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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】自己抗体の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20221005BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01N33/543 511D
G01N33/53 N
G01N33/543 541A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020501186
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018040767
(87)【国際公開番号】W WO2019014028
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】62/532,225
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513220126
【氏名又は名称】マグアレイ,インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】521 COTTONWOOD DRIVE, SUITE 121, MILPITAS, CA 95035, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岩田 英之
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-519329(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0370526(US,A1)
【文献】HOLTHOFF, H-P. et al,Detection of Anti-β1-AR Autoantibodies in Heart Failure by a Cell-Based Competition ELISA,CIRCULATION RESEARCH,2012年08月31日,Vol.111/No.6,p.675-684
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己抗体を定量する自己抗体の定量方法であって、
記自己抗体を検査物質として含有する生物試料と、抗原へ結合するために前記自己抗体と競合する既知の量の競合抗体とを、前記自己抗体及び前記競合抗体によって特異的に認識され前記自己抗体及び前記競合抗体へ結合される前記抗原と反応させるステップと、
前記抗原へ結合した前記自己抗体を、前記自己抗体を認識し前記自己抗体へ結合するが前記競合抗体を認識しない検出抗体と反応させるステップと、
前記自己抗体へ結合した前記検出抗体に由来するシグナルを測定するステップと、
前記生物試料中に含有される前記自己抗体の量についての指標として、前記競合抗体の非存在下で前記自己抗体へ結合した前記検出抗体に由来する前記シグナルの50%低減を提供する前記競合抗体の量を利用することによって、前記生物試料中に含有される前記自己抗体の量を算出するステップと
を含む、自己抗体の定量方法。
【請求項2】
前記抗原が、固体支持体へ固定されている、請求項1に記載の自己抗体の定量方法。
【請求項3】
前記検出抗体に由来する前記シグナルは、磁気シグナルである、請求項1または2に記載の自己抗体の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己抗体の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体において、免疫寛容は、生理学的状態下で確立されているので、過剰応答は、自己正常細胞または自己正常組織などの自己構成要素に誘導されない。しかしながら、免疫寛容がある特定の原因により崩壊する場合、免疫系は、自己構成要素を非自己構成要素と判別することができなくなり、自己構成要素に対する抗体である自己抗体を産生する。自己抗体は、特定の器官障害または全身性障害を生じる自己免疫疾患に関係している。それゆえ、特定の疾患において高頻度で現れる自己抗体は、自己免疫疾患の診断を実施する上で有意であるものとみなされる。自己抗体がある特定の癌に付随することも既知である。そのため、癌の早期診断のための癌マーカーとしての使用など、自己抗体の臨床有用性が示唆されている。
【0003】
概して、生物試料中に含有される検査物質を定量する上で、試薬と呼ばれる高純度標準物質が採用される。一般的な実施によると、異なる既知の量のこのような標準物質を含有するいくつかの標準試料が調製される。次に、これらの標準試料から取得されたシグナル強度の測定値と該標準試料中に個々に含有される標準物質の量との間の関連を示す較正曲線に基づいて、個々の生物試料中に含有される検査物質の量が、実際の生物試料を検査試料として使用するときに取得された測定値から定量される。
【0004】
例えば、患者試料から精製された自己抗体が、自己抗体の定量における標準物質として採用される方法が報告されている(参考文献1(J.Sheldon,et al.,“Strategies for building reference standards of autoantibodies,Frontiers in immunology”,Volume 6,Article 194)を参照されたい)。本方法は、生物試料中に含有される精製された自己抗体を採用する。しかしながら、自己抗体精製は、高度に技術的で複雑な技術を必要とし、したがって厄介で経費がかさむ。その上、必要とされる量の自己抗体を標準物質として取得するために、多量の患者試料が必要とされる。上述のような状況を含め、自己抗体の定量において、高純度の標準物質を購入/取得することは困難であり、生物試料中に含有される自己抗体の精確な定量も困難である。特に、近年、複数の種類の自己抗体量の多重同時分析についての必要性がある。しかしながら、複数種の自己抗体を精製すること、及びこれらを上述のような標準物質として提供することが困難であるので、参考文献1に開示されている精製された自己抗体を利用する方法は、多重同時分析における使用に適していない。
【0005】
さらに、参考文献1は、患者の血液試料自体を標準物質のための基質として使用する方法も開示している。参考文献1に開示された方法は、患者の血液試料の利用のための精製のような厄介な技術を必要とせず、標準物質基質の容易かつ安価な調製を可能にするという利点を有する。しかしながら、標準物質基質中に含有される自己抗体の絶対量が未知であるので、この方法は、絶対量に基づく査定ができないことにより、単に部分的定量を含むに過ぎない。さらに、患者の試料のロットを変える場合、このことは、測定値における偏差を結果として生じることがある。したがって、このようなロット間の差を補正するために、この方法は、例えば、ロットを変えるときに同じシグナルを取得することができるような濃度調整を含む別個の操作を必要とする。このことは、この方法に伴う別の問題である。
【0006】
さらに、自己抗体の測定については、組み合わせにおける種々の濃度の2色の蛍光色素を用いて染色されたマイクロビーズへ、検査物質と結合している物質が個々に固定されているLuminex(登録商標)と呼ばれる技術を用いて、少量の試料の複雑な分析を可能にする複数の自己抗体を測定する方法も報告されている(参考文献2(V.Doseeva,et al.,“Performance of a multiplexed dual analyte immunoassay for the early detection of non-small cell lung cancer”,Journal of Translational Medicine,13:55,(2015)を参照されたい)。標準物質として複数の自己抗体の精製済み産物を調製することが困難である点を考慮して、参考文献2において開示されている方法においては、較正曲線を作成しておらず、代わりに、実測値から盲検値を減算することによって取得された値に基づいて、検査物質としての自己抗体の測定が影響を受ける。それゆえ、この方法は、自己抗体精製、較正曲線の調製などのような厄介な技術を必要としておらず、容易かつ安価な測定を可能にするという利点を提供する。しかしながら、血液試料自体を標準物質置換体として用いる参考文献1において開示されている方法のように、この方法は、自己抗体の絶対量が未知であることにより、単に、部分的な定量であるという問題を被り過ぎている。その上、測定に使用される試薬の力価の測定値の間にばらつきが存在するので、測定値は、測定試薬のロット交換時に変わることになることが予想される。それゆえ、この方法は、測定試薬の厳密な制御を必要とすること、及び安定した測定値を取得することが困難であることという別の問題を被る。
【0007】
さらに、自己抗体の測定は、固相上に固定された抗体に対する競合的阻害に基づいても可能である。このことにおいて、概して、高度に精製された抗体を抗原として採用し、これを固相上に固定することが必要である。対照的に、抗原を捕捉する抗体(捕捉抗体)が固相表面上に固定された場合、抗原分子が、器官抽出物の形態にある低純度抗原のような粗抗原の場合においてでさえ、固相表面上で選択的に提示されることができることが報告されている(参考文献3(日本国特許第2675676号)を参照されたい)。このように、参考文献3は、患者の試料中に含有されている自己抗体が、低純度の抗原が採用されているときでさえ測定されることができることを説明している。それにもかかわらず、自己抗体の絶対量の測定における改善についての余地が残されている。
【0008】
上述したように、これまで、生物試料中の自己抗体の量の測定における手早さ及び定量性の両方を有するいかなる方法もまだ報告されていない。これまでは、手早さまたは定量性のいずれか1つにのみ的を絞った測定を成し遂げている。さらに、近年、複数種の自己抗体の量を一度に測定することができる多重同時分析を実現する技術を考案する必要もある。
【発明の概要】
【0009】
したがって、上述した欠点に影響されにくい自己抗体の定量方法についての必要性が存在する。
【0010】
本発明の一態様によると、
抗原へ結合するために自己抗体と競合する既知の量の競合抗体との競合において、自己抗体を検査物質として含有する生物試料を、自己抗体によって特異的に認識されかつ該自己抗体へ結合した抗原と反応させるステップと、
抗原へ結合した自己抗体を、自己抗体を認識しかつ該自己抗体へ結合するが競合抗体を認識しない検出抗体と反応させるステップと、
自己抗体へ結合した検出抗体に由来するシグナルを測定するステップと、
生物試料中に含有される自己抗体の量についての指標として、競合抗体の非存在下で自己抗体へ結合した検出抗体に由来するシグナルの50%低減を提供する競合抗体の量を利用することによって、生物試料中に含有される自己抗体の量を算出するステップと、を含む、自己抗体を定量する方法が提供される。
【0011】
本開示の上述の及び追加の特色は、添付の図面に関して考慮される以下の発明を実施するための形態からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】固相技術を利用する様式を示す、本開示に関する自己抗体の定量方法の原理の1つの様式を示す図である。
図2】本開示に関する自己抗体の定量方法におけるIC50値の算出の1つの様式を示すグラフである。
図3】競合抗体と検出抗体との間の交差反応性を考慮した実施例3の結果を示すグラフである。
図4】本開示による自己抗体の定量方法を利用した抗ヒトANGPTL抗体量に関して測定された実施例4における結果を示すグラフであり、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体を検出抗体として使用した結果を示す。
図5】本開示による自己抗体の定量方法を利用した抗ヒトANGPTL抗体量に関して測定された実施例4における結果を示すグラフであり、ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体を検出抗体として使用した結果を示す。
図6】本開示による自己抗体の定量方法を利用した抗ヒトANGPTL抗体量に関して測定された実施例4における結果を示すグラフであり、ヤギ由来抗ヒトIgG抗体を検出抗体として使用した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に開示する実施形態による自己抗体の定量方法を、添付の図面に関して説明することにする。
【0014】
本開示による自己抗体の定量方法は、生物試料中の検査物質として含有される自己抗体の量(濃度)を絶対値の形で測定するよう構成されている。測定において、この方法は、自己抗体によって特異的に認識されて結合される抗原への結合について、自己抗体と競合する抗体(以後、「競合抗体」と呼ぶこともある)を利用する。種々の既知の量(濃度)の競合抗体は、自己抗体との競合において抗原へ結合する反応(以後、「競合反応」と呼ぶこともある)のために、生物試料へ添加される。このことにおいて、抗原へ結合する自己抗体は、添加される競合抗体の量の増加とともに減少する。自己抗体は、競合抗体の量の減少とともに増加する。この方法は、抗原に対する自己抗体の結合比の低減及び添加される競合抗体の量に基づいて、生物試料中に含有される自己抗体の量を算出する。競合抗体の存在は、自己抗体及び抗原の結合比を低減させる。自己抗体の量は、結合比の低減率及び競合抗体の量を比較することによって算出される。
【0015】
本開示による自己抗体の定量方法において、検査物質としての自己抗体は、特に限定されてはいないが、生体中の自己身体構成要素成分を「抗原」として認識する何らかの抗体であることができる。それゆえ、抗原がこのような1つの器官に限定される1つの特定の器官に特異的な自己抗体であることができるか、または非器官特異的自己抗体、例えば、自己抗原としての細胞の核構成要素へ作用する抗核抗体のような、生体中に広く分布する抗原であることもできる。例えば、特定の身体構成要素成分についての自己抗体が免疫寛容の崩壊により産生され、したがって特定の病理学的容態をもたらす自己免疫疾患が既知である。特定の病理学的容態を生じる自己抗体は好ましくは、定量へ供されることになっている検査物質として使用することができる。検査物質の他の好ましいが非限定的な例としては、癌のような特定の病理学的容態において特異的に発現する抗原としてのタンパク質に作用し、したがって、癌などのような特定の病理学的容態において過剰発現する癌マーカーまたはタンパク質として作用する自己抗体が挙げられる。例えば、癌細胞において特異的にまたは過度に発現するタンパク質についての自己抗体を引用することができる。また、遺伝子修復、細胞周期、したがってこのような癌調節遺伝子についてコードするタンパク質の突然変異及び偶発的な機能不全の制御に関する癌調節遺伝子において異常が生じるとき、癌が発症することが既知である。先の過程において、このような突然変異タンパク質についての自己抗体が産生されることは既知である。このような自己抗体は、検査物質の別の好ましい例である。
【0016】
自己抗体は、自己免疫疾患に関係する自己抗体であることがある。その例として、抗二本鎖DNA抗体、抗一本鎖DNA抗体、抗ヒストン抗体、抗RNA抗体、抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、抗Scl-70抗体、抗PCNA抗体、抗リボソーム抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗セントロメア抗体、リウマチ因子のような抗IgG抗体、抗チログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体、抗ミクロソーム抗体、アリ-アセチルコリン受容体抗体、抗エリスロサイクル抗体、抗血小板自己抗体、抗糸球体基底抗体、抗ランゲルハンス島抗体、抗副腎皮質細胞抗体、抗胃傍細胞抗体などを含む抗核抗体を引用してもよい。しかし、自己抗体はこれらに限定されない。
【0017】
さらに、自己抗体は、癌に関係する自己抗体であってもよい。例えば、癌細胞内で特異的に発現するタンパク質のような癌化を遺伝子突然変異が誘導するタンパク質、癌細胞内で過剰発現するタンパク質、癌抑制タンパク質などについての腫瘍関連抗原(TAA)についての自己抗体であってもよい。そのいくつかの非限定例として、NY-ES0-1、c-Myc、HER2、CEA、MUC1、PSMA、サバイビン、livin、EGFR,CA19.9、PAI-1、MDM2、サイクリンB1、Imp1、Koc、NPM1、p53、p16などがある。その上、自己抗体は、代謝系、血管新生などの生体機能の維持と関係したタンパク質についての自己抗体であってもよい。例えば、アンギオポエチン様タンパク質3型(以後、「ANGPTL3」とも呼ぶことがある)のようなANGPTLについての自己抗体である。しかしながら、自己抗体は、先のものに限定されない。
【0018】
自己抗体の源も、特に限定されない。その例として、ヒト、非ヒト霊長類、ウサギ、ラット、モルモット、マウス、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、家禽のような動物を引用することができるが、ヒトは特に好ましい。それゆえ、本開示による自己抗体の定量方法は好ましくは、検査物質としてヒト由来生物試料中に含有される自己抗体を採用する。
【0019】
本開示による自己抗体の定量方法において、自己抗体を検査物質として含有する生物試料は、特に限定されないが、検査物質として定量に供される自己抗体を含有することができるようないかなる試料であってもよい。そのいくつかの非限定例として、動物由来の血液、血漿、血清、脳脊髄液、羊水、乳、汗、尿、唾液、痰、糞便、組織、細胞培養物などのような、生体由来の身体流体を引用することができる。特に好ましい例は、ヒト由来の生物試料、より好ましくは、罹患したまたは罹患した虞がある患者から採取した患者材料である。このような生物試料は、必要な場合、単離、精製、濃縮などのような予備処理へ供してもよい。それゆえ、生物試料は、必要な場合、希釈剤、保存剤、安定剤、緩衝剤などのような他の成分が添加された生体から採取された身体流体を含めてもよい。
【0020】
本開示の自己抗体の定量方法は、好ましくは次のステップを含む。
(i)抗原への結合について自己抗体と競合する既知の量の競合抗体との競合において、自己抗体を検査物質として含有する生物試料を、自己抗体によって特異的に認識され結合される抗体と反応させるステップ(競合抗体と反応させるステップ)、
(ii)抗原へ結合した自己抗体を、自己抗体を認識し自己抗体へ結合するが競合抗体を認識しない検出抗体と反応させるステップ(検出抗体と反応するステップ)、
(iii)自己抗体へ結合した検出抗体に由来するシグナルを測定するステップ(検出抗体に由来するシグナルを測定するステップ)、及び
(iv)自己抗体の量についての指標として、競合抗体の非存在下で自己抗体へ結合した検出抗体に由来するシグナルの50%低減を提供する競合抗体の量を利用することによって、生物試料中に含有される自己抗体の量を算出するステップ(自己抗体量を算出するステップ)である。
【0021】
次に、上述の個々のステップ(i)~(iv)を詳細に説明する。しかしながら、本開示の自己抗体の定量方法がこれに限定されず、適宜または必要とされるときに種々の改変が可能であることは理解される。
【0022】
(i)競合抗体と反応させるステップ
本開示の自己抗体の定量方法において、ステップ(i)で、自己抗体を検査物質として含有する生物試料を、抗原への結合のために自己抗体と競合する既知の量の競合抗体との競合において、自己抗体によって特異的に認識され結合した抗原と反応させる。これに伴い、自己抗体及び競合抗体は、抗原へ競合的に結合する。
【0023】
本開示の自己抗体の定量方法における使用のための抗原は、検査物質としての自己抗体の種類に応じて適宜選択することができる。検査物質としての自己抗体へ特異的に結合して、抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成することができるいかなる物質も使用することができる。好ましくは、抗原とは、検査物質としての自己抗体の可変領域または超可変領域の相補性決定領域に有利な構造を有するエピトープを含有する物質である。例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド模倣薬、ペプチド核酸、多糖、糖タンパク質などは抗原であってもよい。抗原は、抗原により単離及び精製された形態、すなわち遺伝子組換え技術または化学合成技術によって調製された生物試料または抗原であってもよいか、あるいは市販の生成物でさえあってもよい。例えば、抗原の配列情報が既知である場合、発現ベクターは、このような配列情報に基づいて合成されたDNAフラグメントを適切なベクター内へ組み込むことによって調製することができる。次に、この発現ベクターを使用して、例えば、微生物(E.coli、酵母)、昆虫、動物の細胞の適切な宿主は、形質転換されてタンパク質を発現し、該タンパク質は抗原として使用することができる。さらに、ポリペプチドは、タンパク質の化学的なまたは酵素による開裂によって調製することができ、先に説明したエピトープを保有する限り、このようなものも使用することができる。
【0024】
抗原の量は、生物試料中に含有される自己抗体の概算量、検出抗体を介して自己抗体に由来するシグナルを決定する方法論などに従って適宜設定される。好ましくは、この量は、生物試料中に含有される自己抗体の概算量と十分に反応することができる。例えば、抗原の量は、1pg~10μg、好ましくは、10pg~1μgである。
【0025】
抗原は、必要なときに不溶性支持体(固体支持体)上に固定することができる。このようなものとして、固体支持体、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンのような合成ポリマー物質、アガロース、デキストラン、多糖のような不溶性多糖、またはガラス、シリカゲル、ベントナイトのような無機物質を好ましく使用することができる。また、これらの支持体は、センサ要素、マイクロプレートの形態で使用することができる。メンブレン、検査チューブなど、または球体、棒、微小粒子(ビーズ)などの形態であってもよい。
【0026】
固体支持体への固定は、従来通り実施することができる。いかなる従来技術も、固定された抗原の安定化及びその機能の維持を可能にする限り、かつその後反応物へ添加されることになっている、生物試料中に含有される自己抗体、競合抗体、検出抗体などの、固体支持体への、抗原を迂回した直接的な結合を生じない限り、採用することができる。固定のいくつかの例として、物理的吸着技術、化学的結合技術などを引用することができる。物理的吸着技術は、水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液のような水性溶媒中で抗原を固体支持体と接触させることによって実施することができる。化学的な結合技術のいくつかの例として、共有結合の形成を経た固定、ジアゾ法、酸アジド法、イソシアナート法、シアノゲンブロミド法による固定を引用することができる。さらに、グルタルアルデヒドなどの2つ以上の官能基を有する多官能性試薬のような架橋剤を使用する固定法を採用することも可能である。タンパク質としての抗原の安定した固定のために、非常に反応性がある官能基を固体支持体表面の化学的改質によって導入することができる。例えば、(3-APTES)、ポリエチレンイミン(PEI)、エチレンジアミンなどの薄層を固体支持体の表面上に形成することによる3-アミノプロピルトリエトキシシラン、すなわちアミノ基またはこれに類するものの官能基を導入することができる。固定は、適切な鎖長を有する反応性側鎖(スペーサー)、ビオチン-アビジン(ストレプトアビジン)結合、アルブミン、プロテインAのようなタンパク質などを介しても可能である。さらに、固定は、いわゆるサンドイッチ法のように、抗原を特異的に認識し結合する抗体を用いても可能である。
【0027】
固定において、反応系へその後添加されることになっている生物試料中の自己抗体、競合抗体及び検出抗体によって固体支持体への直接的な結合を抑制するために、ブロッキングのような固体支持体表面の処理は、必要な場合、果たすことができる。
【0028】
本開示に関する自己抗体の定量方法における使用のための競合抗体は、検査物質としての自己抗体の結合パートナーである抗原への結合について自己抗体と競合する何らかの物質であってもよい。ここで、「競合」という用語は、本開示の自己抗体の定量方法における検査物質としての自己抗体とその結合パートナーとしての抗原との間の抗原抗体反応における検出可能な低減を提供する能力を意味する。それゆえ、競合抗体は、まさに自己抗体のように、検査物質としての自己抗体によって特異的に認識されて結合される抗原を認識し結合する。好ましくは、競合抗体は、検査物質として同一のまたは実質的に同一のエピトープを認識する。これに伴い、競合抗体は、対応する抗原、特に抗原のエピトープに対する自己抗体の結合を阻害し、それにより1つの抗原分子の結合は、この抗原分子に対する自己抗体の結合ができないことを結果としてもたらし、または逆に、1つの抗原分子に対する競合抗原の結合が、抗原分子に対するこの競合抗体の結合ができないことを結果としてもたらす。それゆえ、抗原に対する自己抗体の結合量は、添加される競合抗体の量の増加とともに低下し、または添加される競合抗体の量の低下とともに増加する。抗原抗体反応におけるこのような低下度は、本開示が属する分野において既知のいずれかの方法によって測定することができる。例えば、このような度合いの測定は、候補競合抗体の非存在下で影響される対照検査において取得された結合活性の比較によって果たすことができる。好ましくは、競合抗体は、検査物質としての自己抗体と同じ見かけの親和性レベルを有する。例えば、自己抗体の見かけの平衡解離定数(Kd 値)は、競合抗体の同じ数字のKd 値を呈することが好ましい。ここで、Kd 値は、ある特定のモル濃度で抗原と抗体とからなる混合物によって生じる結合反応が平衡状態に到達するときの反応体(抗体(Ab)及び抗原(Ag))と反応生成物(抗原抗体複合体(Ag-Ab))との間の濃度比である抗体の親和性を表し、これは、Kd =[Ag]×[Ab]/[Ag-Ab]として算出することができる。平衡状態下での抗体、抗原の濃度及び抗原抗体濃度は、例えば、平衡透析法、表面プラズモン共鳴法などを使用することによって取得することができる。
【0029】
好ましくは、競合抗体は、その後のステップで添加される検出抗体を認識したり該検出抗体へ結合したりしない。すなわち、検出抗体に対する交差反応性を有さない。さらに好ましくは、競合抗体自体は、互いを認識せずもしくは互いに結合せず、または自己抗体を認識したり自己抗体へ結合したりしないといういずれでもある。
【0030】
競合抗体は、上述の特徴を有する限り、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかであってもよい。また、その起源は、いずれも特に限定されない。それゆえ、競合抗体は、市販の生成物及び、検査物質としての自己抗原のための標的抗原またはこのような標的抗原の一部の構成要素を免疫原として用いた、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモットのような動物の免疫化によって取得されたポリクローナル抗体であってもよい。ちなみに、先において、「このような標的抗原の構成要素」という語句は、検査物質の自己抗体によって認識されるエピトープを含むべきであることが必要とされる。特に好ましくは、検査物質としての自己抗体の起源とは異なる動物の免疫化によって取得された抗体を採用することができる。その上、動物は、例えば、標的抗原の構成要素の単一のエピトープを含有する合成ペプチドを用いて免疫化することができ、ハイブリドーマ細胞は、このエピトープを認識する抗体を産生する抗体産生細胞と骨髄腫細胞との細胞融合を通じて取得することができる。次に、このようなハイブリドーマ細胞を培養して、モノクローナル抗体を産生し、該モノクローナル抗体も好ましくは使用することができる。例えば、標的抗原の配列情報が既知である場合、発現ベクターは、このような配列情報に基づいて合成されたDNAフラグメントを適切なベクター内へ組み込むことによって調製することができる。次に、この発現ベクターを用いて、例えば、微生物(E.coli、酵母)、昆虫、動物の細胞の適切な宿主を形質転換して、タンパク質を発現させ、該タンパク質を次に、適切な動物の免疫化における抗原として使用することができる。特に、好ましくは、ヒト由来組換えタンパク質は、遺伝子操作技術によって非ヒト宿主において産生され、非ヒト動物は、この免疫原のような組換えタンパク質を用いて免疫化される。免疫化において、適切なアジュバントは、必要とされるときに併用することができる。
【0031】
その上、競合抗体は、抗原結合能を保有するF(ab´)2 フラグメント、Fabフラグメント、Fvフラグメントのような抗体フラグメントでもあってもよく、該フラグメントは、パパイン、ペプシンなどのようなタンパク質分解性酵素を用いて全抗体を処理することによって取得することができる。競合抗体は、遺伝子組換え及び化学的合成技術のような既知の遺伝子操作技術によって調製されたものであってもよい。遺伝子組換えによる競合抗体調製の場合、検査物質がヒト自己抗体であれば、競合抗体は、H鎖及びL鎖相補性決定領域以外の一次構造が、定常領域を含むヒト抗体に対応する一次構造によって置換されたヒト抗体または完全ヒト化抗体の対応する一次構造によって置換された、ヒト対応ドメインまたはヒト化抗体によって置換されたH鎖及びL鎖可変領域以外のドメインを有するキメラ抗体であってもよい。
【0032】
競合抗体の使用において、反応溶液は、検査物質としての自己抗体を含有する生物試料へ競合抗体の既知の量を添加することによって調製される。次に、この反応溶液を抗原と接触させて置いておき、それにより競合抗体は、抗原への結合について生物試料中の自己抗体と競合する。競合抗体を添加するタイミングは、特に限定されない。しかしながら、競合反応において自己抗体と競合抗体との間の存在比を反映するために、抗原との反応が生物試料への競合抗体の添加後に生じることが好ましい。
【0033】
競合抗体は、種々の量で添加されるものとする。競合抗体量が多量である場合、抗原へ結合する自己抗体の比は小さい。逆に、競合抗体の量が少量である場合、抗原へ結合する自己抗体の比は大きい。競合抗体は、先のような現象の決定を許容する量だけ添加されるべきである。具体的な添加量は、抗原に対する競合抗体及び自己抗体の親和性、生物試料中に含有される自己抗体の概算量、検出抗体を介した自己抗体に由来するシグナルを測定する方法などに従って適宜設定されるものとする。例えば、競合抗原の量は、1pg/ml~1mg/ml、好ましくは10pg/ml~1μg/mlであってもよい。
【0034】
好ましくは、競合抗原は、水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液などのような適切な水溶液中で溶液または懸濁液によって取得された競合抗原溶液の形態で生物試料へ添加される。緩衝溶液は、当技術分野で既知の何らかの緩衝溶液であってもよい。その例として、リン酸緩衝溶液、クエン酸緩衝溶液、イミダゾール緩衝溶液、TRIS緩衝溶液、HEPES緩衝溶液、MOPS緩衝溶液があるがこれらに限定されない。
【0035】
ステップ(i)の競合抗体との反応ステップにおける操作手順、反応条件などは、標準的なイムノアッセイと類似して実施することができる。固体支持体上へ抗原を固定する場合、反応後に、抗原と未反応の自己抗体及び競合抗体は、水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液などのような適切な水溶液を用いた洗浄によって除去されることが好ましい。
【0036】
(ii)検出抗体と反応するステップ
本開示の自己抗体検出方法において、ステップ(ii)において、抗原へ結合した自己抗体は、自己抗体を認識してこれに結合するが競合抗体を認識しない検出抗体と反応する。これに伴い、抗原へ結合した自己抗体のみが、検出抗体へ結合するのに対し、この検出抗体は、抗原へ結合した競合抗体へ、または抗原とは未反応の自己抗体もしくは競合抗体へ結合しない。
【0037】
本開示の自己抗体の定量方法における使用のための検出抗体は、検査物質としての自己抗体を認識してこれに結合する限り、限定されないいかなる物質であってもよい。さらに、検出抗体が競合抗体を認識したり該競合抗体へ結合したりせず、競合抗体に対する交差反応性を有さないことが必要とされる。検出抗体自体が互いに認識せずまたは互いに結合しないことはさらに好ましい。
【0038】
検出抗体は、上述の特徴を有する限り、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかであってもよい。また、その起源はいずれも特に限定されない。それゆえ、検出抗体は、まさに競合抗体のように、市販の生成物であってもよい。市販の生成物を採用するとき、検出抗体は、検査物質の自己抗体のアイソタイプ(IgG、IgM、IgA、IgD、IgE)またはアイソタイプのサブクラスに従って選択することができる。アイソタイプは、抗体の定常領域の違いによる抗原性の違いに基づいて分類される。ヒトのような動物に由来する生物試料中に含有される自己抗体のアイソタイプの多くは、IgGである。したがって、検出抗体として、IgGに対する抗体は好ましくは選択される。例えば、ヒトIgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のツアーサブタイプへ分類することができるのに対し、マウス抗体は、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3へと分類することができる。
【0039】
検出抗体は、競合抗体と同様に調製することができる。検査物質としての自己抗体または免疫原としての自己抗体の構成要素を用いた、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、またはこれらに類するもののような動物を免疫化することによって取得されるポリクローナル抗体は、好ましくは使用することができる。さらに、動物は、例えば、自己抗体の構成要素の単一のエピトープを含有する合成ペプチドを用いて免疫化することができ、ハイブリドーマ細胞は、このエピトープを認識する抗体を産生する抗体産生細胞と骨髄腫細胞との細胞融合を通じて取得することができる。次に、このようなハイブリドーマ細胞を培養して、モノクローナル抗体を産生し、該モノクローナル抗体も、好ましくは使用することができる。ちなみに、自己抗体の構成要素は、検査物質の自己抗体の定常領域、特に免疫原としてのFeフラグメントを用いて好ましくは使用することができる。検出抗体が自己抗体の定常領域を認識する場合、競合抗体が異なるアイソタイプまたはサブタイプを有することは好ましい。免疫化に関しては、適切なアジュバントは、必要なときに使用することができる。
【0040】
その上、検出抗体は、フラグメントが、パパイン、ペプシンなどのようなタンパク質分解性酵素で全抗体を処理することによって取得することができる抗原結合能を有するF(ab´)2 フラグメント、Fabフラグメント、Fvフラグメントのような抗体フラグメントでもあってもよい。検出抗体は、遺伝子組換え、化学的合成技術のような既知の遺伝子工学技術によって調製されたものであってもよい。遺伝子組換えによる競合抗体調製の場合、検査物質がヒト自己抗体であれば、検出抗体は、H鎖及びL鎖相補性決定領域以外の一次構造が、定常領域を含むヒト抗体に対応する一次構造によって置換されたヒト抗体または完全ヒト化抗体の対応する一次構造によって置換された、ヒト対応ドメインまたはヒト化抗体によって置換されたH鎖及びL鎖可変領域以外のドメインを有するキメラ抗体であってもよい。
【0041】
添加されることになっている検出抗体の量は、生物試料中に含有される自己抗体の概算量、検出抗体を介して自己抗体由来のシグナルを測定する方法などに従って適宜設定される。好ましくは、生物試料中に含有される自己抗体の概算量で十分な反応が可能な量である。例えば、検出抗原の量は、0.01~100μg/ml、好ましくは0.1~10μg/mlの濃度であってもよい。
【0042】
好ましくは、検出抗原は、水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液などのような適切な水溶液中で、溶液または懸濁液によって取得された検出抗原溶液の形態で生物試料へ、生物試料と抗原に対する競合抗体との競合反応後の反応溶液へ添加される。緩衝溶液は、当技術分野において既知の何らかの緩衝溶液であってもよい。その例として、リン酸緩衝溶液、クエン酸緩衝溶液、イミダゾール緩衝溶液、TRIS緩衝溶液、HEPES緩衝溶液、MOPS緩衝溶液があるが、これらに限定されない。
【0043】
ステップ(ii)の検出抗体を用いた反応ステップにおける操作手順、反応条件などは、標準的なイムノアッセイに類似して実施することができる。抗原が固体支持体上へ固定される場合、反応後、抗原と未反応の検出抗体は、水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液などのような適切な水溶液を用いた洗浄によって除去されるべきであることが好ましい。
【0044】
検出抗体は、適切な標識材料で直接的に及び間接的に標識されるこのような標識材料は既知であるので、当業者は、適宜使用するためのものを選択することができる。安定性及び官能性が維持されている限り、いかなる既知のこのような材料も採用することができる。標識材料の例として、磁気物質、放射性物質、酵素、蛍光色素、化学発光材料などを引用することができる。また、その1つまたは複数の種類を使用することができる。それゆえ、本開示の自己抗体の定量方法は、磁気イムノアッセイ、放射性イムノアッセイ(RIA、IRMA)、酵素イムノアッセイ(EIA、ELISA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)、及び蛍光酵素イムノアッセイ(FLEIA)などを含む何らかの既知の抗原抗体反応測定法を用いて実施することができる。
【0045】
本明細書に使用する磁気材料(磁性体)は、磁界において磁化されている磁性体を含む。磁性体は、強磁性体、反磁性体、常磁性体、超常磁性体、フェリ磁性体などに分類される。いかなるこのような物質も、測定において使用される検査物質としての自己抗体、抗原または抗体、及びその他の試薬の機能の特異的親和性を減じない限り、採用することができる。その例として、鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウムのような強磁性金属、鉄ニッケル、鉄コバルトなどのような強磁性金属の合金、強磁性金属、磁鉄鉱(Fe34 )、マグヘマイト(γ-Fe23 )またはその中間体としての種々のフェライトを含有する合金を引用することができる。特に、磁界への化学的安定性及び反応性の点からフェライトを使用することが好ましい。また、コバルト、マンガン、亜鉛などのような金属とともに添加されたフェライトの混合物は有利に使用することができる。
【0046】
磁性体の形状及び大きさは、特に限定されない。何らかの適切なかつ有利な形状及び大きさを選択することができる。形状の例として、球体、楕円体、粒子、立方体、カラム、棒、プレート、針、ファイバー、ランプなどの形状を引用することができる。好ましくは、該磁性体は、均一な形状へと形成される。さらに、磁性体は、ナノ粒子、ミクロ粒子のようなビーズの形態で調製されることができる。
【0047】
磁気粒子は、このような磁性体のみから構成されることができるか、または磁性体がその粒子もしくは表面の全体にわたって分散しているように構成されることができるか、または粒子内に組み込まれることができる。例えば、均一に分散している磁性体を用いて調製されたポリマーは、粒子の形態で調製されてもよい。または、ポリマー中に均一に分散した磁性材料を用いて調製されたコアは、ポリマーのコーティングを用いて調製されることができる。ポリマーは、親水性ポリマーもしくは疎水性ポリマーであってもよく、測定様式に従って適宜選択することができる。具体的には、ポリスチレン、シリカゲル、ゼラチン、ポリアクリルアミドなどのような高分子ポリマーを有利に使用することができる。さらに、ポリマーは、アミノ基、カルボキシル基、トシル基、ヒドロキシル基のような官能基を粒子表面へ組み込んでその官能性を発現するよう構成することができる。ちなみに、好ましくは、調製は、粒子当たりの磁化が均一であるよう果たされるべきである。
【0048】
適切な放射性物質の例としては、32P、35S、 131I、45Ca、 3Hなどを引用することができる。酵素標識の例としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼを引用することができる。蛍光色素の例としては、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、テトラメチルローダミン(TAMRA)、テトラメチルローダミンイソチオシアナート(TRICA)、テキサスレッド、シアニン3(Cy3)、及びシアニン5(Cy5)のようなシアニン色素、Qdot(登録商標)のような量子ドットを引用することができる。化学発光物質の例としては、ルミナール(luminal)などを引用することができる。さらに、ジゴキシゲニンまたはビオチンも有利に使用することができる。ビオチンを採用する場合、反応は、例えば、ビオチンで標識した検出抗体のためのHRPを用いて標識したストレプトアビジンを用いて果たすことができる。これにおいて、検出抗体上の複数のビオチン標識に影響することによって、シグナルは、感度改善が可能となるよう増幅させることができる。標識材料は、先に限定されず、いかなる既知の物質も有利に使用することができる。
【0049】
検出抗体の標識方法は、検出抗体及び標識材料の安定性及び機能を維持することができる限り、いかなる標識方法であってもよく、生物試料中に含有される自己抗体、競合抗体及び抗原の反応安定性を維持することもできる。例えば、磁気粒子を用いた検出抗体の標識の例として、物理的吸着法及び化学的結合法を引用することができる。物理的吸着法は、水、生理学的塩類溶液、種々の種類の緩衝溶液のような適切な水溶液中に磁気粒子及び検出抗体を入れることによって実施することができる。化学的結合技術のいくつかの例として、ジアゾ法、酸アジド法、イソシアナート法、シアノゲンブロミド法による共有結合の形成を経た標識方法を引用することができる。さらに、グルタルアルデヒドなどの2つ以上の官能基を有する多官能性試薬のような架橋剤を用いた固定法を採用することもできる。また、先に説明したように、官能性を発現するよう磁気粒子表面へ導入されたアミノ基、カルボキシル基、トシル基、ヒドロキシル基などのような官能基は、検出抗体上の官能基と化学的に結合することができる。さらに、磁気粒子及び検出抗体は、適切な差長を有する反応性側鎖(スペーサー)、またはアルブミン、プロテインAなどのようなタンパク質を介して、互いに化学的に結合することができる。その上、高い親和性及び特異性を有するビオチン-アビジン(ストレプトアビジン)結合または抗原抗体反応なども採用することができる。
【0050】
標識材料を用いた検出抗体の標識は、検出抗体と検査物質としての自己抗体との免疫複合体の形成の前または後のいずれかで果たすことができる。それゆえ、検査物質としての自己抗体が、標識材料を用いて事前に標識された検出抗体を用いて認識及び捕捉されるように変更することは可能である。さらに、検出抗体が自己抗体を認識及び捕捉した後に、この検出抗体が標識材料で標識されるように変更することも可能である。
【0051】
(iii)検出抗体に由来するシグナルを測定するステップ
本開示の自己抗体の定量方法において、ステップ(iii)は、自己抗体へ結合した検出抗体に由来するシグナルを測定するために提供される。検出抗体に由来するこのようなシグナルは、生物試料中に含有される自己抗体のうちで抗原に対して十分に取り組んだ自己抗体に由来している。それゆえ、検出抗体に由来するシグナルは、抗原に結合した自己抗体の比と直接比例している。
【0052】
検出抗体に由来するシグナルの強度の測定は、何らかの従来法によって果たすことができる。標識を付加する場合、強度は、使用される標識に従った既知の標識検出法によって測定することができる。例えば、標識が磁気粒子である場合、既知の磁気検出法によって、好ましくは磁気センサによって検出することができる。磁気センサは、センサ表面上の磁気粒子から磁気シグナルを検出することができる限り、特に限定されない。例えば、Hall要素、磁性(磁気インピーダンス:MI)要素、磁気抵抗(磁気抵抗:MR)要素のような磁気抵抗要素、巨大磁気抵抗要素、トンネル磁気抵抗(TMR)要素、超伝導性量子干渉素子(SQUID)などを採用することができる。測定技術は、磁化率測定、磁気緩和測定技術などのような従来技術のうちのいずれか1つであってもよい。S.X Wang et al.の「Biosensors and Bioelectronics,201 o,Vol.25,No.9,p.2051-2057」などに開示されているもののような(磁気抵抗要素である)GMRセンサを採用することが好ましい。例えば、磁気粒子の磁化が、磁界の変化と関係して変化する磁気センサの抵抗値を利用して検出されるように変更することは可能である。外部磁界の存在により、センサ上の磁気粒子は磁化され、磁化された磁気粒子は磁気センサの抵抗の変化を誘導する。また、このような磁気センサ抵抗を電気信号へ変換し、この信号を検出することによって、磁気粒子の存在を検出することができる。ちなみに、磁気センサ自体は、チップとして形成することができる。
【0053】
磁気センサを検出抗体に由来するシグナルの強度の測定において使用する場合、センサ要素の形状は特に限定されないが、例えば、平板、球体、立方体などのような形状であってもよい。例えば、平らに層状化されたセンサ要素を形成する材料を有する平板様形状として形成することができる。センサ要素を構成する材料は、以下に限定されない。いかなる方法においても限定されることを望むものではないが、基材を形成し、その上に、PtMn、NiMn、IrMn、PdMn、PdPtMn、RhMnなどをその主たる成分として含有する反強磁性層、Ta、Ru、Cr、Rh、Ir、Au、Ag、Cu、Zr、Pt、Mo、Wなどをその主たる成分として含有する非磁性層、NiFe、Co、CoFe、またはこれらに類するものを主たる成分として含有する強磁性層、シード層、絶縁層などを積み重ねて置くことができるケイ素またはシリカ、酸化チタンのような無機化合物、アクリルアミド、ポリスチレン、ポリカーボネートのような合成ポリマーを使用することができ、このような材料は、電気信号の検出方法に従って適切に選択することができる。
【0054】
磁気センサは好ましくは、複数の試料を一度に測定することができるよう、複数のセンサ要素を備えている。各磁気センサ要素は、チップのような基材の上の所定の位置に正確に配備され、磁気信号を独立して検出することができる。この方法で、センサは、異なる既知の量の競合抗体を添加した、本開示の自己抗体の定量方法に必要とされる生物試料を含む反応溶液の同時測定、及び複数の自己抗体の同時測定のための多重同時分析において使用可能であるように構成されることになる。
【0055】
(iv)自己抗体量を算出するステップ
本開示の自己抗体の定量方法において、ステップ(iv)は、競合抗体の非存在下で自己抗体へ結合した検出抗体に由来するシグナルの50%低減を提供する競合抗体の量を指標として利用することによって、生物試料中に含有される自己抗体の量を算出するために提供される。競合抗体が、このような既知の量の競合抗体との比較から、検査物質としての自己抗体を含有する生物試料へ既知の量だけ添加されるので、生物試料中に含有される自己抗体の量が算出される。
【0056】
生物試料中に含有される競合抗体の量の増加/低下に従って、検出抗体に由来するシグナルの強度は変わる。生物試料へ添加される競合抗体の量が多量であれば、競合抗体及び自己抗体は抗原への結合において互いに競合するので、抗原へ結合する競合抗体の量は増加することになるのに対し、抗原へ結合する自己抗体の量は低下することになる。検出抗体は競合抗体を認識しないが、自己抗体のみを認識するので、抗原へ結合した自己抗体の比の低下とともに、検出抗体に由来するシグナルの強度は低減することになる。逆に、生物試料へ添加される競合抗体の量が少量であれば、抗原へ結合する競合抗体の量は低下することになるのに対し、抗原へ結合した自己抗体の量は増加することになり、それにより検出抗体に由来するシグナルの強度は増大することになる。したがって、競合抗体量の増加と関係して、測定されるシグナル強度自体は低減することになる。逆に、競合抗体量の低下と関係して、測定されるシグナル強度は増強することになる。
【0057】
自己抗体量を算出するステップにおいて、競合抗体が抗原と自己抗体との結合を競合的に阻害するとき、効果の50%低減を呈する競合抗体量が取得される(このことは以後、「IC50」と呼ぶことがある)。好ましくは、生物試料へ添加された競合抗体の量と測定されたシグナル強度との間の関連をプロットすることから構成される較正曲線が作成され、このような較正曲線に基づいて、IC50を取得することができる。好ましくは、IC50は、100%の競合抗体の非存在下で測定されるシグナル強度を用いて算出される。
【0058】
IC50値は、検査物質としての自己抗体及び競合抗体の抗原に対する親和性が互いに等しいと仮定して、抗原へ結合した自己抗体の量とみなすことができる。生物試料中に含有される自己抗体の50%が抗原に結合しているので、生物試料が全体として自己抗体の2倍量を含有していたと理解される。これに伴い、生物試料中に含有される自己抗体の量は、絶対値として算出することができる。
【0059】
測定において、希釈またはそれに類するものが生物試料に果たされた場合、生物試料中に含有される自己抗体の量は、希釈度の乗数による補正を用いて取得することができる。さらに、生物試料へ競合抗体溶液を添加して調製された反応溶液を、競合抗体を用いた反応のステップにおいて使用する場合、生物試料中に含有される自己抗体の量は、反応溶液調製物の混合度の乗数による補正を用いて取得することができる。このことにおいて、反応溶液の混合度は、次のように取得することができる。
反応溶液の混合度=(反応溶液量(生物試料+競合抗体溶液))/(生物試料量)
【0060】
検査物質としての自己抗体及び競合抗体の抗原に対する親和性が互いに等しくないとき、生物試料中に含有される自己抗体の量は、親和性の程度の乗数による補正を用いて取得することができる。親和性度は、次のように取得することができる。
親和性度=(自己抗体の親和性(Kd 値))/(競合抗体の親和性(Kd 値))
【0061】
(固相技術を用いた自己抗体の定量方法)
本開示の自己抗体の定量方法において、固相技術は特に好ましく使用することができる。次に、このような固相技術を用いた自己抗体の定量方法の実施形態を、図1及び図2に関して詳細に説明する。
【0062】
図1は、検査物質3として、生物試料中に含有されるアンギオポエチン様タンパク質3型(ANGPTL3)についてのヒト自己抗体を採用することを示す。固相支持体1として、磁気センサ要素を採用し、この上に検査物質3としての自己抗体によって特異的に認識及び結合される抗原2としてのANGPTL3を事前に固定しておく。固体支持体1は、その表面上にタンパク質の安定した固定のために、その表面を改質することができる。生物試料へ、既知の量(濃度)の競合抗体4を添加及び混合し、この混合物を反応溶液として使用する。競合抗体4として、ヒツジ由来抗ヒトANGPTL3を採用し、これを種々の量で反応溶液に添加する。
【0063】
次に、反応溶液を、抗原2が固定された固体支持体1の反応表面と反応させる。このことにおいて、生物試料中の検査物質3としての自己抗体及び競合抗体4は、抗原2に競合的に結合する。反応後、固体支持体1の反応表面を水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液などのような適切な水溶液で洗浄し、それにより、抗原2と未反応の検査物質3としての自己抗体及び競合抗体4を除去することができる。
【0064】
次に、固体支持体1の反応表面を、検査物質3としての自己抗体を認識するが競合抗体4を認識しない検出抗体5と反応させる。検出抗体5は、抗原2へ結合した検査物質3としての自己抗体のみを認識及び結合する。ここで、検出抗体5として、ビオチン5b標識抗ヒトIgG抗体5a(ウサギ由来抗ヒトIgG抗体、ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体、またはヤギ由来抗ヒトIgG抗体)を使用する。反応後、固体支持体1の反応表面を、水、生理学的塩類溶液、種々の緩衝溶液などのような適切な水溶液で洗浄し、それにより、検査物質3と未反応の検出抗体5を除去する。
【0065】
その後、検出抗体5を捕捉する標識材料6を固体支持体1の反応表面へ添加し、それにより検出抗体5を標識し、標識シグナルが測定される。これに伴い、抗原2へ結合した検査物質3を、検出抗体5を介して標識し、抗原2へ結合したこの検査物質3に由来するシグナルを検出することができ、このシグナルの強度は、抗原2へ結合した検査物質3の量に直接比例している。ここで、標識材料6として抗ビオチン抗体6aが採用され、固定した磁気ビーズ6bが採用され、この磁気ビーズからの磁気シグナルは磁気センサによって測定される。
【0066】
測定されたシグナル強度と添加された競合抗体4の量との間の関連から取得されたIC50値を指標として用いて、検査物質3としての自己抗体の量(濃度)を算出する。この抗体量の算出は、先に説明したとおり実施することができる。図2に示すように、生物試料へ添加された競合抗体4の量と測定されたシグナル強度との間の関連をプロットする較正曲線を作成し、このような較正曲線に基づいて、生物試料中に含有される自己抗体の量を容易に定量することができる。
【0067】
固相支持体1へ抗原を結合することによって、抗原2へ結合した自己抗体と競合抗体4との間の、及び抗原2と未反応の自己抗体と競合抗体4との間の厳密な分離が可能となり、それにより、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量の信頼性がさらに高まる。また、このような分離は、先に説明した固体支持体の洗浄のような単純な操作によって実施することもできる。
【0068】
本開示を用いると、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量を容易に定量する方法を提供することが可能である。従来法を用いると、生物試料中に含有される自己抗体の量の測定における手早さ及び定量のうちのいずれか1つに強調が置かれることとなろうし、先のうちのいずれも有する測定系を構成することは困難であった。自己抗体、特にヒト自己抗体の高純度の標準物質を購入したり取得したりすることは困難であったためである。それゆえ、定量に強調を置く場合、例えば、標準物質として精製済み自己抗体を使用して較正曲線を調製する必要性が生じる。しかしながら、自己抗体の精製は、複雑かつ厄介な操作及び多大なるコストを必要とする。特に、このような方法は、多くの異なる種類の標準物質を必要とする多重同時分析に適していない。その一方で、手早さに強調を置く場合、例えば、較正曲線は、自己抗体量測定の目的のために、容易に入手可能な患者材料を標準物質として用いて作成されたであろうし、またはこのような較正曲線は作成されず、検査物質としての自己抗体の測定は、例えば、実際の所定の値から盲検値を減算することによって取得された値に基づいて行われるであろう。しかし、このような方法は、単に部分定量方法であった。さらに、従来の抗体測定法のうちの1つとしての競合技術において、生物試料中に含有される抗体の存在及び量の測定は、適切な基質上に固定された抗原に対する、標識済み競合抗体による結合の、生物試料中に含有される抗体による阻害の比に基づいて行われる。しかしながら、従来法において、生物試料中に含有される抗体の量は、既知の量の非標識抗体を変化させることによって生じた較正曲線との比較によって測定される。したがって、自己抗体の高純度の標準物質を購入または取得することが困難であるので、このような方法は、先に説明した欠点を解決していない。
【0069】
本開示の自己抗体の定量方法は、患者材料の生物試料を標準物質として使用する点で従来法と同じである。競合抗体を種々の既知の量(濃度)で生物試料へ添加し、それにより抗原に結合することに対する自己抗体と競合抗体との競合を生じさせる。次に、自己抗体に由来するシグナルを、競合抗体へは結合しないが自己抗体にのみ結合する検出抗体を介して測定する。シグナル強度は、添加された競合抗体量の変化に従って変化する。次に、競合抗体の非存在下で自己抗体に由来するシグナルの強度の50%低減を結果としてもたらす競合抗体の量を指標として用いて、生物試料中に含有される自己抗体の量(濃度)を算出する。特に、抗原に対する自己抗体及び競合抗体の親和性が等しいと仮定することが可能であるとき、自己抗体に由来するシグナルの強度の50%低減を結果としてもたらす競合抗体の量は、生物試料中に含有される自己抗体の半量に等しいものとみなすことができる。それゆえ、本開示を用いて、標準物質としての患者材料のような容易に入手可能な生物試料を用いてでさえ、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量を定量することは可能であり、この方法は、いかなる複雑な操作も高価な試薬またはそれに類するものも必要としないので、経済面で優れている。さらに、生物試料中に含有される自己抗体の量を絶対量として測定することができるので、較正曲線濃度は、標準物質として生物試料を用いて決定することができ、そのため、自己抗体の定量のための安価なかつ優れた定量標準物質を提供することもできる。定量及び手早さの両方を有する本開示による自己抗体の定量方法は、近年需要が高まっている自己抗体の多重同時分析に有用であると期待することができる。さらに、従来法を用いると、同じ生物試料について異なるロットの試薬を用いて測定を行った場合、先に説明したような測定値の変動のロット間誤差を生じる傾向があり、このことは、商業規模での実施の場合有意に問題となることになる。その一方で、本開示を用いると、試薬のこのようなロット間誤差が生じるときでさえ、較正曲線濃度を絶対値として決定することができるので、非常に信頼できる結果を安定して取得することができるという利点が得られる。
【実施例
【0070】
次に、本開示による自己抗体の定量方法を詳細に説明する。しかしながら、本開示による自己抗体の定量方法がこれらの実施例に限定されないことは理解される。それゆえ、アンギオポエチン様タンパク質(以後、「ANGPTL3」と呼ぶことがある)を検査物質として、GMRセンサを用いて測定する例ではあるが、本開示による自己抗体の定量方法は、他の自己抗体または他の測定法に対しても同様に適用されることができる。
【0071】
(実施例1)測定のために必要とされるプリント回路板の調製
1.概要
以下の実施例において、生物試料中の自己抗体の量をGMRセンサによって測定した。本実施例において、測定に使用されるGMRセンサの表面を、タンパク質固定のために表面改質に供した。
【0072】
2.手順
8個のGMRセンサを搭載したプリント回路板(PCB)を調製し、これを以下の実施例における自己抗体量の測定において使用した。8個の連続したGMRセンサを一定の空間取りで一列に据え付けた。より詳細には、8個の連続したGMRセンサを数mmまたは数cmピッチの縦方向の整列で互いに平行に配備して、12行×8列のレイアウトで8個の行における個々のウェルに対応することができるようにした。また、GMRセンサの抗原固定部分を突出するような様式で、またはウェルプレートの8個の列における個々のウェルに対応する突起を有し、GMRセンサの抗原固定部分をこれらの突起の先端部分に装着するような様式で、GMRセンサの抗原固定部分をPCB上に据え付けた。
【0073】
GMRセンサ表面上にタンパク質を固定するために、次の処理を果たした。YES(Yield Engineering Corporation)製のプラズマ洗浄素子(G-1 000)を用いて、PCB板の洗浄操作を0.1トール/室温の環境下で300秒間果たした。次に、YES社製真空蒸発素子(1224P)を用いて、PCB板上で、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Sigma,440140)を0.5トール/150℃の環境下で60分間蒸着した。その後、正常圧150℃の環境下で、板を正常圧/150℃の環境下でさらに16時間維持した。これらの工程の完了後のPCB板を室温に戻し、使用まで清潔な室内で保管した。
【0074】
(実施例2)GMRセンサ表面上での抗原溶液の固定
1.概要
以下の実施例において、実施例1における表面改質処理後のPCB板上のGMRセンサ上で、検査物質としての自己抗体に対する抗原を固定した。
【0075】
2.手順
実施例1における表面改質処理後のPCB板の1個のセンサ上で、Scienion Corporation製の少量液体適用素子を用いて、ヒトANGPTL3抗原(0.05mg/ml:R&D Systems Corporationにより製造)を滴下した(滴下量:650pl)。滴下後、抗原を固定のために1時間反応させ、非特異的結合を抑制する目的のために、板をブロッキング溶液(1%ブロックエース/4.4%BSA)中に室温で1時間浸漬した。浸漬後、センサを乾燥させ、4℃で一晩さらに維持した。
【0076】
(実施例3)競合抗体及び検出抗体についての探索
1.概要
本実施例において、自己抗体の測定における使用のための競合抗体及び検出抗体についての探索を実施した。ここで、競合抗体とは、同じ抗原上のエピトープへの結合についての検査物質として自己抗体と競合する抗体である。自己抗体は、抗原についての競合における自己抗体及び競合抗体のこのような競合反応の利用を用いて測定される。検出抗体とは、検査物質として自己抗体へ結合する抗体であり、したがって生物試料中に含有される検査物質の存在を検出する。
【0077】
2.手順
競合反応についての前提条件として、競合抗体及び検出抗体が互いに反応しないことが必須である。この理由のために、測定検査を実際に実施する前に、競合抗体及び検出抗体が互いに反応しないこと(これらの間に交差反応性がないこと)を確認した。
【0078】
競合抗体として、3種類の抗体、すなわち、マウス由来抗ヒトANGPTL3抗体(R&D Systems Corporation,MAB3829)、ラット由来抗ヒトANGPTL3抗体(R&D Systems Corporation,MAB38291)、及びヒツジ由来抗ヒトANGPTL3抗体(R&D Systems Corporation,AF3929)を購入し使用した。より詳細には、マウス由来ANGPTL3抗体をモノクローナルマウスIgG2Bクローン#370207から、S.frugiperda昆虫卵巣細胞株Sf21由来組換えヒトANGPTL3(UniProtKB/Swiss-Prot Q9Y6C1:Ser17-Glu460)を免疫原として用いることで取得し、ハイブリドーマ細胞の培養懸濁液からプロテインA及びプロテインGを用いて精製した。ラット由来ANGPTL3抗体をマウス由来ANGPTL3抗体と同様に、マウスIgG2Aクローン#370207から取得したが、例外は、I1e19-Glu460を免疫原として用いたことであった。ヒツジ由来抗ヒトANGPTL3抗体は、マウス由来ANGPTL3抗体において使用したものと同じ免疫原を用いることでヒツジを免疫化することによって取得したポリクローナル抗体であった。
【0079】
検出抗体として、4種類の抗体、すなわち、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation,609-4603)、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation,5 609-4612)、ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation,609-6602)、及びヤギ(ツィーゲ)由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(VECTOR Corporation,BA-3000)を購入し使用した。より詳細には、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体(ROCKLAND Corporation,609-4603)は、ヒトIgG F(c)フラグメントを用いたウサギの繰り返し免疫化によって取得したポリクローナル抗体であった。ウサギ由来抗ヒトIgG抗体(ROCKLAND Corporation,609-4612)は、ヒトIgGガンマ重鎖を免疫原として使用するポリクローナル抗体であった。ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体は、ヒトIgG全分子を免疫原として使用するヒトIgG(H+L)についてのポリクローナル抗体であり、ヒトIgG結合アガロースビーズを用いて、免疫化された動物から単離された単一特異性抗血清のイムノアフィニティクロマトグラフィーによって調製された。ヤギ由来抗ヒトIgG抗体も、ヒトIgG(H+L)についてのポリクローナル抗体であった。
【0080】
具体的な手順を次に説明する。競合抗体を、希釈溶液(1%BSA/PBS)を用いることで2μg/溶液mlとして調製し、検出抗体を、希釈溶液(1%BSA/PBS)を用いることで0.7μg/ml溶液として調製した。また、検出のための抗ビオチン抗体固定磁気ビーズ(Miltenyi Corporation,150-106-0877)を希釈溶液(1%BSA/PBS)で20倍希釈し、このようにして、その個々の溶液を調製した。
【0081】
以下の溶液をそれぞれ、12行×8列の96ウェルプレートへ0.5ml添加した。次に、このウェルプレートを本発明者によって自己開発された自動反応素子へ据え付け、実施例1及び実施例2において調製したPCB板も自動反応素子へ据え付けた。次に、抗原抗体反応を以下に特定する撹拌速度及び反応時間の下で果たした。ちなみに、反応は室温で実施した。PCT板上に据え付けられたGMRセンサが96ウェルプレートの第1の行から第12の行まで移動し、GMRセンサの抗原固定部分が、個々の行のウェルへ入れられた溶液中に相次いで浸漬するように、自動反応素子を駆動した。自動反応素子を本実施例において使用したが、操作は、手動で果たされてもよい。
【0082】
個々の行のウェルへ適用される溶液、撹拌速度及び反応時間を次のとおり要約する。
第1及び第2の行:洗浄溶液(PBST)、撹拌速度1Hz、反応時間1分
第3の行:空
第4の行:競合抗体溶液、撹拌速度1Hz、反応時間90分
第5、第6、第7の行:洗浄溶液(PBST)、撹拌速度1Hz、反応時間1分
第8の行:空
第9の行:検出抗体、撹拌速度1Hz、反応時間60分
第10、第11、第12の行:洗浄溶液(PBST)、撹拌速度1Hz、反応時間1分
【0083】
先の反応後、PCB板を自動反応素子から取り外し、次に本発明者によって自己開発されたGMR測定素子へ据え付けた。次の溶液を2行×8列のウェルプレートへ0.4mlずつ添加した。次に、このウェルプレートを本発明者によって自己開発された自動反応素子へ据え付けた。次に、反応及び測定を、以下に特定する撹拌速度及び反応時間の下で果たした。ちなみに、反応及び測定は室温で実施した。PCT板上に据え付けられたGMRセンサが2行×8列のウェルプレートの第1の行から第2の行まで移動し、GMRセンサの抗原固定部分が、個々の行のウェルへ入れられた溶液中に相次いで浸漬するように、自動反応素子を駆動した。第2の行でのセンサ表面への磁気ビーズの結合から結果として生じる抵抗値の変化量を測定することによって、この量をシグナルとして検出した。
【0084】
個々の行のウェルへ適用される溶液、撹拌速度及び反応時間を次のとおり要約する。
第1の行:洗浄溶液(PBST)、撹拌速度1Hz、反応時間3分
第2の行:抗ビオチン抗体固定磁気ビーズ、撹拌速度1Hz、反応時間20分
【0085】
3.結果
本結果を図3及び表1に示す。これらの結果から、競合抗体としてのヒツジ由来抗ヒトANGPTL3抗体(R&D System Corporation,AF3829)と検出抗原としてのウサギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation,609-4612)との組み合わせ、及び、競合抗体としてのヒツジ由来抗ヒトANGPTL3抗体(R&D System Corporation,609-6602)と検出抗原としてのヤギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(VECTOR Corporation,BA-3000)との組み合わせはそれぞれ、交差反応性がなかった。
【0086】
【表1】
【0087】
(実施例4)生物試料中の自己抗体量の測定
1.概要
交差反応性がない競合抗体と検出抗体との組み合わせが実施例3において確認されたので、本実施例においては、患者材料中の自己抗体量の測定を実際に、これらの組み合わせを用いて実施した。
【0088】
2.手順
患者材料として、患者から取得した血漿を使用し、このような患者材料中に含有される抗ヒトANGPL3抗体量の測定を実施した。より詳細には、患者材料を、希釈溶液(1%BSA/PBS)を用いて4倍希釈した。競合抗体として、ヒツジ由来抗ヒトANGPL3抗体(R&D Systems Corporation AF3829)を、希釈溶液(1%BSA/PBS)を用いて6.4ng/mlから100μg/mlの濃度まで調製した。次に、先のとおり調製した競合抗体55μlを495μlの患者材料と混合して反応溶液を形成し、0.64ng/mlから10μg/mlまでの終濃度を有する競合抗体の試料群を提供した。ちなみに、競合抗体の代わりに希釈溶液(1%BSA/PBS)を添加した試料を、競合抗体非添加試料として使用した(競合抗体濃度=0個の試料)。検出抗体として、3種類の抗体、すなわち、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation,609-4612)、ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation.609-6602)及びヤギ由来抗ヒトIgG抗体(VECTOR Corporation,BA-3000)を、希釈溶液(1%BSA/PBS)を用いて、0.7μg/mlの濃度へ調製した。
【0089】
このように調製した溶液を、実施例3のように、12行×8列の96ウェルプレートへそれぞれ0.5mlずつ添加し、次に、反応を自動反応素子で実施し、分析をGMR測定素子によって果たした。
【0090】
(結果)
本結果を図4図6に示す。本結果は、使用した検出抗体がどれであれ、競合抗体の濃度の増大とともにシグナル低減が観察されることを示した。近似式を検査結果から取得し、50%阻害濃度(IC50)を取得した。近似式として、4パラメータ算定曲線を以下の数式から取得し、較正曲線を取得した。
【0091】
【数1】
【0092】
上記式において、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体の場合、a=12.1、b=-1.15、c=134.0、d=1056を使用し、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体の場合、a=246.81、b=-1.408、c=105.6、d=1548.6を使用し、ヤギ由来抗ヒトIgG抗体の場合、a=388、b=-1.68、c=90.1、d=1803.1を使用し、置換した。
【0093】
IC50値として、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体を競合抗体として使用するとIC50=132.2ng/mlを取得し(図4を参照されたい)、ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(ROCKLAND Corporation,609-6602)を競合抗体として使用するとIC50=137.0ng/mlを取得し(図5を参照されたい)、ヤギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識(VECTOR Corporation,BA-3000)を競合抗体として使用するとIC50=122.8ng/mlを取得した(図6を参照されたい)。
【0094】
先の取得されたIC50値に基づいて、抗体濃度を次式から算出した。
抗体濃度=IC50×2×反応溶液調製倍率×希釈倍率
【0095】
例として、ウサギ由来抗ヒトIgG抗体(ROCKLAND Corporation,609-4612)を用いる場合を示すことにする。取得したIC50は132.3ng/mlであり、50%~100%の較正のために、値に2を乗じた。反応溶液倍率に関する限りでは、55μlの競合抗体溶液を生物試料としての495μlの患者材料へ添加することによって反応溶液を調製したので、(495+55)/495の倍数が影響される。また、希釈倍率が4であるので4の乗数がもたらされるとともに、生物試料中に含有される自己抗体の濃度を算出することができる。つまり、抗体濃度=132.2×2×550/495×4であるので、1175.1ng/mとして算出することができる。
【0096】
同様に、ヒツジ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識及びヤギ由来抗ヒトIgG抗体/ビオチン標識を用いるときの結果を使用することによって自己抗体濃度を算出すると、濃度はそれぞれ、1217.4ng/ml及び1091.6ng/mlと算出された。したがって、どの競合抗体を用いても、実質的に同じ自己抗体濃度を取得することができた。したがって、本開示の自己抗体の定量方法が顕著な信頼性及び再現性を有することは理解される。
【0097】
このように、本開示による自己抗体の定量方法を用いて、検査物質として生物試料中に含有される自己抗体の測定において、自己抗体によって特異的に認識され結合される抗原への結合について自己抗体と競合する抗体との競合的反応の利用を通じて、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量(濃度)を定量することができる。競合抗体の種々の既知の量(濃度)だけ生物試料へ添加することに伴い、競合抗体へは結合しないが自己抗体へは結合する標識性検出抗体を介して、抗原へ結合した自己抗体に由来する標識性シグナル強度が測定される。このことにおいて、競合抗体は検出されないので、競合抗体量の増加に伴い測定されるシグナル強度は低下する。したがって、本発明者らは、競合抗体によるシグナル強度の50%を阻害する競合抗体の量に基づいて、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量を容易に測定することができる。
【0098】
それゆえ、本開示によると、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量の容易な測定が可能となる、自己抗体を定量する方法を提供することができる。従来の方法を用いると、生物試料中に含有される自己抗体の量の測定における手早さ及び定量のうちのいずれか1つに強調が置かれたことになり、先のうちのいずれも有する測定系を構成することは困難であった。その一方で、本開示によると、患者の材料のような容易に入手可能な生物試料を標準物質として使用するが、生物試料中に含有される自己抗体の絶対量を定量することができ、この方法は、いかなる複雑な操作も高価な試薬もこれらに類するものも必要としないので、経済面で優れている。また、生物試料中の自己抗体量は絶対量として測定することができるので、較正曲線濃度は生物試料を標準物質として使用することで画定することができる。先に説明したような定量能及び手早さの両方を有する本開示の自己抗体の定量方法は、複雑な同時分析において有用であることが立証されると期待することができる。さらに、試薬のロット間の差が存在するときでさえ、較正曲線濃度が絶対量として形成されることができるので、非常に信頼できる結果を安定して取得することができる。
【0099】
それゆえ、本開示の自己抗体の定量方法は、自己抗体の定量を必要とする種々の分野において、特に、診断のような医学的処置、薬物開発及び生物科学などのような産業分野において使用することができる。例えば、この方法は、自己抗体の発現を特徴とする自己免疫疾患または癌のような特定の疾患の診断における自己抗体の定量において、及び自己抗体の定量の目的のための較正曲線の作成のための標準物質の測定において使用することができる。
【0100】
上述の実施形態において、次の取り決めを企図することができる。
【0101】
例えば、先に説明した実施形態において、抗原は固体支持体上へ固定される。
【0102】
本開示によると、抗体を固体支持体へ結合させることによって、抗原へ結合した自己抗体と競合抗体との間の、及び抗原と反応していない自己抗体と競合抗体との間の厳密な分離が可能となる。したがって、自己抗体量の測定値の信頼性はさらに高まる。また、このような分離は、固体支持体の洗浄のような単純な操作によって実施されることもできるので、手早さをさらに高めることができる。
【0103】
例えば、先に説明した実施形態において、検出抗体に由来するシグナルは、磁気シグナルである。
【0104】
本開示に伴い、磁気シグナルは、例えば、磁気センサまたはこれに類するものによって高感度で検出されることができ、それによりさらにより信頼できる測定結果が生物試料中に含有される自己抗体の定量において安定して取得されることができる。
【0105】
本発明の原理、好ましい実施形態及び作動様式は、上述の明細書において説明されてきた。しかしながら、保護されるよう企図されている本発明は、先に説明した特定の実施形態に限定されるものとして解釈されない。さらに、本明細書に説明する実施形態は、制限するものとしてよりもむしろ説明するものとしてみなされる。変化及び変更は、本発明の趣旨から逸脱することなく、他者によって行ってもよく、採用される等価物もまたしかりである。したがって、特許請求の範囲において画定されるような本発明の趣旨及び範囲内に収まるこのような変化、変更及び等価物はすべて、特許請求の範囲によって包含されるべきであることは明白に企図されている。
【符号の説明】
【0106】
1 固体支持体
2 抗原
3 検査物質(自己抗体)
4 競合抗体
5 検出抗体
5a 検出抗体分子
5b ビオチン
6 標識材料
6a 抗ビオチン抗体分子
6b 磁気ビーズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6