(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電子回路
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20221006BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L29/78 617Z
H01L29/78 618B
H01L29/78 617U
H01L29/78 617T
H01L29/78 617N
(21)【出願番号】P 2018149160
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】津吹 将志
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0219029(US,A1)
【文献】国際公開第2013/084846(WO,A1)
【文献】特開2018-113369(JP,A)
【文献】特開2014-107453(JP,A)
【文献】特開2015-213165(JP,A)
【文献】特開2015-046576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1薄膜トランジスタと第2薄膜トランジスタとを有する電子回路であって、
前記第1薄膜トランジスタは、
少なくともインジウム及びガリウムを含む酸化物半導体からなる活性層と、
前記活性層上に部分的に形成された電極層と、
前記活性層及び前記電極層上に形成された酸化膜絶縁層と、
前記酸化膜絶縁層上に形成された窒化膜絶縁層と、を有し、
前記酸化膜絶縁層と前記窒化膜絶縁層の間に、平面視において、前記活性層と部分的に重畳する酸素拡散阻害膜を有
し、
前記第2薄膜トランジスタは、
前記活性層と離間して設けられた第2活性層と、
前記電極層と離間して設けられた第2電極層と、
前記酸化膜絶縁層と、
前記窒化膜絶縁層と、を有し、
前記第1薄膜トランジスタのドレインと、前記第2薄膜トランジスタのソース又はドレインのいずれか一方とが電気的に接続され、
前記第2薄膜トランジスタのソース又はドレインのいずれか一方は、前記酸素拡散阻害膜とは重畳しない、
電子回路。
【請求項2】
前記酸素拡散阻害膜は、電気的に浮遊した金属膜である、請求項1に記載の
電子回路。
【請求項3】
前記酸素拡散阻害膜は、さらに、前記電極層のドレイン電極と重畳する、請求項1又は
2に記載の
電子回路。
【請求項4】
前記活性層の下部にゲート絶縁層を介して配置される下部ゲート電極と、
前記下部ゲート電極と接続され、前記窒化膜絶縁層上に形成される上部ゲート電極と、
を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の
電子回路。
【請求項5】
前記
第1薄膜トランジスタのソースは第1電源電位が入力されるように構成され、前記第2薄膜トランジスタのソース又はドレインの他方は、前記第1電源電位よりも高い電位を有する第2電源電位が入力されるように構成される、請求項
1~4のいずれか1項に記載の電子回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、デプレッション型であるトランジスタと、エンハンスメント型であるトランジスタを有する片チャネル型インバータ回路が示されている。同文献において、エンハンスメント型であるトランジスタは、ゲート電極と、ゲート絶縁層と、第1の酸化物半導体層と、第2の酸化物半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、を有し、第1の酸化物半導体層におけるソース電極及びトレイン電極の間の領域上に設けられた還元防止層を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インジウム、ガリウム等の第13族元素等を含んだIGO、IGZO等の酸化物半導体を活性層とするTAOS-TFT(Transparent Amorphous Oxide Semiconductor-Thin Film Transistor)などのトランジスタでは、n型半導体のみ作成可能であるため、n型半導体とp型半導体を組み合わせて用いるいわゆるCMOS構成をとることができない。
【0005】
そのため、インバータ回路などの論理回路を酸化物半導体を用いて作成する場合には、n型半導体のみを用いて回路を構成しなければならないが、この際に、トランジスタ間の閾値電圧を違えることにより、高性能な回路を作成できる場合がある。
【0006】
特許文献1に開示されているインバータ回路はそのような回路の例となっている。しかしながら、同文献では、エンハンスメント型のトランジスタを得るために還元防止層を設ける特別なプロセスが必要である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化物半導体を活性層とするトランジスタの閾値電圧の変更を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
少なくともインジウム及びガリウムを含む酸化物半導体からなる活性層と、前記活性層上に部分的に形成された電極層と、前記活性層及び前記電極層上に形成された酸化膜絶縁層と、前記酸化膜絶縁層上に形成された窒化膜絶縁層と、を有し、前記酸化膜絶縁層と前記窒化膜絶縁層の間に、平面視において、前記活性層と部分的に重畳する酸素拡散阻害膜を有する、薄膜トランジスタ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るトランジスタの概略平面図である。
【
図4】酸素拡散阻害膜を作成しなかった場合のトランジスタのゲート電圧に対するドレイン電流値の測定値を示すグラフである。
【
図5】酸素拡散阻害膜を作成した場合のトランジスタのゲート電圧に対するドレイン電流値の測定値を示すグラフである。
【
図6】トランジスタの別の実施形態の断面図を示す図である。
【
図7】トランジスタのさらに別の実施形態の断面図を示す図である。
【
図8】本実施形態に係るトランジスタを用いた電子回路の作成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の実施形態に係るトランジスタ10の概略平面図、
図2はそのA-A断面を説明する図である。
【0011】
トランジスタ10は、基板1上に形成されたアンダーコート層2上にフォトリソグラフィの手法を用いて形成されたいわゆる薄膜トランジスタである。基板1は、ガラス基板、石英基板、樹脂基板等の無機又は有機基板であり、剛性を持つものであっても、可撓性を持つものであってもよい。また、アンダーコート層2は、基板1に含まれる不純物、又は基板1の裏面側から侵入する不純物に対する不純物に対するバリア層として機能する膜である。この場合、バリア性に優れた窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。
【0012】
アンダーコート層2上には、下部ゲート電極11が形成される。下部ゲート電極11としては、例えばアルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属、又はそれらを含む合金を使用することができる。トランジスタのゲート電極としては、前述の金属材料のみならず、ITO、IZO等の透明導電材料等を使用することもできる。当該層をトランジスタのゲート電極のみならず、周辺の配線を形成するための導電層として使用する場合は、低抵抗性が求められることから前述の金属材料を用いることがより好ましい。下部ゲート電極層11の膜厚は、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。
【0013】
下部ゲート電極11上に、ゲート絶縁層12が形成される。ゲート絶縁層112としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化シリコン、又はそれらを含む積層膜として形成することができる。ゲート絶縁層12の膜厚は、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。
【0014】
さらに、ゲート絶縁層12上であって、下部ゲート電極11に重畳する領域に、酸化物半導体層13が形成される。酸化物半導体層13は、トランジスタ10の活性層であり、第13族元素の内、少なくともインジウム及びガリウムを含む金属酸化物である。本実施形態では、酸化物半導体層13は、いわゆるIGZOとして知られるインジウム、ガリウム及び亜鉛の酸化物からなる透明半導体である。また、酸化物半導体層13として、その他の元素、例えば第14族元素に属するスズ、第4族元素に属するチタン、ジルコニウム等を含んでいても良い。酸化物半導体層113の膜厚は、5nm乃至100nm、好ましくは5nm乃至60nm程度で形成されると良い。
【0015】
酸化物半導体層13は、特にその結晶性についての限定は無く、単結晶、多結晶、微結晶のいずれの態様であっても良い。または、非晶質であっても良い。酸化物半導体層13の特性としては、酸素欠損等の結晶欠陥が少なく、水素含有濃度は低いことが好ましい。酸化物半導体層13に含まれる水素がドナーとして機能し、トランジスタの電流リークを誘発するためである。
【0016】
酸化物半導体層13及びゲート絶縁層12上に、酸化物半導体層13に一部分が接するように、電極層が形成される。電極層は、パターニングにより、ソース電極14及びドレイン電極15としての形状を有し、酸化物半導体層13上で互いに接することなく、所定の距離を離して配置される。そのため、酸化物半導体層13上には、電極層に覆われない部分が存在する。電極層は、下部ゲート電極11と同様、例えばアルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属、又はそれらを含む合金を使用することができる。また、電極層は単層であっても、複層であってもよい。ソース電極14は、酸化物半導体層13と領域Sで接し、電気的に接続され、ドレイン電極15は、酸化物半導体層13と領域Dで接し、電気的に接続される。また、電極層は酸化物半導体層13に接して形成されるため、酸化物半導体層13に接する面は、両者の接合部においてオーミックな抵抗特性が取れるような材料を選択することが好ましい。電極層の膜厚は、50nm乃至1μm、好ましくは300nm乃至700nm程度で形成されると良い。
【0017】
酸化物半導体層13及び電極層上には、酸化膜絶縁層16及び窒化膜絶縁層17がこの順に形成される。酸化膜絶縁層16及び窒化膜絶縁層17は、後述する上部ゲート電極19に対するゲート絶縁層として機能し、その合計膜厚は、ゲート絶縁層12の膜厚と同様に、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。本実施形態では、酸化膜絶縁層16は酸化シリコン、窒化膜絶縁層17は窒化シリコンで形成されている。
【0018】
そして、酸化膜絶縁層16と窒化膜絶縁層17との間に、酸素拡散阻害膜18が形成される。本実施形態では、酸素拡散阻害膜18は金属膜であり、例えばアルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属、又はそれらを含む合金を使用することができる。酸化膜絶縁層16の主たる機能は、トランジスタ10の製造工程における加熱により生じる、酸化物半導体層13からの酸素の上部への拡散を遮蔽することである。したがって、かかる酸素拡散を阻害しうる材質であれば、酸素拡散阻害膜18の材質は金属に限定されない。酸素拡散阻害膜18の膜厚は、金属を用いる場合、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。
【0019】
本実施形態では、酸素拡散阻害膜18は酸化物半導体層13のドレイン電極15側の一部分、及び、ドレイン電極15と重畳するように設けられている。また、酸素拡散阻害膜18が金属により形成される場合、酸素拡散阻害膜18はいずれの電極にも接続されることなく、電気的に浮遊した状態とされる。
【0020】
窒化膜絶縁層17上には、さらに酸化物半導体層13と重畳する位置に上部ゲート電極19が形成されても良い。上部ゲート電極19は、下部ゲート電極11と同様、例えばアルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属、又はそれらを含む合金を使用することができる。また、電極層は単層であっても、複層であってもよく、ITO、IZO等の透明導電材料等を使用してもよい。その膜厚は、下部ゲート電極11と同様、50nm乃至700nm、好ましくは100nm乃至500nm程度で形成されると良い。
【0021】
また、上部ゲート電極19が形成される場合は、下部ゲート電極11と上部ゲート電極19とは、接続部20により電気的に接続される。
【0022】
図3は、
図1の接続部20の断面を説明する図である。接続部20は、ゲート絶縁膜20及び酸化膜絶縁層16を貫いて下部ゲート電極11と接続する金属製の柱状構造21を有し、上部ゲート電極19が窒化膜絶縁層17を貫いて柱状構造21と接続されることにより構成されている。
【0023】
ここで、柱状構造21は、酸化膜絶縁層16の形成後に形成される金属層であり、酸素拡散阻害膜18と同層に位置している。そのため、パターニングにより、柱状構造21と、酸素拡散阻害膜18を同一プロセスにて製造することができ、酸素拡散阻害膜18を形成するための特別なプロセスを追加する必要がない。
【0024】
そして、酸素拡散阻害膜18は、電気的に浮遊しているため、その電位は一意には定まらない。これにより、下部ゲート電極11と上部ゲート電極19により印加される電位に影響を及ぼすことなく、トランジスタ10のスイッチングを行うことができる。
【0025】
このようにしてトランジスタ10が基板1上に形成される。そして、トランジスタ10の用途に応じ、上部ゲート電極19の形成時に、同時に電気回路を作成してもよい。あるいは、トランジスタ10上にさらに、平坦化層18等の絶縁層を設け、その上に形成した電気回路とトランジスタ10の各電極とをスルーホールを介して接続するようにしてもよい。このようにして、トランジスタ10を有する任意の電気回路が作成される。
【0026】
なお、本例で示したトランジスタ10は、酸化物半導体層13の上下にそれぞれ、上部ゲート電極19及び下部ゲート電極11を有する、いわゆるデュアルゲート型のトランジスタとして示したが、これに替えて、下部ゲート電極11及び上部ゲート電極19のいずれか片方のみを備える、いわゆるスタガ型、逆スタガ型のトランジスタとして形成してもよい。
【0027】
図4は、上述の説明において、酸素拡散阻害膜18を作成しなかった場合のトランジスタのゲート電圧に対するドレイン電流値の測定値を示すグラフである。同グラフ中には、ソース-ドレイン間電圧Vdsを0.1Vとした場合と、10Vとした場合の2つの測定結果が示されている。ゲート電圧がスイッチング閾値電圧を超え増加するに従い、ドレイン電流も増加する。
【0028】
同図より明らかなように、ゲート電圧が0の点で既にドレイン電流が生じている。つまり、同トランジスタはいわゆるデプレッション型となっていることがわかる。
【0029】
図5は、上述の説明通り、酸素拡散阻害膜18を作成した場合のトランジスタのゲート電圧に対するドレイン電流値の測定値を示すグラフである。
図4と同様に、同グラフ中には、ソース-ドレイン間電圧Vdsを0.1Vとした場合と、10Vとした場合の2つの測定結果が示されている。
【0030】
同グラフに示されているように、酸素拡散阻害膜18を作成した場合には、ゲート電圧が0の点ではドレイン電流は生じておらず、ゲート電圧が正電圧になって初めてドレイン電流が生じている。つまり、同トランジスタはいわゆるエンハンスメント型となっていることがわかる。ゲート電圧がスイッチング閾値電圧を超え増加するに従いドレイン電流が増加していく点についても
図4の例とほぼ同様であることから、酸素拡散阻害膜18を設けることにより、スイッチング閾値電圧を正方向にシフトさせることができることがわかる。
【0031】
このように、酸素拡散阻害膜18を設け、あるいは設けないこととし、又は、酸素拡散阻害膜18の大きさや酸化膜絶縁層16との重畳の程度を違えることにより、製造されるトランジスタのスイッチング閾値電圧を任意に正方向にシフトさせることができる。この閾値電圧の変更は、酸素拡散阻害膜18のパターニングの際の平面形状により容易に行うことができる。特に、酸素拡散阻害膜18を金属層とした場合には、層間の電気的接続部、例えば、
図3の接続部20の柱状構造21を形成する際に同時に作成することができるため、特別なプロセスの追加が必要なく、製造コスト及び時間の増大を避けることができる。
【0032】
酸素拡散阻害膜18を設けることにより、トランジスタのスイッチング閾値電圧が正方向にシフトする理由は必ずしも明らかではないが、出願人は、トランジスタの製造工程中の過熱により酸化物半導体層13中の酸素が上下層に拡散する際に、酸素の拡散が酸素拡散阻害膜18により部分的に妨げられ、酸化物半導体層13中の酸素量の低下が部分的に抑えられることに起因していると推測している。一方で、酸化物半導体層13の全面を酸素拡散阻害膜18により覆うと、スイッチング閾値電圧のばらつきが大きくなってしまうため、酸素拡散阻害膜18は、酸化物半導体層13と部分的に重畳するように設けるのが良い。
【0033】
図6は、トランジスタ10の別の実施形態の断面図を示す図である。断面の位置および、各部材の表示は
図2と同じであるから、同部材には同符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
同図に示すように、酸素拡散阻害膜18を、ドレイン電極15に重畳する位置でなく、酸化物半導体層13のおおむね中央部に部分的に重畳するものとして形成してもよい。この場合においても、トランジスタのスイッチング閾値電圧を任意に正方向にシフトさせることができる。
【0035】
図7は、トランジスタ10のさらに別の実施形態の断面図を示す図である。同図においても、断面の位置および、各部材の表示は
図2と同じであるから、同部材には同符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0036】
同図に示すように、酸素拡散阻害膜18を、ソース電極14に重畳する位置において、酸化物半導体層13と部分的に重畳するものとして形成してもよい。この場合においても、トランジスタのスイッチング閾値電圧を任意に正方向にシフトさせることができる。
【0037】
これ以外にも、酸素拡散阻害膜18の平面形状を、部分的に透孔を有する形状や、複数のスリットを有する櫛歯形状とするなど、種々の形状としてよい。
【0038】
図8は、本実施形態に係るトランジスタ10を用いた電子回路の作成例を示す図である。同図に示す電子回路は、
図9の回路図に示される、トランジスタ10及びトランジスタ30を用いたインバータ回路である。同回路では、酸化物半導体を用いたトランジスタ10及び30が用いられている。トランジスタ10は上述した本実施形態に係るトランジスタであり、そのスイッチング閾値電圧は正値となっている。トランジスタ30はデプレッション型であり、そのスイッチング閾値電圧は負値である。
【0039】
同回路において、INにVddを入力すると、トランジスタ10がオンとなり、トランジスタ10のソース-ドレイン間抵抗が大きく減少する。一方、トランジスタ30のソース-ゲート間電圧は0であり、トランジスタ30はデプレッション型であるため、ソース-ドレイン間の電流をやや許容する状態となっている。この時、トランジスタ10のソース-ドレイン間抵抗と、トランジスタ30のソース-ドレイン間抵抗を比較すると、トランジスタ10のソース-ドレイン間抵抗の値が低くなるため、OUTにはVssが出力される。
【0040】
一方、同回路において、INにVssを入力すると、トランジスタ10はオフとなる。この時も、トランジスタ30のソース-ゲート間電圧は0であり、ソース-ドレイン間の電流をやや許容する状態となっているから、トランジスタ10のソース-ドレイン間抵抗と、トランジスタ30のソース-ドレイン間抵抗を比較すると、トランジスタ30のソース-ドレイン間抵抗の値が低くなるため、OUTにはVddが出力される。このようにして、
図8に示す電子回路は、インバータ回路として機能する。
【0041】
図8は、基板上に、トランジスタ10及びトランジスタ30が同時に形成された際の平面図を示している。すなわち、トランジスタ10とトランジスタ30とは、同時プロセスにて形成されている。そのため、トランジスタ10とトランジスタ30とで共通する部材には同符号を付し、併せて説明することとする。
【0042】
トランジスタ10の下部ゲート電極11及び上部ゲート電極19は、入力INと接続される。また、トランジスタ10のソース電極14は、マイナス電源Vssに接続される。トランジスタ10のドレイン電極15は、同層にあるトランジスタ30のソース電極14と連続するパターンで形成される。さらに、トランジスタ10のドレイン電極15及びトランジスタ30のソース電極14は、出力OUTに接続される。トランジスタ30の下部ゲート電極11及び上部ゲート電極19は、接続電極31を介して、トランジスタ10のドレイン電極15及びトランジスタ30のソース電極14と接続される。
【0043】
トランジスタ10及びトランジスタ30のいずれにおいても、酸化物半導体層13とソース電極14及びドレイン電極15が部分的に接触するよう配置される。そして、本例では、トランジスタ10についてのみ、酸化物半導体層13のドレイン電極側の一部分に重畳するように、電気的に浮遊している酸素拡散阻害膜18が形成されている。
【0044】
このように回路を形成することにより、トランジスタ10のスイッチング閾値電圧のみを正方向にシフトさせ、インバータ回路を作成することができる。また、酸素拡散阻害膜18は接続部20の形成時に同時に形成されるが、この際に、接続電極31も同時に形成するようにすることで、回路作成のために特別なプロセスを追加する必要がない。
【0045】
以上示したインバータ回路は、本実施懈怠に係るトランジスタ10を使用した電子回路の一例である。スイッチング閾値電圧のみを正方向に容易にシフトできる特性を利用して、他の電子回路を作成してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 基板、2 アンダーコート層、10 トランジスタ、11 下部ゲート電極、12 ゲート絶縁層、13 酸化物半導体層、14 ソース電極、15 ドレイン電極、16 酸化膜絶縁層、17 窒化膜絶縁層、18 酸素拡散阻害膜、19 上部ゲート電極、20 接続部、21 柱状構造、30 トランジスタ、31 接続電極。