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  • 特許-油入変圧器、及び水分除去装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】油入変圧器、及び水分除去装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/14 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
H01F27/14 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019015125
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020123682
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】師岡 寿至
(72)【発明者】
【氏名】河村 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山岸 明
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-119403(JP,A)
【文献】特開昭50-161625(JP,A)
【文献】実公昭27-2928(JP,Y1)
【文献】特開2012-45507(JP,A)
【文献】特表2011-511215(JP,A)
【文献】特開昭50-4528(JP,A)
【文献】特開2008-182161(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108987059(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00-27/02、27/14
B01D 15/00-15/42
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と巻線とを収容したタンクと、
前記タンクに収容された絶縁油と、
前記タンクに接続され、前記タンクから前記絶縁油が流入し、前記絶縁油を冷却する冷却器と、
前記絶縁油に含まれる水を吸着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤を加熱する加熱装置とを備え、前記冷却器と前記タンクとに接続され、前記冷却器から前記絶縁油が流入し、前記タンクに前記絶縁油が流出する水吸着部と、
前記絶縁油に含まれる水を吸着する第2の吸着剤を備え、前記水吸着部に接続され、前記水吸着部から流入した前記絶縁油に含まれる水を除去する吸着剤再生装置と、
を備えることを特徴とする油入変圧器。
【請求項2】
前記加熱装置は、前記絶縁油が、前記冷却器から前記水吸着部に流入せず、前記水吸着部から前記タンクに流出しないときに、前記第1の吸着剤を加熱する、
請求項1に記載の油入変圧器。
【請求項3】
前記吸着剤再生装置は、前記加熱装置が前記第1の吸着剤を加熱したら、前記水吸着部から流入した前記絶縁油に含まれる水を前記第2の吸着剤によって除去する、
請求項2に記載の油入変圧器。
【請求項4】
前記第1の吸着剤は、絶縁紙である、
請求項1に記載の油入変圧器。
【請求項5】
前記絶縁紙は、耐熱紙で構成されている、
請求項4に記載の油入変圧器。
【請求項6】
鉄心と巻線と絶縁油を収容したタンクと、前記絶縁油を冷却する冷却器とを備える油入変圧器に設置可能であり、
前記絶縁油に含まれる水を吸着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤を加熱する加熱装置とを備え、前記冷却器と前記タンクとに接続され、前記冷却器から前記絶縁油が流入し、前記タンクに前記絶縁油が流出する水吸着部と、
前記絶縁油に含まれる水を吸着する第2の吸着剤を備え、前記水吸着部に接続され、前記水吸着部から流入した前記絶縁油に含まれる水を除去する吸着剤再生装置と、
を備えることを特徴とする水分除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心と巻線とが絶縁油に浸漬されている油入変圧器と、絶縁油から水分を除去する水分除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油入変圧器は、鉄心と、鉄心に巻かれた電線からなる巻線とが、タンク内の絶縁冷却媒体中に浸漬されている。巻線を構成する電線は、絶縁体で被覆されている。絶縁冷却媒体には、絶縁特性の優れた鉱油が広く用いられる。近年は、絶縁冷却媒体として、鉱油に代わり、生分解性のエステル油が用いられている。
【0003】
巻線には、絶縁体として、良質の木材パルプからなる紙が大量に用いられている。例えば、巻線リード線の絶縁被覆として、クラフト紙やクレープ紙が用いられている。この他に、巻線内の絶縁冷却媒体の流路を確保するための各種スペーサ、主絶縁を構成する絶縁体、巻線を支持するために巻線の上下に配置された支持絶縁体、リード線バリヤを構成する絶縁筒、及びスペーサとリード線を支持するための腕木の材料として、紙を強圧縮したプレスボードが用いられている。巻線の絶縁は、これらの絶縁紙と絶縁冷却媒体として用いられる鉱油との複合絶縁になっている。
【0004】
このような油入変圧器に使用されている材料のなかで、鉱油などの絶縁冷却媒体や絶縁紙などの絶縁体は、経年劣化により特性が低下することが知られている。これらの経年劣化による特性低下が、変圧器の経年劣化の要因であり、変圧器の寿命を左右すると考えられている。
【0005】
電力流通の重要なコンポーネントである油入変圧器には、高い信頼性が要求される。絶縁冷却媒体である鉱油は、酸素や水などが関与して経年劣化を起こすが、その絶縁破壊電圧の低下が小さいことが知られている。鉱油は、変圧器の製造時に適切な脱水処理が行われ、タンク外部からの空気と水分の侵入がなければ、通常は長期間使用することが可能である。また、経年劣化により特性が低下しても、新油と交換する、または脱気ろ過処理などを行うことで、変圧器の運転に支障のない特性を維持することが可能である。
【0006】
一方、巻線に設けられた絶縁紙は、経年劣化によって、絶縁破壊電圧はほとんど低下しないが、引張強度が低下する。絶縁紙の引張強度の低下は、変圧器の運転の継続に悪影響を与える場合もある。例えば、巻線に雷撃や外部短絡などによりサージ電流が流れると、この際に発生する電磁機械力によって巻線の被覆に引張り力が働く。この巻線の被覆に発生する引張り力よりも絶縁紙の引張強度が低いと、絶縁紙は破壊されて寿命となる。一般には、絶縁紙の巻き替えや巻線の交換が不可能であるため、この絶縁紙の寿命により、変圧器の寿命が決まると考えられている。
【0007】
絶縁紙は、セルロースを主成分として含む。セルロースは、経年劣化により分解反応を起こす。この分解反応は、(1)酸化反応、(2)加水分解反応、及び(3)熱分解反応の3種類に大別される。酸素が存在するとセルロース中の水酸基が酸化され、カルボニル基やカルボキシル基が生成すると考えられる。一方、水が存在するとセルロース中のエーテル結合が加水分解されると考えられる。加水分解反応でセルロースの主鎖が切断されると、セルロース分子の重合度が低下することから、絶縁紙の引張強度が低下すると考えられる。また、(1)の酸化反応などで生成したカルボキシル基が、この酸化反応に対して触媒作用を示すと考えられる。(3)の熱分解反応は、熱によって化学結合が切断されるものであり、(1)の酸化反応や(2)の加水分解反応に比べて高い温度で起こると考えられる。以上より、セルロースの加水分解反応は、絶縁紙の経年劣化による引張強度の低下に与える影響が大きいと考えられる。
【0008】
絶縁紙の主成分であるセルロースは、経年劣化による分解により、CO、CO、水(HO)、及びフラン化合物等の低分子量の化合物を生成することが知られている。これらの化合物の生成量を評価することで、変圧器中の絶縁紙の劣化状態を推定し、機器の予防保全を実施することが行われている。変圧器のタンク内の水の量を分析して絶縁紙の劣化状態を推定するのは難しいため、従来は、主にCO、CO、及びフラン化合物等がセルロースの主な劣化指標として用いられる。
【0009】
変圧器は、製造時に絶縁紙の乾燥処理と絶縁油の脱水処理が行われ、さらにタンクを密閉することで、外部からの水分の侵入を防いでいる。しかし、変圧器の運転時間の増加とともに、絶縁紙の経年劣化が進んで水が生成されることで、密閉されたタンク内の水の総量が増えると考えられる。
【0010】
変圧器タンク内では、通常、水は、親和性の高い絶縁紙(例えば、クラフト紙)に吸着しており、親和性の低い鉱油にわずかに溶解している。このため、絶縁紙の経年劣化による水の生成は、鉱油の絶縁特性に対しては影響が小さいと考えられるが、セルロースの加水分解に大きな影響を与えることが考えられる。また、近年、変圧器への適用が増えているエステル油は、水との親和性が非常に高く、エステル油中のエステル結合が加水分解反応によって切断されると、酸とアルコールを生成することが知られている。
【0011】
特許文献1には、絶縁油の循環を行う配管系統上に高分子系のフィルム材料を介して吸着剤ケースを着脱自在に取り付け、吸着剤ケース内に水分吸湿用の吸着剤を設けることにより、絶縁油から水分を除去する変圧器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2007-221047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
水を良く吸着するゼオライトやシリカのような吸着剤を絶縁油中に配置することによって、絶縁油中の水を除去することは可能である。これらの吸着剤は、水以外の化合物も吸着することから、吸着剤を直接、絶縁油中に配置すると、十分に水を吸着するのが難しいという課題がある。
【0014】
また、これらの吸着剤は、単位重量当たり、一定の量の水しか吸着できない。このため、長期間にわたって変圧器を運転した場合、吸着剤の種類と量で決まる一定の期間が経過すると、その吸着性能が失われるという課題がある。この課題を解決するため、特許文献1に記載の変圧器では、吸着剤を着脱可能としており、吸着剤を定期的に交換することができる。しかし、通常、変圧器の運転中に吸着剤の交換作業を実施するのは難しく、安全に交換作業をするためには変圧器の運転を停止するのが望ましい。
【0015】
吸着剤の吸着性能を回復させる方法として、吸着剤を加熱して吸着剤から水を放出させる方法が考えられる。しかし、吸着剤がゼオライトやシリカであると、水を放出させるためには高温で加熱する必要があり、吸着剤を絶縁油中に配置した場合には、絶縁油が熱劣化してしまうという課題がある。
【0016】
本発明の目的は、運転を停止せずに効率良く、長期間にわたって、絶縁油中の水分を除去できる油入変圧器と、油入変圧器に設置可能な水分除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による油入変圧器は、鉄心と巻線とを収容したタンクと、前記タンクに収容された絶縁油と、前記タンクに接続され、前記タンクから前記絶縁油が流入し、前記絶縁油を冷却する冷却器と、前記絶縁油に含まれる水を吸着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤を加熱する加熱装置とを備え、前記冷却器と前記タンクとに接続され、前記冷却器から前記絶縁油が流入し、前記タンクに前記絶縁油が流出する水吸着部と、前記絶縁油に含まれる水を吸着する第2の吸着剤を備え、前記水吸着部に接続され、前記水吸着部から流入した前記絶縁油に含まれる水を除去する吸着剤再生装置とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、運転を停止せずに効率良く、長期間にわたって、絶縁油中の水分を除去できる油入変圧器と、油入変圧器に設置可能な水分除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例による油入変圧器の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従来の油入変圧器では、タンク内の絶縁紙は、絶縁油中に水分が存在すると、主成分のセルロースが加水分解され、経年劣化を起こす。セルロースは、経年劣化による分解により水を生成する。このため、タンク内の水分を除去することが望まれている。
【0021】
本発明による油入変圧器と水分除去装置は、油入変圧器の絶縁油中の水分を除去することで、油入変圧器のタンク内の水分の総量を減らすことができ、油入変圧器の絶縁材料として使用される絶縁体(特に、絶縁紙)と絶縁油(特に、エステル油)の経年劣化を抑制することができる。
【0022】
さらに、本発明による油入変圧器と水分除去装置では、絶縁油から除去した水の量から、油入変圧器の劣化状態を診断することができる。
【0023】
本発明による油入変圧器と水分除去装置は、油入変圧器の運転中に、水分を除去するための吸着剤を再生することができ、この吸着剤が交換不要であるため、油入変圧器の運転を停止せずに効率良く、油入変圧器が運用される長期間にわたって、絶縁油中の水分を除去できる。
【0024】
以下、本発明の実施例による油入変圧器と水分除去装置について、図面を用いて説明する。
【実施例
【0025】
図1は、本発明の実施例による油入変圧器の構成を示す模式図である。本実施例による油入変圧器は、タンク1と、鉄心2と、鉄心2に巻かれた巻線である内側巻線3及び外側巻線4と、絶縁筒5と、絶縁油6と、窒素ガス7と、冷却器8と、本発明の実施例による水分除去装置とを備える。本実施例による水分除去装置については、後述する。
【0026】
タンク1は、鉄心2と内側巻線3と外側巻線4と絶縁筒5と絶縁油6と窒素ガス7を収容している。
【0027】
鉄心2は、その上部と下部にそれぞれ取り付けられた締付金具10a、10bによって締め付けられて保持されている。鉄心2は、その中心部に、絶縁油6が流入して鉄心2を冷却するための空洞部である油導入部15を備える。
【0028】
内側巻線3と外側巻線4は、絶縁体で被覆された電線で構成されている。鉄心2と内側巻線3との間、内側巻線3と外側巻線4との間、及び外側巻線4とタンク1との間には、絶縁体で構成された絶縁筒5が設けられている。また、内側巻線3と外側巻線4には、巻線3、4を構成する電線の間に挟まって絶縁体が設置されている。内側巻線3と外側巻線4に設けられたこれらの絶縁体や絶縁筒5を構成する絶縁体は、絶縁紙(例えば、クラフト紙、クレープ紙、及びプレスボード)、絶縁木、及びプラスチックのいずれか1つまたは複数を用いて構成することができる。以下では、内側巻線3と外側巻線4に設けられた絶縁体と絶縁筒5を構成する絶縁体は、絶縁紙で構成されているものとする。
【0029】
絶縁油6は、鉄心2と内側巻線3と外側巻線4を絶縁し冷却する。絶縁油6には、油入変圧器で広く用いられている鉱油の他に、シリコーン液やエステル油などを用いることができる。
【0030】
窒素ガス7は、タンク1の内部で絶縁油6の上方に存在する。
【0031】
冷却器8は、タンク1の外部に設置され、タンク1の上部と下部にそれぞれ設置された配管9a、9bによってタンク1に接続されている。冷却器8は、フィンやファンを用いた空冷方式、または水冷方式により、タンク1の内部に収容されている絶縁油6を冷却する。配管9aは、タンク1の絶縁油6を冷却器8に流す。配管9bは、冷却器8で冷却された絶縁油6をタンク1に流す。
【0032】
絶縁油6は、タンク1の内部に備えられた鉄心2と内側巻線3と外側巻線4から発生するジュール熱を奪って鉄心2と内側巻線3と外側巻線4を冷却し、図1の矢印で示すように、上部の配管9aを通ってタンク1の内部から冷却器8の内部に流れる。冷却器8に流入した絶縁油6は、冷却器8で冷却された後に、冷却器8からタンク1に流れる。絶縁油6は、対流により、またはポンプに駆動されて、タンク1と冷却器8とを循環する。
【0033】
内側巻線3と外側巻線4の上方には、絶縁体11、12が設置されており、内側巻線3と外側巻線4の下方には、絶縁体13、14が設置されている。絶縁体11、12、13、14は、絶縁紙(例えば、クラフト紙、クレープ紙、及びプレスボード)、絶縁木、及びプラスチックで構成することができる。以下では、絶縁体11、12、13、14は、絶縁紙で構成されているものとする。
【0034】
本実施例による油入変圧器は、水吸着部19と、吸着剤再生装置21を備える。水吸着部19と吸着剤再生装置21は、本実施例による水分除去装置を構成する。
【0035】
水吸着部19は、水の吸着剤17と、加熱装置18と、これらを収容する容器を備え、冷却器8で冷却された絶縁油6に含まれる水を除去する。
【0036】
水の吸着剤17は、絶縁油6に含まれる水を吸着して除去する。水の吸着剤17には、水との親和性が高い絶縁紙(例えば、クラフト紙、及びアラミド紙)を用いることができる。
【0037】
加熱装置18は、水の吸着剤17を加熱できる位置に設置され、水の吸着剤17を加熱して、水の吸着剤17に吸着した水を水吸着部19の中の絶縁油に溶出させる。加熱装置18には、水の吸着剤17を加熱できれば、任意のものを用いることができる。
【0038】
水吸着部19は、配管16aによって冷却器8に接続され、冷却器8で冷却された絶縁油6が冷却器8から流入する。また、水吸着部19は、配管16bによってタンク1に接続され、水の吸着剤17で水が除去された絶縁油6が矢印で示すようにタンク1に流出する。配管16aは、冷却器8で冷却された絶縁油6を水吸着部19に流す。配管16bは、タンク1の下部に接続し、水の吸着剤17で水が除去された絶縁油6をタンク1に流す。絶縁油6は、対流により、またはポンプに駆動されて、冷却器8と水吸着部19とタンク1とを循環する。
【0039】
吸着剤再生装置21は、水の吸着剤22と、水の吸着剤22を収容する容器を備え、水吸着部19から流入した絶縁油6に含まれる水を除去する。
【0040】
水の吸着剤22は、絶縁油6に含まれる水を吸着して除去する。水の吸着剤22には、例えばゼオライトやシリカを用いることができる。
【0041】
吸着剤再生装置21は、配管20aと配管20bによって水吸着部19に接続されている。吸着剤再生装置21には、加熱装置18で水の吸着剤17が加熱されて水が溶出した絶縁油6が、配管20aによって水吸着部19から流入する。また、吸着剤再生装置21は、水の吸着剤22で水が除去された絶縁油6が、配管20bによって水吸着部19に流出する。配管20aは、水吸着部19で水が溶出した絶縁油6を吸着剤再生装置21に流す。配管20bは、吸着剤再生装置21で水が除去された絶縁油6を水吸着部19に流して戻す。絶縁油6は、ポンプに駆動されて、水吸着部19と吸着剤再生装置21とを循環する。
【0042】
以下、本実施例による油入変圧器において、絶縁油6の流れを制御して、絶縁油6に含まれる水分を除去する手順を説明する。なお、配管9a、9b、16a、16b、20a、20bに設けられたバルブは、作業員または制御装置により開閉が操作される。
【0043】
通常の運転時には、油入変圧器は、配管9a、9bに設けられたバルブが開いており、配管16a、16bと配管20a、20bに設けられたバルブが閉じている。これにより、絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却された後、冷却器8から配管9bを通ってタンク1に流れる。
【0044】
絶縁油6に含まれる水分を除去する場合には、油入変圧器は、配管9bに設けられたバルブが閉じられ、配管16a、16bに設けられたバルブが開かれる。配管9aに設けられたバルブは、開いたままであり、配管20a、20bに設けられたバルブは、閉じたままである。これにより、絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却された後、冷却器8から配管16aを通って水吸着部19に流れる。
【0045】
水吸着部19に備えられている水の吸着剤17は、水吸着部19に流入した絶縁油6に含まれる水を吸着して除去する。冷却器8で冷却され水の吸着剤17で水が除去された絶縁油6は、水吸着部19から配管16bを通ってタンク1に流れ、内側巻線3と外側巻線4を冷却する。
【0046】
このようにして、内側巻線3と外側巻線4を冷却して温度が上昇した絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却され、冷却器8から配管16aを通って水吸着部19に流れ、水吸着部19で水分が除去される。水吸着部19で絶縁油6から水分を除去するのは、水の吸着剤17の種類と量で決まる一定時間にわたって行う。
【0047】
この一定時間の間に水吸着部19で絶縁油6から水分を除去したら、配管9bに設けられたバルブが開かれ、配管16a、16bに設けられたバルブが閉じられる。配管9aに設けられたバルブは、開いたままであり、配管20a、20bに設けられたバルブは、閉じたままである。配管9bに設けられたバルブが開かれるので、絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却された後、冷却器8から配管9bを通ってタンク1に流れる。絶縁油6は、冷却器8から水吸着部19に流入せず、水吸着部19からタンク1に流出しない。水吸着部19の内部には、タンク1に流れなかった絶縁油6が存在する。
【0048】
この状態で(すなわち、絶縁油6が、冷却器8から水吸着部19に流入せず、水吸着部19からタンク1に流出しないときに)、加熱装置18は、水の吸着剤17を加熱する。水の吸着剤17は、加熱されると、吸着している水を水吸着部19の中の絶縁油6に放出する。水の吸着剤17から放出された水は、絶縁油6に溶出する。加熱装置18は、水の吸着剤17と絶縁油6が劣化しないような温度と時間で、水の吸着剤17を加熱する。
【0049】
加熱装置18が水の吸着剤17を加熱すると、配管20a、20bに設けられたバルブが開かれる。加熱により水の吸着剤17から放出された水が溶出した絶縁油6は、水吸着部19から配管20aを通って吸着剤再生装置21に流入する。吸着剤再生装置21に流入した絶縁油6は、含んでいる水が除去されて、配管20bを通って水吸着部19に流れて戻る。
【0050】
吸着剤再生装置21は、水吸着部19から流入した絶縁油6に含まれている水を、水の吸着剤22によって除去する。絶縁油6が水吸着部19と吸着剤再生装置21とを循環することで、水の吸着剤17から放出された水は、水の吸着剤22に吸着されて除去される。
【0051】
このようにして、水吸着部19の水の吸着剤17は、吸着した水を放出して水の吸着性能を回復し、再生することができる。水の吸着剤17の再生は、水の吸着剤17の種類と量と、吸着剤再生装置21の水の吸着剤22の種類と量と、水の吸着剤17の加熱時間とに応じて決まる一定時間にわたって行う。
【0052】
水の吸着剤17の再生が終了したら、加熱装置18による水の吸着剤17の加熱が停止され、配管20a、20bに設けられたバルブが閉じられる。この後、油入変圧器は、配管9bに設けられたバルブが開き、配管16a、16bに設けられたバルブが閉じた状態で、通常の運転を行ってもよいし、配管9bに設けられたバルブが閉じられ、配管16a、16bに設けられたバルブが開かれて、絶縁油6に含まれる水を水吸着部19で除去してもよい。
【0053】
絶縁油6に含まれる水分を水吸着部19で除去するのは、任意の時期に行うことができ、例えば、予め定めた時間の経過ごとに定期的に行うことができる。
【0054】
水の吸着剤22は、配管20a、20bに設けられたバルブが閉じており、水の吸着剤17の再生を実施していないときに、必要に応じて交換することができる。
【0055】
本実施例による油入変圧器は、このようにして、油入変圧器の運転中に、水吸着部19が備える水の吸着剤17で絶縁油6から水分を除去するとともに、吸着剤再生装置21で水の吸着剤17を再生することができる。水の吸着剤17が再生可能で交換不要であるため、本実施例による油入変圧器は、運転を停止せずに効率良く、油入変圧器が運用される長期間にわたって、絶縁油6中の水分を除去できる。
【0056】
水の吸着剤17を構成する絶縁紙は、加熱装置18で加熱されるので、耐熱紙で構成されるのが好ましい。水の吸着剤17に耐熱紙を用いると、加熱装置18で繰り返し加熱されることによる劣化を抑制することができる。耐熱紙には、任意のものを用いることができ、例えば、アミン添加紙やアラミド紙などを用いることができる。
【0057】
本実施例による油入変圧器を用いると、絶縁油6から除去した水の量、すなわち水の吸着剤17に吸着した水の量から、タンク1内の絶縁紙が経年劣化により分解して生成した水の量を推定できる。タンク1内の絶縁紙の経年劣化で生成された水の量は、例えば、次の方法で求めることができる。絶縁紙が経年劣化により生成する標準的な水の量を、実験により、または過去のデータを利用することにより、求めておく。次に、既存の方法を用いて、水の吸着剤22に吸着した水の量を求め、求めた水の量から水の吸着剤17に吸着した水の量を推定する。この推定した水の量と上記の標準的な水の量とから、タンク1内の絶縁紙の経年劣化で生成された水の量を推定することができる。
【0058】
また、本実施例による油入変圧器を用いると、タンク1内の絶縁紙が経年劣化により分解して生成した水の量を推定することで、タンク1内の絶縁紙の劣化状態を正確に診断することができ、油入変圧器の劣化状態の診断精度を向上することができる。
【0059】
タンク1内の絶縁紙の経年劣化で生成された水の量の推定と油入変圧器の劣化状態の診断は、コンピュータが実行してもよく、作業員が実行してもよい。
【0060】
本実施例による油入変圧器が備える水分除去装置、すなわち水吸着部19と吸着剤再生装置21は、既存の油入変圧器(鉄心と巻線と絶縁油を収容したタンクと、絶縁油を冷却する冷却器とを備える油入変圧器)に設置することができる。本実施例による水分除去装置を用いると、既存の油入変圧器でも、油入変圧器の運転中に、水の吸着剤17で絶縁油6から水分を除去するとともに、水の吸着剤17を再生することができ、絶縁紙が経年劣化により分解して生成した水の量を推定でき、油入変圧器の劣化状態をより高精度に診断することができる。
【0061】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…タンク、2…鉄心、3…内側巻線、4…外側巻線、5…絶縁筒、6…絶縁油、7…窒素ガス、8…冷却器、9a、9b…配管、10a、10b…締付金具、11、12、13、14…絶縁体、15…油導入部、16a、16b…配管、17…水の吸着剤、18…加熱装置、19…水吸着部、20a、20b…配管、21…吸着剤再生装置、22…水の吸着剤。
図1