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特許7153033真核生物におけるRNA分子の細胞型特異的な翻訳に関する系及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】真核生物におけるRNA分子の細胞型特異的な翻訳に関する系及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20221005BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221005BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20221005BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z ZNA
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019565615
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2018053241
(87)【国際公開番号】W WO2018149740
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-02
(31)【優先権主張番号】102017103383.1
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519299924
【氏名又は名称】アレーナ ビオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】ボーレン,ヘリベルト
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,ベルント
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544510(JP,A)
【文献】特表2013-544511(JP,A)
【文献】特開2012-023998(JP,A)
【文献】ファルマシア, 2015, Vol.51, No.5, pp.429-433
【文献】eLife, 2014, Vol.3, e01892 (pp.1-25)
【文献】PLOS ONE, 2014, Vol.9, No.12, e115327 (pp.1-22)
【文献】RNA, 2011, Vol.17, pp.478-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物標的細胞における所定のポリペプチドの標的化された翻訳方法であって、RNA構築物をin vitroで細胞へ導入することを特徴とし、該RNA構築物は、5'方向から3'方向で、少なくとも下記の要素:
(a)該標的細胞によって発現される遺伝子のmRNAの少なくとも一部に相補的であるアンチコード遺伝子要素(a)と、
(b)3'位置にある翻訳イニシエーター要素(d)の少なくとも一部と相互作用する阻止要素(b)と、
(c)安定化要素(c)と、
(d)翻訳イニシエーター要素(d)と、
(e)該所定のポリペプチドをコードする配列(e)と、
を有し、該所定のポリペプチドの翻訳は、該阻止要素(b)と該翻訳イニシエーター要素(d)との塩基対形成によって、非標的真核生物細胞において防止され、コードされるポリペプチドの翻訳は、該アンチコード遺伝子要素と、該標的細胞によって発現される該mRNAとの相互作用によって誘導される該RNA構築物のプロセシングに起因して、真核生物標的細胞において起きる、方法。
【請求項2】
前記アンチコード遺伝子要素(a)と、前記標的細胞によって発現される前記mRNAとの相互作用は、前記所定のポリペプチドの翻訳が起き得るように、前記阻止要素(b)の分解又は不活性化をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安定化要素(c)上の前記mRNAの分解は停止される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンチコード遺伝子要素(a)は、下記の特徴:
(i)前記標的細胞に特異的なRNA配列への結合、
(ii)自由に調節可能な長さの二重鎖RNAハイブリッドの形成、及び、
(iii)該二重鎖RNAハイブリッドにおける導入された前記RNA構築物の細胞分解の誘導、
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記阻止要素(b)は、下記の特徴:
(i)前記翻訳イニシエーター要素(d)の機能が抑制されること、
(ii)前記阻止要素(b)が、適切な条件下で分解又は不活性化され得ること、
(iii)前記翻訳イニシエーター要素(d)上の抑制機能が、前記阻止要素の不活性化又は分解後に可逆的であること、
(iv)前記阻止要素(b)が、前記翻訳イニシエーター要素(d)の配列において、又は該配列付近で、塩基対形成によってその二次構造を変化させることにより、その機能を果たすこと、及び、
(v)前記阻止要素(b)が、他の分子に、前記翻訳イニシエーター要素(d)を直接的に又は間接的に阻害させることによって、その機能を果たすこと、
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化要素(c)は、下記の特徴:
(i)前記3'方向でのエキソ及び/又はエンドヌクレアーゼによるRNAの分解を防止するヌクレオチド配列、
(ii)ステムループを形成することを特徴とするヌクレオチド配列、
(iii)ペプチド又はタンパク質が、該RNAに結合することを特徴とするヌクレオチド配列、及び、
(iv)分子が、該RNAに結合して、該RNAの5'末端の化学的な安定化修飾を実施することを特徴とするヌクレオチド配列、
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記翻訳イニシエーター要素(d)は、下記の特徴:
(i)翻訳開始の機能の細胞型依存性の選択的阻害、
(ii)調節カセットの構成要素(要素a及び要素b)の分解又は不活性化時のみの機能性、
(iii)前記翻訳イニシエーター要素が全ての他の細胞型において不活性である一方、標的細胞のみにおける機能性、
(iv) IRES配列で代表される開始RNA構築物の5'領域におけるキャップ構造に関係のない翻訳の誘導、
(v)リボソームサブユニット又は完全リボソームの直接的又は間接的な結合を用いた翻訳の誘導、
(vi)前記阻止要素による阻害の除外後の特異的な二次構造の形成による翻訳の誘導、及び、
(vii)前記阻止要素による阻害の除外後の特異的な分子の結合又は化学的な修飾による翻訳の誘導、
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記RNA構築物は、下記の任意選択の特徴:
(i)前記mRNA構築物全体の安定性を増加するための5'キャップ配列、
(ii)前記mRNA構築物全体の安定性を調節して、5'キャップ誘導翻訳を抑制できるようにするための5'非翻訳領域、
(iii)標的細胞における前記mRNA構築物全体及びプロセシングされるmRNA部分的断片の安定性を調節するための3'非翻訳領域、
(iv)標的細胞における前記mRNA構築物全体及びプロセシングされるmRNA部分的断片の安定性を調節するためのポリ(A)領域、及び、
(v)請求項1~7のいずれか一項に記載の前記mRNA構築物全体の全ての要素が、要素自体内に、又は個々の要素間に任意の長さのリンカー配列を含有してもよく、リンカー配列が、無機能とすることができ、該個々の要素の純粋な空間的分離に使用される、又は更なる機能を系に組み込むのに使用されること、
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
真核生物標的細胞における所定のポリペプチドの標的化された翻訳のためのRNA構築物であって、該RNA構築物は、5'方向から3'方向で、少なくとも下記の要素:
(a)該標的細胞によって発現されるDNA部分のRNAの少なくとも一部に相補的であるか、又は細胞型特異的な分解を誘導するアンチコード遺伝子要素(a)と、
(b)3'位置にある翻訳イニシエーター要素(d)の少なくとも一部に相補的であるか、又は他の場合ではそれを阻害する阻止要素(b)と、
(c)該RNAの細胞型特異的な分解を、その一部に限定する安定化要素(c)と、
(d)5'キャップとは無関係に機能し、標的細胞においてのみ活性である翻訳イニシエーター要素(d)と、
(e)該所定のポリペプチドをコードする配列(e)と、
を有し、該所定のポリペプチドの翻訳は、該阻止要素(b)と該翻訳イニシエーター要素(d)との塩基対形成によって、非標的真核生物細胞において防止され、該アンチコード遺伝子要素(a)と、該標的細胞によって発現されるRNAとの相互作用、特異的なRNA構築物プロセシング、その結果として該翻訳イニシエーター要素が活性化されることに起因した真核生物標的細胞におけるコードされるポリペプチドの翻訳が起きる、RNA構築物。
【請求項10】
下記の特徴:
(i)前記アンチコード遺伝子要素(a)は、請求項4に記載の特徴の1つ以上を有すること、
(ii)前記阻止要素(b)は、請求項5に記載の特徴の1つ以上を有すること、
(iii)前記安定化要素(c)は、請求項6に記載の特徴の1つ以上を有すること、
(iv)前記翻訳イニシエーター要素(d)は、請求項7に記載の特徴の1つ以上を有すること、及び/又は、
(v)前記mRNA構築物は、請求項8に記載の特徴の1つ以上を有すること、
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項9に記載のRNA構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のポリペプチドの、真核生物標的細胞への標的化された翻訳に関する方法及びRNA構築物、並びに治療的臨床用途におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
或る特定の分子、例えば、医学的に及び薬理学的に意義のあるタンパク質又は癌治療において細胞生存性に影響を与えるペプチドの定方向の導入は、現代の細胞生物学において最も必要不可欠なものの1つであるが、この分野における困難でもあり、満足のいくようには解決されていない。
【0003】
ヒト等の複雑な生物において、標的化された様式で所定の分子を放出及び活性化するのに、様々な技法が使用されてきた。2つの異なるアプローチが、本発明では特に興味深い。
【0004】
リポソーム等の担体系に基づいて(非特許文献1)、分子(例えば、癌治療剤)は、これらの担体系にカップリングされるか、又は包埋される。続いて、このようにして官能基化された担体系を、身体へ導入して、そこで、導入は、身体全体又は生物の或る特定部分のみのいずれかを含み得る。この場合、自然な身体状態が、担体系と所定の分子との間の安定性に影響を与えないように、したがって、分子の放出が除外されるように、担体系が供給されることが理想的である。ここで、外部要因が、担体系を不安定化して、それにより、取り込まれた分子の放出、したがって、活性を誘導し得る。放出のための外部要因として、或る特定の身体領域の局所的な加温(温熱療法アプローチ)及び担体系と分子との間の特異的な結合の光又はpH誘導切断が使用される。これらの系は全て、原則としてQiu及びPark(非特許文献2)、並びにShamayとその同僚達(非特許文献3)によって概要されている。しかしながら、機能性分子が、高濃度で身体全体へ導入されなくてはならず、このことが、多くの場合、副作用及び非特異的な放出をもたらし得ることは、これらの方法全てにおいて特に問題となっている。さらに、この方法論は、部位特異的な様式で作動するが、細胞型特異的な様式では作動せず、したがって、例えば、細胞増殖抑制剤は、対象となる癌細胞の他に、周囲組織にも損傷を与えるか、又は身体における放出部位から急速に分配される。ここでも、高用量が使用されなくてはならない。
【0005】
分子の標的化放出に関する第2の方法論として、所定の分子が、直接的に、又はここでも担体系を用いて、規定の細胞型の或る特定の表面分子に対して高い特異性を有するリガンドにカップリングされる系が、通常使用される。したがって、GPRC又は葉酸受容体等の癌細胞の高度に発現される表面受容体が、リガンドによって結合される(非特許文献4、非特許文献5)。リガンドは、表面受容体に結合された後、結合分子は、それらの活性を直接的に示すことができる(例えば、放射性医薬品又はMRI造影試薬)か、又は細胞への食作用取り込み後にそれらの機能を示すことができる(例えば、化学療法剤又はDNAベクター)。しかしながら、この方法もまた、大きな欠点を有しており、この欠点も、身体系全体における比較的高い総濃度に関連するものであるが、これは、ほとんどの表面受容体が、個々の細胞型又は疾患パターンに関して絶対的な特異性を持たないという事実と具体的に関係があり、したがって、かかる受容体へのカップリングは、健常な組織における副作用の増加を伴い得る。さらに、様々な特異的な受容体が、カップリング後に、結合された担体系の食作用取り込みを誘導せず、その結果として、これらの担体系は、依然として細胞の外側に留まる。
【0006】
規定の細胞型/組織への標的化移入のための、生物工学的に、薬理学的に及び医学的に意義のある最多数の分子は、通常DNAレベルでコードされるペプチド又はタンパク質である。これらのDNA分子の導入後、これらの分子は、細胞核へ輸送されて、続いて、高度の保存されたメカニズムを介して、まずRNA分子に転写されて(転写)、転写後修飾された後、細胞核から輸送されて、高度の保存されたメカニズムによって細胞質内でアミノ酸配列へと書き換えられる(翻訳)。転写メカニズム及び翻訳メカニズムはともに、全ての真核生物及び細胞型において、基本的なメカニズムに関しては同一である。これは、効率は様々であるが、ペプチドをコードするDNA配列はそれぞれ、各細胞において同じ一次産物を生成して、続いて、その一次産物は、更に修飾され得ることを意味する。転写及び翻訳のプロセス全体を発現と呼ぶ。幾つかのRNA分子は、非翻訳のままであり、別々の機能を有する。
【0007】
DNAセグメントが、細胞型特異的な又は臓器特異的なプロモーター及びエンハンサー配列並びに分化及び成熟の度合いによって依存的に調節される場合に、DNA配列の選択的な標的化発現が可能である。かかる配列は、転写装置の結合を調節し、したがって、規定の環境条件下でのみ、その活性化を引き起こす。しかしながら、1)DNA構築物は、大変な困難を伴う場合のみ、生物又は組織内の全ての細胞に、非常に効率的かつ均質に導入することができること、2)後続する転写用のDNA構築物は常に、細胞核へ輸送されて、そこで自然の遺伝子材料と相互作用する必要があり、その結果として、突然変異と、続く疾患(例えば、癌)とが生じ得ること、及び3)臓器特異的なプロモーター領域は、多くの場合、非常に大きく、したがって、外部に導入されるDNA構築物における使用に適していないことは、DNA構築物のこのタイプの標的化発現にとっては不都合である。
【0008】
DNA構築物を使用して、アミノ酸ベースの分子を発現する代替法として、RNA分子を細胞又は細胞組織へ直接的に導入することによって、核転写の工程を避けることができる。種々の研究グループによる研究により、RNA分子の導入が、細胞において著しいストレスレベルを生じずに、非常に効率的にかつ迅速に起きることが示された(総説に関して、非特許文献6を参照されたい)。導入されたRNA分子は、依然として細胞の細胞質に留まり、したがって、核内のゲノムとネガティブに相互作用することができない。保存された翻訳プロセスを使用して、導入されたmRNA分子、及び内因的に(自然に)存在するmRNA分子は、タンパク質又はペプチドに変換される。この目的で、mRNA分子内の或る特定の配列モチーフが必要とされ、それらは、テキスト(例えば、非特許文献7)において詳細に見出すことができ、図1において簡略化した形態で示されている。この場合、mRNA分子は通常、下記のユニットを含む:
【0009】
1:キャップ:キャップ構造は、真核生物におけるmRNA分子の化学的な変化であり、RNAの安定性を劇的に増加させて、核から細胞質へのRNAの輸送、続くリボソームによるmRNAの翻訳にとって重要である。これは通常、稀な5'-5'ホスホジエステル結合を介して、遺伝子の転写中にRNAのヘッドに連結される修飾グアニンヌクレオチドに関する。
【0010】
2:非翻訳5'領域:非翻訳5'領域は、コード配列の上流に配置されたヌクレオチド配列を表す。この領域は、転写開始点に始まり、翻訳開始コドンの直前に終わる。この配列内には、例えば、二次構造を介してmRNAの安定性に影響を与えるか、又はタンパク質への結合部位として作用する調節配列が存在し得る。さらに、リボソーム結合部位が、通常存在する。
【0011】
3:コード配列:コード配列は、mRNAによって産生されるタンパク質に関する情報を含有する。上記配列は、翻訳開始コドンから直接始まり、翻訳停止コドンで終わる。コード配列のヌクレオチド配列は、トリプレットコードの状況内で、コードされるタンパク質のアミノ酸配列によって予め決定される。使用するトリプレットに応じて、mRNAの発現速度及び安定性が影響され得る。
【0012】
4:3'非翻訳領域:3'非翻訳領域は、翻訳停止コドンの直後にあるタンパク質をコードする領域に隣接する領域を表す。3'非翻訳領域は、ポリアデニル化の開始までの領域全体を含む。非翻訳3'領域内には、RNAのポリアデニル化にとって、並びにその安定性及び輸送にとって特に重要な調節配列もまた存在し得る。
【0013】
5:ポリ(A)尾部:ポリアデニル化は、ポリ(A)ポリメラーゼによるmRNAの転写後修飾に基づいて、アデニンヌクレオチドをmRNAの3'末端に結合することによって起きる。ポリ(A)尾部の長さは、mRNAの安定性、並びにタンパク質がこの配列に結合し、またCAPがポリ(A)尾部と相互作用するという事実に対して極めて重要に寄与する。
【0014】
しかしながら、外部に導入されたRNA分子の使用の欠点は、i)RNA分子が、通常は限られた寿命を有し、したがって、タンパク質の形成は、限られた期間にわたってのみ起きるという点で或る特定の用途に影響を及ぼし得るということである。翻訳の基礎メカニズムは、全ての真核生物及び既存の細胞型において同一のままであるため、ii)全生物へ導入されるmRNA分子の標的化されていない、即ち、臓器又は細胞型特異的ではない発現が、以前には実行される可能性があった。
【0015】
今では、近年の研究結果(非特許文献8)により、要点i)に記載する寿命を調節し、必要であれば著しく増加させるように、種々のレベルで非常に効率的なmRNA分子の化学的な修飾が可能である。かかる修飾は、下記を含む。
【0016】
a)自然に存在するキャップm7G5'pppNに基づく化学的に修飾されたキャップ配列の使用。この例は、非特許文献9に見られる。一方では、かかる修飾は、翻訳装置のサブユニットを効率的に結合することによって翻訳効率を増加させる。他方で、かかる修飾は、おそらくヌクレアーゼが5'末端側からあまり効率的にmRNAを結合する(engage)ことができないという事実によって、mRNA分子の安定性を改善させる。
【0017】
b)安定な5'非翻訳領域及び3'非翻訳領域の使用。通常、安定性は、適切なヌクレオチド配列を使用することによって著しく影響され得る。結合パートナーの結合及び塩基対形成による二次構造の形成は、安定化の主な理由である。
【0018】
c)化学的に修飾されたヌクレオチドの使用。5-メチルシチジン又はプソイドウリジン等のこの種のヌクレオチドは、主にエンドヌクレアーゼの結合に影響を及ぼし、したがって、mRNA分子の迅速な分解を防止する。
【0019】
d)考え得る最長のポリアデニル化を得るための、非翻訳3'領域における効率的なポリアデニル化配列の使用。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【文献】D.Papahadjopoulos, M. Moscarello, E.H. Eylar, T. Isac, Biochim. Biophys. Acta.1975, 401, p. 317
【文献】Advanced DrugDelivery Reviews 53 (2001) pp. 321-339 Environment-sensitive hydrogels for drugdelivery
【文献】Biomaterials,Light induced drug delivery into cancer cells 2011 32: pp. 1377-86
【文献】Lappano R,Maggiolini M., Nat Rev Drug Discov. 2011, 10: pp. 47-60, G protein-coupledreceptors: novel targets for drug discovery in cancer
【文献】Sudimack J, LeeRJ., Adv Drug Deliv Rev. 2000, 41: pp. 147-62. Targeted drug delivery via the folatereceptor
【文献】Van Tendeloo VF,Ponsaerts P, Berneman ZN. mRNA-based gene transfer as a tool for gene and celltherapy. Curr Opin Mol Ther. 2007; 9: pp. 423-431
【文献】Alberts et al., Molecular Biology of the Cell, 2011, Wiley-Blackwell
【文献】Quabium and Krupp, Synthetic mRNAs for manipulating cellularphenotypes: an overview (2015) New Biotechnology, 32: pp. 229-235
【文献】Jamielity et al. Synthetic mRNA cap analogs with a modifiedtriphosphate bridge - synthesis, applications and prospects (2010) New. J. Chem34: pp. 829-844
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、とりわけ、特定の細胞型においてmRNAの規定の発現を可能にする方法及びRNA構築物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、細胞内で活性な又は分泌可能なRNA断片、ペプチド又はタンパク質の細胞選択的発現のための、分解に対して保護されるRNA複合体及びメッセンジャーRNA(mRNA)分子の使用に関する。
【0023】
本発明の第1の態様は、真核生物標的細胞における所定のポリペプチドの標的化された翻訳方法であって、RNA構築物を細胞へ導入することを特徴とし、該RNA構築物は、5'方向から3'方向で、少なくとも下記の要素:
(a)該標的細胞によって発現される遺伝子のmRNAの少なくとも一部に相補的であるアンチコード遺伝子(anticodogenic)要素(a)と、
(b)3'位置にある翻訳イニシエーター要素(d)の少なくとも一部と相互作用する阻止要素(b)と、
(c)安定化要素(c)と、
(d)翻訳イニシエーター要素(d)と、
(e)該所定のポリペプチドをコードする配列(e)と、
(f)
を有し、該所定のポリペプチドの翻訳は、該阻止要素(b)と該翻訳イニシエーター要素(d)との塩基対形成によって、非標的真核生物細胞において防止され、コードされるポリペプチドの翻訳は、該アンチコード遺伝子要素と、該標的細胞によって発現される該mRNAとの相互作用によって誘導される該RNA構築物のプロセシングに起因して、真核生物標的細胞において起きる、方法に関する。
【0024】
本発明の別の態様は、真核生物標的細胞における任意の長さのアミノ酸配列の、即ち、所定のポリペプチドの標的化された翻訳方法であって、RNA構築物を細胞へ導入することを特徴とし、該RNA構築物は、5'方向から3'方向で、少なくとも下記の要素:
(a)該標的細胞によって発現される遺伝子のmRNAの少なくとも一部に相補的であるアンチコード遺伝子要素(a)と、
(b)3'位置にある翻訳イニシエーター(d)の少なくとも一部に相補的であるか、又は別の方法で、その機能性を可逆的に変更させる阻止要素(b)と、
(c)安定化要素(c)と、
(d)翻訳イニシエーター要素(d)と、
(e)該所定のポリペプチドをコードする配列(e)と、
を有し、該所定のポリペプチドの翻訳は、該阻止要素(b)と該翻訳イニシエーター要素(d)との塩基対形成又は他の相互作用によって、非標的真核生物細胞において防止され、コードされるポリペプチドの翻訳は、該アンチコード遺伝子要素と、該標的細胞によって特異的に発現されるmRNAとの相互作用によって誘導される該RNA構築物のプロセシング(分解)に起因して、真核生物標的細胞において起きる、方法に関する。このプロセシングは、安定化要素(c)によって中断され、翻訳開始要素(d)の活性化をもたらす。
【0025】
本発明の別の態様は、真核生物標的細胞における所定のポリペプチドの標的化された翻訳のためのRNA構築物であって、該RNA構築物は、5'方向から3'方向で、少なくとも下記の要素:
(a)該標的細胞によって発現されるDNA部分のRNAの少なくとも一部に相補的であるか、又は細胞型特異的な分解を誘導するアンチコード遺伝子要素(a)と、
(b)該3'位置にある翻訳イニシエーター要素(d)の少なくとも一部に相補的であるか、又は他の場合ではそれを阻害する阻止要素(b)と、
(c)該RNAの細胞型特異的な分解を、その一部に限定する安定化要素(c)と、
(d)5'キャップとは無関係に機能し、標的細胞においてのみ活性である翻訳イニシエーター要素(d)と、
(e)該所定のポリペプチドをコードする配列(e)と、
を有し、該所定のポリペプチドの翻訳は、該阻止要素(b)と該翻訳イニシエーター要素(d)との塩基対形成又は他の相互作用によって、非標的真核生物細胞において防止され、該アンチコード遺伝子要素(a)と、該標的細胞によって発現されるRNAとの相互作用、特異的なRNA構築物プロセシング、その結果として該翻訳イニシエーター要素(d)が活性化されることに起因した真核生物標的細胞におけるコードされるポリペプチドの翻訳が起きる、RNA構築物に関する。
【0026】
本発明の更なる態様は、新生物、基礎免疫障害及び代謝障害における治療的臨床用途における本明細書中に記載する方法及びRNA構築物の使用である。さらに、本明細書中に記載する方法及びRNA構築物は、遺伝子編集に、したがって、生殖系列疾患を治療するのに必要な構成要素を細胞型特異的に発現するのに適している。これらの典型的な用途に加えて、哺乳類及びそれらに由来する組織の成体幹細胞(iPS、多分化能性、全能性又は多能性)はまた、in vitroで標的細胞として役立ち得る。続いて、組織又はこれらの細胞から生じる単一細胞は、in vivoでヒトにおいて、また薬物開発において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】mRNA分子の略図である。mRNAの部分は全て、分子の安定性に関する調節機能を有し得る。
図2】mRNA分子の臓器ワイドな又は生物ワイドな導入後の特定の細胞型における標的配列の選択的発現のための本発明のRNA構築物の実施形態の略図である。
図3】特定の細胞型における標的配列の選択的発現のための本発明のRNA構築物の別の実施形態の略図であり、ここで、1=CAP/修飾、2=5'UTR、3=アンチコード遺伝子断片、4=リンカー_IRES_ブロッカー_リンカー、5=安定化要素、6=IHRES(IRES)、7=所定の配列、8及び9=3'UTR及びポリ(A)。
図4】A)は、要素3と細胞型特異的なRNAとの間のアンチコード遺伝子相互作用によるプロセシング前及び後の本発明のRNA構築物の一実施形態の略図である。標的RNAに結合されると、アンチコード遺伝子配列要素は、確立されたメカニズムを用いて、モチーフ1~4の分解をもたらす。B)は、HCV由来の例示的な機能性IRES配列(6)(HCV IRES 1b)の算出した二次構造を示す図である。
図5】一次IRES核酸配列(HCV IRES 1b);図4の位置6:配列番号1を示す図である。関連する機能性二次構造を図4に示す。
図6】A)は、要素3と細胞型特異的なRNAとの間のアンチコード遺伝子相互作用によるプロセシング前及び後の本発明のRNA構築物の一実施形態の略図である。標的RNAに結合されると、アンチコード遺伝子配列要素は、確立されたメカニズムを用いて、モチーフ1~4を分解する。B)は、3つの安定化要素(5)を有するHCV由来の例示的なIRES配列(6)(HCV IRES1b)の二次構造の略図である。
図7】3つの安定化要素(図6の位置5)を有する一次IRES配列(図6の位置6):配列番号2を示す図である。関連する機能性二次構造を図6に示す。
図8】A)は、要素3と細胞型特異的なRNAとの間のアンチコード遺伝子相互作用によるプロセシング前及び後の本発明のRNA構築物の一実施形態の略図である。標的RNAに結合されると、アンチコード遺伝子配列要素は、確立されたメカニズムを用いて、モチーフ1~4を分解する。B)は、3つの安定化要素(5)及びリンカー(4a)を有するHCV由来の例示的な機能性IRES配列(6)(HCV IRES 1b)の二次構造の略図である。
図9】3つの安定化要素(図8の位置5、下線)及びリンカー(図8の位置4a、囲み)を有する一次IRES配列(図8の位置6):配列番号3を示す図である。関連する機能性二次構造を図8に示す。
図10】A)は、要素3と細胞型特異的なRNAとの間のアンチコード遺伝子相互作用によるプロセシング前及び後の本発明のRNA構築物の一実施形態の略図である。標的RNAに結合されると、アンチコード遺伝子配列要素は、確立されたメカニズムを用いて、モチーフ1~4を分解する。B)は、3つの安定化要素(5)、リンカー(4a)及びブロッカー(4b)を有するHCV由来の例示的IRES配列(6)(HCV IRES 1b)の二次構造の略図である。
図11】3つの安定化要素(図10の位置5、下線)、リンカー(図8(10)の位置4a、囲み)及びブロッカー(4b、太字)を有する一次IRES配列(図10の位置6):配列番号4を示す図である。関連する二次構造を図10に示す。
図12】規定の細胞型における標的配列の選択的発現のための機能系のヌクレオチド配列の例を示す図である。
図13】規定の細胞型における標的配列の選択的発現のための代替的なアンチセンス配列を有する機能系のヌクレオチド配列の例を示す図である。
図14】規定の細胞型における標的配列の選択的発現のための代替的なアンチセンス配列及び代替的なブロッカー配列を有する機能系のヌクレオチド配列の例を示す図である。
図15】GFPの細胞型依存性のブロッカー-IRESに制御された選択的発現の顕微鏡画像を示す図である。
図16】標的遺伝子の選択的発現のための機能系の定量的評価に関する表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一般概念を制限せずに、図面を参照して実例に基づいて、本発明を下記でより詳細に記載する。
【0029】
細胞内で活性な又は分泌可能なRNA断片、ペプチド又はタンパク質の細胞選択的発現のための、分解に対して保護されるRNA複合体及びメッセンジャーRNA(mRNA)分子の使用について記載する。RNA分子の基礎構造は、安定化構造、調節領域及び所定の配列をコードする機能性領域を含む。調節構造は、所定の配列の発現の構成的阻害剤として作用する。特異的な結合が、調節部分の選択的分解を誘導する場合のみ、阻害は除外され、したがって、所定の配列の発現が可能となる。
【0030】
本発明は、適切なRNA配列を構築する方法及び系を含み、それらを使用して、任意の細胞型への導入後に、規定の細胞型においてのみ、標的配列の、又はそれから生じるアミノ酸ベースの構造の機能性を誘導すること、及び他の全ての細胞型においてこれを防止することが可能である。
【0031】
全生物又はその一部への導入後の、或る特定の細胞型におけるmRNA分子の規定の発現の問題を解決するために、所定の配列の機能性翻訳が、所望の細胞型においてのみ可能であるのに対して、これが他の細胞型では不可能であるように、種々の配列モチーフを、本特許出願内で組み合わせる。配列モチーフを適応させることによって、活性化と不活性化との間の細胞依存性相互作用が適応され得るか、又は完全に反転され得る。概して、系は、5'領域における上流配列が、系の安定性を調節し、同時に、3'領域における所定の配列モチーフを阻害するか、又は一般的には調節するように配列される。3'領域内の阻害される配列は、特に内部リボソーム進入部位(IRES)配列であり、二次翻訳開始として役立ち得る。mRNA分子内の塩基対形成による阻害は、適切な標的細胞におけるmRNAが、導入されたmRNAの5'領域における配列とアンチセンス活性塩基対形成を形成して、それにより、導入されたmRNAの前面領域の分解を誘導する細胞型特異的な内因性mRNA分子に遭遇するまで永続的に維持される。これにより、IRESの阻害が消失し、標的配列の発現が可能となる。細胞型に特異的に調節可能なmRNA分子は、図2に示す図に詳細に従って形成され、それを以下でより詳細に説明する。この場合、必要に応じて、個々の配列モチーフもまた、省略することができるか、その順序を交換することができるか、他のモチーフで置き換えることができるか、又は他のモチーフで補うことができる。
【0032】
図2は、mRNA分子の臓器ワイドな又は生物ワイドな導入後の特定の細胞型における標的配列の選択的発現のためのmRNA分子の略図である。
【0033】
1)CAP配列の任意選択の使用。この配列は、自然7-メチルグアノシン(m7G)キャップであってもよく、又は化学的修飾若しくは他の修飾を含有してもよい。CAP配列は、一次配列の安定性及び翻訳効率を調節するのに役立つ。低い安定性を有するRNA分子又はRNA断片の開発等の或る特定の用途に関して、CAP配列もまた省くことができる。
【0034】
2)5'非翻訳配列の使用。この配列は、主に、導入されたmRNAの安定性(半減期)を調節するのに役立つ。ヌクレオチド配列は、合成性であるか、又は既知の遺伝子の配列から得られるかのいずれかであり得る。所要の安定性に応じて、更なる配列をこの領域に、個々に又は組み合わせて組み込むことができ、安定性及び翻訳速度を調節する。例は、G-四重鎖(低い翻訳速度を同時に有する高いmRNA安定性)又はエンドヌクレアーゼへの結合部位(mRNA安定性の低減)である。5'非翻訳配列の長さは、自由に選択可能であり、必要に応じてゼロであってもよい。
【0035】
3)5'非翻訳配列に続いて、実際の調節カセットは、人工的に導入されたmRNA分子の細胞型特異的な発現を開始させる。開始点は、所望の細胞型において特異的に発現される遺伝子に対する導入されたmRNA内のアンチセンス又はRNAi活性なアンチコード遺伝子配列である。mRNA構築物が細胞型特異的な遺伝子が転写されない細胞へ導入されると、相互作用は起きない。しかしながら、かかるセンスmRNAが存在すると、センス鎖とアンチセンス鎖との間に塩基対形成が存在し、その結果として、センス鎖及びアンチセンス鎖の両方の続く分解が誘導される。分解自体は、全ての細胞における保存タンパク質複合体、特に重要な役割を果たす酵素複合体RISC(RNA誘導性サイレンシング複合体)並びにリボヌクレアーゼDicer及びDroshaによって開始及び実行される(Sontheimer EJ (2005). "Assembly and functionof RNA silencing complexes." Nature Reviews Molecular Cell Biology. 6: pp.127-138)。周囲配列に応じて、分解は、導入されたmRNA鎖全体を含み得るか、又は更なる配列によって限定され得る。
【0036】
細胞型特異的な又は臓器特異的なタンパク質発現パターンは、ほぼあらゆる細胞型又は組織に関する現代のトランスクリプトーム又はプロテオーム解析に基づいて、従来技術として既知であり、事前選択の基盤として容易に役立ち得る(例えば、Ko et al. PNAS, 2013, 110: pp. 3095-3100又はWhitfield et al. PNAS, 2003, 100: pp. 12319-12324を参照されたい)。
【0037】
考え得る最良のアンチセンス機能を有する適切なアンチコード遺伝子要素(3)を同定するために、種々のパラメーターを考慮することができる。例として、Elbashir SM, Harborth J, Lendeckel W, Yalcin A,Weber K, Tuschl T. Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference incultured mammalian cells. Nature. 2001 May 24; 411 (6836): pp. 494-8、Elbashir SM, Lendeckel W, Tuschl T. RNA interference is mediated by 21-and 22-nucleotide RNAs. Genes Dev. 2001 Jan 15; 15 (2): pp. 188-200、Reynolds A, Leake D, Boese Q, Scaringe S, Marshall WS, Khvorova A.Rational siRNA design for RNA interference. Nat Biotechnol. 2004 Mar; 22 (3):pp. 326-30を参照されたい。
【0038】
本発明によれば、下記のパラメーターが、この場合において役割を果たすべきである:
好ましくは、開始コドンの50nt~100nt下流にあるアンチコード遺伝子配列
配列モチーフAA(N19)TT又はNA(N21)、又はNAR(N17)YNNに関する検索、但し、N=任意のヌクレオチド、R=プリン及びY=ピリミジン
好ましくは、G+C含有量35%~60%を有するアンチコード遺伝子配列
連続した4つ以上の同一ヌクレオチドの回避
他の遺伝子に対して高い相同性を有する配列モチーフの回避。
【0039】
4)アンチセンス/RNAi活性配列に、構築物の3'領域においてIRES若しくはIRES様配列と塩基対形成を生じることが可能であるか、又は他の場合では相互作用することが可能であり、したがって、IRESブロッカーとして機能することが可能である配列が続く。IRES配列自体もまた、主に特異的に構築された二次構造を用いて、又はそれのみによってCAP依存性翻訳イニシエーターとしてのそれらの機能を果たすことが可能であるため、IRESブロッカーとIRES配列との間の更なる塩基対形成は、IRESブロッカーが存在する限りはIRES依存性翻訳開始が起きないように、これらの配列を変化させる。IRES阻止は、導入されたmRNAの完全長で起きる。mRNAの長さにおける規定の誘導された変化は、特定のアンチセンス/RNAi配列をセンスmRNAに結合する場合にのみに起きるため、IRES活性は、適切なセンスmRNA配列を有さない全ての細胞において除外される。しかしながら、特定の細胞型におけるこのセンスmRNAの存在は、アンチセンス-センス結合を導き、それにより、導入されたmRNAの分解の誘導を導き、その結果として、IRESブロッカーの配列が影響され、したがって、IRES配列の二次構造形成に対するその阻止効果を失う。IRESブロッカー配列は、i)IRES配列のアンチコード遺伝子部分を含有すること、ii)IRES配列の1つ以上の配列セクションに結合すること、iii)IRES配列とアンチコード遺伝子部分との間にスペーサー配列を含むことができ、そのスペーサー配列は、長さ及びヌクレオチド組成が様々な組成物を含むことができること、iv)好ましくは、IRES二次構造を変更させるために、そのステム配列又はループ配列に結合すること、v)配列が、通常はアンチセンスを発達させることなく又はRNAi活性自体なしで、IRESアンチコード遺伝子ヌクレオチドに関して可変長を有することを特徴とする。この場合、ブロッカーを用いたIRESの二次構造の変化は、IRESの機能を効果的に無効にし、かつロッカーの分解時にIRES配列のリフォールディングを可能にするために、ほんの最低限であってもよい。IRESブロッカー及びIRESの最良の考え得る結合を可能にするために、IRESブロッカーの配列は、長さが多様であり得るリンカー配列の先行する配列及び後続する配列の両方に囲まれ得る。
【0040】
5)センス及びアンチセンス/RNAi mRNAモチーフの結合後に、導入されたmRNAの完全な分解を、その特定の区域に制限にするために、結合パートナー又は二次構造に起因した分解を妨害するmRNA配列モチーフを取り込まなくてはならない。かかる配列モチーフは、ヘアピンループ又はステムループを含み得る。かかる配列モチーフは、センス-アンチセンス対形成に関して、5'方向及び3'方向の両方で、単一又は多重アラインメントで使用することができる。したがって、通常は二次構造又は結合パートナーによって安定化される配列モチーフの使用は、センス対形成を伴う標的細胞における特定のアンチセンス/RNAiカセットと組み合わせて、mRNA分解の中断をもたらし、それにより、この配列に対して3'方向に位置するRNAモチーフの安定化をもたらす。ここで、続いて、安定な二次構造は、安定化に関するCAPの機能を想定するが、翻訳開始に関しては想定しない。センス-アンチセンス対形成が起きない細胞では、mRNAの全長が維持され、ループ構造は、有意な機能を伴わずに留まる。安定なmRNA二次構造は、連結配列(リンカー)を用いて、又は用いずに隣接配列モチーフに連結され得る。
【0041】
6)翻訳開始に必要なCAP配列が標的細胞において切断されるため、CAP依存性リボソーム結合部位は、ペプチド又はタンパク質形成を開始するために、安定なmRNA二次構造の後の配列に組み込まれなくてはならない。この目的で、IRES又は同等の翻訳イニシエーター配列は、3'方向で取り込まれ、その配列は通常、その展開された二次構造に起因して、リボソームサブユニットの直接的な結合を可能にする。IRES配列は、細胞性、ウイルス性又は合成性であり得る。同じ完全長mRNA構築物においてIRES配列と適合し、塩基対形成によって翻訳開始に必要なIRES二次構造の形成を防止するIRESブロッカー配列に起因して、IRES配列は、非標的細胞において、及びそれらに存在する完全長mRNAにおいて不活性である。対比して、標的細胞において、IRES阻止配列の分解は、センス-アンチセンス/RNAi相互作用によって起き、それによって、機能性IRES二次構造は、エネルギー的に駆動されるプロセスによって形成され、後続するコード配列の翻訳に関して機能することができる。IRES配列は、リンカー配列を用いて、又は用いずに、周囲配列モチーフに取り込むことができる。或いは、検討されるIRESではないものの、依然として翻訳イニシエーターとして作用するヌクレオチド配列を使用することができる。
【0042】
7)使用するIRES又はIRES様構造に関して3'位置で、翻訳を用いてペプチド又はタンパク質へ転写されるコード配列を導入することができる。これらの配列モチーフの翻訳は、専らIRES配列が活性である細胞において、即ち、内因性センス配列もまた、導入されたmRNA内のアンチセンス/RNAiモチーフに転写される標的細胞において起きる。翻訳されるRNA配列は、任意の所望のアミノ酸配列をコードすることができ、したがって、例えば、治療上活性なペプチド及びタンパク質、毒素、抗体、インターロイキン又は表面受容体を形成することができる。
【0043】
8)規定の翻訳可能なリーディングフレームに続いて、完全長mRNA及び標的細胞において切断されるmRNAの両方の安定性を保証する更なる配列が3'方向において必要である。これらの配列は、3'非翻訳領域及びポリ(A)尾部の両方を含み、その尾部はまた、ほぼあらゆる内因性mRNAの特徴である。必要に応じて、内因性又は合成配列モチーフを使用することができる。mRNA構築物の所望の安定性に応じて、これは、配列モチーフの適切な選択によって、標的化された様式で調節することができる。この場合、i)モチーフ内の形成された二次構造、ii)安定化/不安定化因子に関する考え得る結合部位、及びiii)ポリ(A)尾部の長さが、特に重要である。
【0044】
mRNA分子が生物全体へ導入された場合でさえ、この系に基づいて、標的配列の選択的な調節可能の発現が初めて可能である。
【0045】
本発明のRNA構築物は、様々な方法で標的細胞へ導入することができる。本発明のRNA構築物は、トランスフェクション、膜融合、エレクトロポレーションによって、又はレトロウイルスベクターとして細胞に進入することができる。例えば、国際公開第02/44321号は、外来標的遺伝子を細胞へ導入することを開示している。
【0046】
本発明の特定の実施形態において、上記アンチコード遺伝子要素(a)と、上記標的細胞によって発現される上記mRNAとの相互作用は、上記所定のポリペプチドの翻訳が起き得るように、上記阻止要素(b)の分解又は不活性化をもたらす。更なる実施形態において、上記安定化要素(c)上の上記mRNAの分解は停止される。
【0047】
本発明の更に好ましい実施形態において、上記アンチコード遺伝子要素(a)は、標的細胞内への導入後に下記の特徴の1つ以上を有し、下記の機能(複数の場合もある)を有する:
(i)上記標的細胞に特異的なRNA配列への結合、
(ii)自由に調節可能な長さの二重鎖RNAハイブリッドの形成、及び、
(iii)上記二重鎖RNAハイブリッドにおける導入された上記RNA構築物の細胞分解の誘導。
【0048】
本発明の更に好ましい実施形態において、上記阻止要素(b)は、下記の特徴:
(i)上記翻訳イニシエーター要素の機能が抑制されること、
(ii)上記阻止要素が、適切な条件下で分解又は不活性化され得ること、
(iii)上記翻訳イニシエーター要素上の抑制機能が、上記阻止要素の不活性化又は分解後に可逆的であること、
(iv)上記阻止要素が、上記翻訳イニシエーター要素の配列において、又は該配列付近で、塩基対形成によってその二次構造を変化さることにより、その機能を果たすこと、及び、
(v)上記阻止要素が、他の分子に、上記翻訳イニシエーター要素を直接的に又は間接的に阻害させることによって、その機能を果たすこと、
の1つ以上を有する。
【0049】
本発明の更に好ましい実施形態において、上記安定化要素(c)は、下記の特徴:
(i)上記3'方向でのエキソ及び/又はエンドヌクレアーゼによるRNAの分解を防止するヌクレオチド配列、
(ii)ステムループ等の安定化二次構造を形成することを特徴とするヌクレオチド配列、
(iii)ペプチド又はタンパク質等の安定化要素が、該RNAに結合することを特徴とするヌクレオチド配列、及び、
(iv)分子が、該RNAに結合して、該RNAの5'末端の化学的な安定化修飾を実施することを特徴とするヌクレオチド配列、
の1つ以上を有する。
【0050】
本発明の更に好ましい実施形態において、上記翻訳イニシエーター要素(d)は、下記の特徴:
(i)翻訳開始の機能の細胞型依存性の選択的阻害、
(ii)調節カセットの構成要素(要素a及び要素b)の分解又は不活性化時のみの機能性、
(iii)上記翻訳イニシエーター要素が全ての他の細胞型において不活性である一方、標的細胞のみにおける機能性、
(iv)開始RNA構築物の5'領域におけるキャップ構造に関係のない翻訳の誘導、
(v)リボソームサブユニット又は完全リボソーム(例えばIRES配列)の直接的又は間接的な結合を用いた翻訳の誘導、
(vi)上記阻止要素による阻害の除外後の特異的な二次構造の形成による翻訳の誘導、及び、
(vii)上記阻止要素による阻害の除外後の特異的な分子の結合又は化学的な修飾による翻訳の誘導、
の1つ以上を有する。
【0051】
本発明の特に好ましい実施形態において、RNA構築物は、アンチコード遺伝子及びIRES依存性発現調節の組合せを有する。
【0052】
阻止要素の分解は、例えば、アンチセンス又はsiRNA依存性mRNA分解の系を介して起き得る。「RNA干渉」(RNAi)として文献で既知の現象は、細胞中の短RNA分子(siRNA、低分子干渉RNA)が、メッセンジャーRNA(mRNA)と相互作用することができるという事実に基づいている(文献: Fire A., Xu S.,Montgomery M.K., Kostas S.A., Driver S.E., Mello C.C., Nature Feb 19, 1998; 391(6669): pp. 744-745)。酵素によって制御される複雑なメカニズムに起因して(例えば、DICER及びRISC複合体を介して)、mRNAの分解が見られる。siRNAの他に、「マイクロRNA」(miRNA)又は「短ヘアピンRNA」(shRNA)等の他の低分子RNA種も見いだされ、それらもまた、関連メカニズムを用いて、タンパク質発現を阻害することができる。
【0053】
阻止要素の分解及び/又は不活性化によって誘導される標的細胞へのRNA構築物の翻訳開始は、多数の因子の協奏的な相互作用を含む複雑なプロセスである(Pain, V.M., 1996, Eur. J. Biochem. 236, pp. 747-771)。ほとんどmRNAに関して、第1の工程は、その5'末端で、又はその5'末端付近でRNAにリボソーム40Sサブユニットを導入することである(図1)。40SとmRNAとの会合は、キャップ結合複合体eIF4Fによってはるかに容易となっている。因子eIF4Fは、3つのサブユニット:RNAヘリカーゼeIF4A、キャップ結合タンパク質eIF4E及びマルチアダプタータンパク質eIF4Gで構成され、複合体におけるタンパク質に関するフレームワーク及びeIF4E、eIF4a、eIF3への結合部位として作用し、ポリ(A)結合タンパク質を有する。
【0054】
様々なRNAウイルスによる細胞の感染は、宿主のmRNAの翻訳の選択的阻害をもたらすが、ウイルスのmRNAの翻訳の選択的阻害はもたらさない。例えば、細胞質RNAウイルスであるポリオウイルスによる細胞感染は、複数の翻訳開始因子の修飾をもたらす。特に、ウイルスにコードされるプロテアーゼによるeIF4G、eIF4GI及びeIF4GIIの両方の形態のタンパク質分解(Gradi et al. 1998, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 95,pp. 11089-11094)は、キャップを有するほとんどの細胞mRNAの翻訳の阻害をもたらす。対比して、450個のヌクレオチドを含み、無傷のeIF4Fの非存在下で40Sサブユニットを導入することができる、5'UTRにおけるIRESとしての特異的な配列を含有するポリオウイルスmRNAの翻訳は阻害されない(Jang et al. 1988J. Virol. 62, pp. 2363-2643)。IRES要素は、ピコルナウイルス、フラビウイルス、ペストウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及び昆虫ウイルスRNAにおいて、並びに動物細胞RNAにおいて見出されている。既知のIRES配列モチーフの概説は、科学知識の状況を表す(http://www.iresite.orgで概説として提供される(2.1.2017現在))。IRES含有動物mRNAは、それらの5'キャップ末端、及びそれらのIRES要素の両方を介して、リボソームサブユニットを導入することができる。結果として、キャップ依存性翻訳が、例えばウイルス感染中に、細胞周期のG2/M期、アポトーシス又はストレス条件中に低減される条件下で、翻訳は可能である(Johannes et al. (1999), Proc. Natl. Acad. Sci. USA96, pp. 13118-13123、Cornelis et al.(2000), molecular Cell 5, pp. 597-605、Pyronnet et al.(2000), molecular Cell 5, pp. 607-616、Stein et al.,1998, Mol. and Cell. Biol. 18, pp. 3112-3119、Holcik etal., 2000, Oncogene 19, pp. 4174-4177、Stoneley et al.,2000, mol. and Cell. Biol. 20, pp. 1162-1169)。動物の最大3%の細胞mRNAが、キャップ結合性複合体eIF4Fの低減濃度で翻訳される(Johannes et al.,1999)。
【0055】
本発明のRNA構築物に関して、複数の種々のIRES要素を、翻訳イニシエーター要素として使用することができる。例えば、従来技術は、動物細胞において(米国特許第6 060 273号、米国特許第6 114 146号、米国特許第5 358 856号、米国特許第6 096 505号、米国特許第171 821号、米国特許第5 766 903号)、植物細胞において(国際公開第98/54342号)、及びより一般的には真核生物において(米国特許第171 821号、米国特許第5 766 903号、米国特許第5 925 565号、米国特許第6 114 146号)において線状マルチシストロン(multicistronic)mRNAにおける外来遺伝子のキャップ依存性発現に使用されるIRES要素について記載している。
【0056】
例えば、IRES要素の二次構造は、依存として影響されないままであり、したがって、機能性のままであり、阻止要素(b)の適切な選択によってのみ、変化される(不活性化される)。
【0057】
本発明の更に好ましい実施形態において、
上記RNA構築物は、下記の任意選択の特徴:
(i)上記mRNA構築物全体の安定性を増加するための5'キャップ配列、
(ii)上記mRNA構築物全体の安定性を調節して、5'キャップ誘導翻訳を抑制できるようにするための5'非翻訳領域(例えば、四重鎖配列の取り込み)、
(iii)標的細胞における上記mRNA構築物全体及びプロセシングされるmRNA部分的断片の安定性を調節するための3'非翻訳領域、
(iv)標的細胞における上記mRNA構築物全体及びプロセシングされるmRNA部分的断片の安定性を調節するためのポリ(A)領域、及び、
(v)請求項1~8のいずれか一項に記載の上記mRNA構築物全体の全ての要素が、要素自体内に、又は個々の要素間に任意の長さのリンカー配列を含有してもよく、リンカー配列が、無機能とすることができ、該個々の要素の純粋な空間的分離に使用される、又は更なる機能を系に組み込むのに使用されること、
の1つ以上を有する。
【実施例
【0058】
1)規定の細胞型における標的配列の選択的発現に関する機能系のヌクレオチド配列(図12)
標準的な分子生物学的手順(PCR、ライゲーション及びトランスフォーメーション)を用いて、ヒトゲノムのケラチン13遺伝子の短配列(上記では短KERATINと印を付けた)は、LOOP配列として既知であるものに対するアンチセンスとして連結させた。LOOP配列は、構築物の可撓性につながるリンカー配列、ブロッカー配列、及び安定な二次構造(LOOP)を形成するヌクレオチド配列を含む。ブロッカー配列は、塩基対形成によりIRESの配列部分と相互作用することが可能であり、それにより、その二次構造を変更させることが可能であるのに対して、LOOPの二次構造は、エキソヌクレアーゼ活性の妨害を引き起こす(Chapman et al., eLife, 2014, 3: e01892を参照されたい)。後続する配列部分は、脳心筋炎ウイルスのIRES(Bochkov and Palmenberg,BioTechniques, 2006, 41: pp. 283-292)及び緑色蛍光タンパク質(eGFP)のコード配列を表す。ブロッカー配列が除外されると、IRESは、後続する配列、この場合は、容易な検出性の理由で、本明細書で選択されたeGFPの翻訳を可能とする。選択された細胞型におけるアンチセンス配列(短KERATIN)に相補的なセンス配列が、結合用に存在している場合にのみ、ブロッカー配列が除外される。
【0059】
2)規定の細胞型における標的配列の選択的発現に関する代替的なアンチセンス配列を有する機能系のヌクレオチド配列(図13
標準的な分子生物学的手順(PCR、ライゲーション及びトランスフォーメーション)を用いて、ヒトゲノムのケラチン13遺伝子の長配列(上記ではKERATINと印を付けた)は、LOOP配列として既知であるものに対するアンチセンスとして連結させた。LOOP配列は、構築物の可撓性につながるリンカー配列、ブロッカー配列、及び安定な二次構造(LOOP)を形成するヌクレオチド配列を含む。ブロッカー配列は、塩基対形成によりIRESの配列部分と相互作用することが可能であり、それにより、その二次構造を変更させることが可能であるのに対して、LOOPの二次構造は、エキソヌクレアーゼ活性の妨害を引き起こす(Chapman et al., eLife, 2014, 3: e01892を参照されたい)。後続する配列部分は、脳心筋炎ウイルスのIRES(Bochkov and Palmenberg,BioTechniques, 2006, 41: pp. 283-292)及び緑色蛍光タンパク質(eGFP)のコード配列を表す。ブロッカー配列が除外されると、IRESは、後続する配列、この場合は、容易な検出性の理由で、本明細書で選択されたeGFPの翻訳を可能とする。選択された細胞型におけるアンチセンス配列(KERATIN)に相補的なセンス配列が、結合用に存在している場合にのみ、ブロッカー配列が除外される。
【0060】
3)規定の細胞型における標的配列の選択的発現に関する代替的なアンチセンス配列及び代替的なブロッカー配列を有する機能系のヌクレオチド配列(図14
標準的な分子生物学的手順(PCR、ライゲーション及びトランスフォーメーション)を用いて、ヒトゲノムのケラチン13遺伝子の長配列(上記ではKERATINと印を付けた)は、LOOP配列として既知であるものに対するアンチセンスとして連結させた。LOOP配列は、構築物の可撓性につながるリンカー配列、ブロッカー配列、及び安定な二次構造を形成するヌクレオチド配列(LOOP)を含む。ブロッカー配列は、塩基対形成によりIRESの配列部分と相互作用することが可能であり、それにより、その二次構造を変更させることが可能であるのに対して、LOOPの二次構造は、エキソヌクレアーゼ活性の妨害を引き起こす(Chapman et al., eLife, 2014, 3: e01892を参照されたい)。後続する配列部分は、脳心筋炎ウイルスのIRES(Bochkov and Palmenberg,BioTechniques, 2006, 41: pp. 283-292)及び緑色蛍光タンパク質(eGFP)のコード配列を表す。ブロッカー配列が除外されると、IRESは、後続する配列、この場合は、容易な検出性の理由で、本明細書で選択されたeGFPの翻訳を可能とする。選択された細胞型におけるアンチセンス配列(KERATIN)に相補的なセンス配列が、結合用に存在している場合にのみ、ブロッカー配列が除外される。
【0061】
4)GFPの細胞型依存性のブロッカーIRESに制御された選択的発現(図15
ケラチン13mRNAを有する(WT)マウス上皮細胞(ケラチノサイト)及びケラチン13 mRNAを有さない(ノックアウトケラチン13突然変異体=KO)マウス上皮細胞(ケラチノサイト)を、陽性対照としてGFP発現プラスミドで処理した。24時間後、光学顕微鏡法(灰色)及び蛍光顕微鏡法(緑色)を使用して検査した。透過の結果として、GFPの一様に高い発現が、両方の細胞系統で観察され得る。
【0062】
図1(クローン174)及び図2(クローン215)において生成される構築物を使用することによって、GFPの発現は、ケラチン13 mRNAを発現する細胞において非常に優先的に起き、ケラチン13遺伝子が削除された細胞において殆ど起こらなかった。この効果は、ケラチン13 mRNAの非存在下では、生成されたmRNA構築物内の阻止配列がIRES配列と相互作用して、IRES二次構造を変更させることによって、その機能、したがって、GFP発現を抑制するという事実によって正当化される。対比して、ケラチン13 mRNA(WT)の存在下では、生成されたmRNA構築物は、ループに至るまで、センス-アンチセンス相互作用によって分解され、その結果として、ブロッカー配列は消失する。結果として、IRESの機能が可能となり、GFPが発現される。
【0063】
5)標的遺伝子の選択的発現に関する機能系の定量的評価(図16
図4に記載するように、野生型及びケラチン13突然変異体細胞に、種々の機能系を負荷した。24時間後、選択した標的タンパク質GFPの発現レベルを、フローサイトメトリーを用いて、全ての細胞において測定した。各測定に関して、少なくとも5000個の細胞を評価した。WTとケラチン13-/-突然変異との間の差は全て、非常に有意である。
【符号の説明】
【0064】
図面の英語の翻訳
図1
The structureof a typical human protein coding mRNA including the untranslated regions (UTR) 非翻訳領域(UTR)を含む典型的なヒトタンパク質コードmRNAの構造
Cap キャップ
codingsequence(CDS) コード配列(CDS)
PolyA tail ポリA尾部
Start 開始
Stop 停止

図2
1=Cap/modifications 1=CAP/修飾
3=antisensefragment 3=アンチセンス断片
4=linker_IRESblocker_linker 4=リンカー_IRESブロッカー_リンカー
5=stem loops 5=ステムループ
6=IRES(viral) 6=IRES(ウイルス)
7=sequence ofinterest 7=所定の配列
8 and 9=3'UTR and poly(A) 8及び9=3'UTR及びポリ(A)

図3
1=Cap/modifications 1=CAP/修飾
3=anticodogenicfragment 3=アンチコード遺伝子断片
4=linker_IRESblocker_linker 4=リンカー_IRESブロッカー_リンカー
5=stabilizingelement 5=安定化要素
7=sequence ofinterest 7=所定の配列
8 and 9=3'UTR and poly(A) 8及び9=3'UTR及びポリ(A)

図4
Processing toform プロセシングして形成
Secondary IRESsequence (6) 二次IRES配列(6)
Expression ofthe subsequent target sequence (7) 後続する標的配列(7)の発現
IRES sequencefunctional 機能性IRES配列

図5
Primary IRESsequence (HCV IRES 1b); position 6 in Fig.4: SEQ ID NO:1 一次IRES配列(HCV IRES 1b);図4の位置6:配列番号1

図6
Processing toform プロセシングして形成
Secondary IRESsequence (6) with 3 stabilizing elements (5) 3つの安定化要素(5)を有する二次IRES配列(6)
Expression ofthe subsequent target sequence (7) 後続する標的配列(7)の発現
Stabilizingelements have no influence on the rest of IRES secondary structure 安定化要素は、IRES二次構造の残部に影響を与えない

図7
Primary IRESsequence (position 6 in Fig.6) with 3 stabilizing elements (position 5 inFig.6): SEQ ID NO:2 3つの安定化要素(図6の位置5)を有する一次IRES配列(図6の位置6):配列番号2

図8
Processing toform プロセシングして形成
Secondary IRESsequence (6) with 3 stabilizing elements (5) and linkers (4a) 3つの安定化要素(5)及びリンカー(4a)を有する二次IRES配列(6)
Expression ofthe subsequent target sequence (7) 後続する標的配列(7)の発現
Stabilizingelements have no influence on the rest of IRES secondary structure 安定化要素は、IRES二次構造の残部に影響を与えない

図9
Primary IRESsequence (position 6 in Fig.8) with 3 stabilizing elements (position 5 inFig.8, underlined) and linkers (position 4a in Fig.8, boxed): SEQ ID NO:3 3つの安定化要素(図8の位置5、下線)及びリンカー(図8の位置4a、囲み)を有する一次IRES配列(図8の位置6):配列番号3

図10
RNA constructis maintained in cells at full length RNA構築物は、細胞において完全長で維持される
Secondary IRESsequence (6) with 3 stabilizing elements (5), linker (4a) and blockers (4b) 3つの安定化要素(5)、リンカー(4a)及びブロッカー(4b)を有する二次IRES配列(6)
No expressionof the subsequent target sequence (7) 後続する標的配列(7)の発現なし
Even smallblocker sequences have significant influence on the rest of IRES secondary structure 小さなブロッカー配列でさえ、IRES二次構造の残部に大きく影響を与える

図11
Primary IRESsequence (position 6 in Fig.10) with 3 stabilizing elements (position 5 in Fig.10,underlined), linkers (position 4a in Fig.8(10), boxed) and blockers (4b, bold): SEQID NO: 3つの安定化要素(図10の位置5、下線)、リンカー(図8(10)の位置4a、囲み)及びブロッカー(4b、太字)を有する一次IRES配列(図10の位置6):配列番号4

図12
Selective mRNAexpression system with short antisense sequence 短アンチセンス配列を有する選択的mRNA発現系
Short Keratin13 短ケラチン13
Loops ループ
Recognitionsites 認識部位
short KERATIN 短KERATIN

図13
Selective mRNAexpression system with long antisense sequence 長アンチセンス配列を有する選択的mRNA発現系
Keratin 13 ケラチン13
Loops ループ
Recognitionsites 認識部位

図14
Selective mRNAexpression system with alternative blocker sequence and long antisense sequence 代替ブロッカー配列及び長アンチセンス配列を有する選択的mRNA発現系
Keratin 13 ケラチン13
Loops ループ
Recognitionsites 認識部位

図15
controltransfection 対照トランスフェクション
IRES dependentexpression clone 174 IRES依存性発現クローン174
IRES dependentexpression clone 215 IRES依存性発現クローン215

図16
Experiment 1 実験1
WT(wild-type)efficiency WT(野生型)効率
Keratin 13 -/-efficiency ケラチン13-/-効率
selectiveexpression system 1 選択的発現系1
Relative 相対
Experiment 2 実験2
selectiveexpression system 2, clone 01 選択的発現系2、クローン01
selectiveexpression system 2, clone 02 選択的発現系2、クローン02
Mean value 平均値
selectiveexpression system 3, clone 01 選択的発現系3、クローン01
selectiveexpression system 3, clone 02 選択的発現系3、クローン02
Mean valueover all experiments 全ての実験の平均値
Stabilityvalue over all experiments 全ての実験の安定性値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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