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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】植物栽培支援情報提供システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20221006BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20221006BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q50/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018060994
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019170217
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)H29年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「『知』の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(うち知の集積と活用の場による研究開発モデル事業)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】北 栄輔
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2017/104841(JP,A1)
【文献】特開2016-101117(JP,A)
【文献】特開2017-143794(JP,A)
【文献】特開2017-046613(JP,A)
【文献】特開2017-046639(JP,A)
【文献】特表2016-526890(JP,A)
【文献】特開2008-199902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培地における植物の栽培を支援するための支援情報を、該栽培地に提供する植物栽培支援情報提供システムであって、
前記栽培地から前記植物の栽培状況を表す栽培状況データを取得する取得部と、
過去の栽培状況および栽培結果を学習データとして用いることにより、前記栽培状況に対する開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質の全部または一部についての栽培結果を予測する成長予測部を有し、
開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質の全部または一部について目標となる栽培結果が得られるよう、前記成長予測部による予測結果と目標となる栽培結果との比較に基づいて、過去の栽培状況および栽培結果を踏まえて設定される目標栽培状況に、前記栽培状況が適合しているか否かを、前記栽培状況データに基づいて判断する状況判断部と、
前記判断結果に応じて、目標となる栽培結果が得られるよう栽培を支援するための支援情報を生成する支援情報生成部と、
前記支援情報を前記栽培地に出力する出力部とを備え
前記支援情報は、前記栽培状況を前記目標栽培状況に移行させるための移行情報であり、
前記目標栽培状況を、
(1)目標となる栽培結果を達成するための栽培状況を統計分析または人工知能による回帰によって求める方法、
または、
(2)現在の栽培状況を仮想的に変化させた場合に、栽培結果がどのように変化するかを前記成長予測部によって求め、この繰り返しによって、目標となる栽培結果を達成し得る前記目標栽培状況を求める方法、
のいずれかによって求め、現在の栽培状況と前記目標栽培状況との差違を移行情報とする
植物栽培支援情報提供システム。
【請求項2】
請求項1記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記状況判断部は、過去の栽培状況および栽培結果に基づいて設定され、目標となる栽培結果を得るための目標栽培状況を記憶した栽培基準データベースを参照して、前記判断を行う植物栽培支援情報提供システム。
【請求項3】
請求項1記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記状況判断部は、前記成長予測部による予測結果と目標となる栽培結果との第1のずれが許容範囲内かを判定するとともに、前記目標栽培状況と前記栽培状況との第2のずれが許容範囲内かを判定し、
前記支援情報生成部は、前記第1のずれ及び第2のずれの一方または双方が許容範囲から外れるときに、前記支援情報を生成する植物栽培支援情報提供システム。
【請求項4】
請求項1記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記取得部は、さらに前記栽培地から栽培結果を取得して、前記学習データを更新する植物栽培支援情報提供システム。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記支援情報は、前記目標栽培状況からの逸脱を示すアラート情報である植物栽培支援情報提供システム。
【請求項6】
請求項1記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記状況判断部および前記支援情報生成部は、前記目標となる栽培結果が変更されたときには、該変更に応じて前記判断および前記支援情報の生成を行う植物栽培支援情報提供システム。
【請求項7】
請求項1 記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記目標栽培状況に移行させるための移行情報は、前記栽培地に設置され前記栽培状況を調整する調整機器の制御情報であり、
前記出力部は、前記制御情報を、対応する前記調整機器に出力する植物栽培支援情報提供システム。
【請求項8】
請求項1 記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記目標栽培状況に移行させるための移行情報は、前記栽培地の作業員に対する作業情報であり、
前記出力部は、前記作業員に前記作業情報を提示する植物栽培支援情報提供システム。
【請求項9】
請求項1~8 いずれか記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
前記取得部は、前記栽培地の作業員に対して取得すべき栽培状況を指示し、当該指示に応じた栽培状況を取得する植物栽培支援情報提供システム。
【請求項10】
請求項1~9 いずれか記載の植物栽培支援情報提供システムであって、
作業員と複数の前記栽培地とを対応づけて記憶するユーザデータベースを有し、
前記出力部は、前記作業員からの指示に対応した前記栽培地の支援情報を出力する植物栽培支援情報提供システム。
【請求項11】
コンピュータによって栽培地における植物の栽培を支援するための支援情報を、該栽培地に提供する植物栽培支援情報提供方法であって、
前記コンピュータが実行するステップとして、
前記栽培地から前記植物の栽培状況を表す栽培状況データを取得するステップと、
過去の栽培状況および栽培結果を学習データとして用いることにより、前記栽培状況に対する開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質の全部または一部についての栽培結果を予測するステップと、
開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質の全部または一部について目標となる栽培結果が得られるよう、前記成長予測結果と目標となる栽培結果との比較に基づいて、過去の栽培状況および栽培結果を踏まえて設定される目標栽培状況に、前記栽培状況が適合しているか否かを、前記栽培状況データに基づいて判断するステップと、
前記判断結果に応じて、目標となる栽培結果が得られるよう栽培を支援するための支援情報を生成するステップと、
前記支援情報を前記栽培地に出力するステップとを備え
前記支援情報は、前記栽培状況を前記目標栽培状況に移行させるための移行情報であり、
前記目標栽培状況を、
(1)目標となる栽培結果を達成するための栽培状況を統計分析または人工知能による回帰によって求める方法、
または、
(2)現在の栽培状況を仮想的に変化させた場合に、栽培結果がどのように変化するかを前記成長予測部によって求め、この繰り返しによって、目標となる栽培結果を達成し得る前記目標栽培状況を求める方法、
のいずれかによって求め、現在の栽培状況と前記目標栽培状況との差違を移行情報とする
植物栽培支援情報提供方法。
【請求項12】
栽培地における植物の栽培を支援するための支援情報を、該栽培地に提供するためのコンピュータプログラムであって、
前記栽培地から前記植物の栽培状況を表す栽培状況データを取得する機能と、
過去の栽培状況および栽培結果を学習データとして用いることにより、前記栽培状況に対する開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質の全部または一部についての栽培結果を予測する機能と、
開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質の全部または一部について目標となる栽培結果が得られるよう、前記成長予測結果と目標となる栽培結果との比較に基づいて、過去の栽培状況および栽培結果を踏まえて設定される 目標となる栽培結果が得られるよう過去の栽培状況および栽培結果を踏まえて設定される目標栽培状況に、前記栽培状況が適合しているか否かを、前記栽培状況データに基づいて判断する機能と、
前記判断結果に応じて、目標となる栽培結果が得られるよう栽培を支援するための支援情報を生成する機能と、
前記支援情報を前記栽培地に出力する機能とをコンピュータに実現させ
前記支援情報は、前記栽培状況を前記目標栽培状況に移行させるための移行情報であり、
前記目標栽培状況を、
(1)目標となる栽培結果を達成するための栽培状況を統計分析または人工知能による回帰によって求める方法、
または、
(2)現在の栽培状況を仮想的に変化させた場合に、栽培結果がどのように変化するかを前記成長予測部によって求め、この繰り返しによって、目標となる栽培結果を達成し得る前記目標栽培状況を求める方法、
のいずれかによって求め、現在の栽培状況と前記目標栽培状況との差違を移行情報とする
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培状況に応じて、その栽培を支援する情報を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、先進的な農業形態の一つとして、管理された環境下で農作物を栽培する植物工場が検討されている。植物工場では、温度、日照時間など、農作物が栽培される環境を種々のセンサで検知し、成育に適した環境を実現することで効率的に農作物の栽培を行うことが検討されている。植物工場に限らず、農業の分野では、生産性向上を図るため、種々の提案がなされている。特許文献1は、農業ハウスに室温センサを設け遠隔で監視する技術を開示している。特許文献2は、各農地の測定データを収集し、予め用意されたデータベースを参照して、農地の最適化のアドバイスを行う農業ビジネス支援システムを開示している。また、農作業を遠隔で行う技術も提案されており、特許文献3は、遠隔操作又は自動運転で、田の除草作業を行う農業管理ロボットを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-188421号公報
【文献】特開2002-215717号公報
【文献】特開2007-082523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の技術は、実際の成育状況とは関係なく、栽培地の温度が予め設定された温度条件を満たすか否かを監視するのみであった。特許文献2記載の技術も、実際の成育状況とは関係なく、作付けに適した農地とするための支援を行うことしかできなかった。特許文献3も、成育状況とは無関係に除草作業を行うに過ぎなかった。このように、従来技術は、いずれも栽培地の栽培状況に応じて、目標とした栽培結果が得られるように栽培を支援することはできなかった。かかる課題は、植物工場のように高度に管理された栽培に限らず、また農作物の栽培にも限らず、植物一般について共通の課題であった。本発明は、かかる課題に鑑み、目標とした栽培液化が得られるよう、植物の栽培を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
栽培地における植物の栽培を支援するための支援情報を、該栽培地に提供する植物栽培支援情報提供システムであって、
前記栽培地から前記植物の栽培状況を表す栽培状況データを取得する取得部と、
目標となる栽培結果が得られるよう過去の栽培状況および栽培結果を踏まえて設定される目標栽培状況に、前記栽培状況が適合しているか否かを、前記栽培状況データに基づいて判断する状況判断部と、
前記判断結果に応じて、目標となる栽培結果が得られるよう栽培を支援するための支援情報を生成する支援情報生成部と、
前記支援情報を前記栽培地に出力する出力部とを備える植物栽培支援情報提供システムとして構成することができる。
【0006】
本発明では、栽培地の栽培状況に基づいて、目標となる栽培結果が得られる状況か否かを判断し、支援情報を生成することができる。判断は、過去の栽培状況および栽培結果を踏まえてなされるため、精度の高い判断が可能となる。従って、本発明の支援情報を活用することにより、目標となる栽培結果が達成される可能性を向上させることができる。
本発明の対象となる植物は、農作物、花、果実など栽培の対象となるものであればよい。
栽培地は、例えば、植物工場、ビニルハウス、田畑などを対象とすることができる。
目標となる栽培結果としては、開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質などとすることができる。
栽培状況データとしては、例えば、温度、日照量、給水量、植物の画像などとすることができる。また、肥料や農薬の量など、植物に対して行った措置の履歴を栽培状況データに含めても良い。栽培状況データは、現時点だけのものには限らず、現時点までの成長過程を含めて栽培状況データとしてもよい。
目標栽培状況としては、例えば、目標の栽培結果が得られるようにするために満たされるべき温度、日照量などが挙げられる。常に一定とは限らず、植物の成育過程に応じて変化する場合もある。目標栽培状況は、それぞれ許容範囲が設けられていても良い。また、温度に応じて許容される日照量も変化する、というように、複数の要素が相関をもって設定されていてもよい。
【0007】
本発明において、栽培状況が適合しているか否かの判断は種々の方法で行うことができ、
例えば、前記状況判断部は、過去の栽培状況および栽培結果に基づいて設定され、目標となる栽培結果を得るための目標栽培状況を記憶した栽培基準データベースを参照して、前記判断を行うものとしてもよい。
【0008】
こうすれば、栽培基準データベースを参照することで、比較的容易に栽培状況の適否を判断することができる利点がある。
栽培基準データベースは、過去の栽培状況および栽培結果に基づいて設定されるものである。例えば、ある植物について、過去に十分な栽培結果が得られた時の栽培状況を解析すれば、温度、日照量などの要素の組み合わせで、かかる栽培結果を得るための栽培状況を得ることができる。逆に、十分な栽培結果が得られなかった時の栽培状況を解析すれば、各要素の組み合わせで、避けるべき栽培状況を得ることができる。栽培基準データベースは、こうした解析を総合的に行うことにより、設定することが可能である。かかる解析を、統計分析や人工知能によって行うものとしてもよい。
【0009】
また別の態様として、
過去の栽培状況および栽培結果を学習データとして用いることにより、前記栽培状況に対する栽培結果を予測する成長予測部を有し、
前記状況判断部は、前記成長予測部による予測結果と目標となる栽培結果との比較に基づいて前記判断を行うものとしてもよい。
【0010】
こうすれば、成長結果の予測を行うため、栽培状況の適否の判断精度を向上させることができる。
成長予測は、例えば、学習データを参照して、栽培状況に比較的近いケースを抽出し、その栽培結果を得る方法をとってもよい。また、統計分析や人工知能を用いて行うこともできる。成長予測のためのモデルは、種々の方法で設定すればよい。
成長予測には誤差があるため、栽培状況の適否は、予測結果と目標となる栽培結果との比較において、成長予測の誤差を考慮して判断してもよい。例えば、収穫時期に対する成長予測の誤差が3日である場合、予測結果と目標となる栽培結果との差が3日以内であれば、栽培状況は適切であると判断するようにしてもよい。
【0011】
統計分析や人工知能を用いて成長予測を行う場合、
前記取得部は、さらに前記栽培地から栽培結果を取得して、前記学習データを更新するものとしてもよい。
こうすることにより、学習データをさらに充実化させることができ、成長予測の精度向上を図ることができる。
栽培結果としては、目標となる栽培結果に対応する情報を取得することが好ましい。例えば、植物の開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質などが挙げられる。
栽培結果の取得については、栽培地の作業員に対して、結果の送信を指示した上で取得する方法をとることができる。
栽培状況の適否は、栽培基準データを用いる方法、成長予測を用いる方法を、いずれか一方のみを適用してもよいし、双方を併用してもよい。
【0012】
本発明において支援情報も種々の内容とすることができる。
例えば、
前記支援情報は、前記目標栽培状況からの逸脱を示すアラート情報であるものとしてもよい。
こうすることにより、栽培地ではアラート情報に応じて、必要に応じて対策を施すことができる。アラート情報は、逸脱していることを示すランプまたは情報を点灯・表示等するものとしてもよいし、逸脱している程度、要素が認識可能な表示としてもよい。例えば、逸脱の程度に応じて、黄色→赤色のように表示の色を変えるなどの方法をとることができる。
【0013】
また別の態様として、
前記支援情報は、前記栽培状況を前記目標栽培状況に移行させるための移行情報であるものとしてもよい。
こうすることにより、目標栽培状況に移行を支援することができる。
移行情報の生成は、種々の方法で行うことができる。
第1の方法として、現在の栽培状況と栽培基準データベースに基づいて定まる目標栽培状況との要素ごとの差違に基づいて、移行情報を設定してもよい。例えば、現在の温度と目標栽培状況との温度の差を移行情報とすることができる。日照量についても現在と目標栽培状況との差違がある場合には、それを日照量についての移行情報とすることになる。
第2の方法として、学習データに基づき統計分析や人工知能による回帰をさせてもよい。即ち、目標となる栽培結果を達成するための栽培状況を回帰によって求め、これを目標栽培状況として、現在の栽培状況と目標栽培状況との差違を移行情報とするのである。
第3の方法として、現在の栽培状況を仮想的に変化させた場合に、栽培結果がどのように変化するかを成長予測によって求め、この繰り返しによって、目標となる栽培結果を達成し得る目標栽培状況を見いだすようにしてもよい。
【0014】
このように移行情報を生成する場合には、
前記状況判断部および前記支援情報生成部は、前記目標となる栽培結果が変更されたときには、該変更に応じて前記判断および前記支援情報の生成を行うものとしてもよい。
こうすることにより、目標となる栽培結果が変更された場合でも、それに応じて栽培状況を移行させることが可能となる利点がある。例えば、目標の収穫時期が早くなった場合を考えると、仮に今までの栽培状況が適正であったとしても、変更後の収穫時期を基準にすれば収穫時期が目標よりも遅れることになる。しかし、上記態様によれば、変更後の収穫時期に基づいて栽培状況の適否や支援情報の生成が行われるため、目標の収穫時期を達成する可能性を高めることができる。
【0015】
移行情報は、種々の内容および生成方法とすることができる。
例えば、前記移行情報は、前記栽培地に設置され前記栽培状況を調整する調整機器の制御情報であり、
前記出力部は、前記制御情報を、対応する前記調整機器に出力するものとしてもよい。
こうすることにより、調整機器を自動的に制御して目標栽培状況に移行させることができ、栽培地で対処する負担を軽減することができる。
上記態様としては、例えば、温度が高すぎると判断されるときに、空調機器に制御情報を送信して、温度を低下させる態様が挙げられる。
【0016】
また、別の態様として、
前記目標栽培状況に移行させるための移行情報は、前記栽培地の作業員に対する作業情報であり、
前記出力部は、前記作業員に前記作業情報を提示するものとしてもよい。
作業情報としては、例えば、肥料の追加、農薬の散布、窓の開閉など、自動制御で対応できない作業の指示とすることができる。
作業情報の出力先としては、例えば、栽培地に設置され、作業員が認識できる表示装置等としてもよいし、作業員が所持するスマートフォンその他の携帯端末を利用してもよい。
先に説明した調整機器の制御情報と、作業情報は、移行させるための対処方法に応じて、一方を選択するようにしてもよいし、双方を併用しても良い。また、例えば、温度が高すぎると判断されるときに空調機器を制御する制御情報を出力したが、それでも温度が下がらないときには、窓の開放を栽培地の作業員に指示する作業情報を出力するというように、両者を順次、用いるようにしてもよい。
【0017】
本発明においては、
前記取得部は、前記栽培地の作業員に対して取得すべき栽培状況を指示し、当該指示に応じた栽培状況を取得するものとしてもよい。
こうすることにより、栽培状況の適否などの判断に適切な情報を取得することができ、結果として判断精度を向上させることができる。
作業員に対する指示は、栽培地の表示装置や作業員が所持する携帯端末などに提示することができる。取得すべき栽培状況としては、例えば、栽培されている植物の画像データなどとすることができる。かかる場合に、作業員に対して、「葉の裏側の写真を撮影せよ」などのように「取得すべき栽培状況を指示」すれば、適切な栽培状況を知ることが可能となる。
作業員に対する指示は、栽培地から栽培状況を取得するときに必ず行うようにしてもよいし、栽培地から送信された栽培状況のみでは、情報不足と判断されるときにのみ行うようにしてもよい。後者の方が、必要な情報を無駄なく取得できる利点がある。
【0018】
本発明においては、
作業員と複数の前記栽培地とを対応づけて記憶するユーザデータベースを有し、
前記出力部は、前記作業員からの指示に対応した前記栽培地の支援情報を出力するものとしてもよい。
こうすることにより、作業員が複数の栽培地を担当することが可能となる利点がある。かかる場合には、支援情報の出力は、作業員が所持しているスマートフォンなどの携帯端末を利用することが好ましい。こうすることにより、作業員が複数の栽培地を移動するときでも、各栽培地の情報を確認できる利点がある。
【0019】
本発明は、上述した特徴を必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり、組み合わせたりしてもよい。上述した植物栽培支援情報の提供をコンピュータによって実行する植物栽培支援情報提供方法として構成してもよいし、かかる方法をコンピュータに行わせるためのコンピュータプログラムとして構成してもよい。さらに、かかるコンピュータプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体として構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】植物栽培支援情報提供システムの構成を示す説明図である。
図2】ユーザデータベース、栽培地データベース、栽培状況データベースの構造を示す説明図である。
図3】学習データの構造を示す説明図である。
図4】スマートフォンの表示画面を例示する説明図である。
図5】栽培支援情報提供処理のフローチャートである。
図6】状況判断処理のフローチャートである。
図7】支援情報生成処理のフローチャートである。
図8】学習データ更新処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.システム構成:
図1は、植物栽培支援情報提供システム100の構成を示す説明図である。植物栽培支援情報提供システム100は、農作物の栽培地に設置されたセンサ等を活用して、農作物の栽培状況を取得し、目標となる栽培結果が得られるように栽培を支援するためのシステムである。
図の右下に示したビニルハウスは、植物栽培支援情報提供システム100の対象となる栽培地を表している。図中では、2箇所を例示したが、栽培地の数は1箇所でも3箇所以上でもよい。また、栽培地は、ビニルハウスに限らず、開放状態の田畑などであってもよい。
【0022】
栽培地には、植物栽培支援情報提供システム100に栽培地の栽培状況を提供し、また当該システムから栽培の支援情報を受け取るための栽培地ユニット10が用意されている。栽培地ユニット10の構成は次の通りである。
センサ13は、栽培地において種々の栽培状況を表す栽培状況データを取得するためのセンサである。栽培状況データとしては、例えば、温度、日照量、吸水量または湿度などが挙げられる。また、センサ13としてカメラを用いることにより、植物の生育状況を撮影可能としてもよい。
ディスプレイ12は、植物栽培支援情報提供システム100からの支援情報を表示するために用いられる。ディスプレイ12は、栽培地の作業員が視認できる任意の場所に設置可能である。支援情報が音声で提供される場合には、音声出力用のスピーカ等を合わせて設置してもよい。
センサ13およびディスプレイ12は、ネットワークNEを介して植物栽培支援情報提供システム100に接続される。接続ユニット11は、センサ13およびディスプレイ12をネットワークNEに接続するための装置である。ネットワークNEは、インターネット、イントラネットなどとすることができる。
栽培地ユニット10には、栽培地で作業員が所持するスマートフォン14を含めることもできる。スマートフォン14には、植物栽培支援情報提供システム100と情報の授受等を行うためのアプリケーション15がインストールされている。本実施例では、スマートフォン14は、ネットワークNEに直接、接続可能としているが、接続ユニット11を介して接続するようにしてもよい。
【0023】
植物栽培支援情報提供システム100は、サーバに図示する各機能ブロックを実現するためのコンピュータプログラムをインストールすることによってソフトウェア的に構成されている。図示した機能ブロックの一部または全部は、ハードウェア的に構成することもできる。また、植物栽培支援情報提供システム100は、単一のサーバで構成する必要はなく、複数のサーバ等から構成してもよい。
以下、各機能ブロックについて説明する。
【0024】
送受信部111は、ネットワークNEを介して栽培地ユニット10との間で情報の授受を実現する。
ユーザデータベース101は、栽培地の作業員の情報を記憶するデータベースである。その構造については後述する。
栽培地データベースベース102は、栽培地の情報を記憶するデータベースである。その構造については後述する。
栽培状況データベース103は、栽培地における栽培状況データを記憶するデータベースである。その構造については後述する。本実施例では、栽培状況データは、栽培地ユニット10から得られるが、栽培状況データベース103は、これを過去のものも含めて記憶する。
【0025】
認証部110は、作業員が植物栽培支援情報提供システム100を利用する際に、ユーザデータベース101を参照して認証を行う。
取得部125は、栽培地ユニット10から、栽培状況データを取得する。また、目標となる栽培結果などの情報を作業員の操作に応じて入力する機能も奏する。
成長予測部120は、統計分析や人工知能によって、栽培されている植物の成長を予測する。学習データ121は、統計分析や人工知能による予測に活用するためのデータであり、過去の栽培状況、栽培結果が多数格納されている。学習データ121の構造については後述する。
【0026】
栽培基準データベース122は、栽培結果に対して、それを実現するために植物の成育過程で満たされるべき栽培状況を記憶するデータベースである。栽培基準データベース122は、例えば、過去の栽培状況、栽培結果のデータを参照して、特定の栽培結果が得られているものを抽出し、それらが満たしている栽培状況を解析することにより、生成することができる。併せて、特定の栽培結果から外れているデータを抽出し、それらの栽培状況を回避するようにして、栽培基準を設定してもよい。こうした栽培基準を、多様な栽培結果に対して生成する。例えば、栽培開始から収穫までの日数ごとに、栽培基準を設定しておけば、目標となる収穫日に対して、それを実現するための栽培状況を与えることが可能な栽培基準データベースを構築することができる。
状況判断部123は、栽培基準データベース122を参照して、栽培状況が目標栽培状況に適合しているか否かを判断する。判断方法は後述する。
支援情報生成部124は、栽培状況を目標栽培状況に移行させ、目標となる栽培結果を達成するために栽培地に提供する支援情報を生成する。支援情報の内容および生成方法については後述する。
【0027】
図2は、ユーザデータベース101、栽培地データベース102、栽培状況データベース103の構造を示す説明図である。
ユーザデータベース101は、栽培地の作業員について、作業員固有の識別情報であるユーザIDごとに、氏名等の情報を記憶する。また、植物栽培支援情報提供システムを利用する栽培地のうち、各作業員が担当する栽培地を、担当栽培地として登録可能となっている。担当栽培地は1箇所でも複数でもよい。本実施例では、担当栽培地として、各栽培地に付された識別子である栽培地IDを記憶するものとした。この登録により、作業員には、担当栽培地に関する支援情報が提供されるようになる。
【0028】
図の中段には、栽培地データベース102の構造を示した。栽培地データベース102は、識別子である栽培地IDごとに、栽培地の名称、所在地などの情報を記憶する。また、各栽培地で栽培されている品種についての1または複数の情報も記憶される。1つめの品種である「品種1」についての情報としては、図示する例では、名称、数量、画像、収穫目標などが挙げられる。さらに多くの情報を登録可能としてもよい。数量とは、栽培地で栽培している株数・本数等を意味する。画像は、品種を視覚的に識別するために表示等に用いられるものであり、品種の写真、イラスト、商標などを用いることができる。収穫目標は、栽培地における当該品種の収穫目標であり、収穫日、収穫量、品質など任意の項目を登録すればよい。当該栽培地で栽培されている2つめの品種である「品種2」についても同様の項目を登録できる。品種1と品種2で登録する項目は、必ずしも一致している必要はない。
【0029】
図の下段には、栽培状況データベース103の構造を示した。栽培状況データベース103は、全ての栽培地における栽培状況を集約的に管理するデータベースである。栽培状況データベース103の各レコードには、識別子として状況IDが付されている。各レコードには、栽培地ID、日時、品種名が登録されており、これらの情報によって、どの栽培地・品種の栽培状況かを特定することができる。実施例では、品種とともに、名称、画像も登録しているが、これらは栽培地データベース102にも登録されている情報であるため、省略しても差し支えない。
栽培状況データベース103には、栽培状況が登録されている。栽培状況としては、栽培地における栽培環境を表す情報、例えば、温度、日照時間、給水量、肥料、農薬などが挙げられる。また、栽培されている植物の写真データなども登録可能としてもよい。さらに、植物が収穫等を迎えたときは、収穫量や品質などを登録可能としてもよい。
栽培状況データベース103には、対処も登録されている。これは、栽培地において、植物に対して行った措置の記録である。例えば、肥料の追加、農薬の散布などを登録することができる。
栽培状況データベース103は、このように各栽培地の栽培状況を日時ごとに記録するものである。記録する内容・データ構造については、上述した項目に限られるものではない。
【0030】
図3は、学習データ121の構造を示す説明図である。学習データ121は、植物栽培支援情報提供システムを利用している全栽培地における過去の栽培状況、栽培結果を一元的に記憶するデータである。このデータは、成長予測部120(図1参照)が、統計分析や人工知能によって植物の成長予測を行う際に利用されるものである。
本実施例では、学習データ121のレコードは、栽培地および品種ごとに作成されるものとした。図示する通り、学習データ121の各レコードには、栽培地を特定する栽培地IDと、そこにおける「品種」が記憶されている。栽培地IDに対応する詳細な情報は、栽培地データ102を参照することにより特定することができる。なお、図に例示した栽培地では、品種1、品種2の2つの品種が栽培されているが、学習データ121上は、当該栽培地の品種2は、品種1とは別のレコードとして格納されることになる。
各レコードには、栽培地、品種に対応した栽培状況が記憶される。本実施例では、関連する状況IDを記憶するものとした。状況IDに対応する詳細な情報は、栽培状況データベース103を参照することにより得ることができる。
また、各レコードには、栽培結果も記憶される。栽培結果として記録する項目は、任意に設定可能であるが、例えば、図示するように開花日、収穫日、収穫量、品質などを挙げることができる。品質としては、色、形状、栄養分、味など、植物の栽培目的に応じた項目を記憶させればよい。栽培結果は、学習データの全レコードで必ずしも統一化する必要はないが、統計分析や人工知能による学習効果を高めるため、品種ごとに項目を統一しておくことが望ましい。こうすることで、複数の栽培地で栽培された「品種1」の栽培状況、栽培結果を成長予測に活用することが可能となる。
【0031】
B.支援情報の提供例:
植物栽培支援情報提供システム100は、栽培地のディスプレイ12(図1参照)に支援情報を提供する他、作業員が使用するスマートフォン14を端末とし、そこにインストールされたアプリケーション15を介して情報の授受も行う。以下に、この情報の授受の例について説明する。
図4は、スマートフォン14の表示画面を例示する説明図である。アプリケーション15を起動した状態を例示した。
中央に示した「ホーム画面」では、種々の操作メニューが表示される。「管理」は、作業員の情報の登録、更新を行うためのメニューであり、これを選択することにより左上の管理画面に移行する。「状況確認」は、作業員が担当している栽培地における栽培状況を確認するためのメニューであり、これを選択することにより左下の「状況確認画面」に移行する。「状況送信」は、作業員が担当している栽培地における栽培状況を植物栽培支援情報提供システム100に送信するためのメニューであり、これを選択することにより右上の「入力指示画面」に移行する。「アラート」は、作業員が担当している栽培地に対する植物栽培支援情報提供システム100からの情報を確認するためのメニューであり、これを選択することにより右下の「アラート画面」に移行する。なお、植物栽培支援情報提供システム100からの新規の情報がある場合には、各画面に通知表示がなされるようにしてもよい。
【0032】
「管理画面」には、ユーザデータベース101に登録されている作業員の氏名、ユーザIDなどが表示される。作業員がアプリケーション15を初めて起動するときには、管理画面において、氏名を新規登録することにより、植物栽培支援情報提供システム100からユーザIDが割り当てられる。ユーザ登録の仕組みは、かかる態様に限らず周知の種々の技術を利用可能である。
管理画面では、併せて作業員が担当する栽培地を登録等することができる。図中の例では、栽培地として、「名古屋1」「名古屋2」が登録されている状態を示した。先に図2で説明した通り、ユーザデータベース101には、担当する栽培地の栽培地IDが記憶されており、栽培地データベース102を参照することで、この栽培地IDに対応する名称を特定することができるから、管理画面には、この名称が表示されているのである。作業員は、各栽培地の横にある「削除」を選択することにより、担当する栽培地の指定を解除することができる。また、画面下にある「栽培地追加」を選択することにより、担当する新たな栽培地を登録することもできる。栽培地の管理は、他の方法を採用してもよい。
管理画面の機能は、これらに限らず、作業員に関するさらに多くの情報の登録・更新等に関する機能を設けても良い。
【0033】
「状況確認画面」では、作業員が担当する栽培地の栽培状況が表示される。図の例では、「名古屋1」という栽培地について、現在の気温、湿度などの状況や、過去の推移を表すグラフなどが表示されている。栽培状況に表示する項目は任意に設定すればよく、さらに多くの項目を表示可能としてもよい。また、作業員自身が、表示させるべき情報をカスタマイズできるようにしてもよい。
状況確認画面をスワイプすると、作業員が担当する他の栽培地の栽培状況を確認することができる。
【0034】
「入力指示画面」では、植物栽培支援情報提供システム100が必要としている栽培状況を送信するよう指示がなされる。図の例では、植物の葉を撮影するよう指示がなされ、カメラ画面に切り替わっている様子を示した。指示には、撮影すべき栽培地や品種の指定を含めても良い。また、どのような写真を撮影すべきかの認識を助けるため、写真のサンプルを画面に表示してもよい。作業員が、指示された植物の写真を撮影して、「送信」を選択すると、撮影した写真データが、植物栽培支援情報提供システム100に送信され、種々の判断・解析に活用される。
「入力指示」は、写真撮影に限られるものではなく、例えば、茎や葉の長さの測定結果や、一株あたりの花や果実の数など、種々の情報を対象とすることができる。また、植物の状態だけでなく、追加した肥料・農薬の種類や量などの入力を指示してもよい。
【0035】
「アラート画面」には、栽培地の栽培状況が、適切な状況(目標栽培状況)から逸脱している場合に、逸脱していること、およびその内容・対処方法などが表示される。図の例では、「室温高めです」という内容、そして、「空調調整済み」、即ち空調機器の自動制御はなされていることが表示されている。「アラート」の横の星印は、黒星が多いほど緊急であることを表しており、図の例では、緊急度は低いことを意味している。アラートの下には、「対処」として、作業員に対して「ドア・窓開放」が指示されている。作業員は、この指示に従って、ドアおよび窓を開けて温度を下げることにより、適切な栽培状況を実現することができる。アラートおよび対処の内容は、栽培状況に応じて、種々考えられる。
アラート画面には、アラートに代えて、栽培状況が適切な状況にあることを示す表示を行っても良い。こうすることで、作業員は、安心して栽培を続けることができる。また、かかる場合に、作業員が行うべき本来の作業を、「対処」に代えて表示するようにしてもよい。本来であれば、栽培状況が適切な状況下で行うべき作業は、改めて指示するまでなく作業員は認識しているはずであるが、確認的に作業指示を表示することにより、作業員が次に行うべき作業を誤ることを回避できる。
アラート画面も、スワイプにより、他の栽培地の画面を表示可能としてもよい。また、緊急性が高いアラートの場合には、ホーム画面における「アラート」メニューの選択を待たずに、「アラート画面」をポップアップするようにしてもよい。
【0036】
C.栽培支援情報提供処理:
図1で説明した機能および図4で説明した表示などを実現するための処理について、以下、説明する。
C1.全体処理:
図5は、栽培支援情報提供処理のフローチャートである。植物栽培支援情報提供システム100が、図1に示した各機能ブロックを用いて実現する機能であり、ハードウェア的には、植物栽培支援情報提供システム100を構築するサーバのCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、サーバは、栽培地から栽培状況のデータを取得する(ステップS10)。栽培地ユニット10(図1参照)からネットワークNEを介して情報を取得することになる。栽培地は、一カ所とは限らない。取得した栽培状況データは、栽培状況データベース103に記憶される。
サーバは、次に状況判断処理を行う(ステップS11)。処理の内容は後述するが、取得した栽培状況が、目標となる栽培結果を得るための目標栽培状況に適合しているか否かの判断を行うのである。この処理では、栽培状況データが不足しており、適正な判断ができないことも生じ得る。
そこで、状況判断処理の結果、情報不足とされた場合には(ステップS12)、サーバは、栽培地の作業員に対して、情報の送信を指示する(ステップ13)。先に図4に示した「入力指示画面」を表示することになる。入力を指示する情報は、写真撮影など予め定められたものであってもよいし、状況判断処理の結果に応じて決まるものであってもよい。指示に応じて、情報が送信されれば、サーバは、ステップS10、S11を再度、実行することになる。
【0037】
状況判断処理が完了すると、サーバは、支援情報生成処理(ステップS14)を行い、支援情報を出力する(ステップS15)。支援情報生成処理は、栽培地に対して、栽培を支援するための情報であり、図4の「状況確認画面」や「アラート画面」に表示する情報が含まれる。支援情報の出力先は、栽培地に備えられたディスプレイ12や作業員が使用するスマートフォン14などが対象となる。栽培状況によっては、栽培地の機器を制御する制御信号が支援情報として生成される場合もあり、かかる場合には、支援情報の出力先は栽培地の機器となる。
【0038】
C2.状況判断処理:
図6は、状況判断処理のフローチャートである。主として成長予測部120および状況判断部123によって実行される処理であり、栽培支援情報提供処理のステップS11に相当する処理である。
処理を開始すると、サーバは、収穫目標、栽培状況データベースを読み込む(ステップS20)。収穫目標は、作業員が指示するものとしてもよいし、栽培地の管理者が別途、サーバに指示するものとしてもよい。収穫目標としては、例えば、植物の開花や収穫時期、収穫量、品質などが挙げられる。
収穫目標は、栽培開始時に指定したものを継続して用いるようにしてもよいし、適宜のタイミングで変更可能としてもよい。例えば、市場の出荷状況などを見て収穫時期を早めたい場合や遅らせたい場合に、収穫目標を変更するということが考えられる。本実施例では、変更された後の収穫目表に基づいて以下に示す状況判断処理が行われることになる。
【0039】
次に、サーバは、成長予測処理を行い、収穫目標からのずれE1を算出する(ステップS21)。本実施例では、成長予測は、学習データ121に基づき統計分析や人工知能によって行うものとした。成長予測のモデルは、種々のものを適用可能である。必ずしもディープラーニングによる必要はない。ずれE1は、収穫目標に応じた評価値となる。例えば、収穫目標が、開花または収穫日であれば、ずれE1は「日数」を表す値となる。また、収穫目標が収穫量であれば、ずれE1は量を表す値となり、栄養素などの品質であればその種類に応じた値となる。成長予測には誤差があるため、ずれE1は、この誤差を考慮した値としてもよい。例えば、例えば、収穫時期に対する成長予測の誤差が3日である場合、予測結果と目標となる栽培結果との差が3日以内であれば、ずれE1は「0日」、つまり収穫目標にほぼ一致していることを表す値としてもよい。
【0040】
次に、サーバは、栽培状況と目標栽培状況とのずれE2を特定する(ステップS22)。目標栽培状況は、栽培基準データベース122を参照することにより得ることができる。ずれE2は、温度、日照量などの栽培状況を表す要素に応じた評価値とすればよい。例えば、現在の温度が目標となる温度と異なる場合には、その温度差がずれE2となる。日照量であれば、日照時間や日照強さなどがずれE2となる。ずれE1は、成長予測の結果えられる、ずれE1と同じ評価値とする必要はない。
【0041】
こうして、ずれE1、E2を求めると、サーバは、これらの評価値に基づいて状況判断を行う(ステップS23)。本実施例では、次のように3タイプに分けて判断するものとした。
ずれE1、E2ともに許容範囲内である場合には、「GREEN」、即ち適正な栽培状況であると判断する。
ずれE1、E2の一方が許容範囲内であり、他方が許容範囲を外れる場合には、「YELLOW」、即ち要注意の栽培状況であると判断する。
ずれE1、E2がともに許容範囲を外れる場合には、「RED」、即ち放置できない警告状態の栽培状況であると判断する。
これらの判断に用いる「許容範囲」は、ずれE1、E2の内容に応じて過去の栽培例などに基づいて設定すればよい。上述の例では、状況判断を簡略化するために、許容範囲内か否か、という判断方法を用いているが、ずれE1、E2を用いた関数によって、適正な栽培状況からの逸脱度を指標化するようにしてもよい。
【0042】
また、本実施例では、ずれE1、E2のみでは判断できない場合に「情報不足」との判断も行うようにした。例えば、品質について評価する場合に、ずれE1によれば、収穫目標をほぼ達成できると判断でき、ずれE2によれば、目標栽培状況から警告状態と言えるほど外れていると判断され、両者の差が矛盾するほど大きいような状況が考えられる。かかる場合には、サーバは、栽培状況を評価できず、情報不足と判断することになる。情報不足の場合には、先に説明した通り、作業員に追加の情報送信が指示される(図5のステップS13)。
追加の情報の送信を指示するために、情報不足と判断する場合には、併せて、どのような情報が必要かを決めるようにしてもよい。上述の例では、現時点での植物の品質を判断できる情報があれば良いと考えられるため、例えば、植物の画像を追加の情報として指定することが考えられる。追加の情報としては、他に、植物のサイズ、花の数など、種々の項目が考えられる。もちろん、情報不足と判断される原因に関わらず、これら種々の項目を追加情報として要求するようにしてもよい。
【0043】
本実施例では、成長予測に基づく状況判断と、栽培基準データベース122に基づく状況判断とを併用する例を示した。状況判断は、いずれか一方のみを用いるものとしてもよい。
また、本実施例では、両者の判断結果を同等に評価して、最終的な状況判断を行っているが(ステップS23)、いずれか一方の判断を優先するようにしてもよい。例えば、成長予測に基づく判断を優先する場合には、その判断結果が目標を外れると判断される場合にのみ、栽培基準データベースに基づく状況判断を参照して、YELLOWかREDかを定める態様とすることができる。成長予測に基づき、目標通りと判断される場合には、栽培基準データベース122に基づく状況判断は省略されるのである。逆に、栽培基準データベース122に基づく判断を優先する態様としてもよい。
【0044】
本実施例では、先に説明した通り、栽培後に収穫目標が変更された場合には、変更後の収穫目標に応じて栽培状況の判断を行う。こうすることにより、収穫目標の柔軟な変更に追随した栽培を実現することができる。もっとも、収穫時期を極端に早い時期に変更された場合など、収穫目標の変更時期および変更の程度によっては、対応することが不可能な場合も生じ得る。状況判断処理においては、このように追随不納な収穫目標の変更がなされた時には、「実現不能」と判断し、収穫目標の修正を促すようにしてもよい。
【0045】
C3.支援情報生成処理:
図7は、支援情報生成処理のフローチャートである。主として支援情報生成部124によって実行される処理であり、栽培支援情報提供処理のステップS14に相当する処理である。
支援情報生成処理では、情報判断の結果に応じて処理内容が分かれる(ステップS30)。状況判断の結果が、GREENの場合は、適正な栽培状況にあると判断されるので、サーバは、支援情報として現状維持シグナルを生成する(ステップS31)。現状維持シグナルとしては、例えば、ディスプレイ12やスマートフォン14に表示されるグリーンのマークなどが考えられる。ステップS31の段階では、かかる表示を行うための制御信号またはコマンドが生成されることになる。
次に、サーバは、支援情報として目標栽培状況に従い作業等を指示する(ステップS32)。栽培基準データベース122を参照して、次に作業員が行うべき作業を、ディスプレイ12やスマートフォン14に表示するための制御信号またはコマンドを生成するのである。適切な栽培状況にある場合には、かかる指示をするまでなく作業員は次の作業を認識しているものと考えられるが、このように次の作業を指示することにより、作業員のミスを未然に回避できる利点がある。
こうして設定された支援情報は、栽培地のディスプレイ12やスマートフォン14に出力される(図5のステップS15)。
【0046】
一方、状況判断の結果が、YELLOWまたはREDの場合(ステップS30)、サーバは、アラートを生成する(ステップS33)。アラートの内容としては、例えば、図4の「アラート画面」に示したものが挙げられる。
次に、サーバは、栽培状況と目標栽培状況とのずれを特定する(ステップS34)。本実施例では、栽培地における栽培状況と栽培基準データベース122とのずれを特定するものとした。かかる方法に代えて、統計分析や人工知能による方法を採用してもよい。学習データ121を利用して、目標となる栽培結果を得るための統計分析や人工知能による回帰を行うことにより、現時点における目標の栽培状況を設定し、それとのずれを特定するのである。
【0047】
こうしてずれを特定すると、サーバはずれ解消のための対処方法を特定する(ステップS35)。つまり栽培状況を目標栽培状況に移行させるための移行情報を生成するのである。図中に、移行情報の生成例を示した。
例えば、栽培状況が、目標栽培状況よりも「温度が高い」と特定されている場合には、空調の温度設定を変更することが対処方法となり、その指示を行うための移行情報が生成されることになる。この移行情報は、栽培地の空調機器を制御する制御信号として生成される。
また、給水不足の場合には、「スプリンクラーの制御」が対処方法となり、その指示を行うための移行情報が生成されることになる。この移行情報も、栽培地の機器を制御する制御信号として生成される。
肥料不足の場合には、「肥料追加」が対処方法となり、その指示を行うための移行情報が生成されることになる。この移行情報は、栽培地の作業員への指示となるため、ディスプレイ12またはスマートフォン14に指示を表示するための表示情報として生成される。
移行情報は、温度がT1度高いなどの具体的な数値に基づいて、空調の温度設定をT2度にせよというように具体的な情報として生成することが好ましい。温度以外の要素についても同様である。
【0048】
次に、サーバは、指示済みの内容を考慮して対処方法の修正を行う(ステップS36)。例えば、「温度が高い」場合に対しては、ステップS35において、「空調の温度設定変更」という対処方法を決定したが、過去に温度設定の変更を指示済みである場合には、サーバは、この対処方法では対処できないと判断し、対処方法を作業員に対して「窓の開放を指示」というように変更するのである。このような対処方法の修正は、例えば、栽培状況のずれに対して、対処方法の候補を複数有しており、これらの候補を事前に設定した優先度などに応じて順次、適用することにより実現することができる。
実施例では、過去の指示を考慮して対処方法の修正を行う例を示したが、ずれの大きさに応じて複数の候補から1または2以上を選択するようにしてもよい。例えば、温度が高すぎる場合には、空調機器を制御するのと併せ窓の開放を指示するということが考えられる。
【0049】
こうして設定された支援情報は、その内容に応じて栽培地に出力される(図5のステップS15)。支援情報が栽培地の機器の制御信号である場合には、それぞれ対応する機器に対して出力されることになるし、作業員に対する指示である場合には、ディスプレイ12やスマートフォン14に対して出力されることになる。
【0050】
C4.学習データ更新処理:
本実施例では、栽培地における栽培結果で学習データ121に更新することにより、成長予測の精度向上を図っている。以下では、学習データ121の更新処理について説明する。
図8は、学習データ更新処理のフローチャートである。処理を開始すると、サーバは、栽培地、品種のデータを取得する(ステップS40)。情報の取得は、例えば、作業員のスマートフォン14を通じて行うことができる。サーバは、入力された栽培地、品種を検索キーとして、既存のデータが学習データ121にあるか否かを判断する(ステップS41)。既存のデータがない場合には、サーバは、学習データのレコードを新規に作成し(ステップS42)、既存のデータがある場合にはそれを読み込んで表示する(ステップS43)。
【0051】
次に、サーバは、栽培結果のデータを取得する(ステップS44)。例えば、入力指示画面(図4)のような画面を表示し、栽培地の作業員に対して、栽培結果の送信を指示してもよい。取得する栽培結果としては、目標となる栽培結果に対応する情報を取得することが好ましい。例えば、植物の開花または収穫の時期、収穫量、色・栄養素などの品質などが挙げられる。作業員は、求められる栽培結果を全て送信する必要はなく、取得可能な一部の情報のみを送信してもよい。
【0052】
サーバは、栽培結果を受信すると、学習データ121を更新する(ステップS45)。こうすることにより、学習データ121の充実化を図ることができ、成長予測の精度向上を図ることができる。学習データ121の更新と合わせて成長予測のモデルの更新を行うようにしてもよい。
栽培結果は、段階的に入力されることもある。例えば、植物が開花した時期には、栽培結果として開花日が送信され、その後、収穫時期には、栽培結果として収穫日が送信されることになる。処理の開始段階で、既存のデータは検索されているため、後に送信された収穫日は、既存のデータに追加して記録されることになる。
また、学習データ121の更新に応じて、統計分析や人工知能による回帰を実施し、植物の成長過程で満たされるべき栽培状況を求め、栽培基準データベース122も更新するようにしてもよい。
【0053】
D.効果および変形例:
以上で説明した実施例の植物栽培支援情報提供システムによれば、栽培地における栽培状況を取得し、過去の栽培状況および栽培結果に基づいて、栽培状況の適否を精度よく判断することができる。この判断結果を栽培地に支援情報として提供することにより目標となる栽培結果が達成される可能性を向上させることができる。
実施例で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、一部を省略したり、組み合わせたりしてシステムを構築してもよい。また、本発明は、実施例に限らず、種々の変形例を構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、植物の栽培状況に応じて、その栽培を支援する情報を提供するために利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10…栽培地ユニット
11…接続ユニット
12…ディスプレイ
13…センサ
100…植物栽培支援情報提供システム
101…ユーザデータベース
102…栽培地データベース
103…栽培状況データベース
110…認証部
111…送受信部
120…成長予測部
121…学習データ
122…栽培基準データベース
123…状況判断部
124…支援情報生成部
125…取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8