(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】鮮度保持袋用フィルム、及びその製造方法、製造装置
(51)【国際特許分類】
B65D 65/02 20060101AFI20221005BHJP
B65D 85/50 20060101ALI20221005BHJP
B65D 33/01 20060101ALI20221005BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20221005BHJP
B26F 1/20 20060101ALI20221005BHJP
B26F 1/24 20060101ALI20221005BHJP
A23B 7/00 20060101ALN20221005BHJP
A23B 9/18 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
B65D65/02 E
B65D85/50 120
B65D33/01
B65D65/02 B
B26D3/00 601B
B26F1/20
B26F1/24
A23B7/00 101
A23B9/18
(21)【出願番号】P 2018153818
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】殿岡 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】山原 栄司
(72)【発明者】
【氏名】所 のぞみ
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237810(JP,A)
【文献】特表2014-527846(JP,A)
【文献】特開2017-141058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/02
B65D 85/50
B65D 33/01
B26D 3/00
B26F 1/00-3/16
A23B 7/00-9/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ15μm以上60μm以下のポリオレフィンフィルムであり、
開口部と、前記開口部を中心とする2方向の切れ目を有する穿孔部とを有し、
製袋時の前記開口部の面積が0.001mm
2以上0.1mm
2以下で、
前記2方向の切れ目のうち、長い方の切れ目と短い方の切れ目の長さの比が1.5以上20以下であり、
前記短い方の切れ目の長さが0.1mm以上1mm以下で、
前記穿孔部は、前記ポリオレフィンフィルムの元の厚さの2倍以下の厚さの部位で囲まれている鮮度保持袋用フィルム。
【請求項2】
穿孔用針と、前記穿孔用針を取り付けて回転する回転具と、フィルムを移送するローラとを用い、
前記穿孔用針は、先端部の断面形状の曲率半径Rが0.03mm以上0.20mm以下であり、先端から1mmの位置の針直径が
0.3mm以上
1mm以下であり、前記先端部のRに繋がる傾斜角が30度以上120度以下であり、
前記回転具の回転によって前記穿孔用針が移送される前記フィルムに挿入されることで前記フィルムに穿孔する、
鮮度保持袋用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記穿孔用針は、前記フィルムに0.3mm以上1.5mm以下の貫通長さで挿入される、
請求項2に記載の鮮度保持袋用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記回転具は前記ローラと一体に、又は前記ローラと同軸上に設けられ、
前記穿孔用針は、前記ローラの内径側から、前記ローラ上のフィルムに挿入される、請求項2又は3に記載の鮮度保持袋用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記穿孔されたフィルムが、前記ローラとは別の巻取ローラによって巻き取られる、請求項2乃至4のいずれかに記載の鮮度保持袋用フィルムの製造方法。
【請求項6】
穿孔用針と、前記穿孔用針を取り付けて回転する回転具と、フィルムを移送するローラとを有し、
前記穿孔用針は、先端部の断面形状の曲率半径Rが0.03mm以上0.20mm以下であり、先端から1mmの位置の針直径が
0.3mm以上
1mm以下であり、前記先端部のRに繋がる傾斜角が30度以上120度以下であり、
前記回転具は前記フィルムの移送に同期して回転し、この回転によって前記穿孔用針が移送される前記フィルムに挿入されることで前記フィルムに穿孔する、
鮮度保持袋用フィルムの製造装置。
【請求項7】
回転する円盤状の回転具と、前記回転具を梁に対して固定する固定具と、
を有し、
回転する円盤の外周に、環状の滑り止め具と、外径方向に向いて取り付けられた一本又は複数本の穿孔用針とを有し、
前記穿孔用針は、先端部の断面形状の曲率半径Rが0.03mm以上0.20mm以下であり、先端から1mmの位置の針直径が
0.3mm以上
1mm以下であり、前記先端部のRに繋がる傾斜角が30度以上120度以下である、
鮮度保持袋用フィルムの穿孔加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、青果物の鮮度を保持するための鮮度保持袋に関する。
【背景技術】
【0002】
青果物を包装する袋に、内外のガス交換を制御できる適度な通気性を持たせ、青果物の置かれている環境の二酸化炭素や酸素の濃度を調整することで、包装された青果物の鮮度を無包装や密封環境よりも長く保つことができることが知られている。
【0003】
通気性を持たせる手法としては、レーザー加工法、熱針を含む針加工法によって穿孔加工する手法や、ロールカッターにより裂け目を入れる手法が知られている(例えば特許文献1[0028])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱針やレーザーによる穿孔ではフィルムに熱を与えて穴を空けるため、生産速度により孔の形状やピッチにばらつきが生じる。このばらつきを抑えようとすると、生産速度は200m/分程度が限界となる。この速度は、印刷機やスリッターで要求される速度より遅く、印刷やスリッター加工の際に穿孔しようとすると、速度を落とさなければならなくなり、生産性を低下させてしまう。
【0006】
一方、ロールカッターや、熱を使用しない針を用いれば、生産速度を落とさずに穿孔することは可能である。しかしこの場合、高速で移動するフィルムに穿孔するため、針先端はフィルムを流れ方向に切り裂きながら侵入する。このため孔形状はスリット状になってしまい、ガス交換に必要な通気性を確保することが難しかった。
【0007】
そこでこの発明は、加熱することなく鮮度保持に適当な孔をフィルムに穿孔し、生産性の高い手法で青果物鮮度保持袋用フィルムを製造可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、厚さ15μm以上60μm以下のポリオレフィンフィルムであり、
開口部と、前記開口部を中心とする2方向の切れ目を有する穿孔部とを有し、
前記開口部の面積が0.001mm2以上0.1mm2以下で、
前記2方向の切れ目のうち、長い方の切れ目と短い方の切れ目の長さの比が1.5以上20以下であり、
前記短い方の切れ目の長さが0.1mm以上1mm以下で、
前記穿孔部は、前記ポリオレフィンフィルムの元の厚さの2倍以下の厚さの部位で囲まれている鮮度保持袋用フィルムにより、上記の課題を解決したのである。
【0009】
加熱針で穿孔すると、穿孔部の周囲にはポリオレフィンが溶解して盛り上がることで厚みが元の2倍を超えるような部分が生じるが、この鮮度保持袋用フィルムが有する穿孔部は、加熱しない針による穿孔であるため、厚みが元の2倍を超えるような部分がない。
【0010】
このような鮮度保持袋用フィルムを製造する方法としては、穿孔用針と、前記穿孔用針を取り付けて回転する回転具と、フィルムを移送するローラとを用い、
前記穿孔用針は、先端部の断面形状の曲率半径Rが0.03mm以上0.20mm以下であり、先端から1mmの位置の針直径が0.2mm以上2.0mm以下であり、前記先端部のRに繋がる傾斜角が30度以上120度以下であり、
前記回転具の回転によって前記穿孔用針が移送される前記フィルムに挿入されることで前記フィルムに穿孔することで可能となる。
【0011】
挿入する際の貫通長さは、前記穿孔用針が、前記フィルムに0.3mm以上1.5mm以下の貫通長さで挿入される実施形態とすることができる。
【0012】
前記回転具は前記ローラと一体に、又は前記ローラと同軸上に設けられ、
前記穿孔用針は、前記ローラの内径側から、前記ローラ上のフィルムに挿入される実施形態とすることができる。
【0013】
また、前記穿孔されたフィルムが、前記ローラとは別の巻取ローラによって巻き取られる実施形態とすることができる。
【0014】
上記の製造方法を実施する製造装置としては、
穿孔用針と、前記穿孔用針を取り付けて回転する回転具と、フィルムを移送するローラとを有し、
前記穿孔用針は、先端部の断面形状の曲率半径Rが0.03mm以上0.20mm以下であり、先端から1mmの位置の針直径が0.2mm以上2.0mm以下であり、前記先端部のRに繋がる傾斜角が30度以上120度以下であり、
前記回転具は前記フィルムの移送に同期して回転し、この回転によって前記穿孔用針が移送される前記フィルムに挿入されることで前記フィルムに穿孔する、鮮度保持袋用フィルムの製造装置が採用できる。
【0015】
このような鮮度保持袋用フィルムの製造装置を構成するために、既存のフィルム用装置に取り付ける穿孔加工装置として、
回転する円盤状の回転具と、前記回転具を梁に対して固定する固定具と、
を有し、
回転する円盤の外周に、環状の滑り止め具と、外径方向に向いて取り付けられた一本又は複数本の穿孔用針とを有し、
前記穿孔用針は、先端部の断面形状の曲率半径Rが0.03mm以上0.20mm以下であり、先端から1mmの位置の針直径が0.2mm以上2.0mm以下であり、前記先端部のRに繋がる傾斜角が30度以上120度以下である、穿孔加工装置が採用できる。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、ローラによって巻き取る従来の高速な処理工程から速度を落とすことなく、ガス交換に適した穿孔部をフィルムに設けることができ、鮮度保持袋用フィルムの製造工程の生産効率を向上させることができる。穿孔用針として、先端部の断面形状の曲率半径Rと、先端から1mmの位置の針直径と、先端部のRに繋がる傾斜角とを適切に調整した針を用いることで、1方向の裂け目や円弧状の穿孔部ではなく、好適な2方向の切れ目を有する穿孔部を空けることができる。2方向の切れ目を持つことで、穿孔後のフィルムを巻き取ったりして、切れ目により生じるフィルムの角が折り畳まれたとしても、穿孔部の中央の開口部が開口したままとしやすく、ガス交換性能を維持しやすいフィルムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明にかかる鮮度保持袋用フィルムの開口部及び穿孔部の模式図
【
図2】
図1の穿孔後(a)巻き取り前の断面図、(b)巻き取り後の断面図
【
図4】この発明にかかる製造装置の第一の実施形態におけるフィルムと回転具付近の斜視図
【
図6】この発明にかかる穿孔加工装置を梁に取り付けた状態の斜視図
【
図8】この発明にかかる製造装置の第二の実施形態におけるローラの表面付近の断面図
【
図10】(a)針1の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(b)針2の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(c)針3の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(d)針4の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(e)針5の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(f)針6の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真
【
図11】(a)針7の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(b)針8の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(c)針9の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(d)針10の針先、巻き取り前穿孔部、巻き取り後穿孔部を示す写真、(e)熱針により空けた比較例4の穿孔部の写真
【
図12】実施例におけるガス交換率評価の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明について実施形態を挙げながら詳細に説明する。この発明は、主として青果物に用いる、鮮度保持袋用フィルムと、その製造方法、製造装置、及びその製造装置に用いる穿孔加工装置である。
【0019】
この発明にかかる鮮度保持袋用フィルムに用いる素材としては、青果物の包装用に使用されているポリエチレンフィルム、またはポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィンフィルムを用いることができる。
【0020】
上記ポリオレフィンフィルムの厚さは、15μm以上が好ましく、20μm以上であるとより好ましい。15μm未満であると破れやすくなりすぎ、裂けて生じる開口部の大きさを好適な範囲に収めることが難しくなるおそれがある。一方、60μm以下が好ましく、50μm以下であるとより好ましい。60μmを超えると後述する穿孔用針を用いて好適な形状の穿孔部を形成させることが難しくなるだけでなく、そもそも貫通しにくくなるおそれがある。
【0021】
この発明にかかる鮮度保持袋用フィルムは、上記のポリオレフィンフィルム(フィルム10)に、開口部と、前記開口部を中心とする2方向の切れ目を有する穿孔部とを1つ以上形成させてある。この開口部11及び穿孔部15の模式図を
図1に示す。開口部11とは、通気可能となっている、実際に空いている孔の部分をいう。この開口部11の個々に開口している面積は、0.001mm
2以上である必要があり、0.003mm
2以上であると好ましい。0.001mm
2未満であると、個々の開口部から二酸化炭素や水蒸気が通過しにくく、わずかの結露や障害物によって封鎖されてしまうおそれが高くなってしまい、ガス交換性能を発揮しにくくなる。一方で、個々に開口している面積は、0.1mm
2以下である必要があり、0.05mm
2以下であると好ましい。大きすぎると外気との交換が進みすぎてしまい、かえって鮮度保持効果が薄れてしまうおそれがある。
【0022】
穿孔部15は、開口部11を中心とする2方向の切れ目(12、13)が生じるように、穿孔用針23が貫通することで空けられた裂け目である。開口部11から2方向に延びる切れ目12,13は直交しているか、またはそれに近い位置関係であると好ましい。切れ目12,13同士の角度が30度未満であると開口部11の開口面積を確保するのが難しくなる。十字状に近い裂け方をすることで、開口部11の面積を確保しやすくなる。
【0023】
この切れ目12,13は後述するように、フィルムを移送しながら形成させる。このため、移送させる方向に長い方の切れ目13が生じ、それに直交または直交に近い角度に、短い方の切れ目12が生じる。長い方の切れ目13の長さLLと短い方の切れ目12の長さLSとの比は、1.5以上となる。形成時の力の掛かり方から、移送させる方向に長い切れ目が生じやすいためである。一方で、この比は20以下である必要があり、5以下であると好ましい。この比が大きすぎると、スリット状に近くなり、わずかの変形で開口部11が閉ざされやすくなってしまう。
【0024】
また、短い方の切れ目12の長さL
Sは0.1mm以上である必要があり、0.2mm以上であると好ましい。
図1に示すように、短い方の切れ目12と長い方の切れ目13とが合わさることで、交点から裂け目がめくれて広がることで、中央部分に通気性に優れた開口部が形成されるため、短すぎると孔ではなく裂け目となって、ガス交換性能が低下するという問題が生じやすくなる。ここで、切れ目の長さは開口部11の長さと同一ではなく、切れ目の先端は単に通気性能を発揮しない切れ目のみである部分が生じていることが多い。一方で、長い方の切れ目13の長さL
Sは1mm以下である必要があり、0.8mm以下であると好ましい。切れ目が長すぎると、フィルムがめくれて動く部分が大きすぎてしまい、開口部11の大きさが安定しなくなるおそれがある。
【0025】
切れ目12,13同士の交点がめくれる状況を
図2(a)及び(b)の断面図に示す。切れ目12、13の交点付近はめくれやすい形状の撥ね部14aとなっている。穿孔により貫通させた直後は撥ねており、開口部11の面積が拡大しやすい傾向にある。そのまま用いる場合はこの開口部11の面積が穿孔直後のまま維持されやすい。一方、フィルム10を一旦ローラなどで巻き取って保管する場合には、重なったフィルム10によって撥ね部14bが押し付けられ、
図2(b)のように全体として平らに近くなり、穿孔直後に比べて開口部11面積が縮小されやすい。
【0026】
この発明に係る鮮度保持袋用フィルムに空けられる穿孔部15の数は、フィルム10の表面積1m2あたり、1個以上あると好ましく、10個以上あるとより好ましい。少なすぎるとガス交換性能が十分に発揮されず、鮮度保持効果が十分に発揮されなくなってしまう。一方で、表面積1m2あたり1000個以下であると好ましく、500個以下であるとより好ましい。孔が多すぎてガス交換性能が高すぎると、無包装の状況に近くなり、逆に鮮度保持効果が発揮されなくなるおそれがある。なお、当然ながら鮮度保持袋用フィルムを用いて製造される鮮度保持袋ごとに、1つ以上の穿孔部15が配されていることになる。
【0027】
この穿孔部15を形成させるために用いる穿孔用針23は加熱されていない常温のものを用いることが望ましい。これにより、穿孔部15は上記のポリオレフィンフィルムであるフィルム10の元の厚さの2倍以下の厚さの部位で囲まれている。すなわち、加熱によって2倍を超える厚さになる部位が穿孔部15となる開口部11の周囲には存在していない。なお、ここでいう厚さの測定は、JIS K 7130A法に準拠した測定方法で行うものとする。周囲とは厳格なものではないが、開口部11の中心から長い方の切れ目13a,13bの遠い方の端部までの長さまでから、その二倍程度の長さまでである。本発明のフィルムは、常温の穿孔用針23によって貫通されて加工され、加熱によって盛り上がった箇所が無い。従来の手法で加熱して穿孔した場合、フィルムを巻き取ったロールには穿孔位置に大きな盛り上がりが出来る。孔周囲の盛り上がりが孔の開いていない部分と擦れることで傷をつけ、外観品質を低下させる要因になる。また、巻き取ったロール自体に大きな凹凸がある点も、外観品質上問題と判断される場合がある。これに対して、本発明にかかる非加熱で穿孔したフィルムでは、巻き取ったロールの凹凸が少なく、孔の開いていない所にできる傷が低減される。そのため、外観品質に問題がなく、穿孔部と印刷が擦れることを避けるために穿孔位置を印刷から外すなどの制約を設ける必要がない。また、後述するように、加熱及び冷却を待たなくてもよいため、穿孔処理を高速で行うことができる。
【0028】
また、穿孔用針23は上記の穿孔部15の形成に適した形状であることが望ましい。穿孔部15の先端の形状例を、
図3を用いて説明する。穿孔用針23の先端部の断面形状の曲率半径Rは0.03mm以上であると好ましく、0.06mm以上であるとより好ましい。曲率半径Rが小さすぎると、針が鋭すぎるため、切れ目が2方向に生じず、進行方向のみの切れ目になりやすい。0.03mm以上でフィルムが十字状に裂けやすくなり、0.06mm以上で十字状の裂けやすさが顕著になる。一方、曲率半径Rは0.20mm以下であると好ましく、0.15mm以下であるとより好ましい。大きすぎるとフィルム10に突き刺しても容易に貫通せず、穿孔部15を形成しにくくなるからである。
【0029】
さらに、穿孔用針23は、先端pから1mmの位置の針直径Dが0.2mm以上であると好ましく、0.3mm以上であるとより好ましい。穿孔時には状況次第だが、先端pから1mm前後を中心として調整した深さでフィルム10を貫通するように穿孔用針23とフィルム10との相対位置を調整するとよく、貫通した際に開口部11を押し広げるためには、ある程度の針直径Dが必要となるからである。一方で、針直径Dは2.0mm以下であると好ましく、1mm以下であるとより好ましい。太すぎると開口部11が大きくなりすぎてしまい、ガス交換が制御しきれなくなるおそれがある。
【0030】
さらにまた、穿孔用針23は、前記の先端部のRに繋がる傾斜角θが30度以上であると好ましく、45度以上であるとより好ましい。30度未満であると先端に向かって鋭すぎてしまい、切れ目が2方向になりにくくなるおそれがある。一方で、傾斜角θは120度以下であると好ましく、90度以下であるとより好ましい。120度を超えると穿孔性能が低下しすぎてしまい、仮に先端が貫通しても開口部11が十分に広がりきらなくなる可能性が高くなってしまう。なお、ここで傾斜角θとは、先端部のRを形成する断面円に接するように続く針の側周面が接する点から側周面に沿って100μm分広がった位置でのRに向かって続く傾斜が成す角度をいう。
【0031】
穿孔用針23をフィルム10に挿入させる際の貫通する貫通深さは、0.3mm以上であると好ましく、0.5mm以上であるとより好ましい。この貫通深さとは、貫通した穿孔用針23の先端部の最も深い位置と、貫通されたフィルム10の開口部11の中心におけるフィルム面が存在した位置との最大距離である。実際には、フィルム10の面と、穿孔用針23の軌道との相対位置として製造装置を調整する。この貫通深さが浅すぎると開口部11の大きさが不十分になるだけでなく、そもそもフィルム10を貫通しにくくなる場合もある。
【0032】
前記鮮度保持袋用フィルムを製造するにあたっては、穿孔用針23と、穿孔用針23を取り付けて回転する回転具と、フィルム10を移送するローラ31を有する製造装置を用いるとよい。前記回転具の回転によって穿孔用針23が移送されるフィルム10に挿入されることでフィルム10に穿孔する。前記回転具は、フィルム10に対してローラ31の外径側に設置してもよいし、フィルム10に対してローラ31の内径側に設置してもよいし、二つのローラ31の間に張られたフィルム10に対していずれかの面から前記回転具が接するように配置してもよい。前記回転具をフィルム10に対して内径側に取り付ける場合、前記回転具をローラ31と一体に設けてもよいし、ローラ31と同軸上に設けてもよい。これら内径側に取り付ける場合、穿孔用針23は、ローラ31の内径側からローラ31上のフィルム10に挿入する。
【0033】
一方、前記回転具をフィルム10に対してローラ31の外径側に設置したり、ローラ31の間に張られたフィルム10に対して取り付ける場合、前記回転具を、フィルム10の移送に同期して回転させると、穿孔部15が必要以上に移送方向に裂けることなく、ガス交換しやすい開口部11を空けやすくなる。同期させる方法としては、前記回転具の外周に滑り止めを設けてその滑り止めをフィルム10に接触させることで、フィルム10の移送する力によって前記回転具を回転させると、高い精度で同期できるので好ましい。一方、前記回転具に別途回転させる駆動装置を取り付けて回転させてもよいし、前記回転具がフィルム上を走行して穿孔させてもよい。
【0034】
いずれの形態でも、移送とともに穿孔されたフィルム10を、そのまま鮮度保持袋用フィルムとして製袋に用いて鮮度保持袋としてもよいし、一旦別の巻取ローラに巻き取って保管した後に鮮度保持袋用フィルムとして用いて製袋してもよいし、製袋充填機で中身を詰めながら製袋してもよい。ただし、一旦巻き取る場合は、開口部11の周囲にある撥ね部14が、重なった外径側のフィルム10によって押しつぶされるため、穿孔直後とは開口部11の大きさが変化する。このため、一旦巻き取る場合は、巻き取りによって開口部11の面積が縮小することを見越して、製袋時に想定する開口部11よりも大きな開口部11が空くように穿孔部15を形成させることが望ましい。
【0035】
この発明にかかる製造方法を実施する製造装置の第一の実施形態例を
図4~7とともに説明する。この実施形態例は、回転具20がローラ31の外径側に取り付けられた例である。
図4は、フィルム10と回転具20とが接している部分の斜視図であり、
図5はその接している部分の周方向断面拡大図である。回転具20は、回転可能な円盤21の外周に、外径方向へ向かって複数本の穿孔用針23が等間隔で取り付けられている。円盤21と同軸上に、エラストマー製のOリングからなる滑り止め具22が取り付けられている。一方、回転するローラ31の外周に接してフィルム10が移送される。ローラ31の表面は一様ではなく、フィルム10と直接接する峰部32と、凹んだ溝部33とが軸方向に交互に存在している。滑り止め具22は峰部32の上のフィルム10に接することで、ローラ31によって移送されるフィルム10から力を受ける。これにより、ローラ31の峰部32の表面速度と滑り止め具22の表面速度とが同期される。滑り止め具22の外周の径方向位置を、穿孔用針23の径方向位置よりわずかに小さい程度としておくと、穿孔用針23の表面速度はフィルム10の移送速度とほぼ同期される。これにより、フィルム10の移送方向に長い方の切れ目13が生じるものの、短い方の切れ目12との比が上記の範囲に収まる穿孔部15を形成可能となる。また、このように滑り止め具22により同期する方式では、駆動装置が別途必要ではないため、装置が小型化でき、小さな装置にも設置しやすい。
【0036】
このような同期により穿孔する際のフィルムの移送速度は、スリッターのような高速移送にも対応できる。遅い分には生産速度が落ちるだけで特に制限はないが、速い分には移送速度がスリッターの最大速度400m/分でも十分に対応できる。また、開口部11の大きさは加減速による変動が小さく、十分に制御できる。
【0037】
なお、溝部33には穿孔用針23を受けるウレタン製その他樹脂製の発泡体を敷設してもよい。この場合、フィルム10にかかる力が軽減され、不測の破れが生じにくくなる。一方で、発泡体を敷設すると樹脂の破片が混入するおそれがあり、針先も消耗しやすくなるため、これらの状況を避けるために発泡体を敷設しないいわゆる空中刺しとしてもよい。図では空中刺しを示している。
【0038】
このような回転具20の取り付け方としては、ローラ31と平行に設けられた梁27に、回転具20を固定する固定具25を取り付けて、ローラ31上のフィルム10に対して、上記の望ましい位置関係となるように回転具20の穿孔用針23が位置するように調整する実施形態が挙げられる。そのような回転具20と固定具25とを有する穿孔加工装置の実施形態例を
図6及び
図7に示す。
図6は梁27とローラ31との位置関係を含めた斜視図であり、
図7は可動アーム26によって固定具25が固定された状態の正面図である。梁27を囲む受け具29を有し、軸方向の動きを固定する固定ネジ28を有する。受け具29からは所定のトルクを加えることで位置調整が可能だが、先端の位置を固定することができる可動アーム26が延びている。可動アーム26の先端には回転具20が取り付けられている。可動アーム26を調整することで、滑り止め具22をフィルム10に接触させるとともに、微調整することで上記の貫通深さを調整可能である。
【0039】
このような穿孔加工装置を、フィルム10を加工する既存の加工装置に取り付けることで、この発明にかかる鮮度保持袋用フィルムの製造装置とすることができる。このような穿孔加工装置を一つ設けるだけでなく、梁27上に等間隔または任意の間隔で取り付け、軸方向に複数の穿孔部15を形成させる実施形態でもよい。鮮度保持に必要な総開口面積を確保できるように開口部11の数で調整することができる。具体的には、加工前のフィルムを適切な幅に切断して巻き取るスリッターに穿孔加工装置を取り付ける実施形態が挙げられる。適切なサイズに切断するとともに、切断された個々の部分に適切なサイズと数の穿孔部15を形成することで、そのまま製袋して適切なガス交換性能を有する鮮度保持袋を製造できる鮮度保持袋用フィルムとすることができる。
【0040】
さらに、この発明にかかる製造方法を実施する製造装置の第二の実施形態例を
図8、
図9とともに説明する。この実施形態では、回転具はローラ31と一体化している。ローラの表面に、回転具となる穿孔用針23が周方向に等間隔に設けられている。穿孔用針23はローラ31にフィルム10が巻き付く際にローラ31の表面から飛び出した分に合わせた貫通深さでフィルム10を貫通して、穿孔部15を形成させる。ローラ31によるフィルムの移送に合わせて、穿孔部15が形成された鮮度保持袋用フィルムが排出される。
【0041】
上記の実施形態ではローラ31に直接に穿孔用針23を取り付けてローラ31を回転具としているが、同軸上にある二つのローラで、ローラとほぼ同じ径に調整した回転具を挟み、同様に内径側から穿孔させる実施形態でもよい。
【実施例】
【0042】
次に、この発明を実際に実施した実施例を挙げて、この発明をさらに具体的に示す。
【0043】
(検討例)
下記の表1に示す針1~10を用いて、スリッター((株)ゴードーキコー製:MODEL536A)上で防曇OPP30μmのフィルム(フタムラ化学(株)製:AF-642)に穿孔加工を行った。穿孔加工装置は
図6及び
図7に示すような回転具による。なお、針は加熱しておらず、常温である。針を2mm間隔の溝に対して1mm深さで刺し込んで、受けのない空中刺しにて穿孔を行った。この時、スリッター上でのフィルムのテンションは110N/m、フィルムを巻き取る際のタッチロールの接触圧は0.2MPaで行った。穿孔した孔形状は穿孔直後でタッチロールを通過する前時点で採取した「巻取り前」サンプルとタッチロールを通過して潰し圧がかかりながら巻き取られた後時点で採取した「巻き取り後」の状態を観察した。それぞれの針先、巻き取り前の穿孔部、巻き取り後の穿孔部の写真を
図10~
図11に示す。
【0044】
【0045】
それぞれの針先、巻き取り前の穿孔部、巻き取り後の穿孔部の写真を
図10(a)~(f)及び
図11(a)~(d)に示す。先端の曲率半径Rが0.02mm以下の鋭い先端となっている針1~3では巻取り前、巻取り後のいずれもフィルムの流れ方向に裂けた細いスリット状の孔であり、ガス交換させるための開口がほとんど得られなかった。次に、先端の曲率半径Rが0.035~0.15mmに丸まっている針4~9では、巻取り前サンプルでは幅方向に広がった開口を有する孔形状が形成された。しかし、巻き取り後はタッチロールによる加圧で、開口部が塞がる現象が見られた。またこれらのうち、先端のRに続く傾斜角θが小さい針4と5では巻き取り後に開口部はほとんど塞がった。一方、45度以上の傾斜角θを有する針6~9では巻き取り後の開口部の塞がりは抑制され、一定量の開口面積を確保できた。さらに、先端の曲率半径Rを0.24mmにまでさらに丸めた針10では、針がフィルムを貫通できず、孔は形成されなかった。
【0046】
また、比較のため、針直径1mmの針を200℃に加熱して、OPPフィルム(厚さ34μm)に対して、上下方向に差し込んで穿孔させた穿孔の写真を
図11(e)に示す。開口部の寸法1.03mm×0.91mm(長幅比1.1)であり、開口部の面積0.64mm
2であった。そして、孔周の最大厚さを示す部分の厚さは86μmであり、元のフィルムの厚さが34μmであるため、厚さ比2.5倍となり、元のフィルムの厚さの2倍を超えて厚さが膨らんだ箇所が生じ、厚くなった部位に開口部が取り囲まれる形状となった。このフィルムは下記比較例4として用いる。
【0047】
(実施例)
<ガス交換率評価>
検討例で作製したフィルムサンプルのうち、針1の巻き取り後(比較例1)、針5の巻き取り後(比較例2)、針6の巻き取り後(実施例1)、針8の巻き取り後(実施例2)、針8の巻き取り前(実施例3)のサンプルと、無加工の防曇OPPフィルム(比較例3)と、熱針を用いて直径1mmの開口を有する孔を形成したフィルム(比較例4)とを用いてガス交換率の評価を実施した。評価にあたっては、下記手順(1)~(3)に従い、ガスクロマトグラフィーを用いて製袋したフィルム内のガス構成を測定した。例えば、フィルム袋内の酸素濃度が32%に低下した場合のガス交換率は、((40-32)/20)×100=40%となる。
【0048】
(1)180×180mmに製袋した袋内に酸素濃度40%のガスを注入。
(2)フィルム袋内の酸素濃度を一定時間ごとに測定。
※酸素濃度はガス注入時の40%から大気組成の20%程度まで低下
(3)フィルム袋内の酸素濃度が40%の場合:ガス交換率0%、フィルム袋内の酸素濃度が20%の場合:ガス交換率100%として、ガス交換率を次式(1)で算出。
・ガス交換率(%)=(40%-フィルム袋内の酸素濃度(%))/(40%-20%)×100 式(1)
【0049】
その結果を
図12のグラフに示す。結果、孔の開口面積が大きいフィルムほどガス交換率が高かった。また、同じ針8を用い、巻き取り後と巻き取り前にあたる実施例2と実施例3とを比較すると巻き取り前の撥ね部が押し付けられていない方が高いガス交換率を示し、同じ穿孔のさせ方でも巻き取りの有無によって開口部の面積及びガス交換率を調整できることが示された。
【0050】
<鮮度保持評価>
比較例1(針1巻き取り後),比較例2(針5巻き取り後)、実施例2(針8巻き取り後),比較例4(熱針φ1mm孔)のフィルムを用いて、袋のサイズ230×170mm、保管環境10℃60%RH、カットキャベツ重量約160gにて、カットキャベツの鮮度保持評価を実施した。カットキャベツを内包した袋の外観を
図13の写真に示す。この袋にはそれぞれの比較例及び実施例における穿孔部が2つずつ形成されている。評価は8日間室内にて保管した後開封し、異臭の有無、外観の変化を確認した。なお、異臭が存在した場合には、ここでは袋内部の酸素不足によりアルデヒドが発生しているものと考えられる。
【0051】
その結果を表2に示す。結果、開口部が小さすぎる比較例1及び比較例2ではガス交換率が低く、袋内の酸素不足によりアルデヒドが発生し、開封時に異臭がした。実施例2では異臭の発生や外観の変色が無く、鮮度が保持されていた。比較例4ではガス交換率が高過ぎるためにカットキャベツの呼吸量が多くなり、変色が見られた。
【0052】
【符号の説明】
【0053】
10 フィルム
11 開口部
12,12a,12b 短い方の切れ目
13,13a,13b 長い方の切れ目
14,14a,14b 撥ね部
15 穿孔部
20 回転具
21 円盤
22 滑り止め具
23 穿孔用針
25 固定具
26 可動アーム
27 梁
28 固定ネジ
29 受け具
31 ローラ
32 峰部
33 溝部
D 針直径
R 曲率半径
θ 傾斜角