(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】耐火構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20221005BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221005BHJP
E04C 2/26 20060101ALI20221005BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20221005BHJP
B32B 21/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
E04B5/02 G
E04B1/94 R
E04B1/94 K
E04B1/94 D
E04C2/26 P
E04B1/58 601E
B32B21/04
E04B1/94 F
(21)【出願番号】P 2020125600
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】592090809
【氏名又は名称】松尾建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲吾
(72)【発明者】
【氏名】山崎 心
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-084730(JP,A)
【文献】特開平10-245921(JP,A)
【文献】特開平02-210132(JP,A)
【文献】特開平06-081415(JP,A)
【文献】実開平07-025107(JP,U)
【文献】特開2000-136593(JP,A)
【文献】特開昭56-097041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/02
E04B 1/94
E04C 2/26
E04B 1/58
B32B 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の方向に所定の間隔で配置された梁部材のフランジに、荷重を支持するための木材から構成された荷重支持層の表裏面に不燃材が積層された耐火パネル半製品の裏面
を設置する工程と、
固定部材を前記梁部材のフランジから前記耐火パネル半製品に向けて貫通させ、前記荷重支持層の所定の位置で螺着することにより、前記梁部材に対して前記耐火パネル半製品を固定する工程と、
隣接配置された前記耐火パネル半製品間に形成された目地隙間に断熱材を介装する工程と、
前記耐火パネル半製品の表面に
軽量気泡コンクリートパネルを設置する工程と、
固定部材を前記
軽量気泡コンクリートパネルから前記耐火パネル半製品に向けて貫通させ、前記荷重支持層の所定の位置で螺着することにより、前記
軽量気泡コンクリートパネルと前記耐火パネル半製品とを固定する工程と、を備える
耐火構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火構造物、耐火パネル、及び耐火構造物の施工方法に関する。詳しくは、耐火性能に優れ、製造コストの低減を図ることができる耐火構造物、耐火パネル、及び耐火構造物の施工方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年の建築基準法の改正により、木造でも法規に定める耐火性能を満たせば、鉄筋コンクリート造のような規模や用途の建築物を建てることが可能になった。一方、地球温暖化対策として、森林の二酸化炭素吸収源としての機能を有効にするために木材の利用促進が進められ、建築物が大きな用途として考えられている。また、建築物についても環境負荷に対する要求が高まり、建設に伴う消費エネルギー量が少ない木造建築物が見直されている。
【0003】
このような状況下で、木造建築物の用途を広げる木質構造部材への耐火性能に関する研究開発が積極的に進められている。例えば特許文献1、及び特許文献2には、木質構造部材に耐火性能を付与する熱膨張性の耐火被覆材や、それを用いた耐火性能を有する木質構造部材に関する発明が開示されている。
【0004】
また、木造建築において近年注目されている建築資材の一つとして、直交集成材(CLT:Cross Laminated Timber)がある。直交集成材は、杉などの木材をマスで使い、多くの二酸化炭素を保持できるとともに寸法安定性が高く、厚みが自在に確保できるので断熱、遮音、耐火性にも優れ、さらには軽量であることから、大規模木造建築等を可能にする建築資材である。
【0005】
この直交集成材を、例えば床材として使用する場合には、建築物を軽量化できるとともに、直交集成材を剛床仮定と同等にする(直交集成材の剛性および耐力を従来材である鉄筋コンクリート等の剛性および耐力と同等にする)ことにより、当該建築物の耐震性能、及び免震性能等を格段に向上させることができる。この点、本特許出願の出願人は、特許文献3において、床材としての直交集成材を梁材である鉄骨梁に対して容易に組み付けることが可能な建築工法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-256506号公報
【文献】特開2005-282360号公報
【文献】特開2020-084728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記した特許文献3に開示されている直交集成材は、その製造工程においてラミナー加工機、板はぎ接着機、集成材プレス機等の専用の加工装置が必要となり、その加工工程も多岐にわたる。従って、直交集成材の製造においては多額の設備投資が必要であるとともに、専門知識を有する作業者による作業が必要となることから、製造工数が多大なものとなっており、直交集成材を用いた木造建築が普及しない一因となっていた。
【0008】
そのため、専用の加工装置を必要とせず、また従前の加工工場、或いは建築現場において一般の作業者による加工、建築が可能な木質材料を用いた耐火構造物の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、耐火性能に優れ、製造コストの低減を図ることができる耐火構造物、耐火パネル、及び耐火構造物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明の耐火構造物は、フランジを有し、一の方向に所定の間隔で配置された梁部材と、複数本の木材片の側面同士が隣接配置して構成された荷重支持層、該荷重支持層を挟む一方側に配置された不燃材から構成された第1の不燃層、前記荷重支持層を挟む他方側に配置された不燃材から構成された第2の不燃層を有する耐火パネルと、前記梁部材の前記フランジ上に前記第1の不燃層を設置面として設置した状態で、前記フランジから前記耐火パネルに向けて貫通して前記荷重支持層の所定の位置で螺着する梁固定部材とを備える。
【0011】
ここで、フランジを有し、一の方向に所定の間隔で配置された梁部材を備えることにより、耐火構造物を構成する耐火パネルを梁部材に固定することで、耐火構造物全体としての剛性を高めることができる。
【0012】
また、複数本の木材片の側面同士が隣接配置して構成された荷重支持層を有する耐火パネルを備えることにより、係る荷重支持層で荷重を支持、及び分散させることができる。また、荷重支持層は、複数の木材片を隣接配置した構成であるため、加工コストを抑制しつつ、木材の有効利用を図ることができる。
【0013】
また、荷重支持層を挟んで一方側には第1の不燃層、他方側には第2の不燃層を有することにより、係る第1の不燃層、及び第2の不燃層が燃え止まりとして機能し、火災発生から所定時間の間、又は火災終了後における荷重支持層の温度上昇を抑制することができる。従って、耐火パネルを床材や壁材として使用することで、所定の耐火基準を満足することができる。
【0014】
また、梁部材のフランジ上に第1の不燃層を設置面として設置した状態で、フランジから耐火パネルに向けて貫通して荷重支持層の所定の位置で螺着する梁固定部材を備えることにより、梁部材に耐火パネルを固定することができる。このとき、梁固定部材は、荷重支持層の所定の位置で螺着されるため、梁部材に対する耐火パネルの固定が強固なものとなり、地震発生時の剪断破壊を防止し、一定の耐震性を確保することができる。
【0015】
また、耐火パネルは、少なくとも2枚以上が対向する端面間で所定の目地隙間を形成して隣接配置され、目地隙間には断熱材が介装されている場合には、火災発生時に耐火パネル間の目地隙間が高温となることを防止することができる。従って、火災発生時に隣接する耐火パネルへの燃え移りを防止することで、耐火構造物全体として所定の耐火基準を満足するものとなる。さらには、目地隙間からの埃や水分の浸入も防止することができるため、耐火パネルの劣化を防止することができる。
【0016】
また、第1の不燃層の表面に、目地隙間を塞ぐための目地塞ぎ部材を有し、目地塞ぎ部材から耐火パネルに向けて貫通して荷重支持層の所定の位置で螺着する目地塞ぎ固定部材を有する場合には、目地塞ぎ部材により、目地隙間からの埃や水分の浸入を防止することができる。さらに、目地塞ぎ固定部材により目地塞ぎ部材と耐火パネルを強固に固定することができるため、地震発生時の剪断破壊を防止し、一定の耐震性を確保することができる。
【0017】
また、梁部材の外周の全体を被覆し、不燃材から構成された被覆材を有する場合には、梁部材の全体を耐火構造とすることができる。従って、火災発生時において、梁部材が高温となることを防止するとともに、梁部材から耐火パネルへの熱伝導を防止することができるため、耐火構造物全体として、所定の耐火基準を満足することができる。
【0018】
前記の目的を達成するために、本発明の耐火パネルは、複数本の木材片の側面同士が隣接配置して構成された荷重支持層と、該荷重支持層を挟む一方側に配置され、不燃材から構成された第1の不燃層と、前記荷重支持層を挟む他方側に配置され、不燃材から構成された第2の不燃層とを備える。
【0019】
ここで、複数本の木材片の側面同士が隣接配置して構成された荷重支持層を備えることにより、荷重支持層で荷重を支持、及び分散させることができる。また、荷重支持層は、複数の木材片を隣接配置した構成であるため、加工コストを抑制しつつ、木材の有効利用を図ることができる。
【0020】
また、荷重支持層を挟む一方側に配置され、不燃材から構成された第1の不燃層、及び荷重支持層を挟む他方側に配置され、不燃材から構成された第2の不燃層をそれぞれ備えることにより、係る第1の不燃層、及び第2の不燃層が燃え止まりとして機能し、火災発生から所定時間の間、又は火災終了後における荷重支持層の温度上昇を抑制することができる。従って、耐火パネルを床材や壁材として使用することで、所定の耐火基準を満足することができる。
【0021】
また、第1の不燃層から荷重支持層に向けて貫通して荷重支持層の所定の位置で螺着される第1のビス部材と、第2の不燃層から荷重支持層に向けて貫通して荷重支持層の所定の位置で螺着される第2のビス部材とを有する場合には、第1の不燃層、荷重支持層、及び第2の不燃層を一体化することができるとともに、長期間の使用による形状変形や劣化を防止することができる。
【0022】
また、第1の不燃層を梁部材への設置面とした場合に、第1の不燃層は、荷重支持層との当接面から順に、石膏パネル、及び珪酸カルシウムパネルが積層されている場合には、耐火性のある石膏パネルが火災発生時の燃え止まりとして機能し、石膏パネルの外層にある珪酸カルシウムパネルが耐火パネルに一定の強度を付与することができる。
【0023】
また、第2の不燃層は、荷重支持層との当接面から順に、石膏パネル、及び軽量気泡コンクリートパネルが積層されている場合には、耐火性のある石膏パネルが火災発生時の燃え止まりとして機能し、石膏パネルの外層にある軽量気泡コンクリートパネルが耐火パネルに一定の強度を付与することができる。
【0024】
また、第1の不燃層と荷重支持層の間、及び第2の不燃層と荷重支持層の間には、木材板がそれぞれ介装されている場合には、荷重支持層を構成する複数本の木材片の一体化をより強固なものとし、長期間の使用による形状変形や劣化を防止することができる。
【0025】
前記の目的を達成するために、本発明の耐火構造物の施工方法は、一の方向に所定の間隔で配置された梁部材のフランジに、荷重を支持するための木材から構成された荷重支持層の表裏面に不燃材が積層された耐火パネル半製品の裏面を梁部材のフランジに設置する工程と、梁固定部材を前記梁部材のフランジから前記耐火パネル半製品に向けて貫通させ、前記荷重支持層の所定の位置で螺着することにより、前記梁部材に対して前記耐火パネル半製品を固定する工程と、隣接配置された前記耐火パネル半製品間に形成された目地隙間に断熱材を介装する工程と、前記耐火パネル半製品の表面に、前記目地隙間を塞ぐための目地塞ぎ部材を設置する工程と、目地塞ぎ固定部材を前記目地塞ぎ部材から前記耐火パネル半製品に向けて貫通させ、前記荷重支持層の所定の位置で螺着することにより、前記耐火パネル半製品に対して前記目地塞ぎ部材を固定する工程と、前記耐火パネル半製品の表面に床材を設置する工程とを備える。
【0026】
ここで、一の方向に所定の間隔で配置された梁部材のフランジに、荷重を支持するための木材から構成された荷重支持層の表裏面に不燃材が積層された耐火パネル半製品の裏面を梁部材のフランジに設置する工程を備えることにより、梁部材の所定の位置に耐火パネル半製品を配置することができる。
【0027】
また、梁固定部材を梁部材のフランジから耐火パネルに向けて貫通させ、荷重支持層の所定の位置で螺着することにより、梁部材に対して耐火パネル半製品を固定する工程を備えることにより、耐火パネル半製品を梁部材に対して固定することができる。このとき、梁固定部材は、荷重支持層の所定の位置で螺着されるため、梁部材に対する耐火パネル半製品の固定が強固なものとなり、地震発生時の剪断破壊を防止し、一定の耐震性を確保することができる。
【0028】
また、隣接配置された耐火パネル半製品間に形成された目地隙間に断熱材を介装する工程を備えることにより、火災発生時に耐火パネル間の目地が高温となることを防止することができる。従って、火災発生時に隣接する耐火パネルへの燃え移りを防止することで、耐火構造物全体として所定の耐火基準を満足するものとなる。さらには、目地からの埃や水分の浸入も防止することができるため、耐火パネルの劣化を防止することができる。
【0029】
また、耐火パネル半製品の表面に、目地隙間を塞ぐための目地塞ぎ部材を設置する工程を備えることにより、隣接して配置された耐火パネル半製品間に形成された目地隙間を塞ぐことができるため、目地隙間からの埃や水分の浸入を防止することができる。
【0030】
また、目地塞ぎ固定部材を目地塞ぎ部材から耐火パネル半製品に向けて貫通させ、荷重支持層の所定の位置で螺着することにより、耐火パネル半製品に対して目地塞ぎ部材を固定する工程を備えることにより、目地塞ぎ固定部材により目地塞ぎ部材と耐火パネルを強固に固定することができるため、地震発生時の剪断破壊を防止し、一定の耐震性を確保することができる。
【0031】
また、耐火パネル半製品の表面に床材を設置する工程を備えることにより、耐火パネルに一定の強度と耐火性能を付与することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る耐火構造物、耐火パネル、及び耐火構造物の施工方法は、耐火性能に優れ、製造コストの低減を図ることができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態に係る耐火パネルであり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る耐火構造物の平面図である。
【
図4】他の実施形態に係る耐火構造物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参酌しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、各図において説明の便宜上、耐火パネルを設置面に設置した状態において、設置面から上方に向かう方向を上方向、上方向の反対方向を下方向、上方向および下方向により表される軸方向を鉛直方向、鉛直方向と垂直な軸方向を水平方向とそれぞれ定義する。
【0035】
[耐火パネル]
まず、本発明の実施形態に係る耐火構造物1を構成する耐火パネル2について
図1に基づいて説明する。耐火パネル2は、例えば建築物の床材として使用されるものであり、荷重支持層21、荷重支持層21の一面側に積層された第1の不燃層22、荷重支持層21の他面側に積層された第2の不燃層23から構成されている。
【0036】
ここで、必ずしも、耐火パネル2の用途としては建築物の床材に限定されるものではなく、壁材や天井材等、あらゆる建築資材の用途として使用することができる。なお、説明の便宜上、以下の説明においては、耐火パネル2は床材としての使用を前提として説明する。
【0037】
荷重支持層21は、外部からの荷重を支持、及び分散させる機能を有しており、厚みが略100~105mmの製材された断面略矩形状の複数の木材片211が、その側面同士が隣り合うように配置して構成されている。なお、隣接する木材片211の側面同士は接着剤により接着して、全体として集成材としてもよく、或いは接着せずに側面同士が接触した状態で配列するようにしてもよい。
【0038】
ここで、必ずしも、木材片211は断面略矩形状の角材である必要はない。例えば、断面が円形の丸材であってもよい。また、荷重支持層21の構成として、直交集成材を採用してもよい。さらに、木材片211の厚みは適宜変更することができるものとする。
【0039】
木材片211の一面、及び他面には、製材された板材である木材板212が設置されている。係る木材板212により、荷重支持層21を構成する複数本の木材片211をより強固に一体化し、長期間の使用による形状変形や劣化を防止することができる。なお、木材片211のみで一定の剛性を確保できる場合には、必ずしも、木材板212を設置する必要はない。
【0040】
ここで、必ずしも、木材板212は製材された板材である必要はなく、単板を多層に重ね合わせた合板から構成されていてもよい。但し、合板を使用する場合、長期間の使用により単板同士を接着する接着剤が溶け出すとともに、溶け出した接着剤が荷重支持層21の内部に浸入して、荷重支持層21の劣化を促進する虞がある。そのため、長期間において安定的な品質を確保するという観点では、木材板212は製材を使用することが好ましい。
【0041】
第1の不燃層22は、荷重支持層21の一方の面に積層され、火災発生時に荷重支持層21に延焼することを防止する燃え止まりとしての機能を有する。第1の不燃層22は、荷重支持層21との当接面から外方(下方)に向けて石膏パネル221、珪酸カルシウムパネル222の順で積層されている。
【0042】
石膏パネル221は、1枚の厚みが略10~15mmであり、本発明の実施形態においては3枚の石膏パネル221による3層構造となっている。これにより、石膏パネル221の全体としては略30~45mmの厚みを有している。
【0043】
ここで、必ずしも、第1の不燃層22を構成する石膏パネル221は3層構造である必要はない。耐火パネル2の全体として2時間耐火の要件を満たすには、石膏パネル221全体の厚みとして略30~45mmを確保することができればよいため、石膏パネル221の積層枚数は特に限定されるものではない。
【0044】
珪酸カルシウムパネル222は、厚みが略10~15mmであり、本発明の実施形態においては、1枚の珪酸カルシウムパネル222が設置されている。珪酸カルシウムパネル222は、火災発生時において、その内側層である石膏パネル221が粉砕して周囲に散在することを防止するとともに、耐火パネル2に一定の外力が加わった際の衝撃吸収としても機能する。
【0045】
第2の不燃層23は、荷重支持層21の他方の面に積層され、第1の不燃層22と同じく火災発生時に荷重支持層21に延焼することを防止する燃え止まりとしての機能を有する。第2の不燃層23は、荷重支持層21との当接面から外方(上方)に向けて石膏パネル231、軽量気泡コンクリートパネル232の順で積層されている。
【0046】
石膏パネル231は、第1の不燃層22に採用されるものと同じく1枚の厚みが略10~15mmであり、本発明の実施形態においては2枚の石膏パネル231による2層構造となっている。これにより、石膏パネル231の全体としては略20~30mmの厚みを有している。
【0047】
ここで、必ずしも、第2の不燃層23を構成する石膏パネル231は2層構造である必要はない。耐火パネル2の全体として2時間耐火の要件を満たすには、石膏パネル231全体の厚みとして略20~30mmを確保することができればよいため、石膏パネル231の積層枚数は特に限定されるものではない。
【0048】
軽量気泡コンクリートパネル232は、厚みが略30~40mmであり、本発明の実施形態においては、1枚の軽量気泡コンクリートパネル232が設置されている。軽量気泡コンクリートパネル232は、火災発生時において、その内側層である石膏パネル231が粉砕して周囲に散在することを防止するとともに、耐火パネル2に一定の外力が加わった際の衝撃吸収としても機能する。
【0049】
ここで、必ずしも、第2の不燃層23として軽量気泡コンクリートパネル232を採用する必要はない。但し、第2の不燃層23は、耐火パネル2を床材として使用する際の床面となる部分であるため、一定の耐久性、及び耐火性が要求される。従って、軽量であり、かつ耐久性、及び耐火性に優れる材質という観点では、軽量気泡コンクリートパネル232を採用することが好ましい。
【0050】
また、必ずしも、軽量気泡コンクリートパネル232は一層構造である必要はない。軽量気泡コンクリートパネル232の厚みとして略30~40mmを確保することができればよいため、例えば10mm厚の軽量気泡コンクリートパネル232を3層、又は4層程度の積層構造としてもよい。
【0051】
これら荷重支持層21を挟んで上下方向の両側に第1の不燃層22、及び第2の不燃層23を積層した状態で、第1の不燃層22から荷重支持層21の中間高さ位置まで貫通して螺着する第1のビス部材24、及び第2の不燃層23から荷重支持層21の中間高さ位置まで貫通して螺着する第2のビス部材25により耐火パネル2全体として強固に一体化される。
【0052】
ここで、必ずしも、耐火パネル2は第1のビス部材24、及び第2のビス部材25により一体化されている必要はない。例えば、荷重支持層21と第1の不燃層22、及び荷重支持層21と第2の不燃層23をそれぞれ接着剤等で接合して一体化してもよい。但し、第1のビス部材24、及び第2のビス部材25を採用することで、耐火パネル2の長期間の使用による劣化や形状変更を防止することができる。従って、長期間において安定的な性能を発揮させるという観点では、第1のビス部材24、及び第2のビス部材25により一体化することが好ましい。
【0053】
[耐火構造物]
以上が本発明の実施形態に係る耐火パネル2の構成である。次に、耐火パネル2を使用した耐火構造物1について
図2~
図5に基づいて説明する。
【0054】
図2に示すように、本発明の実施形態に係る耐火構造物1は、例えばオフィスビル等の多層階からなる建築物に採用され、耐火構造物1はH形鋼材である大梁、及び小梁からなる梁部材としての鉄骨梁3を備えた骨組構造を有している。
【0055】
鉄骨梁3は、建築物の階毎に所定の間隔をあけて柱4間に懸架されている。また、隣接する鉄骨梁3間には対角線上にブレース5(
図2では一部のブレースを表示する)が設置されており、配列方向に隣り合う鉄骨梁3を架け渡すようにして耐火パネル2が設置されている。
【0056】
図3は、
図2のA-A断面の要部拡大図を示す。耐火パネル2、2は、第1の不燃層22を設置面として鉄骨梁3のフランジ31上に耐火パネル2、2の端縁が載るように設置されている。鉄骨梁3のフランジ31の設置面とは反対側には、梁固定部材6を貫通させるための補助フランジ32が溶接されている。
【0057】
ここで、必ずしも、補助フランジ32を有している必要はなく、鉄骨梁3のフランジ31に梁固定部材6を貫通させるようにしてもよい。但し、鉄骨梁3のフランジ31の幅は規格により決まっており、前記した通り、耐火パネル2には、第1の不燃層22と荷重支持層21を一体化させるための第1のビス部材24が貫通されている。そのため、既存の規格品である鉄骨梁3を流用する場合には、梁固定部材6を貫通させるためのスペースを確保するという観点からも補助フランジ32を別途設けることが好ましい。
【0058】
また、必ずしも、補助フランジ32は鉄骨梁3のフランジ31に溶接されている必要はない。フランジ31と補助フランジ32の端面同士を溶接してもよく、補助フランジ32のフランジ31に対する取付位置は特に限定されるものではない。
【0059】
梁固定部材6は、鉄骨梁3に対して耐火パネル2を固定するためのビスであり、頭部(符号を付さない)、及び螺子山が形成された棒状の螺子部(符号を付さない)から構成されている。補助フランジ32からスペーサ(符号を付さない)を介して耐火パネル2に向けて螺子部を貫通し、荷重支持層21の第2の不燃層23に近い位置で螺着することで、耐火パネル2が鉄骨梁3に対して強固に固定されるものとなる。
【0060】
ここで、必ずしも、梁固定部材6として螺子山が形成されたビスを採用する必要はない。固定手段は周知の形態から適宜選択することができる。但し、螺子部62を有する棒状のビスを採用することにより、螺子部を第1の不燃層22、及び荷重支持層21を貫通させて螺着することができるため、取付強度が高まり、地震発生時の剪断力に対する耐震性を高めることができる。
【0061】
隣接する耐火パネル2の端面間には所定の目地隙間7が形成されるが、係る目地隙間7を閉塞するために、ロックウールをはじめとする断熱材8が介装されている。また、第2の不燃層23の端縁側の一部が切り欠かれて切欠部9が形成されており、係る切欠部9に隣接する耐火パネル2、2間に形成された目地隙間7を塞ぐように、流動性のある下地材(符号を付さない)を介して石膏パネルからなる目地塞ぎ部材10aが別途設けられている。
【0062】
目地塞ぎ部材10aは、切欠部9に設置した状態において、第2の不燃層23を構成する石膏パネル231と面一となるように構成されている。そして、目地塞ぎ部材10aは目地塞ぎ固定部材11aにより耐火パネル2、2に対して固定される。
【0063】
目地塞ぎ固定部材11aは、梁固定部材6と同じく頭部(符号を付さない)、及び螺子山が形成された棒状の螺子部(符号を付さない)からなり、螺子山は荷重支持層21の所定の位置で螺着されることにより、耐火パネル2、2と目地塞ぎ部材10aが強固に固定される。
【0064】
ここで、必ずしも、目地隙間7には断熱材8が介装されている必要はない。目地隙間7を閉塞することができれば、例えば合成樹脂等で閉塞するようにしてもよい。但し、目地隙間7に断熱材8を介装することにより、火災発生時に耐火パネル2、2間の目地隙間7が高温となることを防止し、隣接する耐火パネル2、2への燃え移りを防止することで、耐火構造物1の耐火性能を高めることができる。
【0065】
鉄骨梁3の外周は、不燃性素材から構成された被覆材12により被覆されている。被覆材12としては特に限定されるものではないが、本発明の実施形態においては、厚みが35mm程度の珪酸カルシウムパネルを鉄骨梁3の三方に配置するとともに、耐火パネル2の第1の不燃層22に対して被覆材固定部材13により固定されている。これにより、火災発生時の熱が鉄骨梁3を通じて耐火パネル2に伝導されることを防止することができるため、耐火構造物1の耐火性能を高めることができる。
【0066】
一般的に耐震性確保の観点からも、全ての耐火パネル2の端縁部は鉄骨梁3の設置面上に設置されることが好ましいが、
図4のように、一部の鉄骨梁3を間引いた構造物も存在する。
図4中のB-B断面図を
図5に示す。
【0067】
前記した通り、隣接する耐火パネル2の端面間には、所定の目地隙間7が形成される。この目地隙間7を閉塞するために、耐火パネル2の第1の不燃層22には不燃材である珪酸カルシウムからなる所定幅の目地塞ぎ部材10bを耐火パネル2、2の長さ方向に沿って配置する。目地塞ぎ部材10bを配置した後に、目地塞ぎ固定部材11bを目地塞ぎ部材10bから耐火パネル2、2の荷重支持層21まで貫通させて固定する。
【0068】
目地塞ぎ固定部材11bは、梁固定部材6と同じく頭部(符号を付さない)、及び螺子山が形成された棒状の螺子部(符号を付さない)からなり、螺子山は荷重支持層21の所定の位置で螺着されることにより、耐火パネル2、2と目地塞ぎ部材10bが強固に固定される。
【0069】
なお、目地塞ぎ部材10bは耐火性能を確保する観点からも、略70~80mm程度の厚みを有することが好ましく、本発明の実施形態においては、約35mmの厚みの珪酸カルシウム板を上下2層に配置して、全体の厚みが70mm程度となるようにしている。
【0070】
ここで、必ずしも、目地塞ぎ部材10bとして珪酸カルシウム板を採用する必要はない。一定の耐火性能、及び強度を有する耐火材から適宜選択することができる。
【0071】
また、必ずしも、目地塞ぎ部材10bの厚みは略70~80mm程度である必要はなく、建築物の目標とする耐火基準に応じて適宜変更することができる。
【0072】
[耐火構造物の施工方法]
以上が、本発明の実施形態に係る耐火構造物1の構成である。次に、本発明の実施形態に係る耐火構造物1の施工方法について
図6に基づいて説明する。なお、以下の説明において耐火パネル2の軽量気泡コンクリートパネル232を有しない構成を「荷重パネル半製品」とよぶ。
【0073】
<工程1:耐火パネル半製品の組立>
まず、荷重支持層21を挟んで一方側に第1の不燃層22を設置して第1のビス部材24を取り付け、荷重支持層21を挟んで他方側に第2の不燃層23のうち石膏パネル231を積層して仮止ビス部材26で固定することで耐火パネル半製品を組み立てる。係る耐火パネル半製品の製造は、例えば加工工場内で加工したものを建築現場に輸送してもよく、或いは建築現場において作業者により組み立てるようにしてもよい。
【0074】
<工程2:耐火パネル半製品の設置>
工程1で組み立てた耐火パネル半製品を、施工対象となる建築物に設置する。建築物への設置に際しては、複数の耐火パネル半製品の側面が隣り合うように鉄骨梁3のフランジ31に設置する。
【0075】
<工程3:耐火パネル半製品の固定>
梁固定部材6を、鉄骨梁3のフランジ31から耐火パネル半製品に向けて貫通させ、荷重支持層21の所定の位置で螺着させることで、鉄骨梁3に対して耐火パネル半製品を固定する。
【0076】
<工程4:断熱材の介装>
隣接配置された耐火パネル半製品間に形成された目地隙間7を埋めるように、ロックウール等の断熱材8を介装する。
【0077】
<工程5:目地塞ぎ部材の設置>
第2の不燃層23を構成する石膏パネル231の表面に形成されている切欠部9に目地塞ぎ部材10aを設置して目地塞ぎ固定部材10aにより固定して目地隙間7を閉塞する。また、第1の不燃層22の表面には目地塞ぎ部材10bを設置して、目地塞ぎ部材11bにより固定して目地隙間7を閉塞する。
【0078】
なお、目地塞ぎ部材10bの設置工程については、全ての耐火パネル半製品の端縁を鉄骨梁3に設置する場合には省略することができる。
【0079】
<工程6:被覆材による被覆>
鉄骨が露出する鉄骨梁3の外周を不燃性素材から構成された被覆材12で被覆する。被覆材12は前記した通り、珪酸カルシウムパネルを鉄骨梁3の三方に配置するとともに、耐火パネル2の第1の不燃層22で被覆材固定部材13により固定する。なお、係る工程は、耐火構造物1の目標とする耐火基準に応じて省略するようにしてもよい。
【0080】
<工程7:床材の設置工程>
工程1~工程6の作業が完了したら、最後に耐火パネル2を構成する床材である軽量気泡コンクリートパネル232を設置し、第3のビス部材26を荷重支持層211まで貫通して螺着させることで、全ての設置作業が完了する。
【0081】
以上のように、本発明を適用した耐火構造物、耐火パネル、及び耐火構造物の施工方法は、耐火性能に優れ、製造コストの低減を図ることができるものとなっている。
【符号の説明】
【0082】
1 耐火構造物
2 耐火パネル
21 荷重支持層
211 木材片
212 木材板
22 第1の不燃層
221 石膏パネル
222 珪酸カルシウムパネル
23 第2の不燃層
231 石膏パネル
232 軽量気泡コンクリートパネル
24 第1のビス部材
25 第2のビス部材
26 仮止ビス部材
3 鉄骨梁
31 フランジ
32 補助フランジ
4 柱
5 ブレース
6 梁固定部材
7 目地隙間
8 断熱材
9 切欠部
10a、10b 目地塞ぎ部材
11 目地塞ぎ固定部材
12 被覆材
13 被覆材固定部材