマ32は、無指向性マイク21a,21b,・・・が出力する集音信号Sa,Sb,・・・に基づき、特定方向に単一指向性を有する2種類の指向性信号S1,S2を生成する。ノイズ処理部33は、2種類の指向性信号S1,S2に基づいてノイズ成分を抑制する。
【0079】
このビームフォーマは、無指向性マイク21a,21b・・・の出力から選ばれるN+1個の集音信号Sa,Sb,・・・に基づき、特定方向に単一指向性を有する第1の指向性信号S1を生成するとともに、第1の指向性信号S1の生成に用いられたN+1個の集音信号Sa,Sb・・・とは異なる組み合わせのN+1個の集音信号Se,Sf,・・・に基づき、第1の指向性信号S1と同じ特定方向に単一指向性を有する第2の指向性信号S2を生成するようにした。そして、ノイズ処理部33は、2種類の指向性信号S1,S2間で無相関の音成分を抑制するようにした。
【0080】
これにより、第1の指向性信号S1と第2の指向性信号S2に含まれるノイズ成分は無相関となるため、無相関の音成分を抑制することで、無指向性マイク21a,21b・・・に固有の回路系ノイズや風雑音を抑制でき、SN比が向上する。
【0081】
しかも、集音信号Sa,Sb・・・を収録した機器に固有の回路系ノイズや風雑音が存在することを寧ろ積極的に利用するものであり、無指向性マイク21a,21b・・・の特性を揃える作業が不要となり、労力の飛躍的な軽減がもたらされ、集音装置1の単価を軽減できる。
【0082】
また、少なくともN+2個の無指向性マイク21a,21b・・・が出力する集音信号の感度を揃える感度補正部31を更に備え、ノイズ処理部33は、感度補正部31による補正を経た2種類の指向性信号S1,S2間で無相関の音成分を抑制するようにした。
【0083】
これにより、無指向性マイク21a,21b・・・が得た、特定方向から到来した音成分が精度良く揃えられ、第1の指向性信号S1と第2の指向性信号S2に含まれる、特定方向の音成分の相関性をより高くできる。従って、特定方向の音成分とノイズ成分との相対的な強調又は抑制にメリハリが大きくなり、SN比がより良好となる。
【0084】
ここで、周囲の音を収録するマイクが異なる方向に向く指向性を有すると、各マイクの音圧差が到来方向に由来するのか、感度差に由来するのか不明であり、特定方向から到来した音成分を揃えることは難しい。しかしながら、この集音装置1では、無指向性マイク21a,21b・・・を利用するため、各マイクの音圧差は感度差に由来するものあることに限定でき、特定方向から到来した音成分を揃えることが可能となったものである。
【0085】
ノイズ処理部33は、まず、第1の指向性信号S1と第2の指向性信号S2を1サンプル毎に交互に入れ替える。次に、交換信号Sx,Syの片方に係数mを乗じた上で、交換信号Sx,Syの誤差信号を生成する。そして、誤差信号eを含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新する。この逐次更新された係数mを第1の指向性信号S1又は第2の指向性信号S2に乗じて出力する。
【0086】
これにより、第1の指向性信号S1に対して第2の指向性信号S2を近似させて同期加算しようとする働きと、第2の指向性信号S2に対して第1の指向性信号S1を近似させて同期加算しようとする働きとを交互に繰り返す。そのため、無相関成分を増幅及び抑制しようとする働きは、交互に打ち消し合うことになる。即ち、係数m(k)には相関成分の影響を濃く反映させていくことになり、この係数m(k)が乗じられた指向性信号S1,S2からは、無指向性マイク21a~21fに固有のノイズが抑制される。
【0087】
(適用例)
集音装置1の適用例を図11及び図12に示す。図11及び図12は、各方位及び各仰角を撮影可能な全方向カメラの例を示す模式図である。マイクロフォンユニット2とパノラマ撮像部100は一体であり、共に同一の支持部材23を筐体とし、この支持部材23にパノラマ撮像部100が備える複数のカメラ101と無指向性マイク21a~21fが取り付けられている。
【0088】
例えば、図11に示すように、支持部材23は四角柱形状を有する。この支持部材23の側面のうち、一対の対向面に魚眼レンズにより成る2つのカメラ101が1つずつ配分されている。一対の対向面の四隅には余白が生じている。無指向性マイク21a~21fは、この四隅に配分されている。例えば、一方の対向面の三つの隅に無指向性マイク21a~21cが1つずつ配分され、他方の対向面の三つの隅に無指向性マイク21d~21fが1つずつ配分される。
【0089】
また、図12に示すように、支持部材23は球形を有する。この支持部材23に魚眼レンズにより成る2つのカメラ101が180度離されて配分されている。無指向性マイク21a~21fは、2つのカメラ101の脇に配分されている。例えば、一方のカメラ101の真上をゼロ度として、当該カメラ101に向かい合う方向から見て時計回りに45度位置、225度位置及び315度位置に無指向性マイク21a~21cが1つずつ配分され、他方のカメラ101の真上をゼロ度として、当該カメラ101に向かい合う方向から見て時計回りに135度位置、225度位置及び315度位置に無指向性マイク21d~21fが1つずつ配分される。
【0090】
即ち、同じ支持部材23にカメラ101もマイクロフォンユニット2も一体的に備えられているため、全方向カメラはコンパクトに収まっている。その理由は、集音装置1が無指向性マイク21a~21fを積極的に用いるため、無指向性マイク21a~21fの背後には指向性マイクのような空間が不要だからである。
【0091】
また、集音装置1の他の適用例を図13に示す。パノラマ撮像部100は、ユーザが把持する棒状の支持部材23に取り付けられている。マイクロフォンユニット2は、このユーザが把持する支持部材23に内蔵されている。即ち、この支持部材23に内接する仮想の六角柱の各隅に無指向性マイク21a~21fが取り付けられている。このように、無指向性マイク21a~21fはユーザの把持する棒に内蔵させることもできるので、全方向カメラはコンパクトに収まる。無指向性マイク21a~21fの背後には指向性マイクのような空間が不要だからである。
【0092】
パノラマ撮像部100の撮像データと集音信号Sa~Sfは、ユーザのパーソナルコンピュータ102に転送される。パーソナルコンピュータ102には、撮像データから特定方向の画像をレンダリングする画像処理と、指向性制御装置3を実現するためのアプリ103がインストールされている。アプリ103に対してユーザがキーボードやマウス等のマンマシンインターフェースを用いて入力した特定方向を示す情報は、ビームフォーマ32に渡され、ビームフォーマ32は当該特定方向を示す情報に従って所望応答伝達関数行列A(ω)を生成する。
【0093】
このように、特定方向の入力を受け付けるキーボードやマウス等の入力部を更に備え、ビームフォーマ32は、入力部が受け付けた特定方向に指向性を形成するようにすればよい。
【0094】
また、複数のカメラ101を有し、周囲各方向を撮影するパノラマ撮像部100を更に備え、少なくともN+2個の無指向性マイク21a,21b・・・は、複数のカメラ101間の合間に配分されて取り付けられているようにした。これにより、複数のカメラ101に無指向性マイク21a,21b・・・が写り難くなり、品質の高い撮影が可能となる。複数のカメラ101間の合間に配分できるのは、無指向性マイク21a,21b・・・の裏に空間を必要としないためである。
【0095】
(その他の実施形態)
以上のように、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、そのほかの様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0096】
例えば、ノイズ処理部33は、交換信号の片方に係数mを乗じた上で、交換信号の誤差信号を生成し、この誤差信号を含む係数mの漸化式を演算して係数mを1サンプル毎に更新するようにすれば、上記実施形態に限定することなく、その他の態様で実現可能である。
【0097】
また、この集音装置1は、CPUやDSPのソフトウェア処理として実現してもよいし、専用のデジタル回路で構成するようにしてもよい。ソフトウェア処理として実現する場合には、CPU、外部メモリ、RAMを備えるコンピュータにおいて、感度補正部31、ビームフォーマ32及びノイズ処理部33と同一の処理内容を記述したプログラムをROMやハードディスクやフラッシュメモリ等の外部メモリに記憶させ、RAMに適宜展開し、CPUで其のプログラムに従って演算を行うようにすればよい。
【符号の説明】
【0098】
1 集音装置
2 マイクロフォンユニット
21a~21f 無指向性マイク
22 不揮発性メモリ
23 支持部材
3 指向性制御装置
31 感度補正部
311a~311f バンドパスフィルタ
312a~312f パワー算出部
313 係数算出部
314a~314f 乗算部
32 ビームフォーマ
321a~321f 制御フィルタ
322a、322b 加算器
323 特定方向設定部
33 ノイズ処理部
331 交換部
332 積算部
333 遅延器
334 積算器
335 積算器
336 加算器
337 積算器
338 積算器
339 加算器
34 メモリ
100 パノラマ撮像部
101 カメラ
102 パーソナルコンピュータ
103 アプリ
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