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特許7153005メソ多孔カーボン及びその製造方法、並びに、固体高分子形燃料電池
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  • 特許-メソ多孔カーボン及びその製造方法、並びに、固体高分子形燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】メソ多孔カーボン及びその製造方法、並びに、固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20221005BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20221005BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221005BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221005BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20221005BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20221005BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20221005BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C01B32/15
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10 101
H01M4/88 K
B01J23/42 M
B01J32/00
B01J37/08
B01J35/10 301G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019217524
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021084852
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】竹下 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】井元 瑠伊
(72)【発明者】
【氏名】野村 久美子
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527397(JP,A)
【文献】特開2005-154268(JP,A)
【文献】特開2006-321712(JP,A)
【文献】特開2012-193100(JP,A)
【文献】特開2009-173522(JP,A)
【文献】特開2019-169317(JP,A)
【文献】特開2007-145710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/86-4/98
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ細孔を持つ一次粒子が連結している連珠構造を備え、
平均一次粒子径が7nm以上300nm以下であり、
細孔径が2nm以上10nm以下であり、
細孔壁の平均厚さが3nm以上15nm以下であり、
細孔容量が0.2mL/g以上3.0mL/g以下であり、
タップ密度が0.03g/cm3以上0.3g/cm3以下である
メソ多孔カーボン。
【請求項2】
前記平均一次粒子径が10nm以上250nm以下である請求項1に記載のメソ多孔カーボン。
【請求項3】
前記細孔壁の厚さが3.5nm以上10nm以下である請求項1又は2に記載のメソ多孔カーボン。
【請求項4】
前記細孔容量が0.5mL/g以上2.5mL/g以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載のメソ多孔カーボン。
【請求項5】
前記タップ密度が0.03g/cm3以上0.2g/cm3以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のメソ多孔カーボン。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のメソ多孔カーボンを、少なくとも空気極触媒層の触媒担体に用いた固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
鋳型となるメソ多孔シリカを準備する第1工程と、
前記メソ多孔シリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を作製する第2工程と、
前記複合体からメソ多孔シリカを除去する第3工程と
を備え、
前記メソ多孔シリカは、
メソ細孔を持つ一次粒子が連結している連珠構造を備え、
平均一次粒子径が7nm以上300nm以下であり、
細孔径が3nm以上15nm以下であり、
細孔壁の平均厚さが2nm以上10nm以下であり、
細孔容量が0.2mL/g以上3.0mL/g以下であり、
タップ密度が0.03g/cm3以上0.3g/cm3以下である
ものからなる
メソ多孔カーボンの製造方法。
【請求項8】
前記第3工程の後に、前記メソ多孔カーボンを1500℃より高い温度で熱処理する第4工程をさらに備えた請求項7に記載のメソ多孔カーボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ多孔カーボン及びその製造方法、並びに、固体高分子形燃料電池に関し、さらに詳しくは、連珠構造を備え、かつ、平均一次粒子径、平均細孔径、細孔壁の平均厚さ、細孔容量、及びタップ密度が所定の範囲にあるメソ多孔カーボン及びその製造方法、並びに、これを触媒担体に用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。電極は、通常、触媒を含む触媒層と、拡散層の二層構造を取る。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池において、触媒層は、一般に、担体表面に白金などの触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。触媒担体には、通常、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料が用いられている。さらに、触媒担体に用いられる炭素材料の細孔径、比表面積等が燃料電池の特性に影響を与えることが知られている。そのため、細孔径、比表面積等を制御した炭素材料に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、
(a)メタノールを含浸させた銀アセチリドを真空電気炉中において60~80℃で12時間以上加熱することにより、金属銀粒子を内包した金属内包樹状ナノ構造物を形成し、
(b)真空電気炉中において金属内包樹状ナノ構造物に対して160℃~200℃の加熱処理を行う
炭素ナノ構造体の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、炭素粒(グラフェン小包)がグラフェンからなる表皮で囲まれた構造を持つ環状体が相互に結合してネットワークを構成している炭素ナノ構造体が得られる点が記載されている。
【0005】
特許文献2~4には、
(a)テレフタル酸のカルシウム塩を550℃以上700℃以下で加熱することにより、炭素と炭酸カルシウムの複合体を形成し、
(b)複合体から炭酸カルシウムを溶解除去する
炭素多孔体の製法が開示されている。
同文献には、このような方法により、ガス圧力を所定範囲で変化させたときのガスの吸脱着量が大きい炭素多孔体が得られる点が記載されている。
【0006】
特許文献5には、市販のメソポーラスカーボン(東洋炭素株式会社製、CNovel、平均粒径4μm)を粉砕するカーボン担体の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、メソ孔のモード半径が3.3~4.8nmであり、メソ孔の細孔容積が1.4~1.8cm2/gであり、平均粒径が190~470nmであるカーボン担体が得られる点が記載されている。
【0007】
特許文献6には、
(a)フェナントレン、パラトルエン硫酸、及びアセトンからなる前駆体混合物をメソポーラスシリカ(SBA-15)に含浸させ、
(b)前駆体混合物を含むSBA-15を200℃で熱処理し、
(c)熱処理された複合体を900℃の温度で加熱することにより、フェナントレンを黒鉛化させ、
(d)黒鉛化処理された複合体からSBA-15を除去する
メソ細孔性炭素体の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、メソ細孔の平均直径が2~20nm程度であり、一次粒子の大きさが100~500nm程度であるメソ細孔性炭素体が得られる点が記載されている。
【0008】
特許文献7には、
(a)フェナントレン、メソ相ピッチ(MP)、硫酸、及びアセトンからなる炭素前駆体混合物をメソポーラスシリカ(SBA-15)に含浸させ、
(b)炭素前駆体混合物を含むSBA-15を100℃で熱処理し、
(c)熱処理された複合体を1100℃で炭化処理し、
(d)炭化処理された複合体からSBA-15を除去する
メソ細孔性炭素の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、気孔体積が0.23~1.02cm3/gであり、気孔直径が3.5~3.6nmであるメソ細孔性炭素が得られる点が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献8には、
(a)コアが中実シリカ粒子からなり、シェルがメソ多孔シリカからなるコアシェル型のシリカ球(SiO2@m-SiO2)を作製し、
(b)SiO2@m-SiO2のメソ細孔内に、黒鉛化触媒(Fe(NO3)3・9H2O)、液状モノマ(ジビニルベンゼン(DVB))、及び開始剤(アゾビスイソブチロ二トリル(AIBN))を充填し、75℃で25時間加熱することによりDVBを重合させ、
(c)熱処理後の材料をさらに1000℃で4時間加熱し、重合されたDVBを炭化/黒鉛化させ、
(d)炭化/黒鉛化処理後の材料からSiO2@m-SiO2及びFeを除去する
中空黒鉛球(HGS)の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、中空のコアの直径が200~300nmであり、シェルの厚さ対コアの直径の比率が20~50%であるHGSが得られる点が記載されている。
【0010】
固体高分子形燃料電池において、触媒層内の空隙が少なくなりすぎると、フラッディング現象が起きやすくなり、作動条件によっては十分なIV性能が得られない場合がある。また、触媒層の電子伝導性が低下すると、反応に必要な電子が供給される際に過電圧が生じる。そのため、触媒層に用いられる触媒担体には、触媒層内に適度な空隙を確保できる程度の低充填性と、高い電子伝導性とが求められる。さらに、固体高分子形燃料電池を低コスト化するために、このような触媒担体の製造コストを低減することも求められる。
【0011】
特許文献1に記載の方法を用いると、特異な内部構造を持つ環状体がネットワーク状に結合している炭素ナノ構造体が得られる。このような炭素ナノ構造体を触媒担体として用いると、触媒層内に適度な空隙を確保することができる。しかし、同文献では、原料に高価な銀アセチリドを用いており、かつ、スケールアップが困難な爆発法を用いている。そのため、この方法により得られる炭素ナノ構造体は、高価であり、量産性に乏しい。
【0012】
特許文献2~4に記載の方法を用いると、ガスの吸脱着量が大きい炭素多孔体が得られる。しかし、この炭素多孔体は、電子伝導性が低い。そのため、これを燃料電池に用いると、反応に必要な電子が供給される際に過電圧が生じる。
また、原料であるテレフタル酸のカルシウム塩は粒径が数μm以上であるため、合成された炭素多孔体の粒径も大きくなる。炭素多孔体の粒径が大きくなりすぎると、充填性が高くなり、適度な空隙を持つ触媒層が得られないだけでなく、細孔内に担持された触媒粒子に、反応に必要な酸素ガスやプロトンが供給される際に濃度過電圧が生じる。
【0013】
特許文献5に記載のカーボン担体は、市販のメソポーラスカーボンを粉砕することにより得られたものからなる。そのため、カーボン担体の細孔径や細孔容量は粉砕前の状態とほぼ同等であり、粉砕により変化するのは実質的に平均粒径のみである。また、粉砕によって充填性はある程度低下するが、空隙の多い触媒層を形成することが可能な程度の低充填性は得られない。さらに、市販のメソポーラスカーボンの炭化温度は1000℃程度と推定されるため、このカーボン担体の電子伝導性は不十分と考えられる。
【0014】
特許文献6~7では、鋳型としてSBA-15が用いられている。SBA-15は、シリンダー状のメソ孔と、メソ孔間を繋ぐマイクロ孔が存在することが知られている。そのため、これを鋳型に用いて炭素源の充填及び炭化を行うと、ロッド状の炭素が連結しているメソ細孔炭素が得られる。
しかし、SBA-15を鋳型に用いても、塊状で粒子径が大きく、充填性の低いメソ細孔炭素は得られない。また、同文献では、炭素源としてフェナントレンやメソ相ピッチを用いている。これらは溶媒に対する溶解性が低いため、メソ細孔内に所定量の炭素を析出させるためには、低濃度溶液の含浸と熱処理を複数回繰り返す必要がある。
【0015】
さらに、特許文献8に記載の方法を用いると、中空黒鉛球が得られる。しかし、中空黒鉛球は充填性が高いため、これを触媒層に用いると、触媒層内に十分な量の空隙を確保するのが難しい。また、同文献では炭化処理温度が600~1400℃であるため、十分な電子伝導性を有しているとは言いがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特許第5481748号公報
【文献】特許第6042922号公報
【文献】特開2016-160251号公報
【文献】特開2015-078110号公報
【文献】特開2018-181838号公報
【文献】特許第4471174号公報
【文献】特許第4912044号公報
【文献】特許第6305349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、低充填性であり、かつ、低コストなメソ多孔カーボン及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、電子伝導性に優れたメソ多孔カーボン及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなメソ多孔カーボンを触媒担体として用いた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明に係るメソ多孔カーボンは、
メソ細孔を持つ一次粒子が連結している連珠構造を備え、
平均一次粒子径が7nm以上300nm以下であり、
細孔径が2nm以上10nm以下であり、
細孔壁の平均厚さが3nm以上15nm以下であり、
細孔容量が0.2mL/g以上3.0mL/g以下であり、
タップ密度が0.03g/cm3以上0.3g/cm3以下である
ものからなる。
【0019】
前記メソ多孔カーボンは、1500℃より高い温度で黒鉛化処理することにより得られたものが好ましい。
【0020】
本発明に係るメソ多孔カーボンの製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記メソ多孔カーボンの製造方法は、
鋳型となるメソ多孔シリカを準備する第1工程と、
前記メソ多孔シリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を作製する第2工程と、
前記複合体からメソ多孔シリカを除去する第3工程と
を備えている。
(2)前記メソ多孔シリカは、
メソ細孔を持つ一次粒子が連結している連珠構造を備え、
平均一次粒子径が7nm以上300nm以下であり、
細孔径が3nm以上15nm以下であり、
細孔壁の平均厚さが2nm以上10nm以下であり、
細孔容量が0.2mL/g以上3.0mL/g以下であり、
タップ密度が0.03g/cm3以上0.3g/cm3以下である
ものからなる。
【0021】
前記メソ多孔カーボンの製造方法は、前記第3工程の後に、前記メソ多孔カーボンを1500℃より高い温度で熱処理する第4工程をさらに備えているのが好ましい。
【0022】
さらに、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係るメソ多孔カーボンを、少なくとも空気極触媒層の触媒担体に用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
連珠構造を備えたメソ多孔カーボンを触媒担体として用いて空気極触媒層を作製し、この空気極触媒層を用いて固体高分子形燃料電池を作製すると、特に高電流密度域において、従来と同等以上のIV性能が得られる。これは、メソ多孔カーボンを連珠構造にすることによって、空気極触媒層内に適量の空隙が確保され、フラッディングが抑制されるためと考えられる。
また、メソ多孔カーボンに対して1500℃超で熱処理すると、これを用いた燃料電池のIV性能がさらに向上する。これは、1500℃超の熱処理によってメソ多孔カーボンの黒鉛化が進行し、メソ多孔カーボンの電子伝導性が向上するためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】メソ多孔シリカの製造方法の模式図である。
図2】メソ多孔カーボンの製造方法の模式図である。
図3】実施例1で得られたメソ多孔カーボンのSEM像である。
図4】実施例1、2で得られたMEAの断面のSEM像(上図)、並びに、同MEAの空気極触媒層の断面の拡大SEM像(下図)である。
図5】実施例3、及び、比較例1で得られたMEAの断面のSEM像(上図)、並びに、同MEAの空気極触媒層の断面の拡大SEM像(下図)である。
【0025】
図6】実施例1、2及び比較例1、2で得られた燃料電池の高加湿条件下(80%RH)でのIV性能を示す図である。
図7】実施例1、2及び比較例1、2で得られた燃料電池の低加湿条件下(30%RH)でのIV性能を示す図である。
図8図8(A)は、黒鉛化処理前のメソ多孔カーボン(実施例1)のX線回折パターンである。図8(B)は、黒鉛化処理後のメソ多孔カーボン(実施例1)のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. メソ多孔カーボン]
本発明に係るメソ多孔カーボンは、
メソ細孔を持つ一次粒子が連結している連珠構造を備え、
平均一次粒子径が7nm以上300nm以下であり、
平均細孔径が2nm以上10nm以下であり、
細孔壁の平均厚さが3nm以上15nm以下であり、
細孔容量が0.2mL/g以上3.0mL/g以下であり、
タップ密度が0.03g/cm3以上0.3g/cm3以下である。
【0027】
[1.1. 連珠構造]
後述するように、本発明に係るメソ多孔カーボンは、メソ多孔シリカを鋳型として製造される。メソ多孔シリカは、通常、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、シリカ源を縮重合させることにより合成されている。この時、反応溶液中の界面活性剤の濃度及びシリカ源の濃度をそれぞれある特定の範囲に限定すると、連珠構造を備えており、かつ、平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、タップ密度等が特定の範囲にあるメソ多孔シリカが得られる。さらに、このような連珠構造を備えたメソ多孔シリカを鋳型に用いると、連珠構造を備えたメソ多孔カーボンが得られる。
【0028】
ここで、「連珠構造」とは、一次粒子が数珠状に連結している構造をいう。連珠構造を構成する一次粒子は、その内部にメソ細孔を有している。一次粒子内のメソ細孔は、鋳型に用いたメソ多孔シリカの細孔壁を除去した後に残った空洞である。一次粒子の形状は、通常、完全な球状とはならず、アスペクト比が1.1~3程度のいびつな形状を持つ。
【0029】
[1.2. 平均一次粒子径]
「平均1次粒子径」とは、1次粒子の短軸方向の長さの平均値をいう。「短軸方向の長さ」とは、1次粒子の長さが最も長い方向(長軸方向)に対して垂直方向の長さをいう。
平均1次粒子径は、顕微鏡を用いて、無作為に選んだ100個以上の1次粒子について短軸方向の長さを測定し、平均値を算出することにより得られる。
【0030】
一般に、平均1次粒子径が小さくなりすぎると、触媒がカーボンの細孔内に担持されにくくなる。従って、平均1次粒子径は、7nm以上である必要がある。平均1次粒子径は、好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上である。
【0031】
一方、平均1次粒子径が大きくなりすぎると、細孔内に担持された触媒に反応ガスやプロトンが供給されにくくなり、あるいは、反応により生じた水が排出されにくくなる。従って、平均1次粒子径は、300nm以下である必要がある。平均1次粒子径は、好ましくは、250nm以下、さらに好ましくは、150nm以下である。
【0032】
[1.3. 細孔径]
「細孔径」とは、1次粒子に含まれるメソ細孔の直径の平均値をいい、1次粒子間にある空隙の大きさは含まれない。
細孔径は、メソ多孔カーボンの窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析し、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値)を求めることにより得られる。
【0033】
一般に、細孔径が小さくなりすぎると、細孔内に担持された触媒に反応ガスやプロトンが供給されにくくなり、あるいは、反応により生じた水が排出されにくくなる。従って、細孔径は、2nm以上である必要がある。細孔径は、好ましくは、2.5nm以上である。
一方、細孔径が大きくなりすぎると、細孔内にアイオノマが侵入しやすくなり、触媒を被毒する。その結果、活性が低下する。従って、細孔径は、10nm以下である必要がある。細孔径は、好ましくは、7nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0034】
[1.4. 細孔壁の平均厚さ]
「細孔壁の平均厚さ」とは、1次粒子に含まれるメソ細孔の細孔壁の厚さの平均値をいう。
細孔壁の平均厚さは、顕微鏡を用いて、無作為に選んだ100箇所以上の細孔壁の厚さを測定し、平均値を算出することにより得られる。
【0035】
細孔壁の平均厚さが薄すぎると、カーボンが酸化されやすくなり、耐久性が悪くなる。従って、細孔壁の平均厚さは、3nm以上である必要がある。平均厚さは、好ましくは、3.5nm以上、さらに好ましくは、4nm以上である。
一方、細孔壁の平均厚さが厚くなりすぎると、細孔容量が小さくなり、触媒が担持されにくくなる。従って、細孔壁の平均厚さは、15nm以下である必要がある。平均厚さは、好ましくは、12nm以下、さらに好ましくは、10nm以下である。
【0036】
[1.5. 細孔容量]
「細孔容量」とは、1次粒子に含まれるメソ細孔の容積をいい、1次粒子間にある空隙の容積は含まれない。
細孔容量は、メソ多孔カーボンの窒素吸着等温線の吸着データをBJH法で解析し、P/P0=0.03~0.99の値で算出することにより得られる。
【0037】
一般に、細孔容量が小さくなりすぎると、触媒が担持されにくくなる。従って、細孔容量は、0.2mL/g以上である必要がある。細孔容量は、好ましくは、0.5mL/g以上、さらに好ましくは、1.0mL/g以上である。
一方、細孔容量が大きくなりすぎると、カーボン細孔壁の割合が小さくなり、電子伝導性が低くなる。また、アイオノマ侵入量が多くなり、触媒被毒により活性が低下する。従って、細孔容量は、3.0mL/g以下である必要がある。細孔容量は、好ましくは、2.5mL/g以下、さらに好ましくは、2.0mL/g以下である。
【0038】
[1.6. タップ密度]
「タップ密度」とは、JIS Z 2512に準拠して測定される値をいう。
一般に、タップ密度が小さくなりすぎると、得られた触媒層の厚みが厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する。従って、タップ密度は、0.03g/cm3以上である必要がある。タップ密度は、好ましくは、0.05g/cm3以上、さらに好ましくは、0.08g/cm3以上である。
一方、タップ密度が大きくなりすぎると、これを用いて触媒層を作製した時に、触媒層内にフラッディングを抑制可能な空隙を確保するのが困難となる。従って、タップ密度は、0.3g/cm3以下である必要がある。タップ密度は、好ましくは、0.20g/cm3以下、さらに好ましくは、0.15g/cm3以下である。
【0039】
[1.7. 黒鉛化度]
メソ多孔カーボンは、メソ多孔シリカのメソ細孔内に炭素源を充填し、炭素源を炭化させることにより得られる。しかし、メソ多孔シリカと炭素との反応を抑制するためには、炭素源の炭化温度を相対的に低くする必要がある。そのため、炭素源を炭化させた後のメソ多孔カーボンは、乱層構造となりやすい。乱層構造を備えたメソ多孔カーボンは、黒鉛構造を備えたメソ多孔カーボンに比べて、電子伝導性が低い。
【0040】
これに対し、乱層構造を備えたメソ多孔カーボンを1500℃を超える温度で黒鉛化処理すると、乱層構造を持つメソ多孔カーボンが次第に黒鉛構造に変化する。一般に、黒鉛化処理温度が高くなるほど、黒鉛化度が向上する。
【0041】
[1.8. 比表面積]
本発明に係るメソ多孔カーボンを固体高分子形燃料電池の空気極側の触媒担体に用いる場合において、メソ多孔カーボンの比表面積が小さくなりすぎると、触媒の活性種を微粒で高分散に担持できなくなり、触媒の有効面積が小さくなる。従って、メソ多孔カーボンの比表面積は、大きいほどよい。
後述する方法を用いると、メソ多孔カーボンの比表面積は、800m2/g以上、1000m2/g以上、あるいは、1200m2/g以上となる。
【0042】
[2. メソ多孔シリカ(鋳型)]
本発明において、連珠構造を備えたメソ多孔カーボンを作製するための鋳型として、メソ多孔シリカが用いられる。本発明において、メソ多孔シリカは、
メソ細孔を持つ一次粒子が連結している連珠構造を備え、
平均一次粒子径が7nm以上300nm以下であり、
細孔径が3nm以上15nm以下であり、
細孔壁の平均厚さが2nm以上10nm以下であり、
細孔容量が0.2mL/g以上3.0mL/g以下であり、
タップ密度が0.03g/cm3以上0.3g/cm3以下である
ものからなる。
【0043】
[2.1. 連珠構造]
「連珠構造」とは、一次粒子が数珠状に連結している構造をいう。連珠構造の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0044】
[2.2. 平均一次粒子径]
一般に、メソ多孔シリカの平均1次粒子径が小さくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの平均一次粒子径もまた過度に小さくなる。従って、平均1次粒子径は、7nm以上である必要がある。平均1次粒子径は、好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上である。
一方、メソ多孔シリカの平均1次粒子径が大きくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの平均一次粒子径もまた過度に大きくなる。従って、平均1次粒子径は、300nm以下である必要がある。平均1次粒子径は、好ましくは、250nm以下、さらに好ましくは、150nm以下である。
【0045】
[2.3. 細孔径]
一般に、メソ多孔シリカの細孔径が小さくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの細孔壁の厚さが過度に薄くなる。従って、細孔径は、3nm以上である必要がある。細孔径は、好ましくは、3.5nm以上、さらに好ましくは、4nm以上である。
一方、メソ多孔シリカの細孔径が大きくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの細孔壁の厚さが過度に厚くなる。従って、細孔径は、15nm以下である必要がある。細孔径は、好ましくは、12nm以下、さらに好ましくは、10nm以下である。
【0046】
[2.4. 細孔壁の平均厚さ]
メソ多孔シリカの細孔壁の平均厚さが薄すぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの細孔径が過度に小さくなる。従って、細孔壁の平均厚さは、2nm以上である必要がある。平均厚さは、好ましくは、2.5nm以上である。
一方、メソ多孔シリカの細孔壁の平均厚さが厚くなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの細孔径が過度に大きくなる。従って、細孔壁の平均厚さは、10nm以下である必要がある。平均厚さは、好ましくは、7nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0047】
[2.5. 細孔容量]
一般に、メソ多孔シリカの細孔容量が小さくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの細孔容量が過度に大きくなる。従って、細孔容量は、0.2mL/g以上である必要がある。細孔容量は、好ましくは、0.4mL/g以上、さらに好ましくは、0.6mL/g以上である。
一方、メソ多孔シリカの細孔容量が大きくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンの細孔容量が過度に小さくなる。従って、細孔容量は、3.0mL/g以下である必要がある。細孔容量は、好ましくは、2mL/g以下、さらに好ましくは、1.5mL/g以下である。
【0048】
[2.6. タップ密度]
一般に、メソ多孔シリカのタップ密度が小さくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンのタップ密度も過度に小さくなる。従って、タップ密度は、0.03g/cm3以上である必要がある。タップ密度は、好ましくは、0.05g/cm3以上、さらに好ましくは、0.08g/cm3以上である。
一方、メソ多孔シリカのタップ密度が大きくなりすぎると、これを用いて製造されるメソ多孔カーボンのタップ密度も過度に大きくなる。従って、タップ密度は、0.3g/cm3以下である必要がある。タップ密度は、好ましくは、0.2g/cm3以下、さらに好ましくは、0.15g/cm3以下である。
【0049】
[2.7. 比表面積]
本発明に係るメソ多孔カーボンは、メソ多孔シリカを鋳型として製造される。そのため、鋳型として用いるメソ多孔シリカの比表面積が大きくなるほど、比表面積の大きいメソ多孔カーボンが得られる。
高比表面積のメソ多孔カーボンを得るためには、メソ多孔シリカの比表面積は、400m2/g以上が好ましい。比表面積は、好ましくは、500m2/g以上、さらに好ましくは、600m2/g以上である。
【0050】
[3. メソ多孔シリカ(鋳型)の製造方法]
本発明に係るメソ多孔シリカの製造方法は、
シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る重合工程と、
前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる乾燥工程と、
前記前駆体粒子を焼成し、本発明に係るメソ多孔シリカ粒子を得る焼成工程と
を備えている。
本発明に係るメソ多孔シリカ粒子の製造方法は、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行う拡径工程をさらに備えていても良い。
【0051】
[3.1. 重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(重合工程)。
【0052】
[3.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、
(b)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0053】
[3.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、1次粒子内部には、ミセルに起因するメソ細孔が形成される。メソ細孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1~50nmまで)することができる。
【0054】
本発明において、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いる。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表される化合物をいう。
CH3-(CH2)n-N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
【0055】
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1~3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
【0056】
(a)式中、nは7~21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、メソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9~17、さらに好ましくは、13~17である。
【0057】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0058】
メソ多孔シリカを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、1次粒子内にメソ孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ孔を有するシリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0059】
[3.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。粒子状のメソ多孔シリカを合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いるのが好ましい。
【0060】
[3.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、溶媒中に適量の有機溶媒を添加すると、粒径や粒度分布の制御が容易化する。
【0061】
[3.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液中の組成は、合成されるメソ多孔シリカの外形や細孔構造に影響を与える。特に、反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、メソ多孔シリカ粒子の平均1次粒子径、細孔径、細孔容量、及びタップ密度に与える影響が大きい。
【0062】
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、1次粒子が連結している構造体は得られない。従って、界面活性剤の濃度は、0.03mol/L以上である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.035mol/L以上、さらに好ましくは、0.04mol/L以上である。
【0063】
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、1次粒子径が容易に300nmを超える。従って、界面活性剤の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.90mol/L以下である。
【0064】
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、1次粒子が連結している構造体は得られない。あるいは、界面活性剤が過剰となり、均一なメソ細孔が得られない場合がある。従って、シリカ源の濃度は、0.05mol/L以上である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.06mol/L以上、さらに好ましくは、0.07mol/L以上である。
【0065】
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、1次粒子径が容易に300nmを超える。あるいは、球状粒子ではなく、シート状の粒子が得られる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.9mol/L以下である。
【0066】
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
【0067】
[3.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、-20~100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0~90℃、さらに好ましくは、10~80℃である。
【0068】
[3.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0069】
[3.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、1次粒子内のメソ細孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
【0070】
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、硝酸などの酸、
などがある。
【0071】
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸などの酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、1次粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
【0072】
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られる限りにおいて、特に限定されない。通常、反応溶液に対して、0.05mol/L~10mol/L程度の拡径剤を添加し、60~150℃で水熱処理するのが好ましい。
【0073】
[3.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、本発明に係るメソ多孔シリカ粒子が得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・結晶化させるため、及び、メソ細孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃~700℃で1時間~10時間加熱することにより行われる。
【0074】
[4. メソ多孔カーボンの製造方法]
本発明に係るメソ多孔カーボンの製造方法は、
鋳型となるメソ多孔シリカを準備する第1工程と、
前記メソ多孔シリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を作製する第2工程と、
前記複合体からメソ多孔シリカを除去する第3工程と
を備えている。
メソ多孔カーボンの製造方法は、前記第3工程の後に、前記メソ多孔カーボンを1500℃より高い温度で熱処理する第4工程をさらに備えていても良い。
【0075】
[4.1. 第1工程(鋳型の作製)]
まず、鋳型となるメソ多孔シリカを作製する(第1工程)。メソ多孔シリカ及びその製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0076】
[4.2. 第2工程(メソ細孔内へのカーボン析出)]
次に、メソ多孔シリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を作製する(第2工程)。
メソ細孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)メソ細孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)メソ細孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
【0077】
[4.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
【0078】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
【0079】
[4.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
【0080】
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含むメソ多孔シリカを所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
【0081】
なお、メソ孔内に生成させる炭素量は、メソ多孔シリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
【0082】
[4.3. 第3工程(鋳型の除去)]
次に、複合体から鋳型であるメソ多孔シリカを除去する(第3工程)。これにより、メソ多孔カーボンが得られる。
メソ多孔シリカの除去方法としては、具体的には、
(1) 複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2) 複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
【0083】
[4.4. 第4工程(黒鉛化処理)]
次に、必要に応じて、メソ多孔カーボンを1500℃より高い温度で熱処理する(第4工程)。メソ多孔シリカのメソ細孔内において炭素源を炭化させる場合において、シリカと炭素の反応を抑制するためには、熱処理温度を低くせざるを得ない。そのため、炭化処理後のカーボンの黒鉛化度は低い。高い黒鉛化度を得るためには、鋳型を除去した後、メソ多孔カーボンを高温で熱処理するのが好ましい。
【0084】
熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となる。従って、熱処理温度は、1500℃超が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1700℃以上、さらに好ましくは、1800℃以上である。
一方、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、熱処理温度は、2300℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、2200℃以下である。
【0085】
[5. 固体高分子形燃料電池]
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係るメソ多孔カーボンを、少なくとも空気極触媒層の触媒担体に用いたものからなる。
空気極触媒層の組成(例えば、単位面積当たりのPt量、カーボンの重量に対するアイオノマの重量の比(I/C比)など)は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。また、空気極触媒層以外の構成についても、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構成を選択することができる。なお、本発明に係るメソ多孔カーボンは、燃料極側の触媒担体としても用いることができる。
【0086】
[6. 作用]
図1に、メソ多孔シリカの製造方法の模式図を示す。シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。この時、溶液組成を最適化すると、界面活性剤からなるロッドミセルが形成され、ロッドミセルの表面にシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源を吸着したロッドミセルが放射状に配列して低アスペクト比の粒子となると同時に、この粒子が数珠状に連結し、この状態でシリカ源が縮重合する。その結果、連珠構造を備えた前駆体粒子が得られる。
【0087】
次に、前駆体粒子に対して、必要に応じて、所定の条件下(例えば、120~140℃、72時間)において水熱処理(拡径処理)を行うと、放射状細孔が連通細孔に変換される。さらに、前駆体粒子を所定の条件下(例えば、550℃、6時間)において焼成すると、OH基が残留している前駆体粒子の脱水・結晶化が進行すると同時に、界面活性剤が除去される。その結果、連珠構造を備えたメソ多孔シリカが得られる。
【0088】
図2に、メソ多孔カーボンの製造方法の模式図を示す。次に、得られたメソ多孔シリカに炭素源(例えば、フルフリルアルコール(FA))を含浸させ、所定の条件下(例えば、150℃、18時間)において重合させる。次いで、重合したFAを所定の条件下(例えば、500℃、6時間)で炭化させる。この含浸、重合、及び炭化の各工程を複数回(例えば、2回)繰り返した後、所定の条件下(例えば、900℃、6時間)において熱処理すると、メソ多孔シリカ/カーボン複合体が得られる。熱処理後、HF又はNaOHを用いて鋳型シリカを除去すれば、連珠構造を備えたメソ多孔カーボンが得られる。
【0089】
このようにして得られたメソ多孔カーボンを触媒担体として用いて空気極触媒層を作製し、この空気極触媒層を用いて固体高分子形燃料電池を作製すると、特に高電流密度域において、従来と同等以上のIV性能が得られる。これは、メソ多孔カーボンを連珠構造にすることによって、空気極触媒層内に適量の空隙が確保され、フラッディングが抑制されるためと考えられる。
また、メソ多孔カーボンに対して1500℃超で熱処理することで、これを用いた燃料電池のIV性能が向上する。これは、1500℃超の熱処理によってメソ多孔カーボンの黒鉛化が進行し、メソ多孔カーボンの電子伝導性が向上するためと考えられる。
【実施例
【0090】
(実施例1~3、比較例1~2)
[1. カーボン担体の作製]
[1.1. 実施例1~3、比較例1]
[1.1.1. メソ多孔シリカの作製]
所定量の界面活性剤及び1規定水酸化ナトリウムを、所定量の水、メタノール、及びエチレングリコール(EG)を含む混合溶媒に添加し、第1溶液を得た。これとは別に、所定量のテトラエトキシシラン(TEOS)を、所定量のメタノール及びEGを含む混合溶媒に添加し、第2溶液を得た。表1に、溶液の仕込み量を示す。
【0091】
【表1】
【0092】
第1溶液に第2溶液を添加したところ、しばらくしてから溶液が白濁し、粒子が合成できたことが確認できた。8時間室温で攪拌後、濾過し、残渣を水に再分散した。再び濾過後、残渣を45℃のオーブンで乾燥させた。乾燥した試料を、2規定硫酸に分散後、オートクレーブ中、120℃で3日間加熱した。オートクレーブ処理後の試料を濾過・洗浄した後、試料を550℃で6時間焼成することにより、有機成分を除去した。
【0093】
[1.1,2. メソ多孔カーボンの作製]
PFA製容器にメソ多孔シリカを入れ、フルフリルアルコール(FA)を細孔容量分だけ加えて、シリカの細孔内に浸透させた。これを150℃×18h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中で500℃×6h熱処理し、FAの炭素化を進めた。これを2回繰り返した後、窒素雰囲気中で900℃×6h熱処理して、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を得た。
この複合体を12%HF溶液に12h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、メソ多孔カーボンを得た。さらに、乾燥させたメソ多孔カーボンに対し、1800℃で1時間加熱する処理(黒鉛化処理)を行った。
【0094】
[1.2. 比較例2]
中実の一次粒子が数珠状に連結しているカーボン(デンカ(株)製、Li-435)をそのまま試験に供した。
【0095】
[2. 燃料電池の作製]
上述のようにして得られたカーボン担体にPtを担持した。Pt担持量は、40mass%とした。これを用いて、空気極触媒層を作製した。空気極側のPt目付量は、0.15mg/cm2とした。また、空気極触媒層のI/Cは、1.0とした。
また、Pt担持量が30mass%である市販の白金担持カーボンを用いて、燃料極触媒層を作製した。燃料極側のPt目付量は、0.1mg/cm2とした。また、燃料極触媒層のI/Cは、0.75とした。
【0096】
電解質膜の両面に、それぞれ、空気極触媒層及び燃料極側触媒層を転写し、MEAを得た。電解質膜には、フッ素系固体高分子電解質膜を用いた。
MEAを1cm2用角セルに組み付けた。さらに、MEAの両側に、拡散層及び集電体を配置した。拡散層には、カーボンペーパ(マイクロポーラスレイヤ付)を用いた。集電体には、流路一体型金メッキ銅板(流路:0.4mmピッチの直線流路)を用いた。
【0097】
[2. 試験方法]
[2.1. メソ多孔シリカ及びメソ多孔カーボンの評価]
[2.1.1. 平均一次粒子径、細孔壁の平均厚さ]
SEM像から、メソ多孔シリカ及びメソ多孔カーボンの平均一次粒子径及び細孔壁の平均厚さを計測した。
[2.1.2. 細孔径、細孔容量、及びBET比表面積]
メソ多孔シリカ及びメソ多孔カーボンの窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線から、これらの細孔径、細孔容量、及びBET比表面積を求めた。
[2.1.3. タップ密度]
JIS Z 2512に準拠して、メソ多孔シリカ及びメソ多孔カーボンのタップ密度を測定した。
【0098】
[2.2. 燃料電池の評価]
[2.2.1. SEM観察]
MEAの断面のSEM観察を行った。
[2.2.2. 発電特性]
得られた燃料電池を用いて、高加湿条件下(80%RH、セル温度60℃)及び低加湿条件下(30%RH、セル温度80℃)において発電特性を評価した。発電条件は、H2流量:500cc/分、空気流量:1000cc/分、背圧:1kg/cm2とした。
【0099】
[2.3. 黒鉛化度の評価]
黒鉛化処理前及び黒鉛化処理後のメソ多孔カーボンのX線回折測定を行った。
【0100】
[3. 結果]
[3.1. メソ多孔シリカ及びメソ多孔カーボン]
[3.1.1. SEM像]
図3に、実施例1で得られたメソ多孔カーボンのSEM像を示す。図3より、メソ多孔カーボンが連珠構造を備えていることが分かる。
【0101】
[3.1.2. 物性]
表2に、メソ多孔シリカ及びメソ多孔カーボンの物性を示す。表2より、以下のことが分かる。
【0102】
(1)比較例1の鋳型は、連珠構造を備えたメソ多孔シリカではなく、孤立した球状のメソ多孔シリカであった。そのため、これを鋳型に用いて作製したカーボンは、連珠構造を備えておらず、そのタップ密度は0.3g/cm3を超えていた。
(2)比較例2は、連珠構造を備えているが、一次粒子内にはメソ細孔を備えていない中実のカーボンである。
(3)実施例1~3で得られたメソ多孔カーボンは、いずれも、連珠構造及びメソ細孔を備えており、かつ、タップ密度が0.3g/cm3以下であった。
【0103】
【表2】
【0104】
[3.2. 燃料電池]
[3.2.1. SEM像]
図4に、実施例1、2で得られたMEAの断面のSEM像(上図)、並びに、同MEAの空気極触媒層の断面の拡大SEM像(下図)を示す。図5に、実施例3、及び、比較例1で得られたMEAの断面のSEM像(上図)、並びに、同MEAの空気極触媒層の断面の拡大SEM像(下図)を示す。図4及び図5より、以下のことが分かる。
【0105】
(1)Pt目付量が同一であるにも関わらず、実施例1~3のMEAの空気極触媒層の厚さは、比較例1のそれより厚い。これは、触媒担体として用いたメソ多孔カーボンのタップ密度が低いためである。これにより、空隙の多い触媒層が得られた。
【0106】
[3.2.2. 発電特性]
図6に、実施例1、2及び比較例1、2で得られた燃料電池の高加湿条件下(80%RH)でのIV性能を示す。図7に、実施例1、2及び比較例1、2で得られた燃料電池の低加湿条件下(30%RH)でのIV性能を示す。図6及び図7より、以下のことが分かる。
【0107】
(1)実施例1、2の燃料電池は、高加湿条件下及び低加湿条件下のいずれにおいても、高いIV性能が得られた。
(2)比較例1の燃料電池のIV性能は、高加湿条件下及び低加湿条件下のいずれにおいても、実施例1、2のそれより低い。高加湿条件下でのIV性能が低いのは、タップ密度が高すぎるために、フラッディングが生じたためと考えられる。
(3)比較例2の燃料電池のIV性能は、高加湿条件下及び低加湿条件のいずれにおいても、比較例1のそれより高いが、実施例1、2のそれより低い。これは、アイオノマが触媒を被覆し、触媒性能が低下したためと考えられる。
【0108】
[3.3. 黒鉛化度]
図8(A)に、黒鉛化処理前のメソ多孔カーボン(実施例1)のX線回折パターンを示す。図8(B)に、黒鉛化処理後のメソ多孔カーボン(実施例1)のX線回折パターンを示す。図8より、黒鉛化処理によりメソ多孔カーボンの結晶性が向上していることが分かる。
【0109】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係るメソ多孔カーボンは、固体高分子形燃料電池の空気極触媒層の触媒担体、あるいは、燃料極触媒層の触媒担体として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8