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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/16 20060101AFI20221006BHJP
   F16F 15/121 20060101ALI20221006BHJP
   F16D 3/12 20060101ALI20221006BHJP
   F16D 43/26 20060101ALI20221006BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20221006BHJP
【FI】
F16F15/16 F
F16F15/121
F16D3/12 M
F16D43/26 B
F16H57/04 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018195892
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020063785
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】稲田 弘樹
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第01840277(US,A)
【文献】特開平09-032864(JP,A)
【文献】特開2009-079706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0283009(US,A1)
【文献】特開昭60-091028(JP,A)
【文献】実開平05-094525(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00- 9/10
41/00-47/06
F16F 15/00-15/36
F16H 57/00-57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクケース内で回転するクランクシャフトからの駆動力が入力されるように回転軸を中心に回転可能に構成され、かつ前記クランクシャフトのフランジ部を含む入力軸部材と、
前記クランクケースに隣接したダンパケース内でベアリングを介して、前記回転軸中心に回転可能に支持され、かつ、前記入力軸部材から離れる方向に移動不可能に支持されている出力軸部材と、
それぞれ前記回転軸方向にて互いに対向する対向部分を有するように前記入力軸部材前記出力軸部材との間に配置され、前記クランクシャフトのフランジ部に固定された入力側カムと、前記出力軸部材に回転不可能かつ前記回転軸方向に移動可能に支持され出力側カムとを備えたカム機構であって、前記入力側カムの対向部分上に半径方向に延びる軸回転可能に支持された転動部材を有するカム機構と、
前記出力側カムの前記対向部分を前記転動部材の外周部に当接させるように前記出力側カムを前記回転軸方向に付勢する付勢部材と、を備えるダンパ装置であって、
前記入力側カムの対向部分が前記転動部材の部を受け入れ可能とするように前記入力側カムの対向面に対して凹む受入部を有し、
前記クランクシャフトのフランジ部及び前記入力側カム内を延びる供給通路が設けられ、
前記供給通路が、オイルを溜めることができるように前記クランクシャフトのフランジ部前記クランクケースとで囲まれたオイル溜まり空間と連通する入口と、前記入力側カムの受入部に形成される出口とを有している、ダンパ装置。
【請求項2】
前記クランクシャフトのフランジ部及び前記入力側カム内を延びる排出通路が設けられ、
前記排出通路が、前記入力側カムの対向面に形成される入口と、前記オイル溜まり空間と連通する出口とを有している、請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記供給通路の出口及び前記回転軸線間の第1の距離が、前記排出通路の入口及び前記回転軸線間の第2の距離以下となっている、請求項2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記供給通路が、前記回転軸線方向に対して傾斜する方向に沿って延びている、請求項1~3のいずれか一項に記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転駆動力が入力される入力軸部材と、この入力軸部材から伝えられる回転駆動力を出力する出力軸部材とを有し、入力軸部材及び出力軸部材間にて回転駆動力を伝えることを可能とするように構成されるダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関の回転駆動力を内燃機関の外部に効率的に伝えるために、回転駆動力の伝達経路上にダンパ装置が設置されることがある。典型的に、ダンパ装置は、内燃機関の回転駆動力が入力される入力軸部材と、この入力軸部材から伝えられる回転駆動力を出力する出力軸部材とを有していて、入力軸部材及び出力軸部材間にて回転駆動力を効率的に伝えることを可能とするように構成されている。かかるダンパ装置においては、内燃機関のトルク変動、回転速度変動、これらの変動に起因する振動等が入力軸部材及び出力軸部材間にて伝わることを防止するための機構が設けられ、かかる機構を潤滑することが要求される。そのため、潤滑のためにダンパ装置に内燃機関からオイルが供給されることがある。
【0003】
このようなダンパ装置の一例としては、次のようなトルクダンパが挙げられる。トルクダンパが、内燃機関からの回転動力が入力される入力回転部材と、この入力回転部材と同軸芯に配置され、かつ入力回転部材から伝達される回転動力を出力する出力回転部材と、入力回転部材及び出力回転部材にそれぞれ相対回転不能に設けられ、かつ互いに当接した状態での回転位相の相対変化により軸方向の相対変位を生じる入力側及び出力側ダンパカム部材と、入力及び出力回転部材並びに入力側及び出力側ダンパカム部材を収容するケースとを有し、トルクダンパの外部と入力側及び出力側ダンパカム部材間の空間とを連通するように入力側ダンパカム部材を軸芯に沿って貫通する軸芯側オイル流路が設けられ、入力側ダンパ部材に対して軸方向の入力側に位置するケース内の空隙部にオイルが充填され、軸芯側オイル流路と空隙部とを連通するオイル供給孔が設けられ、空隙部と入力側及び出力側ダンパカム部材間の空間とを連通するように入力側ダンパカム部材の外周上にて軸方向に沿って延びる外周側オイル流路がさらに設けられている。さらに、かかるトルクダンパにおいては、オイルが、軸芯側オイル流路のみを通って又は軸芯側オイル流路、オイル供給孔、空隙部及び外周側オイル流路を通って、入力側及び出力側ダンパカム部材間の空間に流入し、かつオイルが、入力側及び出力側ダンパカム部材間の空間から軸芯側オイル流路のみを通って又は軸芯側オイル流路、オイル供給孔、空隙部及び外周側オイル流路を通って、流出する。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-053673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ダンパ装置の一例に示すようなオイルの通過経路においては、ダンパ装置の内部でオイルを効率的に流すことができず、さらには、ダンパ装置の内部でオイルを効率的に循環させることができない。そのため、かかるダンパ装置においては、オイルを効率的に流し、かつオイルを循環させるために、オイルポンプを用いてオイルを圧送することが必要となる。オイルポンプを用いる場合、オイルポンプの駆動に起因して機械損失が増加するおそれがあり、その結果、燃費が悪化するおそれがある。
【0006】
上記実情を鑑みると、ダンパ装置においては、オイルを効率的に流すことが望まれる。さらには、ダンパ装置においては、オイルを効率的に循環させることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のような課題を解決するために、一態様に係るダンパ装置は、
内燃機関のクランクケース内で回転するクランクシャフトからの駆動力が入力されるように回転軸を中心に回転可能に構成され、かつ前記クランクシャフトのフランジ部を含む入力軸部材と、
前記クランクケースに隣接したダンパケース内でベアリングを介して、前記回転軸中心に回転可能に支持され、かつ、前記入力軸部材から離れる方向に移動不可能に支持されている出力軸部材と、
それぞれ前記回転軸方向にて互いに対向する対向部分を有するように前記入力軸部材前記出力軸部材との間に配置され、前記クランクシャフトのフランジ部に固定された入力側カムと、前記出力軸部材に回転不可能かつ前記回転軸方向に移動可能に支持され出力側カムとを備えたカム機構であって、前記入力側カムの対向部分上に半径方向に延びる軸回転可能に支持された転動部材を有するカム機構と、
前記出力側カムの前記対向部分を前記転動部材の外周部に当接させるように前記出力側カムを前記回転軸方向に付勢する付勢部材と、を備え
前記入力側カムの対向部分が前記転動部材の部を受け入れ可能とするように前記入力側カムの対向面に対して凹む受入部を有し、
前記クランクシャフトのフランジ部及び前記入力側カム内を延びる供給通路が設けられ、
前記供給通路が、オイルを溜めることができるように前記クランクシャフトのフランジ部前記クランクケースとで囲まれたオイル溜まり空間と連通する入口と、前記入力側カムの受入部に形成される出口とを有している。
【発明の効果】
【0008】
一態様に係るダンパ装置においては、オイルを効率的に流すことができる。さらに、一態様に係るダンパ装置においては、オイルを効率的に循環させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係るダンパ装置を、クランクケースの一部及びクランクシャフトの一部と一緒に、回転軸線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図2図2は、本実施形態に係るダンパ装置を、入力軸部材及びダンパケースを省略した状態で概略的に示す分解斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係るダンパ装置における入力軸部材、入力側カム及びダンパケースを、クランクシャフトの一部及びクランクケースのクランクオイルシールと一緒に概略的に示す斜視図である。
図4図4は、図3のA-A線断面図である。
図5図5は、図3のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るダンパ装置について、このダンパ装置を取り付ける車両用エンジンと共に説明する。なお、本発明のダンパ装置は、自動車等の車両用エンジン以外の内燃機関に取り付けることもできる。
【0011】
「ダンパ装置及びエンジンの概略について」
図1図5を参照して、本実施形態に係るダンパ装置1及び車両用エンジンEの概略について説明する。図1に示すように、ダンパ装置1は、エンジンEのクランクシャフトSに連結される。
【0012】
エンジンEは、クランクシャフトSを収容するクランクケースCを有する。クランクシャフトSは、クランクケースC内で回転軸線Rを中心に回転可能になっている。なお、以下においては、回転軸線Rに沿った方向を回転軸線方向(矢印Xにより示す)と呼ぶ。クランクシャフトSの回転軸線方向の一方側端部分s1は、クランクケースCに回転可能に支持されるジャーナル部s2を有する。クランクシャフトSの一方側端部分s1はまた、ジャーナル部s2に対して回転軸線方向の一方側に位置するフランジ部s3を有する。フランジ部s3は、ジャーナル部s2に対して、回転軸線Rと略直交する回転径方向に突出するように形成される。
【0013】
ダンパ装置1は、クランクシャフトSからの駆動力が入力されるように回転軸線Rを中心に回転可能に構成される入力軸部材2を有する。入力軸部材2は、クランクシャフトSのフランジ部s3を含んでいる。図1及び図2に示すように、ダンパ装置1は、入力軸部材2から伝えられる駆動力を出力可能とするように回転軸線Rを中心に回転可能に構成される出力軸部材3を有する。
【0014】
ダンパ装置1は、それぞれ入力軸部材2及び出力軸部材3に接続される入力側カム4及び出力側カム5を有する。入力側及び出力側カム4,5は入力軸及び出力軸部材2,3間に配置される。入力側及び出力側カム4,5は、それぞれ回転軸線方向に互いに対向する対向部分4a,5aを有する。
【0015】
ダンパ装置1は、ダンパベアリング6を含むダンパベアリング組立体7を備える。ダンパベアリング6は、入力側カム4の対向部分4a上で旋回可能に構成される外周部6aを有し、かつ回転軸線方向にて入力側及び出力側カム4,5の対向部分4a,5a間に配置される転動部材となっている。そのため、ダンパベアリング組立体7は、転動部材組立体と呼ぶこともできる。しかしながら、転動部材は、これに限定されず、ダンパベアリング以外であってもよく、例えば、転動部材は、単独で転動可能に構成される円柱状のローラ等であってもよい。
【0016】
さらに、ダンパ装置1は、出力側カム5の対向部分5aをダンパベアリング6の外周部6aに当接させるように出力側カム5を付勢する付勢部材である皿バネ8を有する。なお、ダンパベアリング6は、その外周部6aを出力側カム5の対向部分5aに当接した状態で出力側カム5の対向部分5a上を転動できる。しかしながら、付勢部材は、これに限定されず、皿バネ以外であってもよい。
【0017】
このようなダンパ装置1において、入力側カム4の対向部分4aは、出力側カム5の対向部分5aを向く対向面4bを有する。入力側カム4の対向部分4aはまた、ダンパベアリング6の外周部6aに対応し、かつダンパベアリング6を受け入れ可能とするように入力側カム4の対向面4bに対して凹む受入部4cを有する。
【0018】
図1及び図3図5に示すように、ダンパ装置1は、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4内を延びる供給通路9を有する。そして、ダンパ装置1及びエンジンEにおいては、オイルを溜めることができるようにクランクシャフトSのフランジ部s3及びクランクケースCに囲まれたオイル溜まり空間Pが形成されている。供給通路9は、オイル溜まり空間Pと連通する入口9aと、入力側カム4の受入部4cに形成される出口9bとを有する。エンジンEからのオイルがオイル溜まり空間Pに溜まり、その後、オイル溜まり空間P内のオイルは、供給通路9の入口9aから供給通路9を通って供給通路9の出口9bに到達し、さらに、入力側及び出力側カム4,5の対向部分4a,5a間に配置されるダンパベアリング6に流れることができる。
【0019】
さらに、ダンパ装置1は次のように構成されるとよい。ダンパ装置1は、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4内を延びる排出通路10をさらに有する。排出通路10は、入力側カム4の対向面4bに形成される入口10aと、オイル溜まり空間Pと連通する出口10bとを有する。入力側及び出力側カム4,5の対向部分4a,5a間のオイルは、排出通路10の入口10aから排出通路10を通って排出通路10の出口10bに到達し、さらに、オイル溜まり空間Pに流れることができる。そのため、ダンパ装置1においては、供給通路9及び排出通路10によってオイルを循環させることができる。
【0020】
また、図5に示すように、供給通路9の出口9b及び回転軸線R間の第1の距離d1が、排出通路10の入口10a及び回転軸線R間の第2の距離d2以下となっている。図1及び図3に示すように、供給通路9は、回転軸線方向に対して傾斜する方向に沿って延びている。
【0021】
「エンジンの詳細について」
図1を参照すると、エンジンEは詳細には次のように構成されるとよい。エンジンEのクランクケースCは、エンジンEのシリンダブロックの一部となっている。しかしながら、クランクケースは、これに限定されない。
【0022】
かかるクランクケースCは、回転軸線Rに沿って貫通する貫通孔c1を有する。貫通孔c1は、クランクシャフトSのジャーナル部s2に対応するように形成される。クランクケースCは、貫通孔c1の周縁部に沿って配置されるクランクメタルc2を有する。かかるクランクメタルc2がクランクシャフトSのジャーナル部s2を回転可能に支持する一方で、クランクシャフトSのジャーナル部s2とクランクメタルc2との間には隙間Gが形成される。オイルは隙間Gを流れることができる。
【0023】
クランクケースCは、その外側面c3に対して凹むオイル溜まり凹部c4を有する。オイル溜まり凹部c4は、クランクシャフトSのフランジ部s3に対応して形成される。フランジ部s3は、オイル溜まり凹部c4に受け入れられるようになっている。オイル溜まり凹部c4は、底面c5と、この底面c5の外周縁から回転軸線方向の一方側に向かって延びる周面c6とを有する。貫通孔c1は、オイル溜まり凹部c4の底面c5にて開口する。
【0024】
さらに、クランクケースCは、クランクシャフトSのフランジ部s3とクランクケースCのオイル溜まり凹部c4の周面c6との間におけるオイル漏れを防ぐように構成されるクランクオイルシールc7を有する。クランクオイルシールc7は、回転軸線方向にてクランクシャフトSのフランジ部s3に対応し、かつオイル溜まり凹部c4の周面c6に沿って配置される。
【0025】
かかるエンジンEにおいて、オイル溜まり空間Pは、フランジ部s3とオイル溜まり凹部c4とによって囲まれるように形成される。さらに、オイル溜まり空間Pは、フランジ部s3とオイル溜まり凹部c4の底面c5及び周面c6とクランクオイルシールc7とによって囲まれるように形成されるとよい。
【0026】
「ダンパ装置の詳細について」
図1及び図2を参照すると、ダンパ装置1は詳細には次のように構成されるとよい。図1及び図2に示すように、ダンパ装置1は3つのダンパベアリング組立体7を有する。しかしながら、ダンパ装置は、少なくとも1つのダンパベアリング組立体、好ましくは、2つ以上のダンパベアリング組立体、より好ましくは、3つ以上のダンパベアリング組立体を有するとよい。また、1つのダンパベアリング組立体7は3つのダンパベアリング6を有していて、ダンパ装置1は9つのダンパベアリング6を有する。しかしながら、1つのダンパベアリング組立体は少なくとも1つのダンパベアリングを有すればよく、ダンパ装置は、少なくとも1つのダンパベアリング、好ましくは、2つ以上のダンパベアリング、より好ましくは、3つ以上のダンパベアリングを有するとよい。
【0027】
ダンパ装置1はまた7つの皿バネ8を有する。しかしながら、ダンパ装置は、少なくとも1つの皿バネを有すればよい。また、ダンパ装置1が複数の皿バネ8を有する場合、複数の皿バネ8は回転軸線方向にて直列に並んで配置されるとよい。
【0028】
図1に示すように、ダンパ装置1は、その筐体として構成されるダンパケース11を有する。ダンパケース11は、それぞれ入力軸部材2及び出力軸部材3に対応するようにダンパケース11を貫通する入力軸挿入孔11a及び出力軸挿入孔11bを有する。
【0029】
入力軸及び出力軸部材2,3は、それぞれ、これらの入力軸及び出力軸挿入孔11a,11bに挿入されており、この状態で、ダンパケース11は、その内部にオイルを溜めることができるように構成される。また、入力軸部材2の回転軸線方向の一方側端部2aはダンパケース11の内部に位置し、かつ入力軸部材2の回転軸線方向の他方側端部2bはダンパケース11の外部に位置する。出力軸部材3の回転軸線方向の一方側端部3aはダンパケース11の内部に位置し、かつ出力軸部材3の回転軸線方向の他方側端部3bはダンパケース11の外部に位置する。
【0030】
図1及び図2に示すように、ダンパ装置1は、回転軸線Rに沿って配置され、かつ入力側カム4に取り付けられる入力側センタベアリング12を有する。入力側センタベアリング12は、出力側部材3の回転軸線方向の他方側端部3bを回転可能に支持する。ダンパ装置1はまた、入力側センタベアリング12を入力側カム4に対して保持するための保持部材であるサークリップ13を有する。なお、かかる保持部材は、これに限定されず、サークリップ以外であってもよい。
【0031】
ダンパ装置1は、皿バネ8を弾性変形可能な状態で出力側カム5に対して保持するための皿バネホルダ14を有する。かかる皿バネホルダ14は、付勢部材ホルダと呼ぶこともできる。
【0032】
ダンパ装置1は、回転軸線Rに沿って配置され、かつダンパケース11に取り付けられる出力側センタベアリング15を有する。出力側センタベアリング15は、入力側センタベアリング12に対して回転軸線方向の一方側に間隔を空けて位置する。
【0033】
ダンパ装置1はまた、出力軸部材3とダンパケース11の出力軸挿入孔11bとの間におけるオイル漏れを防ぐように構成されるダンパオイルシール16を有する。ダンパオイルシール16は、出力軸挿入孔11bの周縁部に沿うように配置されている。ダンパオイルシール16はまた、出力側センタベアリング15に対して回転軸線方向の一方側に位置する。
【0034】
かかるダンパ装置1において、ダンパケース11は、入力軸部材2の一部と、出力軸部材3の一部と、入力側カム4と、出力側カム5と、ダンパベアリング6を有するダンパベアリング組立体7と、皿バネ8と、入力側センタベアリング12と、サークリップ13と、皿バネホルダ14と、出力側センタベアリング15とをダンパケース11の内部に収容する。
【0035】
「入力軸及び出力軸部材の詳細について」
図1及び図2を参照すると、入力軸及び出力軸部材2,3は詳細には次のように構成されるとよい。図1に示すように、入力軸部材2は、クランクシャフトSのフランジ部s3と一体になっている。特に、フランジ部s3が入力軸部材2になっているとよい。図1及び図2に示すように、出力軸部材3は回転軸線Rに沿って延びている。入力軸及び出力軸部材2,3は、同一の回転軸線Rに沿って配置され、かつ同一の回転軸線Rを中心に回転可能になっている。出力軸部材3は皿バネ8の貫通孔8aに挿入される。
【0036】
「入力側カムの詳細について」
図1図2及び図5を参照すると、入力側カム4は詳細には次のように構成されるとよい。図1に示すように、入力側カム4は、クランクシャフトSのフランジ部s3と回転軸線方向に当接するように配置される。入力側カム4は、フランジ部s3に対して回転軸線方向の一方側に位置する。入力側カム4は、フランジ部s3に対して回転径方向に突出するように形成される。
【0037】
図2及び図5に示すように、入力側カム4は、9つのダンパベアリング6に対応した9つの受入部4cを有する。しかしながら、入力側カム4は、n個のダンパベアリング6に対応したn個の受入部4cを有することができる(nは正の整数)。受入部4cは、略円弧形状の横断面を有するように延びている。かかる受入部4cの軸線は、回転軸線Rに略直交すると共に回転径方向に沿って配置されている。
【0038】
入力側カム4は、互いに同一の軸線に沿ってかつ互いに間隔を空けて配置されるように隣り合う受入部4cを有するとよい。例えば、図5においては、入力側カム4が、3つの受入部4cから成る3つの受入部集合体4dを有し、かつ各受入部集合体4dにおいて、3つの受入部4cが、互いに同一の軸線に沿ってかつ互いに間隔を空けて配置されていて、入力側カム4は、同一の軸線に沿って、かつ互いに間隔を空けて配置されるように隣り合う受入部4cを有する。
【0039】
このように隣り合う受入部4cの間には、後述するダンパベアリング組立体7のベアリングシャフト17を支持するシャフト支持部4eが設けられている。シャフト支持部4eは入力側カム4の対向部分4aと一体に形成されるとよい。しかしながら、隣り合う受入部は回転径方向にて互いに連結することもできる。
【0040】
「出力側カムの詳細について」
図1及び図2を参照すると、出力側カム5は詳細には次のように構成されるとよい。出力側カム5は、回転軸線Rに沿って出力側カム5を貫通する貫通孔5bを有する。貫通孔5bは、出力軸部材3に対応するように形成される。
【0041】
出力側カム5は、出力軸部材3に対して回転軸線方向にて移動可能である一方で回転軸線R周りの回転阻止されるように貫通孔5bに挿入された状態で、出力軸部材3に取り付けられる。出力側カム5は、皿バネ8に対して回転軸線方向の他方側に位置し、皿バネ8によって回転軸線方向の一方側から同他方側に向かって付勢される。皿バネホルダ14は出力軸部材3に対して回転軸線方向の移動が規制され、その結果、皿バネ8が出力側カム5を回転軸線方向の一方側から同他方側に向かって付勢する。
【0042】
「ダンパベアリング及びダンパベアリング組立体の詳細について」
図1及び図2を参照すると、ダンパベアリング6及びダンパベアリング組立体7は詳細には次のように構成されるとよい。ダンパベアリング6の外周部6aは、ダンパベアリング6のベアリング軸線6bを中心に回転可能になっている。ベアリング軸線6bは、回転軸線Rに略直交すると共に回転径方向に沿って配置されている。かかるダンパベアリング6は、それに対応する入力側カム4の受入部4cに受け入れられる。ダンパベアリング6はまた、回転可能に入力側カム4に取り付けられる。
【0043】
ダンパベアリング組立体7は、ダンパベアリング6を回転可能に支持するベアリングシャフト17を有する。1つのダンパベアリング組立体7において、ダンパベアリング6は、そのベアリング軸線6bをベアリングシャフト17の長手方向に沿ったベアリングシャフト軸線17aに略一致させるように配置される。ベアリングシャフト17は、ダンパベアリング6の貫通孔6c及び入力側カム4のシャフト支持部4eの貫通孔4fに挿入された状態で入力側カム4に取り付けられる。
【0044】
「供給通路の詳細について」
図1及び図3図5を参照すると、供給通路9は詳細には次のように構成されるとよい。図3図5に示すように、ダンパ装置1は3つの供給通路9を有する。しかしながら、ダンパ装置は少なくとも1つの供給通路を有するように構成することができる。ダンパ装置1が複数の供給通路9を有する場合において、複数の供給通路9は、回転軸線R周りの回転周方向にて互いに間隔を空けて配置され、特に、複数の供給通路9は、回転周方向にて略等間隔に配置されるとよい。
【0045】
図1及び図3図5に示すように、供給通路9は、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4を貫通するように形成される。供給通路9は略直線状に延びるように形成される。供給通路9の入口9aは、供給通路9の出口9bよりも回転軸線Rに接近するように配置される。
【0046】
「排出通路の詳細について」
図1及び図3図5を参照すると、排出通路10は詳細には次のように構成されるとよい。図3図5に示すように、ダンパ装置1は3つの排出通路10を有する。しかしながら、ダンパ装置は少なくとも1つの排出通路を有するように構成することができる。ダンパ装置1が複数の排出通路10を有する場合において、複数の排出通路10は、回転周方向にて互いに間隔を空けて配置され、特に、複数の排出通路10は、回転周方向にて略等間隔に配置されるとよい。
【0047】
図1及び図3図5に示すように、排出通路10は、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4を貫通するように形成される。排出通路10は略直線状に延びるように形成される。排出通路10は回転軸線方向に沿って延びている。しかしながら、排出通路は、回転軸線方向に対して傾斜する方向に沿って延びるように形成することもできる。
【0048】
「ダンパ装置内のオイルの流れについて」
本実施形態に係るダンパ装置1内のオイルの流れについて説明する。最初に、エンジンEのクランクケースC内にはクランクシャフトS等を潤滑させるオイルが存在する。クランクシャフトSが回転した状態で、クランクケースC内のオイルが、クランクシャフトSのジャーナル部s2とクランクメタルc2との間における隙間Gを通ってオイル溜まり空間Pに流れる。
【0049】
かかるオイルは、隙間Gを通ってオイル溜まり空間Pに流れたときの圧力によって供給通路9の入口9aに送られる。その後、オイルは、オイル溜まり空間Pから供給通路9の入口9aに送られたときの慣性力と、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4の回転に起因する遠心力とによって供給通路9から供給通路9の出口9bを通って入力側カム4の受入部4cに送られる。入力側カム4の受入部4cに送られたオイルは、ダンパベアリング6を潤滑させる。
【0050】
さらに、オイルは入力側及び出力側カム4,5の対向部分4a,5a間の中間空間Qに送られる。中間空間Qでは、オイルは、入力側及び出力側カム4,5の回転に起因する遠心力によって、回転軸線Rから離れるように移動する。このように移動するオイルは、排出通路10の入口10aに送られる。なお、このとき排出通路10の入口10aに送られなかったオイルは、中間空間Q又はダンパケース11内を循環した後に、排出通路10の入口10aに送られることができる。その後、排出通路10の入口10aに送られたオイルは、排出通路10から排出通路10の出口10bを通ってオイル溜まり空間Pに再び送られる。このような流れによって、オイルはダンパ装置1内を潤滑することができる。
【0051】
以上、本実施形態に係るダンパ装置1においては、クランクシャフトSのジャーナル部s2から流出するオイルを、クランクシャフトSのフランジ部s3及びクランクケースCに囲まれたオイル溜まり空間Pから、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4内を延びる供給通路9を通って、入力側及び出力側カム4,5間に配置されるダンパベアリング6に流すことができる。かかるダンパ装置1においては、オイルを、クランクシャフトSのジャーナル部s2から流出したときの圧力によって供給通路9に効率的に送ることができ、さらに、オイルを、供給通路9に送られたときの慣性力と、クランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4の回転に起因する遠心力とによって供給通路9からダンパベアリング6に効率的に供給することができる。また、供給通路9の出口9bが、ダンパベアリング6を受け入れる入力側カム4の受入部4cに形成されるので、オイルをダンパベアリング6に効率的に供給することができる。よって、ダンパ装置1において、オイルを効率的に流すことができる。
【0052】
本実施形態に係るダンパ装置1においては、入力側及び出力側カム4,5の対向部分4a,5a間における中間空間Q内のオイルを、供給通路9とは別にクランクシャフトSのフランジ部s3及び入力側カム4内を延びる排出通路10を通ってオイル溜まり空間Pに流すことができる。かかるダンパ装置1においては、供給通路9及び排出通路10を用いてオイル溜まり空間Pと中間空間Qとの間で、オイルを効率的に流すことができ、かつオイルを効率的に循環させることができる。よって、ダンパ装置1において、オイルを効率的に流すことができ、かつオイルを効率的に循環させることができる。
【0053】
本実施形態に係るダンパ装置1においては、中間空間Qのオイルは、入力側及び出力側カム4,5の回転に起因する遠心力によって、回転軸線Rから離れるように移動しようとする。このことを勘案して、供給通路9の出口9b及び回転軸線R間の第1の距離d1が、排出通路10の入口10a及び回転軸線R間の第2の距離d2以下となっている。そのため、供給通路9の出口9bから供給されるオイルが中間空間Q内に到達した後に、中間空間Qのオイルが排出通路10の入口10aに向かって移動することを促すことができる。よって、ダンパ装置1において、オイルを効率的に流すことができ、かつオイルを効率的に循環させることができる。
【0054】
本実施形態に係るダンパ装置1においては、入力側カム4の回転に起因する遠心力と、回転軸線方向に対して傾斜した供給通路9とによってスクリューポンプと同様の作用がもたらされる。かかる作用によって、オイルをオイル溜まり空間Pから供給通路9を通ってダンパベアリング6に効率的に供給することができる。
【0055】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…ダンパ装置、2…入力軸部材、3…出力軸部材、4…入力側カム、4a…対向部分、4b…対向面、4c…受入部、5…出力側カム、5a…対向部分、6…ダンパベアリング(転動部材)、6a…外周部、8…皿バネ(付勢部材)、9…供給通路、9a…入口、9b…出口、10…排出通路、10a…入口、10b…出口
E…エンジン(内燃機関)、R…回転軸線、S…クランクシャフト、s3…フランジ部、C…クランクケース、P…オイル溜まり空間
d1…第1の距離、d2…第2の距離
図1
図2
図3
図4
図5