(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】自動レール溶接装置およびレールのエンクローズアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/038 20060101AFI20221005BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20221005BHJP
B23K 37/06 20060101ALI20221005BHJP
B23K 9/022 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B23K9/038 B
B23K9/16 M
B23K37/06 B
B23K9/022 Z
(21)【出願番号】P 2019035823
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511104657
【氏名又は名称】JFEテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎也
(72)【発明者】
【氏名】北井 健博
(72)【発明者】
【氏名】八角 元康
(72)【発明者】
【氏名】藤井 充
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-199582(JP,A)
【文献】特開昭55-133871(JP,A)
【文献】特開2001-047233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/038
B23K 9/16
B23K 37/06
B23K 9/022
E01B 29/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを鉛直方向に垂下した状態で保持する溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動可能な移動手段と、前記溶接トーチを回転可能な回転手段と、前記移動手段および回転手段を制御する制御手段と、を備えた溶接装置本体と、
前記溶接ヘッドへ溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置と、
前記溶接ヘッドへ電流を供給する電源装置と、
前記電源装置を制御する電流制御装置と、
相対向するレールの突合せ部の周囲を覆いシールドガス雰囲気を形成する溶接用治具と、
を備え、レールの突合せ面の隙間に前記溶接トーチを挿入して前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動させてレール間を溶接する自動レール溶接装置であって、
前記溶接トーチは、パイプ状をなす電極管内に溶接ワイヤが挿通され、前記電極管の下端はドーム状の壁体で閉塞され、前記壁体にはその中心から偏心した位置に細孔が形成され、前記細孔より前記溶接ワイヤの先端部が前記電極管の中心軸に対して所定の角度をなして突出され、
前記溶接用治具は、それぞれ内部にガス通路を有し、レールの底部を囲繞する第1治具とレールの頭部から腹部を囲繞する第2治具とからなり、
前記第1治具は、
レールの底部の上方を覆い内側空間をシールドガスで満たすための一対のフード手段と、
上面に前記レールの突合せ面の隙間の幅よりも広い幅を有する溝が形成されこの溝以外の部位がレール底面に接するように配設される裏当部材と、
前記溝内に設置される軟鋼からなるプレート状の裏当金と、
前記裏当金の縁部とレールの底面との間に設置される合金鋼からなる一対の丸棒と、
を備えていることを特徴とする自動レール溶接装置。
【請求項2】
前記第2治具は、主としてレールの腹部を覆う部位と、レールの頭頂部を覆う部位とに分割可能に構成され、
前記第2治具のレール頭頂部を覆う部位には、レールの突合せ面の隙間の幅とほぼ等しい間隔をおいてレール表面に接する一対の広がり防止材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動レール溶接装置。
【請求項3】
前記溶接装置本体は、前記移動手段として、
前記溶接ヘッドを鉛直方向へ移動可能な第1直動ユニットと、
前記溶接ヘッドを前後方向へ移動可能な第2直動ユニットと、
前記溶接ヘッドを左右方向へ移動可能な第3直動ユニットと、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の自動レール溶接装置。
【請求項4】
溶接トーチを鉛直方向に垂下した状態で保持する溶接ヘッドを有し前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動可能な移動手段および前記溶接トーチを回転可能な回転手段と前記移動手段および回転手段を制御する制御手段とを備えた溶接装置本体と、
前記溶接ヘッドへ溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置と、
前記溶接ヘッドへ電流を供給する電源装置と、
前記電源装置を制御する電流制御装置と、
相対向するレールの突合せ部の周囲を覆いシールドガス雰囲気を形成する溶接用治具と、
を備え、溶接ワイヤの先端が電極管の外周延長面よりも外側に位置しかつレール端面に接触しないよう設定された所定の角度をなして突出された溶接トーチをレールの突合せ面の隙間に挿入して前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動させてレール間を溶接する自動レール溶接装置を用いたエンクローズアーク溶接方法であって、
前記電流制御装置は、
レールの底部から腹部にかけての部位を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の電流よりも少ない電流を前記溶接ヘッドに供給するように前記電源装置を制御し、
レールの腹部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の電流よりも大きな電流を前記溶接ヘッドに供給するように前記電源装置を制御し、
レールの頭部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の電流とほぼ同一の電流を前記溶接ヘッドに供給するように前記電源装置を制御し、
前記制御手段は、
レールの底部から腹部にかけての部位を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の回転速度よりも低い回転速度で前記溶接トーチを回転させるように前記回転手段を制御し、
レールの腹部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の回転速度よりも高い回転速度で前記溶接トーチを回転させるように前記回転手段を制御し、
レールの頭部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際とほぼ同一の回転速度で前記溶接トーチを回転させるように前記回転手段を制御することを特徴とするレールのエンクローズアーク溶接方法。
【請求項5】
上面に前記レールの突合せ面の隙間の幅よりも広い幅を有する溝が形成され、前記溝内に軟鋼からなるプレート状の裏当金を設置されるとともに、当該裏当金の縁部とレールの底面との間に合金鋼からなる一対の丸棒が設置された裏当部材を設置し、
レールの突合せ部の周囲を覆うように前記溶接用治具を設置した後に、
前記電流制御装置および前記制御手段による制御を開始して、前記溶接トーチを前記レールの突合せ面の隙間内に挿入させて溶接を行うことを特徴とする請求項4に記載のレールのエンクローズアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アーク溶接による自動溶接装置に関し、特に鉄道レールの突合せ部の溶接を行う自動レール溶接装置およびレールのエンクローズアーク溶接方法に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道に敷設されるレールは、ロングレールと呼ばれる継ぎ目のないレールが多くなって来ている。かかるロングレールは、一般に軌道上で数10mのレールの突合せ部を溶接することで形成されている。従来、ロングレール形成のためのレール溶接方法としては、フラッシュバット溶接やガス圧接溶接、エンクローズアーク溶接、テルミット溶接などがあり、施工条件に適した方法が採用され、実施されている。
【0003】
上記4種の溶接方法の中で、エンクローズアーク溶接法は、レールを動かさずに溶接でき、疲労強度などの継手性能が高いという利点がある。
しかし、エンクローズアーク溶接は、手作業による溶接方法であるため、技術者の技量の違いによって性能にバラツキが生じ、欠陥を完全に無くすことが困難であるとともに、作業効率が悪いという課題がある。
【0004】
従来、鉄道レールのエンクローズアーク溶接方法に関する発明としては、例えば特許文献1や2に開示されているものがある。このうち、特許文献1に記載されている溶接方法は、相対向するレールの突合せ継手部に所定幅の開先を設けた状態でこの開先の側面に当て材を配置し、開先内のレールの脚部から腹部を経て頭部に至るまでアーク溶接を施して溶融金属を充填させた溶接部を形成するレールのエンクローズアーク溶接方法であり、溶接部の表面に、レールの脚部から腹部にわたって仕上げ溶接を施すというものである。
【0005】
また、特許文献2に記載されている溶接方法は、レールの底部から腹部の溶接を終えた後、頭部側面に当金を接触して溶接するレール頭部のエンクローズアーク多層溶接において、各層毎に、溶接アークを溶接進行方向と反対方向に向けた状態で溶接を実施し、生じた溶融状態のビード終端クレーター部で溶接アークを漸次溶接進行方向に移行させ、最後に当金と溶接部との間に溶接アークを当てながらクレーターの楕円形状が半円形状になるまで溶接し、しかる後溶接アークを停止するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-260564号公報
【文献】特開平6-71436号公報
【文献】特開昭61-199582号公報
【文献】特開昭61-249679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や2に開示されている溶接方法は、複雑な条件の設定、作業を必要としており、溶接時間が長いという課題があるとともに、人手を必要としない全自動の溶接装置の実現の仕方については開示していない。
なお、特許文献1に開示されているようなエンクローズアーク溶接方法に関しては、溶接トーチの操作を人手で行い溶接ワイヤの送り出しは自動で行うようにした半自動方式が実用化されている。しかし、この方式でも、溶接しようとするレールの端面同士の遊間(開先)を狭めると、アークの狙い位置などとの関係で溶接作業の自由度が極度に悪化して欠陥が発生し易くなるため、遊間をあまり狭くすることができず、それによって溶接金属による埋設量(容積)が多くなり、溶接時間の短縮を妨げる要因になっていることが分かった。
【0008】
一方、自動溶接装置に関する発明としては、例えば特許文献3や4に開示されているものがあり、特許文献3や4には、溶接部の位置(高さ)によって溶接方法(電圧、電流、速度等)を変える技術が記載されている。また、特許文献3や4には、レールを溶接チャンバ(ガスシールドチャンバ)で囲って所望のガス雰囲気を生成してアーク溶接を行うことが開示されている。さらに、特許文献3や4には、溶接ヘッドをレールと直交する水平方向へ移動するX軸移動ブロックと溶接ヘッドを鉛直方向へ移動するY軸移動ブロックとを設けて、溶接ヘッドを移動制御することや溶接ワイヤの先端を偏心して回転させながら溶接を行うことが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3と4に開示されているガスシールドチャンバ(溶接用治具)は、左右に分割されているものの、上下方向には分割されていないため、レール上部と底部それぞれの部位の溶接方法により適したガス雰囲気(溶接条件)を生成することができず、欠陥の少ない高品質の溶接部を得るには限界がある。また、特許文献3と4に開示されている自動溶接装置においては、溶接ヘッドをレールと直交する水平方向へ移動するX軸移動ブロックと溶接ヘッドを鉛直方向へ移動するY軸移動ブロックとを設けているが、レールと平行に水平方向へ移動する移動ブロックを持たないため、溶接ヘッドの最初の位置決めは自動で行うことができず、人手で行う必要があるという課題がある。
【0010】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、最初の溶接ヘッドの位置決めから溶接終了まで、手作業によらず全自動でレールの突合せ部の溶接を行うことができ、それによって欠陥の少ない高品質の溶接部を得ることができる自動レール溶接装置およびレールのエンクローズアーク溶接方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、途中で溶接ワイヤの種類を切り換えることなく所望の特性の溶接部を得ることができる自動レール溶接装置およびレールのエンクローズアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、
溶接トーチを鉛直方向に垂下した状態で保持する溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドを少なくとも横方向および鉛直方向へ移動可能な移動手段と、前記溶接トーチを回転可能な回転手段と、前記移動手段および回転手段を制御する制御手段と、を備えた溶接装置本体と、
前記溶接ヘッドへ溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置と、
前記溶接ヘッドへ電流を供給する電源装置と、
前記電源装置を制御する電流制御装置と、
相対向するレールの突合せ部の周囲を覆いシールドガス雰囲気を形成する溶接用治具と、
を備え、レールの突合せ面の隙間に前記溶接トーチを挿入して前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動させてレール間を溶接する自動レール溶接装置であって、
前記溶接トーチは、パイプ状をなす電極管内に溶接ワイヤが挿通され、前記電極管の下端はドーム状の壁体で閉塞され、前記壁体にはその中心から偏心した位置に細孔が形成され、前記細孔より前記溶接ワイヤの先端部が前記電極管の中心軸に対して所定の角度をなして突出され、
前記溶接用治具は、それぞれ内部にガス通路を有し、レールの底部を囲繞する第1治具とレールの頭部から腹部を囲繞する第2治具とからなり、
前記第1治具は、
レールの底部の上方を覆い内側空間をシールドガスで満たすための一対のフード手段と、
上面に前記レールの突合せ面の隙間の幅よりも広い幅を有する溝が形成されこの溝以外の部位がレール底面に接するように配設される裏当部材と、
前記溝内に設置される軟鋼からなるプレート状の裏当金と、
前記裏当金の縁部とレールの底面との間に設置される合金鋼からなる一対の丸棒と、
を備えているように構成した。
【0012】
上記のような構成の自動レール溶接装置によれば、最初の溶接ヘッドの位置決めから最後まで、手作業によらず全自動でレールの突合せ部の溶接を行うことができるとともに、途中で溶接ワイヤの種類を切り換えることなく所望の特性の溶接部を得ることができる。
また、溶接用治具が、レールの底部を囲繞する第1治具とレールの頭部から腹部を囲繞する第2治具とから構成されているため、レールの上部と下部それぞれの溶接条件により適したガス雰囲気を生成することができ、これによって欠陥の少ない高品質の溶接部を得ることができる。
さらに、第1治具を構成する一対の丸棒によりアークで生じた溶融池が横に広がるのを防止することができ、それによってレール底部における欠陥を減少させることができるとともに、軟鋼からなるプレート状の裏当金によりレール底部が粘り(延性)のある特性を保有するように溶接を実施することができる。
【0013】
ここで、望ましくは、前記第2治具は、主としてレールの腹部を覆う部位と、レールの頭頂部を覆う部位とに分割可能に構成され、
前記第2治具のレール頭頂部を覆う部位には、レールの突合せ面の隙間の幅とほぼ等しい間隔をおいてレール表面に接する一対の広がり防止材が設けられているように構成する。
かかる構成によれば、レール頭頂部の溶接においてもアークで生じた溶融池が横に広がるのを防止することができ、それによってレール頭頂部においても欠陥の少ない高品質の溶接部を得ることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記溶接装置本体は、前記移動手段として、前記溶接ヘッドを鉛直方向へ移動可能な第1直動ユニットと、前記溶接ヘッドを前後方向へ移動可能な第2直動ユニットと、前記溶接ヘッドを左右方向へ移動可能な第3直動ユニットと、を有するように構成する。
かかる構成によれば、溶接ヘッドを鉛直方向と前後方向と左右方向へ移動可能な3つの直動ユニットを備えるため、水平面内においてレールと直交する方向はもちろんのレールと平行な方向へも溶接ヘッドを移動させることができるため、最初の溶接ヘッドの位置決めから溶接終了まで、全自動で精度の高いレール溶接を実行することができる。
【0015】
また、本出願に係る他の発明は、
溶接トーチを鉛直方向に垂下した状態で保持する溶接ヘッドを有し前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動可能な移動手段および前記溶接トーチを回転可能な回転手段と前記移動手段および回転手段を制御する制御手段とを備えた溶接装置本体と、
前記溶接ヘッドへ溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置と、
前記溶接ヘッドへ電流を供給する電源装置と、
前記電源装置を制御する電流制御装置と、
相対向するレールの突合せ部の周囲を覆いシールドガス雰囲気を形成する溶接用治具と、
を備え、溶接ワイヤの先端が電極管の外周延長面よりも外側に位置しかつレール端面に接触しないよう設定された所定の角度をなして突出された溶接トーチをレールの突合せ面の隙間に挿入して前記溶接ヘッドを3軸方向へ移動させてレール間を溶接する自動レール溶接装置を用いたエンクローズアーク溶接方法において、
前記電流制御装置は、
レールの底部から腹部にかけての部位を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の電流よりも少ない電流を前記溶接ヘッドに供給するように前記電源装置を制御し、
レールの腹部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の電流よりも大きな電流を前記溶接ヘッドに供給するように前記電源装置を制御し、
レールの頭部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の電流とほぼ同一の電流を前記溶接ヘッドに供給するように前記電源装置を制御し、
前記制御手段は、
レールの底部から腹部にかけての部位を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の回転速度よりも低い回転速度で前記溶接トーチを回転させるように前記回転手段を制御し、
レールの腹部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際の回転速度よりも高い回転速度で前記溶接トーチを回転させるように前記回転手段を制御し、
レールの頭部を溶接する際には、レールの底部を溶接する際とほぼ同一の回転速度で前記溶接トーチを回転させるように前記回転手段を制御するようにしたものである。
上記のような方法によれば、最初の溶接ヘッドの位置決めから溶接終了まで、すべて手作業によらず全自動で行うことができるとともに、途中で溶接ワイヤの種類を切り換えることなく所望の特性の溶接部を得ることができ、それによって、欠陥の少ない高品質の溶接部を有するロングレールを短時間に形成することができる。
【0016】
ここで、望ましくは、上面に前記レールの突合せ面の隙間の幅よりも広い幅を有する溝が形成され、前記溝内に軟鋼からなるプレート状の裏当金を設置されるとともに、当該裏当金の縁部とレールの底面との間に合金鋼からなる一対の丸棒が設置された裏当部材を設置し、
レールの突合せ部の周囲を覆うように前記溶接用治具を設置した後に、
前記電流制御装置および前記制御手段による制御を開始して、前記溶接トーチを前記レールの突合せ面の隙間内に挿入させて溶接を行うようにする。
かかる方法によれば、レールの底面に設置された一対の丸棒によりアークで生じた溶融池が横に広がるのを防止することができるとともに、軟鋼からなるプレート状の裏当金によりレール底部が粘り(延性)のある特性を保有するように溶接を実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る自動レール溶接装置およびレールのエンクローズアーク溶接方法によれば、最初の溶接ヘッドの位置決めから溶接終了まで、手作業によらず全自動でレールの突合せ部の溶接を行うことができる。また、途中で溶接ワイヤの種類を切り換えることなく所望の特性の溶接部を得ることができる。さらに、第1治具を構成する一対の丸棒によりアークで生じた溶融池が横に広がるのを防止することができ、それによってレール底部における欠陥を減少させることができるとともに、軟鋼からなるプレート状の裏当金によりレール底部が粘り(延性)のある特性を保有するように溶接を実施することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動レール溶接装置の全体構成を示す概略構成図である。
【
図2】実施形態の自動レール溶接装置を構成する溶接装置本体の構成を示すもので、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図3】従来の被膜アーク溶接で使用されている溶接トーチ(溶接棒)と本実施形態における溶接トーチの相違を示す説明図である。
【
図4】従来の被膜アーク溶接や半自動炭酸ガス溶接で使用されている裏当銅板および裏当金と本実施形態における裏当銅板および裏当金の構造の相違を示すもので、(A)は平面図、(B)は要部側面図である。
【
図5】本実施形態におけるレール底部用の溶接用治具の構造を示すもので、(A)は断面正面図、(B)は断面側面図である。
【
図6】本実施形態におけるレール腹部用の溶接用治具の構造を示すもので、(A)は断面正面図、(B)は断面側面図である。
【
図7】本実施形態におけるレール頭部用の溶接用治具の溶接時の使用状態を示すもので、(A)は断面正面図、(B)は断面側面図である。
【
図8】本実施形態におけるレール下部溶接時と上部溶接時における各溶接用治具の使用状態を示す斜視図である。
【
図9】本実施形態の全自動アーク溶接におけるレール溶接位置と溶接条件(電流と回転数)との関係を示す説明図である。
【
図10】本実施形態のアーク溶接における溶接トーチのレール幅方向への移動速度が速い場合と適正な場合と遅い場合における溶着金属の積層量の差異を示す説明図である。
【
図11】本実施形態のアーク溶接における溶接トーチのX軸方向の移動速度と溶接電流との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る自動レール溶接装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1には、一実施形態に係る自動レール溶接装置の全体の概略構成が示されている。
図1に示すように、本実施形態の自動レール溶接装置は、溶接トーチ40を保持しレールR上に設置される溶接装置本体10と、溶接装置全体を統括的に制御する制御盤21、溶接装置本体10に対して溶接ワイヤを自動的に送り出すワイヤ送給装置22、ワイヤ送給装置22に対して電源を供給する溶接電源23、上記制御盤21および溶接電源23に対する3相交流電源(例えばAC200V)を発生する発電機24、溶接装置本体10に対して溶接条件を教示するティーチペンダント(コントローラ)25、溶接部を囲繞して熱を遮断するとともにシールドガス雰囲気を形成するための溶接用治具26などから構成されている。
【0020】
なお、図示しないが、溶接用治具26に対してシールドガスを供給するガス供給装置(ガスボンベやガス混合器)が設けられる。シールドガスとしては、アルゴンと炭酸との混ガス(例えば80%アルゴン,20%CO2)などを用いることができる。また、溶接ワイヤには、ワイヤを送り出す自動送給装置を備えた従来の半自動エンクローズアーク溶接で使用されている径が1.2mmの一般的な溶接ワイヤを使用することができる。
【0021】
制御盤21と溶接電源23との間はケーブル31により、また制御盤21と溶接装置本体10との間はケーブル32,33により接続されており、制御盤21は電流で溶接電源23および溶接装置本体10を制御する。また、溶接電源23と溶接用治具26との間にはキャプタイヤケーブル(-)34が接続され、溶接電源23とワイヤ送給装置22との間にはキャプタイヤケーブル(+)35が接続されているとともに、溶接電源23とワイヤ送給装置22との間には制御ケーブル36が接続されており、溶接電源23からの電流によってワイヤ送給装置22が制御されるように構成されている。なお、ワイヤ送給装置22と溶接装置本体10の溶接ヘッド11との間にはトーチケーブル37が接続され、トーチケーブル37内に溶接ワイヤが挿通されている。
【0022】
図2(A),(B)には上記実施形態の自動レール溶接装置を構成する溶接装置本体10の詳細が示されている。このうち(A)は溶接装置本体10の正面図、(B)は側面図である。
図2に示すように、本実施形態の自動レール溶接装置における溶接装置本体10は、溶接装置本体10の下部に設けられ操作ハンドル12a,12bを回すことでクランパ12cを移動させてクランパ12cとクランプピン12dとでレールRを挟み込んで本体をレールR上に固定するためのレールクランプ装置12と、レールクランプ装置12上に固定された基台13、基台13上に載置された制御中継箱14、この制御中継箱14上に載置された制御操作ボックス15を備える。
【0023】
また、溶接装置本体10は、上記制御操作ボックス15の前面に装着された鉛直軸方向直動ユニット(以下、Z軸ユニット)16、Z軸ユニット16を前後方向(レール長手方向)に移動させる前後方向直動ユニット(以下、Y軸ユニット)17、Y軸ユニット17を左右方向(レール幅方向)に移動させる左右方向直動ユニット(以下、X軸ユニット)18を備え、X軸ユニット18の可動側に溶接ヘッド11が結合されている。
特に限定されるものでないが、この実施形態においては、Z軸ユニット16はチェーン移送方式、Y軸ユニット17とX軸ユニット18は送りネジ方式である。X,Y,Z軸の各直動ユニット16~18は、それぞれモータを備えており、制御操作ボックス15からの制御信号に従ってモータが駆動制御され、溶接ヘッド11をX,Y,Z軸へ移動させる。なお、溶接ヘッド11を移動させる機構は、
図2に示されているものに限定されず、3軸方向に移動可能なものであれば、ラック・ピニオン方式などどのような機構であっても良い。
【0024】
溶接ヘッド11の下部には、溶接トーチ40を垂下するホルダ11aと、ホルダ11aを保持する回転ヘッド11b、回転ヘッド11bを鉛直軸回りに回転させる回転ユニット11c、回転ヘッド11b上に設けられた溶接ワイヤの誘導機構部11d、回転ヘッド11bおよび誘導機構部11dを支持するフレーム11fが設けられ、フレーム11fが結合ブロック11eによって、X軸ユニット18の可動側に結合されている。なお、
図2(A)においては、回転ユニット11cの図示が省略されている。
【0025】
本実施形態の自動レール溶接装置における溶接トーチ40は、端面が相対向する2本のレールの比較的狭い開先(遊間)内に挿入された状態で良好なアーク溶接が行えるようにするために工夫がなされている。ここで、本実施例における溶接トーチ40の工夫された構成について、従来の被膜アーク溶接で使用されている溶接トーチ(溶接棒)と比較しながら説明する。
図3には、従来の被膜アーク溶接で使用されている溶接トーチ(溶接棒)と本実施例における溶接トーチが示されている。
図3において、左側(A)に示されているのが従来の溶接トーチ40’、右側(B)に示されているのが本実施例における溶接トーチ40である。
【0026】
図3(A)に示すように、従来の溶接トーチ40’は、溶接材からなる直径約4mmの心線41の外周が厚さ約1.5mmの被膜材42で被覆した溶接棒であり、溶接の進行と共に心線41および被膜材42が減少するというものであった。そして、従来の被膜アーク溶接では、溶接トーチ自身は作業者によって扱われており、溶接棒を0~2°の範囲で傾けて溶接作業を実施していた。
そのため、溶接作業に熟練を要するとともに、溶接しようとするレールの端面同士の開先を狭めると、熟練者にとっても、アークの狙い位置などとの関係で溶接作業の自由度が極度に悪化して作業がしずらく欠陥が発生し易くなるので、遊間をあまり狭くすることができず、開先幅W’は14mm以下にできないとされており、開先幅を14~20mmに設定してアーク溶接を実施するのが一般的であった。
【0027】
これに対し、
図3(B)に示す本実施形態の自動レール溶接装置においては、装置の全自動化を行うとともに、溶接トーチ40として、外径が6~7mmのパイプ状をなす銅電極管からなるコンタクトチップ43内に径が約1.2mmの溶接ワイヤ44を挿通したものを使用することとした。さらに、コンタクトチップ43は鉛直姿勢となるように保持するとともに、先端(下端)をドーム状(半球状)の壁体43aで閉塞し、ドーム状壁体43aの中心から少しずれた位置(偏心した位置)に溶接ワイヤ44を突出させる細孔を形成し、コンタクトチップ43の中心軸に対して約10~15°の角度をなして溶接ワイヤ44が突出する構成とした。なお、溶接ワイヤ44の壁体43aからの突出量は、レール開先幅の1/2以上である。
【0028】
上記のような設定の下において、溶接トーチ40を回転させながら移動させると、溶接ワイヤ44の先端が螺旋を描きつつ移動することで、溶融池が規則的に撹拌されて平滑な溶接ビード形状が形成されるようになり、良好な溶接品質を保証できるようになった。さらに、本実施形態の自動レール溶接装置においては、溶接ヘッド11によって溶接トーチ40を鉛直方向に正確に垂下させて保持することで、レールの開先幅Wを8~13mmに設定してアーク溶接を実施することができるため、溶接による埋設量(容積)を少なくすることができ、それによって溶接時間を大幅に短縮することができるようになった。
【0029】
なお、溶接ワイヤ44の突出する角度を10~15°としたのは、突出角度が10°よりも小さいと溶接ワイヤ44の先端がレールの端面から離れすぎて、アークがふらついて開先幅全体にわたって隙間なく溶接金属で埋めることが困難になる一方、15°よりも大きいとワイヤの先端がレール端面に近づき過ぎて、アークの偏向現象が生じて多量のスパッタが発生してしまい、良好な溶接仕上がりが得られなくなるためである。なお、溶接ワイヤ44の突出角度の10~15°は、レールの開先幅が8~13mmで、溶接トーチ40の外径が6~7mmの場合に好適な範囲であり、開先幅または溶接トーチの外径等が変われば好適な範囲も変わる。つまり、所定長さ突出させた際に当該溶接ワイヤの先端が前記電極管の外周延長面よりも外側に位置しかつレール端面に接触しないように角度を設定する。
【0030】
さらに、本実施形態の自動レール溶接装置においては、裏当金および裏当銅板の形状やシールドガスを供給する溶接用治具の構造についても、以下に述べるような工夫がなされている。
先ず、
図4を用いて、本実施形態における裏当金の構造について、従来の被膜アーク溶接や半自動炭酸ガス溶接で使用されている裏当金と比較しながら説明する。
図4において、(A)は平面図、(B)はレール下部を示す側面図である。また、
図4において、左側のものは従来の被膜アーク溶接で使用されている裏当銅板を、真ん中のものは従来の半自動炭酸ガス溶接で使用されている裏当金および裏当銅板を、右側のものは本実施形態で使用されている裏当金および裏当銅板を、それぞれ示している。
【0031】
図4に示されているように、従来の被膜アーク溶接(
図4の左側の図)で使用されている裏当銅板51は、レールの開先(遊間)に対向する部位に浅い溝51aが表面に形成され、溝51aの中央には凹み51bが形成されていた。また、従来の被膜アーク溶接では、軟鋼からなる溶接開始用捨金52が使用されていた。
一方、従来の半自動炭酸ガス溶接(
図4の中央の図)では、裏当銅板51の表面に形成された浅い溝51a内に軟鋼からなるプレート状の裏当金53が設置されるとともに、レールの開先の両端部にコの字状の溶融金属流出防止捨金54A,54Bが設置された状態で溶接が開始されるようになっていた。
【0032】
これに対して、本実施形態(
図4の右側の図)では、裏当銅板51の表面に半自動炭酸ガス溶接(中央)の場合よりも少し深い溝51aが形成され、該溝51a内に軟鋼からなる厚さが例えば2~3mmのプレート状の裏当金53が設置されるとともに、裏当金53の縁部とレールRの底面との間に合金鋼からなる直径2~4mmの丸棒55A,55Bが設置されている。このような工夫を行うことで、従来方法に比べて、溶接開始時に溶接金属が外側に広がるのを抑えることができるとともに、レール底面付近の溶接金属へ裏当金53の軟鋼成分が混入することにより、溶接ワイヤを交換する(溶接材料を変える)ことなく溶接継手として要求される特性(レール底部の粘り)を実現することができる。なお、裏当銅板51と裏当金53および丸棒55A,55Bは、溶接用治具26Aとともに治具を構成しているとみなすことができる。
【0033】
次に、
図5~
図8を用いて、本実施形態における溶接用治具26の構造について説明する。このうち
図5はレール底部の溶接の際に使用される溶接用治具26Aを、
図6はレール腹部の溶接の際に使用される溶接用治具26Bを、
図7はレール頭部の溶接の際に使用される溶接用治具26Cを示す。また、
図8(A)は
図5の溶接用治具26Aの溶接時の使用状態を示す斜視図、
図8(B)は
図6および
図7の溶接用治具26B,26Cの溶接時の使用状態を示す斜視図である。なお、溶接用治具26A,26B,26Cは、レールRを挟んで対称的な形状に形成されているので、以下、片側半分の治具に着目して説明し、反対側については説明を省略する。
【0034】
溶接用治具26Aは、
図5(A)に示すように、レール外側方に位置する垂直壁61Aと垂直壁61Aの上端からレール腹部中央に向かって上昇するように傾斜した傾斜壁61Bを有する金属製のフードフレーム61と、フードフレーム61の上方を覆うように傾斜壁61Bの上面に接合された絶縁プレート62と、内側面および下面がレールRの腹部から底部上面に対応した形状を有しフードフレーム61の内側に配設された銅側板63とにより構成されている。銅側板63の内部にはシールドガスを誘導する3段のガス通路63a,63b,63cが形成されているとともに、フードフレーム61の垂直壁61Aの外側面には上記ガス通路63a,63bと連通されシールドガス供給パイプが接続される口金としてのガス供給管64a,64bが設けられている。ガス通路63cは、銅側板63内部でガス通路63bに連通されている。
【0035】
また、溶接用治具26Aの中央には、
図8(A)に示すように、上方から溶接トーチ40を挿入することができるよう、レールの開先(遊間)に対応した幅のスリット65が設けられている。そして、
図5(B)に示すように、銅側板63には、前記ガス通路63a,63b,63cと連通されスリット65に面する部位に向けて開口された複数のガス噴出孔66が形成され、スリット65の内部空間をシールドガスで満たすことができるように構成されている。
従来の半自動炭酸ガス溶接(
図4の中央の図)では、レールのフランジ部上面にて溶接金属が
図5(B)における左右方向に広がり、その直下に欠陥が発生し易かったが、本実施形態では、レールの開先を狭めるとともに銅側板63の下部までガス噴出孔66を形成したことによって、溶接金属が左右方向に広がるのを防止し、欠陥が発生するのを回避することができるようになった。
【0036】
次に、
図6を用いてレール腹部の溶接の際に使用される溶接用治具26Bについて説明する。溶接用治具26Bは、
図6(A)に示すように、溶接用治具26Bは、内部にシールドガス室67aを有する銅製の治具本体67と、治具本体67の外側面に固着され内部に冷却水室68aを有する鋼製のカバー68とを備える。治具本体67のレールRの腹部と対向する内壁面には、シールドガス室67aに連通された複数のガス噴出孔69が形成されている。
また、
図6(B)に示すように、治具本体67の後壁には内部のシールドガス室67aに連通されシールドガス供給パイプが接続される口金としてのガス供給管67bが設けられ、カバー68の後壁には内部の冷却水室68aに連通され冷却水循環パイプが接続される口金としての冷却水循環配管68bが設けられている。
【0037】
さらに、治具本体67の底壁中央には、レール底部上面に形成される溶接の余盛り(ビード)との干渉を回避するための切欠き67cが設けられており、これにより腹部溶接開始前にレール底部上面の余盛りを研削することなく溶接用治具26BをレールRに装着できるようになっている。その結果、溶接作業の途中でレール底部上面の余盛りを研削して除去する作業を実施する必要をなくし、作業時間の短縮を図ることができる。
また、治具本体67の内壁面がレールRの頭部側面に近接するように構成しても溶接は可能であるが、本実施形態においては、レール頭部側面の余盛り幅を大きくすることで欠陥を減少させることができるように、治具本体67の内壁面とレールRの頭部側面との間に比較的余裕のある隙間が設けられている(
図6(A))。
【0038】
次に、
図7を用いてレール頭部の溶接の際に使用される溶接用治具26Cについて説明する。溶接用治具26Cは、
図7(B)に示すように、レールの開先を挟んで互いに対向するように配置されレールRの頭部上面に接触する一対の台形状の溶接金属整形用銅側板71A,71Bと、該銅側板71A,71Aの両側に配置された一対の直方体状の保護用銅側板72A,72Bと、これらの銅側板71A,71Bおよび72A,72Bの側面および上面を囲むように形成された箱状をなす鋼製のフードフレーム73と、銅側板71A,71Bの上方の空間内に配設されたガス導入管74と、フードフレーム73の上壁上面に接合された絶縁プレート75とを備える。
【0039】
フードフレーム73の上壁と絶縁プレート75には、溶接トーチを挿入可能なレール幅方向に長い開口73aと75aが形成されている。また、ガス導入管74は、2本の平行管74A,74Bを備え、これらの平行管74A,74Bが上記開口73a,75aと並行するように配設されている。さらに、ガス導入管74は、
図7(A)に示すように、平行管74A,74Bの両端部がフードフレーム73の外側に突出するとともに、平行管74A,74Bには、内向きすなわち互いに対向する向きに複数のガス噴出孔74aが形成されており、これらのガス噴出孔74aからシールドガスが噴出されることで、開口73a,75aからの外気の侵入を防止するエアーカーテンを形成可能に構成されている。
【0040】
また、ガス導入管74の平行管74A,74Bの一方の端部(
図7(B)では右側端部)には、口金として機能するガス供給管74Cが結合され、該ガス供給管74Cにシールドガス供給パイプが接続可能に構成されている。フードフレーム73の側壁は、保護用銅側板72A,72Bの下端よりも下方へ突出する高さを有するように形成され、
図7(A)に示すように、保護用銅側板72A,72Bの両側方に、前記レール腹部用の溶接用治具26Bの頭部が係合可能な空部76A,76Bが形成されている。
【0041】
上記のような構成を有するレール頭部用の溶接用治具26Cは、
図8(B)に示すように、レール腹部用の溶接用治具26Bの頭部が係合された状態で、レールRの頭部上面に載置されて装着される。なお、
図8(B)において、符号77が付されているのは、溶接用治具26Bへのシールドガス供給パイプである。溶接用治具26Bへの冷却水循環パイプと溶接用治具26Cへのシールドガス供給パイプの図示は省略されている。
図7に示す実施例の溶接用治具26Cにあっては、台形状の溶接金属整形用銅側板71A,71Bを設けない構成も可能であるが、溶接金属整形用銅側板71A,71Bを設けることによって、
図7(B)から分かるように、レール頭頂面の溶接の際に溶接金属が横に広がるのを防止することができ、それによって欠陥の発生を抑制することができる。
【0042】
次に、本実施形態の自動レール溶接装置を用いた溶接作業の条件および制御内容について、
図9~
図12を用いて説明する。
図9は、本実施形態の自動レール溶接装置を用いたレール溶接作業における溶接部位と溶接ヘッド11への供給電流およびヘッド回転速度との関係を示す。
図9に矢印で示されているように、レールRの底部から開始して腹部、頭部の順に下から上へ溶接作業が実施される。
図9において、実線は比較的大きな電流を流しつつ溶接ヘッドを比較的高い回転速度で回転させるように制御することを意味し、点線は比較的小さな電流を流しつつ溶接ヘッドを比較的低い回転速度で回転させるように制御することを意味している。また、破線は中程度の電流を流しつつ溶接ヘッドを中程度の回転速度で回転させるように制御することを意味している。
【0043】
従って、
図9は、レールRの底部の溶接を中程度の電流で中程度の回転速度で開始して、高電流・高回転に移行し、下首下部では中電流で中回転で溶接を実行する。また、下首上部では低電流・低回転に移行し、レールの腹部から上首部では高電流・高回転で溶接を実行する。そして、レール頭部では中電流・中回転に移行し、最後の頭頂部では低電流・低回転で溶接を実行することを表わしている。なお、レール底部の溶接は、最初から最後まで中電流・中回転で実施しても良い。
また、レール底部から下首上部にかけての溶接は底部用の溶接用治具(26A)をレールに装着した状態で実行し、レール腹部から頭頂部までの溶接は上部用の溶接用治具(26B,26C)をレールに装着した状態で実行する。
【0044】
さらに、設定した溶接トーチのX軸方向(レール幅方向)への移動速度が速すぎると
図10(A)に示すように溶融金属が少なく溶着金属の積層不足が生じ、逆に設定した移動速度が遅いと
図10(C)に示すように溶融金属が多くなり溶着金属の積層過多となる。そこで、本実施形態の自動レール溶接装置においては、溶接トーチのX軸方向(レール幅方向)への移動速度と溶接電流との関係が、
図11に示すように、X軸方向の下限速度では溶接電流が少なくされ、速度が速くなるに従って溶接電流が増加するように制御係数(グラフの傾き)を設定することとした。
上記のような条件および制御を実行することで、
図10(B)に示すように溶融金属の量が適正となり、欠陥が少ない良好な品質の溶接部が形成されかつ短い所要時間でレールの溶接作業を完了することができるようになった。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、溶接ヘッドをX軸方向、Y軸方向、Z軸方向へそれぞ移動させる3個のアクチュエータ(モータ等)を設けたが、例えばX軸方向に関しては手動で溶接ヘッド(溶接トーチ)を移動させることができるように構成してもよい。
また、上記実施形態の自動レール溶接装置では、溶接の開始から完了まで同一の溶接ワイヤを溶接ヘッドに供給するようにしているが、例えば溶接用治具の切換えのタイミングに合わせて溶接ワイヤの種類(径や材質等)を切り換えるように構成しても良い。さらに、溶接金属の成分組成や組織形態を変化させるため、シールドガスの種類や混合比を切り替えるようにしても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 溶接装置本体
11 溶接ヘッド
12 レールクランプ装置
14 制御中継箱
15 制御操作ボックス
16 鉛直軸方向直動ユニット(Z軸ユニット)
17 前後方向直動ユニット(Y軸ユニット)
18 左右方向直動ユニット(X軸ユニット)
21 制御盤
22 ワイヤ送給装置
23 溶接電源
24 発電機
25 ティーチペンダント(コントローラ)
26 溶接用治具
31~37 ケーブル
40 溶接トーチ
51 裏当銅板(裏当部材)
53 裏当金
55A,55B 丸棒(広がり防止材)
61 フードフレーム(フード手段)
63 銅側板
71A,71B 側板(広がり防止材)