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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】炭化珪素部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20221005BHJP
   C04B 35/565 20060101ALI20221005BHJP
   C04B 35/576 20060101ALI20221005BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20221005BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20221005BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C04B37/00 Z
C04B35/565
C04B35/576
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/302 101G
H01L21/68 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017119870
(22)【出願日】2017-06-19
(65)【公開番号】P2019001695
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】土屋 知久
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-78943(JP,A)
【文献】特表2007-511911(JP,A)
【文献】特開2014-187213(JP,A)
【文献】特開2004-22243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B37/00-37/04
C04B35/576
C04B35/565
H01L21/3065
H01L21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置のための炭化珪素部材を製造する製造方法であって、
少なくとも1つの炭化珪素焼結体の表面に中空流路用の凹部又は貫通孔が形成された複数の炭化珪素焼結体を準備する工程と、
少なくとも前記中空流路用の凹部又は貫通孔を有する前記炭化珪素焼結体に対して酸素含有雰囲気で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された炭化珪素焼結体を含む前記複数の炭化珪素焼結体を互いに直接接合法により接合し、前記炭化珪素部材中の中空流路を画定する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記熱処理を施す工程は、1000℃以上から1200℃以下の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記複数の炭化珪素焼結体を準備する工程は、炭化珪素成形体に対して前記中空流路用の凹部又は貫通孔を形成する工程と、前記炭化珪素成形体を焼成することにより前記炭化珪素焼結体を得る工程とを含み、
前記熱処理の前の前記中空流路用の凹部又は貫通孔の内面を含む前記炭化珪素焼結体の表層を除去する工程を、さらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記炭化珪素部材は半導体基板が載置される載置面に複数の開口部を有する基板保持部材を構成する部材であり、
前記複数の炭化珪素焼結体を準備する工程において、前記開口部と連通することとなる前記中空流路用の凹部又は貫通孔が形成された前記炭化珪素焼結体を準備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
半導体製造装置のための炭化珪素部材を製造する製造方法であって、
少なくとも1つの炭化珪素焼結体の表面に中空流路用の凹部又は貫通孔が形成された複数の炭化珪素焼結体を準備する工程と、
少なくとも前記中空流路用の凹部又は貫通孔を有する前記炭化珪素焼結体に対してプラズマ処理を施す工程と、
前記プラズマ処理が施された炭化珪素焼結体を含む前記複数の炭化珪素焼結体を、互いに直接接合法により接合し、前記炭化珪素部材中の中空流路を画定する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記炭化珪素焼結体を準備する工程は、炭化珪素成形体に対して前記中空流路用の凹部又は貫通孔を形成する工程と、前記炭化珪素成形体を焼成することにより前記炭化珪素焼結体を得る工程とを含み、
前記プラズマ処理の前に前記中空流路用の凹部又は貫通孔の内面を含む前記炭化珪素焼結体の表層を除去する工程を、さらに含むことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記炭化珪素部材は半導体基板が載置される載置面に複数の開口部を有する基板保持部材を構成する部材であり、前記複数の炭化珪素焼結体を準備する工程において、前記開口部と連通することとなる前記中空流路用の凹部又は貫通孔が形成された前記炭化珪素焼結体を準備することを特徴とする請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理は酸素プラズマ処理又はフッ素プラズマ処理であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体製造装置に用いられる炭化珪素部材を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素製品は耐熱性、耐食性に優れており、半導体製造装置用の部材に多く用いられている。半導体製造装置用部材として、炭化珪素部材は、高比剛性、高熱伝導率の点からも、主に露光工程での半導体基板(基板又はウェハともいう)を保持するウェハステージ(単に、ステージともいう)や、真空チャック及びその温度調節用ステージ等に使用されている。
【0003】
例えば、炭化珪素焼結体は炭化珪素の粉末原料に焼結助剤成分として炭素や炭化硼素等の炭素含有成分を添加し2000℃程度で焼結して製作されている。(非特許文献1)
【0004】
炭化珪素焼結体を半導体製造用部材として使用する場合に問題となる基板へのパーティクル付着に対しては半導体基板へのパーティクル汚染を減少させるため、珪素蒸気と炭素を反応させて炭化珪素を作製し、その中の遊離炭素を除去する手段として、750~1200℃で熱処理を行うことが開示されている。(特許文献1)
【0005】
また、炭化珪素焼結体の表面のパーティクルや、微小凹凸を高い除去率で取り除くことができる方法として、酸素含有雰囲気で800~1200℃の温度範囲で加熱して酸化被膜を形成する工程と、酸洗浄する工程とを含む方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-134535号公報
【文献】特開2011-51812号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本金属学会誌 第71巻 第10号(2007)901-907、大庭ら、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭化珪素製ステージを作製するには、部材として炭化珪素セラミックス焼結体が適当である。しかしながら、炭化珪素焼結体の形成には焼結助剤成分として炭化硼素等の炭素含有物質が使用され、焼成体には炭素成分が組織内に残留する。さらに原料中に不可避に存在する金属成分からなる金属炭化物も炭化珪素焼結体に残留する。
【0009】
この炭素成分は、炭化珪素製ステージの外面(外部から見える表面)に対しては、従前の熱処理等の方法により除去することが可能であるが、炭化珪素製ステージの中空流路の内面(外部から見えない表面)にある炭素成分はその除去が非常に困難であった。
【0010】
その結果、基板をステージに吸着するためステージの外面に連通する中空流路を介して真空排気する際又は基板をステージから取り外すため中空流路を介して正圧を負荷する際に、中空流路の内面に残留する炭素成分が基板に付着してしまうことが問題になっていた。
【0011】
本発明は、以上の従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、炭化珪素部材内部の中空流路の内面にある炭素成分を除去できる半導体製造装置のための炭化珪素部材を製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の炭化珪素部材の製造方法は、半導体製造装置のための炭化珪素部材を製造する製造方法であって、
少なくとも1つの炭化珪素焼結体の表面に中空流路用の凹部又は貫通孔が形成された複数の炭化珪素焼結体を準備する工程と、
少なくとも前記中空流路用の凹部又は貫通孔を有する前記炭化珪素焼結体に対して酸素含有雰囲気で熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された炭化珪素焼結体を含む前記複数の炭化珪素焼結体を互いに直接接合法により接合し、前記炭化珪素部材中の中空流路を画定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる本発明によれば、中空流路を有する炭化珪素部材の製造方法において、中空流路を接合により形成する前に予め、酸素含有雰囲気で熱処理を行うので、炭化珪素部材内部の中空流路の内面にある炭素成分等を除去することができる。
【0014】
更なる本発明の炭化珪素部材の製造方法は、半導体製造装置のための炭化珪素部材を製造する製造方法であって、
少なくとも1つの炭化珪素焼結体の表面に中空流路用の凹部又は貫通孔が形成された複数の炭化珪素焼結体を準備する工程と、
少なくとも前記中空流路用の凹部又は貫通孔を有する前記炭化珪素焼結体に対してプラズマ処理を施す工程と、
前記プラズマ処理が施された炭化珪素焼結体を含む前記複数の炭化珪素焼結体を、互いに直接接合法により接合し、前記炭化珪素部材中の中空流路を画定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
かかる更なる本発明によれば、中空流路を有する炭化珪素部材の製造方法において、中空流路を接合により形成する前に予め、プラズマ処理を行うので、炭化珪素部材内部の中空流路の内面にある炭素成分等を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例の炭化珪素部材の製造方法にて得られた真空チャックの平面図である。
図2】本発明の実施例の炭化珪素部材の製造方法にて得られた真空チャックの内部構造のイメージを示す概略断面図である。
図3】本発明の実施例の炭化珪素部材の製造方法にて得られた真空チャックを構成する第1、第2及び第3の炭化珪素基材のイメージを示す概略断面図である。
図4】本発明の実施例の炭化珪素部材の製造方法における実施例の炭化珪素基材の表面組織を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5】本発明の実施例の炭化珪素部材の製造方法における炭化珪素基材の接合前の炭素成分除去処理を行わない比較例の炭化珪素基材の表面組織を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6図5に示す比較例の炭化珪素部材の製造方法における炭化珪素基材の接合前加工工程を行わない比較例の炭化珪素基材の表面組織を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明による実施例の炭化珪素部材の製造方法について詳細に説明する。なお、実施例として、炭化珪素部材の一例として炭化珪素焼結体からなる真空チャックを製造する方法を説明するが、本発明は真空チャック製造方法に限定されるものではなく、プラズマプロセス用のシャワーヘッド等の半導体製造装置用部材にも適用可能である。なお、実施例において、実質的に同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
(炭化珪素部材)
図1は、本実施例の炭化珪素部材の製造方法にて得られた真空チャック10を、ウェハを吸着保持する吸着面(載置面)である外面Ob側から眺めた平面図である。図2は、真空チャック10の内部構造のイメージを示す概略断面図である。図3(a)、(b)及び(c)は、真空チャック10を構成する第1、第2及び第3の基材11a、11b及び11cのイメージを示す概略断面図である。
【0019】
図1に示すように、真空チャック10は、減圧による吸引力によって、図示しない半導体ウェハを吸着して保持する円盤状の吸着プレートである。この真空チャック10は、円盤状炭化珪素焼結体の基材11を含む。基材11は、吸着面に開口部を有する垂直貫通孔12であって、基材11の外面Ob側から後述の第1の基材11aを板厚方向に貫く複数の垂直貫通孔12(減圧のための吸着孔)を備えている。垂直貫通孔12の数は特に限定されないが、例えば、合計17個の垂直貫通孔12が配置される。垂直貫通孔12の配列は特に限定されないが、例えば、基材11の吸着面の中心に1つの垂直貫通孔12が配置され、この垂直貫通孔12を中心とする半径の異なる2つの同心円上に等間隔で垂直貫通孔が8つずつ配置される。これら垂直貫通孔12は基材11の吸着面の中心に配置された垂直貫通孔12から放射状に延びる連結通気路13によって連結される。なお、基材11の外面Ob側には、ウェハを支える多数の突起(図示せず)が設けられる。
【0020】
図2に示すように、真空チャック10の基材11は、円板状の炭化珪素焼結体である第1、第2及び第3の基材11a、11b及び11cを重ねて接合することにより形成されている。連結通気路13は、第1及び第2の基材11a、11bの間に配置され、円板状の第2の基材11bの中心に形成された垂直排気孔14に連通している。第2の基材11bに形成された垂直排気孔14は円板状の第3の基材11cの中心に形成された垂直排気孔14に連通している。垂直排気孔14の外部開口は排気設備(図示せず)に気密に接続される。
【0021】
基材11内部には、第2及び第3の基材11b、11cの間に配置され且つ円板状両基材11b、11cの中心と同じ位置に中心を有する環状に形成された冷媒流路15を備えている。冷媒流路15は、第3の基材11cに形成された流入供給孔16及び流出供給孔17に連通している。流入供給孔16及び流出供給孔17の各外部開口は冷媒循環設備(図示せず)に気密に接続される。
【0022】
(第1の炭化珪素部材の製造方法)
炭化珪素部材は、以下の(1)~(6)工程からなる製造方法により製造される。
【0023】
(1)炭化珪素成形体を形成する焼成前成形工程:
炭化珪素原料粉末に炭化硼素粉末及びタール等の炭素成分を添加して均一に混合して、混合物を所定の型に充填して成形し、離型する((1-1)焼成前成形)。得られた各炭化珪素成形体に、後に製品の中空流路を形成することになる領域を加工する((1-2)焼成前加工)。図3(a)に示すように、第1の基材11aが、板厚方向に貫通する複数の垂直貫通孔12と、吸着面となる表面の反対の裏面に第1の基材11aの中心から放射状に延びて複数の垂直貫通孔12を互いに連結するための連結溝13aとを有するように炭化珪素成形体に貫通孔及び溝(凹部)を形成する。図3bに示すように、第2の基材11bが、中心に基材11aの連結溝13aと連結する垂直排気孔14と、片面側(連結溝13aと向かい合う面の反対の裏面)に冷媒流路用の環状溝15aとを有するように炭化珪素成形体に貫通孔及び溝を形成する。図3cに示すように、第3の基材11cが、中心に第2の基材11bの垂直排気孔14と連結する垂直排気孔14と、冷媒流路と連結させるための流入供給孔16及び流出供給孔17とを有するように貫通孔を形成する。ここで、図3(a)に示す第1の基材11aは、ウェハが載置される載置面に複数の開口部を有する基板保持部材すなわち真空チャックの外面を構成する部分となる。
【0024】
(2)成形体を焼成する焼成工程:
例えば、500℃で脱脂後、1900~2100℃のAr等の不活性ガス雰囲気で各炭化珪素成形体を焼成して、焼結体の炭化珪素基材を得る。
【0025】
(3)炭化珪素基材の外面を調整する接合前加工工程:
各炭化珪素基材に、接合後中空流路となる中空流路用の溝及び貫通孔の表面の表層を削る研削を施し、所定の中空流路の溝及び貫通孔の形状を調整、画定する。このようにして真空チャックの中空流路(垂直貫通孔12、連結通気路13、垂直排気孔14)用の凹部又は貫通孔を形成する。なお、中空流路用の溝および貫通孔以外で中空流路を画定する炭化珪素基材の表面の表層を削る研削を施しても良い。
【0026】
(4)炭化珪素基材の接合前の炭素成分除去処理工程:
各炭化珪素基材を酸素含有雰囲気で熱処理して、それらの外面から炭素成分を除去する。中空流路用の凹部又は貫通孔に酸素含有ガスが接触するように、当該焼結体を熱処理することが好ましい。
【0027】
(5)炭化珪素基材の接合工程:
図3(a)、(b)及び(c)の第1、第2及び第3の基材11a、11b及び11cの炭化珪素基材を接合し、内部の中空流路等を画定し、図2の炭化珪素基材11を形成する。炭化珪素基材の接合は、拡散接合、固相接合等の直接接合法を用いることができる。
【0028】
(6)炭化珪素部材表面加工工程:
接合して得られた炭化珪素部材について、所定の形状にその表面を加工して、真空チャックが完成する。
【0029】
以上の工程うち(3)の工程は必須ではないが、工程(3)を含む方がより好ましい。
【0030】
(第2の炭化珪素部材の製造方法)
炭化珪素部材は、上記第1の炭化珪素部材の製造方法の(1)~(6)工程のうち(4)工程に代えて、以下の(7)プラズマ処理工程に置き換えた製造方法により製造される。
【0031】
プラズマ処理工程(7)は炭化珪素基材の表面に対して酸素プラズマ又はフッ素プラズマを当てる処理を行い、それら炭化珪素基材の外面から炭素成分を除去する工程である。プラズマにより炭化珪素基材の外面を灰化(アッシング)して炭素成分、硼素成分を除去することができる。またフッ素プラズマを用いた処理ではプラズマ処理時に四フッ化炭素又は三フッ化ホウ素による気化が促進し炭素成分、硼素成分を除去することができる。
プラズマ処理は従前の平行平板型プラズマ処理装置の電極間に炭化珪素部材を置き、高周波電力を投入して酸素ガス(又は四フッ化炭素ガス若しく三フッ化ホウ素ガス)を導入し高周波プラズマを生成させることによって処理することができる。
【実施例
【0032】
実施例1~5の真空チャックとして、接合前の炭素成分除去処理工程の熱処理温度を変えた以外同一の以下(1-1)~(6)の条件で第1の炭化珪素部材の製造方法を実行して、炭化珪素部材を作製した。
【0033】
(1-1)焼成前成形工程:
炭素源としてタール添加しつつ、α-炭化珪素粉末100wt%と炭化硼素粉末0.2wt%とを混合して、混合物を所定の型(図3に示すような基材に対応する型)に充填して成形し、離型した。
【0034】
(1-2)焼成前加工工程:
得られた各炭化珪素成形体に、後に製品の中空流路を形成することになる領域を加工し、貫通孔及び溝を形成した。
【0035】
(2)焼成工程:
加工した各炭化珪素成形体を、500℃で脱脂後、真空雰囲気で1800℃まで昇温、その後1900℃~2100℃、Ar雰囲気で焼結し、焼結体の炭化珪素基材を得た。
【0036】
(3)炭化珪素基材の接合前加工工程:
以下の寸法となるよう基材の中空流路となる貫通孔及び溝の表層をそれぞれ加工した。
【0037】
図3(a)に示す基材11aに対応する基材)
・焼成後加工寸法:φ302mm、厚み10mm
・垂直貫通孔:φ2mm、17か所(中心(半径r=0)に1ケ、半径r=65mmの位置に放射状に8等配、半径r=130mmの位置に放射状に8等配)
・垂直貫通孔を連結する連結溝:幅2mm、17か所の垂直貫通孔を中心から放射状に連結
図3(b)に示す基材11bに対応する基材)
・焼成後加工寸法:φ302mm、厚み10mm
・中心に上記連結溝と連結する垂直排気孔:φ4mm
・片面に冷媒流路用の溝:幅5mm
図3(c)に示す基材11cに対応する基材)
・焼成後加工寸法:φ302mm、厚み10mm
・中心に上記垂直排気孔と連結する垂直排気孔:φ4mm
・冷媒流路の流入供給孔及び流出供給孔:φ5mm
(4)炭化珪素基材の接合前の炭素成分除去処理:
各炭化珪素基材を酸素含有雰囲気で800℃~1200℃の熱処理を、2時間、施した。なお、実施例1の熱処理は1100℃、実施例2の熱処理は800℃、実施例3の熱処理は1000℃、実施例4の熱処理は1050℃、実施例5の熱処理は1200℃、として炭素成分除去処理を行った。
【0038】
(5)炭化珪素基材の接合工程:
各炭化珪素基材の接合面を表面粗さRaが0.1μm以下となるまで研磨して接合面の粗さ平坦度を調節した。そして、各炭化珪素基材を不活性雰囲気下、接合温度2000℃以上の例えば2000℃で図2に示されるように拡散接合した。なお、本実施例は拡散接合による接合方法を採用したが、本発明はこれに限定されない。
【0039】
(6)炭化珪素部材表面加工工程:
接合した炭化珪素基材を所定の形状に加工し真空チャック(接合後の形状:φ300mm、厚み28mm)が完成した。また、ブラスト加工またはレーザ加工により載置面に、φ0.2mmの突起を複数形成した。突起高さは100μmで、突起の間隔は2.5mmの正三角形配置とした。突起表面は研磨加工によりRa0.1μm以下とした。
【0040】
次に、実施例6の真空チャックとして、上記接合前の炭素成分除去処理工程(4)に代えて以下の接合前の炭化珪素基材の酸素プラズマ処理(7)を実行した以外、実施例1~5と同一の第2の炭化珪素部材の製造方法を実行して、炭化珪素部材を作製した。
【0041】
(7)炭化珪素基材の酸素プラズマ処理工程:
以下の条件の平行平板プラズマ装置で接合前の炭化珪素基材をそれぞれ酸素プラズマ処理した。
【0042】
電力:500W
圧力:0.5~2Torr
ガス:O
処理時間:30分
なお、上記条件は炭素成分の除去程度を確認しつつ、適宜調節した。
【0043】
更に、比較例1の真空チャックとして、接合前の炭素成分除去処理工程(4)を実行しない以外、実施例1~5と同一の製造方法を実行して、炭化珪素部材を作製した。
【0044】
また更に、実施例7として、実施例1の真空チャックの真空吸着動作によって吸着基板であるシリコンウェハへのパーティクル付着程度の評価を行った。
【0045】
また更に、実施例8として、実施例6の真空チャックの真空吸着動作によって吸着基板であるシリコンウェハへのパーティクル付着程度の評価を行った。
【0046】
更に、比較例2の真空チャックとして、接合前の炭素成分除去処理工程(4)を実行しないだけでなく、炭化珪素基材を接合した後に炭化珪素部材を酸素含有雰囲気で1100℃熱処理を施した以外、実施例1~5と同一の製造方法を実行して真空チャックを作製し、その真空チャックの真空吸着動作によって吸着基板であるシリコンウェハへのパーティクル付着程度の評価を行った。
【0047】
更に、比較例3の真空チャックとして、炭化珪素基材の接合前加工工程(3)を実行しない以外、比較例1と同一の製造方法を実行して炭化珪素部材を作製した。
【0048】
[試験・評価方法]
(1)実施例1~6、比較例1について、以下の(1-1)(1-2)を行った。
(1-1)炭化珪素基材中空流路表面の組織観察:
・上記接合前の炭素成分除去処理後の炭化珪素基材の中空流路表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により組織観察を行った。同時にエネルギー分散型X線(EDX)分析より元素の量(重量%)を測定した。
(1-2)炭化珪素基材中空流路表面の特性x線ピーク強度比:
・EDX分析により炭化珪素基材表面を1000倍に拡大した視野における、炭素と珪素と酸素のx線(Kα)の強度値の比を以下の式で求めた。
【0049】
P(C/Si)=I(C)/I(Si)
・ここでI(C)は炭素の特性x線(Kα)のピーク強度値で、I(Si)は珪素の特性x線(Kα)のピーク強度値である。すなわち、流路表面に炭素成分が相対的に多く残留していると比率P(C/Si)は大きな値をとることになり、炭素成分の除去効果を評価することができる。
【0050】
(2)実施例7及び8、比較例2について、真空チャックの真空吸着動作によって吸着基板であるシリコンウェハへのパーティクル付着程度の試験を以下の条件で行った。
(2-1)基板の真空吸着と離脱方法
・12インチシリコンウェハを真空吸着した。真空吸着には排気設備により大気圧との差圧が60KPa以上発生するようにした。真空吸着後、Nガス(0.12MPa)に真空吸着のための中空流路に加圧して基板をステージから離脱させた。
(2-2)基板のパーティクルカウント測定
・基板に付着した大きさ0.4μm以上のパーティクルの個数をパーティクルカウンタ(WA10、トプコン製)にて計測した。
【0051】
(3)比較例3について、上記接合前の炭化珪素基材の中空流路表面を、SEMにより組織観察を行った。
【0052】
(結果)
比較例1と実施例1~6の接合前の炭素成分除去処理工程の条件と炭素定量分析と酸素定量分析とP(C/Si)比は表1に示す。また、比較例2と実施例7及び8の接合前/接合後の炭素成分除去処理工程の条件(接合前処理/接合後処理)とパーティクルのカウント個数は表2に示す。また、実施例1の炭化珪素基材の中空流路表面を組織観察したSEM写真を図4に示す。比較例1の炭化珪素基材の中空流路表面を組織観察したSEM写真を図5に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
(評価)
図4及び図5から明らかなように、実施例1と比較例1のSEM写真を比べると、図4の実施例1にはないが、図5の比較例1には黒色の粒子の硼素成分と炭素成分が確認され、炭化硼素粒子が現れている。このことから、成形体中に均一に分布していた炭化硼素粒子はAr雰囲気焼成において還元され硼素成分がリッチな粒子が焼成体表面に移動し残存したことが想定される。
【0056】
これらより接合前の酸化雰囲気熱処理を行うことによって、炭素成分及び硼素成分の除去ができることが確認された。
【0057】
また、表1から明らかなように、炭素成分の除去効果はEDX分析によっても確認することができた。すなわち、珪素のピーク強度に対する炭素のピーク強度のP(C/Si)比は比較例1に対して実施例は何れも小さくなっている。
【0058】
接合前の炭素成分除去処理工程の温度条件800℃以上で炭素成分の除去効果が表れることが示された。また、接合前の炭素成分除去処理工程は、P(C/Si)比が0.0200以下となる1000℃以上から1200℃以下の温度範囲で行われることが好ましいことが確認された。また、当該酸化雰囲気熱処理は、他の実験で接合時の変形防止のため2000℃以下の温度範囲で行われることが好ましいことも確認された。
【0059】
また、表2から明らかなように、実施例7及び8とも比較例2に比べ、大きさ0.4μm以上のパーティクルの個数が少なく、基板に対するパーティクル付着が減少しており、炭化珪素基材接合前の炭素除去処理が有効であることが確かめられた。これにより、真空チャックの真空吸着時及び真空解除時に炭化珪素基材の中空流路に気体が流れたとしてもシリコンウェハ等の吸着基板に対してパーティクルの付着を抑制することができる。
【0060】
また、図5及び図6から明らかなように、比較例1と比較例3のSEM写真を比べると、図6の比較例3には、金属成分を示す白色の粒子が数多く確認され、金属粒子が現れている。このことから、不純物の金属成分は焼成時に焼成体表面に移動し残存すると推定されるが、焼成後に中空流路の表面の表層を加工し除去することにより金属成分が効率的に除去されることが確認された。
【0061】
以上の実施例及び比較例の評価から、炭化珪素焼結体中の炭素成分、硼素成分及び金属成分の粒子の中空流路内面からの除去のメカニズムは以下のように考えられる。
【0062】
1)元々焼成前の成形体には炭素成分、硼素成分及び金属成分は均一に分散している(焼成前成形工程(1))。しかし、炭化珪素焼成時に各成分は、焼成体表面近傍に移動し、その結果表面近傍での各成分の存在比率が高くなる(焼成工程(2))。
【0063】
2)この焼成した焼成肌面を機械加工すると表層近傍に移動してきた各成分が一定程度除去される。(接合前加工工程(3))
3)この焼成面を機械加工して表層を除去した後、酸素含有雰囲気で熱処理(炭素成分除去処理工程(4))を行うと表面に残存していた炭素成分、硼素成分が除去される。(図4)炭素成分は酸素と反応して気化して取り除かれる。硼素成分は雰囲気中の酸素及び焼結体の珪素と反応し酸化硼素・二酸化珪素を形成することが酸素の定量分析値(表2)が熱処理温度と共に増加していることから推測できる。そして酸化硼素・二酸化珪素は高温下で硼素の溶出や昇華により除去されていると推測される。
【0064】
4)その後各成分が除去された内面同士を接合して、中空流路を形成することができる(接合工程(5))。この際、本実施例では炭化珪素基材同士の接合に拡散接合の手法を用いたが、従前に知られている接合手段(ガラスやフラックス成分を介在させた接合手段)でも適用が可能である。
【0065】
5)接合に所定の外形形状に加工することによって、炭化珪素部材が作製できる。本実施例では基板を真空吸着する真空排気流路と、半導体製造装置部材自体の温度を調節するための媒体流路の2系統の中空流路をもつ真空チャックを作製できる。
【0066】
以上から明らかなように、基材接合前に炭化珪素基材の熱処理を行うことにより接合後の中空流路の表面に露出する炭素成分を抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0067】
10‥真空チャック、11,11a,11b,11c‥基材、12‥貫通孔、13‥連結通気路、14‥垂直排気孔、15‥冷媒流路、16‥流入供給孔、17‥流出供給孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6