(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20221005BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20221005BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L1/02
C08J3/215 CEP
C08J3/215 CES
(21)【出願番号】P 2022018261
(22)【出願日】2022-02-08
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021060806
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】五関 高寛
(72)【発明者】
【氏名】柳 弘太
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亨
(72)【発明者】
【氏名】田尾 充
(72)【発明者】
【氏名】安達 隆尋
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141323(JP,A)
【文献】特開2019-183022(JP,A)
【文献】特開2005-171037(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02532707(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0187669(US,A1)
【文献】特開2017-019976(JP,A)
【文献】WANG, Bei et al.,Dispersion of soybean stock-based nanofiber in a plastic matrix,Polymer International,2007年,56,pp.538-546
【文献】YASIM-ANUAR, Tengku Arisyah Tengku et al.,Well-Dispersed Cellulose Nanofiber in Low Density Polyethylene Nanocomposite by Liquid-Assisted Extrusion,Polymers,2020年,12,927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 3/00-3/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散している易分散性ナノセルロース(B)とを含有し、
前記易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースと、前記ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンとを含むものであり、
前記熱可塑性樹脂は、融点が97℃以下である熱可塑性樹脂(A)を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン樹脂であり、
前記変性ポリオレフィンは、融点が
75℃以下である樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)のASTM D1238の規定に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)は、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下で500g/10min以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記易分散性ナノセルロース(B)における前記ナノセルロースの含有量は、前記樹脂組成物の全質量を基準として、30質量%以下である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)の融点と前記変性ポリオレフィンの融点との差の絶対値が、30℃以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記易分散性ナノセルロース(B)における前記ナノセルロースの含有量は、前記樹脂組成物の全質量を基準として、25質量%以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ナノセルロースは、セルロースナノファイバーを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(A)は、メタロセン系ポリオレフィン樹脂を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)と混合されて用いられる請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂は、前記熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)をさらに含む請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
ナノセルロース及び前記ナノセルロースを包み込んでいるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンを含む易分散性ナノセルロース(B)並びに水を含有する含水セルロース樹脂処理物と、融点が97℃以下である熱可塑性樹脂(A)とを、水の沸点より20℃高い温度以下で加熱して前記熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合すること;及び
水の沸点以上の温度で加熱して、前記含水セルロース樹脂処理物と前記熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去すること;を含
み、
前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン樹脂である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂(A)のASTM D1238の規定に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)は、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下で500g/10min以下である請求項10に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記変性ポリオレフィンは、融点が100℃以下である請求項10又は11に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂(A)の融点と前記変性ポリオレフィンの融点との差の絶対値が、30℃以下である請求項10~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記含水セルロース樹脂処理物を用いるに当たり、
前記ナノセルロースの水分散液と、アルカリで中和された前記変性ポリオレフィンの水性エマルジョンとの混合分散液に、酸を添加して前記変性ポリオレフィンを析出させ、前記混合分散液中に析出した前記変性ポリオレフィンが前記ナノセルロースを包み込むことで、前記含水セルロース樹脂処理物を製造すること;を含む、
請求項10~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記ナノセルロースの前記水分散液を用いるに当たり、
パルプ及び水を含有する懸濁液を摩砕機で摩砕して前記パルプを解繊することにより、前記ナノセルロースの水懸濁液を製造することを含む、請求項14に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記摩砕機が、石臼式摩砕機である請求項15に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
前記ナノセルロースの前記水懸濁液の粘度は、温度25℃及び回転数60rpmの条件下で回転粘度計を用いて測定される値で0.1~100Pa・sである請求項15又は16に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
前記ナノセルロースの前記水懸濁液について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(D
10)、前記累積値が50%となる粒子径を50%累積粒子径(D
50)、前記累積値が90%となる粒子径を90%累積粒子径(D
90)としたときに、D
10が0.1~20μmであり、D
50が5.0~40μmであり、D
90が20~150μmである請求項15~17のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(CNF)及びセルロースナノクリスタル(CNC)等のナノセルロース(セルロースミクロフィブリルとも称される。)は、ガラスと比較して熱変形が小さい。また、高強度かつ低熱膨張であるナノセルロースは、持続型資源材料として有用な素材である。これらの利点から、ナノセルロースを熱可塑性樹脂の補強材として使用し、ナノセルロースを熱可塑性樹脂中に含有させる技術が種々提案されている。
【0003】
一方、ナノセルロースは、水酸基を豊富に有することから親水性で極性が高いために、疎水性で極性の低い汎用熱可塑性樹脂との相溶性に劣る側面がある。このため、ナノセルロースを用いた材料開発では、化学処理により、ナノセルロースの表面改質又はナノセルロースへの官能基導入を行い、ナノセルロースの汎用熱可塑性樹脂との相溶性を向上させ、汎用熱可塑性樹脂に対する分散性を向上させることが種々検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、簡便な手法によって、親水性の物質であるナノセルロースを、疎水性の高い汎用熱可塑性樹脂へ容易に分散させることができる技術が提案されている。その技術として、特許文献1では、ナノセルロースと、ナノセルロースを包括するポリオレフィンとを含み、そのポリオレフィンがカルボキシ基、特定の酸価及び融点を有するとともに、ナノセルロースを5~30質量%含有する易分散性セルロース組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術によれば、簡便な方法で、疎水性が高く極性が低い熱可塑性樹脂中に、ナノセルロースが良好な状態で分散された樹脂組成物を得るのに有効な易分散性ナノセルロースが提供されうる。しかし、そのような易分散性ナノセルロースを用いる場合であっても、それと混合される熱可塑性樹脂の種類や、それらを混合して得る樹脂組成物の製造条件によっては、熱可塑性樹脂中にナノセルロースの凝集物が生じることがあり、分散性に改善の余地があった。
【0007】
そこで本発明は、より簡便な方法で、熱可塑性樹脂中のナノセルロースの分散性に優れ、ナノセルロースの凝集物の発生が抑制された樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散している易分散性ナノセルロース(B)とを含有し、前記易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースと、前記ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンとを含むものであり、前記熱可塑性樹脂は、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)を含む、樹脂組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、ナノセルロース及び前記ナノセルロースを包み込んでいるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンを含む易分散性ナノセルロース(B)並びに水を含有する含水セルロース樹脂処理物と、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)とを、水の沸点より20℃高い温度以下で加熱して前記熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合すること;及び水の沸点以上の温度で加熱して、前記含水セルロース樹脂処理物と前記熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去すること;を含む、樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より簡便な方法で、熱可塑性樹脂中のナノセルロースの分散性に優れ、ナノセルロースの凝集物の発生が抑制された樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
<樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂中に分散している易分散性ナノセルロース(B)とを含有する。易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースと、ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンとを含むものである。熱可塑性樹脂は、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)を含む。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中に易分散性ナノセルロース(B)が分散している構成をとることから、常温(5~35℃)において固体の形態をとりうる。
【0013】
上記樹脂組成物における構成の技術的意義は、本発明の一実施形態の樹脂組成物の製造方法にも関係する。また、本発明の一実施形態の樹脂組成物は、本発明の一実施形態の樹脂組成物の製造方法によって得られたものであることが好ましい。その樹脂組成物の製造方法は、ナノセルロース及びナノセルロースを包み込んでいるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンを含む易分散性ナノセルロース(B)並びに水を含有する含水セルロース樹脂処理物と、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)とを混合することを含む。この際、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを、水の沸点より20℃高い温度以下で加熱して熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合する。次いで、本製造方法は、水の沸点以上の温度で加熱して、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去することを含む。
【0014】
本技術では、熱可塑性樹脂中のナノセルロースの分散性を高めるために、ナノセルロースと、ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンと、を含む易分散性ナノセルロース(B)を用いる。カルボキシ基を有する変性ポリオレフィン(本明細書において、単に「変性ポリオレフィン」と記載することがある。)を用いることで、後述する通り、易分散性ナノセルロース(B)及びそれを含有する含水セルロース樹脂処理物を簡便な方法で得ることができる。
【0015】
また、本製造方法では、ナノセルロース(易分散性ナノセルロース(B))と熱可塑性樹脂(A)とを混合する際、易分散性ナノセルロース(B)を含水状態にて用いる。すなわち、易分散性ナノセルロース(B)及び水を含有する組成物(本明細書において、「含水セルロース樹脂処理物」という。)を用いる。仮に、熱可塑性樹脂(A)と混合する易分散性ナノセルロース(B)を乾燥状態で使用すると、乾燥によって、易分散性ナノセルロース(B)が凝集しやすくなる。一方、含水セルロース樹脂処理物を用いることで、易分散性ナノセルロース(B)を乾燥状態で用いる場合に比べて、熱可塑性樹脂(A)と混合する際に、易分散性ナノセルロース(B)の凝集物の発生を抑えることができる。
【0016】
さらに、本製造方法では、熱可塑性樹脂中に易分散性ナノセルロース(B)を良好に分散させるために、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを、熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合する。この際、易分散性ナノセルロース(B)と熱可塑性樹脂(A)との混合がまだ十分でない状態で、含水セルロース樹脂処理物に含まれていた水が完全に揮発してしまうと、熱可塑性樹脂(A)中に易分散性ナノセルロース(B)の凝集物が生じやすくなる。そのため、本製造方法では、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを混合するに当たり、含水セルロース樹脂処理物中の水の蒸発を遅らせるように、水の沸点+20℃以下の温度で加熱して熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合する。そして、水の沸点+20℃以下の温度で熱可塑性樹脂(A)が溶融状態となるように、本技術では、融点が110℃以下の熱可塑性樹脂(A)を用いる。
【0017】
以上に述べた構成を有する樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法によって、より簡便な方法にて、熱可塑性樹脂中のナノセルロースの分散性に優れ、ナノセルロースの凝集物の発生が抑制された樹脂組成物を提供することが可能となる。
【0018】
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)は、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂である。樹脂組成物中のナノセルロース(易分散性ナノセルロース(B))の分散性に優れ、凝集物の発生をより抑制しやすいことから、熱可塑性樹脂(A)の融点は、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点の下限は、樹脂組成物の機械的強度の観点等から、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点は、示差走査熱量測定(DSC)による値をとることができる。
【0019】
熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、及びエチレン・アクリル酸エチル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂;並びにポリエチレングリコール等のポリエーテル系樹脂;等を挙げることができる。なかでも、後述する易分散性ナノセルロース(B)に含まれる変性ポリオレフィンと相溶性が良好であることで、易分散性ナノセルロース(B)と混合しやすくなることから、熱可塑性樹脂(A)としてはポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の単独重合体、及びオレフィン系単量体を主成分として含む単量体成分の共重合体を挙げることができる。その共重合体を形成する単量体成分がオレフィン系単量体を主成分として含むとは、当該単量体成分中のオレフィン系単量体に該当する単量体の総含有割合が、オレフィン系単量体以外のいずれの単量体の含有割合よりも多いことを意味する。上記共重合体を形成する単量体成分中のオレフィン系単量体の含有割合は好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%である。上記共重合体は、2種以上のオレフィン系単量体の共重合体、及びオレフィン系単量体とオレフィン系単量体に共重合可能な他の単量体との共重合体を含み、好ましくは2種以上のオレフィン系単量体の共重合体である。
【0021】
オレフィン系単量体としては、例えば、エチレン及びプロピレン等のオレフィン;1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び1-デセン等のα-オレフィン(例えば炭素原子数2~12のα-オレフィン);並びにシクロペンテン及びノルボルネン等の環状オレフィン;等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂には、上述の通り、オレフィン系単量体の1種が単独で使用されていてもよく、2種以上が併用されていてもよい。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂のより好適な具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、水添ポリブテン、ポリイソブチレン、水添ポリイソブチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、及びプロピレン・α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂を挙げることができる。
【0023】
上述したポリオレフィン系樹脂のなかでも、融点が110℃以下であることの要件を満たしやすいことから、熱可塑性樹脂(A)は、メタロセン系ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましい。メタロセン系ポリオレフィン樹脂は、メタロセン触媒を用いて重合されたポリオレフィン樹脂である。そのなかでも、メタロセン系ポリエチレン、メタロセン系ポリプロピレン、メタロセン系エチレン・α-オレフィン共重合体、及びメタロセン系プロピレン・α-オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0024】
樹脂組成物の機械的強度の観点から、熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、40,000~300,000であることが好ましく、50,000~200,000であることがより好ましく、70,000~150,000であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値をとることができる。
【0025】
また、樹脂組成物の機械的強度の観点から、熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、500g/10min以下であることが好ましい。MFRは、ASTM D1238の規定に準拠して、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下、標準ダイ(長さ8.000mm、孔径2.095mm)で測定される値をとる。熱可塑性樹脂(A)のMFRは、100g/10min以下であることがより好ましく、50g/10min以下であることがさらに好ましい。一方、樹脂組成物を製造する際の溶融混練のし易さや樹脂組成物の成形性の観点から、熱可塑性樹脂(A)のMFRは、0.1g/10min以上であることが好ましく、1g/10min以上であることがより好ましく、5g/10min以上であることがさらに好ましい。
【0026】
[易分散性ナノセルロース(B)]
樹脂組成物は、易分散性ナノセルロース(B)を含有する。易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースと、ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンとを含む。易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースがカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンで包み込まれている構成を有するため、ナノセルロース単独に比べて、水中に分散しやすい。そのため、樹脂組成物を製造する際には、水中での分散性に優れた易分散性ナノセルロース(B)を含有する含水セルロース樹脂処理物を用いることができる。
【0027】
樹脂組成物中の易分散性ナノセルロース(B)におけるナノセルロースの含有量は、樹脂組成物(固形分)の全質量を基準として、30質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物中のナノセルロース(易分散性ナノセルロース(B))の分散性に優れ、凝集物の発生をより抑制しやすいことから、ナノセルロースの上記含有量は、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。一方、樹脂組成物中のナノセルロースの上記含有量は、例えば1質量%以上であることが好ましい。ナノセルロースの含有量を高めてより有用な樹脂組成物を得る観点から、樹脂組成物中のナノセルロースの上記含有量は、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
易分散性ナノセルロース(B)におけるナノセルロースと変性ポリオレフィンの比率は、変性ポリオレフィンがナノセルロースを包み込んでいれば特に制限されない。そのような形態をとりやすい観点から、易分散性ナノセルロース(B)中のナノセルロースの含有量は、易分散性ナノセルロース(B)の質量を基準として、5~80質量%であることが好ましく、25~70質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることがさらに好ましい。また、易分散性ナノセルロース(B)中の変性ポリオレフィンの含有量は、易分散性ナノセルロース(B)の質量を基準として、20~95質量%であることが好ましく、30~75質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることがさらに好ましい。樹脂組成物を製造する際に用いる含水セルロース樹脂処理物が易分散性ナノセルロース(B)及び水のみからなる場合、その水を除去した分(固形分)が易分散性ナノセルロース(B)の質量である。本明細書において、ナノセルロース及び変性ポリオレフィンの各含有量は、ナノセルロース及び変性ポリオレフィンの各使用量に基づいて算出された値をとることができる。
【0029】
樹脂組成物において、易分散性ナノセルロース(B)は、変性ポリオレフィンのカルボキシ基と、ナノセルロースの水酸基との反応によるエステル結合を形成していてもよい。これにより、変性ポリオレフィンとそれに包み込まれたナノセルロースとが結合していることで、熱可塑性樹脂中の易分散性ナノセルロース(B)の分散性をより高めることが期待できる。さらに、変性ポリオレフィンとの相溶性に優れた熱可塑性樹脂(A)を選択すれば、易分散性ナノセルロース(B)の分散性をさらに高めることが期待できる。
【0030】
上記のエステル結合には、変性ポリオレフィンのカルボキシ基の全部がナノセルロースの水酸基と反応して形成された場合や、変性ポリオレフィンのカルボキシ基の一部が、ナノセルロースの水酸基と反応して形成された場合が含まれる。上記のエステル結合は、例えば、易分散性ナノセルロース(B)と熱可塑性樹脂(A)とを混合する際やそれらの混合物中の水を除去する際の熱により生じうる脱水縮合で形成されうると考えられる。
【0031】
(ナノセルロース)
易分散性ナノセルロース(B)におけるナノセルロースは、幅(繊維幅又は結晶幅)がナノサイズ(1~1000nm)のセルロースである。ナノセルロースとしては、木材等を原料として得られる、セルロースナノファイバー(CNF)、及びセルロースナノウィスカー(CNW)とも称されるセルロースナノクリスタル(CNC);細菌によって生成されるバクテリアナノファイバー;並びに電界紡糸法で溶解したセルロースから製造されるエレクトロスピニングナノファイバー;等を挙げることができる。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。それらのなかでも、CNF及びCNCのうちの少なくとも1種が好ましい。ナノセルロースは、セルロースナノファイバーを含むことがより好ましい。
【0032】
CNF及びCNC等の原料として用いられるセルロースを含む植物繊維は、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、及び布等の天然植物原料から得られる、パルプ、並びにレーヨン及びセロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ及びアカシア等が挙げられる。紙としては、例えば、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌及びコピー用紙等が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。植物繊維の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上が併用されていてもよい。
【0033】
植物繊維の主成分であるリグノセルロースは、主に、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成され、各々が結合した構造をとっている。このリグノセルロースを含む植物繊維を、機械的処理及び/又は化学的処理することにより、ヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることで、パルプを得ることができる。必要に応じて漂白処理も行われ、また、脱リグニン量を調整し、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。
【0034】
ナノセルロースは、パルプを解繊処理して得られたものであることが好ましい。パルプとしては、機械的処理及び化学的処理等の製法の面から、例えば、砕木パルプ(GP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、及びケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ(MP);クラフトパルプ(KP)、サルファイドパルプ(SP)、及びアルカリパルプ(AP)等の化学パルプ;並びにセミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、及びケミメカニカルパルプ(CMP)等を挙げることができる。また、パルプとしては、原料の面から、例えば、針葉樹パルプ(NP)及び広葉樹パルプ(LP)等の木材パルプ;イネパルプ、ケナフパルプ、リネンパルプ、クワパルプ、バガスパルプ、ワラパルプ、綿パルプ、竹パルプ、及び果実パルプ等の非木材パルプ;脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、及び雑誌古紙パルプ等の古紙パルプ;等を挙げることができる。さらに、漂白処理の有無の面から、晒パルプ(漂白パルプ)及び未晒パルプ(未漂白パルプ)等を挙げることができる。パルプの1種が単独で用いられていてもよく、2種以上が併用されていてもよい。パルプのなかでも、晒パルプ(漂白パルプ)が好ましい。なかでも、JIS P8211:2011の規定に準じて測定されるカッパー価が5以下であるものがより好ましく、2以下であるものがさらに好ましい。
【0035】
パルプを解繊処理する方法としては、化学的解繊処理、機械的解繊処理、及びそれらを組み合わせた解繊処理を挙げることができる。化学的解繊処理としては、パルプ及び水を含有する懸濁液(スラリー)を化学的処理する方法が挙げられる。化学的処理としては、例えば、TEMPO触媒を用いた酸化法、リン酸エステル化法、及び酵素を用いた加水分解法等を挙げることができる。これらの化学的処理では、必要に応じて、化学的処理に加えて、以下に述べる機械的解繊処理が行われてもよい。
【0036】
機械的解繊処理としては、例えば、パルプ及び水を含有する懸濁液(スラリー)を、高圧水流で微細化する方法;湿式撹拌装置で高速撹拌する方法;摩砕機で摩砕する方法;及び叩解機で叩解する方法;並びにそれらを組み合わせた方法;等を挙げることができる。高圧水流で微細化する方法としては、例えば、水中対向衝突法を利用した高圧ジェットミル(例えばカウンタージェットミル)等を挙げることができる。湿式撹拌装置としては、例えば、高圧ホモジナイザー及びビーズミル等を挙げることができる。摩砕機としては、例えば、グラインダー及び石臼式摩砕機等を挙げることができる。叩解機としては、例えば、ディスクリファイナー及びコニカルリファイナー等を挙げることができる。上述した解繊処理により得られるナノセルロースのなかでも、機械解繊型ナノセルロースが好ましく、機械解繊型セルロースナノファイバーがより好ましい。
【0037】
ナノセルロースとして好適なCNFは、セルロースを含む植物繊維を繊維幅がナノサイズ(1~1000nm)レベルとなるまで解繊処理することで得ることができる。植物繊維には、好ましくはパルプ、より好ましくはパルプ及び水を含有する懸濁液が使用される。一般に、植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。CNFは、セルロースミクロフィブリル、又はセルロースミクロフィブリルが複数凝集して形成されるナノサイズのセルロースである。CNFの繊維幅は算術平均値で4~200nmが好ましく、4~150nmがより好ましく、4~100nmがさらに好ましい。CNFの繊維長は算術平均値で数μm程度が好ましく、5μm以上がより好ましい。CNFの比表面積は、70~300m2/gが好ましく、70~250m2/gがより好ましく、100~200m2/gがさらに好ましい。
【0038】
ナノセルロースとして好適なCNCは、セルロースを含む植物繊維を酸で加水分解処理することで得ることができる。植物繊維には、好ましくはパルプ、より好ましくはパルプ及び水を含有する懸濁液が使用される。酸による加水分解処理に加えて、必要に応じて、上記の解繊処理が行われてもよい。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、及び臭化水素酸等を挙げることができる。酸による加水分解処理で得られるCNCは、針状結晶であり、その結晶幅は算術平均値で4~100nmが好ましく、10~50nmがより好ましく、10~30nmがさらに好ましい。CNCの結晶長は算術平均値で25~3000nmが好ましく、100~500nmがより好ましく、100~200nmがさらに好ましい。CNCの比表面積は90~900m2/gが好ましく、100~500m2/gがより好ましく、100~300m2/gがさらに好ましい。
【0039】
上述したナノセルロースの幅(繊維幅及び結晶幅)並びに長さ(繊維長及び結晶長)の算術平均値は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの少なくとも50本以上について測定したときの平均値をとることができる。
【0040】
(変性ポリオレフィン)
易分散性ナノセルロース(B)におけるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンは、ポリアルケンとも称される。このカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンは、オレフィン(アルケン)をモノマーとして合成されるポリオレフィンの骨格に、カルボキシ基が導入されている構造を有するポリマーである。
【0041】
オレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘキセン、5-メチル-1-ヘキセン、1-オクテン、及び5-メチル-1-ヘプテン等を挙げることができる。ポリオレフィンの骨格としては、上記のようなオレフィンモノマーの1種の単独重合体、及びオレフィンモノマーの2種以上の共重合体(グラフト共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体)等の骨格を挙げることができる。
【0042】
変性ポリオレフィンにおけるカルボキシ基は、例えば、上述のオレフィンモノマーと共重合しうる不飽和カルボン酸系モノマー等をオレフィンモノマーと共重合させる方法や、それらのエステル化物を重合した後、加水分解する方法等により、導入されうる。また、予め得たポリオレフィンに、過酸化物等を使用して不飽和カルボン酸系モノマー等をグラフト化することにより、ポリオレフィンの側鎖にカルボキシ基を導入しうる。上記の不飽和カルボン酸系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;並びに4-ビニル安息香酸等のスチレンカルボン酸;等を挙げることができる。
【0043】
易分散性ナノセルロース(B)及びそれを含有する含水セルロース樹脂処理物を得るために、変性ポリオレフィンは、カルボキシ基を有することを要する。これにより、変性ポリオレフィンは、水性媒体中に分散可能である。そのため、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンを水性エマルジョンの形態で用いること、すなわち、当該変性ポリオレフィンが水性媒体中に分散しているエマルジョンを用いることで、易分散性ナノセルロース(B)及びそれを含有する含水セルロース樹脂処理物を簡便な方法で得ることができる。
【0044】
易分散性ナノセルロース(B)及びそれを含有する含水セルロース樹脂処理物を製造しやすい観点から、変性ポリオレフィンの酸価は、1~60mgKOH/gであることが好ましい。変性ポリオレフィンの酸価は、10mgKOH/g以上であることがより好ましく、20mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。一方、変性ポリオレフィンの酸価は、50mgKOH/g以下であることがより好ましく、40mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本明細書において、変性ポリオレフィンの酸価は、変性ポリオレフィン1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表し、次のようにして測定される値をとることができる。すなわち、測定対象の変性ポリオレフィンを、ポリオレフィンの可溶性溶媒(例えば、キシレンやオクタン等)に溶解し、フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液にて滴定することで求められる。
【0046】
変性ポリオレフィンの融点は、160℃以下であることが好ましい。これにより、樹脂組成物を製造するに当たり、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを、熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合する際に、易分散性ナノセルロース(B)と熱可塑性樹脂(A)が混ざり合いやすくなる。この際、易分散性ナノセルロース(B)における変性ポリオレフィンも溶融状態であれば、易分散性ナノセルロース(B)と熱可塑性樹脂(A)とがさらに混ざり合いやすく、易分散性ナノセルロース(B)の分散性がさらに良好となり、凝集物の発生をより抑制しやすくなる。この観点から、変性ポリオレフィンの融点は、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましく、85℃以下であることがよりさらに好ましく、80℃以下であることが特に好ましい。変性ポリオレフィンの融点の下限は、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。変性ポリオレフィンの融点は、示差走査熱量測定(DSC)による値をとることができる。
【0047】
変性ポリオレフィンと上述した熱可塑性樹脂(A)との関係において、熱可塑性樹脂(A)の融点と変性ポリオレフィンの融点との差の絶対値は、80℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂(A)と変性ポリオレフィンとの相溶性を良好にし、易分散性ナノセルロース(B)の分散性を高めやすい観点から、熱可塑性樹脂(A)の融点と変性ポリオレフィンの融点との差の絶対値は、30℃以下であることがより好ましい。さらには、上記融点の差の絶対値は、20℃以下であることがさらに好ましく、10℃以下であることがよりさらに好ましい。
【0048】
(易分散性ナノセルロース(B)及び含水セルロース樹脂処理物の製造方法)
易分散性ナノセルロース(B)は、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンで包み込まれたナノセルロースが得られれば、その製造方法は特に制限されないが、易分散性ナノセルロース(B)及び水を含有する含水セルロース樹脂処理物として得られたものが好ましい。本発明の一実施形態の樹脂組成物の製造方法では、目的とする樹脂組成物を得るために、含水セルロース樹脂処理物を用いるが、それを用いるに当たり、含水セルロース樹脂処理物を製造することを含んでもよい。
【0049】
含水セルロース樹脂処理物は、次のようにして製造することが可能である。すなわち、ナノセルロースの水分散液と、アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンとの混合分散液に、酸を添加して変性ポリオレフィンを析出させる。これにより、混合分散液中に析出した変性ポリオレフィンがナノセルロースを包み込むことで、易分散性ナノセルロース(B)、及びそれを含有する含水セルロース樹脂処理物を製造することができる。
【0050】
ナノセルロースの水分散液、及び変性ポリオレフィンの水性エマルジョンの各使用量は、得られる易分散性ナノセルロース(B)におけるナノセルロースと変性ポリオレフィンとの比率(各含有量)が前述した範囲となるような量であることが好ましい。
【0051】
アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンは、カルボキシ基が中和されてイオン化されていることで、変性ポリオレフィンが水性媒体中に乳化して微分散している分散液である。この水性エマルジョンと、ナノセルロースの水分散液とを混合することで、混合分散液を容易に得ることができ、また、易分散性ナノセルロース(B)を容易に得ることができる。上記混合分散液を得る際には、混合分散液への酸の添加により変性ポリオレフィンをより均一に析出させやすいように、ナノセルロースの水分散液に変性ポリオレフィンの水性エマルジョンを添加し、撹拌して均一化することが好ましい。この際、例えば、スターラー、モーター付き撹拌機、高速ディゾルバー、ホモミキサー、ビーズミル、又は高圧ホモジナイザー等の撹拌機を用いることができる。また、必要に応じて、均一化の際に、変性ポリオレフィンの水性エマルジョンに水性媒体として含有されていてもよい後述する水溶性有機溶剤を添加してもよい。
【0052】
上記混合分散液への酸の添加により変性ポリオレフィンをより均一に析出させやすい観点から、アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンについて測定される平均粒子径は、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましい。本明細書において、アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンについての平均粒子径は、動的光散乱法により測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(メディアン径)の値をとる。
【0053】
ナノセルロースの水分散液と、アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンとの混合分散液に酸を添加する際は、混合分散液を撹拌しながら酸を添加することが好ましい。この際の撹拌にも、上記に挙げた撹拌機を用いることができる。上記混合分散液に酸を添加することで、変性ポリオレフィンにおけるイオン化されているカルボキシ基を脱イオン化し、変性ポリオレフィンの水に対する溶解性を低下させて、変性ポリオレフィンを析出させることができる。これにより、上記混合分散液中に分散しているナノセルロースを、その分散状態において、析出した変性ポリオレフィンが包み込み、易分散性ナノセルロース(B)を得ることができる。
【0054】
上記の酸としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、及びリン酸等の無機酸;並びに酢酸、及び乳酸等の有機酸;を挙げることができ、それらのような酸の1種が単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記混合分散液中に変性ポリオレフィンを均一に析出させやすいように、酸は水で希釈して水溶液の形態で使用することが好ましい。その水溶液の酸濃度は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。酸は一度に添加してもよいし、滴下してもよいし、噴霧してもよい。また、酸を添加した後、混合分散液が酸性になるように酸を加えることが好ましく、その場合、混合分散液のpHを4以下にすることがより好ましく、3以下にすることがさらに好ましい。
【0055】
上記の混合分散液中に酸の添加により変性ポリオレフィンを析出させた後、ろ過して洗浄することが好ましい。ろ過の前には、ろ過性を早めるために、析出させた後の混合分散液を加熱して析出物(変性ポリオレフィン)をナノセルロースの周囲に集合させることがより好ましい。これにより、混合分散液が濃縮され、後の工程において熱可塑性樹脂(A)と混合する際に扱い易いペースト状の形態の含水セルロース樹脂処理物(含水ペースト)を得ることが可能である。含水セルロース樹脂処理物の固形分濃度は、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることがさらに好ましい。また、含水セルロース樹脂処理物中のセルロース濃度は、2~40質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。
【0056】
(変性ポリオレフィンの水性エマルジョン)
含水セルロース樹脂処理物を製造する際に使用する変性ポリオレフィンの水性エマルジョンは、市販品でもよいし、以下に述べるように製造して得られたものでもよい。変性ポリオレフィンの水性エマルジョンの製造方法としては、例えば、カルボキシ基を有するポリオレフィンを溶融してアルカリにて中和して、徐々に水を添加していく方法;有機溶媒にカルボキシ基を有するポリオレフィンを溶解しておき、アルカリ水と混合し水溶液化して、その有機溶媒はそのまま、又は留去してエマルジョンとする方法;等が挙げられる。
【0057】
上記の有機溶媒としては、アルコール類、グリコール類、アミン類、及びアミド類等の水溶性有機溶剤が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノール等を挙げることができる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等を挙げることができる。アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、メチルピロリドン、及びエチルピロリドン等を挙げることができる。
【0058】
変性ポリオレフィンにおけるカルボキシ基の中和に使用されるアルカリは、特に制限されない。アルカリとしては、例えば、アンモニア;トリエチルアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、及びアミノメチルプロパノール等の有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;等を挙げることができる。アルカリの1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0059】
(ナノセルロースの水分散液)
含水セルロース樹脂処理物を製造する際に使用するナノセルロースの水分散液は、市販品でもよいし、以下に述べるように製造して得られたものでもよい。本発明の一実施形態の樹脂組成物の製造方法が、上述した含水セルロース樹脂処理物を製造することを含む場合、ナノセルロースの水分散液を用いるに当たり、ナノセルロースの水分散液を製造することを含んでもよい。その場合、本製造方法は、ナノセルロースの水分散液として、ナノセルロースの水懸濁液を製造することを含むことが好ましい。
【0060】
上記のナノセルロースの水懸濁液は、パルプ及び水を含有する懸濁液(以下、「パルプ懸濁液」と記載することがある。)を解繊処理することにより、製造することができる。解繊処理の方法としては、前述の通り、種々の化学的解繊処理、機械的解繊処理、又はそれらを組み合わせた解繊処理を採ることができる。それらのなかでも、機械的解繊処理は、化学反応を用いない処理のため、製造工程を少なくすることができ、生産性の観点から好ましい。なかでも、パルプ及び水を含有する懸濁液を摩砕機で摩砕してパルプを解繊することにより、ナノセルロースの水懸濁液を製造することがより好ましい。摩砕機を用いた機械的解繊処理によれば、他の解繊処理を採る場合に比べて、パルプ濃度が比較的高いパルプ懸濁液を用いることができ、その結果、ナノセルロースの濃度が高い水懸濁液を得やすくなる。この観点と、製造工程が少ないことで製造コストを抑えられることから、上記摩砕機として、石臼式摩砕機を用いることがさらに好ましい。
【0061】
摩砕機で機械的解繊処理を行う対象のパルプ懸濁液中のパルプ濃度、及び得られる上記水懸濁液中のナノセルロース濃度は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましく、1~2質量%であることがさらに好ましい。上記パルプ濃度は、パルプ懸濁液の全質量を基準としたパルプの含有量を意味する。また、上記ナノセルロース濃度は、ナノセルロースの水懸濁液の全質量を基準としたナノセルロースの含有量を意味する。
【0062】
ナノセルロースの水懸濁液の粘度は、0.1~100Pa・sであることが好ましい。これにより、ナノセルロースの水分散液を、アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンと混合しやすい。この観点から、ナノセルロースの水分散液の粘度は、0.1~10Pa・sであることがより好ましく、0.1~1Pa・sであることがさらに好ましい。ナノセルロースの水分散液の粘度は、回転粘度計(BM型)を用いて、温度25℃及び回転数60rpmの条件下で測定される値をとる。
【0063】
ナノセルロースの水懸濁液について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布(疑似粒度分布)における累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(D10)、累積値が50%となる粒子径を50%累積粒子径(D50)、累積値が90%となる粒子径を90%累積粒子径(D90)としたときに、D10が0.1~20μmであり、D50が5.0~40μmであり、D90が20~150μmであることが好ましい。D10は1.0~15μmがより好ましく、3.0~10μmがさらに好ましい。D50は10~30μmがより好ましく、12~20μmがさらに好ましい。D90は30~100μmがより好ましく、50~80μmがさらに好ましい。なお、ナノセルロースは繊維状や針状の形態であることから、上記の粒度分布はナノセルロースを疑似的に粒子形態に見立てた疑似粒度分布である。
【0064】
上記のパルプ懸濁液の解繊処理後に得られたナノセルロースの水懸濁液を、上述したナノセルロースの水分散液としてそのまま使用して、アルカリで中和された変性ポリオレフィンの水性エマルジョンと混合してもよい。好ましくは、上記のナノセルロースの水懸濁液を水で希釈し、上述した撹拌機等で撹拌して得られたものを、上記のナノセルロースの水分散液として用い、それを変性ポリオレフィンの水性エマルジョンと混合するのがよい。変性ポリオレフィンの水性エマルジョンと混合する際のナノセルロースの水分散液中のナノセルロース濃度は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
以上のように、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンを用いるとともに、それがアルカリで中和された水性エマルジョンと、ナノセルロースの水分散液とを用いることで、含水セルロース樹脂処理物を簡便な方法で得ることができる。含水セルロース樹脂処理物の製造において、例えば、酸の添加により変性ポリオレフィンを析出させる工程で、種々の添加剤を使用してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、界面活性剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、及び導電材等を挙げることができる。添加剤は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、含水セルロース樹脂処理物の製造により得られた易分散性ナノセルロース(B)において、添加剤は、易分散性ナノセルロース(B)と複合化されていてもよい。したがって、含水セルロース樹脂処理物、及びそれに含まれる易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロース及び変性ポリオレフィン以外にも、上記各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0066】
(樹脂組成物の製造方法)
前述の通り、本発明の一実施形態の樹脂組成物の製造方法は、上述した含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを、水の沸点+20℃以下の温度で加熱して熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合することを含む。また、本製造方法は、水の沸点以上の温度で加熱して、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去することを含む。
【0067】
水の沸点は1気圧において約100℃であるから、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを混合する際は、それらを1気圧で120℃(水の沸点100℃+20℃)以下の温度で加熱して混合することができる。また、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去する際には、1気圧で100℃以上の温度で加熱することができる。本明細書における温度の記載は、特に断りのない限り、1気圧下の温度である。
【0068】
含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを混合するに当たり、含水セルロース樹脂処理物及び熱可塑性樹脂(A)の各使用量は、得られる樹脂組成物中のナノセルロースの含有量が前述した範囲となるような量であることが好ましい。また、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを混合する際は、熱可塑性樹脂(A)を溶融状態で混合することから、その混合時の温度は、熱可塑性樹脂(A)の融点以上であることが好ましい。混合時の温度の上限は、水の沸点+10℃以下(110℃以下)であることが好ましく、水の沸点+5℃以下(105℃以下)であることがより好ましく、水の沸点以下(100℃以下)であることがさらに好ましい。上記温度範囲とすることにより、水の蒸発をより抑えやすくしつつ、熱可塑性樹脂(A)に含水セルロース樹脂処理物をより良好に分散させやすくなる。
【0069】
含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)との混合時間は、特に制限されず、混合に使用しうる混合機の種類や規模、混合量等に応じて、適宜決めることができる。好適な混合機を使用して、比較的高い生産性で樹脂組成物を製造する場合、上記混合時間は、5~60分であることが好ましく、10~40分であることがより好ましく、15~30分であることがさらに好ましい。好適な混合機としては、例えば、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ニーダールーダー、単軸押出機、及び多軸押出機等を挙げることができる。これらのなかでも、ニーダーを用いることがより好ましい。
【0070】
含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを十分に混合した後、それらの混合物中の水を除去する際の温度は、水の沸点(100℃)以上の温度であれば、前述の混合する際の温度と同じでもよく、適宜調整してもよい。上記混合物中の水を除去する際の温度は、105℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。水を除去する際の温度の上限は特に制限されないが、加熱による熱エネルギーを抑える経済的観点から、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0071】
上記混合物中の水を除去する際の加熱は、上記混合機から取り出した混合物に対して行ってもよいし、上記混合機中の混合物に対して行ってもよい。好ましくは、混合機にて、水の沸点+20℃以下の温度で加熱して熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)とを所定時間混合した後、混合機の温度を水の沸点以上の温度に設定して、上記混合物中の水を除去することができる。この場合、水を除去する際にも、水蒸気の発生が無くなるまで混合機における混合を連続的に行うことが、混合物の乾燥が早まることからより好ましい。
【0072】
以上の製造方法によって、より簡便な方法にて、熱可塑性樹脂(A)中のナノセルロースの分散性に優れ、ナノセルロースの凝集物の発生が抑制された樹脂組成物を製造することができる。樹脂組成物を製造する際には、上述した熱可塑性樹脂(A)、及び易分散性ナノセルロース(B)以外の他の成分を使用してもよい。他の成分としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤、相溶化剤、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、金属粉末、可塑剤、香料、紫外線吸収剤、レベリング剤、導電材、並びに帯電防止剤等を挙げることができる。それらの1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。したがって、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)及び易分散性ナノセルロース(B)以外にも、上記の他の成分を含有していてもよい。
【0073】
[樹脂組成物の使用方法の例]
樹脂組成物は、その一態様において、シート状に成形されたり、ペレタイザーでペレット化されたりして使用されうる。シート状やペレット状の形態の樹脂組成物は、他の樹脂と併用しやすいことから好ましい。このように、樹脂組成物は、前述の熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)と混合されて用いられることが好ましく、当該熱可塑性樹脂(C)と混合されるマスターバッチであることがさらに好ましい。樹脂組成物がマスターバッチ等として、別の熱可塑性樹脂(C)と混合されて用いられることで、熱可塑性樹脂(C)と混合された後の樹脂組成物(以下、「混合樹脂組成物」と記載することがある。)を得ることができる。また、樹脂組成物における熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)をさらに含んでいてもよく、すなわち、本発明の一実施形態の樹脂組成物は、上記の混合樹脂組成物であってもよい。
【0074】
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)と混合されて用いられることで、上記の混合樹脂組成物においても、ナノセルロースの分散性に優れ、ナノセルロースの凝集物の発生を抑制することが可能である。それにより、混合樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)や熱可塑性樹脂(C)に比べて、引張強さ、曲げ強さ、圧縮強さ、せん断強さ、衝撃強さ、又は靭性等の機械的性質の向上が期待できる。
【0075】
混合樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(C)を含有させる前の樹脂組成物100質量部に対して、20~500質量部であることが好ましく、30~450質量部であることがより好ましく、40~400質量部であることがさらに好ましい。混合樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(C)の含有量は、混合樹脂組成物の全質量を基準として、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。混合樹脂組成物中のナノセルロースの含有量は、混合樹脂組成物の全質量を基準として、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~15質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることがさらに好ましい。
【0076】
[熱可塑性樹脂(C)]
熱可塑性樹脂(C)としては、熱可塑性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂、すなわち、融点が110℃超である熱可塑性樹脂(C)を用いることができる。そのような熱可塑性樹脂(C)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン及び/又はプロピレンとα-オレフィンとの共重合体等のポリオレフィン樹脂;ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、及びナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;トリアセチル化セルロース、及びジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂;並びにポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;等を挙げることができる。前述の通り、熱可塑性樹脂(A)としては、ポリオレフィン樹脂が好ましいことから、それとの相溶性が良好であることから、熱可塑性樹脂(C)もポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0077】
なお、上述した通り、本発明の一実施形態では、以下の構成をとり得る。
[1]熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散している易分散性ナノセルロース(B)とを含有し、前記易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースと、前記ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンとを含むものであり、前記熱可塑性樹脂は、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)を含む、樹脂組成物。
[2]前記熱可塑性樹脂(A)のASTM D1238の規定に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)は、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下で500g/10min以下である上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記変性ポリオレフィンは、融点が100℃以下である上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記熱可塑性樹脂(A)の融点と前記変性ポリオレフィンの融点との差の絶対値が、30℃以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記易分散性ナノセルロース(B)における前記ナノセルロースの含有量は、前記樹脂組成物の全質量を基準として、25質量%以下である上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記ナノセルロースは、セルロースナノファイバーを含む上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記熱可塑性樹脂(A)は、メタロセン系ポリオレフィン樹脂を含む上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[8]前記熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)と混合されて用いられる上記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]前記熱可塑性樹脂は、前記熱可塑性樹脂(A)とは別の熱可塑性樹脂(C)をさらに含む上記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]ナノセルロース及び前記ナノセルロースを包み込んでいるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンを含む易分散性ナノセルロース(B)並びに水を含有する含水セルロース樹脂処理物と、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)とを、水の沸点より20℃高い温度以下で加熱して前記熱可塑性樹脂(A)の溶融状態で混合すること;及び水の沸点以上の温度で加熱して、前記含水セルロース樹脂処理物と前記熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去すること;を含む、樹脂組成物の製造方法。
[11]前記熱可塑性樹脂(A)のASTM D1238の規定に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)は、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下で500g/10min以下である上記[10]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[12]前記変性ポリオレフィンは、融点が100℃以下である上記[10]又は[11]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[13]前記熱可塑性樹脂(A)の融点と前記変性ポリオレフィンの融点との差の絶対値が、30℃以下である上記[10]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[14]前記含水セルロース樹脂処理物を用いるに当たり、前記ナノセルロースの水分散液と、アルカリで中和された前記変性ポリオレフィンの水性エマルジョンとの混合分散液に、酸を添加して前記変性ポリオレフィンを析出させ、前記混合分散液中に析出した前記変性ポリオレフィンが前記ナノセルロースを包み込むことで、前記含水セルロース樹脂処理物を製造すること;を含む、上記[10]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[15]前記ナノセルロースの前記水分散液を用いるに当たり、パルプ及び水を含有する懸濁液を摩砕機で摩砕して前記パルプを解繊することにより、前記ナノセルロースの水懸濁液を製造することを含む、上記[14]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[16]前記摩砕機が、石臼式摩砕機である上記[15]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[17]前記ナノセルロースの前記水懸濁液の粘度は、温度25℃及び回転数60rpmの条件下で回転粘度計を用いて測定される値で0.1~100Pa・sである上記[15]又は[16]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[18]前記ナノセルロースの前記水懸濁液について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布における累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(D10)、前記累積値が50%となる粒子径を50%累積粒子径(D50)、前記累積値が90%となる粒子径を90%累積粒子径(D90)としたときに、D10が0.1~20μmであり、D50が5.0~40μmであり、D90が20~150μmである上記[15]~[17]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
<セルロースナノファイバーの水懸濁液の調製>
リグニン含有量が低い高白色度の漂白クラフトパルプ(カッパー価:2未満、水分:7.0質量%)100.0質量部に、水を6092.0質量部添加し、パルプ濃度が1.5質量%であるスラリー状のパルプ懸濁液を調製し、2日間静置、浸漬させた。得られたパルプ懸濁液を、石臼式摩砕機(商品名「スーパーマスコロイダー」、増幸産業株式会社製」)により、2種類の砥石で摩砕する計8パスの機械的解繊処理を行い、パルプをナノサイズレベルまで解繊し、繊維幅がナノサイズであるセルロースナノファイバー(CNF)の水懸濁液を得た。この水懸濁液中のCNFの含有量は1.5質量%である。
【0080】
得られたCNFの水懸濁液について、BM型回転粘度計を用いて、温度25℃及び回転数60rpmの条件下で測定された粘度は、0.40Pa・sであった。また、CNFの水懸濁液について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(商品名「MT3300」、日機装株式会社製)により体積基準の粒度分布(疑似粒度分布)を測定した。その結果、D10は6.6μm、D50は15.8μm、D90は60.8μmであった。
【0081】
<易分散性ナノセルロース及び含水セルロース樹脂処理物の製造>
(製造例1)
上記のCNFの水懸濁液250.0質量部に、イオン交換水500.0質量部を添加して、ホモミキサーにて5000rpmで30分間撹拌し、次いで、水浴が設置されたディスパーにて600rpmで30分間撹拌して、CNFの水分散液を得た。この水分散液中のCNFの含有量は0.5質量%である。
【0082】
次いで、水酸化ナトリウムで中和された、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンの水性エマルジョン(固形分:25.0質量%;以下、「POE-1」と記載することがある。)15.0質量部を、上記のCNFの水分散液(750.0質量部)に添加し、ホモミキサーを用いて3000rpmで50分間撹拌し、次いで、水浴が設置されたディスパーを用いて1500rpmで30分間撹拌し、混合分散液を得た。このとき、混合分散液のpHは8.5であった。中和前の上記POE-1には市販品を用いた。上記POE-1におけるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンは、ポリプロピレンタイプの変性ポリオレフィンであって、融点は75℃、酸価は35mgKOH/g、動的光散乱式粒度分布測定装置による平均粒子径(メディアン径)は80nmであった。
【0083】
上記の混合分散液をディスパーにて回転数1500rpmで撹拌しながら、混合分散液に、混合分散液のpHが2.3になるまで1.0質量%塩酸を徐々に添加し、変性ポリオレフィンを析出させた。この際、pHが5~6付近で増粘が認められた。次いで、水浴で60℃まで加温し、30分撹拌して、吸引ろ過し、イオン交換水でろ液のpHが中性になるまでよく洗浄した。このようにして、混合分散液中に析出した変性ポリオレフィンがCNFを包み込んだ形態の易分散性ナノセルロース(以下、「CP-1」と記載することがある。)、及び水を含有するペースト状の含水セルロース樹脂処理物20.8質量部を得た。この含水セルロース樹脂処理物の固形分(CP-1)を測定したところ、35.0質量%であった。含水セルロース樹脂処理物の固形分は、赤外水分測定機にて130℃で恒量に達した時の値である。含水セルロース樹脂処理物の固形分(CP-1)中のCNFの含有量は50.0質量%であり、含水セルロース樹脂処理物中のCNFの含有量は17.5質量%である。
【0084】
(製造例2)
製造例1で使用したPOE-1の代わりに、水酸化ナトリウムで中和された、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンの水性エマルジョン(固形分:25.0質量%;以下、「POE-2」と記す。)を使用した。中和前の上記POE-2には市販品を用いた。上記POE-2におけるカルボキシ基を有する変性ポリオレフィンは、ポリプロピレンタイプの変性ポリオレフィンであって、融点は155℃、酸価は20mgKOH/g、平均粒子径は45nmであった。製造例1で使用したPOE-1をPOE-2に変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により、易分散性ナノセルロース(以下、「CP-2」と記載することがある。)及び水を含有する含水セルロース樹脂処理物を得た。この含水セルロース樹脂処理物の固形分(CP-2)は35.0質量%であった。含水セルロース樹脂処理物の固形分(CP-2)中のCNFの含有量は50.0質量%であり、含水セルロース樹脂処理物中のCNFの含有量は17.5質量%である。
【0085】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
製造例1で得た含水セルロース樹脂処理物(固形分(CP-1)35質量%)85.7質量部(固形分30.0質量部)、及び熱可塑性樹脂(A)として、融点が80℃であり、MFRが1000g/10min(190℃/2.16kg)超であり、重量平均分子量(Mw)が45000であるメタロセン系ポリオレフィン樹脂(商品名「エルモーデュS400」、出光興産株式会社製;以下、「PO-1」と記載することがある。)70.0質量部を、卓上型ニーダー(商品名「プラストグラフ」、ブラベンダー社製)に入れ、90℃で20分間、熱可塑性樹脂(A)の溶融状態にて溶融混練した。次いで、卓上型ニーダーの付属ヒーターにより、130℃に加熱しながら、卓上型ニーダー内のブレードを回転させ、水蒸気の発生が無くなるまで(約15分)乾燥を行い、含水セルロース樹脂処理物と熱可塑性樹脂(A)との混合物中の水を除去した。このようにして、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-1」と記載することがある。)を得た。
【0086】
(実施例2)
実施例1で使用した含水セルロース樹脂処理物(固形分:CP-1)の代わりに、製造例2で得た含水セルロース樹脂処理物(固形分:CP-2)を使用した。それ以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-2」と記載することがある。)を製造した。
【0087】
(実施例3)
熱可塑性樹脂(A)として、実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)の代わりに、融点が80℃であり、MFRが25g/10min(190℃/2.16kg)であり、重量平均分子量(Mw)が130000であるメタロセン系ポリオレフィン樹脂(商品名「エルモーデュS901」、出光興産株式会社製;以下、「PO-2」と記載することがある。)を使用した。それ以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-3」と記載することがある。)を製造した。
【0088】
(実施例4)
熱可塑性樹脂(A)として、実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)の代わりに、融点が97℃であり、MFRが3.6g/10min(190℃/2.16kg)であるメタロセン系エチレン・α-オレフィン共重合体(商品名「カーネルKF370」、日本ポリエチレン株式会社製;以下、「PO-3」と記載することがある。)を使用した。また、卓上型ニーダーを用いた溶融混練時の温度を102℃に変更した。それら以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-4」と記載することがある。)を製造した。
【0089】
(実施例5)
実施例1で使用した含水セルロース樹脂処理物(固形分(CP-1)35.0質量%)の使用量85.7質量部(固形分30.0質量部)を171.4質量部(固形分60.0質量部)に変更した。また、実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)の使用量70.0質量部を40.0質量部に変更した。それら以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が30.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-5」と記載することがある。)を製造した。
【0090】
(実施例6)
熱可塑性樹脂(A)として、実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)の代わりに、融点が102℃であり、MFRが46g/10min(190℃/2.16kg)である低密度ポリエチレン樹脂(商品名「ノバテックLD―LJ902」、日本ポリエチレン株式会社製;以下、「PO-4」と記載することがある。)を使用した。また、卓上型ニーダーを用いた溶融混練時の温度を110℃に変更した。それら以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-6」と記載することがある。)を製造した。
【0091】
(実施例7)
実施例1で使用した含水セルロース樹脂処理物(固形分(CP-1)35.0質量%)の使用量85.7質量部(固形分30.0質量部)を171.4質量部(固形分60.0質量部)に変更した。また、熱可塑性樹脂(A)として、実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)70.0質量部の代わりに、実施例3で用いたものと同じメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-2)40.0質量部を用いた。それら以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が30.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-7」と記載することがある。)を製造した。
【0092】
(実施例8)
実施例1で使用した含水セルロース樹脂処理物(固形分:CP-1)の代わりに、製造例2で得た含水セルロース樹脂処理物(固形分:CP-2)を使用した。また、熱可塑性樹脂(A)として、実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)の代わりに、実施例3で用いたものと同じメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-2)を使用した。それら以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-8」と記載することがある。)を製造した。
【0093】
(比較例1)
実施例1で使用したメタロセン系ポリオレフィン樹脂(PO-1)の代わりに、融点が135℃であり、MFRが1000g/10min(190℃/2.16kg)超である酸変性ポリプロピレン樹脂(商品名「ユーメックス1010」、三洋化成工業株式会社製;以下、「PO-5」と記載することがある。)を使用した。また、卓上型ニーダーを用いた溶融混練時及び混合物中の水の除去時の温度をいずれも180℃に変更した。それら以外は、実施例1と同様の方法により、CNFの含有量が15.0質量%である樹脂組成物としてのマスターバッチ(以下、「MB-C1」と記載することがある。)を製造した。
【0094】
<マスターバッチの評価>
各実施例及び比較例で得たマスターバッチをスライドガラス上に少量置き、ホットプレートを使用して、スライドガラス上のマスターバッチを加熱して溶融させ、その上にさらにスライドガラスを被せて熱プレスし、マスターバッチからなる樹脂膜を得た。1種類のマスターバッチにつき樹脂膜を3つ作製し、各樹脂膜を光学顕微鏡により拡大して460μm×620μmの領域を観察した。この観察像において、凝集物の個数及び大きさを確認し、1種類のマスターバッチにつき、40μm以上の凝集物及び100μm以上の凝集物のそれぞれの個数の平均値を計算することにより、以下の評価基準にしたがって、熱可塑性樹脂(A)中のCNFの分散性を評価した。以下の評価基準において、「AA」、「A」、及び「B」を合格と判断し、「C」を不合格と判断した。
AA:40μm以上の凝集物の個数の平均値が5以下であり、かつ100μm以上の凝集物の個数の平均値が1未満である。
A:40μm以上の凝集物の個数の平均値が5超10以下であり、かつ100μm以上の凝集物の個数の平均値が1未満である。
B:40μm以上の凝集物の個数の平均値が10超であり、かつ100μm以上の凝集物の個数の平均値が1未満である。
C:100μm以上の凝集物の個数の平均値が1以上である。
【0095】
以上の各実施例及び比較例のマスターバッチの成分(固形分)及び評価結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
<混合樹脂組成物の製造>
(実施例9)
実施例1で得たマスターバッチ(MB-1)と熱可塑性樹脂(C)とを二軸押出機(株式会社芝浦機械製)を用いて混練し、混合樹脂組成物を製造した。具体的には、マスターバッチ(MB-1)67質量部、及び熱可塑性樹脂(C)としてのポリプロピレン(商品名「プライムポリプロJ-106」、株式会社プライムポリマー製)33質量部を配合し、混合した。混合した材料を上記二軸押出機により、温度200℃で混練し、棒状(ストランド)に押出成形し、押出成形により吐出されたストランドを冷却し、ペレタイザーでカッティングして、ペレットを得た。このようにして、CNFの含有量が約10質量%であるペレット状の混合樹脂組成物を得た。
【0098】
(実施例10)
実施例9で使用した実施例1のマスターバッチ(MB-1)の代わりに、実施例3で得たマスターバッチ(MB-3)を使用したこと以外は、実施例9と同様の方法により、ペレット状の混合樹脂組成物(CNFの含有量:約10質量%)を得た。
【0099】
(実施例11)
実施例9で使用した実施例1のマスターバッチ(MB-1)の代わりに、実施例4で得たマスターバッチ(MB-4)を使用したこと以外は、実施例9と同様の方法により、ペレット状の混合樹脂組成物(CNFの含有量:約10質量%)を得た。
【0100】
(実施例12)
実施例9で使用した実施例1のマスターバッチ(MB-1)及びその使用量67質量部並びに熱可塑性樹脂(C)の使用量33質量部を、それぞれ、実施例7で得たマスターバッチ(MB-7)及びその使用量33質量部並びに熱可塑性樹脂(C)の使用量67質量部に変更したこと以外は、実施例9と同様の方法により、ペレット状の混合樹脂組成物(CNFの含有量:約10質量%)を得た。
【0101】
<混合樹脂組成物の評価>
実施例9~12で得られた混合樹脂組成物について、ASTM D638の規定に準じて、試験片を作製して引張試験を行い、また、ASTM D790の規定に準じて、試験片を作製して曲げ試験を行った。引張試験では、精密万能試験機(商品名「オートグラフ AG/X-R」、株式会社島津製作所製)を用い、室温(20~25℃の範囲内)において、引張強さ(最大引張応力)及び引張破壊ひずみの測定を行った。曲げ試験では、上記精密万能試験機を用い、室温(20~25℃の範囲内)において、曲げ強さ(最大曲げ応力)及び曲げ弾性率の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0102】
上記の引張試験及び曲げ試験は、実施例9、10、11、及び12にそれぞれ対応するブランク試験である対照例9B、10B、11B、及び12Bについても同様に行った。対照例9B~12Bでは、それぞれ対応する実施例9~12の混合樹脂組成物から、易分散性ナノセルロース(CP-1又はCP-2)を抜いたものに相当する樹脂組成物(対照例9B~12Bの混合樹脂組成物)を用いた。具体的には、参考例9B~12Bでは、マスターバッチを使用しない代わりに、対応する実施例で使用されたマスターバッチ中の熱可塑性樹脂(A)と同種及び同量の熱可塑性樹脂(A)と、対応する実施例で使用された量と同量の熱可塑性樹脂(C)を用い、実施例9と同様の方法によって得たペレット状の樹脂組成物を用いた。ブランク試験の結果もあわせて表2に示す。
【0103】
【0104】
さらに、実施例9~12で得られた混合樹脂組成物について、アイゾット衝撃試験機(商品名「衝撃試験機」、株式会社東洋精機製作所製)を用い、ASTM D256の規定に準じて、試験片を作製してアイゾット衝撃強さの測定を行った。その結果、アイゾット衝撃強さは、実施例9で2.7kJ/m2、実施例10で6.5kJ/m2、実施例11で20.3kJ/m2、実施例12で2.4kJ/m2であった。
【要約】
【課題】より簡便な方法で、熱可塑性樹脂中のナノセルロースの分散性に優れ、ナノセルロースの凝集物の発生が抑制された樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂中に分散している易分散性ナノセルロース(B)とを含有し、前記易分散性ナノセルロース(B)は、ナノセルロースと、前記ナノセルロースを包み込んでいる、カルボキシ基を有する変性ポリオレフィンとを含むものであり、前記熱可塑性樹脂は、融点が110℃以下である熱可塑性樹脂(A)を含む、樹脂組成物を提供する。
【選択図】なし