(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221005BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20221005BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20221005BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2020536266
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 KR2018005623
(87)【国際公開番号】W WO2019132129
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0179918
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン‐スゥ
(72)【発明者】
【氏名】シン,スゥ‐ヨン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/030512(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/140509(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/12
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~4.0%、Al:0.05~1.5%、Mn:0.05~2.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Sn:0.001~0.1%、Sb:0.001~0.1%、P:0.001~0.1%、As:0.001~0.01%、Se:0.0005~0.01%、Pb:0.0005~0.01%、Bi:0.0005~0.01%および残部はFeおよび不可避不純物からなり、
下記式2および式3を満足し、
最終焼鈍板から切り出した試片の全体厚さが含まれる複数の圧延垂直方向断面(TD面)をEBSDで測定し、計算して得た鋼板内に含まれている各結晶粒のテイラー因子(Taylor Factor、M)が
下記式1で表され、
前記テイラー因子の値を平均した平均テイラー因子値が2.75以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
(式1中、σは巨視的応力、τ
CRSSは臨界分解せん断応力(Critical Resolved Shear Stress)を意味する。)
[式2]
3×([C]+[N])≦([Sn]+[Sb]+[P]+[As]+[Se]+[Pb]+[Bi])≦15×([C]+[N])
[式3]
([Sn]+[Sb])≧[P]≧([As]+[Se])≧([Pb]+[Bi])
(但し、式2および式3中、[C]、[N]、[Sn]、[Sb]、[P]、[As]、[Se]、[Pb]および[Bi]はそれぞれC、N、Sn、Sb、P、As、Se、PbおよびBiの含量(重量%)を示す。)
【請求項2】
Nb:0.0005~0.01重量%、Ti:0.0005~0.01重量%およびV:0.0005~0.01重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
下記式4を満足することを特徴とする請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
[式4]
([Nb]+[Ti]+[V])≦([C]+[N])
(但し、式4中、[C]、[N]、[Nb]、[Ti]および[V]はそれぞれ、C、N、NbおよびVの含量(重量%)を示す。)
【請求項4】
S:0.005重量%以下、Cu:0.025重量%以下、B:0.002重量%以下、Mg:0.005重量%以下、およびZr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
平均結晶粒粒径が60~170μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
重量%で、Si:2.0~4.0%、Al:0.05~1.5%、Mn:0.05~2.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Sn:0.001~0.1%、Sb:0.001~0.1%、P:0.001~0.1%、As:0.001~0.01%、Se:0.0005~0.01%、Pb:0.0005~0.01%、Bi:0.0005~0.01%および残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを製造する段階、
前記スラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
前記スラブは、下記式2および式3を満足し、
最終焼鈍板から切り出した試片の全体厚さが含まれる複数の圧延垂直方向断面(TD面)をEBSDで測定し、計算して得た鋼板内に含まれている各結晶粒のテイラー因子(Taylor Factor、M)が下記式1で表され、
前記テイラー因子の値を平均した平均テイラー因子値が2.75以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
(式1中、σは巨視的応力、τ
CRSSは臨界分解せん断応力(Critical Resolved Shear Stress)を意味する。)
[式2]
3×([C]+[N])≦([Sn]+[Sb]+[P]+[As]+[Se]+[Pb]+[Bi])≦15×([C]+[N])
[式3]
([Sn]+[Sb])≧[P]≧([As]+[Se])≧([Pb]+[Bi])
(但し、式2および式3中、[C]、[N]、[Sn]、[Sb]、[P]、[As]、[Se]、[Pb]および[Bi]はそれぞれC、N、Sn、Sb、P、As、Se、PbおよびBiの含量(重量%)を示す。)
【請求項7】
前記熱延板を製造する段階以後、
前記熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、平均テイラー因子(Taylor Factor)を低減することによって、残留応力を低減し、また鋼板に含まれる微量元素の含有量を相互制御することによって、窮極的に低磁場磁性を向上させる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換させるモータに主に使用され、その過程で高い効率を発揮するために無方向性電磁鋼板の優れた磁気的特性が要求される。特に最近では環境にやさしい技術が注目されるにつれて、全体の電気エネルギー使用量の過半を占めるモータの効率を増加させることが大変重要であり、このために優れた磁気的特性を有する無方向性電磁鋼板の需要が増加している。
【0003】
無方向性電磁鋼板の磁気的特性は、主に鉄損と磁束密度で評価する。鉄損は特定磁束密度と周波数で発生するエネルギー損失を意味し、磁束密度は特定磁場下で得られる磁化の程度を意味する。鉄損が低いほど同一の条件でエネルギー効率の高いモータを製造することができ、磁束密度が高いほどモータを小型化させるか銅損を減少させることができるので、低い鉄損と高い磁束密度を有する無方向性電磁鋼板をつくることが重要である。
モータの作動条件によって、考慮しなければならない無方向性電磁鋼板の特性も変わる。モータに使用される無方向性電磁鋼板の特性を評価するための基準として、多数のモータが商用周波数50Hzで1.5T磁場が印加された時の鉄損であるW15/50が最も重要とされている。しかし、多様な用途のモータの全てにおいてW15/50鉄損が最も重要であるのではなく、主作動条件によって異なる周波数や印加磁場での鉄損が評価されている。特に最近の大型発電機や電気自動車駆動モータに使用される無方向性電磁鋼板の中では1.0Tまたはそれ以下の低磁場で磁気的特性が重要な場合が多いので、W10/50またはW10/400などの低磁場鉄損で無方向性電磁鋼板の特性が評価されている。
【0004】
無方向性電磁鋼板の磁気的特性を増加させるために通常使用される方法は、Siなどの合金元素を添加することである。このような合金元素の添加によって鋼の比抵抗を増加させることができ、比抵抗が高まるほど渦電流損が減少して全体鉄損を低めることができるようになる。反面、Si添加量が増加するほど磁束密度が劣位となり脆性が増加する短所があり、一定量以上添加すれば冷間圧延が不可能であって商業的生産が不可能になる。特に電磁鋼板は厚さを薄くするほど鉄損が低減される効果を得ることができるが、脆性による圧延性低下は致命的な問題になる。追加的な鋼の比抵抗増加のためにAl、Mnなどの元素を添加して磁性に優れた最高級無方向性電磁鋼板を生産することができる。
無方向性電磁鋼板の低磁場鉄損を低減させるためには、前述の比抵抗と厚さ以外にも鋼内に析出される炭化物、窒化物などを低減し鋼板に残留する応力を低めることが重要である。低磁場では磁壁の移動を円滑にすることが鉄損に大きな影響を与えるようになり、析出物と残留応力は磁壁の移動を妨害して低磁場磁性を悪くするためである。
【0005】
残留応力は、連続焼鈍ラインで印加される張力によっても発生する。無方向性電磁鋼板を連続ラインで最終焼鈍する時、斜行を防止するために不可避的にコイルに張力を印加するにつれて鋼板に残留応力が発生する。
一方、ヒ素(As)、セレニウム(Se)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)を適切に制御することによって、磁性を向上させようとする試みは、これまでなされてなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、平均テイラー因子(Taylor Factor)を低減することによって、残留応力を低減し、また鋼板に含まれる微量元素の含有量を相互制御することによって、窮極的に低磁場磁性を向上させる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Al:0.05~1.5%、Mn:0.05~2.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Sn:0.001~0.1%、Sb:0.001~0.1%、P:0.001~0.1%、As:0.001~0.01%、Se:0.0005~0.01%、Pb:0.0005~0.01%、Bi:0.0005~0.01%および残部はFeおよび不可避不純物からなり、鋼板内に含まれている各結晶粒のテイラー因子(Taylor Factor、M)が下記式1で表され、鋼板の平均テイラー因子値が2.75以下であることを特徴とする。
[式1]
(式1中、σは巨視的応力、τ
CRSSは臨界分解せん断応力(Critical Resolved Shear Stress)を意味する。)
【0008】
前記無方向性電磁鋼板は、下記式2および式3を満足することができる。
[式2]
3×([C]+[N])≦([Sn]+[Sb]+[P]+[As]+[Se]+[Pb]+[Bi])≦15×([C]+[N])
[式3]
([Sn]+[Sb])≧[P]≧([As]+[Se])≧([Pb]+[Bi])
(但し、式2および式3中、[C]、[N]、[Sn]、[Sb]、[P]、[As]、[Se]、[Pb]および[Bi]はそれぞれ、C、N、Sn、Sb、P、As、Se、PbおよびBiの含量(重量%)を示す。)
前記無方向性電磁鋼板は、Nb:0.0005~0.01重量%、Ti:0.0005~0.01重量%およびV:0.0005~0.01重量%をさらに含むことが好ましい。
【0009】
前記無方向性電磁鋼板は、下記式4を満足することができる。
[式4]
([Nb]+[Ti]+[V])≦([C]+[N])
(但し、式4中、[C]、[N]、[Nb]、[Ti]および[V]はそれぞれ、C、N、NbおよびVの含量(重量%)を示す。)
前記無方向性電磁鋼板は、Nb:0.0005~0.01重量%、Ti:0.0005~0.01重量%およびV:0.0005~0.01重量%をさらに含むことが好ましい。
前記無方向性電磁鋼板は、下記式4を満足することができる。
[式4]
([Nb]+[Ti]+[V])≦([C]+[N])
(但し、式4中、[C]、[N]、[Nb]、[Ti]および[V]はそれぞれ、C、N、NbおよびVの含量(重量%)を示す。)
【0010】
前記無方向性電磁鋼板は、S:0.005重量%以下、Cu:0.025重量%以下、B:0.002重量%以下、Mg:0.005重量%以下、およびZr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことが好ましい。
前記無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒粒径が60~170μmであることができる。
【0011】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Al:0.05~1.5%、Mn:0.05~2.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Sn:0.001~0.1%、Sb:0.001~0.1%、P:0.001~0.1%、As:0.001~0.01%、Se:0.0005~0.01%、Pb:0.0005~0.01%、Bi:0.0005~0.01%および残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
【0012】
スラブは、下記式2および式3を満足することができる。
[式2]
3×([C]+[N])≦([Sn]+[Sb]+[P]+[As]+[Se]+[Pb]+[Bi])≦15×([C]+[N])
[式3]
([Sn]+[Sb])≧[P]≧([As]+[Se])≧([Pb]+[Bi])
(但し、式2および式3中、[C]、[N]、[Sn]、[Sb]、[P]、[As]、[Se]、[Pb]および[Bi]はそれぞれ、C、N、Sn、Sb、P、As、Se、PbおよびBiの含量(重量%)を示す。)
前記無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、本発明の無方向性電磁鋼板は、テイラー因子を低く制御することによって、残留応力を除去し、窮極的に低磁場磁性を向上させることができる。
また、微量元素であるAs、Se、Pb、Biそれぞれの含量およびC、Nとの相対含量を制御することによって、鋼内炭化物および窒化物の生成が抑制され、窮極的に低磁場磁性を向上させることができる。
これによって、環境にやさしい自動車用モータ、高効率家電用モータ、スーパープレミアム級電動機を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2、および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で、第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
ここで使用される専門用語は、単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は、特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0015】
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われてもよい。対照的に、ある部分が他の部分の“真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
異なって定義してはいないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一な意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0016】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
本発明の一実施形態では、平均テイラー因子(Taylor Factor)を低減することによって、残留応力を低減する。
残留応力は連続焼鈍ラインで印加される張力によって発生するか、または連続ラインで最終焼鈍する時、斜行を防止するために不可避的にコイルに張力を印加するにつれて残留応力が発生する。
この時、同一な大きさの張力が印加されても鋼板に発生する残留応力の大きさは異なることがあり、残留応力の大きさは素材の結晶方位から計算されるテイラー因子(Taylor factor)と密接な関連を有する。
【0017】
BCC結晶構造を有する鉄鋼素材は、主に{110}<111>、{123}<111>、{112}<111>の三つのスリップ系(slip system)が作用して焼成変形を起こすようになり、変形モードによって作用するスリップ系の作用が変わる。特定変形モードで特定結晶方位に作用するスリップ系作用量をテイラー因子(Taylor factor)で示すことができ、テイラー因子をMという時、下記式1のように計算することができる。
[式1]
(式1中、σは巨視的応力、τ
CRSSは臨界分解せん断応力(Critical Resolved Shear Stress)を意味する。)
【0018】
テイラー因子値が大きいほど、同一な張力を印加した時、鋼板内残留応力が大きく発生すると見ることができる。無方向性電磁鋼板の連続焼鈍ラインではコイル進行方向に一軸引張変形モードがつくられるので、一軸引張時、高いTaylor factorを有する方位の分率が高まるほど、鋼板内残留応力が増加するようになる。したがって、鋼板の十分に広い面積の結晶方位データから一軸引張時、Taylor factorを計算してその平均値が低いように集合組織を発達させれば、低磁場鉄損を大きく改善させることができる。
具体的に、平均テイラー因子値は、試片の全体厚さが含まれる圧延垂直方向断面(TD面)をEBSDで測定して計算することができる。より具体的には、(全体厚さ)×5000μmの面積を2μmステップ間隔を適用して重畳しないように20回測定し、そのデータを併合してTaylor factorを計算することができる。この時、変形モードは、圧延方向一軸引張条件であり、Slip systemは{110}<111>、{112}<111>、{123}<111>に同一な値のCRSSを適用して求めることができる。
【0019】
平均テイラー因子
とは、各測定ポイントのテイラー因子値に対する総合を測定ポイント数で割って平均した値を意味する。本発明の一実施形態で平均テイラー因子値とは、少なくとも5000個以上の結晶粒が含まれる面積に対する結晶方位をEBSDでポイントごとに測定し、各測定ポイントのテイラー因子値の総合を測定ポイント数で割って、平均値を求めて、これを全体測定面積の平均値と仮定する。
本発明の一実施形態では、平均テイラー因子値を2.75以下に低く制御することによって、残留応力を除去し、窮極的に低磁場磁性を向上させることができる。具体的に、微量元素であるAs、Se、Pb、Biそれぞれの含量およびC、Nとの相対含量を制御して、平均テイラー因子値を低め、低磁場磁性を向上させることができる。さらに具体的に、平均テイラー因子値は2.5~2.75になってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Al:0.05~1.5%、Mn:0.05~2.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Sn:0.001~0.1%、Sb:0.001~0.1%、P:0.001~0.1%、As:0.001~0.01%、Se:0.0005~0.01%、Pb:0.0005~0.01%、Bi:0.0005~0.01%および残部はFeおよび不可避不純物を含む。
【0021】
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
Si:2.0~4.0重量%
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低める役割を果たし、過度に少なく添加される場合、鉄損改善効果が不足することがある。逆に、過度に多く添加される場合、材料の脆性が増加して圧延生産性が急激に低下されることがある。したがって、前述の範囲でSiを添加することができる。さらに具体的に、Siは2.3~3.7重量%含むことができる。
【0022】
Al:0.05~1.5重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低める役割を果たし、過度に少なく添加されれば高周波鉄損低減に効果がなく、窒化物が微細に形成されて磁性を低下させることがある。逆に、過度に多く添加されれば、窒化物が過多に形成されて磁性を劣化させ、製鋼と連続鋳造などの全ての工程上に問題を発生させて生産性を大きく低下させる虞がある。したがって、上記の範囲でAlを添加することが好ましい。さらに具体的に、Alを0.1~1.3重量%含むことがよい。
【0023】
Mn:0.05~2.5重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し硫化物を形成させる役割を果たし、過度に少なく添加されれば、硫化物が微細に析出されて磁性を低下させる虞がある。逆に、過度に多く添加されれば、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が減少する虞がある。したがって、上記の範囲でMnを添加することが好ましい。さらに具体的に、Mnを0.1~1.5重量%含むことがよい。
【0024】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こしその他の不純物元素と結合して炭化物を生成し磁気的特性を低下させるので、0.005重量%以下、より具体的には0.003重量%以下に制限することが好ましい。
【0025】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、母材内部に微細で長いAlN析出物を形成するだけでなく、その他の不純物と結合して微細な窒化物を形成し結晶粒成長を抑制して鉄損を悪化させるので、0.005重量%以下、より具体的には0.003重量%以下に制限することが好ましい。
【0026】
Sn:0.001~0.1重量%
錫(Sn)は、材料の集合組織を改善し表面酸化を抑制する役割を果たすので、磁性を向上させるために添加することができる。Snの添加量が過度に少なければ、その効果が微小なことがある。Snが過度に多く添加されれば、結晶粒界偏析が激しくなって表面品質が劣化し、硬度が上昇して冷延板破断を起こす虞がある。したがって、前述の範囲でSnを添加することが好ましい。さらに具体的に、Snを0.002~0.05重量%含むことがより好ましい。
【0027】
Sb:0.001~0.1重量%
アンチモン(Sb)は、材料の集合組織を改善し表面酸化を抑制する役割を果たすので、磁性を向上させるために添加することができる。Sbの添加量が過度に少なければ、その効果が微小なことがある。Sbが過度に多く添加されれば、結晶粒界偏析が激しくなって表面品質が劣化し、硬度が上昇して冷延板破断を起こす虞がある。したがって、前上の範囲でSbを添加することが好ましい。さらに具体的に、Sbを0.002~0.05重量%含むことがより好ましい
【0028】
P:0.001~0.1重量%
リン(P)は、材料の比抵抗を高める役割を果たすだけでなく、粒界に偏析して集合組織を改善して磁性を向上させる役割を果たす。Pの添加量が過度に少なければ、偏析量が過度に少なくて集合組織改善効果がない虞がある。Pの添加量が過度に多ければ、磁性に不利な集合組織の形成を招いて集合組織改善の効果がなく、粒界に過度に偏析して圧延性が低下し生産が難しくなる虞がある。したがって、上記の範囲でPを添加することが好ましい。さらに具体的に、Pを0.003~0.05重量%含むことがより好ましい。
【0029】
As:0.001~0.01重量%、Se:0.0005~0.01重量%、Pb:0.0005~0.01重量%、Bi:0.0005~0.01重量%
ヒ素(As)、セレニウム(Se)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)は、母材の表面または結晶粒界に偏析して表面エネルギーと粒界エネルギーを低めて酸化層と析出物形成を抑制し磁性に有利な集合組織を発達させる。それぞれその含量が過度に少なければ、その効果の発現が不充分なことがある。それぞれその含量が過度に多ければ、微細析出物を形成するか結晶粒界に偏析して鋼中結晶粒間の結合力を減少させること虞がある。したがって、As、Se、Pb、Biをそれぞれ上記の範囲で含むことが好ましい。より具体的に、As:0.002~0.007重量%、Se:0.001~0.005重量%、Pb:0.001~0.005重量%、Bi:0.001~0.005重量%含むことがより好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、下記式2および式3を満足する。
[式2]
3×([C]+[N])≦([Sn]+[Sb]+[P]+[As]+[Se]+[Pb]+[Bi])≦15×([C]+[N])
[式3]
([Sn]+[Sb])≧[P]≧([As]+[Se])≧([Pb]+[Bi])
(但し、式2および式3中、[C]、[N]、[Sn]、[Sb]、[P]、[As]、[Se]、[Pb]および[Bi]はそれぞれ、C、N、Sn、Sb、P、As、Se、PbおよびBiの含量(重量%)を示す。)
【0031】
Sn、Sb、P、As、Se、Pb、Biは、母材の表面または結晶粒界に偏析して表面エネルギーと粒界エネルギーを低めて酸化層と析出物形成を抑制し磁性に有利な集合組織を発達させる。上記の元素の含量合計がCとNの含量合計の3~15倍を満足すれば、炭化物と窒化物形成が抑制されながらTaylor factorの低い方位が発達して低磁場鉄損を改善することができる。特に、前述の式3を同時に満足する時、前述の効果がさらに増大できる。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、Nb:0.0005~0.01重量%、Ti:0.0005~0.01重量%およびV:0.0005~0.01重量%をさらに含んでもよい。
【0032】
Nb:0.0005~0.01重量%、Ti:0.0005~0.01重量%、V:0.0005~0.01重量%
ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)は、鋼内析出物形成傾向が非常に強い元素であり、母材内部に微細な炭化物または窒化物を形成して結晶粒成長を抑制することによって鉄損を劣化させる。したがって、Nb、Ti、Vをそれぞれ上記の範囲でさらに含むことが好ましい。さらに具体的に、Nb:0.001~0.005重量%、Ti:0.001~0.005重量%、V:0.001~0.005重量%含むことがより好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、下記式4を満足することができる。
[式4]
([Nb]+[Ti]+[V])≦([C]+[N])
(但し、式4中、[C]、[N]、[Nb]、[Ti]および[V]はそれぞれ、C、N、NbおよびVの含量(重量%)を示す。)
Nb、Ti、Vの合計量がCおよびNの合計量以下に添加されれば、炭化物と窒化物形成傾向が弱くなるので、Nb、Ti、Vの添加による低磁場磁性改善効果を得ることができる。
【0034】
その他の不純物
上記の元素以外にも、S、Cu、B、Mg、Zrなどの不可避的に混入される不純物が含まれてもよい。これら元素は、微量であるが、鋼内介在物形成などによる磁性悪化を引き起こす虞があるので、S:0.005重量%以下、Cu:0.025重量%以下、B:0.002重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下に管理ですることが好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒粒径が60~170μmであることが好ましい。上記の範囲で、無方向性電磁鋼板の磁性がさらに優れることができる。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、厚さが0.1~0.65mmになってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、上記のように、低磁場特性が改善される。具体的に、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度B50は、1.66T以上である。0.50mm厚さ基準にして、50Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W10/50は0.95W/kg以下であり、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W10/400は24W/kg以下である。0.25mm厚さ基準にして、50Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W10/50は、0.80W/kg以下であり、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W10/400は12W/kg以下であることがよい。
このように、本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、低磁場特性が優れるため、低磁場で磁気的特性が重要な発電機および電気自動車の駆動モータとして特に有用に使用できる。
【0037】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Al:0.05~1.5%、Mn:0.05~2.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Sn:0.001~0.1重量%、Sb:0.001~0.1%、P:0.001~0.1重量%、As:0.001~0.01%、Se:0.0005~0.01%、Pb:0.0005~0.01%、Bi:0.0005~0.01%および残部はFeおよび不可避不純物を含むスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
【0038】
以下、各段階について詳細に説明する。
まず、スラブを製造する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は前述の無方向性電磁鋼板の組成限定理由と同一なので、繰り返される説明を省略する。後述の熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同一である。
まず、スラブを加熱する。具体的にスラブを加熱炉に装入して1100~1250℃で加熱する。1250℃を超過する温度で加熱すると、析出物が再溶解されて熱間圧延以後微細に析出される虞がある。
【0039】
加熱されたスラブは、1.0~2.3mmに熱間圧延して熱延板に製造される。熱延板を製造する段階で、仕上げ圧延温度は800~1000℃であることがよい。
熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含んでもよい。この時、熱延板焼鈍温度は、850~1150℃であることがよい。熱延板焼鈍温度が850℃未満であれば、組織が成長しないか微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なく、一方、焼鈍温度が1150℃を超過すれば、磁気特性がむしろ低下し、板状の変形によって圧延作業性が悪くなる虞がある。具体的に、温度範囲は950~1125℃であることが好ましく、熱延板の焼鈍温度は900~1100℃であることがより好ましい。熱延板焼鈍は必要によって磁性に有利な方位を増加させるために行われることであり、省略することも可能である。
【0040】
その次に、熱延板を酸洗いし、所定の板厚になるように冷間圧延する。熱延板の厚さによって異なるが、70~95%の圧下率を適用して、最終厚さが0.2~0.65mmになるように冷間圧延することができる。
最終冷間圧延された冷延板は、平均結晶粒径が60~170μmになるように最終焼鈍を実施する。最終焼鈍温度は、850~1050℃であることがよい。最終焼鈍温度が過度に低ければ、再結晶が十分に行われず、最終焼鈍温度が過度に高ければ、結晶粒の急激な成長が発生して磁束密度と高周波鉄損が低下する虞がある。さらに具体的に、900~1000℃の温度で最終焼鈍することが好ましい。最終焼鈍過程で、前段階の冷間圧延段階で形成された加工組織は全て(即ち、99%以上)再結晶できる。
【0041】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は本発明の好ましい一実施形態に過ぎず、本発明が下記実施例に限定されるのではない。
【実施例】
【0042】
実施例
下記表1および表2のように組成されるスラブを製造した。スラブを1150℃で加熱し、880℃の仕上げ温度で熱間圧延して、板厚2.0mmの熱延板を製造した。熱間圧延された熱延板は1030℃で100秒間熱延板焼鈍後、酸洗いおよび冷間圧延して厚さを0.25mmと0.50mmとし、1000℃で110秒間再結晶焼鈍を行った。
式2、式3、式4を満足するかどうか、平均Taylor factor、平均結晶粒粒径、W10/50鉄損、W10/400鉄損、B50磁束密度を下記表3に示した。磁束密度、鉄損などの磁気的特性は、それぞれの試片に対して幅60mm×長さ60mm×枚数5枚の試片を切断して、Single sheet testerで圧延方向と圧延垂直方向に測定して平均値を示した。この時、W10/400は400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損であり、W10/50は50Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損であり、B50は5000A/mの磁場で誘導される磁束密度を意味する。
【0043】
Taylor factorは、試片の全体厚さが含まれる圧延垂直方向断面(TD面)をEBSDで測定して計算し、より詳しくは、250μm×5000μmまたは500μm×5000μm(結晶粒約1000個以上)の面積を2μmステップ間隔を適用して重畳しないように20回測定し、そのデータを併合して平均Taylor factorを計算した。この時、変形モードは圧延方向一軸引張条件であり、Slip systemは{110}<111>、{112}<111>、{123}<111>に同一な値のCRSSを適用した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
表1~表3に示されているように、実施例鋼種の場合、Taylor factorが低減され、式2および式3を満足して、低磁場鉄損W10/50、W10/400および磁束密度B50値が優れるのが確認された。反面、比較例の鋼種はTaylor factorが基準より大きく、式2および式3を満足せずに、低磁場鉄損W10/50、W10/400および磁束密度B50値が劣悪であるのを確認することができる。
実施例鋼種の中でも式4を満足せずに、結晶粒粒径の小さな鋼種A2に比べて、式4を満足し、結晶粒粒径が適切な鋼種が低磁場鉄損W10/50、W10/400および磁束密度B50値が優れるのが確認された。
【0048】
本発明は前記実施例に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施できるということを理解するはずである。したがって、以上で記述した実施形態は全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。