(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】試験機の制御装置
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20221005BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01M7/02 B
G01N3/32 E
(21)【出願番号】P 2018220074
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009926(JP,A)
【文献】特開2006-315423(JP,A)
【文献】特開平07-311124(JP,A)
【文献】特開平05-045247(JP,A)
【文献】特開昭55-058432(JP,A)
【文献】国際公開第2015/063836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
G01N 3/00- 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験機に目標波形を繰り返し出力させる試験機の制御装置であって、
周期が異なる複数のウェーブレットの入力に対する前記試験機の遅れ時間とゲインの特性を記憶する記憶部と、
目標波形と前記試験機の応答波形の差分と前記特性とに基づいて前記差分を打ち消す補正波形を求める補正波形生成部とを備え、
前記目標波形を前記補正波形で補正して得られた修正波形に基づいて前記試験機を制御する
ことを特徴とする試験機の制御装置。
【請求項2】
前記補正波形生成部は、前記差分の波形からピーク部を抽出し、抽出した各ピーク部における前記差分を打ち消す補正波形を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の試験機の制御装置。
【請求項3】
前記補正波形生成部は、前記差分の波形からノイズを取り除いてから前記ピーク部を抽出する
ことを特徴とする請求項2に記載の試験機の制御装置。
【請求項4】
前記補正波形生成部は、前記ピーク部の高さおよび幅と、前記ピーク部が現れる時間に基づいて前記補正波形を生成する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の試験機の制御装置。
【請求項5】
矩形のパルス波形を前記ウェーブレットとする
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の試験機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配管やホース等といった試験体の疲労耐久性をテストする圧力試験機や振動試験機は、試験体に目標となる波形の圧力や振動を負荷して振動試験を行う。そのため、このような試験機の制御装置は、目標とする波形の信号を繰り返し試験機へ入力して、試験機が出力する応答波形を目標波形通りに制御する。
【0003】
圧力試験機や振動試験機には、流体圧を用いた試験機が用いられ、試験機を制御する制御装置は、試験体に対して目標波形に沿った圧力や振動を与えるために、目標波形を入力として試験機のサーボ弁を制御する。
【0004】
具体的には、制御装置は、目標波形に対して試験機が出力する応答波形が目標波形に追従するように、一般的には、圧力試験機にあっては圧力をフィードバックする、振動試験機にあっては変位、速度或いは加速度をフィードバックするフィードバック制御を行う(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の制御装置では、目標波形をフィードバックループに入力してフィードバック制御を実行しているが、制御装置からの指令の入力に対して試験機には必ず応答遅れがあるとともに、試験機内の作動媒体が弾性を有しているので、目標波形に対して応答波形を精度よく一致させられない。
【0007】
というのは、フィードバック制御を長時間継続していけば、応答波形が目標波形に近づくのであるが、目標波形に急峻なピークが含まれている場合、目標波形をフィードバックループに入力してフィードバック制御を実行しても応答波形のピーク値を目標波形におけるピーク値に一致させられない。
【0008】
よって、従来の制御装置のように単にフィードバック制御を行うのみでは、目標波形と応答波形の一致を見られず、目標波形と応答波形とを精度よく一致させる必要がある試験には不十分である。
【0009】
そこで、本発明は、目標波形に試験機の応答波形を精度よく一致させ得る試験機の制御装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の試験機の制御装置は、試験機に目標波形を繰り返し出力させる制御装置であって、周期が異なる複数のウェーブレットの入力に対する試験機の遅れ時間とゲインの特性を記憶する記憶部と、目標波形と試験機の応答波形の差分と前記特性とに基づいて差分を打ち消す補正波形を求める補正波形生成部とを備え、目標波形を補正波形で補正して得られた修正波形に基づいて試験機を制御する。
【0011】
このように構成された試験機の制御装置によれば、ウェーブレットに対する試験機の特性を予め把握して、目標波形と応答波形の差分を打ち消す補正波形を生成する。
【0012】
また、試験機の制御装置における補正波形生成部は、差分の波形からピーク部を抽出し、抽出した各ピーク部における差分を打ち消す補正波形を求めてもよい。このように構成された試験機の制御装置によれば、目標波形と応答波形との間に大きな差分が生じるピーク部について差分を打ち消す補正波形を生成するので、効率よく目標波形を補正でき、少ない制御回数で試験機の応答波形を目標波形に追従させ得る。
【0013】
さらに、試験機の制御装置における補正波形生成部は、差分の波形からノイズを取り除いてからピーク部を抽出してもよい。このように構成された試験機の制御装置は、大きな差分が生じるピーク部を的確に選んで補正波形を生成でき、効率よく目標波形を補正して少ない制御回数で試験機の応答波形を目標波形に追従させ得る。
【0014】
そして、試験機の制御装置における補正波形生成部は、ピーク部の高さおよび幅と、ピーク部が現れる時間に基づいて補正波形を生成してもよい。このように構成された試験機の制御装置によれば、ピーク部の差分を瞬間の値とみるのではなく、ピーク部の差分を或る時間範囲の或る強度の差分と認識するので、これを打ち消すウェーブレットの形状を指定して補正波形を生成できる。したがって、本実施の形態の試験機の制御装置によれば、ピーク部における差分を効率よく打ち消せるので、より一層、少ない制御回数で試験機の応答波形を目標波形に追従させ得る。
【0015】
また、試験機の制御装置は、矩形のパルス波形をウェーブレットとしてもよい。このように構成された試験機の制御装置によれば、ウェーブレットの形状が補正波形の生成にあたり取扱いが非常に簡単となるので、補正波形の生成の演算負荷が軽くなり、ウェーブレットの指定も幅、高さで指定できる遅れ時間とゲインと関連付けて記憶部に記憶させても記憶容量を軽減できる。
【0016】
さらに、試験機の制御装置は、繰り返し同一波形の出力が要求されるとともに、圧力媒体や試験体の弾性の影響で応答波形が目標波形に一致しづらい圧力試験機や振動試験機の制御に最適となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の制御装置によれば、目標波形に試験機の応答波形を精度よく一致させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施の形態における試験機の制御装置のシステム構成図である。
【
図2】一実施の形態における試験機の制御装置の制御ブロック図である。
【
図4】一実施の形態における試験機の制御装置の補正波形生成部の制御ブロック図である。
【
図5】初回制御時における目標波形と応答波形を示した図である。
【
図6】目標波形と応答波形の差分の波形を示した図である。
【
図7】ウェーブレットとウェーブレットの入力に対する圧力試験機の応答波形を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態における試験機の制御装置1は、試験機を圧力試験機Aとして、目標波形を繰り返し出力させるよう圧力試験機Aを制御する。具体的には、制御装置1は、記憶部4と、補正波形を生成する補正波形生成部5と、補正波形を用いて目標波形を補正して修正波形を求める波形補正部6とを備える他、圧力試験機Aを制御するため、圧力試験機Aが出力する圧力Pを検知する圧力検知器2と、修正波形によって圧力試験機Aを制御する制御部3とを備えている。
【0020】
他方、圧力試験機Aは、出力される流体圧力を制御するサーボ弁Vを備えており、制御装置1によるサーボ弁Vの制御によって、圧力試験機Aが出力する圧力が調整される。なお、圧力試験機Aは、図示はしないが、たとえば、ポンプと、ポンプから圧力流体の供給を受けるブースターシリンダを備えており、ブースターシリンダから出力される流体圧力をサーボ弁Vで調節して、ホース等の試験体Tの内部へ圧力を負荷するものである。サーボ弁Vは、ソレノイドで駆動する比例電磁弁とされており、制御装置1から供給される電流量に応じて試験体Tへ与える圧力を調整する。
【0021】
圧力検知器2は、本例では、圧力試験機Aが出力する圧力を試験体Tへ導く管路Hに設置されており、圧力試験機Aが出力する圧力Pを検知して、制御部3、補正波形生成部5へ入力するようになっている。なお、圧力検知器2は、圧力試験機Aが出力する圧力を検出可能な位置に設ければよい。
【0022】
目標波形は、圧力試験機Aが試験体Tへ負荷すべき圧力を時系列で指示する圧力指令であり、一回の目標波形の入力に対して制御装置1が圧力試験機Aを制御して応答波形の出力が終了すると、再度、制御装置1に入力される。よって、制御装置1は、繰り返し入力される目標波形に対して制御対象である圧力試験機Aに繰り返し応答波形の圧力を出力させる制御を行う。
【0023】
制御部3は、
図2に示すように、本実施の形態では、圧力試験機Aが出力すべき圧力(指示圧力)P
*を指示する入力波形と圧力検知器2が検知する圧力Pに基づいて、サーボ弁Vへ与えるべき電流量を指示する制御指令I
*を生成し、サーボ弁Vへ電流を供給する。
【0024】
制御部3に入力される入力波形は、本例では、目標波形を波形補正部6が補正した修正波形とされる。ただし、制御部3が最初にサーボ弁Vを制御する初回では、入力波形は、
図3に示すように、試験体Tへ負荷すべき理想的な圧力波形を示す目標波形とされる。目標波形は、予め試験体Tへ負荷したい圧力を時系列に指示する一回分の圧力指令として設定される。目標波形は、一制御周期毎に一つの指示圧力P
*を指示しており、本実施の形態では、5000個の目標圧力のデータで構成されている。また、修正波形もまた、目標波形と同様の5000個の目標圧力のデータで構成される。なお、本実施の形態の目標波形は、一例であり、図示した波形以外の波形を目標波形としてもよいのは当然である。
【0025】
具体的には、制御部3は、
図2に示すように、後述する波形補正部6から出力される入力波形が指示する圧力P
*と圧力試験機A(圧力検知器2)から出力される圧力Pとの偏差Eを求める加算部31と、加算部31が求めた偏差EをPID補償して制御指令I
*を求める補償部32と、制御指令I
*通りにサーボ弁Vへ電流を供給するドライバ33とを備えて構成されている。
【0026】
加算部31は、入力波形が指示している圧力P*と圧力検知器2が検知した圧力Pとの偏差Eを求めて補償部32へ入力する。補償部32は、本例では偏差Eを比例積分微分補償してサーボ弁Vへ与える電流を指示する制御指令I*を求める。つまり、制御部3は、本例では、圧力フィードバックによってサーボ弁Vを制御する。なお、補償部32は、本例では、PID補償器とされているが、比例積分補償するPI補償器とされてもよい。
【0027】
そして、求められた制御指令I*は、ドライバ33に入力されて、ドライバ33は、制御指令I*通りにサーボ弁Vに電流を供給する。ドライバ33は、たとえば、オペアンプ等によるアナログ回路やスイッチング素子を備えて、スイッチング素子のオンオフによって電源からサーボ弁Vのソレノイドに供給する電流量を調節可能な回路とされる。
【0028】
補正波形生成部5は、
図4に示すように、目標波形と圧力検知器2で検知する圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形との差分を求める差分演算部51と、差分の波形からノイズを取り除くフィルタ52と、フィルタ52で処理した差分の波形からピーク部を抽出するピーク抽出部53と、ピーク部の差分と記憶部4に格納されたウェーブレットに対する圧力試験機Aの応答波形とに基づいて補正波形を生成する波形演算部54と、圧力試験機Aへの入力から応答までの特性を同定する特性同定部55とを備えている。
【0029】
差分演算部51は、目標波形と圧力検知器2で検知する圧力試験機Aが出力した応答波形との差分を求める。差分演算部51は、一回の制御によって、圧力検知器2が出力した圧力Pの時系列データである応答波形と目標波形との差を演算して差分を求める。目標波形の入力に対して圧力試験機Aの応答波形の出力までに時間がかかるため、応答波形をこの時間分だけ時間軸で繰り上げるオフセットをして目標波形と応答波形との差分を求める。フィルタ52は、差分演算部51が求めた差分を順次処理して差分から高周波のノイズを取り除く。
【0030】
図5に、初回制御時において入力波形を目標波形として、図中の実線で示す目標波形と、この目標波形の制御部3への入力に対して制御対象である圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形(図中の破線)を示している。
図5に示した目標波形に対して、圧力試験機Aが
図5中破線で示した応答波形を出力したとすると、差分演算部51で差分を求めてフィルタ52で処理すると
図6に示すような波形の差分が得られる。なお、
図5中では、圧力試験機Aの遅れ時間をオフセットして目標波形に対応する圧力試験機Aが出力する応答波形を表示している。
【0031】
ピーク抽出部53は、フィルタ52で得られた波形の差分からピーク部を抽出する。ピーク抽出部53で利用するピーク部抽出のアルゴリズムは、従来周知のアルゴリズムを利用すればよい。本実施の形態では、ピーク抽出部53は、
図6に示すように、差分の波形から四箇所をピーク部n1,n2,n3,n4を抽出する。
【0032】
そして、波形演算部54は、ピーク部n1,n2,n3,n4における差分を打ち消すための補正波形を生成する。具体的には、波形演算部54は、以下に説明する手順で補正波形を生成する。
【0033】
ここで、差分を打ち消す補正波形を生成する原理について説明する。まず、特性同定部55は、圧力試験機Aの特性を把握するために、予め決められたウェーブレットWの制御部3への入力に対して圧力試験機Aが出力する応答波形を得る。本実施の形態では、ウェーブレットWは、
図7に示すように、縦軸に指示圧力、横軸に時間を採ったグラフ上に、幅a、高さb、幅方向の中央時間をcとした矩形のパルス波形としている。このウェーブレットWが指示する圧力を指令として制御部3に入力して圧力試験機Aを制御した際に、圧力試験機Aが
図7中の破線で示すように応答波形を出力したとする。
【0034】
ウェーブレットWを画定するパラメータである幅aは、ウェーブレットWの指示圧力が指令として入力される時間を決定する値であり、周期に相当する値である。よって、幅aを長くすれば、圧力試験機Aに周期が長い指令が入力されることになり、幅aを短くすれば、圧力試験機Aに周期が短い指令が入力されることになる。このように考えれば、幅aは、指令の周波数を決定する値であり、幅aの異なるウェーブレットWを圧力試験機Aに複数入力すれば、圧力試験機Aの周波数と特性を把握できる。以上から、幅aの異なる複数のウェーブレットWを用いて圧力試験機Aへ指令して応答波形を得れば、圧力試験機Aのゲイン特性と位相特性を把握できる。ウェーブレットWを画定するパラメータである高さbは、指示圧力の大きさを示しており、信号としての強度を表している。ウェーブレットWを画定する時間cは、ウェーブレットWを制御部3へ入力する時間の決定する値である。具体的には、ウェーブレットWが指示する圧力であるbが時間(c-a/2)から時間(c+a/2)まで制御部3へ入力されて圧力試験機Aが制御される。
【0035】
特性同定部55は、ウェーブレットWの入力に対する圧力試験機Aの特性を把握するため、ウェーブレットWの制御部3への入力に対する圧力試験機Aの出力までの遅れ時間τを同定するとともに、ゲイン特性を同定する。この遅れ時間τとゲイン特性の同定は、幅aの異なるウェーブレットW毎に行われる。
【0036】
特性同定部55は、ウェーブレットWと圧力試験機Aが出力する応答波形の一致度を求めて遅れ時間τを同定する。具体的には、ウェーブレットWと圧力試験機Aの出力である圧力Pの相関を計算して遅れ時間τを同定する。ウェーブレットWの入力に対して、圧力試験機Aの出力としての圧力Pの応答波形は、系の無駄時間要素と、試験体Tの特性と系における周波数応答に依存した位相遅れにより、時間的に遅れる。ここで、ウェーブレットWに対して、
図7中で圧力Pの波形を時間軸上で時間τだけ左方へずらすと、ウェーブレットWと圧力Pの波形の一致度が最大となる時間τが存在する。よって、特性同定部55は、矩形波でなる目標圧力波形と圧力Pの波形の一致度が最大となる時間τを遅れ時間として同定する。
【0037】
具体的には、特性同定部55は、時間をtとし、遅れ時間をτとすると、ウェーブレットWを示す関数f(t)と、圧力試験機Aの出力である圧力Pの応答波形を示す関数g(t+τ)の相互相関関数Rfg(τ)=f(t)・g(t+τ)を用いて一致度を求める。なお、ウェーブレットWは、前述のように、幅a、高さb、幅中央の時間をcとする矩形波であるので、t<c-a/2でf(t)=0、c-a/2≦t≦c+a/2でf(t)=b、c+a/2<tでf(t)=0となる。
【0038】
より詳しくは、特性同定部55は、τをパラメータとして、以下の式(1)を演算し、式(1)の関数がピーク値を採るτを遅れ時間として同定する。相互相関関数Rfg(τ)は、両関数の一致度を求める関数であり、この関数の値が最大値(ピーク値)をとると両関数の一致度が最大となっている点を示す。なお、式(1)中で、x,yは、任意の時間を示しており、演算区間をx秒からy秒までとしている。xの値は、矩形波の目標圧力波形の入力から圧力試験機Aの応答までの無駄時間に設定されており、yの値は、圧力試験機Aの出力である圧力Pが0に充分に収束する程度の時間に設定されている。このように、演算区間を設定すると、一致度が最大となるτが存在しない時間領域での演算の無駄を省けるので、波形演算部54で遅れ時間τを求める演算負担が軽減されるとともに演算時間も短縮される。
【0039】
【数1】
そして、f(t)の最大値であるbと、圧力試験機Aが出力する応答波形g(t)の最大値であるmax(g(t))を考えると、これらの比がゲインとなることが分かる。よって、特性同定部55は、max(g(t))/bを演算してこれをゲインKとして把握する。
【0040】
このように特性同定部55は、あるウェーブレットWの入力に対する圧力試験機Aの遅れ時間τとゲインKを同定する。特性同定部55は、幅aの異なるウェーブレットW毎に遅れ時間τとゲインKを同定して、記憶部4に遅れ時間τとゲインKとを幅aに関連付けて記憶させる。なお、本実施の形態では、幅aを0.001秒毎に0.001秒から1秒までの1000個の幅aの異なるウェーブレットWの入力に対して遅れ時間τとゲインKの同定を行って記憶部4に格納している。遅れ時間τとゲインKの同定数を1000とし、幅aの値の刻み値を0.001とし、幅aの範囲を0.001から1としているが、同定数、幅aの刻み値および幅aの範囲については制御装置1が使用される試験機に適するように設計変更できる。
【0041】
特性同定部55の処理によって圧力試験機Aの幅aに対する遅れ時間τとゲインKの特性を把握しているので、波形演算部54は、目標波形と圧力試験機Aが出力する応答波形とに差が有る場合、どのような幅でどのような高さの指令をどのようなタイミングで入力すればこの差を打ち消せるかを逆算できる。
【0042】
具体的には、波形演算部54は、ピーク抽出部53が抽出した差分の波形のピーク部n1,n2,n3,n4について、それぞれの差分を打ち消す指令を求めて補正波形を生成する。具体的には、波形演算部54は、ピーク部n1,n2,n3,n4の波形からピーク部n1,n2,n3,n4の半値幅a1、高さb1およびピーク部n1,n2,n3,n4が現れる時間c1を求めて、各ピーク部n1,n2,n3,n4における差分を矩形波で近似する。
【0043】
そして、波形演算部54は、各ピーク部n1,n2,n3,n4の差分を近似した矩形波を打ち消す指令を求める。つまり、波形演算部54は、ピーク部n1の差分を打ち消すために、半値幅a1、高さbの形状の波形を時間c1より遅れ時間τを見込んで時間(τ+a1/2)だけ早いタイミングで入力する信号を求める。具体的には、波形演算部54は、記憶部4に格納されている幅aが半値幅a1であるウェーブレットWの遅れ時間τとゲインKの値を参照し、遅れ時間τとゲインKの値から、幅をa1とし、高さを-(b1×K)とした矩形波をc1-τ-a1/2を演算して求めた時間に入力する指令を求める。このようにして求められた指令は、幅a1、高さ-(b1×K)の矩形波をピーク部n1が現れる時間c1から時間(τ+a1/2)だけ前倒しにして入力することを指示するものとなる。この指令の関数をF(t)とすると、F(t)は以下のようになる。
【0044】
【数2】
このようにピーク部n1について差分を打ち消す指令を求める他、波形演算部54は、他のピーク部n2,n3,n4についても同様にして、ピーク部n2,n3,n4について差分を打ち消す指令を求めて合成して時系列化された指示圧力のデータセットでなる補正波形を生成する。なお、半値幅a1に等しい幅のウェーブレットWについての圧力試験機Aの応答波形についての遅れ時間τおよびゲインKが同定されていない場合、線形補間によって差分を打ち消す指令を生成すればよい。
【0045】
そして、補正波形生成部5は、制御部3が圧力試験機Aを制御して圧力試験機Aの応答波形が得られる度に目標波形と応答波形との差分から補正波形を求めて補正波形を更新する。
【0046】
波形補正部6は、目標波形に波形演算部54で求めた補正波形を加算して修正波形を求める。波形補正部6は、具体的には、目標波形も補正波形も時系列に圧力を指示するデータセットであるから、目標波形と補正波形の同じ時間における指示圧力同士を加算して修正波形を求める。波形補正部6は、求めた修正波形を制御部3に入力し、制御部3は、修正波形を入力波形として圧力をフィードバックによって圧力試験機Aを制御する。
【0047】
制御装置1の圧力検知器2およびドライバ33以外の各部は、具体的にはたとえば、図示はしないが、圧力検知器2が出力する信号を増幅するためのアンプと、アナログ信号をデジタル信号に変換する変換器と、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置、RAM(Random Access Memory)及びこれらを連絡するバスラインからなるコンピュータシステムとして構成されればよい。なお、ウェーブレットWを入力して圧力試験機Aの応答出力を検知して遅れ時間τおよびゲインKの同定する処理、補正波形の生成および目標波形の補正波形による補正によって修正波形を得る処理、さらには、サーボ弁Vを制御するための制御処理手順は、プログラムとしてROMや他の記憶装置に予め格納しておけばよい。また、試験機は圧力試験機Aに限られず、試験体に振動を与える振動試験機等の各種試験機に制御装置1を利用できる。
【0048】
このように制御装置1は構成されており、目標波形が繰り返し入力される。目標波形の入力に対して補正波形生成部5が目標波形と圧力試験機Aの応答波形との差分から補正波形を生成して、波形補正部6が目標波形を補正波形で補正して修正波形を生成する。こうして得られた修正波形が入力波形として入力される制御部3は、入力波形が指示する指示圧力P*と圧力検知器2が検知する圧力Pとに基づいて圧力フィードバック制御を行い圧力試験機Aが出力する圧力を制御する。一回の目標波形の入力に対して制御装置1が圧力試験機Aを制御するのを一回目(初回)の制御とし、制御装置1が目標波形の入力を受けて圧力試験機Aを初めて制御する場合、補正波形生成部5は、指示する圧力を0とする補正波形を波形補正部6に入力し、制御部3には目標波形がそのまま入力される。
【0049】
一回目の制御時において入力波形である目標波形と制御部3による圧力フィードバック制御によって圧力試験機Aが出力する圧力の応答波形には差が生じる。そして、制御部3が初回の目標波形の入力によって圧力試験機Aを制御して応答波形が得られると、補正波形生成部5は、前述の処理を行って補正波形を生成する。
【0050】
つづいて、二回目に目標波形が制御装置1に入力されると波形補正部6によって、補正波形生成部5が生成した補正波形を目標波形に加算して修正波形が求められ、修正波形が制御部3に入力される。
【0051】
よって、二回目の制御では、補正波形生成部5が求めた補正波形によって目標波形が修正されて修正波形が生成されて、この修正波形が制御部3に入力される。初回の制御では、目標波形は入力波形とされているが、二回目の制御で制御部3に入力される入力波形は、目標波形に補正波形が加算されて得られた修正波形である。二回目の制御で制御部3に入力波形として入力されるのは修正波形であり、修正波形は、目標波形と応答波形との差分を打ち消す補正がなされた圧力指令となっているので、目標波形と二回目の制御時に得られた応答波形との差分は小さくなる。このように、二回目の制御では、このように目標波形が補正されるため、目標波形が制御部3に入力される初回制御時の応答波形より二回目の応答波形の方が目標波形に近づく波形となる。
【0052】
そして、この二回目の制御によって得られた応答波形は、補正波形生成部5に入力される。補正波形生成部は、目標波形と二回目の制御時に得られた応答波形との差分から新たに差分を打ち消す指令を求める。この二回目の制御時において求められた差分を打ち消す指令は、一回目の制御時に得られた補正波形に加算されて、補正波形を更新して新たな補正波形を生成する。以降、制御装置1は、応答波形が得られる度に補正波形を更新し、制御部3に入力される修正波形も制御の回数が進むごとに改められる。
【0053】
そして、圧力試験機Aの応答波形と目標波形との差分が充分に小さくなって停止閾値以下になると、補正波形生成部5は、補正波形の更新を終了し、制御部3には以後同じ波形の修正波形が入力される。このように制御装置1が圧力試験機Aを制御して、制御が進むと圧力試験機Aの応答波形が目標波形に精度良く追従するようになる。
【0054】
以上のように、本実施の形態の試験機の制御装置1は、圧力試験機(試験機)Aに目標波形を繰り返し出力させる制御装置1であって、周期が異なる複数のウェーブレットWの入力に対する圧力試験機(試験機)Aの遅れ時間τとゲインKの特性を記憶する記憶部4と、目標波形と圧力試験機(試験機)Aの応答波形の差分と前記特性とに基づいて差分を打ち消す補正波形を求める補正波形生成部5とを備え、目標波形を補正波形で補正して得られた修正波形に基づいて圧力試験機(試験機)Aを制御する。このように構成された試験機の制御装置1によれば、ウェーブレットWに対する圧力試験機(試験機)Aの特性を予め把握して、目標波形と応答波形の差分を打ち消す補正波形を生成するので、目標波形に急峻なピークが含まれていても応答波形を目標波形に精度よく一致させ得る。
【0055】
そして、本実施の形態の試験機の制御装置1は、ウェーブレットWの制御部3への入力に対する圧力試験機(試験機)Aの遅れ時間τとゲインKの特性を用いて差分を打ち消す補正波形を生成しているので、補正波形の生成にあたり使用されるパラメータは全て時間軸上で取り扱える。よって、本実施の形態の試験機の制御装置1では、取り扱いにくい周波数軸上で定義されるパラメータを使用する必要が無いので、簡単な演算で補正波形を生成できる。
【0056】
また、本実施の形態の試験機の制御装置1における補正波形生成部5は、差分の波形からピーク部n1,n2,n3,n4を抽出し、抽出した各ピーク部n1,n2,n3,n4における差分を打ち消す補正波形を求める。このように構成された試験機の制御装置1では、目標波形と応答波形との間に大きな差分が生じるピーク部n1,n2,n3,n4について差分を打ち消す補正波形を生成するので、効率よく目標波形を補正でき、少ない制御回数で圧力試験機(試験機)Aの応答波形を目標波形に追従させ得る。
【0057】
さらに、本実施の形態の試験機の制御装置1の補正波形生成部5は、差分の波形からノイズを取り除いてからピーク部n1,n2,n3,n4を抽出するので、大きな差分が生じるピーク部n1,n2,n3,n4を的確に選んで補正波形を生成でき、効率よく目標波形を補正して少ない制御回数で圧力試験機(試験機)Aの応答波形を目標波形に追従させ得る。
【0058】
そして、本実施の形態の試験機の制御装置1の補正波形生成部5は、ピーク部n1,n2,n3,n4の高さb1および半値幅(幅)a1と、ピーク部n1,n2,n3,n4が現れる時間c1に基づいて補正波形を生成する。このように構成された試験機の制御装置1によれば、ピーク部n1,n2,n3,n4の差分を瞬間の値とみるのではなく、ピーク部n1,n2,n3,n4の差分を或る時間範囲の或る強度の差分と認識するので、これを打ち消すウェーブレットWの形状を指定して補正波形を生成できる。したがって、本実施の形態の試験機の制御装置1によれば、ピーク部n1,n2,n3,n4における差分を効率よく打ち消せるので、より一層、少ない制御回数で圧力試験機(試験機)Aの応答波形を目標波形に追従させ得る。なお、補正波形生成部5は、ピーク部n1,n2,n3,n4の半値幅a1を用いて補正波形を生成するようにしているので、ピーク部n1,n2,n3,n4における差分の積分値を打ち消すような補正波形を生成して差分を効果的に打ち消せるが、ピーク部n1,n2,n3,n4の半値幅a1以外にも全幅、三分の一の幅等から補正波形を生成してもよい。
【0059】
また、本実施の形態の試験機の制御装置1は、矩形のパルス波形をウェーブレットWとしている。このように構成された試験機の制御装置1によれば、ウェーブレットWの形状が補正波形の生成にあたり取扱いが非常に簡単となるので、補正波形の生成の演算負荷が軽くなり、ウェーブレットWの指定も幅a、高さbで指定できる遅れ時間τとゲインKと関連付けても記憶部4に記憶させても記憶容量を軽減できる。なお、ウェーブレットWの形状は、矩形のパルス波形以外の波形であってもよい。
【0060】
以上より、試験機の制御装置1は、繰り返し同一波形の出力が要求されるとともに、圧力媒体や試験体Tの弾性の影響で応答波形が目標波形に一致しづらい圧力試験機Aや振動試験機の制御に最適となる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1・・・試験機の制御装置、4・・・記憶部、5・・・補正波形生成部、W・・・ウェーブレット、A・・・圧力試験機(試験機)