IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/344 20060101AFI20221006BHJP
   F04C 15/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F04C2/344 331J
F04C2/344 331Z
F04C15/06 A
F04C15/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018206815
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020070780
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中川 智行
(72)【発明者】
【氏名】杉原 雅道
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤実
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280263(JP,A)
【文献】特開2014-163307(JP,A)
【文献】特開2006-090261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に形成される複数のスリットを有し、回転駆動されるロータと、
前記スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、
前記ベーンの先端部が摺接するカム面を有するカムリングと、
前記ロータ及び前記ベーンの側面が摺接する摺接面を有するサイド部材と、
前記ロータと前記カムリングと隣り合う前記ベーンとにより画成されるポンプ室と、
前記摺接面に開口し、前記ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、
前記摺接面に開口し、前記ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、
前記サイド部材に設けられ、前記吐出ポートの端部から前記ロータの正回転方向とは逆の方向に延びる溝状のノッチと、
前記スリット内において前記ベーンの基端部によって画成される背圧室と、を備え、
前記ノッチは、
前記吐出ポートの前記端部の径方向内側に位置する内側ノッチと、
前記吐出ポートの前記端部の径方向外側に位置する外側ノッチと、を有し、
前記サイド部材は、前記内側ノッチと前記外側ノッチとの間において前記吐出ポートの前記端部から連続して設けられ、前記ロータが逆回転方向に回転した場合に、前記ベーンの先端部を前記サイド部材の前記摺接面に向かって押し上げて案内する先端側案内面を有し、
前記サイド部材は、
前記摺接面に開口し、前記背圧室と連通する背圧ポートと、
前記背圧ポートにおける前記ロータの正回転に伴って前記背圧室との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、前記ロータが逆回転方向に回転した場合に、前記ベーンの基端部を前記サイド部材の前記摺接面に向かって押し上げて案内する基端側案内面と、を有する
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のベーンポンプであって、
前記先端側案内面は、前記ロータの逆回転方向に向かうにしたがって前記摺接面からの深さが小さくなるテーパ状に形成される
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載のベーンポンプであって、
前記先端側案内面は、直線状に傾斜する
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項4】
放射状に形成される複数のスリットを有し、回転駆動されるロータと、
前記スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、
前記ベーンの先端部が摺接するカム面を有するカムリングと、
前記ロータ及び前記ベーンの側面が摺接する摺接面を有するサイド部材と、
前記ロータと前記カムリングと隣り合う前記ベーンとにより画成されるポンプ室と、
前記摺接面に開口し、前記ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、
前記摺接面に開口し、前記ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、
前記スリット内において前記ベーンの基端部によって画成される背圧室と、を備え、
前記サイド部材は、
前記摺接面に開口し、前記背圧室と連通する背圧ポートと、
前記背圧ポートにおける前記ロータの正回転に伴って前記背圧室との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、前記ロータが逆回転方向に回転した場合に、前記ベーンの基端部を前記サイド部材の前記摺接面に向かって押し上げて案内する基端側案内面と、を有する
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のベーンポンプであって、
前記基端側案内面は、前記ロータの逆回転方向に向かうにしたがって前記摺接面からの深さが小さくなるテーパ状に形成される
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項6】
請求項に記載のベーンポンプであって、
前記基端側案内面は、直線状に傾斜する
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のベーンポンプであって、
前記背圧ポートは、
本体部と、
前記本体部の端部から周方向に延在するように設けられ、前記本体部よりも径方向の幅が狭い幅狭部と、を有し、
前記基端側案内面は、前記本体部の端部から周方向に延在するように、かつ前記幅狭部に隣接して設けられる
ことを特徴とするベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のスリットが放射状に形成されたロータと、各スリットに摺動自在に収装されるベーンと、ベーンの先端部が摺接するカム面を有するカムリングと、ロータの側面が摺接する摺接面を有するサイド部材と、を備えたベーンポンプが記載されている。特許文献1に記載のベーンポンプでは、サイド部材の摺接面に開口する開口部としての吐出ポート及び背圧ポートが形成されている。
【0003】
吐出ポートには、ロータとカムリングと隣り合うベーンとの間に画成されるポンプ室から吐出される作動流体が導かれる。吐出ポートに導かれた作動流体の一部は、背圧ポートを通じて、スリットの基端側に設けられる背圧室に導かれる。ベーンは、背圧室の圧力によって、スリットから突出する方向に押圧され、カム面に摺接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-163307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベーンポンプは、その使用形態によっては逆回転する場合がある。ベーンポンプが逆回転しているときには、吐出ポート及び背圧ポートに十分に作動流体が供給されないため、背圧室の圧力によってベーンが十分に押圧されない状態となる。
【0006】
このため、ベーンポンプが逆回転しているときには、ベーンがカム面から離間する。ベーンとサイド部材との間には僅かな隙間が形成されているので、ベーンがカム面から離間すると、ベーンはサイド部材に向かって倒れるように傾いた状態となり、ベーンの先端部が吐出ポート(開口部)に落ち込んだり、ベーンの基端部が背圧ポート(開口部)に落ち込んだりするおそれがある。ベーンの端部がサイド部材の摺接面に開口する開口部に落ち込むと、ロータの逆回転に伴ってベーンの端部が開口部内を移動し、ベーンの端部が開口部の端部に衝突することに起因してサイド部材が損傷するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、サイド部材の損傷を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベーンポンプであって、放射状に形成される複数のスリットを有し、回転駆動されるロータと、スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、ベーンの先端部が摺接するカム面を有するカムリングと、ロータ及びベーンの側面が摺接する摺接面を有するサイド部材と、ロータとカムリングと隣り合うベーンとにより画成されるポンプ室と、摺接面に開口し、ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、摺接面に開口し、ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、サイド部材に設けられ、吐出ポートの端部からロータの正回転方向とは逆の方向に延びる溝状のノッチと、スリット内においてベーンの基端部によって画成される背圧室と、を備え、ノッチは、吐出ポートの端部の径方向内側に位置する内側ノッチと、吐出ポートの端部の径方向外側に位置する外側ノッチと、を有し、サイド部材は、内側ノッチと外側ノッチとの間において吐出ポートの端部から連続して設けられ、ロータが逆回転方向に回転した場合に、ベーンの先端部をサイド部材の摺接面に向かって押し上げて案内する先端側案内面を有し、サイド部材は、摺接面に開口し、背圧室と連通する背圧ポートと、背圧ポートにおけるロータの正回転に伴って背圧室との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、ロータが逆回転方向に回転した場合に、ベーンの基端部をサイド部材の摺接面に向かって押し上げて案内する基端側案内面と、を有することを特徴とする。
【0009】
この発明では、ベーンポンプが逆回転し、ベーンの先端部が吐出ポートに落ち込んだ場合に、ベーンの先端部を先端側案内面に沿ってサイド部材の摺接面に案内することができるため、ベーンの先端部とサイド部材との衝突に起因するサイド部材の損傷を防止することができる。また、この発明では、ベーンポンプが逆回転し、ベーンの基端部が背圧ポートに落ち込んだ場合に、ベーンの基端部を基端側案内面に沿ってサイド部材の摺接面に案内することができるため、ベーンの基端部とサイド部材との衝突に起因するサイド部材の損傷を防止することができる。
【0010】
本発明は、先端側案内面が、ロータの逆回転方向に向かうにしたがって摺接面からの深さが小さくなるテーパ状に形成されることを特徴とする。
【0011】
この発明では、ロータの逆回転に伴ってベーンの傾きがスムーズに矯正される。
【0012】
本発明は、先端側案内面が、直線状に傾斜することを特徴とする。
【0013】
この発明では、先端側案内面に沿って移動するベーンの先端部の摺動抵抗を一定にすることができ、安定してベーンの先端部をサイド部材の摺接面に案内することができる。
【0015】
本発明は、ベーンポンプであって、放射状に形成される複数のスリットを有し、回転駆動されるロータと、スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、ベーンの先端部が摺接するカム面を有するカムリングと、ロータ及びベーンの側面が摺接する摺接面を有するサイド部材と、ロータとカムリングと隣り合うベーンとにより画成されるポンプ室と、摺接面に開口し、ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、摺接面に開口し、ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、スリット内においてベーンの基端部によって画成される背圧室と、を備え、サイド部材は、摺接面に開口し、背圧室と連通する背圧ポートと、背圧ポートにおけるロータの正回転に伴って背圧室との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、ロータが逆回転方向に回転した場合に、ベーンの基端部をサイド部材の摺接面に向かって押し上げて案内する基端側案内面と、を有することを特徴とする。
【0016】
この発明では、ベーンポンプが逆回転し、ベーンの基端部が背圧ポートに落ち込んだ場合に、ベーンの基端部を基端側案内面に沿ってサイド部材の摺接面に案内することができるため、ベーンの基端部とサイド部材との衝突に起因するサイド部材の損傷を防止することができる。
【0017】
本発明は、基端側案内面が、ロータの逆回転方向に向かうにしたがって摺接面からの深さが小さくなるテーパ状に形成されることを特徴とする。
【0018】
この発明では、ロータの逆回転に伴ってベーンの傾きがスムーズに矯正される。
【0019】
本発明は、基端側案内面が、直線状に傾斜することを特徴とする。
【0020】
この発明では、基端側案内面に沿って移動するベーンの基端部の摺動抵抗を一定にすることができ、安定してベーンの基端部をサイド部材の摺接面に案内することができる。
【0021】
本発明は、背圧ポートが、本体部と、本体部の端部から周方向に延在するように設けられ、本体部よりも径方向の幅が狭い幅狭部と、を有し、基端側案内面は、本体部の端部から周方向に延在するように、かつ幅狭部に隣接して設けられることを特徴とする。
【0022】
この発明では、幅狭部によって、背圧室と連通する周方向の範囲を精度よく設定できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、サイド部材の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係るベーンポンプの断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るベーンポンプのロータ、カムリング、及びカバー側サイドプレートの側面図である。
図3】本発明の実施形態に係るベーンポンプのカバー側サイドプレートの側面図である。
図4】本発明の実施形態に係るベーンポンプのカバー側サイドプレートの斜視図である。
図5図3のV-V線に沿う断面図である。
図6図3のVI-VI線に沿う断面図である。
図7A】ベーンの先端部が、先端側案内面に接触する様子を示す図である。
図7B】ベーンの先端部が、先端側案内面に沿って移動する様子を示す図である。
図8A】本実施形態の比較例に係るベーンポンプの吐出ポート、ノッチ及びカムリングを示す図。
図8B】本実施形態に係るベーンポンプの吐出ポート、ノッチ及びカムリングを示す図。
図9図3のIX-IX線に沿う断面図である。
図10図3のX-X線に沿う断面図である。
図11A】ベーンの基端部が、基端側案内面に接触する様子を示す図である。
図11B】ベーンの基端部が、基端側案内面に沿って移動する様子を示す図である。
図12A】曲線状に形成された先端側案内面の一例を示す断面図である。
図12B】曲線状に形成された先端側案内面の別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るベーンポンプ100について説明する。
【0026】
ベーンポンプ100は、車両や産業機械に搭載される流体圧機器、例えば、トランスミッション、パワーステアリング装置等の流体圧供給源として用いられる。本実施形態では、作動油を作動流体とする固定容量型のベーンポンプ100について説明する。なお、ベーンポンプ100は、可変容量型のベーンポンプであってもよい。
【0027】
図1はベーンポンプ100の断面図であり、図2はロータ2、カムリング4、及びカバー側サイドプレート40の側面図である。図1及び図2に示すように、ベーンポンプ100は、ポンプ収容凹部10Aが形成されたポンプボディ10と、ポンプ収容凹部10Aの開口部を覆い、ポンプボディ10に固定されるポンプカバー50と、ポンプボディ10及びポンプカバー50に軸受19a,19bを介して回転自在に支持される駆動軸1と、駆動軸1に連結されポンプ収容凹部10Aに収容されるロータ2と、ロータ2のスリット2aに摺動自在に収装されるベーン3と、ロータ2及びベーン3を収容しベーン3の先端部3aが摺接するカム面(内周面)4aを有するカムリング4と、を備える。
【0028】
ベーンポンプ100は、例えばエンジン等の駆動装置(不図示)によって駆動され、駆動軸1に連結されたロータ2が、図2の矢印で示すように時計回り(正回転)に回転駆動されることにより流体圧を発生させる。
【0029】
ロータ2には、複数のスリット2aが放射状に形成される。スリット2aは、ロータ2の外周に開口する。
【0030】
ベーン3は、各スリット2aに摺動自在に挿入され、スリット2aから突出する方向の端部である先端部3aと、先端部3aとは反対側の端部である基端部3bと、を有する。スリット2aの底部側には、スリット2a内において、ベーン3の基端部3bによって背圧室9が画成される。背圧室9には、後述する高圧室14から作動流体としての作動油が導かれる。ベーン3は、背圧室9の圧力によってスリット2aから突出する方向に押圧される。
【0031】
カムリング4は、略長円形状をした内周面であるカム面4aを有する環状の部材である。ベーン3が背圧室9の圧力によってスリット2aから突出する方向に押圧されると、ベーン3の先端部3aがカムリング4のカム面4aに摺接する。これにより、カムリング4の内部には、ロータ2の外周面と、カムリング4のカム面4aと、隣り合うベーン3と、によってポンプ室6が画成される。
【0032】
カムリング4のカム面4aは略長円形状であるので、ロータ2の回転に伴ってカム面4aを摺接する各ベーン3によって区画されるポンプ室6の容積は、拡張と収縮とを繰り返す。ポンプ室6が拡張する吸込領域では作動油が吸入され、ポンプ室6が収縮する吐出領域では作動油が吐出される。
【0033】
図2に示すように、ベーンポンプ100は、ベーン3が1回目の往復動をする第1吸込領域71、第1吐出領域81と、ベーン3が2回目の往復動をする第2吸込領域72、第2吐出領域82と、を有する。ポンプ室6は、ロータ2が1回転する間に、第1吸込領域71にて拡張し、第1吐出領域81にて収縮し、第2吸込領域72にて拡張し、第2吐出領域82にて収縮する。ベーンポンプ100は、2つの吸込領域71,72及び2つの吐出領域81,82を有するが、これに限らず、1つまたは3つ以上の吸込領域及び1つまたは3つ以上の吐出領域を有する構成としてもよい。
【0034】
図1に示すように、ベーンポンプ100は、ロータ2の軸方向一端側に設けられ、ロータ2及びカムリング4の一方の側面に当接する第1サイド部材としてのボディ側サイドプレート30と、ロータ2の軸方向他端側に設けられ、ロータ2及びカムリング4の他方の側面に当接する第2サイド部材としてのカバー側サイドプレート40と、をさらに備える。
【0035】
ボディ側サイドプレート30は、ポンプ収容凹部10Aの底面とロータ2との間に設けられる。ボディ側サイドプレート30には、ロータ2及びベーン3の軸方向一端面が摺接するとともにカムリング4の軸方向一端面が当接する。つまり、ボディ側サイドプレート30の端面は、ロータ2及びベーン3の側面が摺接する摺接面30aとして機能する。カバー側サイドプレート40は、ロータ2とポンプカバー50との間に設けられる。カバー側サイドプレート40には、ロータ2及びベーン3の軸方向他端面が摺接するとともにカムリング4の軸方向他端面が当接する。つまり、カバー側サイドプレート40の端面は、ロータ2及びベーン3の側面が摺接する摺接面40aとして機能する。このようにして、ボディ側サイドプレート30とカバー側サイドプレート40は、ロータ2及びカムリング4の両側面に対向する状態で配置される。
【0036】
ボディ側サイドプレート30、ロータ2、カムリング4、及びカバー側サイドプレート40は、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aに収容される。この状態で、ポンプボディ10にポンプカバー50が取り付けられることで、ポンプ収容凹部10Aは封止される。
【0037】
ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aの底面側には、ポンプボディ10とボディ側サイドプレート30によって環状の高圧室14が画成される。高圧室14は、吐出通路62を介してベーンポンプ100の外部の流体圧機器70に連通する。
【0038】
ポンプカバー50には吸込圧室51が形成され、ポンプ収容凹部10Aの内周面には吸込圧室51と連通する迂回通路13が形成される。迂回通路13は、カムリング4を挟んで対向する位置に二か所設けられる。吸込圧室51は、吸込通路61を介してタンク60に接続される。
【0039】
図3は、カバー側サイドプレート40の側面図である。図3に示すように、カバー側サイドプレート40は、円板状部材であり、ポンプ室6に吸い込まれる作動油を導く2つの吸込ポート41と、ポンプ室6から吐出される作動油を導く2つの吐出ポート42とを有する。
【0040】
吸込ポート41は、吸込領域71,72(図2参照)に対応して摺接面40aに開口するように形成される。各吸込ポート41は、カバー側サイドプレート40の外縁部の一部を切り欠くようにして形成される。図1に示すように、カバー側サイドプレート40の吸込ポート41は、ポンプボディ10の迂回通路13を介してボディ側サイドプレート30の吸込ポート31と連通している。したがって、吸込通路61から吸い込まれる作動油は、ボディ側サイドプレート30の吸込ポート31及びカバー側サイドプレート40の吸込ポート41を通じてポンプ室6に導かれる。
【0041】
図3に示すように、吐出ポート42は、吐出領域81,82(図2参照)に対応して摺接面40aに開口するように円弧状の溝として形成され、ポンプ室6の作動油を高圧室14へ吐出する。カバー側サイドプレート40の摺接面40aには、吐出ポート42の端部に連通するノッチ20が溝状に形成される。ノッチ20については、後に詳しく説明する。
【0042】
カバー側サイドプレート40には、摺接面40aに開口し、背圧室9と連通する背圧ポート160が4つ形成される。第1吸込領域71に設けられる背圧ポート160A及び第1吐出領域81に設けられる背圧ポート160Bは、端部同士が連通溝140によって接続され、連通溝140を介して連通する。同様に、第2吸込領域72に設けられる背圧ポート160A及び第2吐出領域82に設けられる背圧ポート160Bは、端部同士が連通溝140によって接続され、連通溝140を介して連通する。
【0043】
カムリング4及びカバー側サイドプレート40は、2つの位置決めピン(不図示)によって相対回転が規制される。これにより、吸込領域71,72及び吐出領域81,82に対するカバー側サイドプレート40の吸込ポート41及び吐出ポート42の位置決めが行われる。
【0044】
図1に示すように、ボディ側サイドプレート30は、カバー側サイドプレート40と同様、吸込領域71,72のそれぞれに対応するように形成される吸込ポート31と、吐出領域81、82のそれぞれに対応するように形成される吐出ポート(不図示)と、を有する円板状部材である。
【0045】
吸込ポート31は、ポンプ収容凹部10Aの迂回通路13に対応する位置に形成される。各吸込ポート31は径方向外側に開口する凹形状となるように形成される。各吸込ポート31の外周端はボディ側サイドプレート30の外周面まで達している。吸込ポート31には、吸込圧室51、迂回通路13を通じて作動油が供給される(図1参照)。吸込ポート31は供給される作動油をポンプ室6内へ導く。
【0046】
ボディ側サイドプレート30の吐出ポート(不図示)は、円弧状に貫通して形成され、ポンプボディ10に形成された高圧室14に連通する。この吐出ポートは、ポンプ室6から導かれた作動油を高圧室14に吐出する。
【0047】
ボディ側サイドプレート30の摺接面30aには、上述したカバー側サイドプレート40の背圧ポート160と対向するように形成される背圧ポート165が形成される。背圧ポート165は、背圧通路166を介して高圧室14に連通する。
【0048】
エンジンの駆動により駆動軸1が回転すると、駆動軸1に連結されたロータ2が回転し、それに伴ってカムリング4内の各ポンプ室6は、ボディ側サイドプレート30の吸込ポート31及びカバー側サイドプレート40の吸込ポート41を通じて作動油を吸込み、ボディ側サイドプレート30の吐出ポート(不図示)及びカバー側サイドプレート40の吐出ポート42を通じて作動油を高圧室14に吐出する。高圧室14に流入した作動油は、吐出通路62を通じてベーンポンプ100の外部の流体圧機器70に供給される(図1参照)。このように、カムリング4内の各ポンプ室6は、ロータ2の回転に伴う拡縮によって作動油を給排する。
【0049】
次に、図2図5を参照して、カバー側サイドプレート40の摺接面40aに形成されるノッチ20について詳しく説明する。図4は、カバー側サイドプレート40の斜視図であり、図5図3のV-V線に沿う断面図である。図2図5に示すように、本実施形態では、ノッチ20として、内側ノッチ20i及び内側ノッチ20iの径方向外側に設けられる外側ノッチ20oを有する。
【0050】
外側ノッチ20o及び内側ノッチ20iは、2つの吐出ポート42のそれぞれに対応して、カバー側サイドプレート40の摺接面40aに設けられる。吐出ポート42は、ロータ2の周方向に沿って円弧状に形成される外側円弧部121及び内側円弧部122と、外側円弧部121と内側円弧部122とを接続する円弧状の端部側円弧部123a,123bと、を有する。内側円弧部122は、外側円弧部121に対向するように外側円弧部121の径方向内側に設けられる。外側ノッチ20o及び内側ノッチ20iは、吐出ポート42における、ロータ2の正回転に伴ってポンプ室6との連通が始まる連通開始側の周方向端部である端部側円弧部123aに設けられ、吐出ポート42に連通する。
【0051】
外側ノッチ20o及び内側ノッチ20iは、吐出ポート42の端部である端部側円弧部123aからロータ2の正回転方向とは逆の方向に延び、ロータ2の正回転方向とは逆の方向に向かうにしたがって開口面積が徐々に小さくなるように溝状に形成される。ここで、ノッチ20の開口面積とは、ロータ2の径方向に沿う面のノッチ20の断面積のことを指す。外側ノッチ20oは、内側ノッチ20iより外周側に配置される。つまり、吐出ポート42の端部側円弧部123aの径方向内側に内側ノッチ20iが位置し、吐出ポート42の端部側円弧部123aの径方向外側に外側ノッチ20oが位置する。外側ノッチ20oは、内側ノッチ20iよりもロータ2の回転方向(周方向)の長さが長くなるように形成される。
【0052】
ノッチ20は、ロータ2の軸方向から見たときに、頂部から吐出ポート42に向かって直線状に延びる2つの直線を有する三角形状を呈する(図3参照)。ノッチ20は、ロータ2の径方向に沿う面の断面形状がV字状に形成される(図5参照)。また、ノッチ20の溝深さは、ロータ2の正回転方向に向かって徐々に大きくなるように形成される。
【0053】
ロータ2の正回転に伴ってポンプ室6がノッチ20に連通すると、隣り合うポンプ室6がノッチ20を通じて連通する。これにより、吐出ポート42からの高圧の作動油が、回転方向前方側のポンプ室6から回転方向後方側のポンプ室6へと導かれる。よって、回転方向後方側のポンプ室6は、吐出ポート42に直接連通する前に圧力が徐々に上昇するため、吐出ポート42に直接連通する際の急激な圧力変動が抑制される。
【0054】
外側ノッチ20oは外側円弧部121に沿って形成され、内側ノッチ20iは内側円弧部122に沿って形成される。外側ノッチ20oは、外側ノッチ20oの基端側(吐出ポート42側)の径方向外側の開口縁部が外側円弧部121よりも径方向外側に位置するように形成されている。換言すれば、外側ノッチ20oは、外側円弧部121と端部側円弧部123aとの境界部を含むように形成されている。
【0055】
さらに、図2及び図5に示すように、外側ノッチ20oは、基端側(吐出ポート42側)において、径方向外側の開口縁部がカムリング4のカム面4aよりも径方向外側に位置するように形成されている。換言すれば、カム面4aが外側ノッチ20oの基端側の径方向外側の開口縁部よりも径方向内側に位置している。このため、外側ノッチ20oの基端側における径方向外側の一部が、カムリング4によって覆われている。
【0056】
図1及び図2を参照して、ベーンポンプ100の動作について説明する。
【0057】
エンジン等の駆動装置(不図示)の動力によって駆動軸1が回転駆動されると、ロータ2が図2に矢印で示す方向に正回転する。ロータ2の正回転に伴って、吸込領域71,72に位置するポンプ室6が拡張する。これにより、タンク60内の作動油が、吸込通路61及び吸込ポート31,41を通ってポンプ室6に吸い込まれる。また、ロータ2の正回転に伴って、吐出領域81,82に位置するポンプ室6が収縮する。これにより、ポンプ室6内の作動油が、吐出ポート42を通って高圧室14に吐出される。高圧室14に吐出された作動油は、吐出通路62を通じて外部の流体圧機器70へと供給される。本実施形態に係るベーンポンプ100では、ロータ2が1回転する間に、各ポンプ室6が作動油の吸込、吐出を2度繰り返す。
【0058】
高圧室14に吐出された作動油の一部は、背圧通路166及び背圧ポート165,160A,160Bを通じて背圧室9に供給され、ベーン3の基端部3bを径方向外方に向って押圧する。したがって、ベーン3は、基端部3bを押圧する背圧室9の流体圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力と、によってスリット2aから突出する方向に付勢される。これにより、ベーン3の先端部3aがカムリング4のカム面4aに摺接しながら回転するので、ポンプ室6内の作動油は、ベーン3の先端部3aとカムリング4のカム面4aとの間から漏れることなく吐出ポート42へ導かれる。
【0059】
このように、ロータ2が正回転する場合には、吸込ポート31,41からポンプ室6に吸い込まれた作動油は、ポンプ室6の収縮により加圧され、吐出ポート42から吐出される。また、吐出ポート42の作動油の一部が背圧室9に導かれ、背圧室9の圧力によりベーン3がカム面4aに押し付けられる。
【0060】
しかしながら、ベーンポンプ100は、その使用形態によっては逆回転する場合がある。ベーンポンプ100が逆回転しているときには、吐出ポート42及び背圧ポート160,165に十分に作動流体が供給されないため、背圧室9の圧力によってベーン3が十分に押圧されない状態となる。
【0061】
このため、ベーンポンプ100が逆回転しているときには、ベーン3がカム面4aから離間する。ベーン3と一対のサイドプレート30,40との間には僅かな隙間が形成されているので、ベーン3がカム面4aから離間すると、ベーン3はサイドプレート30,40に向かって倒れるように傾いた状態となり、ベーン3の先端部3aが吐出ポート(開口部)42に落ち込んだり、ベーン3の基端部3bが背圧ポート(開口部)160,165に落ち込んだりするおそれがある。ベーン3の端部がサイドプレート30,40の摺接面30a,40aに開口する開口部に落ち込むと、ロータ2の逆回転に伴ってベーン3の端部が開口部内を移動し、ベーン3の端部が開口部の端部に衝突することに起因してサイドプレート30,40が損傷するおそれがある。サイドプレート30,40が損傷すると微細な金属片が発生し、金属片が摺接面30a,40aとロータ2との間に噛み込むことにより、ベーンポンプ100が故障するおそれもある。
【0062】
そこで、本実施形態では、摺接面30a,40aに開口する開口部(吐出ポート42及び背圧ポート165,160)にベーン3の端部(先端部3a及び基端部3b)が落ち込んだ場合に、落ち込んだベーン3の端部(先端部3a及び基端部3b)を押し上げ、摺接面40aまで案内する案内面(先端側案内面130及び基端側案内面170)がサイドプレート30,40に設けられている。ボディ側サイドプレート30に設けられる案内面と、カバー側サイドプレート40に設けられる案内面は、同様の構成であるので、以下では、カバー側サイドプレート40に設けられる案内面を代表して説明し、ボディ側サイドプレート30に設けられる案内面の説明は省略する。
【0063】
図3図6を参照して、吐出ポート42に対応して設けられる先端側案内面130について詳しく説明する。図6は、図3のVI-VI線に沿う断面図である。図3図6に示すように、先端側案内面130は、内側ノッチ20iと外側ノッチ20oとの間において、吐出ポート42の端部側円弧部123aから連続して設けられる。先端側案内面130は、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の先端部3aをカバー側サイドプレート40の摺接面40aに向かって押し上げて案内する平坦な面である。
【0064】
先端側案内面130は、内側ノッチ20iと外側ノッチ20oに接続される。先端側案内面130の周方向長さは、外側ノッチ20o及び内側ノッチ20iの周方向長さに比べて短い。このため、外側ノッチ20oの先端及び内側ノッチ20iの先端は、先端側案内面130よりも正回転方向とは逆の方向に所定距離だけ離れた位置にある。
【0065】
図6に示すように、吐出ポート42の端部側円弧部123aは、ロータ2の回転軸と平行となるように設けられる。吐出ポート42の端部側円弧部123aは、吐出ポート42の底面から垂直に立ち上がるように形成される。先端側案内面130は、ロータ2の逆回転方向に向かうにしたがって摺接面40aからの深さ(摺接面40aまでの軸方向距離)が小さくなるテーパ状に形成される。先端側案内面130は、端部側円弧部123aにおける底面とは反対側の端部、すなわち摺接面40a側の端部(図示上端部)からカバー側サイドプレート40の摺接面40aに向かって直線状に傾斜する。なお、先端側案内面130は、摺接面40aとは反対側の端面(吐出ポート42の底面)から摺接面40aに向かって直線状に傾斜するテーパ面としてもよい。
【0066】
端部側円弧部123aと先端側案内面130との境界である角部(すなわち端部側円弧部123aの図示上端部)から摺接面40aまでの軸方向距離h1は、ベーン3の最大落ち込み深さ(すなわち摺接面40aから最大に落ち込んだ状態のベーン3の先端部3aまでの軸方向距離)d1よりも大きくなるように設定される(h1>d1)。先端側案内面130は、摺接面40aに対する傾斜角度θ1が0度よりも大きく45度よりも小さくなるように設定することが好ましい。
【0067】
したがって、ベーンポンプ100が逆回転する際に、ベーン3の先端部3aが吐出ポート42に落ち込んだ場合、図7Aに示すように、ベーン3の先端部3aは、先端側案内面130に接触する。先端側案内面130に接触したベーン3の先端部3aは、図7Bに示すように、ベーン3の周方向移動に伴って先端側案内面130に摺接しながら移動する。ベーン3の先端部3aが、先端側案内面130によって押し上げられるため、徐々にベーン3の傾きが矯正され、摺接面40aまで案内される。先端側案内面130が、テーパ状に形成されているので、ロータ2の逆回転に伴ってベーン3の傾きはスムーズに矯正される。
【0068】
さらに、先端側案内面130は直線状に傾斜している。このため、曲線状に傾斜する場合に比べて、先端側案内面130に沿って移動するベーン3の先端部3aの摺動抵抗を一定にすることができ、安定してベーン3の先端部3aをカバー側サイドプレート40の摺接面40aに案内することができる。
【0069】
先端側案内面130が設けられない場合、ベーン3の先端部3aは、吐出ポート42の底面から垂直に立ち上がる側壁である端部側円弧部123aに衝突するため、端部側円弧部123aに欠けが生じるなど、端部側円弧部123aが損傷するおそれがある。これに対して、本実施形態では、ベーン3の先端部3aは、先端側案内面130に接触し、摺接面40aまで案内されるので、吐出ポート42の損傷を防止することができる。
【0070】
本実施形態に係る構成としたことにより得られる作用効果について、比較例と比較して説明する。図8Aは、本実施形態の比較例に係るベーンポンプの吐出ポート92、ノッチ920i,920o及びカムリング904について示す模式図であり、図8Bは、本実施形態に係るベーンポンプ100の吐出ポート42、ノッチ20i,20o及びカムリング4について示す模式図である。なお、図中、カムリング904,4については、二点鎖線で示している。
【0071】
図8Aに示すように、吐出ポート92は、ロータ2の周方向に沿って円弧状に形成される外側円弧部921及び内側円弧部922と、外側円弧部921と内側円弧部922とを接続する円弧状の端部側円弧部923a,923bと、を有する。内側円弧部922は、外側円弧部921に対向するように外側円弧部921の径方向内側に設けられる。
【0072】
外側ノッチ920o及び内側ノッチ920iは、端部側円弧部923aから周方向に延在する。外側ノッチ920oと外側円弧部921との間には、端部側円弧部923aの一部である外側端部923cが設けられ、外側ノッチ920oと内側ノッチ920iとの間には端部側円弧部923aの一部である中央端部923dが設けられ、内側ノッチ920iと内側円弧部922との間には、端部側円弧部923aの一部である内側端部923eが設けられる。また、外側ノッチ920oは、基端側(吐出ポート92側)において、径方向外側の開口縁部がカムリング904のカム面904aよりも径方向内側に位置するように形成されている。
【0073】
このため、本実施形態に係る比較例では、ベーンポンプが逆回転し、ベーン3の先端部3aが吐出ポート92に落ち込んだ場合に、ベーン3の先端部3aが、外側端部923c、中央端部923d及び内側端部923eのいずれかに衝突し、サイドプレートが損傷するおそれがある。なお、ベーン3の先端部3aは、径方向内側に比べて径方向外側の方が落ち込み深さが大きくなる。
【0074】
これに対して、本実施形態では、図8Bに示すように、外側ノッチ20oは、外側ノッチ20oの基端側の径方向外側の開口縁部が外側円弧部121よりも径方向外側に位置するように形成されている。換言すれば、外側ノッチ20oは、外側円弧部121と端部側円弧部123aとの境界部を含むように形成されている。このため、吐出ポート42に落ち込んだベーン3の先端部3aが、外側ノッチ20oよりも径方向外側において、吐出ポート42の側壁と衝突することが防止される。
【0075】
図3図4図9及び図10を参照して、背圧ポート160Aに対応して設けられる基端側案内面170について詳しく説明する。図9図3のIX-IX線に沿う断面図であり、図10図3のX-X線に沿う断面図である。図3図4図9及び図10に示すように、基端側案内面170は、背圧ポート160Aにおけるロータ2の正回転に伴って背圧室9との連通が始まる連通開始側の周方向端部側に設けられる。基端側案内面170は、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の基端部3bをカバー側サイドプレート40の摺接面40aに向かって押し上げて案内する平坦な面である。
【0076】
背圧ポート160Aは、本体部161と、本体部161の端部161aから周方向に延在するように設けられ、本体部161よりも径方向の幅が狭い幅狭部162と、を有する。基端側案内面170は、本体部161の端部161aから周方向に延在するように、かつ幅狭部162に隣接して設けられる。
【0077】
図10に示すように、本体部161の端部161aは、ロータ2の回転軸と平行となるように設けられる。本体部161の端部161aは、背圧ポート160の底面から垂直に立ち上がるように形成される。基端側案内面170は、ロータ2の逆回転方向に向かうにしたがって摺接面40aからの深さ(摺接面40aまでの軸方向距離)が小さくなるテーパ状に形成される。基端側案内面170は、端部161aにおける底面とは反対側の端部、すなわち摺接面40a側の端部(図示上端部)からカバー側サイドプレート40の摺接面40aに向かって直線状に傾斜する。なお、基端側案内面170は、摺接面40aとは反対側の端面(背圧ポート160の底面)から摺接面40aに向かって直線状に傾斜するテーパ面としてもよい。
【0078】
本体部161の端部161aと基端側案内面170との境界である角部(すなわち本体部161の端部161aの図示上端部)から摺接面40aまでの軸方向距離h2は、ベーン3の最大落ち込み深さ(すなわち摺接面40aから最大に落ち込んだ状態のベーン3の基端部3bまでの軸方向距離)d2よりも大きくなるように設定される(h2>d2)。基端側案内面170は、摺接面40aに対する傾斜角度θ2が0度よりも大きく45度よりも小さくなるように設定することが好ましい。
【0079】
したがって、ベーンポンプ100が逆回転する際に、ベーン3の基端部3bが背圧ポート160Aに落ち込んだ場合、図11Aに示すように、ベーン3の基端部3bは、基端側案内面170に接触する。基端側案内面170に接触したベーン3の基端部3bは、図11Bに示すように、ベーン3の周方向移動に伴って基端側案内面170に摺接しながら移動する。ベーン3の基端部3bが、基端側案内面170によって押し上げられるため、徐々にベーン3の傾きが矯正され、摺接面40aまで案内される。基端側案内面170が、テーパ状に形成されているので、ロータ2の逆回転に伴ってベーン3の傾きはスムーズに矯正される。
【0080】
さらに、基端側案内面170は直線状に傾斜している。このため、曲線状に傾斜する場合に比べて、基端側案内面170に沿って移動するベーン3の基端部3bの摺動抵抗を一定にすることができ、安定してベーン3の基端部3bをカバー側サイドプレート40の摺接面40aに案内することができる。
【0081】
基端側案内面170が設けられない場合、ベーン3の基端部3bは、背圧ポート160Aの底面から垂直に立ち上がる端部161aに衝突するため、端部161aに欠けが生じるなど、端部161aが損傷するおそれがある。また、ベーン3の基端部3bは、径方向外側に比べて径方向内側の方が落ち込み深さが大きくなる。本実施形態では、背圧ポート160Aの径方向内側に基端側案内面170が設けられている。これにより、背圧ポート160Aに落ち込んだベーン3の基端部3bは、基端側案内面170に接触し、摺接面40aまで案内されるので、背圧ポート160Aの損傷を防止することができる。
【0082】
なお、図3及び図4に示すように、背圧ポート160Aには、本体部161の端部161aから周方向に延在する幅狭部162が設けられている。このため、幅狭部162の周方向長さを調整することにより、背圧室9と連通する周方向の範囲を精度よく設定でき、ベーン3に均等に背圧を付与することができる。
【0083】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0084】
(1)カバー側サイドプレート40は、内側ノッチ20iと外側ノッチ20oとの間において吐出ポート42の端部側円弧部123aから連続して設けられ、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の先端部3aをカバー側サイドプレート40の摺接面40aに向かって押し上げて案内する先端側案内面130を有する。このような構成によれば、ベーンポンプ100が逆回転し、ベーン3の先端部3aが吐出ポート42に落ち込んだ場合に、ベーン3の先端部3aを先端側案内面130に沿ってカバー側サイドプレート40の摺接面40aに案内することができるため、ベーン3の先端部3aとカバー側サイドプレート40との衝突に起因するカバー側サイドプレート40の損傷を防止することができる。なお、ボディ側サイドプレート30にも同様に先端側案内面130が設けられているので、ベーン3の先端部3aとの接触に起因したボディ側サイドプレート30の損傷も防止することができる。
【0085】
(2)カバー側サイドプレート40は、背圧ポート160におけるロータ2の正回転に伴って背圧室9との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の基端部3bをカバー側サイドプレート40の摺接面40aに向かって押し上げて案内する基端側案内面170と、を有する。このような構成によれば、ベーンポンプ100が逆回転し、ベーン3の基端部3bが背圧ポート160に落ち込んだ場合に、ベーン3の基端部3bを基端側案内面170に沿ってカバー側サイドプレート40の摺接面40aに案内することができるため、ベーン3の基端部3bとカバー側サイドプレート40との衝突に起因するカバー側サイドプレート40の損傷を防止することができる。なお、ボディ側サイドプレート30にも同様に基端側案内面170が設けられているので、ベーン3の基端部3bとの接触に起因したボディ側サイドプレート30の損傷も防止することができる。
【0086】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0087】
<変形例1>
上記実施形態では、先端側案内面130及び基端側案内面170が、直線状に傾斜するテーパ面である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図12A及び図12Bに示すように、先端側案内面230A,230Bは、曲線状に傾斜するテーパ面であってもよい。同様に、基端側案内面170は、曲線状に傾斜するテーパ面であってもよい。
【0088】
<変形例2>
上記実施形態では、背圧ポート160の幅狭部162に隣接するように基端側案内面170が設けられる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。幅狭部162を設けずに、背圧ポート160の円弧状の周方向端部全体から連続して基端側案内面170を設けてもよい。また、上記実施形態では、幅狭部162を径方向外側に設け、基端側案内面170を径方向内側に設ける例について説明したが、幅狭部162と基端側案内面170の配置関係は、逆にしてもよい。
【0089】
<変形例3>
上記実施形態では、ノッチ20が、ロータ2の正回転方向とは逆の方向に向かって開口面積が徐々に小さくなるように形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ノッチ20は、ロータ2の回転方向に沿って開口面積が一定となるような溝状に形成してもよい。
【0090】
<変形例4>
上記実施形態では、外側ノッチ20oが内側ノッチ20iよりも周方向に長く形成されている例について説明したが本発明はこれに限定されない。内側ノッチ20iが外側ノッチ20oよりも周方向に長く形成されていてもよい。
【0091】
<変形例5>
背圧ポート160Aと背圧ポート160Bとを連通する連通溝140にベーン3の基端部3bを摺接面40aに向かって押し上げて案内する基端側案内面を設けてもよい。なお、基端側案内面が設けられる連通溝140は、背圧ポート160Aと背圧ポート160Bの内周側の外縁に沿うように形成してもよいし、背圧ポート160Aと背圧ポート160Bの外周側の外縁に沿うように形成してもよい。
【0092】
<変形例6>
上述した実施形態では、カバー側サイドプレート40及びボディ側サイドプレート30の双方に先端側案内面130及び基端側案内面170を形成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。カバー側サイドプレート40及びボディ側サイドプレート30の一方にのみ先端側案内面130及び基端側案内面170を形成してもよい。
【0093】
<変形例7>
上述した実施形態では、一対のサイドプレート30,40によってカムリング4及びロータ2を挟む構成のベーンポンプ100を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、サイドプレート40を省略し、ポンプカバー50にロータ2及びベーン3を摺接させる構成としてもよい。この場合、ポンプカバー50が、サイド部材として機能する。このため、ポンプカバー50に先端側案内面及び基端側案内面を形成することにより、ポンプカバー50の摺接面に開口する開口部に対するベーン3の衝突を防止して、ポンプカバー50の損傷を防止することができる。
【0094】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0095】
ベーンポンプ100は、放射状に形成される複数のスリット2aを有し、回転駆動されるロータ2と、スリット2aに摺動自在に収装される複数のベーン3と、ベーン3の先端部3aが摺接するカム面4aを有するカムリング4と、ロータ2及びベーン3の側面が摺接する摺接面30a,40aを有するサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)と、ロータ2とカムリング4と隣り合うベーン3とにより画成されるポンプ室6と、摺接面30a,40aに開口し、ポンプ室6に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポート31,41と、摺接面30a,40aに開口し、ポンプ室6から吐出される作動流体を導く吐出ポート42と、サイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)に設けられ、吐出ポート42の端部(端部側円弧部123a)からロータ2の正回転方向とは逆の方向に延びる溝状のノッチ20と、スリット2a内においてベーン3の基端部3bによって画成される背圧室9と、を備え、ノッチ20は、吐出ポート42の端部(端部側円弧部123a)の径方向内側に位置する内側ノッチ20iと、吐出ポート42の端部(端部側円弧部123a)の径方向外側に位置する外側ノッチ20oと、を有し、サイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)は、内側ノッチ20iと外側ノッチ20oとの間において吐出ポート42の端部(端部側円弧部123a)から連続して設けられ、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の先端部3aをサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに向かって押し上げて案内する先端側案内面130,230A,230Bを有する。
【0096】
この構成では、ベーンポンプ100が逆回転し、ベーン3の先端部3aが吐出ポート42に落ち込んだ場合に、ベーン3の先端部3aを先端側案内面130,230A,230Bに沿ってサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに案内することができるため、ベーン3の先端部3aとサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)との衝突に起因するサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の損傷を防止することができる。
【0097】
ベーンポンプ100は、先端側案内面130,230A,230Bが、ロータ2の逆回転方向に向かうにしたがって摺接面30a,40aからの深さが小さくなるテーパ状に形成される。
【0098】
この構成では、ロータ2の逆回転に伴ってベーン3の傾きがスムーズに矯正される。
【0099】
ベーンポンプ100は、先端側案内面130が、直線状に傾斜する。
【0100】
この構成では、先端側案内面130に沿って移動するベーン3の先端部3aの摺動抵抗を一定にすることができ、安定してベーン3の先端部3aをサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに案内することができる。
【0101】
ベーンポンプ100は、サイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)が、摺接面30a,40aに開口し、背圧室9と連通する背圧ポート160,165と、背圧ポート160,165におけるロータ2の正回転に伴って背圧室9との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の基端部3bをサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに向かって押し上げて案内する基端側案内面170と、を有する。
【0102】
ベーンポンプ100は、放射状に形成される複数のスリット2aを有し、回転駆動されるロータ2と、スリット2aに摺動自在に収装される複数のベーン3と、ベーン3の先端部3aが摺接するカム面4aを有するカムリング4と、ロータ2及びベーン3の側面が摺接する摺接面30a,40aを有するサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)と、ロータ2とカムリング4と隣り合うベーン3とにより画成されるポンプ室6と、摺接面30a,40aに開口し、ポンプ室6に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポート31,41と、摺接面30a,40aに開口し、ポンプ室6から吐出される作動流体を導く吐出ポート42と、スリット2a内においてベーン3の基端部3bによって画成される背圧室9と、を備え、サイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)は、摺接面30a,40aに開口し、背圧室9と連通する背圧ポート160,165と、背圧ポート160,165におけるロータ2の正回転に伴って背圧室9との連通が始まる連通開始側の端部側に設けられ、ロータ2が逆回転方向に回転した場合に、ベーン3の基端部3bをサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに向かって押し上げて案内する基端側案内面170と、を有する。
【0103】
これらの構成では、ベーンポンプ100が逆回転し、ベーン3の基端部3bが背圧ポート160,165に落ち込んだ場合に、ベーン3の基端部3bを基端側案内面170に沿ってサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに案内することができるため、ベーン3の基端部3bとサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)との衝突に起因するサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の損傷を防止することができる。
【0104】
ベーンポンプ100は、基端側案内面170が、ロータ2の逆回転方向に向かうにしたがって摺接面30a,40aからの深さが小さくなるテーパ状に形成される。
【0105】
この構成では、ロータ2の逆回転に伴ってベーン3の傾きがスムーズに矯正される。
【0106】
ベーンポンプ100は、基端側案内面170が、直線状に傾斜する。
【0107】
この構成では、基端側案内面170に沿って移動するベーン3の基端部3bの摺動抵抗を一定にすることができ、安定してベーン3の基端部3bをサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)の摺接面30a,40aに案内することができる。
【0108】
ベーンポンプ100は、背圧ポート160Aが、本体部161と、本体部161の端部161aから周方向に延在するように設けられ、本体部161よりも径方向の幅が狭い幅狭部162と、を有し、基端側案内面170は、本体部161の端部161aから周方向に延在するように、かつ幅狭部162に隣接して設けられる。
【0109】
この構成では、幅狭部162によって、背圧室9と連通する周方向の範囲を精度よく設定できる。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0111】
2・・・ロータ、2a・・・スリット、3・・・ベーン、3a・・・先端部、3b・・・基端部、4・・・カムリング、4a・・・カム面、6・・・ポンプ室、9・・・背圧室、20・・・ノッチ、20i・・・内側ノッチ、20o・・・外側ノッチ、30・・・ボディ側サイドプレート(サイド部材)、30a・・・摺接面、31・・・吸込ポート、40カバー側サイドプレート(サイド部材)、40a・・・摺接面、41・・・吸込ポート、42・・・吐出ポート、100・・・ベーンポンプ、123a・・・端部側円弧部(端部)、130,230A,230B・・・先端側案内面、160,160A,165・・・背圧ポート、161・・・本体部、161a・・・端部、162・・・幅狭部、170・・・基端側案内面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B