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特許7153413積層した電磁鋼板の間隙に析出させた酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して電磁鋼板同士を結合させた鉄心を製造する製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】積層した電磁鋼板の間隙に析出させた酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して電磁鋼板同士を結合させた鉄心を製造する製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20221006BHJP
   C01F 5/06 20060101ALI20221006BHJP
   C01F 7/021 20220101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F41/02 B
C01F5/06
C01F7/021
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019219433
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021089965
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-11-15
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196701(JP,A)
【文献】特開昭57-147119(JP,A)
【文献】特開平2-254173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
C01F 5/06
C01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心の形状に切断した複数枚の電磁鋼板を、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを介して積層させ、該積層した電磁鋼板を圧縮し、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子を前記電磁鋼板の表面に接合し、また、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子同士を接合し、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを介して前記電磁鋼板同士が結合した構成からなる鉄心を製造する該鉄心の製造方法は、
熱分解で酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムを析出する金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を容器に充填し、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点より高く、かつ、前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、前記金属化合物のメタノール分散液に混合し、該有機化合物と前記金属化合物のメタノール分散液との混合液を作成する、この後、鉄心の形状に切断した複数枚の電磁鋼板を前記混合液に浸漬し、さらに、該混合液から前記複数枚の電磁鋼板を取り出し、該複数枚の電磁鋼板をメタノールの沸点に昇温し、前記金属化合物の微細結晶の集まりが前記有機化合物中に析出した懸濁体からなる被膜を、前記複数枚の電磁鋼板の各々の電磁鋼板に吸着させる処理からなる第一の工程と、
前記懸濁体の被膜が吸着した複数枚の電磁鋼板のうち、鉄心を構成する前記電磁鋼板の複数枚を、前記鉄心の形状を有する金型内に重ね合わせて積層し、この後、該金型を前記金属化合物の熱分解温度に昇温し、前記積層した電磁鋼板の各々に、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを析出させ、さらに、プレス機によって徐々に増大する加圧圧力を前記積層した電磁鋼板に加える、これによって、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子が前記電磁鋼板の表面に接合し、また、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子同士が接合し、該微粒子同士の接合を介して前記積層した電磁鋼板同士が結合され、該積層した電磁鋼板同士が結合した構成からなる鉄心が前記金型内に製造される第二の工程と、
前記鉄心を金型から取り出し、該鉄心を750-820℃の温度の還元雰囲気で磁気焼鈍する第三の工程とからなり、
これら3つの工程を連続して実施することにより、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して積層した電磁鋼板同士が結合した構成からなる鉄心が製造される、鉄心の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した鉄心の製造方法において、前記金属化合物が、オクタン酸マグネシウムないしはナフテン酸マグネシウムからなるいずれかのマグネシウム化合物であり、ないしは、安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムからなるいずれかのアルミニウム化合物であり、前記有機化合物が、カルボン酸エステル類ないしはグリコール類ないしはグリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーであり、これら3種類の物質を用い、請求項1に記載した鉄心の製造方法に従って鉄心を製造する、請求項1に記載した鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、変圧器などの電気機器に使用される鉄心の製造方法に関わり、積層した電磁鋼板の間隙に析出させた酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して電磁鋼板同士を結合させた鉄心を製造する製造方法である。なお、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムは、耐熱性と硬度と圧縮強度とのいずれもが、電磁鋼板より高いため、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して電磁鋼板同士を結合させたることができる。なお、電磁鋼板は、結晶方位の揃い方や磁区の幅をコントロールするために、鉄にケイ素を加え、磁気的な性質を改良した鉄板であり、ケイ素を含むことから珪素鋼板と呼ばれたが、ケイ素を含まない電磁鋼板が存在するため、現在では電磁鋼板と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
電動機や変圧器などの電気機器に使用する鉄心は、絶縁被膜を形成した電磁鋼板を積層し、溶接またはカシメによって電磁鋼板同士を固着し、または、絶縁被膜を形成した電磁鋼板に接着剤を塗布して電磁鋼板同士を接着し、最後に、積層した電磁鋼板を鉄心の形状に切断し、積層した電磁鋼板から多数個の鉄心を製造する。積層した電磁鋼板から多数個の鉄心を連続して製造するため、製造された鉄心は安価である。
つまり、電磁鋼板は圧延工程で製造されるため、表面の平坦度は、アトマイズ製法で製造される鉄粉によって代表される軟磁性粉の表面の平坦度に比べると著しく優れる。このため、電磁鋼板に形成した絶縁被膜と電磁鋼板とのアンカー効果に基づく結合力が著しく小さい。従って、積層した電磁鋼板を打ち抜く際の衝撃によって、絶縁被膜が電磁鋼板の表面から容易に剥離する。このため、積層した電磁鋼板を固着させる処理が必要になる。従って、絶縁化させた軟磁性粉の集まりを金型内に充填し、さらに、圧縮し、金型内に圧粉磁心を製造する製造方法と異なる。
いっぽう、製造した鉄心の鉄損が許容できる範囲であれば、鉄心を電気機器に組み込んで使用する。鉄損の大きさが許容できない場合は、鉄心を磁気焼鈍し、鉄心のヒステリシス損失を低減させる。なお、鉄心を電磁変換する際に発生するエネルギー損失は、渦電流損失とヒステリシス損失とからなり、両者を合わせて鉄損という。この鉄損によって鉄心が発熱する。鉄損を低減させるには、電磁鋼板の絶縁性を高め、電磁鋼板同士の間隙を流れる渦電流を減少させる。ないしは、鉄心を磁気焼鈍して電磁鋼板の加工歪を解消させ、電磁鋼板の保持力を元に戻し、ヒステリシス損失を低減させる。なお、焼鈍の処理を、電磁鋼板の加工歪を取りさせる歪取り焼鈍と表現する場合があるが、本発明では電磁鋼板の保持力を元に戻す磁気焼鈍と表現する。
【0003】
いっぽう、従来の鉄心の製造方法は、積層した電磁鋼板を固着する際に、様々な問題が発生する。例えば、積層した電磁鋼板の端部を溶接で固着する場合は、溶接時に電磁鋼板に熱歪みが発生し、電磁鋼板のヒステリシス損失が増える。また、溶接の際に絶縁層から気化した物質が、あるいは、飛散した物質が、絶縁層を攻撃し、ピンホールを絶縁層に形成する。さらに、カシメによって積層した電磁鋼板を固着する場合は、かしめる際に加える荷重で歪みが発生し、電磁鋼板のヒステリシス損失が増える。また、積層した電磁鋼板の面積が大きい場合は、カシメ強度がばらつき、固着強度が足らない部分が発生する。あるいは、電磁鋼板の厚みが薄い場合は、十分なカシメ強度が得られない。さらに、接着剤により電磁鋼板同士を接着する場合は、絶縁被膜を形成した電磁鋼板に接着剤を塗布し、この電磁鋼板を一枚一枚積層する作業性が悪い。また、電磁鋼板の面積が大きい場合は、接着剤の厚みがばらつき、接着強度が足らない部分が発生する。さらに、接着剤の耐熱性が低く、鉄心の磁気焼鈍によって接着剤が熱分解し、電磁鋼板同士の間隙の絶縁性が低下する。このように、積層した電磁鋼板を固着する際に、様々な問題が発生する。
つまり、電磁鋼板の表面が平坦であるため、電磁鋼板に形成した絶縁被膜と電磁鋼板とのアンカー効果に基づく結合力が著しく小さい。このため、積層した電磁鋼板を打ち抜く際に、絶縁被膜に衝撃が加わり、絶縁被膜が電磁鋼板の間隙から容易に剥離ないしは脱落し、電磁鋼板同士の間隙の絶縁性がなくなる。従って、従来の鉄心の製造方法では、積層した電磁鋼板を固着させる処理が必須になる。このため、積層した電磁鋼板を固着させる際に発生する問題は、固着方法を変えない限り、問題を解決することはできない。しかし、金属からなる電磁鋼板同士を容易に固着させる手段は、前記した3つの手段に限られる。従って、積層した電磁鋼板を固着させる処理が不要になる、新たな鉄心の製造方法を見出せれば、この問題が根本的に解決される。
【0004】
さらに、従来の鉄心の製造方法は、溶接する際に熱歪が発生し、かしめる際にカシメ部に加工歪が発生し、さらに、電磁鋼板を打ち抜く際に加工歪が発生する。このような様々な歪によって、電磁鋼板の保持力が増大し、鉄心のヒステリシス損失が増える。このため、ヒステリシス損を減らす磁気焼鈍を行なってから鉄心を電気機器に組み込む。いっぽう磁気焼鈍は、750-820℃の温度で、電磁鋼板が酸化されない還元雰囲気で行うため、従来は、電磁鋼板の絶縁被膜は耐熱性が高いクロム化合物が用いられてきた。しかし、欧州向けの電気製品のRoHs指令(有害物質制限指令)や、国内のグリーン購入法(国による環境物品等の調達の推進に関する法律)により、環境負荷物質である重金属の使用が制限され、クロム化合物を含まない絶縁被膜が必要とされている。
【0005】
こうした絶縁層に関わる様々な問題や課題を解決する様々な提案がなされている。
例えば、特許文献1には、シラン化合物とシランカップリング剤とシリカ粒子とを含む表面処理剤を用い、表面粗さ曲線のスキューネスRskを1以下にした表面に、前記表面処理剤で絶縁被膜を形成することで、絶縁性と耐テンションパッド性と打ち抜き性とに優れたクロムフリーの絶縁膜が形成される技術が提案されている。ここで、スキューネスRskとは、表面粗さの山部と谷部との平均線を中心にしたときの山部と谷部との対称性を表し、Rskが正であれば、平均線の下側に表面粗さ曲線が偏っていることを意味するので、表面粗さにおける山部より谷部の体積のほうが大きい。また、耐テンションパッド性とは、フェルト状のテンションパッドで、絶縁被膜付き電磁鋼板表面をこする際の絶縁被膜の剥がれにくさを表す。
しかし、本絶縁被膜の熱膨張率は、電磁鋼板の熱膨張率より1桁近く小さい。従って、磁気焼鈍のような急激な温度変化で、絶被膜が電磁鋼板から剥離し、剥離した絶縁被膜は耐食性と耐油性を持たない。いっぽう、鉄心を製造する際は、本絶縁被膜を形成した電磁鋼板を積層し、積層した電磁鋼板を固着させ、この後、積層した電磁鋼板を打ち抜く。電磁鋼板に加工歪が発生するため、磁気焼鈍が必要になり、磁気焼鈍の際に、前記した問題が発生する。
【0006】
また、特許文献2には、強酸性でエッチング性の強い硝酸と金属硝酸塩と、金属リン酸塩とキレート剤とを用いて、リン酸化合物からなる絶縁層を形成し、製造直後の白化、保管時の白化、およびブルーイング処理後の密着性劣化が抑制されたクロムフリーの絶縁被膜が形成される技術が提案されている。ここで、白化とは、電磁鋼板を酸性のエッチング液でエッチングする際に、電磁鋼板の鉄が溶出し、絶縁被膜を形成する処理液中のリン酸塩と反応してリン酸鉄を形成する、あるいは、電磁鋼板を高温多湿の環境に長期間保管する際に、結露によって電磁鋼板の表面に水酸化物が形成され、これらによって電磁鋼板が変色することを意味する。また、切断又は打ち抜きされた電磁鋼板からモータやトランスに加工する際、端面短絡の抑制ならびに切断や打抜き端面の防錆性向上のため、表面が干渉色を呈する程度にまで鋼板を酸化処理(これをブルーイング処理ともいう)させる。このようなブルーイング処理を行うと、絶縁被膜の密着性が劣化する。
しかし、絶縁被膜が形成される電磁鋼板に要求される性質は、白化防止と絶縁膜の密着性に限らない。例えば、打ち抜き性がある。本技術だけでは十分な打ち抜き性が得られないため、水性の合成樹脂を添加する記載がある。しかし、水性の合成樹脂は磁気焼鈍における耐熱性を持たない。このため、打ち抜き性と磁気焼鈍の実施が両立しない。また、絶縁被膜の絶縁性がある。本技術だけでは十分な絶縁抵抗が得られないため、コロイダルシリカを添加する記載がある。しかし、コロイダルシリカの熱膨張率は電磁鋼板の熱膨張率より1桁近く小さいため、磁気焼鈍のような急激な温度変化で、絶縁被膜が剥離する。さらに、強酸性のエッチング液を用いるため、絶縁被膜の形成後に十分な洗浄が必要になり、また、環境面から廃液処理に多くの費用が掛かる。このために製作費用が増大する。
【0007】
いっぽう、絶縁層は、絶縁抵抗のみならず、鉄心を製造する上で、また、鉄心を組み込んだ電気機器を長期に使用する上で、以下に説明する様々な性質が要求される。
第一の性質は、積層した電磁鋼板の連続打ち抜き性に関わる。つまり、絶縁物の耐熱性を高めるため、無機材料からなる絶縁材料を用いると、絶縁膜が形成された積層した電磁鋼板を、プレス機で連続して打ち抜く際に、無機材料の硬度が高いため、カッターの刃の摩耗が進む。このため、カッターの刃を攻撃せず、耐熱性が高く、絶縁性が高い性質が望ましい。第二の性質は、積層した電磁鋼板の溶接性に関わる。つまり、積層した電磁鋼板の端面を溶接する際に、溶接がしやすく、また、溶接の際に絶縁層から気化した物質が、あるいは、飛散した物質が、絶縁層を攻撃し、ピンホールを絶縁層に形成しないことが必要になる。第三の性質は、電磁鋼板を積層する際や打ち抜く際に、絶縁層が電磁鋼板の平面から脱落ないしは剥離しない密着強度が必要になる。第四の性質は、磁気焼鈍に耐える耐熱性が必要になる。第五の性質は、磁気焼鈍の際にスティッキングと呼ばれる電磁鋼板同士の焼き付きを起こさせないことが必要になる。第六の性質は、磁気焼鈍のような急激な温度変化でも、絶縁層にクラックが入らない、また、絶縁層が剥離しない耐熱衝撃性が必要になる。第七の性質は、鉄心が熱水や塩水に浸漬される場合は、熱水や塩水に耐える耐食性が必要になる。第八の性質は、高温の絶縁油に長時間鉄心が浸漬される場合は、高温の絶縁油に長時間浸漬されても、絶縁抵抗と電磁鋼板同士の密着強度とが変わらないことが必要になる。
しかしながら、上記の8つの性質に、従来の絶縁材料では両立できない性質がある。例えば、無機材料からなる絶縁物の多くが、耐熱性が高く、硬度も高いため、第四と第六の性質を満たすが、第一の性質は満たさない。また、絶縁層と電磁鋼板との密着強度が高いと、第三の性質を満たすが、第四から第八の性質は密着強度とは異なるため、第四から第八の性質を満たすとは限らない。従って、8つの全ての性質を満たす絶縁層を実現することは困難である。
ところで、上記の8つの性質の全てが、絶縁層の材質に起因しない。すなわち、第一の性質は、積層した電磁鋼板を打ち抜く際に発生する課題であるため、積層した電磁鋼板を打ち抜かなければ、第一の性質は不要になる。また、第二の性質は、積層した電磁鋼板を溶接で固着する際に発生する課題であるため、積層した電磁鋼板を溶接しなければ、第二の性質は不要になる。さらに、第三の性質は、電磁鋼板を積層する際や打ち抜く際に発生する課題であるため、積層した電磁鋼板を打ち抜かなければ、第三の性質は不要になる。
従って、絶縁層に要求される8つの全ての性質を実現するには、第一から第三までの性質を不要とする、新たな製造方法で鉄心を製造し、さらに、新たな材質と新たな材料構造とによって、第四から第八までの性質を満たす絶縁層を形成する方法を見出すしかない。また、3段落に記載した積層した電磁鋼板を固着する際に発生する問題は、積層した電磁鋼板を固着させる処理が不要になる、新たな鉄心の製造方法を見出させれば、問題が解決できる。このように新たな製造方法で鉄心を製造する製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-10242号公報
【文献】特開2013-249486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
3段落で説明したように、積層した電磁鋼板を固着する際に様々な問題が起こり、積層した電磁鋼板を固着させる処理が不要になる、新たな鉄心の製造方法を見出さなければ問題は解決しない。また、7段落で説明した絶縁層に要求される8つの性質は、第一から第三までの性質を不要とする、つまり、積層した電磁鋼板を固着させる処理が不要になる、新たな製造方法を見出すことで解決できる。また、第四から第八までの性質は、新たな材質と新たな材料構造とからなる絶縁層を形成する方法を見出すことで実現できる。
従って、本発明が解決しようとする課題は、第一に、積層した電磁鋼板を固着する処理が不要になる新たな鉄心の製造方法を見出し、第二に、新たな材質と新たな材料構造によって、第四から第八までの性質を満たす絶縁層を形成する方法を見出し、第三に、前記2つの方法が、安価な原料を用い、極めて簡単な処理からなり、従来の製造方法に依る鉄心と同様に、安価な鉄心が製造される製造方法である鉄心の製造方法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鉄心の形状に切断した複数枚の電磁鋼板を、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを介して積層させ、該積層した電磁鋼板を圧縮し、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子を前記電磁鋼板の表面に接合し、また、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子同士を接合し、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを介して前記電磁鋼板同士が結合した構成からなる鉄心を製造する該鉄心の製造方法は、
熱分解で酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムを析出する金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を容器に充填し、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点より高く、かつ、前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、前記金属化合物のメタノール分散液に混合し、該有機化合物と前記金属化合物のメタノール分散液との混合液を作成する、この後、鉄心の形状に切断した複数枚の電磁鋼板を前記混合液に浸漬し、さらに、該混合液から前記複数枚の電磁鋼板を取り出し、該複数枚の電磁鋼板をメタノールの沸点に昇温し、前記金属化合物の微細結晶の集まりが前記有機化合物中に析出した懸濁体からなる被膜を、前記複数枚の電磁鋼板の各々の電磁鋼板に吸着させる処理からなる第一の工程と、
前記懸濁体の被膜が吸着した複数枚の電磁鋼板のうち、鉄心を構成する前記電磁鋼板の複数枚を、前記鉄心の形状を有する金型内に重ね合わせて積層し、この後、該金型を前記金属化合物の熱分解温度に昇温し、前記積層した電磁鋼板の各々に、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを析出させ、さらに、プレス機によって徐々に増大する加圧圧力を前記積層した電磁鋼板に加える、これによって、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子が前記電磁鋼板の表面に接合し、また、前記酸化マグネシウムないしは前記酸化アルミニウムからなる微粒子同士が接合し、該微粒子同士の接合を介して前記積層した電磁鋼板同士が結合され、該積層した電磁鋼板同士が結合した構成からなる鉄心が前記金型内に製造される第二の工程と、
前記鉄心を金型から取り出し、該鉄心を750-820℃の温度の還元雰囲気で磁気焼鈍する第三の工程とからなり、
これら3つの工程を連続して実施することにより、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して積層した電磁鋼板同士が結合した構成からなる鉄心が製造される、鉄心の製造方法である。
【0011】
本発明における鉄心を製造する方法は以下の5つの特徴を持つ。
第一の特徴は、鉄心の形状に切断した電磁鋼板を金型内に積層し、さらに、積層した電磁鋼板を圧縮させ、金型内に鉄心を製造することにある。これによって、積層した電磁鋼板を固着させる処理が不要になり、8段落に記載した本発明の第一の課題が解決される。
第二の特徴は、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりで、絶縁層を形成することにある。この絶縁層は、7段落に記載した絶縁層に要求される第四から第八までの性質を兼備し、8段落に記載した本発明の第二の課題が解決される。また、絶縁層の絶縁抵抗が従来の絶縁層より2桁以上高いため、電磁鋼板同士の間隙を流れる渦電流は極めて少ない。なお、絶縁層の作用効果は、後に説明する。
第三の特徴は、絶縁層を電磁鋼板に強固に接合させるとともに、積層した電磁鋼板同士を強固に結合させたことにある。つまり、電磁鋼板が圧延工程で製造されるため、表面の平坦度が優れる。このため、電磁鋼板に形成した従来の絶縁層と電磁鋼板とのアンカー効果に基づく結合力が著しく小さい。しかしながら、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子を、直接電磁鋼板に摩擦熱で強固に接合させ、また、微粒子同士が摩擦熱で強固に接合するため、絶縁層が電磁鋼板に強固に接合されるとともに、電磁鋼板同士も強固に結合される。
第四の特徴は、一度の磁気焼鈍で、電磁鋼板の全ての歪を解消させることにある。すなわち、複数枚の電磁鋼板を重ね合わせ、鉄心の形状に切断する際に発生する電磁鋼板の加工歪と、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子を、電磁鋼板に摩擦熱で接合させる際に発生する電磁鋼板の応力歪などからなる様々な歪を、一度の磁気焼鈍で全て解消させ、電磁鋼板の保持力を元に戻す。これによって、鉄心のヒステリシス損失が低下する。なお、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムの耐熱性が、電磁鋼板の耐熱性より高いため、磁気焼鈍の温度の制約がないため、一度の磁気焼鈍で電磁鋼板の全ての歪が解消できる。
つまり、本発明の鉄心を製造する方法は、鉄心の形状に切断した電磁鋼板の平面同士を金型内に積層し、該電磁鋼板の表面全体に、積み重なった酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを析出させ、該積層した電磁鋼板を圧縮し、鉄心を金型内に製造する製造方法である。すなわち、積層した電磁鋼板を加圧する圧力が増えるに応じて、次の現象が起こり、金型内に鉄心が製造される。金属化合物の微細結晶の熱分解で一斉に析出した酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムの微粒子同士は互いに接するが、接触部は、分子間力に基づく弱い結合である。このため、積層した電磁鋼板に加圧圧力を加えると、最初に、積み重なった微粒子の集まりの積層構造が容易に崩れる。さらに加圧圧力が増えると、微粒子が40-60nmの大きさであるため、微粒子は、電磁鋼板同士の間隙に存在する空隙と、積層した電磁鋼板と金型との間隙に存在する空隙とを埋めるように移動する。さらに加圧圧力が増えると、空隙がなくなり、微粒子同士が接触する。さらに加圧圧力が増えると、微粒子の硬度が高く、耐熱性が高く、圧縮強度が高いため、微粒子は破壊されず、微粒子同士が接触し、接触部に摩擦熱が発生する。これによって、微粒子同士の接触部と、微粒子と電磁鋼板との接触部の不純物が気化し、清浄化された接触部が摩擦熱で強固に接合する。さらに、加圧圧力を増やすと、酸化マグネシウムの圧縮強度と、酸化アルミニウムの圧縮強度との双方が、電磁鋼板の圧縮強度より大きいため、摩擦接合した酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムの微粒子の集まりによって、プレス機に対する反発力が増大し、プレス機に依る加圧が進まなくなる。この時点でプレス機に依る加圧を停止する。なお、プレス機に対する反発力を無視して、加圧力をさらに増やし続けると、いずれ電磁鋼板の破断に至る。従って、電磁鋼板同士を結合するに当たって、積層した電磁鋼板に加える加圧力の大きさに実質的な制約がなく、必要となる鉄心の強度に合わせて、積層した電磁鋼板に加圧力を加えることができる。この結果、微粒子同士の結合によって、電磁鋼板の平面同士が強固に結合される。いっぽう、積層した電磁鋼板の側面と金型の壁面との空隙にも微粒子が移動し、空隙が微粒子の集まりで充填され、微粒子同士が摩擦接合する。この結果、積層した電磁鋼板の表面全体、つまり、鉄心の表面全体が、摩擦接合した微粒子の集まりで覆われる。
第五の特徴は、使用する材料は全て安価な材料であり、3つの工程はいずれも極めて簡単な処理からなるため、安価な費用で鉄心が製造できる。また、第一の工程によって、多数の電磁鋼板に対し、懸濁体からなる被膜を同時に形成することができる。第三の工程によって、多数の鉄心を同時に磁気焼鈍できる。第二の工程は3つの処理からなり、3つの処理を連続して実施し、鉄心を金型内に製造する工程である。従って、鋼からなるベルト上に一定の間隔で金型を配置させ、各々の金型に対して3つの処理を実施し、かつ、各々の処理が終えた金型を順次移動すれば、連続して鉄心が製造される。このため、本製造方法で製造した鉄心は安価である。これによって、8段落に記載した本発明の第三の課題が解決される。なお、本鉄心の製造方法では、第三の工程で磁気焼鈍を行うため、電磁鋼板に加えられた様々な加工歪を、一度の磁気焼鈍で全て解消する。
ここで、絶縁層を形成する酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとの微粒子の作用効果を説明する。なお、酸化マグネシウムより硬度が高い絶縁性の金属酸化物として酸化スズSnOがある。しかし、金属化合物の熱分解で析出する酸化スズは、SnOの組成からずれたSnOが同時に析出し、SnOの絶縁性がSnOより著しく劣る。このため、金属化合物の熱分解で析出する酸化スズは、絶縁層を形成する微粒子として用いることができない。
酸化マグネシウムの体積抵抗率は1017Ω・cmで、金属酸化物の中で最も絶縁性に優れ、合成樹脂より2桁体積抵抗率が大きい。いっぽう、マグネシウム化合物の熱分解で析出した酸化マグネシウムは、40-60nmの大きさからなる粒状の微粒子で、この粒状微粒子の集まりが積み重なって電磁鋼板を絶縁化する。微粒子が粒状であるため、微粒子より体積が小さいが、微粒子の数に近い空孔が、微粒子に隣接して多数存在する。この空孔は、酸化マグネシウムの体積抵抗率を超える体積抵抗率を持つ空気が占める。従って、積み重なった酸化マグネシウム微粒子の集まりが形成する絶縁抵抗は、酸化マグネシウム微粒子からなる抵抗体と、空気からなる空孔の抵抗体とが直列接続して絶縁抵抗を形成する。さらに、酸化マグネシウム微粒子と空孔との数が極めて多い。従って、電磁鋼板を絶縁化する絶縁抵抗は、バルクからなる酸化マグネシウムが、体積抵抗率が1017Ω・cmに基づいて形成する絶縁抵抗より1桁増大する。このため、積層した電磁鋼板同士の間隙を流れる渦電流は極めて小さい。
また、融点が2852℃で、電磁鋼板より耐熱性に優れる。また、モース硬度が5.5と高く、電磁鋼板より硬い。さらに、圧縮強度が1372MPaと高く、電磁鋼板の圧縮強度より高い。従って、酸化マグネシウムの微粒子で覆われた電磁鋼板を積層し、積層した電磁鋼板を圧縮すると、電磁鋼板同士の間隙に空隙があると、また、積層した電磁鋼板と金型との間に空隙があると、酸化マグネシウム微粒子が移動して空隙を埋める。空隙がなくなると、酸化マグネシウム微粒子同士が接触する。さらに加圧すると、接触部に過大な摩擦熱が発生する。酸化マグネシウムの耐熱性が高く、硬度が高く、圧縮強度が高いため、酸化マグネシウム微粒子は破壊せずに、摩擦熱で酸化マグネシウムの微粒子同士が接合する。同様に、空隙がなくなると、酸化マグネシウム微粒子が電磁鋼板の表面に接触し、接触部に過大な摩擦熱が発生する。酸化マグネシウムの耐熱性が高く、硬度が高いため、酸化マグネシウム微粒子は破壊せずに、摩擦熱で電磁鋼板に接合する。さらに加圧すると、酸化マグネシウムの圧縮強度が、電磁鋼板の圧縮強度より高いため、プレス機に依る加圧に対する反発力が増大し、プレス機に依る加圧が進まなくなる。この時点で加圧を停止する。この結果、金型内に、互いに接合した酸化マグネシウム微粒子の集まりからなる絶縁層が、電磁鋼板に結合するとともに、絶縁層を介して電磁鋼板同士が結合する。また、最も上に積層された電磁鋼板の表面と、最も下に積層された電磁鋼板の表面も、酸化マグネシウム微粒子が双方の電磁鋼板の表面に摩擦熱で接合するとともに、酸化マグネシウム微粒子同士が摩擦熱で接合する。さらに、酸化マグネシウム微粒子が40-60nmの大きさからなる微粒子であるため、電磁鋼板の側面にも移動し、側面に移動した酸化マグネシウム微粒子の集まりが、金型内で互いに接触して圧縮され、鉄心の側面の電磁鋼板に、酸化マグネシウム微粒子が摩擦熱で接合し、また、酸化マグネシウム微粒子同士が摩擦熱で接合する。このため、鉄心の表面全体に、酸化マグネシウム微粒子の集まりが積層して接合するため、熱水や塩水や高温の絶縁油などの一切の液体は、酸化マグネシウム微粒子の集まりで遮断され、積層した電磁鋼板が液体に触れることはない。この結果、鉄心に耐食性と耐薬品性とがもたらされる。
また、熱膨張率は13.5×10-6/℃で、電磁鋼板の熱膨張率の11.2×10-6/℃に近い。いっぽう、酸化マグネシウムの微粒子が、40-60nmの大きさからなるため、酸化マグネシウム微粒子の熱膨張と熱収縮とは極めて微小である。また、電磁鋼板の表面に、極めて多数の酸化マグネシウムの粒状の微粒子が満遍なく接合し、電磁鋼板の熱膨張と熱収縮は、接合した酸化マグネシウムの微粒子によって拘束され、接合した酸化マグネシウム微粒子の隣同士の間隔、つまり、40-60nmの幅で、電磁鋼板が熱膨張ないしは熱収縮する。このため、電磁鋼板の熱膨張と熱収縮とは極めて微小である。従って、磁気焼鈍のような急激な温度変化が生じても、摩擦接合した酸化マグネシウムの微粒子は、損傷を受けない。また、希塩酸を除く液体に対して不溶性であり、希塩酸を除く耐食性を持ち、熱水や塩水や高温の絶縁油と反応しない。さらに、耐熱性が極めて高いため、磁気焼鈍の際に化学変化せず、電磁鋼板同士の焼き付きを起こさない。
従って、酸化マグネシウム微粒子は、7段落に記載した第四から第八の性質を兼備する。
次に、酸化アルミニウムの体積抵抗率は1015Ω・cmで、合成樹脂と同等の絶縁性を持つ。いっぽう、アルミニウム化合物の熱分解で析出した酸化アルミニウムは、40-60nmの大きさからなる粒状の微粒子で、この粒状微粒子の集まりが積み重なって電磁鋼板を絶縁化する。微粒子が粒状であるため、微粒子より体積が小さいが、微粒子の数に近い空孔が、微粒子に隣接して多数存在する。この空孔は、酸化アルミニウムの体積抵抗率より体積抵抗率が2桁大きい、1017Ω・cmを超える空気が占める。従って、積み重なった酸化アルミニウム微粒子の集まりが形成する絶縁抵抗は、酸化アルミニウム微粒子からなる抵抗体と、空気からなる空孔の抵抗体とが直列接続して絶縁抵抗を形成する。さらに、酸化アルミニウム微粒子と空孔との数が極めて多い。従って、電磁鋼板を絶縁化する絶縁抵抗は、バルクからなる酸化アルミニウムが、体積抵抗率が1015Ω・cmに基づいて形成する絶縁抵抗より3桁増大する。このため、電磁鋼板同士の間隙を流れる渦電流は極めて小さい。
また、融点が2072℃で、電磁鋼板より耐熱性に優れる。また、モース硬度が9と金属酸化物の中で最も高く、電磁鋼板より硬い。さらに、圧縮強度が2910MPaと高く、電磁鋼板の圧縮強度より高い。従って、酸化アルミニウム微粒子で覆われた電磁鋼板を積層し、積層した電磁鋼板を圧縮すると、電磁鋼板同士の間隙に空隙があると、酸化アルミニウム微粒子が移動して空隙を埋める。空隙がなくなると、酸化アルミニウム微粒子同士が接触し、接触部に過大な摩擦熱が発生する。酸化アルミニウムの耐熱性が高く、硬度が高いため、酸化アルミニウム微粒子は破壊せずに、摩擦熱で酸化アルミニウムの微粒子同士が接合する。また、空隙がなくなると、酸化アルミニウム微粒子が電磁鋼板の表面に接触し、接触部に過大な摩擦熱が発生する。酸化アルミニウムの耐熱性が高く、硬度が高いため、酸化アルミニウム微粒子は破壊せずに、摩擦熱で電磁鋼板に接合する。さらに圧縮すると、酸化アルミニウムの圧縮強度が、電磁鋼板の圧縮強度より高いため、プレス機に依る加圧に対する反発力が増大し、プレス機に依る加圧が進まなくなる。この時点で加圧を停止する。この結果、金型内に、接合した酸化アルミニウム微粒子の集まりからなる絶縁層が、電磁鋼板に結合するとともに、絶縁層を介して電磁鋼板同士が結合する。また、最も上に積層された電磁鋼板の表面と、最も下に積層された電磁鋼板の表面も、酸化アルミニウム微粒子が双方の電磁鋼板の表面に摩擦熱で接合するとともに、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合する。さらに、酸化アルミニウム微粒子が40-60nmの大きさからなる微粒子であるため、電磁鋼板の側面にも移動し、側面に移動した酸化アルミニウム微粒子の集まりが、金型内で互いに接触して圧縮され、鉄心の側面の電磁鋼板に、酸化アルミニウム微粒子が摩擦熱で接合し、また、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合する。このため、鉄心の表面全体に、酸化アルミニウム微粒子の集まりが積層して接合するため、熱水や塩水や高温の絶縁油などの一切の液体は、酸化アルミニウム微粒子の集まりで遮断され、積層した電磁鋼板が液体に触れることはない。この結果、鉄心に耐食性と耐薬品性とがもたらされる。
また、熱膨張率は7.2×10-6/℃で、電磁鋼板の熱膨張率の11.2×10-6/℃に近い。いっぽう、酸化アルミニウムの微粒子が、40-60nmの大きさからなるため、酸化アルミニウム微粒子の熱膨張と熱収縮とは極めて微小である。また、電磁鋼板の表面に、極めて多数の酸化アルミニウムの粒状の微粒子が満遍なく接合し、電磁鋼板の熱膨張と熱収縮は、接合した酸化アルミニウムの微粒子によって拘束され、接合した酸化アルミニウム微粒子の隣同士の間隔、つまり、40-60nmの幅で、電磁鋼板が熱膨張ないしは熱収縮する。このため、電磁鋼板の熱膨張と熱収縮とは極めて微小である。従って、磁気焼鈍のような急激な温度変化が生じても、摩擦接合した酸化マグネシウムの微粒子は、損傷を受けない。また、極めて安定した金属酸化物で、全ての酸やアルカリに侵されず、熱水や塩水や高温の絶縁油と反応しない耐食性を持つ。さらに、耐熱性が極めて高いため、磁気焼鈍の際に化学変化せず、電磁鋼板同士の焼き付きを起こさない。
従って、酸化アルミニウム微粒子は、7段落に記載した第四から第八の性質を兼備する。
ここで、本発明の鉄心を製造する方法を詳しく説明する。圧粉磁心を製造する製造方法は、以下の8つの処理からなる。
原料が安価で、熱分解という簡単な処理で、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムが析出し、熱分解温度が300℃程度と低い、これら3つの性質を兼備する金属化合物を、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムの原料として用いた。いっぽう、酸化マグネシウム微粒子ないしは酸化アルミニウム微粒子の集まりで電磁鋼板を覆うため、第一の処理は、金属化合物をメタノールに分散し、金属化合物を分子状態として液相化する。
次に、酸化マグネシウム微粒子ないしは酸化アルミニウム微粒子の集まりで電磁鋼板を覆うには、金属化合物のメタノール分散液を電磁鋼板の表面に付着させる必要がある。従って、第二の処理は、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点より高く、金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、メタノール分散液に混合し混合液を作成する。なお、有機化合物は、極稀な有機化合物を除き、殆どの有機化合物は絶縁性の液体である。さらに、第三の処理は、複数枚の鉄心の形状に切断した電磁鋼板を混合液に浸漬し、さらに、混合液から複数枚の電磁鋼板を取り出す。第四の処理は、複数枚の電磁鋼板をメタノールの沸点に昇温し、金属化合物の微細結晶の集まりが有機化合物中に析出した懸濁体からなる被膜を、複数枚の電磁鋼板の各々の電磁鋼板簿表面に吸着させる。なお、気化したメタノールは回収して再利用する。
次に、積層した電磁鋼板からなる鉄心を金型内に製造する。このため、第五の処理は、前記懸濁体が被膜として吸着した複数枚の電磁鋼板の各々を、鉄心の形状を有する金型内に重ね合わせて積層する。第六の処理は、金型を金属化合物の熱分解温度に昇温し、積層した電磁鋼板同士の間隙に、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりを析出させる。なお、気化した有機化合物は回収して再利用する。第七の処理は、積層した電磁鋼板に圧縮荷重を加え、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子を電磁鋼板の表面に接合させ、また、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士を接合させ、該微粒子同士の接合を介して積層した電磁鋼板同士が結合され、金型内に鉄心を製造する。
最後に、鉄心を構成する電磁鋼板の加工歪を取り除く。第八の処理は、鉄心を金型から取り出し、鉄心を750-820℃の温度の還元雰囲気で磁気焼鈍する。なお、鉄心を構成する電磁鋼板の枚数が多いほど、電磁鋼板に加える圧縮荷重が大きくなり、圧縮歪が増大するため、積層した電磁鋼板の枚数に応じて磁気焼鈍の温度を上げる。
上記した製造方法で製造した鉄心は、次の作用効果をもたらす。
第一に、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の接合を介して、積層した電磁鋼板同士を結合させるため、従来の積層した電磁鋼板を固着させる処理が不要になる。このため、積層した電磁鋼板を固着させる際に発生する従来の問題は一切発生しない。つまり、電磁鋼板が圧延工程によって製造されるため、表面の平坦度が優れる。このため、電磁鋼板に形成した従来の絶縁被膜と電磁鋼板とのアンカー効果に基づく結合力が著しく小さい。従って、従来の鉄心を製造する方法においては、積層した電磁鋼板を打ち抜く際の衝撃によって、従来の絶縁被膜が電磁鋼板の表面から容易に剥離するため、積層した電磁鋼板を固着させる処理が必要になった。これに対し、本発明における酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムは、耐熱性が高く、硬度が高く、圧縮強度が高い3つの性質を兼備するため、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子同士の摩擦接合を介して電磁鋼板同士を結合させたることができる。
第二に、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりからなる絶縁層は、絶縁性が高い微粒子の集まりと絶縁性が高い空孔の集まりとによって形成されるため、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムのバルクからなる絶縁抵抗より絶縁抵抗が1桁以上高いため、電磁鋼板同士の間隙を流れる渦電流は極めて少ない。
第三に、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムは、絶縁抵抗のみならず、鉄心の絶縁層に要求される全ての性質を兼備する。
第四に、安価な材料を用い、8つの処理の全てが簡単な処理であるため、安価な鉄心が製造できる。すなわち、金属化合物と有機化合物とは、汎用的な工業用の薬品である。また、金属化合物を熱分解する温度は、300℃前後と低く、熱処理費用も安価で済む。さらに、連続して鉄心を製造することができる。このため、従来の製造方法で製造した鉄心の加工費用に近い加工費用で鉄心が製造できる。
第五に、鉄心の形状に切断した電磁鋼板を、金型内に重ね合わせて積層して鉄心を製造するため、電磁鋼板の形状と面積と積層枚数とに制約がない。また、微粒子の圧縮強度が電磁鋼板の圧縮強度より高いため、積層した電磁鋼板に加える加圧力の大きさに制約がなく、必要となる鉄心の強度に合わせて、積層した電磁鋼板に加圧力を加える。従って、本製造方法は汎用的な鉄心の製造方法である。
第六に、金型内に鉄心を製造した後に、鉄心を磁気焼鈍するため、一回の磁気焼鈍で、電磁鋼板の全ての加工歪を効率よく取り除くことができる。また、微粒子の耐熱性が電磁鋼板の耐熱性より優れているため、磁気焼鈍の温度の制約がなく、電磁鋼板の保持力を加工前の電磁鋼板の保持力に戻すことができる。
以上に説明したように、本鉄心の製造方法は、従来の鉄心の製造方法にはない上記6つの作用効果をもたらす。
【0012】
9段落に記載した鉄心の製造方法において、前記金属化合物が、オクタン酸マグネシウムないしはナフテン酸マグネシウムからなるいずれかのマグネシウム化合物であり、ないしは、安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムからなるいずれかのアルミニウム化合物であり、前記有機化合物が、カルボン酸エステル類ないしはグリコール類ないしはグリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーであり、これら3種類の物質を用い、9段落に記載した鉄心の製造方法に従って鉄心を製造する、9段落に記載した鉄心の製造方法である。
【0013】
熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物として、カルボン酸金属化合物がある。カルボン酸金属化合物の中に、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物がある。このカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンが酸素イオン近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属酸化物とカルボン酸に分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に、金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物の中で、300℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了するカルボン酸金属化合物として、カルボン酸の沸点が低い順に、酢酸金属化合物、オクタン酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物がある。従って、酢酸金属化合物、オクタン酸金属化合物、安息香酸金属化合物及びナフテン酸金属化合物は、比較的低い温度の熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物である。
いっぽう、カルボキシラートアニオンが金属イオンに共有結合するカルボン酸金属化合物は、イオン同士の結合の中で、酸素イオンと金属イオンとの結合部が最も長いため、熱分解で金属を析出する。
カルボン酸マグネシウム化合物の中で、酢酸マグネシウムは、酢酸マグネシウム4水和物Mg(CHCOOH)・4HOとして市販されている。酢酸マグネシウム4水和物の熱分解は、結晶水の離脱が150℃付近で終了し、300℃付近から無水物が熱分解し、450℃で熱分解が終了し、酸化マグネシウムMgOが析出する。また、安息香酸マグネシウムは、安息香酸マグネシウム4水和物Mg(CCOOH)・4HOとして市販されている。上記の酢酸マグネシウム4水和物と同様に、結晶水の離脱した後に、無水物が熱分解し、無水物の熱分解の熱分解が終了し、酸化マグネシウムが析出する。こうしたカルボン酸マグネシウム化合物の熱分解によって酸化マグネシウムが析出する温度は、カルボン酸の沸点でカルボン酸マグネシウム化合物がカルボン酸と酸化マグネシウムとに分解し、カルボン酸が気化した後に酸化マグネシウムが析出する温度より高い。従って、カルボン酸マグネシウム化合物として、オクタン酸マグネシウムMg(C15COOH)とナフテン酸マグネシウムMg(C2n-1COOH)が好ましい。なお、オクタン酸の沸点は240℃で、オクタン酸マグネシウムは、大気雰囲気の300℃で熱分解が完了し、酸化マグネシウムを析出する。また、カルボン酸マグネシウム化合物の熱分解は、大気雰囲気のほうが窒素雰囲気より、熱分解が完了する温度が50-60℃低く、大気雰囲気での熱処理は、熱処理費用が安価で済む。
カルボン酸アルミニウム化合物の中で、酢酸アルミニウムは、熱分解で無定形アルミナを析出する。また、オクタン酸アルミニウムは、水酸化オクタン酸アルミニウムAl(C15COOH)(OH)として市販されている。従って、カルボン酸アルミニウム化合物がカルボン酸の沸点でカルボン酸と酸化アルミニウムとに分解し、カルボン酸が気化した後に酸化アルミニウムが析出するカルボン酸アルミニウム化合物として、安息香酸アルミニウムAl(CCOOH)とナフテン酸アルミニウムAl(C2n-1COOH)が好ましい。なお、安息香酸の沸点は249℃で、安息香酸アルミニウムは、大気雰囲気の310℃で熱分解が完了し、酸化アルミニウムを析出する。また、カルボン酸アルミニウム化合物の熱分解は、大気雰囲気のほうが窒素雰囲気より、熱分解が完了する温度が50-60℃低く、大気雰囲気での熱処理は、熱処理費用が安価で済む。
なお、ナフテン酸は、主成分が飽和の炭素五員環を持つカルボン酸C2n-1COOHであり、分子量が180-350に及び、沸点が140-370℃に及ぶ飽和脂肪酸の混合物である。ナフテン酸マグネシウムMg(C2n-1COOH)ないしはナフテン酸アルミニウムAl(C2n-1COOH)を、ナフテン酸の高沸点成分の沸点である370℃まで昇温し、さらに、430℃まで昇温してナフテン酸の気化を完了させ、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムを析出させる。
次に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点が65℃より高く、300℃より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、9段落に記載した有機化合物として用いる。
このような有機化合物として、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれかのエステル類、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーが存在する。従って、9段落に記載した鉄心の製造方法において、有機化合物としてこれらの有機化合物のいずれかを用いる。なお、有機化合物は、極稀な有機化合物を除き、殆どが絶縁性である。
従って、9段落に記載した金属化合物として、オクタン酸マグネシウムないしはナフテン酸マグネシウムからなるいずれかのマグネシウム化合物を、ないしは、安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムからなるいずれかのアルミニウム化合物を用い、9段落に記載した有機化合物として、カルボン酸エステル類ないしはグリコール類ないしはグリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーを用い、9段落に記載した製造方法に従って鉄心を製造すると、金型内に鉄心が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電磁鋼板同士が、摩擦接合した酸化マグネシウムの粒状微粒子の集まりで結合された状態を模式的に図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態1
本実施形態は、10段落に記載した鉄心の製造方法における有機化合物に関わり、該有機化合物はメタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点が65℃より高く300℃より低い第三の性質を兼備する。
このような有機化合物として、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれかのエステル類、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーがある。
カルボン酸ビニルエステル類は、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピパリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、クロトン酸ビニル、安息香酸ビニルなどからなるカルボン酸ビニル類である。
例えば、沸点が低いカルボン酸ビニルエステル類に酢酸ビニルCHCOO-CH=CHがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が72.7℃である。酢酸ビニルは、酢酸とビニルアルコールとを反応させたエステルで、ポリ酢酸ビニルの合成に用いる原料で、安価な有機化合物である。なお、酢酸ビニルは光や熱で容易に重合するため、微量の重合禁止剤(重合防止剤ともいう)が添加されている。
さらに、モノクロロ酢酸ビニルCl-CHCOO-CH=CHは、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が136℃である。モノクロロ酢酸ビニルは、アクリルゴムの架橋サイトとして用いられている安価な有機化合物である。
また、アクリル酸エステル類は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシルなどからなるアクリル酸エステル類である。
例えば、沸点が低いアクリル酸エステル類にアクリル酸メチルCH=CH-COOCHがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が80℃である。アクリル酸メチルは、アクリル樹脂の原料として用いられる安価な有機化合物である。なお、アクリル酸メチルは重合しやすい物質であるため、微量の安定剤が添加されている。
さらに、アクリル酸ブチルCH=CH-COOCは、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が148℃である。アクリル酸ブチルは、アクリル酸とn-ブタノールを反応させたエステルで、繊維処理剤、粘接着剤、塗料、合成樹脂、アクリルゴム、エマルションの原料として使用される安価な有機化合物である。なお、アクリル酸メチルは重合しやすい物質であり、微量の安定剤が添加されている。
また、メタクリル酸エステル類は、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどからなるメタクリル酸エステル類である。
例えば、沸点が低いメタクリル酸エステル類にメタクリル酸エチルHC=C(CH)COOCがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が117℃である。メタクリル酸エチルは、顔料、塗料、接着剤、繊維処理剤、成形材料、歯科用材料の原料として用いられている安価な有機化合物である。なお、メタクリル酸エチルは、重合しやすい物質であり、微量の安定剤が添加されている。
さらに、メタクリル酸nブチルCHC(CH)COO(CHCHは、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が163.5℃である。メタクリル酸nブチルは、塗料、分散剤、繊維処理剤の原料として用いられる安価な有機化合物である。なお、メタクリル酸nブチルは、光や熱で容易に重合するため、微量の重合防止剤が添加されている。
また、グリコール類はアルコールの一種で、鎖式脂肪族炭化水素の2つの炭素原子に1つずつヒドロキシ基が置換している構造を持つ化合物である。沸点が低いグリコール類にエチレングリコールC(OH)があり、メタノールと混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が197.3℃である。エチレングリコールは、溶媒、不凍液、合成原料などとして広く用いられている安価な有機化合物である。
さらに、ジエチレングリコールO(CHCHOH)は、メタノールと混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が244.3℃である。ジエチレングリコールは不凍液の他に、ブレーキ液、潤滑剤、インキ、たばこの保湿剤、織物の柔軟剤、コルクの可塑剤、接着剤、紙、包装材料、塗料などに使われている安価な有機化合物である。
また、プロピレングリコールCHCHOHCHOHは、メタノールと混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が188.2℃である。プロピレングリコールは、保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液、プラスチックの中間原料、溶媒などとして用いられている他に、保湿性や防カビ性に富むことから医薬品や化粧品、麺やおにぎりなどの品質改善剤等、広範囲で用いられている安価な有機化合物である。
さらに、ジプロピレングリコール[CHCH(OH)CHOは、メタノールと混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が232.2℃である。ジプロピレングリコールは、ポリエステル樹脂の中間原料や水圧機器の作動油、不凍液、印刷インキ原料などに用いられている安価な有機化合物である。
また、トリプロピレングリコール[CHCH(OH)CHOは、メタノールと混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が265℃である。トリプロピレングリコールは、潤滑油・カッティングオイルの原料、ポリウレタン・アクリル酸エステル中間体の原料、塗料・インキ溶剤、不凍液、飼料添加剤、ポリエステル樹脂の中間原料、水溶性油剤の溶剤などに用いられている安価な有機化合物である。
さらに、グリコールエーテル類は、一分子内にエーテル基と水酸基の両方を有し、水や多くの有機溶剤、さらに、樹脂の溶解性も高い溶剤で、殆どのグリコールエーテル類がメタノールに溶解する。次の3種類のグリコールエーテル類がある。エチレングリコール系エーテルと、プロピレングリコール系エーテルとは、塗料、インキ、染料、写真複写液、洗浄剤、電解液、ソリュブルオイル、作動油、ブレーキ液、冷媒、凍結防止剤等に使用されている安価な有機化合物である。また、ジアルキルグリコールは、さらに、反応溶剤、分離抽出剤、重合溶剤、分解防止及び安定剤、電池やコンデンサーの電解液等に使用されている安価な有機化合物である。
例えば、沸点が低いエチレングリコール系エーテルに、エチレングリコールモノメチルエーテルCHO-(CHCHO)-Hがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が124.5℃である。また、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(CHCHO-(CHCHO)-Hは、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が141.8℃である。
また、沸点が高いエチレングリコール系エーテルに、トリエチレングリコールモノブチルエーテルCO-(CHCHO)-Hがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が271.2℃である。また、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルC-CCHCHO-(CHCHO)-Hは、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が272℃である。
さらに、沸点が低いプロピレングリコール系エーテルに、プロピレングリコールモノメチルエーテルCH-CHO-(CHCHO)-Hがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が121℃である。
また、沸点が高いプロピレングリコール系エーテルに、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルCH-C-(CHCHO)-Hがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が274℃である。
さらに、沸点が低いジアルキルグリコールに、エチレングリコールジメチルエーテルCHO-(CHCHO)-CHがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が85.2℃である。
また、沸点が高いジアルキルグリコールに、ジエチレングリコールジブチルエーテルCO-(CHCHO)-Cがあり、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が274℃である。
さらに、スチレンモノマーCCH=CHは、メタノールと混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が145℃の液状モノマーである。スチレンモノマーは、ポリスチレンを始めとして、発泡ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、不飽和ポリエステルなどの合成樹脂材料の原料となる安価な有機化合物である。スチレンモノマーは容易に重合するため、微量の重合禁止剤が添加されている。
以上に説明したように、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれかのエステル類、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれかに属する有機化合物に、前記した3つの性質を兼備する有機化合物が存在する。また、スチレンモノマーは、前記した3つの性質を兼備する。従って、これらの有機化合物は、9段落に記載した鉄心の製造方法における有機化合物として用いられる。
【0016】
実施例1
本実施例は、酸化マグネシウムの微粒子同士の接合で、電磁鋼板同士を結合させた鉄心を製造する実施例である。電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板(例えば、日本製鉄株式会社の製品で、厚さが0.35mmからなる35H210)を用いた。無方向性電磁鋼板は、大型変圧器と配電用変圧器を除く変圧器の鉄心と各種回転機の鉄心として幅広く使用されている。なお、電磁鋼板の磁化の方向と鉄損の大きさとは電磁鋼板固有の性質であり、どのような電磁鋼板でも使用できる。マグネシウム化合物として、オクタン酸マグネシウム(例えば、富士フィルム和光純薬株式会社の製品)を用いた。また、有機化合物として、沸点が197℃で、20℃の粘度がメタノールの粘度の34倍に相当する20mPasであるエチレングリコール(例えば、株式会社日本触媒の製品)を用いた。
無方向性電磁鋼板を、直径が4.9cmの円板に切断し、40枚の円板を作成した。次に、オクタン酸マグネシウムの14g(0.1モルに相当する)を、1リットルのメタノールに分散し、この分散液を容器に充填した。さらに、容器に300ccのエチレングリコールを混合し、メタノールの粘度の19倍の粘度を持つ混合液を作成した。この混合液に、40枚の円板を浸漬し、この後、40枚の円板を取り上げ、65℃に昇温して、メタノールを気化させた。次に、内径が5cmで肉厚が2cmの円筒形状からなり、4分割できるアルミナからなる型に、前記メタノールを気化させた20枚の円板を重ね合わせて積層した。さらに、金型を20℃/分の昇温速度で240℃まで昇温し、さらに、40℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃に1分間放置し、その後、室温まで冷却した。この後、積層した円板にアルミナの円板を載せ、さらに、100kgの重りを載せ(加圧圧力は5kg/mmに相当する)、1分間放置した。この後、型を分割し、さらに、アルミナの円板を取り除き、試料を取り出した。最後に、試料を750℃の窒素雰囲気の熱処理装置に1時間放置し、この後、徐冷した。こうした試料を2個作成した。
最初に、表面の絶縁抵抗を絶縁抵抗計で測定した。20MΩを超えていたため、表面の絶縁抵抗が高いことが分かった。
次に、東英工業株式会社の簡易鉄損測定器で鉄損を測定した。磁束密度が1.6Tにおける試料の鉄損は、僅かに2.3W/kgであった。電磁鋼板の鉄損は、メーカのカタログに依れば2.10W/kg以下であるため、電磁鋼板に近い鉄損であった。従って、酸化マグネシウムの微粒子の集まりの絶縁性が極めて高く、電磁鋼板の間隙を流れる渦電流が小さい。また、磁気焼鈍によって、電磁鋼板の保持力がもとに戻ったことが分かる。
さらに、-30℃から120℃の温度変化を与える気槽熱衝撃試験装置によって、試料に熱衝撃を与えたが、試料の外観は変わらなかった。
次に、5%の塩水に1時間浸漬させたが、試料の外観は変わらなかった。
さらに、熱衝撃試験と塩水の浸漬試験とを連続して実施した試料を、2mの高さから床に落下させたが、試料は破損しなかった。
さらに、試料を厚み方向に切断し、表面と切断面との双方の複数の部位を、電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を有する。
最初に、反射電子線の900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、表面と断面とを観察した。表面には、40-60nmの大きさの粒状の微粒子が満遍なく析出し、微粒子同士が接合していた。断面においては、15-20個の微粒子が重なり合って接合し、電磁鋼板同士の間隙を埋め尽くしていた。次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。マグネシウム原子と酸素原子との双方が均一に存在し、偏在する箇所が見られなかったため、酸化マグネシウムからなる粒状微粒子である。結果を図1に模式的に示す。1は電磁鋼板で、2は酸化マグネシウムの粒状微粒子である。
【0017】
実施例2
本実施例は、酸化アルミニウムの微粒子同士の接合で、電磁鋼板同士を結合させた鉄心を製造する実施例である。電磁鋼板は、実施例1と同じ無方向性電磁鋼板を用いた。アルミニウム化合物として、安息香酸アルミニウム(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。また、有機化合物として、実施例1と同じエチレングリコールを用いた。
無方向性電磁鋼板を、実施例1と同様に、直径が4.9cmの円板に切断し、40枚の円板を作成した。次に、安息香酸アルミニウムの39g(0.1モルに相当する)を、1リットルのメタノールに分散し、この分散液を容器に充填した。さらに、容器に300ccのエチレングリコールを混合し、混合液を作成した。この混合液に、40枚の円板を浸漬し、この後、40枚の円板を取り上げ、65℃に昇温して、メタノールを気化させた。次に、実施例1と同じアルミナからなる型に、前記メタノールを気化させた20枚の円板を重ね合わせて積層した。さらに、金型を20℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、さらに、40℃/分の昇温速度で310℃まで昇温し、310℃に1分間放置し、その後、室温まで冷却した。この後、積層した円板にアルミナの円板を載せ、さらに、100kgの重りを載せ、1分間放置した。この後、型を分割し、アルミナの円板を取り除き、試料を取り出した。最後に、試料を750℃の窒素雰囲気の熱処理装置に1時間放置し、この後、試料を徐冷した。こうした試料を2個作成した。
最初に、表面の絶縁抵抗を絶縁抵抗計で測定した。実施例1と同様に、20MΩを超えていたため、表面の絶縁抵抗が高いことが分かった。
次に、実施例1と同様に鉄損を測定した。磁束密度が1.6Tにおける試料の鉄損は僅かに2.3W/kgであった。この結果から、酸化アルミニウムの微粒子の集まりの絶縁性が極めて高く、電磁鋼板の間隙を流れる渦電流が小さい。また、磁気焼鈍によって、電磁鋼板の保持力がもとに戻ったことが分かる。
さらに、-30℃から120℃の温度変化を与える気槽熱衝撃試験装置によって、試料に熱衝撃を与えたが、試料の外観は変わらなかった。
次に、5%の塩水に1時間浸漬させたが、試料の外観は変わらなかった。
さらに、熱衝撃試験と塩水の浸漬試験とを連続して実施した試料を、2mの高さから床に落下させたが、試料は破損しなかった。
最後に、実施例1と同様に、試料の表面と切断面との双方を電子顕微鏡で観察した。表面に、40-60nmの大きさの粒状の微粒子が満遍なく析出し、微粒子同士が接合していた。断面においては、15-20個の微粒子が重なり合って接合し、電磁鋼板同士の間隙を埋め尽くしていた。次に、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。アルミニウム原子と酸素原子との双方が均一に存在し、偏在する箇所が見られなかったため、酸化アルミニウムからなる粒状微粒子である。
【0018】
以上に説明したように、鉄心の鉄損は電磁鋼板に近い鉄損になった。この結果から、酸化マグネシウムないしは酸化アルミニウムからなる微粒子の集まりは、極めて高い絶縁抵抗を、電磁鋼板同士の間隙に形成した。また、磁気焼鈍することで、電磁鋼板における全ての加工歪が解消され、電磁鋼板の保持力が元に戻った。電磁鋼板が微粒子同士の接合で強固に結合されたため、耐熱衝撃性を持った。また、鉄心が、微粒子同士が接合した微粒子の集まりで覆われているため、塩水に対する耐食性を持った。こうした優れた性能を持つ鉄心は、安価な原料を用い、連続した処理で鉄心が連続して製造される。このため、本発明の鉄心の製造方法に依れば、従来の鉄心より優れた性能を持つ鉄心が、従来の鉄心と同様に安価に製造できる。
【符号の説明】
【0019】
1 電磁鋼板 2 酸化マグネシウムの粒状微粒子
図1