(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】インク用バインダーおよびそれを含有するインク、熱転写シート
(51)【国際特許分類】
C09D 11/102 20140101AFI20221006BHJP
B41M 5/395 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C09D11/102
B41M5/395 300
(21)【出願番号】P 2018147309
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 碧
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢康
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-297095(JP,A)
【文献】特開昭63-045090(JP,A)
【文献】特開昭62-066991(JP,A)
【文献】特開昭61-244593(JP,A)
【文献】特開平02-108592(JP,A)
【文献】特開昭62-132678(JP,A)
【文献】特開2002-129083(JP,A)
【文献】特開2011-094072(JP,A)
【文献】特開平07-172070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0232962(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101613472(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン価が0.4mgKOH/g未満である
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有することを特徴とするインク用バインダー。
【請求項2】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂のジカルボン酸成分の50モル%以上がダイマー酸であることを特徴とする請求項1記載のインク用バインダー。
【請求項3】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点温度が100~180℃であることを特徴とする請求項1または2記載のインク用バインダー。
【請求項4】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価が1~50mgKOH/gであることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のインク用バインダー。
【請求項5】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の溶融粘度(JIS K6862-1984)が、2000~3500mPa・sであることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のインク用バインダー。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載のインク用バインダーと着色剤とを含有することを特徴とするインク。
【請求項7】
基材上に、請求項
6記載のインクから得られるインク層が積層された熱転写シート。
【請求項8】
インク層の溶融粘度(JIS K6862-1984)が、2500~8000mP・sであることを特徴とする請求項
7記載の熱転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク用バインダーおよびそれを含有するインクに関し、また、サーマルヘッドの加熱により転写を行う熱転写プリンタ等に用いられる熱転写シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法として、熱転写方法が広く使用されている。
熱転写方法の一つである溶融転写方式は、着色剤とバインダーを含む熱溶融インク層を備える熱転写シートを、熱転写受像シートと重ね合わせ、熱転写シートの背面側からサーマルヘッド等の加熱手段により画像情報に応じたエネルギーを印加して、熱転写受像シート上に、熱溶融インクを転写する画像形成方法である。
溶融転写方式による印刷は、各種の印字をサーマルヘッドで簡便に行うことができ、メンテナンス性にも優れるため、工場などにおいて、ラベル等にバーコードなどを印字し、製品管理や物流管理によく利用されている。
熱転写方式に使用する熱溶融インクは、熱転写受像シートなどの相手材への転写性が要求され、転写後の印字には、耐擦傷性、耐熱性、耐水性、耐油性、耐候性などの性能をバランスよく有することが要求されている。
熱溶融インクを構成するバインダーとしては、一般的に、ワックスまたは熱可塑性樹脂が使用されている。バインダーとしてワックスを使用した熱溶融インクは、転写性、印字濃度、耐水性、耐油性、耐候性には優れるものの、耐擦傷性や耐熱性に劣っていた。一方、バインダーとして熱可塑性樹脂を使用した熱溶融インクは、耐擦傷性や耐熱性には優れるものの、転写性が不十分であった。
【0003】
そこで、前記性能を満足するバインダーの開発が行われ、特許文献1には、テルペンフェノール樹脂とポリアミド樹脂を混合したバインダーが開示されている。
また、特許文献2には、セルロースアセテートプロピオネート樹脂をバインダーとして使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-137553号公報
【文献】特許第6074767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたバインダーに使用されているフェノール樹脂は、燃焼時に発がん性物質のホルムアルデヒドが発生するおそれがあり、さらに、この構成のバインダーを含有する熱溶融インクは、相手材の種類によっては十分な転写性が得られないことがあり、相手材の種類を選択する必要があった。
また、特許文献2に開示されたバインダーを使用した場合でも、耐熱性には優れるものの、相手材の種類によっては十分な転写性が得られなかった。
本発明の課題は、相手材の種類に関係なく、転写性に優れ、また、印字が、相手材との密着性、耐擦傷性および耐熱性に優れた熱転写シート、およびそれを構成するインク、インク用バインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱転写シートのインク層を構成するバインダーとして、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を使用することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)アミン価が0.4mgKOH/g未満であるダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有することを特徴とするインク用バインダー。
(2)ダイマー酸系ポリアミド樹脂のジカルボン酸成分の50モル%以上がダイマー酸であることを特徴とする(1)記載のインク用バインダー。
(3)ダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点温度が100~180℃であることを特徴とする(1)または(2)記載のインク用バインダー。
(4)ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価が1~50mgKOH/gであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のインク用バインダー。
(5)ダイマー酸系ポリアミド樹脂の溶融粘度(JIS K6862-1984)が、2000~3500mPa・sであることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のインク用バインダー。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載のインク用バインダーと着色剤とを含有することを特徴とするインク。
(7)基材上に、(6)記載のインクから得られるインク層が積層された熱転写シート。
(8)インク層の溶融粘度(JIS K6862-1984)が、2500~8000mPa・sであることを特徴とする(7)記載の熱転写シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、相手材の種類に関係なく良好な転写性を有し、転写後に耐擦傷性や耐熱性にも優れる印字が得られる熱転写シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のインク用バインダーは、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するものであり、本発明のインクは、前記バインダーと着色剤とを含有し、本発明の熱転写シートは、基材上に前記インクから得られるインク層が積層されたものである。
【0009】
(インク用バインダー)
本発明のインク用バインダーは、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有する。
ダイマー酸系ポリアミド樹脂をバインダーとして含有することによって、インクは、ωアミノ酸を重縮合反応させたポリアミド樹脂や、ホモナイロンモノマー同士を共重合した共重合ナイロンなどを含有するインクに比べ、転写後の各種相手材に対する密着性、耐湿性、耐熱性、可撓性が向上する。
【0010】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、ダイマー酸をジカルボン酸成分の50モル%以上含有することが好ましく、60モル%以上含有することがより好ましく、70モル%以上含有することがさらに好ましい。ジカルボン酸成分におけるダイマー酸の含有量が50モル%未満であるダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するインクは、十分な転写性が得られない場合や、相手材との十分な密着性が得られない場合がある。
ダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、本発明においては、ダイマー酸成分の25質量%以下であれば、単量体であるモノマー酸(炭素数18)、三量体であるトリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含んでもよく、さらに水素添加して不飽和度を低下させたものでもよい。ダイマー酸は、ハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などとして市販されており、これらを用いることができる。
ダイマー酸系ポリアミド樹脂のジカルボン酸成分としてダイマー酸以外の成分を用いる場合は、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などを用いることが好ましく、これらを含有することにより、樹脂の軟化点温度や接着性などの制御が容易となる。
【0011】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂のジアミン成分としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m-キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどを用いることができ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m-キシレンジアミン、ピペラジンを用いることが好ましい。
【0012】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を重合する際に、上記ジカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み比を変更することによって、樹脂の重合度、または後述する酸価もしくはアミン価を制御することが可能となる。
【0013】
本発明において、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点温度は、100~180℃であることが好ましく、120~160℃であることがより好ましい。
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点温度が100℃未満であると、得られる印字物は、耐熱性、耐擦傷性、耐ヒートショック性が急激に低下する場合がある。一方、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点温度が180℃を超えると、熱転写シートは、印字の際に多くの熱量が必要となり、印字かすれや転写不良になる可能性がある。
【0014】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂のアミン価は、1.0mgKOH/g未満であることが好ましく、0.7mgKOH/g未満であることがより好ましく、0.4mgKOH/g未満であることがさらに好ましい。ダイマー酸系ポリアミド樹脂のアミン価が1.0mgKOH/gを超えると、インク層は、空気中の水分を吸収しやすくなり、可撓性が大きくなるため、切れ性が低下し、転写性、密着性が不良となる場合がある。
【0015】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価は、1~50mgKOH/gであることが好ましく、1~20mgKOH/gであることがより好ましく、1~15mgKOH/gであることがさらに好ましく、3~12mgKOH/gであることが特に好ましく、5~12mgKOH/gであることが最も好ましい。ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価が50mgKOH/gを超えると、インクは、転写性や密着性が不十分となる場合がある。
なお、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものである。一方、アミン価とは、樹脂1g中の塩基成分とモル当量となる水酸化カリウムのミリグラム数で表されるものである。いずれも、JIS K2501に記載の方法で測定される。
【0016】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の溶融粘度は、特に限定されないが、100~100000mPa・sであることが好ましく、1000~10000mPa・sであることがより好ましい。溶融粘度は、転写性と相手材との密着性の観点から低い方が好ましい。一方、耐擦傷性、耐熱性の観点においては、溶融粘度は高い方が好ましい。これら性能向上の観点から、溶融粘度は、1500~5000mPa・sであることがさらに好ましく、2000~3500mPa・sであることが特に好ましい。
上記溶融粘度は、JIS K6862-1984に記載の方法で、210℃で測定される。
【0017】
(インク)
本発明のインクは、前記インク用バインダーと着色剤とを含有する。
インクを構成する着色剤としては、従来公知の熱転写性インクの着色剤として使用されているものが使用でき、カーボンブラックをはじめとして、無機および有機の各種顔料や染料が適宜使用でき、1つまたは複数を用いてもよい。
【0018】
顔料としては、従来公知のインクに用いられている有機顔料、無機顔料がいずれも使用でき、特に限定はない。
例えば、有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、インダスレン系顔料等の有彩色顔料等が挙げられる。
また、無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピンネル顔料等が挙げられる。
【0019】
本発明においては、その目的により、顔料の種類、粒子径、処理の種類を選んで使用することが好ましい。特に、着色物に隠蔽力を必要とする場合以外は、有機系の微粒子顔料を用いることが望ましい。さらに、高精彩で透明性を望む場合には、ソルトミリング等の湿式粉砕または乾式粉砕で微細化した顔料を用いることが好ましい。その場合、印刷時におけるノズル詰まりも考慮して、1.0μmを超える大きな粒子径を有する顔料を除去し、有機顔料では平均粒子径が0.2μm以下、無機顔料では平均粒子径が0.4μm以下としたものを用いることが望ましい。
【0020】
染料としては、従来公知の熱転写シートに使用されている染料がいずれも使用できる。例えば、モノアゾ・ジスアゾ等のアゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノイミン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、フタロシアニン染料、トリアリルメタン系等が挙げられる。
【0021】
インク固形分中における着色剤の含有量は、通常10~50質量%であることが好ましい。インク固形分中における着色剤の含有量が10質量%未満であると、印字物は、印字濃度が十分でなく、着色剤の含有量が50質量%を超えると、インクを塗工して得られたインク層は、もろくなるだけでなく、転写性が低下し、印字物は、相手材との密着性が低下する傾向にある。
【0022】
(熱転写シート)
本発明の熱転写シートは、上記インクから得られるインク層が基材上に積層されたものである。
(インク層)
基材上にインクを塗工して得られたインク層は、単位面積当たりの質量が、0.5~3.0g/m2であることが好ましく、コスト面や性能安定性の面から、1.0~2.0g/m2であることがより好ましい。インク層は、この量が0.5g/m2未満であると、十分な印字濃度が得られず、3.0g/m2を超えると、転写性が低下する傾向にある。
【0023】
インク層は、必要に応じて、分散剤、帯電防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、ワックス、皮張り防止剤、艶消し剤、無機または有機粒子の易滑剤などの添加剤を含有してもよい。添加剤は、塩基性であると、良好な分散安定性が維持される。また、インク層は、本発明の効果を妨げなければ他の樹脂成分を含有していてもよく、他の樹脂成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。インク層は、他の樹脂成分として、テルペンフェノール樹脂などのフェノール樹脂を含有しないことが好ましい。
【0024】
インク層の溶融粘度は、特に限定されないが、10~300000mPa・sであることが好ましく、500~100000mPa・sであることがより好ましく、1000~10000mPa・sであることがさらに好ましく、2500~8000mPa・sであることが特に好ましい。
インク層の溶融粘度は、転写性と相手材との密着性の観点から低い方が好ましい。一方、耐擦傷性、耐熱性の観点においては、インク層の溶融粘度は高い方が好ましい。
【0025】
(基材)
本発明の熱転写シートを構成する基材は、特に限定されず、サーマルヘッド等の加熱手段に対する耐熱性と強度を有する従来公知の材料を適宜選択して用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、1,4-ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリサルフォンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられる。
【0026】
基材の厚みは、特に限定されず、1~100μmであることが好ましく、熱伝導を良好にするという点から、1~25μmがより好ましく、さらに基材の硬さや強度の観点から、2~15μmであることがさらに好ましく、3~12μmであることが特に好ましい。基材は、厚みが薄すぎると、耐熱性や強度が不十分になり、破断する可能性があり、一方、厚すぎると、強度は十分であるものの熱伝導性が劣るため、印字の転写不良が生じる可能性がある。
【0027】
(離型層)
本発明の熱転写シートは、基材とインク層との間に離型層が積層されてもよい。離型層を構成する樹脂としては、従来公知の離型性に優れた樹脂を使用することができ、例えば、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン樹脂、シリコーン変性樹脂、フッ素樹脂、フッ素変性樹脂、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、熱架橋性エポキシ-アミノ樹脂および熱架橋性アルキッド-アミノ樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
【0028】
離型層は、上記の離型性樹脂材料に各種のフィラーを添加することができる。使用するフィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、クレー、タルク等の公知の無機フィラー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ワックスなどからなる樹脂フィラーが挙げられる。離型層の形成において、必要に応じて、架橋剤または触媒を混合してもよい。
【0029】
離型層の単位面積当たりの質量は、0.1~3.0g/m2であることが好ましく、コスト面や性能安定性の面から、0.3~1.5g/m2であることがより好ましい。離型層は、この量が0.1g/m2未満であると、十分なインク層の離型性が得られず、転写不良が生じる可能性があり、離型層の量が3.0g/m2を超えると、印字の際に感度不足になる傾向があり、また、印字物に離型層成分が移ることによって、印字物の密着性や、耐熱性が低下する可能性がある。
【0030】
(機能層)
上記離型層が積層された熱転写シートは、基材/離型層/インク層からなる構成であるが、熱転写シートの要求特性に応じて、転写後のインク層に機能を付与するために、例えば、基材/離型層/機能層/インク層のような構成として、機能層をインク層とともに転写してもよい。
上記機能層としては、転写後のインク層に耐熱性を付与したり、熱による基材の破断を防止するための耐熱層や、転写後のインク層の耐擦傷性を向上するためのハードコート層が挙げられる。耐熱層の材料としては、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ニトロセルロース樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂などの耐熱性樹脂、あるいは耐熱性樹脂に滑材を混合したものなどが挙げられる。また、上記列挙した材料を複数積層したものを耐熱層として使用してもよい。ハードコート層の材料としては、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。インク層と機能層との間に接着層が積層されてもよい。
【0031】
(熱転写シートの製造)
本発明の熱転写シートは、基材上にインク層が積層されたものであり、着色剤とダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するインクからなるインク層形成用塗剤を、基材上に塗布、乾燥することにより製造することができる。基材上に塗布するインク層形成用塗剤は、例えば、媒体中に分散または溶解した液体状のダイマー酸系ポリアミド樹脂と、着色剤とを混合することによって、調製することができる。
インク層形成用塗剤を構成する液体状のダイマー酸系ポリアミド樹脂は、ダイマー酸系ポリアミド樹脂が水性媒体中に分散、溶解、または、有機溶剤中に溶解したものであることが好ましく、作業環境面を考慮して、水性媒体に分散させた水性分散体であることが好ましい。水性媒体は、水を主成分とする液体であり、後述する塩基性化合物や親水性有機溶剤を含有してもよい。
【0032】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を水性媒体中に安定性よく分散させるには、塩基性化合物を用いることが好ましい。塩基性化合物を使用することによって、ダイマー酸系ポリアミド樹脂に含まれるカルボキシル基の一部または全てが中和され、カルボキシルアニオンが生成し、その電気的反発力によって、樹脂微粒子間の凝集が解れ、ダイマー酸系ポリアミド樹脂が水性媒体中に安定性よく分散する。
本発明において、水性分散体は、ダイマー酸系ポリアミド樹脂中のカルボキシル基が塩基性化合物で中和されており、アルカリ性域で安定した形態を保つことができる。水性分散体のpHとしては、7~13の範囲が好ましい。
【0033】
塩基性化合物は、常圧時の沸点が185℃未満であることが好ましい。
常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミン化合物などのアミン類などが挙げられる。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N、N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等を挙げることができ、中でもトリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0034】
水性分散体における塩基性化合物の含有量は、樹脂固形分100質量部に対して0.01~100質量部であることが好ましく、1~40質量部がより好ましく、1~15質量部がさらに好ましい。塩基性化合物の含有量が0.01質量部未満では、塩基性化合物を添加する効果に乏しく、分散安定性に優れた水性分散体を得ることが困難となる。一方、塩基性化合物の含有量が100質量部を超えると、水性分散体は、着色やゲル化が生じやすくなり、pHが高くなりすぎるなどの傾向がある。
【0035】
本発明において、インク層形成用塗剤の調製に、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の水性分散体を用いる場合、この水性分散体は、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤を含有しないことが好ましい。常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤とは、乳化剤成分または保護コロイド作用を有する化合物などを指す。つまり、本発明では、水性化助剤を使用しなくても、微小な樹脂粒子径かつ安定した水性分散体が得られる。水性化助剤の使用により水性分散体の安定性が直ちに低減するというわけではないので、本発明では水性化助剤の使用を妨げるものではない。ただし、水性分散体を得た後については、目的に応じて水性化助剤を積極的に使用してもよく、例えば、水性分散体を含む別の塗剤を新たに得るときなど、目的に応じて水性化助剤を添加してよいことはいうまでもない。
【0036】
乳化剤成分としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤または両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネートなどが挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体などが挙げられる。また、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどが挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン-プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼインなど、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物などが挙げられる。
【0037】
次に、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を水性分散化する方法について説明する。
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の水性分散体を得るにあたっては、密閉可能な容器を用いることが好ましい。つまり、密閉可能な容器に各成分を仕込み、加熱、攪拌する手段が好ましく採用される。
具体的に、まず、所定量のダイマー酸系ポリアミド樹脂と、塩基性化合物と、水性媒体とを容器に投入する。なお、前述したように、水性媒体中に塩基性化合物や後述する親水性有機溶剤を含有させてもよいので、例えば、塩基性化合物を含有する水性媒体を用いるのであれば、別途、塩基性化合物を投入せずとも、結果的に容器中に塩基性化合物が仕込まれることになる。
次に、容器を密閉し、好ましくは70~280℃、より好ましくは100~250℃の温度で、加熱撹拌する。加熱攪拌時の温度が70℃未満になると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の分散が進み難く、樹脂の数平均粒子径を0.5μm以下とすることが難しくなる傾向にあり、一方、280℃を超えると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の分子量が低下するおそれがあり、また、系の内圧が無視できない程度まで上がることがあり、いずれも好ましくない。
加熱撹拌する際は、樹脂が水性媒体中に均一に分散されるまで毎分10~1000回転で加熱撹拌することが好ましい。
【0038】
さらに、親水性有機溶剤を併せて容器に投入してもよい。この場合の親水性有機溶剤としては、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の粒子径をより小さくし、同時にダイマー酸系ポリアミド樹脂の水性媒体への分散をより促進する観点から、20℃における水に対する溶解性が、好ましくは50g/L以上、より好ましく100g/L以上、さらに好ましくは600g/L以上、特に好ましくは水と任意の割合で溶解可能な親水性有機溶剤を選んで使用するとよい。また、親水性有機溶剤の沸点は、30~250℃であることが好ましく、50~200℃であることがより好ましい。親水性有機溶剤は、沸点が30℃未満になると、水性分散体の調製中に揮発しやすくなり、その結果、親水性有機溶剤を使用する意味が失われると共に、作業環境も低下しやすくなる。一方、親水性有機溶剤は、沸点が250℃を超えると、水性分散体から除去することが困難となる傾向にあり、その結果、インク層の塗膜となしたとき、インク層に残留し、印字は、耐溶剤性などが低下することがある。
前述の塩基性化合物のときと同様、水性媒体中に親水性有機溶剤を含有させてもよいので、親水性有機溶剤を含有する水性媒体を用いるのであれば、別途、親水性有機溶剤を追加投入せずとも、結果的に容器中に親水性有機溶剤が仕込まれることになる。
【0039】
親水性有機溶剤の含有量は、水性媒体を構成する成分(水、塩基性化合物および親水性有機溶剤を含む各種有機溶剤)の全体に対し、60質量%以下であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましく、2~40質量%であることがさらに好ましく、3~30質量%であることが特に好ましい。親水性有機溶剤は、含有量が60質量%を超えると、水性化の促進効果がそれ以上期待できないばかりか、場合によっては水性分散体をゲル化させる傾向にある。
【0040】
親水性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなどのエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;さらには、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどが挙げられる。
【0041】
水性化の際に配合された有機溶剤や塩基性化合物は、その一部をストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で、水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶剤の含有量は必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶剤の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能面での影響は特に確認されない。ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去する方法を挙げることができる。この際、塩基性化合物が完全に留去されないような温度、圧力を選択することが好ましい。また、水性媒体の一部が同時に留去されることにより、水性分散体中の固形分濃度が高くなるため、固形分濃度を適宜調整することが好ましい。
【0042】
脱溶剤操作が容易な親水性有機溶剤としては、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどがあり、本発明では、特にエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランなどが好ましく用いられる。脱溶剤操作が容易な親水性有機溶剤は、一般に樹脂の水性化促進に資するところも大きいため、本発明では、好ましく用いられる。
【0043】
また、水性分散体を得る際、親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、樹脂の分散を促進させる目的で、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を、水性媒体を構成する成分の全体に対し、10質量%以下の範囲で配合してもよい。炭化水素系有機溶剤の配合量が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が著しくなり、均一な水性分散体が得られない場合がある。
【0044】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の水性分散体は、以上の方法により得ることができるが、各成分を加熱攪拌した後は、得られた水性分散体を必要に応じて室温まで冷却してもよい。無論、水性分散体は、かかる冷却過程を経ても何ら凝集することなく、安定性は当然維持される。
【0045】
そして、水性分散体を冷却した後は、直ちにこれを払い出し、次なる工程に供しても基本的に何ら問題ない。しかしながら、容器内には異物や少量の未分散樹脂が稀に残っていることがあるため、水性分散体を払い出す前に、一旦濾過工程を設けることが好ましい。濾過工程としては、特に限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば空気圧0.5MPa)する手段が採用できる。
【0046】
また、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を水性媒体中に分散する方法として、例えば、n-プロパノールなどの親水性有機溶剤にダイマー酸系ポリアミド樹脂を加え、30~100℃の温度下で加熱攪拌することで樹脂を一旦溶解した後、これに水を適量添加する方法も挙げられる。
【0047】
他方、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を有機溶剤中に溶解する方法として、ダイマー酸系ポリアミド樹脂が溶解可能な有機溶剤に樹脂を加え、30~100℃の温度下で加熱攪拌する方法が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなどのエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;さらには、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、トルエン、キシレン、シクロヘキサンが挙げられ、必要に応じて、これらの有機溶剤を混合して用いてもよい。
【0048】
上記方法によって調製される液体状のダイマー酸系ポリアミド樹脂において、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量(固形分濃度)は、使用目的や保存方法などにあわせて適宜選択でき、特に限定されないが、3~40質量%であることが好ましく、中でも5~30質量%であることが好ましい。
【0049】
上記の着色剤と液体状のダイマー酸系ポリアミド樹脂とを、ディゾルバー等で十分に攪拌混合することによって、インク層形成用塗剤を調製することができる。
そして、インク層形成用塗剤を基材に塗布、乾燥して、インク層を形成することができる。インク層形成用塗剤の塗布方法としては、例えば、バーコーティング、スプレーコーティング、スリットリバースコーティング、ダイレクトグラビアコーティング、リバースグラビアコーティング、オフセットグラビアコーティング等の方法が挙げられ、乾燥方法としては、乾燥機によって媒体を揮発乾燥する方法が挙げられる。
【0050】
基材上に離型層を積層する場合、離型層は、上記離型性樹脂材料を、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコールなどの汎用溶剤や水に、溶解、あるいは分散させた塗布液を調製し、この塗布液を基材に塗布、乾燥することで形成することができる。塗布液を基材上に塗布する方法としては、従来公知の方法を使用することができ、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法などが挙げられる。塗布液を基材表面に均一に塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理または乾燥のための加熱処理に供することにより、均一な離型層を基材に密着させて形成することができる。離型層の硬化を促進するためにコート後に熱をかけてエージングを行ってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の物性の測定および評価は、以下のように行った。
(1)ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性値
〔酸価、アミン価〕
JIS K2501に記載の方法により測定した。
〔軟化点温度〕
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating-Freezing STAGE TH-600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、樹脂が溶融した温度を軟化点温度とした。
〔ダイマー酸含有量〕
テトラクロロエタン(d2)中、120℃にて1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、求めた。
〔溶融粘度〕
JIS K6862-1984に記載されているホットメルト接着剤の溶融粘度測定方法のB法に準拠し、210℃にて行った。
【0052】
(2)インク層の溶融粘度
熱転写シートにおけるインク層面のインクを、溶媒(トルエン/メタノール=1/1(質量比))で分離した。分離されたインクを、100℃、常圧で5時間乾燥した後、100℃でさらに減圧乾燥を行い、インクの乾燥物を得た。得られた乾燥物を、JIS K6862-1984に記載されているホットメルト接着剤の溶融粘度測定方法のB法に準拠し、210℃にて溶融粘度の測定を行った。
【0053】
(3)転写性
実施例および比較例で得られた熱転写シートを用いて、下記の条件により、下記の相手材の表面に対して印字した。印字サンプルを下記に示す基準で評価した。評価結果◎~▲が実用的であり、◎~△が好ましく、◎~○がより好ましく、◎がさらに好ましい。
<印字条件>
プリンタ:SMRATDATE SD3C(マーケム社製)
印字解像度:300dpi
印字速度:150mm/sec
印字濃度:140%
<相手材>
・PET(ポリエチレンテレフタレートフィルム):ユニチカ社製、エンブレットS-25、厚み25μm
・Ny(ナイロン6フィルム):ユニチカ社製、エンブレムON-25、厚み25μm
・紙:日本製紙社製、アイベスト紙、厚み150μm
・PP(ポリプロピレンフィルム):三井化学東セロ社製、OP U-1、厚み25μm
・アルミ箔:UACJ社製、1N30、厚み12μm
<評価基準>
◎:転写不良および印字カスレが全く見られない
○:転写不良は見られないが、印字カスレが細部にわずかに見られる
△:部分的な転写不良および印字カスレが見られる
▲:部分的な転写不良および印字カスレがやや多く見られる
×:全く転写しない
【0054】
(4)密着性
セロピック試験と呼ばれる方法を用いた。具体的には、幅18mmのセロハンテープを、(3)で得られた印字サンプルの印字面に、空気が入らないようにセロハンテープの背面を自重200gのローラーで押し当てて、しっかり密着させてから1時間以上放置した。その後、貼り合わせたセロハンテープを、剥離角90°、引張力4.9Nで剥離した。剥離が終わったセロハンテープに付着した印字の形跡をもとに、下記に示す基準で評価した。評価結果◎~▲が実用的であり、◎~△が好ましく、◎~○がより好ましく、◎がさらに好ましい。
◎:印字部が全く取れない
○:印字部がわずかに取れる
△:印字部が薄く取れる
▲:印字部の取れる部分が多い
×:印字部がほぼ完全に取れる
【0055】
(5)耐擦傷性
上記(3)で得られた印字サンプルについて、直径1cmのABS性樹脂球を500gの点荷重で印字面に当てて、毎秒1往復の速度で50回往復した後の印字の状態をもとに、下記に示す基準で評価した。評価結果◎~▲が実用的であり、◎~△が好ましく、◎~○がより好ましく、◎がさらに好ましい。
◎:印字部が全く取れない
○:印字部がわずかに取れる
△:印字部が薄く取れる
▲:印字部の取れる部分が多い
×:印字部がほぼ完全に取れる
【0056】
(6)耐熱性
上記(3)で得られた印字サンプルについて、沸騰水中に1時間入れた後に、棒に取り付けた綿布によって20g/cm2の圧力をかけながら印字部位を10往復擦り付けた後の印字の状態をもとに、下記に示す基準で評価した。基材が紙の場合については、十分に水分を切ってから試験を行った。評価結果◎~▲が実用的であり、◎~△が好ましく、◎~○がより好ましく、◎がさらに好ましい。
◎:印字変形が全くない
○:印字変形がわずかにある
△:印字変形が小さい
▲:印字変形がやや大きい
×:印字変形が非常に大きい
【0057】
(7)耐ヒートショック性
上記(3)で得られた印字サンプルについて、印字面を表側にして包材を袋状にし、それに水を充填して封をした袋を、沸騰水中に30分入れた後に、すぐに氷水に入れて10分以上急冷した後に取り出して、印字面を綿布で20回強く擦りながら水分を拭き取った。この工程を2回繰り返した後の印字の状態をもとに、下記に示す基準で評価した。評価結果◎~▲が実用的であり、◎~△が好ましく、◎~○がより好ましく、◎がさらに好ましい。
◎:印字欠けなし、印字濃度低下なし
○:印字欠けなし、印字濃度低下小
△:印字欠けあり、印字濃度低下小
▲:印字欠けあり、印字濃度低下中
×:印字欠けあり、印字濃度低下大
【0058】
熱転写シートの原料として、下記のもの、または下記の方法で製造、作製したものを使用した。
【0059】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂P-1~P-11〕
表1に記載された構成と特性を有するものを使用した。
【0060】
【0061】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E-1の製造〕
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P-1、37.5gのイソプロパノール(IPA)、37.5gのテトラヒドロフラン(THF)、7.2gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび217.8gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌を行った。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、100gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF、水の混合媒体約100gを留去し、乳白色の均一なダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E-1を得た。
【0062】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E-2~E-11の製造〕
ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E-1の製造において、樹脂P-1を樹脂P-2~P-11に変更した以外は同様の製造方法で、ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E-2~E-11を得た。
【0063】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂溶液O-1の製造〕
ダイマー酸系ポリアミド樹脂P-1を濃度20質量%になるように混合有機溶剤(メタノール/トルエン=1/1(質量比))に溶解し、ダイマー酸系ポリアミド樹脂溶液O-1を得た。
【0064】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂溶液O-2~O-7の製造〕
ダイマー酸系ポリアミド樹脂溶液O-1の製造において、樹脂P-1を樹脂P-2~P-7に変更した以外は同様の製造方法で、ダイマー酸系ポリアミド樹脂溶液O-2~O-7を得た。
【0065】
〔ポリオレフィン樹脂Q-1〕
ホモポリプロピレン樹脂280gを、4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で、キシレン470gに加熱溶解した後、系内温度を140℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸20.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド10.0gをそれぞれ2時間かけて加え、その後6時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。
この樹脂をさらに撹拌したアセトン中で洗浄する操作を数回行い、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥してポリオレフィン樹脂Q-1を得た。酸価が25.0mgKOH/g、軟化点温度が150℃、溶融粘度が5000mPa・sであった。
【0066】
〔ポリオレフィン樹脂水性分散体A-1の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂Q-1、90.0gのn-プロピルアルコール、9.0gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび141.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、撹拌状態を維持したまま、空冷にて内温が40℃になるまで冷却した。さらに、水を添加し、ロータリーエバポレーターを用い、浴温80℃で溶媒を留去させた。その後空冷にて、室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、固形分濃度が20質量%の、均一なポリオレフィン樹脂水性分散体A-1を得た。
【0067】
〔ポリアミド樹脂水溶液A-2〕
ポリアミド樹脂水溶液A-2として、水溶性ポリアミド樹脂Q-2(東レ社製、ダイマー酸成分0モル%、軟化点温度142℃、アミン価0.1mgKOH/g、酸価0.1mgKOH/g、溶融粘度7000mPa・s)の50質量%水溶液を使用した。
【0068】
〔離型層が積層された基材の作製〕
ポリエチレンワックス(三井化学社製、ハイワックス 220P、融点110℃)を、溶解釜にて、トルエンに固形分濃度が10質量%になるように溶解して、ポリエチレンワックス溶液(R1)を調製した。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体(三井デュポンケミカル社製、EVA 210)を、トルエンに固形分濃度が10質量%になるように溶解して、エチレン-酢酸ビニル共重合体溶液(R2)を調製した。R1とR2とを、R1/R2(質量比)が9/1になるようにディゾルバーで混合して、離型層形成用の塗剤を得た。
ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、S-12、厚み12μm)のコロナ面に、乾燥後の塗布量が1.0g/m2となるように、離型層形成用の塗剤を塗布し、100℃で10秒乾燥することにより、離型層が積層された基材を得た。
【0069】
実施例1
ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E-1に、カーボン(三菱ケミカル社製、カーボンブラック #85)を、ダイマー酸系ポリアミド樹脂/カーボン(質量比)が80/20になるよう添加して、ディゾルバーで十分に攪拌混合し、ビーズミルを用いてカーボン等を分散および発色させ、インク層形成用塗剤を得た。
基材上に積層された離型層上に、上記インク層形成用塗剤をグラビア塗装機にて塗布し、乾燥して、単位面積当たりの質量が1.0g/m2のインク層を積層し、熱転写シートを得た。
【0070】
実施例2~18、比較例1~2
インク層形成用塗剤を構成する液体状の樹脂の種類を、表2記載のものになるようにした以外は実施例1と同様の操作を行って、インク層形成用塗剤、熱転写シートを得た。
【0071】
【0072】
表2に示すように、実施例において得られた熱転写シートは、相手材の種類に関係なく、転写性に優れ、印字物は、相手材との密着性に優れ、優れた耐擦傷性、耐熱性を有していた。
インク層を構成する樹脂がポリオレフィン樹脂である熱転写シート(比較例1)やダイマー酸系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂である熱転写シート(比較例2)は、相手材の種類によって、転写性に劣り、印字物は、密着性、耐擦傷性、耐熱性および耐ヒートショック性に劣る結果となった。