(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】高収率の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを生成するための、規模拡大可能な高回収率の方法、及びそれにより生成される組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 7/02 20060101AFI20221005BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20221005BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20221005BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20221005BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221005BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20221005BHJP
A61K 35/761 20150101ALN20221005BHJP
A61K 48/00 20060101ALN20221005BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C12N7/02
C12N7/01
C12N15/864 100Z
C12N15/113 Z
C12N15/12
C12N15/52 Z
A61K35/761
A61K48/00
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2019502241
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(86)【国際出願番号】 US2017043291
(87)【国際公開番号】W WO2018017956
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-06-17
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518138077
【氏名又は名称】スパーク セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SPARK THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】チィ, グワン
(72)【発明者】
【氏名】ライト, ジョン フレーザー
(72)【発明者】
【氏名】オ, ヨンフン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ユイホワン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ハーイポー
(72)【発明者】
【氏名】ダンカン, ローラ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517798(JP,A)
【文献】特表2008-528273(JP,A)
【文献】特表2008-501339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00-7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子
を生成する方法であって、
(a)rAAVベクター粒子を含む細胞及び/又は細胞培養上清を収穫
して収穫物を生成するステップと、
(b)ステップ(a)において生成した前記収穫物
を溶解して、ライセートを生成するステップと、
(
c)ステップ(
b)において生成した前記ライセートをろ過して、清澄ライセートを生成するステップと、
(
d)ステップ(
c)において生成した前記清澄ライセートをイオン交換カラムクロマトグラフィーに供して、精製rAAVベクター粒子からなるカラム溶出液を生
成するステップと、
(
e)ステップ(
d)において生成した前記カラム溶出
液を塩化セシウムと混合して、混合物を生成し、前記混合物を勾配超遠心分離に供して、真正なrAAVベクター粒子を中空カプシドAAV粒子及び他のAAVベクター関連不純物から実質的に分離するステップと、
(
f)(1)ステップ(e)において分離した前記真正なrAAVベクター粒子を収集するステップ、及び(
f)(2)非イオン界面活性剤を含むバッファー中に、収集した前記真正なrAAVベクター粒子を処方するステップと、
(
g)ステップ(
f)(2)の前記真正なrAAVベクター粒子を、タンジェンシャルフローろ過によるバッファー交換に供して、AAVベクター処方物を生成するステップと、
(
h)ステップ(
g)において生成した前記AAVベクター処方物をろ過し、これにより真正なrAAVベクター粒子の処方物
を生成するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(
f)(2)の前記バッファーが、塩化ナトリウム及び/又はリン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(
f)(2)の前記バッファーが
、10mMの濃度か
ら500mMの濃度の塩化ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(
f)(2)の前記バッファーが
、5mMの濃度か
ら50mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が、ポリアルキレングリコールを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が、少なくとも1つのポリエチレングリコールブロック及び少なくとも1つのポリプロピレングリコールブロックを含むブロック共重合体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が、アルキルポリグリコシド、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、コカミドDEA、コカミドMEA、デシルグルコシド、エトキシレート、IGEPAL CA-630、イソテセス-20、グルコシド、マルトシド、モノラウリン、ノニデットP-40、ノノキシノール
、ノノキシノール-
9、NP-40、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、N-オクチルβ-D-チオグルコピラノシド、オクチルグルコシド、オレイルアルコール、PEG-10ヒマワリグリセリド、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポロキサマー
、ポロキサマー407、ポロキサマー188(ポリ(エチレンオキシド-co-ポリプロピレンオキシド)
)、ポリグリセリンポリリシノレエート、ソルビタン、ステアリルアルコール、TritonX-100、及びTween80を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エトキシレートが、エトキシ化脂肪酸、アルコールエトキシレート、トリスチリルフェノールエトキシレート、又はエトキシ化ソルビタン脂肪酸エステルを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ソルビタンが、ソルビタンモノステアレート又はソルビタントリステアレートを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が、cetomacrogol 1000、ポリソルベート
、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
);ポリグリセリンポリリシノレエート、オクタデカン酸[2-[(2R,3S,4R)-3,4-ジヒドロキシ-2-テトラヒドロフラニル]-2-ヒドロキシエチル]エステル、オクタデカン酸[(2R,3S,4R)-2-[1,2-ビス(1-オキソオクタデコキシ)エチル]-4-ヒドロキシ-3-テトラヒドロフラニル]エステル;C8~C22の長鎖アルコール
、ヘキサデカン-1-オール及びcis-9-オクタデセン-1-オー
ル;置換基が、ポリエトキシエタノール基
を含み得る、置換又は非置換のオクチルフェノール;ポリエチレングリコールモノイソヘキサデシルエーテル;ドデカン酸2,3-ジヒドロキシプロピルエステル;ラウリルグルコシド、オクチルグルコシド及びデシルグルコシドを含み得るグルコシド;脂肪酸アミ
ド;並びに親水性ポリエチレンオキシド鎖及び親油性又は親水性の芳香族炭化水素基を有する非イオン界面活性
剤を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が、ポリエチレングリコール-ブロック-ポリプロピレングリコール-ブロック-ポリエチレングリコール、又はポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に挟まれたポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央疎水性鎖からなるトリブロック共重合体を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリエチレングリコール-ブロック-ポリプロピレングリコール-ブロック-ポリエチレングリコール又はトリブロック共重合体が、SYNPERONIC F108(Aldrich)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が
、0.0001%の濃度か
ら0.1%の濃度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(
f)(2)の前記非イオン界面活性剤が
、0.0001%の濃度か
ら0.01%の濃度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記真正なrAAVベクター粒子が、ステップ(
h)において生成した前記処方物中に1mL当た
り10
15粒子の濃度から1mL当たり
10
18の濃度で存在する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(
h)の前記真正なrAAVベクター粒子の収率が、少なくと
も5×10
12真正rAAVベクター粒子/mlである、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(
h)の前記真正なrAAVベクター粒子の収率が、少なくと
も1×10
13真正rAAVベクター粒子/mlである、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(
h)の前記真正なrAAVベクター粒子の収率が、少なくと
も5×10
13真正rAAVベクター粒子/mlである、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(
h)の前記真正なrAAVベクター粒子の回収率が、ステップ(a)の総rAAVベクター粒子の少なくと
も60%である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(
h)の前記真正なrAAVベクター粒子の回収率が、ステップ(a)の総rAAVベクター粒子の少なくと
も70%である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記真正なrAAVベクター粒子が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びRh74からなる群から選択されるAAVに由来する、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記真正なrAAV粒子が、抑制性核酸をコードする導入遺伝子を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記抑制性核酸が、siRNA、アンチセンス分子、miRNA、リボザイム及びshRNAからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記真正なrAAV粒子が、インスリン、グルカゴン、成長ホルモン(GH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン放出因子(GRF)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン、アンジオスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、エリスロポエチン(EPO)、結合組織成長因子(CTGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II)、TGFβ、アクチビン、インヒビン、骨形態形成タンパク質(BMP)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニュートロフィンNT-3及びNT4/5、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、アグリン、ネトリン-1及びネトリン-2、肝細胞増殖因子(HGF)、エフリン、ノギン、ソニックヘッジホッグ並びにチロシンヒドロキシラーゼからなる群から選択される、遺伝子産物をコードする導入遺伝子を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記真正なrAAV粒子が、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン
、IL1~IL-1
7、単球走化性タンパク質、白血病抑制因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、Fasリガンド、腫瘍壊死因子α及びβ、インターフェロンα、β及びγ、幹細胞因子、flk-2/flt3リガンド、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgE、キメラ免疫グロブリン、ヒト化抗体、単鎖抗体、T細胞受容体、キメラT細胞受容体、単鎖T細胞受容体、MHCクラスI及びクラスII分子からなる群から選択される、遺伝子産物をコードする導入遺伝子を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記真正なrAAVベクター粒子が、カルバモイルシンテターゼI、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノコハク酸シンテターゼ、アルギノコハク酸リアーゼ、アルギナーゼ、フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、α-1アンチトリプシン、グルコース-6-ホスファターゼ、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ、第V因子、第VIII因子、第IX因子、シスタチオニンβシンターゼ、分枝鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリル-coAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、インスリン、βグルコシダーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、肝ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ、RPE65、H-タンパク質、T-タンパク質、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR
)、及びジストロフィン
からなる群から選択される、先天代謝異常の矯正に有用なタンパク質をコードする導入遺伝子を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質が、第VIII因子又は第IX因子である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記真正なrAAVベクター粒子が、神経変性疾患の矯正に有用なタンパク質をコードする導入遺伝子を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記タンパク質が、トリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップ(
e)において別々に中空カプシド粒子を収集することを含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(
h)
後の前記真正なrAAVベクター粒子の純度が、少なくと
も80%である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(
h)
後の前記真正なrAAVベクター粒子の純度が、少なくと
も90%である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
ステップ(
h)
後の前記真正なrAAVベクター粒子の純度が、少なくと
も95%である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記中空カプシド粒子が、ステップ(
h)
後に10%以下の量で存在する、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記中空カプシド粒子が、ステップ(
h)
後に5%以下の量で存在する、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(
h)
後に、10%以下の凝集rAAV粒子
が存在する、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ステップ(
h)
後に、5%以下の凝集rAAV粒子
が存在する、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
ステップ(
h)
後に、3%未満の凝集rAAV粒子
が存在する、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
ステップ(
h)
後に、1~3%の凝集rAAV粒子
が存在する、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
ステップ(
e)の前記遠心分離が、1段階で行われる、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
ステップ(
e)の前記遠心分離が、密度勾配超遠心分離である、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
ステップ(
e)の前記カラム溶出液を、タンジェンシャルフローろ過により濃縮して、濃縮カラム溶出液を生成する、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
ステップ(
b)において生成したライセートにヌクレアーゼを加えるステップをさらに含む、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
ステップ(
g)のタンジェンシャルフローろ過によるバッファー交換後にAAVベクター処方物に非イオン界面活性剤を加えた場合、
ステップ(g)のタンジェンシャルフローろ過によるバッファー交換後にAAVベクター処方物に非イオン界面活性剤を加えずに生成したrAAVベクター粒子
と比較してより高い回収率を有するrAAVベクター粒子を生成する、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
ステップ(
g)のタンジェンシャルフローろ過によるバッファー交換後にAAVベクター処方物に非イオン界面活性剤を加えた場合、
ステップ(g)のタンジェンシャルフローろ過によるバッファー交換後にAAVベクター処方物に非イオン界面活性剤を加えずに生成したrAAVベクター粒子
と比較してより高い力価を有するrAAVベクター粒子を生成する、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
ステップ(
f)(1)の収集した前記真正なrAAVベクター粒子が、ステップ(g)(2)の前、実質的に同時又は後に
、5×10
12rAAVベクター粒子/ml未満の濃度まで希釈される、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
ステップ(
g)の前記タンジェンシャルフローろ過が
、2~15psigの間の膜差圧で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
ステップ(
g)の前記タンジェンシャルフローろ過が
、4~12psigの間の膜差圧で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
ステップ(
g)の前記タンジェンシャルフローろ過が
、3000/秒よりも高いせん断速度で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
ステップ(
g)の前記タンジェンシャルフローろ過が
、5000/秒よりも高いせん断速度で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
ステップ(
g)の前記タンジェンシャルフローろ過が
、5000~15,000/秒の間のせん断速度で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
ステップ(
g)の前記タンジェンシャルフローろ過が
、8,000~12,000/秒のせん断速度で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
ステップ(a)の前記収穫物がステップ(b)の前に濃縮され、濃縮収穫物が生成される、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記濃縮がタンジェンシャルフローろ過によるものである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
ステップ(b)における前記溶解が微細流動化によるものである、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記濃縮収穫物を溶解することをさらに含む、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
前記濃縮収穫物の溶解が微細流動化によるものである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
ステップ(d)の前記カラム溶出液が濃縮され、濃縮カラム溶出液が生成される、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記濃縮がタンジェンシャルフローろ過によるものである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
生成された前記濃縮カラム溶出液が塩化セシウムと混合され、混合物が生成される、請求項58又は59に記載の方法。
【請求項61】
前記タンジェンシャルフローろ過が、2~15psigの間の膜差圧で行われる、請求項54又は59に記載の方法。
【請求項62】
前記タンジェンシャルフローろ過が、4~12psigの間の膜差圧で行われる、請求項54又は59に記載の方法。
【請求項63】
前記タンジェンシャルフローろ過が、3000/秒よりも高いせん断速度で行われる、請求項54又は59に記載の方法。
【請求項64】
前記タンジェンシャルフローろ過が、5000/秒よりも高いせん断速度で行われる、請求項54又は59に記載の方法。
【請求項65】
前記タンジェンシャルフローろ過が、5000~15,000/秒の間のせん断速度で行われる、請求項54又は59に記載の方法。
【請求項66】
前記タンジェンシャルフローろ過が、8,000~12,000/秒のせん断速度で行われる、請求項54又は59に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0002]タンジェンシャルフローろ過(TFF)は、限外ろ過プロセス(UF)により生成物を濃縮するため、及びダイアフィルトレーション(DF)を介したバッファー交換により生成物を処方するために、バイオテクノロジー産業において使用される技術である。しかし、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターにTFFを使用してUF/DFを行う場合、相当量のrAAVベクターが、プロセス中に失われた。rAAVベクターを高度に濃縮する場合、さらに一層ベクターが失われる。UF/DFプロセスにおけるベクター損失量により、rAAVに関連する遺伝子治療製品の開発において大変望ましい高濃度rAAVベクター調製物の生成が、ほとんど不可能となっている。
【0002】
[0003]rAAVベクターの製造においてよく認められる別の現象は、1ml当たり1E+13vg(1×1013ベクターゲノム/ml、vg:ベクターゲノム)以上等、高度にベクターの調製物を濃縮する場合は特に、rAAVベクターが、UF/DFプロセスにおいて凝集する傾向があることである。rAAVベクターの凝集は、力価依存的であり、力価が高くなるほど、ベクターは、より凝集すると考えられる。ベクターの凝集によりまた、製造中にベクターの損失が生じる。さらに、凝集したベクターは、臨床の場で使用した場合、患者の安全に対する一懸念事項である。
【0003】
[0004]上記のTFF技術を使用したUF/DFプロセスにおけるrAAVベクター凝集及びベクター損失に関する問題は、rAAVベクターの製造及び/又は精製における意味のあるプロセスチャレンジの代表である。本明細書における本発明では、このような問題に取り組む。
【発明の概要】
【0004】
[0005]多くの異なる仮説の中でも、TFF技術を使用したUF/DFプロセスにおけるrAAVベクター凝集及びベクター損失は、プロセス依存的及び/又は処方依存的となり得る。このような仮説に基づいて、ベクター回収率を向上させ、rAAVベクターの凝集を減少、最小化又は防止するために、UF/DFプロセス用に、新規の処方を考案し、新規の操作パラメーターを作製した。UF/DFプロセス用の発明の処方及び操作パラメーターでは、rAAVベクター回収率が向上し、rAAV凝集が減少した。本明細書に開示するデータは、UF/DFプロセス用に作製した新規の処方及び操作パラメーターは、単独で又は組み合わせて、最初のrAAVベクター調製物から回収した全rAAVベクターの著しい増加をもたらすことを示す。実際、rAAVベクターは、顕著なベクター損失もなく5E+13vg/ml(5×1013ベクターゲノム/ml)まで濃縮することができ、また、ベクターは、主にモノマーであり、これは凝集の減少を示す。
【0005】
[0006]本明細書に開示の発明の処方及び/又は操作パラメーターは、rAAV凝集体がなしに、又はほとんどなしに、例えば、1ミリリットル当たり(Vg/ml)5E+13(5×1013)ベクターゲノムまで、高濃度にrAAVベクターを濃縮することを可能とする。さらに、本明細書に開示の発明の処方及び/又は操作パラメーターは、タンジェンシャルフローろ過技術(TFF)を使用して、バッファー交換からのrAAVベクター回収率を向上させるか、又はベクターを濃縮する。本明細書に開示の発明の処方及び/又は操作パラメーターによって、リソソーム蓄積症、例えば、神経セロイドリポフスチン症2型(CLN2)等のためのrAAVを介した遺伝子治療、血液凝固因子欠乏症(血友病A及び血友病B)等のためのrAAVを介した遺伝子治療等、高濃度のrAAV調製物が望ましい場合の、rAAVベクターを使用する、いかなる遺伝子治療の臨床応用をも支援することが可能である。TFFを使用した、限外ろ過(UF)及びダイアフィルトレーション(DF)プロセスによりベクター回収率が向上するとまた、rAAVベクター製造の製品コストが減少し、より安定で着実なrAAVベクター又は臨床応用がもたらされる。
【0006】
[0007]したがって、本発明は、rAAV製造プロセスに様々な利点を提供する。一実施形態では、rAAVベクター回収率を高め、著しく強化することができ、それによって、開始から終了までの収率の向上をもたらす(例えば、開始から終了まで70%以上のrAAVベクター収率)。別の実施形態では、高rAAVベクター力価にrAAVベクターを濃縮する場合は特に、rAAV凝集を減少、最小化又は防止する。さらなる実施形態では、rAAVベクターを高力価及び/又は少量で投与すること(例えば、注射又は点滴)が望ましい臨床応用に適した高濃度(例えば、少なくとも1E+12、5E+12、1E+13、又は5E+13vg/mlで)でrAAVベクターを生成する。さらなる実施形態では、本発明は、以下、
(1)操作の可変性に基づいた製造リスクを減少させることができる、rAAVベクターを製造するための高度に信頼性を有する/着実なUF/DFプロセス、
(2)rAAVベクター収率の全体的な増加(例えば、開始から終了まで70%以上)をもたらす、UF/DFプロセスからの効率的なrAAVベクター回収、
(3)著しいrAAVベクター損失の回避、
(4)rAAVベクター凝集(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー及び/又は動的光散乱等の技術により検出不可能なrAAVベクター凝集)を減少、最小化又は防止すること、
(5)rAAVベクター凝集を減少、最小化した状態、又は(サイズ排除クロマトグラフィー及び/又は動的光散乱等の技術により)ほとんど若しくは全く検出不可能な状態で、rAAVベクターを高濃度、例えば、5E+13vg/mlまで濃縮することを可能とすること、並びに/或いは
(6)高力価rAAVベクター調製物を生成して、臨床応用において少量投与を可能とすること
のうちの1つ又は複数を単独、又は相互に任意の組合せ、又は本明細書に開示の他の実施形態との任意の組合せで提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】TFFプロセス中のせん断速度の増加が、rAAVベクター回収率をどのように著しく向上させたかを示すグラフである。CsCl超遠心分離後のAAV2-hTPP1v1ベクター(2.5E+14vg)を、ダイアフィルトレーションバッファーを使用して、50mL(5.0E+12vg/mL)に最初に希釈した。ダイアフィルトレーションの1サイクルでは、25mLのダイアフィルトレーションバッファーを50mLの希釈したベクター中に加え、次いで、ダイアフィルトレーションを開始し、量が50mLに減少するまで行った。ダイアフィルトレーションステップを24回繰り返した。25サイクルのダイアフィルトレーションプロセス後、ベクターを5mLまで限外ろ過した。5mLのベクターをアッセイ用に収集した。(A)qPCR解析により、TFFプロセス中に、高せん断速度(約10,000/秒)を採用した場合、ベクター力価は、4.81E+13vg/mLであったことが示されており、90%以上のベクター回収率を示したが、一方、低せん断速度(約3000/秒)では、1.38E+13vg/mLとなったことが示されており、約30%のベクター回収率を示した。(B)動的光散乱(DLS)解析により、高せん断速度(約10,000/秒)又は低せん断速度(約3000/秒)のいずれの場合に収集したベクターの直径も、同様であったことが示された。
【
図2】膜差圧(TMP)が、TFFプロセスからのrAAV回収率にどのように影響するかを示すグラフである。CsCl超遠心分離後のAAV2-hTPP1v1ベクター(2.5E+14vg)を、ダイアフィルトレーションバッファーを使用して、50mL(5.0E+12vg/mL)に最初に希釈し、DFプロセスを開始した。各ダイアフィルトレーションサイクルでは、25mLのダイアフィルトレーションバッファーを50mLの希釈したベクター中に加え、量を50mlまで減らした。ダイアフィルトレーションステップを25回実施して、適切なバッファー交換を達成した。次いで、ベクターを5mLまで限外ろ過した。Q-PCR解析(A)により、TMP(約10.5psig)を採用した場合、ベクター力価は、3.43E+13vg/mLであり、高TMP(約15.5psig)では、力価は、2.90E+13vg/mLであったことが示された。DLS解析により、ベクター調製物の直径は、低TMP(約10psig)及び比較的高いTMP(約15.5psig)のそれぞれについて、29.07nm及び38.2nmであったことが示された。直径が大きくなるほど、rAAVベクターが調製物中で、より凝集したことを表す。
【
図3】UF/DFプロセス後の循環を実施しないベクターを収集すると、ベクター調製物中の凝集したrAAV粒子の回収が回避されることを示すデータを表すグラフである。CsCl超遠心分離後のAAV2-hTPP1v1ベクター(2.5E+14vg)を、ダイアフィルトレーションバッファーを使用して、50mL(5.0E+12vg/mL)に希釈し、UF/DFプロセスを完了した。UF/DFの流量よりも低い流量で、濃縮したベクターを直接漏出させること(押出し)、又は数分の循環(cyculation)(循環)後に濃縮したベクターを漏出させることによりベクターを収集した。Q-PCR解析(A)により、ベクター力価は、2つの異なるベクター回収方法で同様であることが示された。しかし、DLS解析(B)により、ベクターの直径は、循環調製物では著しく大きかったことが示されており、rAAVベクターが、より凝集したことを示唆した。
【
図4】低力価のベクター(約5E+12vg/mL)を希釈すると、UF/DFプロセスによりベクター凝集が大幅に減少したことを示すデータを表すグラフである。CsCl超遠心分離後のAAV2-hTPP1v1ベクター(2.5E+14vg)に直接ダイアフィルトレーションを行うか、又はダイアフィルトレーションバッファーを使用して最初に希釈し、次いで、ダイアフィルトレーションを25サイクル行った。ダイアフィルトレーションプロセスの後、ダイアフィルトレーションを行った両方のベクターを5mLまで限外ろ過した。DLS解析により、ダイアフィルトレーションプロセスから回収した未希釈のベクター(左の棒グラフ)の直径は、希釈したベクター(右の棒グラフ)の直径よりも著しく大きかったことが示された。
【
図5】PluronicF-68が、rAAVベクターが大きな粒子(例えば、凝集体)を形成することを減少、最小化又は防止したことを示すデータを表すグラフである。CsCl超遠心分離後のAAV2-hTPP1v1の中空粒子を、モデルウイルス粒子として、PluronicF-68含有の(バッファー1と命名)又はPluronicF-68不含の(バッファー2と命名)ダイアフィルトレーションバッファーで最初に希釈した。次いで、ダイアフィルトレーションバッファー1又はバッファー2のいずれかをサイクル毎に使用して、希釈した中空粒子にダイアフィルトレーションを25サイクル行った。ダイアフィルトレーションプロセスの後、中空粒子を5mLまで限外ろ過した。5mLの中空粒子をアッセイ用に収集した。(A)DLS解析により、PluronicF-68を使用した中空粒子(右の棒グラフ)の平均カウント(kcps)は、PluronicF-68を使用しない中空粒子(左の棒グラフ)の平均カウントよりも著しく高かったことが示されており、PluronicF-68の存在下で、より良い回収率を達成したことを示唆した。(B)PluronicF-68を使用しない中空粒子(左の棒グラフ)の直径は、PluronicF-68を使用した中空粒子(左の棒グラフ)の直径よりも大きかった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[0013]タンジェンシャルフローろ過は、バイオ製品におけるバッファー交換の実行(ダイアフィルトレーション、DF)及び濃縮(限外ろ過、UF)に広く使用されている技術である。しかし、rAAVベクターのバッファー交換及び最終製法にTFF技術を使用した場合、UF/DFプロセスにおいて相当量のベクターが失われたことが認められた。高rAAVベクター力価/濃度が、特定のヒト疾患を治療するのに頻繁に必要とされる。しかし、現在のUF/DF用処方及び操作パラメーターでは、rAAVベクターを1E+13vg/ml以上のベクター力価等、所望の濃度に生成することは不可能であった。さらに、rAAVベクターは、1E+13vg/ml以上のレベルに濃縮した場合、凝集する傾向がある。
【0009】
[0014]高力価rAAVベクターの製造に対する、このような実質的な技術的限界を克服するために、本発明では、rAAVベクターのTFFプロセス用の新規の処方を作製した。さらに、本発明では、TFFプロセス用の新規の操作パラメーターを作製した。新規に開発した処方を、新規に作製したTFFプロセスで(新規に開発したパラメーターと共に)使用して、最終UF/DFプロセスを経ることによりrAAVベクター調製物を処方すると、rAAVベクター回収率が著しく向上し、rAAVベクターがモノマーのまま残ったことが認められた。特に、新規のTFF処方を新規のTFF操作技術と組み合わせて用いると、5E+13vg/mlまで濃縮した場合であっても、実質的なrAAVベクターの凝集もなくrAAVベクターが濃縮された。さらに、rAAVベクター回収率(全収率)は、著しく向上した。
【0010】
[0015]本発明は、検出可能なrAAVベクター凝集もなく高濃度に、検出可能なrAAV凝集もなく5E+13vg/mlまで、rAAVベクター生成物を濃縮することを可能とする解決法を提供する。本発明はまた、相当量のベクターの損失のない、rAAVベクター用TFF技術を使用するUF/DFプロセスを完了するための解決法を提供する。例えば、このUF/DFプロセスからのrAAVベクターの回収率は、開始から終了まで70%~95%の範囲である。本発明により、TFFが、濃縮したrAAVベクターを製造する場合は特に効率的なrAAV製造プロセスのための技術となった。
【0011】
[0016]用語「ベクター」は、小担体核酸分子、プラスミド、ウイルス(例えば、AAVベクター)、又は核酸の挿入又は組込みにより操作可能な他の媒体を指す。このようなベクターは、遺伝子操作に使用して(すなわち、「クローニングベクター」)、ポリヌクレオチドを細胞中に導入/転換し、細胞に挿入したポリヌクレオチドを転写又は翻訳することができる。「発現ベクター」は、宿主細胞における発現に必要とされる必須調節領域を有する遺伝子又は核酸配列を含む、特殊化したベクターである。ベクター核酸配列は、一般に、細胞における増殖のための少なくとも1つの複製起点を含み、任意選択で、導入遺伝子、発現調節因子(例えば、プロモーター、エンハンサー)、イントロン、ITR(複数可)、ポリアデニル化シグナル等の追加要素を含む。
【0012】
[0017]ウイルスベクターは、ウイルスゲノムを含む1つ又は複数の核酸要素に由来するか、又はウイルスゲノムを含む1つ又は複数の核酸要素をベースとしている。特定のウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0013】
[0018]用語「組換え」は、組換えウイルス、例えば、パルボウイルス(例えば、rAAV)ベクター等のベクターの修飾語として、並びに組換えポリヌクレオチド及びポリペプチド等の配列の修飾語句として、構成体に、一般に自然には起こらないように操作(すなわち、技巧的操作)がされていることを意味する。rAAVベクター等の組換えベクターの特定の例は、通常、野生型のウイルス(例えば、AAV)ゲノムに存在しないポリヌクレオチドをウイルスゲノムに挿入するような場合である。用語「組換え」は、本明細書において、AAVベクター等のベクター、並びにポリヌクレオチド等の配列に関連して、常には使用されていないが、このような任意の省略にかかわらず、組換え体を明示的に含む。
【0014】
[0019]組換えウイルス「ベクター」又は「rAAVベクター」は、野生型ゲノムをウイルス(例えば、AAV)から除去する分子的方法を使用し、非天然の核酸で置き換えることにより、AAV等のウイルスの野生型ゲノムから誘導される。一般的には、AAVでは、AAVゲノムの逆方向末端反復(ITR)配列の一方又は両方が、rAAVベクター中に保持される。「組換え」ウイルスベクター(例えば、rAAV)は、ウイルスゲノムの全部又は一部が、ウイルス(例えば、AAV)ゲノム核酸について非天然配列と置き換えられているため、ウイルス(例えば、AAV)ゲノムから区別される。したがって、非天然配列を組み込むことにより、ウイルスベクター(例えば、AAV)が「組換え」ベクターであると定義され、AAVの場合、「rAAVベクター」と呼ぶことができる。
【0015】
[0020]組換えベクターは、パッケージングすることができる-本明細書では、エクスビボ、インビトロ又はインビボの細胞への後続の感染(形質導入)のための「粒子」と呼ぶことができる。組換えベクター配列が、AAV粒子中にカプシド封入又はパッケージングされている場合では、粒子はまた、「rAAV」と呼ばれ得る。このような粒子は、ベクターゲノムをカプシド封入又はパッケージングするタンパク質を含む。特定の例では、ウイルスエンベロープタンパク質、及びAAVの場合では、カプシドタンパク質を含む。
【0016】
[0021]便宜上「vg」と略される「ベクターゲノム」は、最終的にパッケージング又はカプシド封入されてウイルス(例えば、rAAV)粒子を形成する、組換えプラスミド配列の部分を指す。組換えプラスミドが、組換えベクターの構築又は製造に使用される場合では、ベクターゲノムは、組換えプラスミドのベクターゲノム配列と対応しない「プラスミド」の部分を含まない。組換えプラスミドのこの非ベクターゲノム部分は、増殖及び組換えAAVベクターの生成に必要とされるプロセスである、プラスミドのクローニング及び増幅に重要である「プラスミド骨格」と呼ばれているが、それ自体はウイルス(例えば、AAV)粒子中にパッケージング又はカプシド封入されていない。したがって、「ベクターゲノム」は、ウイルス(例えば、AAV)によりパッケージング又はカプシド封入されている核酸を指す。
【0017】
[0022]用語「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)を含む、核酸、オリゴヌクレオチドのすべての形態を指すように、本明細書において互換的に使用する。ポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA及びアンチセンスDNA、並びにスプライシングされた又はスプライシングされていないmRNA、rRNA、tRNA及び抑制性DNA又はRNA(RNAi、例えば、低分子若しくは短鎖のヘアピン(sh)RNA、マイクロRNA(miRNA)、低分子若しくは短鎖の干渉(si)RNA、トランススプライシングRNA、又はアンチセンスRNA)を含む。ポリヌクレオチドは、天然品、合成品、及び意図的に改変又は変更したポリヌクレオチド(例えば、変異型核酸)を含む。ポリヌクレオチドは、単鎖、二重鎖、又は三重鎖、直鎖又は環状であってもよく、いかなる長さであってもよい。ポリヌクレオチドについて考察する場合、特定のポリヌクレオチドの配列又は構造は、配列を5’から3’方向で示す慣習に従って本明細書に記載し得る。
【0018】
[0023]「導入遺伝子」は、目的とする又は細胞若しくは生物中に導入されている、ポリヌクレオチド又は核酸を便宜上指すように本明細書において使用する。導入遺伝子は、ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子等の任意の核酸を含む。
【0019】
[0024]「核酸」若しくは「ポリヌクレオチド」配列又は「導入遺伝子」によりコードされる「ポリペプチド」、「タンパク質」及び「ペプチド」は、天然の野生型タンパク質のような完全長天然配列、並びに機能的な部分配列、改変体又は配列変異体が、天然完全長タンパク質のある程度の機能性を保持する限り、その部分配列、改変体又は変異体を含む。核酸配列によりコードされるこのようなポリペプチド、タンパク質及びペプチドは、不完全な、又は処置した哺乳動物において発現が不十分若しくは欠損した、内在性タンパク質と同一でもよいが、同一である必要はない。
【0020】
[0025]組換えAAVベクターは、任意のウイルスの株又は血清型を含む。非限定的な例として、rAAVベクターは、例えば、AAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-12、-rh74、-rh10又はAAV-2i8等のあらゆるAAVゲノム又はAAVカプシドをベースとすることができる。このようなベクターは、同一の株又は血清型(又は亜群又は変異体)をベースとするか、又は相互に異なってもよい。非限定的な例として、1つの血清型ゲノムをベースとした組換えAAVベクターは、ITR又はベクターをパッケージングするカプシドタンパク質のうちの1つ又は複数と同一となり得る。さらに、組換えAAVベクターゲノムは、AAV ITR又はベクターをパッケージングするカプシドタンパク質のうちの1つ又は複数と明確に異なるAAV(例えば、AAV2)血清型ゲノムをベースとすることができる。例えば、AAVベクターゲノムは、AAV2をベースとすることができ、一方、例えば、3つのカプシドタンパク質のうちの少なくとも1つは、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74若しくはAAV-2i8又はその変異体であってもよい。
【0021】
[0026]特定の実施形態では、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74及びAAV-2i8、並びにその変異体(例えば、アミノ酸挿入、付加、置換及び欠失等のITR及びカプシド変異体)、例えば、国際公開第2013/158879号(国際出願PCT/US2013/037170)、国際公開第2015/013313号(国際出願PCT/US2014/047670)及び米国特許出願公開第2013/0059732号(米国特許出願第13/594,773号、LK01、LK02、LK03等を開示)に記載するものを含む。
【0022】
[0027]AAV変異体は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74及びAAV-2i8のITR並びにカプシドの変異体及びキメラを含む。したがって、AAVベクター及びAAV変異体(例えば、ITR及びカプシド変異体)が含まれる。
【0023】
[0028]種々の例示的実施形態では、参照血清型に関連するAAVベクターは、1つ又は複数のAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74又はAAV-2i8と少なくとも80%以上(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%等)同一な配列(例えば、ITR、又はVP1、VP2、及び/若しくはVP3配列等)を含む、又はからなる、ポリヌクレオチド(例えば、ITR)、又はポリペプチド(例えば、カプシド)を有する。
【0024】
[0029]本明細書で使用する場合、句「真正なAAVベクター」又は「真正なrAAVベクター」は、標的細胞に感染させることが可能な目的の導入遺伝子を含むAAVベクターを指す。この句は、中空のAAVベクター(導入遺伝子が全く存在しない)、及び完全には挿入されていないAAVベクター(例えば、導入遺伝子断片)又は宿主細胞核酸を含むAAVベクターを除外する。
【0025】
[0030]用語「単離された」は、構成体の修飾語として使用する場合、構成体が、人の手により作製される、及び/又は天然のインビボ環境から完全に若しくは少なくとも部分的に分離されることを意味する。一般に、単離された構成体は、例えば、1つ又は複数のタンパク質、核酸、脂質、糖、細胞膜等の、通常、自然では付随する1つ又は複数の物質を実質的に含んでいない。例えば、「単離された核酸」は、rAAVベクター等のベクター中に挿入されたDNA又はcDNA分子を含み得る。
【0026】
[0031]他に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術的及び化学的用語は、本発明の属する分野の当業者により一般的に理解されているものと同一の意味を有する。本明細書に記載のものと同様又は等価である方法及び材料を、本発明の実施又は試験で使用することができるが、適切な方法及び材料を本明細書に記載する。
【0027】
[0032]本明細書で引用する、すべての特許、特許出願、公開、及び他の参考文献、GenBankの引用並びにATCCの引用は、その全内容を参照により組み込む。矛盾する場合には、定義を含む本明細書により規制されることとなる。
【0028】
[0033]本発明の生体分子に関連する種々の用語は、上記並びにまた、本明細書及び特許請求の範囲にわたって使用する。
【0029】
[0034]本明細書に開示のすべての特徴は、任意の組合せで組み合わせることができる。本明細書に開示する各特徴は、同一、等価、又は同様の目的を果たす代替的な特徴により置き換えることができる。したがって、他に明示的に提示しない限り、開示の特徴は、等価又は同様の特徴に属する一例である。
【0030】
[0035]本明細書で使用する場合、文脈上明白に他に指示しない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「a nucleic acid(核酸)」の指示では、このような核酸のうちの複数を含み、「a vector(ベクター)」の指示では、このようなベクターのうちの複数を含み、「a virus(ウイルス)」又は「particle(粒子)」の指示では、このようなウイルス/粒子のうちの複数を含む。
【0031】
[0036]本明細書で使用する場合、すべての数値又は数値の範囲は、文脈上明白に他に指示しない限り、このような範囲内の整数及び範囲内の値又は整数の割合を含む。したがって、例示すると、80%以上の同一性の指示では、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%等、並びに81.1%、81.2%、81.3%、81.4%、81.5%等、82.1%、82.2%、82.3%、82.4%、82.5%等その他を含む。
【0032】
[0037]大なる又は小なる整数の指示では、参照の数よりも大きいか又は小さい任意の数をそれぞれ含む。したがって、例えば、100未満の指示では、99、98、97等、ずっと下って数1までを含み、10未満では、9、8、7等、ずっと下って数1までを含む。
【0033】
[0038]本明細書で使用する場合、すべての数値又は数値の範囲は、文脈上明白に他に指示しない限り、このような範囲内の値の割合及び整数及びこのような範囲内の整数の割合を含む。したがって、例示すると、1~10等の数値の範囲の指示では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、並びに1.1、1.2、1.3、1.4、1.5等その他を含む。したがって、1~50の範囲の指示では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20等、50まで、並びに1.1、1.2、1.3、1.4、1.5等、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5等その他を含む。
【0034】
[0039]一連の範囲の指示では、その一連内の異なる範囲の境界値を組み合わせた範囲を含む。したがって、一連の範囲の指示を例示すると、例えば、1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~75、75~100、100~150、150~200、200~250、250~300、300~400、400~500、500~750、750~850の一連の範囲の指示では、1~20、1~30、1~40、1~50、1~60、10~30、10~40、10~50、10~60、10~70、10~80、20~40、20~50、20~60、20~70、20~80、20~90、50~75、50~100、50~150、50~200、50~250、100~200、100~250、100~300、100~350、100~400、100~500、150~250、150~300、150~350、150~400、150~450、150~500等の範囲を含む。
【0035】
[0040]本発明は、本明細書において、多数の実施形態及び態様を記載するのに肯定的な言語を使用して、一般的に開示する。本発明はまた、物質若しくは材料、方法ステップ及び条件、プロトコル、又は手順等の特定の主題を完全又は部分的に除外する実施形態を特に含む。例えば、本発明の特定の実施形態又は態様では、材料及び/又は方法ステップを除外する。したがって、本発明が、本発明が含まないものに関して、本明細書において一般的に表されていなくても、本発明において明示的に除外しない態様は、やはり本明細書において開示する。
【0036】
[0041]本発明の実施形態のうちの多数を記載した。それにかかわらず、当業者は、本発明の概念及び範囲から逸脱することなく、本発明の種々の変更及び改変を行って、その種々の変更及び改変を種々の利用及び条件に適応させることができる。したがって、以下の実施例は、例示することを意図するものであるが、主張する本発明の範囲を決して限定するものではない。
【実施例】
【0037】
[0042]実施例1
rAAVベクターの損失及び/又は凝集を説明し得る多くの仮説のうちの1つは、非最適化UF/DFプロセスにおいてTFF装置にゲル層が蓄積し得ることであり、これがrAAVベクター損失の原因となり得ることである。蓄積したゲル層のこの仮説は、ベクターがより濃縮されるほど、より激しいゲル層が蓄積され得るので、rAAVベクターを高濃度に濃縮した場合、より多くのrAAVベクターが失われるという現象も説明し得る。ゲル層の蓄積は、特にrAAVベクターを高濃度に濃縮した場合UF/DFプロセスにおいて極めて頻繁に認められる現象である、rAAV凝集も引き起こし得る。
【0038】
[0043]実施例2
TFF操作パラメーターに加えて、多くの仮説のうちの1つは、処方が、ゲル層を減少させ、またrAAVの凝集を防ぐのに重要な役割を果たし得るということである。現在のUF/DFプロセスで使用される溶液/バッファーのほとんどにおいて、バッファー/溶液に使用される化学物質は、塩及びpHを調節するための化学物質である。プロセスを通してUF/DF溶液に界面活性剤を使用すると、rAAVベクター間の会合及びrAAVベクターとUF/DF装置の表面との間の会合が減少し得る。次いで、これにより、UF/DFプロセスを通してrAAVベクターのゲル層が減少又は防止され得る。加えて、界面活性剤は、UF/DFプロセスを完了する間、疎水性相互作用を減少又は防止することにより、rAAVの会合をさらに減少させ得る。これによって、rAAVの凝集を減少、最小化又は防止する。さらなる仮説は、UF/DFプロセス中に、せん断速度を増加させ、膜差圧(TMP)を調節すると、ゲル層の蓄積が減少し得るということである。このようなすべての仮説に基づいて一連の試験を行い、これにより、本明細書に開示する特定の発明の処方及び操作パラメーターがもたらされた。
【0039】
[0044]実施例3
本発明によれば、rAAVの凝集を減少、最小化又は防止し、rAAVベクターの回収率(全収率)を増加させる、新規のUF/DF操作パラメーターは、高力価のrAAVベクター調製物が望ましい場合、特に適切である。例えば、UF/DFステップの前のCsCl勾配遠心法において等、rAAVベクター調製物が高濃度のrAABVを含む場合は特に、第1の操作パラメーターでは、低rAAV力価でUF/DFプロセスを開始するべきである。10mMのリン酸ナトリウム、180mMのNaCl及び0.001%のPluronicF-68をpH7.3で含む、作製したダイアフィルトレーションバッファーを使用して、CsCl中の高度に濃縮したrAAVを最初に5E+12vg/ml以下の力価に希釈した。作製したダイアフィルトレーションバッファーを使用して、約8,000/秒以上のせん断速度の流量で、DFプロセスを運用する。ダイアフィルトレーションプロセスを終了して効率的なバッファー交換を達成し、次いで、UFプロセスを開始してrAAVベクターを所望の力価に濃縮する。
【0040】
[0045]新規に作製したUF/DF処方物において有するべき一成分は、PluronicF-68であり、これにより高力価のrAAV調製物が得られた。理論により拘束されることは望まないが、この新規処方(ダイアフィルトレーションバッファー)が、ゲル層の形成を減少させることが考えられる。
【0041】
[0046]UF/DFプロセスにおいて新規処方を新規操作パラメーターと組み合わせる場合、rAAVベクターを、検出可能なベクター凝集もなく1ml当たり5E+13vgに濃縮した。さらに、rAAVベクター回収率は、実質的に一般的に70%以上のレベルであった。
【0042】
〔関連出願〕
[0001]本出願は、2016年7月21日出願の米国特許仮出願第62/365,312号に対する優先権を主張する。先の出願の全内容は、すべての文章、表、配列表及び図面を含めて、参照により本明細書に組み込む。