(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】接着力に優れたポリイミド樹脂を製造するためのポリアミック酸組成物及びこれによって製造されたポリイミド樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20221005BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221005BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221005BHJP
C09J 179/08 20060101ALI20221005BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20221005BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08 Z
C08J5/18 CFG
C09J179/08 Z
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2021520155
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(86)【国際出願番号】 KR2018014288
(87)【国際公開番号】W WO2020075908
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0121185
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】イク・サン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ギョン・ヒョン・ロ
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-027271(JP,A)
【文献】特開2016-030760(JP,A)
【文献】特開2016-030759(JP,A)
【文献】特開2017-145325(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081478(WO,A1)
【文献】特開2017-179150(JP,A)
【文献】特開平04-011632(JP,A)
【文献】特開平11-050037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00- 73/26
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 5/18
C09J 179/08
H01L 23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂製造用ポリアミック酸組成物であって、
- 1つのベンゼン環を有する第1のジアンハイドライド及びベンゾフェノン構造を有する第2のジアンハイドライドを含むジアンハイドライド単量体、並びに下記化(1):
【化1】
(前記化(1)において、
Rは、-C
n1(CH
3)
2n1-、-C
n2(CF
3)
2n2-、-(CH
2)
n3-、又は-O(CH
2)
n4O-であり、
n1~n4は、それぞれ独立して1~4の整数である。)
で表される化合物を含むジアミン単量体が重合されたポリアミック酸と、
- アセティックアンハイドライド(AA)、プロピオンアシッドアンハイドライド、及びラクティックアシッドアンハイドライド、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン(BP)及びピリジンから選ばれた少なくとも1種の添加剤と、
- 有機溶媒と、
を含み、
前記添加剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対し、0.05モル~0.1モルの量で含まれ、
前記第1のジアンハイドライドに対する前記第2のジアンハイドライドのモル比(=第2のジアンハイドライドのモル数/第1のジアンハイドライドのモル数)が
0.4~1.2である、ポリアミック酸組成物。
【請求項2】
前記第1のジアンハイドライドに対する前記第2のジアンハイドライドのモル比が0.4~1である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項3】
前記ジアンハイドライド単量体の全モル数を基準として、前記第1のジアンハイドライドの含量が40モル%~80モル%であり、前記第2のジアンハイドライドの含量が20モル%~60モル%である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項4】
前記第1のジアンハイドライドは、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項5】
前記第2のジアンハイドライドは、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項6】
前記ジアミン単量体の全モル数を基準として、前記化(1)の化合物の含量が70モル%~100モル%である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項7】
前記化(1)において、Rは、-C(CH
3)
2-又は-C(CF
3)
2-である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項8】
前記化(1)において、Rは、-C(CH
3)
2-である、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項9】
ポリアミック酸の固形分含量が15%であるとき、23℃で測定した粘度が400cP~1,000cPである、請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のポリアミック酸組成物をイミド化して製造されたポリイミド樹脂。
【請求項11】
無機基板上でASTM D 3359によって接着力の測定時、除去された面積が全体の5%未満である、請求項
10に記載のポリイミド樹脂。
【請求項12】
ガラス転移温度が280℃以上であり、
熱膨張係数が40ppm/℃以上である、請求項
10に記載のポリイミド樹脂。
【請求項13】
引張強度が140MPa以上であり、
伸び率が100%以上である、請求項
10に記載のポリイミド樹脂。
【請求項14】
請求項
10に記載のポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルム。
【請求項15】
請求項
10に記載のポリイミド樹脂を含む電子部品。
【請求項16】
前記電子部品は、前記ポリイミド樹脂が接着された状態で封止された半導体である、請求項
15に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着力に優れたポリイミド樹脂を製造するためのポリアミック酸組成物及びこれによって製造されたポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体などの回路装置を構成する周辺部品間の接着は、一般的に、はんだ付け(soldering)方法を用いて行われている。
【0003】
しかし、回路の線幅(linewidth)が次第に細かくなっており、はんだ付け(soldering)に用いられる鉛が環境問題を引き起こすため、鉛を使用しない新たな接着方法が求められ、約250℃以上でも耐えられる接着剤が求められている。
【0004】
したがって、鉛に比べて環境問題に敏感でなく、コーティング、塗布などが可能であり、硬化時の接着力を発現する高分子樹脂が、前記回路接着用接着剤として用いられる傾向にあり、エポキシ、アクリル、ポリエステル、ポリイミドなどを回路接着用高分子樹脂の代表的な例として挙げることができる。
【0005】
このうち、エポキシ、アクリル、ポリエステル樹脂などは、接着力に優れており、例えば、シリコン系物質を含む半導体接着に適した熱膨張係数、詳細には、40ppm/℃~50ppm/℃の熱膨張係数を有することに長所があるが、耐熱性に劣る致命的な短所を有する。また、これらは、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性などの物性も大きく優れているわけではなく、接着剤として汎用的に活用されるには限界がある。
【0006】
一方、ポリイミド樹脂は、剛直な芳香族の主鎖とともに化学的安定性が非常に優れたイミド環をベースとし、高分子樹脂の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料であって、電気的信頼性が強く求められる回路接着用接着剤として大きく注目されている。このようなポリイミド樹脂は、前駆体であるポリアミック酸含有溶液を対象体に薄膜状に塗布した後、これを熱及び/又は化学的触媒による作用によって硬化させることにより、接着剤として活用されてもよい。
【0007】
但し、一般的にポリイミド樹脂は、高分子樹脂の中で接着力が高いとは言えず、接着力をより改善させるための様々な研究が行われている。
【0008】
例えば、ポリイミド樹脂の接着力を改善するため、単量体の含量を限定する方法が一部で試みられているが、接着力が多少向上している反面、伸び率や引張強度などの機械的物性の低下及び寸法安定性、詳細には、半導体のような回路の接着に適さない熱膨張係数による寸法安定性が犠牲になり得る。
【0009】
したがって、従来よりも優れた接着力を持ちながらも、ガラス転移温度及び寸法安定性も適正水準で担保され得る新規なポリイミド樹脂が必要なのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記で認識された従来の問題を一挙に解消できる新規なポリイミド樹脂及び前記ポリイミド樹脂を製造するためのポリアミック酸組成物を提供することである。
【0011】
本発明の一側面によれば、1つのベンゼン環を有する第1のジアンハイドライド及びベンゾフェノン構造を有する第2のジアンハイドライドを含むジアンハイドライド単量体、並びに本発明による化(1)で表される化合物を含むジアミン単量体が重合されたポリアミック酸を含む組成物は、最高水準の接着力とともに、優れたガラス転移温度と寸法安定性を有するポリイミド樹脂を具現できる。
【0012】
そこで、本発明は、その具体的な実施例を提供することに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一つの実施態様において、本発明は、
1つのベンゼン環を有する第1のジアンハイドライド及びベンゾフェノン構造を有する第2のジアンハイドライドを含むジアンハイドライド単量体、並びに下記化(1)で表される化合物を含むジアミン単量体が重合されたポリアミック酸と、
有機溶媒と、を含み、
前記第1のジアンハイドライドに対する前記第2のジアンハイドライドのモル比(=第2のジアンハイドライドのモル数/第1のジアンハイドライドのモル数)が0.2~1.2であるポリアミック酸組成物を提供する。
【0014】
【0015】
前記化(1)において、Rは、-Cn1(CH3)2n1-、-Cn2(CF3)2n2-、-(CH2)n3-、又は-O(CH2)n4O-であり、n1~n4は、それぞれ独立して1~4の整数である。
【0016】
一つの実施態様において、本発明は、前記ポリアミック酸組成物をイミド化して製造されたポリイミド樹脂を提供する。
【0017】
一つの実施態様において、本発明は、前記ポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルムを提供する。
【0018】
一つの実施態様において、本発明は、前記ポリイミド樹脂を含む電子部品を提供し、前記電子部品は、前記ポリイミド樹脂が接着された状態で封止された半導体であってもよい。
【0019】
以下、本発明による「ポリアミック酸組成物」及び「ポリイミド樹脂」の順に発明の実施態様をより詳細に説明する。
【0020】
先に、本明細書及び請求範囲において用いられた用語や単語は、通常的であるか、または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、その自分の発明を最も最善の方法で説明するため、用語の概念を適切に定義できるという原則に即して、本発明の技術的思想に見合う意味と概念として解釈されるべきである。
【0021】
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点において、これらに代わる様々な均等物と変形例が存在できることを理解しなければならない。
【0022】
本明細書において単数の表現は、文脈上、明らかに異なる意味がない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」、又は「有する」などの用語は、行われた特徴、数字、段階、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つ又はそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。
【0023】
本明細書において、「ジアンハイドライド(二無水物;dianhydride)」は、その前駆体又は誘導体を含むことが意図されるが、これらは技術的にはジアンハイドライドではないことがあるが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は、再びポリイミドに変換されてもよい。
【0024】
本明細書において、「ジアミン(diamine)」は、その前駆体又は誘導体を含むことが意図されるが、これらは技術的にはジアミンではないこともあるが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は、再びポリイミドに変換されてもよい。
【0025】
本明細書において、量、濃度、又は他の値又はパラメータが範囲、好ましい範囲又は好ましい上限値及び好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別々に開示されるかにかかわらず、任意の一対の任意の上方範囲の限界値又は好ましい値及び任意の下方範囲の限界値又は好ましい値で形成され得る全ての範囲を具体的に開示するものと理解されるべきである。数値の範囲が、本明細書で言及される場合、特段の記述がないかぎり、例えば、超過、未満などの限定用語がない場合、その範囲は、その終点値及びその範囲内の全ての整数と分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義するときに言及される特定の値に限定されないものと意図される。
【0026】
ポリアミック酸組成物
本発明によるポリアミック酸組成物は、
ポリイミド樹脂製造用ポリアミック酸組成物であって、
1つのベンゼン環を有する第1のジアンハイドライド及びベンゾフェノン構造を有する第2のジアンハイドライドを含むジアンハイドライド単量体、及び下記化(1)で表される化合物を含むジアミン単量体が重合されたポリアミック酸と、
有機溶媒と、を含み、
前記第1のジアンハイドライドに対する前記第2のジアンハイドライドのモル比(=第2のジアンハイドライドのモル数/第1のジアンハイドライドのモル数)が0.2~1.2であってもよい。
【0027】
【0028】
前記化(1)において、Rは、-Cn1(CH3)2n1-、-Cn2(CF3)2n2-、-(CH2)n3-、又は-O(CH2)n4O-であり、n1~n4は、それぞれ独立して1~4の整数である。
【0029】
本発明によるポリアミック酸組成物は、これにより製造されるポリイミド樹脂が最高水準の接着力、優れたガラス転移温度と伸び率及び適正水準の熱膨張係数、詳細には、40ppm/℃以上の熱膨張係数を内在させて、前述した従来の問題を解決することに主な特徴がある。
【0030】
以下の非制限的な例によって本発明によるポリアミック酸組成物の具体的な構成と、各構成の意義を説明する。
【0031】
一つの具体例において、前記第1のジアンハイドライドは、1つのベンゼン環を有することにより、相対的に剛直な分子構造を有するピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)であってもよい。
【0032】
ポリイミド樹脂のガラス転移温度を向上させるためには、剛直な分子構造の単量体、すなわち、直線性の高い単量体を使用することが有利であり、第1のジアンハイドライドとしてピロメリティックジアンハイドライドは、その剛直な分子構造に基づいて本発明のポリアミック酸組成物から製造されるポリイミド樹脂のガラス転移温度が適正水準を有するのに好ましく作用することができ、ポリイミド樹脂の引張強度のような機械的物性の向上にも有利に作用し得る。
【0033】
但し、前記ピロメリティックジアンハイドライドは、例えば、ポリイミド樹脂がシリコン系基板の接着に好ましい熱膨張係数及び高い伸び率を有するように作用する単量体でない場合がある。
【0034】
したがって、第1のジアンハイドライドとしてピロメリティックジアンハイドライドのみを用いて製造されたポリイミド樹脂は、熱膨張係数と伸び率及びガラス転移温度が適正水準で両立しにくい場合がある。
【0035】
しかし、驚くべきことに、ベンゾフェノン構造を有する第2のジアンハイドライドを第1のジアンハイドライドであるピロメリティックジアンハイドライドとともに使用してポリアミック酸組成物及びポリイミド樹脂を具現する場合は、互いに両立しにくい、熱膨張係数及び伸び率などの寸法安定性に関連した物性とガラス転移温度とが好ましい水準で両立し得る。
【0036】
一つの具体例において、前記ベンゾフェノン構造を有する第2のジアンハイドライドは、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)であってもよい。
【0037】
このような第2のジアンハイドライドは、ベンゾフェノン構造が相対的に柔軟な分子構造からなるので、ポリイミド樹脂の伸び率の向上及び適正水準の熱膨張係数の達成に役立ち、それ自体で耐化学性に優れる利点も有する。
【0038】
前記第2のジアンハイドライドは、さらにポリアミック酸組成物から製造されたポリイミド樹脂の接着力の向上にも好ましい影響を与えることができる。
【0039】
通常のポリイミド樹脂の接着力が所望の水準に達しない原因にはいくつかあるが、ポリアミック酸組成物を接着対象体、例えば、シリコン系基板に製膜後、前記接着対象体との接触界面に表面脆弱層(WBL;Weak Boundary Layer)が形成されることが一因といえる。参考として、表面脆弱層は、様々な形態があるが、その中の一つは、接触界面でポリイミド樹脂の少なくとも一部が接着対象体を支持できず、浮き上がった形態であり得る。
【0040】
前記浮き上がった形態は、例えば、ポリイミド樹脂と接着対象体との間の界面で作用する引力が弱いか、ポリアミック酸組成物からポリイミド樹脂に変換されるときに揮発される水分及び/又は有機溶媒などの存在によって発生しうる。
【0041】
第2のジアンハイドライドは、ベンゾフェノン構造が、接着対象体に存在する親水性基との相互作用を介してポリイミド樹脂の接着水準を向上させることができる。
【0042】
また、第2のジアンハイドライドのベンゾフェノン構造は、ポリアミック酸組成物からポリイミド樹脂に変換される初期時点での水分及び/又は有機溶媒の揮発を容易にするのに有利であり、これにより第2のジアンハイドライドは、変換が完了したポリイミド樹脂が接着対象体から浮き上がった現象を抑制するのに有利に作用し得る。
【0043】
結果として、第2のジアンハイドライドは、ポリイミド樹脂においてこのような表面脆弱層が形成されることを最小限に抑えるのに有利に作用し、ポリイミド樹脂が最高水準の接着力を有することに関与し得る。
【0044】
但し、上述した利点のみを考慮して、第2のジアンハイドライドを過量で用いることは好ましくない。これは、ポリイミド樹脂の伸び率と接着力の向上に対して、第1のジアンハイドライドの一部の欠乏によるガラス転移温度の低下が、ポリイミド樹脂においてかなり大きく影響する可能性があるからである。
【0045】
これに対する一つの具体例では、前記ジアンハイドライド単量体の全モル数を基準として、前記第1のジアンハイドライドの含量が40モル%~80モル%、詳細には45モル%~70モル%であり、前記第2のジアンハイドライドの含量が20モル%~60モル%、詳細には、30モル%~55モル%であってもよい。
【0046】
また、ポリイミド樹脂において寸法安定性に関連した物性及びガラス転移温度が好ましい水準で両立されながら、最高水準の接着力を有するためには、ポリアミック酸組成物の製造時、第1のジアンハイドライドの含量と第2のジアンハイドライドの含量とが絶妙にバランスを取ることが特に重要である。
【0047】
そこで本発明は、第1のジアンハイドライドに対する前記第2のジアンハイドライドの好ましいモル比を提供し、前記モル比は、0.2~1.2、さらに好ましくは、0.4~1であってもよく、特に好ましくは、0.4~0.7であってもよい。
【0048】
前記モル比の範囲を下回る場合は、ポリイミド樹脂の伸び率と接着力の低下につながる反面、ガラス転移温度が好ましい範囲での場合よりも殆ど向上しないという問題がある。
【0049】
前記モル比の範囲を上回る場合は、ポリイミド樹脂のガラス転移温度が大幅に低下する直接的な原因として作用し、好ましい範囲での場合よりも接着力と伸び率は、実質的に向上しないことがある。
【0050】
一方、前記化(1)で表される化合物を含むジアミン単量体は、相対的に柔軟な分子構造に基づいて、ポリアミック酸組成物から製造されたポリイミド樹脂が向上された伸び率と適正水準の熱膨張係数を有するのに有利に作用でき、接着力の向上にも好適に作用できる。
【0051】
一つの具体例において、前記化(1)において、Rは、-C(CH3)2-又は-C(CF3)2-であってもよく、さらに詳細には、-C(CH3)2-であってもよい。
【0052】
一つの具体例において、前記ジアミン単量体の全モル数を基準として、前記化(1)の化合物の含量が70モル%~100モル%であってもよい。
【0053】
すなわち、前記化(1)の化合物は、ジアミン単量体の単独成分として用いられてもよく、場合によって引張強度、吸湿率耐塩基性などのその他の物性の改善を目的として、前記ジアミン単量体が化(1)の化合物とともに他のジアミン成分を制限的含量でさらに含んでもよい。
【0054】
前記化(1)の化合物が前記含量の範囲を下回って含まれる場合は、ポリアミック酸組成物から製造されたポリイミド樹脂の伸び率及び接着力の低下を引き起こし得るので、本発明の範囲で用いられることが好ましい。
【0055】
前記化(1)の化合物とともに他のジアミン成分として、ジアミン単量体に含まれてもよい成分は、以下のように分類して例を挙げることができる。
【0056】
1)1,4-ジアミノベンゼン(又はパラフェニレンジアミン、PPD)、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノベンゾイクアシッド(又はDABA)などのように、構造上、ベンゼン環を1つ有するジアミンとして、相対的に剛直な構造のジアミンと、
【0057】
2)4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(又はオキシジアニリン、ODA)、3,4'-ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルメタン(メチレンジアミン)、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジカルボキシ-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4'-ジアミノベンズアニライド、3,3'-ジクロロベンジジン、3,3'-ジメチルベンジジン(又はo-トリジン)、2,2'-ジメチルベンジジン(又はm-トリジン)、3、3'-ジメトキシベンジジン、2,2'-ジメトキシベンジジン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジクロロベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4'-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホキシドなどのように、構造上、ベンゼン環を2つ有するジアミンと、
【0058】
3)1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(又はTPE-R)、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(又はTPE-Q)1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-4-トリフルオロメチルベンゼン、3,3'-ジアミノ-4-(4-フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジ(4-フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(3-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのように、構造上、ベンゼン環を3つ有するジアミンと、
【0059】
4)3,3'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのように、構造上、ベンゼン環を4つ有するジアミン。
【0060】
前記ポリアミック酸組成物を製造する方法は、例えば、
【0061】
(1)ジアミン単量体の全量を有機溶媒中に入れ、その後、ジアンハイドライド単量体をジアミン単量体と実質的に等モルになるように添加して重合する方法と、
【0062】
(2)ジアンハイドライド単量体の全量を有機溶媒中に入れ、その後、ジアミン単量体をジアンハイドライド単量体と実質的に等モルになるように添加して重合する方法と、
【0063】
(3)ジアミン単量体の一部の成分を有機溶媒中に入れた後、この反応成分に対してジアンハイドライド単量体の一部の成分を約95モル%~105モル%の割合で混合した後、残りのジアミン単量体の成分を添加し、次に、残りのジアンハイドライド単量体の成分を添加し、ジアミン単量体及びジアンハイドライド単量体が実質的に等モルになるようにして重合する方法と、
【0064】
(4)ジアンハイドライド単量体を有機溶媒中に入れた後、この反応成分に対してジアミン化合物の一部の成分を95モル%~105モルの割合で混合した後、他のジアンハイドライド単量体の成分を添加し、次に、残りのジアミン単量体の成分を添加し、ジアミン単量体及びジアンハイドライド単量体が実質的に等モルになるようにして重合する方法と、
【0065】
(5)有機溶媒中で一部のジアミン単量体の成分と一部のジアンハイドライド単量体の成分とをいずれかが過量になるように反応させて第1の重合物を形成し、さらに他の有機溶媒の中で一部のジアミン単量体の成分と一部のジアンハイドライド単量体の成分とをいずれかが過量になるように反応させて第2の重合物を形成した後、第1、第2の重合物を混合し、重合を完結する方法であって、その際、第1の重合物を形成するときにジアミン単量体の成分が過剰である場合、第2の重合物では、ジアンハイドライド単量体の成分を過量とし、第1の重合物においてジアンハイドライド単量体の成分が過剰である場合、第2の重合物においては、ジアミン単量体の成分を過量とし、第1、第2の重合物を混合してこれらの反応に用いられる全体のジアミン単量体の成分とジアンハイドライド単量体の成分とが実質的に等モルになるようにして重合する方法などが挙げられる。
【0066】
但し、前記方法は、本発明の実施を助けるための例示であって、本発明の範疇がこれらに限定されるものではなく、公知の何らかの方法が使用できることはもちろんである。
【0067】
前記有機溶媒は、ポリアミック酸が溶解され得る溶媒であれば特に限定されないが、一例として、極性非プロトン性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよい。
【0068】
前記極性非プロトン性溶媒の非制限的な例として、N、N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、N、N'-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)及びジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0069】
場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いてポリアミック酸の溶解度を調節してもよい。
【0070】
一例において、本発明の前駆体組成物の製造に特に好ましく使用できる有機溶媒は、N-メチル-ピロリドン、N、N'-ジメチルホルムアミド及びN、N'-ジメチルアセトアミドであり得る。
【0071】
このように製造されたポリアミック酸組成物は、ポリアミック酸の固形分含量が15%であるとき、23℃で測定した粘度が400cP~1,000cP、詳細には、500cP~700cPであり得る。
【0072】
ポリアミック酸組成物の粘度が前記範囲を超える場合、製膜工程に用いられるディスペンサーノズルがポリアミック酸組成物によって閉塞されることがあり、前記範囲を下回ると、ポリアミック酸組成物の過度な流動性により、所望の厚さで製膜することが困難な工程上の問題を引き起こし得る。それだけでなく、前記範囲を下回る低い粘度は、ポリアミック酸組成物が変換されて形成されたポリイミド樹脂の接着力の低下につながる可能性がある。
【0073】
また、ポリアミック酸組成物の粘度が前記範囲を上回っても、高い粘性のために所望の形態で製膜が困難になることがあるので、好ましくない。
【0074】
一方、前記ポリアミック酸組成物は、アセティックアンハイドライド(AA)、プロピオンアシッドアンハイドライド、及びラクティックアシッドアンハイドライド、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン(BP)及びピリジンから選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含んでもよい。
【0075】
これらの添加剤は、ポリアミック酸組成物を製膜した後、ポリイミド樹脂に変換するとき、ポリアミック酸に対する脱水作用を介して閉環反応を促進し、所望のポリイミド樹脂を得るのに役立つ。
【0076】
前記添加剤は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して、0.05モル~0.1モルで含まれ得る。
【0077】
前記添加剤が前記範囲を下回ると、脱水及び/又は閉環反応の促進程度が不十分であり、ポリアミック酸組成物が変換されたポリイミド樹脂にクラックを引き起こす原因になることがあり、ポリイミド樹脂の強度低下を引き起こし得る。
【0078】
また、前記添加剤の添加量が前記範囲を上回ると、イミド化が過度に急速に進行することがあり、この場合、ポリアミック酸組成物を薄い薄膜状にキャスティングすることが困難であるか、又は変換されたポリイミド樹脂が脆い(brittle)特性を示し得るため、好ましくない。
【0079】
前記ポリアミック酸組成物に由来するポリイミド樹脂の摺動性、熱伝導性、導電性、コロナ耐性、ループ硬度などのポリイミド樹脂の様々な特性を改善する目的で、ポリアミック酸組成物は、充填材をさらに含んでもよい。
【0080】
前記充填材は、特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0081】
前記充填材の平均粒径は、特に限定されるものではなく、改質しようとするポリイミド樹脂の特性と添加する充填材の種類に応じて決めてもよい。一例において、前記充填材の平均粒径は、0.05μm~100μm、詳細には、0.1μm~75μm、さらに好ましくは、0.1μm~50μm、特に詳細には、0.1μm~25μmであってもよい。
【0082】
平均粒径がこの範囲を下回ると、改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると、充填材がポリイミド樹脂の表面性を大きく損傷させるか、またはその機械的特性の低下を引き起こすことがある。
【0083】
また、充填材の添加量に対しても特に限定されるものではなく、改質しようとするポリイミド樹脂の特性や充填材の粒径などによって決めてもよい。
【0084】
一例において、充填材の添加量は、ポリアミック酸組成物100重量部に対して0.01重量部~100重量部、好ましくは、0.01重量部~90重量部、さらに好ましくは、0.02重量部~80重量部ある。
【0085】
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質効果が現れにくく、この範囲を上回ると、ポリイミド樹脂の機械的特性が大きく低下することがある。充填材の添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の何らかの方法を用いることができるのはもちろんである。
【0086】
ポリイミド樹脂
本発明によるポリイミド樹脂は、先の実施態様で説明したようなポリアミック酸組成物をイミド化して製造されたものであってもよい。
【0087】
本発明のポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が280℃以上、詳細には、280℃~350℃であり、熱膨張係数が40ppm/℃以上、詳細には、40ppm/℃~50ppm/℃であり得る。
【0088】
前記ガラス転移温度は、ポリイミド樹脂の耐熱性を示す物性であり、例えば、前記ガラス転移温度を有するポリイミド樹脂は、接着剤として活用されるとき、接着対象体に対して高い水準の熱的安定性を確保でき、接着に使用される約250℃以上の高温でも安定的に接着工程を行うことができる。
【0089】
前記熱膨張係数は、例えば、シリコン系無機基板、例えば、半導体の熱膨張係数と実質的に類似した範囲に属し、これにより、本発明のポリイミド樹脂は、従来のソルダリングによる回路接着に代わり、寸法安定性に優れた回路接着用接着剤として好ましく用いられ得る。
【0090】
本発明のポリイミド樹脂は、さらに引張強度が140MPa以上であって、機械的剛性に優れながらも伸び率が100%以上であり得、柔軟性も優れた利点を有し、近年、活発に開発されている軟性の回路部品にも接着剤や電気絶縁材料として好ましく用いることができる。詳細には、前記ポリイミド樹脂は、引張強度が200MPa以下、伸び率が200%以下であり得る。
【0091】
本発明のポリイミド樹脂は、さらに無機基板、例えば、シリコン系無機基板上でASTM D 3359によって接着力の測定時に除去された面積が全体の5%未満、詳細には、3%以下、詳細には、1%以下であり、最高水準の接着力を内在し得る。
【0092】
前記ASTM D 3359による接着力の測定方法は、
【0093】
接着された状態のポリイミド樹脂の表面をクロスカッターガイド(cross cutter guide)によってカッティングして格子パターンを形成させる段階と、
【0094】
ブラシなどを使用してポリイミド樹脂の表面を擦った後、格子パターンにテープを貼り付けてから剥がす段階と、
【0095】
格子パターンを肉眼で確認し、テープによって接着が解除されて除去された部分に該当する面積を計算する段階と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】
図1は、実施例1のポリイミド樹脂の接着力をテストした後、樹脂の表面を撮影した写真である。
【
図2】
図2は、比較例1のポリイミド樹脂の接着力をテストした後、樹脂の表面を撮影した写真である。
【
図3】
図3は、比較例5のポリイミド樹脂の接着力をテストした後、樹脂の表面を撮影した写真である。
【
図4】
図4は、比較例6のポリイミド樹脂の接着力をテストした後、樹脂の表面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
以下、発明の具体的な実施例によって、発明の作用及び効果をより詳述する。但し、これらの実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるものではない。
【実施例】
【0098】
<実施例1>
NMPが満たされた40℃の反応器に、第1のジアンハイドライドとしてPMDA、第2のジアンハイドライドとしてBTDA、並びにジアミンとしてBAPPを、下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、これにイソキノリンをアミック酸基1モルに対して0.05~0.1モル投入した後、80℃で約2時間の間熟成工程を行って、最終のポリアミック酸組成物を製造した。
【0099】
<実施例2>
第1のジアンハイドライドとしてPMDA及び第2のジアンハイドライドとしてBTDAを下記表1に示したモル比に変更してポリアミック酸を重合したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0100】
<実施例3>
第1のジアンハイドライドとしてPMDA及び第2のジアンハイドライドとしてBTDAを下記表1に示したモル比に変更してポリアミック酸を重合したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0101】
<比較例1>
第1のジアンハイドライドとしてPMDA及び第2のジアンハイドライドとしてBTDAを下記表1に示したモル比に変更してポリアミック酸を重合したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0102】
<比較例2>
第1のジアンハイドライドとしてPMDA及び第2のジアンハイドライドとしてBTDAを下記表1に示したモル比に変更してポリアミック酸を重合したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0103】
<比較例3>
第1のジアンハイドライドとしてPMDA及び第2のジアンハイドライドとしてBTDAを下記表1に示したモル比に変更してポリアミック酸を重合したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0104】
<比較例4>
第1のジアンハイドライドとしてPMDA及び第2のジアンハイドライドとしてBTDAを下記表1に示したモル比に変更してポリアミック酸を重合したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0105】
<比較例5>
実施例1と比較して第1のジアンハイドライドを省略し、ジアンハイドライド単量体として第2のジアンハイドライドであるBTDAを単一成分として使用し、ジアミン単量体としてBAPP及びODAをともに使用した。
【0106】
具体的には、NMPが満たされた40℃の反応器に、BTDA、第1のジアミンとしてBAPP及び第2のジアミンとしてODAを、下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、その他は実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0107】
<比較例6>
実施例1と比較して第1のジアンハイドライドを省略し、ジアンハイドライド単量体として第2のジアンハイドライドであるBTDAを単一成分として使用し、ジアミン単量体としてODAを単一成分として使用した。
【0108】
具体的には、NMPが満たされた40℃の反応器に、BTDA及びODAを、下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、その他は実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0109】
<比較例7>
実施例1と比較して第2のジアンハイドライドを省略し、ジアンハイドライド単量体として第1のジアンハイドライドであるPMDAを単一成分として使用した。
【0110】
具体的には、NMPが満たされた40℃の反応器に、PMDA及びBAPPを、下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、その他は実施例1と同様な方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0111】
<比較例8>
実施例1と比較して第1のジアンハイドライドを省略し、ジアンハイドライド単量体として第2のジアンハイドライドであるBPDAを単一成分として使用した。
【0112】
具体的に、NMPが満たされた40℃の反応器にBPDA及びBAPPを下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、その他は実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0113】
<比較例9>
実施例1と比較して第1のジアンハイドライドを省略し、ジアンハイドライド単量体として第2のジアンハイドライドであるBTDAのみを単一成分として使用した。
【0114】
具体的には、NMPが満たされた40℃の反応器に、BTDA及びBAPPを、下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、その他は実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0115】
<比較例10>
実施例1と比較して第1のジアンハイドライドを省略し、ジアンハイドライド単量体として第2のジアンハイドライドであるBTDAを単一成分として使用し、ジアミン単量体としてBAPP及びPPDをともに使用した。
【0116】
具体的には、NMPが満たされた40℃の反応器に、BTDAと第1のジアミンとしてBAPP及び第2のジアミンとしてPPDを、下記表1に示したモル比で添加し、約30分間攪拌してポリアミック酸を重合し、その他は実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0117】
<比較例11>
第2のジアンハイドライドとしてBTDAの代わりにBPDAを使用し、第1のジアンハイドライドと第2のジアンハイドライドのモル比を下記表1のように変更したことを除けば、実施例1と同様の方法でポリアミック酸組成物を製造した。
【0118】
【0119】
<実験例1:ポリイミド樹脂の物性テスト>
実施例1~3及び比較例1~11で製造されたポリアミック酸組成物を支持体に薄膜状に塗布した後、イミド化して平均厚さが約21μmであるフィルム状のポリイミド樹脂を製造した。
【0120】
このように製造されたポリイミド樹脂に対し、下記のような方法で物性をテストし、その結果を下記表2に示した。
【0121】
(1)熱膨張係数(CTE)
熱膨張係数は、TMAを用いて測定した。
【0122】
(2)ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は、DMAを用いて各フィルムの損失弾性率と保存弾性率を求め、それらのタンジェントグラフにおいて変曲点をガラス転移温度として測定した。
【0123】
(3)引張強さ
引張強度は、KS6518に提示された方法により測定した。
【0124】
(4)伸び率
伸び率は、ASTM D1708に提示された方法により測定した。
【0125】
【0126】
表2に示すように、実施例は、100%以上の非常に優れた伸び率を示した。
【0127】
それだけでなく、実施例は、ガラス転移温度が280℃以上であり、引張強度が140MPa以上であるため、優れた耐熱性及び機械的物性を満たしており、半導体接着に適した40ppm/℃~50ppm/℃の熱膨張係数も満たしている。
【0128】
すなわち、本発明によって行われた実施例では、互いに両立しにくいガラス転移温度及び寸法安定性に関連した伸び率と、所定の熱膨張係数とが、好ましい水準で両立していることが分かる。
【0129】
一方、第1のジアンハイドライドと第2のジアンハイドライドの含量比率が、本発明の範囲を外れた比較例1~4は、実施例に比べてほとんどの物性が不良であり、特に、ガラス転移温度と寸法安定性に関連した物性とが両立していなかった。
【0130】
一方、比較例5~11は、本発明とは異なる単量体を使用して製造された通常のポリアミック酸組成物を用いてポリイミド樹脂を製造したもので、比較例1~4と同様に、実施例に比べてほとんどの物性が不良であることが分かった。
【0131】
<実験例2:ポリイミド樹脂の接着力テスト>
実施例1~3及び比較例1~11で製造されたポリアミック酸組成物をシリコン系無機基板に35μmの厚さにキャスティングし、50℃~350℃の温度範囲で乾燥させて、平均厚さが約21μmであるフィルム状のポリイミド樹脂を製造した。
【0132】
このように製造されたポリイミド樹脂に対して下記ASTM D 3359に提示された方法を用いて接着力を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0133】
接着された状態のポリイミド樹脂の表面をクロスカッターガイド(cross cutter guide)によってカッティングして格子パターンを形成させる段階と、
【0134】
ブラシなどを使用してポリイミド樹脂の表面を擦った後、格子パターンにテープを貼り付けてから剥がす段階と、
【0135】
格子パターンを肉眼で確認し、テープによって接着が解除されて除去された部分に該当する面積を計算する段階。
【0136】
【0137】
実施例は、テープによって接着が解除された部分がなく、滑らかな表面状態を維持し、ASTM D 3359による等級のうち、最高水準の接着力等級を示した。
【0138】
これに対して、
図1に、実施例1のポリイミド樹脂を接着力テストした後、樹脂の表面を撮影した写真(右下段は、拡大された写真)を示す。
【0139】
図1を参照すると、格子パターンにテープを貼り付けてから剥がしたにもかかわらず、接着が解除されて除去された部分が実質的にないことが確認できる。
【0140】
このことから、本発明の実施様態によるポリアミック酸組成物及びポリイミド樹脂は、従来の通常のポリイミド樹脂が有している接着力に対する限界を超えて、回路接着、詳細には、シリコン系無機基板を含む半導体の接着剤として好ましく活用されることが予想できる。
【0141】
一方、第1のジアンハイドライドと第2のジアンハイドライドの含量比率が、本発明の範囲から外れた比較例1~比較例4は、実施例に対して著しく不良な接着力を示した。
【0142】
これに関連して、
図2に、比較例1のポリイミド樹脂を接着力テストした後、樹脂表面を撮影した写真を示す。
図2を参照すると、比較例1は、接着後に除去された面積が目立って広いことが確認できる。
【0143】
結果として、比較例1~4から、第1のジアンハイドライド及び第2のジアンハイドライドの含量が本発明の範囲に属し、これらが最適な割合で用いられるとき、はじめて優れた接着力が発現することが分かる。
【0144】
比較例9を除いた残りの比較例も、実施例に対して不良な接着力を示した。
【0145】
これに関連して、
図3に、比較例5のポリイミド樹脂を接着力テストした後、樹脂の表面を撮影した写真を示し、
図4に、比較例6のポリイミド樹脂を接着力テストした後、樹脂表面を撮影した写真を示す。
【0146】
これらの図面を参照すると、比較例5と比較例6は、接着後に除去された面積が広範囲であるため、接着剤として活用されるには限界があることが分かる。
【0147】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明の属する分野で通常の知識を持つ者であれば、前記内容に基づいて本発明の範疇内で様々な応用及び変形を行うことが可能であろう。
【産業上の利用可能性】
【0148】
以上説明したように、本発明によるポリアミック酸組成物は、互いに両立しにくい、熱膨張係数及び伸び率などの寸法安定性に関連した物性とガラス転移温度とが好ましい水準で両立できる、最高水準の接着力を有するポリイミド樹脂を製造することができるという利点を有する。
【0149】
本発明は、さらに前記ポリアミック酸組成物から製造されたポリイミド樹脂を提供し、前記ポリイミド樹脂は、無機基板上でASTM D 3359によって接着力の測定時に除去された面積が全体の5%未満である最高水準の接着性を有するとともに、ガラス転移温度が280℃以上であり、熱膨張係数が40ppm/℃以上であって、引張強度が140MPa以上であり、伸び率が100%以上であり、非常に優れた特性を内在し得る。