(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】透明電極、透明電極の製造方法、および電子デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20221005BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20221005BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221005BHJP
H05B 33/26 20060101ALI20221005BHJP
H05B 33/28 20060101ALI20221005BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01L31/04 266
H01B5/14 A
H05B33/14 A
H05B33/26 Z
H05B33/28
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2022513343
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034042
(87)【国際公開番号】W WO2022054151
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-02-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0020624(KR,A)
【文献】特開2019-021599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0130726(US,A1)
【文献】特開2017-135379(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105038222(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0098019(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01B 5/14
H05B 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、その表面に配置された、分離領域で相互に分離された複数の導電性領域とを具備する透明電極であって、
前記導電性領域が、前記透明基材側から順に第1の透明導電性金属酸化物層、金属層、および第2の透明導電性金属酸化物層が積層された構造を有しており、
前記分離領域に、ハロゲン、イオウ、または酸素のいずれかひとつ以上をトラップするトラップ材料が配置されており、
前記トラップ材料が、金属銀、およびハロゲン化銀または銀のイオウ化合物を含有する、透明電極。
【請求項2】
前記イオウ化合物が、銀とアルキルチオールとの反応物または硫化銀である、請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
トラップ材料が、粒子状構造を有する、請求項1または2に記載の透明電極。
【請求項4】
前記第1の透明導電性金属酸化物層に含まれる酸化物または前記第2の透明導電性金属酸化物層に含まれる酸化物が、インジウムドープスズ酸化物、フッ素ドープ酸化スズ、アルミニウムドープ亜鉛酸化物、またはインジウムドープ亜鉛酸化物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項5】
前記金属層が、銀、銅、金、ステンレス、チタン、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、すず、亜鉛、またはこれらの合金を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項6】
前記分離領域にp型無機酸化物、n型の無機酸化物、p型有機化合物またはn型有機化合物を含有する材料が充填されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項7】
前記第2の透明
導電性金属酸化物層の上に、グラフェン含有層をさらに具備する、請求項1~6のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項8】
構造の異なる複数の分離領域を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項9】
前記分離領域で囲まれた導電性領域を有する請求項1~8のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項10】
(a)透明基材を準備する工程:
(b)以下の工程を含む、積層体を形成する工程:
(b1)前記透明基材の上に、第1の透明導電性金属酸化物層を形成する工程;
(b2)前記第1の透明導電性金属酸化物層の上に金属層を形成する工程;および
(b3)前記金属層の上に第2の透明導電性金属酸化物層を形成する工程;
(c)前記積層体にパターニングして分離領域を形成させ、複数の導電性領域を形成する工程:および
(d)前記分離領域にハロゲン、イオウ、または酸素のいずれかひとつ以上をトラップするトラップ材料を配置する工程
を含み、
前記トラップ材料が、前記分離領域内に露出した前記金属層の側面、または前記金属層に由来する金属に、ハロゲンまたはイオウが結合した化合物を含む、透明電極の製造方法。
【請求項11】
前記工程(c)が、メカニカルスクライブまたはレーザースクライブにより行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(d)が、トラップ材料を前記分離領域に充填することにより行われる、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の透明電極と、活性層と、対向電極とが、この順で積層された構造を有する電子デバイス。
【請求項14】
前記活性層が光電変換層である、請求項13に記載の電子デバイス。
【請求項15】
前記活性層がハロゲンイオンまたはイオウ化合物を含有する、請求項14に記載の電子デバイス。
【請求項16】
対向電極が透明である、請求項13~15のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、透明電極、透明電極の製造方法、および電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年エネルギーの消費量が増加してきており、地球温暖化対策として従来の化石エネルギーに代わる代替エネルギーの需要が高まっている。このような代替エネルギーのソースとして太陽電池に着目が集まっており、その開発が進められている。太陽電池は、種々の用途への応用が検討されているが、多様な設置場所に対応するために太陽電池のフレキシブル化と耐久性が特に重要となっている。最も基本的な単結晶シリコン系太陽電池はコストが高くフレキシブル化が困難であり、昨今注目されている有機太陽電池や有機無機ハイブリッド太陽電池は耐久性の点で改良の余地がある。
【0003】
このような太陽電池の他、有機EL素子、光センサーといった光電変換素子について、フレキシブル化および耐久性改良を目的とした検討が行われている。このような素子には透明電極としてはインジウムドープスズ(ITO)膜が用いられるのが一般的である。ITO膜は通常スパッタ等で製膜されるうえ、高い導電性を実現するためには高温でのスパッタやスパッタ後の高温アニールが必要であり、有機材料を含む素子には適用できないことが多い。
【0004】
透明電極として、低抵抗、かつ高透明性であるITO/Ag/ITOが用いられることがある。このような電極をPEDOT・PSS層を有する素子に用いた検討例はあるが、ITO膜に用いられるアモルファスITO(以下、a-ITOということがある)や銀は酸やハロゲンによって劣化するため、電極の性能を劣化させる傾向が強い。さらに、雰囲気中の酸素や硫化水素などはこの透明電極を劣化させる原因であり、それらの影響を抑制することで安定性を改良することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、上記のような課題に鑑みて、低抵抗であり、雰囲気による劣化が抑制された安定な透明電極とその製造方法、さらには透明電極を用いた電子デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による透明電極は、透明基材と、その表面に配置された、分離領域で相互に分離された複数の導電性領域とを具備するものであって、
前記導電性領域が、前記基材側から順に第1の透明導電性金属酸化物層、金属層、および第2の透明導電性金属酸化物層が積層された構造を有しており、
前記分離領域に、ハロゲン、イオウ、または酸素のいずれかひとつ以上をトラップするトラップ材料が配置されているものである。
また、実施形態による透明電極の製造方法は、
(a)透明基材を準備する工程:
(b)以下の工程を含む、積層体を形成する工程:
(b1)前記透明基材の上に、第1の透明導電性金属酸化物層を形成する工程;
(b2)前記第1の透明導電性金属酸化物層の上に金属層を形成する工程;および
(b3)前記金属層の上に第2の透明導電性金属酸化物層を形成する工程;
(c)前記積層体にパターニングして分離領域を形成させ、複数の導電性領域を形成する工程:および
(d)前記分離領域にハロゲン、イオウ、または酸素のいずれかひとつ以上をトラップするトラップ材料を配置する工程
を含むものである。
【0008】
また、実施形態による電子デバイスは、前記透明電極と、活性層と、対向電極とが、この順で積層された構造を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態による透明電極の構造を示す概念図。
【
図2】実施形態による透明電極の製造方法を示す概念図。
【
図3】実施形態による光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
【
図4】実施形態による光電変換素子(有機EL素子)の構造を示す概念図。
【
図6】実施例6の光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下実施形態を詳細に説明する。
[実施形態1]
【0011】
図1は、本実施形態に係る透明電極100の構成概略図である。この透明電極は、透明基材101の上に複数の導電性領域106を具備しており、この複数の導電性領域106は、相互に分離領域105よって分離されている。
【0012】
導電性領域106は、基材側から順に、第1の透明導電性金属酸化物層(以下、第1の酸化物層ということがある)102、金属層103、および第2の透明導電性酸化物(以下、第2の酸化物層ということがある)とを有している。
【0013】
そして、実施形態においては、分離領域にトラップ材料107が配置されている。このトラップ材料は、
図1に示されているように、分離領域の底部や、分離領域に露出している金属層103の側面近傍に配置されるのがひとつの態様である。また、分離領域に対してトラップ材料が充填されていてもよい。
【0014】
第2の酸化物層104は、金属層103から透明電極の上に形成される活性層への銀などの金属のマイグレーションを抑制し、また活性層から金属電極へのハロゲンイオンなどのマイグレーションを抑制する効果がある。
【0015】
以下に第1の実施形態に係る透明電極の構成について詳述する。
【0016】
透明基材101の材料としては、ガラスなどの無機材料、およびポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリエチレンナフタレート(以下、PENという)、ポリカーボネート、PMMAなどの有機材料が用いられる。柔軟性のある有機材料を用いると、実施形態による光電変換素子が柔軟性に富むものになるので好ましい。また、透明基材は光透過性や製造時の欠陥発生を抑制するために、平坦化処理したものが好ましい。
【0017】
第1の酸化物層102の材料としては、一般的に知られている任意のものから選択することができる。具体的には、インジウムドープスズ酸化物(Indium doped tin oxide、ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine doped
tin oxide、FTO)、アルミニウムドープ亜鉛酸化物(Aluminium
doped zinc oxide、AZO)、インジウムドープ亜鉛酸化物(Indium doped zinc oxide、IZO)等が挙げられる。上記金属酸化物はアモルファス構造を含有し、膜厚は各30~200nmが好ましく、35~100nmであることがより好ましく、40~70nmであることがさらに好ましい。アモルファス構造を有すると連続的で均一、平坦な膜を形成しやすい。膜厚が過度に小さいと抵抗が大きくなる傾向があり、過度に大きいと透明性が低下し、形成に時間がかかる。上記した材料の中ではITOが中性pHでゼータ電位が0に近く陽イオンや陰イオンとの相互作用が小さいため好ましい。
【0018】
金属層103の材料としては、例えば、銀、銅、金、ステンレス、チタン、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、すず、亜鉛、またはこれらの合金が挙げられ、銀、銅、およびそれらの合金が好ましい。金属層103は膜厚が4~20nmが好ましく、5~15nmがより好ましく、6~10nmがさらに好ましい。膜厚が過度に小さいと抵抗が大きくなる傾向があり、膜厚が過度に大きいと透明性が低下する傾向がある。銀はマイグレーションしやすい傾向にあるが導電性に優れ、銅はマイグレーション耐性が銀より高く、またより安価であるが導電性は低い。これらをバランスよく組み合わせることで、導電性とマイグレーション抑制効果を両立することができる。
【0019】
第2の酸化物層104の材料としては、第1の酸化物層に挙げたものと同様のものから選択できる。第1の酸化物層102と第2の酸化物層104とは同じ材料を用いることが好ましい。第2の酸化物層は。膜厚が5~50nmが好ましく、10~40nmであることがより好ましく、15~30nmであることがより好ましい。膜厚が過度に小さいと金属のマイグレーションを防止する機能が低下する傾向にある。膜厚が過度に大きいと抵抗が大きくなり電荷移動が困難になる傾向にある。第2の酸化物層104は、マイグレーションを抑制する効果があるが、酸化物層が連続的であるとその効果が大きくなる。酸化物層が連続的であるかどうかは断面SEMで評価することができる。断面SEMは10万倍の倍率で測ることができる。場所を変えた10枚の断面SEMにおいて不連続部分が測定されたものが2つ以下であることが好ましく、0がより好ましい。
【0020】
分離領域105は、複数の導電性領域106の間に存在し、それらを相互に物理的および電気的に分離する高抵抗領域である。そして、この分離領域は空隙であっても、絶縁性材料が充填されていてもよい。
実施形態においては、この分離領域にはトラップ材料107が配置されている。トラップ材料107は、金属層を構成する金属、例えば銀や銅と反応して、その導電性を低下させる元素、例えばハロゲン、イオウ、酸素等、を化学的または物理的にトラップして、導電性領域106の導電性の低下を抑制する作用を発揮するものである。
【0021】
トラップ材料としては金属銀、およびハロゲン化銀または銀のイオウ化合物を含有するものが好ましい。これらの材料は、銀のマイグレーションを低下させやすく、またハロゲン、イオウ、または酸素をトラップする能力が高い。イオウ化合物は、銀とアルキルチオールとの反応物、または硫化銀であることが好ましい。銀のイオウ化合物は安定であり、特に硫化銀は安定性が高い。銀または銅とアルキルチオールとの反応物は、金属銀や金属銅の表面をアルキルチオールが化学修飾するため、特に酸化等に対して抑制効果が高い傾向にある。
【0022】
物理的なスクライブではスクライブ端に積層電極の銀や銅やこれらの合金の表面が出てトラップ材として機能することができるので好ましい。スクライブ端は電位をかけた時に電界集中が起こりやすく、また銀や銅の表面積も大きくなるため反応しやすくなり、導電領域へのハロゲンやイオウ、酸素への反応を減らす効果がある。
【0023】
また、トラップ材料は絶縁性無機物であってもよい。絶縁性酸化物としてはゼオライト、酸化シリコン、酸化アルミニウム等から選ぶことができる。
【0024】
トラップ材料は粒子状構造を有することが好ましい。また、トラップ材料は多孔質構造を有することも好ましい。トラップ材料がこれらの構造を有することによりその表面積が大きくなり、トラップ効果が増大しやすい。
【0025】
図1において、高分離領域105は空隙であるが、分離領域105に、p型無機酸化物、n型の無機酸化物、p型有機化合物またはn型有機化合物を含有する材料が充填されていてもよい。これらはハロゲンやイオウ、酸素等を吸着するかマイグレーションを抑制することにより導電性領域の導電性の低下を抑制できる。n型の無機酸化物として酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムから選ぶことができる。これらの中では酸化チタン、酸化ジルコニウムが膜の安定性や形成しやすく、また中性pHでゼータ電位が0に近く陽イオンや陰イオンとの相互作用が少ないことから好ましい。さらには原料の供給の点で酸化チタンがより好ましい。p型の無機酸化物として酸化ニッケル、酸化モリブデン、酸化鉄、酸化銅から選ぶことができる。これらの中では酸化ニッケルが膜の安定性や作製しやすさ、また中性pHでゼータ電位が0に近く陽イオンや陰イオンとの相互作用が少ないことから好ましい。p型の有機分子としてはポリチオフェンやポリアニリン等の骨格を有するポリマーが好ましい。n型の有機分子としてはフラーレン骨格を有するものが好ましい。
【0026】
実施形態において、第2の酸化物層の上にグラフェン層(図示せず)を有することが好ましい。実施形態において、グラフェン層は、シート形状を有するグラフェンが1層~数層積層した構造を有している。積層されているグラフェン層の数は特に限定されないが、十分な、透明性、導電性、またはイオンの遮蔽効果を得ることができるように1~6層であることが好ましく、2~4層であることがより好ましい。
【0027】
そして、そのグラフェンは、グラフェン骨格に例えば下式に示されるようなポリアルキレンイミン、特にポリエチレンイミン鎖が結合した構造を有していることが好ましい。また、グラフェン骨格の炭素は一部窒素によって置換されていることも好ましい。
【化1】
【0028】
上式中、ポリアルキレンイミン鎖として、ポリエチレンイミン鎖を例示している。アルキレンイミン単位に含まれる炭素数は、2から8が好ましく、炭素数2の単位を含むポリエチレンイミンが特に好ましい。また直鎖状ポリアルキレンイミンだけではなく、分岐鎖や環状構造を有するポリアルキレンイミンを用いることもできる。ここで、n(繰り返し単位数)は10~1000が好ましく、100~300がより好ましい。
【0029】
グラフェンは無置換または窒素ドープが好ましい。窒素ドープグラフェンは陰極に好ましい。ドープ量(N/C原子比)はX線光電子スペクトル(XPS)で測定することができ、0.1~30atom%であることが好ましく、1~10atom%であることがより好ましい。グラフェン含有層は遮蔽効果が高く、酸やハロゲンイオンの拡散を防ぐことにより金属酸化物や金属の劣化を防ぎ、外部からの不純物の光電変換層への侵入をふせぐことができる。さらに窒素置換されたグラフェン含有層(N-グラフェン含有層)は窒素原子を含んでいることから酸に対するトラップ能も高いので、遮蔽効果はより高いものとなっている。
【0030】
また、グラフェン含有層または第2の酸化物層の上にさらに金属酸化物層(第3の酸化物層)があってもよい。このような層が存在すると導電性と金属のマイグレーションを防止する機能のバランスがとりやすい。
【0031】
第3の酸化物層を構成する酸化物は、例えば酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムから選ぶことができる。これらはn型の半導体になりやすく、電極を陰極に用いる場合には好ましい。これらの中では酸化チタン、酸化ジルコニウムが酸化物層の安定性や形成しやすさ、また中性pHでゼータ電位が0に近く陽イオンや陰イオンとの相互作用が少ないことから好ましい。さらには原料の供給の点で酸化チタンがより好ましい。
【0032】
また、グラフェン含有層の上に、p型無機酸化物、n型の無機酸化物、p型有機化合物またはn型有機化合物を含有する材料を含む層を設けることもできる。ここで用いることができる材料は、上記の分離領域に充填することができる材料と同様のものから選択することができる。
【0033】
さらに、グラフェン含有層の上に、酸化グラフェン層を形成することができる。ここで酸化グラフェン含有層に含まれる酸化グラフェンは、グラフェン骨格が酸化されているが、修飾されていないことが好ましい。そのような未修飾の酸化グラフェン含有層を積層することにより、透明電極またはそれを含む電子デバイスの仕事関数を大きくすると共にイオンに対する遮蔽性を高めることができる。
【0034】
なお、ここに説明した各層は、2層以上を積層した構造であってもよい。その場合には、積層される層の材料や製造方法は同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
実施形態において、構造の異なる複数の分離領域を有することができる。例えば、分離構造がトレンチ状の構造である場合、その幅が連続的または不連続に変化していてもよい。透明電極の形状は、目的とする素子構造に応じてデザインされるが、素子構造によって決定される形状が、劣化しやすい形状となることもある。このため劣化されやすい部の近傍には面積の大きな分離領域を配置して、トラップ能力を高くし、素子機能の劣化を抑制することが可能となる。また劣化しやすい形状または材料を有する導電性領域について、その周囲を分離領域で囲まれた構造とすることで、その導電性領域の劣化を抑制することが可能となる。
【0036】
[実施形態2]
第2の実施形態に係る透明電極200の製造方法を
図2を参照しながら説明すると以下の通りである。
【0037】
実施形態による透明電極の製造方法は、基材上に導電性領域を構成する積層体を形成し、その後に積層体をパターニングして、積層体を複数の導電性領域に分離することを含む。
【0038】
まず、透明基材201を準備する(工程(a):
図2(A))。透明基材201は、平滑なものであることが好ましく、透明基材の製造に先立って、研磨などによって平滑性処理を施したり、コロナ処理などを施すことができる。
【0039】
次に、透明基材上に導電性領域を構成する積層体を形成する(工程(b):
図2(B))。
工程(b)は、
(b1)前記透明基材201の上に、第1の透明導電性金属酸化物層202を形成する工程;
(b2)前記第1の透明導電性金属酸化物層202の上に金属層203を形成する工程;および
(b3)前記金属層203の上に第2の透明導電性金属酸化物層204を形成する工程;
の素工程を、この順に行うことを含む。
【0040】
工程(b1)において、第1の酸化物層202を形成する。第1の酸化物層202は、例えば低温でのスパッタにより形成することができる。低温スパッタによってアモルファス無機酸化物層を形成し、さらにアニールによってアモルファス無機酸化物を部分的に結晶化して混合体とすることができる。アニールは高温雰囲気やレーザーアニールが好ましい。この第1の酸化物層202は、基材201上に均一に、すなわちパターン化されていない一様な膜として形成される。
【0041】
次に工程(b2)において、金属膜203を形成する。金属層103は、例えばスパッタまたは蒸着で形成できるがスパッタが好ましい。この金属層203は、第1の酸化物層202の上に一様な膜として形成される。
【0042】
次に工程(b3)において、第2の酸化物層204を形成する。第2の酸化物層も、第1の酸化物層において挙げた方法と同様の方法から選択した方法で製造することができる。用いられる材料および方法は、第1の酸化物層と同じであっても異なっていてもよい。
【0043】
なお、工程(b1)~(b3)は主にスパッタによって製造できることを説明したが、その方法は特に限定されず、任意の方法で形成することができる。
【0044】
必要に応じて、工程(b3)の後、工程(b4)において、第2の酸化物層204の上にグラフェン含有層を形成することもできる。
【0045】
グラフェン含有層は、任意の方法で形成させることができるが、塗布法によって形成させることが好ましい。塗布法によれば、基材201または第2の酸化物層204が大面積を有する場合にも、電極を容易に製造できる。
【0046】
典型的には、グラフェンを分散媒中に分散させた分散液を第2の酸化物層204の上に塗布し、必要に応じて乾燥することによってグラフェン含有層を得ることができる。ここで用いられるグラフェンは、無置換または非修飾のグラフェンであっても、グラフェン骨格の炭素が窒素に置換されたN-グラフェンであっても、グラフェン骨格にアルキレンイミン鎖が結合した修飾グラフェンであってもよい。また、グラフェンとしてアルキル鎖等で置換された酸化グラフェンを用いて一時的に酸化グラフェン含有層を形成し、形成された酸化グラフェン含有層にヒドラジン化合物やアミン化合物、例えば水和ヒドラジンを適用して酸化グラフェンを還元することによっても形成できる。
【0047】
グラフェン等を含有する分散液に含まれる分散媒としては、水、アルコール類、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロルベンゼン、またはこれらの混合物と幅広い溶剤が用いられる。これらの中では水は環境的に最も好ましく、安価である。
【0048】
グラフェン含有層は、その他、
(i)積層体の表面上に、メタンや水素などの基本原料に加えて、アンモニア、ピリジン、メチルアミン、エチレンジアミン、または尿素などの低分子窒素化合物を組み合わせて、化学蒸着法によってN-グラフェン含有層を形成させる、
(ii)別の基材上にグラフェン含有を形成させた後、それを積層体の上に転写する、
(iii)積層体の表面に無置換グラフェン膜を形成させた後、窒素プラズマ中で処理して製造する、
などの方法で、グラフェン含有層を形成することもできる。
【0049】
必要に応じて、工程(b)の前後、または工程(b1)~(b4)の間のいずれか、にその他の層を形成することもできる。特に工程(b4)の後に、グラフェン含有層の上に酸化グラフェン含有層を形成する工程(工程(b5))を追加することもできる。例えば、グラフェン含有層の上に酸化グラフェン分散液を塗布することができる、酸化グラフェン水性分散液は、下地となるグラフェン含有層との親和性が高いので、均一な膜を形成しやすい。酸化グラフェンはメタールやエタノール等の有機溶媒に分散液して塗布してもよい。
【0050】
また、必要に応じて、工程(b4)の後に、グラフェン含有層の上に第3の酸化物層を形成する工程(工程(b5’)を追加することもできる。
【0051】
第3の酸化物層はスパッタ法、ゾルゲル法等の種々の方法で形成できるが、金属アルコキシドのアルコール溶液を塗布した後、含水雰囲気中で加熱処理することにより形成することが薄く、大面積で均一なアモルファス膜を形成できることから好ましい。
【0052】
工程(b5)と工程(b5’)との両方を追加することもできるが、その場合には、いずれを先に行ってもよい。
【0053】
また、第1の透明導電性金属酸化物層、金属層、第2の透明導電性金属酸化物層、グラフェン含有層を、酸化グラフェン含有層それぞれ2段階以上に分けて製造することもできる。その場合には、それぞれの段階において用いられる材料や方法は同じであっても異なっていてもよい。
【0054】
このようにして積層体206を形成した後、パターニングにより積層体を分離して、複数の導電性領域206aを形成する(工程(c)、
図2(C))。パターニングにより積層体が除去された部分は、分離領域205となる。
【0055】
パターニングは任意の方法により行うことができるが、メカニカルスクライブ、レーザースクライブ、またはエッチングが好ましく用いられる。これらのうち、メカニカルスクライブまたはレーザースクライブを用いると、金属層203が加工される際に、金属材料が粒子状になって分離領域に付着することが多い。この粒子状の金属は、そのままトラップ材料の原料として利用できるので、透明電極の形成をより効率的に行うことができる。
【0056】
次に、工程(C)において形成された分離領域205に、トラップ材料を配置する(工程(D))。トラップ材料は、トラップ材料を独立に形成させてから分離領域に配置しても、分離領域内においてトラップ材料の原料を反応させて形成させてもよい。特に、工程(C)においてスクライブを行った場合、積層体を構成する金属層203に由来する金属の粒子が分離領域に残存することがある。このような場合、分離領域にハロゲン化物またはイオウ化合物を導入することで、それが金属粒子と反応する。この結果、分離領域に、銀などの金属と、ハロゲン化銀または銀のイオウ化合物などの金属のハロゲン化物またはイオウ化合物とを含むトラップ材料が形成される。また、金属層203の側面は分離領域露出しているので、その部分にもトラップ材料が形成される。
【0057】
このほか、金属と、金属のハロゲン化物またはイオウ化合物とを含むトラップ材料を独立に形成させ、その分散液を塗布し、乾燥することで、トラップ材料を分離領域内に配置することもできる。また、粒子状のトラップ材料を、半導体材料などに分散させ、その分散物を分離領域に充填してもよい。さらには、それ自体がトラップ材料である絶縁性無機物を分離領域に充填することもできる。
【0058】
なお、トラップ材料は、分離領域だけではなく、積層体の上面に配置してもよい。このような構成により、酸素、ハロゲン、またなイオウによる影響をより低減することができる。
【0059】
[実施形態3-1]
図3を用いて、第3の実施形態の一つに係る電子デバイスの構成について説明する。
図3は、本実施形態に係る電子デバイスの一例である光電変換素子(太陽電池セル)300の構成概略図である。太陽電池セル300は、このセルに入射してきた太陽光L等の光エネルギーを電力に変換する太陽電池としての機能を有する素子である。太陽電池セル300は、実施形態による透明電極310と、対向電極330と、その間に設けられた光電変換層320とを具備している。
【0060】
ここで透明電極310は第1の実施形態に対応するものであり、透明基材311、第1の透明導電性金属酸化物層312、金属層313、および第2の透明導電性金属酸化物層314が積層された構造を有する複数の導電性領域を有しており、その間に分離領域315がある。そして、分離領域315にはトラップ材料317が配置されている。
【0061】
光電変換層320は、入射してきた光の光エネルギーを電力に変換して電流を発生させる半導体層である。光電変換層320は、一般に、p型の半導体層とn型の半導体層とを具備している。光電変換層としては、p型ポリマーとn型材料との積層体、RNH3PbX3(Xはハロゲンイオン、Rはアルキル基等)、シリコン半導体、InGaAsやGaAsやカルコパイライト系やCdTe系やInP系やSiGe系、Cu2Oなどの無機化合物半導体、量子ドット含有型、さらには色素増感型の透明半導体などを用いることができる。いずれの場合も効率が高く、また、実施形態による透明電極を備えることにより出力の劣化が小さい。
【0062】
光電変換層320と透明電極310の間には電荷注入を促進またはブロックするためにバッファ層が挿入されていてもよい。また、対向電極330と光電変換層320の間には別の電荷バッファ層や電荷輸送層が挿入されていてもよい。
【0063】
陽極用バッファ層や電荷輸送層としては例えばバナジウム酸化物、PEDOT/PSS、p型ポリマー、五酸化バナジウム(V2O5)、2,2’,7,7’-Tetrakis[N,N-di(4-methoxyphenyl)amino]-9,9’- spirobifluorene(以下、Spiro-OMeTADという)、酸化ニッケル(NiO)、三酸化タングステン(WO3)、三酸化モリブデン(MoO3)等からなる層を用いることができる。
【0064】
一方、陰極となる透明電極用のバッファ層や電荷輸送層としてはフッ化リチウム(LiF)、カルシウム(Ca)、6,6’-フェニル-C61-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C61-butyric acid methyl ester、C60-PCBM)、6,6’-フェニル-C71-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C71-butyric acid methyl ester、以下C70-PCBMという)、インデン-C60ビス付加体(Indene-C60 bisadduct、以下、ICBAという)、炭酸セシウム(Cs2CO3)、二酸化チタン(TiO2)、poly[(9,9-bis(3’-(N,N-dimethylamino)propyl)-2,7-fluorene)-alt-2,7-(9,9-dioctyl- fluorene)](以下、PFNという)、バソクプロイン(Bathocuproine、以下BCPという)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、ポリエチンイミン等からなる層を用いることができる。
【0065】
なお、光電変換層と透明電極の間に、ブルッカイト型酸化チタン層を設けることができる。酸化チタンには、ルチル型、アナターゼ型、およびブルッカイト型の3種類の結晶構造があることが知られている。実施形態においては、このうちブルッカイト型酸化チタンを含む層を用いることが好ましい。このブルッカイト型酸化チタン層は、光電変換層から導電層へのハロゲンの移動、および導電層から光電変換層への金属イオンの移動を抑制する効果を奏する。このため、電極や電子デバイスの長寿命化が可能となる。このようなブルッカイト型酸化チタン層は、ブルッカイト型酸化チタンのナノ粒子、具体的には平均粒子径が5~30nmの粒子からなるものが好ましい。ここで、平均粒子径は粒度分布測定装置により測定した。このようなブルッカイト型ナノ粒子は、例えば高純度化学研究所などから市販されている。
【0066】
対向電極330は、任意の電極を用いることができ、実施形態による透明電極を用いることもできる。一般的には不透明な金属電極が用いられる。このような金属電極んの材料としては、ステンレス、銅、チタン、ニッケル、クロム、タングステン、金、銀、モリブデン、すず、亜鉛等が用いられる。
【0067】
また、対向電極330として、無置換の平面状の単層グラフェンを含有していてもよい。無置換の単層グラフェンは、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして銅箔を下地触媒層としたCVD法により形成することができる。たとえば熱転写フィルムと単層グラフェンを圧着した後、銅を溶解して、単層グラフェンを熱転写フィルム上に転写する。同様の操作を繰り返すことに複数の単層グラフェンを熱転写フィルム上に積層することができ、2~4層のグラフェン層を形成する。この膜に銀ペースト等を用いて集電用の金属配線を印刷することで対向電極とすることができる。無置換のグラフェンの代わりに、一部の炭素がホウ素で置換されたグラフェンを用いてもよい。ホウ素置換グラフェンはBH3、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして同様に形成できる。これらのグラフェンは熱転写フィルムからPET等の適当な基材上に転写することもできる。
【0068】
またこれらの単層または多層グラフェンに電子ドナー分子として3級アミンをドーピングしてもよい。このようなグラフェン層からなる電極も透明電極として機能する。
【0069】
実施形態による太陽電池セルは、両面を透明電極に挟まれた構造とすることができる。このような構造を有する太陽電池は、両面からの光を効率よく利用することができる。エネルギー変換効率は一般に5%以上であり、電極基材が透明なポリマーで構成されている場合には、長期間安定でフレキシブルであるという特徴を有する。
【0070】
また、対向電極330として、ITOなどの金属酸化物層を有する、ガラス透明電極を用いることができる。この場合には、太陽電池のフレキシビリティは犠牲になるが高効率で光エネルギーを利用することができる。
【0071】
太陽電池セルは、紫外線カット層、ガスバリア層などをさらに有することができる。紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ第3ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;フェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート等のサリチル酸エステル系化合物が挙げられる。これらの化合物は400nm以下の紫外線をカットすることが望ましい。
【0072】
ガスバリア層としては特に水蒸気と酸素を遮断するものが好ましく、特に水蒸気を通しにくいものが好ましい。例えば、SiN、SiO2、SiC、SiOxNy、TiO2、Al2O3の無機物からなる層、超薄板ガラス等を好適に利用することができる。ガスバリア層の厚みは特に制限されないが、0.01~3000μmの範囲であることが好ましく、0.1~100μmの範囲であることがより好ましい。0.01μm未満では十分なガスバリア性が得られない傾向にあり、他方、前記3000μmを超えると重厚化しフレキシブル性や柔軟性等の特長が消失する傾向にある。ガスバリア層の水蒸気透過量(透湿度)としては、102g/m2・d~10-6g/m2・dが好ましく、より好ましくは10g/m2・d~10-5g/m2・dであり、さらに好ましくは1g/m2・d~10-4g/m2・dである。尚、透湿度はJIS Z0208等に基づいて測定することができる。ガスバリア層を形成するには、乾式法が好適である。乾式法によりガスバリア性のガスバリア層を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、誘導加熱蒸着、及びこれらにプラズマやイオンビームによるアシスト法などの真空蒸着法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン)スパッタリング法などのスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法(PVD法)、熱や光、プラズマなどを利用した化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。中でも、真空下で蒸着法により層形成する真空蒸着法が好ましい。
【0073】
実施形態による透明電極は基材を具備している。しかしながら、透明基材の製造後、必要に応じて透明基材を除去することもできる。具体的には、電子デバイスの製造過程において、透明基材とその上に形成される光電変換層とを一体化した後、基材を剥離除去することもできる。このような場合には、基材は電極構造を形成するための支持体であるので透明である必要は無く、金属や不透明な樹脂材料などを用いることができる。
【0074】
なお、本実施形態の太陽電池セルは光センサーとしても使用できる。
【0075】
[実施形態3―2]
図4を用いて、第3の別の実施形態に係る有機EL素子400の構成概略図である。有機EL素子400は、この素子に入力された電気エネルギーを光Lに変換する発光素子としての機能を有する素子である。有機EL素子400は、実施形態による透明電極410と、対向電極430と、その間に設けられた光電変換層(発光層)420とを具備している。
【0076】
ここで透明電極410は第1の実施形態1に対応するものであり、透明基材411、第1の透明導電性金属酸化物層412、金属層413、および第2の透明導電性金属酸化物層414が積層された構造を有する複数の導電性領域を有しており、その間に分離域415がある。そして、分離領域415にはトラップ材料417が配置されている。
【0077】
光電変換層420は、透明電極410から注入された電荷と対向電極430から注入された電荷を再結合させ電気エネルギーを光に変換させる層である。光電変換層420は、一般的にp型の半導体層とn型の半導体層から構成されるが、光電変換機能を有する任意の材料を用いることができる。光電変換層420と対向電極430の間には電荷注入を促進またはブロックするためバッファ層が設けられ、光電変換層420と透明電極の間にも別のバッファ層が設けられていてもよい。対向電極430は、通常は金属電極であるが透明電極を用いてもよい。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
図5に示す構造の透明電極500を作成する。厚さ100μmのPETフィルム501上にアモルファスITO(a-ITO)層502(45~52nm)、銀およびパラジウムを含む合金層503(5~8nm)、a-ITO層504(45~52nm)の積層構造をスパッタ法で作成する。その積層構造の表面抵抗は7~10Ω/□である。次にメカニカルスクライブにより13mm間隔で幅約70μmの分離領域505を形成させ、複数の導電領域506を形成させる。顕微鏡観察では分離領域には粒子状の銀合金が点在する。また積層電極の側面には銀合金の表面が出ている。この透明電極を3%塩水中に浸漬して+0.5V(対銀―塩化銀電極)で10分間電位をかける。水洗後シート抵抗を測定すると抵抗の増大は10%以下である。また顕微鏡で観察するとスクライブ端表面に白い塩化銀の生成が認められ、分離領域内には粒子状の白い塩化銀が認められる。この塩化銀と、その反応原料となった銀(粒子状銀合金および側面に露出した金属層)とがトラップ材料507を構成している。
【0079】
(実施例2)
実施例1と同様にして積層電極を作成する。次にレーザースクライブにより13mm間隔で幅約40μmの分離領域を作製する。この透明電極を3%塩水中に浸漬して+0.5V(対銀―塩化銀電極)で10分間電位をかける。水洗後シート抵抗を測定すると抵抗の増大は16%以下である。また顕微鏡で観察するとスクライブ端表面に白い塩化銀の生成が認められる。
【0080】
(比較例1)
実施例1の透明電極をスクライブしないことを除いては実施例1と同様に塩水中で電位をかける。シート抵抗の増大は20%以上である。
【0081】
(実施例3)
厚さ100μmのPETフィルム11上に、a-ITO層(45~52nm)、金属銀層(5~8nm)、a-ITO層(45~52nm)の積層構造をスパッタ法で作成する。表面抵抗は6~9Ω/□である。次にレーザースクライブにより13mm間隔で幅約40μmの分離領域を作製する。次に硫化水素ガスに30秒間暴露する。この透明電極を3%塩水中に浸漬して+0.5V(対銀―塩化銀電極)で10分間電位をかける。水洗後シート抵抗を測定すると抵抗の増大は10%以下である。また顕微鏡で観察するとスクライブ端表面に白い塩化銀の生成が認められる。
【0082】
(比較例2)
実施例3の透明電極をスクライブしないことを除いては実施例3と同様に塩水中で電位をかける。シート抵抗の増大は50%以上である。
【0083】
(実施例4)
実施例1と同様に、a-ITO層、銀およびパラジウムを含む合金層、a-ITO層の積層構造をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は8~10Ω/□である。その上に平面状の、炭素原子の一部が窒素原子に置換された、平均4層のN-グラフェン膜が積層されたバリア層を形成する。
バリア層は以下の通り形成する。まず、Cu箔の表面をレーザー照射によって加熱処理し、アニールにより結晶粒を大きくする。このCu箔を下地触媒層とし、アンモニア、メタン、水素、アルゴン(15:60:65:200ccm)を混合反応ガスとして1000℃、5分間の条件下、CVD法により平面状の単層N-グラフェン層を製造する。この時、ほとんどの部分は単層のグラフェン層が形成されるが、条件により一部に2層以上のN-グラフェンが積層された部分も生成するが、便宜的に単層グラフェン層と呼ぶ。さらにアンモニア、アルゴン混合気流下1000℃で5分処理した後、アルゴン気流下で冷却する。熱転写フィルム(150μm厚)と単層N-グラフェンを圧着した後、Cuを溶解するため、アンモニアアルカリ性の塩化第二銅エッチャントに浸漬して、単層N-グラフェン層を熱転写フィルム上に転写する。同様の操作を繰り返すことに単層グラフェン層を熱転写フィルム上に4層積層して多層N-グラフェン層を得る。
【0084】
熱転写フィルムを準備した積層構造の上にラミネートした後、加熱してN-グラフェン層を積層構造上に転写してバリア層505を形成する。
【0085】
XPSで測定されたバリア層(グラフェン含有層)の窒素の含有量は、この条件では1~2atm%である。XPSから測定したカーボン材料の炭素原子と酸素原子の比率は100~200である。
【0086】
次にメカニカルスクライブにより13mm間隔で幅約70μmの分離領域で分離された導電性領域を形成させる。顕微鏡観察では分離領域には粒子状の銀合金が点在する。この透明電極を3%塩水中に浸漬して+0.5V(対銀―塩化銀電極)で10分間電位をかける。水洗後シート抵抗を測定すると抵抗の増大は5%以下である。また顕微鏡で観察するとスクライブ端表面に白い塩化銀の生成が認められ、分離領域内には粒子状の白い塩化銀が認められる。
【0087】
(実施例5)
実施例1と同様に、a-ITO層、銀およびパラジウムを含む合金層、a-ITO層の積層構造をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は8~10Ω/□である。次にレーザースクライブにより13mm間隔で幅約40μmの分離領域を作製する。
【0088】
チタン(IV)イソプロポキシドに対して5wt%のニオブ(V)ブトキシドを含有するイソプロパノール溶液をバーコーターで積層体表面に塗布する。窒素中室温で乾燥後、湿度40%の大気中で130℃のホットプレート上で乾燥してNbがドープされた酸化チタン層74を作製する。
【0089】
この透明電極を3%塩水中に浸漬して+0.5V(対銀―塩化銀電極)で10分間電位をかける。水洗後シート抵抗を測定すると抵抗の増大は5%以下である。
【0090】
(実施例6)
図6に示す太陽電池セル60を作成する。
6角格子状の線幅50μmの銅グリッド611aが形成されたPET基板611上に実施例3と同様の方法によりa-ITO層612、合金層613、a-ITO層614を具備する積層体を形成させる。次いでスクライブにより分離領域615を形成させ、さらに硫化水素に暴露してトラップ材料617を形成させて、透明電極610を形成させる。スクライブの際、銅グリッドが除去されない強度に調整してスクライブを行う。
【0091】
その上にフッ化リチウムの水溶液を塗布して電子注入層620を形成させる。次にC60-PCBMのトルエン溶液をバーコーターで塗布して乾燥させ、電子輸送層630を形成させる。ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)とC60-PCBMとを含むクロルベンゼン溶液をバーコーターで塗布し、100℃で20分乾燥することにより光電変換層640を形成する。これによって、積層体Aが形成される。
【0092】
一面に絶縁性セラミックス層(図示せず)が形成されたステンレス箔650を準備する。絶縁性セラミックス層が形成されていない面の表面を、希塩酸で処理して表面酸化膜を除去し、次に酸化グラフェンの水溶液をバーコーターで塗布して酸化グラフェン含有層を形成させる。次いで、90℃で20分乾燥した後、酸化グラフェン含有層を110℃で水和ヒドラジン蒸気で1時間処理して、酸化グラフェンの炭素原子の一部が窒素原子に置換された2層N-グラフェン層からなるN-グラフェン含有層(バリア層)660に変化させる。
【0093】
N-グラフェン含有層660の上に、ソルビトールを含有したPEDOT・PSSの水溶液をバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥してPEDOT・PSSを含む層670(50nm厚)を形成させる。このPEDOT・PSS層は、接着層および正孔注入層として機能する。これによって積層体Bが形成される。
【0094】
積層体Aの光電変換層640と、積層体BのPEDOT・PSS層670がが接合するように90℃で貼り合わせる。
【0095】
積層体Aの、裏側表面に2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン含有の紫外線カットインクをスクリーン印刷して紫外線カット層680を形成する。紫外線カット層の上に真空蒸着法でシリカ膜を製膜しガスバリア層690を形成し太陽電池セル600を形成する。
【0096】
得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して5%以上のエネルギー変換効率を示し、室外で一か月放置しても効率の劣化は2%未満である。
【0097】
(比較例3)
透明電極をスクライブしないことを除いては実施例6と同様にして太陽電池セルを作製する。得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して5%以上のエネルギー変換効率を示し、室外で一か月放置すると効率の劣化は20%以上である。
【0098】
(実施例7)
有機EL素子を製造する。6角格子状の線幅50μmの銅グリッドが形成されたPET基材上に実施例3と同様にしての方法によりa-ITO層、合金層613、a-ITO層を具備する積層体を形成させる。次いでスクライブにより分離領域を形成させ、さらに硫化水素に暴露して透明電極を形成させる。スクライブの際、銅グリッドが除去されない強度に調整してスクライブを行う。その上に電子輸送層としてフッ化リチウムの水溶液を塗布し、n型の半導体としても機能し、発光層でもあるトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)(40nm)を蒸着して光電変換層を形成する。その上にN,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(以下、NPDという)を30nmの厚さで蒸着し正孔輸送層を形成する。その上に金電極をスパッタ法により製膜する。さらに形成された素子の周囲を封止することにより有機EL素子を形成する。得られる有機EL素子は出力光の劣化が少なく、1000時間連続運転しても出力の低下は5%以下である。
【符号の説明】
【0099】
100…透明電極
101…透明基材
102…第1の透明導電性酸化物層
103…金属層
104…第2の透明導電性酸化物層
105…分離領域
106…導電性領域
107…トラップ材料
200…太陽電池セル
201…透明基材
202…第1の透明導電性酸化物層
203…金属層
204…第2の透明導電性酸化物層
205…分離領域
206…積層体
206a…導電性領域
207…高抵抗領域
300…太陽電池セル
310…透明電極
311…透明基材
312…第1の透明導電性酸化物層
313…金属層
314…第2の透明導電性酸化物層
315…分離領域
317…トラップ材料
320…光電変換層
330…対向電極
400…有機EL素子
410…透明電極
411…透明基材
412…第1の透明導電性酸化物層
413…金属層
414…第2の透明導電性酸化物層
415…分離領域
417…トラップ材料
420…光電変換層(発光層)
430…対向電極
500…透明電極
501…PETフィルム
502…a-ITO
503…銀、Pd合金
504…a-ITO
505…N-グラフェン含有層
507…トラップ材料
600…太陽電池セル
610…透明電極
611…PET基材
611a…銅グリッド
612…a-ITO層
613…合金層
614…a-ITO層
615…分離領域
617…トラップ材料
620…光電変換層
650…ステンレス箔
660…N-グラフェン層
670…PEDOT・PSSを含む層
680…紫外線カット層
690…ガスバリア層