(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】等速ジョイント用ブーツ
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20221005BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20221005BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16D3/84 M
F16D3/84 R
F16J15/52 C
F16J3/04 B
(21)【出願番号】P 2018047129
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(74)【代理人】
【識別番号】100169247
【氏名又は名称】小野 佳世
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄三
(72)【発明者】
【氏名】信末 憲司
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-293797(JP,A)
【文献】特開2006-144922(JP,A)
【文献】特開2005-186446(JP,A)
【文献】特開2005-315303(JP,A)
【文献】特開2013-245697(JP,A)
【文献】特開昭47-43747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00-9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非円形に形成されている
トリポッドジョイントのアウターケースに装着される
非円形の環状肉厚部を内周面に有する大径環状部と、
当該トリポッドジョイントのシャフトに装着される小径環状部と、大径環状部と小径環状部を接続する蛇腹部と、からなるトリポッドジョイント用ブーツにおいて、
前記大径環状部と前記環状肉厚部と前記小径環状部と前記蛇腹部とは、ブロー成型法により一体化されるとともに、
前記大径環状部は、
前記蛇腹部側から順に、ブーツバンドで締付固定しないブーツバンド非装着領域と、ブーツバンドで締付固定するブーツバンド装着領域とを備え、当該ブーツバンド非装着領域の内周面全周に環状凹
部を有し、
さらに、前記環状凹部は、前記蛇腹部と接続する位置で、かつ前記環状肉厚部が形成されている位置よりも前記蛇腹部側に近い位置に形成され、
しかも
前記環状凹部の肉厚(t1)は、前記大径環状部に最も近い前記蛇腹部の谷部の肉厚(t2)より大きく、かつ2倍以下である
ことを特徴とするトリポッドジョイント用ブーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、自動車の駆動軸(ドライブシャフト)等に用いる等速ジョイント(Constant Velocity Universal Joint)であって、外周面に複数の軸方向に沿った溝状凹部を備えるトリポッドジョイント(Tripod Joint)のような構造を有する等速ジョイントの外周に装着する等速ジョイント用ブーツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車をはじめ様々な分野において、入力駆動軸と出力駆動軸との2軸間を連結し、これら2軸間に角度差があっても双方の軸が等しい速度で回転してトルク伝達を行う等速ジョイントが用いられている。自動車の場合、ドライブシャフトの両端部に当該等速ジョイントが用いられ、この等速ジョイントを潤滑するためのグリースの封入、外部から埃、水分等の異物侵入の防止を目的として、等速ジョイントの屈曲部を被覆する「等速ジョイント用ブーツ」が用いられている。
【0003】
このときの等速ジョイント用ブーツは、一端側に大径環状部、他端側に小径環状部を備えており、大径環状部をハブ側の等速ジョイントのアウターケース(ケーシング)の外周面に、小径環状部をディファレンシャルギア側にブーツバンドで締付固定して用いられる。そして、等速ジョイントの中でも、ディファレンシャルギア側の等速ジョイントには、ドライブシャフトの軸部にころ状ベアリングを配して軸方向に滑動可能な複数の溝状凹部を外周面に備える所謂トリポッドジョイントを用いるのが一般的である。
【0004】
そして、上述のトリポッドジョイントの挙動を考えると、そこに用いるトリポッドジョイント用ブーツは、トリポッドジョイントが作動角を取って揺動する際には、変形が起こり、しかも繰り返し変形による繰り返し応力を受けるものである。特に、トリポッドジョイント用ブーツは、トリポッドジョイントの作動角が大きくなる程、アウターケースとの接続部付近に過大な曲げ応力が発生し、損傷する可能性が高くなる。また、トリポッドジョイントにおいては、角度変位のみならず、摺動挙動を伴う軸方向変位も考慮する必要がある。従って、トリポッドジョイントに装着するブーツは、角度変位のみ許容する固定式等速ジョイントに比べ、アウターケースとの接続部付近に曲げ応力が強く負荷されることになる。そのため、長期間使用した場合、トリポッドジョイント用ブーツに亀裂発生や摩耗損傷等が生じやすくなる傾向がある。このような問題を解決しようとしたトリポッドジョイント用ブーツに関しては、以下のような先行技術が存在している。
【0005】
例えば、特許文献1には、トリポッドジョイント用ブーツおいて、ブーツのコンパクト化を図りながら、トリポッドジョイントの揺動角度を大きく取れるようにし、且つ、ブーツとしての耐久性を向上させることを目的として、ブーツの大径側端部内周に備えられた複数の厚肉部を、ベローズ部における大径側端部直近の小径部から大径側端部方向へ延びるテーパ面より張り出して形成することが開示されている。
【0006】
また、特許文献2は、特許文献1に開示しているトリポッドジョイント用ブーツの製造方法を開示している。この製造方法は、一次成形品として形成された大径側端部の内周部に、厚肉部を有する二次成形部のベローズ部大径側端部直近の小径部から大径側端部に延びるテーパ面にアンダーカット部分が設けられていても、金型からのブーツの引き抜きを容易にできる点に特徴を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-17277号公報
【文献】特開2005-98487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年のトリポッドジョイント用ブーツには、トリポッドジョイントの作動角の広角化に柔軟に追随し、軽量化することが求められている。このような要求に、特許文献1及び特許文献2に開示のブーツの基本構成を維持したまま対応しようとすると、ブーツの「蛇腹部の山部や谷部の数を増加させる」、「蛇腹部の外径を拡径させる」等の手段が想起できる。ところが、これらの手段は、市場要求の基本にある生産コストの削減、ブーツとしての小型軽量化等を達成できないという問題がある。
【0009】
そこで、本件出願は、トリポッドジョイントが大きな作動角で揺動する場合でも、その挙動に追随可能で、且つ、小型軽量化が可能で、さらに、耐疲労破損性の向上が図れ、さらなる長寿命化を実現可能なトリポッドジョイント用ブーツの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件出願者等は、鋭意研究を行った結果、以下に述べるトリポッドジョイント用ブーツを採用することで、上述の課題を解決することに想到した。
【0011】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、外周面が非円形に形成されている相手側部材に装着される大径環状部と、大径環状部の内周面の少なくとも一部が非円形に形成されるとともに、ブーツ蛇腹部及びシャフトに装着される小径環状部とが少なくとも一体化され、大径環状部の内周面の蛇腹部に隣接した部位に環状凹部を備えることを特徴とする。
【0012】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、大径環状部が、蛇腹部側から順に、ブーツバンドで締付固定しないブーツバンド非装着領域と、ブーツバンドで締付固定するブーツバンド装着領域と、を備え、ブーツバンド装着領域の内周面の少なくとも一部に環状厚肉部と、ブーツバンド非装着領域の内周面に環状凹部を備えることが好ましい。
【0013】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、ブーツバンド装着領域の内周面に設ける環状厚肉部が、小径環状部と蛇腹部と大径環状部とが一体成形された一次成形部材と、一次成形部材の大径環状部の内周面にのみ二次成形部材を有することが好ましい。
【0014】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、ブーツバンド非装着領域の肉厚(t1)は、ブーツバンド非装着部に最も近い前記蛇腹部の谷部の肉厚(t2)より大きく、かつ、2倍以下であることが好ましい。
【0015】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、ブーツバンド装着領域の内周面に設けた環状厚肉部は、その表面に微細環状突起を備えることが好ましい。
【0016】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、等速ジョイントがトリポッドジョイントである場合に好適に適用できる。
【発明の効果】
【0017】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、小径環状部と蛇腹部と大径環状部とを順に直列に一体化したものであって、ブーツバンド非装着領域の内周面の蛇腹部に隣接した部位に環状凹部を備える。そのため、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、従来の等速ジョイント用ブーツに比べ、揺動挙動に伴って変化する蛇腹部の変形応力が小さく、フレキシビリティに優れる。従って、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、従来に無いほどジョイントが大きな作動角を取って揺動しても追随が可能である。さらに、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、小型軽量で、且つ、良好な耐疲労破損性を発揮し、さらなる長寿命化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る等速ジョイント用ブーツ(トリポッドジョイント用ブーツ)の斜視図である。
【
図3】
図2の要部(C領域及びD領域)拡大模式図である。
【
図5】従来ブーツを角度θで屈曲させた時の断面模式図である。
【
図6】本発明に係るブーツを角度θで屈曲させた時の断面模式図である。
【
図8】本発明に係わるブーツ二次成形部要部(
図7(b)のE領域及びF領域)金型配置模式図である。
【
図10】従来ブーツに係わるブーツ二次成形部要部((
図7(b)のE領域及びF領域)金型配置模式図である。
【
図11】実施例ブーツ及び比較例ブーツでの非線形応力解析対比結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツについて、自動四輪車用のトリポッドジョイントに適用する場合を想定して説明する。また、以下には本件出願の一実施形態を図面を参照して詳述するが、本件出願はこれに限定解釈されるものではない。特に、ブーツが用いられるジョイントとして、その外周面に複数の溝状凹部があれば良いのであり、溝状凹部の本数、形状には何ら限定が無いことを明記しておく。
【0020】
A.本件出願に係る等速ジョイント用ブーツの形態
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、アウターケースとアウターケースから延びるシャフトとを備える等速ジョイントに用いるものである。ここでいう「等速ジョイント」は、アウターケースの外周にシャフトの軸方向に沿って等間隔に配置した複数の凹状溝部を備え、当該シャフトの軸方向に対するアウターケースの垂直断面が非円形を呈するものである、このような等速ジョイントに該当する代表例が、所謂トリポッドジョイントである。
【0021】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、等速ジョイントのアウターケースに取り付ける大径環状部と、蛇腹部と、シャフトに取り付ける小径環状部とが一体化し、大径環状部の内周面の蛇腹部へ隣接した部位に環状凹部を備えることを特徴としている。ここで、
図1に、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1としてトリポッドジョイント用ブーツを一例として、その大径環状部6側から見たときの斜視図を示している。この
図1から理解できるように、等速ジョイントのアウターケースに取り付ける大径環状部6、蛇腹部5と、シャフトに取り付ける小径環状部2とが一体化していることが理解できる。この
図1で確認できる大径環状部6の内周面には、等速ジョイントのアウターケースの外周にある複数の凹状溝部に装着するための「凸部30」を備えている。
【0022】
そして、この
図1に示す等速ジョイント用ブーツ1をA-A’線で、シャフトの軸方向Pに沿って切断したときの断面図が
図2である。この
図2に示すC領域とD領域との拡大図を
図3(a)及び
図3(b)に示している。この
図3から理解できるように、
図3の大径環状部6の内周面には凸部30が存在するため、C領域の壁面は厚く、大径環状部6の内周面に凸部30が存在しないD領域の壁面は薄くなっている。ここで、環状肉厚部とは、
図3(a)及び
図3(b)に示す6B(図面番号)のことである。なお、
図1において凸部30を避けたB-B’線で、シャフトの軸方向Pに沿って切断したときの断面図を、確認的意味合いにおいて
図4に示しておく。
【0023】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1は、
図2~
図4から理解できるように、大径環状部6の内周面の蛇腹部5へ隣接した部位に環状凹部6Aが存在している。この環状凹部6Aが存在することで、等速ジョイント用ブーツ1の蛇腹部5が屈曲変形するときのフレキシビリティが飛躍的に高まる。なお、図面には、トリポッドジョイントに装着した状態で存在する「入力駆動軸」と「出力駆動軸」とは、当業者であれば技術常識的に理解可能であるため、図示を省略している。以下において、技術的効果に関しては詳説する。
【0024】
図3(a)及び
図3(b)から明確に理解できるように、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツにおいて、大径環状部6は、蛇腹部5側から順に、ブーツバンドで締付固定しないブーツバンド非装着領域6Cと、ブーツバンドで締付固定するブーツバンド装着領域6Dとを備え、ブーツバンド装着領域の内周面に蛇腹部と接触しない環状厚肉部6Bを備え、ブーツバンド非装着領域6Cの内周面に環状凹部6Aを備えるものである。以下、「大径環状部」、「小径環状部」、「蛇腹部」に分けて分説する。
【0025】
(1)大径環状部
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1の大径環状部6は、蛇腹部側から順に、「ブーツバンドで締付固定しないブーツバンド非装着領域(
図3における符号6C参照)」と、「ブーツバンドで締付固定するブーツバンド装着領域(
図3に示す符号6D参照)」とを備えている。本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1において、以下に述べる大径環状部6の内面形状が、最も大きな特徴を備えている。この大径環状部6は、シール性を確保するため、外嵌固定する相手部材の表面形状に応じた形状とした内周面を備えるものであり、等速ジョイントのアウターケースに外嵌固定される環形状を一般的に採用する。なお、念のために記載しておくが、トリポッドジョイントのように、アウターケースの外周形状が周方向に凹凸形状をなす場合には、大径環状部6の内周形状をアウターケースの外周形状に対応させるため非円形となっている(
図1参照)。
【0026】
図3を用いて、ブーツバンド装着領域6Dについて説明する。ブーツバンド装着領域6Dは、大径環状部6の外周部分に、等速ジョイントのアウターケースに大径環状部6を締付固定するためバンドを配する領域である。この「ブーツバンド装着領域6D」で締付固定することで、等速ジョイントに封入されたグリースの当該大径環状部6とアウターケースとの間から外部に漏れ出すのを防止する。そして、ブーツバンド装着領域6Dの内周面に蛇腹部5と接触しない環状厚肉部(
図3に示す符号6B参照)を備える。この環状厚肉部6Bが存在することで、後述するブーツバンド非装着領域6Cの内周の蛇腹部5に隣接した部位に環状凹部6Aを設けることが容易になる。
【0027】
そして、ブーツバンド装着領域6Dの内周面に設ける環状厚肉部6Bは、その表面に、微細環状突起(図示は省略)を備えることが好ましい。ブーツバンドを装着したときのシール性を高めるためのものであり、1つ以上の微細環状突起を設けることも好ましい。この微細環状突起は、軸方向断面(
図1として示した断面)における断面高さが0.2mm~1.0mmであることが好ましい。微細環状突起の断面高さが0.2mm未満の場合、あるいは1.0mmを超える場合には、ブーツバンドを装着したときのシール性を高めることが困難となるため好ましくない。
【0028】
次に、
図3(a)及び
図3(b)を用いて、ブーツバンド非装着領域6Cについて説明する。このブーツバンド非装着領域6Cは、上述のブーツバンド装着領域6Dと蛇腹部5との間に、蛇腹部に隣接して存在するブーツバンドで締付固定しない領域のことである。そして、このときのブーツバンド非装着領域6Cの内周面に、蛇腹部5に隣接した状態で環状凹部6Aを設けている。この環状凹部6Aにとは、ブーツバンド装着領域6Dのように環状厚肉部6Bを設けないことを意味する。つまり、環状凹部6Aは、
図3(a)(b)に示すように、ブーツバンド装着領域6Dの一部に跨って形成(=環状肉厚部6Bがブーツバンド装着領域の一部にのみ存在。)されていてもよい。要は、少なくともブーツバンド非装着領域6Aに、環状肉厚部6Bが存在しなければ、いかなる形状でもよい。加えて、例えば、
図3(a)及び
図3(b)において、ブーツバンド非装着領域6Aが、ブーツバンド装着領域6Dとの境界に段差があるが、(
図3(a)では左側、
図3(b)では右側にやや凸状になっている)。これはブーツバンドが装着される際の位置決めのため境界である。そのため、ブーツバンド装着時の位置決めが別の手段で可能な場合には、ブーツバンド非装着領域6Cとブーツバンド装着領域6Dとの境界部位に段差がなくともよい。また、この環状凹部6Aの深さは、環状凹部6Aの肉厚あるいはブーツバンド位置決め境界部位の高さ(深さ;
図3(a)あるいは
図3(b)における6Cと6Dの境界部分)によって変化するが、ブーツバンド装着領域6Dの環状厚肉部6Bの厚さを厚く設計してもよい。
【0029】
このように、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1は、ブーツの大径環状部6に環状凹部6Aを備えることで、蛇腹部5の山部及び谷部の数を増加させることなく、蛇腹部5が大径環状部6との境界付近まで蛇腹機能を十分に発揮できるように機能する。一般的に、トリポッドジョイントのような継手は、大径環状部6を外嵌固定するアウターケース内部に配置される。そのため、従来のトリポッドジョイント用ブーツ11の場合、
図5に示すようにトリポッドジョイントが揺動する際の屈曲点は、蛇腹部15の大径環状部16寄りに位置するようになる。このときのトリポッドジョイント用ブーツ11の屈曲点付近では、トリポッドジョイントの複雑な動作によって、圧縮応力と引張応力とが交互に繰り返されるため、トリポッドジョイント用ブーツ11の蛇腹部15の大径環状部16側に、相対的に大きな応力が集中しやすく、破損も生じやすくなる。
【0030】
これに対し、
図6から理解できるように、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1の大径環状部6は、その内面に蛇腹部5と接触しない環状厚肉部(
図3に示す符号6Bを参照)を備え、且つ、上述したブーツバンド非装着領域6Cの内周の蛇腹部5に隣接した部位に環状凹部6Aを備えることで、蛇腹部5の最も大径環状部6側に設けられた谷部4Fの屈曲性が高められる。従って、本件出願に係る環状凹部6Aを備える等速ジョイント用ブーツ1を用いると、等速ジョイント用ブーツ1で覆ったジョイントが揺動する際に、等速ジョイント用ブーツ1のフレキシビリティが飛躍的に向上し、蛇腹部5の変形に要する応力を効率良く緩和でき、等速ジョイントの作動角の広角化が可能で、長寿命化が可能になる。
【0031】
さらに、
図3(a)及び
図3(b)に示すブーツバンド非装着領域部の肉厚(t1)を、ブーツバンド非装着部に最も近い蛇腹部の谷部の肉厚(t2)より大きく、かつ2倍以下にすることが好ましい。この理由は、本件出願にいう等速ジョイントの作動角の広角化に伴うブーツバンド非装着領域部への応力集中を緩和し、さらなる長寿命化が可能となるからである。加えて、ブーツバンド非装着領域部への飛び石等の外的要因によるブーツの破損も効果的に防止できるからである。なお、t1≦t2の場合、繰り返し応力が負荷されたときの環状凹部6Aの耐久性が低下し、長寿命化が達成できないため好ましくない。一方、t1≧2t2の場合には、環状凹部6Aのフレキシビリティが著しく低下し、本件出願の趣旨が没却するため好ましくない。
【0032】
(2)小径環状部
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1の小径環状部2は、従来のトリポッドジョイント用ブーツの小径環状部に適用する技術概念を全て適用できるものであり、特段の限定は要さない。一般的には、小径環状部2は、トリポッドジョイントの軸部(出力駆動軸20)に外嵌固定するための円環形状を備えている。そして、小径環状部2の外周部分には、出力駆動軸20に当該小径環状部2を高いシール性保って連結するため、ブーツバンド(図示を省略)で締付固定するブーツバンド装着領域(図示を省略)が備わっている。これは、トリポッドジョイントに封入されたグリースが小径環状部2と出力駆動軸20との間から外部に漏れ出すのを効果的に防ぐためである。
【0033】
(3)蛇腹部
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1の蛇腹部5は、従来の等速ジョイント用ブーツの蛇腹部に適用する技術概念を全て適用できるものであり、特段の限定は要さない。一般的に、蛇腹部5は、山部(ブーツ1の外部に向けて張り出した部分)3A~3Fと谷部(ブーツ1の内部に向けて張り出した部分)4A~4Fとを交互に連続して備えたものであり、小径環状部2と大径環状部6との間に連設される。蛇腹部5は、可撓性を発揮すると共に緩衝作用を有するため、トリポッドジョイントの揺動動作を阻害することなく、等速ジョイントの継手(図示を省略)を飛び石等の飛来物から効果的に保護する役割を果たす。
【0034】
なお、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツ1の蛇腹部5は、
図1に示す如く、山部3A~3F及び谷部4A~4Fが一端側から他端側へ向けて外径が徐々に変化して略円錐台形状に形成されることで、トリポッドジョイントの揺動に対する追従性を確保するものである。しかし、自動車用の等速ジョイント用ブーツの場合、
図1に示す形状に限定されず、その両端の外径を同程度の径としたり、山部と谷部との数をブーツの大きさや肉厚等を考慮して適宜変更することができる。
【0035】
B.本件出願に係る等速ジョイント用ブーツの製造形態
(1)本件出願に係る等速ジョイント用ブーツの基本的製造概念
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、上述の大径環状部6(6Bを除く)、小径環状部2及び蛇腹部5が一体成形されたものである。小径環状部2、蛇腹部5、大径環状部6(6Bを除く)のそれぞれを別個に形成し、事後的に接合すると、この接合部分に応力が集中したときに、その接合部分に亀裂・剥離等が生じ安く長寿命化が図れず、封入したグリースが漏れ出す等の原因となり好ましくない。
【0036】
(2)使用可能な構成材料
本件出願に係るトリポッドジョイント用ブーツ1の製造において、一次成形部材の形成に用いられる構成材料は、熱可塑性樹脂であれば特段の限定はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂等を採用することが好ましい。市場におけるコスト、製造時の取り扱い性に優れ、硬化後におけるフレキシビリティに優れ、トリポッドジョイント用ブーツの長寿命化が期待できるからである。
【0037】
一方、二次成形部6Bの形成には、一次成形部材に用いたと同じ構成材料を採用することが好ましい。一旦硬化した一次成形部材と二次成形部との界面における相溶化が容易で、一体化しやすいからである。しかし、一次成形部材と二次成形部6Bとの材質を、必ずしも同一素材とする必要性はなく、上述の界面における相溶性に優れる限り、要求品質に応じて、異なる材質を採用しても構わない。
【0038】
(3)具体的製造形態
上述の一次成形部材及び二次成形部6Bの形成に関しては、プレスブロー成形、押出しブロー成形、射出ブロー成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができ、上述の特許文献2に開示した製造方法の殆どを採用することが可能である(なお、上記特許文献2に開示の発明は、本件出願の出願人等が過去に出願したものである。)。従って、この特許文献2によって、製造方法の基本的概念は、当業者の間で既に広く知られているため、以下に一例を示すのみで、その詳細な説明は省略する。例えば、本実施形態の等速ジョイント用ブーツ1は、以下の手順で形成できる。
【0039】
一次成形部材の形成: 上述の特許文献2にも開示されているような公知のプレスブロー成形法を用いて、金型内に溶融した材料(例えばポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂)を押し出し、押し出した樹脂材料を金型で挟んだ後、空気を吹き込み、樹脂材料を金型に密着させ、小径環状部2、蛇腹部5、及び大径環状部6が一体的に連設した状態の
図7(a)に示す一次成形部材10を得る。
【0040】
二次成型部の形成: 以上のようにして得られた一次成形部材を、
図7(b)に断面図として示すように固定型31に配置する。そして、この固定型31の上面に、環状凹部を形成するための可動型32を配置する。さらに、固定型31に配置した一次成形部材10の外周には、外周を押さえて二次成形空間40を形成するための割型33を配置する。このような金型配置を採用して、この二次成形空間40に所望の溶融材料(例えばポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂)を射出孔IPからインジェクション法で射出して、一次成形部材10の大径環状部6のブーツバンド装着領域6Dの内周部にのみ、上述した肉厚の異なる二次成形部6Bを設け一体化させる。
【0041】
図7(b)に示す領域E及び領域Fの模式拡大図(
図8)を用いて、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツの二次成形部の形成について、さらに詳説する。
図8から理解できるように、一次成形部材の内部に、固定型31と可動型32と配置する。そして、可動型32を一次成形部材10のブーツバンド非装着領域6Cの内面に接触する位置まで移動させ、固定型31及び可動型32と、一次成形部材10の大径環状部6の内周面との間に、二次成形部6B(
図3(a)では凸部30を含む)を形成するための二次成形空間40を形成する。そして、この二次成形空間40に溶融材料を射出することにより、本件出願に係る等速ジョイント用ブーツの大径環状部6の環状厚肉部6Bを備える内周面が形成できる。その後、可動型32を移動させて抜き、等速ジョイント用ブーツ1が得られる。
【0042】
なお、上述したブーツ製造方法は、二次成形部と一次成形部材とを金型内で一体化する方法を説明したが、このような製造法方法に限定されることなく、二次成形部を一次成形部材とは別個に製造し、一次成形部材に二次成形部を接合することで、環状凹部を形成しても、本願発明の効果が得られることは勿論である。
【0043】
以下に本件出願における実施例及び比較例を示し説明する。なお、本件出願に係る発明は、これらの例により何ら限定解釈されるものではない。
【実施例】
【0044】
本実施例に係る等速ジョイント用ブーツ1(以下、「実施ブーツ」と称する。)は、
図1に示すトリポッドジョイント用ブーツである。この実施ブーツは、上述の
図7(a)及び
図7(b)と、
図8(a)及び
図8(b)とを用いて説明した方法で製造した。従って、ここでの重複した説明は、省略する。この実施ブーツの諸元を以下に列挙する。
【0045】
[実施ブーツ諸元]
全長: 107mm
全長(ブーツバンド装着領域除) : 94mm
ブーツバンド非装着領域のブーツ肉厚:1.3mm
小径環状部 : 外径 29.7mm
大径環状部 : 外径 79.4mm
蛇腹部 : 山数及び谷数がともに6
平均肉厚 1.05mm
【比較例】
【0046】
本比較例で製造した等速ジョイント用ブーツは、実施例との対比が可能なトリポッドジョイント用ブーツ11(
図9。以下、「比較ブーツ」と称する。)であり、
図9に断面を示したように、大径環状部16が、その内面に蛇腹部15と接触した環状厚肉部16Bを備えているが、ブーツバンド非装着領域16Cの内周部分に環状凹部が存在しないものである(
図10)。
【0047】
この比較ブーツは、上述の特許文献2に開示の方法で製造したものである。即ち、大径環状部16の内周面に対し、二次成形部を一体成形するに際に、
図10に示すように固定型41と可動型42とを配置して、その他実施例と同様にして製造したものであり、比較ブーツの二次成形部(環状厚肉部6C及び6D)が蛇腹部と接触した状態となっている。なお、「比較ブーツ諸元」は、ブーツバンド非装着領域のブーツ肉厚を7.1mmとした以外は、実施ブーツと同じである。
【0048】
[実施例と比較例との対比]
図6に、実施ブーツを用いた場合のトリポッドジョイントの作動角θを15°にしたときの屈曲状態を示している。
図5には、比較ブーツを用いた場合のトリポッドジョイントの作動角θを15°としたときの、比較ブーツの屈曲状態を示している。なお、図中の符号Xで示す一点鎖線は、トリポッドジョイントの作動角θが0°のときのトリポッドジョイント軸部20の位置を示している。そして、非線形応力解析シミュレーション(解析ソフト:Marc/Mentat(登録商標))により、作動角θを15°に変化させた場合に蛇腹部5にかかる応力を求めた。即ち、トリポッドジョイントの軸部20を作動させる方向に位置する各谷部4A~4F(実施例)、14A~14F(比較例)の圧縮応力を求めた。
【0049】
図11に上述の条件で行った非線形応力解析シミュレーション結果(トリポッドジョイントの作動角を変化させたときのブーツ各谷部に加わる応力)を、実施例と比較例とを併せて示す。
図11から分かるように、実施ブーツでは、比較ブーツに比べて、蛇腹部谷部14Bの応力が著しく低下していることがわかる。これは、
図5及び
図6からわかるように、実施ブーツで環状凹部6Aを形成することで、蛇腹部の谷部(たとえば4F)が移動できる領域が広がったため(
図6の4谷部4F~4Cが図の下方向に大きく屈曲している。)、結果的に谷部4Bへの応力集中が緩和されたためである。
【0050】
さらに、
図11から、比較ブーツに比べ実施ブーツの方が、全体的に各谷部に加わる応力が低減されていることが分かる。特に、比較ブーツで、最も大きな応力が加わっていた谷部14Eでは2.5MPaの応力であるのに対し、実施ブーツの谷部4Eにおいては2.0MPaまで低下していることが分かる。この結果、実施ブーツのように、大径環状部6に本発明の内周面形状を採用することで、蛇腹部5の屈曲性が高まり、耐疲労破損性の改善に寄与することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本件出願に係る等速ジョイント用ブーツは、大径環状部の内周面の蛇腹部に隣接した部位に環状凹部を備えることで、等速ジョイントの揺動挙動・摺動挙動に伴って変化する等速ジョイント用ブーツの蛇腹部の変形応力が低く、フレキシビリティに優れるものである。自動車用として用いたときも、良好な耐疲労破損性が得られ、さらなる長寿命化が達成でき、産業上特に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 等速ジョイント用ブーツ(=トリポッドジョイント用ブーツ)
2 小径環状部
3A~3F 山部(蛇腹部)
4A~4F 谷部(蛇腹部)
5 蛇腹部
6 大径環状部
6A 環状凹部
6B 環状厚肉部(二次成形部)
6C 環状厚肉部(従来ブーツ(比較例))
6D 環状厚肉部(従来ブーツ(比較例))
10 一次成形部材
20 軸部(出力駆動軸)
30 凸部
40 二次成形空間
P 軸方向
X 作動角0°線
θ 作動角