(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】フィルム巻取装置
(51)【国際特許分類】
B65H 18/26 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
B65H18/26
(21)【出願番号】P 2018231700
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314017635
【氏名又は名称】株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕希
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-014253(JP,U)
【文献】特開2018-184292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム巻取装置であって、
回転自在に支持され、フィルムを巻き取る巻取コアと、
前記巻取コアの回転軸と平行な回転軸を有し、前記フィルムの巻き取り時に前記巻取コアに巻き取られる前記フィルムに部分的に接触可能なタッチロールと、
前記タッチロールの両端を回転自在に支持するアームと、
前記アームに取り付けられ、前記タッチロールの両端の各々を前記巻取コアに近付く方向または前記巻取コアから遠ざかる方向に移動させるアクチュエータと、
前記タッチロールの両端の各々に加わっている荷重値を検出する荷重検出器と、
前記フィルムの巻き取り中に、前記荷重検出器の各々によって検出された荷重値に基づいて前記アクチュエータをフィードバック制御する制御部とを備え
、
前記制御部は、前記荷重検出器の各々によって検出される荷重値の制御目標値を記憶する記憶部を有し、
前記記憶部は、過去に行われた前記フィルムの巻き取り作業の前に前記荷重検出器によって検出された荷重値であって、当該巻き取り作業後の前記フィルムに不具合を生じなかった場合の荷重値を、前記制御目標値として記憶し、
前記制御部は、前記荷重検出器の各々によって検出される荷重値が前記制御目標値に近付くように、前記アクチュエータを制御して前記巻取コアに対する前記タッチロールの両端の各々の位置を調整する、フィルム巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取コアにフィルムを巻き取るフィルム巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムをロール状に巻き取る際、重なり合うフィルム間に巻き込まれたエアの薄層(以下、「エアフィルム層」という)が形成される。フィルムの巻き取りが完了した際、エアフィルム層のエアが経時的に抜けていくと、フィルム上にシワが形成され製品不良となるという問題がある。このような不良の発生を解決する方法として、エアフィルム層を最小化するために、ロール状に巻き取られた直後の部分にタッチロールを接触させながら巻き取りを行うことが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の巻取装置では、タッチロールの接触面内の圧力分布に応じてエアフィルム層の厚みに差が生じるため、巻き取り後のエアの抜けやすさに応じて特定の場所にシワ等の変形を生じるという問題がある。また、巻取コアに対するタッチロールの初期の接触圧力分布を均一に調整したとしても、基材フィルムの厚みのばらつきや、基材フィルム上に他の層を形成する際の塗工液の塗布膜厚のばらつき等があるため、巻き取りが進み巻径が大きくなるとロールの巻径が均一とならず、タッチロールの接触圧力分布に偏りができ、シワ等が発生する要因となる。
【0005】
それ故に、本発明は、巻き取り後のフィルムにシワ等の不良が発生することを低減できるフィルム巻取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフィルム巻取装置は、回転自在に支持され、フィルムを巻き取る巻取コアと、巻取コアの回転軸と平行な回転軸を有し、フィルムの巻き取り時に巻取コアに巻き取られるフィルムに部分的に接触可能なタッチロールと、タッチロールの両端を回転自在に支持するアームと、アームに取り付けられ、タッチロールの両端の各々を巻取コアに近付く方向または巻取コアから遠ざかる方向に移動させるアクチュエータと、タッチロールの両端の各々に加わっている荷重値を検出する荷重検出器と、フィルムの巻き取り中に、荷重検出器の各々によって検出された荷重値に基づいてアクチュエータをフィードバック制御する制御部とを備え、制御部は、荷重検出器の各々によって検出される荷重値の制御目標値を記憶する記憶部を有し、記憶部は、過去に行われたフィルムの巻き取り作業の前に荷重検出器によって検出された荷重値であって、当該巻き取り作業後のフィルムに不具合を生じなかった場合の荷重値を、制御目標値として記憶し、制御部は、荷重検出器の各々によって検出される荷重値が制御目標値に近付くように、アクチュエータを制御して巻取コアに対するタッチロールの両端の各々の位置を調整する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、巻き取り後のフィルムにシワ等の不良が発生することを低減できるフィルム巻取装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るフィルム巻取装置の概略構成を示す斜視図
【
図2】フィルムの巻取り前にシート状センサを用いて測定したタッチロールの接触圧力分布を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るフィルム巻取装置の概略構成を示す斜視図である。
【0010】
フィルム巻取装置1は、フィルム10を巻き取るための装置であり、巻取コア2と、タッチロール3と、アーム4a及び4bと、アクチュエータ5a及び5bと、荷重検出器6a及び6bと、制御部7とを備える。フィルム10は、例えば、樹脂の単層フィルム、樹脂の単層フィルムを基材として1層以上の機能層を積層した積層フィルムであるが、フィルム10の種類は特に限定されない。尚、フィルム巻取装置1には、フィルム10の搬送を案内するためのガイドローラ等が適宜設けられていても良い。
【0011】
巻取コア2は、フィルム10を巻き取るための円柱状の部材で有り、図示しない支持機構により回転自在に支持される。巻取コア2は、図示しないモータ等の回転力により回転軸AX1を中心として回転することにより、フィルム10を巻き取る。
【0012】
タッチロール3は、巻取コア2の回転軸AX1と平行な回転軸AX2を有し、巻取コア2の上方に配置されている。タッチロール3の両端のそれぞれは、後述するアーム4a及び4bにより回転自在かつ移動自在に支持されており、フィルム10の巻き取り時には、巻取コア2に巻き取られた直後のフィルム10に部分的に接触して押圧することにより、巻き込んだエアにより形成されるエアフィルム層を低減する。
【0013】
アーム4a及び4bは、タッチロール3の幅方向の両側に配置され、タッチロール3の両端を回転自在に支持する。本実施形態では、アーム4a及び4bは、棒状の接続部材9により接続されており、接続部材9の中心軸を中心として回転自在となるように支持されている。ただし、アーム4a及び4bの支持方法は特に限定されず、接続部材9の中心軸を中心として回転自在に支持される以外に、上下に移動自在に支持されていても良い。
【0014】
アクチュエータ5a及び5bは、例えば、直線移動が可能なロッドを有するエアシリンダであり、それぞれのロッドの両端部がアーム4a及び4bのそれぞれに回転自在に取り付けられている。アクチュエータ5a及び5bは、後述する制御部7からの制御信号に従って、アーム4a及び4bを接続部材9の中心軸を中心として回転させる。アクチュエータ5a及び5bは、アーム4a及び4bを移動させることにより、タッチロール3の両端のそれぞれの位置を、巻取コア2に近付く方向または巻取コア2から遠ざかる方向に移動させることができる。また、アクチュエータ5a及び5bは、独立して動作可能であり、巻取コア2に対するタッチロール3の両端位置を独立して制御することができる。尚、アクチュエータ5a及び5bは、タッチロール3の両端のそれぞれを移動させることができるものであれば特に限定されず、エアシリンダ以外に、ロボットシリンダ(電動シリンダ)を使用しても良い。
【0015】
荷重検出器6a及び6bは、アーム4a及び4bの軸受部にそれぞれ設けられ、タッチロール3の両端に加わっている荷重を検出する。荷重検出器6a及び6bによって検出される荷重値は、巻き取り直後のフィルム10(巻取コア2)に対するタッチロール3の接触圧力に応じて変化する。そこで、荷重検出器6a及び6bにより検出された荷重値を後述する制御部7に出力し、巻き取り直後のフィルム10に対するタッチロール3の接触圧力をモニタリングし調節するために使用する。
【0016】
制御部7は、プロセッサ及びメモリを備えたコンピュータによって構成され、荷重検出器6a及び6bにより検出された荷重値に基づいてアクチュエータ5a及び5bをフィードバック制御する。より詳細には、制御部7は、荷重検出器6a及び6bのそれぞれによって検出される荷重値の制御目標値を記憶部8に記憶する。尚、記憶部8は、メモリによって構成される。フィルム10の巻き取り中には、基材フィルムや基材フィルム上の他の層の膜厚のばらつきにより、フィルム10に対するタッチロール3の接触圧力分布が変化し、荷重検出器6a及び6bによって検出される荷重値が変化する。そこで、制御部7は、荷重検出器6a及び6bによって検出される荷重値が、記憶部8に記憶される制御目標値にそれぞれ近付くように、アクチュエータ5a及び5bを制御することにより、巻取コア2に対するタッチロール3の両端の位置を調整する。巻取コア2に対するタッチロール3の両端の位置を調節することにより、巻取コア2に巻き取られた直後のフィルム10に対するタッチロール3の接触圧力分布を変化させることができる。
【0017】
記憶部8に記憶される制御目標値は、過去に行われたフィルム10の巻き取り作業の結果に基づいて設定することができる。具体的には、フィルム10を巻き取る前のオフライン時に、巻取コア2にタッチロール3を接触させ、タッチロール3の両端の荷重検出器6a及び6bの荷重値を測定しておく。その後、フィルム10の巻き取り作業を行い、巻き取り完了から所定時間経過後に、巻き取ったフィルムにシワや巻きズレ等の巻き取り不良があるかどうかを目視等で確認する。尚、巻き取り完了から巻き取り不良を確認するまでの所定時間は、エアフィルム層のエアが経時的に抜けるのに要する時間以上であれば良く、従来、巻き取り完了後に巻き取り不良が確認されたケースに基づいて適宜設定することができる。所定時間経過後に巻き取り不良が確認されなかった場合は、オフライン時に測定した荷重検出器6a及び6bの荷重値を制御目標値として記憶部8に記憶させる。
【0018】
フィルムの巻き取りに伴ってロールの巻径が大きくなるため、一般的な巻取装置では、タッチロールを巻取コアから遠ざかる方向に移動させてタッチロールと巻取コアとのクリアランスが一定に維持される。ただし、タッチロールと巻取コアとのクリアランスを一定に維持する方法では、フィルムの幅方向において厚みにばらつきが生じた際、巻き取り直後のフィルムに対するタッチロールの接触圧力がタッチロールの長さ方向で不均一となり、フィルムの幅方向においてエアフィルム層の厚み差が生じ、巻き取り後のフィルムにシワ等の変形が発生する可能性がある。また、従来、シート状のセンサや感圧紙等を用いて、フィルムの巻き取り前に巻取コアに対するタッチロールの接触圧力を測定し、接触圧力分布が一定となるように調整することも行われていたが、調整を行ったとしても、フィルムの巻き取りに伴って同様の問題が生じるため、シワ等の変形が十分に抑制されていなかった。
【0019】
これに対して、本実施形態に係るフィルム巻取装置1では、荷重検出器6a及び6bの出力に基づいてタッチロール3の両端の位置を調節する。具体的には、フィルム10の巻き取り作業の開始前にタッチロール3の両端の荷重値を測定しておき、その後巻き取ったフィルム10に不良を生じなかった場合の荷重値を制御目標値とする。そして、フィルム10の巻き取り中には、荷重検出器6a及び6bのそれぞれで検出される荷重値を制御目標値に近づけるようにアクチュエータ5a及び5bをそれぞれフィードバック制御し、巻取コア2に対するタッチロール3の両端の位置を調整する。このようにタッチロール3の両端に加わっている荷重値をリアルタイムにモニタリングしながら、巻取コア2に対するタッチロール3の両端の位置を調整すると、フィルム10の巻径増加に伴う巻取コア2とタッチロール3との軸間距離を調整できることに加え、フィルム10の幅方向において厚みに差が生じても、タッチロール3の位置調整によりフィルムの厚み差に起因するタッチロール3の接触圧力の差を相殺することができる。
【0020】
図2は、フィルムの巻取り前にシート状センサを用いて測定したタッチロールの接触圧力分布を示すグラフである。
図2の横軸は、タッチロールの一方の端部からの距離を示し、縦軸は、フィルムの巻取り前にシート状センサを巻取コアとタッチロールとの間に挟んで測定したタッチローラの接触圧力を示す。
図2のグラフは、タッチロールの長さ方向に一定ピッチで整列する複数の測定点で測定したタッチロールの接触圧力をプロットしたものである。
【0021】
図2に示すグラフはいずれもフィルムの巻取り前にタッチロールの接触圧力分布を測定した結果であるが、実線で示す測定結果が得られた場合には、フィルムの巻き取り後にシワ等の変形が確認されず、破線で示す測定結果が得られた場合には、フィルムの巻き取り後にシワ等の変形が確認された。タッチロールの接触圧力の傾向を見るために、各グラフの近似曲線の傾きを求めると、実線で示す測定結果では、近似曲線の傾きの絶対値が約6×10
-6(kg/cm/mm)であったのに対し、破線で示す測定結果では、近似曲線の傾きの絶対値が約18×10
-6~24×10
-6であった。これらの結果から、実線で示した測定結果の方がタッチロールの長さ方向において接触圧力のバラツキが少なくより均一であると捉えることができる。
【0022】
本実施形態では、
図2の実線で示す測定結果が得られた場合のタッチロール3の両端の荷重値を制御目標値として設定する。この場合、
図2の破線で示す測定結果が得られた巻き取り時と比べると、フィルム10の巻き取り開始時において、巻き取り直後のフィルム10に対するタッチロール3の接触圧力がより均一化された状態となっている。フィルム10の巻き取り中は、フィルム10の厚みのバラツキによりタッチロール3の接触圧力が、
図2に示した実線の状態からずれることとなる。しかしながら、タッチロール3の両端の位置を上述したようにフィードバック制御し、荷重検出器6a及び6bで検出される荷重値を実線の測定結果に対応する制御目標値(初期値)に近づける制御を行えば、フィルム10の巻き取り中におけるタッチロール3の接触圧力を、巻き取り前における相対的に均一化された状態に近い状態を維持でき、この結果、タッチロール3の接触圧力の偏りを抑制して巻き取り後のフィルムにシワ等の不良が発生することを低減できるものと考えられる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、巻き取り後のフィルム10にシワ等の不良が発生することを低減できるフィルム巻取装置1を実現することができる。
【0024】
尚、上記の実施形態では、タッチロール3を一対のアーム4a及び4bで支持し、アーム4a及び4bをアクチュエータ5a及び5bで駆動する構成を例に説明したが、タッチロール3の支持機構及び駆動機構はこの構成に限定されるものではなく、タッチロール3を回転可能かつ移動可能に支持し、巻取コア2に対するタッチロール3の両端の位置を独立して制御できる構成であれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、樹脂フィルム等のフィルムを巻き取るために利用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 フィルム巻取装置
2 巻取コア
3 タッチロール
4a、4b アーム
5a、5b アクチュエータ
6a、6b 荷重検出器
7 制御部
8 記憶部
10 フィルム