(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】人工筋肉、人工筋肉セット及び動作補助具並びに人工筋肉セットの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/50 20060101AFI20221006BHJP
A61F 2/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A61F2/50
A61F2/08
(21)【出願番号】P 2018207637
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592127965
【氏名又は名称】NKE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【氏名又は名称】原田 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【氏名又は名称】奥山 裕治
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 翔太
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153663(JP,A)
【文献】特開2005-006490(JP,A)
【文献】特開2009-011818(JP,A)
【文献】米国特許第9956092(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/50
A61F 2/08
A61F 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるM(Mは2以上の自然数)本の人工筋肉筋を有する人工筋肉において、
前記M本の人工筋肉筋は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるN(NはMより小さい自然数)本のチューブを前記人工筋肉筋の一端側で折り返して構成され、
前記チューブの折返部分の外径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、0.6倍以上である
人工筋肉。
【請求項2】
弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるM(Mは2以上の自然数)本の人工筋肉筋と、
平行に並べて配した状態の前記M本の人工筋肉筋の一端側を固定する固定具と
を備え、
前記M本の人工筋肉筋は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるN(NはMより小さい自然数)本のチューブを前記人工筋肉筋の一端側で折り返して構成され、
前記固定具は前記チューブの折返部分を固定し、
前記チューブの折返部分の外径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、0.6倍以上である
人工筋肉セット。
【請求項3】
前記折返部分は半円状に折り返され、当該半円状の折返部分の中心軸の直径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、1.6倍以上である
請求項2に記載の人工筋肉セット。
【請求項4】
前記固定具は、一対の前記人工筋肉筋と前記折返部分とを連結する連結部分の外周面を支持する貫通孔を有し、
前記貫通孔における人工筋肉筋側は、前記人工筋肉筋に向かって拡径し、
拡径部分の最大直径が前記連結部分の外径に対して1.1~2.0倍である
請求項2又は3に記載の人工筋肉セット。
【請求項5】
使用者の腰回りに装着される腰ベルト部を備えた動作補助具であって、
前記腰ベルト部は請求項2~4の何れか1項に記載の人工筋肉セットを有する
動作補助具。
【請求項6】
弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるチューブを折り返した状態で当該折返部分を樹脂体で固定具に固定してなる人工筋肉セットの製造方法において、
前記チューブを前記固定具の位置決め部の回りを旋回するように折り返して前記固定具に配置する配置工程と、
前記チューブ内に圧力を印加する印加工程と、
圧力を印加した状態で前記樹脂体用の樹脂材料を前記折返部分に供給する供給工程と、
前記供給された樹脂材料を硬化させる硬化工程と
を含む人工筋肉セットの製造方法。
【請求項7】
前記配置工程では、前記折返部分の内周面の折り返し点と、前記位置決め部に前記折り返し点と対向する位置との距離が、圧力を印加していない状態の前記チューブであって前記折返部分でない部位での外径の0.2倍以上となるように、前記チューブが折り返される
請求項6に記載の人工筋肉セットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、M本の人工筋肉筋を並設してなる人工筋肉、人工筋肉セット及び動作補助具並びに人工筋肉セットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工筋肉として、「弾性チューブと前記弾性チューブの外側に設けられる組紐チューブとを備えた複数本の人工筋肉により形成されるアクチュエータ本体と、前記アクチュエータ本体の端部に装着される外側筒体と、前記外側筒体の内部に設けられ、前記弾性チューブと前記組紐チューブとを接着し、かつ前記第外側筒体と前記人工筋肉とを接着する接着部と、を有するアクチュエータ」が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、複数本の人工筋肉のそれぞれが外側筒体に接着剤で固定するため、組み立てが面倒であるという課題がある。
本発明が解決しようとする課題は、組み立てが容易な人工筋肉及びそれを用いた動作補助具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る人工筋肉は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるM(Mは2以上の自然数)本の人工筋肉筋を有する人工筋肉において、前記M本の人工筋肉筋は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるN(NはMより小さい自然数)本のチューブを前記人工筋肉筋の一端側で折り返して構成され、前記チューブの折返部分の外径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、0.6倍以上である。
本発明の一態様に係る人工筋肉セットは、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるM(Mは2以上の自然数)本の人工筋肉筋と、平行に並べて配した状態の前記M本の人工筋肉筋の一端側を固定する固定具とを備え、前記M本の人工筋肉筋は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるN(NはMより小さい自然数)本のチューブを前記人工筋肉筋の一端側で折り返して構成され、前記固定具は前記チューブの折返部分を固定し、前記チューブの折返部分の外径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、0.6倍以上である。
本発明の一態様に係る動作補助具は、使用者の腰回りに装着される腰ベルト部を備えた動作補助具であって、前記腰ベルト部は上記の人工筋肉セットを有する。
本発明の一態様に係る人工筋肉セットの製造方法は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるチューブを折り返した状態で当該折返部分を樹脂体で固定具に固定してなる人工筋肉セットの製造方法において、前記チューブを固定具の位置決め部の回りを旋回するように折り返して前記固定具に配置する配置工程と、前記チューブ内に圧力を印加する印加工程と、圧力を印加した状態で前記樹脂体用の樹脂材料を前記折返部分に供給する供給工程と、前記供給された樹脂材料を硬化させる硬化工程とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、チューブを折り返して利用するため、組み立てが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る動作補助具(コルセット)の概略図である。
【
図2】実施形態に係る人工筋肉セットの斜視図である。
【
図3】カバー体を本体から外した状態の一方の固定具側の拡大斜視図である。
【
図4】カバー体を本体から外した状態の一方の固定具側の拡大平面図である。
【
図6】組み立て時のチューブの様子を説明する図である。
【
図7】変形例に係る動作補助具(スーツ)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<概要>
本発明の一態様に係る人工筋肉は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるM(Mは2以上の自然数)本の人工筋肉筋を有する人工筋肉において、前記M本の人工筋肉筋は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるN(NはMより小さい自然数)本のチューブを前記人工筋肉筋の一端側で折り返して構成され、前記チューブの折返部分の外径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、0.6倍以上である。これにより、圧縮空気を人工筋肉筋に流入させた際の人工筋肉筋内の流動抵抗を抑えることができる。
【0009】
本発明の一態様に係る人工筋肉セットは、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるM(Mは2以上の自然数)本の人工筋肉筋と、平行に並べて配した状態の前記M本の人工筋肉筋の一端側を固定する固定具とを備え、前記M本の人工筋肉筋は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるN(NはMより小さい自然数)本のチューブを前記人工筋肉筋の一端側で折り返して構成され、前記固定具は前記チューブの折返部分を固定し、前記チューブの折返部分の外径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、0.6倍以上である。これにより、圧縮空気を人工筋肉筋に流入させた際の人工筋肉筋内の流動抵抗を抑えることができる。
本発明の別態様に係る人工筋肉セットにおいて、前記折返部分は半円状に折り返され、当該半円状の折返部分の中心軸の直径は、圧力を印加していない状態の前記人工筋肉筋の外径に対して、1.6倍以上である。これにより、圧縮空気を人工筋肉筋に流入させた際の人工筋肉筋内の流動抵抗を抑えることができる。また、容易にチューブを折り返すことができる。
本発明の別態様に係る人工筋肉セットにおいて、前記固定具は、一対の前記人工筋肉筋と前記折返部分とを連結する連結部分の外周面を支持する貫通孔を有し、前記貫通孔における人工筋肉筋側は、前記人工筋肉筋に向かって拡径し、拡径部分の最大直径が前記連結部分の外径に対して1.1~2.0倍である。これにより、筋肉筋部11における貫通孔の周辺部分での膨張時のストレスを減少させることができる。
【0010】
本発明の一態様に係る動作補助具は、使用者の腰回りに装着される腰ベルト部を備えた動作補助具であって、前記腰ベルト部は上記の人工筋肉セットを有する。
【0011】
本発明の一態様に係る人工筋肉セットの製造方法は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるチューブを折り返した状態で当該折返部分を樹脂体で固定具に固定してなる人工筋肉セットの製造方法において、前記チューブを固定具の位置決め部の回りを旋回するように折り返して前記固定具に配置する配置工程と、前記チューブ内に圧力を印加する印加工程と、圧力を印加した状態で前記樹脂体用の樹脂材料を前記折返部分に供給する供給工程と、前記供給された樹脂材料を硬化させる硬化工程とを含む。
本発明の別態様に係る人工筋肉セットの製造方法において、前記配置工程では、前記折返部分の内周面の折り返し点と、前記位置決め部に前記折り返し点と対向する位置との距離が、圧力を印加していない状態の前記チューブであって前記折返部分でない部位での外径の0.2倍以上となるように、前記チューブが折り返される。これにより、圧縮空気を人工筋肉筋に流入させた際の人工筋肉筋内の流動抵抗を抑えることができる。
【0012】
<実施形態>
動作補助具の一例としてコルセット及び人工筋肉セットについて図面を参照しながら説明する。
【0013】
1.全体
概要
主に、
図1を用いて説明する。
コルセット100は、使用者の腰回りに装着される腰ベルト部101と、腹回りに装着される腹ベルト部102,103と、人工筋肉セット30とを有する。腰ベルト部101の表面に、2つの人工筋肉セット30が取り付けられている。
以下、人工筋肉セット30について説明する。
【0014】
2.人工筋肉セット
主に、
図2を用いて説明する。
人工筋肉セット30は、人工筋肉10と、人工筋肉10を固定する固定具20とを備える。ここでは、人工筋肉10の両端が固定されており、人工筋肉セット30は2個の固定具20を備える。
人工筋肉10は、M本(Mは、2以上の自然数)の人工筋肉筋11を並設してなる。ここでは、M=8であり、8本の人工筋肉筋11を8列に並設している。換言すると、8本の人工筋肉筋11の中心軸が同一平面内に位置し且つ8本の人工筋肉筋11の中心軸の端が1本の仮想線上に位置する状態で、人工筋肉筋11が配されている。
【0015】
(1)人工筋肉
主に
図3及び
図4を用いて説明する。
人工筋肉10は、N(Mより小さい自然数)本のチューブ1によりM本の人工筋肉筋11を構成してなる。ここでは、M=8、N=1である。つまり、8本の人工筋肉筋11は、1本のチューブ1を折り返して構成されている。チューブ1は、内部に圧縮空気が流入される弾性体チューブと、弾性体チューブの外周面を覆う編組スリーブとを備える。
なお、人工筋肉筋11も、内部に圧縮空気が流入される弾性体チューブと、弾性体チューブの外周面を覆う編組スリーブとから構成される。言うまでもなく、チューブ1を構成する弾性体チューブ及び編組スリーブは、当該チューブ1により構成される人工筋肉筋11の弾性体チューブ及び編組スリーブと同じ構成である。
【0016】
(1-1)チューブ
チューブ1は、長さ方向の一端が開口し、他端が閉塞する。開口側端に、内部に圧縮空気を流入させるためのプラグ3が取付けられている。なお、プラグ3には、図外の圧縮空気を流入させるポンプと接続されたソケットが着脱自在に装着される。また、チューブ1の他端は閉塞具5により塞がれている。
チューブ1は、8本の人工筋肉筋11の全長の合計より長く構成され、
図4に示すように、人工筋肉筋11に相当する8個の筋肉筋部(11)と、チューブ1の長さ方向に隣接する筋肉筋部(11)間に存在し且つ固定具20により固定される7個の固定部13とを有する。なお、人工筋肉筋11は、チューブ1の筋肉筋部(11)であるため、筋肉筋部も人工筋肉筋11と同じ符号(11)を用いる。
チューブ1は、8個の筋肉筋部11の中心軸が略平行になるように、折り返されている。つまり、チューブ1の固定部13は、
図4の拡大図に示すように、折返部分13Bと、一対の筋肉筋部11と折返部分13Bの各端部を連結する連結部分13Aとから構成される。なお、一対の連結部分13A及び折返部分13Bは固定具20内に配されている。なお、筋肉筋部11の中心軸が延伸する方向を長手方向とし、8個の筋肉筋部11が並ぶ方向を並設方向とし、長手方向と並設方向とに直交する方向を表裏方向とする。
【0017】
ここでの連結部分13Aの中心軸は筋肉筋部11の中心軸の直線延長線上にある。なお、連結部分13Aは、チューブ1の固定具20への固定の際に湾曲することもあるし、予め湾曲させておいて固定具20にセットしてもよい。
折返部分13Bは、長手方向と並設方向に直交する方向から見る(つまり、
図4である)と、位置決め部24の周囲を旋回するように、半円状に折り返されている。ここでの半円状には、折返部分13Bの中心軸が円弧状に湾曲し、その円弧の中心Oと円弧の周方向の端部を結ぶ2本の仮想線B,Cの間の角度(この角度を「円弧角」とする)Aが、160~200度の範囲内にある形状をいう。なお、ここでは、仮想線B,Cは一直線であり、折返部分13Bの円弧角は180度である。
【0018】
半円状の折返部分13Bの中心軸(不図示)の直径D1は、筋肉筋部11の外径D2に対して、1.6倍以上に構成されている。これにより、人工筋肉10内に圧縮空気を流入させた際の折返部分13Bの影響を小さくできる。つまり、圧縮空気の流動抵抗を抑えることができる。逆に言うと、折返部分13Bにおいて圧縮空気の流動抵抗の影響を小さくできる直径D1は筋肉筋部11の外径D2の1.6部以上である。なお。筋肉筋部11の外径D2は、圧縮空気を流入させていない状態の寸法であり、圧力を印加していない状態の人工筋肉筋(筋肉筋部11)の外径である。なお、筋肉筋部11は一対の固定具20間に位置する部分である。以下、筋肉筋部又は人工筋肉筋の外径D2はこの状態の寸法としている。
折返部分13Bの中心軸の直径D1は、筋肉筋部11の外径D2に対して、2.5倍以下に構成されている。これにより、固定部13の並設方向の寸法を小さくできる。つまり、圧縮空気の流動抵抗を抑えつつ小型化できる。なお、小型化の要請がない場合は、折返部分13Bの中心軸の直径D1は、筋肉筋部11の外径D2に対して2.5倍より大きくてもよい。
【0019】
チューブ1の固定具20への固定は、チューブ1内に圧力を印加(0.5~1.0気圧)した状態で行う。これにより、折返部分13Bの並設方向の寸法Eが、当該固定部13に接続する2つの筋肉筋部11の並設方向の外寸法F以上となる(
図4では、同じになっている)。
また、圧力を印加した状態では、半円状の折返部分13Bの中心軸(不図示)の直径D1は、筋肉筋部11の外径D2に対して1.6倍以上となり、チューブ1の折返部分13Bは固定具20の位置決め部24の周面に当接又は近接している(
図6参照)。
圧力印加によりチューブ1が膨張することを予め考慮して、折返部分13Bと位置決め部24との間隔は、所定以上離れている。具体的には、折返部分13Bの内周面の折り返し点と、位置決め部24における折返部分13Bの折り返し点と対向する位置との距離が、圧力を印加していない状態のチューブ1であって折返部分13Bでない部位(筋肉筋部11)の外径の0.2倍以上となるように、チューブ1が折り返されて配される。
ここで、折返部分13Bの内周面の折り返し点は、長手方向の一端側の固定具20内で折り返される場合、チューブ1が長手方向の他端から一端に向かう状態から、チューブ1が長手方向の一端から他端に向かう状態に変化する位置である。また、位置決め部24における折返部分13Bの折り返し点と対向する位置は、位置決め部24における長手方向の一端である。
【0020】
(1-2)弾性チューブ
弾性体チューブは、外径4mm以下の細径であり、好ましくは2~4mmである。このように細径の弾性体チューブを使用することにより、動作補助具(例えば、コルセットやスーツ)に使用する場合の嵩張りを抑えることができる。また、人工筋肉筋11の1本当りの収縮を、低圧、小空気量で行うことができる。
また、弾性体チューブは、硬度30度以下且つ肉厚(厚さ)が外径の1/6以下のものが好ましく、特に好ましくは硬度10度以下且つ肉厚が外径の1/8以下である。肉厚(厚さ)は具体的には、0.5mm以下が好ましく、特に好ましくは0.2~0.5mmである。このように、柔軟な弾性体チューブを使用することにより、動作補助具(例えば、コルセットやスーツ)にフィットしやすくでき、嵩張らず使用者の動作をスムーズに行うことができる。弾性体チューブは、外径4mm以下の細径であるが、0.5MPa程度までの圧縮空気に耐えることができる。
【0021】
(1-3)編組スリーブ
編組スリーブは、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等の繊維をスリーブ状に編みこんだ構造である。編組スリーブにおける繊維の編組角度は、20~30度が好ましい。なお、編組角度は、編組スリーブの筒軸(中心軸)と繊維との間の角度である。編組スリーブにおける繊維同士の間隔は0.5~0.8mmが好ましい。
【0022】
(2)固定具
主に
図5を用いて説明する。
固定具20は、
図1に示すように、人工筋肉10を腰ベルト部101の両端の上下の被係止部104に固定するために使用される。ここでは、固定具20の係止部23が被係止部104に固定される。
固定具20は本体21とカバー体26と樹脂体29とを備える。
【0023】
(2-1)本体
本体21はチューブ1の固定部13を収容する収容部22を有する。本体21はC字状の係止部23を有する。本体21は固定部13を位置決めするための位置決め部24を有している。本体21は収容部22に連結し且つ固定部13を裏側から支持する8本(M本)の溝部25を有している。なお、溝部25は本発明の「貫通孔」の一例である貫通孔の裏側半分を構成する。
【0024】
(2-1-1)収容部
収容部22は、人工筋肉筋11の並設方向に長い矩形状をし、表裏方向の表側から裏側に凹入する。
図4に示すように、収容部22には主に折返部分13Bが配され、溝部25には連結部分13Aが配される。なお、収容部22の底面は略平坦状をしている。
本体21は収容部22における並設方向の一端から筋肉筋部11の延長上にプラグ3に接続する接続管31用の接続用溝部21bを有している。
【0025】
(2-1-2)位置決め部
本体21は、他方の固定具20側であって表側半分が欠けた欠け部21aを有している。この欠け部21aにカバー体26が装着される。
位置決め部24は、欠け部21aに対して他方の固定具20と反対側であって並設方向に隣接する溝部25間に設けられている。位置決め部24は表側に突出する柱状に構成されている。位置決め部24の表側端(表面)は本体21の表面と略面一となっている。位置決め部24の他方の固定具20側の面はカバー体26と対向する。
位置決め部24は、
図4の拡大図に示すように、表側から本体21を見たときに、欠け部21a側に位置し且つ矩形状をする矩形状部分24aと、矩形状部分24aに対して欠け部21aと反対側に位置し且つ半円状をする半円状部分24bとを一体で有する。
位置決め部24の並設方向のピッチ(中心軸の間隔)Hは、連結部分13Aの外径D3に対して1.3~2.0倍である。ここでの連結部分13Aであって樹脂体29により固定されている部分は、チューブ1に0.5~1.0気圧の圧力を印加した状態で樹脂体29で固定されており、固定部分の直径D3は、当該固定部分を挟む位置決め部24の間隔に等しい。以下、外径D3は連結部分13Aにおける樹脂体29により固定されている部分の外径をさす。
位置決め部24の並設方向の間隔(寸法J)は、筋肉筋部11の外径D2に対して、0.6~1.2となっている。ここでは外径D2と略等しくなっている。これにより、固定具20の並設方向の寸法を押さえつつ、圧力を印加した際の人工筋肉筋11の干渉(接触)を防止できる。圧縮空気を人工筋肉筋に流入させた際に、位置決め部24間に挟まれた部分の流動抵抗を抑えることができる。
位置決め部24における長手方向の寸法Kは、連結部分13Aの外径D3の0.5~1.0倍となっている。
【0026】
(2-1-3)溝部
溝部25は、長手方向から見たとき(他方の固定具側から一方の固定具を見たとき)、半円状をしている。
溝部25は固定部13の連結部分13Aを裏側から支持する。
図4の拡大図に示すように、溝部25の全長Gは、連結部分13Aの外径D3に対し、1.0~2.5倍となっている。これにより、チューブ1の固定部13を安定して支持できる。
溝部25の開放側(他方の固定具20側)は、半径が他方の固定具20に向かうにしたがって緩やかに大きくなるように構成されている。つまり、溝部25は、
図5に示すように、半径が一定の一定部分25aと、半径が他方の固定具20に向かうにしたがって大きくなる拡径部分25bとを有している。
一定部分25aは、並設方向に隣接する位置決め部24間に位置し、溝部25の半径は連結部分13Aの外径D3の略半分である。
拡径部分25bは略直線状に拡径する。拡径部分25bの最大直径D4は、一定部分25aの直径に対して、1.1~2.0倍である。ここでの拡径部分25bの最大直径D4は外径D3に対して1.6倍となっている。これにより、筋肉筋部11と固定部13との境界部分での膨張時のストレスを減少させることができる。なお、ストレスの減少により耐久性が向上する。
拡径部分25bの長手方向の長さは連結部分13Aの外径D3に対して、0.5~1.5倍が好ましい。
【0027】
(2-2)カバー体
図5を用いて説明する。
カバー体26は、本体21の欠け部21aを被覆する被覆部27と、被覆部27における並設方向の端部に設けられた固定部28とを有する。
被覆部27は、例えば、並設方向に長い直方体状をし、裏面に溝部分27aを有する。溝部分27aは、本体21の溝部25を表裏反転させた構成と略同じである。なお、溝部分27aは本発明の「貫通孔」の一例である貫通孔の表側半分を構成する。つまり、溝部分27aと本体21の溝部25とで本発明の貫通孔の一例を構成する。
溝部分27aは、長手方向から見たとき(他方の固定具側から一方の固定具を見たとき)、半円状をしている。
溝部分27aは固定部13の連結部分13Aを表側から支持する。ここでは、連結部分13Aのうち、樹脂体29で固定されていない部分を主に支持する。溝部分27aの長手方向の長さは、本体21の欠け部21aの長手方向の長さと略一致している。溝部分27aの長手方向の長さは、連結部分13Aの外径D3に対し、0.5~1.5倍となっている。これにより、チューブ1の固定部13を安定して支持できる。
【0028】
溝部分27aは、半径が他方の固定具20に向かうにしたがって緩やかに大きくなるように構成されている。溝部分27aは略直線状に拡径する。溝部分27aの最大直径は、本体21の溝部25の拡径部分25bの最大直径D4と略同じであり、連結部分13Aの外径D3の1.1~2.0倍であり、ここでは、外径D3に対して1.6倍である。これにより、筋肉筋部11と固定部13との境界部分での膨張時のストレスを減少させることができる。なお、ストレスの減少により耐久性が向上する。溝部分27aの長手方向の長さは連結部分13Aの外径D3に対して、0.5~1.5倍が好ましい。
【0029】
固定部28は、被覆部27の端部から表裏方向に延伸する延伸部分28aと、延伸部分28aの内面に設けられ且つ本体21の欠け部21aの被係止部21cに係止する係止部分とを有する。これにより、カバー体26を本体21に着脱可能に装着できる。
【0030】
(2-3)樹脂体
樹脂体29は、
図2に示すように、本体21にカバー体26が装着された状態で、収容部22の凹入部分に充填されている。なお、充填及び硬化の際には、チューブ1内に0.5~1.0気圧の圧力が印加されている。樹脂体29は、溝部25における一定部分25aと拡径部分25bとの境界付近まで存在している。
【0031】
(3)組み立て
上記の人工筋肉セット30は、弾性チューブに編組スリーブを被覆してなるチューブ1を折り返した状態で前記折返部分13Bを樹脂体29で固定具20に固定してなり、当該人工筋肉セットの製造方法は、チューブ1内に圧力を印加する工程と、圧力を印加した状態で樹脂体29用の樹脂材料を折返部分13Bに供給する工程と、供給された樹脂材料を硬化させる工程とを含む。
圧力を印加するタイミングは、折返部分13Bを形成した(固定具20に配置した)後であってもよいし、印加した状態のチューブ1を折り返してもよい。これにより、折返部分13Bの潰れを防止できる。
【0032】
(3-1)概略
以下、チューブ1の固定具20への固定について、その一例を説明する。
まず、固定具20を用意して、本体21からカバー体26を取り外して、収容部22を露出させる。
1本のチューブ1を、筋肉筋部11の長さを確保しつつ、固定具20の本体21の一対の溝部25の一方の溝部25から導入して、位置決め部24の半円状部分24bから離間させながら当該半円状部分24bの外周を経由して、他方の溝部25から導出させて、位置決めする。
この状態では、
図6の(a)に示すように、チューブ1の折返部分1aは、折れ曲がり、折り返し方向に潰れている。具体的には、図中の直径D6が、空気を流入させていないチューブ1の外径D2の0.6倍未満になることが多い。この状態で、樹脂体29用の樹脂材料を充填して硬化すると、折返部分1aが潰れたままになり、硬化後に圧力空気をチューブ1内に流入させる際に人工筋肉筋11が十分に膨張しなかったり、応答性が悪かったりする。
このようなことを防止するために、
図6の(a)に示すように、チューブ1を固定具20に配置する際に、チューブ1の折返部分1aの内周面の折り返し点と、当該折り返し点と長手方向に対向する位置決め部24との距離L1を、チューブ1に空気を流入させていないときの直径D2に対して、0.2倍以上となるようにしている。なお、距離L1は、上限は特に限定はないが、長手方向の寸法を考慮すると、直径D2に対して0.7倍以下が好ましい。
この位置決めを2個の固定具20におけるすべての固定部13に対して行う。位置決めがすべて完了すると、位置決め状態を維持して、カバー体26を本体21に装着する。
【0033】
次に、チューブ1内に0.5~1.0気圧の空気を流入させた状態で、樹脂体29用の樹脂材料を収容部22に充填し、硬化させる。樹脂材料の硬化が完了すると、チューブ1の空気を開放する。
このように、1本のチューブ1を固定具20の位置決め部24に沿って配するだけで複数本の人工筋肉筋11を配置でき、容易に組み立てすることができる。
また、樹脂材料を硬化する前に、チューブ1内に空気を流入させることで、
図6の(b)に示すように、折返部分1aが膨張して、潰れた部分が広がる。折返部分1aは、内周側(位置決め部24側)が位置決め部24側に膨張する傾向にある。
チューブ1内に空気を流入させることで、
図6の(b)中の直径D7が空気を流入させていないチューブ1の外径D2の0.6倍以上にほとんどなり、折返部分1aの内周面の折り返し点と、位置決め部24における折返部分1aの折り返し点と対向する位置との距離L2は、チューブ1内に空気を流入する前の折返部分1aの内周面の折り返し点と位置決め部24における折返部分1aの折り返し点と対向する位置との距離L1よりも小さく、空気を流入させていないチューブ1の外径D2の0.0倍以上となる。これにより、上記のような、硬化後に圧力空気をチューブ1内に流入させる際に人工筋肉筋11が十分に膨張しなかったり、応答性が悪かったりすることを防止できる。
【0034】
(3-2)チューブの外径について
チューブ1に0.5~1.0気圧の空気を流入しながら、充填した樹脂体29で固定部13を固定するため、チューブ1の固定部13の半円状の折返部分13Bの中心軸の直径D1は、筋肉筋部11の外径D2に対して、1.6倍以上とすることができる。また、折返部分13Bの直径(D7)が空気を流入させていない筋肉筋部11の外径D2の0.6倍以上とすることができる。
チューブ1に0.5~1.0気圧の空気を流入しながら、充填した樹脂体29で固定部13を固定するため、コルセット100を補助具として使用する際の空気の流入路が確保できる。これにより、折返部分13Bの中心軸の直径を小さくできる。
【0035】
<変形例>
以上、一実施形態に係る動作補助具について説明したが、この実施形態に限られるものではなく、例えば、以下のような変形例であってもよい。また、実施形態と変形例とを組み合わせたものでもよいし、変形例同士を組み合わせたものでもよい。また、実施形態や変形例に記載していない例や要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。
【0036】
1.動作保持具
実施形態では、主に腰回りに使用するコルセット100について説明したが、肩専用、腕専用、脚専用等のコルセットとして使用することもできる。
実施形態では動作補助具としてコルセットについて説明したが、人工筋肉セット30は、他の動作補助具としても利用できる。以下、動作補助具の一例としてスーツ200について、
図7を用いて説明する。
スーツ200は、使用者400の腰回りに装着される腰ベルト部201と、肩回りに装着される肩ベルト部202,203と、脚回りに装着される脚ベルト部204,205と、人工筋肉セット30とを有する。
第1実施形態のコルセット100では、人工筋肉10は腰ベルト部101の長手方向に沿って、すなわち使用者400の腰部から腹部方向に沿って設置したが、第2実施形態のスーツ200では、人工筋肉10は腰ベルト部201の幅方向に沿って、すなわち使用者400の腰部から肩部方向に沿って設置している。
第1実施形態のコルセット100では、腹部から腰部方向にアシスト力が働くが、第2実施形態のスーツ200では、肩部から腰部方向及び脚部から腰部方向にアシスト力が働く。
【0037】
動作補助具は人工筋肉を用いて使用者の動作を補助するものであれば特に限定はなく、コルセットやスーツに限定されるものではなく、リハビリに使用することもできる。また、筋力トレーニング用の補助具としても利用することができる。但し、この場合、動作補助具における人工筋肉の収縮のタイミングが異なる。
人工筋肉セット30は着脱自在に係合していたが、人工筋肉セットをコルセットやスーツに縫い付けて一体化してもよい。また、人工筋肉セット30は着脱自在のため、他の動作補助具と共通して使用できるようにしてもよい。実施形態においては、2つの人工筋肉セット30を使用したが、数に限定はなく、1つもしくは3つ以上であってもよい。
【0038】
2.人口筋肉セット
(1)チューブ
実施形態では1本のチューブ1を用いて8本の人工筋肉筋11を構成していたが、例えば、2本のチューブを用いて8本の人工筋肉筋11を構成してもよい。つまり、M本の人工筋肉筋を、M本よりも本数が小さいN本のチューブを用いて構成すればよい。これにより、全本数の人工筋肉筋の両端を固定具に固定する場合に比べて、効率よく人工筋肉筋の両端を固定具に固定できる。
チューブを複数本でM本の人工筋肉筋を構成する場合、複数本のチューブの仕様を同じにしてもよいし、異なるようにしてもよい。
例えば、チューブを3本利用し、それぞれ弾性チューブの特性(特に弾性率)を変えて徐々に膨張率が上がるように(人工筋肉筋として収縮が大きくなるように)構成してもよいし、弾性チューブの直径を変えてもよい。
実施形態では、1本のチューブを利用し、(M-1)個の折り返し部を有するようにしたが、1本のチューブで2個の人工筋肉筋部と1個の折り返し部(固定部)とを有するように構成してもよい。この場合も、全本数の人工筋肉筋の両端を固定具に固定する場合に比べて、効率よく人工筋肉筋の両端を固定具に固定できる。
【0039】
(2)人工筋肉
実施形態の人工筋肉10では、8本の人工筋肉筋11を1列(1段)に並設したが、2段以上の多段に並設してもよい。実施形態では、8本の人工筋肉筋11を1本のチューブ1で構成しているため、弾性体チューブの外径が同じであったが、編組スリーブは異なっていてもよい。この場合、編組スリーブは1本の人工筋肉筋11の略同じ長さを有する必要がある。但し、弾性体チューブの外径は4mm以下が好ましい。
人工筋肉10は固定具20で動作補助具に固定させたが、固定手段は限定されるものでない。また、固定具20は人工筋肉10の両端に設けたが、固定具20の取付け場所、取付個数等は、実施形態に限定されるものではない。
実施形態では圧縮空気について説明したが、気体に限らず、オイル等の液体等であってもよい。
【0040】
(3)固定具
カバー体26は本体21の欠け部21aを覆うように構成されているが、例えば、収容部22も覆うように構成してもよい。但し、この場合であっても、0.5~1.0気圧の圧力を印加した状態でチューブ1の固定部13を樹脂体29により固定する必要がある。また、収容部22を覆うようにした場合、位置決め部をカバー体に設けてもよい。
位置決め部24は溝部25間に設けられているが、収容部22の底面から表側に独立した状態(周面がどこにも連結されていない状態)で突出するように構成してもよい。この場合、突出部分の横断面形状は、円形でもよいが、一対の平行な面を有する長円形又は長円形における欠け部21a側の半円がないような形状であってもよい。
位置決め部24は本体21に設けられていたが、例えば、位置決め部を別部材で構成し、本体に着脱自在に設けるようにしてもよい。このような例としては、位置決め体を本体の底面の嵌合部に嵌合させる構造がある。この場合、位置決め部を有しない構造の他の固定具と兼用できる場合がある。
溝部25の拡径部分25bは直線状に拡径しているが、例えば、チューブ1側に凸の曲線であってもよい。
【0041】
固定具20は、本体21の溝部25とカバー体26の溝部分27aとで、チューブ1の連結部分13Aを支持する貫通孔を構成しているが、例えば、固定具はカバー体を備えない構造とし、本体に貫通孔を設けるようにしてもよい。但し、チューブの配置(挿入)を考慮すると、本体とカバー体とで貫通孔を構成する方がよい。
【符号の説明】
【0042】
1 チューブ
10 人工筋肉
11 筋肉筋部(人工筋肉筋)
13 固定部
13B 折返部分
20 固定具
30 人工筋肉セット
100 コルセット(動作補助具)
200 スーツ(動作補助具)