(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】電動式直動アクチュエータ及び電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/20 20060101AFI20221005BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20221005BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20221005BHJP
F16H 19/02 20060101ALI20221005BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20221005BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20221005BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20221005BHJP
F16C 19/32 20060101ALI20221005BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20221005BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20221005BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20221005BHJP
【FI】
F16H25/20 D
B60T13/74 G
F16D65/18
F16H19/02 P
F16C17/02 Z
F16C33/12 B
F16C33/20 Z
F16C19/32
H02K7/06 A
F16D121:24
F16D125:40
(21)【出願番号】P 2018168911
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160981(JP,A)
【文献】実開平04-129957(JP,U)
【文献】特開2003-042172(JP,A)
【文献】特開2003-090406(JP,A)
【文献】特開2011-179542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
B60T 13/74
F16D 65/18
F16H 19/02
F16C 17/02
F16C 33/12
F16C 33/20
F16C 19/32
H02K 7/06
F16D 121/24
F16D 125/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸周りに回転可能かつ軸方向に移動不能とされたサンローラ(25)と、
前記サンローラ(25)の外周に転がり接触する複数の遊星ローラ(26)と、
前記複数の遊星ローラ(26)を自転可能かつ公転可能に保持するキャリア(27)と、
前記遊星ローラ(26)と前記キャリア(27)の軸方向間に介在して設けられたスラスト軸受(28)と、
前記複数の遊星ローラ(26)を囲むように配置されたアウタリング(29)と、
前記遊星ローラ(26)の外周面及び前記アウタリング(29)の内周面にそれぞれ形成された、リード角が互いに異なる周方向係合部(30、31)と、
を有する直動変換機構(24)を備えた電動式直動アクチュエータにおいて、
前記遊星ローラ(26)又は前記スラスト軸受(28)の保持器(28A)の一方に固定され又は一体に設けられ、前記遊星ローラ(26)又は前記スラスト軸受(28)の前記保持器(28A)の他方が同軸に挿入されることによって、前記遊星ローラ(26)と前記スラスト軸受(28)の径方向位置を同軸状態に保つ位置規制部材(36)をさらに有することを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記位置規制部材(36)が、前記遊星ローラ(26)の内径側に設けられ、前記スラスト軸受(28)の保持器(28A)の内径面を支持していることを特徴とする請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記位置規制部材(36)が、前記遊星ローラ(26)の内径側に、この遊星ローラ(26)を回転自在に支持するローラ軸(34)との間に介在して設けられ、この遊星ローラ(26)の軸方向端面から突出する滑り軸受(35B)であることを特徴とする請求項2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記位置規制部材(36)が、前記遊星ローラ(26)の外径側に設けられ、前記スラスト軸受(28)の保持器(28A)の外径面を支持していることを特徴とする請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記位置規制部材(36)と前記遊星ローラ(26)を一体に形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記位置規制部材(36)が、前記スラスト軸受(28)の保持器(28A)の内径面又は外径面から軸方向に突出するように一体に形成された突起であって、この突起によって前記遊星ローラ(26)の内径側又は外径側を支持していることを特徴とする請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記滑り軸受(35B)を、焼結合金又は樹脂で構成したことを特徴とする請求項3に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項8】
車輪と一体に回転するブレーキディスク(11)と、
前記ブレーキディスク(11)を間にして軸方向に対向する一対のブレーキパッド(12、13)と、
前記ブレーキパッド(12、13)を軸方向に直線駆動する請求項1から7のいずれか1項に記載の電動式直動アクチュエータ(14)と、
を有する電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動式直動アクチュエータ及びこの電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータによって軸周りに回転する回転部材の回転運動を、直動部材の軸方向の直線運動に変換する直動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータとして、例えば特許文献1の
図1に示すものがある。
【0003】
この電動式直動アクチュエータは、電動モータによって回転される回転部材の回転運動を、直動部材の軸方向への直線運動に変換する直動変換機構を備えている。この直動部材に設けられたブレーキパッドを車輪と一体に回転するディスクロータに押し付けることによって制動力を得ることができる。
【0004】
本文献の
図2に更に詳細に示すように、電動式直動アクチュエータは、軸周りに回転可能かつ軸方向に移動不能とされたサンローラ(回転軸)と、前記サンローラの外周に転がり接触する複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持するキャリアと、前記遊星ローラと前記キャリアの軸方向間に介在して設けられたスラスト軸受と、前記複数の遊星ローラを囲むように配置されたアウタリング(外輪部材)と、を有している。
【0005】
遊星ローラの外周面には、この遊星ローラの円周方向に沿って延びる複数の円周溝が、アウタリングの内周面には、このアウタリングの円周方向に対して斜めに延びる、遊星ローラに形成された円周溝と係合する螺旋凸条が形成されている。サンローラの回転に伴って遊星ローラが自転及び公転すると、円周溝と螺旋凸条の係合によってアウタリングが軸方向に移動する。
【0006】
遊星ローラを保持するキャリアは、軸方向に対向する一対のキャリアプレートと、一対のキャリアプレートを互いに連結する連結棒とを有する。両キャリアプレートの中心には、サンローラを通す貫通孔が形成されており、この貫通孔にサンローラが挿通される。遊星ローラを回転自在に保持するローラ軸は、両キャリアプレートに形成された保持孔によって保持されている。
【0007】
スラスト軸受は、キャリアと遊星ローラとの間の摩擦を減らして、この遊星ローラをローラ軸周りにスムーズに回転させるために設けられている。この構成に係る電動式直動アクチュエータの組立手順(キャリアへの遊星ローラの組込手順)として、例えば、次の2つの手順がある。
【0008】
第一の手順においては、
図12に示すように、まず、一対のキャリアプレート101、102を連結棒103で連結してキャリア104を組み立てた上でサンローラ105を挿通する。そして、キャリア104を組み立てた状態で、遊星ローラ106とスラスト軸受107の径方向位置(軸心)を合わせた状態を保ちつつ、一対のキャリアプレート101、102の間に、その外径側から遊星ローラ106とスラスト軸受107を挿入する。遊星ローラ106及びスラスト107軸受を挿入したら、これらの軸心に、遊星ローラ106を回転自在に支持するローラ軸108を挿通する。
【0009】
第二の手順においては、
図13に示すように、まず、キャリアを構成する軸方向に対向する一対のキャリアプレート101、102のうちの一方のキャリアプレート101を水平状態とし、この一方のキャリアプレート101上に、スラスト軸受107と径方向位置を合わせた状態の遊星ローラ106を載置する。そして、遊星ローラ106及びスラスト軸受107の軸心にローラ軸108を挿通し、一方のキャリアプレート101に、連結棒103、サンローラ105、及び、ローラ軸108の一端側を挿し込む。さらに、一方のキャリアプレート101とは反対側の他方のキャリアプレート102に形成された挿通孔に、連結棒103、サンローラ105、及び、ローラ軸108の他端側を挿し込む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の第一の手順においては、遊星ローラ106とスラスト軸受107の径方向位置がずれないように、これらを慎重に一対のキャリアプレート101、102の間に挿入しなければならないため、複数の遊星ローラ106を挿入する作業のサイクルタイムの短縮が困難である。また、上記の第二の手順においては、複数の連結棒103、サンローラ105、及び、遊星ローラ106及びスラスト軸受107に挿入した複数のローラ軸108を、同時に他方のキャリアプレート102に挿入しなければならないため、その挿入を補助するための専用治具が必須となるとともに、その挿入工程が煩雑となりやすい。
【0012】
そこで、この発明は、電動式直動アクチュエータのアセンブリをスムーズに行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題を解決するために、この発明においては、軸周りに回転可能かつ軸方向に移動不能とされたサンローラと、前記サンローラの外周に転がり接触する複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持するキャリアと、前記遊星ローラと前記キャリアの軸方向間に介在して設けられたスラスト軸受と、前記複数の遊星ローラを囲むように配置されたアウタリングと、前記遊星ローラの外周面及び前記アウタリングの内周面にそれぞれ形成された、リード角が互いに異なる周方向係合部と、を有する直動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータにおいて、前記遊星ローラと前記スラスト軸受の径方向位置を同軸状態に保つ位置規制部材をさらに有することを特徴とする電動式直動アクチュエータを構成した。
【0014】
このようにすると、電動式直動アクチュエータのアセンブリの際に、作業者が遊星ローラとスラスト軸受の径方向位置のずれに注意を払う必要がないため、そのアセンブリをスムーズに行うことができ、組立コストの削減や組立作業の自動化を図ることができる。
【0015】
前記構成においては、前記位置規制部材が、前記遊星ローラの内径側に設けられ、前記スラスト軸受の保持器の内径面を支持している構成とすることができる。この場合、前記位置規制部材が、前記遊星ローラの内径側に、この遊星ローラを回転自在に支持するローラ軸との間に介在して設けられ、この遊星ローラの軸方向端面から突出する滑り軸受である構成とすることができる。
【0016】
このようにすると、この位置規制部材によって、遊星ローラとスラスト軸受の径方向の位置ずれを確実に防止することができる。また、遊星ローラの端面には、スラスト軸受の軌道面とするための研削加工が施されるが、位置規制部材を遊星ローラの内径側に設けることにより、その軌道面の機能に支障を与えることはない。しかも、滑り軸受は、遊星ローラとローラ軸との間の回転をスムーズにするためにこれまでも用いられている部材である。このため、この滑り軸受を位置規制部材として機能させることにより、部品点数の増加を防止することができ、製造コストの削減を図ることができる。
【0017】
前記構成においては、前記位置規制部材が、前記遊星ローラの外径側に設けられ、前記スラスト軸受の保持器の外径面を支持している構成とすることができる。
【0018】
このようにすると、位置規制部材を遊星ローラの内径側に設けたときと同様に、この位置規制部材によって、遊星ローラとスラスト軸受の径方向の位置ずれを確実に防止することができる。
【0019】
前記各構成においては、前記位置規制部材と前記遊星ローラを一体に形成した構成とすることができる。
【0020】
このようにすると、遊星ローラへの位置規制部材の圧入工程が不要となるため、電動式直動アクチュエータのアセンブリを一層スムーズに行うことができる。
【0021】
前記位置規制部材が、前記スラスト軸受の保持器の内径面又は外径面から軸方向に突出するように一体に形成された突起であって、この突起によって前記遊星ローラの内径側又は外径側を支持している構成とすることもできる。
【0022】
このようにすると、位置規制部材と遊星ローラを一体に形成したときと同様に、電動式直動アクチュエータのアセンブリを一層スムーズに行うことができる。
【0023】
前記各構成においては、前記滑り軸受を、焼結合金又は樹脂で構成することができる。
【0024】
このようにすると、滑り軸受の耐久性の向上や、回転の円滑性の向上等のように、所望の特性を向上することができる。
【0025】
前記各構成に係る電動式直動アクチュエータは、車輪と一体に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクを間にして軸方向に対向する一対のブレーキパッドと、前記ブレーキパッドを軸方向に直線駆動するこの電動式直動アクチュエータと、を有する電動ブレーキ装置に採用することができる。
【0026】
このようにすると、電動式直動アクチュエータの組立性の向上に伴って、電動ブレーキ装置自体の組立性も向上することができ、電動ブレーキ装置の製造コストの削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明に係る電動式直動アクチュエータは、遊星ローラとこの遊星ローラとキャリアとの間に介在するスラスト軸受との径方向位置を同軸状態に保つ位置規制部材を設けたので、電動式直動アクチュエータのアセンブリの際に、作業者が遊星ローラとスラスト軸受の径方向位置のずれに注意を払う必要がない。このため、そのアセンブリをスムーズに行うことができ、組立コストの削減や組立作業の自動化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図3】
図1の電動ブレーキ装置に採用される電動式直動アクチュエータの断面図
【
図4】
図3に示す電動式直動アクチュエータに採用される直動変換機構の断面図
【
図12】電動式直動アクチュエータの一般的な組立手順(第一の手順)を示す断面図
【
図13】電動式直動アクチュエータの一般的な組立手順(第二の手順)を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明に係る電動ブレーキ装置10及び電動式直動アクチュータ14の一実施形態を
図1から
図7を用いて説明する。
【0030】
図1に示すように、この電動ブレーキ装置10は、車輪(図示せず)と一体に回転するブレーキディスク11と、ブレーキディスク11を間にして軸方向に対向する一対のブレーキパッド12、13と、ブレーキパッド13を軸方向に直線駆動する電動式直動アクチュエータ14を主要な構成要素とし、電動モータ15(
図3参照)から伝達する動力でブレーキパッド12、13をブレーキディスク11に押さえ付けることにより制動力を発生させる。なお、以下においては、軸方向において電動式直動アクチュエータ14から見てブレーキパッド12、13の方向(
図1の左方向)を前、それと逆方向(
図1の右方向)を後という。
【0031】
この電動ブレーキ装置10は、ブレーキディスク11を間にして軸方向に対向する一対の対向部16、17を、ブレーキディスク11の外径側に位置するブリッジ18で連結したキャリパボディ19を有する。ブレーキパッド12、13は、キャリパボディ19の一方の対向部16とブレーキディスク11との間、及び、他方の対向部17とブレーキディスク11との間に、それぞれバックプレート20、21を介して設けられている。各ブレーキパッド12、13は、キャリパボディ19に取り付けられたパッドピン(図示せず)やキャリパブラケット22に設けられたスライド部(図示せず)によって、ブレーキディスク11の軸方向に案内される。
【0032】
図2に示すように、キャリパボディ19は、車輪を支持するナックル(図示せず)に固定されたキャリパブラケット22に取り付けたスライドピン23で、ブレーキディスク11の軸方向に移動可能に支持されている。これにより、ブレーキパッド13が軸方向前方に移動してブレーキディスク11に押さえ付けられたときに、ブレーキディスク11から受ける反力によってキャリパボディ19が軸方向後方に移動し、このキャリパボディ19の移動によって、反対側のブレーキパッド12もブレーキディスク11に押さえ付けられるようになっている。
【0033】
図1、
図3等に示すように、キャリパボディ19の一方の対向部17は、軸方向の前後両端が開口した円筒状のキャリパハウジング17Aと、キャリパハウジング17Aの軸方向後端に設けられ内径側に突出したキャリパフランジ17Bとからなる。
【0034】
キャリパハウジング17A内には、直動変換機構24が組み込まれている。直動変換機構24は、電動モータ15によって軸周りに回転可能かつ軸方向に移動不能とした回転部材の回転運動を、軸周りに回転不能かつ軸方向に移動可能とした直動部材の直線運動に変換する機能を有している。
【0035】
図4等に示すように、直動変換機構24は、電動モータ15の回転が入力される、軸周りに回転可能かつ軸方向に移動不能とされた丸棒状のサンローラ25と、サンローラ25の外周に転がり接触する、周方向に等間隔で配置された複数の遊星ローラ26と、複数の遊星ローラ26を自転可能かつ公転可能に保持するキャリア27と、遊星ローラ26とキャリア27の軸方向間に介在して設けられたスラスト軸受28と、複数の遊星ローラ26をその内側に囲むように配置された筒状のアウタリング29と、遊星ローラ26の外周面及びアウタリング29の内周面に形成された、リード角が互いに異なる周方向係合部30、31と、を有し、遊星ローラ26とアウタリング29にそれぞれ形成された周方向係合部30、31同士の係合によって、回転部材の軸周りの回転を直動部材の軸方向の直線運動に変換する遊星ローラねじ機構である。この直動変換機構24においては、回転部材がサンローラ25に、直動部材がアウタリング29にそれぞれ対応する。
【0036】
図3に示すように、キャリパハウジング17Aの軸方向後端に設けられたフランジ33Bには、電動モータ15が取り付けられている。電動モータ15とサンローラ25の間には、電動モータ15のモータ軸15Aの回転をサンローラ25に減速して伝達する減速機構32が設けられている。減速機構32は、キャリパハウジング17Aの軸方向後方の端部開口を覆うようにカバー33A、フランジ33B内に収容されている。
【0037】
図2、
図3に示すように、減速機構32は、電動モータ15のロータ軸15Aと一体に軸周りに回転する第一ギア32Aと、第一ギア32Aと噛み合う第二ギア32Bと、第二ギア32Bと噛み合いサンローラ25とともに回転する第三ギア32Cとを有する。電動モータ15の回転は、これらの複数のギア32A、32B、32Cを介して順次減速されながらサンローラ25に伝達される。
【0038】
遊星ローラ26の外周面に形成された周方向係合部30は、この遊星ローラ26の円周方向に沿って延びる複数の円周溝(以下、周方向係合部30と同じ符号を付する。)である。また、アウタリング29の内周面に形成された周方向係合部31は、このアウタリング29の円周方向に対して斜めに延びる、遊星ローラ26に形成された円周溝30と係合する螺旋凸条(以下、周方向係合部31と同じ符号を付する。)である。すなわち、円周溝30と螺旋凸条31のリード角は互いに異なっており、両者が噛み合った状態で遊星ローラ26が回転すると、アウタリング29は遊星ローラ26に対し軸方向に相対移動する。この実施形態では遊星ローラ26の外周にリード角が0度の円周溝30を設けたが、円周溝30の代わりに、螺旋凸条31と異なるリード角の螺旋溝としてもよい。
【0039】
図4、
図5等に示すように、遊星ローラ26の軸心には挿通孔が形成されており、この挿通孔にローラ軸34が挿通されている。このローラ軸34によって、遊星ローラ26は、その軸周りに自転する。挿通孔の内面の前端側と後端側の2か所には、ローラ軸34との間に介在する滑り軸受35A、35Bが設けられている。この滑り軸受35A、35Bによって、遊星ローラ26がローラ軸34周りにスムーズに自転する。
【0040】
図6、
図7等に示すように、後端側の滑り軸受35Bは、遊星ローラ26の軸方向後端面から後方に若干突出するように設けられている。この後方に突出した滑り軸受35Bの端部は、後述するように、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置を同軸状態に保つ位置規制部材36として機能する。滑り軸受35A、35Bは、焼結合金で構成されているが、樹脂で構成することもできる。なお、この実施形態においては、滑り軸受35Bの端部を位置規制部材36として機能させたが、この位置規制部材36を滑り軸受35Bとは別部材としてもよい。
【0041】
各ローラ軸34の両端部には、周方向に間隔をおいて配置された全ての遊星ローラ26のローラ軸34に外接するように、予圧ばね37が掛け渡されている。このようにすると、予圧ばね37によって各遊星ローラ26がサンローラ25の外周に押し付けられるため、遊星ローラ26とサンローラ25との間の滑りを防止することができる。
【0042】
キャリア27は、遊星ローラ26を軸方向前方から保持する前側キャリアプレート27A、遊星ローラ26を軸方向後方から保持する後側キャリアプレート27B、及び、両キャリアプレート27A、27Bを連結する複数の連結棒27Cから構成される。両キャリアプレート27A、27Bは、いずれも外形が円板状であり、各キャリアプレート27A、27Bとサンローラ25との間には、滑り軸受38が設けられている。また、前側キャリアプレート27Aの軸方向前方には、キャリア27の軸方向前方への移動を規制する止め輪39が設けられている。
【0043】
両キャリアプレート27A、27Bには、その中央にサンローラ25を挿通する貫通孔が形成されるとともに、径方向に延びる複数の長孔が形成されており、遊星ローラ26のローラ軸34は、この長孔によって、サンローラ25の径方向に移動可能に保持されている。このキャリア27は、遊星ローラ26の公転に伴って、サンローラ25の軸周りに回転する。
【0044】
遊星ローラ26の軸方向後端部と後側キャリアプレート27Bの間には、スラスト軸受28が設けられている。
図6、
図7等に示すように、このスラスト軸受28を構成する保持器28Aの内径面には、遊星ローラ26の軸方向後端面から後方に突出した滑り軸受35Bの突出端部(位置規制部材36)が挿し込まれている。このスラスト軸受28によって、遊星ローラ26がローラ軸34周りにスムーズに自転するとともに、後側キャリアプレート27Bがローラ軸34周りにスムーズに回転する。
【0045】
また、スラスト軸受28の保持器28Aの内径面に位置規制部材36を挿し込むことで、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置が固定される。すると、
図12に示す一般的な組立手順によって電動式直動アクチュエータ14をアセンブリする際に、作業者が遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置のずれに注意を払う必要がない。このため、そのアセンブリをスムーズに行うことができ、組立コストの削減を図ることができる。
【0046】
アウタリング29の軸方向前方の開口端部には、押圧部材40が設けられている。この押圧部材40は、円板状の円板部40Aと、円板部40Aの外周縁から軸方向後方に起立する環状のフランジ部40Bを有し、このフランジ部40Bの先端に形成された小径部の外周が、アウタリング29の内周に嵌め込まれている。
【0047】
後側キャリアプレート27Bの軸方向後方には、スペーサ41が設けられている。このスペーサ41は、後側キャリアプレート27Bと一体にサンローラ25の軸周りに回転する。
【0048】
スペーサ41の軸方向後方には、スラスト軸受42を介して荷重センサ43が設けられている。この荷重センサ43は、制動時においてブレーキパッド13からアウタリング29に対して作用した反力を、遊星ローラ26、スラスト軸受28、後側キャリアプレート27B、スペーサ41、及び、スラスト軸受42を介して受けることによって、その制動力を検出する機能を有する。荷重センサ43とサンローラ25の間には軸受44が設けられており、両者は相対回転可能となっている。また、荷重センサ43の軸方向前端には止め輪45が設けられており、この止め輪45によって、荷重センサ43が軸方向前方に移動しないよう位置決めしている。
【0049】
アウタリング29のキャリパハウジング17Aへの嵌め込み部の端部には、周溝46が形成される。この周溝46にブーツ47の小径側端部を嵌め込むとともに、キャリパハウジング17Aの内周に形成された周溝48にブーツ47の大径側端部を嵌め込む。このようにすると、電動式直動アクチュエータ14の内部機構と外部がブーツ47によって隔離され、アウタリング29の外面とキャリパハウジング17Aの内面の摺動面間に、泥水等の異物が入り込むのを確実に防止することができる。
【0050】
図1に示すように、押圧部材40の軸方向前面には、回り止め溝40Cが形成されている。また、バックプレート21の軸方向後面には、この回り止め溝40Cの溝端部に係合する回り止め突起21Aが形成されている。この回り止め突起21Aが回り止め溝40Cの溝端部に係合することにより、押圧部材40(アウタリング29)がキャリパハウジング17Aに対して回り止めされる。
【0051】
この電動式直動アクチュエータ14の動作について説明する。
【0052】
電動モータ15を駆動して、サンローラ25を軸周りの一方向に回転すると、遊星ローラ26が自転しながら公転する。このとき、螺旋凸条31と円周溝30のリード角の差によってアウタリング29と遊星ローラ26が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ26はキャリア27とともに、止め輪39によって軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ26は軸方向に移動せず、アウタリング29と押圧部材40が軸方向前方に移動する。これにより、押圧部材40によって軸方向前方に押圧されたブレーキパッド13がブレーキディスク11に押し付けられて制動力が発揮される。
【0053】
その一方で、サンローラ25を軸周りの逆方向に回転すると、上記と逆の作用によってアウタリング29と押圧部材40が軸方向後方に移動する。これにより、ブレーキディスク11へのブレーキパッド13の押し付けが無くなって、制動力が解除される。
【0054】
図6に示す構成の第一変形例を
図8に示す。この第一変形例においては、位置規制部材36が、遊星ローラ26の外径側に設けられた、この遊星ローラ26とは別部材のリング状部材であって、このリング状部材の内径面で、スラスト軸受28の保持器28Aの外径側を支持している。この第一変形例に係る構成でも、
図6に示す構成と同様に、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置を固定する機能が発揮される。
【0055】
図6に示す構成の第二変形例を
図9に示す。この第二変形例においては、位置規制部材36が、遊星ローラ26の内径面を軸方向外向きに突出させた、遊星ローラ26と一体の突出部であって、この突出部の外径面で、スラスト軸受28の保持器28Aの内径側を支持している。この第二変形例に係る構成でも、
図6に示す構成と同様に、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置を固定する機能が発揮される。なお、この第二変形例では、遊星ローラ26の内径面に滑り軸受の機能をもたせた構成としたが、
図6等に示した構成と同様に、遊星ローラ26の内径面に滑り軸受を設けた構成とすることもできる。
【0056】
図6に示す構成の第三変形例を
図10に示す。この第三変形例においては、位置規制部材36が、遊星ローラ26の外径面を軸方向外向きに突出させた、遊星ローラ26と一体の突出部であって、この突出部の内径面で、スラスト軸受28の保持器28Aの外径側を支持している。この第三変形例に係る構成でも、
図6に示す構成と同様に、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置を固定する機能が発揮される。
【0057】
図6に示す構成の第四変形例を
図11に示す。この第四変形例においては、位置規制部材36が、スラスト軸受28の保持器28Aの内径面を軸方向外向きに突出させた、保持器28Aと一体の突出部であって、この突出部の外径面で、遊星ローラ26の軸心に形成された挿通孔の内径側を支持している。この第四変形例に係る構成でも、
図6に示す構成と同様に、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置を固定する機能が発揮される。なお、図示はしないが、保持器28Aの外径面を軸方向外向きに突出させた突出部によって位置規制部材36を構成し、この突出部の内径面で、遊星ローラ26の外径側を支持する構成とすることもできる。
【0058】
上記の各実施形態に係る電動ブレーキ装置10及び電動式直動アクチュエータ14は、電動式直動アクチュエータ14のアセンブリをスムーズに行う、というこの発明の課題を解決するための例示に過ぎない。特に、位置規制部材36の形成位置や形状は、遊星ローラ26とスラスト軸受28の径方向位置を固定し得る限りにおいて、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
11 ブレーキディスク
12、13 ブレーキパッド
14 電動式直動アクチュエータ
24 直動変換機構
25 サンローラ
26 遊星ローラ
27 キャリア
28 スラスト軸受
28A 保持器
29 アウタリング
30 周方向係合部(円周溝)
31 周方向係合部(螺旋凸条)
34 ローラ軸
35B 滑り軸受
36 位置規制部材