(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】杭抜き装置及び引抜き工法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
E02D9/02
(21)【出願番号】P 2019037704
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】500435470
【氏名又は名称】有限会社丸高重量
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 節夫
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-256557(JP,A)
【文献】特開2019-15023(JP,A)
【文献】特開2003-155747(JP,A)
【文献】実開昭58-76640(JP,U)
【文献】登録実用新案第3171898(JP,U)
【文献】特開平5-65715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設杭の外径に応じた内径を有する筒状の形態である第1部材と、
前記第1部材の外周側に挿通可能であり、径方向外側に突出する突出部を有する第2部材と、
前記第1部材の外周に一端が結合され、前記第2部材に他端が結合されるチェーン又は紐状の第3部材とを含み、
前記突出部は、前記第2部材の軸方向に視て、前記第2部材の径方向に対して傾斜する態様で突出する、杭抜き装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記第2部材を軸回りに回転させたときに時計回りの回転時の方が反時計回りの回転時よりも、回転方向の抵抗が少なくなるように形成される、請求項1に記載の杭抜き装置。
【請求項3】
前記突出部は、根本位置での接線方向に対する傾斜角が、時計回りの前側において90度よりも大きい、請求項1又は2に記載の杭抜き装置。
【請求項4】
前記突出部は、複数個設けられる、請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の杭抜き装置。
【請求項5】
前記第1部材は、軸方向の先端部が歯状に形成される、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の杭抜き装置。
【請求項6】
請求項1~5のうちのいずれか1項に記載の杭抜き装置を用いた引抜き工法であって、
下端が地中に埋まる既設杭の外周側に前記第1部材を通し、かつ、前記第1部材の外周側に前記第2部材を通し、
前記第1部材を時計回りに回転させながら前記第1部材を地中に進ませ、
地中に進ませた前記第1部材を反時計回りに回転させながら地中から戻すことを含む、引抜き工法。
【請求項7】
前記既設杭は、先端部にフィンを有する、請求項6に記載の引抜き工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、杭抜き装置及び引抜き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設杭を引き抜くための杭抜き装置及び引抜き工法に関する各種技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-256557号公報
【文献】特開2019-015023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、既設杭を回転させながら引抜くことが難しい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本発明は、既設杭を回転させながら引抜くことを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、以下のような解決手段を提供する。
【0007】
(1)本発明の杭抜き装置は、既設杭の外径に応じた内径を有する筒状の形態である第1部材と、前記第1部材の外周側に挿通可能であり、径方向外側に突出する突出部を有する第2部材と、前記第1部材の外周に一端が結合され、前記第2部材に他端が結合されるチェーン又は紐状の第3部材とを含み、前記突出部は、前記第2部材の軸方向に視て、前記第2部材の径方向に対して傾斜する態様で突出することを特徴とする。
【0008】
(2)上記(1)の構成において、前記突出部は、前記第2部材を軸回りに回転させたときに時計回りの回転時の方が反時計回りの回転時よりも、回転方向の抵抗が少なくなるように形成されることを特徴とする。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記突出部は、根本位置での接線方向に対する傾斜角が、時計回りの前側において90度よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のうちいずれか1つの構成において、前記突出部は、複数個設けられることを特徴とする。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のうちいずれか1つの構成において、前記第1部材は、軸方向の先端部が歯状に形成されることを特徴とする。
【0012】
(6)本発明の引抜き工法は、(1)~(5)のうちのいずれか1つに記載の杭抜き装置を用いた引抜き工法であって、下端が地中に埋まる既設杭の外周側に前記第1部材を通し、かつ、前記第1部材の外周側に前記第2部材を通し、前記第1部材を時計回りに回転させながら前記第1部材を地中に進ませ、地中に進ませた前記第1部材を反時計回りに回転させながら地中から戻すことを含むことを特徴とする。
【0013】
(7)上記(6)の工法において、前記既設杭は、先端部にフィンを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
1つの側面では、本発明によれば、既設杭を回転させながら引抜くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る杭抜き装置の斜視図である。
【
図3A】杭抜き装置を既設杭に挿通する工程(第1工程)を示す説明図である。
【
図3B】杭抜き装置を時計回りに回転させながら地中に進ませる工程(第2工程)を示す説明図である。
【
図3C】杭抜き装置が地中の所定位置まで進んだ状態(第2工程終了状態)を示す説明図である。
【
図3D】杭抜き装置を反時計回りに回転させながら地中から戻す工程(第3工程)の開始時を示す説明図である。
【
図3E】杭抜き装置を反時計回りに回転させながら地中から戻す工程(第3工程)によって既設杭が引抜かれる状態を示す説明図である。
【
図4A】時計回り回転時における第2部材の作用を示す説明図である。
【
図4B】反時計回り回転時における第2部材の作用を示す説明図である。
【
図5】時計回り時における杭抜き装置の作用を示す説明図である。
【
図6】反時計回り時における杭抜き装置の作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[既設杭]
図1に示す本発明の一実施形態に係る引抜き装置1は、
図3A~
図3Eに示すように、回転圧入装置Bが搭載された重機Aを用いることで、既設杭100を回転させながら引抜くことを可能にする。
【0018】
本実施形態で例示する既設杭100は、鋼管杭110と、鋼管杭110の下端部に設けられるフィン120とを備える。フィン120は、略正方形をなす中央部121と、中央部121の4つの辺から外側に延びる4つの翼状部122と、中央部121の上面部から上方に突出し、鋼管杭110の下端部と連結される円筒状の上方突出部123と、中央部121の下面部から下方に突出し、地中への回転圧入時にフィン120の回転中心となる円筒状の下方突出部124とを備える。
【0019】
4つの翼状部122は、中央部121に対して周方向に交互に上方及び下方に曲折されており、フィン120の時計回りR1の回転に応じた土壌との接触により、地中を下方に進む方向(埋込み方向)の推進力を発生させる一方、フィン120の反時計回りR2の回転に応じた土壌との接触により、地中を上方に進む方向(引抜き方向)の推進力を発生させる。
【0020】
このような既設杭100を地中から引抜く場合、既設杭100(鋼管杭110)の上端部を回転圧入装置Bに連結し、反時計回りに回転させることが考えられるが、既設杭100は、鋼管杭110の劣化や腐食によって強度が低下している可能性があるため、回転圧入装置Bで回転させると、鋼管杭110が破断して引抜きが困難になる可能性がある。特に、鋼管杭110が小径である場合、回転圧入装置Bの回転力で鋼管杭110がねじ切れる虞がある。
【0021】
[杭抜き装置]
本発明の杭引抜き装置1は、上記のような既設杭100であっても、回転させながら確実に引抜くことを可能にするものであり、
図1に示すように、既設杭100の外径に応じた内径を有する筒状の形態である第1部材2と、第1部材2の外周側に挿通可能な第2部材3と、第1部材2及び第2部材3に結合されるチェーン又は紐状の第3部材4とを備える。
【0022】
(第1部材)
図1に示すように、本実施形態の第1部材2は、既設杭100の鋼管杭110の外周側に上方から挿通可能であって、鋼管杭110と略同等の長さを有する金属パイプで構成される。
図3Bに示すように、第1部材2は、上端部が回転圧入装置Bに連結可能であり、回転圧入装置Bから伝達される回転力及び下方への押圧力により、鋼管杭110の外周に沿って地中に進入することができる。また、第1部材2は、軸方向の先端部、即ち下端部の周縁部に歯状に形成された歯状部21を有しており、この歯状部21が第1部材2の回転に応じて鋼管杭110の周囲に存在する土などを削ることで、第1部材2の地中への進入がスムーズに行われる。
【0023】
(第2部材)
図1及び
図2に示すように、第2部材3は、第1部材2の外周側に挿通可能な筒状部31と、筒状部31の外周から径方向外側に突出する複数の突出部32とを有する。本実施形態の突出部32は、金属製である筒状部31の一部を径方向外側に切り起こすことで、周方向に一定の間隔をあけて3つ形成されている。
【0024】
突出部32は、第2部材3の軸方向に視て、第2部材3の径方向に対して傾斜する態様で突出している。突出部32の傾斜方向は、第2部材3を軸回りに回転させたときに時計回りR1の回転時の方が反時計回りR2の回転時よりも、土中における回転方向の抵抗が少なくなるように設定される。具体的に説明すると、突出部32は、根本位置での接線方向に対する傾斜角θが時計回りR1の前側において90度よりも大きくなっている。なお、第2部材3及び突出部32の作用は後述する。
【0025】
(第3部材)
図1に示すように、本実施形態の第3部材4は、金属製のチェーンであり、第1部材2の外周に一端が結合され、第2部材3の外周に他端が結合されている。第1部材2の外周における第3部材4の結合部22は、第1部材2の下端から少なくとも第2部材3の高さ分だけ上方に離れた位置に設けられる。これにより、第1部材2の外周に第2部材3を挿通させた状態で杭抜き装置1を地中に進入させることができる。また、第3部材4の長さは、既設杭100の鋼管杭110の外周に2巻き以上巻き付くことが可能な長さであることが好ましい。具体的には、第1部材2の外周寸法の3倍程度の長さを有するチェーンを用いて第3部材4を構成している。なお、第3部材4の作用は後述する。
【0026】
[引抜き工法]
つぎに、本発明の引抜き工法について、
図3(A~E)~
図6を参照して説明する。
【0027】
本発明の引抜き工法は、上記の杭抜き装置1を用いて既設杭100を引抜く工法であり、第1工程、第2工程及び第3工程を含む。
【0028】
(第1工程)
図3Aに示すように、第1工程では、下端が地中に埋まる既設杭100の鋼管杭110の外周側に第1部材2を上方から通し、かつ、第1部材2の外周側下端部に第2部材3を通す。具体的には、第1部材2の外周側下端部に第2部材3を挿通した状態で、既設杭100の鋼管杭110の外周側に第1部材2を上方から挿通する。
【0029】
(第2工程)
図3Bに示すように、第2工程では、既設杭100の鋼管杭110の外周側に挿通した第1部材2の上端部を重機Aの回転圧入装置Bに連結し、第1部材2を時計回りR1に回転させながら第1部材2を地中に進入させる。このとき、第1部材2の下端部に形成された歯状部21が第1部材2の回転に応じて鋼管杭110の周囲に存在する土などを削ることで、第1部材2の地中への進入がスムーズに行われる。
【0030】
また、第3部材4を介して第1部材2と結合される第2部材3も時計回りR1に回転し、その回転に伴って土壌と接触する突出部32が回転に抗する抵抗力R10を発生させるが(
図4A、
図4B参照)、前述したように、時計回りR1の回転時の抵抗力R10は、反時計回りR2の回転時の抵抗力R20よりも小さいので、第1部材2の地中への進入を阻害しない。
【0031】
また、
図5に示すように、第3部材4は、第2部材3が発生させる抵抗力R10によって張り状態となり、第1部材2の外周に巻き付いた姿勢を維持する。そして、第2工程は、
図3Cに示すように、第1部材2の下端部が所定の深さに到達するまで、具体的には、既設杭100のフィン120の近傍位置に到達するまで続けられる。
【0032】
(第3工程)
図3Dに示すように、第3工程では、地中に進入させた第1部材2を反時計回りR2に回転させながら地中から地上に戻す。このとき、第3部材4を介して第1部材2と結合される第2部材3も反時計回りR2に回転し、その回転に伴って土壌と接触する突出部32が回転に抗する抵抗力R20を発生させるが(
図4A、
図4B参照)、前述したように、反時計回りR2の回転時の抵抗力R20は、時計回りR1の回転時の抵抗力R10よりも大きいので、第2部材3が地中に留まろうとし、第2部材3が第1部材2の外周から外れる。
【0033】
また、
図6に示すように、第3部材4は、第2部材3が発生させる大きな抵抗力R20によって張り状態となるが、第2部材3が第1部材2の外周から外れているため、第3部材4は、第1部材2と第2部材3との間で鋼管杭110の外周に強い締付け力で巻き付く。これにより、第1部材2の反時計回りR2の回転力が第3部材4を介して鋼管杭110に伝わるので、既設杭100は、
図3Eに示すように、第1部材2と一緒に反時計回りR2に回転しながら上方に引き上げられる(設置深さH1からH2に変化)。
【0034】
また、本実施形態の既設杭100は、下端部にフィン120を備え、反時計回りR2の回転によって自らが抜け方向に移動しようとする推進力を発生させるので、地中からスムーズに引抜くことができる。
【0035】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
例えば、前述した実施形態では、引抜きの対象となる既設杭として鋼管杭を例示したが本発明の杭抜き装置及び引抜き工法は、セメントなどを固化して形成されるセメント杭や、その他の材料で形成される杭の引抜きにも適用することができる。
【0036】
なお、以上の実施例に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0037】
(付記1)
既設杭の外径に応じた内径を有する筒状の形態である第1部材と、
前記第1部材の外周側に挿通可能であり、径方向外側に突出する突出部を有する第2部材と、
前記第1部材の外周に一端が結合され、前記第2部材に他端が結合されるチェーン又は紐状の第3部材とを含み、
前記突出部は、前記第2部材の軸方向に視て、前記第2部材の径方向に対して傾斜する態様で突出する、杭抜き装置。
【0038】
(付記2)
前記突出部は、前記第2部材を軸回りに回転させたときに時計回りの回転時の方が反時計回りの回転時よりも、回転方向の抵抗が少なくなるように形成される、付記1に記載の杭抜き装置。
【0039】
(付記3)
前記突出部は、根本位置での接線方向に対する傾斜角が、時計回りの前側において90度よりも大きい、付記1又は2に記載の杭抜き装置。
【0040】
(付記4)
前記突出部は、複数個設けられる、付記1~3のうちのいずれか1つに記載の杭抜き装置。
【0041】
(付記5)
前記第1部材は、軸方向の先端部が歯状に形成される、付記1~4のうちのいずれか1つに記載の杭抜き装置。
【0042】
(付記6)
付記1~5のうちのいずれか1つに記載の杭抜き装置を用いた引抜き工法であって、
下端が地中に埋まる既設杭の外周側に前記第1部材を通し、かつ、前記第1部材の外周側に前記第2部材を通し、
前記第1部材を時計回りに回転させながら前記第1部材を地中に進ませ、
地中に進ませた前記第1部材を反時計回りに回転させながら地中から戻すことを含む、引抜き工法。
【0043】
(付記7)
前記既設杭は、先端部にフィンを有する、付記6に記載の引抜き工法。
【符号の説明】
【0044】
1 杭抜き装置
2 第1部材
21 歯状部
22 結合部
3 第2部材
31 筒状部
32 突出部
4 第3部材
100 既設杭
110 鋼管杭
120 フィン
121 中央部
122 翼状部
123 上方突出部
124 下方突出部
A 重機
B 回転圧入装置
R1 時計回り
R10 抵抗力(時計回り回転時)
R2 反時計回り
R20 抵抗力(反時計回り回転時)