(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】燃料電池用電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221005BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221005BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019124418
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】神谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】藤本 洋
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-073357(JP,A)
【文献】国際公開第2018/064623(WO,A1)
【文献】特開2018-152333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池用電極。
(1)前記燃料電池用電極は、
電極触媒の表面が第1アイオノマからなる第1層でコートされたアイオノマコート触媒と、
前記第1アイオノマに接している第2アイオノマからなる第2層と、
を備えている。
(2)前記第1アイオノマは、イオン交換容量が1.1meq/g以上1.25meq/g以下である高酸素透過アイオノマ(A)からなる。
(3)前記高酸素透過アイオノマ(A)は、その分子構造内に酸基及び環状構造を含む高分子化合物からなる。
(4)前記第2アイオノマは、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸からなる。
(5)前記アイオノマコート触媒は、次の式(1)で表される残存率R(%)が70%以上である。
R(%)=(x
0
-x)×100/x
0
・・・(1)
但し、
xは、前記アイオノマコート触媒を水:エタノール=70:30(重量比)の混合溶媒に加えて分散液とした時に、前記混合溶媒中に溶け出した前記第1アイオノマの濃度、
x
0
は、前記混合溶媒に前記第1アイオノマのすべてが溶け出したと仮定した時の、前記混合溶媒中の前記第1アイオノマの濃度の理論値。
【請求項2】
前記高酸素透過アイオノマ(A)は、温度80℃、相対湿度30%RHにおける酸素透過係数が2.2×10
-14mol/(m・s・Pa)以上であるアイオノマからなる請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記電極触媒は、
カーボン担体と、
前記カーボン担体の表面に担持された触媒微粒子と
を備えている
請求項1又は2に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
I
1/C比が0.2以上0.7以下である
請求項3に記載の燃料電池用電極。
但し、「I
1/C比」とは、前記カーボン担体の重量(W
c)に対する前記第1アイオノマの重量(W
1)の比(=W
1/W
c)をいう。
【請求項5】
I
2/C比が0.2以上1.0以下である
請求項3又は4に記載の燃料電池用電極。
但し、「I
2/C比」とは、前記カーボン担体の重量(W
c)に対する前記第2アイオノマの重量(W
2)の比(=W
2/W
c)をいう。
【請求項6】
I
1/C比+I
2/C比が0.5以上1.4以下である
請求項3から5までのいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
但し、
「I
1/C比」とは、前記カーボン担体の重量(W
c)に対する前記第1アイオノマの重量(W
1)の比(=W
1/W
c)、
「I
2/C比」とは、前記カーボン担体の重量(W
c)に対する前記第2アイオノマの重量(W
2)の比(=W
2/W
c)をいう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極に関し、さらに詳しくは、電極触媒の表面が高酸素透過アイオノマでコートされた触媒(アイオノマコート触媒)を含む燃料電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子形燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との複合体からなる。
【0003】
固体高分子形燃料電池に用いられる触媒層は、一般に、
(a)電極触媒及びアイオノマを含み、固形分濃度が約10%の触媒インクを作製し、
(b)種々の方法を用いて、触媒インクを基材表面に塗布し、塗膜中の溶媒を揮発させることにより基材表面に触媒層を形成し、
(c)基材表面の触媒層を電解質膜に転写する
ことにより製造されている。
また、基材の代わりに固体高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布する方法もある。
【0004】
基材表面への触媒インクの塗布方法としては、例えば、スプレー法、ドクターブレードやアプリケーターを用いたブレードコート法、ダイコート法、リバースロールコータ法、間欠ダイ塗工法などが知られている。いずれの方法を用いる場合であっても、触媒インクの性状は、触媒層の健全性や生産性に影響を与える。そのため、触媒層の健全性や生産性を向上させることを目的として、従来から種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、
(a)白金担持カーボン(Pt/C)をナフィオン(登録商標)溶液に分散させた後、溶媒を除去することによりPt/Cの表面をナフィオン(登録商標)で被覆し、
(b)ナフィオン(登録商標)で被覆されたPt/Cを窒素雰囲気中、140℃で熱処理することにより、ナフィオン(登録商標)を溶媒に対して不溶化し、
(c)不溶化したナフィオン(登録商標)で被覆されたPt/Cを、さらにナフィオン(登録商標)溶液に分散させてペーストとし、ペーストをカーボンペーパー上に展開し、乾燥させる
ことにより得られる燃料電池用電極が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)高分子電解質で被覆されたPt/Cをそのまま溶媒に再分散させてペーストにすると、高分子電解質が溶媒中に溶出し、電極のイオン伝導度が低下するする点、及び、
(B)ペーストに分散させる前にPt/Cを被覆する高分子電解質を不溶化処理すると、高分子電解質の溶媒中への溶出を抑制することができる点
が記載されている。
【0007】
特許文献2には、
(a)高酸素透過アイオノマ及び白金担持カーボンを含む分散液を調製し、分散液から溶媒を蒸発させて乾燥粉とし、
(b)乾燥粉、及びナフィオン(登録商標)溶液を含む分散液を調整し、分散液をシート上に塗布する
ことにより得られる燃料電池用電極が開示されている。
同文献には、触媒層アイオノマを二層構造にすることにより、高酸素透過性材料の使用量が少量であっても酸素透過性が向上し、触媒使用量を低減できる点が記載されている。
【0008】
特許文献3には、
(a)白金担持カーボン及び高酸素透過アイオノマを、水比率が0.8以上である溶媒に分散させて分散液とし、
(b)分散液を乾燥させて粉末とし、
(c)粉末を130℃以上200℃以下の熱処理温度で熱処理する
ことにより得られるアイオノマコート触媒が開示されている。
同文献には、このようなアイオノマコート触媒を用いると、低粘度、かつ、高固形分濃度の触媒インクを製造することができる点が記載されている。
【0009】
特許文献4には、
(a)白金担持カーボン、高酸素溶解性アイオノマ、及び低酸素溶解性アイオノマを含む触媒インクを調製し、
(b)触媒インクを電解質膜表面に塗布する
ことにより得られるカソード電極触媒層が開示されている。
同文献には、酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマを用いることによって、プロトン伝導性を低下させずに活性化過電圧を低減することができる点が記載されている。
【0010】
特許文献5には、高酸素透過アイオノマを触媒層アイオノマに用いた燃料電池が開示されている。
同文献には、高酸素透過アイオノマを触媒層アイオノマに用いることによって、白金使用量を低減できる点が記載されている。
【0011】
特許文献6には、
(a)白金担持カーボン、EWが910であるアイオノマ、及び、EWが1030であるアイオノマを溶媒に分散させてペースト状にし、
(b)ペーストをシートに塗布し、乾燥させる
ことにより得られる触媒シートが開示されている。
同文献には、触媒層アイオノマとしてEWの異なる2種類のアイオノマを用いることによって、触媒層内の水の排出能が向上し、高電流密度領域においても安定した電池電圧が得られる点が記載されている。
【0012】
特許文献7には、
(a)白金担持カーボン、EWが700であるアイオノマ、及びEWが1000であるアイオノマを溶媒に分散させて触媒インクとし、
(b)触媒インクを転写シート上に塗布する
ことにより得られる電極触媒層が開示されている。
同文献には、
(A)EWの低いアイオノマで白金担持カーボンの表面を被覆することにより、塗膜のひび割れが抑制される点、及び、
(B)EWの高いアイオノマを添加することで、フラッディングを抑制できる点
が記載されている。
【0013】
特許文献8、9には、
(a)白金担持カーボン、高酸素透過アイオノマ(例えば、環状構造を有する環式化合物)、及び低酸素透過アイオノマ(例えば、ナフィオン(登録商標))を溶媒に分散させて触媒インクとし、
(b)触媒インクを電解質膜の表面に塗布する
ことにより得られるカソード側電極が開示されている。
同文献には、
(A)高酸素透過アイオノマのみを用いて電極を形成すると、電極にひび割れが生じやすい点、及び、
(B)高酸素透過アイオノマと低酸素透過アイオノマの双方を用いると、電極のひび割れが抑制される点
が記載されている。
【0014】
さらに、特許文献10には、膨張率(膨潤率)が140%以上200%以下であるアイオノマを用いた電極触媒層が開示されている。
同文献には、膨張率(膨潤率)が上がるにつれて高温性能(Dry性能)は上がる一方、低温性能(Wet性能)は下がる点が記載されている。
【0015】
固体高分子形燃料電池を自動車用の燃料電池システムに用いる場合、燃料電池の触媒層には、低温高湿度条件から高温低湿度条件までの広い作動条件下において高い発電性能を示すことが求められる。一般に、低温高湿度条件では、触媒層中のアイオノマの膨潤や生成水の滞留により触媒層内の空隙が減少するために、発電性能が低下しやすい。一方、高温低湿度条件では、触媒層アイオノマの含水率が低下するために、触媒層中のプロトン移動抵抗が増大しやすい。
【0016】
しかしながら、従来の触媒層は、アイオノマの溶出の抑制(特許文献1)、高酸素透過アイオノマを用いた高性能化及び白金使用量の低減(特許文献2~5、8、9)、高電流密度領域での性能向上(特許文献6、7)などを目的としており、低温高湿度条件から高温低湿度条件までの広い作動条件下において性能を向上させることを目的とした触媒層が提案された例は、少ない。
例えば、特許文献10には、触媒層アイオノマの膨張率を最適化することにより、高温性能と低温性能を両立させる点が記載されているが、使用した触媒層アイオノマの種類やイオン交換容量等については示されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開平07-254419号公報
【文献】特開2014-216157号公報
【文献】特開2018-152333号公報
【文献】特開2011-113739号公報
【文献】特開2010-251086号公報
【文献】特開平10-284087号公報
【文献】特開2018-006265号公報
【文献】特開2013-037940号公報
【文献】特開2018-081853号公報
【文献】特開2013-089447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、高温低湿度条件及び低温高湿度条件のいずれにおいても高い発電性能を示す燃料電池用電極を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高温低湿度条件下における発電性能及び/又は低温高湿度条件下における発電性能を犠牲にすることなく、触媒の使用量を低減することが可能な燃料電池用電極を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような性能を備えた燃料電池用電極の製造時間(触媒インクの乾燥時間)を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池用電極は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記燃料電池用電極は、
電極触媒の表面が第1アイオノマからなる第1層でコートされたアイオノマコート触媒と、
前記第1アイオノマに接している第2アイオノマからなる第2層と、
を備えている。
(2)前記第1アイオノマは、イオン交換容量が1.1meq/g以上1.25meq/g以下である高酸素透過アイオノマ(A)からなる。
(3)前記高酸素透過アイオノマ(A)は、その分子構造内に酸基及び環状構造を含む高分子化合物からなる。
【発明の効果】
【0020】
電極触媒の表面を高酸素透過アイオノマ(A)でコートする場合において、高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量を最適化すると、高温低湿度条件及び低温高湿度条件のいずれにおいても高い発電性能を示す燃料電池用電極が得られる。これは、
(a)高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量を1.1meq/g以上にすることによって、高温低湿度環境下でも触媒層中のプロトン移動抵抗の増大が抑制されるため、及び、
(b)高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量を1.25meq/g以下にすることによって、アイオノマの過度の膨潤が抑制され、また、アイオノマ表面がより撥水性となるために、触媒層内に十分な空隙が確保されるため、
と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】高酸素透過アイオノマのイオン交換容量と電流密度比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池用電極]
本発明に係る燃料電池用電極は、以下の構成を備えている。
(1)前記燃料電池用電極は、
電極触媒の表面が第1アイオノマからなる第1層でコートされたアイオノマコート触媒と、
前記第1アイオノマに接している第2アイオノマからなる第2層と、
を備えている。
(2)前記第1アイオノマは、イオン交換容量が1.1meq/g以上1.25meq/g以下である高酸素透過アイオノマ(A)からなる。
(3)前記高酸素透過アイオノマ(A)は、その分子構造内に酸基及び環状構造を含む高分子化合物からなる。
【0023】
[1.1. アイオノマコート触媒]
アイオノマコート触媒は、電極触媒と、電極触媒の表面に接している第1アイオノマからなる第1層とを備えている。後述する方法を用いると、電極触媒の表面が第1層でコートされた触媒(アイオノマコート触媒)が得られる。本発明に係る燃料電池用電極は、このようなアイオノマコート触媒と、第2アイオノマとの複合体からなる。
【0024】
[1.1.1. 電極触媒]
本発明において、電極触媒は、特に限定されるものではなく、酸素還元反応活性又は水素酸化反応活性を示す材料であれば良い。電極触媒としては、具体的には、白金、白金合金、パラジウム合金、金属酸窒化物、カーボンアロイなどがある。
電極触媒は、触媒粒子のみからなるものでも良く、あるいは、適当な担体表面に触媒微粒子を担持したものでも良い。担体の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。担体ととしては、例えば、炭素材料(例えば、カーボン、活性炭、フラーレン、カーボンナノフォン、カーボンナノチューブ)、金属酸化物などがある。
【0025】
電極触媒は、カーボン担体と、前記カーボン担体の表面に担持された触媒微粒子とを備えているものが好ましい。一般に、カーボン担体を含む電極触媒を用いて、低粘度、かつ、高固形分濃度の触媒インクを製造することは難しい。これは、触媒インクの固形分濃度が高くなるほど、溶媒中におけるカーボン間の凝集力が強くなるためと考えられる。
これに対し、カーボン担体を含む電極触媒に対して本発明を適用すると、低粘度、かつ、高固形分濃度の触媒インクを製造することができる。
【0026】
[1.1.2. 第1アイオノマ]
本発明において、第1層を構成する第1アイオノマは、イオン交換容量が1.1meq/g以上1.25meq/g以下である高酸素透過アイオノマ(A)からなる。この点が従来とは異なる。
【0027】
[A. 定義]
「高酸素透過アイオノマ(A)」とは、その分子構造内に酸基及び環状構造を含む高分子化合物をいう。
高酸素透過アイオノマ(A)は、その分子構造内に環状構造を含むために、酸素透過係数が高く、触媒層アイオノマとして用いた時に、触媒との界面における酸素移動抵抗が相対的に小さくなる。
換言すれば、「高酸素透過アイオノマ(A)」とは、酸素透過係数がナフィオン(登録商標)に代表されるポリパーフルオロカーボンスルホン酸よりも高いアイオノマをいう。
【0028】
一般に、燃料電池の性能は、触媒表面への酸素の拡散が律速となる。これに対し、電極触媒の表面を高酸素透過アイオノマで被覆すると、触媒層の酸素透過性が向上し、燃料電池の性能が向上する。
高酸素透過アイオノマ(A)の分子構造は、相対的に小さい酸素移動抵抗を示す限りにおいて、特に限定されない。特に、その分子構造内に環状構造(脂肪族環構造)を含むアイオノマは、環状構造を含まないアイオノマに比べて酸素移動抵抗が小さいので、第1層を構成する第1アイオノマとして好適である。
【0029】
高酸素透過アイオノマ(A)としては、例えば、
(a)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロスルホン酸を側鎖に持つ酸基ユニットとを含む電解質ポリマー、
(b)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロイミドを側鎖に持つ酸基ユニットとを含む電解質ポリマー、
(c)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンに直接、パーフルオロスルホン酸が結合したユニットを含む電解質ポリマー、
などがある(参考文献1~4参照)。
[参考文献1]特開2003-036856号公報
[参考文献2]国際公開第2012/088166号
[参考文献3]特開2013-216811号公報
[参考文献4]特開2006-152249号公報
【0030】
[B. 酸素透過係数]
「酸素透過係数」とは、白金微小電極を用いたクロノアンペロメトリー法により測定された値をいう(参考文献5)。
[参考文献5]Electrochimica Acta, 209(2016)682-690
【0031】
高い燃料電池特性を得るためには、高酸素透過アイオノマ(A)の酸素透過係数は高いほど良い。具体的には、高酸素透過アイオノマ(A)は、温度80℃、相対湿度30%RHにおける酸素透過係数が2.2×10-14mol/(m・s・Pa)以上であるものが好ましい。同条件下における酸素透過係数は、好ましくは、3.0×10-14mol/(m・s・Pa)以上、さらに好ましくは、5.0×10-14mol/(m・s・Pa)以上である。
【0032】
[C. イオン交換容量]
高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量は、高温低湿度条件下での発電性能及び低温高湿度条件下での発電性能の双方に影響を与える。一般に、イオン交換容量が過度に小さくなると、高温低湿度環境下における触媒層中のプロトン移動抵抗が増大する。従って、高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量は、1.1meq/g以上である必要がある。イオン交換容量は、好ましくは、1.15meq/g以上である。
【0033】
一方、高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量が大きくなりすぎると、低温高湿度環境下において大きく膨潤する。アイオノマの膨潤量が過度に大きくなると、触媒層内の空隙が減少するために、発電性能が低下しやすくなる。また、アイオノマ表面が親水的となり、電極の排水性能が低下する。従って、高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量は、1.25meq/g以下である必要がある。イオン交換容量は、好ましくは、1.23meq/g以下である。
【0034】
[1.1.3. 残存率]
「残存率」とは、アイオノマコート触媒を水/エタノール混合溶媒に分散させた時に、混合溶媒に溶解することなく、電極触媒の表面に残存しているアイオノマの割合をいう。残存率R(%)は、具体的には、次の式(1)で表される。
R(%)=(x0-x)×100/x0 ・・・(1)
但し、
xは、前記アイオノマコート触媒を水:エタノール=70:30(重量比)の混合溶媒に加えて分散液とした時に、前記混合溶媒中に溶け出した前記第1アイオノマの濃度、
x0は、前記混合溶媒に前記第1アイオノマのすべてが溶け出したと仮定した時の、前記混合溶媒中の前記第1アイオノマの濃度の理論値。
【0035】
残存率を測定するに際しては、アイオノマコート触媒に対して過剰の混合溶媒を添加するのが好ましい。具体的には、1gのアイオノマに対して、40g以上の混合溶媒を添加するのが好ましい。
測定時の混合溶媒の温度及び処理時間は、目的に応じて任意に選択することができる。本発明では、混合溶媒の温度は、0~10℃とする。また、可溶性成分を混合溶媒に十分溶解させるために、超音波ホモジナイザー等を用いて、分散液を9分間分散処理を行う。
【0036】
アイオノマコート触媒を溶媒に分散させて触媒インクを作製した場合において、第1アイオノマの残存率が高くなるほど、第1アイオノマが溶媒に溶解しにくくなる。そのため、触媒インク中の溶媒に溶解している第1アイオノマの濃度が低下する。また、これによって、溶媒中に分散している電極触媒の凝集も抑制される。
【0037】
さらに、残存率が高くなると、触媒インク中の固形分濃度を高くした場合であっても、触媒インクの粘度が過度に増加するのを抑制することができる。その結果、触媒インクの塗工性を損なうことなく、塗膜の乾燥時間を短縮することができる。
このような効果を得るためには、残存率は、70%以上が好ましい。残存率は、好ましくは、80%以上である。
【0038】
[1.2. 第2アイオノマ]
後述するように、本発明に係る燃料電池用電極は、アイオノマコート触媒を含む触媒インクにさらに第2アイオノマを加え、触媒インクを基材表面に塗工することにより得られる。そのため、燃料電池用電極は、第1アイオノマに接している第2アイオノマからなる第2層をさらに備えている。
【0039】
第2アイオノマは、
(a)高価な高酸素透過アイオノマ(A)の使用量の低減、
(b)高酸素透過性以外の機能(例えば、高プロトン伝導性)の付与、
(c)燃料電池用電極のクラックの抑制、
(d)燃料電池用電極の強度の向上、
などを目的として添加される。
そのため、第2アイオノマは、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0040】
第2アイオノマとしては、例えば、
(a)高酸素透過アイオノマ(B)、
(b)ナフィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)などのポリパーフルオロカーボンスルホン酸、
などがある。
第2アイオノマとして高酸素透過アイオノマ(B)を用いる場合、高酸素透過アイオノマ(B)は、高酸素透過アイオノマ(A)と同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。
【0041】
[1.3. 含有量]
[1.3.1. 第1アイオノマの含有量]
燃料電池用電極に含まれる第1アイオノマの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。第1アイオノマの最適な含有量は、燃料電池用電極を構成する材料の種類に応じて異なる。
【0042】
例えば、電極触媒が、カーボン担体と、カーボン担体の表面に担持された触媒微粒子とを備えている場合(すなわち、電極触媒が触媒担持カーボンである場合)、第1アイオノマの含有量は、I1/C比で表すことができる。
ここで、「I1/C比」とは、カーボン担体の重量(Wc)に対する第1アイオノマの重量(W1)の比(=W1/Wc)をいう。
【0043】
一般に、I1/C比が小さくなりすぎると、燃料電池用電極の酸素透過性が低下する。従って、I1/C比は、0.2以上が好ましい。I1/C比は、好ましくは、0.3以上、さらに好ましくは、0.4以上である。
一方、I1/C比が大きくなりすぎると、燃料電池用電極の電子伝導性が低下する。従って、I1/C比は、0.7以下が好ましい。I1/C比は、好ましくは、0.6以下、さらに好ましくは、0.5以下である。
【0044】
[1.3.2. 第2アイオノマの含有量]
燃料電池用電極に含まれる第2アイオノマの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。第2アイオノマの最適な含有量は、燃料電池用電極を構成する材料の種類に応じて異なる。
【0045】
例えば、電極触媒が触媒担持カーボンである場合、第2アイオノマの含有量は、I2/C比で表すことができる。
ここで、「I2/C比」とは、カーボン担体の重量(Wc)に対する第2アイオノマの重量(W2)の比(=W2/Wc)をいう。
【0046】
一般に、I2/C比が小さくなりすぎると、アイオノマコート触媒同士のプロトンパスが繋がりにくくなる。従って、I2/C比は、0.2以上が好ましい。I2/C比は、好ましくは、0.4以上、さらに好ましくは、0.6以上である。
一方、I2/C比が大きくなりすぎると、第2アイオノマによって電極中の空隙が減少し、発電性能が低下する。従って、I2/C比は、1.0以下が好ましい。I2/C比は、好ましくは、0.9以下、さらに好ましくは、0.8以下である。
【0047】
[1.3.3. 第1アイオノマ及び第2アイオノマの総含有量]
燃料電池用電極に含まれる第1アイオノマ及び第2アイオノマの総含有量もまた、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
例えば、電極触媒が触媒担持カーボンである場合、第1アイオノマ及び第2アイオノマの総含有量は、「I1/C比+I2/C比(以下、これを、「I/C比」ともいう)で表すことができる。「I1/C比」及び「I2/C比」の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0048】
一般に、I/C比が小さくなりすぎると、プロトン伝導抵抗が大きくなる。従って、I/C比は、0.5以上が好ましい。I/C比は、好ましくは、0.7以上、さらに好ましくは、0.9以上である。
一方、I/C比が大きくなりすぎると、アイオノマによって電極中の空隙が減少して発電性能が低下する。従って、I/C比は、1.4以下が好ましい。I/C比は、好ましくは、1.2以下、さらに好ましくは、1.0以下である。
【0049】
[1.4. 用途]
本発明に係る燃料電池用電極は、固体高分子形燃料電池の空気極として好適であるが、水素極にも用いることができる。
【0050】
[2. アイオノマコート触媒の製造方法]
本発明に係るアイオノマコート触媒の製造方法は、
電極触媒、第1アイオノマ、水、及び、必要に応じてアルコールを含み、水比率が0.8以上である分散液を調整する第1工程と、
前記分散液を乾燥させ、粉末を得る第2工程と、
前記粉末を130℃以上200℃以下の熱処理温度で熱処理し、アイオノマコート触媒を得る第3工程と
を備えている。
【0051】
[2.1. 第1工程]
まず、電極触媒、第1アイオノマ、水、及び、必要に応じてアルコールを含み、水比率が0.8以上である分散液を調整する(第1工程)。
[2.1.1. 電極触媒、及び第1アイオノマ]
電極触媒、及び第1アイオノマの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0052】
[2.1.2. 分散媒]
電極触媒、及び第1アイオノマを分散させる分散媒には、水、又は、水とアルコールの混合溶媒を用いる。
アルコールは、第1アイオノマの溶解及び電極触媒の分散が可能なものである限りにおいて、特に限定されない。アルコールとしては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどがある。
また、分散媒の量は、第1アイオノマの溶解、及び、電極触媒の均一分散が可能である限りにおいて、特に限定されない。
【0053】
[2.1.3. 水比率]
「水比率」とは、分散媒に含まれる水とアルコールの総重量(Wt)に対する水の重量(Ww)の比(=Ww/Wt)をいう。
【0054】
水比率は、第1アイオノマの残存率に影響を与える。一般に、水比率が高くなるほど、第1アイオノマの残存率が高くなる。残存率を30%以上とするためには、水比率は、0.8以上である必要がある。水比率は、さらに好ましくは、0.85以上、さらに好ましくは、0.88以上である。特に、残存率を70%以上とするためには、水比率は、0.87以上が好ましい。
【0055】
[2.2. 第2工程]
次に、前記分散液を乾燥させ、粉末を得る(第2工程)。分散液の乾燥方法、及び乾燥条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法及び条件を選択することができる。
【0056】
[2.3. 第3工程]
次に、前記粉末を130℃以上200℃以下の熱処理温度で熱処理する(第3工程)。これにより、アイオノマコート触媒が得られる。
【0057】
熱処理温度は、第1アイオノマの残存率に影響を与える。一般に、熱処理温度が高くなるほど、第1アイオノマの残存率が高くなる。残存率を30%以上とするためには、熱処理温度は、130℃以上である必要がある。熱処理温度は、好ましくは、150℃以上、さらに好ましくは、160℃以上である。特に、残存率を70%以上とするためには、熱処理温度は、150℃以上が好ましい。
一方、熱処理温度が高くなりすぎると、第1アイオノマが分解するおそれがある。従って、熱処理温度は、200℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、190℃以下、さらに好ましくは、180℃以下である。
【0058】
[3. 燃料電池用電極の製造方法]
本発明に係る燃料電池用電極の製造方法は、
アイオノマコート触媒を製造する工程と、
アイオノマコート触媒、及び第2アイオノマを分散媒に分散させ、触媒インクを得る工程と、
触媒インクを基材表面に塗工し、乾燥させる工程と
を備えている。
【0059】
[3.1. アイオノマコート触媒製造工程]
まず、電極触媒の表面が第1アイオノマでオートされたアイオノマコート触媒を製造する(アイオノマコート触媒製造工程)。アイオノマコート触媒の製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0060】
[3.2. 触媒インク製造工程]
次に、アイオノマコート触媒、及び第2アイオノマを分散媒に分散させ、触媒インクを得る(触媒インク製造工程)。
[3.2.1. 第2アイオノマ]
第2アイオノマの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0061】
[3.2.2. 分散媒]
分散媒は、アイオノマコート触媒及び第2アイオノマを分散させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。分散媒としては、例えば、アルコール、ケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、グリコール、エステル、カルボン酸などがある。
【0062】
[3.2.3. 固形分濃度、粘度]
「固形分濃度」とは、触媒インクの全重量に対する電極触媒及びアイオノマの重量の割合をいう。一般に、触媒インクの固形分濃度が高くなるほど、触媒インクの粘度が高くなる。触媒インクの粘度が高くなりすぎると、均一塗工性やインク分散性が悪化するため、良好な塗面ができにくい。そのため、ブレードコート法では塗工できず、塗工方法はリバースロールコーター法などに限定される。
【0063】
これに対し、本発明に係るアイオノマコート触媒を用いると、低粘度、かつ、高固形分濃度であり、しかもブレードコート法や間欠ダイ塗工法で塗工可能な触媒インクが得られる。製造条件を最適化すると、固形分濃度が14wt%以上40wt%以下であり、かつ、せん断速度:562s-1でのせん断粘度が0.13Pa・s以下である触媒インクが得られる。
【0064】
[3.3. 塗工工程]
次に、触媒インクを基材表面に塗工し、乾燥させる(塗工工程)。これにより、本発明に係る燃料電池用電極が得られる。
触媒インクの塗工方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。また、触媒インクを塗布する基材は、転写用の樹脂シートであっても良く、あるいは、電解質膜であっても良い。
【0065】
[4. 作用]
電極触媒の表面を高酸素透過アイオノマ(A)でコートすると、固形分濃度が高く、かつ、低粘度の触媒インクを作製することができる。そのため、これを用いて燃料電池用電極(触媒層)を作製すると、乾燥時間を短縮することができる。また、電極触媒の表面が高酸素透過アイオノマ(A)でコートされているので、触媒の使用量が相対的に少ない場合であっても、高い性能が得られる。
【0066】
さらに、電極触媒の表面を高酸素透過アイオノマ(A)でコートする場合において、高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量を最適化すると、高温低湿度条件及び低温高湿度条件のいずれにおいても高い発電性能を示す燃料電池用電極が得られる。これは、
(a)高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量を1.1meq/g以上にすることによって、高温低湿度環境下でも触媒層中のプロトン移動抵抗の増大が抑制されるため、及び、
(b)高酸素透過アイオノマ(A)のイオン交換容量を1.25meq/g以下にすることによって、アイオノマの過度の膨潤が抑制され、また、アイオノマ表面がより撥水性となるために、触媒層内に十分な空隙が確保されるため、
と考えられる。
【実施例】
【0067】
(実施例1、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. アイオノマコート触媒の調製]
白金担持カーボンと、水と、エタノールと、高酸素透過アイオノマ溶液とを混合し、混合液を得た。カーボン重量に対する高酸素透過アイオノマの重量比(I1/C比)は0.4、固形分濃度は6wt%、水比率は94wt%とした。
高酸素透過アイオノマには、脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロスルホン酸を側鎖に持つ酸基ユニットからなる電解質ポリマを用いた。高酸素透過アイオノマのイオン交換容量(以下、「IEC」とも表記する)は、1.0meq/g(比較例1)、1.2meq/g(実施例1)、1.3meq/g(比較例2)、又は、1.5meq/g(比較例3)とした。高酸素透過アイオノマの酸素透過係数は、IECによらず、いずれも、2.2×10-14mol/(m・s・Pa)以上であった。
【0068】
次に、混合液を高圧ホモジナイザー((株)スギノマシン製、スターバーストミニ)で分散処理した。ノズル径は100μmφ、処理圧力は75MPaとした。
得られた分散溶液を防爆型乾燥炉で80℃で3時間加熱し、溶媒を蒸発させた。次いで、真空乾燥機で減圧下、160℃で2時間熱処理した。さらに、熱処理後の粉末を電動ミルで粉砕し、アイオノマコート触媒を得た。特許文献3に記載の方法を用いてアイオノマコート触媒の残存率を測定したところ、残存率はいずれも70%以上であった。
【0069】
[1.2. 触媒インクの調製]
粉砕されたアイオノマコート触媒と、水と、エタノールとを所定の比率で混合し、混合液を得た。混合液を高圧ホモジナイザー((株)スギノマシン製、スターバーストミニ)で分散処理し、触媒インク(A)を得た。ノズル径は150μmφ、処理圧力は75MPaとした。
次に、分散処理した触媒インク(A)に、さらに第2アイオノマを加えて混合し、触媒インク(B)を得た。第2アイオノマには、ナフィオン(登録商標)溶液を用いた。カーボン重量に対する第2アイオノマの重量比(I2/C)は0.7、触媒インク(B)の固形分濃度は20wt%とした。
【0070】
[1.3. 燃料電池の作製]
[1.3.1. 空気極の作製]
触媒インク(B)をベーカー式アプリケーターを用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に塗工し、乾燥させ、触媒層を得た。白金目付量は、0.15mg/cm2とした。この触媒層を電解質膜の一方の面に加熱プレスで転写し、空気極とした。電極面積は、1cm2とした。
【0071】
[1.3.2. 水素極の作製]
白金担持カーボン、及び、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)のみを含む触媒インク(C)を調製した。カーボンの重量に対するアイオノマの重量比(I/C)は1.0、触媒インク(C)の固形分濃度は10wt%とした。
触媒インク(C)をPTFE上に塗工し、乾燥させ、触媒層を得た。この触媒層を電解質膜の他方の面に熱転写し、水素極とした。
【0072】
[1.3.3. 評価セルの作製]
触媒層が形成された電解質膜の両面を撥水層付きカーボンペーパーではさみ、評価セルとした。
【0073】
[2. 試験方法]
評価セルを用いて発電試験を行った。バブラー温度は55℃、背圧は50kPaGとした。カソードには加湿した空気を供給し、アノードには加湿した水素を供給した。セル温度は、45℃(低温高湿条件)、又は82℃(高温低湿条件)とした。
【0074】
[3. 結果]
試験を行った4つの電極の中で、セル電圧0.6V時の電流密度が最大となった電極の電流密度(I
0)を基準とし、それに対する各電極の電流密度(I)の比(以下、「電流密度比(I/I
0)」という)を求めた。
図1に、高酸素透過アイオノマのイオン交換容量(IEC)と電流密度比との関係を示す。
【0075】
低温高湿条件では、IECが大きいほど電流密度比が小さいことが分かる。これは、IECが大きいほど、低温高湿条件でのアイオノマの膨潤が大きくなるために、触媒層中の空隙が塞がり、ガスの拡散が阻害されたためと考えられる。また、IECが大きくなるほど、スルホン酸基によりアイオノマ表面の親水性が高くなり、触媒層中に水が溜まりやすくなったために、ガスの拡散が阻害されたことも要因と考えられる。
【0076】
高温低湿条件では、IECが大きいほど電流密度比が高いことが分かる。これは、IECが大きいほど、触媒層中のプロトン移動抵抗が低減されたためと考えられる。
図1より、高温低湿条件下及び低温高湿条件下のいずれにおいても電流密度比が高い値(具体的には、0.95以上)を示すIECの範囲は、1.1meq/g以上1.25meq/g以下であることが分かる。すなわち、この範囲のIECのアイオノマを用いたアイオノマコート触媒であれば、低湿高温から高温低湿の広い温湿度環境下において、高い発電性能が得られることが分かる。
【0077】
以上の結果から、高酸素透過アイオノマをコートした触媒を用いることで、低白金目付においても酸素移動抵抗を小さくすることができる。また、アイオノマコート触媒を用いることで、触媒インクの固形分濃度を高くすることができ、触媒インクの乾燥時間を短縮できる。さらに、IECの適正化によって、低温高湿条件から高温低湿条件までの広い範囲の作動環境において、高い発電性能を有する電極、及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る燃料電池用電極は、固体高分子形燃料電池の空気極として用いることができる。