(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ベシクル含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20221005BHJP
A61K 8/87 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/894 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20221005BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/14 20060101ALI20221005BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/87
A61K8/894
A61K8/86
A61K8/60
A61K8/55
A61K8/44
A61Q19/00
A61K8/14
A61K8/92
(21)【出願番号】P 2019551082
(86)(22)【出願日】2018-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2018038882
(87)【国際公開番号】W WO2019082796
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2017207307
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】宇山 允人
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直輝
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 友香
(72)【発明者】
【氏名】松森 孝平
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070032(JP,A)
【文献】特開2016-108285(JP,A)
【文献】特開2014-214134(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065056(WO,A1)
【文献】特開2001-226221(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067740(WO,A1)
【文献】特開2000-239120(JP,A)
【文献】特開平11-000549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
B01J 13/00、13/02
C08L 75/08
C08J 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)両親媒性物質によって形成されているベシクル、
(b)疎水変性ポリエーテルウレタン、及び
(c)水
を含む、ベシクル含有組成物
であって、
前記疎水変性ポリエーテルウレタンが、下記式4で表され、
前記疎水性ポリエーテルウレタンの配合量が、前記組成物の全量に対して0.2質量%以上であり、
前記両親媒性物質と前記疎水性ポリエーテルウレタンとの重量比が、4:1~1:2であり、かつ、
静置粘度が100Pa・s未満のとろみ状の形態であって、濃縮したときに静置粘度が300Pa・s以上のジェル状の形態に変化する、
組成物:
R
i
-{(O-R
ii
)
k
-OCONH-R
iii
[-NHCOO-(R
iv
-O)
p
-R
v
]
h
}
q
…式4
式4中、
R
i
、R
ii
及びR
iv
は、それぞれ独立に、炭素原子数2~4の炭化水素基を示し、
R
iii
は、ウレタン結合を有していてもよい炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
R
v
は、炭素原子数8~36の炭化水素基を示し、
kは、1~500の整数であり、
pは、1~200の整数であり、
hは、1以上の整数であり、かつ
qは、2以上の整数である。
【請求項2】
前記両親媒性物質が、シリコーン系界面活性剤、ブロック型アルキレンオキシド誘導体、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、アシルアミノ酸金属塩、及びリン脂質からなる群より選択さ
れ、
前記ブロック型アルキレンオキシド誘導体が、下記式2又は3で示されるものであり、
前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体が、下記式5で示されるものである、
請求項1に記載の組成物
:
R
3
O-[(EO)
e
-(AO)
f
-(EO)
g
]-R
4
…式2
式2中、
EOは、オキシエチレン基、AOは、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基であり、これらの付加形態はブロック状であり、
e及びgは、前記オキシエチレン基の平均付加モル数、fは、前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦e+g≦70、1≦f≦70であり、
前記オキシエチレン基と前記オキシアルキレン基との合計に対する前記オキシエチレン基の割合は、20~80質量%であり、
R
3
及びR
4
は、同一又は異なっていてもよい炭素原子数1~4の炭化水素基である;
R
3
O-[(EO)
s
1
-(AO)
r
1
]-B-[O(AO)
r
2
-(EO)
s
2
]-R
4
…式3
式3中、
EOは、オキシエチレン基、AOは、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基、Bは、ダイマージオールから水酸基を除いた残基であり、これらの付加形態はブロック状であり、
s
1
及びs
2
は、前記オキシエチレン基の平均付加モル数、r
1
及びr
2
は、前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦s
1
+s
2
≦150、1≦r
1
+r
2
≦150であり、
前記オキシエチレン基と前記オキシアルキレン基との合計に対する前記オキシエチレン基の割合は、10~99質量%であり、
R
3
及びR
4
は、同一又は異なっていてもよい炭素原子数1~4の炭化水素基である。
【化1】
式5中、L+M+N+X+Y+Zは、エチレンオキシドの平均付加モル数Eを示し、10≦E≦20である。
【請求項3】
前記ベシクルが、
前記シリコーン系界面活性剤から形成され、かつ
前記シリコーン系界面活性剤が、下記式1で表されるポリオキシアルキレン変性シリコーンである、
請求項2に記載の組成物:
【化1】
式1中、
R
1は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、
Aのうちの少なくとも一方は、式-(CH
2)
a-(C
2H
4O)
b-(C
3H
6O)
c-R
2で示されるポリオキシアルキレン基であり、ここで、R
2は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~6、bは0~50、cは0~50の整数であり、b+cは少なくとも5以上であり、かつその他のAは、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、かつ
mは1~200、nは0~50の整数である。
【請求項4】
前記ベシクルが、
前記ブロック型アルキレンオキシド誘導体から形成され
る、
請求項2に記載の組成物
。
【請求項5】
前記疎水変性ポリエーテルウレタンが、ポリエチレングリコール-デシルテトラデセス-ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーである、請求項
1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ベシクルの平均粒径が200nm以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ベシクルが油分を保持している、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
波長600nmにおける光透過率が40%以上である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物を含む、化粧料基剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベシクル含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性及び疎水性の双方の性質を有する両親媒性の化合物には、例えば、リン脂質のように、水性相中でラメラ層のような二分子膜からなる球状の小胞体を形成する化合物がある。このような二分子膜小胞体をリポソーム又はベシクルといい、これらは、その小胞体内部に水性成分を保持することができ、かつ/又は小胞体膜内に油性成分を保持することができる。このため、例えば、薬剤を保持させて生体内に投与し、薬効を長期間にわたって維持できること等の利点から、係る小胞体は、医薬、化粧品、食品分野等におけるマイクロカプセルとして用いられている。リポソーム又はベシクルを形成することによって、透明性等の外観にも優れる組成物が得られるため、係る小胞体は、化粧料の基剤としての使用も期待されている。
【0003】
特許文献1は、(a)シリコーン系界面活性剤、(b)ポリオキシエチレンアルキル(12~15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を0.001~0.2質量%、(c)IOBが0.05~0.80の極性油及び/又はシリコーン油、及び(d)組成物に対し0.5~5質量%の水溶性薬剤を含む水、を含有するベシクル含有組成物であって、(a)シリコーン系界面活性剤がベシクルを形成し、(b)アニオン性界面活性剤が該ベシクルの表面に付着し、(c)極性油及び/又はシリコーン油が該ベシクルの二分子膜内に存在する、ベシクル含有組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ベシクルを含有する従来の化粧料は、水のようなさらさらとした感触、とろみ状のなめらかな感触、或いは、高粘度のマヨネーズのような感触を呈するものが一般的であった。これに対して、これまでとは異なる新規な使用感触を呈する化粧料などが望まれていた。
【0006】
したがって、本発明の主題は、新規な使用感触を呈するベシクル含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〈態様1〉
(a)両親媒性物質によって形成されているベシクル、
(b)疎水変性ポリエーテルウレタン、及び
(c)水
を含む、ベシクル含有組成物。
〈態様2〉
前記両親媒性物質が、シリコーン系界面活性剤、ブロック型アルキレンオキシド誘導体、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、アシルアミノ酸金属塩、及びリン脂質からなる群より選択される、態様1に記載の組成物。
〈態様3〉
前記ベシクルが、シリコーン系界面活性剤から形成され、かつ
前記シリコーン系界面活性剤が、下記式1で表されるポリオキシアルキレン変性シリコーンである、
態様2に記載の組成物:
【化1】
式1中、
R
1は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、
Aのうちの少なくとも一方は、式-(CH
2)
a-(C
2H
4O)
b-(C
3H
6O)
c-R
2で示されるポリオキシアルキレン基であり、ここで、R
2は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~6、bは0~50、cは0~50の整数であり、b+cは少なくとも5以上であり、かつその他のAは、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、かつ
mは1~200、nは0~50の整数である。
〈態様4〉
前記ベシクルが、ブロック型アルキレンオキシド誘導体から形成され、かつ
前記ブロック型アルキレンオキシド誘導体が、下記式2又は3で示される、
態様2に記載の組成物:
R
3O-[(EO)
e-(AO)
f-(EO)
g]-R
4 …式2
式2中、
EOは、オキシエチレン基、AOは、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基であり、これらの付加形態はブロック状であり、
e及びgは、前記オキシエチレン基の平均付加モル数、fは、前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦e+g≦70、1≦f≦70であり、
前記オキシエチレン基と前記オキシアルキレン基との合計に対する前記オキシエチレン基の割合は、20~80質量%であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なっていてもよい炭素原子数1~4の炭化水素基である;
R
3O-[(EO)
s
1-(AO)
r
1]-B-[O(AO)
r
2-(EO)
s
2]-R
4
…式3
式3中、
EOは、オキシエチレン基、AOは、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基、Bは、ダイマージオールから水酸基を除いた残基であり、これらの付加形態はブロック状であり、
s
1及びs
2は、前記オキシエチレン基の平均付加モル数、r
1及びr
2は、前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦s
1+s
2≦150、1≦r
1+r
2≦150であり、
前記オキシエチレン基と前記オキシアルキレン基との合計に対する前記オキシエチレン基の割合は、10~99質量%であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なっていてもよい炭素原子数1~4の炭化水素基である。
〈態様5〉
前記疎水変性ポリエーテルウレタンが、下記式4で表される、態様1~4のいずれか一項に記載の組成物:
R
i-{(O-R
ii)
k-OCONH-R
iii[-NHCOO-(R
iv-O)
p-R
v]
h}
q …式4
式4中、
R
i、R
ii及びR
ivは、それぞれ独立に、炭素原子数2~4の炭化水素基を示し、
R
iiiは、ウレタン結合を有していてもよい炭素原子数1~10の炭化水素基を示し、
R
vは、炭素原子数8~36の炭化水素基を示し、
kは、1~500の整数であり、
pは、1~200の整数であり、
hは、1以上の整数であり、かつ
qは、2以上の整数である。
〈態様6〉
前記疎水変性ポリエーテルウレタンが、ポリエチレングリコール-デシルテトラデセス-ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーである、態様5に記載の組成物。
〈態様7〉
前記両親媒性物質と前記疎水変性ポリエーテルウレタンとの重量比が、4:1~1:2である、態様1~6のいずれか一項に記載の組成物。
〈態様8〉
前記ベシクルの平均粒径が200nm以下である、態様1~7のいずれか一項に記載の組成物。
〈態様9〉
前記ベシクルが油分を保持している、態様1~8のいずれか一項に記載の組成物。
〈態様10〉
波長600nmにおける光透過率が40%以上である、態様1~9のいずれか一項に記載の組成物。
〈態様11〉
とろみ状の形態であって、濃縮したときにジェル状の形態に変化する、態様1~10のいずれか一項に記載の組成物。
〈態様12〉
態様1~11のいずれか一項に記載の組成物を含む、化粧料基剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な使用感触を呈するベシクル含有組成物を提供することができる。特に、本発明のベシクル含有組成物は、新規な使用感触、例えば、弾力のあるぷるぷるとした使用感触、又は係る組成物を含む化粧料を皮膚に塗布した直後は粘性の低いとろみ状のなめらかな感触であるが、乾燥して濃縮されるに従い化粧料がジェル状の弾力のあるぷるぷるとした感触に変化するような使用感触を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は、本発明の一実施態様のベシクル含有組成物の濃縮前の模式図であり、(b)は、本発明の一実施態様のベシクル含有組成物の濃縮後の模式図である。
【
図2】本発明の一実施態様のベシクル含有組成物の剪断速度及び剪断粘度に関するグラフである。
【
図3】ベシクル非含有組成物の剪断速度及び剪断粘度に関するグラフである。
【
図4】本発明の別の実施態様のベシクル含有組成物の剪断速度及び剪断粘度に関するグラフである。
【
図5】ベシクル非含有組成物の剪断速度及び剪断粘度に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本発明のベシクル含有組成物は、(a)両親媒性物質によって形成されているベシクル、(b)疎水変性ポリエーテルウレタン、及び(c)水を含むベシクル含有組成物である。
【0012】
原理によって限定されるものではないが、本発明の作用原理は以下の通りであると考える。
【0013】
本発明のベシクル含有組成物は、配合した疎水変性ポリエーテルウレタンのうちの少なくとも一部が、隣接するベシクル間に介在するように、ベシクルと疎水変性ポリエーテルウレタンとが水中に分散していると考えている。
【0014】
その結果、本発明のベシクル含有組成物は、例えば、組成物に配合する水の量を多くしてとろみ状のベシクル含有組成物を形成した場合には、係る組成物が濃縮されるに従い、ベシクルと疎水変性ポリエーテルウレタンとの間で架橋点が形成され、連結したネットワーク構造を発現し、水分が保持され易くなりジェル化するとともに、疎水変性ポリエーテルウレタンがベシクル間においてクッションのような作用を奏する。このように、本発明のベシクル含有組成物は、疎水変性ポリエーテルウレタン自体による増粘効果と、ベシクル及び疎水変性ポリエーテルウレタンの間の架橋点の形成によるネットワーク構造の発現に伴う増粘効果とを相乗的に発揮させることができるため、とろみ状のなめらかな使用感触からジェル状の弾力のあるぷるぷるとした使用感触に変化することができる。
【0015】
より詳述すると、例えば、配合する水の量を多くして形成したベシクル含有組成物の場合、係る組成物を皮膚に適用した直後は、水分量が多く、
図1の(a)に示されるように、ネットワーク構造の形成が不十分であるため、粘度の低いとろみ状のなめらかな感触である。しかしながら、該組成物が乾燥して濃縮されるに従い、ベシクルと、ベシクル間に位置する疎水変性ポリエーテルウレタンとの距離がしだいに近接してくるため、
図1の(b)に示されるように、ベシクルに対して架橋点がより形成し易くなり、ベシクルと疎水変性ポリエーテルウレタンとが連結したネットワーク構造も発現し易くなる。その結果、粘度、及び水分の保持能力が増加することに加え、ネットワーク構造に伴う弾力性も発現されるため、弾力のあるぷるぷるとした使用感触を呈するジェル状の形態に変化すると考えている。
【0016】
或いは、本発明のベシクル含有組成物は、組成物に配合する水の量を少なくして最初からネットワーク構造を発現し得る状態にした場合には、初期段階から、係る組成物は、ジェル状の弾力のあるぷるぷるとした使用感触を呈することができる。
【0017】
なお、油を乳化し得る技術としては、例えば、ナノエマルジョンなども知られている。しかしながら、係るナノエマルジョンと疎水変性ポリエーテルウレタンとを併用しても、本発明の新規な使用感触を達成することはできなかった。この原因としては、ナノエマルジョンは熱力学的に非平衡で不安定な状態にあり、また、疎水部と親水部を有する疎水変性ポリエーテルウレタンが界面活性剤のような機能を奏するため、ナノエマルジョンと疎水変性ポリエーテルウレタンとの間で安定した架橋点が形成しづらいことに加え、乳化のバランスも崩れて乳化状態が破壊されるためであると考えている。一方、ベシクルは一般的に熱力学的に平衡で安定な状態にあるため、疎水変性ポリエーテルウレタンの疎水部がベシクルの二分子膜に対して架橋点を形成したとしても、ベシクルの二分子膜を崩壊することがないため、本発明の新規な使用感触を達成することができたものと考えている。
【0018】
また、疎水変性ポリエーテルウレタンのみで係る弾力のあるジェル状の形態を発現させようとすると、疎水変性ポリエーテルウレタンを本発明のベシクル含有組成物の系よりも多量に使用しなければならない。その結果、コストの増大、及び疎水変性ポリエーテルウレタンに由来するべたつき感の増大をもたらすと考えられる。一方、本発明のベシクル含有組成物は、疎水変性ポリエーテルウレタンのみの系に比べ、コストをより低減させ得るとともに、疎水変性ポリエーテルウレタンに由来するべたつき感を低減させつつ、しっとり感を発揮させることもできる。
【0019】
本発明における用語の定義は以下のとおりである。
【0020】
本発明において「とろみ状」なる用語は、例えば、とろみ状化粧料などとして使用されるが、この場合における本発明のとろみ状化粧料の特徴としては、幅広いせん断速度領域でニュートン流体としての性質を呈し、組成物に含まれる水に比べて粘度の高い状態を意図する。係る粘度としては、例えば、レオメーターとしてMCR-302(Anton-Paar社製)を用いて、25℃、1気圧で測定したときの測定対象物の線形領域における粘度が、0.01Pa・s以上、0.1Pa・s以上、又は1Pa・s以上、100Pa・s以下、90Pa・s以下、又は80Pa・s以下の範囲に入るものを包含することができる。
【0021】
本発明において「ジェル状」とは、液体のような柔軟性と、応力を付加した場合に元の形状に戻ろうとする弾力性を有し、とろみ状よりも高粘度の状態を意図する。係る粘度としては、次のものに限定されるものではないが、具体的には、せん断速度が限りなく0s-1に近いところの粘度、即ち、静置粘度に関し、「とろみ状」が、100Pa・s未満の静置粘度であるのに対し、「ジェル状」の静置粘度は、300Pa・s以上、500Pa・s以上、700Pa・s以上、又は1000Pa・s以上の範囲と規定することができる。
【0022】
本発明における「ベシクル」には、リポソーム及びポリマーソームも包含される。
【0023】
本発明において「架橋点」とは、重合に基づく架橋点とは異なり、少なくとも1つの疎水変性ポリエーテルウレタンが有する疎水部のうちの少なくとも1つが、ベシクル二分子膜内に取り込まれた部位又は該二分子膜近傍に吸着した部位を意図する。
【0024】
《(a)両親媒性物質によって形成されているベシクル》
本発明のベシクルは、ベシクルを形成し得る両親媒性物質(以下、「ベシクル形成性両親媒性物質」という場合がある。)から形成することができる。ベシクルの平均粒径は、特に限定されるものではなく、通常、約500nm以下であるが、ベシクル含有組成物の透明性、又は濃縮前の該組成物の低粘度化等の観点から、約200nm以下又は約100nm以下であることが好ましい。ベシクルの平均粒径の下限値も、特に限定されるものではないが、約20nm以上又は約50nm以上にすることができる。ベシクルの平均粒径を制御することによって、ベシクル含有組成物を半透明から透明に調整することができる。本発明のベシクル含有組成物は、例えば、波長600nmにおける光透過率を40%以上、45%以上又は50%以上にすることができる。ここで、ベシクルの平均粒子径は、例えば、粒度分布計FPAR-1000(BX51:大塚電子株式会社製)を用い、動的光散乱法にて測定することができ、或いは、凍結レプリカ法を用い、透過型電子顕微鏡(TEM、H-7000:株式会社日立製作所製)による写真から測定することができる。光透過率は、吸光光度計(V550:日本分光株式会社製)を用い、25℃にて600nm波長での組成物の光線透過率から求めることができる。
【0025】
ベシクル形成性両親媒性物質の配合量は、ベシクルの形成性又は安定性等を考慮し、組成物全量に対して、0.1質量%以上又は0.2質量%以上にすることができ、10質量%以下又は5質量%以下にすることができる。
【0026】
〈両親媒性物質〉
ベシクル形成性両親媒性物質としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤、ブロック型アルキレンオキシド誘導体、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、アシルアミノ酸金属塩、リン脂質等が挙げられる。
【0027】
(シリコーン系界面活性剤)
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。本発明のベシクル形成性両親媒性物質としては、しっとり感等の使用感触、ベシクルの形成性の観点から、下記の式1に示されるポリオキシアルキレン変性シリコーンを用いることが好ましい。係るシリコーンのHLBとしては、4~12の範囲が好ましく、6~9の範囲がより好ましい。
【化2】
【0028】
式1中、R1は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、Aのうちの少なくとも一方は、式-(CH2)a-(C2H4O)b-(C3H6O)c-R2で示されるポリオキシアルキレン基であり、ここで、R2は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは、1~6、bは、0~50、cは、0~50の整数であり、b+cは、少なくとも5以上であり、かつその他のAは、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、かつ、mは、1~200、nは、0~50の整数である。
【0029】
上記式1において、R1は、主鎖のポリシロキサン構造における側鎖であって、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、これらは同一であっても、異なっていてもよい。例えば、R1がすべてメチル基である場合には、ジメチルポリシロキサン構造となり、メチル基及びフェニル基である場合には、メチルフェニルポリシロキサン構造となる。Aは、主鎖のポリシロキサン構造において、ポリオキシアルキレン基が導入され得る箇所であり、少なくともその1つが式-(CH2)a-(C2H4O)b-(C3H6O)c-R2で示されるポリオキシアルキレン基である。ここで、式中、R2は、水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは、1~6、bは、0~50、cは、0~50の整数であり、b+cは、少なくとも5以上である。
【0030】
上記式1において、Aの一部が上記のポリオキシアルキレン基である場合には、その他のAは水素又は炭素原子数1~6のアルキル基であってもよい。式1に示されるシリコーンは、例えば、末端の2つのAがポリオキシアルキレン基である場合、A-B-A型で示されるポリオキシアルキレン変性シリコーンとなり、他方、非末端のAのみがポリオキシアルキレン基である場合、ペンダント型のポリオキシアルキレン変性シリコーンとなる。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン基のいずれであってもよい。非置換ポリシロキサン構造のモル数を示すmは、1~200の整数であり、ポリオキシアルキレン置換ポリシロキサン構造のモル数を表すnは、0~50の整数である。nが0の場合には、末端の2つのAのいずれか又は両方が、ポリオキシアルキレン基である必要がある。
【0031】
このようなポリオキシアルキレン変性シリコーンとしては、例えば、直鎖状ジメチルポリシロキサンの側鎖メチル基をポリオキシエチレン(12モル)基により置換したペンダント型のポリオキシアルキレン変性シリコーンであるポリオキシエチレン(12モル)変性ジメチルポリシロキサン、ポリオキシエチレン(8モル)変性ジメチルポリシロキサン、ポリオキシエチレン(20モル)変性ジメチルポリシロキサンを用いることが好ましく、この他にA-B-A型のポリオキシエチレン-メチルシロキサン-ポリオキシエチレンブロックコポリマー等が挙げられる。ポリオキシエチレン変性シリコーンを用いる場合、全分子量中に占めるエチレンオキサイドの分子量は、20~60%であることが好ましい。
【0032】
シリコーン系界面活性剤は、公知の製法により製造してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製の、HLBが6であるSH3772M、HLBが8であるSH3773M、HLBが5であるSH3775M等が挙げられる。
【0033】
(ブロック型アルキレンオキシド誘導体)
ブロック型アルキレンオキシド誘導体としては、下記の式2又は3で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体を用いることができる。係る誘導体から構成されるベシクルは、ポリマーソームとも呼ばれる。
【0034】
R3O-[(EO)e-(AO)f-(EO)g]-R4 …式2
【0035】
式2において、EOは、オキシエチレン基、AOは、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基であり、これらの付加形態はブロック状である。AOは、具体的には、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、中でも、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましく、オキシブチレン基が特に好ましい。
【0036】
式2において、e及びgは、オキシエチレン基の平均付加モル数を表し、fは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。ベシクルの安定性、使用感触等の観点から、e及びgは、1≦e+g≦70の範囲が好ましく、5≦e+g≦60の範囲がより好ましく、fは、1≦f≦70の範囲が好ましく、5≦f≦55の範囲がより好ましい。
【0037】
式2において、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基とオキシエチレン基との合計に対するオキシエチレン基の割合は、ベシクルの形成性等の観点から、20~80質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましい。
【0038】
式2で示されるアルキレンオキシド誘導体の分子量は、十分量のベシクルを得る観点から、1000~5000であることが好ましい。
【0039】
式2において、R3及びR4は、炭素原子数1~4の炭化水素基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。炭素原子数1~4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、N-プロピル基、イソプロピル基、N-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。R3及びR4が同一又は異なるブロック型アルキレンオキシド誘導体を1種又は2種以上組み合わせて、ベシクルを形成してもよい。
【0040】
本発明の効果に対して不具合を生じさせない範囲で、式2で表されるアルキレンオキシド誘導体において、R3及びR4のいずれか又はこれら両方は、水素原子の誘導体が存在してもよい。
【0041】
本発明のブロック型アルキレンオキシド誘導体は、公知の方法で製造することができる。例えば、水酸基を有している化合物にエチレンオキシド及び炭素原子数3~4のアルキレンオキシドを付加重合した後、ハロゲン化アルキルをアルカリ触媒の存在下にエーテル反応させることによって、ブロック型アルキレンオキシド誘導体を得ることができる。
【0042】
式2で表されるブロック型アルキレンオキシド誘導体としては、次のものに限定されないが、例えば、POE(9)POP(2)ジメチルエーテル、POE(14)POP(7)ジメチルエーテル、POE(10)POP(10)ジメチルエーテル、POE(6)POP(14)ジメチルエーテル、POE(15)POP(5)ジメチルエーテル、POE(25)POP(25)ジメチルエーテル、POE(7)POP(12)ジメチルエーテル、POE(22)POP(40)ジメチルエーテル、POE(35)POP(40)ジメチルエーテル、POE(50)POP(40)ジメチルエーテル、POE(55)POP(30)ジメチルエーテル、POE(30)POP(34)ジメチルエーテル、POE(25)POP(30)ジメチルエーテル、POE(27)POP(14)ジメチルエーテル、POE(55)POP(28)ジメチルエーテル、POE(36)POP(41)ジメチルエーテル、POE(7)POP(12)ジメチルエーテル、POE(17)POP(4)ジメチルエーテル、POE(9)POB(2)ジメチルエーテル、POE(14)POB(7)ジメチルエーテル、POE(15)POB(14)ジメチルエーテル、POE(18)POB(17)ジメチルエーテル、POE(23)POB(21)ジメチルエーテル、POE(27)POB(25)ジメチルエーテル、POE(32)POB(29)ジメチルエーテル、POE(35)POB(32)ジメチルエーテル、POE(10)POB(15)ジメチルエーテル、POE(20)POB(28)ジメチルエーテル、POE(17)POB(10)ジメチルエーテル、POE(28)POB(17)ジメチルエーテル、POE(45)POB(27)ジメチルエーテル、POE(34)POB(14)ジメチルエーテル、POE(55)POB(22)ジメチルエーテル、POE(44)POB(12)ジメチルエーテル、POE(10)POP(10)ジエチルエーテル、POE(10)POP(10)ジプロピルエーテル、POE(10)POP(10)ジブチルエーテル、POE(35)POP(30)グリコール、POE(35)POB(32)グリコール等が挙げられる。ここで、POE、POP、POBは、それぞれポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンの略であり、POE、POP、POBの後ろのカッコ内の数字は、それぞれの付加モル数を表す。以下、このように略記することがある。
【0043】
R3O-[(EO)s
1-(AO)r
1]-B-[O(AO)r
2-(EO)s
2]-R4
…式3
【0044】
式3において、Bは、ダイマージオールから水酸基を除いた残基、EOは、オキシエチレン基である。AOは、炭素原子数3~4のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt-ブチレン基などが挙げられ、中でも、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましく、オキシブチレン基がより好ましい。B、EO及びAOの付加形態は、ベシクルの形成性の観点からブロック状である。付加順序は、ダイマージオールに対して、AO、EOの順で結合しているのが好ましい。
【0045】
式3において、s1及びs2は、オキシエチレン基の平均付加モル数、r1及びr2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。ベシクルの安定性、使用感触等の観点から、これらは、1≦s1+s2≦150、及び1≦r1+r2≦150の関係を満足することが好ましく、5≦s1+s2≦120、及び2≦r1+r2≦70の関係を満足することがより好ましく、10≦s1+s2≦100、及び2≦r1+r2≦50の関係を満足することが特に好ましい。
【0046】
式3において、オキシエチレン基とオキシアルキレン基との合計に対するオキシエチレン基の割合は、ベシクルの形成性等の観点から、10~99質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましい。
【0047】
式3で表されるアルキレンオキシド誘導体の分子量は、ベシクルの形成性の観点から、1000~6000であることが好ましい。
【0048】
R3及びR4は、炭素原子数1~4の炭化水素基である。べたつきの原因となる末端の水酸基をエーテル化し得るので、R3及びR4は、皮膚とのなじみを向上させ、良好な使用感をもたらすことができる。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基及びこれらの混合基などが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。R3及びR4は同一であっても異なっていてもよく、R3及びR4が同一又は異なるブロック型アルキレンオキシド誘導体を1種又は2種以上組み合わせて、ベシクルを形成してもよい。
【0049】
式3で示されるアルキレンオキシド誘導体において、Bは、ダイマージオールから水酸基を除いた残基である。ここで、ダイマージオールとは、ダイマー酸を還元して得られるジオールである。Bがダイマージオールでない他のジオールである場合には、ベシクルを形成できなかったり、仮にベシクルを形成できたとしても安定性が不十分な場合がある。
【0050】
ダイマージオールの原料となるダイマー酸は、例えば、不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルを重合することによって得られる二量体であり、具体的にはオレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等の不飽和脂肪酸又はこれらの低級アルコールのエステルをディールス・アルダー反応のような熱重合により反応させる方法又はその他の反応方法によって合成できる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、生成したダイマー酸中に未反応の脂肪酸が残存していてもよい。
【0051】
ダイマー酸としては、炭素原子数12~24の不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルを二量化したものが好ましい。この場合、Bは炭素原子数24~48のダイマージオール残基となる。このような不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレイン酸及びこれらの炭素原子数1~3の低級アルコールエステルなどが挙げられ、中でも、炭素原子数18の不飽和脂肪酸が好ましく、オレイン酸又はリノール酸若しくはその低級アルコールエステルがより好ましい。ダイマー酸としては、二量化した後に、残存する不飽和二重結合を水素添加したダイマー酸を用いてもよい。
【0052】
ダイマージオールは、動物油脂由来及び植物油脂由来のものが市販されており、本発明では何れも使用できるが、植物油脂由来のものがより好ましい。このようなダイマージオールとしては、Sovermol908(コグニス・ジャパン社製)、PRIPOL(登録商標)2033(ユニケマ社製)、ぺスポールHP-1000(東亞合成(株)製)などが例示できる。
【0053】
式3で表されるブロック型アルキレンオキシド誘導体として、次のものに限定されないが、例えば、POB(25)POE(34)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(25)POE(35)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(4)POE(13)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(5)POE(15)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(6)POE(18)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(7)POE(20)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(10)POE(24)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(10)POE(30)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(25)POE(52)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(18)POE(41)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(18)POE(41)ジエチルダイマージオールエーテル、POB(18)POE(41)ジプロプルダイマージオールエーテル、POB(18)POE(41)ジブチルダイマージオールエーテル、POB(11)POE(30)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(15)POE(45)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(18)POE(50)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(21)POE(56)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(12)POE(50)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(18)POE(61)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(3)POE(40)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(6)POE(82)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(40)POE(120)ジメチルダイマージオールエーテル、POB(100)POE(40)ジメチルダイマージオールエーテル、POE(35)POP(30)ジメチルダイマージオールエーテル、POE(52)POP(30)ジメチルダイマージオールエーテル等が挙げられる。ここで、POE、POP、POBの付加モル数はそれぞれ、分子中の総付加モル数、すなわち、r1+r2、s1+s2の値として表記している。
【0054】
このようなブロック型アルキレンオキシド誘導体は、公知の方法で製造することができる。例えば、水酸基を有している化合物にエチレンオキシド及び炭素原子数3~4のアルキレンオキシドを付加重合した後、ハロゲン化アルキルをアルカリ触媒の存在下にエーテル反応させることによって、ブロック型アルキレンオキシド誘導体を得ることができる。
【0055】
(糖脂肪酸エステル)
糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、トレハロース脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0056】
脂肪酸による水酸基の置換数は、特に限定されないが、モノエステル、ジエステル、トリエステルが好ましく、モノエステル、ジエステルがより好ましく、モノエステルがより好ましい。
【0057】
糖脂肪酸エステルにおける構成脂肪酸は、炭素原子数12~22の飽和又は不飽和脂肪酸であって、直鎖又は分岐をもつものが好ましい。これらの脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、エイコセン酸、エイコサテトラエン酸、ドコセン酸、オクタデカトリエン酸等が挙げられ、中でも、ステアリン酸が好ましい。ジエステルの場合は、二つの脂肪酸は異なっていてもよい。
【0058】
(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体としては、下記式5で示される化合物を用いることが好ましい。
【化3】
【0059】
式5中、L+M+N+X+Y+Zは、エチレンオキシドの平均付加モル数Eを示し、10≦E≦20である。
【0060】
(アシルアミノ酸金属塩)
アシルアミノ酸金属塩としては、炭素原子数12~22のアシルアミノ酸金属塩が好ましい。このようなアシルアミノ酸金属塩としては、例えば、N-ラウロイル-Lグルタミン酸ナトリウム、N-ステアロイル-Lグルタミン酸ナトリウム、ジ(N-ラウロイルグルタミル)リシンナトリウム等が挙げられる。
【0061】
(リン脂質)
リン脂質としては、例えば、卵黄リン脂質、大豆リン脂質、及びこれらの水素添加物、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質、レシチン等のグリセロリン脂質等が挙げられる。
【0062】
(その他の両親媒性物質)
本発明のベシクル含有組成物には、上記両親媒性物質以外に、本発明の効果を損なわない範囲でその他の両親媒性物質を配合してもよい。
【0063】
《(b)疎水変性ポリエーテルウレタン》
本発明の疎水変性ポリエーテルウレタンは、会合性増粘剤、会合性高分子などとも呼ばれる材料であり、次のものに限定されないが、下記の式4
Ri-{(O-Rii)k-OCONH-Riii[-NHCOO-(Riv-O)p-Rv]h}q …式4
で表されるものを使用することができ、疎水変性ポリエーテルウレタンの好ましい例としては、ポリエチレングリコール-デシルテトラデセス-ヘキサメチレンジイソシアネートコポリマーが挙げられる。特に好ましい例としては、INCI名称が「(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー(PEG-240/HDI COPOLYMER BISDECYLTETRADECETH-20 ETHER)」である疎水変性ポリエーテルウレタンが挙げられる。当該コポリマーは、商品名「アデカノールGT-700」として株式会社ADEKAから市販されている。
【0064】
式4において、Ri、Rii及びRivは、それぞれ独立に炭素原子数2~4の炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数2~4のアルキル基又はアルキレン基である。Riiiは、ウレタン結合を有していてもよい炭素原子数1~10の炭化水素基を示す。Rvは、炭素原子数8~36、好ましくは12~24の炭化水素基を示す。kは、1~500の整数であり、好ましくは100~300の整数である。pは、1~200の整数であり、好ましくは10~100の整数である。hは、1以上の整数であり、好ましくは1である。qは、2以上の整数であり、好ましくは2である。
【0065】
式4で表される疎水変性ポリエーテルウレタンは、例えば、Ri-[(O-Rii)k-OH]qで表される1種又は2種以上のポリエーテルポリオール、Riii-(NCO)h+1で表される1種又は2種以上のポリイソシアネート、及びHO-(Riv-O)p-Rvで表される1種又は2種以上のポリエーテルモノアルコールを反応させることにより得ることができる。ここで、Ri、Rii、Riii、Riv、Rv、k、p、h、及びqは、上記で定義したとおりである。
【0066】
この製造方法では、式4中のRi~Rvは、原料となるRi-[(O-Rii)k-OH]q、Riii-(NCO)h+1、HO-(Riv-O)p-Rvにより決定される。係る三者の配合比は、特に限定されるものでないが、ポリエーテルポリオール及びポリエーテルモノアルコール由来の水酸基と、ポリイソシアネート由来のイソシアネート基との比が、NCO/OH=0.8:1~1.4:1であるのが好ましい。
【0067】
〈Ri-[(O-Rii)k-OH]qで表されるポリエーテルポリオール〉
Ri-[(O-Rii)k-OH]qで表されるポリエーテルポリオールは、q価のポリオールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、エピクロルヒドリン等のアルキレンオキシド、スチレンオキシド等を付加重合することにより得ることができる。
【0068】
ここでポリオールとしては、2~8価のものが好ましく、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,3-ペンタトリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、4-プロピル-3,4,5-ヘプタントリオール、2,4-ジメチル-2,3,4-ペンタントリオール、ペンタメチルグリセリン、ペンタグリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、1,2,3,4-ペンタンテトロール、2,3,4,5-ヘキサンテトロール、1,2,4,5-ペンタンテトロール、1,3,4,5-ヘキサンテトロール等の4価のアルコール;アドニット、アラビット、キシリット等の5価アルコール;ジペンタエリスリトール、ソルビット、マンニット、イジット等の6価アルコール;ショ糖等の8価アルコール等が挙げられる。
【0069】
Riiは、付加させるアルキレンオキシド、スチレンオキシド等により決定される。特に入手が容易であり、優れた効果を発揮し得るため、炭素原子数2~4のアルキレンオキシド又はスチレンオキシドが好ましい。付加させるアルキレンオキシド、スチレンオキシド等は単独重合、2種類以上のランダム重合又はブロック重合であってよい。付加の方法は通常の方法であってよい。重合度kは、1~500の整数である。Riiに占めるエチレン基の割合は、好ましくは全Riiの50~100質量%である。
【0070】
Ri-[(O-Rii)k-OH]qの分子量は、500~10万が好ましく、1000~5万がより好ましい。
【0071】
〈Riii-(NCO)h+1で表されるポリイソシアネート〉
Riii-(NCO)h+1で表されるポリイソシアネートは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、フェニルメタンのジ-、トリ-又はテトラ-イソシアネート等を使用することができる。
【0072】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、メチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジプロピルエーテルジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタンジイソシアネート、3-メトキシヘキサンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルペンタンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、3-ブトキシヘキサンジイソシアネート、1,4-ブチレングリコールジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、パラキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0073】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、2,7-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0074】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0075】
ビフェニルジイソシアネートとしては、例えば、ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメトキシビフェニルジイソシアネート等が挙げられる。
【0076】
フェニルメタンのジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,5,2’,5’-テトラメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシルビス(4-イソシオントフェニル)メタン、3,3’-ジメトキシジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジメトキシジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、4,4’-ジエトキシジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、2,2’-ジメチル-5,5’-ジメトキシジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジクロロジフェニルジメチルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-3,3’-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0077】
フェニルメタンのトリイソシアネートとしては、例えば、1-メチルベンゼン-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゼン-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,7-ナフタレントリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、3-メチルジフェニルメタン-4,6,4’-トリイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。
【0078】
これらのポリイソシアネート化合物は、ダイマー、イソシアヌレート結合等に基づくトリマーの形態で用いられてもよく、或いはアミンと反応させてビウレットとして用いてもよい。
【0079】
これらのポリイソシアネート化合物、及びポリオールを反応させたウレタン結合を有するポリイソシアネートも用いることができる。ポリオールとしては、2~8価のものが好ましく、前述のポリオールが好ましい。Riii-(NCO)h+1として3価以上のポリイソシアネートを用いる場合は、このウレタン結合を有するポリイソシアネートが好ましい。
【0080】
〈HO-(Riv-O)p-Rvで表されるポリエーテルモノアルコール〉
HO-(Riv-O)p-Rvで表されるポリエーテルモノアルコールは、1価アルコールのポリエーテルであれば特に限定されない。このような化合物は、1価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、エピクロルヒドリン等のアルキレンオキシド、スチレンオキシド等を付加重合することにより得ることができる。
【0081】
ここでいう1価アルコールは、下記式I~IIIで表される。
R
vi-OH …式I
【化4】
【化5】
【0082】
即ち、Rvは、上記式I~IIIの1価アルコールから水酸基を除いた基である。上記式I~IIIにおいて、Rvi、Rvii、Rviii、Rx及びRxiは、炭化水素基であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等である。
【0083】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、イソステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2-オクチルドデシル、2-ドデシルヘキサデシル、2-テトラデシルオクタデシル、モノメチル分岐-イソステアリル等が挙げられる。
【0084】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
【0085】
アルキルアリール基としては、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル基等が挙げられる。
【0086】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0087】
上記式IIにおいて、Rixは炭化水素基であり、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキルアリーレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基等である。
【0088】
Rvは、炭化水素基であり、そのうちアルキル基であることが好ましく、さらにその合計の炭素原子数が8~36が好ましく、12~24が特に好ましい。
【0089】
付加させるアルキレンオキシド、スチレンオキシド等は、単独重合、2種以上のランダム重合又はブロック重合であってよい。付加の方法は通常の方法であってよい。重合度pは0~1000の整数であり、1~200の整数であることが好ましく、10~200の整数であることがより好ましい。Rivに占めるエチレン基の割合は、全Rivの50~100質量%の範囲が好ましく、65~100質量%の範囲がより好ましい。
【0090】
(式4で表されるコポリマーの製造方法)
上記の式4で表されるコポリマーは、一般的なポリエーテル及びイソシアネートの反応と同様に、例えば、80~90℃で1~3時間加熱して反応させて製造することができる。
【0091】
Ri-[(O-Rii)k-OH]qで表されるポリエーテルポリオールDと、Riii-(NCO)h+1で表されるポリイソシアネートEと、HO-(Riv-O)p-Rvで表されるポリエーテルモノアルコールFとを反応させる場合には、式4の構造のコポリマー以外のものも副生することがある。例えば、ジイソシアネートを用いた場合、主生成物としては、式4で表されるF-E-D-E-F型のコポリマーが生成されるが、その他、F-E-F型、F-E-(D-E)x-D-E-F型等のコポリマーが副生することがある。この場合、特に式4型のコポリマーを分離することなく、式4型のコポリマーを含む混合物の状態で本発明に使用することができる。
【0092】
(疎水変性ポリエーテルウレタンの配合量)
本発明のベシクル含有組成物における疎水変性ポリエーテルウレタンの配合量は、新規な使用感触を得る観点から、組成物の全量に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上又は0.3質量%以上とすることができ、3質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下とすることができる。
【0093】
本発明のベシクル含有組成物において、ベシクル形成性両親媒性物質と、疎水変性ポリエーテルウレタンとの重量比は、4:1~1:2が好ましく、3:1~4:5がより好ましい。両成分を係る範囲で含む組成物は、疎水変性ポリエーテルウレタンによる増粘効果と、ベシクル及び疎水変性ポリエーテルウレタンの間の架橋点の形成によるネットワーク構造の発現に伴う増粘効果とを相乗的に発揮させることができるため、これまでとは異なる新規な使用感触をより発現させることができる。
【0094】
《(c)水》
水の配合量は、特に限定されるものではないが、ベシクルの形成性の観点から、組成物全量に対して70~95質量%であることが好ましく、80~90質量%であることがより好ましい。
【0095】
《油分》
本発明の両親媒性物質によって形成されているベシクルは、随意に、ベシクルの二分子膜内に油分を保持することができる。保持し得る油分としては、次のものに限定されないが、極性油及びシリコーン油の群から選択される少なくとも1種を使用することができる。ベシクルに保持し得る油分は、IOB値等に基づいて適宜選択することができる。例えば、シリコーン系界面活性剤により形成されたベシクルを採用する場合には、ベシクルの安定性の観点から、IOB値が0.05~0.80の極性油、及びシリコーン油の群から選択される少なくとも1種を採用することが好ましい。ここで、油分のIOB値については、その構造に基づいて公知の計算方法によって算出することが可能である。
【0096】
油分は、組成物全量に対して合計で0.001~0.3質量%の範囲で配合することができる。本発明のベシクル含有組成物は、ベシクルの安定性等を損なわない範囲で、IOB値が0.05~0.80以外の極性油、又は鉱油等の非極性油などを併用することも可能である。
【0097】
〈極性油〉
極性油としては、例えば、イソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸イソノニル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、エチルヘキサン酸セチル、12-ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル(トリエチルヘキサノイン)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、セチルイソオクタノエート、セチル2-エチルヘキサノエート、2-エチルヘキシルパルミテート、安息香酸(炭素原子数12~15)アルキル、セテアリルイソノナノエート、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、(ジカプリル酸/カプリン酸)ブチレングリコール、トリミリスチン酸グリセリン、トリ2-ヘプチルウンデカン酸グリセライド、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、セトステアリルアルコール、アセトグリセライド、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ2-ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバチン酸ジ2-エチルヘキシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、セバチン酸ジイソプロピル、コハク酸ジ2-エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、クエン酸トリエチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。極性油は、1種又は2種以上を任意に選択して組み合わせて用いることができる。
【0098】
〈シリコーン油〉
シリコーン油は、ポリシロキサン構造を有する油性成分であれば特に限定されるものではなく、直鎖構造若しくは環状構造、又は揮発性若しくは不揮発性のいずれのものを用いてもよい。シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状シリコーン等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を任意に選択して組み合わせて用いることができる。
【0099】
これらのシリコーン油のうち、揮発性の環状シリコーン油、特にオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンを好適に用いることができる。係る揮発性の環状シリコーン油を用いることによって、ベシクル二分子膜中に香料成分をより多く取り込ませることが可能になることに加え、ベシクル含有組成物を外用剤として用いた場合にべたつきが少なく、優れた使用感が得られる。不揮発性のシリコーン油としては、特にジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、メチルフェニルポリシロキサン等を用いることが好ましい。
【0100】
《他の成分》
本発明のベシクル含有組成物は、ベシクルの形成性及び安定性等に影響がでない範囲で、係る組成物の使用用途等に応じて各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、化粧料に通常配合し得るような添加成分、例えば、低級アルコール、多価アルコール、各種抽出液、保湿剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、色素、香料、キレート剤、pH調整剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。各種成分は、その性質に応じて、ベシクル含有組成物における連続相としての水相、ベシクルに内在する分散相としての水相、又はベシクル二分子膜内における分散相としての油相に配合され得る。
【0101】
水相には、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤などの他、通常、医薬品又は化粧品等に用いられる任意の水性成分が、ベシクルの安定性に影響がでない範囲の配合量で配合されていてもよい。特に、水性成分としては、ベシクルの安定化又は使用感の観点から、エタノール及びポリオールから選択される1種又は2種以上が配合されることが好ましい。
【0102】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、特にプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールが好ましい。エタノール及びポリオールから選択される1種又は2種以上の水性成分は、組成物全量に対して1~20質量%、又は3~10質量%の範囲で配合することができる。
【0103】
《ベシクル含有組成物の用途》
本発明のベシクル含有組成物は、配合する水分量を調整することによって、例えば、弾力のあるぷるぷるとした感触を呈するジェル状の形態、又はとろみ状の形態で使用することができる。係るとろみ状形態の場合、乾燥して濃縮されるに伴い、とろみ状の形態から弾力のあるジェル状の形態へと使用感触を変化させることができる。弾力のあるジェル状のベシクル含有組成物は、限界値を超える負荷をかけると一気にジェル状態が崩れて水がはじき出されるような爽やかな感触も呈することができる。本発明のベシクル含有組成物は、用途に応じて透明又は半透明にすることもできる。したがって、係る性能を呈する本発明のベシクル含有組成物は、例えば、皮膚等に適用される化粧料の基剤として使用することができる。
【0104】
化粧料としては、例えば、保湿ジェル、マッサージジェル、美容液、化粧水、乳液等のスキンケア化粧料、メーキャップ化粧料、サンケア用品、ヘアセット剤若しくはヘアジェル等の毛髪化粧料、又は染毛剤等を挙げることができる。
【0105】
《ベシクル含有組成物の製造方法》
本発明のベシクル含有組成物は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、シリコーン系界面活性剤等のベシクル形成性両親媒性物質と、任意に水溶性薬剤、水性成分等を含む水とを混合してベシクル溶液を形成し、その後、係るベシクル溶液に疎水変性ポリエーテルウレタンを添加し、撹拌、混合することによって、本発明のベシクル含有組成物を得ることができる。ここで、極性油、シリコーン油等の油分を配合する場合には、該油分をベシクル形成性両親媒性物質と混合しておけばよい。
【0106】
係る製造方法では、水とベシクル形成性両親媒性物質とを混合することで、水相中にベシクル形成性両親媒性物質からなるベシクルが自発的に形成される。ベシクル形成性両親媒性物質とともに油分が含まれている場合には、係る油分は、形成されたベシクルの二分子膜中に可溶化して取り込まれる。
【実施例】
【0107】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量は質量%で示す。
【0108】
《実施例1及び比較例1~4》
下記に示す表1の処方及び製造方法により得た、本発明のベシクル含有組成物、及び比較のためのナノエマルジョン含有組成物についてその外観安定性を評価した。外観安定性は、各例におけるベシクル含有組成物又はナノエマルジョン含有組成物を目視で観察し、「問題なし」、「凝集」、「相分離」、「凝集分離」に分類した。ここで、「凝集分離」とは、凝集した状態と相分離した状態とが併存した状態であることを意図する。
【0109】
【0110】
〈ベシクル含有組成物の製造方法〉
(実施例1)
ベシクル形成性両親媒性物質であるポリエーテル変性シリコーン、及びメチルフェニルポリシロキサンをエタノールに撹拌、溶解して混合物Aを作製した。次いで、一部のイオン交換水、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ランダム共重合体ジメチルエーテル、フェノキシエタノール、クエン酸、クエン酸ナトリウム、EDTA-2Na・2H2Oを撹拌、混合して混合物Bを作製した。得られた混合物A及び混合物Bを撹拌、混合してベシクル溶液Cを作製した。それとは別に、疎水変性ポリエーテルウレタンを70℃に熱した残りのイオン交換水に撹拌、溶解して水溶液Dを作製した。ベシクル溶液Cと水溶液Dを撹拌、混合してベシクル含有組成物を作製した。
【0111】
(比較例1~4)
上記水溶液Dで使用された成分以外の表1に記載される各種成分を撹拌、混合してナノエマルジョン含有溶液を各々作製した。係るナノエマルジョン含有溶液と水溶液Dとを撹拌、混合して、比較例1~4のナノエマルジョン含有組成物を各々作製した。
【0112】
〈結果〉
表1から明らかなように、比較例1~4におけるナノエマルジョン含有組成物の場合は何れも、疎水変性ポリエーテルウレタンの添加に伴い、凝集、相分離又はこれらの両方が生じてしまったため、使用感触の評価をすることができなかった。一方、実施例1のベシクル含有組成物の場合は、疎水変性ポリエーテルウレタンを添加しても凝集、相分離等の不具合がなく透明な溶液として保持することができた。このベシクル含有組成物を皮膚に塗布したところ、塗布直後は、とろみ状のなめらかな感触であったが、乾燥して濃縮されるに従い、次第にジェル状の形態に変わり、ぷるぷるとした弾力のある感触へと変化した。係るベシクル含有組成物は、疎水変性ポリエーテルウレタンを高濃度に配合した場合に生じるべとつき感もなく、乾燥濃縮後はしっとりとした感触が得られた。
【0113】
《実施例2~11及び比較例5~11》
下記に示す表2の処方及び製造方法により得た、本発明のベシクル含有組成物、及びベシクル非含有組成物についてレオロジー測定を行った。ここで、レオロジー測定は、Anton Paar社製のレオメーターMCR302を用い、フローカーブ測定で実施し、
図2~5で示す剪断速度の条件及び25℃で剪断粘度を測定した。
【0114】
【0115】
〈ベシクル含有組成物の製造方法〉
(実施例2~11)
表2に記載される各種成分を使用し、実施例1と同一の方法でベシクル含有組成物を各々作製した。ここで、ベシクル形成性両親媒性物質として、ポリエーテル変性シリコーンを採用して得た実施例2~実施例8におけるベシクルを「シリコーンベシクル」、ポリオキシブチレン(21)ポリオキシエチレン(23)ブロック共重合体ジメチルエーテルを採用して得た実施例9~実施例11におけるベシクルを「ポリマーベシクル」という場合がある。
【0116】
(比較例5~11)
表2に記載される各種成分を使用し、ベシクルを形成しなかったこと以外は、実施例1と同一の方法でベシクル非含有組成物を各々作製した。
【0117】
〈結果〉
図3より、ベシクル非含有組成物においても、疎水変性ポリエーテルウレタン(以下、「ADK」という場合がある。)の添加量が増えるにしたがい、剪断粘度も増加傾向にあることが分かる。一方、本発明のベシクル含有組成物の場合は、
図2のシリコーンベシクルを含有する組成物及び
図3のベシクル非含有組成物、並びに
図4のポリマーベシクルを含有する組成物及び
図5のベシクル非含有組成物の各結果を比較すれば明らかなように、ベシクルを含む系の方が、ADKの添加量が同一であったとしても、ベシクルの種類に関わらず剪断粘度が上昇していることが分かる。
【0118】
これは、ベシクル含有組成物の場合、ベシクルと疎水変性ポリエーテルウレタンとの間で架橋点が形成されてネットワーク構造が発現したことが寄与していると考えられる。したがって、本発明のベシクル含有組成物は、増粘剤でもある疎水変性ポリエーテルウレタンによる増粘効果と、ベシクル及び疎水変性ポリエーテルウレタン間の架橋点の形成によるネットワーク構造に伴う増粘効果とが相乗的に発現していることが確認できた。その結果、本発明のベシクル含有組成物は、上述したような従来にない新規な使用感触が得られることに加え、同一の粘度を達成する上で、ベシクル非含有の系に比べて疎水変性ポリエーテルウレタンをより低量で使用することができるため、疎水変性ポリエーテルウレタンに由来するべたつき感を低減させつつ、しっとり感も発揮させ得ることが分かった。
【0119】
《ベシクル含有組成物の処方例》
以下に、本発明のベシクル含有組成物を基剤とする化粧料の処方例を挙げるが、この
の例示に限定されるものではない。なお、以下の処方例に記載した化粧料は、本発明のベシクル含有組成物に基づく変化する使用感触、すなわち、とろみ状のなめらかな感触からぷるぷるとした弾力のある感触及び濃縮後のしっとり感を備えていた。
【0120】
〈処方例1 化粧水〉
(成分) (質量%)
精製水 適量
グリセリン 5
1,3-ブチレングリコール 5
フェノキシエタノール 0.5
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
EDTA-2Na・2H2O 0.03
エタノール 5
ポリエーテル変性シリコーン 0.8
ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)
ランダム共重合体ジメチルエーテル 0.5
メチルフェニルポリシロキサン 0.1
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー 0.3
香料 適量
【0121】
(化粧水の製造方法)
ポリエーテル変性シリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、香料をエタノールに撹拌、溶解して混合物Mを作製した。次いで、一部の精製水、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ランダム共重合体ジメチルエーテル、フェノキシエタノール、クエン酸、クエン酸ナトリウム及びEDTA-2Na・2H2Oを撹拌、混合して混合物Nを作製した。得られた混合物M及び混合物Nを撹拌、混合してベシクル溶液Oを作製した。それとは別に、疎水変性ポリエーテルウレタンである(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマーを70℃に熱した残りのイオン交換水に撹拌、溶解し水溶液Dを作製した。ベシクル溶液Oと水溶液Dを撹拌、混合して化粧水を作製した。