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▶ ラングペーサー メディカル インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】横隔膜ペーシングシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
A61N1/36
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021026208
(22)【出願日】2021-02-22
(62)【分割の表示】P 2019104284の分割
【原出願日】2015-01-20
(65)【公開番号】P2021079157
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】61/929,901
(32)【優先日】2014-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517325113
【氏名又は名称】ラングペーサー メディカル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LUNGPACER MEDICAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ホッファー、ホアキン アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】サダランガニ、ゴータム
(72)【発明者】
【氏名】ノレット、マルク-アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】タッカル、ヴィラル
(72)【発明者】
【氏名】トラン、バオ ドゥン
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/188965(WO,A1)
【文献】特表2005-516638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0085869(US,A1)
【文献】米国特許第8478413(US,B2)
【文献】米国特許第4827935(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00 ― 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横隔膜ペーシングシステムであって、
複数の電極と、
刺激パルスに対する横隔膜の反応を監視するように構成された少なくとも1つのセンサーと、
刺激制御ユニットと、を備え、前記刺激制御ユニットが、
前記複数の電極のうちの電極の組み合わせを介して横隔膜を活性化することを意図した複数の刺激パルスを送り、各刺激パルスが対応する電荷を含み、対応する電荷が複数の刺激パルス間で異なっており、
前記対応する電荷を該対応する電荷によって生じる横隔膜の反応に関連づけるリクルートメント曲線の一部を決定し、
前記リクルートメント曲線の一部を決定した後で、前記電極の組み合わせを介して横隔膜を活性化する第2の電荷を含む治療パルスを送り、
前記リクルートメント曲線の一部を用いて前記治療パルスに対する予想される横隔膜の反応を決定し、
実際の横隔膜の反応を前記予想される横隔膜の反応と比較する、ように構成されている、横隔膜ペーシングシステム。
【請求項2】
患者の血管系に挿入するように構成されたカテーテルをさらに含み、カテーテルが前記複数の電極を含んでいる、請求項1に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項3】
前記リクルートメント曲線の一部が、送達されていない電荷を送達されていない電荷から予想される横隔膜の反応に関連づける、請求項1または2に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項4】
前記横隔膜の反応が、空気流量、一回換気量、気道圧、筋電図活動、中心静脈圧、心拍数、胸壁加速度、血中酸素飽和度、二酸化炭素濃度および抵抗のうちの少なくとも1つによって測定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項5】
前記刺激制御ユニットがさらに、人工呼吸器から呼吸支援を受けている患者の呼吸中に前記複数の刺激パルスを送るように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項6】
前記刺激制御ユニットがさらに、前記リクルートメント曲線の一部を決定する前に前記複数の電極から前記電極の組み合わせを決定するように構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項7】
前記対応する電荷が、最も低い対応する電荷および最も高い対応する電荷を含んでおり、前記第2の電荷が前記最も低い対応する電荷よりも高く、かつ、前記最も高い対応する電荷よりも低い、請求項1~6のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項8】
前記対応する電荷の少なくとも1つの電荷が横隔膜の収縮を引き起こさない、請求項1~7のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項9】
前記電極の組み合わせが、前記複数の電極の少なくとも2つの第1の電極を含む第1の電極の組み合わせであり、第2の電極の組み合わせが、前記複数の電極の少なくとも2つの第2の電極を含み、前記刺激パルスが第1の刺激パルスであり、前記対応する電荷が第1の対応する電荷であり、前記リクルートメント曲線が第1のリクルートメント曲線であり、前記刺激制御ユニットがさらに、
前記第2の電極の組み合わせを介して横隔膜を活性化することを意図した複数の第2の刺激パルスを送り、各第2の刺激パルスが第2の対応する電荷を含み、第2の対応する電荷が複数の第2の刺激パルス間で異なっており、
前記第2の対応する電荷を該第2の対応する電荷によって生じる横隔膜の反応と関連づける第2のリクルートメント曲線の一部を決定する、ように構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項10】
前記治療パルスが第1の治療パルスであり、前記刺激制御ユニットがさらに、前記第2の電極の組み合わせを介して横隔膜を活性化する第2の治療パルスを送るように構成されており、第2の治療パルスが第1の治療パルスと同時に送達される、請求項9に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項11】
前記第1のリクルートメント曲線の一部を決定することまたは前記第2のリクルートメント曲線の一部を決定することが、活性化閾値を決定することを含んでおり、活性化閾値が横隔膜の収縮を引き起こす予め定義された確率を有する電荷レベルである、請求項または10に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項12】
前記第1のリクルートメント曲線の一部を決定することまたは前記第2のリクルートメント曲線の一部を決定することが、比例して増大する横隔膜の反応をもたらす電荷の範囲を決定することを含む、請求項11のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項13】
前記第1のリクルートメント曲線の一部を決定することまたは前記第2のリクルートメント曲線の一部を決定することが、横隔膜の収縮を引き起こさない電荷を決定することを含む、請求項12のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項14】
前記第1のリクルートメント曲線の一部および前記第2のリクルートメント曲線の一部がまた、送達されていない電荷を送達されていない電荷から予想される横隔膜の反応に関連づける、請求項13のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項15】
前記第の電荷が前記第1の対応する電荷の各々と異なっている、請求項14のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項16】
前記複数の電極が、前記第1の電極の組み合わせまたは前記第2の電極の組み合わせが上大静脈内にあるように位置決めされるように構成されている、請求項15のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項17】
前記刺激制御ユニットがさらに、
前記第1のリクルートメント曲線の一部を決定する前に前記第1の電極の組み合わせを決定する、または、
前記第2のリクルートメント曲線の一部を決定する前に前記第2の電極の組み合わせを決定する、ように構成されている、請求項16のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項18】
記第2の対応する電荷のうちの少なくとも1つの電荷が、横隔膜の収縮を引き起こさない、請求項17のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【請求項19】
前記リクルートメント曲線の一部が、ゼロ動員部分、活性化閾値部分、比例動員部分、最大動員部分、最大上動員、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の横隔膜ペーシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、電気刺激を用いた、低下した神経生理学的機能の回復、改善、および/または調整に関する。いくつかの実施形態は、標的とする神経に解剖学的に近接した最適な電極をマッピングし、選択する方法を提供する。限定されない実施形態は、神経刺激装置、電極構造、電極、センサー、および関連する方法を含む。
【背景技術】
【0002】
神経の電気刺激は、様々な症状の治療に広く適用されており、筋活動を制御したり、または感覚を生じさせたりするために適用されることがある。神経は、電極を神経に、神経のまわりに、または神経付近に外科的に植え込み、電極を植え込み型電源または外部電源によって作動させることにより、刺激される。
【0003】
横隔神経は、通常、呼吸に必要な横隔膜の収縮を引き起こす脳からの信号を伝達する。しかしながら、様々な健康状態により、適当な信号が横隔神経に送達されることが妨げられる。これらとしては、
・脊髄または脳幹に影響を与える恒久的または一時的な損傷または疾患、
・筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)、
・日中または夜間の換気駆動の低下(例えば中枢性睡眠時無呼吸、オンディーヌの呪い(先天性中枢性肺胞低換気症候群))、
・麻酔剤および/または機械的換気の影響下における換気駆動の低下、が挙げられる。これらの健康状態は相当数の人々に影響を与えている。
【0004】
挿管および陽圧機械的換気(mechanical ventilation:MV)は、集中治療室(ICU)にいる間に重症患者が呼吸するのを支援するために、数時間または数日、時として数週間の期間にわたって用いられる。一部の患者は、随意呼吸を回復することができず、よって、長期または恒久的な機械的換気を必要とすることがある。機械呼吸は、当初は命を救うものであるが、様々な深刻な問題および/または副作用を有する。機械的換気は、
・肺水腫および感染症(人工呼吸器関連肺炎、ventilator-associated pneumonia:VAP)に対する感染性の増大につながり得る人工呼吸器誘発性肺損傷(ventilator-induced lung injury:VILI)および肺胞損傷をしばしば引き起こし、
・一般に、急性的に挿管された患者の不快感および不安を低減するために鎮静を必要とし、
・使われていない横隔膜筋の急速な退化(人工呼吸器誘発性横隔膜機能不全、ventilator-induced diaphragm dysfunction:VIDD)を引き起こし、
・肺は加圧され、横隔膜は無活動であるため、静脈還流に悪影響を与える可能性があり、
・食事および会話を妨げ、
・容易に携行できない装置を必要とし、
・患者が正常な呼吸を回復できず、人工呼吸器依存になった場合には、院内で死亡する危険性を増大させる。
【0005】
鎮静状態で人工呼吸器に接続されている患者は、横隔膜および補助呼吸筋を駆動する中枢神経が抑制されるため、通常は呼吸することができない。不活動は、筋肉の廃用性萎縮および全体的な健康の低下につながる。横隔膜筋萎縮が急速に起こり、患者にとって深刻な問題となる可能性がある。臓器提供患者に関する公表された研究(非特許文献1)によれば、機械換気のわずか18~69時間後に、すべての横隔膜筋繊維は平均で52~57%萎縮した。筋繊維萎縮は筋力の低下および疲労性の増大を生じる。従って、人工呼吸器誘発性横隔膜萎縮は患者を人工呼吸器依存にさせ得る。米国、ヨーロッパおよびカナダにおいて、毎年840,000人以上のICU患者が人工呼吸器依存になっていることが報告されている。
【0006】
脳幹から伝わる中枢駆動(central drive)の不在または低下により、恒久的な呼吸不全を有する特定の患者に対して、埋め込み電極を用いて横隔神経を電気的に刺激する(「ペーシングする」)ことにより、横隔膜筋を律動的に活性化させることが実現可能であり、かつ有益であることがよく知られている。いくつかの方法が開示されている。
【0007】
方法1は、横隔神経を直接刺激するために頚部または胸郭上部に外科的に植え込まれたカフ状電極、例えば、米国ニューヨーク州コマック所在のアベリー バイオメディカル デバイシズ インコーポレイテッド(Avery Biomedical Devices,Inc.)から入手可能な、マーク IV 呼吸ペースメーカーシステム(Mark IV Breathing Pacemaker System)などを用いる。前記電極は外科的に植え込まれた受信機に接続され、その植え込まれた受信機上に装着されたアンテナによって外部送信機に結合される。横隔神経ペーシング用電極を植え込むことは、また横隔神経が細く(直径約2mm)、繊細であり、胸の深部にある主要な血管の真ん中に位置するという事実により、危険かつ複雑になる可能性がある深刻な外科手術を必要とする。この種の外科手術はかなりの費用を必要とし、典型的には、さもなければ残りの一生を機械換気に依存するであろう特定の患者のみに適応される。
【0008】
方法2は、横隔膜をペーシングするために植え込み型筋内電極、例えば、オハイオ州オーバリン所在のシナプス バイオメディカル インコーポレテッド(Synapse Biomedical Inc.)によって販売されている、NeuRx横隔膜ペーシングシステム(NeuRx Diaphragm Pacing System)(登録商標)などを用いる。横隔膜筋内の運動点をマッピングし、それらの運動点の近くにいくつかの電極を縫合するために外科麻酔および腹腔鏡手術が必要とされる。この種の外科手術もまたかなりの時間および費用を必要とし、現在では、さもなければ残りの一生を機械換気に依存するであろう脊髄損傷(SCI)または筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のみに適応される。
【0009】
方法1または方法2のいずれかによってペーシングされる一部の患者において、横隔神経ペーシングによって提供される律動的な負圧呼吸動作は、機械換気された患者と比較して、肺損傷および感染の割合および程度の低減に寄与することが判明した。横隔膜のペーシングはまた、(非特許文献2)により、SCIによって麻痺した横隔膜筋の強度および持久力を保つ、または高めるための有効な方法であることも示された。この種のエビデンスは、よく知られた筋神経の電気的な活性化の基本的な生理学的効果に関係しており、本開示は、一部はその生理学的効果に基づいている。
【0010】
方法3は、ヨアキン アンドレ ホッファー(Joaquin Andres Hoffer)によって開発され、かつ「Transvascular Nerve Stimulation Apparatus and Methods」と題された(特許文献1)に記載された、神経を刺激するために血管内埋め込み型電極を用いたシステムおよび方法に関する。前記文献は参照により余すところなく本願に援用される。重篤なICU患者は、一般的には方法1および方法2に適格ではない。ICU患者に短期使用するために、方法3は、典型的には全麻酔下で行われる侵襲手術を必要としないことにより、特有の利点を有する。方法3は、患者の中心静脈(例えば左鎖骨下静脈、上大静脈)内に経皮的に挿入される一時的で取り外し可能な多管腔多電極カテーテルによって、横隔膜を律動的に活性化する。一般的には人工呼吸器から離脱できずに人工呼吸器依存になる重篤患者において、(特許文献1)に記載されたペーシング治療は、横隔膜筋の廃用性萎縮を防止し、軽減し、または食い止め、また横隔膜の持久力を維持し、よって患者の機械換気からの好結果の離脱を促進すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第8,571,662号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】レヴァイン(Levine)ら、New England lournal of Medicine、第358巻:第1327~1335頁、2008年
【文献】アヤス(Ayas)ら、1999年、「Prevention of human diaphragm atrophy with short periods of electrical stimulation」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
機械換気に一時的に依存するICU患者における横隔膜筋の短期ペーシングは、典型的なMV誘発性横隔膜筋廃用性萎縮の急速な進行を防止する、遅延させる、または食い止めることが合理的に期待される。方法3に関連して上述したようにカテーテルが中心静脈の内部に適切に配置される場合、神経刺激に対して、双極電極の対である最適な双極電極の組み合わせを選択することが重要である。電極の組み合わせが最適かどうかを判定するための1つの要因は標的神経への近接性である。最適な電極の組み合わせを選択する際に、より低く、かつより安全な電荷および電流を用いて、横隔神経を活性化させることができ、よって他の神経、筋肉または心臓のような付近の構造物の過度な刺激または不要な活性化を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一実施形態は、ペーシングパラメータ、感知パラメータ、および/または多数の他のパラメータに応じて、最適な電極対をマッピングし、選択する自動アルゴリズムおよび方法を提供する。この開示に記載する最適な電極をマッピングし、選択するアルゴリズムおよび方法は、経血管的横隔神経ペーシング療法に有用である。加えて、ペーシングされる横隔膜は陰圧換気を回復し、それにより多くの生理学的呼吸パターンを提供し、陽圧換気のレベルを低下させて、その肺に対する悪影響を低減する。
【0015】
開示の他の実施形態は、多電極カテーテル上の個々の電極に対するペーシングパラメータ、感知パラメータ、および/または多数の他のパラメータのマップを生成するアルゴリズム、血管内における電極構造の位置に関して標的神経をマッピングするためのアルゴリズム、最適な電極の自動選択のためのアルゴリズム、および選択された電極により治療を与える間に刺激の有効性を監視するためのアルゴリズムを含む。そのようなアルゴリズムは方法に適用されるか、または装置において具体化される。これらおよび他の実施形態は一緒に適用されていてもよいが、個々の実施形態は他の組み合わせおよび状況において適用されてもよい。例えば、本願に記載するアルゴリズムは、様々な診断および/または治療の用途のために、当業において知られている様々な神経血管ペーシングまたは感知システムと組み合わされて適用されてもよい。
【0016】
本開示の実施形態は、呼吸の回復、筋廃用性萎縮および慢性疼痛のような症状の治療、並びに神経刺激を必要とする他の用途に適用されてもよい。本開示の実施形態は、急性症状または慢性症状の治療に適用されてもよい。本開示の実施形態はまた、患者内における電極構造の再配置または除去および交換の必要性を評価するために適用されてもよい。
【0017】
本開示の一実施形態は、神経の経血管的刺激に関する。経血管的刺激において、1つ以上の電極の適当な構成は、刺激されるべき神経に解剖学的に近接した血管内に配置される。電流は電極から血管壁を通過して、標的神経を刺激する。
【0018】
本開示の別の実施形態は、ヒトまたは他の哺乳動物(例えばブタ、チンパンジー)の頚部および胸部における神経の経血管的刺激に関する。図1および図15は、ヒトの頚部および胸部における選択された神経および血管の解剖学的構造、とりわけ左右横隔神経(PhN)、迷走神経(VN)、内頚静脈(IJV)、腕頭静脈(BCV)、上大静脈(SVC)、および鎖骨下静脈(ScV)の相対的位置を示している。
【0019】
1つの例示的な実施形態において、電気刺激の方法は、第1の複数の電極の組み合わせの各々によって、一連の第1電気刺激を神経に1つずつ送達することと、神経の第1電気刺激の各々に対する第1患者反応を監視することと、第1の複数の電極の組み合わせのうちの第1サブセットが神経に近接していることを示す第1患者反応に基づいて、第1サブセットを選択することと、第1の電極の組み合わせのうちの第1サブセット内の電極に基づいて、第2の複数の電極の組み合わせを決定することと、第2の複数の電極の組み合わせの各々によって、一連の第2電気刺激を神経に一つずつ送達することと、神経の第2電気刺激の各々に対する第2患者反応を監視することと、第2患者反応に基づいて、第2の複数の電極の組み合わせのうちの第2サブセットを選択することとを含み、第2サブセットは、第2の複数の電極の組み合わせのうちの他の電極より大きな第2患者反応を有する電極の組み合わせを含む。
【0020】
電気刺激の方法は、加えて、またはこれに代えて、以下の工程または特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。第1電気刺激は、1回以上の患者の呼吸の呼気終末期(end-expiration phases)中に送達される複数の電気パルスを含む。複数の電気パルスの各々は、複数の電気パルスのうちの他の電気パルスとは異なる電荷を有する。複数の電気パルスの各々は、複数の電気パルスのうちの他の電気パルスと同一の電荷を有する。第2電気刺激は第1電気刺激の後に送達される。第1患者反応を監視する工程および第2患者反応を監視する工程の各々は、空気流量、容量または圧力のうちの少なくとも1つを示すセンサーからの情報を得ることを含む。第1患者反応を監視する工程および第2患者反応を監視する工程のうちの少なくとも一方は、筋電図活動、中心静脈圧、心拍数、胸壁加速度、血中酸素飽和度、二酸化炭素濃度、カテーテル位置、機械的運動または抵抗のうちの少なくとも1つを示すセンサーからの情報を得ることを含む。第1の複数の電極の組み合わせの第1サブセットはカテーテルの一部に沿って位置する。第1の複数の電極の組み合わせおよび第2の複数の電極の組み合わせは双極電極対を含む。第1の複数の電極の組み合わせのうちの第1サブセットを選択することは、第1患者反応に関して、第1の複数の電極の組み合わせのうちの電極の組み合わせを順位付けすることを含み、かつ第2の複数の電極の組み合わせのうちの第2サブセットを選択することは、第2患者反応に関して、第2の複数の電極の組み合わせのうちの電極の組み合わせを順位付けすることを含む。第1患者反応および第2患者反応は、第1電気刺激および第2電気刺激の各々に対する横隔膜反応を示す。第1の複数の電極の組み合わせのうちの第1サブセットを選択する工程、および第2の複数の電極の組み合わせのうちの第2サブセットを選択する工程のうちの少なくとも一方は、電極の組み合わせを活性化閾値に関して順位付けすることと、他の電極の組み合わせの活性化閾値より高い活性化閾値を有する電極の組み合わせを廃棄することとを含む。第1患者反応および第2患者反応のうちの少なくとも一方は、横隔膜以外の生理学的特徴に対する望ましくない効果を含んでもよく、かつ、第1の複数の電極の組み合わせまたは第2の複数の電極の組み合わせのうちの第1サブセットまたは第2サブセットの各々の選択は、望ましくない効果を引き起こす電極の組み合わせを含まない。方法はさらに、第2の複数の電極の組み合わせの第2サブセットのうちの少なくとも1つの電極の組み合わせに対応するリクルートメント曲線(recruitment curve)を決定することを含む。方法はさらに、第1電気刺激または第2電気刺激が予め設定されたパルス幅範囲内において段階的な神経動員(graded nerve recruitment)を引き起こすように、第1の複数の電極の組み合わせおよび第2の複数の電極の組み合わせのうちの一方への電流のパルス幅および振幅を調節することを含む。第1の複数の電極の組み合わせ内の電極は長尺体上に位置する。第1の複数の電極の組み合わせの内の電極は、長尺体の近位部分上に位置する近位電極であってもよく、神経は左横隔神経であり、長尺体はさらに長尺体の遠位部分に位置する遠位電極を備えてもよく、かつ、方法はさらに、第3の複数の電極の組み合わせの各々によって、一連の第3電気刺激を右横隔神経に1つずつ送達することと、第3の複数の電極の組み合わせは遠位電極を含むことと、神経の第3電気刺激の各々に対する第3患者反応を監視することと、第3サブセットが右横隔神経に近接していることを示す第3患者反応に基づいて、第3の複数の電極の組み合わせのうちの第3サブセットを選択することと、第3の電極の組み合わせの第3サブセット内の電極に基づいて、第4の複数の電極の組み合わせを決定することと、第4の複数の電極の組み合わせの各々によって、一連の第4電気刺激を神経に一つずつ送達することと、神経の第4電気刺激の各々に対する第4患者反応を監視することと、第4患者反応に基づいて、第4の複数の電極の組み合わせのうちの第4サブセットを選択することとを含み、第4サブセットは、第4の複数の電極の組み合わせのうちの他の電極の組み合わせより大きな第4患者反応を有する電極の組み合わせを含む。方法はさらに、長尺体の近位部分を左横隔神経に近接した第1血管内に配置することと、長尺体の遠位部分を右横隔神経に近接した第2血管内に配置することとを含み、第1電気刺激レートおよび第2電気刺激レートは、少なくとも部分的には、a)対応する呼吸終末期の継続時間、およびb)対応する第1患者反応および第2患者反応の継続時間に基づく。
【0021】
別の例示的な実施形態において、電気刺激の方法は、第1の電極の組み合わせを用いて神経に第1電気刺激を送達することと、第1電気刺激は、1つ以上の第1患者呼吸の各々の呼吸終末期中に送達される第1の複数の電気パルスを含むことと、第2の電極の組み合わせを用いて神経に第2電気刺激を送達することと、第2電気刺激は、第1患者呼吸とは異なる1つ以上の第2患者呼吸の各々の呼気終末期中に送達される第2の複数の電気パルスを含むことと、第1電気刺激および第2電気刺激の各々に対する横隔膜の反応を監視することと、横隔膜反応に基づいて、第1の電極の組み合わせおよび第2の電極の組み合わせの各々に対応する神経活性化閾値を決定することとを含む。
【0022】
電気刺激の方法は、加えて、またはこれに代えて、以下の工程または特徴のうちの1つ以上を含んでもよい。第1の電極の組み合わせおよび第2の電極の組み合わせは、人工呼吸器から呼吸支援を受けている患者の血管内に位置する。神経は横隔神経であってもよい。第1の電極の組み合わせおよび第2の電極の組み合わせは双極電極対を含んでもよい。横隔膜の反応を監視することは、センサーによって、流量、容量または圧力のうちの少なくとも1つを感知することを含む。神経活性化閾値は、神経動員を引き起こさない第1電荷値と、神経動員を常に引き起こす第2電荷値との間の閾値電荷値である。それぞれ公称の閾値電荷値を与える複数の電気パルスの約半分が神経動員を引き起こす。
【0023】
一実施形態において、横隔膜ペーシングシステムは、複数の電極を備えた電極アセンブリと、電気刺激に対する患者の反応を監視するように構成された少なくとも1つのセンサーと、刺激制御ユニットとを備える。刺激制御ユニットは、第1の複数の電極の組み合わせの各々によって、一連の第1電気刺激を神経に1つずつ送達し、一連の第1電気刺激に対する第1患者反応を示す、少なくとも1つのセンサーからの入力を受信し、第1の複数の電極の組み合わせのうちの第1サブセットが神経に近接していることを示す第1患者反応に基づいて、第1サブセットを選択し、第1の電極の組み合わせのうちの第1サブセット内の電極に基づいて、第2の複数の電極の組み合わせを決定し、第2の複数の電極の組み合わせの各々によって、一連の第2電気刺激を神経に一つずつ送達し、一連の第2電気刺激に対する第2患者反応を示す、少なくとも1つのセンサーからの入力を受信し、第2患者反応に基づいて、第2の複数の電極の組み合わせのうちの第2サブセットを選択するように構成されている。第2サブセットは、第2の複数の電極の組み合わせのうちの他の電極より大きな第2患者反応を有する電極の組み合わせを含む。
【0024】
システムは、加えて、または代わりに、以下の特徴の1つ以上を備えてもよい。電極アセンブリは、患者の静脈系内に挿入するために構成されたカテーテルであってもよい。患者反応は、空気流量、体積および圧力のうちの少なくとも1つであってもよい。患者反応は、筋電図活動、中心静脈圧、心拍数、胸壁加速度、血中酸素飽和度、二酸化炭素濃度、カテーテル位置、機械的運動および抵抗のうちの少なくとも1つであってもよい。第1電気刺激および第2電気刺激の各々は複数の電気パルスを含んでいてもよく、刺激制御ユニットはさらに、人工呼吸器から呼吸支援を受けている患者の呼吸終末期中に複数の電気パルスを送達するように構成されてもよい。患者反応は電気刺激に対する横隔膜反応を示す。刺激制御ユニットは、第2サブセットが第2の複数の電極の組み合わせのうちの他の電極より低い活性化閾値を有する電極の組み合わせを含むように、第2サブセットを選択するように構成されてもよい。刺激制御ユニットは、第1の複数の電極の組み合わせまたは第2の複数の電極の組み合わせのうちの電極の組み合わせに対して、その電極の組み合わせに対応する活性化閾値が第1の複数の電極の組み合わせまたは第2の複数の電極の組み合わせのうちの別の電極の組み合わせに対応する活性化閾値よりも高いという判定に基づいて、電気刺激の送達を中止するように構成されてもよい。刺激制御ユニットは、第1電気刺激および第2電気刺激のうちの一方の電流のパルス幅および振幅を調節するように構成されてもよい。刺激制御ユニットは、第1電気刺激および第2電気刺激のうちの一方に対する患者の反応が神経の最大上動員(supramaximal recruitment)を示す場合には、第1電気刺激および第2電気刺激のうちの一方の電流の振幅を調節するように構成されてもよい。少なくとも1つのセンサーは2つ以上のセンサーを含んでいてもよい。
【0025】
開示のさらなる実施形態および実施形態例の特徴は添付図面に示され、かつ/またはこの明細書の本文に記載され、かつ/または添付する特許請求の範囲に記載されている。前述の概要および以下の詳細な説明の双方は例示であり、説明のためのものに過ぎず、権利請求される本発明を限定するものではないことが理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】例示的な実施形態に従って、患者の心臓および横隔膜に関連した患者における左右横隔神経の位置および多電極カテーテルの配置を示す概略図。
図2】横隔膜ペーシングシステムの一実施形態の構成要素のブロック図。
図3】例示的な実施形態に従って、患者の左鎖骨下静脈内および上大静脈内に配置される、経血管的横隔神経刺激に用いられる多電極カテーテルの一例を示す図。
図4A】例示的な実施形態に従って、左横隔神経に近接して患者の左鎖骨下静脈内に配置された、二対のカテーテル搭載型横隔神経刺激電極の一例を示す図。
図4B】例示的な実施形態に従って、右横隔神経に近接して患者の上大静脈内に配置された、二対のカテーテル搭載型横隔神経刺激電極の一例を示す図。
図5】例示的な実施形態に従って、標的神経の理論的な電気的リクルートメント曲線を示す図。
図6】例示的な実施形態に従って、気道圧曲線および気道流量曲線を示し、機械換気中の吸気期、呼気期および呼気終末期を示す図。
図7】例示的な実施形態に従って、横隔神経の刺激に用いることができる様々な刺激モードを示す図。
図8】機械換気と同期させて用いることができ、刺激は呼気終末期中に与えられる、様々な刺激モードを示す図。
図9A】例示的な実施形態に従って、機械換気と同期した横隔膜ペーシングの特性を示す図であって、プロットは流量信号、刺激電荷、横隔膜反応、パルス幅調整、および電流を示し、また閾値活性化が所望されるパルス幅値の範囲を示す例示的な予め設定されたパルス幅ゾーンも示す図。
図9B】例示的な実施形態に従って、機械換気と同期した横隔膜ペーシングを例示し、横隔神経の電気刺激に対応する流量、圧力、EMGおよび加速度測定値を示す図。
図10A】例示的な実施形態に従って、1組の個々のデータ点の最適化によって得られるリクルートメント曲線の例を示す図。
図10B】例示的な実施形態に従って、各パルス幅値を用いて得られた多数のデータポイントを平均することによって得られるリクルートメント曲線の例を示す図。
図11】例示的な実施形態に従って、標的神経に解剖学的に最も近接して位置する可能性のあるカテーテルの局所領域を特定するアルゴリズムの第1段階において用いられる、予め設定された電極対の例を示す図。
図12】例示的な実施形態に従って、段階1において特定されたカテーテルゾーン内のすべての電極が評価されるアルゴリズムの第2段階の例を示す図であって、1つの目的は最適な電極の組み合わせを特定することである図。
図13】例示的な実施形態に従った、マッピングアルゴリズムのフローチャート。
図14A】例示的な実施形態に従った、図13のマッピングアルゴリズムの第1段階のフローチャート。
図14B】例示的な実施形態に従った、図13のマッピングアルゴリズムの第2段階のフローチャート。
図14C】例示的な実施形態に従った、図13のマッピングアルゴリズムの第3段階のフローチャート。
図15】例示的な実施形態に従った、監視アルゴリズムのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
概要
この開示において、数ある実施形態の中でも特に、神経ペーシング処置中に用いられる電極の組み合わせを選択するためのシステムおよび関連する方法について記載する。
【0028】
横隔膜ペーシングシステムのような神経ペーシングシステムの電極アセンブリの複数の電極の組み合わせは、標的神経を電気的に刺激する場合における各組み合わせの相対的効力を判定するためにマッピング(または試験)される。このような状況における刺激の効力とは、例えば、1刺激パルス当たりできるだけ低い電荷で神経を一貫して刺激する能力を指す。典型的には、刺激を誘発するのに必要とされる電荷は、標的神経に対する電極位置に依存する。つまり、電極の組み合わせと標的との間の距離が短いほど、必要とされる1パルス当たりの電荷は低い。マッピングプロセスの諸段階において、神経を刺激するためにより高い電荷を必要とする電極の組み合わせ、電荷調整時に神経を十分に速く最大限に刺激しない電極の組み合わせ、電荷調整時に神経をあまりにも早く最大限に刺激する電極の組み合わせ、安定した予測可能な方法で神経を刺激しない電極の組み合わせ、他の神経または解剖学的構造の望ましくない刺激を引き起こす電極の組み合わせ、または他の場合には最適でない電極の組み合わせは、神経ペーシング処置で用いられる候補として廃棄される。一実施形態において、マッピングプロセスは、横隔神経の電気刺激によって、横隔膜ペーシングの前に行なわれ、1つまたは複数の選択された電極の組み合わせは、後続の横隔膜ペーシング中に横隔神経を刺激するために用いられる。いくつかの実施形態において、マッピングプロセスは、横隔神経を刺激するために最適な電極の組み合わせが用いられていることを保証するために、横隔膜ペーシングの開始後に行なわれる。他の実施形態では、マッピングプロセスは、全刺激期間中に最適な電極が用いられることを保証するために、横隔膜ペーシング前と、ペーシング中に1回以上との双方において行なわれてもよい。
【0029】
ここで、横隔膜ペーシングシステムの例の構成要素について詳細に説明する。図1に示すように、システムは多電極アセンブリ2を備える。アセンブリ2は、この例ではカテーテルである長尺体4を備え、電極6は長尺体4の長さに沿って長手方向に配置されている。カテーテルは、超音波イメージングによって支援されるセルディンガー法または他の適当な挿入法を用いて、迅速に経皮的に挿入される。まず、ガイドワイヤーが皮下針を介して静脈内に挿入され、次いでガイドワイヤー上にカテーテルの遠位チップが通され、静脈内に進められる。カテーテルの形状および機械的性質は、カテーテルを右左横隔神経に隣接する領域の静脈壁に緩やかに沿って進めさせるように設計される。
【0030】
図3は、多電極アセンブリ2の一実施形態を示す。図3は、長尺体4の軸線を中心として互いに対して90度回転したアセンブリ2の2つの図を示している。長尺体4は、複数の遠位電極6a~6fと、複数の近位電極6g~6rとを有するカテーテルである。6個の遠位電極と12個の近位電極とが示されているが、長尺体4はいかなる数の電極を備えていてもよい。電極はカテーテル内の複数の電極アセンブリ上に保持されている。一実施形態において、電極は開口を介して長尺体4の外側に露出されていてもよい。開口は、電極の組み合わせによって形成された電界を特定の所望の領域に閉じ込め得る。長尺体4は、左電極アレイ(電極6g~6r)が患者の左横隔神経を刺激するように構成され、かつ、右電極アレイ(6a~6f)は患者の右横隔神経を刺激するように構成されるように、構成されている。
【0031】
左右横隔神経の各々の双極刺激(bipolar stimulation)に2つの電極が用いられているが、他の数の電極が本開示の実施形態によって実施され、電極の組み合わせを形成してもよいことが理解されるであろう。例えば、図4Aおよび図4Bに示すように、各横隔神経を刺激するために4つの電極を用いることができる。いくつかの実施形態において、神経のいわゆる単極刺激のために単一の電極を用いてもよい。その場合、刺激回路は、体内または身体上の別の位置に配置された参照電極を用いることにより完結する。電極の組み合わせは、神経を電気的に刺激するように構成された1つ以上の電極の任意のセットである。電荷平衡型二相性刺激パルス(Charge-balanced biphasic stimulation pulses)は組織の損傷および電極の腐食を最小限にする。
【0032】
図4Aおよび図4Bは、電極を支持するカテーテルまたは他の構造物であってもよい長尺体4の一実施形態を示す。図面は、左鎖骨下静脈内に配置された血管内電極によって左横隔神経PhN(左)に送達される経血管的刺激の2つの経路と、上大静脈SVCの側壁に沿って配置された血管内電極によって右横隔神経PhN(右)に送達される経血管的刺激の2つの経路とを示している。各横隔神経は、2つ以上の血管内電極の組み合わせから部分的にまたは完全に動員される(recruited)。
【0033】
2つ以上の電極の組み合わせからの部分的な神経動員は経時的な筋疲労を低減するために有用であることがある。横隔膜ペーシングシステムは、呼吸の特定の時間間隔または特定の数に基づいて、神経刺激に用いられる電極の組み合わせ同士を(例えば図4Aの左の対と右の対とを、または図4Bの左の対と右の対とを)前後に交替させてもよい。筋疲労を低減し得る別の実施形態では、神経は異なる位相で刺激される2つの電極の組み合わせを用いて動員されてもよく、よって結果として生じる筋力における脈動(ripple)の増大を生じることなく、より低レートで各経路の刺激を可能にする。長尺体4が患者内に移動する場合には、複数の電極の組み合わせの使用により、神経の一貫した動員も可能となり得る。
【0034】
本開示の実施形態によって実施され得る複数の電極の血管内配置、並びに電極構造の構成に関するより詳細については、2009年7月25日出願の米国出願第12/524,571号、現在では米国特許第8,571,662号、「Apparatus for Assisted Breathing by Transvascular Nerve Stimulation and Related Methods」と題された2013年11月22日出願の米国仮出願第61/907,993号、および「Apparatus and Methods for Assisted Breathing by Transvascular Nerve Stimulation」と題された2014年11月21日に出願の米国出願第14/550,485号を参照されたい。前記特許文献の各々の開示は、あらゆる目的のために参照により余すところなく本願に明らかに援用される。加えて、電荷平衡型二相刺激パルスを受信する電極が横隔神経に刺激パルスを発するために用いられてもよいが、他の構成が可能である。例えば、いくつかの陰極電極接点が単一の陽極電極接点とともに用いられてもよいし、またはその逆であってもよい。
【0035】
図2を参照すると、横隔膜ペーシングシステムは刺激制御ユニット8と電気通信する電極6を備える。各電極は、リードによって刺激制御ユニット8に電気的に接続されてもよい。システムはさらに、患者の刺激および/または他の生理学的特性に対する反応を監視するように構成された1つ以上のセンサー12を備える。1つ以上のセンサー12は、患者に与えられた刺激を調節するフィードバック制御機構の一部となることができる。
【0036】
1つ以上のセンサー12は、以下の(筋内、表面、および/または食道内において監視される)筋電図活動、中心静脈圧(この信号の任意の特定成分)、心拍数、胸壁加速度、血中酸素飽和度、二酸化炭素濃度、静脈内カテーテルの位置/深さ、(例えば加速度計、長さゲージ、および/または歪みゲージからの)機械的運動、(例えばインピーダンスニューモグラフおよび/またはピエゾ抵抗型センサーからの)抵抗、および/または、他の生理学的または機械的パラメータのうちの1つ以上を示すデータを刺激制御ユニット8に送信することができる。当然のことながら、前記情報は、刺激制御ユニット8によって使用される前に適切に処理(例えば、フィルタリング、調整、増幅、など)されてもよい。
【0037】
本願に用いられる「容量(volume)」という用語は、吸気一回換気量、呼気一回換気量または分時拍出量を含むが、これらに限定されるものではない。本願に用いられる「圧力」という用語は、気道圧、肺胞内圧、人工呼吸器圧力、食道内圧、胃圧、経横隔膜圧差(Transdiaphragmatic Pressure)、胸郭内圧、呼吸終末陽圧または胸腔内圧を含むが、これらに限定されるものではない。任意の圧力は、そのピーク圧力、平均圧力、ベースライン圧力、または人工呼吸器による呼吸の期に関連した圧力-時間積によって表わされてもよい。本願で用いられる「流量」という用語は、吸気流量(Inspiratory Air Flow)または呼気流量(Expiratory Air Flow)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0038】
多電極アセンブリ2はまた、任意で、中心静脈内におけるその配置により、対象者の生理学的変数を監視することができる。そのような監視される生理学的変数としては、中心静脈圧、心電図および静脈血酸素飽和度を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
横隔膜ペーシングシステムは、加えて、またはこれに代えて、人工呼吸器のパラメータを感知するための呼吸センサー14(図2)を備える。その点に関して、呼吸センサー14は、救急救命用人工呼吸器(critical care ventilators)において用いられる任意の標準的な呼吸回路とインターフェース接続するように構成することができ、従って、ペーシングシステムは用いられる人工呼吸器の銘柄および型式とは無関係である。呼吸センサー14は、呼吸回路と直列であるその位置により、いくつかの換気パラメータを監視および/または測定し、そのようなパラメータを刺激制御ユニット8に通信する。呼吸センサー14は、患者に与えられる刺激を調節するためのフィードバック制御機構の一部となることができる。感知、計算、または導出される換気パラメータとしては、(吸気および/または呼気の)空気流量、容量、および(気道、食道、胃、および/または前者のいくつかの組み合わせ/派生物の)圧力が挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、他のセンサーは、1つ以上の換気パラメータの取得を支援してもよい。一実施形態において、呼吸センサー14は、患者と人工呼吸器との間の呼吸回路からの流量、容量、または圧力を監視してもよい。別の実施形態では、呼吸センサー14は、流量、容量、または圧力を判定するために、人工呼吸器と直接通信してもよい。
【0040】
パラメータの例は、人工呼吸器へ、および人工呼吸器からの双方において測定されてもよい。呼吸センサー14は、本システムが人工呼吸器の型式とは無関係であるように、人工呼吸器の外部にあってもよい。しかしながら、横隔膜ペーシングシステムは、付加的な外部呼吸センサーを省略することができるように、人工呼吸器の内部センサー、または適切な動作のために人工呼吸器によって外部から供給される信号を用いるように統合されることもできる。
【0041】
刺激制御ユニット8は、一部は、センサー12,14の1つ以上から受信した情報および/または臨床医によって本システムにプログラムされた情報に反応して、横隔膜に治療を提供するための信号発生器として機能し得る。臨床医または他の使用者は、1つ以上の入力装置15を用いて、刺激制御ユニット8に情報を入力してもよい。入力装置15は、手動で情報を入力するためにキーボードを備えてもよいし、または刺激制御ユニット8と通信する人工呼吸器または他の装置を含んでもよい。使用者または別の装置から受信された入力情報は、マッピングプロセスまたは横隔膜ペーシングの間に、または他の場合にはマッピングプロセスまたは横隔膜ペーシングに関連して、用いられるいかなる情報を含んでもよい。刺激制御ユニット8は、完全にプログラム可能な刺激を送達するように構成されてもよい。
【0042】
図2に示すように、横隔膜ペーシングシステムの刺激制御ユニット8は、ハードウェア、ソフトウェアまたは他の必要な構成要素によって、本願に記載する様々な機能およびプロセスを実行するようにそれぞれ構成された電源、パルス発生回路、タイマー、信号処理部および制御装置をさらに備える。図2に示す横隔膜ペーシングシステム構成要素の各々は、電気的に接続されていてもよいし、または他の場合には様々な他の構成要素と通信してもよい。一実施形態において、制御装置は分散型制御システムであってもよい。
【0043】
カテーテルが所望の血管内に完全に挿入されたならば(図1)、電極をマッピングするプロセスが初期化される。図3を参照すると、電極の遠位セットの選択的な刺激は右横隔神経の位置を特定するために用いられ、電極の近位セットの選択的な刺激は左横隔神経の位置を特定するために用いられる。
【0044】
神経に対する電極の配置/配向
電極の神経への近接性に加えて、神経に対する電極配置は、神経軸索を刺激するために必要とされる電流の量を低減し得る要因である。理論上および実際上、電極および電流の流れの方向が(図4Aおよび図4Bに示すように)神経に平行な場合には、神経軸索はより低い活性化電流を必要とし、よって活動電位を発生させるのに十分な大きさの長手方向の経膜脱分極(longitudinal transmembrane depolarization)を生じる。神経が走っている方向は正確には分からないことがあり、また個人毎に変化し得るので、神経刺激の間に最適な電極が選択されることを保証するために、様々な電極の組み合わせを試験することができる。図3の実施形態は、電極の2つの平行な列を含み、それらの列の中からカテーテルおよび神経に対して様々な配向を有する対を選択することができる。
【0045】
マッピング中の刺激パターンおよびリクルートメント曲線の作成
図5を参照すると、神経刺激に対する横隔膜の反応を特徴付けるためにリクルートメント曲線またはシグモイド曲線(sigmoidals)が用いられている。リクルートメント曲線は、特定の電極の組み合わせによって神経を複数回刺激し(例えば図7図9に示すもののような多数の電気パルス76を送達し)、横隔膜の反応を測定し、その横隔膜の反応のモデルを構築するために最良適合線を調製することによって作成される。よって、リクルートメント曲線は、各刺激部位および電極の組み合わせに対して特有である。
【0046】
図5は、5つの要素または部分を含むリクルートメント曲線16の例を示す。曲線の第1要素はゼロ動員(Zero Recruitment)と称され、筋肉(例えば横隔膜)からの反応を誘発しない刺激に対応する。ゼロ動員部分の一実施形態では、2つまたは3つの電気パルス76(図7参照)が神経に送達される。これは、この期の間に必要とされる時間および送達される刺激を最小限にし得る。ゼロ動員部分は、筋肉が神経刺激に反応し始める時である活性化閾値を使用者が特定するのを助ける。この第2部分の活性化閾値(Activation Threshold)は、筋肉の閾値活性化または収縮を引き起こす特定の確率(例えば50%)を有する電荷レベルを表わす。活性化閾値は任意のパーセンテージで定義され、50%より低くてもよいし、または50%より高くてもよい。第3部分の比例動員(Proportional Recruitment)は、活性化閾値と最大動員レベル(Maximal Recruitment level)との間における電荷レベルと動員との関係を記述するリクルートメント曲線16の一部である。リクルートメント曲線の比例動員区間は、治療の間に使用するための刺激パラメータを生成するために用いられる。第4部分の最大動員(Maximal Recruitment)は、可能な限り最も高い筋反応が生じる電荷レベルである。最大動員点は、リクルートメント曲線の比例動員区間の終わりを画定する。最大上動員(Supramaximal Recruitment)と称される最終部分は、最大動員電荷より大きな電荷における任意の動員である。この領域の傾きは、比例動員領域よりも小さい。
【0047】
この開示の一態様は、図5図10Aおよび図10Bに示すようなリクルートメント曲線の、自動化され、フィードバック制御された生成を含む。以下でより詳細に説明するように、刺激制御ユニット8は、身体の反応を監視しながら、強度が増大する刺激パルスのランプ(ramp)を送達する。これはリクルートメント曲線生成プロセスの間に必要とされる時間および送達される刺激を減少させる。刺激のランプおよび刺激パルスの定量化は、送達される電荷当たり一つのデータポイントによって(図10A)、または送達される電荷当たり複数のデータポイントによって(図10B)行われる。
【0048】
リクルートメント曲線の自動生成は、刺激のランプ(複数の電気パルス76)を刺激のランプ内の前のパルスによって誘発される生理学的反応に基づいて送達する刺激制御ユニット8を必要とする。刺激パラメータおよび反応パラメータが設定可能な範囲または閾値内にない場合、制御システムは刺激を中止し、刺激パラメータを適切に調節する。次に、再設定された電荷におけるシグモイド取得(sigmoidal acquisition)のために、新たな刺激のランプが送達される。次に、設定可能な閾値によって定義されるような、満足なリクルートメント曲線の生成に寄与しないであろう不要な刺激を送達することなく、完全なリクルートメント曲線が生成される。一実施形態は、活性化閾値のための適当なパルス幅範囲を定義する閾値を特徴とし、設定されたパルス幅ゾーン内で活性化が検出されない場合には、システムは刺激を中止し、刺激を開始する前にパルス電流を増大するか、または低減する(図9および図14C参照)。他の実施形態は、パルス幅を一定に保ちながら、活性化閾値の適当な電流範囲を定義する閾値を特徴としてもよく、設定された電流ゾーン内で活性化が検出されない場合には、システムは刺激を中止し、刺激を開始する前にパルス幅を増大または低減する。他の実施形態は、送達される電荷を再設定するためにパラメータの組み合わせを用いることができ、図5に示したような、ゼロ動員、比例動員および最大上動員を含むが、これらに限定されないパラメータに対する設定可能なゾーンを特徴としてもよい。
【0049】
本開示の一態様は、マッピングプロセスの間に機械換気を中止する必要なく、機械換気と同期した横隔膜ペーシングのために横隔神経を動員するのに最良な電極をマッピングする方法を提供する。この方法は、多電極カテーテルと、電極のサブセクションを知的に選択する自動フィードバック制御アルゴリズムとを用い、マッピングプロセスの一部として必要とされる時間および送達される刺激を最小限にし得る。図13に関連してさらに説明するように、電極の組み合わせは、前の刺激に対する生理学的反応(例えば横隔膜反応)に基づく評価のために選択される。刺激に対する生理学的反応は、気道圧、気道流量、筋電図記録、胸壁加速度、または横隔膜の収縮から生じるか、または横隔膜の収縮に相関する他の信号において結果として生じた変化を監視することによって定量化されてもよい。例えば、図8の実施形態では、刺激は患者の呼吸周期の呼気終末(安静)期(図6参照)中に送達され、そのため通常の機械換気を中断しない。
【0050】
図6は呼吸の吸気期中および呼気期中における例示的な気道圧および気道流量曲線を示している。患者は、挿管され、人工呼吸器によって支援されている間に、そのような圧力および流量曲線を示す。図7図9に示す電気パルス76は、例えば、1回以上の呼吸の呼気終末期72の間に、横隔膜ペーシングシステムによって患者に送達される。呼気終末期72の間にはバックグランド流量および圧力の値は比較的一定のままである。
【0051】
図7図9は、電極の組み合わせを試験するために用いられる例示的な神経刺激パターンを示しており、各電極の組み合わせのリクルートメント曲線のすべてまたは一部の作成を含む。電極の組み合わせは、横隔膜をペーシングするための横隔神経刺激のような所望の結果に対して最適な電極の位置を特定するために試験される。図7~9に示した神経刺激パターンは、図13図14Cに関して記載される電極の組み合わせの試験の間のような、本願に記載するアルゴリズムの様々な段階のうちいずれの間に実現されてもよい。いくつかの電極の組み合わせについては、刺激パターンは、図5図10Aおよび図10Bに示したもののような全リクルートメント曲線を作成するために実施されてもよい。
【0052】
図7図9は、一定期間にわたって送達され(X軸)、かつ各々特定の刺激電荷を有する(Y軸)電気パルス76を示すように一般化されている。しかしながら、各パルス76の刺激電荷は、電流振幅、パルス幅(電流が適用される時間の長さ)、電圧、またはこれらのパラメータの組み合わせの関数として変更されてもよい。例えば図5に戻って参照すると、X軸に沿って示される電荷の増大を達成するために、電流振幅を一定に保持しながら、連続電気パルス76を異なる時間量に対して適用してもよい。従って、個々のパルスのパルス幅は図5のX軸に沿って増大する。これに代えて、X軸に沿って示される電荷の増大を達成するために、パルス幅を一定に保持しながら、異なる電流振幅を連続パルス76の間に適用してもよい。同様に、電荷を増大または低減するために、電圧を増大または低下させてもよい。従って、本願に記載される横隔膜ペーシングシステムおよび方法は、様々な電荷レベルを達成するために、パルス幅、電流振幅、もしくは電圧、またはそれらの組み合わせを変更できる。
【0053】
図7に示すように、電気パルス76は様々なパターンで送達されてもよい。一実施形態において、横隔膜ペーシングシステムは少なくとも3つの刺激モード、すなわち、刺激モード1、刺激モード2、および刺激モード3を含む。刺激モード1と称される第1パターンでは、連続パルス76は単一の呼気終末期72の間に送達される。一実施形態において、刺激モード1の各パルス76は前のパルス76に対して電荷が増大している。上述したように、電荷の増大は、より大きなパルス幅、より大きな電流、より大きな電圧、またはこれらのパラメータ内の変化の組み合わせによるものであってよい。各呼気終末期72の間に6つの電気パルスが送達される。しかしながら、他の実施形態では、6つ未満または7つ以上の電気パルスが呼気終末期72の間に送達されてもよく、一実施形態では、3つの電気パルスが呼気終末期72の間に送達されてもよい。刺激モード1のパルス76に対する横隔膜反応は、特定の電極の組み合わせに対するリクルートメント曲線の作成を可能にする。例えば、刺激モード1のパルス76は、システムが、試験される電極の組み合わせによって刺激される場合に、神経の活性化閾値および最大動員レベルを決定することを可能にする。
【0054】
図7は、刺激モード2と称される第2刺激パターンをさらに示している。刺激モード2では、刺激モード1と同様に、電気パルス76は呼気終末期72の間に送達される。しかしながら、刺激モード2では、連続電気パルス76は、刺激モード1の連続パルスの電荷値よりも互いにより近い電荷値を有する。より近接した電荷値を有する連続パルス76を有することにより、試験された電極の組み合わせに対応するリクルートメント曲線のより正確な判定が可能となる。例えば、図7の刺激モード1に示されるパルスに対して、図7の刺激モード2に示されるパルスは、活性化閾値および最大動員レベルのより正確な判定を可能にする。
【0055】
第3刺激パターンは図7の刺激モード3として示されている。この例では、異なる呼気終末期72におけるパルス76の電荷値は異なるが、単一の呼気終末期72におけるパルス76は、それぞれ同一の電荷値を有する。例えば、後の呼気終末期におけるパルス76の電荷値は、初期の呼気終末期におけるパルス76の電荷値より大きくてもよい。単一の呼気終末期72の間に同一の電荷を有する多数のパルス76を適用することにより、その電極の組み合わせおよび電荷に対する横隔膜反応を複数回測定することが可能となる。システムは、平均をとるか、または異常な反応を排除するアルゴリズムを用いて、特定の電極の組み合わせおよび電荷に対する横隔膜反応のより正確な判定を可能にする。
【0056】
呼気終末期72の間に送達されるパルスの数は、どの刺激モードにおいても、以下の要因、すなわち、a)呼気終末期の継続時間、b)横隔膜ペーシングシステムを刺激することができる最高レート、およびc)横隔膜反応(例えば、各パルス76によって生じる圧力、空気流量、容量、胸部加速度などの変化)の継続時間のうちの1つ以上に少なくとも部分的に基づく。呼気終末期中に送達されるパルス76の最適な数(最適刺激レート)は、これらの要因のうちの1つ以上の検討により決定される。単なる1つの実例として、刺激パルス76は4Hzのレートで送達されて、パルス76の間隔を250msとしてもよく、これはパルス76によって生じる圧力および空気流量の波、並びにその結果として生じる横隔膜反応が、次の横隔膜反応と重複することなく、ピークに達して消えていくのに掛かる時間よりわずかに長くてよい。しかしながら、パルス送達の周波数は、4Hzより高いか、または低いことも可能であり、多くの検討事項および試験条件に従って変更されてもよい。マッピング中に刺激レートを最適化することは、依然として正確な横隔膜反応測定を可能にする、可能な限り高い周波数を用いることにより、神経刺激に最適な電極を選択するのに必要とされる所要時間を最小限にする。
【0057】
図8は、図7の例示的な刺激パターンを吸気期中および呼気期中の流量を示すグラフとともに示している。一実施形態において、図8に示す流量は人工呼吸器から呼吸支援を受けている患者のものである。図8に見られるように、様々な刺激モードのパルス76は、背景流量が比較的一定である(かつ0に近い)呼気終末期72の間に送達される。
【0058】
図9Aは患者の4回の呼吸中における例示的な流量、刺激電荷、横隔膜反応、パルス幅および電流レベルを示している。これらの4回の呼吸中に、患者は人工呼吸器から呼吸支援を受けていてもよく、電極の組み合わせの試験は、人工呼吸器に支援された呼吸の呼気終末期72(個々には72a,72b,72c,72d)の間に行われる。流量は図9Aの一番上に示されている。電気パルス76の刺激電荷は流量信号の直下に示されている。横隔膜ペーシングシステムの電気パルス76は、呼気終末期中に、流量に影響を与える。電気パルス76に対する横隔膜反応は、図9Aの刺激電荷部分の下に示されている。横隔膜反応は、電気パルス76に反応して、流量、圧力または他のパラメータの変化として測定される。各パルス76が適用される時間の長さである各電気パルス76のパルス幅も図9Aに示されている。最後に、図9Aの一番下には、各パルス幅の電流レベルが示されている。この例の刺激電荷、パルス幅および電流レベルのグラフを比較して分かるように、刺激電荷は、単一の呼気終末期中において、同一の呼気終末期中の電流は一定にしたまま、パルス幅を変更することによって変更される。
【0059】
横隔膜反応は、試験される電極の組み合わせによって刺激された場合に神経の活性化閾値および最大動員レベルについてのより正確な情報を抽出するために、ペーシングシステムが電気パルス76を変更するのを支援し得る。例えば、図9A中の呼気終末期72aを参照すると、横隔膜反応は、初めの4つのパルス76に反応して、低く、比較的安定しており、次に5番目のパルス76に反応して増大する。従って、神経の活性化閾値は、期72aの4番目のパルス76の電荷レベルと5番目のパルス76の電荷レベルとの間のどこかである。
【0060】
活性化閾値のより狭い範囲を決定するために、第2呼気終末期72bの間に送達されるパルス76はすべて、期72aの電荷を包含する範囲よりも狭い範囲内に含まれる。同様に、第3呼気終末期72cの間に送達されるパルス76はすべて、より狭い電荷の範囲内に含まれる。例えば、期72bの間に送達される各パルス76は、期72aの間に送達される3番目のパルスの電荷と5番目のパルスの電荷と間の電荷を有する。期72cの間に送達される各パルス76は期72aの第5パルスの電荷より高い電荷を有し、連続するパルス76の間の電荷差は期72bの連続するパルス76の間の電荷差と同様である。このように、システムは、例えば(期72bの間の横隔膜反応の増大に対応する)期72bの3番目のパルスの刺激電荷である活性化閾値ATのより正確な推定値を決定する。
【0061】
期72cの間、この例における横隔膜反応は、刺激電荷の増大に比例して増大する。従って、これらの電荷は、図5のそれと同様のリクルートメント曲線の比例動員区間内に含まれる。最後に、第4呼気終末期72dの間に送達される電気パルス76は、リクルートメント曲線の最大動員レベルおよび最大上動員部分を判定するために用いられる。期72dに対応する横隔膜反応部分に見られるように、横隔膜反応は飽和状態にあり、各パルス76の刺激電荷が増大しても、期72にわたって安定して高いままである。
【0062】
図9Bは、1つ以上のセンサー12,14によって判定された、電気パルス76に反応した例示的な流量、圧力、EMGおよび加速度測定値を示している。流量、圧力、EMG活動および(例えば胸壁の)加速度は、横隔膜の電気パルス76に対する反応を示している。図9Bに見られるように、横隔膜は収縮することによって反応し、その収縮より肺の拡張が生じるため、圧力は活性化閾値を超える刺激電荷に反応して低下する。横隔膜筋が電気的に刺激されたので、EMG活動は増大する。パルス76が活性化閾値を超え、横隔膜が刺激されて、肺および胸部を拡張させると、患者の胸壁または他の部分の加速度は増大する。
【0063】
一実施形態において、横隔膜ペーシングシステムは、所定の範囲内のパルス幅を有するパルス76を送達する定電流システムである。一例において、パルス幅の所定の範囲は10~300μsである。様々な実施形態において、電流は、0.1mA~10mA、0.25mA~5mA、または0.5mA~2mAであってもよく、一例では1mAである。従って、活性化閾値PW(AT)またはその付近におけるパルス76のパルス幅が図9A中に網掛けして示した範囲Rのような特定の範囲R内にある場合に有用である。範囲Rは、全パルス幅範囲の一部、例えば最初の20%など、であってもよい。一実施形態において、範囲Rは10~68μsである。従って、横隔膜ペーシングシステムは、範囲R内の活性化閾値パルス幅PW(AT)を達成するために、呼気終末期72aと呼気終末期72bとの間に示されるように、パルス76の電流レベルを変更してもよい。
【0064】
図10Aおよび図10Bは、図9Aの電極の組み合わせ試験に基づいて作成される例示的なリクルートメント曲線を示す。図10Aを参照すると、より短いパルス幅(例えば図9Aの呼気終末期72bの間に送達された最初の2つのパルス)では、横隔膜反応はゼロであるか、またはゼロに近くなっている。この部分はリクルートメント曲線のゼロ動員部分に対応する。パルス幅が増大するにつれ(例えば図9Aの呼気終末期72cの間に送達されたすべてのパルス)、横隔膜反応はほぼ比例して増大する。曲線のこの区間は曲線の比例動員区間に対応する。最後に、パルス幅が特定のレベルを超える場合(例えば図9Aの呼気終末期72dの間に送達されたすべてのパルス)、横隔膜反応はその最大能力において飽和状態にあり、もはや増大せず、リクルートメント曲線の最大上動員部分に対応する。パルス76のパルス幅(X軸)と、それらの結果として生じる横隔膜反応(Y軸)とに対応するデータポイントを用いて、最良適合線が計算される。
【0065】
図10Bのリクルートメント曲線を作成するためには、特定の電極の組み合わせの試験を複数回実施し、試験されたパルス幅およびそれらの誘発された横隔膜反応に対応するデータポイントを平均する。例えば、その間に4回の呼吸が行なわれる図9Aのプロセスを他の呼吸のセットの間に1回以上繰り返してもよい。次に、そのデータポイントを平均し、その平均を用いて最良適合線を計算する。
【0066】
マッピングのプロセスの例示的な実施形態
図11図14Cを参照して、神経刺激のための最適な電極の組み合わせを判定するために複数の電極の組み合わせを試験するプロセスの例示的な実施形態を説明する。試験される各電極の組み合わせについて、電気パルス76が上述したように神経に送達され、横隔膜ペーシングシステムは、その特定の電極の組み合わせおよびその標的神経に対する効果に対応するリクルートメント曲線を作成することができる。
【0067】
本開示の実施形態は、例えば、2013年11月22日出願の「Apparatus for Assisted Breathing by Transvascular Nerve Stimulation and Related Methods」と題された米国仮出願第61/907,993号、および2014年11月21日出願の「Apparatus and Methods for Assisted Breathing by Transvascular Nerve Stimulation」と題された米国出願第14/550,485号に記載されているカテーテルのような任意の多電極ペーシングカテーテルによる刺激の送達を迅速かつ自動的に最適化することができるシステムを提供する。前記特許文献の開示は本願に援用される。一実施形態は、自動化された方法で、適当な刺激電極のサブセクションを反復して評価し、選択する方法を提供する。刺激送達は、良好に挿入されたカテーテルを移動させる必要なく、神経刺激に適した電極の適当なサブセクションを選択することによって最適化される。カテーテルは、その電極の一部またはすべてが少なくとも1つの標的神経の一部と交差する電荷電場を生成することができるならば、良好に挿入されている。
【0068】
図11図14Cに関連して記載される電極の組み合わせの反復評価は、良好な横隔膜反応を提供する可能性が最も高い電極の組み合わせに迅速に注目することにより、電極選択の時間を節約できる。最初に、第1次の組み合わせと称される長尺体4の長さに沿った電極の組み合わせのサブセット(図11を参照)が、長尺体4に対する神経の概略位置を判定するために試験される。神経の概略位置を判定するために、すべての可能な電極の組み合わせを試験する必要はない。次に、神経に近接した第1次の電極の組み合わせの限局されたサブセットに基づいて、第2次の電極の組み合わせと称される電極の付加的な組み合わせが試験される(図12参照)。長尺体4の特定領域を限局し、次いで付加的な電極の組み合わせを決定することにより、長尺体4の全長に沿った電極の組み合わせの多数の順列を試験しなければならないことを回避できる。
【0069】
システムは、様々な電極の組み合わせを横切って送達される刺激に対する横隔膜の反応を分析および比較することによって、適当な電極の組み合わせ、およびその対応する刺激パラメータに迅速に収束できる。システムはまた、心拍数、ECG、中心静脈圧などのような生理的パラメータも考慮し、標的とされるゾーンに解剖学的に近接して位置する迷走神経(図1)、洞房結節などの刺激を含むが、これらに限定されない、望ましくない刺激の影響を表わす電極の組み合わせまたは刺激構成を廃棄してもよい。反応を比較するために、図7~9に関連して上述したパターンのような、様々な刺激パターンを用いることができる。複数のセンサーおよび信号アーチファクトを用いて、筋電図記録、身体の中/上に配置された加速度計、中心静脈圧、血中酸素飽和度、二酸化炭素濃度、静脈内におけるカテーテルの位置/深さ、機械的運動、気道流量および気道圧を含むが、これらに限定されない、刺激に対する生理学的反応を定量化することができる。
【0070】
一実施形態において、刺激制御ユニット8は、電極の組み合わせを試験し、順位付けする反復過程を実施して、適当な電極の組み合わせに収束させる。刺激のランプを電極の組み合わせの次第に小さなセットに送達することによって、マッピングプロセス中に必要とされる所要時間および身体に送達される電荷を低減しながら、最良の電極の組み合わせが特定される。
【0071】
第1段階では、アルゴリズムは、横隔神経に関して適切に配向されていると考えられる一連の設定可能な電極の組み合わせを同一に刺激する。図11は、事前設定された電極の組み合わせの例を提供している。生理学的反応は、一連の刺激全体によって生じる任意の信号アーチファクトにおける総計された摂動(summed-total perturbations)として記述することができる。誘発された相対的に望ましい生理学的反応および望ましくない生理学的反応に基づいて、アルゴリズムは、神経に近接して位置する可能性が高い挿入されたカテーテル上の位置を特定する。図12に示すもののような、この特定されたカテーテル領域内の電極の組み合わせは、刺激送達に最適である可能性が高い。
【0072】
第2段階では、この特定された領域内の電極が刺激のランプによって刺激され、誘発された生理学的反応に基づいて、比較により評価される。刺激送達に対する生理学的反応は、筋電図記録、身体の中/上に配置された加速度計、中心静脈圧、血中酸素飽和度、二酸化炭素濃度、静脈内におけるカテーテルの位置/深さ、機械的運動、気道流量および気道圧を含むが、これらに限定されない複数の信号によって定量化することができる。一実施形態において、気道圧を用いて、(例えば図8に示したような)一連の呼気終末刺激に対する横隔膜の反応を定量化してもよい。この段階中における電極の組み合わせによって誘発される反応の比較は、潜在的に多数の刺激に最適な電極の組み合わせを生じる。この多数の最適な組み合わせは、続いて、それらのすべてまたはサブセクションがペーシング中に刺激送達に用いられるように構成される。
【0073】
図13は、神経刺激のための最適な電極の組み合わせを判定するプロセスの概要を示している。工程1310において、カテーテルのような長尺体4の長さに沿った第1の複数の電極の組み合わせが、標的神経を刺激するそれらの能力について試験される。上記で述べたように、このプロセスは標的神経に最も近いカテーテルの区間の位置を特定することを支援する。図11は工程1310に対応し、また図11中の矢印は、カテーテルのどの部分が1つ以上の標的神経に最も近いかを判定するために試験される例示的な第1次の電極の組み合わせ(対として図示)を示す。一実施形態において、6つの近位電極の組み合わせが工程1310の間に左横隔神経に対するそれらの影響を判定するために試験される(例えば、6g/6h、6i/6j、6k/6l、6m/6n、6o/6p、および6q/6r)。同様に、6つの遠位電極の組み合わせが工程1310の間に右横隔神経に対するそれらの影響を判定するために試験される(例えば6a/6b、6b/6c、6c/6d、6d/6eおよび6e/6f)。しかしながら、加えて、またはこれに代えて、工程1310の間に、異なる近位または遠位の第1次の電極の組み合わせが試験されてもよいし、また6つ未満または7つ以上の組み合わせが試験されてもよい。様々な電極の組み合わせを試験した後に、刺激制御ユニット8は、試験された組み合わせからの刺激に対する横隔膜反応に基づいて、カテーテルのどの区間が1つ以上の標的神経の最も近くに位置するかを判定する。
【0074】
工程1320では、工程1310において特定された第2の複数の電極の組み合わせが、神経刺激に対するそれらの適合性を判定するために、さらに試験され順位付けされる。第2の複数の電極の組み合わせは、局所内における電極の組み合わせのサブセット、並びに付加的な第2次の電極の組み合わせを含む。図12は、工程1320に対応し、さらに試験され得る様々な電極の組み合わせ(対として図示)を示している。一例において、工程1320の試験は、結果として、左横隔神経の刺激に最も適してものとして1つ以上の近位電極の組み合わせを特定し、右横隔神経の刺激に最も適しているものとして1つ以上の遠位電極の組み合わせを特定する。
【0075】
工程1330では、工程1320において特定された適当な電極の組み合わせがさらに試験され、図5図10および図11に示したリクルートメント曲線のようなリクルートメント曲線が組み合わせの各々について作成される。
【0076】
図14A図14Cは、図13の工程をより詳細に示している。図14Aは工程1310に対応し、図14Bは工程1320に対応し、図14Cは工程1330に対応する。
図14Aおよび図11に示すようなマッピングプロセスの第1段階では、長尺体4上に分散された、事前設定された電極の組み合わせに刺激が送達される。この段階において、1つの目的は、標的神経の解剖学的により近くに位置するカテーテルの局所を特定することにある。一実施形態において、事前設定された電極の組み合わせの初期のセットは、カテーテルの長さに沿ったすべての可能な電極の組み合わせを含まない。標的神経に近い可能性のある電極の組み合わせは、関連する活性化閾値またはリクルートメント曲線を必ずしも考慮することなく、刺激のランプ全体に対するそれらの反応の総計を比較することにより特定される。望ましくない生理的効果の発現を生じる電極の組み合わせはこの段階の間に排除される。
【0077】
図14Aは、標的神経に近接して位置する長尺体4のサブセクションを特定するためのアルゴリズムを詳細に示している。一般に、工程1410~1440では、電気パルス76が電極の組み合わせに送達され、組み合わせの各々に対する横隔膜反応が処理される。工程1410において、システムは、第1の複数の電極の組み合わせ(本願では第1次の組み合わせとも称される)から電極の組み合わせを選択する。第1の複数の電極の組み合わせは、刺激制御ユニット8内にプログラムされた予め設定されたリストであってもよい。一実施形態において、第1の複数の電極の組み合わせは、図11に示した電極の対である。工程1410~1440において、電極の組み合わせの各々はひとつずつ刺激されてもよい。
【0078】
工程1420において、神経は、第1の複数の組み合わせのうちの第1の電極の組み合わせに電流を送達することにより電気的に刺激される。電流は、図7図9に示されるもののような、パルス幅および電流振幅をそれぞれ有する1つ以上のパルス76を含む電気刺激として送達される。また、工程1420においては、アルゴリズムは、患者の神経の電気刺激に対する反応を監視する。一実施形態において、1つ以上のセンサー12および/または1つ以上の呼吸センサー14を用いて、刺激に対する患者の反応を監視してもよい。センサー12,14は、例えば、(例えば、流量、圧力、量、機械的運動、または横隔膜反応を示す他のパラメータの感知により)患者の横隔膜反応についての情報、(例えば筋電図活動または心拍数の感知により)電気刺激が他の解剖学的特徴に対して望ましくない影響を引き起こしているかについての情報、またはセンサー12,14によって測定可能なものとして本願に開示されている他の患者の反応についての情報を提供する。
【0079】
工程1430において、アルゴリズムは、第1の複数の電極の組み合わせ内のすべての電極の組み合わせが刺激されたかを判定する。すべての電極の組み合わせが刺激されていない場合には、アルゴリズムは、第1の複数の電極の組み合わせ内の次の電極の組み合わせに移り(工程1440)、続いて次の電極の組み合わせに対して、刺激し、患者の反応を処理する(工程1420)。一実施形態において、システムが既により低い活性化閾値を有する電極の組み合わせを見つけている場合には、時間を節約するために、特定の電極の組み合わせに対して、工程1420を中止してもよい。
【0080】
第1の複数の電極のうちの電極の組み合わせのすべてが試験されると、システムは、第1の複数の電極の組み合わせのうちの2つ以上が閾値活性化(threshold activation)を示すかどうかを判定する(工程1450)。組み合わせは、送達された電気刺激(例えば3つの電気パルス76のセット)が、横隔膜が反応しない電荷と横隔膜が反応する電荷との間の範囲を包含する場合に閾値活性化を示す。横隔膜の反応(またはそれらの欠如)は1つ以上のセンサー12,14によって上述したように測定される。
【0081】
組み合わせのうちの2つ以上が閾値活性化を示さない場合、システムはいずれかの電極の組み合わせが最大上動員を示すかどうかを判定する(工程1460)。増大した電荷の送達された電気パルスが横隔膜反応の増大を生じない場合、電極の組み合わせは最大上動員を示している。電極の組み合わせが最大上動員を示す場合、システムは電流振幅を1単位だけ低減する(工程1470)。組み合わせのうちの2つ以上が閾値活性化を示さず(工程1450)、組み合わせのどれも最大上動員を生じない(工程1460)場合には、電流は1単位だけ増大される(工程1480)。2つ以上の組み合わせが閾値活性化を示す(工程1450)場合には、各電極の組み合わせに対する横隔膜反応は合算され、また、組み合わせは、1つ以上のセンサー12,14によって判定されるようなそれらの対応する横隔膜反応に従って順位付けされる(工程1490)。
【0082】
工程1500では、システムは、2つの上位の第1次の電極の組み合わせが現われるかどうかを判定する。ある電極の組み合わせは、その誘発された横隔膜反応の総計が他の電極の組み合わせの誘発された横隔膜反応の総計より大きい場合に、別の電極の組み合わせに対して上位にある。よって、工程1500において、システムは、2つの電極の組み合わせが他の電極の組み合わせより大きな横隔膜反応を誘発するかどうかを判定する。他の箇所で述べたように、横隔膜反応は1つ以上のセンサー12,14からの情報によって測定されるか、または前記情報から導出される。一実施形態において、電極の組み合わせを順位付け、どの組み合わせがより大きな横隔膜反応を誘発するかを判定するために、反応継続時間、反応緩和時間、(例えば流量、圧力、EMG信号または横隔膜反応の他の指標の変化の)反応半減時間のような横隔膜反応の特性を用いてもよい。2つの上位の組み合わせが現われない場合、組み合わせが上位の組み合わせとなるのに適格でないならば、それらの組み合わせは除去される(工程1510)。例えば、2つ未満の組み合わせが活性化閾値を示す場合、またはいくつかの組み合わせが互いに非常に近い横隔膜反応を誘発する場合には、2つの上位の組み合わせが現われないことがある。例えば、電極の組み合わせが迷走神経または洞房結節の刺激を引き起こすか、または例えば1つ以上のセンサー12,14によって判定されたような他の望ましくない影響を引き起こす場合には、その電極の組み合わせは適格ではない。次に、残りの組み合わせは、それらの対応する活性化閾値に関して順位付けされる(工程1510)。一実施形態において、より低い活性化閾値を有する電極の組み合わせは、より高い活性化閾値を有する電極の組み合わせより高位に順位付けされる。より低い活性化閾値は、横隔膜ペーシング中に身体に送達される電荷の最小化を可能にする。不適当な電極の組み合わせを除去した後、システムは、2つの上位の組み合わせが現われたかどうかを判定する(工程1520)。2つの上位の組み合わせが現われない場合には、使用者は長尺体4の可能な再配置について通知を受ける(工程1530)。
【0083】
これに代えて、2つの上位の組み合わせが現われた場合には、パルス幅範囲の下位20%位内のパルス幅を有するパルス76によって、近似活性化閾値が達成されるように、電流振幅が調節されてもよい。他の実施形態では、パルス76は、パルス幅範囲の別のセグメント内のパルス幅を有してもよい。この調整により、パルス幅に対する制約を有するシステムが、特定の電極の組み合わせおよび神経に対して、試験および完全なリクルートメント曲線の作成を行うことが可能となる。
【0084】
最後に、図14Aのアルゴリズムは、a)上位の第1次の電極の組み合わせ、およびb)対応する第2次の組み合わせのリストの決定をもたらす(工程1550)。第1次の電極の組み合わせは、参照番号14Aのアルゴリズムによって、適当な横隔膜反応を誘発し、かつ、上位の組み合わせであるのに適格であることが判明した第1の複数の電極の組み合わせのサブセットである。他の電極の組み合わせの横隔膜反応より高い適当な横隔膜反応は、神経に対する近接性の指標である。対応する第2次の組み合わせは、上位の第1次の電極の組み合わせのサブセット内の電極に基づいてシステムによって判定される。
【0085】
例えば、図12を参照すると、電極対6k/6l,6m/6nは、例示的な上位の第1次の電極の組み合わせであり、矢印によって示された残りの対は、上位の第1次の組み合わせに基づいて形成された、対応する第2次の組み合わせである。参照番号6i/6jのような上位の第1次の組み合わせでない他の第1次の電極対は、それらが上位の第1次の組み合わせに近接しているために、第2次の組み合わせのセットに含まれる。例えば、上位の第1次の組み合わせ6k/61が最高位に順位付けられる場合、隣接する電極6i/6jは、たとえ6i/6jが以前に第1次の組み合わせとして試験されていたとしても、さらなる試験のために第2次の組み合わせのセットに含まれる。再度試験されるとき、第1次の組み合わせの試験の間に得られた横隔膜反応に基づいて、異なる刺激パラメータが用いられてもよい。上位の第1次の組み合わせ、および対応する第2次の組み合わせは共に第2の複数の電極の組み合わせと称される(工程1550)。第1の複数の電極の組み合わせの限局されたサブセットから第2の複数の電極の組み合わせを作成することは、カテーテルの長さに沿って、図12に示すもののような多種多様の組み合わせを試験しなければならないことを防止する。
【0086】
従って、一実施形態において、工程1550(図14A)および工程1310(図13)のアウトプットは、第2の複数の電極の組み合わせである。第2の複数の電極の組み合わせは、2つの第1次の電極の組み合わせ(例えば図14Aのアルゴリズムの間に試験された2つの組み合わせ)と、それらの対応する第2次の組み合わせ(例えば第1次の組み合わせの電極に基づいて形成される様々な他の電極の組み合わせ)とを含む。他の実施形態では、工程1550および工程1310のアウトプットは、2つ未満または3つ以上の上位の第1次の電極の組み合わせ、例えば1つ、3つ、または5つ以上の第1次の電極の組み合わせ、および任意の数の対応する第2次の組み合わせである。
【0087】
図14A図14Cに関連して記載されたアルゴリズムは、単一の神経を刺激すべく電極を選択するために、横隔膜ペーシングシステムによって実行されてもよい。一実施形態において、プロセスは第2神経を刺激するのに最適な電極を選択するために繰り返される。例えば、横隔膜ペーシングシステムが図1および図3に関連して記載されるような電極アセンブリ2を備える場合には、図14A図14Cのプロセスは、1回目には左横隔神経の刺激に最適な近位電極を判定するために実行されてもよく、2回目には右横隔神経の刺激に最適な遠位電極を判定するために実行されてもよい。
【0088】
しかしながら、一実施形態において、マッピングプロセスが、左横隔神経および右横隔神経を刺激するのに最適な電極を選択するために行なわれる場合には、近位電極および遠位電極の試験は平行して行われてもよい。この実施形態では、図14A図14Cのプロセスは、電極の近位セットおよび遠位セットの双方に対して行われるが、電気刺激は1つ以上の同一の呼気終末期中に左右横隔神経の双方に送達される。刺激パルス76は、左横隔神経を刺激するための電極の組み合わせと、右横隔神経を刺激するための電極の組み合わせとの間で交互に与えられてもよく、1回以上の呼吸の間に双方の組み合わせの試験および正確な監視を可能にする。さらに別の実施形態では、左右横隔神経は、図14A図14Cのプロセスが電極の近位セットおよび遠位セットに対して実施されることにより、同時に試験されてもよい。一方のみに配置された加速度計のようなセンサー12,14は、各神経を刺激する同時のパルス76に対する個々の片側の横隔膜の反応を独立して監視し、いくつかの実施形態では、左右横隔神経の刺激の別々の寄与を判定するために用いられてもよい。
【0089】
図13の工程1320を示す図14Bを参照すると、図14Aの工程1550において判定された第2の複数の電極の組み合わせは、さらに試験され順位付けされる。図14Bの中間工程は図14Aのそれらと同様であり、従って、ここでは繰り返さない。しかしながら、図14B(工程1560)のアルゴリズムのアウトプットは、第2の複数の電極の組み合わせのサブセットである。一実施形態において、図14Bのアウトプットは神経の刺激のための2つの電極の組み合わせであるが、アウトプットは単一の電極の組み合わせ、または3つ以上の電極の組み合わせであってもよい。アウトプットが2つの電極の組み合わせである場合、双方の組み合わせは、図4Aおよび図4Bに示すように、同一の神経を刺激するために用いられる。
【0090】
図13の工程1330を示す図14Cを参照すると、図14Bの工程1560において特定された組み合わせがさらに試験される。工程1570において、電気パルス76(刺激)は、全パルス幅範囲の初めの20%以内にあるパルス幅(20%の部分は図9Aに示した範囲Rである)を有して送達され、横隔膜反応は1つ以上のセンサー12,14によって判定される。一実施形態において、横隔膜ペーシングシステムは、工程1570中に刺激モード2にあるが、この工程中に他のモードおよび刺激パターンを用いてもよい。閾値活性化が標的パルス幅範囲R内で達成されない場合には(工程1580)、電流は、ゼロ動員が観察されるかどうかに応じて増減される(工程1590,1600,1610)。標的パルス幅範囲R内において閾値活性化が達成される場合には(工程1580)、刺激は全パルス幅範囲について継続される(工程1620)。システムは、すべての組み合わせが試験されたかどうかを判定し(工程1630)、各組み合わせが試験されるまで繰り返す(工程1640)。最後に、システムは、試験した電極の組み合わせのうちの1つ以上に対応するデータポイントに対して最良適合線を抽出し、試験した組み合わせに対する傾きおよび活性化閾値を特定する(工程1650)。最良適合線は、試験した電極の組み合わせおよび神経に対応する、図5図10Aおよび図10Bに示したようなリクルートメント曲線である。
【0091】
一実施形態において、比例動員区間に沿ってより大きな傾きを有するリクルートメント曲線を備えた電極の組み合わせは、比例動員区間に沿ってより小さな傾きを有するリクルートメント曲線を備えた電極の組み合わせよりも、神経刺激に選択される。比例動員区間に沿ったより大きな傾きは、最大動員のための試験がより迅速に完了することを可能にする。加えて、直線状の比例動員区間は神経刺激の制御を簡単にするため、比例動員区間に沿ったより一定の傾きを有する電極の組み合わせは、より可変的な傾きを有する組み合わせよりも、神経刺激に選択される。
【0092】
一実施形態において、図13図14Aおよび図14Bも参照)の工程1310および工程1320において試験された電極の組み合わせは、一貫した刺激のランプを有する電気パルス76によって刺激される。順位付けは、一貫した刺激のランプに対する反応の総計に従う。従って、刺激モード1は、図8に示したように、マッピングのこれらの最初の2つの段階において用いられる。刺激モード1において、一連の刺激の各々は単一の呼気終末期に限定される。最良の電極の組み合わせが判定されたならば、システムはそれらの電極の組み合わせを用いて神経を刺激し、各組み合わせに対する横隔膜反応を分析し、各組み合わせに対応するリクルートメント曲線を抽出する。
【0093】
図15を参照すると、別の実施形態は、横隔膜ペーシングシステムを用いて送達されるペーシングの性能を監視する方法を提供する。(最適な電極の組み合わせを選択するための)上述したマッピングプロセス中の試験は、それらの選択された電極の組み合わせにより、後の横隔膜ペーシングに用いられる周波数より低い周波数で実施される。従って、横隔膜ペーシングシステムは、マッピングプロセスの間に得られ、実際の横隔膜ペーシングに対する身体の反応を予測するために用いることができる情報を有する。図15の方法は、本願に記載されたマッピングおよびリクルートメント曲線の生成方法の使用によって性能の低下を自律的に修正する。この方法は、送達された一連の刺激に対する身体の反応の恒常的な定量化を含む(工程1700,1710,1720)。誘発された反応が、以前に取得したリクルートメント曲線に基づいて設定された刺激パルスに対して期待されるものでない場合には(工程1730)、システムは自動的に刺激を中止して、図13のマッピングプロセスを再実行する(工程1740)。一実施形態において、筋疲労、筋肉の強化またはカテーテル動作により、ペーシング中の横隔膜の反応が予期される反応と一致しないことがある。一実施形態は、設定可能な間隔(例えば予め設定された時間間隔)で、または予測される生理学的反応に対して生理学的反応の異常を検知した場合に、マッピングおよびリクルートメント曲線生成プロセスをトリガする刺激制御ユニット8を備えてもよい。
【0094】
本開示の原理は、本願では特定用途のための例示的な実施形態を参照しながら記載されているが、本開示はそれに限定されるものではないことが理解されるべきである。本願に提供される教示に触れる当業者は、付加的な変更、応用、実施形態、均等物の代替がすべて本願に記載される実施形態の範囲内にあることを認識するであろう。従って、本発明は前述の記載によって限定されるとみなされるものではない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15