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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】積層体の成形方法及び成形治具
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/32 20060101AFI20221006BHJP
   B29C 43/12 20060101ALI20221006BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20221006BHJP
   B29C 70/44 20060101ALI20221006BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
B29C43/32
B29C43/12
B29C70/16
B29C70/44
B29K105:08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018231137
(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公開番号】P2020093416
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 耕大
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼冨 寛
(72)【発明者】
【氏名】真能 翔也
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-121227(JP,A)
【文献】特開2016-124125(JP,A)
【文献】特許第4867917(JP,B2)
【文献】特公平07-102609(JP,B2)
【文献】特開2017-193164(JP,A)
【文献】特開平05-042590(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0121589(US,A1)
【文献】特許第2934437(JP,B1)
【文献】特開2010-115867(JP,A)
【文献】特表2011-505281(JP,A)
【文献】特開2018-176737(JP,A)
【文献】特開2014-152760(JP,A)
【文献】特開2017-140827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0367583(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0174844(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B29C 53/00-53/84
B29C 70/00-70/88
C08J 5/04- 5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形治具の成形面上に強化繊維基材を積層して積層体とする積層工程と、
前記積層体の端部に、張力を付与する引張り治具を取り付ける取付工程と、
前記引張り治具により前記積層体の端部を引っ張りながら、前記成形面に形成される湾曲面に沿って、前記積層体を湾曲させることにより、前記積層体に湾曲部を形成する変形工程と、
湾曲させた前記積層体を加圧しながら加熱して、前記積層体を緻密化する緻密化工程と、を備え、
前記積層工程では、前記積層体に形成される前記湾曲部において、前記強化繊維基材の層間の少なくとも一部が前記変形工程で非接着状態となるように、前記強化繊維基材を積層し、
前記成形面は、前記湾曲面として、前記成形面の外側に凸となる凸状湾曲面と、前記成形面の内側に凹となる凹状湾曲面とを含み、
前記変形工程では、前記引張り治具により前記積層体の端部を引っ張りながら、前記凸状湾曲面に沿って、前記積層体を湾曲させることにより、前記積層体に凸状湾曲部を形成すると共に、前記引張り治具により前記積層体の端部を引っ張りながら、前記凹状湾曲面に対して型材を用いて前記積層体を押し付けることにより、前記積層体に凹状湾曲部を形成し、
前記型材は、前記成形面の前記凹状湾曲面に前記型材が対向する位置関係となるような長さとなる位置決め部材を介して、前記成形治具に固定される積層体の成形方法。
【請求項2】
前記引張り治具は、前記変形工程における環境温度において伸縮性を有し、前記緻密化工程における加熱温度において塑性変形する請求項1に記載の積層体の成形方法。
【請求項3】
前記取付工程では、前記引張り治具により前記積層体を引っ張る端部の反対側の端部を固定する固定部により、前記積層体を前記成形治具に固定する請求項1または2に記載の積層体の成形方法。
【請求項4】
前記変形工程では、前記積層体の端部が接触する前記成形面上に設けられた接触摩擦軽減要素を備えることにより、前記積層体の端部を滑らせる請求項1からのいずれか1項に記載の積層体の成形方法。
【請求項5】
積層体に湾曲部を形成するために、成形面の外側に凸となる凸状湾曲面と、前記成形面の内側に凹となる凹状湾曲面と、を含む湾曲面を有する成形面が形成される成形治具本体と、
前記成形面上に配置される前記積層体の端部に取り付けられ、前記積層体に張力を付与する引張り治具と、
前記積層体を前記成形面に向けて加圧する加圧部と、
前記凹状湾曲面に対して前記積層体を押し付ける型材と、
前記凹状湾曲面に対して前記型材を位置決めする位置決め部材と、を備え、
前記型材は、前記成形面の前記凹状湾曲面に前記型材が対向する位置関係となるような長さとなる前記位置決め部材を介して、前記成形治具本体に固定される成形治具。
【請求項6】
前記成形面上に配置される前記積層体の端部を支持する支持面を有する支持治具を、さらに備え、
前記支持治具は、前記成形治具本体に対して着脱自在に設けられている請求項に記載の成形治具。
【請求項7】
前記積層体の一部を前記成形治具本体に固定する固定治具を、さらに備える請求項5または6に記載の成形治具。
【請求項8】
前記積層体の端部が接触する前記成形面上に設けられた接触摩擦軽減要素を、さらに備える請求項からのいずれか1項に記載の成形治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の成形方法及び成形治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、層状体を初期形態から最終形態に変形させて、層状体の表面輪郭を規定する成形システム及び方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この成形システム及び方法では、層状体を変形する際に発生する座屈やシワを抑制している。成形システム及び方法では、層状体を、成形ダイの成形面と流体作動支持部の支持面とに配置する。そして、成形システム及び方法では、流体作動支持部を圧縮させ、成形面に対して支持面を並進させることで、層状体を変形させて所望の表面輪郭を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-231740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、繊維強化基材を積層して形成される層状体等の積層体は、例えば、平板の形状から、湾曲部を有する形状に変形させる場合、湾曲部に、隆起(シックニング)または繊維蛇行(リンクル)等の成形不良が発生する可能性がある。特許文献1の成形システム及び方法では、層状体を変形する際に発生する座屈やシワを抑制しているものの、湾曲部において成形不良が発生する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、成形不良の発生を抑制し、適切に湾曲部を有する形状に変形させることができる積層体の成形方法及び成形治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層体の成形方法は、成形治具の成形面上に強化繊維基材を積層して積層体とする積層工程と、前記積層体の端部に、張力を付与する引張り治具を取り付ける取付工程と、前記引張り治具により前記積層体の端部を引っ張りながら、前記成形面に形成される湾曲面に沿って、前記積層体を湾曲させることにより、前記積層体に湾曲部を形成する変形工程と、湾曲させた前記積層体を加圧しながら加熱して、前記積層体を緻密化する緻密化工程と、を備え、前記積層工程では、前記積層体に形成される前記湾曲部において、前記強化繊維基材の層間の少なくとも一部が前記変形工程で非接着状態となるように、前記強化繊維基材を積層する。
【0007】
この構成によれば、変形工程において、積層体の端部を引っ張ると共に、積層体の湾曲時において、湾曲部における強化繊維基材の層間を滑らせながら変形させることができるため、積層体の湾曲部において、シックニング及びリンクル等の成形不良の発生を抑制することができる。なお、湾曲部を有する積層体の形状としては、例えば、1つの湾曲部が形成されたL字形状、2つの異なる向きに湾曲する湾曲部が形成されたZ字形状、及び2つの同じ向きに湾曲する湾曲部が形成されたU字形状等がある。また、積層工程において、湾曲部における強化繊維基材の層間の全てを、非接着状態としてもよいし、所定の層間毎に非接着状態としてもよく、特に限定されない。また、積層工程において、湾曲部以外における強化繊維基材の層間の全てを、接着状態としてもよいし、所定の層間毎に非接着状態としてもよく、特に限定されない。
【0008】
また、前記成形面は、前記湾曲面として、前記成形面の外側に凸となる凸状湾曲面と、前記成形面の内側に凹となる凹状湾曲面とを含み、前記変形工程では、前記引張り治具により前記積層体の端部を引っ張りながら、前記凸状湾曲面に沿って、前記積層体を湾曲させることにより、前記積層体に凸状湾曲部を形成すると共に、前記引張り治具により前記積層体の端部を引っ張りながら、前記凹状湾曲面に対して前記型材を用いて前記積層体を押し付けることにより、前記積層体に凹状湾曲部を形成することが、好ましい。
【0009】
この構成によれば、2つの異なる向きとなる凸状湾曲部及び凹状湾曲部が形成されたZ字形状の積層体を成形することができる。このとき、型材を用いることで、凹状湾曲部を形成する場合であっても、凹状湾曲部における膨らみ等の成形不良の発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記引張り治具は、前記変形工程における環境温度において伸縮性を有し、前記緻密化工程における加熱温度において塑性変形することが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、変形工程時において、引張り治具により積層体に対して張力を適切に付与することで、シックニングやリンクルを抑制することができる。一方で、緻密化工程において、引張り治具が塑性変形することで、積層体への張力を緩めることができるため、積層体を湾曲面に倣わせた状態で適切に加圧し緻密化することができる。
【0012】
また、前記取付工程では、前記引張り治具により前記積層体を引っ張る端部の反対側の端部を固定する固定部により、前記積層体を前記成形治具に固定することが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、積層体に加わる張力に対して固定部で反力を受け持つことができるため、成形治具に接地した積層体がずれることなく、積層体に湾曲部を形成することができる。なお、固定部とは、積層体を成形治具に固定する固定治具、または積層体の反対側の端部に取り付けられる引張り治具である。
【0014】
また、前記変形工程では、前記積層体の端部が接触する前記成形面上に設けられた接触摩擦軽減要素を備えることにより、前記積層体の端部を滑らせることが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、積層体の端部が成形面に接触することで生じる摩擦力によって、積層体の湾曲部の形成が阻害されることを抑制することができる。なお、接触摩擦軽減要素は、回転体等である。
【0016】
本発明の成形治具は、成形面を有する成形治具本体と、前記成形面上に配置される積層体の端部に取り付けられ、前記積層体に張力を付与する引張り治具と、前記積層体を前記成形面に向けて加圧する加圧部と、を備え、前記成形面は、前記積層体に湾曲部を形成するための湾曲面を含む。
【0017】
この構成によれば、引張り治具により積層体の端部を引っ張りながら、積層体を湾曲面に沿って湾曲させることで、シックニング及びリンクル等の成形不良の発生を抑制しつつ、積層体の湾曲部を好適に形成することができる。
【0018】
また、前記成形面上に配置される前記積層体の端部を支持する支持面を有する支持治具を、さらに備え、前記支持治具は、前記成形治具本体に対して着脱自在に設けられていることが、好ましい。
【0019】
この構成によれば、積層体を形成する場合には、支持治具を成形治具本体に装着して、積層体を成形面及び支持面上において形成することができる。また、積層体を湾曲させる場合には、支持治具を成形治具本体から取り外して、支持面と対向する積層体の部位を移動させて、積層体に湾曲部を形成することができる。
【0020】
また、前記成形面は、前記湾曲面として、前記成形面の外側に凸となる凸状湾曲面と、前記成形面の内側に凹となる凹状湾曲面とを含み、前記凹状湾曲面に対して前記積層体を押し付ける型材を、さらに備えることが、好ましい。
【0021】
この構成によれば、凸状湾曲面により形成される凸状湾曲部と、凹状湾曲面により形成される凹状湾曲部とが形成されたZ字形状の積層体を成形することができる。このとき、型材を用いることで、凹状湾曲部を形成する場合であっても、凹状湾曲部における成形不良の発生を抑制することができる。
【0022】
また、前記凹状湾曲面に対して前記型材を位置決めする位置決め部材を、さらに備えることが、好ましい。
【0023】
この構成によれば、凹状湾曲面に対する型材の位置を適切な位置とすることができるため、積層体に形成される凹状湾曲部を適切な位置に形成することができる。
【0024】
また、前記積層体の一部を前記成形治具本体に固定する固定治具を、さらに備えることが、好ましい。
【0025】
この構成によれば、固定治具により積層体の一部を成形治具本体に固定しながら、積層体を湾曲させることができるため、積層体の適切な位置に湾曲部を形成することができる。
【0026】
また、前記積層体の端部が接触する前記成形面上に設けられた接触摩擦軽減要素を、さらに備えることが、好ましい。
【0027】
この構成によれば、積層体の端部が成形面に接触することで生じる摩擦力によって、積層体の湾曲部の形成が阻害されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施形態1に係る成形治具の側面図である。
図2図2は、実施形態1に係る積層体の成形方法に関する説明図である。
図3図3は、実施形態1に係る積層された積層体を示す説明図である。
図4図4は、実施形態1に係る成形治具の一部を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、実施形態1の他の一例に係る成形治具の側面図である。
図6図6は、実施形態2に係る成形治具の一部を模式的に示す斜視図である。
図7図7は、実施形態3に係る成形治具の一部を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0030】
[実施形態1]
本実施形態に係る成形治具10は、強化繊維基材を複数積層した積層体5を成形する際に用いられる治具である。この成形治具10を用いた積層体5の成形方法は、略平板形状となるように積層した積層体5を湾曲させて、湾曲部を有する形状となる積層体5を形成する方法となっている。実施形態1において、積層体5は、湾曲部として、積層体5の上面に対して凸となる凸状湾曲部と、積層体5の上面に対して凹となる凹状湾曲部とを含むZ字形状の積層体5に成形される。なお、実施形態1では、Z字形状の積層体5に適用して説明するが、湾曲部を有する積層体5であれば、何れの形状であってもよく、例えば、1つの湾曲部が形成されたL字形状、2つの同じ向きに湾曲する湾曲部が形成されたU字形状であってもよい。
【0031】
図1は、実施形態1に係る成形治具の側面図である。図2は、実施形態1に係る積層体の成形方法に関する説明図である。図3は、実施形態1に係る積層された積層体を示す説明図である。図4は、実施形態1に係る成形治具の一部を模式的に示す斜視図である。
【0032】
先ずは、図1を参照して、積層体5について説明する。積層体5は、樹脂が含浸されていないドライ状態の強化繊維基材を複数積層することで形成される。また、強化繊維基材6は、シート状に形成された基材となっている。強化繊維としては、例えば、炭素繊維が用いられるが、炭素繊維に限定されず、その他のプラスチック繊維、ガラス繊維、天然繊維又は金属繊維でもよい。なお、実施形態1では、ドライ状態の強化繊維基材を適用したが、樹脂を含浸させた強化繊維基材としてのプリプレグを適用してもよい。
【0033】
積層体5は、成形治具10の成形面21及び支持面22上に強化繊維基材が積層されることで形成される。積層後で変形前の積層体5は、成形面21及び支持面22に倣った形状となっており、略平板状となっている。略平板形状としては、例えば、平坦な面を有する平板形状、緩やかな曲面を有する弓形形状等である。変形後の積層体5は、Z字形状となっており、具体的に、第1積層部位5aと、凸状湾曲部5bと、第2積層部位5cと、凹状湾曲部5dと、第3積層部位5eとを含む。
【0034】
第1積層部位5aは、積層体5の変形時において固定される部位となっており、積層体5の変形前後において非変形となる部位となっている。このため、第1積層部位5aは、略平板状となっている。第1積層部位5aは、積層体5の一方側(図1の左側)における部位となっており、積層体5の半分以上を占める部位となっている。
【0035】
凸状湾曲部5bは、第1積層部位5aと第2積層部位5cとの間に形成された部位である。凸状湾曲部5bは、積層体5の変形時において変形する部位となっており、後述する成形治具10の成形面21に対して外側に突出する(凸となる)湾曲する部位である。
【0036】
第2積層部位5cは、第1積層部位5aに対して交差(ほぼ直交)する方向に延在した部位となっており、第1積層部位5aと第3積層部位5eとの間に位置している。第2積層部位5cは、積層体5の変形時において層間滑りが生じる部位となっている。
【0037】
凹状湾曲部5dは、第2積層部位5cと第3積層部位5eとの間に形成された部位である。凹状湾曲部5dは、積層体5の変形時において変形する部位となっており、後述する成形治具10の成形面21に対して内側に窪む(凹となる)湾曲する部位である。
【0038】
第3積層部位5eは、積層体5の他方側(図1の右側)における部位となっている。第3積層部位5eは、積層体5の変形時において層間滑りが生じる部位となっている。第3積層部位5eは、第1積層部位5aとほぼ平行となっている。
【0039】
次に、図1を参照して、積層体5を成形する成形治具10について説明する。成形治具10は、変形前となる略平板形状の積層体5を成形するために用いられると共に、略平板形状の積層体5を変形させて、凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dを有するZ字形状の積層体5を形成するために用いられる。
【0040】
成形治具10は、成形治具本体11と、支持治具12と、引張り治具13と、留め金(固定治具)14と、接続帯15と、三角型材(型材)16と、ブラダーバッグ(加圧部)17とを備える。
【0041】
成形治具本体11は、水平面内において、中央部が上方側に突出し、両端部が中央部に対して下方側に位置する形状となっている。成形治具本体11は、中央部及び他方側(図1の右側)の端部の上面が成形面21となっている。成形治具本体11は、成形面21に倣って積層体5を変形させることで、積層体5をZ字形状に成形する。成形面21は、段差を有する成形面となっており、第1成形面21aと、凸状湾曲面21bと、第2成形面21cと、凹状湾曲面21dと、第3成形面21eとを含む。
【0042】
第1成形面21aは、積層体5の変形時において積層体5を固定する成形面となっており、成形治具本体11の中央部に形成されている。第1成形面21aは、第3成形面21eに比して、鉛直方向の上方側に位置している。また、第1成形面21aは、水平方向に平坦な面となっている。なお、第1成形面21aは、平坦面に特に限定されず、傾斜面または曲面であってもよい。
【0043】
凸状湾曲面21bは、第1成形面21aと第2成形面21cとの間に形成された、成形面21に対して外側に突出する(凸となる)湾曲する面である。凸状湾曲面21bは、積層体5に対して凸状湾曲部5bを形成する面となっている。
【0044】
第2成形面21cは、鉛直方向に沿った壁面となっており、水平方向(図1の左右方向)において、第1成形面21aと第3成形面21eとの間に位置している。
【0045】
凹状湾曲面21dは、第2成形面21cと第3成形面21eとの間に形成された、成形面21に対して内側に窪む(凹となる)湾曲する面である。凹状湾曲面21dは、積層体5に対して凹状湾曲部5dを形成する面となっている。
【0046】
第3成形面21eは、成形治具本体11の他方側(図1の右側)に形成されている。第3成形面21eは、第1成形面21aに比して、鉛直方向の下方側に位置している。
【0047】
成形治具本体11は、積層体5が成形面21に倣って成形されることで、凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dが形成された、Z字形状の積層体5となる。
【0048】
支持治具12は、成形治具本体11に対して着脱自在となっている。支持治具12は、強化繊維基材を積層して積層体5を形成する時に用いられ、積層体5の変形時において取り外される治具である。支持治具12は、その上面が支持面22となっている。支持面22は、第1成形面21aの延長上にある面となっており、積層体5は、成形治具本体11の第1成形面21a及び支持治具12の支持面22上において積層される。支持治具12は、成形治具本体11の第3成形面21e上に配置される。支持治具12は、第2成形面21cから凹状湾曲面21dを経て第3成形面21eに至る面と相補的な形状となる面を有している。支持治具12は、成形治具本体11の第2成形面21c、凹状湾曲面21d、及び第3成形面21eに隙間なく接して配置されることで、所定の位置に位置規制された状態で配置される。
【0049】
引張り治具13は、積層体5の第3積層部位5eの端部に取り付けられ、積層体5に張力を付与する。つまり、引張り治具13は、その一端が、積層体5の第3積層部位5eの端部に取り付けられ、その他端が成形治具本体11に取り付けられる。このため、引張り治具13は、積層体5と成形治具本体11とを接続する。引張り治具13は、後述する成形方法の変形工程における環境温度において伸縮性を有する一方で、緻密化工程における加熱温度において塑性変形する。つまり、引張り治具13は、変形工程において、積層体5に対して張力を付与する。一方で、引張り治具13は、緻密化工程において、塑性変形することから、積層体5に対する張力が、変形工程時と比較して低減する。
【0050】
留め金14は、積層体5を成形治具本体11に固定するものである。留め金14は、積層体5を挟んで、成形治具本体11に固定される。具体的に、留め金14は、頭部と軸部とを有し、積層体5の第1積層部位5aに軸部を貫通させ、軸部が成形治具本体11の第1成形面21aに形成された締結孔に締結されることで、積層体5を挟み込んで締結固定する。
【0051】
接続帯15は、留め金14と三角型材16とを接続する部材である。接続帯15は、留め金14と三角型材16とが所定の位置関係となるような長さとなっている。具体的に、接続帯15は、三角型材16が成形治具本体11の凹状湾曲面21dに対向する位置となるような長さとなっている。このため、接続帯15は、凹状湾曲面21dに対して三角型材16を位置決めする位置決め部材として機能している。
【0052】
三角型材16は、成形治具本体11の凹状湾曲面21dに対して積層体5を押し付ける型材である。三角型材16は、側面視における断面が三角形状となっている。三角型材16は、成形治具本体11の第2成形面21cと対向する第1対向面16aと、凹状湾曲面21dと対向する湾曲対向面16bと、第3成形面21eと対向する第2対向面16cと、を有している。湾曲対向面16bは、凹状湾曲面21dに比して曲率半径が小さいものとなっている。つまり、湾曲対向面16bは、凹状湾曲面21dに比して急峻な湾曲となっている。
【0053】
なお、図4に示すように、成形治具本体11と、三角型材16との間には、積層体5の幅方向における両側に、一対のスペーサ25が設けられている。なお、積層体5の幅方向は、積層体5が引張り治具13により引張られる方向に直交する方向である。各スペーサ25は、その厚さが積層体5の厚さとほぼ同じ厚さとなっている。各スペーサ25は、成形治具本体11の凹状湾曲面21dに配置されている。
【0054】
ブラダーバッグ17は、成形治具本体11に配置された積層体5を覆う被覆部材である。ブラダーバッグ17は、成形治具本体11の成形面21上に設けられたシール部材26を介して、積層体5と共に成形治具本体11を覆う。ブラダーバッグ17は、成形治具本体11との間に、シール部材26により気密に封止された内部空間を形成する。ブラダーバッグ17は、内部空間が真空吸引されることで、大気圧により成形治具本体11へ向かって押さえ付けられることで、積層体5を押圧する。
【0055】
次に、図2を参照して、成形治具10を用いた積層体5の成形方法について説明する。この積層体5の成形方法では、成形治具10において強化繊維基材を積層して積層体5を形成すると共に、形成した積層体5をZ字形状の積層体5に変形させている。
【0056】
図2に示すように、成形治具10は、支持治具12が成形治具本体11に設置された状態となっている。成形方法では、先ず、この成形治具10の成形面21及び支持面22上に、強化繊維基材を積層して積層体5を形成する(ステップS1:積層工程)。具体的に、積層工程S1では、成形面21の第1成形面21aと支持面22とに亘って、積層体5を形成する。積層工程S1では、積層体5に形成される凸状湾曲部5bにおいて、強化繊維基材の層間の少なくとも一部が非接着状態となるように、強化繊維基材を積層している。
【0057】
図3は、積層工程S1において積層される積層体5の一部を示している。図3に示すように、強化繊維基材は、繊維方向を異ならせながら積層される。積層は、例えば、等方積層となっており、所定の繊維方向を0°とした場合、0°、±45°、90°となるように、強化繊維基材が積層される。また、積層工程S1では、積層体5の第1積層部位5aにおいて、強化繊維基材の層間が、全ての層間において接着されている。なお、強化繊維基材同士の接着は、例えば、強化繊維基材の層間に液状の接着剤を吹き付けた後、押圧することで接合してもよいし、強化繊維基材の表面に予め溶着された粉状、不織布状等の熱可塑樹脂を、押圧しながら加熱することで層間を溶着してもよく、特に限定されない。
【0058】
一方で、積層工程S1では、積層体5の凸状湾曲部5b、第2積層部位5c、凹状湾曲部5d及び第3積層部位5e(積層体5の凸状湾曲部5bから第3積層部位5eまでの部位)において、強化繊維基材の層間の少なくとも一部が非接着状態となっている。積層体5の凸状湾曲部5bから第3積層部位5eまでの部位は、例えば、4層毎に非接着状態となる層を設けている。
【0059】
なお、実施形態1の積層工程S1では、積層体5の凸状湾曲部5bから第3積層部位5eまでの部位において、所定の層毎に非接着状態となる層を設けたが、全層において非接着状態としてもよい。
【0060】
次に、留め金14を用いて、成形治具10の成形面21及び支持面22上に積層された積層体5を、成形治具本体11に固定すると共に、支持治具12を取り外す(ステップS2)。ステップS2では、留め金14の軸部を積層体5の第1積層部位5aに貫通させ、留め金14の軸部を成形治具本体11の第1成形面21aに形成された締結孔に締結することで、積層体5を留め金14の頭部と成形治具本体11との間に挟み込んで締結固定する。なお、留め金14を固定することで、接続帯15を介して接続された三角型材16が、接続帯15の長さに応じた所定の位置となる。また、ステップS2では、支持治具12を取り外し、支持面22と対向する積層体5の部位を移動可能とする。つまり、支持面22と対向する積層体5の部位が、積層体5の変形時において移動する部位となっている。
【0061】
続いて、積層体5の端部に、引張り治具13を取り付け、積層体5を覆うようにブラダーバッグ17を取り付ける(ステップS3:取付工程)。取付工程S3では、積層体5の第3積層部位5eの端部に、引張り治具13の一端を取り付け、引張り治具13の他端を成形治具本体11に取り付ける。このとき、引張り治具13は、積層体5に対して張力を付与する。また、取付工程S3では、引張り治具13を取り付けた積層体5と共に成形治具本体11を覆う。
【0062】
この後、成形治具本体11とブラダーバッグ17との間に形成された内部空間を真空吸引することで、積層体5を引張り治具13により引っ張りながら、積層体5を成形面21に沿わせて変形させる(ステップS4:変形工程)。変形工程S4では、ブラダーバッグ17が成形治具本体11の成形面21へ向かって押し付けられる。これにより、変形工程S4では、ブラダーバッグ17により積層体5の第1積層部位5aが押圧される。また、変形工程S4では、ブラダーバッグ17により三角型材16を介して積層体5の凸状湾曲部5b、第2積層部位5c、凹状湾曲部5d及び第3積層部位5eが押圧される。
【0063】
このとき、変形工程S4では、引張り治具13により積層体5の端部を引っ張っていることから、積層体5の凸状湾曲部5bから第3積層部位5eまでの部位において、層間滑りを生じさせながら、積層体5を湾曲させることができる。そして、変形工程S4によって、積層体5は、凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dを有するZ字形状の積層体5となる。
【0064】
湾曲した積層体5は、成形治具10と共に、オーブンやオートクレーブ等の加熱炉28の炉内に収容される。積層体5は、加熱炉28内において、加圧されながら加熱されることで、緻密化される(ステップS5:緻密化工程)。緻密化工程S5では、引張り治具13が所定の加熱温度に加熱されることで塑性変形する。このため、緻密化工程S5では、引張り治具13による積層体5への引張荷重が低減する。緻密化工程S5が実行されることで、積層体5の成形方法が終了する。
【0065】
以上のように、実施形態1によれば、変形工程S4において、積層体5の端部を引っ張ると共に、積層体5の湾曲時において、凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dにおける強化繊維基材の層間を滑らせながら変形させることができる。このため、積層体5の凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dにおいて、シックニング及びリンクル等の成形不良の発生を抑制することができる。
【0066】
また、実施形態1によれば、三角型材16を用いて凹状湾曲部5dを形成することにより、凹状湾曲部5dにおける膨らみ等の成形不良の発生を抑制しつつ、凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dが形成されたZ字形状の積層体5を成形することができる。
【0067】
また、実施形態1によれば、変形工程S4時において、引張り治具13により積層体5に対して張力を適切に付与することができる。一方で、緻密化工程S5において、引張り治具13が塑性変形することで、積層体5への張力を緩めることができるため、積層体5を凸状湾曲面21b及び凹状湾曲面21dに倣わせた状態で適切に加圧し緻密化することができる。
【0068】
また、実施形態1によれば、留め金14により積層体5の一部を成形治具本体11に固定しながら、積層体5を湾曲させることができる。このため、積層体5に加わる張力に対して留め金14で反力を受け持つことができるため、成形治具10に接地した積層体5がずれることなく、積層体5の適切な位置に凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dを形成することができる。
【0069】
また、実施形態1によれば、積層体5を形成する場合には、支持治具12を成形治具本体11に装着して、積層体5を成形面21及び支持面22上において形成することができる。また、積層体5を湾曲させる場合には、支持治具12を成形治具本体11から取り外して、支持面22と対向する積層体5の部位を移動させて、積層体5に凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dを形成することができる。
【0070】
また、実施形態1によれば、接続帯15により、留め金14と三角型材16とを接続することにより、凹状湾曲面21dに対する三角型材16の位置を適切な位置とすることができるため、積層体5に形成される凹状湾曲部5dを適切な位置に形成することができる。
【0071】
また、実施形態1によれば、留め金14により積層体5の第1積層部位5aを成形治具本体11に固定しながら、積層体5を湾曲させることができるため、積層体5の適切な位置に凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dを形成することができる。
【0072】
なお、実施形態1では、ドライ状態の強化繊維基材に適用して説明したが、強化繊維基材としてプリプレグを適用する場合、変形工程S4においては、プリプレグを積層した積層体を加熱することにより層間を非接着状態とし、変形させることが好ましい。
【0073】
また、実施形態1では、留め金14を用いて積層体5を成形治具本体11に固定したが、例えば、図5に示すような固定としてもよい。図5の成形治具本体11において、積層体5は、第1積層部位5aの両側の端部に、凸状湾曲部5bから第3積層部位5eまでの部位がそれぞれ設けられており、積層体5の両側から引張り治具13による張力を付与することで、積層体5を成形治具本体11に固定している。なお、図5の成形治具本体11は、図1の成形治具本体11の他方側(図1の右側)の構成を、中央部を挟んで、一方側(図1の左側)に展開した構成となっている。また、図5においては、留め金14を省いた構成としてもよい。
【0074】
また、実施形態1では、成形治具10の成形面21及び支持面22上において積層体5を形成したが、予め積層した積層体5を成形治具10の成形面21上に配置した後、積層体5を変形させてもよい。この場合、成形治具10は、支持治具12を省いた構成であってもよい。
【0075】
[実施形態2]
次に、図6を参照して、実施形態2に係る成形治具30について説明する。図6は、実施形態2に係る成形治具の一部を模式的に示す斜視図である。実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
【0076】
実施形態2の成形治具30は、実施形態1の成形治具10に、積層体5の端部が接触する回転体(接触摩擦軽減要素)としてのローラ31を、さらに備えたものとなっている。ローラ31は、成形治具本体11の第3成形面21e上に複数設けられている。各ローラ31は、積層体5の第3積層部位5eが凹状湾曲面21dへ移動する方向に回転自在となっている。
【0077】
このため、成形治具30を用いた変形工程S4では、積層体5の第3積層部位5eが、第3成形面21eに接触する場合であっても、複数のローラ31によって、積層体5の第3積層部位5eが凹状湾曲面21dへ向かって滑って移動する。
【0078】
以上のように、実施形態2によれば、積層体5の第3積層部位5eが、第3成形面21eに接触することで生じる摩擦力によって、積層体5の凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dの形成が阻害されることを抑制することができる。
【0079】
[実施形態3]
次に、図7を参照して、実施形態3に係る成形治具40について説明する。図7は、実施形態3に係る成形治具の一部を模式的に示す斜視図である。実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
【0080】
実施形態3の成形治具40は、実施形態1の成形治具10に、積層体5の端部が接触する回転体(接触摩擦軽減要素)としてのローラボール41を、さらに備えたものとなっている。ローラボール41は、成形治具本体11の第3成形面21e上に複数設けられている。各ローラボール41は、何れの方向においても回転自在となっている。
【0081】
このため、成形治具40を用いた変形工程S4では、積層体5の第3積層部位5eが第3成形面21eに接触する場合であっても、複数のローラボール41によって、積層体5の第3積層部位5eが凹状湾曲面21dへ向かって滑って移動する。
【0082】
以上のように、実施形態3によれば、積層体5の第3積層部位5eが、第3成形面21eに接触することで生じる摩擦力によって、積層体5の凸状湾曲部5b及び凹状湾曲部5dの形成が阻害されることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0083】
5 積層体
5a 第1積層部位
5b 凸状湾曲部
5c 第2積層部位
5d 凹状湾曲部
5e 第3積層部位
10 成形治具
11 成形治具本体
12 支持治具
13 引張り治具
14 留め金
15 接続帯
16 三角型材
16a 第1対向面
16b 湾曲対向面
16c 第2対向面
17 ブラダーバッグ
21 成形面
21a 第1成形面
21b 凸状湾曲面
21c 第2成形面
21d 凹状湾曲面
21e 第3成形面
22 支持面
25 スペーサ
26 シール部材
28 加熱炉
30 成形治具(実施形態2)
31 ローラ
40 成形治具(実施形態3)
41 ローラボール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7