(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/419 20060101AFI20221005BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01N27/419 327J
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2019024316
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 達彦
(72)【発明者】
【氏名】京本 卓
(72)【発明者】
【氏名】花木 悠希
(72)【発明者】
【氏名】姫野 壮貴
(72)【発明者】
【氏名】中川 將生
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203716(JP,A)
【文献】特開2005-019362(JP,A)
【文献】特開2014-098590(JP,A)
【文献】特開2010-169655(JP,A)
【文献】特開2010-107409(JP,A)
【文献】特開2016-065850(JP,A)
【文献】特開2013-217733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる
板状のガスセンサ素子の先端側に配置された検知部に、多孔質保護層を被覆するガスセンサ素子の製造方法であって、
前記ガスセンサ素子の前記先端側を多孔質保護層形成用のスラリーに浸漬することで前記ガスセンサ素子の先端面及び周面に前記スラリーの塗膜を形成する浸漬工程と、
前記塗膜を擦り切って前記塗膜の一部を除去する擦切工程と、
前記擦切工程を経た後の前記塗膜を焼成して、前記多孔質保護層を得る焼成工程と、を備えるガスセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
軸方向に延びるガスセンサ素子の先端側に配置された検知部に、多孔質保護層を被覆するガスセンサ素子の製造方法であって、
前記ガスセンサ素子の前記先端側を多孔質保護層形成用のスラリーに浸漬することで前記ガスセンサ素子の先端面及び周面に前記スラリーの塗膜を形成する浸漬工程と、
前記塗膜を擦り切って前記塗膜の一部を除去する擦切工程と、
前記擦切工程を経た後の前記塗膜を焼成して、前記多孔質保護層を得る焼成工程と、を備え、
前記浸漬工程は、前記焼成工程の前に複数回行われ、
先に行った前記浸漬工程と、その次に行う前記浸漬工程との間に、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程を備えるガスセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記擦切工程において、擦切型の内側に設けられた貫通孔に前記ガスセンサ素子を通過させることで前記周面に形成された周面塗膜のうち余分な塗膜が前記貫通孔の開口縁部によって擦り切られる請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
前記擦切工程において、前記先端面に形成された先端塗膜のうち余分な塗膜が前記軸方向に対して垂直に交わる方向に沿って移動する擦切刃によって擦り切られる請求項1~請求項3の何れか一項に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーは、せん断速度が0.1s
-1のとき43000mPa・s以上であり、かつせん断速度が10s
-1のとき2500mPa・s以下である請求項1~請求項4の何れか一項に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガス中に含まれる特定成分(酸素等)の濃度を検出するためのガスセンサが知られている。この種のガスセンサは、その内部に、細長く延びた板状のガスセンサ素子を備えている。ガスセンサ素子の先端部には、特定成分を検知するための検知部が設けられている。検知部は、電極等で構成されており、そのような検知部が設けられたガスセンサ素子の先端部が、排気ガスに晒される。
【0003】
排気ガス中には、特定成分以外に、シリコンやリン等の被毒物質が含まれており、そのような被毒物質が、ガスセンサ素子の先端部(検知部等)に付着してしまうことがあった。また、排気ガス中には水分も含まれており、そのような水分や、排気管の凝縮水等の水分が、ガスセンサ素子の先端部に付着してしまうこともある。水分がガスセンサ素子に付着すると、ガスセンサ素子にクラック等の損傷が発生する虞がある。そのため、従来のガスセンサ素子の先端部には、被毒物質の付着や、水分(水滴)の接触を抑制するための多孔質保護層が形成されている。多孔質保護層は、ガスセンサ素子の先端部にある検知部を被覆するように形成されている。
【0004】
このような多孔質保護層をガスセンサ素子に形成する従来技術として、例えば、多孔質保護層用のスラリーに、ガスセンサ素子を浸漬させる方法が知られている(特許文献1参照)。この種の方法では、ガスセンサ素子の先端部をスラリーに浸漬することで、その先端部にスラリーを付着させている。その後、付着させたスラリーを焼成することにより、ガスセンサ素子の先端部に多孔質保護層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような、ガスセンサ素子をスラリーに浸漬させる方法では、多孔質保護層の厚みを制御することが難しく、問題となっていた。例えば、ガスセンサ素子の角部は、その他の部分と比べてスラリーが付着し難い部分となっており、そのような角部における多孔質保護層の厚みを大きくしようとすると、ガスセンサ素子の角部以外の大部分の箇所に必要以上のスラリーが付着してしまう。このような状態のスラリーを焼成すると、結果的に、厚み(容積)の大きな多孔質保護層が形成されてしまう。この場合、多孔質保護層の熱容量が大きくなり過ぎて、加熱によるガスセンサ素子の活性化が遅延することとなる。そのため、上記従来技術では、多孔質保護層の厚みを小さくするために、焼成後、多孔質保護層の周りにある余剰部分をカッター等で切断する処理を行っていた。しかしながら、焼成後に切断した余剰部分は廃棄されるため、その廃棄コストや、切断のための工数が増加するという問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、多孔質保護層用のスラリーにガスセンサ素子を浸漬した後、焼成前に、そのスラリーからなる塗膜の厚みを小さく調整することが可能なガスセンサ素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 軸方向に延びるガスセンサ素子の先端側に配置された検知部に、多孔質保護層を被覆するガスセンサ素子の製造方法であって、前記ガスセンサ素子の前記先端側を多孔質保護層形成用のスラリーに浸漬することで前記ガスセンサ素子の先端面及び周面に前記スラリーの塗膜を形成する浸漬工程と、前記塗膜を擦り切って前記塗膜の一部を除去する擦切工程と、前記擦切工程を経た後の前記塗膜を焼成して、前記多孔質保護層を得る焼成工程と、を備えるガスセンサ素子の製造方法。
【0009】
<2> 前記浸漬工程は、前記焼成工程の前に複数回行われ、先に行った前記浸漬工程と、その次に行う前記浸漬工程との間に、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程を備える請求項1に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【0010】
<3> 前記擦切工程において、擦切型の内側に設けられた貫通孔に前記ガスセンサ素子を通過させることで前記周面に形成された周面塗膜のうち余分な塗膜が前記貫通孔の開口縁部によって擦り切られる請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【0011】
<4> 前記擦切工程において、前記先端面に形成された先端塗膜のうち余分な塗膜が前記軸方向に対して垂直に交わる方向に沿って移動する擦切刃によって擦り切られる請求項1~請求項3の何れか一項に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【0012】
<5> 前記スラリーは、せん断速度が0.1s-1のとき43000mPa・s以上であり、かつせん断速度が10s-1のとき2500mPa・s以下である請求項1~請求項4の何れか一項に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多孔質保護層用のスラリーにガスセンサ素子を浸漬した後、焼成前に、そのスラリーからなる塗膜の厚みを小さく調整することが可能なガスセンサ素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】軸線方向に沿って切断された実施形態1に係るガスセンサの断面図
【
図2】ガスセンサ素子を構成する検出素子部及びヒータ部を模式的に表した分解斜視図
【
図3】軸線方向に沿って切断されたガスセンサ素子の先端側の構成を模式的に表した断面図
【
図4】軸線方向に直交する方向で切断されたガスセンサ素子の先端側の構成を模式的に表した断面図
【
図6】浸漬工程において、ガスセンサ素子本体が、ディッピング槽の上方で待機している状態を示す説明図
【
図8】浸漬工程において、待機位置から下降したガスセンサ素子本体の先端部が、ディッピング槽内のスラリーに浸漬している状態を示す説明図
【
図9】擦切工程において、擦切型を利用して、ガスセンサ素子本体の先端部の周面に形成された周面塗膜の一部(余分な塗膜)が除去される様子を示す説明図
【
図10】擦切工程において、擦切刃を利用して、ガスセンサ素子本体の先端部の先端面に形成された先端塗膜の一部(余分な塗膜)が除去される様子を示す説明図
【
図11】擦切工程後、擦切刃が退避位置へ戻される様子を示す説明図
【
図12】実施形態2のガスセンサ素子の製造方法における浸漬工程において、ガスセンサ素子本体が、ディッピング槽の上方で待機している状態を示す説明図
【
図13】実施形態2のガスセンサ素子の製造方法における擦切工程において、擦切刃を利用して、ガスセンサ素子本体の先端部の先端面に形成された先端塗膜の一部(余分な塗膜)が除去される様子を示す説明図
【
図14】軸線方向に沿って切断された実施形態3に係るガスセンサ素子の先端側の構成を模式的に表した断面図
【
図15】実施形態3のガスセンサ素子の製造方法における浸漬工程において、ガスセンサ素子本体が、ディッピング槽の上方で待機している状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
以下、本発明の実施形態1を、
図1~
図11を参照しつつ説明する。先ずは、本実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法により製造されるガスセンサ素子100を含むガスセンサ(酸素センサ)1の構成について説明する。
図1は、軸線L方向に沿って切断された実施形態1に係るガスセンサ1の断面図であり、
図2は、ガスセンサ素子100を構成する検出素子部300及びヒータ部200を模式的に表した分解斜視図である。なお、本明細書では、
図1に示されるガスセンサ1の下側を、「先端側」と称し、その反対側(
図1の上側)を、「後端側」と称する。
【0016】
ガスセンサ1は、
図1に示されるように、検出素子部300及びヒータ部200の積層体からなるガスセンサ素子100と、そのガスセンサ素子100等を内部に収容する形で保持する主体金具30と、その主体金具30の先端部に装着されるプロテクタ24を備えている。ガスセンサ素子100は、全体的には、細長く延びた板状をなしており、その長手方向が、軸線L方向に沿うように配置されている。なお、後述するように、ガスセンサ素子100の先端側には、多孔質保護層20が形成されている。
【0017】
図2に示されるように、ヒータ部200は、全体的には、細長く延びた板状をなしており、アルミナを主体とする第1基体101及び第2基体103と、第1基体101と第2基体103とに挟まれ、白金を主体とする発熱体102とを有している。発熱体102は、先端側に位置する発熱部102aと、その発熱部102aから第1基体101の長手方向(軸線L方向)に沿って延びる一対のヒータリード部102bとを有している。そして、ヒータリード部102bの末端は、第1基体101に設けられているヒータ側スルーホール101aに形成された導体を介してヒータ側パッド120と電気的に接続されている。
【0018】
検出素子部300は、ヒータ部200と同様、全体的には、細長く延びた板状をなしており、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とを備えている。酸素濃度検出セル130は、第1固体電解質体105と、その第1固体電解質体105の両面に形成された第1電極104及び第2電極106とから構成されている。第1電極104は、第1電極部104aと、その第1電極部104aから第1固体電解質体105の長手方向(軸線L方向)に沿って延びる第1リード部104bとから構成されている。第2電極106は、第2電極部106aと、その第2電極部106aから第1固体電解質体105の長手方向(軸線L方向)に沿って延びる第2リード部106bとから構成されている。
【0019】
第1リード部104bの末端は、第1固体電解質体105に設けられる第1スルーホール105a、後述する絶縁層107に設けられる第2スルーホール107a、第2固体電解質体109に設けられる第4スルーホール109a及び保護層111に設けられる第6スルーホール111aのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続される。第2リード部106bの末端は、後述する絶縁層107に設けられる第3スルーホール107b、第2固体電解質体109に設けられる第5スルーホール109b及び保護層111に設けられる第7スルーホール111bのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続される。
【0020】
酸素ポンプセル140は、第2固体電解質体109と、その第2固体電解質体109の両面に形成された第3電極108及び第4電極110とから構成されている。第3電極108は、第3電極部108aと、この第3電極部108aから第2固体電解質体109の長手方向(軸線L方向)に沿って延びる第3リード部108bとから構成されている。第4電極110は、第4電極部110aと、この第4電極部110aから第2固体電解質体109の長手方向(軸線L方向)に沿って延びる第4リード部110bとから構成されている。
【0021】
第3リード部108bの末端は、第2固体電解質体109に設けられる第5スルーホール109b及び保護層111に設けられる第7スルーホール111bのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続される。第4リード部110bの末端は、保護層111に設けられる第8スルーホール111cに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続される。なお、第2リード部106bと第3リード部108bは同電位となっている。
【0022】
第1固体電解質体105及び第2固体電解質体109は、ジルコニア(ZrO2)に安定化剤としてイットリア(Y2O3)又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体から構成される。
【0023】
発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、白金族元素で形成することができる。これらを形成する好適な白金族元素としては、Pt、Rh、Pd等が挙げられる。なお、これらの白金族元素は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記発熱体102等は、耐熱性及び耐酸化性の観点より、Ptを主体にして形成することが好ましい。また、上記発熱体102等は、主体となる白金族元素の他にセラミック成分を含有することが好ましい。このセラミック成分は、固着という観点より、積層される側の主体となる材料と同様の成分であることが好ましい。
【0025】
そして、上述した酸素ポンプセル140と酸素濃度検出セル130との間に、絶縁層107が形成されている。絶縁層107は、絶縁部114と拡散抵抗部115とからなる。この絶縁層107の絶縁部114には、第2電極部106a及び第3電極部108aに対応する位置に中空の測定室107cが形成されている。この測定室107cは、絶縁層107の幅方向で外部と連通しており、その連通した部分には、外部と測定室107cとの間のガス拡散を所定の律速条件下で実現する拡散抵抗部115が配置されている。
【0026】
絶縁部114は、絶縁性を有するセラミック焼結体であれば限定されず、例えば、アルミナやムライト等の酸化物系セラミック等から構成される。
【0027】
拡散抵抗部115は、アルミナからなる多孔質体であり、この多孔質体からなる拡散抵抗部115によって、検出ガスが測定室107cへ流入する際の速度が調整される。
【0028】
また、第2固体電解質体109の表面には、第4電極110を挟み込むようにして、保護層111が形成されている。この保護層111は、第4電極部110aを挟み込むようにして、第4電極部110aを被毒から防御するための多孔質の電極保護部113aと、第4リード部110bを挟み込むようにして、第2固体電解質体109を保護するための補強部112とからなる。なお、本実施形態のガスセンサ素子100は、酸素濃度検出セル130の電極間に生じる電圧(起電力)が所定の値(例えば、450mV)となるように、酸素ポンプセル140の電極間に流れる電流の方向及び大きさが調整され、酸素ポンプセル140に流れる電流に応じた被測定ガス中の酸素濃度をリニアに検出する酸素センサ素子となっている。
【0029】
図1に戻り、主体金具30は、SUS430製であり、ガスセンサ1を排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを備えている。また、主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、その金具側段部33はガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34を支持している。そしてこの金属ホルダ34の内側にはセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されている。この滑石36は、金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と、金属ホルダ34の後端に配置される第2滑石38とからなる。金属ホルダ34内で第1滑石37が圧縮充填されることによって、ガスセンサ素子100は金属ホルダ34に対して固定される。また、主体金具30内で第2滑石38が圧縮充填されることによって、ガスセンサ素子100の外面と主体金具30の内面との間のシール性が確保される。そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されている。このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線Lに沿うように軸孔39aが設けられ、そのような軸孔39aを含むスリーブ39の内部にガスセンサ素子100が挿通される。そして、主体金具30の後端側にある加締め部30aが内側に折り曲げられており、そのような加締め部30aにより、スリーブ39がステンレス製のリング部材40を介して主体金具30の先端側に押圧されている。
【0030】
また、主体金具30の先端側外周には、金属製のプロテクタ24が溶接によって取り付けられている。プロテクタ24は、二重構造をなしており、外側には一様な外径を有する有底円筒状の外側プロテクタ41が配置され、内側には後端部42aの外径が先端部42bの外径よりも大きく形成された有底円筒状の内側プロテクタ42が配置されている。このようなプロテクタ24は、主体金具30の先端から突出するガスセンサ素子100の先端部を覆うと共に、複数のガス取り入れ孔24aを有する。
【0031】
主体金具30の後端側には、SUS430製の外筒25の先端側が挿入されている。外筒25は、先端側が拡径した先端部25aを備えており、その先端部25aが、主体金具30にレーザ溶接等で固定されている。外筒25の後端側の内部には、セパレータ50が配置されており、そのセパレータ50と外筒25との間で形成される隙間に、保持部材51が介在されている。保持部材51は、セパレータ50の周面から外側に盛り上がった突出部50aに係合しつつ、加締められた外筒25とセパレータ50との間で固定されている。
【0032】
また、セパレータ50には、検出素子部300用やヒータ部200用の各種のリード線11,12,13を挿入するための通孔50bが先端側から後端側に亘って貫通する形で設けられている。なお、
図1には、説明の便宜上、3本のリード線11,12,13のみが示され、それら以外のリード線の図示は、省略した。通孔50b内には、上記リード線11等と、検出素子部300の検出素子側パッド121及びヒータ部200のヒータ側パッド120とを接続する接続端子16が収容されている。各リード線11等は、外部において、図示されないコネクタに接続可能な構成となっており、そのようなコネクタを介してECU等の外部機器と各リード線11等との間で、電気信号の入出力が行われる。
【0033】
更に、セパレータ50の後端側には、外筒25の後端側の開口部25bを閉塞するための略円柱状のゴムキャップ52が配置されている。このゴムキャップ52は、外筒25の後端内に収容された状態で、外筒25が径方向内側に向かって加締められることにより、外筒25に固着される。また、ゴムキャップ52にも、リード線11等をそれぞれ挿入するための通孔52aが先端側から後端側に亘って貫通する形で設けられている。
【0034】
図3は、軸線L方向に沿って切断されたガスセンサ素子100の先端側の構成を模式的に表した断面図であり、
図4は、軸線L方向に直交する方向で切断されたガスセンサ素子100の先端側の構成を模式的に表した断面図である。
図3及び
図4に示されるように、ガスセンサ素子100の先端側に、多孔質保護層20が形成されている。なお、本明細書において、多孔質保護層20が形成されていない状態のガスセンサ素子100を、特に、「ガスセンサ素子本体100a」と称する場合がある。
【0035】
ガスセンサ素子本体100aの先端部100bには、排気ガス中に含まれる特定成分(酸素等)を検知するための検知部150が設けられている。検知部150は、主として、検出素子部300が有する各電極部(第1電極部104a、第2電極部106a、第3電極部108a、及び第4電極部110a)、及び測定室107cにより構成される。そのような検知部150の周りを被覆する形で、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bに多孔質保護層20が形成されている。多孔質保護層20には、ガス透過が可能なように三次元網目構造の気孔が形成されている。
【0036】
図5は、ガスセンサ素子本体100aを先端側から見た斜視図である。説明の便宜上、
図5において、多孔質保護層20は、仮想的に示されている。多孔質保護層20は、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bにおける先端面100c及び周面100dを覆う形で、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bに形成されている。
【0037】
多孔質保護層20は、例えば、チタニア、アルミナ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトからなる群より選ばれる1種以上のセラミック粒子を焼成等により結合して形成することができる。これらの粒子を含むスラリーを焼結することで、セラミック粒子間に気孔を形成することができる。なお、上記粒子を含むスラリーに、カーボン、樹脂製ビーズ、有機又は無機バインダ等からなる焼失性の造孔材が添加されてもよい。
【0038】
以上のようなガスセンサ1に、本実施形態の製造方法で製造されたガスセンサ素子100が使用される。
【0039】
次いで、実施形態1に係るガスセンサ素子の製造方法について説明する。本実施形態のガスセンサ素子の製造方法は、浸漬工程、擦切工程及び焼成工程を備えている。
【0040】
浸漬工程は、ガスセンサ素子本体100a(ガスセンサ素子100)の先端側を、多孔質保護層20形成用のスラリー(以下、単に「スラリー」と称する)Sに浸漬することで、ガスセンサ素子本体100aにおける先端部100bの先端面100c及び周面100dに、スラリーSの塗膜700を形成する工程である。
【0041】
スラリーSは、従来、この種の浸漬工程で使用されるものと同様、例えば、チタニア、アルミナ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトからなる群より選ばれる1種以上のセラミック粒子を含む溶液からなる。ただし、スラリーSは、従来、使用されるものと比べて、せん断速度が0.1s-1のときの粘度は高く設定されることが好ましく、せん断速度が10s-1のときの粘度は低く設定されることが好ましい。スラリーSの粘度(mPa・s)は、例えば、室温(23℃)条件下において、せん断速度が0.1s-1のときは、43000mPa・s以上に設定されることが好ましく、せん断速度が10s-1のときは、2500mPa・s以下に設定されることが好ましい。なお、スラリーSの粘度については、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、室温(23℃)条件下において、せん断速度が0.1s-1のとき、65000mPa・sに設定され、せん断速度が10s-1のとき、2400mPa・sに設定される。スラリーSの粘度が、このように設定されると、後述する擦切工程において、ガスセンサ素子本体100aに形成された、スラリーSからなる塗膜700の厚みを調整し易くなる。なお、スラリーSの粘度は、スラリーS中に、例えば、合成樹脂、天然高分子等からなる有機バインダ、アルミナゾル、水等を添加することで、適宜、調整される。なお、スラリーSの粘度は粘度計(レオメータMCR102:Anton-Paar社製)を用いて計測した。
【0042】
ここで、浸漬工程で使用されるスラリーの調合例について説明する。チタニア粉末、スピネル粉末、アルミナゾル、有機バインダ(例えば、アクリル系共重合物)、分散剤(例えば、アニオン性高分子分散剤)、消泡剤(例えば、アマイドワックス系消泡剤)、及び水を、それぞれ所定の割合で配合し、それらを所定時間の間、混合することで、目的とするスラリーが得られる。
【0043】
図6は、浸漬工程において、ガスセンサ素子本体100aが、ディッピング槽400の上方で待機している状態を示す説明図である。
図6には、浸漬工程が開始される前のガスセンサ素子本体100a等の状態が示されている。
図6には、スラリーSを収容する上方に開口した容器状のディッピング槽400と、そのディッピング槽400の上方で静止した状態で待機するガスセンサ素子本体100aが示されている。ガスセンサ素子本体100aは、その長手方法が鉛直方向に沿い、かつその先端部100bが下側を向く形で、所定の冶具を利用して固定されている。ガスセンサ素子本体100aの先端部100bは、ディッピング槽400に収容されたスラリーSと対向した状態となっている。
図6には、ガスセンサ素子本体100aの表面のうち、電極保護部113aが形成されている側の表面が、紙面手前側を向く形で、示されている。なお、
図6に示されるように、ガスセンサ素子本体100aがディッピング槽400の上方で静止して待機している位置を、「待機位置」と称する。
【0044】
ガスセンサ素子本体100aは、所定の冶具に固定された状態で、上下方向(鉛直方向)に沿いつつ、待機位置と、その下方にあるディッピング槽400の内側の位置(後述する浸漬位置)との間を、往復移動できるように構成されている。ガスセンサ素子本体100aを往復移動させる機構としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、サーボモータ等を利用した公知の往復機構が適用される。
【0045】
なお、
図6に示されるように、待機位置にあるガスセンサ素子本体100aと、ディッピング槽400との間には、浸漬工程後に行われる擦切工程で使用される擦切型500及び擦切刃600が配置されている。
図7は、擦切型500の平面図である。擦切型500は、水平方向に沿うように配される板状の擦切本体部501と、この擦切本体部501の内側に、厚み方向に貫通する形で設けられた貫通孔502と、この貫通孔502を取り囲む開口縁部503とを備えている。貫通孔502及び開口縁部503の大きさは、ガスセンサ素子本体100aが、開口縁部503内にある貫通孔502を通過できるように設定されている。待機位置において、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bは、平面視した際に、開口縁部503の内側に収まるように配されている。
図7には、平面視した際に、開口縁部503の内側に収まっている状態のガスセンサ素子本体100aの先端部106が仮想的に示されている。擦切刃600は、
図6に示されるように、貫通孔502と上下方向で重ならないように、貫通孔502よりも外側の位置に退避しており、その位置を、擦切刃600の「退避位置」と称する。なお、本実施形態の場合、擦切刃600は、擦切型500の上面500a側に配されている。擦切刃600は、擦切型500の上面500aとの間に隙間が形成されるような高さ位置に配置されている。
【0046】
図8は、浸漬工程において、待機位置から下降したガスセンサ素子本体100aの先端部100bが、ディッピング槽400内のスラリーに浸漬している状態を示す説明図である。待機位置で待機していたガスセンサ素子本体100a(
図6参照)が、下方に向かって移動すると、先端部100bは、擦切型500の開口縁部503内の貫通孔502を上側から下側へ通り抜ける。その際、先端部100bは、開口縁部503と接触することなく、貫通孔502を通過する。その後、ガスセンサ素子本体100aは、更に、下方へ向かって移動し、先端部100bが、ディッピング槽400内に収容されているスラリー中に浸漬される。スラリー中に浸漬する先端部100bの高さ位置は、ディッピング槽40の底と接触せず、かつスラリーが、先端部100bの先端面100c及び周面100dに万遍なく付着するように設定される。なお、
図8に示されるように、先端面100c及び周面100dにスラリーが付着するように、スラリー中に浸漬されているガスセンサ素子本体100aの位置を、「浸漬位置」と称する。ガスセンサ素子本体100aは、必要に応じて、所定時間の間、浸漬位置で静止してもよいし、浸漬位置に到達した後、直ちに引き上げられてもよい。
【0047】
このような浸漬工程により、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bを、スラリーに浸漬することで、先端部100bの先端面100c及び周面100dに、スラリーの塗膜700を形成することができる。なお、スラリー中に浸漬されたガスセンサ素子本体100aの先端部100bは、その後、引き上げられ、次の擦切工程に付される。
【0048】
擦切工程は、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bに付着したスラリーの塗膜700を擦り切って、塗膜700の一部を除去する工程である。上述したように、浸漬工程の後、スラリーからガスセンサ素子本体100aの先端部100bが引き上げられると、その先端部100bには、スラリーの付着物からなる塗膜700が形成される。そして、浸漬工程後、先端部100bに形成されている塗膜700の厚みが、多孔質保護層20として必要な厚みを超えていると、その超えた分の塗膜が、擦切工程により除去される。なお、本明細書において、多孔質保護層20として必要な塗膜700の厚みを、「必要厚み」と称する
【0049】
本明細書では、浸漬工程後に先端部100bに付着した塗膜700のうち、先端部100bの周面100dに形成された塗膜を、「周面塗膜701」と称し、また、先端部100bの先端面100cに形成された塗膜を、「先端塗膜702」と称する。本明細書では、軸方向(軸線L方向)において、先端部100bの先端面100cよりも先側にある塗膜を、先端塗膜702とする。
【0050】
本実施形態の擦切工程は、先端部100bに付着した塗膜700のうち、先端部100bの周面100dに形成された周面塗膜701の一部(余分な塗膜)701aを、擦切型500を利用して除去する工程(周面擦切工程)と、先端部100bの先端面100cに形成された先端塗膜702の一部(余分な塗膜)702aを、擦切刃600を利用して除去する工程(先端面擦切工程)とを備えている。本実施形態では、先に周面擦切工程が行われ、その後、先端面擦切工程が行われる。
【0051】
図9は、擦切工程において、擦切型500を利用して、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bの周面100dに形成された周面塗膜701の一部(余分な塗膜)701aが除去される様子を示す説明図である。
図9には、上述した周面擦切工程の内容が示されている。浸漬工程後、引き上げられたガスセンサ素子本体100aの先端部100bに、必要厚みを超えた周面塗膜701が付着していると、その超えた分の塗膜(余分な塗膜)701aが、先端部100bが擦切型500の開口縁部503内(貫通孔502)を下側から上側へ通り抜ける際に、開口縁部503によって擦り切られる。このようにして、先端部100bが、開口縁部503内を通過する際に、余分な塗膜701aが、必要厚み分の周面塗膜701から分離される。
【0052】
なお、分離された余分な塗膜701aの一部は、自重等により落下し、ディッピング槽400内へ戻される。擦切型500は、例えば、金属製の板材が所定形状に加工されたものからなる。擦切型500の開口縁部503の大きさ(貫通孔502の大きさ)は、上述したように、ガスセンサ素子本体100aが通過できると共に、多孔質保護層20を形成するために、必要な厚みの塗膜700(周面塗膜701)が、周面擦切工程後に先端部100bの周りに形成されるように設定されている。本実施形態の場合、開口縁部503は、平面視で、矩形状をなしており、図示されない固定装置を利用して固定されている。開口縁部503の長手方向(長辺方向)は、ガスセンサ素子本体100aの短手方向(幅方向)に沿って配され、開口縁部503の短手方向(短辺方向)は、ガスセンサ素子本体100aの厚み方向に沿って配されている。
【0053】
図10は、擦切工程において、擦切刃600を利用して、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bの先端面100cに形成された先端塗膜702の一部(余分な塗膜)702aが除去される様子を示す説明図である。
図10には、上述した先端面擦切工程の内容が示されている。周面擦切工程後、擦切型500の開口縁部503内を下側から上側へ通過したガスセンサ素子本体100aは、先端部100bの先端面100cの位置が、先端面擦切工程のために、予め定められた所定の高さ位置となるように上方へ移動する。先端面擦切工程のための先端面100cの所定の高さ位置は、先端面100cに形成される先端塗膜702の厚みが、先端面擦切工程後に、多孔質保護層20として必要な厚みとなるように設定される。本実施形態の場合、先端面擦切工程が行われる際の先端面100cの高さ位置は、上述した待機位置で静止したガスセンサ素子本体100aの先端面100cの高さ位置と同じになるように設定されている。他の実施形態においては、先端面擦切工程が行われる際の先端面100cの高さ位置は、待機位置で静止したガスセンサ素子本体100aの先端面100cの高さ位置と異なってもよい。
【0054】
図10には、待機位置で静止した状態のガスセンサ素子本体100aが示されている。その状態のガスセンサ素子本体100aの先端部100bには、余分な塗膜701aが除去されて厚みが調整された周面塗膜701を含む塗膜700が形成されている。このような塗膜700のうち、先端面100cに形成された先端塗膜702が、必要厚みを超えていると、その超えた分の塗膜(余分な塗膜702a)が、擦切刃600により擦り切られる。
【0055】
擦切刃600は、例えば、金属製の板材が所定形状に加工されたものからなる。擦切刃600は、その先端部601が水平方向に沿って往復移動できるように、公知の往復機構等を利用して構成されている。擦切工程において、擦切刃600の先端部601の高さ位置、及びガスセンサ素子本体100aの先端部100bの高さ位置は、必要厚み分の先端塗膜702が、先端面100cに残されるように設定される。なお、
図6において、ガスセンサ素子本体100aは、その長手方向が、鉛直方向(上下方向)に沿う形で配されている。そのようなガスセンサ素子本体100aの軸方向(軸線L方向)は、鉛直方向に沿った状態となっている。そのため、擦切刃600は、ガスセンサ素子本体100aの軸方向に対して垂直に交わる方向に沿って移動すると言える。
【0056】
擦切刃600は、上述した浸漬工程の間、及び周面擦切工程の間は、それぞれ
図6等に示されるように、退避位置で静止している。ガスセンサ素子本体100aが、周面擦切工程後、待機位置へ戻されて静止すると、擦切刃600は、先端塗膜702の余分な塗膜702aを擦り切るように、水平方向へ移動する。擦切刃600は、その先端部601が、退避位置から、スセンサ素子本体100a側へ水平移動し、更に、開口縁部503の上方において、開口縁部503を長手方向に横切るように水平移動する。擦切刃600は、開口縁部503を横切るように水平移動する際に、先端部601が、必要厚みを超えた余分な塗膜702aを、必要厚み分の先端塗膜702から削り取る形となる。このようにして、先端面100cに形成された先端塗膜702が、必要厚みを超えていると、その超えた分の塗膜(余分な塗膜702a)が、擦切刃600により擦り切られる。
【0057】
図11は、擦切工程後、擦切刃600が退避位置へ戻される様子を示す説明図である。擦切刃600は、先端塗膜702の余分な塗膜702aを擦り切った後、再び、退避位置へ戻るように、擦り切り時とは逆向きに水平移動する。
【0058】
以上のような擦切工程(周面擦切工程、先端面擦切工程)を経ることで、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bに形成された塗膜700は、厚みが大きくなり過ぎないように調整される。
【0059】
擦切工程後、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bに、多孔質保護層20を形成するための十分な厚みの塗膜700が形成されると、そのガスセンサ素子本体100aは、焼成工程に付される。
【0060】
焼成工程は、擦切工程を経た後の塗膜700を焼成して、多孔質保護層20を得る工程である。焼成工程における焼成温度、及び焼成時間等の諸条件は、塗膜700が焼結されて、多孔質保護層20が得られるのであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜、設定される。焼成工程は、例えば、1000℃、3時間の条件で実施される。
【0061】
以上のように、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法では、浸漬工程、擦切工程及び焼成工程を経ることで、ガスセンサ素子100(ガスセンサ素子本体100a)の検知部150が配置された先端部100bに、多孔質保護層20を被覆することができ、上述したような多孔質保護層20を備えたガスセンサ素子100(
図3~
図5参照)が得られる。このような本実施形態のガスセンサ素子の製造方法によれば、焼成工程の前に、スラリーからなる塗膜700の厚みを、擦切工程により、所望の厚みに調整することができる。そのため、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法によれば、従来技術よりも、多孔質保護層20全体の容積が抑えられ、かつ活性時間の短いガスセンサ素子100を製造することも可能である。
【0062】
なお、後述する実施形態2と比べて、本実施形態のように、擦切刃600を、擦切型500の上面500a側に配置し、かつ上面500aから離した状態で、先端面擦切工程を行う方が好ましい。何故ならば、除去した余分な塗膜702a等の硬化物の影響等により、擦切刃600の水平移動が妨げられ難いからである。
【0063】
<実施形態2>
次いで、実施形態2に係るガスセンサ素子の製造方法を、
図12及び
図13を参照しつつ説明する。実施形態2は、擦切工程(先端面擦切工程)で使用する擦切刃600Aの構成等が、上述した実施形態1のものと異なる。ここでは、実施形態2の周面擦切工程を中心に説明する。なお、実施形態2等の以降の実施形態において、実施形態1で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0064】
図12は、実施形態2のガスセンサ素子の製造方法における浸漬工程において、ガスセンサ素子本体100aが、ディッピング槽400の上方で待機している状態を示す説明図である。
図12に示されるように、待機位置にあるガスセンサ素子本体100aと、ディッピング槽400との間には、実施形態1と同様の擦切型500が配置されている。擦切刃600Aは、実施形態1と同様、金属製の板材が所定形状に加工されたものからなり、その先端部601Aが水平方向に沿って往復移動できるように構成されている。擦切刃600Aは、
図12に示されるように、貫通孔502と上下方向で重ならないように、貫通孔502よりも外側の位置に退避している。ただし、本実施形態の擦切刃600Aは、擦切型500の上面500a側ではなく、下面500b側に配されており、かつその下面500bに沿って移動できるように構成されている。
【0065】
図13は、実施形態2のガスセンサ素子の製造方法における擦切工程(周面擦切工程)において、擦切刃600Aを利用して、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bの先端面100cに形成された先端塗膜702の一部(余分な塗膜)702aが除去される様子を示す説明図である。本実施形態では、実施形態1と同様の浸漬工程が行われ、その後、ガスセンサ素子本体100aが、先端部100bにスラリーの塗膜700が付着した状態で、ディッピング槽400内から引き上げられる。そして、実施形態1と同様、塗膜700が付着した状態の先端部100bを、擦切型500の開口縁部503内(貫通孔502)を下側から上側へ通過させることで、開口縁部503により、周面塗膜701の一部(余分な塗膜)701aが除去される。だだし、本実施形態の周面擦切工程では、塗膜700が付着した先端部100bが完全に開口縁部503内を通り抜ける前に、先端面擦切工程のために、先端部100bの先端面100cの位置が、予め定められた所定の高さ位置となったところで、ガスセンサ素子本体100aの移動が停止される。
【0066】
先端面擦切工程のための先端面100cの所定の高さ位置は、先端面100cに形成される先端塗膜702の厚みが、先端面擦切工程後に、多孔質保護層20として必要な厚みとなるように設定される。先端面100cが、前記所定の高さ位置で停止した際、先端面100cに付着している先端塗膜702の一部が、擦切型500の下面500bよりも下側にはみ出した場合、そのはみ出した分が、余分な塗膜702aとして擦切刃600Aにより擦り切られる。
図13には、余分な塗膜702aが、擦切型500の下面500bに沿って移動する擦切刃600Aの先端部601Aによって、擦り切られて除去される様子が示されている。擦切刃600Aによる余分な塗膜702aの除去が終わった後、擦切刃600Aは、退避位置まで戻される。
【0067】
先端面擦切工程の終了後、周面擦切工程が再開され、ガスセンサ素子本体100aが上昇し、塗膜700が形成された先端部100bが開口縁部503内を通り抜け、ガスセンサ素子本体100aは、待機位置まで戻される。このように、擦切型500の下面500b側に擦切刃600Aを配置して、先端面擦切工程を行ってもよい。
【0068】
<実施形態3>
次いで、実施形態3に係るガスセンサ素子の製造方法を、
図14及び
図15を参照しつつ説明する。先ずは、本実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法により製造されるガスセンサ素子100Aの構成について説明する。
図14は、軸線方向に沿って切断された実施形態3に係るガスセンサ素子100Aの先端側の構成を模式的に表した断面図である。本実施形態のガスセンサ素子100Aは、実施形態1と同様の構成のガスセンサ素子本体100aを備えている。本実施形態のガスセンサ素子100Aは、そのガスセンサ素子100Aの先端部100b(検知部150)の周りに、実施形態1と同様、多孔質保護層20Aを備えているものの、その多孔質保護層20Aの構成が、実施形態1のものと異なっている。多孔質保護層20Aは、先端部100bの先端面100c及び周面100dに直接、形成される内側多孔質保護層21と、その内側多孔質保護層21を覆うように内側多孔質保護層21上に形成される外側多孔質保護層22とを備えている。つまり、多孔質保護層20Aは、実施形態1の単層型とは異なり、多層型となっている。多孔質保護層20Aの内側多孔質保護層21は、外側多孔質保護層22よりも、低密度であり、気孔率(%)が高い構造となっている。
【0069】
外側多孔質保護層22は、例えば、上述した実施形態1と同様のスラリーを利用して形成することができる。これに対し、内側多孔質保護層21は、外側多孔質保護層22用のスラリーとは異なる、他のスラリー(内側多孔質保護層21用のスラリー)を用いて形成される。内側多孔質保護層21用のスラリーとしては、例えば、外側多孔質保護層22用のスラリーよりも、造孔材の添加量を多くしたものが利用される。
【0070】
本実施形態のガスセンサ素子の製造方法では、多孔質保護層20Aのうち、最も外側に配される外側多孔質保護層22のみが、焼成工程の前に、擦切工程によって、厚みが調整される。
【0071】
図15は、実施形態3のガスセンサ素子の製造方法における浸漬工程において、ガスセンサ素子本体100aが、ディッピング槽400の上方で待機している状態を示す説明図である。本実施形態では、
図15に示されるように、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bの先端面100c及び周面100dを被覆する形で、内側多孔質保護層21用のスラリーによる塗膜800が予め形成されている。このように、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法で利用されるガスセンサ素子100A(ガスセンサ素子本体100a)としては、予め先端部100bに、外側多孔質保護層22用のスラリーとは組成の異なる他のスラリーの塗膜800が形成されたものが用いられる。なお、この塗膜800は、先端部100bの先端面100c及び周面100dに対して、所謂、公知の浸漬工程(ディッピング)を経て形成されてもよいし、それ以外の他の塗布工程(例えば、スプレー塗布)を経て形成されてもよい。
【0072】
本実施形態のガスセンサ素子の製造方法では、塗膜800付きのガスセンサ素子本体100aを使用すること以外は、実施形態1と同様、浸漬工程、擦切工程及び焼成工程が行われる。このような本実施形態のガスセンサ素子の製造方法により、多層型の多孔質保護層20Aを備えたガスセンサ素子100Aを製造してもよい。
【0073】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
(1)上記実施形態1等では、浸漬工程を1回のみ行う場合を例示したが、本発明はこれに限られず、他の実施形態においては、浸漬工程及び擦切工程を、焼成工程の前に、それぞれ2回以上行ってもよい。例えば、1回の浸漬工程では、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bの全ての面(先端面100c及び周面100d)に、多孔質保護層20を形成するために十分な厚みの塗膜700を形成できない場合、更に浸漬工程を行ってもよい。浸漬工程は、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bの全ての面(先端面100c及び周面100d)に、十分な厚みの塗膜700が形成されるまで行われる。なお、周面塗膜701の厚みが、必要厚みよりも小さい場合、その周面塗膜701は、周面擦切工程において、擦り切られず、また、先端面塗膜702の厚みが、必要厚みよりも小さい場合、その先端面塗膜702は、先端面擦切工程において、擦り切られない。
【0075】
(2)上記実施形態1等では、擦切工程の後、直ちに焼成工程を行ったが、他の実施形態においては、擦切工程と、焼成工程との間に、乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程を行うことで、ガスセンサ素子本体100aの先端部100bに形成された塗膜700中の水分が減少し、更には、塗膜700中の有機バインダ等が熱硬化することで、塗膜700がある程度、硬くなり、塗膜700の形状が保たれ易くなる。乾燥工程における乾燥温度、及び乾燥時間等の諸条件は、特に制限はないが、例えば、90℃で、1分間以上で行われてもよい。特に、浸漬工程を、焼成工程の前に複数回行う場合、先に行った浸漬工程と、その次に行う浸漬工程との間に、塗膜700を乾燥させるための乾燥工程を行うことが好ましい。先に行った浸漬工程の後に、乾燥工程を行うと、次に行う浸漬工程において、既に形成された塗膜の上に、新たなスラリーの塗膜を重ねて形成し易く、多孔質保護層を形成するための十分な厚みの塗膜700を得やすい。
【0076】
(3)他の実施形態において、擦切工程を2回以上行う場合、各擦切工程(周面擦切工程)において、開口縁部の大きさ、形状等が異なる擦切型を用いてもよい。また、他の実施形態において、擦切工程を2回以上行う場合、各擦切工程(先端面擦切工程)において、高さ位置の異なる擦切刃等を用いてもよい。また、他の実施形態においては、浸漬工程の後、先に先端面擦切工程を行い、その後、周面擦切工程を行ってもよい。
【0077】
(4)上記実施形態1では、擦切型の開口縁部は、矩形状であったが、他の実施形態ではこれに限られず、求められる多孔質保護層の形状に応じて、適宜、矩形状以外の形に設定されてもよい。
【0078】
(5)上記実施形態1等の製造方法で製造されたガスセンサ素子の多孔質保護層に対して、必要に応じて、レーザや刃物等による切削加工等を施し、多孔質保護層の形状を微調整してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…ガスセンサ、100…ガスセンサ素子、100a…ガスセンサ素子本体、100b…先端部、100c…先端面、100d…周面、150…検知部、500…擦切型、503…開口縁部、600…擦切刃、700…スラリーの塗膜、701…周面塗膜、702…先端面塗膜、701a,702a…余分な塗膜