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特許7153545イムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】イムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/543 501J
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018223315
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020085755
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】國料 秀勇
(72)【発明者】
【氏名】渡部 里奈
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512537(JP,A)
【文献】国際公開第2018/203572(WO,A1)
【文献】特表2012-524277(JP,A)
【文献】特開2016-191658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0267049(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0157729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の被験物質を測定するためのイムノクロマトグラフィー試験片であって、
コンジュゲートパッド、テストライン、及びコントロールラインを備えており、
前記コンジュゲートパッドには、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第一の物質、ブロッキング剤、及び標識体を含む標識試薬が溶出可能に保持されており、
前記標識体は、前記第一の物質と結合しており、かつ、前記ブロッキング剤でブロッキングされており、
前記テストラインには、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第二の物質が固定化されており、
前記コントロールラインには、前記ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な第三の物質が固定化されている、
ことを特徴とする、イムノクロマトグラフィー試験片。
【請求項2】
前記ブロッキング剤が、カゼイン、大腸菌由来熱ショックタンパク質、牛血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、及びスキムミルクからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
【請求項3】
前記試料が非特異反応抑制剤を含有するか、又は、前記コンジュゲートパッドに前記非特異反応抑制剤がさらに溶出可能に保持されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
【請求項4】
前記非特異反応抑制剤が、ノーマルマウスグロブリン、ノーマルウサギグロブリン、ノーマルウシグロブリン、ノーマルヤギグロブリン、ノーマルヒツジグロブリン、ノーマルラットグロブリン、ノーマルアルパカグロブリン、及びノーマルニワトリグロブリンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
【請求項5】
前記第三の物質が、マウス、ウサギ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ラット、アルパカ、及びニワトリからなる群から選択される少なくとも1種の生物由来の抗ブロッキング剤抗体であることを特徴とする、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
【請求項6】
請求項1~5のうちのいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー試験片を用いて試料中の被験物質を測定する方法であり、
前記コンジュゲートパッドに前記試料を接触させ、前記試料中の前記被験物質と前記標識試薬との複合体を形成させる工程、
前記テストラインにおいて、前記第二の物質で前記被験物質を介して前記複合体を捕捉して検出する工程、
前記コントロールラインにおいて、前記第三の物質で前記ブロッキング剤を介して前記標識試薬を捕捉する工程、
を含むことを特徴とする、被験物質測定方法。
【請求項7】
前記試料若しくは前記コンジュゲートパッドに非特異反応抑制剤を添加する工程をさらに含むか、又は、前記コンジュゲートパッドに前記非特異反応抑制剤がさらに溶出可能に保持されていることを特徴とする、請求項6に記載の被験物質測定方法。
【請求項8】
請求項1~5のうちのいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー試験片を含むことを特徴とする、イムノクロマトグラフィー試験キット。
【請求項9】
非特異反応抑制剤をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載のイムノクロマトグラフィー試験キット。
【請求項10】
前記非特異反応抑制剤が、ノーマルマウスグロブリン、ノーマルウサギグロブリン、ノーマルウシグロブリン、ノーマルヤギグロブリン、ノーマルヒツジグロブリン、ノーマルラットグロブリン、ノーマルアルパカグロブリン、及びノーマルニワトリグロブリンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項9に記載のイムノクロマトグラフィー試験キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キットに関し、より詳しくは、テストライン及びコントロールラインを備えるイムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の陽性・陰性判定やその原因を特定するためには、対象より採取した試料中から細菌やウイルス等の病原体を検出することが必要である。また、特定の疾患の陽性・陰性判定のために、当該疾患のマーカーとなる物質を血液等の試料中から検出・定量することも知られている。前記病原体の検出方法としては、試料から該病原体に特徴的な遺伝子を検出する遺伝子検査法、電子顕微鏡観察によって特定する方法、前記病原体が細菌の場合にはこれを分離培養して同定を行う培養法などが知られている。また、前記病原体やマーカーの検出・定量方法としては、抗原抗体反応を利用したELISAやIFA等の免疫学的検査法などが知られている。しかしながら、これらの測定方法には、試料の処理が煩雑である、測定のために熟練した技術が必要である、特別な装置が必要である、結果を得るまでに時間がかかる、短時間で多数の検体を検査できないといった問題がある。
【0003】
他方、簡易かつ迅速な測定方法として、他の免疫学的検査法であるイムノクロマトグラフィー法が知られている。前記イムノクロマトグラフィー法としては、例えば、試料中の被験物質に対して特異的に結合可能な物質(抗原又は抗体等)を固定化した多孔性メンブレンからなるイムノクロマトグラフィー試験片の一端から試料を展開させ、その展開の過程で、前記被験物質に対して特異的に結合可能な標識試薬(被験物質に対して特異的に結合可能、かつ、標識された物質(抗原又は抗体等))と該被験物質との複合体を形成させ、上記の多孔性メンブレンに固定化した抗原や抗体等によって間接的又は直接的に前記複合体を捕捉し、当該被験物質を測定する方法が挙げられる。かかる方法では、血液や尿、糞便等の検体を試料として前記イムノクロマトグラフィー試験片に塗布又は滴下し(必要に応じて前記検体は前処理液で懸濁したり、ろ過フィルターでろ過する)、前記多孔性メンブレン上で該試料や前記複合体等を毛細管現象によって展開させるだけで前記試料中の被験物質を測定することができるため、操作が簡単で、また、目視判定も可能であるといった利点から、広く利用されている。
【0004】
一般的なイムノクロマトグラフィー試験片においては、上記の多孔性メンブレンに固定化した抗原や抗体等によって間接的又は直接的に前記複合体を捕捉してシグナルとして検出するテストラインと、試験成立の可否を判定する指標として、前記標識試薬には特異的に結合するが前記被験物質には結合しない物質(対照試薬)を固定化したコントロールラインとが設けられている。イムノクロマトグラフィー試験片の一端又は一点から試料を展開させた際に前記コントロールラインでシグナルが検出された場合には、測定に必要な量の試料及び標識試薬がテストライン及びコントロールライン上を問題なく展開したこと、ひいてはイムノクロマトグラフィー試験片上において各抗原抗体反応等が正常に実施されたことを意味するが、前記コントロールラインでシグナルが検出されない場合には、測定に必要な量の試料及び/又は標識試薬が展開しておらず、各抗原抗体反応等が正常に実施されていない可能性があるため、その試験は不成立とみなされる。このように、コントロールラインは、その試験の成否に大きく関わるため、常に安定的なシグナル強度を示すことが望まれている。
【0005】
前記コントロールラインに固定化される対照試薬としては、従来、標識試薬に対する抗体が一般的に用いられている。例えば、前記標識試薬として被験物質に特異的なウサギモノクローナル抗体が用いられる場合、前記対照試薬としては、抗ウサギ抗体が用いられている。
【0006】
ところで、血液等の生体試料には、ヒト抗マウス抗体(HAMA)、ヒト抗ウサギ抗体(HARA)等、様々な動物の抗体に対する異好性抗体を含有する検体が存在することがある。そのため、例えば、標識試薬を構成する抗体の作製に用いた動物と同種の動物に対する異好性抗体を含有する検体を試験に供すると、非特異反応が起きてしまう。例えば、上記の標識試薬及び多孔性メンブレンに固定化する抗体として被験物質に特異的なウサギモノクローナル抗体を用い、HARAを含有する検体を試料とした場合には、HARAがこれらのウサギモノクローナル抗体と反応してしまい、被験物質を含まない試料であっても被験物質が存在するかのような偽陽性の結果を与えてしまう場合がある。このような非特異反応は、微量成分を特異的かつ高感度に測定できるというイムノクロマトグラフィー法の利点を損なうことになる。
【0007】
前記異好性抗体による非特異反応を抑制し、正しい測定値を得ることを目的として、従来より様々な試みが行われている。例えば、特開昭61-065162号公報(特許文献1)には、マウス由来モノクローナル抗体を用いた免疫学的測定方法において、マウス血清等のマウス由来の物質を非特異反応抑制剤として存在させることが記載されている。しかしながら、イムノクロマトグラフィー法において、例えば、前記標識試薬として被験物質に特異的なマウスモノクローナル抗体を用い、これに対する抗マウス抗体を前記対照試薬として用いた場合に、前記非特異反応抑制剤としてマウス由来の物質を用いると、前記対照試薬に前記非特異反応抑制剤が捕捉されて、前記対照試薬(コントロールライン)への前記標識試薬の捕捉が阻害されるため、コントロールラインのシグナル強度が著しく減弱するという問題があった。
【0008】
また、このようなHAMAやHARA等の異好性抗体を含む干渉物質の影響を低減させることを目的とした試みも行われており、例えば、特開2001-033454号公報(特許文献2)には、流体試料中の被検物質(被験物質)の濃度を定量する方法として、被検物質の濃度に対応した検出可能な標識物質からの信号を検出する工程と、これとは別に、被検物質の濃度に依存することなしに検出可能な標識物質からの信号(内部コントロール信号)を検出する工程とを含み、内部コントロール信号を生じさせ検出する工程に被検試料中に共存する物質の影響を実質的に受けないリガンド対の組み合わせを用いる方法が記載されており、前記組み合わせとして、ビオチン若しくはビオチン類縁体とアビジン若しくはストレプトアビジンとの組み合わせ、又はハプテンと抗体との組み合わせが記載されている。また、特開2009-085751号公報(特許文献3)には、イムノクロマトグラフィー用試験具として、ヒト抗マウス抗体(HAMA)と反応可能な物質が、被検出成分に結合可能な結合物質を固定化した判定部よりも試料展開方向上流側に配置された試験片が記載されており、同文献の実施例には、対照用標識物質とこれに結合可能な物質としてストレプトアビジンを感作したラテックス粒子とビオチン化BSAとの組み合わせが記載されている。しかしながら、これらの方法や試験片においては、コントロールラインでシグナルを検出するために、上記の被検試料中に共存する物質の影響を実質的に受けないリガンド対の組み合わせ(特許文献2)や対照用標識物質(特許文献3)を別途準備する必要があり、試薬や試験片の調製の複雑化やコストアップが問題であった。
【0009】
また、例えば、特開2013-205335号公報(特許文献4)には、イムノクロマトグラフ用試験具として、標識試薬が、アビジン及びビオチンを介して、被検物質に特異的に結合する第一親和性物質と標識物質とが連結されたものであり、対照試薬がビオチンを含むものである試験片が記載されている。しかしながら、かかる試験片も、標識試薬の調製が複雑であるといった問題を有していた。
【0010】
さらに、例えば、国際公開第2017/065213号(特許文献5)には、イムノクロマト試験片として、検出対象物質(被験物質)と特異的に結合する検出試薬及びコントロールライン検出試薬が含浸されたコンジュゲーションパット(コンジュゲートパット)、及び前記コントロールライン検出試薬を特異的に捕捉するための抗体が固定化されている多孔性メンブレンパッドを有する試験片が記載されており、前記コントロールライン検出試薬としてビオチン標識タンパク質が結合した検出粒子を用い、前記コントロールライン検出試薬を特異的に捕捉するための抗体として抗ビオチン抗体を用いることが記載されている。しかしながら、かかる試験片でも、特許文献2や特許文献3に記載の方法や試験片と同様に、別途の検出試薬(コントロールライン検出試薬)を準備する必要があり、試薬や試験片の調製の複雑化やコストアップが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭61-065162号公報
【文献】特開2001-033454号公報
【文献】特開2009-085751号公報
【文献】特開2013-205335号公報
【文献】国際公開第2017/065213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らがイムノクロマトグラフィー試験片についてさらなる検討を行ったところ、従来のイムノクロマトグラフィー試験片では、上記問題に加えて、例えば、特許文献2、3、5に記載されているような別途の検出試薬を用いる場合、これらは粒子であるため、このような別粒子の存在によって多孔性メンブレンが目詰まりを起こしたり、バックグラウンドが上昇したり、被験物質の検出精度が低下したりする問題や、コントロールラインにおけるシグナルが該別粒子による間接評価となるために試験成立の可否の判定精度が低下する可能性があるといった問題を有することを見い出した。
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、イムノクロマトグラフィー法において、コントロールラインでシグナルを検出するために標識試薬及び対照試薬以外の試薬を別途準備する必要がなく、かつ、試料中に異好性抗体に対する非特異反応抑制剤が存在していてもコントロールラインにおけるシグナル強度が影響を受けないコントロールラインシグナル形成機構を備える、イムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、前記標識試薬として、標識体と、前記標識体に結合している、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第一の物質とを備え、かつ、ブロッキング剤でブロッキングされている標識試薬を用い、さらに、従来から前記標識体が前記第一の物質以外の物質に非特異的に結合することを抑制するために用いられていたに過ぎない前記ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な第三の物質を、前記対照試薬として新たに採用してコントロールラインに固定することにより、前記標識試薬及び対照試薬以外の試薬を別途準備しなくとも、コントロールラインにおいて十分な強度のシグナルを検出できることを見い出した。さらに、各生物種由来の非特異反応抑制剤を用いた場合にも、前記第三の物質がこれを捕捉することはなく、コントロールラインにおけるシグナル強度が影響を受けることもないため、前記非特異反応抑制剤を適切量用いて異好性抗体による偽陽性判定を防ぐことができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
[1]試料中の被験物質を測定するためのイムノクロマトグラフィー試験片であって、
コンジュゲートパッド、テストライン、及びコントロールラインを備えており、
前記コンジュゲートパッドには、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第一の物質、ブロッキング剤、及び標識体を含む標識試薬が溶出可能に保持されており、
前記標識体は、前記第一の物質と結合しており、かつ、前記ブロッキング剤でブロッキングされており、
前記テストラインには、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第二の物質が固定化されており、
前記コントロールラインには、前記ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な第三の物質が固定化されている、
ことを特徴とする、イムノクロマトグラフィー試験片。
[2]前記ブロッキング剤が、カゼイン、大腸菌由来熱ショックタンパク質、牛血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、及びスキムミルクからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質であることを特徴とする、[1]に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
[3]前記試料が非特異反応抑制剤を含有するか、又は、前記コンジュゲートパッドに前記非特異反応抑制剤がさらに溶出可能に保持されていることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
[4]前記非特異反応抑制剤が、ノーマルマウスグロブリン、ノーマルウサギグロブリン、ノーマルウシグロブリン、ノーマルヤギグロブリン、ノーマルヒツジグロブリン、ノーマルラットグロブリン、ノーマルアルパカグロブリン、及びノーマルニワトリグロブリンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[3]に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
[5]前記第三の物質が、マウス、ウサギ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ラット、アルパカ、及びニワトリからなる群から選択される少なくとも1種の生物由来の抗ブロッキング剤抗体であることを特徴とする、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー試験片。
[6][1]~[5]のうちのいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー試験片を用いて試料中の被験物質を測定する方法であり、
前記コンジュゲートパッドに前記試料を接触させ、前記試料中の前記被験物質と前記標識試薬との複合体を形成させる工程、
前記テストラインにおいて、前記第二の物質で前記被験物質を介して前記複合体を捕捉して検出する工程、
前記コントロールラインにおいて、前記第三の物質で前記ブロッキング剤を介して前記標識試薬を捕捉する工程、
を含むことを特徴とする、被験物質測定方法。
[7]前記試料若しくは前記コンジュゲートパッドに非特異反応抑制剤を添加する工程をさらに含むか、又は、前記コンジュゲートパッドに前記非特異反応抑制剤がさらに溶出可能に保持されていることを特徴とする、[6]に記載の被験物質測定方法。
[8][1]~[5]のうちのいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー試験片を含むことを特徴とする、イムノクロマトグラフィー試験キット。
[9]非特異反応抑制剤をさらに含むことを特徴とする、[8]に記載のイムノクロマトグラフィー試験キット。
[10]前記非特異反応抑制剤が、ノーマルマウスグロブリン、ノーマルウサギグロブリン、ノーマルウシグロブリン、ノーマルヤギグロブリン、ノーマルヒツジグロブリン、ノーマルラットグロブリン、ノーマルアルパカグロブリン、及びノーマルニワトリグロブリンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[9]に記載のイムノクロマトグラフィー試験キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イムノクロマトグラフィー法において、コントロールラインでシグナルを検出するために標識試薬及び対照試薬以外の試薬を別途準備する必要がなく、かつ、試料中に異好性抗体に対する非特異反応抑制剤が存在していてもコントロールラインにおけるシグナル強度が影響を受けないコントロールラインシグナル形成機構を備える、イムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キットを提供することが可能となる。
【0017】
本発明によれば、このように標識試薬及び対照試薬以外の試薬を別途準備する必要がないため、簡便かつ低コストで、安定的なシグナル強度を呈するコントロールラインを備えるイムノクロマトグラフィー試験片を製造することが可能となる。また、コントロールラインが非特異反応抑制剤の影響を受けないため、適切量の非特異反応抑制剤を使用することができ、試料中の異好性抗体の影響を回避することが可能となる。そのため、テストライン及びコントロールラインにおける判定の確実性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るイムノクロマトグラフィー試験片の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
本発明のイムノクロマトグラフィー試験片は、試料中の被験物質を測定するためのイムノクロマトグラフィー試験片であって、少なくとも下記のコンジュゲートパッド、テストライン、及びコントロールラインを備える。
【0021】
また、本発明の被験物質を測定する方法は、前記本発明のイムノクロマトグラフィー試験片を用いて試料中の被験物質を測定する方法であり、本発明のイムノクロマトグラフィー試験キットは、少なくとも前記本発明のイムノクロマトグラフィー試験片を備えるキットである。
【0022】
(被験物質)
本発明において、測定される「被験物質」としては、特に制限されず、病原体若しくはこれらに由来する糖鎖等の物質、特定の疾患のマーカーとなる物質が挙げられ、より具体的には、細菌、原生生物や真菌、ウイルス、タンパク質、多糖類、核酸等が挙げられ、例えば、レジオネラ属菌、肺炎球菌、A群β溶血連鎖球菌、ノロウイルス(NV)、ロタウイルス、アデノウイルス、RSウイルス(RSV)、インフルエンザウイルス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
(試料)
本発明において、被験物質の測定に用いられる「試料」としては、前記被検物質が存在し得る試料である限り特に制限はない。前記試料としては、対象(好ましくはヒト)から採取された尿、糞便、喀痰、咽頭ぬぐい液、血液、血清、血漿、唾液、耳漏などの検体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、本明細書では「検体」も「試料」と同義に使用される。また、例えば、特許文献4~5で用いられているようなビオチンを用いたイムノクロマトグラフィー試験片では、ビオチンを含む血液や尿等の検体を試料として用いるとコントロールラインのシグナル強度が著しく減弱することが推察されるが、本発明においてはビオチンを用いる必要がないため、ビオチンを含む血液や尿等の検体も試料として好適に用いることができる。
【0024】
前記試料としては、流体試料であることが好ましく、水溶液又は水分散液であることがより好ましく、必要に応じて、前記検体を前処理液で懸濁したり、ろ過フィルターでろ過したものを用いてもよい。
【0025】
前記前処理液には、抽出用溶液、希釈用溶液、懸濁用溶液、保存用溶液等、前記試料を前処理又は保存するための溶液を含む。かかる前処理液としては、緩衝剤及び溶媒(好ましくは水)からなる緩衝液を含むことが好ましい。前記緩衝剤としては、目的とする免疫反応に好適なpHに調節可能な緩衝剤が用いられる。一般に、緩衝液のpHとしては、5~10が好ましく、この場合には、通常、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等の緩衝液が用いられ得る。前記緩衝液のより好適なpHとしては、6~8が好ましく、この場合には、例えば、HEPESやPIPESなどのグッド緩衝液が好ましい。
【0026】
前記前処理液には、前記緩衝剤以外に塩化ナトリウム等をさらに添加してもよく、また、公知の添加剤をさらに添加してもよい。前記添加剤としては、例えば、抗原-抗体反応の促進又は非特異反応の抑制を主な目的とするタンパク質(例えば、フリー抗体、ウシ血清アルブミン、カゼイン、ゼラチン等)、高分子化合物(例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ツイーン(登録商標)20、トリトン(登録商標)X-100等)、イオン性界面活性剤、ポリアニオン(例えば、デキストラン硫酸、ヘパリン、ポリスチレンスルホン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等)若しくはその塩;抗菌剤としてのアジ化ナトリウム、長鎖アルキル4級アンモニウム塩;検出抗原を抽出するために必要な成分等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
また、本発明に係る試料としては、非特異反応抑制剤をさらに添加したものを用いてもよい。本発明によれば、非特異反応抑制剤を反応系に添加しても、その影響を受けることなく、コントロールラインにおけるシグナル強度を十分な強さに維持することができる。本発明において、「非特異反応抑制剤」とは、ヒト抗マウス抗体(HAMA)、ヒト抗ウサギ抗体(HARA)、ヒト抗ウシ抗体、ヒト抗ヤギ抗体(HAGA)、ヒト抗ヒツジ抗体(HASA)、ヒト抗ラット抗体、ヒト抗アルパカ抗体、ヒト抗ニワトリ抗体等の、様々な生物由来の抗体を認識するヒト抗体である異好性抗体に対して結合可能な物質を示す。前記異好性抗体に前記非特異反応抑制剤が結合する、すなわち、異好性抗体の反応性を吸収することにより、該異好性抗体が下記の第一の物質及び/又は第二の物質に結合して偽陽性の判定が生ずることを防ぐ。このような非特異反応抑制剤としては、前記異好性抗体が認識して結合可能な生物由来の抗体が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、HAMAに対する非特異反応抑制剤としてはマウス抗体(ノーマルマウスグロブリン(Normal Mouse Globulin(NMG))、HAMA Blocker等)が、HARAに対する非特異反応抑制剤としてはウサギ抗体(ノーマルウサギグロブリン(Normal Rabbit Globulin(NRG))等)が、ヒト抗ウシ抗体に対する非特異反応抑制剤としてはウシ抗体(ノーマルウシグロブリン(Normal Bovine Globulin(NBG)等)が、HAGAに対する非特異反応抑制剤としてはヤギ抗体(ノーマルヤギグロブリン(Normal Goat Globulin(NGG))等)が、HASAに対する非特異反応抑制剤としてはヒツジ抗体(ノーマルヒツジグロブリン(Normal Sheep Globulin(NSG))等)が、ヒト抗ラット抗体に対する非特異反応抑制剤としてはラット抗体(ノーマルラットグロブリン(Normal Rat Globulin(NRG))等)が、ヒト抗アルパカ抗体に対する非特異反応抑制剤としてはアルパカ抗体(ノーマルアルパカグロブリン(Normal Alpaca Globulin(NAG))等)が、ヒト抗ニワトリ抗体に対する非特異反応抑制剤としてはニワトリ抗体(ノーマルニワトリグロブリン(Normal Chicken Globulin(NCG))等)が、それぞれ挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含有する血清であってもよい。前記非特異反応抑制剤を前記試料に添加する場合、その種類及び量は、測定対象とする試料の種類及び濃度等によって適宜調整することができる。
【0028】
(測定)
本発明において、「被験物質の測定」には、被験物質の存在の有無を確認する検出、及び被験物質の量の定量又は半定量が含まれる。本発明において、被験物質の測定は、テストラインにおけるシグナルを検出し、必要に応じてこれを定量することによって行われ、また、その測定の成否は、コントロールラインのシグナルを検出し、必要に応じてこれを定量することによって判定するが、前記「シグナル」には、呈色(発色)、反射光、発光、蛍光、放射性同位体による放射線等が含まれ、肉眼で確認できるものの他、シグナルの種類に応じた検出方法・装置によって確認できるものも含まれる。
【0029】
<イムノクロマトグラフィー試験片>
本発明のイムノクロマトグラフィー試験片は、
試料中の被験物質を測定するためのイムノクロマトグラフィー試験片であって、
コンジュゲートパッド、テストライン、及びコントロールラインを備えており、
前記コンジュゲートパッドには、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第一の物質、ブロッキング剤、及び標識体を含む標識試薬が溶出可能に保持されており、
前記標識体は、前記第一の物質と結合しており、かつ、前記ブロッキング剤でブロッキングされており、
前記テストラインには、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第二の物質が固定化されており、
前記コントロールラインには、前記ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な第三の物質が固定化されている、
ことを特徴とする。
【0030】
また、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片としては、
前記コンジュゲートパッドに接しているサンプルパッド、及び
前記コンジュゲートパッドに接しており、かつ、前記テストライン及び前記コントロールラインを有する多孔性メンブレン、
をさらに備えることが好ましい。
【0031】
以下、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片の好ましい形態について、図面を参照しながら本発明の一実施形態を例に挙げて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
図1は、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片の一実施形態(試験片100)の概略模式図を示す斜視図である。試験片100は、ラテラルフロー式イムノクロマトグラフィー試験片であり、試料を受容するサンプルパッド140と、標識試薬が溶出可能に保持されたコンジュゲートパッド130と、テストライン122及びコントロールライン124を有する多孔性メンブレン120と、を備える。また、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片は、必要に応じて、図1に示すように、吸収パッド150や、これらを支持するシート110(例えば、プラスチック製粘着シート)をさらに備えていてもよい。さらに、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片としては、一連のサンプルパッド、コンジュゲートパッド、多孔性メンブレン、吸収パッド、シート等を収納するケーシング(図示せず)を備えていてもよく、前記ケーシングは、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、テストライン、コントロールライン等を認識するための窓を備えていてもよい。これらの部材の大きさや間隔は、被験物質の種類や測定目的等に応じて、適宜調整することができる。なお、以下の図1を参照する説明においては、多孔性メンブレン120のサンプルパッド140側を上流(試料の展開方向の上流側)、吸収パッド150側を下流(試料の展開方向の下流側)とする。
【0033】
図1において、コンジュゲートパッド130、テストライン122、及びコントロールライン124は、上流からこの順で配置されているが、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片の配置としてはこれに制限されず、本発明に係るテストラインとコントロールラインとは、互いに前記コンジュゲートパッドから同距離に配置されていてもよく、例えば、前記テストラインと前記コントロールラインとが、前記コンジュゲートパッドを中心とする同心円状に配置されていたり、バー状のテストラインとコントロールラインとが、互いに交わってプラス(+)の記号等を形成するように配置されていてもよい。また、本発明に係るテストラインは、本発明に係るコントロールラインよりも下流に配置されていてもよい。
【0034】
(サンプルパッド)
本発明に係るサンプルパッド(図1ではサンプルパッド140)は、滴下又は塗布された試料を受容する試料供給部として機能する。さらに、前記サンプルパッドは、試料中の不溶物粒子などをろ過する機能や試料が溢れることを防ぐ機能をも兼ねることができる。前記サンプルパッドの材料としては、均一な特性を有する材料であることが好ましく、例えば、セルロースろ紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、不織布、及び綿布が挙げられる。前記サンプルパッドの厚さ及び大きさとしては、特に制限されず、適宜調整することができる。
【0035】
(コンジュゲートパッド)
本発明に係るコンジュゲートパッド(図1ではコンジュゲートパッド130)は、標識試薬を溶出可能に保持する標識試薬保持部として機能する。前記コンジュゲートパッドの材料としては、多孔性材料であることが好ましく、例えば、セルロースろ紙、ガラス繊維、及び不織布が挙げられ、これらの中でも、ガラス繊維がより好ましい。前記コンジュゲートパッドの厚さとしては、特に制限されず、通常、260~950μmとすることができる。前記コンジュゲートパッドの面積としても特に制限されず、通常、10~100mmとすることができる。
【0036】
〔標識試薬〕
本発明において、前記コンジュゲートパットによって保持される標識試薬は、標識体と、前記被験物質に対して特異的に結合可能な第一の物質と、ブロッキング剤とを含み、前記標識体は前記第一の物質と結合しており、かつ、前記ブロッキング剤でブロッキングされている。
【0037】
本発明において、「標識体」は、テストライン及びコントロールラインにおいてシグナルとして検出される標識として機能する。本発明に係る標識体としては、粒子であることが好ましく、例えば、金、銀、白金、銅等の金属粒子又は金属コロイド粒子;酸化鉄等の金属酸化物粒子又は金属酸化物コロイド粒子;セレン、テルル、硫黄等の非金属粒子;染料などで着色したものを含む有色ラテックス粒子;蛍光シリカ粒子やユーロピウムなどの蛍光粒子が挙げられ、これらの中でも、前記第一の物質を結合(吸着)させやすい傾向にある観点から、金コロイド粒子が好ましい。また、前記標識体が粒子である場合、その大きさとしては、特に制限されないが、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径D50で、通常、10~1000nmとすることができる。
【0038】
本発明において、「被験物質に対して特異的に結合可能な第一の物質(以下、場合により単に「第一の物質」という)」とは、目的とする被験物質を特異的に認識し、結合することができる物質を示す。このような第一の物質としては、典型的には、前記被験物質が抗原の場合は該抗原に特異的に結合可能な抗体;前記被験物質が抗体の場合は該抗体に特異的に結合可能な抗原又は抗体(免疫グロブリン分子に対する抗体);前記被験物質が核酸の場合は該核酸に特異的に結合可能な核酸、抗体又は結合タンパクである。
【0039】
なお、本明細書において、「抗体」としては、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY等のいずれのアイソタイプであってもよい。また、本明細書において、「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体)、及びこれらの抗体断片が含まれ、前記抗体断片には、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、単鎖抗体、重鎖抗体、ダイアボディーや抗体の可変領域を結合させた低分子化抗体も含まれる。
【0040】
本発明において、前記第一の物質が抗体である場合、かかる抗体(抗被験物質抗体)としては、被験物質への結合能を有する限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても前記抗体断片であってもよい。このような抗被験物質抗体としては、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することによって産生することができ、ポリクローナル抗体である場合には、例えば、前記被験物質を免疫原として免疫化された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等)の血清から調製することができ、モノクローナル抗体である場合には、例えば、抗体産生細胞(前記被験物質を免疫原として免疫化された動物の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等)とミエローマ細胞とを融合した細胞(ハイブリドーマ)による抗体の産生方法(代表的には、ケーラー及びミルスタインによる方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495,1975))によって産生することができる。また、前記抗被験物質抗体としては、当該抗体をコードするDNAが取得できれば、組換えDNA法によって作製することもできる。さらに、前記抗被験物質抗体としては、一般に流通されているものを適宜用いてもよい。
【0041】
本発明において、「ブロッキング剤」は、前記標識体の第一の物質が結合していない表面を被覆し、前記標識体が、前記第一の物質以外の、試料に由来するタンパク質やその他物質等に対して非特異的に結合することを防ぐ機能を有する。例えば、前記標識体として金コロイド粒子を用いた場合、金コロイド粒子の表面は前記第一の物質(抗原、抗体等)にも、前記試料に由来するタンパク質やその多物質にも非特異的に吸着しやすいという性質を有していることから、試料中に被験物質が含まれていない場合であっても、判定結果が陽性となってしまうことがある(偽陽性)。そのため、前記ブロッキング剤によって、第一の物質が結合していない標識体の表面をブロッキングして被覆する。また、本発明において、前記ブロッキング剤は、下記の第三の物質に特異的に認識される。
【0042】
前記ブロッキング剤としては、特に制限されず、一般的にブロッキング剤として用いられているものを適宜用いることができ、例えば、カゼイン、大腸菌由来熱ショックタンパク質(BPF)、牛血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、スキムミルクが挙げられる。また、本発明においては、前記ブロッキング剤として、前記被検物質及び前記第一の物質のいずれにも結合しなければ、抗体、プロテインG、プロテインA等を用いることもできる。これらの中でも、本発明に係るブロッキング剤としては、カゼイン及び大腸菌由来熱ショックタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質(ブロッキングタンパク質)であることが好ましく、生物由来のタンパク質であることがより好ましい。
【0043】
本発明に係る標識試薬において、前記標識体と前記第一の物質とは結合している。前記標識体と前記第一の物質との結合には物理的吸着も含まれる。前記標識体と前記第一の物質とを結合させる方法としては、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、例えば、物理的吸着法や、前記標識体の表面を修飾基(カルボキシル基、エポキシ基、トシル基、アミノ基、ヒドロキシル基等)によって修飾し、同修飾基によって結合させる方法が挙げられる。前記標識体と前記第一の物質との結合において、その配合比(標識体:第一の物質)としては、前記標識体に対する前記第一の物質の結合のし易さや使用する第一の物質の被験物質に対する感度等によって適宜調整することができる。
【0044】
本発明に係る標識試薬において、前記標識体の前記第一の物質が結合していない表面は、前記ブロッキング剤でブロッキングされている。前記標識体の前記第一の物質が結合していない表面を前記ブロッキング剤によりブロッキングする方法としては、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、例えば、前記標識体溶液(例えば、コロイド溶液)に前記第一の物質(例えば、抗被験物質抗体)を添加し、標識体表面に抗体を固定化させる。これに前記ブロッキング剤を添加することにより、該標識体の第一の物質が結合していない表面に前記ブロッキング剤を結合させてブロッキングし、本発明に係る標識試薬を得ることができる。本発明に係る標識試薬において、前記第一の物質と前記ブロッキング剤との配合比(第一の物質:ブロッキング剤)としては、特に制限されないが、例えば、液量での質量比で、1:0.1~1:100とすることが好ましい。
【0045】
本発明に係るコンジュゲートパッドに前記標識試薬を保持させる方法としては、試料(好ましくは水溶液若しくは水分散液)又は下記の展開液を展開した際にこれに前記標識試薬が溶出可能となる方法であれば特に制限されず、例えば、前記標識試薬を含有する溶液を上記のコンジュゲートパッドの材料に塗布又は含浸させた後に乾燥させる方法が挙げられる。前記標識試薬を含有させる溶液としては、例えば緩衝液が挙げられ、前記緩衝液としては、上記の前処理液で挙げたものと同様のものが挙げられる。本発明に係るコンジュゲートパッドに保持させる前記標識試薬の量としては、試料の形態、使用する第一の物質の被験物質に対する感度や測定目的等によって適宜調整することができる。
【0046】
また、本発明に係るコンジュゲートパッドとしては、上記の非特異反応抑制剤をさらに溶出可能に保持していることが好ましい。前記非特異反応抑制剤をさらに保持させる方法としては上記と同様であり、前記非特異反応抑制剤をさらに保持させる場合、その種類及び量は、測定対象とする試料の種類及び濃度等によって適宜調整することができる。
【0047】
本発明のイムノクロマトグラフィー試験片においては、前記試料が前記コンジュゲートパッドに接触すると、前記標識試薬が溶出されると共に、前記試料中に前記被験物質が存在する場合には、該被験物質と前記標識試薬を構成する第一の物質との相互作用(例えば抗原抗体反応)により、複合体(例えば免疫複合体)が形成される。
【0048】
(多孔性メンブレン)
本発明に係る多孔性メンブレン(図1では多孔性メンブレン120)は、イムノクロマトグラフィーのクロマトグラフィー媒体(固定相)として機能する不溶性担体である。また、本発明に係る多孔性メンブレンは、下記のテストライン及びコントロールラインを有する抗体固定化メンブレンでもある。
【0049】
前記多孔性メンブレンとしては、多孔性膜であれば特に制限されず、例えば、ニトロセルロース膜、ニトロセルロース混合エステル膜、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布が挙げられ、これらの中でも、テストライン及びコントロールラインを作製し易い傾向にある観点から、ニトロセルロース膜又はニトロセルロース混合エステル膜が好ましい。なお、かかる多孔性メンブレンに展開される試料の移動速度は、当該多孔性メンブレンの材質、大きさ、孔径、及び分布などにより変えることができ、被験物質の種類や濃度、測定目的等に応じて、適宜調整することができる。
【0050】
〔テストライン〕
本発明において、前記多孔性メンブレンが有するテストライン(図1ではテストライン122)は、前記多孔性メンブレンのテストライン領域に前記被験物質に対して特異的に結合可能な第二の物質が固定化されてなるものであり、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片の検出部として機能する。本発明に係るテストラインは、前記コンジュゲートパッドよりも下流側に配置される。
【0051】
本発明において、「被験物質に対して特異的に結合可能な第二の物質(以下、場合により単に「第二の物質」という)」とは、目的とする被験物質を特異的に認識し、結合することができる物質を示す。このような第二の物質としては、前記第一の物質として挙げたものと同様のものが挙げられ、さらに、前記第二の物質としては、前記被験物質と前記標識試薬を構成する第一の物質との相互作用(例えば抗原抗体反応)によって形成された複合体(例えば免疫複合体)に対して特異的に結合可能な物質であってもよい。前記第一の物質と前記第二の物質とは同一であっても異なっていてもよいが、被験物質の被認識部位によっては、該被験物質に対する結合において競合しないことが好ましい。
【0052】
本発明のイムノクロマトグラフィー試験片においては、前記被験物質に結合して複合体を形成した標識試薬がテストラインまで移動すると、テストラインに固定化された第二の物質に前記被験物質を介して前記複合体が補足され、該複合体を構成する標識試薬が該テストラインに集積する。その結果、テストラインは標識試薬の集積に起因して呈色などを示すため、これをシグナルとして検出し、試料中の被験物質を測定することができる。
【0053】
なお、図1において、テストライン122はライン状に形成されているが、本発明に係るテストラインの形状はこれに限定されず、円形、多角形等の任意の形状にすることができる。これらの形状の中でも、本発明に係るテストラインの形状としては、ライン状であることが好ましく、幅0.5~1.5mmのライン状であることがより好ましい。
【0054】
〔コントロールライン〕
本発明において、前記多孔性メンブレンが有するコントロールライン(図1ではコントロールライン124)は、前記多孔性メンブレンのコントロールライン領域に対照試薬が固定化されてなるものであり、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片において、試験成立の可否を判定するためのコントロール部として機能する。本発明に係るコントロールラインは、前記コンジュゲートパッドよりも下流側に配置されており、同コントロールラインとしては、前記テストラインと前記コンジュゲートパッドから等距離にあるか、前記テストラインよりも下流側に配置されていることが好ましい。
【0055】
〔対照試薬〕
本発明において、前記コントロールラインに固定化される対照試薬は、前記ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な第三の物質である。本発明において、「ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な第三の物質(以下、場合により単に「第三の物質」という)」とは、前記ブロッキング剤を特異的に認識し、結合することができる物質を示す。このような第三の物質としては、典型的には、前記ブロッキング剤に対して特異的に結合可能な抗ブロッキング剤抗体である。また、本発明に係る第三の物質は、種々の生物由来物質の非特異反応抑制剤と結合しない又はし難いものであることがより好ましい。
【0056】
このような第三の物質としては、抗ブロッキング剤抗体であることが好ましく、前記抗ブロッキング剤抗体としては、例えば、前記ブロッキング剤が大腸菌由来熱ショックタンパク質である場合には抗大腸菌由来熱ショックタンパク質抗体(抗BPF抗体)が、前記ブロッキング剤が牛血清アルブミンである場合には抗牛血清アルブミン抗体(抗BSA抗体)が、前記ブロッキング剤がヒト血清アルブミンである場合には抗ヒト血清アルブミン抗体(抗HSA抗体)が、前記ブロッキング剤がカゼイン又はスキムミルクである場合には抗カゼイン抗体が、それぞれ挙げられ、これらの中でも、本発明に係る第三の物質としては、前記ブロッキング剤がブロッキングタンパク質(例えば、カゼイン、大腸菌由来熱ショックタンパク質)であって、これらに対する抗ブロッキングタンパク質抗体(例えば、抗カゼイン抗体、抗BPF抗体)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
前記抗ブロッキング剤抗体としては、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY等のいずれのアイソタイプであってもよく、完全な抗体であっても抗体断片であってもよい。また、前記抗ブロッキング剤抗体としては、マウス、ウサギ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ラット、アルパカ、ニワトリ等の様々な動物種由来のものを用いることができる。
【0058】
本発明のイムノクロマトグラフィー試験片においては、前記標識試薬(コントロールラインが前記テストラインよりも下流側に配置されている場合には該テストラインで捕捉されなかった標識試薬)がコントロールラインまで移動すると、コントロールラインに固定化された前記対照試薬(第三の物質、好ましくは抗ブロッキング剤抗体)に前記ブロッキング剤を介して捕捉され、該ブロッキング剤を備える標識試薬が該コントロールラインに集積する。その結果、コントロールラインは標識試薬の集積に起因して呈色などを示すため、これをシグナルとして検出し、イムノクロマトグラフィー試験片上で試料が正常に移動したことを確認することができる。本発明によれば、種々の生物由来物質を非特異反応抑制剤として用いた場合にも、シグナル強度を減弱させることなくコントロールラインを呈色等させることが可能となる。
【0059】
また、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片においては、従来のコントロールラインの検出方法とは異なり、前記標識試薬を構成する抗体の由来となる動物種にとらわれないため、より汎用性の高い、ユニバーサル試薬として用いることが可能となる。
【0060】
なお、図1において、コントロールライン124はライン状に形成されているが、本発明に係るコントロールラインの形状はこれに限定されず、円形、多角形等の任意の形状にすることができる。これらの形状の中でも、本発明に係るコントロールラインの形状としては、ライン状であることが好ましく、幅0.5~1.5mmのライン状であることがより好ましい。
【0061】
本発明に係る多孔性メンブレンにおいて、前記テストライン及び前記コントロールラインを作製する方法、すなわち、前記第二の物質及び前記対照試薬(第三の物質、好ましくは抗ブロッキング剤抗体)を固定化する方法としては、特に制限されず、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、例えば、物理的吸着法や、共有結合させる方法が挙げられる。例えば、前記多孔性メンブレンがニトロセルロース膜又はニトロセルロース混合エステル膜である場合にはこれに物理吸着させることができるため、物理的吸着法を採用することが好ましい。固定化させる第二の物質及び対照試薬の量は、それらの種類、測定対象とする試料の種類、被験物質又はブロッキング剤に対する感度等によって適宜調整することができ、通常、多孔性メンブレン1mmあたり、それぞれ独立に、0.04~1.2μgとすることが好ましい。
【0062】
(吸収パッド)
本発明に係る吸収パッド(図1では吸収パッド150)は、クロマトグラフィー媒体である前記多孔性メンブレンを移動した試料や展開液、テストラインやコントロールラインに捕捉されなかった標識試薬や対照試薬などを吸収する機能を有する部材である。本発明に係る吸収パッドは、通常、前記テストライン及び前記コントロールラインよりも下流側に配置される。前記吸収パッドの材料としては、特に制限されず、例えば、セルロースろ紙、不織布、布、セルロースアセテート膜等の吸水性材料が挙げられる。
【0063】
なお、図1において、サンプルパッド140、コンジュゲートパッド130、多孔性メンブレン120、吸収パッド150は、それぞれ別の部材からなるが、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片の構成はこれに制限されるものではなく、これらの部材は、毛細管現象によって試料が移動することができる部材であればよく、例えば、図1に示すシート110のような基材に貼り付けたものであっても、単一の多孔性部材からなる一連のシートとしてもよい。
【0064】
<イムノクロマトグラフィー試験片を用いる被験物質測定方法>
本発明の被験物質測定方法は、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片を用いて試料中の被験物質を測定する方法であり、
前記コンジュゲートパッドに前記試料を接触させ、前記試料中の前記被験物質と前記標識試薬との複合体を形成させる工程、
前記テストラインにおいて、前記第二の物質で前記被験物質を介して前記複合体を捕捉して検出する工程、
前記コントロールラインにおいて、前記第三の物質で前記ブロッキング剤を介して前記標識試薬を捕捉する工程、
を含むことを特徴とする。より好ましくは、
前記試料を前記サンプルパッドに受容させる工程(工程1)、
前記コンジュゲートパッドに前記試料を接触させ、前記試料中の前記被験物質と前記標識試薬との複合体を形成させる工程(工程2)、
前記テストラインにおいて、前記第二の物質で前記被験物質を介して前記複合体を捕捉して検出する工程(工程3)、及び
前記コントロールラインにおいて、前記第三の物質で前記ブロッキング剤を介して前記標識試薬を捕捉する工程(工程4)、
を含むことを特徴とする。
【0065】
以下に、本発明の被験物質測定方法の一実施形態として、図1の試験片100を使用した測定方法(イムノクロマトグラフィー法)を説明する。
【0066】
先ず、試料をサンプルパッド140に滴下又は塗布してこれに受容させる(工程1)。前記試料としては、前述のとおりであり、前記前処理液を添加したりこれにより調製されたものであってもよく、前記非特異反応抑制剤をさらに添加したものであってもよい。また、前記サンプルパッドには、前記試料と同時又は別々に、展開液及び/又は前記非特異反応抑制剤を滴下又は塗布してもよい。前記展開液としては、前記前処理液とその使用目的は異なるが、前記前処理液として挙げたものと同様のものが挙げられ、前記前処理液を用いた場合には、これと同一の組成であってもよい。
【0067】
サンプルパッド140に受容された試料は、毛細管現象によってサンプルパッド140を通過し、コンジュゲートパッド130へと移動する。それにより、コンジュゲートパッド130に前記試料を接触させて、前記標識試薬を溶出させると共に、前記試料中に前記被験物質が存在する場合には、該被験物質(例えば抗原)と前記標識試薬を構成する第一の物質(例えば前記抗原に対する抗体)との相互作用(例えば抗原抗体反応)により、前記被験物質と前記標識試薬との複合体(例えば免疫複合体)を形成させる(工程2)。
【0068】
また、このとき、前記試料若しくはコンジュゲートパッド130に前記非特異反応抑制剤を添加した場合、又は、コンジュゲートパッド130に前記非特異反応抑制剤がさらに溶出可能に保持されている場合であって、前記試料中に異好性抗体が存在する場合には、前記非特異反応抑制剤が前記異好性抗体に結合し、下流側で、該異好性抗体が下記の第一の物質及び/又は第二の物質に結合して偽陽性の判定が生ずることを防ぐ。
【0069】
次いで、前記複合体は、毛細管現象によって下流側に移動し、テストライン122(検出部)に到達する。それにより、テストライン122において、テストライン122に固定化されている第二の物質(例えば前記抗原に対する抗体)で前記被験物質を介して前記複合体を捕捉して検出する(工程3)。前記複合体がテストライン122に捕捉される結果、テストライン122は前記標識試薬を構成する標識体によって呈色などを示すため、これをシグナルとして検出し、必要に応じて定量することにより、前記試料中の被験物質を測定することができる。
【0070】
また、コンジュゲートパッドから溶出された標識試薬(コントロールラインが前記テストラインよりも下流側に配置されている場合には該テストラインで捕捉されなかった標識試薬)は、毛細管現象によって下流側に移動し、コントロールラインライン124にも到達する。それにより、コントロールライン124において、テストライン122に固定化されている対照試薬(第三の物質、好ましくは抗ブロッキング剤抗体)で前記ブロッキング剤を介して前記標識試薬を捕捉して検出する(工程4)。なお、図1の試験片100においては工程3の後に工程4が行われるが、工程3と工程4とは互いに独立していても、同位置において同時であってもよく、また、工程4の後に工程3が行われてもよい。前記標識試薬がコントロールライン124に捕捉される結果、コントロールラインライン124は前記標識試薬を構成する標識体によって呈色などを示すため、これをシグナルとして検出し、必要に応じて定量することにより、イムノクロマトグラフィー試験片上で試料が正常に移動したことの判定をすることができる。前記判定の基準は、測定の目的及び被験物質の種類等によって適宜設定することができる。
【0071】
<イムノクロマトグラフィー試験キット>
本発明のイムノクロマトグラフィー試験キットは、少なくとも、本発明のイムノクロマトグラフィー試験片を含む。
【0072】
また、本発明のイムノクロマトグラフィー試験キットとしては、必要に応じて、前記前処理液、前記展開液、及び非特異反応抑制剤からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。さらに、前記標識試薬、前記対照試薬、前処理用カートリッジなどを組み合わせることもできる。また、前記標識体として酵素標識を利用する場合には、標識の検出に必要な基質や反応停止液などを含めることもできる。また、前記競合法を検出原理とする場合には、例えば、固相化した被験物質、又は被験物質に結合する物質を固定した固相等を含めることもできる。さらに、本発明のイムノクロマトグラフィー試験キットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることもできる。
【0073】
本発明のイムノクロマトグラフィー試験片、被験物質測定方法、及びイムノクロマトグラフィー試験キットは、研究用としてのみならず、例えば、体外診断用医薬品として、前記被験物質に関連する疾患の診断の基礎となる該被験物質の測定に利用することができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
<イムノクロマトグラフィー試験片の作製>
下記の(1)~(3)にしたがって、図1に示す構造を有するイムノクロマトグラフィー試験片を作製した。作製したイムノクロマトグラフィー試験片は、粘着シート110上に、ニトロセルロース膜からなる多孔性メンブレン120が配置され、さらにその上の一方の端にコンジュゲートパッド130が配置された構成を有しており、コンジュゲートパッド130には、ブロッキング剤(大腸菌由来熱ショックタンパク質(BPF))によりブロッキングされた標識試薬(抗レジオネラニューモフィラ血清型1LPSウサギポリクローナル抗体感作金コロイド粒子)が保持されている。また、コンジュゲートパッド130の下流側に位置する検出部であるテストライン122には、抗被験物質抗体として抗レジオネラニューモフィラ血清型1LPSウサギポリクローナル抗体が固定化されている。さらに、コンジュゲートパッド130の下流側に位置するコントロール部であるコントロールライン124には、抗ブロッキング剤抗体として抗BPF抗体が固定化されている。
【0076】
(1)テストライン及びコントロールラインの作製
従来法で調製した抗レジオネラニューモフィラ血清型1LPSウサギポリクローナル抗体(抗レジオネラウサギ抗体)を予め20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に希釈し、0.5mg/mlとした。これをニトロセルロース膜からなる多孔性メンブレンのテストライン領域に塗布して乾燥させ、前記抗レジオネラウサギ抗体が固定化されたテストライン(図1ではテストライン122)を作製した。また、従来法で調製したBPFに対するウサギ由来の精製IgG抗体(抗BPFウサギ抗体)を予め10mMリン酸緩衝液(pH7.5)に希釈し、1.5mg/mlとした。これを前記多孔性メンブレンのコントロールライン領域に塗布し、乾燥させて、前記抗BPFウサギ抗体が固定化されたコントロールライン(図1ではコントロールライン124)を作製し、テストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレン120を得た。
【0077】
(2)コンジュゲートパッドの作製
先ず、金コロイド溶液1000μLに対して、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で希釈済みの抗レジオネラニューモフィラ血清型1LPSウサギポリクローナル抗体(抗レジオネラウサギ抗体)の溶液100μLを添加した。次いで、この溶液にブロッキング剤としてBPF溶液を100μL添加後、遠心分離機を用いて10,000×g、25℃の条件で10分間遠心分離して上澄み液を除去した後、20mM Tris-HCl(pH8.2)からなる保存液を加えた。次いで、ボルテックスミキサーにより粒子を再分散させた後、10,000×g、25℃の条件で10分間遠心分離した。さらに、上澄み液を除去した後、20mM Tris-HCl(pH8.2)からなる保存液を加えて、ボルテックスミキサーにより粒子を再分散させ、抗レジオネラウサギ抗体感作金コロイド粒子(標識試薬)の溶液を得た。次いで、この標識試薬の溶液100μLに対して、Normal Rabbit Globlin(NRG、非特異反応抑制剤)を含む20mM Tris-HCl(pH8.2)溶液を400μLの割合となるように加え、よく混和した。得られた溶液800μLをガラス繊維パッドに添加して均一に馴染ませ、十分に乾燥させて、前記標識試薬及びNRGが保持されたコンジュゲートパッド130を得た。
【0078】
(3)イムノクロマトグラフィー試験片の作製
(1)で作製したテストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレン120上に、(2)で作製したコンジュゲートパッド130を配置し、さらにその上にサンプルパッド140としてガラス繊維パッドを配置した。また、展開された水溶液を吸収するための吸収パッド150としてのセルロースアセテート膜をコントロールラインの下流側となるように多孔性メンブレン120上に配置して、イムノクロマトグラフィー試験片100を得た。
【0079】
(実施例2)
抗BPFウサギ抗体に代えて、従来法で調製したカゼインに対するウサギ由来の精製IgG抗体(抗カゼインウサギ抗体)を用いたこと以外は実施例1の(1)と同様にしてテストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレンを作製した。また、ブロッキング剤としてBPF溶液に代えてカゼイン溶液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にしてコンジュゲートパッドを作製した。さらに、これらを多孔性メンブレン120及びコンジュゲートパッド130としてそれぞれ用いたこと以外は実施例1の(3)と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0080】
(実施例3)
抗レジオネラウサギ抗体に代えて、従来法で調製した抗RSVラットモノクローナル抗体(抗RSVラット抗体)を用いたこと以外は実施例1の(1)と同様にして、テストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレンを作製した。また、抗レジオネラウサギ抗体に代えて前記抗RSVラット抗体を用い、NRGを加えなかったこと以外は実施例1の(2)と同様にして、コンジュゲートパッドを作製した。さらに、これらを多孔性メンブレン120及びコンジュゲートパッド130としてそれぞれ用いたこと以外は実施例1の(3)と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0081】
(実施例4)
抗BPFウサギ抗体に代えて実施例2と同様の抗カゼインウサギ抗体を用いたこと以外は実施例3と同様にして、テストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレンを作製した。また、ブロッキング剤としてBPF溶液に代えてカゼイン溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、コンジュゲートパッドを作製した。さらに、これらを多孔性メンブレン120及びコンジュゲートパッド130としてそれぞれ用いたこと以外は実施例3と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0082】
(実施例5)
抗RSVラット抗体に代えて、従来法で調製した抗NVマウスモノクローナル抗体(抗NVマウス抗体)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、テストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレンを作製した。また、抗RSVラット抗体に代えて前記抗NVマウス抗体を用いたこと以外は実施例3と同様にして、コンジュゲートパッドを作製した。さらに、これらを多孔性メンブレン120及びコンジュゲートパッド130としてそれぞれ用いたこと以外は実施例3と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0083】
(比較例1)
(1)抗BPFウサギ抗体に代えて、従来法で調製した抗マウスIgG抗体を用いたこと以外は実施例1の(1)と同様にしてテストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレンを作製した。
【0084】
(2)先ず、実施例1の(2)と同様にして抗レジオネラウサギ抗体感作金コロイド粒子(標識試薬)の溶液を得た。さらに、抗レジオネラウサギ抗体に代えて、従来法で調製したマウスIgG抗体を用いたこと以外は前記抗レジオネラウサギ抗体感作金コロイド粒子(標識試薬)の溶液と同様にして、マウスIgG抗体感作金コロイド粒子(ダミー粒子)の溶液を作製した。次いで、得られた標識試薬の溶液100μL及びダミー粒子の溶液100μLに対して、NRGを含む20mM Tris-HCl(pH8.2)溶液を400μLの割合となるように加えて、よく混和した。得られた溶液800μLをガラス繊維パッドに添加して均一に馴染ませ、十分に乾燥させて、前記標識試薬、ダミー粒子、及びNRGが保持されたコンジュゲートパッドを得た。
【0085】
(3)多孔性メンブレン120及びコンジュゲートパッド130に代えて、それぞれ、比較例1の(1)で得られた多孔性メンブレン及び(2)で得られたコンジュゲートパッドを用いたこと以外は実施例1の(3)と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0086】
(比較例2)
NRGを加えなかったこと以外は比較例1の(2)と同様にして、コンジュゲートパッドを得た。これをコンジュゲートパッド130に代えて用いたこと以外は比較例1と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0087】
(比較例3)
抗BPFウサギ抗体に代えて、従来法で調製した抗ウサギIgG抗体を用いたこと以外は実施例1の(1)と同様にして、テストライン及びコントロールラインを有する多孔性メンブレンを作製した。これを多孔性メンブレン120に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0088】
(比較例4)
NRGを加えなかったこと以外は比較例3と同様にしてコンジュゲートパッドを作製し、これをコンジュゲートパッド130に代えて用いたこと以外は比較例3と同様にして、イムノクロマトグラフィー試験片を得た。
【0089】
(試験例1)
尿を試料とするイムノクロマトグラフィー試験片におけるブロッキング剤検出法によるコントロールラインのシグナル強度及び非特異反応抑制効果(従来技術との対比)
試料として、レジオネラ由来の多糖抗原の不存在を確認済みのヒトの尿検体(陰性試料A~C)、前記陰性試料A~CにHARA血清をそれぞれ10質量%となるように添加(スパイク)した偽陽性試料A~C、前記陰性試料A~Cにレジオネラ由来の多糖抗原をそれぞれ添加した陽性試料A~Cの計9種を用いた。なお、尿検体中のレジオネラ由来の多糖抗原の存在・不存在は、イムノクロマト試薬であるレジオネラキット「イムノキャッチ―レジオネラ」(栄研化学株式会社製)を用いて確認した。
【0090】
各試料を、実施例1及び比較例1~4で作製したイムノクロマトグラフィー試験片のサンプルパッドに約90μLずつ滴下し、15分後にテストラインのシグナルを確認した。テストラインのシグナルの確認は目視にて行い、次の基準:
+ :テストラインの呈色がはっきりと確認できる(陽性)
+↓:テストラインの呈色がわずかに確認できる(弱陽性)
- :テストラインの呈色が確認できない(陰性)
により判定した。また、コントロールラインのシグナルの確認も目視にて行い、次の基準:
A:コントロールラインの呈色がはっきりと確認できる
B:コントロールラインの呈色がわずかに確認できるが確認しづらい
C:コントロールラインの呈色が確認できない
により判断した。さらに、テストラインが線状ではなく点状に呈色しており、明らかに多孔性メンブレンが目詰まりを起こしていることが確認されているものについては、詰まりの判定を「あり」とし、それ以外は「なし」とした。得られた結果を下記の表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示したとおり、実施例1のイムノクロマトグラフィー試験片において、抗原は含有しないがHARA血清を含有する偽陽性の試料であっても、陽性判定(偽陽性)の発生を有意に抑制し、かつ、コントロールラインの呈色がはっきりと確認され、シグナル強度を十分な強さとできることが確認された。また、実施例1のイムノクロマトグラフィー試験片において、抗原を含有する陽性試料に対するテストライン及びコントロールラインの呈色もはっきりと確認され、シグナル強度が大きく低下することはなかったことから、迅速な検査及び診断に資する免疫学的測定法の利点を損なうことがないことも確認された。
【0093】
他方、比較例1~2のイムノクロマトグラフィー試験片においては、目詰まりが起こったり、テストラインのシグナル強度にばらつきが生じたり、陰性試料においても偽陽性が生じたりした。これは、ダミー粒子の存在による粒子量の増加や、それによるバックグラウンドの上昇、ダミー粒子に対する非特異反応によるものと考えられる。また、比較例3のイムノクロマトグラフィー試験片においては、テストラインのシグナル強度に問題はなかったものの、コントロールラインのシグナル強度が著しく減弱するため、検体展開の有無を確認することが困難となった。これは、非特異反応抑制剤としてのNRGがコントロールラインに捕捉されて標識試薬の捕捉を阻害したためといえる。
【0094】
(試験例2)
尿を試料とするイムノクロマトグラフィー試験片におけるブロッキング剤検出法によるコントロールラインのシグナル強度及び非特異反応抑制効果(ブロッキング剤の種類)
試料として、レジオネラ由来の多糖抗原の不存在を確認済みのヒトの尿検体(陰性試料D~F)、前記陰性試料D~FにHARA血清をそれぞれ10質量%となるように添加(スパイク)した偽陽性試料D~F、前記陰性試料D~Fにレジオネラ由来の多糖抗原をそれぞれ添加した陽性試料D~Fの計9種を用いた。なお、尿検体中のレジオネラ由来の多糖抗原の存在・不存在は、イムノクロマト試薬であるレジオネラキット「イムノキャッチ―レジオネラ」(栄研化学株式会社製)を用いて確認した。
【0095】
各試料を、実施例1~2で作製したイムノクロマトグラフィー試験片のサンプルパッドに約90μLずつ滴下し、15分後にテストライン及びコントロールラインのシグナルを確認し、試験例1に記載の基準により判定した。得られた結果を下記の表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示したとおり、実施例1~2のイムノクロマトグラフィー試験片において、抗原を含有しないがHARA血清を含有する偽陽性の試料であっても、偽陽性の発生を有意に抑制し、かつ、コントロールラインのシグナル強度を十分な強さとできることが確認された。また、実施例1~2のイムノクロマトグラフィー試験片のいずれにおいても、抗原を含有する陽性試料に対するテストライン及びコントロールラインのシグナル強度が大きく低下することはなかったことから、迅速な検査及び診断に資する免疫学的測定法の利点を損なうことはないことも確認され、本発明において、ブロッキング剤としてはBPFに限定されないことが確認された。
【0098】
(試験例3)
鼻腔ぬぐい液を試料とするイムノクロマトグラフィー試験片におけるブロッキング剤検出法によるコントロールラインのシグナル強度及び非特異反応抑制効果
試料として、RSV抗原の不存在を確認済みのヒトの鼻腔ぬぐい液検体を、非特異反応抑制剤としてのラット抗体(従来法で調製)を含む抽出用液(HEPES緩衝液)で懸濁した陰性試料G~I、前記陰性試料G~Iにヒト抗ラット抗体血清をそれぞれ10質量%となるように添加(スパイク)した偽陽性試料G~I、前記陰性試料G~IにRSV抗原をそれぞれ添加した陽性試料G~Iの計9種を用いた。なお、検体中のRSV抗原の存在・不存在は、PCR試薬である「Respiratory Viral Panel」(GenMark社製)を用いて確認した。
【0099】
各試料を、実施例3~4で作製したイムノクロマトグラフィー試験片のサンプルパッドに約90μLずつ滴下し、15分後にテストライン及びコントロールラインのシグナルを確認し、試験例1に記載の基準により判定した。得られた結果を下記の表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示したとおり、実施例3~4のイムノクロマトグラフィー試験片において、抗原を含有しないがヒト抗ラット抗体血清を含有する偽陽性の試料であっても、偽陽性の発生を有意に抑制し、かつ、コントロールラインのシグナル強度を十分な強さとできることが確認された。また、実施例3~4のイムノクロマトグラフィー試験片のいずれにおいても、抗原を含有する陽性試料に対するテストライン及びコントロールラインのシグナル強度が大きく低下することはなかったことから、迅速な検査及び診断に資する免疫学的測定法の利点を損なうことはないことも確認され、本発明が、試料として鼻腔ぬぐい液検体を用いた際にも有効であることが確認された。
【0102】
(試験例4)
便を試料とするイムノクロマトグラフィー試験片におけるブロッキング剤検出法によるコントロールラインのシグナル強度及び非特異反応抑制効果
試料として、NV抗原の不存在を確認済みのヒトの便検体を、非特異反応抑制剤としてのマウス抗体(従来法で調製)を含む抽出用液(HEPES緩衝液)で懸濁した陰性試料J~L、前記陰性試料J~LにHAMA血清をそれぞれ5質量%となるように添加(スパイク)した偽陽性試料J~L、前記陰性試料J~LにNV抗原をそれぞれ添加した陽性試料J~Lの計9種を用いた。なお、NV抗原の存在・不存在は、イムノクロマト試薬である「イムノキャッチ―ノロ」(栄研化学社製)を用いて確認した。
【0103】
各試料を、実施例5で作製したイムノクロマトグラフィー試験片のサンプルパッドに約90μLずつ滴下し、15分後にテストライン及びコントロールラインのシグナルを確認し、試験例1に記載の基準により判定した。得られた結果を下記の表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4に示したとおり、実施例5のイムノクロマトグラフィー試験片において、抗原を含有しないがHAMA血清を含有する偽陽性の試料であっても、偽陽性の発生を有意に抑制し、かつ、コントロールラインのシグナル強度を十分な強さとできることが確認された。また、実施例5のイムノクロマトグラフィー試験片において、抗原を含有する陽性試料に対するテストライン及びコントロールラインのシグナル強度が大きく低下することはなかったことから、迅速な検査及び診断に資する免疫学的測定法の利点を損なうことはないことも確認され、本発明が、試料として便検体を用いた際にも有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、イムノクロマトグラフィー法において、コントロールラインでシグナルを検出するために標識試薬及び対照試薬以外の試薬を別途準備する必要がなく、かつ、試料中に異好性抗体に対する非特異反応抑制剤が存在していてもコントロールラインにおけるシグナル強度が影響を受けないコントロールラインシグナル形成機構を備える、イムノクロマトグラフィー試験片、並びに、それを用いる被験物質測定方法及びイムノクロマトグラフィー試験キットを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0107】
100…試験片、110…シート、120…多孔性メンブレン、130…コンジュゲートパッド、140…サンプルパッド、150…吸収パッド、122…テストライン、124…コントロールライン
図1