(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】鉄心の製造方法、鉄心
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
H02K15/02 F
(21)【出願番号】P 2018198403
(22)【出願日】2018-10-22
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 剛之
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125998(JP,A)
【文献】実開平01-118878(JP,U)
【文献】特開2003-136283(JP,A)
【文献】特開2002-028780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の鉄心片を積層して環状に形成される鉄心の製造方法であって、
前記鉄心片を積層する工程と、
積層した前記鉄心片を、前記鉄心片の外周部に径方向内側に窪んで形成されている複数の溶接溝に対応する位置に非導電性であって耐熱衝撃性が前記鉄心片よりも高い入子を
収容する収容部が設けられ
ていて、当該収容部に収容された前記入子によって前記溶接溝の積層方向の端部が覆われる抑え蓋を用いて
、積層方向から抑えて成形する工程と、
成形した前記鉄心片を溶接する工程と、
を含むことを特徴とする鉄心の製造方法。
【請求項2】
前記鉄心片を溶接する工程では、磁性部材を外部から供給し、前記磁性部材を炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるシールドガスで覆いつつ溶融させることで、前記溶接溝に前記鉄心片以外の磁性部材を含む溶接ビードを形成することを特徴とする請求項1記載の鉄心の製造方法。
【請求項3】
前記入子は、前記溶接溝の底部よりも径方向外側に突出する大きさに形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の鉄心の製造方法。
【請求項4】
前記入子は、立方晶窒化ホウ
素、窒化珪素セラミック、アルミナ、あるいはタングステン系合金で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の鉄心の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の鉄心の製造方法で製造されていることを特徴とする鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、薄板状の鉄心片を積層して形成される鉄心の製造方法、および、その製造方法を用いて製造した鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄板状の鉄心片を積層して形成した鉄心が知られている。このような鉄心は、例えば回転電機の固定子鉄心に用いられており、例えば特許文献1に開示されているように、その外周面には積層した鉄心片を溶接により固定するための溶接溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、従来では、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行うことが一般的で有り、その場合には、鉄心の上端および下端の鉄心片を確実に溶接するために、溶接の開始位置や終了位置を溶接溝の外側に設定し、その開始位置や終了位置に導電性の例えば銅部材の入子を配置していた。
【0005】
しかしながら、鉄損を抑制するためにMAG(Metal Active Gas)溶接またはMIG(Metal Inert Gas)溶接を行う場合、従来の導電性の入子を用いると、溶接の開始位置や終了位置で異常放電が発生し、供給される磁性部材が飛び散って多量のスパッタを発生させることになる。このとき、積層された鉄心の上端や下端よりも溶接ビードが突出すると、後工程でその飛び出した部分を除去する作業が必要になる。
そこで、スパッタの発生を抑制することができるとともに、溶接ビードが突出することを防止できる鉄心の製造方法、鉄心を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の鉄心の製造方法は、薄板状の鉄心片を積層して環状に形成される鉄心の製造方法であって、鉄心片を積層する工程と、積層した鉄心片を、鉄心片の外周部に径方向内側に窪んで形成されている複数の溶接溝に対応する位置に非導電性であって耐熱衝撃性が鉄心片よりも高い入子が設けられている抑え蓋を用いて上下方向から抑えて成形する工程と、積層した前記鉄心片を溶接する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について
図1から
図7を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態では、鉄心として、例えば車載用のモータに利用される固定子鉄心1を想定している。この固定子鉄心1は、周知のように、例えば電磁鋼板をプレスにより環状に打ち抜くこと等により形成されている薄板状の鉄心片2を積層して形成されている。
【0009】
この固定子鉄心1は、固定子鉄心1は、その内周側に図示しない巻き線を収容するスロット3と、図示しない回転子を収容するための中空部4とが形成された概ね環状に形成される。また、固定子鉄心1の外周部には積層方向に延びる複数例えば等間隔に6つの溶接溝5が形成されており、その溶接溝5には、各鉄心片2を物理的に接続する溶接ビード6が形成されている。ただし、溶接溝5の数や配置は一例であり、これに限定されるものではない。
溶接溝5は、
図2に示すように、鉄心片2の外周部に径方向内側に窪んで形成されているとともに、その中央に凸部5aを有するω字状に形成されている。
次に、上記した固定子鉄心1の製造方法について説明する。なお、仮想線(CL)は、固定子鉄心1の外縁に沿ったものである。
【0010】
固定子鉄心1は、鉄心片2を積層する工程と、積層した鉄心片2を上下方向から抑えて成形する工程と、積層した鉄心片2を溶接する工程とを含んでいる。以下、積層する工程を積層工程、成形する工程を成形工程、溶接する工程を溶接工程と称する。
【0011】
積層工程では、打ち抜かれた鉄心片2を積層する。このとき、固定子鉄心1は、電磁鋼板の厚みのばらつきを吸収するために、鉄心片2を複数例えば3つの鉄心ブロックとしてまず積層し、各ブロックを周方向に例えば120度回転した状態で積層されている。また、固定子鉄心1は、その外周面に設けられている溶接溝5が互いに繋がるように積層されている。
【0012】
成形工程では、
図3に示すように、積層した鉄心片2を上下方向から抑え蓋7により挟み込むとともに、打ち抜き時に生じたバリをつぶすためのバリ取り加圧が行われ、その後、鉄心片2の積層高さを規定の高さにするための成形加圧が行われる。このとき、抑え蓋7には、溶接溝5の位置に対応して、入子8が設けられている。この入子8は、詳細については後述するが、非導電性材料により形成されており、抑え蓋7に形成されている収容部7aに収容されている。
【0013】
溶接工程では、
図4に示すように、溶接トーチ9を用いて、溶接溝5の凸部5aに、MAG(Metal Active Gas)溶接またはMIG(Metal Inert Gas)溶接により溶接ビード6を形成することで、積層した鉄心片2を互いに固定する。より詳細には、中空状の本体部9aから鉄心片2以外の磁性部材10を供給しつつ、シールドガス(G)で磁性部材10を覆いながら溶接ビード6を形成する。この場合、磁性部材10が溶融することから、従来行われていたTIG(Tungsten Inert Gas)溶接に比べて、鉄心片2の溶融量を大きく削減することが可能となる。
【0014】
ところで、鉄心片2を溶接する際には、溶接ビード6が固定子鉄心1の上下や溶接溝5よりも径方向外側にはみ出す可能性がある。特に、従来行われていたTIG溶接の場合には、
図5に端面はみ出しとして示すように、固定子鉄心1の端面からはみ出す可能性が高くなる。
【0015】
これは、従来行われていたTIG溶接の場合、鉄心片2を溶融させることから、従来型入子80が導電性材料で形成されていること、および、従来型入子80は端部80aが溶接溝5に合わせた形状で形成されていて溶接溝5の表面と径方向において一致していることに起因するものである。
【0016】
そして、固定子鉄心1の端面は、固定子鉄心1をフレーム等に固定する部位であることから、溶接ビード6がはみ出してしまった場合には、はみ出した部分を切削したり研磨したりして除去する必要がある。ただし、固定子鉄心1は薄い鉄心片2を積層していることから、端面からはみ出した溶接ビード6を除去しようとする際には鉄心片2に直接的に接触している部位に対して作業を行うことになる。その場合、鉄心片2がめくれるおそれがあることから、作業を慎重且つ丁寧に行う必要があるとともに、溶接溝5の数だけ作業を行う必要がある。
【0017】
一方、溶接ビード6は、
図5に側面はみ出しその1、その2として示すように、溶接溝5よりも径方向外側にはみ出す可能性もある。ただし、固定子鉄心1の側面は上記したような固定用の面ではないこと、また、一般的な用途においては固定子鉄心1の側面については周辺の構造物との間にある程度の余裕がある場合が多いことから、側面へのはみ出しは、そのままでも許容されることが多いと想定される。
【0018】
このとき、仮に側面へのはみ出しが許容されない場合であっても、領域(R)に含まれている部位は鉄心片2への直接的な接触が無い部位であるため、鉄心片2がめくれたりするおそれが低減される。
【0019】
つまり、側面へのはみ出しは、端面へのはみ出しに比べると、はみ出した部位を除去する後工程を省略あるいは大きく簡素化することができると考えられる。換言すると、固定子鉄心1を溶接する場合には、端面への溶接ビード6のはみ出しを防止することが、作業性や製造性を改善する大きなポイントとなっている。
【0020】
さて、上記したように固定子鉄心1の端面に溶接ビード6がはみ出さないようにすることも重要であるが、MAG溶接またはMIG溶接を行う場合、もう一つ重要なポイントがある。上記したようにTIG溶接では入子8を導電性とする必要があるものの、MAG溶接やMIG溶接の場合には必ずしも伝導性の従来型入子80を用いる必要は無い。これにより、異常放電を抑制でき、溶接ビード6を安定して形成することが可能になる。
【0021】
その一方で、溶接の開始位置では溶接ビード6が幅広になって接触面積が増えるとともに、急速に加熱されることになるため入子8が破損するおそれがある。例えば銅部材のような導電性のものを採用すると、ワイヤ状に供給する磁性部材10が飛び散って多量のスパッタを発生させることになり、スパッタを除去する作業も必要となってしまう。
【0022】
そこで、本実施形態では、入子8を、非導電性であって、耐熱衝撃性が高い材料で形成している。この場合、入子8の材料としては、立方晶窒化ホウ素(以下、CBN(Cubic Boron Nitride)と称する)、窒化珪素セラミック、アルミナ、あるいは高密度タングステン合金や銅-タングステン合金のようなタングステン系合金など、鉄心片2や磁性部材10あるいは溶接ビード6よりも融点が高い材料を採用することができる。このうち、CBNは、一般的な金属加工に用いられる切削チップとしては窒化珪素セラミックよりも硬く、且つ、1300度付近まで熱的耐性を有しているため、熱衝撃性に優れている。また、CBNは、一般的な金属加工用の切削チップとして量産されている。
【0023】
そのため、本実施形態では、切削チップとして製造されているCBNを、入子8として採用している。これは、切削チップはある意味では量産品であるため入手が比較的容易であるとともにコスト的にも専用形状にする場合に比べて安価になること、ならびに、MAG溶接やMIG溶接の場合には、TIG溶接とは異なり導電性や溶接溝5に沿った形状とする必要が無いこと、つまりは、ある程度の大きさを有する平面であればよいことから、切削チップを採用することが可能になるためである。
【0024】
具体的には、入子8は、
図5に示すように、少なくとも1つの平面8aを有し、幅(W)、高さ(H)、奥行き(D)の概ね直方体状に形成されている。そして、入子8は、
図7に示すように、第1面が固定子鉄心1の上端面あるいは下端面に接触する態様で、配置される。なお、説明の簡略化のため、
図7には抑え蓋7を図示していない。
【0025】
このとき、平面8aの幅(W)は、
図7に平面視(
図3のA-A線での断面視)として示すように、少なくとも溶接溝5の凸部5aの幅、つまりは、溶接ビード6が形成される部位の幅(L1)よりも大きく設定されている。この場合、平面8aの幅(W)は、溶接溝5の幅(L2)よりも大きくてもよい。
【0026】
また、平面8aの高さ(H)は、
図7に側面視(
図3のB-B線での断面視)として示すように、本実施形態では溶接溝5の深さ(L3)よりも大きく設定されている。この場合、厳密に言えば、平面8aの端部が溶接ビード6よりも外側に位置していればよいが、溶接の開始位置では溶接ビード6が大きくなりがちであること、また、上記したように端面へのはみ出しを確実に防止するために、溶接溝5の深さ(L3)よりも大きく設定している。
【0027】
これにより、形成される溶接ビード6は、固定子鉄心1の端面へのはみ出しが防止されるとともに、スパッタの発生を抑制することができる。また、熱衝撃性の高いCBNを用いていることにより、入子8が破損する虞も低減される。
【0028】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
実施形態の鉄心の製造方法は、鉄心片2を積層する工程と、積層した鉄心片2を、鉄心片2の外周部に径方向内側に窪んで形成されている複数の溶接溝5に対応する位置に非導電性であって耐熱衝撃性が鉄心片2よりも高い入子8が設けられている抑え蓋7を用いて上下方向から抑えて成形する工程と、積層した鉄心片2を溶接する工程と、を含む。
【0029】
このような非導電性の入子8を採用することにより、溶接の開始位置や終了位置における異常放電の発生を抑制することができ、磁性部材10等の溶融した部材が飛び散ってスパッタが発生することを抑制することができる。また、溶接ビード6が鉄心片の世紀双方向の上端や下端から突出することを防止できる。
【0030】
また、実施形態の鉄心の製造方法は、鉄心片2を溶接する工程では、磁性部材10を外部から供給し、磁性部材10を炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるシールドガスで覆いつつ溶融させることで、溶接溝5に鉄心片以外の磁性部材10を含む溶接ビード6を形成するMAG溶接またはMIG溶接を採用している。
【0031】
これにより、磁性部材10が溶融することから鉄心片2の溶融量が相対的に少なくなり、鉄心片2への入熱量が少なくなって熱変形による鉄心の変形を抑制することができ、端面の波打ち変形による直角度の狂いや回転子との間のギャップが不均衡になる可能性、あるいは熱による影響による鉄損の悪化等を抑制することができる。
【0032】
また、実施形態の鉄心の製造方法は、入子8は、溶接溝5の底部よりも径方向外側に突出する大きさに形成されている。これにより、溶接ビード6が固定子鉄心1の端面にはみ出してしまうことを確実に抑制することができる。
【0033】
また、実施形態の鉄心の製造方法は、入子8は、立方晶窒化ホウ素(以下、CBN(Cubic Boron Nitride)と称する)、窒化珪素セラミック、アルミナ、あるいは高密度タングステン合金や銅-タングステン合金のようなタングステン系合金で形成されている。これにより、入子8が破損するおそれを大きく低減することができる。また、入子8をタングステン系合金で形成すれば、熱衝撃性を確保しつつ高い耐摩耗性も得ることができるため、入子8の長寿命化を図ることができる。
また、実施形態のように切削チップとして量産されているものを入子8として用いることにより、入手性の向上ならびにコストの低減を期待できる。
また、上記した製造方法で製造した固定子鉄心1は、溶接後に端面へのはみ出しを除去する作業が不要となり、作業性や生産性を大きく改善することができる。
【0034】
実施形態では鉄心として固定子鉄心1を例示したが、実施形態で説明した鉄心の製造方法は、溶接が必要となる鉄心であれば固定子以外の鉄心にも適用することができる。
【0035】
実施形態では溶接溝5に凸部5aを設けた構成を例示したが、MAG溶接あるいはMIG溶接を行う場合には、凸部5aを形成せず、底部が平坦になっている溶接溝5を用いることもできる。このような形状の溶接溝5とすることにより、溶接溝5の形状が簡素化されるため、打ち抜き時に生じる応力が残留して効率が低下することを抑制できるとともに、打ち抜き用の金型に欠け等の不具合が生じるおそれを低減することができる。
【0036】
実施形態では切削チップを入子8として用いているが、入子8は、抑え蓋7の収容部7aに直接的に収容することもできるが、入子8を固定的あるいは位置調整可能に取り付けるスペーサ治具を用い、入子8を取り付けたスペーサ治具を収容部7aに終了する較正とすることもできる。このような構成とすることにより、溶接条件によって必要とされる入子8の大きさが変化するような場合であっても、収容部7aを変更することなく、つまりは、抑え蓋7を加工したり別の形状のものを用意したりすることなく、所望の大きさの入子8を使用することができる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
図面中、1は固定子鉄心、2は鉄心片、5は溶接溝、6は溶接ビード、7は抑え蓋、8は入子、10は磁性部材を示す。