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特許7153494生体粒子の測定方法、非特異シグナルの検出方法、生体粒子測定方法及び生体粒子を検出するための試薬キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】生体粒子の測定方法、非特異シグナルの検出方法、生体粒子測定方法及び生体粒子を検出するための試薬キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20221006BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221006BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20221006BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01N33/543 525E
G01N33/53 U
G01N33/543 575
G01N33/49 K
C12Q1/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018141524
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2020016614
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
(72)【発明者】
【氏名】飯野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 景子
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-093336(JP,A)
【文献】特開2018-004371(JP,A)
【文献】国際公開第2011/034115(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147825(WO,A1)
【文献】特開平05-172815(JP,A)
【文献】特表2013-500725(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03093664(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体から分取された生体粒子を含む試料と、固相に解離可能に結合するタグを含み且つ前記生体粒子に結合可能な捕捉体と、前記生体粒子に結合可能であり蛍光物質を含む検出体と、を含む複合体を固相上に形成する工程と、
前記複合体の一部又は全部を前記固相から解離し、前記複合体の一部又は全部を含む測定試料を調製する工程と、
測定試料に含まれる前記複合体の一部又は全部をフローサイトメータに導入し、前記複合体の一部又は全部から生じる前方散乱光および蛍光を検出し、前記前方散乱光及び前記蛍光に基づいて前記複合体の一部又は全部の数を測定する工程と、
を含
前記生体粒子が、エクソソーム、マイクロパーティクル、アポトーシス小体、及びタンパク質凝集体より選択される少なくとも一種である、
生体粒子を測定する方法。
【請求項2】
前記解離は、前記固相上に形成された前記複合体に解離剤を加えることにより行われる、請求項1に記載の生体粒子を測定する方法。
【請求項3】
前記固相上での前記複合体の形成が、固相上に固定化された固定化物質を介して行われ、固定化物質が、タグよりも解離剤に対して強い親和性を有する、請求項2に記載の生体粒子を測定する方法。
【請求項4】
前記タグがデスチオビオチンり、固定化物質がアビジン又はストレプトアビジンであり、解離剤がビオチンであるか;
前記タグが、ヒスチジンタグであり、固定化物質がニッケルであり、解離剤がイミダゾールであるか;又は
前記タグがグルタチオン-S-トランスフェラーゼであり、固定化物質がグルタチオンであり、解離剤が還元型グルタチオンである、
請求項3に記載の生体粒子を測定する方法。
【請求項5】
前記検体が、全血、血漿、血清、脳脊髄液、リンパ液、及び細胞間質液から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の生体粒子の測定方法。
【請求項6】
前記固相上に複合体を形成した後、前記解離前に、反応液中の未反応成分を除去する工程を含む、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生体粒子の大きさが、30nm以上、かつ1,000nm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の生体粒子の測定方法。
【請求項8】
生体粒子結合可能であり蛍光物質を含む検出体と、
固相に解離可能に結合するタグを含み、前記生体粒子を捕捉可能な捕捉体と、を含
前記生体粒子が、エクソソーム、マイクロパーティクル、アポトーシス小体、及びタンパク質凝集体より選択される少なくとも一種である、請求項1から7のいずれか一項に記載の生体粒子の測定方法を実施するための試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、生体粒子の測定方法、非特異シグナルの検出方法、生体粒子測定方法及び生体粒子を検出するための試薬キットに関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
生体内において、アミロイド凝集体等の凝集体や、エクソソームやマイクロパーティクルと呼ばれる種々の細胞外小胞等の生体粒子が、細胞内から細胞外へと放出されることが知られている。近年、これらの生体粒子は組織の病態生理学的な情報を反映するバイオマーカーとして着目されている。細胞外小胞を測定する方法の一例として、非特許文献1が挙げられる。この文献には、標識抗体の陰性コントロールであるアイソタイプコントロール抗体のスキャッタグラムの蛍光強度よりバックグラウンドシグナルの閾値を設定し、CD41陽性の細胞外小胞を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A flow cytometric method for characterization of circulating cell-derived microparticles in plasma., Nielsen MH et al., J Extracell Vesicles. 2014;3. doi: 10.3402/jev.v3.20795. eCollection 201)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、非特許文献1に記載の方法では、蛍光色素標識抗体が細胞外小胞以外の夾雑物と非特異的に結合したことで生じるシグナルとの区別ができず、正確に細胞外小胞を検出することができないおそれがあることを見出した。
【0005】
本開示は、測定対象の生体粒子に由来する特異的シグナルと、非特異的なシグナルを判別し、生体粒子の測定精度を高めることを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある実施形態は、生体粒子を測定する方法に関する。検体から分取された生体粒子を含む試料と、固相に解離可能に結合するタグを含み且つ前記生体粒子に結合可能な捕捉体と、前記生体粒子に結合可能であり標識物質を含む検出体と、を含む複合体を固相上に形成する工程と、前記複合体の一部又は全部を前記固相から解離し、前記複合体の一部又は全部を含む測定試料を調製する工程と、測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルを粒子分析装置により検出する工程と、を含む。本実施形態により生体粒子を正確に測定することができる。
【0007】
本開示のある実施形態は、生体粒子を検出するための試薬キットに関する。前記試薬キットは、生体粒子結合可能であり標識物質を含む検出体と、タグを含み、前記生体粒子を捕捉可能な捕捉体とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より正確な生体粒子の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の測定方法の概略図を示す。
図2】第2の測定方法の概略図を示す。
図3】第3の測定方法の概略図を示す。
図4】粒子測定システムの構成例を示す。
図5】粒子測定装置のハードウェアの構成例を示す。
図6】粒子測定装置の動作のフローを示す。
図7】検査キットの例を示す。
図8図8Aは、従来法によりAPC標識抗CD235a抗体を使って検出したシグナルを示す。図8Bは、従来法によりAPC標識アイソタイプコントロール抗体を使って検出したシグナルを示す。
図9】抗CD146抗体を使った細胞外小胞のフローサイトメトリーの結果を示す。
図10】抗CD61抗体又は抗CD235a抗体を使った細胞外小胞のフローサイトメトリーの結果を示す。
図11】抗CD61抗体を使った細胞外小胞のフローサイトメトリーの結果を示す。
図12図12Aは、本開示の方法によりAPC標識抗CD235a抗体を使って検出したシグナルを示す。図12Bは、本開示の方法によりAPC標識アイソタイプコントロール抗体を使って検出したシグナルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.用語の説明]
はじめに本開示において使用される用語について説明する。特に断りがない限り本明細書、特許請求の範囲、図面において使用される用語の解釈は、本項の説明に従う。
【0011】
「検体」は、動物又は植物から採取される液体成分であり、生体粒子を含む限り制限されない。具体的には、動物から採取される検体は、血清、血漿、リンパ液、尿、腹水、胸水、脳脊髄液、間質液等を含む。また、植物から採取される液体試料は、間質液、導管液、師管液等を含む。また、検体は生体粒子の濃縮液又は抽出液であってもよい。
【0012】
「生体粒子」は、生体に由来する粒子である限り制限されない。生体粒子は、例えば、数nm~数千nm程度の大きさを有する生体由来成分である。生体粒子には、アミロイド凝集体、タウタンパク質凝集体等のタンパク質の凝集体、タンパク質、細胞外小胞等が含まれる。細胞外小胞は、細胞から放出されるリン脂質を主成分とする膜で覆われた数十~数千nm程度の大きさを有する粒子である。細胞外小胞には、エクソソーム、マイクロパーティクル、アポトーシス小体等が含まれる。多くの場合、細胞外小胞には、生体分子が存在している。例えば、エクソソーム又はマイクロパーティクルは、ポリペプチド、核酸(mRNA、miRNA、ノン・コーディングRNA等のRNA)などの生体分子を含み得る。例えば、アポトーシス小体は、断片化された核、細胞小器官などを含み得る。細胞外小胞は、ポリペプチド、RNAなどの生体分子を含み得る。「ポリペプチド」は、複数のアミノ酸がペプチド結合で結合した化合物を意図し、分子量の比較的大きいタンパク質及び分子量の比較的小さいペプチドを含む。
【0013】
測定対象となる生体粒子は、30nm以上であることが好ましい。また、生体粒子は、1,000nm以下であることが好ましい。
【0014】
生体粒子として好ましくは、細胞外小胞である。例えば、エクソソームは30nm~100nm程度の大きさを有する。マイクロパーティクルは、例えば100nm~1000nm程度の大きさを有する。ここで粒子の大きさは、好ましくは外径で表される。
【0015】
生体粒子に存在し、測定の対象となる分子を標的分子ともいう。標的分子としては、例えばタンパク質、糖鎖、脂質、核酸等である。また標的分子内に存在する部位であって、後述する検出体が結合する部位を「標的部位」ともいう。標的部位は、生体粒子全体であってもよく、生体粒子の一部であってもよい。また生体粒子が細胞外小胞のように、複数種の成分を含む場合には、標的部位は、各成分の全体、又は各成分の一部であってもよい。例えば、標的部位は、標的分子の全体若しくは一部であり得る。
【0016】
「検出体」は、標識物質を含み生体粒子に結合する物質である。検出体は、具体的には生体粒子に結合可能な「結合体」に標識物質を標識したものを挙げることができる。
【0017】
「標識物質」は、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。
【0018】
蛍光物質としては、fluorescein誘導体、rhodamine誘導体、Texas Red、Cy色素、Alexa(登録商標) Fluor、MegaStokes(商標) Dye、Oyster(商標)、DyLight(商標)、HiLyte(商標) Fluor、Brilliant Violet(商標)、Qdot(登録商標)、phycoerythrin(PE)、allophycocyanin(APC)、PerCP、Tetramethylrhodamine(TRITC)、及びこれらのタンデム色素を挙げることができる。より具体的には、AMCA、Pacific Blue、Alexa Fluor 405、Pacific Orange、Krome Orange、Brilliant Violet 421、Brilliant Violet 510、Brilliant Violet 605、Brilliant Violet 650、Brilliant Violet 711、Brilliant Violet 785、Alexa Fluor 488、Qdot(R)605、FITC、PE/RD1、ECD/PE-TexasRed、PC5/SPRD/PE-Cy5、PC5.5/PE-Cy5.5、PerCP、PerCP-Cy5.5、PE-Alexa Fluor 700、PC7/PE-Cy7、PE-Alexa Fluor 750、TRITC、Cy3、Alexa Fluor 594、Texas Red、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 700、Cy5、Cy5.5、APC、APC7/APC-Cy7、APC Alexa Fluor700、APC Alexa Fluor750等の蛍光色素、Enhanced green fluorescent protein (EGFP)などの蛍光タンパク質などが挙げられる。
【0019】
放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、蛍光色素が特に好ましい。
【0020】
「結合体」は、検出体の一部であって、生体粒子に結合できる物質である。結合体として例えば抗体、アプタマー、レクチン等を例示することができる。好ましくは、結合体は、少なくとも標的部位と結合しうる。結合体が抗体であるとき、標的分子は抗原とも呼ばれるが、抗原にはタンパク質、糖鎖等を含み得る。結合体は、好ましくはその少なくとも一部が標的部位と特異的に結合する。
【0021】
「抗体」は、粒子上に存在する標的タンパク質又はその一部を抗原としてヒト以外の動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2、Fvフラグメント、ミニボディ、scFv‐Fc、scFv、ディアボディ、トリアボディ、及びテトラボディ等)を含む。また、免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。
【0022】
抗体を作製するために用いられる、抗原となる標的タンパク質は標的タンパク質の抗体を作製できる限り制限されない。抗原として用いられる標的タンパク質は、動物又は植物から公知の方法に従って抽出されたものでもよく、また組換え遺伝子工学技術によって得られたリコンビナントタンパク質であってもよい。標的タンパク質の一部を抗原とする場合には、標的タンパク質を酵素等で消化して得られるフラグメントを使用してもよく、また標的タンパク質の一部のアミノ酸配列と同じ配列を有するペプチドを抗原としてもよい。当該ペプチドは、公知の方法によって合成することができる。
【0023】
「レクチン」は、標的とする糖鎖に結合できる限り制限されない。レクチンとして、例えば、レクチン、ガレクチン、コレクチン、フィコリン、インテレクチン、アネキシン、レクチカン、F-ボックスレクチン、フコレクチン、タキレクチン、レクザイム、L型レクチン、M型レクチン、P型レクチン、R型レクチンを例示することができる。
【0024】
「阻害物質」は、標的部位と検出体との結合を阻害できる物質である。好ましくは、阻害物質は、標的部位と結合し得る物質であり得る。阻害物質は、抗体、レクチン等を例示することができる。抗体及びレクチンの説明は、結合体についての説明をここに援用する。
【0025】
阻害物質は、検出体に含まれる結合体と同じ物質であってもよいし、異なる物質であってもよい。例えば、標的部位が抗原のエピトープである場合であって、検出体に含まれる結合体が抗体である場合、阻害物質は、少なくとも検出体に含まれる抗体が結合する標的部位に結合する抗体を含むことができる。この場合、阻害物質は、前記エピトープと結合する抗体をポリクローナル抗体であっても、前記エピトープと結合するモノクローナルであってもよい。また、阻害物質は、標的部位に結合する抗体と他の抗体との混合物でもよい。さらに、標的部位が抗原のエピトープである場合であって、検出体に含まれる結合体が抗体である場合、阻害物質は、前記エピトープに結合するアプタマー、レクチン等であってもよい。
【0026】
標的部位が糖鎖のレクチン結合部位である場合であって、検出体に含まれる結合体がレクチンである場合、阻害物質は、少なくとも検出体に含まれるレクチンが結合する標的部位に結合するレクチンを含むことができる。この場合、阻害物質に含まれるレクチンは、前記レクチン結合部位と結合するレクチンと他のレクチンとの混合物でもよい。さらに、標的部位が糖鎖のレクチン結合部位である場合であって、検出体に含まれる結合体がレクチンである場合、阻害物質は、前記レクチン結合部位に結合する抗体であってもよい。
【0027】
検出体と阻害物質は、生体粒子との結合において競合することがより好ましい。
【0028】
阻害物質は、標識物質を含まないか、検出体と異なる標識物質を含むことが好ましい。
【0029】
「捕捉体」は、結合体とタグを含む限り制限されない。また、捕捉体に含まれる結合体は、生体粒子と結合できる限り制限されない。結合体は、検出体に含まれる結合体と同様に、抗体、レクチン等を例示することができる。抗体及びレクチンの説明は、検出体に含まれる結合体についての説明をここに援用する。好ましくは、捕捉体に含まれる結合体は、後述するB/F分離の工程を経ても生体粒子を捕捉し続けられる捕捉力を有することが好ましい。
【0030】
また、捕捉体に含まれる結合体は、検出体に含まれる結合体と生体粒子との結合、及び阻害物質に含まれる結合体と生体粒子との結合に干渉しないことが好ましい。例えば、捕捉体は、生体粒子上に存在する、検出体に含まれる結合体が結合する標的部位とは異なる部位と結合することが好ましい。
【0031】
タグは、固相に解離可能に結合可能な物質である。タグは、固相に直接的にまたは関節的に固相に結合する。「固相に間接的に結合」とは、タグが他の物質を介して固相に結合することをいう。例えば、タグは、固定化物質を介して固相に固定化され得る。タグと固定化物質の結合は、解離剤を添加することによって解離され得る。
【0032】
タグと固定化物質の組み合わせは、は当該技術分野において公知であり、例えば、ビオチン類(ビオチン、デスチオビオチンなどのビオチン類縁体を含む)とアビジン類(アビジン、ストレプトアビジンなどのアビジン類縁体を含む)、ニッケルとヒスチジンタグ、グルタチオンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼ、オリゴヌクレオチドとその相補鎖、といった組み合わせを挙げることができる。例えば、タグとしてデスチオビオチンを使用し、固定化物質としてアビジン又はストレプトアビジンを使用することができる。別の例として、タグとしてヒスチジンタグを使用し、固定化物質としてニッケルを使用することができる。また別の例として、タグとしてグルタチオン-S-トランスフェラーゼを使用し、固定化物質としてグルタチオンを使用することができる。さらに、タグとしてオリゴヌクレオチドを使用し、固定化物質としてその相補鎖を使用することができる。
【0033】
また、別の態様として、タグと固定化物質とをジスルフィド結合により結合させることもできる。この場合、解離剤として還元剤又はジスルフィド結合のスペーサー内若しくはスペーサー近傍を切断する酵素を添加し、前記ジスルフィド結合を還元して、又はスペーサー内若しくはスペーサー近傍を切断して、タグと固定化物質を解離することができる。還元剤としては、β-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン等を挙げることができる。
【0034】
解離剤は、タグと固定化物質の結合を解離できる限り制限されない。解離剤は、公知の分子を使用することができる。例えば、タグとしてデスチオビオチンを使用し、固定化物質としてアビジン又はストレプトアビジンを用いた場合、解離剤としてはビオチンを使用することができる。ビオチンは、デスチオビオチンよりもアビジン又はストレプトアビジンとの結合性が強いため、ビオチン存在下ではデスチオビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとの結合は解離する。デスビオチンの分子数又は量を1とした場合に反応液に添加するビオチンの分子数又は量は、例えば1倍~1兆倍であることが好ましい。タグとしてヒスチジンタグを使用し、固定化物質としてニッケルを用いた場合、解離剤としてイミダゾールを使用することができる。タグとしてグルタチオン-S-トランスフェラーゼを使用し、固定化物質としてグルタチオンを用いた場合には、解離剤として還元型グルタチオンを使用することができる。さらに、タグとしてオリゴヌクレオチドを使用し、固定化物質としてその相補鎖を用いた場合には、解離剤としてDNA分解酵素、DNAの二重結合を解離可能な低塩濃度バッファー等を用いることができる。また、この場合、解離剤に代えて、熱変性を行ってもよい。
【0035】
解離剤の処理温度及び処理時間は解離剤の種類によって適宜設定することができる。通常は、20~45℃で3分~2時間程度静置するか、又は穏やかに撹拌することができる。解離剤としてビオチンを使用する場合には、20~30℃で30分から1時間程度処理することが好ましい。
【0036】
タグを含む結合体の調製方法は、公知である。タグと結合体は、直接結合させても、間接的に結合させてもよい。
【0037】
固相は、免疫学的手法で慣用される公知の固相から選択することができる。そのような固相の材料としては、例えば、ラテックス、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、スチレン-メタクリレート共重合体、ポリグリシジルメタクリレート、アクロレイン-エチレングリコールジメタクリレート共重合体、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、シリコーン、アガロース、ゼラチン、赤血球、シリカゲル、ガラス、不活性アルミナ、磁性体などが挙げられる。また、これらの一種又は二種以上を組み合わせてもよい。固相の形状としては、例えば、マイクロタイタープレート、試験管、粒子などが挙げられる。粒子は、磁性を有していてもよい。磁性粒子は当該技術において公知であり、基材としてFe及び/又はFe、コバルト、ニッケル、フィライト、マグネタイトなどを含む粒子が挙げられる。
【0038】
「フローサイトメータ」は、粒子をフローセルに導入し、個々の微粒子から生じるシグナル(光学的シグナル、電気的シグナルなど)を検出することによって粒子を分析する装置である。
【0039】
[2.生体粒子の測定方法]
[2-1.第1の測定方法]
本開示における第1の測定方法は、阻害物質を使用して非特異シグナルを検出することを含む、生体粒子の測定方法に関する。
【0040】
図1を用いて第1の測定方法の概略を説明する。
図1に示す(1)において、生体粒子を含む同一検体から第1試料と第2試料を独立して分取する。独立して分取するとは、第1試料と第2試料を別の容器の分取することをいう。
【0041】
調製工程Aにおいて、検出体は、第1試料と阻害物質の存在下で混合される。調製工程Aで調製された測定試料を第1測定試料とする。
【0042】
阻害物質の存在下での検出体と第1試料との混合を行う態様には、以下の3つの態様が含まれうる:
i.第1試料と阻害物質を混合してから一定時間インキュベーションした後に、検出抗体を添加すること、
ii.検出体と阻害物質を混合してから、これらの混合液と第1試料を混合すること、
iii.第1試料と阻害物質を混合してから検出体を添加すること
iv.第1試料と検出体を混合してから阻害物質を添加すること。
【0043】
好ましくは、i.~iii.のいずれかである。
【0044】
上記i.の場合、検出体を加えた後、一定時間インキュベーションしたものを第1測定試料とすることができる。
【0045】
上記ii.の場合、検出体と阻害物質の混合液と第1試料を混合した後に一定時間インキュベーションしたものを第1測定試料とすることができる。
【0046】
上記iii.又はiv.の場合、検出体と阻害物質と第1試料との混合液を一定時間インキュベーションしたものを第1測定試料とすることができる。
【0047】
上記において、一定時間とは、例えば、20℃~30℃程度の場合には30分間~2時間程度、0~10℃程度の場合には、2時間から24時間程度を例示することができる。
【0048】
検出体と阻害物質の混合割合は、標的部位に対する各結合体の親和性に応じて適宜設定できる。例えば、検出体に含まれる結合体の分子数又は量を1とした場合に阻害物質に含まれる結合体の分子数又は量は、2倍~100倍程度、好ましくは5倍~50倍程度とすることができる。
【0049】
調製工程Bにおいて、検出体は、第2試料と阻害物質が実質的に存在しない条件下で混合される。「阻害物質が実質的に存在しない」とは、阻害物質が存在しないか、検出体と生体粒子との結合を阻害しない程度の分子数が存在することを意味する。
【0050】
検出体と第2試料を混合してから一定時間インキュベーションしたものを第2測定試料とすることができる。一定時間とは、調製工程Aの説明で例示したとおりである。
【0051】
調製工程Bは、調製工程Aに先だって、調製工程Aと同時に、又は調製工程Aの後に行うことができる。
【0052】
次に、図1に示す(2)において、第1測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルと、第2測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルとを、粒子分析装置により検出する。粒子分析装置としては、フローサイトメータを例示することができる。
【0053】
第1測定試料及び第2測定試料を粒子分析装置で測定する場合には、第1測定試料及び第2測定試料をそのまま使用してもよいが、希釈して使用してもよい。希釈する場合には、例えば当該技術分野において公知であるPBS等の緩衝液を使用することができる。希釈倍率は、例えば5倍~20倍、好ましくは10倍~15倍を例示することができる。
【0054】
生体粒子を検出するためには、粒子の大きさを考慮する必要がある。このため、フローサイトメータにおける粒子の検出条件も数十nmの粒子を検出できる条件とすることが好ましい。
【0055】
例えば、第1測定試料及び第2測定試料をフローサイトメータ内に流すための流速は、12μl/分程度が好ましい。また、生体粒子を検出する際のフォトマル電圧は、例えば前方散乱光(FSC)が700V程度、側方散乱光(SSC)が320V程度、蛍光色素がfluorescein誘導体の場合には550V程度、蛍光色素がallophycocyanin(APC)の場合には500V程度とすることができる。また、SSCの閾値は200V程度とすることができる。
【0056】
第1測定試料は、阻害物質によって検出体と生体粒子の結合が阻害されているため、検出体によって本来検出されるべき生体粒子は検出されない。したがって、第1測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルは、非特異シグナルと考えられる。第2測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルは、特異シグナルと、非特異シグナルとの両方を含むと考えられる。
【0057】
第1測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルの検出結果と、第2測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルの検出結果とから算出される結果は、生体粒子と検出体との特異的な反応に基づく測定結果であるということができる。具体的には、第2測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルの検出結果から第1測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルの検出結果を減ずることにより、生体粒子と検出体との特異的な反応に基づく測定結果を算出することができる。
【0058】
[2-2.第2の測定方法]
第2の測定方法は、固相上で生体粒子と検出体との複合体を形成した後に生体粒子と検出体との複合体を固相から解離し、解離した生体粒子と検出体との複合体を測定試料として用いる生体粒子の測定方法である。
【0059】
図2を用いて第1の測定方法の概略を説明する。
図2の(1)に示すように、第2の測定方法では、はじめに固相上で生体粒子と検出体との複合体を形成する。例えば、第2の測定方法では、固定化物質を固定化した固相に捕捉体を添加し、一定時間接触させる。接触の後にB/F分離を行い固定化物質に結合しなかった未反応の捕捉体を除去してもよい。次に検体の原液、又は検体をPBS等で希釈した希釈液を試料として固定化物質と結合した捕捉体と一定時間接触させ、固相上に固定化された捕捉体で試料中の生体粒子を捕捉する。接触の後にB/F分離を行い捕捉体に結合しなかった試料成分を除去してもよい。次に捕捉体に捕捉された粒子と検出体を一定時間接触させる。接触の後にB/F分離を行い生体粒子に結合しなかった未反応の検出体を除去してもよい。B/F分離は未反応成分を除去する目的で行う。
【0060】
図2の(2)に示すように、解離剤を固相に固定されている検出抗体-生体粒子-捕捉体の複合体と一定時間接触させ、検出抗体-生体粒子-捕捉体の複合体を固相から解離する。本工程において、固相上に形成されている検出抗体-生体粒子-捕捉体の複合体少なくとも一部が解離されればよい。
【0061】
図2の(3)に示すように、解離した検出抗体-生体粒子-捕捉体の複合体を測定試料として粒子分析装置での測定に供する。
【0062】
本項において、一定時間とは、例えば、20℃~30℃程度の場合には1秒間~2時間程度、0~10℃程度の場合には、1秒間から24時間程度を例示することができる。
【0063】
粒子分析装置として好ましくはフローサイトメータであり、検出抗体-生体粒子-捕捉体の複合体の測定条件は、上記2-1.の説明をここに援用する。
【0064】
[2-3.第3の測定方法]
第3の測定方法は、第1の測定方法と第2の測定方法を合わせた測定方法である。
図3を用いて第3の測定方法の概略を説明する。
図3の(1)に示すように、第3の測定方法では、検体から分取された生体粒子を含む第i試料と、捕捉体と、検出体を混合する際に、阻害物質の存在下で混合し、固相上に、前記生体粒子と、前記捕捉体と、前記阻害物質と、の第i複合体を形成する(調製工程a-1)。
【0065】
次に、図3の(2)に示すように、解離剤を使って、固相から解離した前記第i複合体の一部又は全部を含む第i測定試料を調製する(調製工程a-2)。
【0066】
また、図3の(1)に示すように、調製工程a-1に先だって、調製工程a-1と同時に、又は調製工程a-1の後に、前記検体と同一の検体から第i試料とは独立して分取された第ii試料と、捕捉体と、前記検出体とを、前記阻害物質が実質的に存在しない条件下で混合し、固相上に、前記生体粒子と、前記捕捉体と、前記検出体と、の第ii複合体を形成する(調製工程b-1)。
【0067】
次に、図3の(2)に示すように、前記固相から解離した前記第ii複合体の一部又は全部を含む第ii測定試料を調製する(調製工程b-2)。
【0068】
続いて、第i測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルと、第ii測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルとを、粒子分析装置により検出する。
【0069】
さらに、第i測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルの検出結果と、第ii測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルの検出結果とから前記生体粒子の測定結果を算出する。
【0070】
第i複合体の形成についての説明、第ii複合体の形成についての説明は、上記2-1.及び2-2.の説明をここに援用する。粒子分析装置によるシグナルの検出及び測定結果の算出方法は、上記2-1.の説明をここに援用する。
【0071】
[3.非特異シグナルの検出方法]
本開示は、非特異シグナルの検出方法を含む。非特異シグナルの検出方法は、上記2-1.で説明した、検体から分取された生体粒子を含む試料と、検出体とを、生体粒子に結合可能であり前記標識物質を含まない阻害物質の存在下で混合することにより調製された測定試料から検出されたシグナルを非特異シグナルと判定し、前記測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルを、粒子分析装置により検出する検出工程こととを含む。
【0072】
測定試料の調製方法、及び粒子分析装置によるシグナルの検出方法については、上記2-1.の説明をここに援用する。
【0073】
[4.粒子測定装置]
[4-1.装置の構成]
粒子測定装置10は、少なくとも処理部101と記憶部を備える。記憶部は、主記憶部102及び/又は補助記憶部104から構成される。装置10は、請求項1から13に記載の方法を実現するための装置であってもよい。装置10及び装置10の動作に係る説明において、上記2-1.で説明されている用語と共通する用語については、上記2-1.の説明をここに援用する。
【0074】
図4及び図5に、装置10の構成を示す。装置10は、入力部111と、出力部112と、記憶媒体113とに接続されていてもよい。また、フローサイトメータ等の粒子分析装置等の測定部30と接続されていてもよい。すなわち、装置10は、測定部30と直接又はネットワーク等を介して接続された、粒子測定システム50を構成することもある。
【0075】
装置10において、処理部101と、主記憶部102と、ROM(read only memory)103と、補助記憶部104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108は、バス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0076】
処理部101は、CPU、MPU又はGPU等から構成される。処理部101が、補助記憶部104又はROM103に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、装置10が機能する。処理部101は、上記2-1.で述べた第1測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルを粒子分析装置により測定した結果と、第2測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルを粒子分析装置により検出した結果を取得する。また、前記2つの検出結果から、生体粒子の測定結果を算出する。
【0077】
ROM103は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成され、処理部101により実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。ROM103は、装置10の起動時に、処理部101によって実行されるブートプログラムや装置10のハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0078】
主記憶部102は、SRAM又はDRAMなどのRAM(Random access memory)によって構成される。主記憶部102は、ROM103及び補助記憶部104に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、主記憶部102は、処理部101がこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。主記憶部102は、ネットワークを介して取得されたシグナルの検出結果等を一時的に記憶する。
【0079】
補助記憶部104は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。補助記憶部104には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部101に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、シグナルの検出結果等を不揮発性に記憶する。
【0080】
通信I/F105は、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(Network interface controller:NIC)等から構成される。通信I/F105は、処理部101の制御下で、測定部30又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて装置10が保存又は生成する情報を、測定部30又は外部に送信又は表示する。通信I/F105は、ネットワークを介して測定部30又は他の外部機器(図示せず、例えば他のコンピュータ、又はクラウドシステム)と通信を行ってもよい。
【0081】
入力I/F106は、例えばUSB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成される。入力I/F106は、入力部111から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。
【0082】
入力部111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力部111は、装置10の外部から接続されても、装置10と一体となっていてもよい。
【0083】
出力I/F107は、例えば入力I/F106と同様のインタフェースから構成される。出力I/F107は、処理部101が生成した情報を出力部112に出力する。出力I/F107は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、出力部112に出力する。
【0084】
出力部112は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、測定部30から送信される測定結果及び装置10における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0085】
メディアI/F108は、記憶媒体113に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。また、メディアI/F108は、処理部101が生成した情報を記憶媒体113に書き込む。メディアI/F108は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、記憶媒体113に書き込む。
【0086】
記憶媒体113は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。記憶媒体113は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F108と接続される。記憶媒体113には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0087】
処理部101は、装置10の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM103又は補助記憶部104からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの補助記憶部内に格納されており、このサーバコンピュータに装置10がアクセスして、コンピュータプログラムをダウンロードし、これをROM103又は補助記憶部104に記憶することも可能である。
【0088】
また、ROM103又は補助記憶部104には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、装置10は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0089】
[4-2.装置の動作]
次に、図6を用いて、装置10の動作の例について説明する。装置10の動作は、後述する生体粒子の検出結果を算出するためのステップをコンピュータに実行させるコンピュータプログラムに従って、装置10の処理部101が制御する。
【0090】
処理部101は、検査者等によって入力部111から入力される、処理開始の指令に従って、上記2-1で述べた、第1測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルを粒子分析装置により測定した結果を取得する(ステップS1)。
【0091】
処理部101は、上記2-1で述べた、第2測定試料に含まれる標識物質に由来するシグナルを粒子分析装置により測定した結果を取得する(ステップS2)。ステップS1とステップS2を行う順番は制限されない。ステップS2を先に行っても良く、ステップS1とステップS2を同時に行ってもよい。
【0092】
処理部101は、ステップS1で取得したシグナルの検出結果と、ステップS2で取得したシグナルの検出結果との2つの検出結果から、生体粒子の測定結果を算出する。具体的には、ステップS2で取得したシグナルの検出結果からステップS1で取得したシグナルの検出結果を減じることにより、生体粒子の測定結果を算出し(ステップS3)、処理を終了する。
【0093】
処理部101は、ステップS3の後に生体粒子の測定結果を補助記憶部104に記憶すること、出力部112に出力すること、及び/又は前記外部機器に送信することを行ってもよい(図示せず)。
【0094】
[5.プログラム及び前記コンピュータプログラムを記憶した記憶媒体]
コンピュータプログラムは、コンピュータに上記ステップS1~S3を実行させる。前記コンピュータプログラムは、コンピュータを粒子測定装置10として機能させる。
【0095】
コンピュータプログラムは、記憶媒体記憶されていてもよい。すなわち、前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶される。また前記コンピュータプログラムは、クラウドサーバ等のネットワークで接続可能な記憶媒体に記憶されていてもよい。コンピュータプログラムは、ダウンロード形式の、又は記憶媒体に記憶されたプログラム製品であってもよい。
【0096】
前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0097】
[6.検査キット]
[6-1.第1の検査キット]
検査キットは、検出体及び阻害物質を含む。図7に、キット150の概略図を示す。
【0098】
キット150は、検出体を収容する容器151と、阻害物質を収容する容器152と、試薬キット150には取扱説明書あるいは取扱説明書を閲覧できるURLを記載した用紙154が含まれてもよい。さらに、試薬キット150には、これらの容器を納めた箱155が含まれていてもよい。また、キット150は、捕捉体を収容する容器151を含んでいてもよい。図示しないが、キットは、捕捉体を固定化するための固相を含んでいてもよい。
検査キットは、上記2-1.、上記2-3.、上記3.に記載の方法を実施するために使用される。
【0099】
[6-2.第2の検査キット]
検査キットは、検出体及び捕捉体を含む。図7に、キット150の概略図を示す。
【0100】
キット150は、検出体を収容する容器151と、捕捉体を収容する容器151を収容する容器152と、試薬キット150には取扱説明書あるいは取扱説明書を閲覧できるURLを記載した用紙154が含まれてもよい。さらに、試薬キット150には、これらの容器を納めた箱155が含まれていてもよい。また、キット150は、阻害物質を収容する容器151を含んでいてもよい。図示しないが、キットは、捕捉体を固定化するための固相を含んでいてもよい。
検査キットは、上記2-2.、上記2-3.、に記載の方法を実施するために使用される。
【0101】
以上、装置10、装置10の動作、コンピュータプログラム、検査キットについて、添付の図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、上記に説明する具体的な実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態は、本明細書の記載と当業者の技術常識に基づいて変形しうる。
【実施例
【0102】
以下に実施例を用いて本開示の内容について、より詳細に説明するが、本開示は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0103】
[材料及び方法]
(1)抗体
今回の検討には下記表1に示す抗体を使用した。阻害物質として未標識抗体を用い、検出体として蛍光標識した未標識抗体と同じクローンの抗体を使用した。
【0104】
【表1】
【0105】
(2)血漿検体
ProMedDx社(代理店:株式会社サンフコ)より、以下のプロトコルで調製した血漿を購入した。
【0106】
健常人6名より3.2%クエン酸を含む採血管で採血後、15分以内に1500 RCFで15 分遠心した。上清を回収した後、上清を-20℃で冷凍保存した。納品後、速やかに-80℃保存した。
健常人の6検体を流水で融解後に混合し、解析に用いた。
【0107】
(3)モデル細胞の培養
モデル細胞としてHUVECを使用した。HUVECは2%牛胎児血清添加内皮成長培地(EGM)で培養した。細胞が80%コンフルエントに達したときに細胞外小胞を含む培養上清を回収した。20 ml相当の上記培養上清を1,500 RCFで15 分遠心して上清を回収し、さらに20,000 RCFで30分遠心して培養細胞由来細胞外小胞を調製した。
【0108】
(4)分析用サンプル
分析用のサンプルは、上記血漿 100μlと1 mlの培養上清から回収した培養細胞由来細胞外小胞を混合することにより調製した。
【0109】
(5)フローサイトメトリー
フローサイトメトリーは、FACS Verse (Becton Dickinson)を用いて行った。PBSで希釈した各反応液を表2に示す条件で測定し、蛍光強度とFSCのスキャッタグラムを取得した。表2においてFSCは前方散乱光を、SSCは側方散乱光を示す。また、測定時の流速は、12 μl/minとし、測定時間は1分間とした。
【0110】
【表2】
【0111】
[参考例]
1.従来法による粒子の検出
APC標識抗CD235a抗体を検出体として使用した。アイソタイプコントロール(陰性抗体コントロール)として、APC標識 Isotype control IgG2bを使用した。
【0112】
上記[材料及び方法]の(2)で準備した血漿12.5μlにAPC標識した抗CD235a抗体又はアイソタイプコントロール抗体を0.125μg添加し、20分間接触させた。この反応液をPBSで14倍希釈して測定サンプルとした。
【0113】
フローサイトメトリーは、FACS Verse (Becton Dickinson)を用いて行った。PBSで希釈した各反応液を表3に示す条件で測定し、蛍光強度とFSCのスキャッタグラムを取得した。表3においてFSCは前方散乱光を、SSCは側方散乱光を示す。また、測定時の流速は、12 μl/minとし、測定時間は1分間とした。
【0114】
【表3】
【0115】
2.結果
図8にフローサイトメータで取得した結果を示す。図8Aは、APC標識抗CD235a抗体を使って検出したシグナルを示す。図8Bは、APC標識アイソタイプコントロール抗体を使って検出したシグナルを示す。図8Aに示す陽性領域の枠内が、本来細胞外小胞上のCD235aに由来する陽性シグナルが検出される陽性領域である。図8Bではこの領域内に本来検出されるはずのないシグナルが検出されていた。このことから、本発明者らは、従来法により判別した陽性領域に非特異シグナルが含まれると考えた。
【0116】
[実施例]
1.実施例1
阻害物質を検出体に先立ってサンプル中の細胞外小胞と反応させ、阻害効果を検討した。
【0117】
1-1.細胞外小胞と検出抗体との反応
【0118】
細胞外小胞と検出抗体との反応においては、サンプル10 μlに検出抗体1~2 μl(0.1μg相当)を添加し、total volumeが11~12 μlになるように調製した。
【0119】
上記[材料及び方法]の(4)で調製したサンプルを10μlずつ6本のチューブに分注し、そのうち3本のチューブに表1に示す未標識の抗CD146抗体、抗CD61抗体、抗CD235a抗体を1μgずつ添加し、1時間インキュベーションした。また、残りの3本のチューブには抗体を添加せず、1時間インキュベーションした。
【0120】
また、上記[材料及び方法]の(3)で準備した培養細胞由来細胞外小胞についても使用した培養上清の1/10量のPBSで希釈した後に、2本のチューブに10μlずつ分注し、一方には、未標識の抗CD146抗体を1μg添加し、もう一方のチューブには何も添加せず1時間インキュベーションした。
【0121】
さらに、上記[材料及び方法]の(2)で準備した血漿についても、2本のチューブに10μlずつ分注し、一方には、未標識の抗CD146抗体を1μg添加し、もう一方のチューブには何も添加せず1時間インキュベーションした。
【0122】
未標識の抗CD146抗体を添加したチューブに蛍光標識した抗CD146抗体を0.1μg添加し、未標識の抗CD61抗体を添加したチューブに蛍光標識した抗CD61抗体を0.1μg添加し、未標識の抗CD235a抗体を添加したチューブに蛍光標識した抗CD235a抗体を0.1μg添加した。未標識抗体を添加しなかった3本のチューブにも、それぞれ蛍光標識した抗CD146抗体、抗CD61抗体、又は抗CD235a抗体を0.1μgずつ添加した。また、血漿又は培養上清を分注したチューブにもそれぞれ蛍光標識した抗CD146抗体を0.1μg添加した。蛍光標識抗体を添加してから30分インキュベーションした。
【0123】
インキュベーションが終了した各反応液をPBSで14倍希釈してフローサイトメトリーに供した。フローサイトメトリーの測定条件は上記[材料及び方法]の(5)にしたがった。
【0124】
1-2.結果
【0125】
抗CD146抗体を使った細胞外小胞のフローサイトメトリーの結果を図9に示す。未標識の抗CD146抗体による阻害を行うことにより、阻害を行わなかった測定に比べて、シグナルが顕著に減少した(下段の実線で囲われた部分)。この結果は、阻害をすることで、蛍光標識された抗CD146抗体が標的分子に結合することができず、シグナルが検出されなかったためと考えられる。
【0126】
一方で、血漿サンプルの測定結果において、点線で囲われた部分は、阻害物質の有無にかかわらず同様にシグナルが得られた。点線で囲われた部分のシグナルは、抗CD146抗体による阻害の影響を受けないことから、CD146とは関係のない非特異的なシグナルであると考えられた。
【0127】
抗CD61抗体又は抗CD235a抗体を使った細胞外小胞のフローサイトメトリーの結果を図10に示す。抗CD61抗体又は抗CD235a抗体においても同様に阻害の効果が確認でき、特異的なシグナルと非特異的なシグナルの判別が可能であった。
【0128】
これらの結果より、阻害処理を行った測定結果と阻害処理を行わなかった測定結果とを比較することにより、特異的なシグナルと非特異的なシグナルとを区別して解析できることが示された。
【0129】
したがって、阻害を行わなかった測定サンプルから得られた生体粒子のシグナルの測定値から、阻害を行った測定サンプルから得られた生体粒子のシグナルの測定値を減じることにより、真の測定値を取得できると考えられた。
【0130】
2.実施例2
阻害物質である未標識抗体存在下で検出抗体とサンプルとを反応させ、阻害の効果を検討した。
【0131】
2-1.細胞外小胞と検出抗体との反応
上記[材料及び方法]の(1)抗CD61抗体、(2)血漿検体、(3)モデル細胞の培養、(4)分析用サンプル、(5)フローサイトメトリーについては、本項でも同様である。
【0132】
次に未標識抗体と検出抗体の比率を変えて、阻害の効果を検討した。
上記1-1.(4)で調製したサンプルを10μlずつ4本のチューブに分注した。それぞれのチューブに表1に示す未標識の抗CD61抗体を0μg(未標識抗体無添加)、0.5μg(未標識抗体5倍量)、1μg(未標識抗体10倍量)、10μg(未標識抗体100倍量)のそれぞれと、蛍光標識した抗CD61抗体を0.1μgを混合した溶液を添加し1時間インキュベーションした。
インキュベーションが終了した各反応液をPBSで14倍希釈してフローサイトメトリーに供した。
【0133】
2-2.結果
抗CD61抗体を使った細胞外小胞のフローサイトメトリーの結果を図11に示す。
図11の左上図(未標識抗体無し)において点線で囲まれた部分のシグナルが、図11の右上図(未標識抗体5倍量)、左下図(未標識抗体10倍量)、右下図(未標識抗体100倍量)では、消失した。このことから、未標識抗体と検出抗体を競合させることにより阻害効果が得られることが示された。
【0134】
3.実施例3
本実施例では、いったん固相に細胞外小胞を固定化し、検出抗体と細胞外小胞を反応させた後で、固相から検出抗体と細胞外小胞の複合体を解離した測定サンプルを用いてフローサイトメトリーによる解析を行った。
【0135】
3-1.細胞外小胞と検出抗体との反応
APC標識抗CD235a抗体(クローン:HIR2、BioLegend、306608)を検出体として使用した。アイソタイプコントロール(陰性抗体コントロール)として、APC標識 Isotype control IgG2b(クローン:MPC-11、BioLegend、400320)を使用した。捕捉体として、デスビオチン標識抗CD235a抗体(クローン:HIR2、BioLegend、306602)を使用した。
細胞外小胞と検出抗体との反応は以下の手順にしたがって行った。
i. デスチオビオチン標識した抗CD235a抗体またはアイソタイプコントロール抗体のPBS溶液を2μg/mlとなるように調製し、ストレプトアビジンを固相した96ウェルプレートに100μl/ウェルで添加して1時間インキュベーションした。
ii. 96ウェルプレート内の抗体溶液を捨て、96ウェルプレートをPBSで3回洗浄し、血漿を100μl/ウェルで添加して1時間インキュベーションし、血漿中の細胞外小胞を96ウェルプレート上に捕捉した。
iii. 96ウェルプレート内の血漿を捨て、96ウェルプレートをPBSで3回洗浄し、APC標識した抗CD235a抗体又はアイソタイプコントロール抗体を1μg/ml濃度で、100μl/ウェルで1時間インキュベーションすることにより免疫複合体を形成した。
iv. 96ウェルプレート内の抗体溶液を捨て、96ウェルマイクロプレートをPBSで3回洗浄し、1 mM ビオチン溶液を100μl/ウェルで添加して1時間接触させることにより免疫複合体を溶出し、ウェル内の溶液を回収し、測定サンプルとした。
フローサイトメトリーは、上記参考例に記載の条件にしたがって行った。
【0136】
3-2.結果
図12にフローサイトメータで取得した結果を示す。図12Aは、本開示の方法によりAPC標識抗CD235a抗体を使って検出したシグナルを示す。図12Bは、本開示の方法によりAPC標識アイソタイプコントロール抗体を使って検出したシグナルを示す。図12Aに示す陽性領域の枠内が、本来細胞外小胞上のCD235aに由来するシグナルが検出される領域である。図8Bではこの領域内に非特異的なシグナルが検出されていた。これに対して、図12Bでは、非特異的なシグナルが顕著に減少していた。このことから本開示における方法は細胞外小胞をフローサイトメータを使って検出する際に、非特異的なシグナルを減少させるために有効であることが示された。
【符号の説明】
【0137】
10 粒子測定装置
101 処理部
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