(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】化合物及びリチウム含有膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/40 20060101AFI20221005BHJP
C07F 1/02 20060101ALI20221005BHJP
C07F 7/10 20060101ALI20221005BHJP
C07F 9/50 20060101ALI20221005BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20221005BHJP
C01B 25/30 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C23C16/40
C07F1/02 CSP
C07F7/10 F
C07F9/50
C07F19/00
C01B25/30 Z
(21)【出願番号】P 2020571029
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049411
(87)【国際公開番号】W WO2020162049
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2019019632
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュサラ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】デュプラン ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】池田 悠実
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-500401(JP,A)
【文献】特開2013-214510(JP,A)
【文献】国際公開第2005/008828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00 - 16/56
C07F 1/02
C07F 7/10
C07F 9/50
C07F 19/00
C01B 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(ii)で表され
る化合物。
【化1】
(式(ii)中、E
1及びE
2は、
それぞれ独立して、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はスズ原子である。
Z
1及びZ
2は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基である。
R
21~R
28は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
21~R
28の全てが水素原子となる場合はない。
D
2は、単座又は二座の中性配位子構造である。
x2は0又は1以上の整数であり、y2は1以上の整数である。)
【請求項2】
E
1及びE
2が炭素原子又はケイ素原子であり、
Z
1及びZ
2は、メチレン基又はエチレン基であり、
R
21、R
22、R
27及びR
28は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基又はt-ブチル基であり、
R
22~R
26は、水素原子、メチル基又はエチル基であり、
D
2は、鎖状若しくは環状エーテル、鎖状若しくは環状チオエーテル、又は第三級アミンであり、
x2が0又は1であり、y2が1である請求項
1に記載の化合物。
【請求項3】
下記式(iii)で表され
る化合物。
【化2】
(式(iii)中、A
3は、リン原子、ホウ素原子又はアルミニウム原子である。
E
1及びE
2は、
それぞれ独立して、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はスズ原子である。
R
31~R
36は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
31~R
36の全てが水素原子となる場合はない。
D
3は、単座又は二座の中性配位子構造である。
x3は0又は1以上の整数であり、y2は1以上の整数である。)
【請求項4】
A
3がリン原子であり、
E
1及びE
2がケイ素原子であり、
R
31~R
36がメチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基であり、
D
3が、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン又はN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンであり、
x3が0又は1であり、y3が1である請求項
3に記載の化合物。
【請求項5】
25℃で液状であるか、又は蒸気圧が133.3Paを示す温度が100℃以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
熱重量分析において、300℃以下で重量損失が95%以上となる領域が存在する請求項1~
5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
薄膜気相堆積用である請求項1~
6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
内部に少なくとも1枚の基板を配置した反応チャンバを準備する工程、
気化させた請求項1~
7のいずれか1項に記載の化合物を含むガスを前記反応チャンバに導入する工程、及び
前記ガスと前記基板とを接触させる気相堆積プロセスにより前記基板の表面の少なくとも一部にリチウム含有膜を形成する工程
を含むリチウム含有膜の製造方法。
【請求項9】
前記気相堆積プロセスを200℃以下で行う請求項
8に記載のリチウム含有膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物及びリチウム含有膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム含有薄膜は、リチウムイオン電池用途における電極材料の表面コーティング層として広く用いられている。リチウムイオン電池の第1のサイクルの間、アノードおよび/またはカソード上の固体電解質界面(SEI:solid electrolyte interface)の形成は、電解質/電極界面での電解質の分解から観察される。リチウムイオン電池の容量の損失は、リチウムの消費に起因する。さらに、形成されるSEI層は不均一で不安定であり、亀裂および樹枝状結晶が現れ、熱暴走を引き起こし得る。さらに、SEI層は、電極へのインターカレーション(挿入)をより困難にする障壁電位も生成する。
【0003】
原子層堆積(ALD)や化学気相成長(CVD)技術による電極の表面コーティングは、意図する固体電解質界面薄膜を形成するための第1選択の方法であり、したがって、これらの不安定層の形成を回避する。リチウム含有薄膜はその良好な導電性および高い電気化学的安定性のために、保護電極コーティングとして非常に有望な候補である。
【0004】
リチウム含有薄膜の別の重要な用途は、固体電池に使用される固体電解質材料の形成である。固体電池は無溶媒系であり、従来のリチウムイオン電池よりも長い寿命、より速い充電時間、およびより高いエネルギー密度を有する。それらは、バッテリー開発における次の技術ステップとみなされている。リン酸リチウム、ホウ酸リチウムおよびホウリン酸リチウムなどのリチウム含有薄膜固体電解質は、ALD/CVD技術によって堆積される。均一でコンフォーマルなリチウム含有薄膜は、3D電池のような複雑な構造物上でも得ることができる。
【0005】
これまでリチウム電池用途や他の用途を含め、リチウム含有膜の形成方法として種々の報告がなされている(例えば、特許文献1~4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第00/67300号
【文献】国際公開第02/27063号
【文献】国際公開第2011/002920号
【文献】米国特許出願公開第2012/0276305号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リチウム薄膜形成のための従来のリチウム化合物には次のような問題がある。
【0008】
まず、リチウム化合物は、溶液中および固体状態で種々の凝集体として存在する。これらの分子は一般に多量体構造を有し、典型的には三量体または四量体であり、高分子量、高融点および低揮発性をもたらす。例えば、n-BuLiはジエチルエーテル中では四量体であり、シクロヘキサン中では六量体である。リチウム化合物があまり揮発性でなく、したがって高温に加熱する必要がある場合、迅速に送達される部分だけを加熱することになる。残りのリチウム化合物は、「マザータンク」内に周囲条件で保持される。その場合、残余のリチウム化合物を高温加熱されたタンクに実際的な方法で供給することが重要となる。さらに、安定した供給速度で固体を送達することには、それらの形態の変化を考慮すると、困難性を伴う。典型的には、小さな粒子は表面バルク比が高く、より大きな粒子よりも速く消費される。逆に、粒子が融合して供給速度を潜在的に不安定にすることもある。
【0009】
従って、当該技術分野、特に半導体業界においては液状で揮発性のあるリチウム化合物が求められている。液状であることで、流量を正確に測定および/または制御することができるとともに、単純な弁開放によりタンクを通じた移送充填を行うことができる。
【0010】
次に、周知のリチウム化合物の1つは、アルキルリチウムおよびリチウムアミドのような有機リチウム化合物であるところ、それらは通常、反応性が高く、水分感受性が高く、場合によっては自然発火性の種(pyrophoric species)であり得る。これらは、通常、溶液で市販されていることからも分かるように、特別な安全対策が必要となる。
【0011】
さらに、リチウム含有薄膜形成のための公知のALD/CVDプロセスは、典型的には250℃と350℃との間の温度で進行する。これらの温度は、堆積が活性材料の粉末のような成分上で起こる場合に許容される。これらの温度は、リチウムイオン電池電極などの温度感受性材料上への堆積には適していない。
【0012】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、低融点で、揮発性が改善されており、熱安定性に優れる化合物及びリチウム含有膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは鋭意検討したところ、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明は、一実施形態において、下記式(1)で表される化合物に関する。
【化1】
(式(1)中、Aは窒素原子、リン原子、ホウ素原子又はアルミニウム原子である。
E
1及びE
2は、それぞれ独立して、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はスズ原子である。
R
1~R
6は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10の炭化水素基である。ただし、R
1~R
6の全てが水素原子となる場合はない。
Dは、単座又は多座の中性配位子構造である。
xは0又は1以上の整数であり、yは1以上の整数である。ただし、Aが窒素原子であり、かつR
1~R
6を構成する炭素原子のいずれも前記ヘテロ原子により置換されていない場合、xは1以上の数であり、yは1以上の数である。
A、E
1、E
2及びR
1~R
6が、それぞれ複数ある場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0015】
上記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)は、従来のリチウム化合物に比して、低融点で、揮発性が高く、熱安定性に優れている。これにより、より低温での気相堆積プロセスが可能となり、リチウムイオン電池電極のような温度感受性材料に対しても効率的にリチウム含有膜を形成することができる。これらの特性が得られる理由は定かではないものの、以下のように推察される。リチウム原子に対して嵩高い特定の配位子又は置換基を導入することにより、化合物(1)の配位球(化合物周辺の配位に関与し得る空間)はより飽和し、化合物(1)同士のオリゴマー化に対する遅延化作用を及ぼす。これにより化合物(1)の融点を低下させ、揮発性を発揮すると考えられる。さらに嵩高さにより化合物(1)の構造安定性が得られ、これが熱安定性につながっていると考えられる。ただし、本発明はこれらの理論に束縛されるものではない。
【0016】
一実施形態において、当該化合物は下記式(i)で表されることが好ましい。
【化2】
(式(i)中、R
11~R
16は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
11~R
16の全てが水素原子となる場合はない。
D
1は、二座又は三座の中性配位子構造である。
x1及びy1は、それぞれ独立して1以上の整数である。)
【0017】
上記式(i)で表される化合物(以下、「化合物(i)」ともいう。)では、より嵩高い多座配位子によるキレート構造を導入しているので、低融点、高揮発性及び熱安定性を向上させる点で好ましい。
【0018】
一実施形態において、化合物(i)では、R11~R16が全てメチル基であり、
D1が、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン又はN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンであり、
x1及びy1が1であることが好ましい。
【0019】
化合物(i)が具体的に上記構造を有することで、低融点、高揮発性及び熱安定性を高いレベルで発揮することができる。
【0020】
他の実施形態において、当該化合物は、下記式(ii)で表されることが好ましい。
【化3】
(式(ii)中、E
1及びE
2は、前記式(1)と同義である。
Z
1及びZ
2は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基である。
R
21~R
28は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
21~R
28の全てが水素原子となる場合はない。
D
2は、単座又は二座の中性配位子構造である。
x2は0又は1以上の整数であり、y2は1以上の整数である。)
【0021】
上記式(ii)で表される化合物(以下、「化合物(ii)」ともいう。)では、電子的および立体的特性を付与するための中性ドナーとしてリン含有配位子を採用している。これにより化合物(ii)は優れた低融点、高揮発性及び熱安定性を発揮することができるとともに、リン含有膜にリン原子を導入することができ、固体電池用の固体電解質への応用も可能となる。
【0022】
一実施形態において、化合物(ii)では、E1及びE2が炭素原子又はケイ素原子であり、
Z1及びZ2は、メチレン基又はエチレン基であり、
R21、R22、R27及びR28は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基又はt-ブチル基であり、
R22~R26は、水素原子、メチル基又はエチル基であり、
D2は、鎖状若しくは環状エーテル、鎖状若しくは環状チオエーテル、又は第三級アミンであり、
x2が0又は1であり、y2が1であることが好ましい。
【0023】
化合物(ii)が具体的に上記構造を有することで、低融点、高揮発性及び熱安定性を高いレベルで発揮することができる。
【0024】
さらに別の実施形態において、当該化合物は、下記式(iii)で表されることが好ましい。
【化4】
(式(iii)中、A
3は、リン原子、ホウ素原子又はアルミニウム原子である。
E
1及びE
2は、前記式(1)と同義である。
R
31~R
36は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
31~R
36の全てが水素原子となる場合はない。
D
3は、単座又は二座の中性配位子構造である。
x3は0又は1以上の整数であり、y2は1以上の整数である。)
【0025】
上記式(iii)で表される化合物(以下、「化合物(iii)」ともいう。)でも嵩高い配位子の導入により低融点、高揮発性及び熱安定性を高いレベルで発揮することができる。また、リン原子、ホウ素原子又はアルミニウム原子の導入により固体電池用の固体電解質への展開も期待される。
【0026】
一実施形態において、化合物(iii)では、A3がリン原子であり、
E1及びE2がケイ素原子であり、
R31~R36がメチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基であり、
D3が、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン又はN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンであり、
x3が0又は1であり、y3が1であることが好ましい。
【0027】
化合物(iii)が具体的に上記構造を有することで、低融点、高揮発性及び熱安定性を高いレベルで発揮することができる。
【0028】
一実施形態において、前記化合物(1)及び(i)~(iii)(以下、これらを区別することなく「化合物」ということもある。)は、25℃で液状であるか、又は蒸気圧が133.3Paを示す温度が100℃以下であることが好ましい。これにより、化合物が室温で液状、又は低融点の固体として存在することができ、リチウム含有膜の形成のための気相堆積プロセスを低温で効率的に行うことができる。
【0029】
一実施形態において、当該化合物の熱重量分析において、300℃以下で重量損失が95%以上となる領域が存在することが好ましい。これにより、上記温度範囲において当該化合物の大部分が安定的に揮発するので、反応後に残渣が発生することや揮発後に化合物が分解して残渣が発生することを抑制することができる。すなわち、上記重量損失特性により当該化合物は優れた熱安定性を発揮することができる。
【0030】
一実施形態において、当該化合物は、上記特性により薄膜気相堆積用として好適に用いることができる。
【0031】
本発明は、一実施形態において、内部に少なくとも1枚の基板を配置した反応チャンバを準備する工程、
気化させた当該化合物を含むガスを前記反応チャンバに導入する工程、及び
前記ガスと前記基板とを接触させる気相堆積プロセスにより前記基板の表面の少なくとも一部にリチウム含有膜を形成する工程
を含むリチウム含有膜の製造方法に関する。
【0032】
当該製造方法では、低融点で、揮発性が改善され、熱安定性のある上記化合物を用いているので、凝縮なしでそれらを移送することができる。また、プロセス中での残渣の発生を抑制することができる。その結果、リチウム含有膜の堆積を従来に比してより低い温度で効率的にかつ安定的に行うことができる。
【0033】
一実施形態において、前記気相堆積プロセスを200℃以下で行うことが好ましい。上記化合物を採用することにより、200℃以下という低温での気相堆積プロセスが可能となる。
【0034】
なお、本明細書において、略語「Me」はメチル基、略語「Et」はエチル基、略語「Pr」はn-プロピル基(直鎖プロピル基)、略語「iPr」はイソプロピル基(i-プロピル基)、略語「tBu」は三級ブチル基(t-ブチル基)をそれぞれ意味する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】LiN(SiMe
3)
2(TMEDA)の熱重量分析(TGA、atm、m:14.72mg、10℃/分)における大気圧での温度に対する重量変化を示す。
【
図2】LiN(SiMe
3)
2(1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン)の熱重量分析(TGA、at、m:28.77mg、10℃/分m)における大気圧での温度に対する重量変化を示す。
【
図3】LiN(SiMe
2CH
2PiPr
2)
2の熱重量分析(TGA、vac、m:17.65mg、10℃/分)における減圧下での温度に対する重量変化を示す。
【
図4】150℃で形成した酸化リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。
【
図5】200℃で形成した酸化リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。
【
図6】150℃で形成したリン酸リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。
【
図7】200℃で形成したリン酸リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0037】
《化合物(1)》
本実施形態に係る化合物は、下記式(1)で表される。
【化5】
(式(1)中、Aは窒素原子、リン原子、ホウ素原子又はアルミニウム原子である。
E
1及びE
2は、それぞれ独立して、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はスズ原子である。
R
1~R
6は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10の炭化水素基である。ただし、R
1~R
6の全てが水素原子となる場合はない。
Dは、単座又は多座の中性配位子構造である。
xは0又は1以上の整数であり、yは1以上の整数である。ただし、Aが窒素原子であり、かつR
1~R
6を構成する炭素原子のいずれも前記ヘテロ原子により置換されていない場合、xは1以上の数であり、yは1以上の数である。
A、E
1、E
2及びR
1~R
6が、それぞれ複数ある場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0038】
前記構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10の炭化水素基としては、この炭化水素基を構成する炭素原子及び水素原子の少なくとも1つが、両原子以外のヘテロ原子により置換されている基を含む。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、ホウ素原子、硫黄原子、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、臭素原子)等が挙げられる。
【0039】
炭素数1~10の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~10の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0040】
上記炭素数1~10の鎖状炭化水素基としては、例えば、
メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、2-メチルプロピル基、1-メチルプロピル基、t-ブチル基等のアルキル基;
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
【0041】
上記炭素数3~10の脂環式炭化水素基としては、例えば
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基;
ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等の多環のシクロアルキル基;
シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;
ノルボルネニル基、トリシクロデセニル基等の多環のシクロアルケニル基などが挙げられる。
【0042】
上記炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、
フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0043】
単座又は多座の中性配位子構造としては、特に限定されず、エーテル類、チオエーテル類、アミン類、不飽和炭化水素類等、当該技術分野で公知の単座又は多座の中性配位子構造を採用することができる。
単座の中性配位子構造の具体例としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ピリジン、ピロール、イミダゾール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジi-プロピルエーテル、ジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、メチルエチルチオエーテル、シクロペンタジエン等が挙げられる。
二座の中性配位子構造の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン、ビピリジン、ジエン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン(TEEDA)、1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン等が挙げられる。
三座の中性配位子構造の具体例としては、トリエン、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDTA)等が挙げられる。
【0044】
《化合物(i)》
化合物(1)は、一実施形態として、下記式(i)で表されることが好ましい。
【化6】
(式(i)中、R
11~R
16は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
11~R
16の全てが水素原子となる場合はない。
D
1は、二座又は三座の中性配位子構造である。
x1及びy1は、それぞれ独立して1以上の整数である。)
【0045】
構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基としては、化合物(1)における基と同様のものを好適に採用することができる。
【0046】
二座又は三座の中性配位子構造としては、特に限定されないものの、化合物(1)における二座又は三座の中性配位子構造が好適に挙げられる。
【0047】
中でも、上記式(i)において、R11~R16が全てメチル基であり、
D1が、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン又はN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンであり、
x1及びy1が1であることが好ましい。
【0048】
化合物(i)の具体例としては、LiN(SiMe3)2(1,2-ジエトキシエタン)、LiN(SiMe3)2(ジグリム)、LiN(SiMe3)2(TMEDA)、LiN(SiMe3)2(1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン)、LiN(SiMe3)2(TEEDA)、LiN(SiMe3)2(PMDTA)等が挙げられる。
【0049】
《化合物(ii)》
化合物(1)は、一実施形態として、下記式(ii)で表されることが好ましい。
【化7】
(式(ii)中、E
1及びE
2は、前記式(1)と同義である。
Z
1及びZ
2は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基である。
R
21~R
28は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
21~R
28の全てが水素原子となる場合はない。
D
2は、単座又は二座の中性配位子構造である。
x2は0又は1以上の整数であり、y2は1以上の整数である。)
【0050】
前記2価の連結基としては、例えば、炭素数1~10の2価の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基、炭素数4~12の2価の脂環式炭化水素基、又はこれらの炭化水素基の1個以上と-CO-、-O-、-NH-及び-S-のうちの少なくとも1種の基とから構成される基等が挙げられる。
【0051】
構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基としては、化合物(1)における基と同様のものを好適に採用することができる。
【0052】
単座又は二座の中性配位子構造としては、特に限定されないものの、化合物(1)における単座又は二座の中性配位子構造等が好適に挙げられる。
【0053】
中でも、上記式(ii)において、E1及びE2が炭素原子又はケイ素原子であり、
Z1及びZ2は、メチレン基又はエチレン基であり、
R21、R22、R27及びR28は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基又はt-ブチル基であり、
R22~R26は、水素原子、メチル基又はエチル基であり、
D2は、鎖状若しくは環状エーテル、鎖状若しくは環状チオエーテル、又は第三級アミンであり、
x2が0又は1であり、y2が1であることが好ましい。
【0054】
化合物(ii)の具体例としては、LiN(SiMe2CH2PMe2)2、LiN(SiMe2CH2PEt2)2、LiN(SiMe2CH2PEt2)2(ジオキサン)、LiN(SiMe2CH2PEt2)2(THF)、LiN(SiMe2CH2PEt2)2(nPrMe)、LiN(SiMe2CH2PEt2)2(iPr2O)、LiN(CH2CH2PMe2)2、LiN(CH2CH2PEt2)2、LiN(CH2CH2PiPr2)2およびLiN(CH2CH2PtBu2)2等が挙げられる。
【0055】
化合物(1)は、一実施形態において、下記式(iii)で表されることが好ましい。
【化8】
(式(iii)中、A
3は、リン原子、ホウ素原子又はアルミニウム原子である。
E
1及びE
2は、前記式(1)と同義である。
R
31~R
36は、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。ただし、R
31~R
36の全てが水素原子となる場合はない。
D
3は、単座又は二座の中性配位子構造である。
x3は0又は1以上の整数であり、y2は1以上の整数である。)
【0056】
構成原子がヘテロ原子により置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基としては、化合物(1)における基と同様のものを好適に採用することができる。
【0057】
単座又は二座の中性配位子構造としては、特に限定されないものの、化合物(1)における単座又は二座の中性配位子構造等が好適に挙げられる。
【0058】
中でも、上記式(iii)において、A3がリン原子であり、
E1及びE2がケイ素原子であり、
R31~R36がメチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基であり、
D3が、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン又はN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンであり、
x3が0又は1であり、y3が1であることが好ましい。
【0059】
化合物(iii)の具体例としては、LiP(SiMe3)2、LiP(SiMe3)2(TMEDA)およびLiP(SiMe3)2(PMDTA)等が挙げられる。
【0060】
本実施形態において、前記化合物は、25℃で液状であるか、又は蒸気圧が133.3Paを示す温度が100℃以下であることが好ましい。蒸気圧が133.3Paを示す温度は90℃以下であることがより好ましい。これにより、化合物が室温で液状、又は低融点の固体として存在することができ、リチウム含有膜の形成のための気相堆積プロセスを低温で効率的に行うことができる。
【0061】
本実施形態において、前記化合物の熱重量分析において、300℃以下で重量損失が95%以上となる領域が存在することが好ましく、280℃以下で重量損失が95%以上となる領域が存在することがより好ましく、250℃以下で重量損失が95%以上となる領域が存在することがさらに好ましい。これにより、上記温度範囲において当該化合物の大部分が安定的に揮発するので、反応後に残渣が発生することや揮発後に化合物が分解して残渣が発生することを抑制することができる。すなわち、上記重量損失特性により当該化合物は優れた熱安定性を発揮することができる。
【0062】
本実施形態において、前記化合物は、上記特性により薄膜気相堆積用として好適に用いることができる。好適な気相堆積方法の例としては、限定されないが、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化原子層堆積(PE-ALD)、化学気相堆積(CVD)、パルス化学気相堆積(P-CVD)、低圧化学気相堆積(LPCVD)における熱、プラズマ、もしくはリモートプラズマプロセス、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0063】
《化合物の製造方法》
化合物(1)及び好適な実施形態である化合物(i)~(iii)は、当該技術分野における公知の方法にて製造することができる。例えば、化合物(i)は、対応するリチウムアミドと中性配位子構造に対応する化合物とを溶媒(トルエン等)で反応させることにより得られる。また、化合物(ii)は、まずアルキルホスフェートと有機リチウム化合物とを反応させてリチウムアルキルホスフェートを調製し、これと末端ハロゲン化アルキルアミンとを反応させ、最後に有機リチウム化合物とを反応させることで得られる。化合物(iii)は、対応するリチウムアミドと中性配位子構造に対応する化合物とを溶媒(トルエン等)で反応させることにより得られる。他の構造もこれらを適宜変更することで製造することができる。
【0064】
《リチウム含有膜の製造方法》
本実施形態に係るリチウム含有膜の製造方法は、
内部に少なくとも1枚の基板を配置した反応チャンバを準備する工程、
気化させた前記化合物を含むガスを前記反応チャンバに導入する工程、及び
前記ガスと前記基板とを接触させる気相堆積プロセスにより前記基板の表面の少なくとも一部にリチウム含有膜を形成する工程
を含む。
【0065】
(反応チャンバ準備工程)
本工程では、内部に少なくとも1枚の基板を配置した反応チャンバを準備する。リチウム含有膜を堆積させる基板の種類は、最終用途に応じて適宜選択される。いくつかの実施形態では、基板は、MIM、DRAM、またはFeRam技術における絶縁材料として使用される酸化物(たとえば、HfO2ベース材料、TiO2ベース材料、ZrO2ベース材料、希土類酸化物ベース材料、三元酸化物ベースの材料など)から、または銅とlow-k膜との間の酸素バリアとして使用される窒化物ベース膜(たとえば、TaN)から選択することができる。半導体、光電池、LCD-TFT、またはフラットパネルデバイスの製造において、他の基板を使用することができる。このような基板の例としては、限定されないが、金属窒化物含有基板(たとえば、TaN、TiN、WN、TaCN、TiCN、TaSiN、およびTiSiN)などの中実基板;絶縁体(たとえば、SiO2、Si3N4、SiON、HfO2、Ta2O5、ZrO2、TiO2、Al2O3、およびチタン酸バリウムストロンチウム);またはこれらの材料の組み合わせのうちのいくつかを含む他の基板が挙げられる。利用する実際の基板は、利用する具体的な化合物の実施形態にも依存し得る。
【0066】
反応チャンバは、内部で気相堆積方法が実行されるデバイスの任意の閉鎖容器またはチャンバであればよい。具体例として、限定されないが、平行板タイプリアクタ、コールドウォールタイプリアクタ、ホットウォールタイプリアクタ、枚様式リアクタ、マルチウェハリアクタ、または他のタイプの堆積システム等が挙げられる。
【0067】
(ガス導入工程)
本工程では、気化させた前記化合物を含むガスを前記反応チャンバに導入する。純粋な(単一の)化合物またはブレンドされた(複数の)化合物は液体の状態で気化器に供給されてもよく、ここで反応チャンバに導入される前に気化される。あるいは、化合物は、この化合物を容れた容器にキャリアガスを通すことによって、またはこの化合物にキャリアガスをバブリングすることによって気化できる。次に、キャリアガスおよび気化した化合物を含むガスを反応チャンバに導入する。必要であれば、化合物が十分な蒸気圧を有することを可能にする温度まで容器を加熱してもよい。キャリアガスとしては、限定はされないが、Ar、He、N2、およびこれらの混合物を挙げることができる。酸素供給源、たとえばO3、O2、NO、H2O、H2O2、カルボン酸(C1-C10の線状および分枝)、酢酸、ホルマリン、蟻酸、アルコール、パラ-ホルムアルデヒド、およびこれらの組み合わせ;好ましくはO3、O2、H2O、NO、およびこれらの組み合わせ;より好ましくはH2Oをさらに提供してもよい。容器はたとえば約0℃~約150℃の範囲内の温度に維持されうる。当業者であれば、容器の温度を周知の方法で調節して、気化させる化合物の量を制御できることが分かる。
【0068】
化合物は、純粋な形態(たとえば液体もしくは低融点固体)、または好適な溶媒とのブレンドの形態で供給され得る。例示的な溶媒としては、限定されないが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、複素環式炭化水素、エーテル、グリム、グリコール、アミン、ポリアミン、シクリカミン(cyclicamine)、アルキル化アミン、アルキル化ポリアミンおよびこれらの混合物が挙げられる。好ましい溶媒としては、エチルベンゼン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ピリジン、キシレン、メシチレン、デカン、ドデカン、およびこれらの混合物が挙げられる。化合物の濃度は典型的に約0.02~約2.0Mの範囲内、および好ましくは約0.05~約0.2Mの範囲内にある。
【0069】
反応チャンバへの導入前の化合物と溶媒との任意の混合に加えて、反応チャンバの内で、気化した化合物を含むガスを反応種と混合してもよい。例示的な反応種としては、限定はされないが、金属前駆体、たとえばストロンチウム含有前駆体、バリウム含有前駆体、アルミニウム含有前駆体たとえばTMAなど、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0070】
反応チャンバは、約0.5mTorr~約20Torrの範囲内にある圧力に維持され得る。加えて、反応チャンバ内の温度は約50℃~約600℃の範囲内、好ましくは約80℃~約550℃の範囲内にあり得る。当業者であれば、経験によって温度を最適化して所望の結果を達成することができる。
【0071】
十分な成長速度ならびに所望の物理的状態および組成で所望のリチウム含有膜を得るのに十分な温度まで、基板を加熱することができる。基板を加熱することができる非限定的例示温度範囲としては50℃~500℃が挙げられる。好ましくは、基板の温度は300℃以下を保つ。
【0072】
(リチウム含有膜形成工程)
本工程では、前記ガスと前記基板とを接触させる気相堆積プロセスにより前記基板の表面の少なくとも一部にリチウム含有膜を形成する。例示的な1つの原子層堆積タイプのプロセスでは、化合物の気相を反応チャンバに導入し、ここで好適な基板と接触させる。その後、過剰な化合物はリアクタをパージするおよび/または排気することによって反応チャンバから除去できる。酸素供給源を反応チャンバに導入し、ここでそれは吸収された化合物と自己停止方式で反応する。過剰な酸素供給源は反応チャンバをパージするおよび/または排気することによって反応チャンバから除去される。所望の膜がリチウム酸化物膜である場合、この二段階プロセスは所望の膜厚を提供する場合もあるし、必要な厚さを有する膜が得られるまで繰り返される場合もある。
【0073】
あるいは、所望の膜がリチウム金属酸化物膜である場合、上記二段階プロセスの後に、反応チャンバへの金属前駆体の蒸気の導入を続けることができる。この金属前駆体は、堆積させるリチウム金属酸化物の性質に基づいて選択する。反応チャンバへの導入後、化合物が基板に接触する。過剰な化合物は反応チャンバをパージするおよび/または排気することによって反応チャンバから除去される。再度、酸素供給源を反応チャンバに導入して、金属前駆体と反応させてもよい。過剰な酸素供給源は反応チャンバをパージするおよび/または排気することによって反応チャンバから除去される。所望の膜厚が得られたら、このプロセスを終わりにしてもよい。しかしながら、より厚い膜が所望されるのであれば、4段階プロセスの全てを繰り返してもよい。化合物、金属前駆体および酸素供給源の供給を交互に行うことにより、所望の組成および厚さの膜を堆積させることができる。
【0074】
本実施形態の製造方法から得られるリチウム含有膜またはリチウム含有層は、一般式LixMyOz(ここで、M=Ni、Co、Fe、V、Mn、またはPであり、x、y、およびzは1から8の範囲内にある)を有し得る。好ましくは、リチウム含有膜は、LixNiO2、LixCoO2、LixV3O8、LixV2O5、およびLixMn2O4から選択され、ここでxは1から8の範囲内にある。当業者であれば、適切な化合物および反応種の適切な選択によって、所望の膜組成を得ることができる。
【0075】
堆積される膜の組成は用途に依存する。たとえば、リチウム含有膜を燃料電池や蓄電池の用途に使用できる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明に関して実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
<化合物(i):LiN(SiMe3)2(TMEDA)の合成>
LiN(SiMe3)2(2g、12mmol)をトルエン(40ml)に溶解し、これにN,N,N’、N’-テトラメチルエチレンジアミン(1.8ml、12mmol)を0℃でゆっくりと添加した。得られた溶液を1時間撹拌し、次に揮発性物質を真空下で除去した。白色固体を単離し、ペンタンで洗浄した。粗物質を昇華により精製して、3.12gの白色固体を得た。収率(92%)。1HNMR(C6D6,400 MHz):1.75ppm(s,12H),1.48ppm(m,4H),0.38ppm(s,18H)
【0078】
図1にLiN(SiMe
3)
2(TMEDA)の熱重量分析(TGA、METTLER TOLEDO社製「TGA/DSC3+STAR
e SYSTEM」、atm、m:14.72mg、10℃/分)における大気圧での温度に対する重量変化を示す。
【0079】
<化合物(i):LiN(SiMe3)2(1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン)の合成>
LiN(SiMe3)2(2g、12mmol)のトルエン(30ml)溶液に、1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン(2.89ml、18mmol)を0℃で滴下した。次いで、反応混合物を一晩撹拌した。翌日、溶媒を真空下で除去した。粗物質を真空下(95~97℃、15Pa)で蒸留により精製し、922mgの無色油状物を得た。収率(26%)。1HNMR(C6D6,400MHz):2.1ppm(m,1H)、2~1.6ppm(m,13H)、1.2ppm(dd,1H,3JH-H=13.3Hz,3JH-H=3.2Hz)、0.32ppm(s,18H)、0.21ppm(d,3H,J=6.4Hz)
【0080】
図2にLiN(SiMe
3)
2(1,2-ビス(ジメチルアミノ)プロパン)の熱重量分析(TGA、at、m:28.77mg、10℃/分m)における大気圧での温度に対する重量変化を示す。
【0081】
<化合物(ii):LiN(SiMe2CH2PiPr2)2の合成>
LiN(SiMe2CH2PiPr2)2を、Inorg Chem.2002,41,5615に記載された改良された方法に従って、iPr2PLi塩による塩素の求核置換により合成した。
【0082】
ジイソプロピルホスフィン(25g、0.213mol)のTHF(250mL)溶液に、ヘキサン中のn-BuLi(133ml、1.6M溶液、0.213mol)を-78℃で添加した。得られた溶液は黄色になり、iPr2PLiが出現した。その後、冷浴を除去し、反応混合物を室温で1時間撹拌した。次に、(ClCH2SiMe2)2NH(15.6mL、71mmol)を0℃で滴下した。反応混合物を45分間撹拌し、無色に変化させた。n-BuLiの第2の部分(44ml、1.6M溶液、71mmol)を0℃でゆっくりと添加した。反応は黄色くなり、45分間かき混ぜた。(ClCH2MeCh2)2NH(5.2ml、23.7ml)を加え、さらに45分間かき混ぜた。最後に、n-BuLiの第3の部分(15ml、1.6M溶液、23.7mmol)を0℃で添加した。反応は黄色くなり、45分間かき混ぜた。(ClCH2MeCh2)2NH(1.76ml,7.9ml)を加え、さらに45分間かき混ぜた。次いで、溶媒を真空下で除去し、残渣をヘキサン(150ml)で抽出した。セライトパッドを通して濾過してLiClを除去した後、ヘキサンを蒸発させて橙色油状物を得た。粗物質をさらに減圧蒸留(140-150℃、20Pa)して、30.1gの無色油状物を得た。収率(73%)。1HNMR(C6D6,400MHz):1.70ppm(m,4H)、1.06ppm(m,24H)、0.69ppm(d,4H,2JH-P=5.9Hz)、0.48ppm(s,12H)。
【0083】
図3にLiN(SiMe
2CH
2PiPr
2)
2の熱重量分析(TGA、vac、m:17.65mg、10℃/分)における減圧下での温度に対する重量変化を示す。
【0084】
<比較対象物質>
比較対象物質としてLiOtBu(シグマ・アルドリッチ製)を用いた。
【0085】
調製した化合物及び比較対象物質の特性は以下のとおりであった。なお、融点及び蒸気圧は、いずれも上述の熱重量分析により測定した。
【表1】
【0086】
<LiN(SiMe2CH2PiPr2)2を用いたLi含有膜の形成>
シリコンまたはアモルファス炭素基板(約20mm×約20mm×厚さ約0.75mm)をALD反応器またはCVD反応器に導入した。次いで、各実験について、基板を窒素雰囲気下で100~500℃の設定点まで加熱した。設定値に達した後、化合物としてLiN(SiMe2CH2PiPr2)2、酸素源およびキャリアガスを反応器に流し、基板上に膜を堆積させた。この間、酸素源として水蒸気または酸素、キャリアガスとして窒素を用い、圧力を266.6Paに保った。
【0087】
その結果、水蒸気を酸素源とした場合、100℃、120℃、150℃、175℃、200℃、250℃でALDにより酸化リチウム膜を堆積した。酸化リチウム膜はまた200℃、300℃、400℃でCVDにより得たのに対し、ケイ酸リチウム膜はCVDにより500℃で堆積した。一方、酸素を酸素源として、100℃、120℃、150℃、175℃、200℃、250℃のALDにより酸化リチウム膜を堆積した。Si基板上の典型的な酸化リチウム膜およびケイ酸リチウム膜の組成を以下の表に示す。膜組成は、X線光電子分光計(ThermoScientific社製、「K-Alpha」、真空中、室温(非加熱))を用いて評価した。
【0088】
【0089】
Si基板上への100℃、150℃および200℃でのALD実験の堆積速度を以下に示す。それぞれの試験において、LiN(SiMe2CH2PiPr2)2パルス、水蒸気またはO2パルス、およびパージを200サイクル適用した。堆積速度は分光エリプソメトリ(HORIBA/JOBIN YVON社製、「UVISEL」、解析ソフト「DeltaPsi2」、大気中、室温)による膜厚測定を用いて測定した。
【0090】
【0091】
150℃及び200℃で形成した酸化リチウム膜について、膜厚の均一性を評価した。得られた酸化リチウム膜の厚さを10cm又は20cmおきに合計6点測定した。
図4は、150℃で形成した酸化リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。
図5は、200℃で形成した酸化リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。膜厚は、上述の分光エリプソメトリを用いて測定した。
【0092】
<ALDによるリン酸リチウム膜の形成>
Si基板上の100℃、150℃および200℃でのALD実験の堆積速度を以下に示す。各実験において、LiN(SiMe3)2パルス、リン酸トリメチルパルス、およびパージを400サイクル適用した。管状炉を使用し、30cmの位置を炉の中心点と見なした。
【0093】
【0094】
150℃及び200℃で形成したリン酸リチウム膜について、膜厚の均一性を評価した。得られたリン酸リチウム膜の厚さを10cmおきに合計6点測定した。
図6は、150℃で形成したリン酸リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。
図7は、200℃で形成したリン酸リチウム膜形成についての位置-厚さの関係を示す。膜厚は、上述の分光エリプソメトリを用いて測定した。
【0095】
リチウム含有膜は、LiN(SiMe2CH2PiPr2)2および酸素源として水を用いることによって、高い堆積速度で100℃、150℃および200℃で得ることができた。低温(100および150℃)での堆積速度は、LiN(SiMe3)2およびリン酸トリメチルを用いた既知の堆積手順よりも7~8倍高かった。酸化リチウム膜形成の堆積速度がリン酸リチウム膜よりはるかに高速であっても、150℃および200℃で良好な均一性が観察された。