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  • 特許-既存杭の引き抜き工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】既存杭の引き抜き工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018147797
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2020023788
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【弁理士】
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】中村 光男
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066721(JP,A)
【文献】特開昭60-019827(JP,A)
【文献】特開昭50-119825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工地盤の特性に基づいて選定された特性を有する自硬性安定液を筒状のケーシングの先端付近から噴射しながら当該ケーシングを作動することにより、地盤から既存杭を縁切りするように掘り下げる工程と、
前記掘り下げ工程によりケーシングの先端が少なくとも既存杭の下端に達した後に、当該ケーシングと既存杭とを引き抜いて施工穴を作成する工程と、
掘り下げ工程で噴射された自硬性安定液が滞留する施工穴に、
前記掘り下げ工程で用いた自硬性安定液をさらに注入して施工穴を埋める工程と
含む、既存杭の引き抜き工法。
【請求項2】
前記施工穴内の前記自硬性安定液を攪拌する
ことを特徴とする請求項1に記載の既存杭の引き抜き工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に埋設された既存杭の引き抜きから引き抜き後の施工穴の埋め戻しまで一貫して行う既存杭の引き抜き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集合住宅やビル等の建造物の建て替え時には、既存の建造物の解体及び撤去、並びに上記建造物の杭(以下、「既存杭」とも言う。)の引き抜きが行われていた。既存杭は、例えば、地盤を掘削するケーシング等の引き抜き装置により地盤から縁切りして引き抜かれていた。しかしながら、地盤が固い場所では掘削時間がかかってしまったり、掘削による振動や騒音を発してしまったりすることもあった。
【0003】
そこで、特許文献1では、掘削中に引き抜き装置の先端付近に設けられた噴出ノズルから水を噴出することで、地盤を柔らかくして引き抜き装置と地盤との摩擦を低減する技術が開示されている。この方法では、さらに既存杭及び引き抜き装置の引き上げ時に自硬性安定液を注入することで、引き抜き装置と地盤との摩擦を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭55-85734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、地盤の掘削時に噴出した水が、施工穴の埋め戻しの際に注入される自硬性安定液の濃度を稀釈してしまう。すなわち、数週間後には所望の強度で硬化するように配合された自硬性安定液が噴出した水により薄まってしまうため、施工穴の埋め戻し部分の強度が低下し、地盤の強度とに差異が生じてしまう。これにより、新設杭の埋設時に施工穴の埋め戻し部分が崩れる恐れがある。
【0006】
さらに、特許文献1で用いられている自硬性安定液は、引き抜き装置の側面と地盤の内側面との摩擦を低減することを目的としている。すなわち、引き抜き装置を引き上げながら自硬性安定液を注入することで、引き抜き装置の側面と地盤の内側面との間に自硬性安定液が介在するため、地盤の内側面から引き抜き装置の側面に直接的に摩擦が生じることを回避するものであり、施工穴を埋め戻すために用いられているものではない。
【0007】
上述したとおり、自硬性安定液は、施工穴に注入されてから所望の強度を発現するまでに数週間かかるばかりでなく、水分等により稀釈されてしまうと所望の強度を発現しにくくなる問題に着目すれば、掘削時に地盤を柔らかくすると共に、掘削後に注入される自硬性安定液の成分に悪影響を与えないように活用すべきであることに、発明者等はたどり着いた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、既存杭の引き抜き時に地盤の掘削を助長して作業効率の向上を図ると共に、地盤の強度と自硬性安定液により施工穴を埋め戻した部分の強度との差異を極力小さくして施工品質の向上を図る既存杭の引き抜き工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明による既存杭の引き抜き工法は、筒状のケーシングの先端付近から地盤内の既存杭を引き抜いた後の施工穴を埋める自硬性安定液を噴射しながら、上記ケーシングで上記既存枠を包囲するように掘り下げ、上記ケーシングの先端が少なくとも上記既存枠の下端に達したら、上記ケーシングと上記既存杭とをそれぞれ引き抜き、噴射した上記自硬性安定液が滞留している上記施工穴に、さらに新たな上記自硬性安定液を注入して上記施工穴を埋めることを特徴としている。
【0010】
上記施工穴内の上記自硬性安定液を攪拌することが望ましい。
【0011】
上記自硬性安定液の特性が、上記地盤の特性に基づいて決定されることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明による既存杭の引き抜き工法によれば、既存杭の引き抜き時に地盤の掘削を助長して作業効率の向上を図ると共に、地盤の強度と自硬性安定液により施工穴を埋め戻した部分の強度との差異を極力小さくして施工品質の向上を図る既存杭の引き抜き工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における既存杭の引き抜き工法の流れ(a)~(g)を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1を参照しつつ、本発明の一実施形態における既存杭の引き抜き工法(以下、「本既存杭の引き抜き工法」ともいう。)について説明する。
なお、これらの図において、複数個存在する同一の部位については、一つの部位のみに符番した部分もある。説明の便宜上、所定の部位やこの引き出し線を破線や想像線(二点鎖線)で示し、断面部分をハッチングで示した部分もある。
【0015】
まず、本既存杭の引き抜き工法の前提を説明する。
【0016】
図1(a)に示すとおり、本既存杭の引き抜き工法は、撤去済みの集合住宅等の既存杭Sが地盤Gに埋設されている場合に施工される。既存杭Sは、例えば、直径0.3m、長さ15mのPC杭が圧入工法にて地盤Gに打ち込まれたものが該当する。
なお、本既存杭の引き抜き工法の施工前に、地盤Gの特性を、地盤の変形係数、地盤の土層の強さ(N値)、及び土層の一軸圧縮強度(N/mm)に基づいて導いてもよい。具体的には、地盤の変形係数と土層の強さとの関係及び地盤の変形係数と土層の一軸圧縮強度との関係から導いた土層の強さと一軸圧縮強度との関係に基づき、土層の強さ(目標値)に対する一軸圧縮強度を算出してもよい。
【0017】
図1(b)に示すとおり、ケーシング1は、地盤Gから既存杭1を縁切りするために、金属製かつ既存杭1より大きい内径を有する円筒状で、既存杭1の軸周りに旋回かつ軸方向に上下動するものが該当する。ケーシング1の先端(本既存杭の引き抜き工法の施工時は下端)には、地盤Gを掘削する爪部11が単数又は複数設けられている。ケーシング1の先端付近には、地盤G内の既存杭Sを引き抜いた後の施工穴を埋める自硬性安定液2を噴射する噴射口12が設けられている。
なお、ケーシング1は、クレーン車等で移動してよく、クレーン車等に既設又はクレーン車等とは別に準備されたモーター、エンジン、シリンダ、又はこれらを適宜組み合わせた駆動装置にて旋回及び上下動してもよい。ケーシング1は、引き上げ時に既設杭Sを把持できる構造であってもよい。噴射口12は、ケーシング1に設けられた開口でもノズル状のものでもよく、爪部11の先端や爪部11同士の間に設けられていてもよい。
【0018】
自硬性安定液2は、地盤G内の既存杭Sを引き抜いた後の施工穴を埋めるために、例えば、ベントナイト(粘土)とセメントミルク(セメントとセメントの固化に必要な水とを混ぜたもの)とを所定の比率で混ぜ合わせたセメントベントナイト液(「セメントベントナイト改良土」ともいう。)が該当する。
なお、自硬性安定液2の特性は、上述した地盤Gの特性に基づいて決定されてもよい。具体的には、自硬性安定液2にて構成される土層の一軸圧縮強度は、上述した比率や混ぜ合わせ具合に起因する発現強度のバラつき及び安全性に関する係数に鑑みて設定された土層の強さと一軸圧縮強度との関係に対し、地盤Gの土層の強さ(目標値)を代入して算出してもよい。
【0019】
次に、本既存杭の引き抜き工法の施工手順を説明する。
【0020】
まず、図1(a)に示すとおり、既存杭Sの上端が露出するように地盤Gを掘り起こす。また、地盤Gの特性に基づいて自硬性安定液2を配合しておく。
【0021】
次に、図1(b)に示すとおり、ケーシング1が既存杭Sの軸周りに旋回しながら既存杭Sを包囲して地盤Sから既存杭Sを縁切りするように掘り下げる。爪部11が地盤を掘削しやすくするために、噴射口12から自硬性安定液2が噴射されている。既存杭1の下端に少なくともケーシング1の先端が達した時点で、地盤Gの掘り下げが完了となる。
なお、噴射する自硬性安定液2の量は、地盤Gの各土層に応じて適宜制御されてもよい。
【0022】
そして、図1(c)に示すとおり、ケーシング1を地盤Gから引き上げると、施工穴Hに自硬性安定液2が溜まった状態となる。
なお、ケーシング1を引き上げている間、自硬性安定液2が噴射されていてもよい。この場合、自硬性安定液2はケーシング1に加わる施工穴Hの内側面からの摩擦抵抗を少なくするために用いられてもよい。
【0023】
さらに、図1(d)に示すとおり、施工穴Hの上空から垂らした図示しないワイヤーを既存杭Sに引っ掛けて、既存杭Sを引き上げる。既存杭Sの引き上げ後、土砂が混ざった自硬性安定液2が施工穴Hの底に溜まる。
なお、ケーシング1の引き上げと同時に既存杭Sを引き上げてもよい。
【0024】
その後、図1(e)に示すとおり、施工穴Hの上空からポンプPで新たな自硬性安定液2を地盤Gの表面と同じ高さになるまで注入する。
なお、新たに注入する自硬性安定液2の量は、掘削時に噴出した自硬性安定液2の量と施工穴Hの容積との関係に基づいて決定してもよい。
【0025】
最後に、図1(f)に示すとおり、施工穴Hに対して下側に滞留している土砂混じりの自硬性安定液2と上側に滞留している新たに注入した自硬性安定液2とをオーガースクリュー3で攪拌することで、土砂が自硬性安定液2に対して全体的に混じり合うため、図1(g)に示すように施工穴H内で自硬性安定液2の発現強度を均一化することができる。
なお、自硬性安定液2の攪拌には、例えば、エアブローで空気を流入する方法を採用してもよい。
【0026】
したがって、本既存杭の引き抜き工法によれば、掘削中にケーシング1から自硬性安定液2を噴射するため、地盤Gが柔らかくなって掘削しやすいばかりでなく、施工穴Hに滞留した自硬性安定液2と施工穴Hを埋める際に注入した自硬性安定液2とが混ざり合っても濃度が薄まらず所望の強度を発現できるため、新設杭の施工穴等を掘削しても崩れにくくすることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ケーシング
11 爪部
12 噴射口
2 自硬性安定液
3 オーガースクリュー
G 地盤
S 既存杭
H 施工穴
P ポンプ
図1